説明

GloboHおよびその断片に対する抗体のレベルに基づく癌の診断方法

Gb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、および/またはBb4を含むグリカンアレイを用いる癌の診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年6月16日に提出の、米国仮特許出願第61/061,974号に対する優先権を主張するものであり、この仮出願は参考で全体を引用する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
6糖のエピトープを含む、Globo Hは、正常な上皮細胞や腺組織に加えて、様々な癌で発現する。Huang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:15-20 (2006), Wang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 33:11661-11666 (2008)、およびChang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 33:11667-11672 (2008)を参照。乳癌患者の血清が高レベルの抗Globo H抗体を含むことが報告された。しかし、これらの抗体単独のレベルは乳癌の信頼性できる目安ではない。
【発明の概要】
【0003】
発明の要約
本発明は、Globo H、その断片であるBb2、Bb3、またはBb4に対する抗体のレベルの、Globo Hの他の断片である、Gb5に対する抗体のレベルに対する割合が、癌をもたないヒトに比べて乳癌患者で有意により高いという予想できない発見に基づくものである。
【0004】
したがって、本発明は、(i)癌(例えば、乳癌、メラノーマ、神経芽細胞腫、皮膚癌、肝癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸癌、胃癌、肺癌、および膵臓癌) を有する疑いのある被検者(例えば、ヒト)から抗体を含むサンプル(例えば、血清サンプル)を用意し、(ii)前記サンプルをGb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、およびBb4の1以上とインキュベートして、これらの分子を前記サンプル中の抗体に結合させ、(iii)Gb5に結合した抗体の量ならびにGlobo Hに結合した、Bb2に結合した、Bb3に結合した、またはBb4に結合した抗体の量の双方を測定し、さらに(iv)Gb5に結合した抗体の量に対するGlobo Hに結合した、Bb2に結合した、Bb3に結合した、またはBb4に結合した抗体の量の割合に基づいて、前記被検者が癌を有するか否かを決定することを有する、癌の診断方法を特徴とする。割合がより高いと、前記被検者は癌を有していることを示す。Globo H、Gb5、Bb2、Bb3、およびBb4は支持デバイスに固定化されて、グリカンアレイを形成してもよい。一例では、前記アレイは、Gb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、およびBb4の一以上を含む。他の例では、前記アレイは、すべてのこれらの分子を含む。
【0005】
また、癌の診断を目的とするおよび癌の診断に使用される医療デバイスの製造を目的とするGb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、およびBb4の1以上の使用もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0006】
本発明の一以上の実施例の詳細は、下記説明で記載される。本発明の他の特徴および利点は、下記図面および様々な実施例の詳細な説明から、また、添付の特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図面の簡単な説明
図面について、まず説明する。
【図1】図1は、Globo H(GH)における6糖エピトープおよびこのエピトープの断片の構造を示す図である。パネルA:6糖エピトープの構造。パネルB:6糖エピトープおよびその7個の断片の構造。
【図2】図2は、抗グリカン抗体を検出するための、癌細胞表面を模倣する、グリカンアレイの使用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
我々は、抗−Globo H/抗−Gb5、抗−Bb2/抗−Gb5、抗−Bb3/抗−Gb5、または抗−Bb4/抗−Gb5抗体のレベルの割合が、癌を持たない個体に対するより乳癌患者で有意により高いことを発見した。ゆえに、これらの割合のいずれかは、癌の診断において信頼できる目安として機能する。
【0009】
したがって、癌を有する疑いのある被検者、例えば、遺伝的に癌になりやすい被検者におけるGb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、Bb4の一以上に対する抗体の量を検出し、さらに上記レベルの割合のいずれかに基づいてその被検者が癌を有するか否かを決定することによる癌の診断方法を、本明細書中で説明する。上記抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、もしくはIgD、またはこれらの混合物でありうる。
【0010】
Globo Hは、図1、パネルAに示される6糖エピトープ、および場合によっては、非糖部分を含むグリカンである。その断片(例えば、Gb5、Bb2、Bb3、及びBb4)は、6糖エピトープの断片および該当する場合には、非糖部分を含むグリカンである。6糖エピトープの7種の断片を図1、パネルBに示す。これらのオリゴ糖は通常の方法によって調製できる。例えば、Huang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:15-20 (2006)を参照。好ましくは、これらを、アルキルアミン、例えば、(CHNH、またはアルキルアジド、例えば、(CHと結合し、これを、ガラス、プラスチック、ナイロン、金属、またはシリコン等の、様々な材料から作製される支持デバイス(例えば、ポリマー基材)に共有結合してもよい。Globo H、Gb5、Bb2、Bb3、およびBb4を、グリカンアレイを形成するために、支持デバイス上に所定のアドレスでスポットしてもよい。Globo H、Gb5、Bb2、Bb3、およびBb4(図2参照)に含まれるオリゴ糖エピトープを発現する癌細胞の表面を模倣する、このアレイは、このオリゴ糖エピトープに結合する抗体の量を検出するのに使用できる。
【0011】
本発明の方法を実施するために、本明細書に記載されるグリカンアレイを、癌を有する疑いのある被検者からの抗体含有サンプルとともにインキュベートする。サンプルの例としては、以下に制限されないが、血清、唾液およびリンパ節液などが挙げられる。このアレイを洗浄して、非結合抗体を除去した後、所望の抗体に特異的の結合する標識された二次抗体とともにインキュベートするが、この際、当該二次抗体は、ヒトIgG、IgA、IgD、IgE、またはIgMでありうる。このグリカンアレイを再度洗浄し、非結合二次抗体分子を除去すると、結合した二次抗体分子から放出されるシグナルの強度がターゲット抗体のレベルに相当する。抗−Globo H/抗−Gb5、抗−Bb2/抗−Gb5、抗−Bb3/抗−Gb5、または抗−Bb4/抗−Gb5のより高い割合が被検者で検出された場合には、その被検者は、癌を有するまたは癌を発症する危険性があると、診断される。
【実施例】
【0012】
さらに詳述されなくとも、当業者は、上記説明に基づいて、本発明を十分利用できると考えられる。したがって、下記特定の実施形態は、単に詳細に説明するためのものであり、いずれの残りの開示を制限するものではないと、解されるべきである。本明細書中に挙げられたすべての公報は、参考で引用される。
【0013】
実施例1:グリカンアレイへの抗体Vk9、Mbr1、およびA488の結合
図1に示されるオリゴ糖Globo H、Gb5、Gb4、Gb3、Gb2、Bb4、Bb3、Bb2を、Hung et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103-15-20 (2006)に記載されるワン−ポットプログラマブルプロトコル(one-pot programmable protocol)に従って調製した。これらのオリゴ糖を、Hung et al. and Blixt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:17033-17038 (2004)に記載される標準的なマイクロアレイロボット印刷技術(microarray robotic printing technology)によって、Nexterion H slide (SCHOTT North America)から購入した、NHS−被覆スライドガラス上に共有結合させた。より詳しくは、各オリゴ糖のストック溶液(80μM)のアリコートを、各オリゴ糖について2列で、16−列フォーマット(16-row format)でスライドガラス上に置いた。
【0014】
下記3種の抗体を本研究で使用した:
・Mbr1、マウスIgM 抗−Globo Hモノクローナル抗体、
・Vk9、マウスIgG 抗−Globo Hモノクローナル抗体、および
・A488、抗−マウス/ヒトGb5モノクローナル抗体。
【0015】
各抗体を、1時間、振盪しながら、加湿チャンバーで0.05%Tween 20/PBSバッファー(pH 7.4)中で上記スライドガラス(ここに、オリゴ糖が結合している)と共にインキュベートした。次に、このスライドガラスを、0.05% Tween 20/PBSバッファー(pH 7.4)で3回、PBSバッファー(pH 7.4)で3回、および水で3回、順次洗浄した。次に、このスライドガラスを、1時間、振盪しながら、同じチャンバーでCy3−結合ヤギ抗−マウスIgM(MBr1について)またはIgG(VK−9およびA488について)抗体と共にインキュベートした。このスライドガラスを再度、0.05% Tween20/PBSバッファー(pH 7.4)で3回、PBSバッファー(pH 7.4)で3回、およびHOで3回、洗浄し、乾燥した。最後に、このスライドガラスを、マイクロアレイ蛍光チップリーダー(microarray fluorescence chip reader)(ArrayWorx microarray reader)を用いて、595nm(Cy3−結合二次抗体について)および488nm(A488抗−SSEA−3抗原抗体について)でスキャンした。
【0016】
3種の抗体はすべて、上記グリカンアレイに結合した。VK9は、Globo HおよびBb4に特異的に結合した;Mbr1は、Globo HおよびBB4に特異的に結合し、より低い親和性であったがBb3にも結合した;およびA488は、Gb5に特異的に結合した。これらの結果から、このグリカンアレイは、Globo Hおよび/またはその断片に結合する抗体を捕捉することができることが示される。
【0017】
実施例2:乳癌患者におけるGlobo Hおよびその断片に対する抗体を検出することを目的とするグリカンアレイの使用
乳癌患者および健常個体からの血漿サンプルを、0.05% Tween 20/3% BSA/PBSバッファー(pH 7.4)で1:20に希釈し、1時間、振盪しながら、加湿チャンバーで上記実施例1に記載されたグリカンアレイと共にインキュベートした。0.05% Tween 20/PBSバッファー(pH 7.4)、PBSバッファー(pH 7.4)、および水で、それぞれ、3回ずつ洗浄した後、スライドガラスを、1時間、振盪しながら、加湿チャンバーでCy3−結合ヤギ抗−ヒトIgMまたはIgG抗体と共にインキュベートした。次に、このスライドガラスを、0.05% Tween 20/PBSバッファー(pH 7.4)で3回、PBSバッファー(pH7.4)で3回、およびHOで3回洗浄した。乾燥した後、スライドガラスを、マイクロアレイ蛍光チップリーダー(microarray fluorescence chip reader)(ArrayWorx microarray reader)を用いて、595nm(Cy3−結合二次抗体について)でスキャンした。
【0018】
下記表1および表2に示されるように、Globo H−結合IgG/Gb5−結合IgG(GH/Gb5 IgG)およびGlobo H−結合IgM/Gb5−結合IgM(GH/Gb5 IgM)のレベルの比は、健常個体の血漿サンプルに比して、乳癌患者の血漿サンプルで非常に高かった。また、これらの2つの表に示されるように、癌患者のBb2/Gb5 IgG、Bb4/Gb5 IgM、Bb3/Gb5 IgM、およびBb2/Gb5 IgMの割合は、健常個体のものに比べて有意により高かった。これらのデータから、上記列挙された割合は癌を診断するのに信頼できるマーカーであることが示される。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
実施例3:Globo Hによって誘導される免疫応答を検出することを目的とするグリカンアレイの使用
ワクチン
マウス(6週齢のメスBALB/cマウス、BioLASCO, Taiwan)に、Globo H−KLHワクチン(Optimer Pharmaceuticals, Inc., San Diego, Ca.)を、3週間、週1回、皮下に免疫処置した。コントロールマウスには、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注射した。血清サンプルを、最後に免疫処置してから10日目に処置マウスから集めた。これらのサンプルを、30、120、240、480、960、及び1920倍に順次希釈し、抗−Globo H抗体の力価を、上記実施例1に記載されたグリカンアレイスライド(1スポット当たり、3.5×10−14モルのオリゴ糖)を用いてまたは公知のELISA(1ウェル当たり、1.28×10−10モルのGlobo Hを被覆)によって、希釈した血清サンプルで試験した。
【0022】
このGlobo H−KLHワクチンは、免疫処理されたマウスで抗−Globo H抗体の分泌を誘導した。下記表3参照。また、上記したグリカンアレイアッセイは公知のELISAに比べて非常に感受性がより高いことも分かった。
【0023】
【表3】

【0024】
他の実施形態
本明細書中に開示されるすべての特徴は、いずれの組み合わせで組み合わされてもよい。本明細書中に開示される各特徴は、同じ、等価のまたは同様の目的を果たす別の特徴で置換されてもよい。ゆえに、特記されない限り、開示される各特徴は、包括的な一連の等価のまたは同様の特徴の一例にすぎない。
【0025】
上記説明から、当業者は、本発明の必須の特性を容易に確認でき、本発明の概念および範囲を逸脱しない限り、本発明の様々な変更および修飾を行って様々な用法および症状に適応できる。ゆえに、他の実施形態もまた本願特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌を有する疑いのある被検者からの抗体を含むサンプルを用意し、
前記サンプルをGb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、およびBb4の1以上とインキュベートして、前記サンプル中の抗体をGb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、およびBb4の1以上に結合させ、
Gb5に結合した抗体の量ならびにGlobo Hに結合した、Bb2に結合した、Bb3に結合した、またはBb4に結合した抗体の量の双方を測定し、さらに
すべての結合した抗体の量に基づいて、前記被検者が癌を有しているか否かを決定する
ことを有し、
癌を有していない被検者に比して、Gb5に結合した抗体の量に対するGlobo Hに結合した、Bb2に結合した、Bb3に結合した、またはBb4に結合した抗体の量の割合がより高いと、前記被検者は癌を有していることを示す、癌の診断方法。
【請求項2】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5およびGlobo Hと混合することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5およびBb3と混合することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5およびBb2と混合することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5、Globo H、Bb2、Bb3、およびBb4と混合することによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルが血清サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Gb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、およびBb4の1以上は、支持デバイスに固定化される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記癌は、乳癌、メラノーマ、神経芽細胞腫、皮膚癌、肝癌、前立腺癌、卵巣癌、結腸癌、胃癌、および膵臓癌からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記癌は乳癌である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Gb5ならびにGlobo H、Bb2、Bb3、およびBb4の1以上は、支持デバイスに固定化される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5およびGlobo Hと混合することによって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記Gb5およびGlobo Hは、支持デバイスに固定化される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5およびBb2と混合することによって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記Gb5およびBb2は、支持デバイスに固定化される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5およびBb3と混合することによって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記Gb5およびBb3は、支持デバイスに固定化される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記インキュベートする段階は、前記サンプルをGb5、Globo H、Bb2、Bb3、およびBb4と混合することによって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記Gb5、Globo H、Bb2、Bb3、およびBb4は、支持デバイスに固定化される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記サンプルが血清サンプルである、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−524537(P2011−524537A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514757(P2011−514757)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/047532
【国際公開番号】WO2010/008736
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(596118493)アカデミア シニカ (33)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW