説明

ED評価方法

【課題】 簡便かつ高精度の軽度EDの早期発見を大規模に実施することのできる新しい手段を提供する。
【解決手段】 被験者の生体試料中のグルタチオン濃度を測定し、この濃度が健常者のグルタチオン濃度より有意に高い場合に、被験者の勃起不全(ED:erectile dysfunction)の程度が軽度であると評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ED(勃起不全)の程度を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレスは、生体内で生成する活性酸素群の酸化損傷力と生体内の抗酸化システムの抗酸化ポテンシャルとの差として定義されている。活性酸素群は、本来、エネルギー生産、侵入異物攻撃、不要な細胞の処理、細胞情報伝達などに際して生産される有用なものであるが、生体内の抗酸化システムで捕捉しきれない余剰な活性酸素群が生じる場合、生体の構造や機能を担っている脂質、蛋白質・酵素や、遺伝情報を担う遺伝子DNAを酸化し損傷を与え、生体の構造や機能を乱す。例えば、血管病や生活習慣病は、酸化ストレスによる血管上皮細胞の障害から生じる血管の拡張障害と深く関係している。
【0003】
陰茎動脈は、心臓や内頚動脈に比べてはるかに細いため、酸化ストレスによる血管内皮の障害による症状が一番初めに出現する。すなわち、陰茎動脈の拡張障害によって海綿体への血液流入が遮断されることによる勃起不全(ED)である。EDは、International Index of Erectile Function:Erectile Domain Score(IIEF-EF)質問表により3段階に国際分類されている。すなわち、軽度ED(IIFE EFスコア17-25)、中度ED(IIEF-EFスコア11-16)、重度ED(IIEF-EFスコア0-10)であり、IIEF-EFスコア26以上が健常者となっている。
【0004】
これら3段階のEDのうち、軽度EDは生活習慣病の始まりといえ、また将来の心筋梗塞や脳梗塞といった大きな心血管病の予測因子としてきわめて重要である。
【0005】
グルタチオン(Glutathione:GSH)は細菌からヒトに至るまで普遍的に存在するペプチド性のチオールである。グルタチオンは細胞内の主要な抗酸化成分であり、また、毒物などを細胞外に排出することで、細胞を内的・外的な環境の変化から守る役割を果たしている。
【0006】
グルタチオン量の測定に関しては、蛍光色素ジアザペンタレン誘導体を用いて細胞内のグルタチオン量を測定する方法(特許文献1)や、還元型グルタチオンを測定することによって排気ガスや遊粒子状物資の酸化能を定量する方法(特許文献2)が知られている。しかしながら、グルタチオン量とED(特に、生活習慣病の指標としての軽度ED)との関係については、従来は全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平8-511058号公報
【特許文献2】特開2007-333485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のとおり、軽度EDは生活習慣病やそれに続く重篤な心血管病の指標でもあり、その発生を早期に発見することは、EDそれ自体だけではなく、生活習慣病への早期の対処という観点からも重要である。
【0009】
従来は、EDの判定はIIEF-EF質問表による自己診断を基本としていた。しかしながら、質問表による評価は客観性に乏しく、また大規模な調査にも限界がある。さらには、EDの疑いを自覚している被験者が対象となるため、より早期の発見のための手段としては適していない。
【0010】
本願発明は、簡便かつ高精度の軽度EDの早期発見を大規模に実施することのできる新しい手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、前記の課題を解決するものとして、被験者の生体試料中のグルタチオン濃度を測定し、この濃度が健常者のグルタチオン濃度より有意に高い場合に、被験者の勃起不全(ED:erectile dysfunction)の程度が軽度であると評価することを特徴とするED評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、グルタチオン濃度という客観的に指標によって被験者が軽度EDであるか否かを知ることができる。生体試料中のグルタチオン濃度は医師等の医療従事者による作業を必要とすることなく、簡単な操作で測定可能であるため、大規模なスクリーニングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】軽度ED患者と健常者のそれぞれの唾液グルタチオン濃度の測定値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明は、公知の遺伝子工学および分子生物学的技術に従い、当該分野で特定のタンパク質量を検知測定するために知られた手法、例えばin situ ハイブリダイゼーション、ウェスタンブロッティング、各種の免疫組織学的方法などによってグルタチオン濃度を測定して実施することができる。特に、実施例に示した市販の測定システムを使用することに、多くの試料を同時に検査することができる。また、生体試料は、唾液や血液、汗、尿等を対象とすることができるが、採取が簡便であり、被験者の負担も少ない唾液が好ましい。
【0015】
そして、測定の結果、グルタチオン濃度が健常者の値よりも有意に高い場合、その被験者を軽度EDと判定する。この場合の「有意に高い」とは、被験者のグルタチオン濃度が健常者の血中グルタチオン濃度と比較して、10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは100%以上である場合を意味する。またさらに、この「有意に高い」とは、例えば同一被験者の複数試料についてのグルタチオン濃度の平均値と、複数の健常者濃度の平均値とを統計的に検定した場合、前者が後者よりも有意に高い場合である。
【0016】
以下、実施例を示して本願発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本願発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
IIEF-EF質問表によって軽度EDと判定されたED患者(14名)と、IIEF-EF質問表によってED無しと判定された健常者(17名)から血液を採取した。
【0018】
多検体処理を可能にするために96穴プレートを使用し、グルタチオンの測定には蛍光試薬ThioGlo-1(Sigma-Aldrich社)を用いた。このThioGlo-1は、反応前は低い値を示すがグルタチオンと反応すると高い蛍光値を示す試薬であり、Ex-max/Em-maxは379 nm/513 nmである。各ウェルに唾液サンプルを10 μLずつ分注し、10 μMのThioGlo-1を90 μL加えて100 μLとし、穏やかに混和しながら5分間反応させた。反応後、蛍光プレートリーダーMultimode Detector DTX800(Beckman Coulter社)を用いて、Ex/Em=365 nm/535 nmでの蛍光値を測定した。標品の還元型グルタチオン(Sigma-Aldrich社)を用いて同様に蛍光値を測定することで、得られた蛍光値からグルタチオン濃度を定量的に算出した。
【0019】
結果は図1に示したとおりであり、軽症EDを有する患者の唾液中グルタチオン濃度は正常の勃起能を持った健常者に比べて統計学的に有意に高値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生体試料中のグルタチオン濃度を測定し、この濃度が健常者のグルタチオン濃度より有意に高い場合に、被験者の勃起不全(ED:erectile dysfunction)の程度が軽度であると評価することを特徴とするED評価方法。

【図1】
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