説明

BODセンサ、BOD測定方法及びBOD測定装置

【課題】難分解性有機物の有無にかかわらず使用することができるBODセンサ及び該センサを用いるBODの測定方法を提供する。
【解決手段】クリプトコッカスを用いた微生物固定化膜を備えたBODセンサを備えてなるBODの測定装置及び測定方法。試料水中の有機物を資化して微生物の呼吸活性が増加することにより溶存酸素が減少し、その結果酸素電極からの電流量が減少するので、その変化量を測定することによりBOD値を求める
【効果】従来は公的BODに対応した値を得るための測定が困難であった難分解性有機物を含む水であっても、本発明によると、前処理が不要で、簡易かつ短時間でBOD値を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BODを簡便かつ短時間で測定する方法及び装置に関する。より詳細には、微生物固定化担体を用いたBODセンサ、前記センサを有する装置及びBOD測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
BODとは生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand)を表し、水の中に含まれる有機物の量を、分解時に消費される酸素量で表したものである。
【0003】
近年、有機物質による水質汚染の指標としてBODが用いられており、工場排水等では法律によりBODの測定が義務付けられている。このBOD測定は広く認められ、標準化[JIS K 0102(工場排水試験法)]されている。かかるBOD測定方法は、試験水に微生物を接種して5日間培養し、その間の酸素消費量を求める方法(以下、BOD又は5日間法という)である。しかし、5日間という長い時間を要していては、迅速な水質管理が不可能である。そこで、1時間程度で測定できる方法として、酵母菌トリコスポロン・クタニウム(Trichosporon cutaneum)IFO−10466を固定化した膜と酸素電極を組み合わせたBODセンサが開発され、標準化[JIS K 3602]されている。このBODセンサを用いたBOD測定は5日間法で測定したBOD値との相関関係が得られるが、必ずしも一致するわけではなく、5日間法BOD値とは別個のものと考えられている。特にBOD値の比較的低い領域においては、5日間法とBODセンサの値が大きく異なることが指摘されている。その原因として、BOD値の比較的低い領域では、溶解している有機物の濃度が低く、相対的に難分解性有機物の濃度が高くなるために、従来のBODセンサでは難分解性有機物の分解ができないからだと考えられる。従って、短時間で測定可能な、5日間法の値と一致するBODセンサが望まれている。
【0004】
トリコスポロン属に属する酵母類の菌体を固定化した微生物膜を溶存酸素電極に密着固定させた微生物電極を用いたBODの測定方法が開示されている(例えば、特許文献1)。前述したBODセンサでのBOD測定は、易分解性有機物質を含む検水の測定は可能となったが、生物学的に分解速度の遅いタンニン酸、リグニン、セルロース、アラビアゴム、界面活性剤等の難分解性有機物を含有する検水では測定ができない。この難分解性有機物は、工場等の浄化処理施設や下水処理場では処理しきれない物質であるため、工場等の排水中での含有比率が高い。よって、BODセンサに用いる微生物では、短い測定時間に十分に資化することができないため、5日間法での測定値よりも低いBOD値となってしまう。これらの点を解決するためあらかじめ検水に前処理を行い、難分解性有機物を分解し、より5日間法での測定値と近い値となるBODセンサが開発されてきたが、オゾンで酸化処理を行うといった前処理に時間を要する等の問題が残っている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−7258
【特許文献2】特開平5−45352
【0006】
タンニン酸をはじめとする難分解性有機物は、通常の微生物を用いても十分に分解しないため、処理に時間がかかる。従って、従来の方法では迅速かつ効果的にBODを測定することができないという問題があった。特許文献1にも特許文献2にも、難分解性有機物を含む水のBOD値を前処理なく簡易に、かつ短時間で測定する方法や装置については開示も示唆もない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は難分解性有機物を含む排水等に対しても適用可能であり、前処理等の煩雑さがない、簡便なBODセンサ、および該センサを用いたBOD測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
工場排水や家庭排水の水質汚濁を惹起する有機物質は多種多様であるが、例えば、家庭排水や工場排水には生物学的に分解速度の遅いリグニン、タンニン酸、セルロース、アラビアゴム、界面活性剤等の成分の含有比率が高い。このような難分解性有機物は下水処理場や浄化処理施設で処理しきれずに河川等に二次処理水として放出される場合が多く、これが水質汚染の原因となっていると考えられる。従って、上記の難分解性有機物に対して優れた分解能を有する好気性微生物を探索して単離し、該微生物と酸素電極とを組み合わせれば、従来不可能であったBODの測定も可能になると考えられる。
【0009】
まずBOD5日間法で、いくつかの難分解性有機物質(リグニン、タンニン酸、アラビアゴム、界面活性剤等)についてBOD測定を行った。その結果、タンニン酸が最もBOD5日間法の値に影響を与えていることが分かった(図4)。この結果を受け、タンニン酸を唯一の炭素源とする培地で探索したところ、酵母状真菌のクリプトコッカスが見つかった。続いて、このクリプトコッカスをBODセンサに用いてBOD測定を行ったところ、従来の5日間法に匹敵する結果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明は、以下の[1]〜[10]に関する。
【0011】
[1] 好気性微生物であるクリプトコッカスを保持した微生物固定化担体を有することを特徴とするBODセンサ。
【0012】
[2] 前記クリプトコッカスが受託番号FERM P−21980で寄託されたクリプトコッカスsp.株である、前項[1]記載のBODセンサ。
【0013】
[3] 酸素電極と前記微生物固定化担体とを組み合わせた、前項[1]〜[2]のいずれか一項に記載のBODセンサ。
【0014】
[4] 前項[1]〜[3]のいずれか一項に記載のBOD測定用センサのための、クリプトコッカスを保持した、微生物固定化担体。
【0015】
[5] 担体がビーズである、前項[4]記載の微生物固定化担体。
【0016】
[6] 前項[1]〜[3]のいずれか一項に記載のBODセンサと、
液体導入時に前記微生物固定化担体と接液可能に構成されたフローセルと、
前記フローセルに対して液体を連続的に送るための送液部と、
BOD測定用センサの出力信号に基づき液体中のBOD値を演算するBOD演算部と
を有する、BOD測定装置。
【0017】
[7] 好気性微生物であるクリプトコッカスを保持した微生物固定化担体に測定対象の液体を適用する適用工程と、
前記液体中の溶存酸素量を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された酸素量に基づき、当該液体中のBOD値を算出するBOD算出工程と
を有することを特徴とする、BOD測定方法。
【0018】
[8] 前記BOD算出工程でBOD値を算出するための検量線を作成する際に、タンニン酸を含有する標準液を使用する、前項[7]記載のBOD測定方法。
【0019】
[9] 前項[7]記載のBOD測定方法において検量線を作成するために使用される、タンニン酸を含有する標準液。
【0020】
[10] クリプトコッカス属に属し、受託番号FERM P−21980で寄託されたクリプトコッカスsp.株である、微生物。
【発明の効果】
【0021】
本発明のBODセンサは、従来のBODセンサでは正確に測定することができなかった、難分解性有機物を含む水性液のBOD値を、オゾンを用いた酸化処理等の前処理を行うことなく簡便に測定することができる。これまではJIS認定のBOD測定方法であるBODは5日間もかかるものであった。また、短時間で測定できる簡易BOD測定方法はBODと等値ではないので、そのまま公的な値として用いることができなかった。一方、本発明で得られたBOD値はBODで得られるものと等価なものが1時間程度と短時間で得られることから、大きな便益を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における微生物固定化ビーズを用いたBOD測定用センサの一例を表す。
【図2】図1のBOD測定用センサを有する測定システムの全体図を表す。
【図3】難分解有機物質(タンニン酸)溶液の検量線を表す。
【図4】各種難分解性有機物の5日間法への影響を示すグラフを表す。
【図5】工場排水のBOD測定結果の比較結果を表す。
【図6】クリプトコッカスsp.光学顕微鏡の観察像を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本明細書において、「BOD」とは、生物化学的酸素要求量を表し、試料水中に存在する有機物が好気性微生物により分解、安定化されるまでに微生物の呼吸により消費される試料水中の溶存酸素の量である。例えば、工業排水のBODを測定することによって、その汚濁程度を予測することができる。
【0025】
本発明において、「難分解性有機物」とは、一般的な微生物、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌や、従来のBODセンサ測定で用いられるトリコスポロン・クタニウムによっては分解されない、または分解に非常に時間がかかる有機物をいい、通常の条件(例えば、一般的な浄化処理施設や下水処理場)で分解されるのに1週間以上かかるものである。難分解性有機物の典型的な例として、Wat. Sci. Tech. Vol. 30, No. 4, pp. 215-227に挙げられたタンニン酸、リグニン、セルロース、アラビアゴム、界面活性剤等があげられる。
【0026】
本発明において、「クリプトコッカス」とは、学名Cryptococcusで担子菌の属である、自然界に広く存在する酵母状真菌の一種をいう。好ましくは、受託番号FERM P−21980で特定される微生物(受領機関名:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター、及び受領日:2010年7月1日)をいう。前述のとおり、従来のBOD測定方法で用いられる微生物は難分解性有機物を十分に分解資化できないので、含有する水溶液のBODを短時間で正確に測定することができなかった。そこで本発明者らは、BOD5日間法とBODセンサ法の値が異なる原因として最も影響の大きい物質を、リグニン、タンニン酸、アラビアゴム、界面活性剤等を用いて調べた。この結果、タンニン酸の影響が最も大きいことがわかった。この結果をうけ、タンニン酸を唯一の炭素源とする培地を用いて微生物を探索したところ、クリプトコッカス属の真菌を獲得できた。
【0027】
本発明において、「BODセンサ」とは、系中に存在する有機物質の量を、固定化された微生物の活動による酸素消費を計測することで、一定時間外部から酸素供給がない場合に、その水の溶存酸素の減少量を指標化するものである。BODセンサは、金属又は炭素からなる酸素電極並びにこの酸素電極表面又はその近傍に当接された微生物固定化担体を有する。BODセンサは、有機物を含有する溶液に、金属又は炭素からなる酸素電極並びにこの電極に当接された微生物固定化担体を有するセンサを浸漬し、このとき流れる電流を計測することにより、この溶液のBODを測定する。なお、BODセンサにおいて、電極と微生物固定化担体は一体化されていてもよいし、任意に分離可能であってもよい。
【0028】
従来のBODセンサは、難分解性有機物が混入している系においては、難分解性有機物を資化することができないために正確なBOD値を出すことができなかった。本発明のBODセンサに用いられる微生物であるクリプトコッカスは難分解性有機物質であるタンニン酸の分解能力が優れている。
【0029】
次に、本発明によるBODセンサを備えたBOD測定装置について説明し、又標準液を用いた予備試験例及び工場からの排水の実測試験例である実施例について説明する。
【0030】
本発明に係るBODセンサは、好気性微生物であるクリプトコッカスを保持した微生物固定化担体を有する。より詳細には、本発明に係るBODセンサは、好気性微生物であるクリプトコッカスを保持した微生物固定化担体を酸素電極に配置し、該酸素電極からの出力電流の変化量を測定することを特徴とする。
【0031】
酸素電極に用いられる電極は炭素や金属類など任意の市販のものを用いることができる。酸素電極に配置されるクリプトコッカスを固定化する担体としては、特に限定されないが、微生物固定化膜、微生物固定化ビーズ等の半透性又は透過性の素材が挙げられる。固定化担体の材料としては、特に限定されないが、アルギン酸カルシウム、コラーゲン、ゼラチン、アガロースゲル、光架橋性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等が好適に用いられる。
【0032】
金属電極とクリプトコッカスを透過させない膜(例えば、透析膜等)との間に微生物を膜状に封入してもよい。また、高分子膜にクリプトコッカスを固定してもよい。さらには、酸素電極を構成する金属膜表面に、グルタルアルデヒド等を用いてクリプトコッカスを膜状に固定してもよい。固定化手段としては、クリプトコッカスが担体に保持され、実質的に流去しないものであれば特に限定されないが、担体の内部に保持する手段、担体の表面に保持する手段、2枚の担体間に挟む手段等が挙げられる。
【0033】
図1は、本発明に係るBODセンサの一態様である。BODセンサ10は、炭素または金属からなる酸素電極4と微生物固定化ビーズ2を有する。本態様においては、微生物固定化ビーズ2はアルギン酸カルシウムよりなる。微生物固定化ビーズ2の内部にクリプトコッカスが固定されている。微生物固定化ビーズ2をフローセル8に投入する。フローセル内は液体(例えば、塩化カルシウム水溶液)で満たされている。BOD測定においては、検水Dをサンプル入口18より流し、クリプトコッカスを保持した微生物固定化ビーズ2および酸素電極4と接触させる。検水Dはサンプル出口20より排出される。
【0034】
本態様においては、微生物固定化ビーズ2が酸素電極4から独立しているため、試験のたびに微生物固定化担体と酸素電極を接続させる手間が省け、簡易な操作でBODを測定することができる。
【0035】
図2は、図1のBODセンサを含んでなるBOD測定装置の一態様である。本発明のBOD測定装置40は、前記BODセンサ10と、液体導入時に前記微生物固定化ビーズ2と接液可能に(液を介して間接的に接続されるように)構成されたフローセル8と、前記フローセル8に対して液体を送るための送液部18(18Aおよび18B)と、BODセンサ10の出力信号に基づき液体中のBOD値を演算する測定制御部20とを有する。送液部18Aは洗浄水D及び緩衝液Pをサンプル入口18を通してフローセル8に送る。送液部18Bはフローセル8内の液体をサンプル出口20を通して廃液22とする。測定制御部20にはBODセンサ10からの情報を一時的に記憶するための情報一時記憶部及びBODセンサ10からの情報を基にしてBODを算出するためのBOD演算部が備えられる。
【0036】
培地には、微生物クリプトコッカスが代謝して増殖及び成長することができる栄養分が含まれる。培地に含まれる栄養分としては、酵母エキス、ポリペプトン、グルコース、麦芽エキス等が挙げられる。培地のpHは4〜8、より好ましくはpH6.5〜7.5に設定されている。
【0037】
培地の種類は特に限定されないが、例えば、普通寒天培地、SCD寒天培地(ソイビーンカゼイン寒天培地)、チョコレート寒天培地、血液寒天培地、GAM寒天培地、ブドウ球菌培地、マンニット食塩培地、SSB寒天培地、サルモネラ・シゲラ寒天培地(SS寒天培地)、マッコンキー寒天培地、ドリガルスキー寒天培地、DHL寒天培地、腸内細菌科の選択分離培地、TCBS寒天培地、ビブリオ寒天培地、腸炎ビブリオ、コレラ菌の選択分離培地、TSI寒天培地、クリグラー寒天培地、SIM培地、ミュラー・ヒントン寒天培地、感性ディスク培地、LB寒天培地、アルギニン・グリセロール・塩類寒天培地(AGS寒天培地)、肉汁寒天培地、ベアードパーカー寒天培地、NGKG(NaClグルシル・キム・ゴッファート)培地、加糖肉汁寒天培地、コロイダルキチン−無機塩寒天培地、グリセリン−ツァペック寒天培地、酵母エキス−麦芽エキス寒天培地、ワックスマン寒天培地、素寒天培地(WA)、麦芽エキス寒天培地(MA)、魚肉寒天培地、麦芽寒天培地、ツァペック−ドックス寒天培地、YM寒天培地、バレイショ−ニンジン寒天培地(PCA)、バレイショ−ブドウ糖寒天培地(PDA)、サブロー寒天培地、コーンミール寒天培地、ツァペック寒天培地、YpSs寒天培地、合成ムコール寒天培地(SMS)、ケカビ類の純粋培養と同定のために考案された人工培地、MY20寒天培地、Gorodkowa寒天培地、オレンジジュース寒天、V8ジュース寒天培地等が挙げられる。
【0038】
培養条件は20〜40℃、より好ましくは25〜37℃で、24〜60時間、より好ましくは40〜50時間、振とうする。この培養液を、前記のように微生物固定化担体の材料に付着させ、BODセンサに用いる。
【0039】
本発明のBOD測定方法は、
(1)好気性微生物であるクリプトコッカスを保持した微生物担体に測定対象の液体(例えば、工場排水、家庭排水等の検水)を適用する適用工程と、
(2)前記液体中の溶存酸素量を測定する測定工程と、
(3)前記測定工程で測定された酸素量に基づき、当該液体中のBOD値を算出するBOD算出工程とを有することを特徴とする。
【0040】
図1及び2を再び参照して、(1)の適用工程の条件として、クリプトコッカスを固定化材料に固定化し、フローセル8に投入する。フローセル8内は液体(1.5%塩化カルシウム水溶液等)で満たし、酸素電極で電流値を常に計測する。BOD測定を行う場合、検水Dを送液部46でフローセル8へ送り、クリプトコッカス及び酸素電極と接触させる。
【0041】
(2)の溶存酸素量の測定には、一定時間電流を計測し、電流の減少量を記録する。当初の酸素量と、一定時間において消費された酸素量との差を発生した電子量を、予め作成された検量線を基に算出する。本発明のBOD測定装置40は、フローセル8が付属したBODセンサ10を、一定の温度(例えば、20〜40℃、好ましくは25〜35℃)に調節したフローセル8に浸漬し、フローセル8に液体L(3.0%塩化カルシウム水溶液)を一定流量流し、同時に空気を300ml/分で流す。これと同時に、検水Dまたは洗浄水W(液体Lと同量)を一定流量フローセル8に注入する(その結果、塩化カルシウム水溶液はフローセル8内と同じ1.5%の濃度に調整される)。この固定化ビーズに酸素電極を浸漬し、一定の電流を流すことによってBODを測定することができる。
【0042】
(3)のBOD算出工程は公知の方法によって行うことができる。(2)で得られた酸素電極からの出力電流の変化量を測定し、予め作成された検量線と照合することによって、液体中のBODを算出する。
【0043】
検量線を作成するための標準液としては、難分解性有機物を含有するものが好ましい。例えば、家庭排水や工場排水にはタンニン酸、リグニン、セルロース、アラビアゴム、界面活性剤といった難分解性有機物が含まれている。その中で、BOD測定の結果に大きな影響を及ぼすものがタンニン酸である。ここで、クリプトコッカスは難分解性有機物であるタンニン酸に対して高い相関性のある応答を示すことから、検量線を作成するためにタンニン酸が好適に用いられる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は以下に限定されない。
【0045】
予備試験例1 (微生物固定化担体の製造方法)
アルギンカルシウムビーズを例にとり、本発明の微生物固定化担体の製造方法を説明する。
アルギン酸ナトリウム(1g)を湯(40ml)に加え、湯煎下ガラス棒でかき混ぜながら溶かし、アルギン酸ナトリウム水溶液を作った。クリプトコッカスsp.(75mg)を水(40ml)に加え、クリプトコッカス懸濁液を作った。アルギン酸ナトリウム水溶液が適温(25〜30℃)に冷えたら、前記クリプトコッカス懸濁液と前記アルギン酸ナトリウム水溶液をよく混和し、混合液とした。注射器の出口を押さえながら前記混合液を注射器に入れ、シリンダーを差し込んで上に向け中の気体を抜いた。塩化カルシウム水溶液を入れた容器に前記混合液を注射器で滴下し、球状の包膜クリプトコッカス(ビーズカプセル)を作った。ビーズカプセルは30分程度で固くなった。十分な量のビーズカプセルができたら塩化カルシウム水溶液を捨て、ビーズカプセルを2〜3回水洗し、BOD測定用とした。
【0046】
予備試験例2 BOD測定用検量線の作成
従来のBOD測定装置(微生物に従来菌(トリコスポロン)を使用)と本発明のBOD測定装置(微生物にクリプトコッカスを使用)の両者を用いて難分解性有機物であるタンニン酸溶液を測定した。図3に示すように、従来のBOD測定装置ではタンニン酸の濃度が高くなってもそれに対するセンサの応答はほとんどないのに対し、本発明のBOD測定装置ではタンニン酸の濃度に比例する形でそれに対する応答を示すことが確認できた。また、タンニン酸の濃度と応答値(すなわち、BOD)に高い相関性を示し、ほぼ直線的な相関となることがわかった。従って、図3に示されるグラフは検量線として使用することができる。
【0047】
試験例 難分解性有機物の影響の評価
タンニン酸、リグニンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アラビアゴム(セルロース)の4つの難分解性有機物(各濃度50mg/L)についてBOD5日間法で測定した。これらはWat. Sci. Tech. Vol. 30, No. 4, pp. 215-227に記載された、難分解性有機物の典型的な例である。図4に示すように、タンニン酸がその濃度に対するBOD値が高かった。すなわち、タンニン酸が最もBOD値に影響を及ぼし、リグニンスルホン酸ナトリウムもそれに次いで強く影響を及ぼしていることが示された。
【0048】
例えば、食品等の工場排水等は難分解性有機物の含有比率が高いので、測定する際に使用する検量線も難分解性有機物であることが好ましい。クリプトコッカスsp.は難分解性有機物であるタンニン酸に対して高い相関性のある応答を示すため、本装置でBOD測定を行う際の標準液は、タンニン酸を用いた。
【0049】
実施例1 食品工場の排水のBOD測定
実際の難分解性有機物が含まれている食品工場からの排水を検液として電流量を測定し、上記のタンニン酸溶液の検量線からBOD値を算出した。予備試験例1で作製したクリプトコッカス固定化ビーズをフローセルに満たした。ここにさらに上から酸素電極を差し込み、流路の水位まで洗浄液と3.0%塩化カルシウム+20mM硫酸アンモニウム溶液で満たした後、攪拌子で攪拌し、この状態を定常状態として、電流の測定を開始した。一定時間電流が安定しているのを確認したら、ポンプのスイッチを入れ、1時間検水を流した。そのとき電流減少を計測し、検量線からBODセンサ値を算出した。
【0050】
比較として5日間法(BOD)と従来法(BODs)でも同様の測定を行った。図3に示すように、本装置によるBOD測定結果と5日間法(BOD)による測定結果は非常に近い値(約15ppm)を示したが、従来法(BODs)では、BOD値の算出ができなかった。5日間法では5日という長い時間をかけて難分解性有機物を分解しているのに対し、本発明はそれと比較すると1時間という非常に短い時間で分解することができる。従って、本発明のBODセンサ及びそれを用いたBOD測定方法は、短時間で、従来の5日間法に代替することができるものである。一方、従来法(BODs)では微生物が難分解性有機物を分解資化するには短時間であるため、BODを算出することができなかった。
【0051】
実施例2 クリプトコッカスの光学顕微鏡写真撮影
本発明で用いられる微生物クリプトコッカスについて、光学顕微鏡写真を撮影した。図6は、本発明で用いるクリプトコッカスsp.の光学顕微鏡写真である(YM平板培地・25℃・12日間培養、スケールバーは10μm)。
【産業上の利用可能性】
【0052】
従来は公的BODに対応した値を得るための測定が困難であった難分解性有機物を含む水であっても、本発明によると、前処理が不要で、簡易かつ短時間でBOD値を得ることができる。
【受託番号】
【0053】
FERM P−21980

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性微生物であるクリプトコッカスを保持した微生物固定化担体を有することを特徴とするBODセンサ。
【請求項2】
前記クリプトコッカスが受託番号FERM P−21980で寄託されたクリプトコッカスsp.株である、請求項1記載のBODセンサ。
【請求項3】
酸素電極と前記微生物固定化担体とを組み合わせた、請求項1〜2のいずれか一項に記載のBODセンサ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のBODセンサのための、クリプトコッカスを保持した、微生物固定化担体。
【請求項5】
担体がビーズである、請求項4記載の微生物固定化担体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のBODセンサと、
液体導入時に前記微生物固定化担体と接液可能に構成されたフローセルと、
前記フローセルに対して液体を連続的に送るための送液部と、
BODセンサの出力信号に基づき液体中のBOD値を演算するBOD演算部と
を有する、BOD測定装置。
【請求項7】
好気性微生物であるクリプトコッカスを保持した微生物固定化担体に測定対象の液体を適用する適用工程と、
前記液体中の溶存酸素量を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された酸素量に基づき、当該液体中のBOD値を算出するBOD算出工程と
を有することを特徴とする、BOD測定方法。
【請求項8】
前記BOD算出工程でBOD値を算出するための検量線を作成する際に、タンニン酸を含有する標準液を使用する、請求項7記載のBOD測定方法。
【請求項9】
請求項7記載のBOD測定方法において検量線を作成するために使用される、タンニン酸を含有する標準液。
【請求項10】
クリプトコッカス属に属し、受託番号FERM P−21980で寄託されたクリプトコッカスsp.株である、微生物。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−63144(P2012−63144A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205094(P2010−205094)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(593036615)株式会社菊池製作所 (2)