説明

Ca−アルカリ型吸着性材料およびその製造方法

【課題】 添着剤と反応せず、かつ低コスト化も可能な、タバコ臭を含む脱臭機能を有効に備えた吸着性材料を提供すること。
【解決手段】 添着処理Pによって、Ca高含有生体材料1に対してアルカリ2を添着することで、吸着性材料3を得る。Ca高含有生体材料1としては特に、ホタテガイ貝殻その他の貝殻を用いることができる。またアルカリ2として特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはその他の強アルカリを用いることができる。得られた吸着性材料3は、空気清浄機や、他の装置に組み込む空気清浄化ユニット等のフィルターとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCa−アルカリ型吸着性材料およびその製造方法法に係り、特に、添着剤と反応せず、活性炭で問題となっているような蓄熱発火に対する危険性を低減でき、かつ低コスト化も可能とする、Ca−アルカリ型吸着性材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の住環境は、エネルギー問題を反映して、断熱性・気密性を向上させる傾向にある。そのため、一度汚れた室内の空気は外部に排出されずに室内に滞留してしまう恐れがある。このような問題を解決し、健康的な生活を送るために、空気清浄機の設置は有意義である。
【0003】
空気清浄機には、脱臭機能と、除菌・アレルゲン除去等の集塵機能とがある。このうち脱臭の方式には、活性炭などの濾材フィルターによる吸着脱臭、オゾン分解などの原理を利用した放電・触媒利用型の脱臭、紫外線ランプと光触媒フィルターを組み合わせた光触媒脱臭がある。また集塵の方式には、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター、ULPA(Ultra Low Penetration Air Filter)フィルター、電気集塵方式等がある。
【0004】
さて、空気清浄機の脱臭対象となる脱臭ガスにはさまざまなものがあるが、代表的なものを挙げると、体臭、タバコ臭、ペット臭、生ごみ臭、さらにはシックハウスの原因物質であるホルムアルデヒド等である。とりわけタバコ臭は、従来の空気清浄機の脱臭対象ガスとして、最も多く挙げられているものである。公共の場における喫煙規制の拡大傾向と、それに伴い狭小化する喫煙可能区域・箇所におけるタバコ臭の激化・高密度化により、空気清浄機におけるタバコ臭脱臭機能の位置づけは、今後ますます重要になると考えられる。
【0005】
タバコ臭の主な成分は、アセトアルデヒド、アンモニア、および酢酸である。したがって空気清浄機の脱臭機能としては、これらの物質を吸着できる吸着材を用いる必要がある。従来、アセトアルデヒド用吸着材としては活性炭にアミンとリン酸を添着したもの、アンモニア用吸着材としては活性炭にリン酸を添着したもの、酢酸用吸着材としては活性炭に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを添着したものが用いられている。
【0006】
なお、タバコ臭を脱臭対象ガスとする脱臭技術については従来、種々の考案もなされている。たとえば後掲特許文献1は、アルカリ分を含有しかつ細孔が発達している活性炭と、リンゴ酸と鉄塩とを添着した活性炭とが配合された空気浄化剤を基体に担持してなる脱臭フィルターを開示している。
【0007】
また、特許文献2は、針葉樹で極性ガス吸着に適したPEG修飾炭、および高温焼成炭、非極性の揮発性有害化学物質ガスの吸着に適した低温焼成炭、および化学修飾炭といった炭化材と、無機粘土物質やパルブ繊維等の補助材とを混合、積層あるいは成形してなる空気浄化用吸着材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−103159−47500号公報「空気浄化剤およびこれを用いた空気清浄機用脱臭フィルター」
【特許文献2】特開2003−181285号公報「空気浄化用吸着材及び空気浄化装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、タバコ臭脱臭も可能な吸着性材料として特に有効なものである活性炭には、次のような問題がある。
〈1〉吸着した有機物の酸化反応熱等による蓄熱発火が懸念されること。
〈2〉空気清浄機での利用に必要な程度の吸着性能を得るには添着剤の添着は不可欠であるが、水酸化ナトリウム等を添着した酢酸用活性炭は、他の吸着剤と比較してガス吸着や吸湿等に起因する発熱の危険性があること。
〈3〉賦活処理等の処理が必要であるため、高コストとなること。
したがって、活性炭を用いることなくタバコ臭を含む脱臭機能を有効に備えた新規な吸着性材料が得られることは、産業上利用性も高く有意義なことである。
【0010】
さて、青森県はホタテガイ養殖の一大産地であり、従来からホタテガイの加工も盛んに行われている。しかし、産業廃棄物として水産加工場等から排出されるホタテガイ貝殻の量は、毎年約5万tonにも及び、これらの利活用はなかなか進まない。また、貝殻は野積み状態のまま放置され続けているため、今や膨大な累積量を抱える状況となっている。したがって、ホタテガイ貝殻の新たな利活用方法は、青森県の地域産業・経済における重要なテーマの一つである。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点や状況を踏まえ、添着剤と反応せず、活性炭において問題となっているような蓄熱発火の危険性を低減でき、かつ低コスト化も可能とし、さらに、ホタテガイ貝殻のような産業廃棄物の有効活用にもなり得る、タバコ臭を含む脱臭機能を有効に備えたCa−アルカリ型吸着性材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らはこれまで、ホタテ貝殻焼成粉末と石灰石のホルムアルデヒド軽減機能を比較し、ホタテガイ貝殻をアルデヒド吸着剤用担持体に利用する技術を発明してきた(特開2009−213987:吸着剤およびその製造方法、他)が、空気清浄機用の吸着剤として活用するためには、添着剤を添着してその能力を向上させることは不可欠である。したがって本発明においても、担持体としてのホタテガイ貝殻等に添着剤を添着することが基本となる。
【0013】
さて、ホタテガイ貝殻はアルカリ性である。したがって、添着剤としてアミンとリン酸を用いるアセトアルデヒド用吸着材や、添着剤としてリン酸を用いるアンモニア用吸着材は、貝殻との反応性を有するため除外し、添着剤として、貝殻との反応性を有しない水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いる酢酸用吸着材を、本発明検討開始に際しての、基本的な着想とした。そして検討の結果、活性炭のようにこれらの添着剤と反応せず、活性炭で問題となっている蓄熱発火の危険性が少なく、かつ低コスト化も可能な吸着性材料を得られることを実証確認し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0014】
〔1〕 Ca高含有生体材料にアルカリを添着させてなる、吸着性材料。
〔2〕 前記Ca高含有生体材料はホタテガイ貝殻、またはその他の貝殻であることを特徴とする、〔1〕に記載の吸着性材料。
〔3〕 前記アルカリは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはその他の強アルカリであることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の吸着性材料。
〔4〕 酸性ガス吸着用であることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の吸着性材料。
〔5〕 酢酸吸着用であることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の吸着性材料。
【0015】
〔6〕 吸着性材料中に占めるアルカリの割合である添着率が2.5重量%以上であることを特徴とする、〔1〕ないし〔5〕のいずれかに記載の吸着性材料。
〔7〕 〔1〕ないし〔6〕のいずれかに記載の吸着性材料を用いたフィルター。
〔8〕 Ca高含有生体材料にアルカリを添着させる、吸着性材料の製造方法。
〔9〕 前記Ca高含有生体材料はホタテガイ貝殻、またはその他の貝殻であり、前記アルカリは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはその他の強アルカリであることを特徴とする、〔8〕に記載の吸着性材料の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のCa−アルカリ型吸着性材料およびその製造方法は上述のように構成されるため、これによれば、添着剤と反応しないため、活性炭において問題となっているような蓄熱発火の危険性を低減しつつ、タバコ臭を含む臭気の脱臭を行うことができる。また、タバコ臭の主成分の一つは上述の通り酢酸だが、本発明によれば酢酸以外の酸性ガス、たとえば硫化水素、塩素ガス等の吸着脱臭、吸着除去にも用いることができる。しかも、従来の活性炭と同等、あるいはそれ以上に優れた酢酸その他酸性ガス吸着脱臭性能を備えた吸着性材料を実現できる。
【0017】
また本発明によれば、担持体であるCa高含有生体材料としてはホタテガイ貝殻その他の貝殻等の産業廃棄物を用いることができるため、低コスト化につながるとともに、産業廃棄物であるホタテガイ貝殻等の有効活用とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の吸着性材料の製造方法を示す説明図である。
【図2】実施例における吸着性材料の吸着性材料調製方法を示す説明図である。
【図3】実施例における吸着性材料の除去能力評価試験方法を示す説明図である。
【図4】実施例吸着性材料を用いた空気清浄機用フィルターの作製方法を示す説明図である。
【図5】実施例および比較例の各基材の熱分析結果を示すグラフである。
【図6】実施例において添着剤として用いたNaOHの溶液濃度と添着率の関係を示すグラフである。
【図7】実施例において、低濃度(10ppm酢酸)における添着率と酢酸除去率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例において、高濃度(50ppm酢酸)における添着率と酢酸除去率との関係を示すグラフである。
【図9】実施例において、ホタテ貝殻吸着剤を使用したフィルターの脱臭(酢酸除去)特性を示すグラフである。
【図10】実施例において、活性炭を使用したフィルターの脱臭(酢酸除去)特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明においてCa高含有生体材料とは、カルシウムを高度に含有している生体材料であり、ホタテガイを初めとする貝類の貝殻は全てこれに該当し、本発明において好適に用いることができる。しかしながら本発明がこれに限定されるものではない。たとえば、エビ、カニ、フジツボといった甲殻類、その他も含まれる。
【0020】
なお、貝類としてはホタテガイの他に、マガキも用いることができる。その他、アカガイ、サルボウガイ、イガイ、ムラサキイガイ、タイラギ、ヒオウギガイ、ツキヒガイ、イワガキ、トリガイ、マテガイ類、サラガイ、アゲマキガイ、シジミ類、バカガイ、ミルクイ、アサリ、チョウセンハマグリ、ウチムラサキ、ナミガイ、アワビ類、サザエ、エゾバイ、シライトマキバイ、エゾボラ類、エッチュウバイ、オオエッチュウバイ、ツバイハマグリ等も含む。
【0021】
特に、ホタテガイ他養殖や食品加工等において大量の貝殻が産業廃棄物として排出される種類の貝の貝殻を用いることは、本発明吸着性材料のコスト低下に大いに寄与するものであり、かつ廃棄物の有効利用の観点からも望ましいことである。
【0022】
本発明創作の発端は、タバコ臭を有効に吸着脱臭でき、従来の活性炭を用いた製品に代替する吸着性材料であるから、添着するアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが第一に想定されるものである。しかしながら本発明の吸着性材料に係るアルカリがこれらに限定されるものではなく、添着剤として使用可能なアルカリは、強アルカリを初めとして全て該当する。
【0023】
なお添着方法は、従来公知の方法を適宜用いることができる。また、吸着性材料中に占めるアルカリの割合である添着率を、特に、2.5重量%以上とすることができる。かかる添着率にすることにより、本発明吸着性材料の吸着性能を一層充分に発揮させることができるからである。しかしながら2.5重量%未満の添着率であっても本発明の範囲内である。
【0024】
また上述のとおり、本発明吸着性材料はタバコ臭の主成分の一つである酢酸を効果的に吸着脱臭できるものだが、酢酸以外の酸性ガスをも吸着脱臭あるいは吸着除去の対象とすることができる。たとえば硫化水素、塩素ガス等の吸着脱臭、吸着除去等である。
【0025】
図1は、本発明の吸着性材料の製造方法を示す説明図である。図示するように本発明製造方法は、添着処理Pによって、Ca高含有生体材料1に対してアルカリ2を添着することで、吸着性材料3を得るものである。Ca高含有生体材料1として特にホタテガイ貝殻その他の貝殻を用いることとし、またアルカリ2として特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはその他の強アルカリを用いる構成を取れることは、上述のとおりである。このようにして得られた吸着性材料を、空気清浄機や、他の装置に組み込む空気清浄化ユニット等のフィルターとして用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によってさらに説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお本実施例は、本発明に至る研究経過を示すものである。また実施例の説明においては、図表を含め、ホタテガイ貝殻を単に「ホタテ貝殻」ともいう。また同じく、ホタテガイ貝殻製の吸着性材料の吸着性材料を単に「ホタテ貝殻吸着剤」ともいう。
1.テーマ
ホタテ貝殻を基材として水酸化ナトリウムを添着した吸着性材料の酢酸除去特性、およびそれを用いた空気清浄機用フィルター脱臭特性評価
2.基材および活性炭の分級方法と評価
(1)供試材料
実施例基材としては、ホタテ貝殻(長慶社製、有機石灰ブロック用)を用いた。また比較例の活性炭としては、酢酸用活性炭(クラレケミカル社製、クラレコールGG)を破砕して用いた。これらは、0.5mm〜1mmの範囲で1分間分級したものを用いた。
【0027】
(2)測定
比表面積は、比表面積測定装置(島津製作所社製、フローソーブII)を用い、無破砕条件にて測定した。また熱分析は、熱分析装置(リガク社製、TG8120)を用いて行った。実施例・比較例両サンプルを遊星ミル(伊藤製作所社製、mini CUP MILL)で1分間粉砕し、105℃、24時間乾燥後、白金パンに5mg入れ、昇温速度20℃/min、最高温度800℃の条件で行った。
【0028】
3.ホタテ貝殻を基材とした吸着性材料の調製
図2は、実施例における吸着性材料の吸着性材料調製方法を示す説明図である。図示するように、ホタテ貝殻を基材とした吸着性材料(ホタテ貝殻吸着性材料、ホタテ貝殻吸着剤)は、次のように調製した。すなわち、100mlビーカーにホタテ貝殻50gを入れ、これにNaOH50mlを加え、デシケーター中で1時間減圧し、2時間放置した。その後ビーカー内容物をろ過し、ステンレス製バット上にホタテ貝殻を並べ置き、乾燥処理、分級処理をして、ホタテ貝殻吸着剤とした。
【0029】
なお添着剤として用いた水酸化ナトリウムNaOH(関東化学社製)の濃度は下記4条件とした。
条件1:1.25mol/L、条件2:2.50mol/L、条件3:3.75mol/L、条件4:5.00mol/L
【0030】
4.ホタテ貝殻吸着性材料の添着率評価
添着率は、吸着剤中に占める水酸化ナトリウムの割合とし、次のように求めた。すなわち、まず前処理として、ホタテ貝吸着剤を粉末化し、その後、プレス機を用いて26ton/mの圧力で、ホタテ貝吸着剤を円盤状に成型した。これを試料とし、エネルギー分散形蛍光X線分析装置(島津製作所社製、Rayny EDX−800HS)を用いて、貝殻由来のCaと水酸化ナトリウム由来のNaを分析対象として測定した。
【0031】
水酸化ナトリウムの添着率(%)の計算式は、下式のとおりである。

〔Na(%)×40/23〕/{〔Ca(%)×100/40〕+〔Na(%)×40/23〕}×100

計算式中の各数字は、下記のとおり分子量である。
NaOH:40、 Na:23
CaCO:100、 Ca:40

【0032】
5.吸着性材料の除去能力評価
吸着性材料として、添着率0%の場合も含めた5条件による実施例のホタテ貝殻吸着剤、および比較例の活性炭について、酢酸除去能力評価を行った。なお活性炭は、105℃、24時間乾燥処理したものを用いた。
図3は、実施例における吸着性材料の除去能力評価試験方法を示す説明図である。図示するように除去能力評価試験は、ガラスシャーレに吸着剤0.03gを入れ、これを、10ppm酢酸、または50ppm酢酸雰囲気下としたデシケーター中に置き、23℃で5時間放置した。その後、検知管(ガステック社製、酢酸No81 以下の実験でも同様)にてデシケーター中の酢酸濃度を測定した。なお、計算式は次のとおりである。
[除去率(%)]=[測定値(ppm)]/[ブランク(ppm)]×100
【0033】
6.空気清浄機用フィルターの作製
図4は、実施例吸着性材料を用いた空気清浄機用フィルターの作製方法を示す説明図である。図示するように、実施例・比較例の吸着剤を円柱状の筒が集合したいわゆるハニカム構造が形成された段ボール(紙製)に充填し、これを不織布で被覆して、空気清浄機用フィルターとした。説明図中には作製したフィルターの概観図および一部拡大図も併せ記載している。なおフィルター1枚当たりの吸着剤使用量は、表1のとおりとした。
【0034】
【表1】

【0035】
7.脱臭試験
脱臭性能を評価する脱臭試験は、日本電機工業会規格 JEM1467(家庭用空気清浄機)に準拠して行った。すなわち、容積1mの立方体形状の密閉したアクリル樹脂製ボックス内に、所定仕様の空気清浄機、吸煙機およびかくはんファンの各装置を設置し、吸煙機にはタバコ5本をセットしてこれに火をつけ、各装置を運転し、ボックス内の酢酸濃度を測定した。検知管による酢酸濃度測定は、後述する各実施例および比較例等について、それぞれ、空気清浄機使用前、使用開始後0.5分、1分、3分、5分、7分、10分および30分の各時点で測定した。なお各実施例・比較例等については、3連にて試験した。
【0036】
実施例としては、NaOHを5.00mol/L添着した(条件4)ホタテ貝殻吸着剤を、それぞれ50g、100g、150g充填したフィルターを脱臭試験に供した。また比較例として、活性炭をそれぞれ50g、100g、150g充填したフィルターを供した他、フィルター既存品としてペット用フィルタ(アイリスオーヤマ社製)も脱臭試験に供した。
【0037】
8.試験結果と考察
(1)基材の物性
表2に、実施例ホタテ貝殻吸着剤および比較例活性炭それぞれの基材(担持体)の比表面積測定結果を示す。ここに示されるとおり、ホタテ貝殻は活性炭と比較して顕著に比表面積が小さく、吸着剤用の基材としてはかなり低いレベルであると認められた。
【0038】
【表2】

【0039】
図5は、実施例および比較例の各基材の熱分析結果を示すグラフである。図示するように、比較例の基材である活性炭では、300℃付近より重量減少が始まり、700℃付近で熱分解が完了した。一方、実施例の基材であるホタテ貝殻では、700℃付近までほとんど重量減少が認められなかった。これにより、ホタテ貝殻は高い耐熱性を備えており、活性炭と比較して耐熱性に優れた吸着剤の基材であることがわかった。
【0040】
(2)添着剤の濃度と添着率
図6は、実施例において添着剤として用いたNaOHの溶液濃度と添着率の関係を示すグラフである。図示するように、溶液濃度を高くするほど添着率は高くなり、上述条件4:5.00mol/L添着においては、添着率2.5%であった。なお、添着率が添着剤濃度に依存する傾向は活性炭でも同様に報告されており、添着剤濃度と添着率の関係は、基材の種類によらないものと判断された。
【0041】
(3)吸着剤の酢酸除去特性
図7は、実施例において、低濃度(10ppm酢酸)における添着率と酢酸除去率との関係を示すグラフである。また、
図8は、実施例において、高濃度(50ppm酢酸)における添着率と酢酸除去率との関係を示すグラフである。これらに図示するように、添着率2.5%とした実施例ホタテ貝殻吸着剤は、活性炭と同等以上の酢酸除去特性を備えていることがわかった。
【0042】
(4)脱臭フィルターの脱臭(酢酸除去)特性
図9は、実施例において、ホタテ貝殻吸着剤を使用したフィルターの脱臭(酢酸除去)特性を示すグラフである。また、
図10は、実施例において、活性炭を使用したフィルターの脱臭(酢酸除去)特性を示すグラフである。いずれも、既存品と比較したグラフであり、脱臭試験開始前〜開始30分時点での酢酸濃度を示したものである。これらに図示するように、実施例ホタテ貝殻吸着剤を用いた脱臭フィルターでは、空気清浄機運転開始後速やかに酢酸除去性能が発揮され、3分時点でボックス内酢酸濃度は20%以下、7分時点でほぼ完全に0%となった。
【0043】
特に、ホタテ貝殻吸着剤を100gまたは150g用いたフィルターでは、5分時点で残存酢酸濃度がほとんど0%となり、既存品と同等あるいはそれを超える速度の酢酸除去特性を示した。また50g充填のフィルターは他の実施例に比べると若干緩やかな除去速度だったが、それでも開始10分時点では、酢酸濃度は0%となった。
【0044】
また図10に示すように、比較例活性炭の場合、既存品に最も近い酢酸除去性能を示したのは150g充填のものだけであり、しかも、それも既存品を超えるものではなく、空気清浄機運転開始10分の時点でようやく酢酸濃度0%となるものだった。また、5分時点での残存酢酸濃度は10数%〜30%以上もあった。また、50gあるいは100g充填のものでは、10分の時点でも数%の酢酸が残存する結果だった。
【0045】
以上のことから、本発明実施例のホタテ貝殻吸着剤を用いた脱臭フィルターの脱臭(酢酸除去)特性は、既存品と同等あるいはそれを超えるものであり、活性炭よりも優れたものであることが確認された。特に、100gまたは150gの充填量とした場合は、運転開始直後5分でほとんど酢酸除去され、本発明によれば迅速な酢酸除去が可能であることがわかった。
【0046】
9.まとめ
以上のとおり、ホタテ貝殻の物性、それを基材とし水酸化ナトリウムを添着した酢酸用吸着剤の除去特性、および吸着剤を用いた脱臭フィルターの脱臭特性について、活性炭と比較、検討し、以下の結論を得た。
1)活性炭は300℃付近より重量減少が始まったのに対してホタテ貝殻は700℃付近まで重量減少が確認されなかった。つまり、ホタテ貝殻基材は高い耐熱性を備えている。
2)ホタテ貝殻への水酸化ナトリウム添着率は濃度が高くなるに従って高くなる。
3)ホタテ貝殻吸着性材料の酢酸除去能力は添着率が高くなるに従って高くなり、添着率2.5%で活性炭とほぼ同等、あるいはそれ以上の性能を備える。
4)フィルター化した吸着剤では、ホタテ貝殻吸着剤は活性炭よりも高い酢酸除去性能を備える。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のCa−アルカリ型吸着性材料およびその製造方法によれば、従来の活性炭と同等、あるいはそれ以上に優れた酢酸その他酸性ガス吸着脱臭性能を備えた吸着性材料を実現できる。また、担持体(基材)としてホタテガイ貝殻その他の貝殻等の産業廃棄物を用いた場合、低コスト化および廃棄物の有効活用ともなり、環境関連機器製造・その他関連する産業分野において、利用性の高い発明である。
【符号の説明】
【0048】
1…Ca高含有生体材料
2…アルカリ
3…吸着性材料
P…添着処理


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca高含有生体材料にアルカリを添着させてなる、吸着性材料。
【請求項2】
前記Ca高含有生体材料はホタテガイ貝殻、またはその他の貝殻であることを特徴とする、請求項1に記載の吸着性材料。
【請求項3】
前記アルカリは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはその他の強アルカリであることを特徴とする、請求項1または2に記載の吸着性材料。
【請求項4】
酸性ガス吸着用であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の吸着性材料。
【請求項5】
酢酸吸着用であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の吸着性材料。
【請求項6】
吸着性材料中に占めるアルカリの割合である添着率が2.5重量%以上であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の吸着性材料。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の吸着性材料を用いたフィルター。
【請求項8】
Ca高含有生体材料にアルカリを添着させる、吸着性材料の製造方法。
【請求項9】
前記Ca高含有生体材料はホタテガイ貝殻、またはその他の貝殻であり、前記アルカリは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはその他の強アルカリであることを特徴とする、請求項8に記載の吸着性材料の製造方法。


【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−183255(P2011−183255A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48472(P2010−48472)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】