BTSCエンコーダ
【課題】本発明は従来技術の上記した問題を実質的に軽減ないし克服することを目的とする。
【解決手段】BTSCエンコーダ(200)は、デジタル左チャンネル音声信号(L)を受信しデジタル左フィルタ処理された信号を発生するための左デジタルハイパスフィルタ(212)、デジタル右チャンネル音声信号(R)を受信しデジタル右フィルタ処理された信号を発生するための右デジタルハイパスフィルタ(214)、デジタル左および右フィルタ処理された信号を加算しまたデジタル和信号(L+R)を発生するための加算器(216)、およびデジタル左および右フィルタ処理された信号の一方からデジタル左および右フィルタ処理された信号の他方を減じデジタル差信号(L−R)を発生するための減算器(218)を含むマトリックス、デジタル差信号(L−R)をデジタル的に処理するための差チャンネルプロセッサ(230)、およびデジタル和信号(L+R)をデジタル的に処理するための和チャンネルプロセッサ(220)を含んでいる。
【解決手段】BTSCエンコーダ(200)は、デジタル左チャンネル音声信号(L)を受信しデジタル左フィルタ処理された信号を発生するための左デジタルハイパスフィルタ(212)、デジタル右チャンネル音声信号(R)を受信しデジタル右フィルタ処理された信号を発生するための右デジタルハイパスフィルタ(214)、デジタル左および右フィルタ処理された信号を加算しまたデジタル和信号(L+R)を発生するための加算器(216)、およびデジタル左および右フィルタ処理された信号の一方からデジタル左および右フィルタ処理された信号の他方を減じデジタル差信号(L−R)を発生するための減算器(218)を含むマトリックス、デジタル差信号(L−R)をデジタル的に処理するための差チャンネルプロセッサ(230)、およびデジタル和信号(L+R)をデジタル的に処理するための和チャンネルプロセッサ(220)を含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、テレビ放送のために使用されるステレオの音声エンコーダに関する。より詳しくは、本発明は、米国および他の国々においてステレオテレビ信号の放送に使用される音声信号を発生するためのデジタルエンコーダに関するものである。
[発明の背景]
1980年代において、米国連邦通信委員会(FCC)は、テレビのプログラムが複チャンネルの音声、例えば、ステレオつまり立体音響の音声で放送され受信され得るテレビ信号の音声部分をカバーする新しい規則を採用した。これらの規則において、FCCはElectronic Industries AssociationおよびNational Association of Broadcastersにより推奨された、Broadcast Television Systems Committee(BTSC)システムと称される別の音声チャンネルを放送する方法に対して認定および特別な保護を与えた。この公知の規格はしばしばMultichannel Television Sound(MTS)と称され、またMULTICHANNEL TELEVISION SOUND TRANSMISSION AND AUDIO PROCESSING REQUIREMENTS FOR THE BTSC SYSTEM(OET Bulletin No.60,Revision A,1986年2月)と題されたFCCの文書、並びにMULTICHANNEL TELEVISION SOUND BTSC SYSTEM RECOMMENDED PRACTICES(EIA Television System Bulletin No.5,1985年7月)に説明されている。BTSCにしたがって発生されたテレビ信号は「BTSC信号」と以下に称する。
【0002】
元来、モノラルのテレビ信号は音声の単一チャンネルだけを伝送する。モノラルのテレビ信号の構造および既存のテレビセットとの互換性を維持するために、ステレオ情報はBTSC信号のより高い周波数領域内に位置させる必要があり、ステレオチャンネルはモノラルの音声チャンネルよりもずっとノイズが多くなる。この結果、モノラルの信号に対するよりもステレオ信号に対してノイズフロアが固有的により高くなる。BTSC規格ではこの問題を、ステレオ音声信号に対して別の信号処理を提供する符号化システムを規定することにより克服している。テレビ局によるBTSC信号の放送前において、テレビプログラムの音声部分はBTSC規格により定められた方法で符号化され、次いでBTSC信号の受信の際に受信機(例えば、テレビセット)は相補的な方法で音声部分を復号する。この相補的な符号化および復号化により全体のステレオ音声信号の信号対ノイズの比は満足なレベルに維持されることが確保される。
【0003】
図1は従来技術のBTSC符号化システム、あるいはより単純には、BTSC規格により規定される、BTSCエンコーダ100のブロックダイヤグラムである。エンコーダ100は左および右チャンネルの音声入力信号(図1において「L」または「R」としてそれぞれ示されている)を受信し、これから条件付けされた和信号を発生する。ここで理解しておかねばならないが、従来技術のシステムおよび本発明のシステムはテレビ信号として逐次送信されたステレオ信号の左および右の音声信号を符号化するために有用であるとして説明されているが、BTSCシステムはまた、最終受信機により分離され選択された別々の音声信号、例えば異なる言語内の音声情報を符号化する手段を提供するものである。さらに、BTSC符号化システムのノイズ低減構成要素は、音声記録の改善のような、テレビ放送以外の他の目的のために使用することができる。
【0004】
システム100は入力セクション110、和チャンネル処理セクション120、および差チャンネル処理セクション130を含んでいる。入力セクション110は左および右の音声入力信号を受信し、またこれから和信号(図1において「L+R」として示されている)および差信号(図1において「L−R」として示されている)を発生する。ステレオ信号に対しては、和信号L+Rはそれ自体によりモノラル音声再生を提供するために使用されることが知られており、また音声を再生するために既存のモノラル音声テレビにより符号化されるのはこの信号である。ステレオのセットでは、元の2つのステレオ信号(L)および(R)を回復するために和信号および差信号は互いに加算および減算される。入力セクション110は2つの信号加算器112、114を含んでいる。加算器112は和信号を発生するために左および右チャネル音声入力信号を加算し、また加算器114は差信号を発生するために左チャンネル音声入力信号から右チャンネル音声入力信号を減算する。上記したように、和信号L+Rは、従来のモノラル信号で達成されるのと同じ信号対ノイズ比で、送信媒体を通って送信される。しかしながら、差信号L−Rは非常にノズルの多いチャンネルを通って、特に、関連するスペクトルのより高い周波数部分において送信され、ノイズの多い媒体および媒体のダイナミックレンジの低減のために、符号化された差信号は信号対ノイズ比は劣っている。ダイナミックレンジはノイズフロアのレベルと信号の飽和が起こる最大レベルとの間の信号のレンジとして規定される。したがって、差信号は和信号の場合よりも別の処理を受け、ダイナミックレンジはほぼ保存される。
【0005】
より詳しくは、和チャンネル処理セクション120は和信号を受信し、またこれから条件付けされた和信号を発生する。セクション120は75μsのプリエンファシス(preemphasis)フィルタ122および帯域リミッタ124を含んでいる。和信号はこの信号出力信号を形成するフィルタ122の入力に加えられ、この信号は帯域フィルタの入力に加えられる。後者により発生された出力信号は次いで条件付き和信号となる。
【0006】
差チャンネル処理セクション130は、差信号を受信し、またこれから符号化された差信号を生成する。セクション130は固定プリエンファシス回路132(2つのフィルタ132aと132bのカスケード接続として実施されたものが示されてる。)、好ましくは電圧制御型の増幅器の形態である可変利得増幅器134、可変プリエンファシス/デエンファシスフィルタ(本明細書においては「可変エンファシスフィルタ」と称する。)136、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138、固定利得増幅器140、帯域通過フィルタ142、RMSレベル検出器144、固定利得増幅器146、帯域フィルタ148、RMSレベル検出器150、および逆数発生器152を含んでいる。
【0007】
差信号は固定プリエンファシスフィルタ132に入力され、フィルタ132はこれから、増幅器134の入力端末にライン132dを経て加えられる出力信号を生成する。逆数発生器152により生成される出力信号はライン152aを経て増幅器134の利得制御端子に加えられる。増幅器134は、ライン152a上の信号の値に比例した利得を利用してライン132d上の信号を増幅ことにより出力信号を生成する。増幅器134により生成された出力信号は、ライン134aを介して可変エンファシスフィルタ136に加えられ、またRMS検出器144により発生された出力信号はライン144aを介してフィルタ136の制御端子に加えられる。可変エンファシスフィルタ136は、ライン144a上の信号の制御下でライン134a上の信号の高周波部分をプリエンファシス(preemphasize)あるいはデエンファシス(deemphasize)することで出力信号を発生する。フィルタ136により発生された出力信号は、これから符号化された差信号を発生する、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138の入力に加えられる。
【0008】
符号化された差信号はフィードバック経路138aを経て、符号化された差信号を利得AおよびBでそれぞれ増幅する、固定利得増幅器140、146の入力に加えられる。増幅器140により発生された増幅された信号は、これからRMSレベル検出器144の入力に加えられる出力信号を発生する、帯域通過フィルタ142の入力に加えられる。RMSレベル検出器144はフィルタ142から受信した入力信号レベルのRMS値の関数として出力信号を発生する。増幅器146により発生された増幅された信号は、これからRMSレベル検出器150の入力に加えられる出力信号を発生する、帯域通過フィルタ148の入力に加えられる。RMSレベル検出器150はフィルタ148から受信した入力信号レベルのRMS値の関数としての出力信号を発生する。検出器150の出力信号はライン150aを介して、ライン150a上の信号の値の逆数を表すライン152a上の信号を発生する、逆数発生器152に加えられる。上記のように、RMSレベル検出器144および逆数発生器152により発生された出力信号はフィルタ136および増幅器134に、それぞれ加えられる。
【0009】
図1に示したように、差チャンネル処理セクション130は和チャンネル処理セクション120よりも著しくより複雑である。差チャンネル処理セクション130により提供される別の処理は、BTSC信号を受信するデコーダ(図示せず)により提供される相補的な処理と組み合わせて、差チャンネルの信号対ノイズ比を差チャンネルの送信および受信に関連したより高いノイズフロアの存在においてさえ満足なレベルに維持している。差チャンネル処理セクション130は基本的には、符号化された信号をBTSC信号に関連した限定されたダイナミックレンジの伝送路を通って送信することができるように、また符号化された信号を受信するデコーダが相補的な態様で圧縮された差信号を拡張することにより元の差信号において全てのダイナミックレンジを回復することができるように、差信号のダイナミックレンジを動的に圧縮、縮小することにより符号化された差信号を発生している。差チャンネル処理セクション130は、比較的狭い、周波数依存のダイナミックレンジを有する伝送路を通って比較的大きなダイナミックレンジを有する信号を送信するために有利であることが知られている、米国特許第4,539,526号に説明されている適合型信号重み付けシステムの特別な形態である。
【0010】
要するに、差チャンネル処理セクションは、広帯域圧縮ユニット180およびスペクトル圧縮ユニット190を含むものとして考えられる。広帯域圧縮ユニット180は好ましくは電圧制御型増幅器の形式である可変利得増幅器134、および増幅器134への制御信号を発生するためのフィードバック経路の構成要素を含んでおり、この構成要素は増幅器146、帯域通過フィルタ148、RMSレベル検出器150、および逆数発生器152から成る。帯域通過フィルタ148は比較的広い通過帯域を有し、より低い音声周波数に重み付けされており、よって動作においてはフィルタ148によって発生されRMSレベル検出器150に加えられる出力信号は符号化された差信号を実質的に表している。このため、RMSレベル検出器150は、ライン150a上に、符号化された差信号のエネルギーレベルの重み付けされた平均を表す出力信号を発生し、また逆数発生器152はこの重み付けされた平均の逆数を表す信号をライン152a上に発生する。ライン152a上の信号は増幅器134の利得を制御し、またこの利得は符号化された差信号のエネルギーレベルの重み付けされた平均(つまり、より低い音声周波数に重み付けされた)に逆比例することから、広帯域圧縮ユニット180は、比較的低い振幅を有する信号を増幅し、また比較的大きな振幅を有する信号を減衰することにより、ライン132a上の信号のダイナミックレンジを「圧縮」、ないし縮小する。
【0011】
スペクトル圧縮ユニット190は可変エンファシスフィルタ136およびフィルタ136への制御信号を発生するフィードバック経路の構成要素を含み、この構成要素は、増幅器140、帯域通過フィルタ142およびRMSレベル検出器144から成る。フィルタ148とは異なり、帯域通過フィルタ142は、より高い音声周波数に重み付けされた比較的狭い通過帯域を有している。公知のように、BTSC送信システムの差部分に関連した送信媒体は周波数依存のダイナミックレンジを有し、またフィルタ142の通過帯域は最も狭いダイナミックレンジを有する当該送信経路のスペクトル部分(つまり、より高い周波数部分)に対応するように選択される。動作においては、フィルタ142により発生されRMSレベル検出器144に加えられる出力信号は、符号化された差信号の高周波部分を主に含んでいる。それ故、RMSレベル検出器144は、符号化された差信号の高周波部分内のエネルギーレベルを表す出力信号をライン144a上に発生する。この信号は次いで、可変エンファシスフィルタ136により行われるプリエンファシス/デエンファシスを制御し、そのため事実上、スペクトル圧縮ユニット190はライン134a上の信号の高周波部分を、フィルタ142により決定される符号化された差信号の高周波部分におけるエネルギーレベルにより決定される量だけ動的に圧縮する。スペクトル圧縮ユニット190の使用によって差信号のより高い周波数部分に対する別の信号圧縮を提供するが、これはより低い周波数における圧縮に比べて、高周波でより全体的な圧縮を効率的に行わせるために、可変利得増幅器134により提供される広帯域圧縮と組み合わせられる。差信号はスペクトルのより高い周波数においてよりノイズがある傾向にあるためにこのような手法が行われる。符号化された差信号がデコーダ(図示せず)内の広帯域伸長器およびスペクトル伸長器で、エンコーダの広帯域圧縮ユニット180およびスペクトル圧縮ユニット190の相補的な方法でそれぞれ復号されるときに、差チャンネル処理セクション130に提供されたL−R信号の信号対ノイズ比は実質的に保持される。
【0012】
BTSC規格は、75μsプリエンファシスフィルタ122、固定プリエンファシスフィルタ132、可変エンファシスフィルタ136、および帯域通過フィルタ142、148を、理想的なアナログフィルタで、所望の動作を厳格に規定している。特に、BTSC規格はこれらの構成要素のそれぞれに対する伝達関数を提供し、また伝達関数は理想的なアナログフィルタの数学的表示で述べられている。BTSC規格はまた、増幅器140および146の、利得設定、利得AおよびBをそれぞれ規定しており、また増幅器134、RMSレベル検出器144、150および逆数発生器152の動作を規定している。BTSC規格はまた、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138および帯域リミッタ124の動作に対するガイドラインを示唆している。特に、帯域リミッタ124、および、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138の帯域リミッタ部分が、カットオフ周波数15kHz、ローパスフィルタとして説明されており、また過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138の過変調プロテクタ部分が、符号化された差信号の振幅を、全テレビ信号内の音声サブキャリアを変調するための最大許容な偏差レベルである100%の全変調に制限するスレッショルド(しきい値)として説明されている。
【0013】
エンコーダ100は理想化されたフィルタの数学的表示により規定されているので、これは理想化されたあるいは理論的なエンコーダとして考えられ、当業者は、理論的なエンコーダ100の性能と正確に合致するBTSCエンコーダを現実のものに構築することは事実上不可能であると評価するだろう。よって、全てのBTSCエンコーダの性能は理論的に理想的なものからやや逸脱することが予想でき、BTSC規格は、偏差の許容量についての最大限度を規定している。例えば、BTSC規格では、BTSCエンコーダは、分離が左あるいは右のチャンネルの入力の1つだけに加えられる信号が左あるいは右のチャンネルの出力の他のものに誤ってどの程度現れているのかの尺度となる場合において、100Hzから8、000Hzで少なくとも30dBの分離を提供しなければならない。
【0014】
BTSC規格はまた、BTSC信号の音声部分を発生するために使用される、複合ステレオベースバンド信号(以下「複合信号」と称する。)を規定している。複合信号は条件付けされた和信号、符号化された差信号、および「パイロットトーン」あるいは単に「トーン」と称され、fH が15.734であり周波数fH の正弦波である、トーン信号を使用して発生される。受信されたテレビ信号内のパイロットの存在は、テレビ信号がモノラルあるいは非BTSC信号でなくてBTSC信号であることを受信機に示している。複合信号は、振幅変調された、両側波帯の、抑圧されたキャリア信号を発生するために、符号化された差信号を、tが時間であるコサイン関数cos(4πfHt)にしたがってパイロット周波数の2倍で発振する波形で乗算し、次いでこの信号に条件付けされた和信号およびパイロットトーンを加えることにより発生される。
【0015】
図2は、複合信号のスペクトルのグラフである。図2において、条件付けされた和信号(あるいは「和チャンネル信号」)の内容を含む問題のスペクトル帯域は「L+R」として示されており、周波数シフトされ符号化された差信号(あるいは「差チャンネル信号」)の内容を含む2つのスペクトル側波帯はそれぞれ「L−R」として示されており、またパイロットトーンは周波数fH で矢印により示されている。図2に示したように、複合信号において、符号化された差信号は全変調の100%で使用され、条件付けされた和信号は全変調の50%で使用され、またパイロットトーンは全変調の10%で使用されている。
【0016】
ステレオテレビは一般的に成功しており、また既存のエンコーダは見事に性能を発揮しているが、現在使用されている事実上どのBTSCエンコーダもアナログ回路技術を使用して作られている。これらのアナログBTSCエンコーダ、および特にアナログの差チャンネル処理セクションは、それらの複雑さのために、構成することが比較的困難であり高価になってしまう。アナログ構成要素の可変性により、満足のいくアナログ式の差チャンネル処理セクションを作るためには、複雑な構成要素選択および広範な校正が必要である。さらに、アナログ構成要素が、時間とともに、その校正された動作ポイントから離れてドリフトする傾向にあることが、所定の許容範囲内で一貫性のある再現性のあるアナログ式の差チャンネル処理セクションを作ることを困難にしている。デジタル差チャンネル処理セクションは、これを構成できた場合には、構成要素の選択、校正、および性能ドリフトなどの問題がなく、また潜在的に高い性能を提供できる。
【0017】
さらに、既存のBTSCエンコーダのアナログ特性が、新しく開発された、人気が増大している、デジタル装置への使用を不便なものにしている。例えば、テレビプログラムは現在は、従来のアナログ式の記憶媒体でなしにハードディスクあるいはデジタルテープようなデジタル記憶媒体を使用して記憶することができ、また将来はデジタル記憶媒体の使用が増大することが見込まれる。デジタルに記憶されたプログラムからBTSC信号を発生することは、現在では、デジタル音声信号をアナログ信号に変換し、次いでアナログ信号をアナログBTSCエンコーダに加える必要がある。デジタルBTSCエンコーダは、構成できた場合には、デジタル音声信号を直接受け入れることができ、またよって、他のデジタル装置をより容易に組み込むことができる。
【0018】
デジタルBTSCエンコーダは潜在的にいくつかの特長を提供するものの、BTSC規格により規定される理想的なエンコーダ100と機能的に等価なエンコーダをデジタル技術を使用して構成するための単純な方法はない。1つの問題はBTSC規格が、アナログ伝達関数の観点から理想的なエンコーダ100の重要な構成要素の全てを規定していることである。公知のように、デジタルフィルタの大きさあるいは位相応答のいずれかがアナログフィルタのものと合致するデジタルフィルタを設計することは一般的には可能であるが、非常に速いサンプリング速度でサンプルされたデータを処理するために処理容量を非常に大きくすることなく、あるいはデジタルフィルタの複雑さを著しく増大させることなしに、振幅および位相応答の両方を合致させることは極めて困難である。サンプリング周波数あるいはフィルタ次数のいずれかを増大することなしには、2つのフィルタの位相応答の間の不一致の増大を犠牲として、デジタルフィルタの振幅応答は通常はアナログフィルタのものをより近く合致させることができるだけ、あるいはその逆である。しかしながら、振幅あるいは位相における小さなエラーがBTSCエンコーダにより提供される分離の量を減少させるので、図1に100で示したタイプの理想的なエンコーダの振幅および位相応答の両方をほぼ合致させることがデジタルBTSCエンコーダにおいては必須である。
【0019】
デジタルBTSCエンコーダに対して満足のいく性能を提供するためには、理想的なエンコーダ100のアナログフィルタの特性を保持することが重要である。デジタルフィルタをアナログフィルタの性能に合致するように設計するために種々の技術が存在する。しかしながら、一般的には、どの技術も、アナログフィルタの対応する応答性に正確に合致した振幅および位相応答を有する(アナログフィルタと同じ次数の)デジタルフィルタを作ることはできない。理想的なエンコーダ100は、周波数領域、ないしs−面において特定されたアナログ伝達関数の観点で規定されており、またデジタルBTSCエンコーダを設計するために、これらの伝達関数はz−面に変換されなければならない。このような変換は、時間領域特性を保持するために、s−面からz−面に「多数対1」(many−to−one)として写像するものとして実施される。しかしながら、このような変換において、周波数領域応答がエイリアシング(aliasing)を受けて著しく変わってしまう。あるいは、変換は、全体のs−面をz−面のユニット円(unit circle)内に圧縮するs−面からz−面への「1対1」として行われる。しかしながら、このような圧縮はアナログ周波数とデジタル周波数との間の良く知られた「周波数ワープ」(frequency warping)を受けてしまう。このような周波数ワープを補償するためにプリワープ(prewarping)を採用することができるが、所望の周波数応答からの偏差をプリワープによって完全に除去することはできない。良好に動作しまた過度に複雑ないし高価でないデジタルBTSCを作るためにはこれらの問題を克服する必要がある。
【0020】
したがって、これらの問題を克服してデジタルBTSCエンコーダを開発するための必要性がある。
[発明の目的]
本発明は従来技術の上記した問題を実質的に軽減ないし克服することを目的とする。
【0021】
本発明の他の目的は、適応型デジタル重み付けシステムを提供することにある。
【0022】
本発明のさらに他の目的は、情報信号が、所定の帯域幅の少なくとも1つの他のスペクトル領域よりも第1のスペクトル領域内においてダイナミック的つまり動的に限定された、周波数依存のチャンネルを通って記録あるいは送信することができるように、所定の帯域幅の電気情報信号を符号化するための適応型デジタル重み付けシステムを提供することにある。
【0023】
本発明の他の目的は、デジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0024】
本発明のさらに他の目的は、実質的にゼロの入力信号レベルで生じる問題である、チッキング(ticking)を防止する、デジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的は、符号化された信号の信号情報とパイロットトーン信号との緩衝を防止するために、15,734Hzのパイロットトーン信号の倍数であるサンプリング周波数を使用する、デジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、15,734Hzのパイロットトーンにおいて信号エネルギーが実質的にない、条件付けされた和信号および符号化された差信号を発生するためのデジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、条件付けされた和信号を発生するための和チャンネル処理セクション、および符号化された差信号を発生するための差チャンネル処理セクションを含むデジタルBTSCエンコーダを提供することにあり、和チャンネル処理セクションは差チャンネル処理セクションにより符号化された差信号に導入された位相エラーを補償するために条件付けされた和信号に補償的な位相エラーを導入するための装置を含んでいる。
【0028】
また、本発明の他の目的は、デジタル可変エンファシスユニットを含むデジタルBTSCエンコーダを提供することにあり、このユニットは可変係数伝達関数を特徴とするデジタル可変エンファシスフィルタを含んでおり、またこのユニットは符号化された差信号の信号エネルギーの関数として可変係数伝達関数の係数を選択するための装置をさらに含んでいる。
【0029】
本発明のさらに別の目的は、条件付けされた和信号および符号化された差信号から複合変調された信号を発生するための複合変調器を含むデジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0030】
本発明のさらに別の目的は、単一の集積回路上で実施できるデジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
[発明の要約]
上記および他の目的は、入力セクション、和チャンネル処理セクション、および差チャンネル処理セクションを含み、これら全てがデジタル技術を使用して実施された、改良されたBTSCエンコーダにより提供される。1つの特徴において、入力セクションはBTSCエンコーダが「チッキング」を示すのを防止するためのハイパスフィルタを含んでいる。他の特徴において、BTSCエンコーダはパイロット周波数の整数倍に等しいサンプリング周波数を使用している。
【0031】
さらに別の特徴において、和チャンネル処理セクションは条件付けされた和信号を発生し、また差チャンネル処理セクションは符号化された差信号を発生し、また和チャンネル処理セクションは差チャンネル処理セクションにより符号化された差信号に導入された位相エラーを補償するために条件付けされた和信号に位相エラーを導入するための構成要素を含んでいる。
【0032】
さらに別の特徴によれば、本発明は、予め決定された帯域幅の電気的な情報信号を符号化するための適応型デジタル重み付けシステムを提供し、情報信号が、予め決定された帯域幅の少なくとも1つの他のスペクトル領域内のものよりもより狭い、動的に制限された部分を有する第1のスペクトル内の動的に制限された、周波数依存のチャンネル上に記録されこれを通って送信することができるようにするものである。
【0033】
本発明のさらに別の目的および特長は、本発明の最良の形態の単なる例示である、いくつかの実施形態が示され説明されている以下の詳細な説明から当業者には自明である。当然であるが、本発明は他の異なる実施形態とすることができ、またそのいくつかの詳細は本発明から逸脱することなしに種々の点で変更することができる。したがって、図面および説明は本質的に例示であり、これらに限定されるものではなく、本発明の範囲は請求の範囲に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明の本質および目的をより完全に理解するために、添付図面を考慮して以下の詳細な説明を参照する。図面において、同様あるいは類似した部品を示すために同様な参照番号を使用している。
【図1】従来技術の理想的なBTSCエンコーダのブロック図
【図2】BTSC規格にしたがって発生された複合信号のスペクトルのグラフ
【図3】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの1つの実施形態のブロック図
【図4】図3に示されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用されるローパスフィルタのブロック図
【図5】図3に示されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用される広帯域圧縮ユニットの詳細なブロック図
【図6】図3に示されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用されるスペクトル圧縮ユニットのブロック図
【図7】図6に示されたスペクトル圧縮ユニットにおいて使用される可変エンファシスフィルタのフィルタ係数を計算するために使用されるフローチャート
【図8A】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図8B】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図8C】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図8D】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図9】図8B及び図8Cに示された複合変調器の詳細なブロックダイヤグラム
【図10】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用される和チャンネル処理セクションおよび差チャンネル処理セクションの1つの好ましい実施形態のブロック図である。
【0035】
[発明の詳細な説明]
図3は、本発明にしたがって構成されたデジタルBTSC1つの実施形態のブロック図である。デジタルエンコーダ200は、理想的なエンコーダ100(図1において示した)の性能と機能的に等価である性能を提供するために構成されている。理想的なエンコーダ100の場合と同様に、デジタルエンコーダ200は左および右チャンネルの音声入力信号を受信し、またこれから条件付けされた和信号および符号化された差信号を発生するが、デジタルエンコーダ200においては、これらの入力および出力信号は連続的なアナログ信号ではなくてデジタル的にサンプリングされた信号である。
【0036】
左および右のチャンネルの音声入力信号のためのサンプリング周波数fsの選択はデジタルエンコーダ200の設計に大きな影響を与える。好ましい実施形態において、サンプリング周波数fsはパイロット周波数fH の整数倍であり、つまりfs=NfHであり、Nは整数であり、最も好ましい実施形態においてはNは3以上となるように選択される。エンコーダ200においては、条件付けされた和信号および符号化された差信号がパイロット周波数fHにおいて、複合信号に含まれるパイロットトーンと干渉する十分なエネルギーを含まないことを確保することが重要である。それ故、以下に詳細に説明するように、デジタルエンコーダ200内の少なくともいくつかのフィルタがパイロット周波数fHにおいて非常に大きな減衰度を与えることが望ましい、またこのサンプリング周波数fsの選択がこのようなフィルタの設計を単純化する。
【0037】
デジタルエンコーダ200は入力セクション210、和チャンネル処理セクション220および差チャンネル処理セクション230を含んでいる。デジタル技術を使用して差チャンネル処理セクション230を単純化するのではなく、これら3つのセクション210、220、230の全てがデジタル技術を使用しているのである。デジタルエンコーダ200内の個々の多くの構成要素はそれぞれ理想的なエンコーダ100の個々の構成要素に対応する。一般的には、デジタルエンコーダ200の構成要素は、それらの振幅応答がエンコーダ100内の対応する構成要素の個々の振幅応答にほぼ合致するように選択される。これにより、対応する構成要素の位相応答に比較的大きな差がしばしば生じる結果となる。本発明の特徴によれば、これらの位相差、あるいは位相エラーを無効化つまりゼロにするための手段がデジタルエンコーダ200内に設けられている。当業者には自明のように、差チャンネル処理セクション230内の比較的小さな位相エラーは和チャンネル処理セクション220内に小さな位相エラーを導入することにより補償され、またデジタル技術を使用して和チャンネル処理セクションを実施すれば、このような所望の補償位相エラーの導入が簡単化できる。
【0038】
エンコーダ200の入力部は2つのハイパスフィルタ212、214、および2つの信号加算器216、218を含んでいる。左チャンネルのデジタル音声入力信号Lはハイパスフィルタ212の入力に加えられ、ハイパスフィルタはこれから加算器216、218の正の入力端子に加えられる出力信号を発生する。右チャンネルの音声入力信号Rはハイパスフィルタ214の入力に加えられ、ハイパスフィルタはこれから加算器216の正の入力端子および加算器218の負の入力端子に加えられる出力信号を発生する。加算器216はフィルタ212および214により発生された出力信号を加算することにより和信号(図3において「L+R」で示されている)を発生する。加算器218はフィルタ212により発生された出力信号からフィルタ214により発生された出力信号を減算することにより差信号(図3において「L−R」で示されている)を発生する。入力セクション210は、よって、入力セクション110(図1に示した)と同様であるが、セクション210は、2つのハイパスフィルタ212、214をさらに含み、またデジタル和信号および差信号を発生する。
【0039】
ハイパスフィルタ212、214は好ましくは実質的に同じ応答性を有し、また好ましくは左および右チャンネルの音声入力信号からD.C.成分を取り除く。以下に詳細に説明するように、このD.C.除去によりエンコーダ200が「チッキング」と称される挙動を示すことが防止される。問題の左および右チャンネル音声入力信号の音声情報内容が50Hzおよび15,000Hzの間の周波数帯内にあると考えられるので、D.C.成分の除去は音声信号の情報の内容の送信を干渉しない。フィルタ212、214は、このため、好ましくは50Hzより下のカットオフ周波数を有し、また音声入力信号内に含まれる音声情報を取り除くことがないように、更に好ましくは10Hzより下のカットオフ周波数を有している。フィルタ212、214はまた、好ましくはそれらの通過帯域において平坦な振幅応答を有している。1つの好ましい実施形態において、フィルタ212、214は、それぞれ以下に示す式(1)により規定される伝達関数H(z)を有する1次の無限インパルス応答フィルタ(IIR)として実施される。
【0040】
【数1】
【0041】
図3を参照して、和チャンネル処理セクション220は和信号を受信し、またこれから条件付けされた和信号を発生する。とくに、和信号は75μsのプリエンファシスフィルタ222に加えられる。フィルタ222は、静的位相等化フィルタ228に加えられる出力信号を発生する。フィルタ228はセクション220のローパスフィルタ224に加えられる出力信号を発生し、またセクション220は条件付けされた和信号を発生する。
【0042】
75μsのプリエンファシスフィルタ222は、理想的なエンコーダ100のフィルタ122(図1に示された)に部分的に類似した信号処理を行う。フィルタ222の振幅応答は好ましくはフィルタ122にほぼ合致するように選択される。以下に説明するように、フィルタ222と122の位相応答の間の差を補償するための手段が差チャンネル処理セクション230内に設けられる。1つの好ましい実施形態において、フィルタ222は、以下の式(2)に示される等式により記述される伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。
【0043】
【数2】
【0044】
静的位相等化フィルタ228は、理想的なエンコーダ100(図1に示される)内の構成要素と直接的に類似した処理を行う。以下により詳細に説明するように、静的位相等化フィルタ228は差処理セクション230により導入された位相エラーを補償する位相エラーを導入するために使用される。要するに、静的位相等化フィルタ228は好ましくは比較的平坦な振幅応答および選択された位相応答を有する「全てを通過する」フィルタである。1つの好ましい実施形態において、フィルタ228は、以下の式(3)に示された等式により記述された伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。
【0045】
【数3】
【0046】
ローパスフィルタ224はエンコーダ100の帯域リミッタ(図1に示された)に部分的に類似した処理を行う。ローパスフィルタ224は好ましくは0から15kHzの通過帯域内での平らな振幅応答および15kHzより上で比較的鋭いカッソオフを提供する。フィルタ224は好ましくはパイロットトーン(つまり、15,734Hz)の周波数fH において非常に大きな減衰度を提供する。この非常に大きい減衰度を設けることで、フィルタ224は、パイロット周波数fH において、複合信号で使用されるパイロットトーンと干渉する十分なエネルギーを含まないことを確保できる。上記したように、サンプリング周波数fs をパイロット周波数fH の整数倍に等しくすることで、パイロット周波数において非常に大きな減衰度を提供するフィルタの設計を単純化することができ、このため、フィルタ224の設計を単純化できる。フィルタ224は好ましくはパイロット周波数fH においてゼロ(ヌル)であり、また好ましくはパイロット周波数fH からサンプリングレートの1/2までの全ての周波数に対して少なくとも70dBの減衰を提供する。
【0047】
図4Aはローパスフィルタ224の1つの好ましい実施形態を例示したブロック図である。図4Aに示したように、フィルタ224は5つのフィルタセクション310、312、314、316、318をカスケード接続することで実施される。1つの好ましい実施形態において、5つのフィルタセクション310、312、314、316、318は全て、以下の式(4)に示した等式により現される伝達関数H(z)を有する2次のIIRフィルタとしてそれぞれ実施される。
【0048】
【数4】
【0049】
よって、図4Aに示した実施形態において、フィルタ224は10次のIIRフィルタである。
【0050】
図3を参照して、差チャンネル処理セクション230は差信号を受信し、これから符号化された差信号を発生する。差信号はローパスフィルタ238aに加えられ、このフィルタはこれから固定プリエンファシスフィルタ232aに加えられる出力信号を発生する。フィルタ232aは、ライン239を介して、広帯域圧縮ユニット280の入力端子に加えられる出力信号を発生し、符号化された差信号はフィードバックライン240を経て広帯域圧縮ユニット280の検出器端子に加えられる。ユニット280はライン281を経てスペクトル圧縮ユニット290の入力端子に加えられる出力信号を発生し、また符号化された差信号は同様にフィードバックライン240を経てユニット290の検出器端子に加えられる。ユニット290は固定プリエンファシスフィルタ232bに加えられる出力信号を発生し、フィルタ232bはクリッパ254に加えられる出力信号を発生する。クリッパ254はローパスフィルタ238bに加えられる出力信号を発生し、フィルタ238bは符号化された差信号を発生する。
【0051】
ローパスフィルタ238a、238bは、一緒に、理想的なエンコーダ100の過変調プロテクタおよび帯域リミッタ(図1に示された)38と部分的に類似した処理を行うローパスフィルタ238を形成する。好ましくは、フィルタ238は、和チャンネルセクション220において使用された、ローパスフィルタ224と実質的に同一であるように実施される。したがって、フィルタ238により符号化された信号内に導入された何等かの位相エラーは、フィルタ224により条件付けされた和信号内に導入された位相エラーを平衡化することにより補償される。フィルタ238は、後述するように、好ましくは図示したように2つのセクション238a、238bに分割され、またフィルタ238aは好ましくはパイロット周波数fH においてゼロ(ヌル)を有する。
【0052】
図4B及び図4Cは個々のフィルタ238aおよび238bの1つの好ましい実施形態をそれぞれ例示したブロック図である。図4Bに示したように、フィルタ238aは、フィルタ224(図4Aに示した)内に使用される3つのフィルタセクションと同じである3つのフィルタセクション310、314、318をカスケード接続することにより実施され、また図4Cに示したように、フィルタ238bは、フィルタ224内に使用される2つの残りのセクションと同じである2つのフィルタセクション312、316をカスケード接続することにより実施される。
【0053】
固定プリエンファシスフィルタ232a、232b(図3に示された)は、一緒に、理想的なエンコーダ100のフィルタ132(図1に示された)と部分的に類似した処理を行う固定プリエンファシスフィルタ232を形成する。フィルタ232の振幅応答は好ましくはフィルタ132の振幅応答とほぼ合致するように選択される。1つの実施形態において、フィルタ232および132の位相応答は著しく異なり、また以下に詳細に示したように、残りの位相誤差は和チャンネル処理セクション220内のフィルタ222および228により補償される。フィルタ232は好ましくは以下に説明する理由により2つのセクション232a、232bに分割される。1つの実施形態において、フィルタ232a、232bはそれぞれ好ましくは、式(2)により示された等式により記述される伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。よって、この実施形態のフィルタ232は2次IIRフィルタである。
【0054】
1つの実施形態において、フィルタ232bと132aの位相応答の間の差は、フィルタ222と122の位相応答の間の差とほぼ合致する。よって、固定プリエンファシスフィルタ232bにより符号化された差信号内に導入された位相エラーは75μsのプリエンファシスフィルタ222により条件付けされた和信号内に導入された位相エラーにより平衡化される。さらに、この実施形態において、静的等化フィルタ228の位相応答は、固定プリエンファシスフィルタ232aおよびフィルタ132bの位相応答の間の差にほぼ合致するように選択され、フィルタ232bにより符号化された差信号内に導入された何等かの位相エラーは静的位相等化フィルタ228により導入された条件付けされた和信号内の位相エラーにより補償される。
【0055】
クリッパ254は、理想的なエンコーダ100において使用された過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138(図1に示された)に部分的に類似している。要するに、クリッパ254はスレッショルド(しきい値)装置として実施されるが、クリッパ254の動作は以下に詳細に説明する。
【0056】
広帯域圧縮ユニット280およびスペクトル圧縮ユニット290は部分的、理想的なエンコーダ100(図1に示された)の、ユニット180および190のものとそれぞれ類似した動作を行う。要するに、広帯域圧縮ユニット280は符号化された差信号内の全体のエネルギーレベルの関数としてライン239上の信号を動的に圧縮し、またスペクトル圧縮ユニット290は符号化された差信号内の高周波エネルギーの関数としてライン281上の信号の高周波部分をさらに圧縮する。
【0057】
図5はデジタル広帯域圧縮ユニット280の好ましい実施形態のブロック図である。ユニット280はデジタル信号乗算器434、デジタル信号乗算器446、広帯域デジタル帯域通過フィルタ448、デジタルRMSレベル検出器450、およびデジタル逆数発生器458を含んでいる。これらの構成要素は特に、理想的な増幅器100(図に示された)増幅器134、増幅器146、帯域通過フィルタ148、RMSレベル検出器150、および逆数発生器152とそれぞれ同様な機能の処理を行う。符号化された差信号はフィードバック経路240を経て広帯域デジタル帯域通過フィルタ448の入力に加えられ、フィルタ448はこれからRMSレベル検出器450に加えられる出力信号を発生する。検出器450は、フィルタ448により発生された出力信号のRMS値を表す出力信号を発生し、またこの出力信号をライン450aを経て逆数発生器458に加える。逆数発生器458は次いでライン450a上の信号の逆数を表す出力信号を発生し、またこの出力信号をライン458aを経て乗算器446に加える。デジタル信号乗算器446はライン458a上の信号を利得設定値、利得Dで乗算し、これによりRMS値の逆数のD倍を表す出力信号を発生し、これはライン446aを経て乗算器434の入力端子に加えられる。固定プリエンファシスフィルタ232aにより発生された出力信号はライン239を経て乗算器434の他の入力端子に加えられる。乗算器434はライン446a上の信号によりライン239上の信号を乗算し、よって、広帯域圧縮ユニット280の出力を発生し、これはライン281を経てスペクトル圧縮ユニット290の入力に加えられる。
【0058】
広帯域デジタル帯域通過フィルタ448は帯域通過フィルタ148(図1に示された)の振幅応答とほぼ合致した振幅応答を有するように設計される。1つの好ましい選択は、その振幅応答とフィルタ148の振幅応答との間の差の2乗平均が最小となるようにフィルタ448を選択することである。1つの実施形態において、フィルタ448および148の振幅応答は実質的に異なるが、RMSレベル検出器450の出力信号がその入力信号の位相と実質的に不感応(insensitive)であるので、これらの位相差は無視される。1つの好ましい実施形態において、広帯域通過フィルタ448は式(4)に示された数式により示される伝達関数H(z)を有する2次のIIRフィルタとして実施される。
【0059】
RMSレベル検出器450は、理想的なエンコーダ100(図1に示された)において使用される検出器150の性能に相当するように設計される。検出器450は、信号平方装置452、信号平均化装置454、および平方根装置456を含んでいる。平方装置452は帯域通過フィルタ448により発生された信号を平方し、この平方された信号をライン452aを経て平均化装置454に加える。装置454はライン452a上の信号の時間重み付けされた平均を計算し、この平均をライン454aを経て平方根装置456に加える。平方根装置456はライン454a上の信号の平方根を計算し、また広帯域デジタル帯域通過フィルタ448により発生された出力信号のRMS値を表すライン450a上の信号を発生する。
【0060】
平均化装置454は、デジタル信号乗算器460、デジタル信号加算器462、デジタル信号乗算器464、および遅延レジスタ465を含んでいる。平方装置452により発生された出力信号はライン452aを経て、ライン452a上の信号を定数αでスケーリングすることで出力信号を発生する乗算器460の1つの入力に加えられる。乗算器460により発生されたスケーリングされた出力信号は加算器462の1つの入力に加えられ、また遅延レジスタ465により発生された出力信号は加算器462の他の入力に加えられる。加算器462はその2つの入力に表れる信号を加算することにより出力信号を発生し、また加算された信号は平均化装置454の出力信号であり、これはライン454aを経て平方根装置456に加えられる。この加算された信号はまた、定数(1−α)により加算された信号をスケーリングすることにより出力信号を発生する乗算器464の1つの入力に加えられる。乗算器464により発生された出力信号は遅延レジスタ465の1つの入力に加えられる。当業者には、平均化装置454が、巡回型フィルタであり、また以下の式(5)により示される回帰的数式により示されるデジタル平均化機能を実施するものであることは自明である。
【0061】
【数5】
上式において、y(n)はライン454上の平均化装置454により出力される信号の現在のデジタルサンプルを表し、y(n−1)はライン454上の平均化装置454により出力される信号の先のデジタルサンプルを表し、またx(n)はライン452a上の平方装置452により出力される信号の現在のデジタルサンプルを表す。当業者には、平均化装置454がBTSC規格により規定されるアナログ平均化機能のデジタル的な近似値を提供し、また理想的なエンコーダ100のRMSレベル検出器150(図1に示された)により実施されることが理解される。定数αは好ましくは、RMSレベル検出器450の時定数がRMSレベル検出器150に対するBTSC規格で特定された対応する時定数にほぼ近似するように選択されることは自明である。
【0062】
デジタル平方根装置456およびデジタル逆数発生器458は図5では2つの別々の構成要素として示したが、その入力信号の平方根の逆数を表す出力信号を発生する単一の装置を使用して実施できることは、当業者には自明である。このような装置は例えば、メモリルックアップテーブル(LUT)として実施され、あるいは逆平方根機能のテイラー級数多項式の近似を計算する処理要素を使用して実施できる。
【0063】
図6は、スペクトル圧縮ユニット290の好ましい実施形態のブロック図である。ユニット290は可変プリエンファシス/デエンファシスユニット(以下、「可変エンファシスユニット」と称する)536、信号乗算器540、スペクトル帯域通過フィルタ542、およびRMSレベル検出器544を含んでおり、またこれらの構成要素は、部分的に、理想的なエンコーダ100(図1に示された)の可変エンファシスフィルタ136、増幅器140、帯域通過フィルタ142、およびRMSレベル検出器144にそれぞれ類似する処理を提供する。符号化された差信号はフィードバックライン240を経て、符号化された差信号を利得Cの固定利得設定値で乗算することで出力信号を発生する信号乗算器540の入力に加えられる。信号乗算器540により発生された増幅された出力信号は、RMSレベル検出器544に加えられる出力信号を発生するスペクトル帯域通過フィルタ542に加えられる。検出器544はライン544aを経て可変エンファシスユニット536の制御端子に加えられる出力信号を発生し、また広帯域圧縮ユニット280により発生された出力信号はライン281を経てユニット536の入力端子に加えられる。ユニット536は、ライン544a上の信号の関数にしたがってライン281上の信号に加えられる周波数応答を動的に変化させ、ライン544a上の信号はスペクトル帯域通過フィルタ542により通過された周波数帯域内の符号化された差信号の信号エネルギーの関数である。ユニット536により発生され固定プリエンファシスフィルタ232bの入力に加えられる、ユニット290の出力信号は、よって、問題のスペクトルの残りの内のものよりも、信号の高周波部分においてより大きな量で動的に圧縮を行う。
【0064】
スペクトル帯域通過フィルタ542は、理想的なエンコーダ100の帯域通過フィルタ(図1に示された)の振幅応答にほぼ合致する振幅応答を有するように設計される。フィルタ448(図5に示された)のように、1つの好ましい選択は、そのRMS振幅応答とフィルタ142の振幅応答との間の差が最小となるようにフィルタ542を選択することである。1つの実施形態において、フィルタ542および142の位相応答は実質的に異なるが、RMSレベル検出器544のRMS出力が検出器への入力の位相に実質的に不感応であるので、これらの位相差は無視される。1つの好ましい実施形態において、スペクトル帯域通過フィルタ542は、それぞれが式(4)に示された数式により記述された伝達関数H(z)を有する3つの2次のIIRフィルタセクション542a、542b、542c(図6に示された)のカスケード接続として実施される。
【0065】
RMSレベル検出器544は、理想的なエンコーダ100(図1に示された)において使用された検出器144の性能に相当するように設計される。検出器544は信号平方装置552、信号平均化装置554、および平方根装置556を含んでいる。平方装置552はスペクトル帯域通過フィルタ542により発生された信号を平方し、またこの平方された信号をライン552aを経て平均化装置554に加える。装置554は、広帯域圧縮ユニット280において使用されている平均化装置454(図5に示されている)と同様に機能するが、装置554は好ましくは定数αとは異なる定数βを使用する。平均化装置554の挙動は当然のことながら、βをαと置き換えて、式(5)により記述される。定数βは好ましくは、RMSレベル検出器544の時定数がRMSレベル検出器144(図1に示されている)に対するBTSC規格により特定される対応する時定数にほぼ近似するように、装置554に対して選択される。平均化装置554はライン552a上の信号の時間重み付けされた平均を計算し、この平均をライン554aを経て平方根装置556に加える。平方根装置556はライン554a上の信号の平方根を計算し、スペクトル帯域通過フィルタ542により発生された出力信号のRMS値の関数としてライン544a上に信号を発生する。
【0066】
ライン544a上の信号は可変エンファシスユニット536の制御端子に加えられる。可変エンファシスユニット536は理想的なエンコーダ100のフィルタ136(図1に示されている)と部分的に類似した処理を実行する。BTSC規格により規定されているように、フィルタ136はRMSレベル検出器144により発生された出力信号の関数として変化する振幅および位相応答を有する。類似した可変応答を有するようにユニット536を実施する1つの好ましい方法は、その伝達関数を決定する可変の係数を有するデジタルフィルタを使用し、また係数の値をいずれかの所定のサンプル期間、あるいはサンプル期間のグループの間にライン544a上の信号の値に基づいて決定することである。
【0067】
図6には、対数発生器558、可変エンファシスフィルタ560、およびルックアップテーブルLUT562を含む、可変エンファシスユニット536の1つの実施形態を示されている。RMSレベル検出器544により発生された出力信号はライン544aを経て対数発生器558に加えられる。発生器558は、ライン544a上の信号の対数を表す信号をライン558a上に発生し、またこの信号をLUT562に加える。LUT562は、LUTから選択されまた可変エンファシスフィルタ560により使用されるフィルタ係数を表すた出力信号を発生する。このようにしてLUT562により発生された係数はライン562aを経て可変エンファシスフィルタ560の係数選択端子に加えられる。広帯域圧縮ユニット280により発生された出力信号はライン281を経て可変エンファシスフィルタ560の入力端子に加えられる。可変エンファシスフィルタ560は、固定プリエンファシスフィルタ232bの入力に加えられるスペクトル圧縮ユニット290の出力信号を発生する。
【0068】
可変エンファシスフィルタ560は理想的なエンコーダ100のフィルタ(図1に示されている)の可変振幅応答にほぼ合致する可変振幅応答を有するように設計される。可変エンファシスフィルタ560は、可変係数伝達関数(つまり、フィルタ560の伝達関数H(z)の係数は可変である)を使用することにより、またLUT562がサンプル期間に基づく間隔の間に係数の値を選択するようにすることで、同様な可変応答を提供する。以下に詳細に説明するように、LUT562はフィルタ560により使用されたフィルタ係数の値を記憶し、また各サンプル期間の間、あるいはサンプル期間の選択されたグループの間において、LUT562はライン558a上の対数発生器558により発生された出力信号の関数としてフィルタ係数のセットを選択する。好ましい実施形態において、可変エンファシスフィルタ560は、以下の式(6)により示される数式により記述された伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。
【0069】
【数6】
上式において、係数b0 、b1 、およびa1 はLUT562により選択される可変値である。フィルタ560およびエンコーダ200の他のフィルタにより使用されるフィルタ係数に対する値を選択する方法は以下に説明する。
【0070】
図6において、対数発生器558および平方根装置556が、便宜上、2つの別々の構成要素として図示されている。しかしながら、当業者には、LUTのような、単一の装置を使用して、あるいはライン554a上の信号の対数のテイラー級数多項式の近似を計算する処理要素を使用し次いでこの値を2で割ることでこれら2つの構成要素が実施できることは、自明である。同様に、他の実施形態として、対数発生器558、平方根装置556、およびLUT562により行われる機能を単一の装置内に組み込むこともできる。
【0071】
上記したように、ハイパスフィルタ212、214(図3に示されている)はDC成分を阻止してエンコーダ200が「チッキング」として知られている挙動を表すのを防止するために有用である。ステレオエンコーダの場合には、チッキングは、左および右チャンネルの音声入力に信号が存在しないときに生じる比較的低周波発振の挙動を意味する。音声入力に信号が存在しないときの所望のステレオシステムの挙動は無音であるが、エンコーダはデコーダを経てスピーカに接続されており、またチッキングによりスピーカが「チック」と称され、広帯域圧縮器内のRMSレベル検出器の時定数に部分的に依存するある程度周期的な、可聴音を放出するようになる。より詳しくは、エンコーダ200において、音声入力に非常に低いレベルの信号が存在するとき、およびD.C.成分があるとき、あるいはライン239上の信号内にオフセットが存在するときに、広帯域圧縮ユニット280はチッキングを生じる不安定な態様で挙動するようになる。
【0072】
ライン239上に低レベルの音声信号だけが存在する場合を考察する。このような場合、ライン450a上のRMSレベル検出器450の出力は非常に小さくなり、このため、乗算器434の利得が非常に大きくなる。ライン239上のこのような低レベルの音声信号がその振幅が一定である場合、符号化された差信号がライン240上で広帯域圧縮ユニット280にフィードバックされることから、広帯域圧縮ユニット280はいつか(乗算器460に加えられる定数αにより決定される)安定状態の条件に達する。フィードバックが負に設定されているので、ライン239上の音声信号がその振幅を増大した場合、ライン450a上の信号が増大し、このため、乗算器434の利得が減少するようになる。ライン239上の音声信号がその振幅を減少した場合、ライン450a上の信号が減少し、このため乗算器434の利得が増大する。
【0073】
しかしながら、低レベルの音声信号に加えて、ライン239上には大きなdc信号が存在し、このdc信号は、dc信号への応答がゼロである広帯域通過フィルタ448の動作によりフィードバックプロセスが阻止される。特に、ライン240上における符号化された差信号内に存在するいずれかのdcはフィルタ448により阻止され、またRMSレベル検出器450により感知されない。ライン29上に存在するいずれかのdc信号はライン239上のいずれかの音声信号とともに乗算器434により増幅されるが、増幅ファクターないし利得はフィルタ448によるフィルタ処理後のRMSレベル検出器450により感知された音声信号の振幅によりのみ決定される。
【0074】
上記したように、ライン239上の音声信号の振幅が変化したときはいつでも、乗算器434の利得が逆に変化する。利得のこのような変化の間は、ライン239上に存在するいずれかのdcは同様に可変の増幅を受け、実際にはdc信号が変調され、これによりac信号が生成される。このように、dc信号が変調されて、フィルタ448により阻止することがでいない大きな音声帯域信号が生成され、またこれは検出器450により感知される。ライオン239上の音声信号がライン239上のdcに比べて小さいときには、増幅器434の利得に変化を引き起こす、音声信号レベルにおける小さい変化が、この変調プロセスによりライン281上でdcレベルに大きな変動(ac信号になる)を引き起こす。生成されたこのac信号は、ac信号を上げる音声信号変化が信号レベルの増大あるいは減少であるかに拘らず、フィルタ448を通過する全体の信号を増大させる。特に、ライン239上の音声信号のレベルが増大した場合、負のフィードバックプロセスが乗算器434の利得を増大させる。しかしながら、ライン239上に十分なdc信号が存在する場合、ライン239上の音声信号の減少は検出器450により感知される信号における増大を引き起こし、乗算器434の利得を減少させる。この場合、負のフィードバックプロセスが逆になり、フィードバックは正になる。
【0075】
このような正のフィードバックは、ライン281とフィルタ448の出力との間の全てのフィルタおよび信号変調器の応答により重み付けされるときに、ライン281上に存在するいずれかの音声信号に比べて著しく大きい限り存続する。ライン281上の変調されたdc信号が検出器450に大きな入力を提供しない程度に乗算器434の利得が十分に減少すると、フィードバックはその通常の負の感度に戻る。検出器450の時定数にしたがって、システムはライン239上の音声信号のレベルに基づいて適切な利得レベルを獲得する。しかし、ライン239内の信号に十分なdcが残っている場合には、乗算器434の利得が十分に増大するとサイクルはそれ自体で繰り返される。正のフィードバックのこのような期間の間、ライン281のdcレベルにおける鋭い変化が作られる。この変化は可聴であり、また時計の「チック」と幾分類似した音がする。このようなdc変化は、検出器450の時定数に基づいて、幾分規則的に起こるので、この減少はしばしば「チッキング」と称される。
【0076】
チッキングを防止する1つの方法は、エンコーダ200への入力信号中に存在するdc成分を取り除くことである。これは、ハイパスフィルタ212および214により行われる。さらに、ハイパスフィルタ212および214は、有用なダイナミックレンジを使用するdc成分を取り除くことによりエンコーダ200のダイナミックレンジを最大限にする。上記するとともに図3に示したように、ローパスフィルタ238は好ましくは2つのフィルタ238aおよび238bとして実施される。フィルタ238をこのように分割することでいくつかの利点がある。フィルタ238aが取り除かれ、また全体のフィルタ238がクリッパ254の後(つまり、フィルタ238bの位置)に位置する場合、音声入力信号上の15kHz上の成分は上記したチッキング挙動に類似した広帯域圧縮ユニット280内での不安定性の原因となる。これは、ライン239上の15kHz以上のいずれかの信号成分は乗算器434(図5に示した)により増幅され、またこの成分がクリッパ254(図3に示した)の後のローパスフィルタによりフィルタ処理つまり濾波することにより生じる。検出器450は、それが信号の存在を検出したときには、乗算器434の利得を増大するので、乗算器434の利得はライン239上の信号が音声信号(15kHzより下の)情報を殆ど含まず高周波(15kHzより大きい)を著しく含むときには比較的大きくなる。乗算器434は次いで高周波情報を増幅し、これにより処理セクション230内の構成要素によりクリップされるようになる大きな信号を発生する。このクリッピングにより、先に説明したようにシステムがチックする原因となる、低周波の偽信号である高調波を発生する。あるいは、フィルタ238bが取り除かれた場合には、全体のフィルタ238が固定プリエンファシスフィルタ232aの前(つまり、フィルタ238aの位置)に位置され、その場合には、クリッパ254により発生された高周波アーチファクトが符号化された差信号内に含まれ、また複合信号内のパイロット信号と干渉してしまう。このため、図示した分割フィルタ238により最適な構成を提供でき、フィルタ238aは圧縮ユニット280内のチッキングを防止し、またフィルタ238bはクリッパ154により発生される高周波アーチファクトをフィルタ処理する。
【0077】
固定エンファシスフィルタ232は同様に、好ましくは図3に示したように2つのフィルタ232a、232bに分割される。フィルタ232は一般的には、BTSC規格において特定されるように、高周波で比較的大きな利得を必要とし、またフィルタ232を構成するために単一のセクションだけを使用することはフィルタ232がクリッピングを生じる尤度を増大させる。広帯域圧縮ユニット280(フィルタ232aを備えた)の入力側のフィルタ232の利得のいくつかを適用し、また広帯域圧縮ユニット280(フィルタ232bを備えた)の出力側でフィルタの利得のいくつかを適用することは好適である。ユニット280は通常はその入力信号を圧縮するので、ユニット280により提供される圧縮の周辺でフィルタ232の利得を乱すことは、フィルタ232の利得がオーバフロー状態となる尤度が低減する。
【0078】
大きさ、電力消費、およびコストを最小限とするため、エンコーダ200は好ましくは単一のデジタル信号処理チップを使用して実施される。エンコーダ200は公知のMotorola DSP 56002デジタル信号処理チップを使用して首尾よく実施される(この実施を以下に「DSP実施形態」と称する)。Motorola DSP 56002は固定小数点の24ビットチップであるが、浮動少数点チップ、あるいは他のワード長を有する固定少数点チップのような他のタイプの処理チップも当然使用することができる。エンコーダのDSP実施形態は、パイロット周波数fHの3倍に等しいサンプリング周波数fs(つまり、fs=47202Hz)を使用している。以下の表1に、可変エンファシスフィルタ560において使用されるものを除いた、エンコーダ200のDSP実施形態において使用される全てのフィルタ係数を表にした。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2−1】
【0081】
【表2−2】
【0082】
エンコーダ200のDSP実施形態において、広帯域圧縮ユニット280内の平均化装置454(図5に示される)により使用される定数αの値は0.0006093973517に設定され、また定数βの値はスペクトル圧縮ユニット290内の平均化装置554(図6に示された)により使用され、また0.001825967に設定される。さらに、スペクトルおよび広帯域圧縮ユニット内の増幅器540および446により使用される利得Cおよび利得Dの値は、エンコーダ200のDSP実施形態をエンコーダ100と類似して機能させるため、それぞれ0.5011872および0.08984625に等しく設定される。
【0083】
図7はエンコーダ200のDSP実施形態内の可変エンファシスフィルタ560(図6に示されている)により使用されている全てのフィルタの係数のセットを予め計算するための1つの好ましい方法を示したフローチャートである。エンコーダ200の動作の前に、フィルタ560により使用される全てのフィルタの係数のセットが予め計算され(つまり、汎用デジタルコンピュータにより)、またLUT562内にロードされる。エンコーダ200のDSP実施形態において、フィルタ560は式(6)により記述された伝達関数H(z)を有し、よってフローチャートは係数b0 、b1 、a1 の計算を説明している。BTSC規格により特定されているように、フィルタ560が部分的に対応するアナログフィルタ136(図1に示された)の伝達関数S(f,b)は、以下の式(7)により示される式により記述され、下式においてFは20.1kHzに等しい。
【0084】
【数7】
【0085】
フローチャート700における第1のステップは、初期化ステップ710であり、この間にいくつかの変数が初期化される。特に、サンプリング周波数fs が47202Hzに等しくセットされ、また周期Tが1/fs に等しくセットされる。変数Wは式(7)における変数Fのデジタル版であり、またπ(20.1kHz)/fs に等しくセットされる。変数dBRANGEはスペクトル圧縮ユニット内のRMS検出器の所望の信号範囲を表し、またDSP実施形態のdBRANGEは72.25dBに等しくセットされる。変数dBRESは符号化された差信号のエネルギーレベル内の変化に対するフィルタ560の感度に関連している。エンコーダ200のDSP実施形態においては、dBRESは0.094dBに等しくセットされ、、フィルタ560は0.094bBに最も近く量子化されたライン558a上の信号の値に基づいて係数を使用する。変数Nはフィルタ560内で使用されたフィルタ係数のセットの全部の数に等しく、またNは範囲(dBRANGE)で感度(bBRES)を割り、また最も近い整数に丸めることにより計算される。DSP実施形態において、Nは768に等しいが、当業者はこの数は感度あるいは範囲の変化により変えられることは自明である。DSP実施形態において、LUT562はフィルタ560に対して796の係数のセットを記憶し、また当然であるがNが増大した場合、フィルタの係数の余剰のセットを記憶するためにより大きなLUTが使用される。さらに、対数発生器558はライン558a上の信号をスケールつまり位取りし、またこれによりLUT562により、ライン558a上の信号の値の所定の最小の量子化のために、記憶されるフィルタ係数のセットの数を減じることは当業者には自明である。しかしながら、他の実施形態において、対数発生器558は削除され、またLUT562がフィルタの係数のセットの対応する大きな数を記憶する。最後に、変数ScaleおよびAddressがそれぞれ32およびゼロに等しくセットされる。固定小数点の実施においてのみ使用される、変数Scaleは、全てのフィルタの係数が負の1以上でありまた1より小さい値を有するように選択される(フィルタの係数が2つの補数で表される場合)。
【0086】
初期化ステップ710に続いて、係数発生ステップ720が実行される。ステップ720の最初の実行の間、LUT562のアドレス位置ゼロに記憶される係数b0 、b1 、およびa1 の値に対応する変数b0(0)、b1(0)、およびa1(0) が計算される。このステップ720の実行に続いて、増分ステップ730が実施され、この間に変数Addressの値が増分される。ステップ730に続いて、比較ステップが実行され、この間に変数AddressおよびNが比較される。AddressがN以下の場合には、ステップ720、730、および740が繰り返し再実行され、LUT562の796のアドレスのそれぞれに対してb0 、b1 、およびa1 が計算される。ステップ740においてアドレスの値がNより大きいことが検出された場合、係数のすべての769のセットが計算され、またフローチャート700の実行が終結ステップ750まで進む。
【0087】
係数発生ステップ720において、変数dBFSは対数発生器558の出力に対応する。変数Addressの値がゼロから769までの範囲であるので、dBFSの値は、エンコーダ200のDSP実施形態により提供される約72.25dBの信号範囲に対応して約−72.25からゼロdBまでの範囲である(ゼロdBは全変調に対応する)。変数RMSdはアナログRMSレベル検出器144(図1に示されている)の出力に対応し、また変数Addressがゼロから769までの範囲であるので、RMSdの値は、一般的な従来技術のアナログBTSCエンコーダにより提供される72dBの信号範囲に対応する約−36から36dBの範囲である。変数RMSbは変数RMSdの線形バージョンであり、またRMSbは式(7)に記述された伝達関数S(f,b)内の変数bに対応する。変数K1およびK2は、式(7)内の(b+51)/(b+1)および(51b+1)/(b+1)の項にそれぞれ対応する。係数b0 、b1 、およびa1 は、変数K1、K2、W、およびScaleを使用してステップ720に示されたように計算される。
【0088】
図8Aは、アナログシステム内のDSP実施形態を使用する1つの方法を例示したブロック図であり、また図8Aにおいて、56002集積回路内で実施された全ての構成要素は200aで示されている。アナログシステムはアナログ左および右チャンネル音声入力信号(図8Aにおいて「L」および「R」でそれぞれ示されている)を供給し、またこれらの信号は16ビットアナログ−デジタル変換器810および812の入力にそれぞれ加えられる。変換器810、812は47,202Hz(つまり、3fH )に等しいサンプリング周波数fs を使用してそれらのアナログ入力信号をサンプリングし、これにより、左および右チャンネル音声入力信号の表す16ビットのデジタルサンプルのシーケンスをそれぞれ発生する。変換器810および812により発生された信号はエンコーダ200aに加えられ、ここでこれらの信号はモジュール292、294によりそれぞれ受信される。モジュール292、294は「16により割り算する」モジュールであり(それらの入力の振幅を16のファクターにより割る)、またこれにより16により割り算したそれらの入力信号に等しい出力信号を発生する。2の累乗による割り算はデジタルシステムにおいてはシフトレジスタを使用して容易に実施できるので、モジュール292、294はそれらの入力を4つの2進位置によりシフトするシフトレジスタとして実施される。
【0089】
上記したように、56002チップは固定小数点の24ビットプロセッサであり、また変換器810、812によりチップに加えられるサンプルは2の補数を表している。モジュール292、294は変換器810、812により発生されたサンプルを16により割り算し、またこれによりサンプルのそれぞれを24ビットワードの中間に位置させる。よって、モジュール292、294により発生された各サンプルにおいて、4つの最上位ビットは符号ビットであり、また4つの最下位ビットはゼロであり、またワードの中間の16のビットは変換器810、812の1つにより発生された1つのサンプルに対応する。このように各24ビットワードに高位の端に符号ビットをまた低位の端にゼロを付けることで、精度が確保され、またエンコーダ200aにより発生された中間の信号がオーバフローのような誤り条件を起こすことなしに16ビットを越えることができる。
【0090】
エンコーダ200aにおいて、各24ビットワードは信号範囲の6bBに略対応し、またこのため、モジュール292、294は−24dB(つまり、負の6X4)の減衰に対応する。変換器810、812に加えられるアナログ入力信号がゼロdB信号としての基準の目的のためであると考えると、モジュール292、294により発生された信号は24dBだけ減衰される。
【0091】
入力セクション210は、モジュール292、294により発生された24ビットワードを受信し、またこれから、和チャンネル処理セクション220に加えられる和信号を発生する。和チャンネル処理セクション220により発生された出力信号は「16倍モジュール」296(24dBの増幅器と見なされる)に加えられる。モジュール296は、これにより、24dBの減衰器292、294を補償し、また和チャンネル処理セクション220の出力を100%変調にする(つまり、「フルスケール」に戻す)。モジュール296により発生された出力信号は、アナログ条件付けされた和信号を発生する16ビットのデジタル−アナログ変換器814に加えられる。
【0092】
入力セクション210は同様に、差チャンネル処理セクション230に加えられる差信号を発生する。上記したように、モジュール292、294により、差信号は24dB減衰されたものと見なされる。エンコーダ200aのDSP実施形態において、差チャンネル処理セクション230のクリッパ254(図3に示されている)は18dBの増幅器(これは8の掛け算により実施される)を含んでいる。つまり、クリッパ254は固定エンファシスフィルタ232bにより発生された信号を18dBだけ増幅し、また次いで、クリッパ254により発生された出力信号が全変調から6dB下の数を越えることないように、この増幅された信号をクリップする。クリッパ254からローパスフィルタ238bに加えられる信号は、このため、1ビット(つまり6dB)の「空き空間」(headroom)があり、よってフィルタ238bは飽和することなしにその入力信号より6dB大きな出力信号を発生する。フィルタ238bの過渡応答が瞬間入力信号よりも大きな瞬間出力信号を一時的に発生する原因となるリンギングを含んでおり、空き空間によりフィルタ238b内のリンギングにより飽和状態となることが防止されることから、この1ビットの空き空間を残すことが好ましい。図8Aを再度参照して、フィルタ238bにより発生された出力信号は、6dBのアナログ増幅機820に加えられる出力信号を発生する、16ビットのデジタル−アナログ変換器に加えられる。D/A変換器814および816はいずれも完全な変換器であり、その機能の一部として公知のアナログアンチイメージフィルタ(analog anti image filter)を含んでいる。アンチイメージフィルタは、デジタルからアナログへの変換に続いてアナログ信号に加えられるアナログフィルタであり、サンプル周波数およびその倍数の周囲でミラーされた所望の信号の何等かのイメージを減衰するために機能する。変換器814および816は互いに実質的に同じであり、お同じサンプル速度で動作し、また実質的に同じアンチイメージフィルタを含んでいると仮定される。このような変換器は一般的には、Crystal Semicoductor CS4328のような、市販の実施形態で入手可能である。増幅器820はその入力を6dBだけ増幅して、その符号化された差信号をフルスケールに戻す。図8Aは、アナログ音声信号を受信するためにアナログ−デジタル変換器810、812に接続されたエンコーダ200aを示したが、デジタルシステムにおいては変換器810、812は当然であるが削除され、エンコーダ200aはデジタル音声信号を直接的に受信する。
【0093】
図8Bには本発明にしたがって構成されるとともにアナログシステムの一部として構成されたBTSCエンコーダ200bの1つの好ましい実施形態のブロック図を示した。エンコーダ200bはエンコーダ200aと類似しているが、エンコーダ200bにおいてはモジュール296はその入力を、エンコーダ200aのように24dBではなしに、18dB(8を乗算することにより)だけ増幅している。モジュール296により発生された出力信号は、条件付けされた和信号のスケーリングされたものであり、図8BにSとして示した。同様に、エンコーダ200bは差チャンネル処理セクション230により発生された出力信号を6dBだけ(2を乗算することにより)増幅するためのモジュール298を含んでいる。モジュール298により発生された出力信号は符号化された差信号のスケーリングされたものであり、また図8BにDとして示されている。さらに、エンコーダ200bは信号SおよびDを受信するとともにこれから複合信号のデジタルバージョンを発生するための複合変調器822を含んでいる。変調器822により発生されたデジタル複合信号は、その出力が複合信号のアナログバージョンであるデジタル−アナログ変換器818に加えられる。D/A変換器818は、その機能の一部として上記したアナログアンチイメージフィルタを含む完全な変換器を意図している。このような変換器は、Burr Brown PCM1710 のような、市販の実施形態で一般的に利用可能である。好ましい実施形態において、モジュール292、294、入力セクション210、和チャンネル処理セクション220、差チャンネル処理セクション230、モジュール296、298、および複合変調器822は全て単一のデジタル信号処理チップ上で実施される。
【0094】
複合信号は一般的にエンコーダ200b内のデジタル信号として発生されるので、モジュール298は、デジタル−アナログ変換後まで待つのではなくて差チャンネル処理セクション230により発生された出力信号をフルスケールにするために含まれ、また図8Aに示されたように増幅器820のようなアナログ増幅器を使用している。同様に、複合信号においては条件付けされた和信号は50%変調で使用されるので、モジュール296はその入力信号を18dBだけ増幅し、モジュール296により発生された出力信号はモジュール298により発生された出力信号の振幅の半分である。
【0095】
図9は複合変調器822の1つの実施形態のブロック図である。変調器822は2つの補間回路910、912、2つのデジタルローパスフィルタ914、916、デジタル信号乗算器918、および2つのデジタル信号加算器920、922を含んでいる。S信号およびD信号は補間回路910および912のそれぞれの入力に加えられる。補間回路910、912は、「アップサンプラー」とも称され、それらの入力に加えられた各2つの連続したサンプルの間で新しいサンプルを補間し、これにより、入力信号Sおよび入力信号Dのサンプリング周波数の2倍の出力信号を発生する。補間回路910および912により発生された出力信号はローパスフィルタ914および916の各入力に加えられる。フィルタ914および916は補間回路910、912により信号Sおよび信号Dに導入されたイメージを取り除く。フィルタ916により発生されたフィルタ処理された出力信号は信号乗算器918の入力に加えられ、またcos[4π(fH/(fs)n]の関数としてのデジタル発振信号が乗算器918の他の入力に加えられる。乗算器918はこれにより、複合信号内で使用される、振幅変調され、両側波帯の、抑止されたキャリアバージョンの差信号を発生する。乗算器918により発生された出力信号は信号加算器920の1つの入力に加えられ、またフィルタ914により発生されフィルタ処理された出力信号は信号加算器920の他の入力に加えられる。信号加算器920は、その入力に存在する2つの信号を加算することで出力信号を発生し、またこの信号を信号加算器922に加える。Acos[4π fH/fs n ]の関数(「A」はフルスケール変調の10%を表す定数)として発振するトーン信号は、その入力に存在する2つの信号を加算することによりデジタル複合信号を発生する信号加算器922の他の入力に加えられる。
【0096】
複合変調器822は、複合信号内の最も高い周波数成分が3fH よりもやや小さく(図2に示されているように)、このため、信号変調器918および信号加算器920の入力に加えられる信号がナイキスト基準を満足するために少なくとも6fH のサンプル速度を持たなければならないので、周波補間回路910、912を含んでいる。複合変調器822の出力におけるサンプル速度が一般的にはS信号あるいはD信号のいずれかのサンプル速度より大きいので、D/A変換器818はこのようなより大きなサンプル速度で動作できなければならない。複合変調器822に加えられる入力信号SおよびDが3fH のサンプル速度を有する場合には、サンプル速度を2倍にするために何等かの形の補間(補間回路910、912により提供されるような)を行わなければならない。当然であるが、エンコーダ200bを通じて十分に大きなサンプル速度が使用される場合には、補間回路910、912およびローパスフィルタ914、916は変調器822から取り除かれる。
【0097】
図8Cは本発明によるBTSCエンコーダ200cの他の実施形態のブロック図である。エンコーダ200cはエンコーダ200b(図8Bに示されている)と類似しているが、エンコーダ200cにおいてはモジュール298が削除されて差チャンネル処理セクションにより発生された信号は信号Dであり、信号Dは複合変調器822に直接的に加えられる。さらに、エンコーダ200cにおいて、モジュール296はその入力信号を、エンコーダ200bにおいて行われた18dBではなくて、12dBだけ増幅する(4を乗算することにより)。よって、エンコーダ200cにおいては、信号SおよびDはエンコーダ200b内のこれらの信号のレベルから6dBだけ下がっている。複合変調器822はこれらの信号から6dBだけ減衰された複合信号のバージョンを発生する。複合信号のこの減衰されたバージョンはデジタル−アナログ変換器818によりアナログ信号に変換され、また次いで6dBアナログフィルタ820によりフルスケールに上げられる。エンコーダ200bのように、エンコーダ200cは好ましくは単一の信号処理チップを使用して実施される。
【0098】
エンコーダ200bと200cとの間の差はデザインの交換を表している。当業者には、デジタル−アナログ変換器でデジタル信号をアナログ信号に変換するときに、変換の結果生じる信号対ノイズ比の損失を最小限にするために、デジタル信号がフルスケールであることを確保することは自明である。エンコーダ200bは、モジュール296、298を使用して変換器818に加えられる複合信号(変調器822により発生された)のデジタルバージョンを確保することで変換器818の動作の結果としての信号対ノイズ比の損失を最小にしている。しかしながら、変換器200bは変換記818の結果として生じる信号対ノイズ比の損失を最小にするが、エンコーダ200bは同様に複合信号内で生じるクリッピングの尤度を増大している。差チャンネル処理セクション230は固定プリエンファシスフィルタ232(図3に示された)により提供される比較的大きな利得を使用しているので、符号化された差信号の経路内にくつかのクリッピングが生じる可能性がある。エンコーダ200bはD信号をフルスケールまで上げるためのモジュール298を使用しており、またこれによりD信号の信号経路から空き空間が実質的に取り除かれ、このためにいくつかのクリッピングが生じることがある。よって、エンコーダ200bは、符号化された差信号内のクリッピングの尤度を増大することを犠牲として変換器818の結果としての何等かの信号対ノイズ比の損失を最小にしている。対照的に、エンコーダ200cは符号化された差信号の経路内の空き空間を保存し、これにより、変換器818の動作の結果として生じる信号対ノイズ比の損失の増大を犠牲としてクリッピングの尤度を減じている。
【0099】
図8Dは、本発明にしたがって構成されたBTSCエンコーダ200dのさらに別の実施形態のブロック図である。エンコーダ200dはエンコーダ200a(図8Aに示された)と類似しているが、エンコーダ200dはさらに複合変調器の部分822aを含んでいる。部分822aは2つの補間回路910、912、2つのローパスフィルタ914、916、デジタル信号乗算器918およびデジタル信号加算器930を含んでいる。モジュール296により発生されたS信号は、S信号を「アップサンプル」するとともにアップサンプルされた信号をローパスフィルタに加える、補間回路910に加えられる。フィルタ914はこの信号をフィルタ処理し、またフィルタ処理された信号を加算器930の入力端子の1つの加える。通常の振幅の2倍のもの(つまり、2Acos2π fH/fs n)は、その入力端子に存在する2つの信号を加算することにより出力信号を発生する、加算器930の他の入力端子に加えられる。差チャンネル処理セクション230により発生されたD信号は、ローパスフィルタ916に加えられるアップサンプルされた信号を発生する補間回路912に加えられる。フィルタ916はこの信号をフィルタ処理し、またフィルタ処理された信号を乗算器918の1つの端子に加える。cos4π fH/fs n にしたがって発振された信号は、その入力端子に存在する2つの信号を乗算することにより出力信号を発生する乗算器918の他の端子に加えられる。エンコーダ200a−cのように、エンコーダ200dは好ましくは単一のデジタル信号処理チップを使用して実施される。
【0100】
エンコーダ200dは好ましくは2つのデジタル−アナログ変換器932、934、アナログ−6dB減衰器936、アナログ6dB増幅器938、およびアナログ加算器940を組み合わせて使用される。加算器930により発生された出力信号は、減衰器936に加えられるアナログ信号を発生する変換器932に加えられる。乗算器918により発生された出力信号は、増幅器938に加えられるアナログ信号を発生する変換器934に加えられる。減衰器936および増幅器938により発生された信号は、これらの信号を加算してアナログ複合信号を発生する信号加算器940の入力端子に加えられる。D/A変換器932および934は、それらの機能の一部としてのアナログアンチイメージフィルタを含む完全な変換器であることを意図している。変換器932および934は互いに実質的に同じであり、同じサンプル速度で動作し、また実質的に同じアンチイメージフィルタ処理を含むものであると仮定される。このような変換器は、一般的には、Burr Brown PCM1710のような、市販の実施形態として入手可能である。
【0101】
図8Dから補間回路932およびローパスフィルタ914を除き、またD/A変換器932を和チャンネル処理セクション220と等しいサンプル速度で動作させることも可能である。しかしながら、これを行うためには安価でなく、一般的に入手可能なD/A変換器は通常の単一の集積回路内に対で収容されているので実用的ではない。このような対のD/A変換器は当然のことながら同じサンプル速度で動作する。補間回路910およびローパスフィルタ914を図8Dから取り除くことによりDSPの複雑さを減じることは可能であるが、単純なD/A変換器はD/A変換器932および934の両方に対して使用することができないので、これを行うことは、コストおよび全体のデザインの複雑さが増大してしまう。
【0102】
エンコーダ200dはエンコーダ200bおよび200cの特徴の1つの組み合わせを表す。エンコーダ200dは、変換器932の動作の結果として生じる信号対ノイズ比の損失を最小とするために、S信号をフルスケールまで上げるためにモジュール296を使用している。エンコーダ200dは同様にD信号の信号経路内の6dBの空き空間を保存しており、このため、クリッピングによる精度の損失の尤度が低減される。エンコーダ200dはエンコーダ200bおよび200cのいずれよりも多くの構成要素を含んでいるが、エンコーダ200dは両方共に信号対ノイズ比の損失およびクリッピングの尤度を最小にする。
【0103】
図10は、エンコーダ200(およびこれらのセクション220a、230aはもちろんエンコーダ200a−dにおいても使用される)において使用される、和チャンネル処理セクション220aおよび差チャンネル処理セクション230aの好ましい実施形態のブロック図である。処理セクション220a230aは上記の所望のセクション220、230と類似しているが、セクション220aはさらに動的位相等化フィルタ1010をさらに含んでおり、またセクション230aはさらに動的位相等化フィルタ1012をさらに含んでいる。例示した実施形態においては静的位相等化フィルタ228および固定エンファシスフィルタ232aにより発生された出力信号は動的位相等化フィルタ1010および1012入力端子にそれぞれ加えられ、また対数発し器558により発生されたライン558a上の信号はフィルタ1010、1012の制御端子に加えられる。フィルタ1010および1012により発生された出力信号はローパスフィルタ224および広帯域圧縮ユニット280にそれぞれ加えられる。
【0104】
動的位相等化フィルタ1010、1012は、スペクトル圧縮ユニット290において使用される可変エンファシスフィルタ560により導入される位相エラーを補償するために使用される。可変エンファシスフィルタ560の位相応答は、可変エンファシスフィルタ136(図1に示される)の位相応答とできるだけ合致することが好ましい。しかしながら、可変エンファシスフィルタ136の可変の、信号依存の特性により、信号レベルとともに変化する、全てのプリエンファシス/デエンファシス特性に対して可変エンファシスフィルタ560のものとその位相応答が合致するように可変エンファシスフィルタ560を設計することは極めて困難である。このため、エンコーダ200の典型的な実施形態においては、可変エンファシスフィルタ560および可変エンファシスフィルタ136の位相応答は信号レベルの関数として発散している。動的位相等化フィルタ1010、1012は好ましくは、可変エンファシスフィルタ560および可変エンファシスフィルタ136の間の発散を補償するために和および差チャンネル処理セクション内に補償的な位相エラーを導入する。
【0105】
動的位相等化フィルタ1010、1012はこのため、静的位相等化フィルタ228により行われるのと類似した機能を実行する。しかしながら、符号化された差信号のレベルとは無関係である位相エラーをフィルタ228が補償する一方、フィルタ1010、1012はこの信号レベルに依存した位相エラーを補償する。フィルタ1010、1012は、比較的平坦な振幅応答および選択された位相応答を有する「全てを通過する」フィルタとして好ましくは実施される。可変エンファシスフィルタ560により導入される位相エラーを補償するために和あるいは差チャンネルのいずれかで位相遅延が必要であることから、動的位相等化フィルタは和および差処理セクションの両方に含まれる。好ましい実施形態において、フィルタ1010、1012は可変エンファシスユニット536と同じ態様で実施され、また可変係数伝達関数およびいずれかの特定の間隔の間にフィルタ係数の値を選択するためのLUTを有するフィルタを含んでいる。ライン558a上で対数発生器558により発生された信号は、好ましくは、フィルタ1010、1012の制御端子に加えられ、またこれらのフィルタにより使用されるフィルタ係数を選択する。
【0106】
デジタルエンコーダ200を特定の実施形態に関して説明したが、本発明の範囲内でこれらの実施形態の変形が包含されることは当業者には自明である。例えば、可変エンファシスユニット536(図6に示された)を可変エンファシスフィルタ560およびLUT562を使用して実施することについて説明した。しかしながら、フィルタ560に対する全ての可能な係数を予め計算しこれらをLUT562内に記憶させる代わりに、他の実施形態においてはLUT562を省きその代わりにリアルタイムでフィルタ係数を計算するための構成要素を可変エンファシスユニット536内に含ませることもできる。このような考察はメモリ資源(フィルタ係数を記憶するためのLUTにより使用されるもののような)と計算資源(フィルタ係数をリアルタイムで計算するための構成要素により使用されるもののような)との間の交換を表し、またエンコーダ200の特定の実施における異なる解決手法を提供するものである。同様な考察は、メモリ資源(例えば、値を全て記憶するためのLUT)あるいは処理資源(例えば、テイラー吸数多項式近似を計算するためのもの)のいずれかを使用する、平方根装置456および556、逆数発生器458、および対数発生器558(図5および図6に示されている)に適用される。さらに別の実施形態において、エンコーダ200内部のいずれかあるいは全ての構成要素は、個々のハードウェア構成要素を使用して、あるいは汎用あるいは特定用途のコンピュータ上で実行されるソフトウェアとして実施される。
【0107】
本発明の内に包含されるエンコーダ200の他の変形の例は、スケーリングモジュール292、294(図8Bに示される)に関するものである。これらのモジュールはエンコーダ200の固定小数点の実施形態に特に関連している。浮動少数点実施形態においては、オーバフローを防止するために各サンプルをゼロおよび符号ビットでパッドする必要はなく、またこれらのモジュールはよって浮動少数点の実施形態では省かれる。さらに別の例として、静的位相等化フィルタ228(図10に示される)はフィルタ232aにより導入された位相エラーを補償する点について説明したが、フィルタ228は差チャンネル処理セクション230aにおける他の構成要素により導入される他の位相エラーを補償するために使用することもできる。さらに、フィルタ228および1010は単一のフィルタとして実施できる。
【0108】
本発明の範囲を逸脱することなしに特定の変更が上記の装置において可能であるので、上記で説明しまた添付図面に図示された全ての事項は例示的なものであり、限定的なものではない。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、テレビ放送のために使用されるステレオの音声エンコーダに関する。より詳しくは、本発明は、米国および他の国々においてステレオテレビ信号の放送に使用される音声信号を発生するためのデジタルエンコーダに関するものである。
[発明の背景]
1980年代において、米国連邦通信委員会(FCC)は、テレビのプログラムが複チャンネルの音声、例えば、ステレオつまり立体音響の音声で放送され受信され得るテレビ信号の音声部分をカバーする新しい規則を採用した。これらの規則において、FCCはElectronic Industries AssociationおよびNational Association of Broadcastersにより推奨された、Broadcast Television Systems Committee(BTSC)システムと称される別の音声チャンネルを放送する方法に対して認定および特別な保護を与えた。この公知の規格はしばしばMultichannel Television Sound(MTS)と称され、またMULTICHANNEL TELEVISION SOUND TRANSMISSION AND AUDIO PROCESSING REQUIREMENTS FOR THE BTSC SYSTEM(OET Bulletin No.60,Revision A,1986年2月)と題されたFCCの文書、並びにMULTICHANNEL TELEVISION SOUND BTSC SYSTEM RECOMMENDED PRACTICES(EIA Television System Bulletin No.5,1985年7月)に説明されている。BTSCにしたがって発生されたテレビ信号は「BTSC信号」と以下に称する。
【0002】
元来、モノラルのテレビ信号は音声の単一チャンネルだけを伝送する。モノラルのテレビ信号の構造および既存のテレビセットとの互換性を維持するために、ステレオ情報はBTSC信号のより高い周波数領域内に位置させる必要があり、ステレオチャンネルはモノラルの音声チャンネルよりもずっとノイズが多くなる。この結果、モノラルの信号に対するよりもステレオ信号に対してノイズフロアが固有的により高くなる。BTSC規格ではこの問題を、ステレオ音声信号に対して別の信号処理を提供する符号化システムを規定することにより克服している。テレビ局によるBTSC信号の放送前において、テレビプログラムの音声部分はBTSC規格により定められた方法で符号化され、次いでBTSC信号の受信の際に受信機(例えば、テレビセット)は相補的な方法で音声部分を復号する。この相補的な符号化および復号化により全体のステレオ音声信号の信号対ノイズの比は満足なレベルに維持されることが確保される。
【0003】
図1は従来技術のBTSC符号化システム、あるいはより単純には、BTSC規格により規定される、BTSCエンコーダ100のブロックダイヤグラムである。エンコーダ100は左および右チャンネルの音声入力信号(図1において「L」または「R」としてそれぞれ示されている)を受信し、これから条件付けされた和信号を発生する。ここで理解しておかねばならないが、従来技術のシステムおよび本発明のシステムはテレビ信号として逐次送信されたステレオ信号の左および右の音声信号を符号化するために有用であるとして説明されているが、BTSCシステムはまた、最終受信機により分離され選択された別々の音声信号、例えば異なる言語内の音声情報を符号化する手段を提供するものである。さらに、BTSC符号化システムのノイズ低減構成要素は、音声記録の改善のような、テレビ放送以外の他の目的のために使用することができる。
【0004】
システム100は入力セクション110、和チャンネル処理セクション120、および差チャンネル処理セクション130を含んでいる。入力セクション110は左および右の音声入力信号を受信し、またこれから和信号(図1において「L+R」として示されている)および差信号(図1において「L−R」として示されている)を発生する。ステレオ信号に対しては、和信号L+Rはそれ自体によりモノラル音声再生を提供するために使用されることが知られており、また音声を再生するために既存のモノラル音声テレビにより符号化されるのはこの信号である。ステレオのセットでは、元の2つのステレオ信号(L)および(R)を回復するために和信号および差信号は互いに加算および減算される。入力セクション110は2つの信号加算器112、114を含んでいる。加算器112は和信号を発生するために左および右チャネル音声入力信号を加算し、また加算器114は差信号を発生するために左チャンネル音声入力信号から右チャンネル音声入力信号を減算する。上記したように、和信号L+Rは、従来のモノラル信号で達成されるのと同じ信号対ノイズ比で、送信媒体を通って送信される。しかしながら、差信号L−Rは非常にノズルの多いチャンネルを通って、特に、関連するスペクトルのより高い周波数部分において送信され、ノイズの多い媒体および媒体のダイナミックレンジの低減のために、符号化された差信号は信号対ノイズ比は劣っている。ダイナミックレンジはノイズフロアのレベルと信号の飽和が起こる最大レベルとの間の信号のレンジとして規定される。したがって、差信号は和信号の場合よりも別の処理を受け、ダイナミックレンジはほぼ保存される。
【0005】
より詳しくは、和チャンネル処理セクション120は和信号を受信し、またこれから条件付けされた和信号を発生する。セクション120は75μsのプリエンファシス(preemphasis)フィルタ122および帯域リミッタ124を含んでいる。和信号はこの信号出力信号を形成するフィルタ122の入力に加えられ、この信号は帯域フィルタの入力に加えられる。後者により発生された出力信号は次いで条件付き和信号となる。
【0006】
差チャンネル処理セクション130は、差信号を受信し、またこれから符号化された差信号を生成する。セクション130は固定プリエンファシス回路132(2つのフィルタ132aと132bのカスケード接続として実施されたものが示されてる。)、好ましくは電圧制御型の増幅器の形態である可変利得増幅器134、可変プリエンファシス/デエンファシスフィルタ(本明細書においては「可変エンファシスフィルタ」と称する。)136、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138、固定利得増幅器140、帯域通過フィルタ142、RMSレベル検出器144、固定利得増幅器146、帯域フィルタ148、RMSレベル検出器150、および逆数発生器152を含んでいる。
【0007】
差信号は固定プリエンファシスフィルタ132に入力され、フィルタ132はこれから、増幅器134の入力端末にライン132dを経て加えられる出力信号を生成する。逆数発生器152により生成される出力信号はライン152aを経て増幅器134の利得制御端子に加えられる。増幅器134は、ライン152a上の信号の値に比例した利得を利用してライン132d上の信号を増幅ことにより出力信号を生成する。増幅器134により生成された出力信号は、ライン134aを介して可変エンファシスフィルタ136に加えられ、またRMS検出器144により発生された出力信号はライン144aを介してフィルタ136の制御端子に加えられる。可変エンファシスフィルタ136は、ライン144a上の信号の制御下でライン134a上の信号の高周波部分をプリエンファシス(preemphasize)あるいはデエンファシス(deemphasize)することで出力信号を発生する。フィルタ136により発生された出力信号は、これから符号化された差信号を発生する、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138の入力に加えられる。
【0008】
符号化された差信号はフィードバック経路138aを経て、符号化された差信号を利得AおよびBでそれぞれ増幅する、固定利得増幅器140、146の入力に加えられる。増幅器140により発生された増幅された信号は、これからRMSレベル検出器144の入力に加えられる出力信号を発生する、帯域通過フィルタ142の入力に加えられる。RMSレベル検出器144はフィルタ142から受信した入力信号レベルのRMS値の関数として出力信号を発生する。増幅器146により発生された増幅された信号は、これからRMSレベル検出器150の入力に加えられる出力信号を発生する、帯域通過フィルタ148の入力に加えられる。RMSレベル検出器150はフィルタ148から受信した入力信号レベルのRMS値の関数としての出力信号を発生する。検出器150の出力信号はライン150aを介して、ライン150a上の信号の値の逆数を表すライン152a上の信号を発生する、逆数発生器152に加えられる。上記のように、RMSレベル検出器144および逆数発生器152により発生された出力信号はフィルタ136および増幅器134に、それぞれ加えられる。
【0009】
図1に示したように、差チャンネル処理セクション130は和チャンネル処理セクション120よりも著しくより複雑である。差チャンネル処理セクション130により提供される別の処理は、BTSC信号を受信するデコーダ(図示せず)により提供される相補的な処理と組み合わせて、差チャンネルの信号対ノイズ比を差チャンネルの送信および受信に関連したより高いノイズフロアの存在においてさえ満足なレベルに維持している。差チャンネル処理セクション130は基本的には、符号化された信号をBTSC信号に関連した限定されたダイナミックレンジの伝送路を通って送信することができるように、また符号化された信号を受信するデコーダが相補的な態様で圧縮された差信号を拡張することにより元の差信号において全てのダイナミックレンジを回復することができるように、差信号のダイナミックレンジを動的に圧縮、縮小することにより符号化された差信号を発生している。差チャンネル処理セクション130は、比較的狭い、周波数依存のダイナミックレンジを有する伝送路を通って比較的大きなダイナミックレンジを有する信号を送信するために有利であることが知られている、米国特許第4,539,526号に説明されている適合型信号重み付けシステムの特別な形態である。
【0010】
要するに、差チャンネル処理セクションは、広帯域圧縮ユニット180およびスペクトル圧縮ユニット190を含むものとして考えられる。広帯域圧縮ユニット180は好ましくは電圧制御型増幅器の形式である可変利得増幅器134、および増幅器134への制御信号を発生するためのフィードバック経路の構成要素を含んでおり、この構成要素は増幅器146、帯域通過フィルタ148、RMSレベル検出器150、および逆数発生器152から成る。帯域通過フィルタ148は比較的広い通過帯域を有し、より低い音声周波数に重み付けされており、よって動作においてはフィルタ148によって発生されRMSレベル検出器150に加えられる出力信号は符号化された差信号を実質的に表している。このため、RMSレベル検出器150は、ライン150a上に、符号化された差信号のエネルギーレベルの重み付けされた平均を表す出力信号を発生し、また逆数発生器152はこの重み付けされた平均の逆数を表す信号をライン152a上に発生する。ライン152a上の信号は増幅器134の利得を制御し、またこの利得は符号化された差信号のエネルギーレベルの重み付けされた平均(つまり、より低い音声周波数に重み付けされた)に逆比例することから、広帯域圧縮ユニット180は、比較的低い振幅を有する信号を増幅し、また比較的大きな振幅を有する信号を減衰することにより、ライン132a上の信号のダイナミックレンジを「圧縮」、ないし縮小する。
【0011】
スペクトル圧縮ユニット190は可変エンファシスフィルタ136およびフィルタ136への制御信号を発生するフィードバック経路の構成要素を含み、この構成要素は、増幅器140、帯域通過フィルタ142およびRMSレベル検出器144から成る。フィルタ148とは異なり、帯域通過フィルタ142は、より高い音声周波数に重み付けされた比較的狭い通過帯域を有している。公知のように、BTSC送信システムの差部分に関連した送信媒体は周波数依存のダイナミックレンジを有し、またフィルタ142の通過帯域は最も狭いダイナミックレンジを有する当該送信経路のスペクトル部分(つまり、より高い周波数部分)に対応するように選択される。動作においては、フィルタ142により発生されRMSレベル検出器144に加えられる出力信号は、符号化された差信号の高周波部分を主に含んでいる。それ故、RMSレベル検出器144は、符号化された差信号の高周波部分内のエネルギーレベルを表す出力信号をライン144a上に発生する。この信号は次いで、可変エンファシスフィルタ136により行われるプリエンファシス/デエンファシスを制御し、そのため事実上、スペクトル圧縮ユニット190はライン134a上の信号の高周波部分を、フィルタ142により決定される符号化された差信号の高周波部分におけるエネルギーレベルにより決定される量だけ動的に圧縮する。スペクトル圧縮ユニット190の使用によって差信号のより高い周波数部分に対する別の信号圧縮を提供するが、これはより低い周波数における圧縮に比べて、高周波でより全体的な圧縮を効率的に行わせるために、可変利得増幅器134により提供される広帯域圧縮と組み合わせられる。差信号はスペクトルのより高い周波数においてよりノイズがある傾向にあるためにこのような手法が行われる。符号化された差信号がデコーダ(図示せず)内の広帯域伸長器およびスペクトル伸長器で、エンコーダの広帯域圧縮ユニット180およびスペクトル圧縮ユニット190の相補的な方法でそれぞれ復号されるときに、差チャンネル処理セクション130に提供されたL−R信号の信号対ノイズ比は実質的に保持される。
【0012】
BTSC規格は、75μsプリエンファシスフィルタ122、固定プリエンファシスフィルタ132、可変エンファシスフィルタ136、および帯域通過フィルタ142、148を、理想的なアナログフィルタで、所望の動作を厳格に規定している。特に、BTSC規格はこれらの構成要素のそれぞれに対する伝達関数を提供し、また伝達関数は理想的なアナログフィルタの数学的表示で述べられている。BTSC規格はまた、増幅器140および146の、利得設定、利得AおよびBをそれぞれ規定しており、また増幅器134、RMSレベル検出器144、150および逆数発生器152の動作を規定している。BTSC規格はまた、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138および帯域リミッタ124の動作に対するガイドラインを示唆している。特に、帯域リミッタ124、および、過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138の帯域リミッタ部分が、カットオフ周波数15kHz、ローパスフィルタとして説明されており、また過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138の過変調プロテクタ部分が、符号化された差信号の振幅を、全テレビ信号内の音声サブキャリアを変調するための最大許容な偏差レベルである100%の全変調に制限するスレッショルド(しきい値)として説明されている。
【0013】
エンコーダ100は理想化されたフィルタの数学的表示により規定されているので、これは理想化されたあるいは理論的なエンコーダとして考えられ、当業者は、理論的なエンコーダ100の性能と正確に合致するBTSCエンコーダを現実のものに構築することは事実上不可能であると評価するだろう。よって、全てのBTSCエンコーダの性能は理論的に理想的なものからやや逸脱することが予想でき、BTSC規格は、偏差の許容量についての最大限度を規定している。例えば、BTSC規格では、BTSCエンコーダは、分離が左あるいは右のチャンネルの入力の1つだけに加えられる信号が左あるいは右のチャンネルの出力の他のものに誤ってどの程度現れているのかの尺度となる場合において、100Hzから8、000Hzで少なくとも30dBの分離を提供しなければならない。
【0014】
BTSC規格はまた、BTSC信号の音声部分を発生するために使用される、複合ステレオベースバンド信号(以下「複合信号」と称する。)を規定している。複合信号は条件付けされた和信号、符号化された差信号、および「パイロットトーン」あるいは単に「トーン」と称され、fH が15.734であり周波数fH の正弦波である、トーン信号を使用して発生される。受信されたテレビ信号内のパイロットの存在は、テレビ信号がモノラルあるいは非BTSC信号でなくてBTSC信号であることを受信機に示している。複合信号は、振幅変調された、両側波帯の、抑圧されたキャリア信号を発生するために、符号化された差信号を、tが時間であるコサイン関数cos(4πfHt)にしたがってパイロット周波数の2倍で発振する波形で乗算し、次いでこの信号に条件付けされた和信号およびパイロットトーンを加えることにより発生される。
【0015】
図2は、複合信号のスペクトルのグラフである。図2において、条件付けされた和信号(あるいは「和チャンネル信号」)の内容を含む問題のスペクトル帯域は「L+R」として示されており、周波数シフトされ符号化された差信号(あるいは「差チャンネル信号」)の内容を含む2つのスペクトル側波帯はそれぞれ「L−R」として示されており、またパイロットトーンは周波数fH で矢印により示されている。図2に示したように、複合信号において、符号化された差信号は全変調の100%で使用され、条件付けされた和信号は全変調の50%で使用され、またパイロットトーンは全変調の10%で使用されている。
【0016】
ステレオテレビは一般的に成功しており、また既存のエンコーダは見事に性能を発揮しているが、現在使用されている事実上どのBTSCエンコーダもアナログ回路技術を使用して作られている。これらのアナログBTSCエンコーダ、および特にアナログの差チャンネル処理セクションは、それらの複雑さのために、構成することが比較的困難であり高価になってしまう。アナログ構成要素の可変性により、満足のいくアナログ式の差チャンネル処理セクションを作るためには、複雑な構成要素選択および広範な校正が必要である。さらに、アナログ構成要素が、時間とともに、その校正された動作ポイントから離れてドリフトする傾向にあることが、所定の許容範囲内で一貫性のある再現性のあるアナログ式の差チャンネル処理セクションを作ることを困難にしている。デジタル差チャンネル処理セクションは、これを構成できた場合には、構成要素の選択、校正、および性能ドリフトなどの問題がなく、また潜在的に高い性能を提供できる。
【0017】
さらに、既存のBTSCエンコーダのアナログ特性が、新しく開発された、人気が増大している、デジタル装置への使用を不便なものにしている。例えば、テレビプログラムは現在は、従来のアナログ式の記憶媒体でなしにハードディスクあるいはデジタルテープようなデジタル記憶媒体を使用して記憶することができ、また将来はデジタル記憶媒体の使用が増大することが見込まれる。デジタルに記憶されたプログラムからBTSC信号を発生することは、現在では、デジタル音声信号をアナログ信号に変換し、次いでアナログ信号をアナログBTSCエンコーダに加える必要がある。デジタルBTSCエンコーダは、構成できた場合には、デジタル音声信号を直接受け入れることができ、またよって、他のデジタル装置をより容易に組み込むことができる。
【0018】
デジタルBTSCエンコーダは潜在的にいくつかの特長を提供するものの、BTSC規格により規定される理想的なエンコーダ100と機能的に等価なエンコーダをデジタル技術を使用して構成するための単純な方法はない。1つの問題はBTSC規格が、アナログ伝達関数の観点から理想的なエンコーダ100の重要な構成要素の全てを規定していることである。公知のように、デジタルフィルタの大きさあるいは位相応答のいずれかがアナログフィルタのものと合致するデジタルフィルタを設計することは一般的には可能であるが、非常に速いサンプリング速度でサンプルされたデータを処理するために処理容量を非常に大きくすることなく、あるいはデジタルフィルタの複雑さを著しく増大させることなしに、振幅および位相応答の両方を合致させることは極めて困難である。サンプリング周波数あるいはフィルタ次数のいずれかを増大することなしには、2つのフィルタの位相応答の間の不一致の増大を犠牲として、デジタルフィルタの振幅応答は通常はアナログフィルタのものをより近く合致させることができるだけ、あるいはその逆である。しかしながら、振幅あるいは位相における小さなエラーがBTSCエンコーダにより提供される分離の量を減少させるので、図1に100で示したタイプの理想的なエンコーダの振幅および位相応答の両方をほぼ合致させることがデジタルBTSCエンコーダにおいては必須である。
【0019】
デジタルBTSCエンコーダに対して満足のいく性能を提供するためには、理想的なエンコーダ100のアナログフィルタの特性を保持することが重要である。デジタルフィルタをアナログフィルタの性能に合致するように設計するために種々の技術が存在する。しかしながら、一般的には、どの技術も、アナログフィルタの対応する応答性に正確に合致した振幅および位相応答を有する(アナログフィルタと同じ次数の)デジタルフィルタを作ることはできない。理想的なエンコーダ100は、周波数領域、ないしs−面において特定されたアナログ伝達関数の観点で規定されており、またデジタルBTSCエンコーダを設計するために、これらの伝達関数はz−面に変換されなければならない。このような変換は、時間領域特性を保持するために、s−面からz−面に「多数対1」(many−to−one)として写像するものとして実施される。しかしながら、このような変換において、周波数領域応答がエイリアシング(aliasing)を受けて著しく変わってしまう。あるいは、変換は、全体のs−面をz−面のユニット円(unit circle)内に圧縮するs−面からz−面への「1対1」として行われる。しかしながら、このような圧縮はアナログ周波数とデジタル周波数との間の良く知られた「周波数ワープ」(frequency warping)を受けてしまう。このような周波数ワープを補償するためにプリワープ(prewarping)を採用することができるが、所望の周波数応答からの偏差をプリワープによって完全に除去することはできない。良好に動作しまた過度に複雑ないし高価でないデジタルBTSCを作るためにはこれらの問題を克服する必要がある。
【0020】
したがって、これらの問題を克服してデジタルBTSCエンコーダを開発するための必要性がある。
[発明の目的]
本発明は従来技術の上記した問題を実質的に軽減ないし克服することを目的とする。
【0021】
本発明の他の目的は、適応型デジタル重み付けシステムを提供することにある。
【0022】
本発明のさらに他の目的は、情報信号が、所定の帯域幅の少なくとも1つの他のスペクトル領域よりも第1のスペクトル領域内においてダイナミック的つまり動的に限定された、周波数依存のチャンネルを通って記録あるいは送信することができるように、所定の帯域幅の電気情報信号を符号化するための適応型デジタル重み付けシステムを提供することにある。
【0023】
本発明の他の目的は、デジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0024】
本発明のさらに他の目的は、実質的にゼロの入力信号レベルで生じる問題である、チッキング(ticking)を防止する、デジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的は、符号化された信号の信号情報とパイロットトーン信号との緩衝を防止するために、15,734Hzのパイロットトーン信号の倍数であるサンプリング周波数を使用する、デジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、15,734Hzのパイロットトーンにおいて信号エネルギーが実質的にない、条件付けされた和信号および符号化された差信号を発生するためのデジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、条件付けされた和信号を発生するための和チャンネル処理セクション、および符号化された差信号を発生するための差チャンネル処理セクションを含むデジタルBTSCエンコーダを提供することにあり、和チャンネル処理セクションは差チャンネル処理セクションにより符号化された差信号に導入された位相エラーを補償するために条件付けされた和信号に補償的な位相エラーを導入するための装置を含んでいる。
【0028】
また、本発明の他の目的は、デジタル可変エンファシスユニットを含むデジタルBTSCエンコーダを提供することにあり、このユニットは可変係数伝達関数を特徴とするデジタル可変エンファシスフィルタを含んでおり、またこのユニットは符号化された差信号の信号エネルギーの関数として可変係数伝達関数の係数を選択するための装置をさらに含んでいる。
【0029】
本発明のさらに別の目的は、条件付けされた和信号および符号化された差信号から複合変調された信号を発生するための複合変調器を含むデジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
【0030】
本発明のさらに別の目的は、単一の集積回路上で実施できるデジタルBTSCエンコーダを提供することにある。
[発明の要約]
上記および他の目的は、入力セクション、和チャンネル処理セクション、および差チャンネル処理セクションを含み、これら全てがデジタル技術を使用して実施された、改良されたBTSCエンコーダにより提供される。1つの特徴において、入力セクションはBTSCエンコーダが「チッキング」を示すのを防止するためのハイパスフィルタを含んでいる。他の特徴において、BTSCエンコーダはパイロット周波数の整数倍に等しいサンプリング周波数を使用している。
【0031】
さらに別の特徴において、和チャンネル処理セクションは条件付けされた和信号を発生し、また差チャンネル処理セクションは符号化された差信号を発生し、また和チャンネル処理セクションは差チャンネル処理セクションにより符号化された差信号に導入された位相エラーを補償するために条件付けされた和信号に位相エラーを導入するための構成要素を含んでいる。
【0032】
さらに別の特徴によれば、本発明は、予め決定された帯域幅の電気的な情報信号を符号化するための適応型デジタル重み付けシステムを提供し、情報信号が、予め決定された帯域幅の少なくとも1つの他のスペクトル領域内のものよりもより狭い、動的に制限された部分を有する第1のスペクトル内の動的に制限された、周波数依存のチャンネル上に記録されこれを通って送信することができるようにするものである。
【0033】
本発明のさらに別の目的および特長は、本発明の最良の形態の単なる例示である、いくつかの実施形態が示され説明されている以下の詳細な説明から当業者には自明である。当然であるが、本発明は他の異なる実施形態とすることができ、またそのいくつかの詳細は本発明から逸脱することなしに種々の点で変更することができる。したがって、図面および説明は本質的に例示であり、これらに限定されるものではなく、本発明の範囲は請求の範囲に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明の本質および目的をより完全に理解するために、添付図面を考慮して以下の詳細な説明を参照する。図面において、同様あるいは類似した部品を示すために同様な参照番号を使用している。
【図1】従来技術の理想的なBTSCエンコーダのブロック図
【図2】BTSC規格にしたがって発生された複合信号のスペクトルのグラフ
【図3】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの1つの実施形態のブロック図
【図4】図3に示されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用されるローパスフィルタのブロック図
【図5】図3に示されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用される広帯域圧縮ユニットの詳細なブロック図
【図6】図3に示されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用されるスペクトル圧縮ユニットのブロック図
【図7】図6に示されたスペクトル圧縮ユニットにおいて使用される可変エンファシスフィルタのフィルタ係数を計算するために使用されるフローチャート
【図8A】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図8B】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図8C】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図8D】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダの分解能を保存し、また固定小数点の実施形態における飽和の機会を減少させるために使用される信号スケーリングを例示したブロック図
【図9】図8B及び図8Cに示された複合変調器の詳細なブロックダイヤグラム
【図10】本発明にしたがって構成されたデジタルBTSCエンコーダにおいて使用される和チャンネル処理セクションおよび差チャンネル処理セクションの1つの好ましい実施形態のブロック図である。
【0035】
[発明の詳細な説明]
図3は、本発明にしたがって構成されたデジタルBTSC1つの実施形態のブロック図である。デジタルエンコーダ200は、理想的なエンコーダ100(図1において示した)の性能と機能的に等価である性能を提供するために構成されている。理想的なエンコーダ100の場合と同様に、デジタルエンコーダ200は左および右チャンネルの音声入力信号を受信し、またこれから条件付けされた和信号および符号化された差信号を発生するが、デジタルエンコーダ200においては、これらの入力および出力信号は連続的なアナログ信号ではなくてデジタル的にサンプリングされた信号である。
【0036】
左および右のチャンネルの音声入力信号のためのサンプリング周波数fsの選択はデジタルエンコーダ200の設計に大きな影響を与える。好ましい実施形態において、サンプリング周波数fsはパイロット周波数fH の整数倍であり、つまりfs=NfHであり、Nは整数であり、最も好ましい実施形態においてはNは3以上となるように選択される。エンコーダ200においては、条件付けされた和信号および符号化された差信号がパイロット周波数fHにおいて、複合信号に含まれるパイロットトーンと干渉する十分なエネルギーを含まないことを確保することが重要である。それ故、以下に詳細に説明するように、デジタルエンコーダ200内の少なくともいくつかのフィルタがパイロット周波数fHにおいて非常に大きな減衰度を与えることが望ましい、またこのサンプリング周波数fsの選択がこのようなフィルタの設計を単純化する。
【0037】
デジタルエンコーダ200は入力セクション210、和チャンネル処理セクション220および差チャンネル処理セクション230を含んでいる。デジタル技術を使用して差チャンネル処理セクション230を単純化するのではなく、これら3つのセクション210、220、230の全てがデジタル技術を使用しているのである。デジタルエンコーダ200内の個々の多くの構成要素はそれぞれ理想的なエンコーダ100の個々の構成要素に対応する。一般的には、デジタルエンコーダ200の構成要素は、それらの振幅応答がエンコーダ100内の対応する構成要素の個々の振幅応答にほぼ合致するように選択される。これにより、対応する構成要素の位相応答に比較的大きな差がしばしば生じる結果となる。本発明の特徴によれば、これらの位相差、あるいは位相エラーを無効化つまりゼロにするための手段がデジタルエンコーダ200内に設けられている。当業者には自明のように、差チャンネル処理セクション230内の比較的小さな位相エラーは和チャンネル処理セクション220内に小さな位相エラーを導入することにより補償され、またデジタル技術を使用して和チャンネル処理セクションを実施すれば、このような所望の補償位相エラーの導入が簡単化できる。
【0038】
エンコーダ200の入力部は2つのハイパスフィルタ212、214、および2つの信号加算器216、218を含んでいる。左チャンネルのデジタル音声入力信号Lはハイパスフィルタ212の入力に加えられ、ハイパスフィルタはこれから加算器216、218の正の入力端子に加えられる出力信号を発生する。右チャンネルの音声入力信号Rはハイパスフィルタ214の入力に加えられ、ハイパスフィルタはこれから加算器216の正の入力端子および加算器218の負の入力端子に加えられる出力信号を発生する。加算器216はフィルタ212および214により発生された出力信号を加算することにより和信号(図3において「L+R」で示されている)を発生する。加算器218はフィルタ212により発生された出力信号からフィルタ214により発生された出力信号を減算することにより差信号(図3において「L−R」で示されている)を発生する。入力セクション210は、よって、入力セクション110(図1に示した)と同様であるが、セクション210は、2つのハイパスフィルタ212、214をさらに含み、またデジタル和信号および差信号を発生する。
【0039】
ハイパスフィルタ212、214は好ましくは実質的に同じ応答性を有し、また好ましくは左および右チャンネルの音声入力信号からD.C.成分を取り除く。以下に詳細に説明するように、このD.C.除去によりエンコーダ200が「チッキング」と称される挙動を示すことが防止される。問題の左および右チャンネル音声入力信号の音声情報内容が50Hzおよび15,000Hzの間の周波数帯内にあると考えられるので、D.C.成分の除去は音声信号の情報の内容の送信を干渉しない。フィルタ212、214は、このため、好ましくは50Hzより下のカットオフ周波数を有し、また音声入力信号内に含まれる音声情報を取り除くことがないように、更に好ましくは10Hzより下のカットオフ周波数を有している。フィルタ212、214はまた、好ましくはそれらの通過帯域において平坦な振幅応答を有している。1つの好ましい実施形態において、フィルタ212、214は、それぞれ以下に示す式(1)により規定される伝達関数H(z)を有する1次の無限インパルス応答フィルタ(IIR)として実施される。
【0040】
【数1】
【0041】
図3を参照して、和チャンネル処理セクション220は和信号を受信し、またこれから条件付けされた和信号を発生する。とくに、和信号は75μsのプリエンファシスフィルタ222に加えられる。フィルタ222は、静的位相等化フィルタ228に加えられる出力信号を発生する。フィルタ228はセクション220のローパスフィルタ224に加えられる出力信号を発生し、またセクション220は条件付けされた和信号を発生する。
【0042】
75μsのプリエンファシスフィルタ222は、理想的なエンコーダ100のフィルタ122(図1に示された)に部分的に類似した信号処理を行う。フィルタ222の振幅応答は好ましくはフィルタ122にほぼ合致するように選択される。以下に説明するように、フィルタ222と122の位相応答の間の差を補償するための手段が差チャンネル処理セクション230内に設けられる。1つの好ましい実施形態において、フィルタ222は、以下の式(2)に示される等式により記述される伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。
【0043】
【数2】
【0044】
静的位相等化フィルタ228は、理想的なエンコーダ100(図1に示される)内の構成要素と直接的に類似した処理を行う。以下により詳細に説明するように、静的位相等化フィルタ228は差処理セクション230により導入された位相エラーを補償する位相エラーを導入するために使用される。要するに、静的位相等化フィルタ228は好ましくは比較的平坦な振幅応答および選択された位相応答を有する「全てを通過する」フィルタである。1つの好ましい実施形態において、フィルタ228は、以下の式(3)に示された等式により記述された伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。
【0045】
【数3】
【0046】
ローパスフィルタ224はエンコーダ100の帯域リミッタ(図1に示された)に部分的に類似した処理を行う。ローパスフィルタ224は好ましくは0から15kHzの通過帯域内での平らな振幅応答および15kHzより上で比較的鋭いカッソオフを提供する。フィルタ224は好ましくはパイロットトーン(つまり、15,734Hz)の周波数fH において非常に大きな減衰度を提供する。この非常に大きい減衰度を設けることで、フィルタ224は、パイロット周波数fH において、複合信号で使用されるパイロットトーンと干渉する十分なエネルギーを含まないことを確保できる。上記したように、サンプリング周波数fs をパイロット周波数fH の整数倍に等しくすることで、パイロット周波数において非常に大きな減衰度を提供するフィルタの設計を単純化することができ、このため、フィルタ224の設計を単純化できる。フィルタ224は好ましくはパイロット周波数fH においてゼロ(ヌル)であり、また好ましくはパイロット周波数fH からサンプリングレートの1/2までの全ての周波数に対して少なくとも70dBの減衰を提供する。
【0047】
図4Aはローパスフィルタ224の1つの好ましい実施形態を例示したブロック図である。図4Aに示したように、フィルタ224は5つのフィルタセクション310、312、314、316、318をカスケード接続することで実施される。1つの好ましい実施形態において、5つのフィルタセクション310、312、314、316、318は全て、以下の式(4)に示した等式により現される伝達関数H(z)を有する2次のIIRフィルタとしてそれぞれ実施される。
【0048】
【数4】
【0049】
よって、図4Aに示した実施形態において、フィルタ224は10次のIIRフィルタである。
【0050】
図3を参照して、差チャンネル処理セクション230は差信号を受信し、これから符号化された差信号を発生する。差信号はローパスフィルタ238aに加えられ、このフィルタはこれから固定プリエンファシスフィルタ232aに加えられる出力信号を発生する。フィルタ232aは、ライン239を介して、広帯域圧縮ユニット280の入力端子に加えられる出力信号を発生し、符号化された差信号はフィードバックライン240を経て広帯域圧縮ユニット280の検出器端子に加えられる。ユニット280はライン281を経てスペクトル圧縮ユニット290の入力端子に加えられる出力信号を発生し、また符号化された差信号は同様にフィードバックライン240を経てユニット290の検出器端子に加えられる。ユニット290は固定プリエンファシスフィルタ232bに加えられる出力信号を発生し、フィルタ232bはクリッパ254に加えられる出力信号を発生する。クリッパ254はローパスフィルタ238bに加えられる出力信号を発生し、フィルタ238bは符号化された差信号を発生する。
【0051】
ローパスフィルタ238a、238bは、一緒に、理想的なエンコーダ100の過変調プロテクタおよび帯域リミッタ(図1に示された)38と部分的に類似した処理を行うローパスフィルタ238を形成する。好ましくは、フィルタ238は、和チャンネルセクション220において使用された、ローパスフィルタ224と実質的に同一であるように実施される。したがって、フィルタ238により符号化された信号内に導入された何等かの位相エラーは、フィルタ224により条件付けされた和信号内に導入された位相エラーを平衡化することにより補償される。フィルタ238は、後述するように、好ましくは図示したように2つのセクション238a、238bに分割され、またフィルタ238aは好ましくはパイロット周波数fH においてゼロ(ヌル)を有する。
【0052】
図4B及び図4Cは個々のフィルタ238aおよび238bの1つの好ましい実施形態をそれぞれ例示したブロック図である。図4Bに示したように、フィルタ238aは、フィルタ224(図4Aに示した)内に使用される3つのフィルタセクションと同じである3つのフィルタセクション310、314、318をカスケード接続することにより実施され、また図4Cに示したように、フィルタ238bは、フィルタ224内に使用される2つの残りのセクションと同じである2つのフィルタセクション312、316をカスケード接続することにより実施される。
【0053】
固定プリエンファシスフィルタ232a、232b(図3に示された)は、一緒に、理想的なエンコーダ100のフィルタ132(図1に示された)と部分的に類似した処理を行う固定プリエンファシスフィルタ232を形成する。フィルタ232の振幅応答は好ましくはフィルタ132の振幅応答とほぼ合致するように選択される。1つの実施形態において、フィルタ232および132の位相応答は著しく異なり、また以下に詳細に示したように、残りの位相誤差は和チャンネル処理セクション220内のフィルタ222および228により補償される。フィルタ232は好ましくは以下に説明する理由により2つのセクション232a、232bに分割される。1つの実施形態において、フィルタ232a、232bはそれぞれ好ましくは、式(2)により示された等式により記述される伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。よって、この実施形態のフィルタ232は2次IIRフィルタである。
【0054】
1つの実施形態において、フィルタ232bと132aの位相応答の間の差は、フィルタ222と122の位相応答の間の差とほぼ合致する。よって、固定プリエンファシスフィルタ232bにより符号化された差信号内に導入された位相エラーは75μsのプリエンファシスフィルタ222により条件付けされた和信号内に導入された位相エラーにより平衡化される。さらに、この実施形態において、静的等化フィルタ228の位相応答は、固定プリエンファシスフィルタ232aおよびフィルタ132bの位相応答の間の差にほぼ合致するように選択され、フィルタ232bにより符号化された差信号内に導入された何等かの位相エラーは静的位相等化フィルタ228により導入された条件付けされた和信号内の位相エラーにより補償される。
【0055】
クリッパ254は、理想的なエンコーダ100において使用された過変調プロテクタおよび帯域リミッタ138(図1に示された)に部分的に類似している。要するに、クリッパ254はスレッショルド(しきい値)装置として実施されるが、クリッパ254の動作は以下に詳細に説明する。
【0056】
広帯域圧縮ユニット280およびスペクトル圧縮ユニット290は部分的、理想的なエンコーダ100(図1に示された)の、ユニット180および190のものとそれぞれ類似した動作を行う。要するに、広帯域圧縮ユニット280は符号化された差信号内の全体のエネルギーレベルの関数としてライン239上の信号を動的に圧縮し、またスペクトル圧縮ユニット290は符号化された差信号内の高周波エネルギーの関数としてライン281上の信号の高周波部分をさらに圧縮する。
【0057】
図5はデジタル広帯域圧縮ユニット280の好ましい実施形態のブロック図である。ユニット280はデジタル信号乗算器434、デジタル信号乗算器446、広帯域デジタル帯域通過フィルタ448、デジタルRMSレベル検出器450、およびデジタル逆数発生器458を含んでいる。これらの構成要素は特に、理想的な増幅器100(図に示された)増幅器134、増幅器146、帯域通過フィルタ148、RMSレベル検出器150、および逆数発生器152とそれぞれ同様な機能の処理を行う。符号化された差信号はフィードバック経路240を経て広帯域デジタル帯域通過フィルタ448の入力に加えられ、フィルタ448はこれからRMSレベル検出器450に加えられる出力信号を発生する。検出器450は、フィルタ448により発生された出力信号のRMS値を表す出力信号を発生し、またこの出力信号をライン450aを経て逆数発生器458に加える。逆数発生器458は次いでライン450a上の信号の逆数を表す出力信号を発生し、またこの出力信号をライン458aを経て乗算器446に加える。デジタル信号乗算器446はライン458a上の信号を利得設定値、利得Dで乗算し、これによりRMS値の逆数のD倍を表す出力信号を発生し、これはライン446aを経て乗算器434の入力端子に加えられる。固定プリエンファシスフィルタ232aにより発生された出力信号はライン239を経て乗算器434の他の入力端子に加えられる。乗算器434はライン446a上の信号によりライン239上の信号を乗算し、よって、広帯域圧縮ユニット280の出力を発生し、これはライン281を経てスペクトル圧縮ユニット290の入力に加えられる。
【0058】
広帯域デジタル帯域通過フィルタ448は帯域通過フィルタ148(図1に示された)の振幅応答とほぼ合致した振幅応答を有するように設計される。1つの好ましい選択は、その振幅応答とフィルタ148の振幅応答との間の差の2乗平均が最小となるようにフィルタ448を選択することである。1つの実施形態において、フィルタ448および148の振幅応答は実質的に異なるが、RMSレベル検出器450の出力信号がその入力信号の位相と実質的に不感応(insensitive)であるので、これらの位相差は無視される。1つの好ましい実施形態において、広帯域通過フィルタ448は式(4)に示された数式により示される伝達関数H(z)を有する2次のIIRフィルタとして実施される。
【0059】
RMSレベル検出器450は、理想的なエンコーダ100(図1に示された)において使用される検出器150の性能に相当するように設計される。検出器450は、信号平方装置452、信号平均化装置454、および平方根装置456を含んでいる。平方装置452は帯域通過フィルタ448により発生された信号を平方し、この平方された信号をライン452aを経て平均化装置454に加える。装置454はライン452a上の信号の時間重み付けされた平均を計算し、この平均をライン454aを経て平方根装置456に加える。平方根装置456はライン454a上の信号の平方根を計算し、また広帯域デジタル帯域通過フィルタ448により発生された出力信号のRMS値を表すライン450a上の信号を発生する。
【0060】
平均化装置454は、デジタル信号乗算器460、デジタル信号加算器462、デジタル信号乗算器464、および遅延レジスタ465を含んでいる。平方装置452により発生された出力信号はライン452aを経て、ライン452a上の信号を定数αでスケーリングすることで出力信号を発生する乗算器460の1つの入力に加えられる。乗算器460により発生されたスケーリングされた出力信号は加算器462の1つの入力に加えられ、また遅延レジスタ465により発生された出力信号は加算器462の他の入力に加えられる。加算器462はその2つの入力に表れる信号を加算することにより出力信号を発生し、また加算された信号は平均化装置454の出力信号であり、これはライン454aを経て平方根装置456に加えられる。この加算された信号はまた、定数(1−α)により加算された信号をスケーリングすることにより出力信号を発生する乗算器464の1つの入力に加えられる。乗算器464により発生された出力信号は遅延レジスタ465の1つの入力に加えられる。当業者には、平均化装置454が、巡回型フィルタであり、また以下の式(5)により示される回帰的数式により示されるデジタル平均化機能を実施するものであることは自明である。
【0061】
【数5】
上式において、y(n)はライン454上の平均化装置454により出力される信号の現在のデジタルサンプルを表し、y(n−1)はライン454上の平均化装置454により出力される信号の先のデジタルサンプルを表し、またx(n)はライン452a上の平方装置452により出力される信号の現在のデジタルサンプルを表す。当業者には、平均化装置454がBTSC規格により規定されるアナログ平均化機能のデジタル的な近似値を提供し、また理想的なエンコーダ100のRMSレベル検出器150(図1に示された)により実施されることが理解される。定数αは好ましくは、RMSレベル検出器450の時定数がRMSレベル検出器150に対するBTSC規格で特定された対応する時定数にほぼ近似するように選択されることは自明である。
【0062】
デジタル平方根装置456およびデジタル逆数発生器458は図5では2つの別々の構成要素として示したが、その入力信号の平方根の逆数を表す出力信号を発生する単一の装置を使用して実施できることは、当業者には自明である。このような装置は例えば、メモリルックアップテーブル(LUT)として実施され、あるいは逆平方根機能のテイラー級数多項式の近似を計算する処理要素を使用して実施できる。
【0063】
図6は、スペクトル圧縮ユニット290の好ましい実施形態のブロック図である。ユニット290は可変プリエンファシス/デエンファシスユニット(以下、「可変エンファシスユニット」と称する)536、信号乗算器540、スペクトル帯域通過フィルタ542、およびRMSレベル検出器544を含んでおり、またこれらの構成要素は、部分的に、理想的なエンコーダ100(図1に示された)の可変エンファシスフィルタ136、増幅器140、帯域通過フィルタ142、およびRMSレベル検出器144にそれぞれ類似する処理を提供する。符号化された差信号はフィードバックライン240を経て、符号化された差信号を利得Cの固定利得設定値で乗算することで出力信号を発生する信号乗算器540の入力に加えられる。信号乗算器540により発生された増幅された出力信号は、RMSレベル検出器544に加えられる出力信号を発生するスペクトル帯域通過フィルタ542に加えられる。検出器544はライン544aを経て可変エンファシスユニット536の制御端子に加えられる出力信号を発生し、また広帯域圧縮ユニット280により発生された出力信号はライン281を経てユニット536の入力端子に加えられる。ユニット536は、ライン544a上の信号の関数にしたがってライン281上の信号に加えられる周波数応答を動的に変化させ、ライン544a上の信号はスペクトル帯域通過フィルタ542により通過された周波数帯域内の符号化された差信号の信号エネルギーの関数である。ユニット536により発生され固定プリエンファシスフィルタ232bの入力に加えられる、ユニット290の出力信号は、よって、問題のスペクトルの残りの内のものよりも、信号の高周波部分においてより大きな量で動的に圧縮を行う。
【0064】
スペクトル帯域通過フィルタ542は、理想的なエンコーダ100の帯域通過フィルタ(図1に示された)の振幅応答にほぼ合致する振幅応答を有するように設計される。フィルタ448(図5に示された)のように、1つの好ましい選択は、そのRMS振幅応答とフィルタ142の振幅応答との間の差が最小となるようにフィルタ542を選択することである。1つの実施形態において、フィルタ542および142の位相応答は実質的に異なるが、RMSレベル検出器544のRMS出力が検出器への入力の位相に実質的に不感応であるので、これらの位相差は無視される。1つの好ましい実施形態において、スペクトル帯域通過フィルタ542は、それぞれが式(4)に示された数式により記述された伝達関数H(z)を有する3つの2次のIIRフィルタセクション542a、542b、542c(図6に示された)のカスケード接続として実施される。
【0065】
RMSレベル検出器544は、理想的なエンコーダ100(図1に示された)において使用された検出器144の性能に相当するように設計される。検出器544は信号平方装置552、信号平均化装置554、および平方根装置556を含んでいる。平方装置552はスペクトル帯域通過フィルタ542により発生された信号を平方し、またこの平方された信号をライン552aを経て平均化装置554に加える。装置554は、広帯域圧縮ユニット280において使用されている平均化装置454(図5に示されている)と同様に機能するが、装置554は好ましくは定数αとは異なる定数βを使用する。平均化装置554の挙動は当然のことながら、βをαと置き換えて、式(5)により記述される。定数βは好ましくは、RMSレベル検出器544の時定数がRMSレベル検出器144(図1に示されている)に対するBTSC規格により特定される対応する時定数にほぼ近似するように、装置554に対して選択される。平均化装置554はライン552a上の信号の時間重み付けされた平均を計算し、この平均をライン554aを経て平方根装置556に加える。平方根装置556はライン554a上の信号の平方根を計算し、スペクトル帯域通過フィルタ542により発生された出力信号のRMS値の関数としてライン544a上に信号を発生する。
【0066】
ライン544a上の信号は可変エンファシスユニット536の制御端子に加えられる。可変エンファシスユニット536は理想的なエンコーダ100のフィルタ136(図1に示されている)と部分的に類似した処理を実行する。BTSC規格により規定されているように、フィルタ136はRMSレベル検出器144により発生された出力信号の関数として変化する振幅および位相応答を有する。類似した可変応答を有するようにユニット536を実施する1つの好ましい方法は、その伝達関数を決定する可変の係数を有するデジタルフィルタを使用し、また係数の値をいずれかの所定のサンプル期間、あるいはサンプル期間のグループの間にライン544a上の信号の値に基づいて決定することである。
【0067】
図6には、対数発生器558、可変エンファシスフィルタ560、およびルックアップテーブルLUT562を含む、可変エンファシスユニット536の1つの実施形態を示されている。RMSレベル検出器544により発生された出力信号はライン544aを経て対数発生器558に加えられる。発生器558は、ライン544a上の信号の対数を表す信号をライン558a上に発生し、またこの信号をLUT562に加える。LUT562は、LUTから選択されまた可変エンファシスフィルタ560により使用されるフィルタ係数を表すた出力信号を発生する。このようにしてLUT562により発生された係数はライン562aを経て可変エンファシスフィルタ560の係数選択端子に加えられる。広帯域圧縮ユニット280により発生された出力信号はライン281を経て可変エンファシスフィルタ560の入力端子に加えられる。可変エンファシスフィルタ560は、固定プリエンファシスフィルタ232bの入力に加えられるスペクトル圧縮ユニット290の出力信号を発生する。
【0068】
可変エンファシスフィルタ560は理想的なエンコーダ100のフィルタ(図1に示されている)の可変振幅応答にほぼ合致する可変振幅応答を有するように設計される。可変エンファシスフィルタ560は、可変係数伝達関数(つまり、フィルタ560の伝達関数H(z)の係数は可変である)を使用することにより、またLUT562がサンプル期間に基づく間隔の間に係数の値を選択するようにすることで、同様な可変応答を提供する。以下に詳細に説明するように、LUT562はフィルタ560により使用されたフィルタ係数の値を記憶し、また各サンプル期間の間、あるいはサンプル期間の選択されたグループの間において、LUT562はライン558a上の対数発生器558により発生された出力信号の関数としてフィルタ係数のセットを選択する。好ましい実施形態において、可変エンファシスフィルタ560は、以下の式(6)により示される数式により記述された伝達関数H(z)を有する1次のIIRフィルタとして実施される。
【0069】
【数6】
上式において、係数b0 、b1 、およびa1 はLUT562により選択される可変値である。フィルタ560およびエンコーダ200の他のフィルタにより使用されるフィルタ係数に対する値を選択する方法は以下に説明する。
【0070】
図6において、対数発生器558および平方根装置556が、便宜上、2つの別々の構成要素として図示されている。しかしながら、当業者には、LUTのような、単一の装置を使用して、あるいはライン554a上の信号の対数のテイラー級数多項式の近似を計算する処理要素を使用し次いでこの値を2で割ることでこれら2つの構成要素が実施できることは、自明である。同様に、他の実施形態として、対数発生器558、平方根装置556、およびLUT562により行われる機能を単一の装置内に組み込むこともできる。
【0071】
上記したように、ハイパスフィルタ212、214(図3に示されている)はDC成分を阻止してエンコーダ200が「チッキング」として知られている挙動を表すのを防止するために有用である。ステレオエンコーダの場合には、チッキングは、左および右チャンネルの音声入力に信号が存在しないときに生じる比較的低周波発振の挙動を意味する。音声入力に信号が存在しないときの所望のステレオシステムの挙動は無音であるが、エンコーダはデコーダを経てスピーカに接続されており、またチッキングによりスピーカが「チック」と称され、広帯域圧縮器内のRMSレベル検出器の時定数に部分的に依存するある程度周期的な、可聴音を放出するようになる。より詳しくは、エンコーダ200において、音声入力に非常に低いレベルの信号が存在するとき、およびD.C.成分があるとき、あるいはライン239上の信号内にオフセットが存在するときに、広帯域圧縮ユニット280はチッキングを生じる不安定な態様で挙動するようになる。
【0072】
ライン239上に低レベルの音声信号だけが存在する場合を考察する。このような場合、ライン450a上のRMSレベル検出器450の出力は非常に小さくなり、このため、乗算器434の利得が非常に大きくなる。ライン239上のこのような低レベルの音声信号がその振幅が一定である場合、符号化された差信号がライン240上で広帯域圧縮ユニット280にフィードバックされることから、広帯域圧縮ユニット280はいつか(乗算器460に加えられる定数αにより決定される)安定状態の条件に達する。フィードバックが負に設定されているので、ライン239上の音声信号がその振幅を増大した場合、ライン450a上の信号が増大し、このため、乗算器434の利得が減少するようになる。ライン239上の音声信号がその振幅を減少した場合、ライン450a上の信号が減少し、このため乗算器434の利得が増大する。
【0073】
しかしながら、低レベルの音声信号に加えて、ライン239上には大きなdc信号が存在し、このdc信号は、dc信号への応答がゼロである広帯域通過フィルタ448の動作によりフィードバックプロセスが阻止される。特に、ライン240上における符号化された差信号内に存在するいずれかのdcはフィルタ448により阻止され、またRMSレベル検出器450により感知されない。ライン29上に存在するいずれかのdc信号はライン239上のいずれかの音声信号とともに乗算器434により増幅されるが、増幅ファクターないし利得はフィルタ448によるフィルタ処理後のRMSレベル検出器450により感知された音声信号の振幅によりのみ決定される。
【0074】
上記したように、ライン239上の音声信号の振幅が変化したときはいつでも、乗算器434の利得が逆に変化する。利得のこのような変化の間は、ライン239上に存在するいずれかのdcは同様に可変の増幅を受け、実際にはdc信号が変調され、これによりac信号が生成される。このように、dc信号が変調されて、フィルタ448により阻止することがでいない大きな音声帯域信号が生成され、またこれは検出器450により感知される。ライオン239上の音声信号がライン239上のdcに比べて小さいときには、増幅器434の利得に変化を引き起こす、音声信号レベルにおける小さい変化が、この変調プロセスによりライン281上でdcレベルに大きな変動(ac信号になる)を引き起こす。生成されたこのac信号は、ac信号を上げる音声信号変化が信号レベルの増大あるいは減少であるかに拘らず、フィルタ448を通過する全体の信号を増大させる。特に、ライン239上の音声信号のレベルが増大した場合、負のフィードバックプロセスが乗算器434の利得を増大させる。しかしながら、ライン239上に十分なdc信号が存在する場合、ライン239上の音声信号の減少は検出器450により感知される信号における増大を引き起こし、乗算器434の利得を減少させる。この場合、負のフィードバックプロセスが逆になり、フィードバックは正になる。
【0075】
このような正のフィードバックは、ライン281とフィルタ448の出力との間の全てのフィルタおよび信号変調器の応答により重み付けされるときに、ライン281上に存在するいずれかの音声信号に比べて著しく大きい限り存続する。ライン281上の変調されたdc信号が検出器450に大きな入力を提供しない程度に乗算器434の利得が十分に減少すると、フィードバックはその通常の負の感度に戻る。検出器450の時定数にしたがって、システムはライン239上の音声信号のレベルに基づいて適切な利得レベルを獲得する。しかし、ライン239内の信号に十分なdcが残っている場合には、乗算器434の利得が十分に増大するとサイクルはそれ自体で繰り返される。正のフィードバックのこのような期間の間、ライン281のdcレベルにおける鋭い変化が作られる。この変化は可聴であり、また時計の「チック」と幾分類似した音がする。このようなdc変化は、検出器450の時定数に基づいて、幾分規則的に起こるので、この減少はしばしば「チッキング」と称される。
【0076】
チッキングを防止する1つの方法は、エンコーダ200への入力信号中に存在するdc成分を取り除くことである。これは、ハイパスフィルタ212および214により行われる。さらに、ハイパスフィルタ212および214は、有用なダイナミックレンジを使用するdc成分を取り除くことによりエンコーダ200のダイナミックレンジを最大限にする。上記するとともに図3に示したように、ローパスフィルタ238は好ましくは2つのフィルタ238aおよび238bとして実施される。フィルタ238をこのように分割することでいくつかの利点がある。フィルタ238aが取り除かれ、また全体のフィルタ238がクリッパ254の後(つまり、フィルタ238bの位置)に位置する場合、音声入力信号上の15kHz上の成分は上記したチッキング挙動に類似した広帯域圧縮ユニット280内での不安定性の原因となる。これは、ライン239上の15kHz以上のいずれかの信号成分は乗算器434(図5に示した)により増幅され、またこの成分がクリッパ254(図3に示した)の後のローパスフィルタによりフィルタ処理つまり濾波することにより生じる。検出器450は、それが信号の存在を検出したときには、乗算器434の利得を増大するので、乗算器434の利得はライン239上の信号が音声信号(15kHzより下の)情報を殆ど含まず高周波(15kHzより大きい)を著しく含むときには比較的大きくなる。乗算器434は次いで高周波情報を増幅し、これにより処理セクション230内の構成要素によりクリップされるようになる大きな信号を発生する。このクリッピングにより、先に説明したようにシステムがチックする原因となる、低周波の偽信号である高調波を発生する。あるいは、フィルタ238bが取り除かれた場合には、全体のフィルタ238が固定プリエンファシスフィルタ232aの前(つまり、フィルタ238aの位置)に位置され、その場合には、クリッパ254により発生された高周波アーチファクトが符号化された差信号内に含まれ、また複合信号内のパイロット信号と干渉してしまう。このため、図示した分割フィルタ238により最適な構成を提供でき、フィルタ238aは圧縮ユニット280内のチッキングを防止し、またフィルタ238bはクリッパ154により発生される高周波アーチファクトをフィルタ処理する。
【0077】
固定エンファシスフィルタ232は同様に、好ましくは図3に示したように2つのフィルタ232a、232bに分割される。フィルタ232は一般的には、BTSC規格において特定されるように、高周波で比較的大きな利得を必要とし、またフィルタ232を構成するために単一のセクションだけを使用することはフィルタ232がクリッピングを生じる尤度を増大させる。広帯域圧縮ユニット280(フィルタ232aを備えた)の入力側のフィルタ232の利得のいくつかを適用し、また広帯域圧縮ユニット280(フィルタ232bを備えた)の出力側でフィルタの利得のいくつかを適用することは好適である。ユニット280は通常はその入力信号を圧縮するので、ユニット280により提供される圧縮の周辺でフィルタ232の利得を乱すことは、フィルタ232の利得がオーバフロー状態となる尤度が低減する。
【0078】
大きさ、電力消費、およびコストを最小限とするため、エンコーダ200は好ましくは単一のデジタル信号処理チップを使用して実施される。エンコーダ200は公知のMotorola DSP 56002デジタル信号処理チップを使用して首尾よく実施される(この実施を以下に「DSP実施形態」と称する)。Motorola DSP 56002は固定小数点の24ビットチップであるが、浮動少数点チップ、あるいは他のワード長を有する固定少数点チップのような他のタイプの処理チップも当然使用することができる。エンコーダのDSP実施形態は、パイロット周波数fHの3倍に等しいサンプリング周波数fs(つまり、fs=47202Hz)を使用している。以下の表1に、可変エンファシスフィルタ560において使用されるものを除いた、エンコーダ200のDSP実施形態において使用される全てのフィルタ係数を表にした。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2−1】
【0081】
【表2−2】
【0082】
エンコーダ200のDSP実施形態において、広帯域圧縮ユニット280内の平均化装置454(図5に示される)により使用される定数αの値は0.0006093973517に設定され、また定数βの値はスペクトル圧縮ユニット290内の平均化装置554(図6に示された)により使用され、また0.001825967に設定される。さらに、スペクトルおよび広帯域圧縮ユニット内の増幅器540および446により使用される利得Cおよび利得Dの値は、エンコーダ200のDSP実施形態をエンコーダ100と類似して機能させるため、それぞれ0.5011872および0.08984625に等しく設定される。
【0083】
図7はエンコーダ200のDSP実施形態内の可変エンファシスフィルタ560(図6に示されている)により使用されている全てのフィルタの係数のセットを予め計算するための1つの好ましい方法を示したフローチャートである。エンコーダ200の動作の前に、フィルタ560により使用される全てのフィルタの係数のセットが予め計算され(つまり、汎用デジタルコンピュータにより)、またLUT562内にロードされる。エンコーダ200のDSP実施形態において、フィルタ560は式(6)により記述された伝達関数H(z)を有し、よってフローチャートは係数b0 、b1 、a1 の計算を説明している。BTSC規格により特定されているように、フィルタ560が部分的に対応するアナログフィルタ136(図1に示された)の伝達関数S(f,b)は、以下の式(7)により示される式により記述され、下式においてFは20.1kHzに等しい。
【0084】
【数7】
【0085】
フローチャート700における第1のステップは、初期化ステップ710であり、この間にいくつかの変数が初期化される。特に、サンプリング周波数fs が47202Hzに等しくセットされ、また周期Tが1/fs に等しくセットされる。変数Wは式(7)における変数Fのデジタル版であり、またπ(20.1kHz)/fs に等しくセットされる。変数dBRANGEはスペクトル圧縮ユニット内のRMS検出器の所望の信号範囲を表し、またDSP実施形態のdBRANGEは72.25dBに等しくセットされる。変数dBRESは符号化された差信号のエネルギーレベル内の変化に対するフィルタ560の感度に関連している。エンコーダ200のDSP実施形態においては、dBRESは0.094dBに等しくセットされ、、フィルタ560は0.094bBに最も近く量子化されたライン558a上の信号の値に基づいて係数を使用する。変数Nはフィルタ560内で使用されたフィルタ係数のセットの全部の数に等しく、またNは範囲(dBRANGE)で感度(bBRES)を割り、また最も近い整数に丸めることにより計算される。DSP実施形態において、Nは768に等しいが、当業者はこの数は感度あるいは範囲の変化により変えられることは自明である。DSP実施形態において、LUT562はフィルタ560に対して796の係数のセットを記憶し、また当然であるがNが増大した場合、フィルタの係数の余剰のセットを記憶するためにより大きなLUTが使用される。さらに、対数発生器558はライン558a上の信号をスケールつまり位取りし、またこれによりLUT562により、ライン558a上の信号の値の所定の最小の量子化のために、記憶されるフィルタ係数のセットの数を減じることは当業者には自明である。しかしながら、他の実施形態において、対数発生器558は削除され、またLUT562がフィルタの係数のセットの対応する大きな数を記憶する。最後に、変数ScaleおよびAddressがそれぞれ32およびゼロに等しくセットされる。固定小数点の実施においてのみ使用される、変数Scaleは、全てのフィルタの係数が負の1以上でありまた1より小さい値を有するように選択される(フィルタの係数が2つの補数で表される場合)。
【0086】
初期化ステップ710に続いて、係数発生ステップ720が実行される。ステップ720の最初の実行の間、LUT562のアドレス位置ゼロに記憶される係数b0 、b1 、およびa1 の値に対応する変数b0(0)、b1(0)、およびa1(0) が計算される。このステップ720の実行に続いて、増分ステップ730が実施され、この間に変数Addressの値が増分される。ステップ730に続いて、比較ステップが実行され、この間に変数AddressおよびNが比較される。AddressがN以下の場合には、ステップ720、730、および740が繰り返し再実行され、LUT562の796のアドレスのそれぞれに対してb0 、b1 、およびa1 が計算される。ステップ740においてアドレスの値がNより大きいことが検出された場合、係数のすべての769のセットが計算され、またフローチャート700の実行が終結ステップ750まで進む。
【0087】
係数発生ステップ720において、変数dBFSは対数発生器558の出力に対応する。変数Addressの値がゼロから769までの範囲であるので、dBFSの値は、エンコーダ200のDSP実施形態により提供される約72.25dBの信号範囲に対応して約−72.25からゼロdBまでの範囲である(ゼロdBは全変調に対応する)。変数RMSdはアナログRMSレベル検出器144(図1に示されている)の出力に対応し、また変数Addressがゼロから769までの範囲であるので、RMSdの値は、一般的な従来技術のアナログBTSCエンコーダにより提供される72dBの信号範囲に対応する約−36から36dBの範囲である。変数RMSbは変数RMSdの線形バージョンであり、またRMSbは式(7)に記述された伝達関数S(f,b)内の変数bに対応する。変数K1およびK2は、式(7)内の(b+51)/(b+1)および(51b+1)/(b+1)の項にそれぞれ対応する。係数b0 、b1 、およびa1 は、変数K1、K2、W、およびScaleを使用してステップ720に示されたように計算される。
【0088】
図8Aは、アナログシステム内のDSP実施形態を使用する1つの方法を例示したブロック図であり、また図8Aにおいて、56002集積回路内で実施された全ての構成要素は200aで示されている。アナログシステムはアナログ左および右チャンネル音声入力信号(図8Aにおいて「L」および「R」でそれぞれ示されている)を供給し、またこれらの信号は16ビットアナログ−デジタル変換器810および812の入力にそれぞれ加えられる。変換器810、812は47,202Hz(つまり、3fH )に等しいサンプリング周波数fs を使用してそれらのアナログ入力信号をサンプリングし、これにより、左および右チャンネル音声入力信号の表す16ビットのデジタルサンプルのシーケンスをそれぞれ発生する。変換器810および812により発生された信号はエンコーダ200aに加えられ、ここでこれらの信号はモジュール292、294によりそれぞれ受信される。モジュール292、294は「16により割り算する」モジュールであり(それらの入力の振幅を16のファクターにより割る)、またこれにより16により割り算したそれらの入力信号に等しい出力信号を発生する。2の累乗による割り算はデジタルシステムにおいてはシフトレジスタを使用して容易に実施できるので、モジュール292、294はそれらの入力を4つの2進位置によりシフトするシフトレジスタとして実施される。
【0089】
上記したように、56002チップは固定小数点の24ビットプロセッサであり、また変換器810、812によりチップに加えられるサンプルは2の補数を表している。モジュール292、294は変換器810、812により発生されたサンプルを16により割り算し、またこれによりサンプルのそれぞれを24ビットワードの中間に位置させる。よって、モジュール292、294により発生された各サンプルにおいて、4つの最上位ビットは符号ビットであり、また4つの最下位ビットはゼロであり、またワードの中間の16のビットは変換器810、812の1つにより発生された1つのサンプルに対応する。このように各24ビットワードに高位の端に符号ビットをまた低位の端にゼロを付けることで、精度が確保され、またエンコーダ200aにより発生された中間の信号がオーバフローのような誤り条件を起こすことなしに16ビットを越えることができる。
【0090】
エンコーダ200aにおいて、各24ビットワードは信号範囲の6bBに略対応し、またこのため、モジュール292、294は−24dB(つまり、負の6X4)の減衰に対応する。変換器810、812に加えられるアナログ入力信号がゼロdB信号としての基準の目的のためであると考えると、モジュール292、294により発生された信号は24dBだけ減衰される。
【0091】
入力セクション210は、モジュール292、294により発生された24ビットワードを受信し、またこれから、和チャンネル処理セクション220に加えられる和信号を発生する。和チャンネル処理セクション220により発生された出力信号は「16倍モジュール」296(24dBの増幅器と見なされる)に加えられる。モジュール296は、これにより、24dBの減衰器292、294を補償し、また和チャンネル処理セクション220の出力を100%変調にする(つまり、「フルスケール」に戻す)。モジュール296により発生された出力信号は、アナログ条件付けされた和信号を発生する16ビットのデジタル−アナログ変換器814に加えられる。
【0092】
入力セクション210は同様に、差チャンネル処理セクション230に加えられる差信号を発生する。上記したように、モジュール292、294により、差信号は24dB減衰されたものと見なされる。エンコーダ200aのDSP実施形態において、差チャンネル処理セクション230のクリッパ254(図3に示されている)は18dBの増幅器(これは8の掛け算により実施される)を含んでいる。つまり、クリッパ254は固定エンファシスフィルタ232bにより発生された信号を18dBだけ増幅し、また次いで、クリッパ254により発生された出力信号が全変調から6dB下の数を越えることないように、この増幅された信号をクリップする。クリッパ254からローパスフィルタ238bに加えられる信号は、このため、1ビット(つまり6dB)の「空き空間」(headroom)があり、よってフィルタ238bは飽和することなしにその入力信号より6dB大きな出力信号を発生する。フィルタ238bの過渡応答が瞬間入力信号よりも大きな瞬間出力信号を一時的に発生する原因となるリンギングを含んでおり、空き空間によりフィルタ238b内のリンギングにより飽和状態となることが防止されることから、この1ビットの空き空間を残すことが好ましい。図8Aを再度参照して、フィルタ238bにより発生された出力信号は、6dBのアナログ増幅機820に加えられる出力信号を発生する、16ビットのデジタル−アナログ変換器に加えられる。D/A変換器814および816はいずれも完全な変換器であり、その機能の一部として公知のアナログアンチイメージフィルタ(analog anti image filter)を含んでいる。アンチイメージフィルタは、デジタルからアナログへの変換に続いてアナログ信号に加えられるアナログフィルタであり、サンプル周波数およびその倍数の周囲でミラーされた所望の信号の何等かのイメージを減衰するために機能する。変換器814および816は互いに実質的に同じであり、お同じサンプル速度で動作し、また実質的に同じアンチイメージフィルタを含んでいると仮定される。このような変換器は一般的には、Crystal Semicoductor CS4328のような、市販の実施形態で入手可能である。増幅器820はその入力を6dBだけ増幅して、その符号化された差信号をフルスケールに戻す。図8Aは、アナログ音声信号を受信するためにアナログ−デジタル変換器810、812に接続されたエンコーダ200aを示したが、デジタルシステムにおいては変換器810、812は当然であるが削除され、エンコーダ200aはデジタル音声信号を直接的に受信する。
【0093】
図8Bには本発明にしたがって構成されるとともにアナログシステムの一部として構成されたBTSCエンコーダ200bの1つの好ましい実施形態のブロック図を示した。エンコーダ200bはエンコーダ200aと類似しているが、エンコーダ200bにおいてはモジュール296はその入力を、エンコーダ200aのように24dBではなしに、18dB(8を乗算することにより)だけ増幅している。モジュール296により発生された出力信号は、条件付けされた和信号のスケーリングされたものであり、図8BにSとして示した。同様に、エンコーダ200bは差チャンネル処理セクション230により発生された出力信号を6dBだけ(2を乗算することにより)増幅するためのモジュール298を含んでいる。モジュール298により発生された出力信号は符号化された差信号のスケーリングされたものであり、また図8BにDとして示されている。さらに、エンコーダ200bは信号SおよびDを受信するとともにこれから複合信号のデジタルバージョンを発生するための複合変調器822を含んでいる。変調器822により発生されたデジタル複合信号は、その出力が複合信号のアナログバージョンであるデジタル−アナログ変換器818に加えられる。D/A変換器818は、その機能の一部として上記したアナログアンチイメージフィルタを含む完全な変換器を意図している。このような変換器は、Burr Brown PCM1710 のような、市販の実施形態で一般的に利用可能である。好ましい実施形態において、モジュール292、294、入力セクション210、和チャンネル処理セクション220、差チャンネル処理セクション230、モジュール296、298、および複合変調器822は全て単一のデジタル信号処理チップ上で実施される。
【0094】
複合信号は一般的にエンコーダ200b内のデジタル信号として発生されるので、モジュール298は、デジタル−アナログ変換後まで待つのではなくて差チャンネル処理セクション230により発生された出力信号をフルスケールにするために含まれ、また図8Aに示されたように増幅器820のようなアナログ増幅器を使用している。同様に、複合信号においては条件付けされた和信号は50%変調で使用されるので、モジュール296はその入力信号を18dBだけ増幅し、モジュール296により発生された出力信号はモジュール298により発生された出力信号の振幅の半分である。
【0095】
図9は複合変調器822の1つの実施形態のブロック図である。変調器822は2つの補間回路910、912、2つのデジタルローパスフィルタ914、916、デジタル信号乗算器918、および2つのデジタル信号加算器920、922を含んでいる。S信号およびD信号は補間回路910および912のそれぞれの入力に加えられる。補間回路910、912は、「アップサンプラー」とも称され、それらの入力に加えられた各2つの連続したサンプルの間で新しいサンプルを補間し、これにより、入力信号Sおよび入力信号Dのサンプリング周波数の2倍の出力信号を発生する。補間回路910および912により発生された出力信号はローパスフィルタ914および916の各入力に加えられる。フィルタ914および916は補間回路910、912により信号Sおよび信号Dに導入されたイメージを取り除く。フィルタ916により発生されたフィルタ処理された出力信号は信号乗算器918の入力に加えられ、またcos[4π(fH/(fs)n]の関数としてのデジタル発振信号が乗算器918の他の入力に加えられる。乗算器918はこれにより、複合信号内で使用される、振幅変調され、両側波帯の、抑止されたキャリアバージョンの差信号を発生する。乗算器918により発生された出力信号は信号加算器920の1つの入力に加えられ、またフィルタ914により発生されフィルタ処理された出力信号は信号加算器920の他の入力に加えられる。信号加算器920は、その入力に存在する2つの信号を加算することで出力信号を発生し、またこの信号を信号加算器922に加える。Acos[4π fH/fs n ]の関数(「A」はフルスケール変調の10%を表す定数)として発振するトーン信号は、その入力に存在する2つの信号を加算することによりデジタル複合信号を発生する信号加算器922の他の入力に加えられる。
【0096】
複合変調器822は、複合信号内の最も高い周波数成分が3fH よりもやや小さく(図2に示されているように)、このため、信号変調器918および信号加算器920の入力に加えられる信号がナイキスト基準を満足するために少なくとも6fH のサンプル速度を持たなければならないので、周波補間回路910、912を含んでいる。複合変調器822の出力におけるサンプル速度が一般的にはS信号あるいはD信号のいずれかのサンプル速度より大きいので、D/A変換器818はこのようなより大きなサンプル速度で動作できなければならない。複合変調器822に加えられる入力信号SおよびDが3fH のサンプル速度を有する場合には、サンプル速度を2倍にするために何等かの形の補間(補間回路910、912により提供されるような)を行わなければならない。当然であるが、エンコーダ200bを通じて十分に大きなサンプル速度が使用される場合には、補間回路910、912およびローパスフィルタ914、916は変調器822から取り除かれる。
【0097】
図8Cは本発明によるBTSCエンコーダ200cの他の実施形態のブロック図である。エンコーダ200cはエンコーダ200b(図8Bに示されている)と類似しているが、エンコーダ200cにおいてはモジュール298が削除されて差チャンネル処理セクションにより発生された信号は信号Dであり、信号Dは複合変調器822に直接的に加えられる。さらに、エンコーダ200cにおいて、モジュール296はその入力信号を、エンコーダ200bにおいて行われた18dBではなくて、12dBだけ増幅する(4を乗算することにより)。よって、エンコーダ200cにおいては、信号SおよびDはエンコーダ200b内のこれらの信号のレベルから6dBだけ下がっている。複合変調器822はこれらの信号から6dBだけ減衰された複合信号のバージョンを発生する。複合信号のこの減衰されたバージョンはデジタル−アナログ変換器818によりアナログ信号に変換され、また次いで6dBアナログフィルタ820によりフルスケールに上げられる。エンコーダ200bのように、エンコーダ200cは好ましくは単一の信号処理チップを使用して実施される。
【0098】
エンコーダ200bと200cとの間の差はデザインの交換を表している。当業者には、デジタル−アナログ変換器でデジタル信号をアナログ信号に変換するときに、変換の結果生じる信号対ノイズ比の損失を最小限にするために、デジタル信号がフルスケールであることを確保することは自明である。エンコーダ200bは、モジュール296、298を使用して変換器818に加えられる複合信号(変調器822により発生された)のデジタルバージョンを確保することで変換器818の動作の結果としての信号対ノイズ比の損失を最小にしている。しかしながら、変換器200bは変換記818の結果として生じる信号対ノイズ比の損失を最小にするが、エンコーダ200bは同様に複合信号内で生じるクリッピングの尤度を増大している。差チャンネル処理セクション230は固定プリエンファシスフィルタ232(図3に示された)により提供される比較的大きな利得を使用しているので、符号化された差信号の経路内にくつかのクリッピングが生じる可能性がある。エンコーダ200bはD信号をフルスケールまで上げるためのモジュール298を使用しており、またこれによりD信号の信号経路から空き空間が実質的に取り除かれ、このためにいくつかのクリッピングが生じることがある。よって、エンコーダ200bは、符号化された差信号内のクリッピングの尤度を増大することを犠牲として変換器818の結果としての何等かの信号対ノイズ比の損失を最小にしている。対照的に、エンコーダ200cは符号化された差信号の経路内の空き空間を保存し、これにより、変換器818の動作の結果として生じる信号対ノイズ比の損失の増大を犠牲としてクリッピングの尤度を減じている。
【0099】
図8Dは、本発明にしたがって構成されたBTSCエンコーダ200dのさらに別の実施形態のブロック図である。エンコーダ200dはエンコーダ200a(図8Aに示された)と類似しているが、エンコーダ200dはさらに複合変調器の部分822aを含んでいる。部分822aは2つの補間回路910、912、2つのローパスフィルタ914、916、デジタル信号乗算器918およびデジタル信号加算器930を含んでいる。モジュール296により発生されたS信号は、S信号を「アップサンプル」するとともにアップサンプルされた信号をローパスフィルタに加える、補間回路910に加えられる。フィルタ914はこの信号をフィルタ処理し、またフィルタ処理された信号を加算器930の入力端子の1つの加える。通常の振幅の2倍のもの(つまり、2Acos2π fH/fs n)は、その入力端子に存在する2つの信号を加算することにより出力信号を発生する、加算器930の他の入力端子に加えられる。差チャンネル処理セクション230により発生されたD信号は、ローパスフィルタ916に加えられるアップサンプルされた信号を発生する補間回路912に加えられる。フィルタ916はこの信号をフィルタ処理し、またフィルタ処理された信号を乗算器918の1つの端子に加える。cos4π fH/fs n にしたがって発振された信号は、その入力端子に存在する2つの信号を乗算することにより出力信号を発生する乗算器918の他の端子に加えられる。エンコーダ200a−cのように、エンコーダ200dは好ましくは単一のデジタル信号処理チップを使用して実施される。
【0100】
エンコーダ200dは好ましくは2つのデジタル−アナログ変換器932、934、アナログ−6dB減衰器936、アナログ6dB増幅器938、およびアナログ加算器940を組み合わせて使用される。加算器930により発生された出力信号は、減衰器936に加えられるアナログ信号を発生する変換器932に加えられる。乗算器918により発生された出力信号は、増幅器938に加えられるアナログ信号を発生する変換器934に加えられる。減衰器936および増幅器938により発生された信号は、これらの信号を加算してアナログ複合信号を発生する信号加算器940の入力端子に加えられる。D/A変換器932および934は、それらの機能の一部としてのアナログアンチイメージフィルタを含む完全な変換器であることを意図している。変換器932および934は互いに実質的に同じであり、同じサンプル速度で動作し、また実質的に同じアンチイメージフィルタ処理を含むものであると仮定される。このような変換器は、一般的には、Burr Brown PCM1710のような、市販の実施形態として入手可能である。
【0101】
図8Dから補間回路932およびローパスフィルタ914を除き、またD/A変換器932を和チャンネル処理セクション220と等しいサンプル速度で動作させることも可能である。しかしながら、これを行うためには安価でなく、一般的に入手可能なD/A変換器は通常の単一の集積回路内に対で収容されているので実用的ではない。このような対のD/A変換器は当然のことながら同じサンプル速度で動作する。補間回路910およびローパスフィルタ914を図8Dから取り除くことによりDSPの複雑さを減じることは可能であるが、単純なD/A変換器はD/A変換器932および934の両方に対して使用することができないので、これを行うことは、コストおよび全体のデザインの複雑さが増大してしまう。
【0102】
エンコーダ200dはエンコーダ200bおよび200cの特徴の1つの組み合わせを表す。エンコーダ200dは、変換器932の動作の結果として生じる信号対ノイズ比の損失を最小とするために、S信号をフルスケールまで上げるためにモジュール296を使用している。エンコーダ200dは同様にD信号の信号経路内の6dBの空き空間を保存しており、このため、クリッピングによる精度の損失の尤度が低減される。エンコーダ200dはエンコーダ200bおよび200cのいずれよりも多くの構成要素を含んでいるが、エンコーダ200dは両方共に信号対ノイズ比の損失およびクリッピングの尤度を最小にする。
【0103】
図10は、エンコーダ200(およびこれらのセクション220a、230aはもちろんエンコーダ200a−dにおいても使用される)において使用される、和チャンネル処理セクション220aおよび差チャンネル処理セクション230aの好ましい実施形態のブロック図である。処理セクション220a230aは上記の所望のセクション220、230と類似しているが、セクション220aはさらに動的位相等化フィルタ1010をさらに含んでおり、またセクション230aはさらに動的位相等化フィルタ1012をさらに含んでいる。例示した実施形態においては静的位相等化フィルタ228および固定エンファシスフィルタ232aにより発生された出力信号は動的位相等化フィルタ1010および1012入力端子にそれぞれ加えられ、また対数発し器558により発生されたライン558a上の信号はフィルタ1010、1012の制御端子に加えられる。フィルタ1010および1012により発生された出力信号はローパスフィルタ224および広帯域圧縮ユニット280にそれぞれ加えられる。
【0104】
動的位相等化フィルタ1010、1012は、スペクトル圧縮ユニット290において使用される可変エンファシスフィルタ560により導入される位相エラーを補償するために使用される。可変エンファシスフィルタ560の位相応答は、可変エンファシスフィルタ136(図1に示される)の位相応答とできるだけ合致することが好ましい。しかしながら、可変エンファシスフィルタ136の可変の、信号依存の特性により、信号レベルとともに変化する、全てのプリエンファシス/デエンファシス特性に対して可変エンファシスフィルタ560のものとその位相応答が合致するように可変エンファシスフィルタ560を設計することは極めて困難である。このため、エンコーダ200の典型的な実施形態においては、可変エンファシスフィルタ560および可変エンファシスフィルタ136の位相応答は信号レベルの関数として発散している。動的位相等化フィルタ1010、1012は好ましくは、可変エンファシスフィルタ560および可変エンファシスフィルタ136の間の発散を補償するために和および差チャンネル処理セクション内に補償的な位相エラーを導入する。
【0105】
動的位相等化フィルタ1010、1012はこのため、静的位相等化フィルタ228により行われるのと類似した機能を実行する。しかしながら、符号化された差信号のレベルとは無関係である位相エラーをフィルタ228が補償する一方、フィルタ1010、1012はこの信号レベルに依存した位相エラーを補償する。フィルタ1010、1012は、比較的平坦な振幅応答および選択された位相応答を有する「全てを通過する」フィルタとして好ましくは実施される。可変エンファシスフィルタ560により導入される位相エラーを補償するために和あるいは差チャンネルのいずれかで位相遅延が必要であることから、動的位相等化フィルタは和および差処理セクションの両方に含まれる。好ましい実施形態において、フィルタ1010、1012は可変エンファシスユニット536と同じ態様で実施され、また可変係数伝達関数およびいずれかの特定の間隔の間にフィルタ係数の値を選択するためのLUTを有するフィルタを含んでいる。ライン558a上で対数発生器558により発生された信号は、好ましくは、フィルタ1010、1012の制御端子に加えられ、またこれらのフィルタにより使用されるフィルタ係数を選択する。
【0106】
デジタルエンコーダ200を特定の実施形態に関して説明したが、本発明の範囲内でこれらの実施形態の変形が包含されることは当業者には自明である。例えば、可変エンファシスユニット536(図6に示された)を可変エンファシスフィルタ560およびLUT562を使用して実施することについて説明した。しかしながら、フィルタ560に対する全ての可能な係数を予め計算しこれらをLUT562内に記憶させる代わりに、他の実施形態においてはLUT562を省きその代わりにリアルタイムでフィルタ係数を計算するための構成要素を可変エンファシスユニット536内に含ませることもできる。このような考察はメモリ資源(フィルタ係数を記憶するためのLUTにより使用されるもののような)と計算資源(フィルタ係数をリアルタイムで計算するための構成要素により使用されるもののような)との間の交換を表し、またエンコーダ200の特定の実施における異なる解決手法を提供するものである。同様な考察は、メモリ資源(例えば、値を全て記憶するためのLUT)あるいは処理資源(例えば、テイラー吸数多項式近似を計算するためのもの)のいずれかを使用する、平方根装置456および556、逆数発生器458、および対数発生器558(図5および図6に示されている)に適用される。さらに別の実施形態において、エンコーダ200内部のいずれかあるいは全ての構成要素は、個々のハードウェア構成要素を使用して、あるいは汎用あるいは特定用途のコンピュータ上で実行されるソフトウェアとして実施される。
【0107】
本発明の内に包含されるエンコーダ200の他の変形の例は、スケーリングモジュール292、294(図8Bに示される)に関するものである。これらのモジュールはエンコーダ200の固定小数点の実施形態に特に関連している。浮動少数点実施形態においては、オーバフローを防止するために各サンプルをゼロおよび符号ビットでパッドする必要はなく、またこれらのモジュールはよって浮動少数点の実施形態では省かれる。さらに別の例として、静的位相等化フィルタ228(図10に示される)はフィルタ232aにより導入された位相エラーを補償する点について説明したが、フィルタ228は差チャンネル処理セクション230aにおける他の構成要素により導入される他の位相エラーを補償するために使用することもできる。さらに、フィルタ228および1010は単一のフィルタとして実施できる。
【0108】
本発明の範囲を逸脱することなしに特定の変更が上記の装置において可能であるので、上記で説明しまた添付図面に図示された全ての事項は例示的なものであり、限定的なものではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルBTSCエンコーダにおいて、
(A)デジタル左チャンネル音声信号を受信するため、および前記デジタル左チャンネル音声信号をデジタル的にハイパスフィルタ処理してこれによりデジタル左フィルタ処理された信号を発生するための左ハイパスフィルタ手段を含み、
(B)デジタル右チャンネル音声信号を受信するため、および前記デジタル右チャンネル音声信号をデジタル的にハイパスフィルタ処理してこれによりデジタル右フィルタ処理された信号を発生するための右ハイパスフィルタ手段を含み、
(C)前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号を受信するためのマトリックス手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号を加算してデジタル和信号を発生するための手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号の一方から前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号の他方を減算しこれによりデジタル差信号を発生するための手段を含み、
(D)前記デジタル差信号をデジタル的に処理するための差チャンネル処理手段を含み、
(E)前記デジタル和信号をデジタル的に処理するための和チャンネル処理手段を含んでなるエンコーダ。
【請求項2】
前記左および右ハイパスフィルタ手段が50Hz以下のカットオフ周波数であることを特徴とする請求の範囲第1記載のエンコーダ。
【請求項3】
前記左および右ハイパスフィルタ手段が、通過帯域であり、また前記通過帯域において実質的に平坦な応答であることにより特徴付けられる請求の範囲第2記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項4】
デジタルBTSCエンコーダにおいて、
(A)アナログ左チャンネル音声信号を受信するため、およびN×15,734Hzに実質的に等しいサンプリング周波数で前記アナログ左チャンネル音声信号をサンプリングしこれによりデジタル左信号を発生するための左チャンネルサンプリング手段を含み、Nは3以上の整数であって、
(B)アナログ右チャンネル音声信号を受信するため、およびN×15,734Hzに実質的に等しいサンプリング周波数で前記アナログ右チャンネル音声信号をサンプリングしこれによりデジタル左信号を発生するための左チャンネルサンプリング手段を含み、
(C)前記デジタル左およびデジタル右信号を受信するためのマトリックス手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右信号を加算してデジタル和信号を発生するための手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右信号の一方から前記デジタル左およびデジタル右信号の他方を減算しこれによりデジタル差信号を発生するための手段を含み、
(D)前記デジタル差信号をデジタル的に処理するための差チャンネル処理手段を含み、
(E)前記デジタル和信号をデジタル的に処理するための和チャンネル処理手段を含んでなるエンコーダ。
【請求項5】
前記デジタル左および右信号をハイパスフィルタ処理するためのデジタルハイパスフィルタ手段をさらに含む請求の範囲第3記載のエンコーダ。
【請求項6】
デジタルBTSCエンコーダにおいて、
(A)デジタル左チャンネル音声信号およびデジタル右チャンネル音声信号を受信するためのマトリックス手段を含み、および前記デジタルチャンネル左および右チャンネル音声信号を加算してデジタル和信号を発生するための手段を含み、および前記デジタル左および右チャンネル音声信号の一方から前記デジタル左および右チャンネル音声信号の他方を減算しこれによりデジタル差信号を発生するための手段を含み、
(B)前記デジタル差信号をデジタル的に処理するための差チャンネル処理手段を含み、前記デジタル処理は前記デジタル差信号に第1の位相エラーを導入し、
(C)前記デジタル和信号をデジタル的に処理するための和チャンネル処理手段および前記デジタル和信号に第2の位相エラーを導入するための手段を含み、これにより前記デジタル差信号内に導入された第1の位相エラーを補償するエンコーダ。
【請求項7】
適応型デジタル信号重み付けシステムであって、前記システムを通る所定の帯域幅の電気情報信号を送信するための信号経路を含み、前記システムがさらに、
第1の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅内の第1の選択スペクトル領域内で前記情報信号の一部に印加された利得を変化させるための前記信号経路内に配置されたデジタルフィルタ手段を含み、前記第1の可変利得ファクターは第1の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記第1の選択スペクトル領域の少なくとも一部を含む第2の選択スペクトル領域内で前記情報信号の信号エネルギーにしたがってこれに応答して前記第1の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含み、
第2の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅を実質的に通って前記情報信号上で印加された信号利得を変化するために前記デジタルフィルタ手段に接続された前記信号経路内に配置されたデジタル利得制御手段を含み、および
前記所定の帯域幅内の第3の選択スペクトル領域の実質的に内部で前記情報信号の信号エネルギーの関数としてこれに応答して前記第2の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含んでなるシステム。
【請求項8】
所定の帯域幅の電気情報信号を符号化するためのデジタルシステムであって、前記所定の帯域幅の少なくとも1つの他のスペクトル領域よりも第1のスペクトル領域内でより狭い動的に制限された部分を有する動的に制限された、周波数依存のチャンネルを通って前記情報信号が送信されあるいはこのチャンネル上に記録され、前記システムが
前記情報信号を受信するための入力手段を含み、
前記入力手段において受信された前記情報信号を送信するために前記入力手段に接続された信号送信経路を含み、
前記システムにより符号化されたものとして前記情報信号を提供するために前記信号送信経路を通って前記入力手段に接続された出力手段を含み、
前記所定の帯域幅を実質的にわたって前記情報信号上に加えられた信号利得を変化するために前記信号経路に接続されたデジタル利得制御手段を含み、前記信号利得は第1の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記情報信号の残りの部分に対して前記部分をプリエンファシスするために実質的に前記第1のスペクトル領域内の前記情報の一部上に第2の可変利得を印加するために前記信号経路および前記デジタル利得制御手段に接続されたデジタルフィルタ手段を含み、前記第2の可変利得は第2の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記所定の帯域幅の実質的に第2のスペクトル領域内の前記情報信号の信号エネルギーの関数としてこれに応答して前記第1の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含み、および
前記第1のスペクトル領域の少なくとも一部を含む前記所定の帯域幅の第3のスペクトル領域内の前記情報信号の信号エネルギーにしたがってこれにのみ応答して前記第2の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含んでなるシステム。
【請求項9】
適応型デジタル信号重み付けシステムにおいて、
前記システムを通って所定の帯域幅の電気情報信号を送信するための信号経路を含み、 前記情報信号をフィルタ処理するための可変係数デジタルフィルタ手段を含み、
前記フィルタ処理は可変係数伝達関数により特徴付けられ、また前記フィルタ処理は第1の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅内の第1の選択スペクトル領域内の前記情報信号の一部に印加された利得を変化させ、前記可変係数伝達関数および前記第1の可変利得ファクターは第1の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記第1の選択スペクトル領域の少なくとも一部を含む第2の選択スペクトル領域内の前記情報信号の信号エネルギーにしたがってこれのみに応答して前記第1の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含み、
第2の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅を実質的にわたって前記情報信号上に印加された信号利得を変えるために前記可変係数デジタルフィルタ手段に接続され前記デジタル信号経路内に配置されたデジタル利得制御手段を含み、前記第2の可変利得ファクターは第2の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、および
前記所定の帯域幅内で実質的に第3の選択スペクトル領域内で前記情報信号の信号エネルギーの関数としてこれに応答して前記第2の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含んでなるシステム。
【請求項10】
前記和チャンネル処理手段および前記差チャンネル処理手段が共に単一の集積回路上で実施される請求の範囲第1記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項11】
前記デジタル左および右チャンネル音声信号が実質的にN×15,734Hzに等しい
サンプリング周波数でデジタル的にサンプリングされた信号であり、Nは3以上の整数である請求の範囲第1記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項12】
前記差チャンネル処理手段が、
(A)前記デジタル差信号を受信するための差入力手段を含み、
(B)符号化された差信号を提供するための差出力手段を含み、
(C)前記差入力手段および前記差出力手段に接続された差信号送信経路を含み、および前記デジタル差信号から前記符号化された差信号を発生するための手段を含んでなる請求の範囲第1記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項13】
前記差チャンネル処理手段が、前記差信号送信経路からスペクトル圧縮入力信号を受信するため、および前記符号化された差信号のエネルギーレベルの関数にしたがって前記スペクトル圧縮入力信号を圧縮し、これによりスペクトル圧縮出力信号を発生するためのスペクトル圧縮手段を含み、および前記差信号送信経路に前記スペクトル圧縮出力信号を印加するための手段を含む請求の範囲第12記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項14】
前記スペクトル圧縮手段が、第1の選択スペクトル部内の前記符号化された差信号の第1のエネルギーレベルを測定するため、および前記第1のエネルギーレベルを表す第1の制御信号を発生するための手段を含む請求の範囲第13記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項15】
前記スペクトル圧縮手段が、前記スペクトル圧縮入力信号を受信しデジタル的にフィルタ処理しこれにより前記スペクトル圧縮出力信号を発生するための可変エンファシスフィルタを含み、前記可変エンファシスフィルタにより提供されるフィルタ処理は複数の係数を含む伝達関数により特徴付けられ、前記スペクトル圧縮手段は前記第1の制御信号の関数にしたがって前記複数の係数を選択するための手段をさらに含む請求の範囲第14記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項16】
前記複数の係数を選択するための前記手段がメモリルックアップテーブルを含む請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項17】
前記複数の係数を選択するための前記手段が前記第1の制御信号を受信し対数的に圧縮しこれにより対数的に圧縮された信号を発生するための対数発生器手段を含み、および前記対数的に圧縮された信号を前記メモリルックアップテーブルに印加するための手段をさらに含む請求の範囲第16記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項18】
前記複数の係数を選択するための前記手段が前記制御信号の関数として前記複数の係数を計算するための手段を含む請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項19】
前記スペクトル圧縮手段が前記符号化された差信号を表す信号を受信しフィルタ処理しこれによりスペクトル信号を発生するための手段を含み、前記スペクトル帯域フィルタ手段による前記フィルタ処理は前記第1の選択スペクトル部内の通過帯域により特徴付けられる請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項20】
前記スペクトル圧縮手段は前記スペクトル信号を受信しまたこれから前記第1の制御信号を発生するためのRMSレベル検出器手段を含み、前記第1の制御信号は前記スペクトル信号のRMS値を表す請求の範囲第19記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項21】
前記スペクトル圧縮手段は前記符号化された差信号を受信し増幅しこれにより前記符号化された差信号を表す前記信号を発生するための増幅手段を含む請求の範囲第19記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項22】
前記差チャンネル処理手段は、前記符号化された差信号のエネルギーレベルの関数にしたがって前記広帯域圧縮入力信号を圧縮するために前記差信号送信経路から広帯域圧縮入力信号を受信し、これにより広帯域圧縮出力信号を発生するための広帯域圧縮手段を含み、また前記広帯域圧縮出力信号を前記差し号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項23】
前記スペクトル圧縮入力信号が前記広帯域圧縮出力信号を含んでなる請求の範囲第22記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項24】
前記広帯域圧縮手段が、第2の選択スペクトル部内の前記符号化された差信号の第2のエネルギーレベルを計測するため、および前記第2のエネルギーレベルを表す第2の制御信号を発生するための手段を含む請求の範囲第22記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項25】
前記広帯域圧縮手段が、前記第2の制御信号により制御される利得を使用して前記広帯域圧縮入力信号を受信し増幅しこれにより前記広帯域圧縮出力信号を発生するための手段を含む請求の範囲第24記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項26】
前記広帯域圧縮手段が、前記符号化された差信号を表す信号を受信しフィルタ処理しこれにより広帯域信号を発生するための手段を含み、前記広帯域帯域通過フィルタ手段により提供される前記フィルタ処理は前記第2の選択スペクトル部内の通過帯域により特徴付けられる請求の範囲第25記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項27】
前記広帯域圧縮手段は、前記広帯域信号を受信しこれから前記第2の制御信号を発生するための第2のRMSレベル検出器手段を含み、前記第2の制御信号は前記広帯域信号のRMS値を表す請求の範囲第26記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項28】
前記差チャンネル処理手段は前記差信号送信経路から第1のローパスフィルタ入力信号を受信するための第1のローパスフィルタ手段を含み、および前記ローパスフィルタ出力信号をローパスフィルタ処理しこれにより第1のローパスフィルタ出力信号を発生するための手段を含み、また前記第1のローパスフィルタ出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第22記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項29】
前記差チャンネル処理手段が前記差信号送信経路から第2のローパスフィルタ入力信号を受信するための第2のローパスフィルタ手段を含み、また前記第2のローパスフィルタ入力信号をローパスフィルタ処理しこれにより第2のローパスフィルタ出力信号を発生するための手段を含み、また前記第2のローパスフィルタ出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第28記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項30】
前記和チャンネル処理手段が、
(A)前記デジタル和信号を受信するための和入力手段を含み、
(B)条件付けされた和信号を提供するための和出力手段を含み、
(C)前記和入力手段および前記和出力手段に接続された和信号送信経路を含み、および前記デジタル和信号から前記条件付けされた和信号を発生するための手段を含む請求の範囲第29記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項31】
前記和チャンネル処理手段が前記和信号送信経路から和チャンネルローパスフィルタ入力信号を受信するための和チャンネルローパスフィルタ手段を含み、また前記和チャンネルローパスフィルタ入力信号をローパスフィルタ処理しこれにより和チャンネルローパスフィルタ出力信号を発生するための手段を含み、および前記和チャンネルローパスフィルタ出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第30記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項32】
前記第1および第2のローパスフィルタ手段のカスケード接続により提供されるフィルタ処理が前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段により提供されるフィルタ処理に実質的に類似している請求の範囲第31記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項33】
前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段が15,734Hzにおいてゼロであることにより特徴付けられる請求の範囲第32記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項34】
前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段により提供されるフィルタ処理がゼロと15kHzの間の通過帯域により特徴付けられる請求の範囲第33記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項35】
前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段により提供されるフィルタ処理が15kHzより上のカットオフにより特徴付けられる請求の範囲第34記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項36】
前記差チャンネル処理手段が、前記信号送信経路から第1のプリエンファシス入力信号を受信するための第1の固定プリエンファシスフィルタ手段を含み、また前記第1のプリエンファシス入力信号をフィルタ処理しこれにより第1のプリエンファシス出力信号を発生するための手段を含み、また前記第1のプロエンファシス出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第31記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項37】
前記差チャンネル処理手段が、第2のプリエンファシス入力信号を前記差信号送信経路から受信するための第2の固定プリエンファシスフィルタ手段を含み、また前記第2のプリエンファシス入力信号をフィルタ処理しこれにより第2のプリエンファシス出力信号を発生するための手段を含み、また前記第2のプリエンファシス出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第36記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項38】
前記和チャンネル処理手段が、前記和信号送信経路から75μsプリエンファシス入力信号を受信するための75μsプリエンファシスフィルタ手段を含み、また75μsのプリエンファシス入力信号をフィルタ処理しこれにより75μsプリエンファシス出力信号を発生するための手段を含み、また前記75μsプリエンファシス出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第37記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項39】
前記和チャンネル処理手段が、前記和信号送信経路から静的等化入力信号を受信するための静的等化フィルタ手段を含み、また前記静的等化入力信号をフィルタ処理しこれにより静的等化出力信号を発生するための手段を含み、また前記静的等化出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第38記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項40】
前記プリエンファシスフィルタ手段により提供されるフィルタ処理が第2のプリエンファシス位相応答により特徴付けられ、75μsプリエンファシスフィルタ手段により提供されるフィルタ処理が75μsプリエンファシス位相応答により特徴付けられ、前記第2のプリエンファシス位相応答と第1の基準位相応答の間の差が、前記75μsプリエンファシス位相応答と第2の基準位相応答との間の差に実質的に類似している請求の範囲第39記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項41】
前記第1のプリエンファシスフィルタ手段により提供されるフィルタ処理が第1のプリエンファシス位相応答により特徴付けられ、前記静的等化フィルタ手段により提供されるフィルタ処理が静的等化位相応答により特徴付けられ、前記第1のプリエンファシス位相応答が前記静的等化位相応答に実質的に類似している請求の範囲第40記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項42】
前記第1のプリエンファシス入力信号が前記第1のローパスフィルタ出力信号からなる請求の範囲第41記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項43】
前記広帯域圧縮入力信号が前記第1のプリエンファシス出力信号からなる請求の範囲第42記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項44】
前記第2のプリエンファシス入力信号が前記スペクトル圧縮出力信号からなる請求の範囲第43記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項45】
前記差チャンネル処理手段が、前記差信号送信経路からの差の動的等化入力信号を受信するための差の動的等化フィルタ手段を含み、また前記差の動的等化入力信号をフィルタ処理し差の動的等化出力信号を発生するための手段を含み、また前記差の動的等化出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第41記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項46】
前記和チャンネル処理手段が、前記和信号送信経路から和の動的等化入力信号を受信するための和の動的等化フィルタ手段を含み、また前記和の動的等化入力信号をフィルタ処理し和の動的等化出力信号を発生するための手段を含み、また前記和の動的等化出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第45記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項47】
前記差の動的等化フィルタ手段により提供されるフィルタ処理が差の動的等化位相応答により特徴付けられ、前記可変エンファシスフィルタにより提供されるフィルタ処理が可変エンファシス位相応答により特徴付けられ、前記和の動的等化フィルタ手段により提供されるフィルタ処理が和の動的等化位相応答により特徴付けられ、前記差の動的等化、可変エンファシス、および和の動的等化位相応答が前記第2の制御信号の関数にしたがって全て変化する請求の範囲第46記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項48】
前記符号化された差信号および前記条件付けされた和信号を受信するため、およびこれから複合変調信号を発生するための複合変調器手段を含む請求の範囲第30記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項1】
デジタルBTSCエンコーダにおいて、
(A)デジタル左チャンネル音声信号を受信するため、および前記デジタル左チャンネル音声信号をデジタル的にハイパスフィルタ処理してこれによりデジタル左フィルタ処理された信号を発生するための左ハイパスフィルタ手段を含み、
(B)デジタル右チャンネル音声信号を受信するため、および前記デジタル右チャンネル音声信号をデジタル的にハイパスフィルタ処理してこれによりデジタル右フィルタ処理された信号を発生するための右ハイパスフィルタ手段を含み、
(C)前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号を受信するためのマトリックス手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号を加算してデジタル和信号を発生するための手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号の一方から前記デジタル左およびデジタル右フィルタ処理された信号の他方を減算しこれによりデジタル差信号を発生するための手段を含み、
(D)前記デジタル差信号をデジタル的に処理するための差チャンネル処理手段を含み、
(E)前記デジタル和信号をデジタル的に処理するための和チャンネル処理手段を含んでなるエンコーダ。
【請求項2】
前記左および右ハイパスフィルタ手段が50Hz以下のカットオフ周波数であることを特徴とする請求の範囲第1記載のエンコーダ。
【請求項3】
前記左および右ハイパスフィルタ手段が、通過帯域であり、また前記通過帯域において実質的に平坦な応答であることにより特徴付けられる請求の範囲第2記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項4】
デジタルBTSCエンコーダにおいて、
(A)アナログ左チャンネル音声信号を受信するため、およびN×15,734Hzに実質的に等しいサンプリング周波数で前記アナログ左チャンネル音声信号をサンプリングしこれによりデジタル左信号を発生するための左チャンネルサンプリング手段を含み、Nは3以上の整数であって、
(B)アナログ右チャンネル音声信号を受信するため、およびN×15,734Hzに実質的に等しいサンプリング周波数で前記アナログ右チャンネル音声信号をサンプリングしこれによりデジタル左信号を発生するための左チャンネルサンプリング手段を含み、
(C)前記デジタル左およびデジタル右信号を受信するためのマトリックス手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右信号を加算してデジタル和信号を発生するための手段を含み、および前記デジタル左およびデジタル右信号の一方から前記デジタル左およびデジタル右信号の他方を減算しこれによりデジタル差信号を発生するための手段を含み、
(D)前記デジタル差信号をデジタル的に処理するための差チャンネル処理手段を含み、
(E)前記デジタル和信号をデジタル的に処理するための和チャンネル処理手段を含んでなるエンコーダ。
【請求項5】
前記デジタル左および右信号をハイパスフィルタ処理するためのデジタルハイパスフィルタ手段をさらに含む請求の範囲第3記載のエンコーダ。
【請求項6】
デジタルBTSCエンコーダにおいて、
(A)デジタル左チャンネル音声信号およびデジタル右チャンネル音声信号を受信するためのマトリックス手段を含み、および前記デジタルチャンネル左および右チャンネル音声信号を加算してデジタル和信号を発生するための手段を含み、および前記デジタル左および右チャンネル音声信号の一方から前記デジタル左および右チャンネル音声信号の他方を減算しこれによりデジタル差信号を発生するための手段を含み、
(B)前記デジタル差信号をデジタル的に処理するための差チャンネル処理手段を含み、前記デジタル処理は前記デジタル差信号に第1の位相エラーを導入し、
(C)前記デジタル和信号をデジタル的に処理するための和チャンネル処理手段および前記デジタル和信号に第2の位相エラーを導入するための手段を含み、これにより前記デジタル差信号内に導入された第1の位相エラーを補償するエンコーダ。
【請求項7】
適応型デジタル信号重み付けシステムであって、前記システムを通る所定の帯域幅の電気情報信号を送信するための信号経路を含み、前記システムがさらに、
第1の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅内の第1の選択スペクトル領域内で前記情報信号の一部に印加された利得を変化させるための前記信号経路内に配置されたデジタルフィルタ手段を含み、前記第1の可変利得ファクターは第1の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記第1の選択スペクトル領域の少なくとも一部を含む第2の選択スペクトル領域内で前記情報信号の信号エネルギーにしたがってこれに応答して前記第1の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含み、
第2の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅を実質的に通って前記情報信号上で印加された信号利得を変化するために前記デジタルフィルタ手段に接続された前記信号経路内に配置されたデジタル利得制御手段を含み、および
前記所定の帯域幅内の第3の選択スペクトル領域の実質的に内部で前記情報信号の信号エネルギーの関数としてこれに応答して前記第2の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含んでなるシステム。
【請求項8】
所定の帯域幅の電気情報信号を符号化するためのデジタルシステムであって、前記所定の帯域幅の少なくとも1つの他のスペクトル領域よりも第1のスペクトル領域内でより狭い動的に制限された部分を有する動的に制限された、周波数依存のチャンネルを通って前記情報信号が送信されあるいはこのチャンネル上に記録され、前記システムが
前記情報信号を受信するための入力手段を含み、
前記入力手段において受信された前記情報信号を送信するために前記入力手段に接続された信号送信経路を含み、
前記システムにより符号化されたものとして前記情報信号を提供するために前記信号送信経路を通って前記入力手段に接続された出力手段を含み、
前記所定の帯域幅を実質的にわたって前記情報信号上に加えられた信号利得を変化するために前記信号経路に接続されたデジタル利得制御手段を含み、前記信号利得は第1の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記情報信号の残りの部分に対して前記部分をプリエンファシスするために実質的に前記第1のスペクトル領域内の前記情報の一部上に第2の可変利得を印加するために前記信号経路および前記デジタル利得制御手段に接続されたデジタルフィルタ手段を含み、前記第2の可変利得は第2の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記所定の帯域幅の実質的に第2のスペクトル領域内の前記情報信号の信号エネルギーの関数としてこれに応答して前記第1の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含み、および
前記第1のスペクトル領域の少なくとも一部を含む前記所定の帯域幅の第3のスペクトル領域内の前記情報信号の信号エネルギーにしたがってこれにのみ応答して前記第2の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含んでなるシステム。
【請求項9】
適応型デジタル信号重み付けシステムにおいて、
前記システムを通って所定の帯域幅の電気情報信号を送信するための信号経路を含み、 前記情報信号をフィルタ処理するための可変係数デジタルフィルタ手段を含み、
前記フィルタ処理は可変係数伝達関数により特徴付けられ、また前記フィルタ処理は第1の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅内の第1の選択スペクトル領域内の前記情報信号の一部に印加された利得を変化させ、前記可変係数伝達関数および前記第1の可変利得ファクターは第1の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、
前記第1の選択スペクトル領域の少なくとも一部を含む第2の選択スペクトル領域内の前記情報信号の信号エネルギーにしたがってこれのみに応答して前記第1の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含み、
第2の可変利得ファクターにより前記所定の帯域幅を実質的にわたって前記情報信号上に印加された信号利得を変えるために前記可変係数デジタルフィルタ手段に接続され前記デジタル信号経路内に配置されたデジタル利得制御手段を含み、前記第2の可変利得ファクターは第2の制御信号の関数としてこれに応答して変化し、および
前記所定の帯域幅内で実質的に第3の選択スペクトル領域内で前記情報信号の信号エネルギーの関数としてこれに応答して前記第2の制御信号をデジタル的に発生するための手段を含んでなるシステム。
【請求項10】
前記和チャンネル処理手段および前記差チャンネル処理手段が共に単一の集積回路上で実施される請求の範囲第1記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項11】
前記デジタル左および右チャンネル音声信号が実質的にN×15,734Hzに等しい
サンプリング周波数でデジタル的にサンプリングされた信号であり、Nは3以上の整数である請求の範囲第1記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項12】
前記差チャンネル処理手段が、
(A)前記デジタル差信号を受信するための差入力手段を含み、
(B)符号化された差信号を提供するための差出力手段を含み、
(C)前記差入力手段および前記差出力手段に接続された差信号送信経路を含み、および前記デジタル差信号から前記符号化された差信号を発生するための手段を含んでなる請求の範囲第1記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項13】
前記差チャンネル処理手段が、前記差信号送信経路からスペクトル圧縮入力信号を受信するため、および前記符号化された差信号のエネルギーレベルの関数にしたがって前記スペクトル圧縮入力信号を圧縮し、これによりスペクトル圧縮出力信号を発生するためのスペクトル圧縮手段を含み、および前記差信号送信経路に前記スペクトル圧縮出力信号を印加するための手段を含む請求の範囲第12記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項14】
前記スペクトル圧縮手段が、第1の選択スペクトル部内の前記符号化された差信号の第1のエネルギーレベルを測定するため、および前記第1のエネルギーレベルを表す第1の制御信号を発生するための手段を含む請求の範囲第13記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項15】
前記スペクトル圧縮手段が、前記スペクトル圧縮入力信号を受信しデジタル的にフィルタ処理しこれにより前記スペクトル圧縮出力信号を発生するための可変エンファシスフィルタを含み、前記可変エンファシスフィルタにより提供されるフィルタ処理は複数の係数を含む伝達関数により特徴付けられ、前記スペクトル圧縮手段は前記第1の制御信号の関数にしたがって前記複数の係数を選択するための手段をさらに含む請求の範囲第14記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項16】
前記複数の係数を選択するための前記手段がメモリルックアップテーブルを含む請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項17】
前記複数の係数を選択するための前記手段が前記第1の制御信号を受信し対数的に圧縮しこれにより対数的に圧縮された信号を発生するための対数発生器手段を含み、および前記対数的に圧縮された信号を前記メモリルックアップテーブルに印加するための手段をさらに含む請求の範囲第16記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項18】
前記複数の係数を選択するための前記手段が前記制御信号の関数として前記複数の係数を計算するための手段を含む請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項19】
前記スペクトル圧縮手段が前記符号化された差信号を表す信号を受信しフィルタ処理しこれによりスペクトル信号を発生するための手段を含み、前記スペクトル帯域フィルタ手段による前記フィルタ処理は前記第1の選択スペクトル部内の通過帯域により特徴付けられる請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項20】
前記スペクトル圧縮手段は前記スペクトル信号を受信しまたこれから前記第1の制御信号を発生するためのRMSレベル検出器手段を含み、前記第1の制御信号は前記スペクトル信号のRMS値を表す請求の範囲第19記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項21】
前記スペクトル圧縮手段は前記符号化された差信号を受信し増幅しこれにより前記符号化された差信号を表す前記信号を発生するための増幅手段を含む請求の範囲第19記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項22】
前記差チャンネル処理手段は、前記符号化された差信号のエネルギーレベルの関数にしたがって前記広帯域圧縮入力信号を圧縮するために前記差信号送信経路から広帯域圧縮入力信号を受信し、これにより広帯域圧縮出力信号を発生するための広帯域圧縮手段を含み、また前記広帯域圧縮出力信号を前記差し号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第15記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項23】
前記スペクトル圧縮入力信号が前記広帯域圧縮出力信号を含んでなる請求の範囲第22記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項24】
前記広帯域圧縮手段が、第2の選択スペクトル部内の前記符号化された差信号の第2のエネルギーレベルを計測するため、および前記第2のエネルギーレベルを表す第2の制御信号を発生するための手段を含む請求の範囲第22記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項25】
前記広帯域圧縮手段が、前記第2の制御信号により制御される利得を使用して前記広帯域圧縮入力信号を受信し増幅しこれにより前記広帯域圧縮出力信号を発生するための手段を含む請求の範囲第24記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項26】
前記広帯域圧縮手段が、前記符号化された差信号を表す信号を受信しフィルタ処理しこれにより広帯域信号を発生するための手段を含み、前記広帯域帯域通過フィルタ手段により提供される前記フィルタ処理は前記第2の選択スペクトル部内の通過帯域により特徴付けられる請求の範囲第25記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項27】
前記広帯域圧縮手段は、前記広帯域信号を受信しこれから前記第2の制御信号を発生するための第2のRMSレベル検出器手段を含み、前記第2の制御信号は前記広帯域信号のRMS値を表す請求の範囲第26記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項28】
前記差チャンネル処理手段は前記差信号送信経路から第1のローパスフィルタ入力信号を受信するための第1のローパスフィルタ手段を含み、および前記ローパスフィルタ出力信号をローパスフィルタ処理しこれにより第1のローパスフィルタ出力信号を発生するための手段を含み、また前記第1のローパスフィルタ出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第22記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項29】
前記差チャンネル処理手段が前記差信号送信経路から第2のローパスフィルタ入力信号を受信するための第2のローパスフィルタ手段を含み、また前記第2のローパスフィルタ入力信号をローパスフィルタ処理しこれにより第2のローパスフィルタ出力信号を発生するための手段を含み、また前記第2のローパスフィルタ出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第28記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項30】
前記和チャンネル処理手段が、
(A)前記デジタル和信号を受信するための和入力手段を含み、
(B)条件付けされた和信号を提供するための和出力手段を含み、
(C)前記和入力手段および前記和出力手段に接続された和信号送信経路を含み、および前記デジタル和信号から前記条件付けされた和信号を発生するための手段を含む請求の範囲第29記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項31】
前記和チャンネル処理手段が前記和信号送信経路から和チャンネルローパスフィルタ入力信号を受信するための和チャンネルローパスフィルタ手段を含み、また前記和チャンネルローパスフィルタ入力信号をローパスフィルタ処理しこれにより和チャンネルローパスフィルタ出力信号を発生するための手段を含み、および前記和チャンネルローパスフィルタ出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第30記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項32】
前記第1および第2のローパスフィルタ手段のカスケード接続により提供されるフィルタ処理が前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段により提供されるフィルタ処理に実質的に類似している請求の範囲第31記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項33】
前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段が15,734Hzにおいてゼロであることにより特徴付けられる請求の範囲第32記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項34】
前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段により提供されるフィルタ処理がゼロと15kHzの間の通過帯域により特徴付けられる請求の範囲第33記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項35】
前記和チャンネルローパスフィルタ処理手段により提供されるフィルタ処理が15kHzより上のカットオフにより特徴付けられる請求の範囲第34記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項36】
前記差チャンネル処理手段が、前記信号送信経路から第1のプリエンファシス入力信号を受信するための第1の固定プリエンファシスフィルタ手段を含み、また前記第1のプリエンファシス入力信号をフィルタ処理しこれにより第1のプリエンファシス出力信号を発生するための手段を含み、また前記第1のプロエンファシス出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第31記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項37】
前記差チャンネル処理手段が、第2のプリエンファシス入力信号を前記差信号送信経路から受信するための第2の固定プリエンファシスフィルタ手段を含み、また前記第2のプリエンファシス入力信号をフィルタ処理しこれにより第2のプリエンファシス出力信号を発生するための手段を含み、また前記第2のプリエンファシス出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第36記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項38】
前記和チャンネル処理手段が、前記和信号送信経路から75μsプリエンファシス入力信号を受信するための75μsプリエンファシスフィルタ手段を含み、また75μsのプリエンファシス入力信号をフィルタ処理しこれにより75μsプリエンファシス出力信号を発生するための手段を含み、また前記75μsプリエンファシス出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第37記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項39】
前記和チャンネル処理手段が、前記和信号送信経路から静的等化入力信号を受信するための静的等化フィルタ手段を含み、また前記静的等化入力信号をフィルタ処理しこれにより静的等化出力信号を発生するための手段を含み、また前記静的等化出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第38記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項40】
前記プリエンファシスフィルタ手段により提供されるフィルタ処理が第2のプリエンファシス位相応答により特徴付けられ、75μsプリエンファシスフィルタ手段により提供されるフィルタ処理が75μsプリエンファシス位相応答により特徴付けられ、前記第2のプリエンファシス位相応答と第1の基準位相応答の間の差が、前記75μsプリエンファシス位相応答と第2の基準位相応答との間の差に実質的に類似している請求の範囲第39記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項41】
前記第1のプリエンファシスフィルタ手段により提供されるフィルタ処理が第1のプリエンファシス位相応答により特徴付けられ、前記静的等化フィルタ手段により提供されるフィルタ処理が静的等化位相応答により特徴付けられ、前記第1のプリエンファシス位相応答が前記静的等化位相応答に実質的に類似している請求の範囲第40記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項42】
前記第1のプリエンファシス入力信号が前記第1のローパスフィルタ出力信号からなる請求の範囲第41記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項43】
前記広帯域圧縮入力信号が前記第1のプリエンファシス出力信号からなる請求の範囲第42記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項44】
前記第2のプリエンファシス入力信号が前記スペクトル圧縮出力信号からなる請求の範囲第43記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項45】
前記差チャンネル処理手段が、前記差信号送信経路からの差の動的等化入力信号を受信するための差の動的等化フィルタ手段を含み、また前記差の動的等化入力信号をフィルタ処理し差の動的等化出力信号を発生するための手段を含み、また前記差の動的等化出力信号を前記差信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第41記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項46】
前記和チャンネル処理手段が、前記和信号送信経路から和の動的等化入力信号を受信するための和の動的等化フィルタ手段を含み、また前記和の動的等化入力信号をフィルタ処理し和の動的等化出力信号を発生するための手段を含み、また前記和の動的等化出力信号を前記和信号送信経路に印加するための手段を含む請求の範囲第45記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項47】
前記差の動的等化フィルタ手段により提供されるフィルタ処理が差の動的等化位相応答により特徴付けられ、前記可変エンファシスフィルタにより提供されるフィルタ処理が可変エンファシス位相応答により特徴付けられ、前記和の動的等化フィルタ手段により提供されるフィルタ処理が和の動的等化位相応答により特徴付けられ、前記差の動的等化、可変エンファシス、および和の動的等化位相応答が前記第2の制御信号の関数にしたがって全て変化する請求の範囲第46記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【請求項48】
前記符号化された差信号および前記条件付けされた和信号を受信するため、およびこれから複合変調信号を発生するための複合変調器手段を含む請求の範囲第30記載のデジタルBTSCエンコーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−234224(P2012−234224A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−197355(P2012−197355)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2008−127500(P2008−127500)の分割
【原出願日】平成9年6月2日(1997.6.2)
【出願人】(500567612)ザット コーポレーション (12)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2008−127500(P2008−127500)の分割
【原出願日】平成9年6月2日(1997.6.2)
【出願人】(500567612)ザット コーポレーション (12)
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