説明

H−FABP及びD−ダイマーによる急性大動脈解離の鑑別方法および鑑別用キット

【課題】血液中の生化学的マーカーを測定することにより、急性大動脈解離をStanford分類とDeBakey分類を組合せたStanford-DaBakey分類の各病型に鑑別する方法、及び鑑別用キットを提供すること。
【解決手段】急性大動脈解離が疑われるヒトから分離された血液中のD−ダイマー濃度およびH−FABP濃度に基づいて、Stanford A-DeBakey I型、Stanford A-DeBakey II型、Stanford A-DeBakey IIIb型、Stanford B-DeBakey IIIa型またはStanford B-DeBakey IIIb型の病型の中のいずれの急性大動脈解離を発症しているか、又はいずれの急性大動脈解離も発症していないかを判断する急性大動脈解離の鑑別方法、及び抗D−ダイマー抗体を含む試薬およびH−FABPを含む試薬を含んでなる前記各病型の鑑別用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中のD−ダイマー(D-dimer)濃度およびH−FABP(Heart-type Fatty Acid-Binding Protein;心臓由来脂肪酸結合蛋白)濃度に基づいて、Stanford分類とDeBakey分類を組合せたStanford-DeBakey分類(以下、本明細書において単に「Stanford-DeBakey分類」という)による各病型の発症を判断する急性大動脈解離の鑑別方法、鑑別用試薬、鑑別用キット及び該キットを含む商業パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
急性大動脈解離は、循環器系疾患による死因の上位を占める疾患であり、激烈な胸痛を主訴とし、突然に発症して急速に死に至る転帰をとることが稀ではない疾患である。
【0003】
本疾患は解離の発症部位やその大きさ等によって、臨床症状、治療方法及び予後等が異なる。従って、急性大動脈解離の適切な治療方針決定のために、Stanford分類やDeBakey分類などの各種の病型分類が、主にコンピューター断層撮影法(CT)などの画像診断によって行われている。
【0004】
D−ダイマーは二次線溶系亢進のマーカーとして、血液凝固・線溶系亢進の病態を詳細に把握するために利用されている生体内蛋白である。具体的には、播種性血管内凝固症候群(DIC)や各種の血栓性疾患の診断、病態把握、治療効果判定のマーカーとして使用されている。
【0005】
非特許文献1には、急性心筋梗塞患者の血液中D−ダイマー濃度は健常人よりも上昇していることが記載されている(TABLE IV参照)。
【0006】
非特許文献2には、StanfordA型またはB型の急性大動脈解離を発症している患者血液中のD−ダイマー濃度が記載され、同じ急性大動脈解離患者をDeBakey分類によりI、II、III型に分類した場合の各患者血液中のD−ダイマー濃度も記載されている(Table 3参照)。
【0007】
また、特許文献1には、血液中のD−ダイマー濃度に基づいて急性大動脈解離(Stanford A型またはB型)を判定する方法および急性大動脈解離(Stanford A型またはB型)と急性心筋梗塞を鑑別する方法等が記載されている。
【0008】
一方、H−FABPは心筋の細胞質内に豊富に存在し、脂肪酸と結合する能力を有し、脂肪酸の細胞内輸送に関係していると考えられている生体内蛋白であり、急性心筋梗塞判定用の血液中マーカーとして知られている。
【0009】
例えば、特許文献2及び非特許文献3には血液中のH−FABPの濃度に基づく急性心筋梗塞の判定方法が記載されている。そして、血液中のH−FABP濃度に基づく急性心筋梗塞の体外診断用医薬品として「ラピチェック(登録商標) H−FABP」および「マーキット(登録商標)M H−FABP」が大日本製薬株式会社より販売されている。
【0010】
非特許文献4には、Stanford A型急性大動脈解離患者およびB型急性大動脈解離患者の血液中のH−FABP濃度が上昇することが記載されている。
【0011】
また、非特許文献5には、Stanford A型急性大動脈解離患者およびB型急性大動脈解離患者の血液中H−FABP濃度の平均値が記載されている。
【0012】
以上のように、非特許文献1、3及び特許文献2には各マーカーと急性心筋梗塞との関係が記載されている。また非特許文献2、4、5及び特許文献1においては、急性大動脈解離患者の血液中D−ダイマー濃度又はH−FABP濃度のどちらか一方のみが測定の対象とされている。
【0013】
非特許文献6には、血液中のD−ダイマー濃度及びH−FABP濃度の測定がStanfordA型急性大動脈解離と、StanfordB型急性大動脈解離と、急性心筋梗塞の鑑別に有用であることが記載されている。しかしながら、この文献には、D−ダイマー濃度及びH−FABP濃度が、急性大動脈解離をStanford-DeBakey分類する際の指標となり得ることは記載されていない。
【0014】
【非特許文献1】“The American Journal of Medicine ”、(米国)、1992年、第93巻、p.651−657
【非特許文献2】“CHEST”、(米国)、2003年5月、第123巻、No5、p.1375−1378
【非特許文献3】“Clinical Chemistry and Laboratory Medicine”、(独)、2000年 、第38巻、No.3、p.231−238
【非特許文献4】「日本臨床救急医学会雑誌」、2003年、第6巻、第2号、p.226(2−15−6)
【非特許文献5】「日本臨床救急医学会雑誌」、2004年、第7巻、第1号、p.11−15
【非特許文献6】「医学検査」、2004年、第53巻、第4号、p.392(11)
【特許文献1】国際公開第2004/11645号パンフレット
【特許文献2】特開平4−31762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
急性大動脈解離は前述のとおり経過が早く、その発症から重篤化するまでの時間が非常に短い疾患である。各病型に応じた適切な治療を急性大動脈解離発症の早期に行うためには、発症している病型を迅速に鑑別する必要がある。
【0016】
疾患の迅速且つ簡便な診断手段として、生体試料中の生化学的マーカーを指標とした臨床検査法が広く用いられている。急性大動脈解離の病型分類においても、生化学的マーカーを指標にして、発症している病型の判断ができる急性大動脈解離の鑑別方法が望まれている。
【0017】
このような状況に鑑み、本発明は、血液を採取しその中の生化学的マーカーの濃度を測定することによって、Stanford-DeBakey分類による各病型の発症を判断する急性大動脈解離の鑑別方法、鑑別用試薬、鑑別用キット及び該キットを含む商業用パッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは急性大動脈解離を発症している患者の血液中のD−ダイマー濃度およびH−FABP濃度を測定し、Stanford-DeBakey分類による各病型間でその値を比較した。その結果、D−ダイマー濃度とH−FABP濃度の高低の組合せが各病型の間で異なること、特に、StanfordB型急性大動脈解離患者の中でもStanford B−DeBakey IIIa型とStanford B-DeBakey IIIb型の間ではD−ダイマー濃度が大きく異なることを見いだし本発明を完成した。
【0019】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0020】
[1]急性大動脈解離が疑われるヒトから分離された血液中のD−ダイマー濃度およびH−FABP濃度に基づいて、Stanford A-DeBakey I型、Stanford A-DeBakey II型、Stanford A-DeBakey IIIb型、Stanford B-DeBakey IIIa型またはStanford B-DeBakey IIIb型の病型の中のいずれの急性大動脈解離を発症しているか、又はいずれの急性大動脈解離も発症していないかを判断する急性大動脈解離の鑑別方法、
【0021】
[2]急性大動脈解離を発症しているヒトから分離された血液中のD−ダイマー濃度およびH−FABP濃度に基づいて、発症している急性大動脈解離が、Stanford A-DeBakey
I型、Stanford A-DeBakey II型、Stanford A-DeBakey IIIb型、Stanford B-DeBakey IIIa型またはStanford B-DeBakey IIIb型のいずれの病型であるかを判断する急性大動脈解離の鑑別方法、
【0022】
[3]D−ダイマー濃度およびH−FABP濃度が免疫化学的方法により測定された濃度である上記[1]又は[2]記載の鑑別方法、
【0023】
[4]免疫化学的方法が酵素免疫化学的方法、ラテックス凝集法または免疫クロマト法のいずれかである上記[3]記載の鑑別方法、
【0024】
[5]D−ダイマーを認識する抗体を含む、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用試薬であって、H−FABPを認識する抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とする試薬、
【0025】
[6]H−FABPを認識する抗体を含む、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用試薬であって、D−ダイマーを認識する抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とする試薬、
【0026】
[7]D−ダイマーを認識する抗体を含む試薬およびH−FABPを認識する抗体を含む試薬を含んでなる、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用キット、
【0027】
[8]上記[7]に記載の鑑別用キット及び該キットに関する記載物を含む商業パッケージであって、該記載物および/または該パッケージに、該キットは、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別の用途に使用できる、または使用すべきであることが記載されている商業パッケージ。
【発明の効果】
【0028】
上記本発明の鑑別方法は、急性大動脈解離をStanford-DeBakey分類による各病型に鑑別する際の各種検査(例えば、コンピューター断層撮影など)の中の一つとして実施され、測定された血液中の生化学的マーカー(すなわち、D−ダイマー及びH−FABP)濃度が、鑑別のための判断材料の一つとして利用される。
【0029】
また、上記本発明の鑑別用試薬、キット又は商業パッケージの使用は、本発明の鑑別方法と同一の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、急性大動脈解離が疑われるヒトから分離された血液中のD−ダイマー濃度およびH−FABP濃度に基づいて、Stanford A-DeBakey I型、Stanford A-DeBakey II型、Stanford A-DeBakey IIIb型、Stanford B-DeBakey IIIa型またはStanford B-DeBakey IIIb型の病型の中のいずれの急性大動脈解離を発症しているか、又はいずれの急性大動脈解離も発症していないかを判断する急性大動脈解離の鑑別方法に関する。
【0031】
急性大動脈解離(Acute Aortic Dissection)は、大動脈壁を構成する中膜が解離し、内膜側と外膜側に裂けている病態を特徴とする疾患である。なお、大動脈壁は組織学的に血管内腔側から順に、内膜、中膜および外膜から構成される。
【0032】
本疾患の典型的な初発症状は突然に生じる激烈な胸痛であり、この症状は一般に胸痛発作と呼ばれている。胸痛発作における痛みは、急性大動脈解離の発症部位の大きさによっては胸部には限局せず、背部にまで拡大し胸背部痛の様相を呈することもある。なお、このような痛みは大動脈壁が裂けることに起因する、と一般的には理解されている。
【0033】
急性大動脈解離は、解離の発症部位や解離の大きさ等によって治療方法、予後などが異なる。従って、急性大動脈解離の治療方針決定のために各種の病型分類が行われる。
【0034】
Stanford分類は、急性大動脈解離の病型分類の代表的なものであり、急性大動脈解離症例のうち、解離が心臓から頚部に至る上行大動脈に存在する症例を「Stanford A型」、解離が上行大動脈には存在しない症例を「Stanford B型」と分類するものである。この分類によれば、急性大動脈解離は前記2つのいずれかの病型に分類される。
【0035】
もう一つの代表的な病型分類であるDeBakey分類によれば、急性大動脈解離は、上行大動脈にエントリー(発症起点部位)があり大動脈弓部以下にまで解離がおよぶ「DeBakey I型」、上行大動脈に解離が限局する「DeBakey II型」、下行大動脈にエントリーがあり腹部大動脈に解離がおよばない「DeBakey IIIa型」、下行大動脈にエントリーがあり腹部大動脈に解離がおよぶ「DeBakey IIIb型」の4つの病型に分類される。
【0036】
従って、本発明で用いられるStanford-DeBakey分類によれば、急性大動脈解離は、以下の6つの病型に分類される。
【0037】
Stanford A-DeBakey I型;上行大動脈に解離がある症例であって、上行大動脈にエントリーがあり、大動脈弓部以下にまで解離がおよぶ症例。
【0038】
Stanford A-DeBakey II型;上行大動脈に解離がある症例であって、上行大動脈に解離が限局する症例。
【0039】
Stanford A-DeBakey IIIa型;上行大動脈に解離がある症例であって、下行大動脈にエントリーがあり、腹部大動脈に解離がおよばない症例。
【0040】
Stanford A-DeBakey IIIb型;上行大動脈に解離がある症例であって、下行大動脈にエントリーがあり、腹部大動脈に解離がおよぶ症例。
【0041】
Stanford B-DeBakey IIIa型;上行大動脈に解離がない症例であって、下行大動脈にエントリーがあり、腹部大動脈に解離がおよばない症例。
【0042】
Stanford B-DeBakey IIIb型;上行大動脈に解離がない症例であって、下行大動脈にエントリーがあり、腹部大動脈に解離がおよぶ症例。
【0043】
なお、以上の6病型のうち、Stanford A-DeBakey IIIa型の病型に属する急性大動脈解離症例の発生は稀である。
【0044】
本発明において、血液中のD−ダイマー濃度の測定は、特に制限されず何れの方法によっても行なうことができる。なお、本明細書において「濃度の測定」には、濃度を定量的に測定することのみならず、一定範囲内の濃度を半定量的に測定すること、及び一定濃度以上のD−ダイマーの存否を定性的に検出することの何れもが含まれる。
【0045】
血液中のD−ダイマー濃度を測定する方法として、例えば、免疫化学的方法、HPLC法等の各種クロマトグラフィー法などが挙げられ、その中でも特に、D−ダイマーを認識する抗体(以下「抗D−ダイマー抗体」ということもある)を使用する免疫化学的方法により測定するのが好ましい。
【0046】
血液中のD−ダイマー濃度の測定に使用される免疫化学的方法としては、特に制限はなく、従来公知の例えば、酵素免疫測定法(EIA法)、ラテックス凝集法、免疫クロマト法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、抗原抗体複合体形成に伴う濁度を測定する比濁法、抗体固相膜電極を利用し抗原との結合による電位変化を検出する酵素センサー電極法、免疫電気泳動法、ウエスタンブロット法などが挙げられる。これらの中でも、EIA法、ラテックス凝集法または免疫クロマト法によってD−ダイマー濃度を測定するのが好ましい。
【0047】
EIA法には、酵素標識抗原と検体中の抗原とを競合させる競合法と、競合させることのない非競合法があるが、これらの方法の中でも、2種類の抗体、特にモノクローナル抗体を用いた、非競合法の一種であるサンドイッチ酵素結合免疫固相測定法(サンドイッチELISA法)が抗原(D−ダイマー)に対する特異性および検出操作の容易性において特に好ましい。
【0048】
サンドイッチELISA法によれば、D−ダイマーに存在する異なったエピトープを認識する2種類の抗体、すなわち固相化抗D−ダイマー抗体と酵素標識抗D−ダイマー抗体との間に、D−ダイマーを挟み込む(サンドイッチ)ことによってD−ダイマー濃度を測定することができる。すなわち、固相化抗体によって捕捉されたD−ダイマーと結合した標識抗体の酵素量を測ることにより、D−ダイマー濃度を測定することができる。
【0049】
また、サンドイッチELISA法の一種としてアビジン−ビオチン反応を利用した方法もある。本法によれば、血液中のD−ダイマーを固相化抗D−ダイマー抗体でもって捕捉し、捕捉されたD−ダイマーとビオチンで標識した抗D−ダイマー抗体との間で抗原抗体反応を行わせ、次に、酵素標識ストレプトアビジンを加えることによって、以下、前記と同様にしてD−ダイマー濃度を測定することができる。
【0050】
ラテックス凝集法は、抗体感作ラテックス粒子と抗原との凝集反応を利用した免疫化学的方法である。この方法によるD−ダイマー濃度の測定は、抗D−ダイマー抗体感作ラテックス粒子と検体血液中のD−ダイマーとを免疫反応せしめ、その結果生じたラテックス粒子の凝集の程度を測定することにより実施できる。
【0051】
また、免疫クロマト法は全ての免疫化学反応系がシート状のキャリア上に保持されており、血液の添加のみで操作が完了する方法である。本法によるD−ダイマーの濃度測定の要領は、次のとおりである。まず、検体たる血液がキャリアに滴下されると、血液中のD−ダイマーとキャリア上に配置された標識物(金コロイド等)で標識された抗D−ダイマー抗体とが免疫反応し、その結果、免疫複合体が生成される。この複合体がキャリア上を展開してゆき、その特定箇所に固相化された別のエピトープを認識する抗D−ダイマー抗体に捕捉されると標識物が集積し、その集積度合いを肉眼で観察することによって、D−ダイマー濃度を測定することができる。
【0052】
免疫クロマト法の実施には特別な測定機器は不要であり、病院外での判定や、救急などの迅速な判定が求められる場合には有利な方法である。本方法は一定の濃度以上のD−ダイマーの存在を定性的に検出するのに特に適しており、後述するカットオフ値をあらかじめ定めた場合には、カットオフ値以上のD−ダイマーを検出すれば陽性の結果が、また、カットオフ値未満であれば陰性の結果が出るように容易に設定することができる。
【0053】
なお、血液中のD−ダイマー濃度の測定を目的とする上記サンドイッチELISA法やラテックス凝集法などの免疫化学的方法は既に公知であり、これらの方法を利用したD−ダイマーの測定試薬は後述のとおり市販されている。これらの試薬を使用すれば、血液中のD−ダイマー濃度の測定は容易に実施することができる。
【0054】
一方、血液中のH−FABP濃度の測定も、これまでに述べたD−ダイマー濃度を測定する方法と同様にして実施できる。
【0055】
これらの測定方法の中でも、D−ダイマー濃度の測定の場合と同様に、H−FABPを認識する抗体(以下「抗H−FABP抗体」ということもある)を使用する免疫化学的方法によって測定するのが好ましく、特に、EIA法、ラテックス凝集法、免疫クロマト法によって濃度を測定するのが好ましい。
【0056】
なお、血液中のH−FABP濃度の測定を目的とするサンドイッチELISA法やイムノクロマト法などの免疫化学的方法は、後述するように既に公知であり、これらの方法を利用したH−FABPの測定試薬が市販されている。これらの試薬を使用すれば、血液中のH−FABP濃度の測定は容易に実施することができる。
【0057】
本発明において、検体として使用される血液としては、全血、血清、血漿のいずれであってもよく、これらは、ヒトから採取した血液を常法に従って処理することで、適宜、得ることができる。
【0058】
以上のようにして測定された血液中のD−ダイマー濃度及びH−FABP濃度の両方を、例えば、予め求めておいたStanford-DeBakey分類の各病型を発症している多数の患者の平均値や分布と比較することによって、どの病型に属する可能性が高いのかを判断し、各病型の鑑別を行うことができる。
【0059】
また、測定された両マーカーの濃度の組合せがいずれの病型の平均値等とも乖離している場合には、いずれの急性大動脈解離も発症していない可能性が高いと判断できる。例えば、臨床症状等から急性大動脈解離が疑われ、本発明の鑑別方法によっていずれの急性大動脈解離も発症していない、と判断された場合にそのヒトが発症している可能性のある代表的な疾患として、急性心筋梗塞が挙げられる。
【0060】
急性心筋梗塞は急性大動脈解離と同様に激烈な胸痛(胸痛発作)を主訴とする疾患であり、この両者は共通する臨床症状から「二大胸痛疾患」と呼ばれている。
【0061】
例えば、後記実施例に記載されている急性大動脈解離の患者59名の血液中H−FABP濃度の平均値及びD−ダイマー濃度の平均値はそれぞれ、
Stanford A-DeBakey I型(n=16)が18.3 ng/mL及び60.5 μg/mLであり、
Stanford A-DeBakey II型(n=7)が27.8 ng/mL及び7.2 μg/mLであり、
Stanford A-DeBakey IIIb型(n=9)が11.8 ng/mL及び53.8 μg/mLであり、
Stanford B-DeBakey IIIa型(n=11)が5.0 ng/mL及び3.6 μg/mLであり、
Stanford B-DeBakey IIIb型(n=16)が8.4 ng/mL及び31.1 μg/mLである。
【0062】
なお、後記実施例において対照とした心筋梗塞患者43名の血液中H−FABP濃度、及びD−ダイマー濃度の平均値はそれぞれ、63.7 ng/mL及び0.5 μg/mLであった。
【0063】
上記に示すように、D−ダイマー濃度及びH−FABP濃度の両方を組合せて検討した場合に、各病型間で、そのパターンが大きく相違していた。
【0064】
また、各マーカーのカットオフ値を予め設定し、測定された血液中の各マーカーの濃度と前記カットオフ値とを比較して、各病型の発症の可能性を判断することにより、本発明の鑑別方法を実施することもできる。
【0065】
なお、「カットオフ値」は、その値を基準として疾患の判定をした場合に、高い診断感度(有病正診率)及び高い診断特異度(無病正診率)の両方を満足できる値である。
【0066】
例えば、H−FABPについていえば、Stanford A型急性大動脈解離を発症している患者で高い陽性(カットオフ値以上)率を示し、かつ、Stanford B型急性大動脈解離を発症している患者で高い陰性(カットオフ値未満)率を示す血液中のH−FABP濃度をカットオフ値として設定することができる。
【0067】
カットオフ値の算出方法は、この分野において周知である。前記H−FABPの場合、例えば、多数のStanford A型急性大動脈解離患者及びStanford B型急性心筋梗塞患者の血液中のH−FABP濃度を測定し、測定された各濃度における、診断感度および診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときのH−FABP濃度を求めて、その値をカットオフ値とすることができる。また、例えば、検出された各濃度における診断効率(全症例数に対する、有病正診症例と無病正診症例の合計数の割合)を求め、最も高い診断効率が算出される濃度をカットオフ値とすることもできる。
【0068】
同一の検体を対象とした場合でも、各マーカーの測定値は使用する測定方法や試薬によって異なることもあるので、カットオフ値は使用する測定方法や試薬ごとに設定する必要がある。
【0069】
前記のとおり、Stanford A型とStanford B型の間でH−FABP濃度が大きく異なることから、本発明は、Stanford A型とStanford B-DeBakey IIIa型とStanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別方法又はStanford B型とStanford A-DeBakey I型とStanford
A-DeBakey II型とStanford A-DeBakey IIIa型の急性大動脈解離の鑑別方法の形態であっても良い。
【0070】
本発明の鑑別方法は、心臓血管系疾患の公知の一般的な臨床検査方法、例えば、胸部単純X線撮影、超音波断層撮影、コンピューター断層撮影などと併用して実施され、これらの検査結果が総合的に判断されて急性大動脈解離の病型鑑別は行われる。
【0071】
本発明は、D−ダイマーを認識する抗体を含む、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford
A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用試薬であって、H−FABPを認識する抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とする試薬、に関する。
【0072】
前記急性大動脈解離の鑑別用試薬は、本発明の鑑別方法の実施において、免疫化学的方法によりD−ダイマー濃度を測定する場合に好適に使用することができる。
【0073】
前記試薬に含まれる抗D−ダイマー抗体は、ヒトから分離された血液中に存在するD−ダイマーを認識し、D−ダイマーとの特異的な免疫反応性を有するものであれば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の何れでも良い。両者のうち、抗体の安定供給の点において、また、D−ダイマーに対する高い特異性及び均一性の点においてモノクローナル抗体が好ましい。
【0074】
このような抗D−ダイマー抗体は公知の手段により製造することができ、遊離の状態、標識された状態または固相化された状態で前記試薬に含まれる。
【0075】
ポリクローナル抗体は、常法によりヒトの血液から分離・精製されたD−ダイマーを適当なアジュバントとともにマウス、ラット、ウサギなどの動物に免疫し、血液を採取して公知の処理をなすことにより製造することができる。
【0076】
また、モノクローナル抗体は、このように免疫された動物の脾臓細胞を採取し、ミルシュタインらの方法によりミエローマ細胞との細胞融合、抗体産生細胞スクリーニング及びクローニング等を行い、抗D−ダイマー抗体を産生する細胞株を樹立し、これを培養することにより製造することができる。ここで、免疫抗原として使用されるD−ダイマーは、必ずしもヒトの血液中に存在する天然のD−ダイマーである必要はなく、遺伝子工学的手法により得られる組換え型D−ダイマーやそれらの同効物(断片)であってもよい。
【0077】
D−ダイマー濃度の測定に、サンドイッチELISA法を採用する場合、かくして得られた抗D−ダイマー抗体は、固相化抗D−ダイマー抗体及び酵素標識抗D−ダイマー抗体の形態で前記試薬に含まれる。
【0078】
固相化抗D−ダイマー抗体は、前述のようにして得られた抗D−ダイマー抗体を固相(例えば、マイクロプレートウェルやプラスチックビーズ)に結合させることにより製造することができる。固相への結合は、通常、抗体をクエン酸緩衝液等の適当な緩衝液に溶解し、固相表面と抗体溶液を適当な時間(1〜2日)接触させることにより行うことができる。
【0079】
さらに、非特異的吸着や非特異的反応を抑制するために、牛血清アルブミン(BSA)や牛ミルク蛋白等のリン酸緩衝溶液を固相と接触させ、抗体によってコートされなかった固相表面部分を前記BSAや牛ミルク蛋白等でブロッキングすることが一般的に行われる。
【0080】
酵素標識抗D−ダイマー抗体は、上記固相化された抗体とは異なるエピトープを認識する抗D−ダイマー抗体と酵素とを結合(標識)させることにより製造できる。該抗体を標識する酵素としては、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ等が挙げられる。これらの酵素と抗D−ダイマー抗体との結合はそれ自体公知の方法、例えば、グルタルアルデヒド法、マレイミド法などにより行うことができる。
【0081】
また、ELISA法においてアビジン−ビオチン反応を利用する場合、前記試薬に含まれるビオチン標識抗D−ダイマー抗体は、例えば、市販のビオチン標識化キットを使用することにより製造できる。
【0082】
サンドイッチELISA法を実施する場合、前記抗D−ダイマー抗体以外に必要に応じて、標準物質、洗浄液、酵素活性測定用試薬(基質剤、基質溶解液、反応停止液等)、酵素標識ストレプトアビジン(アビジン−ビオチン反応を利用する場合)などが使用される。従って、本発明の抗D−ダイマー抗体を含む鑑別用試薬は、抗D−ダイマー抗体以外にこれらを構成試薬として有するキットの形態であってもよい。
【0083】
前記基質剤としては、選択した標識酵素に応じて適当なものが選ばれる。例えば、酵素としてパーオキシダーゼを選択した場合においては、o−フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンチジン(TMB)などが使用され、アルカリフォスファターゼを選択した場合においては、p−ニトロフェニルホスフェート(PNPP)などが使用される。また、反応停止液、基質溶解液についても、選択した酵素に応じて、従来公知のものを特に制限なく適宜使用することができる。
【0084】
なお、サンドイッチELISA法によるD−ダイマーの測定試薬が多数販売されており(例えば、ベーリンガーマンハイム社「アセラクロムDダイマー」(商品名)、富士レビオ社「ダイマーテストEIA」(商品名)など)、これらの試薬を本発明の鑑別用試薬として使用することもできる。
【0085】
D−ダイマー濃度の測定にラテックス凝集法を採用する場合、抗D−ダイマー抗体は、ラテックス感作抗D−ダイマー抗体の形態で本発明の試薬に含まれる。ラテックス粒子と抗D−ダイマー抗体との感作(結合)は、この分野で公知の方法、例えば、化学結合法(架橋剤としてカルボジイミドやグルタルアルデヒド等を用いる方法)や物理吸着法により成すことができる。
【0086】
ラテックス凝集法を実施する場合、上記ラテックス感作抗体以外に必要に応じて、希釈安定化緩衝液、標準抗原などが使用される。従って、本発明の抗D−ダイマー抗体を含む鑑別用試薬は、抗D−ダイマー抗体以外にこれらを構成試薬として有するキットの形態であってもよい。
【0087】
なお、ラテックス凝集法によるD−ダイマーの測定試薬が多数販売されており(例えば、ダイアヤトロン社「エルピアエースD−Dダイマー」(商品名)、日本ロッシュ社「コアグソルD−ダイマー」(商品名)など)、これらの試薬を本発明の鑑別用試薬として使用することもできる。
【0088】
D−ダイマー濃度の測定に免疫クロマト法を採用する場合、抗D−ダイマー抗体は、固相化抗D−ダイマー抗体及び標識抗D−ダイマー抗体の形態で本発明の鑑別用試薬に含まれる。標識抗D−ダイマー抗体における標識物として、この分野において公知のものを適宜使用することができるが、その中でも金コロイドを使用するのが好ましい。
【0089】
このような免疫クロマト法による本発明の鑑別用試薬は、例えば、後述する免疫クロマト法によるH−FABP測定試薬の製造方法が記載されている“Clinical Biochemistry ”34 (2001), p.257-263、を参考にして製造することができる。
【0090】
本発明の抗D−ダイマー抗体を含む急性大動脈解離の鑑別用試薬は、抗H−FABP抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とするものである。当該抗H−FABP抗体を含む試薬は、後述する本発明の抗H−FABP抗体を含む鑑別用試薬とその構成は同じであり、免疫化学的方法により血液中のH−FABP濃度を測定する試薬である。
【0091】
本発明は、H−FABPを認識する抗体を含む、Stanford A-DeBakey I型と、StanfordA-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用試薬であって、D−ダイマーを認識する抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とする試薬、に関する。
【0092】
前記抗H−FABPを含む鑑別用試薬は、本発明の鑑別方法の実施において、免疫化学的方法によりH−FABP濃度を測定する場合に好適に使用することができ、これまでに記載した抗D−ダイマー抗体を含む鑑別用試薬の場合と同様にして公知の方法に従い製造することができる。
【0093】
例えば、サンドイッチELISA法によるH−FABPの測定試薬の具体的な製造方法は“Journal of Immunological Methods”178 (1995), p.99-111に、ラテックス凝集法による測定試薬については“Clinical Chemistry ”44, No.7, 1998, p.1564-1567や特開平4−31762号公報に、また、免疫クロマト法による測定試薬については前記“Clinical Biochemistry” 34 (2001), p.257-263に記載されている。
【0094】
また大日本製薬株式会社から、血液中のH−FABPの測定試薬が販売されており(免疫クロマト試薬「ラピチェック(登録商標)H−FABP」、サンドイッチELISA試薬「マーキット(登録商標)M H−FABP」)、これらの試薬を本発明の鑑別用試薬として使用することもできる。
【0095】
本発明の抗H−FABP抗体を含む急性大動脈解離の鑑別用試薬は、抗D−ダイマー抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とするものである。当該抗D−ダイマー抗体を含む試薬は、前述の本発明の抗D−ダイマー抗体を含む鑑別用試薬とその構成は同じであり、免疫化学的方法により血液中のD−ダイマー濃度を測定する試薬である。
【0096】
本発明は、抗D−ダイマー抗体を含む試薬および抗H−FABP抗体を含む試薬を含んでなる、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用キット、に関する。
【0097】
前記鑑別用キットは、本発明の鑑別方法の実施において、免疫化学的方法により血液中のD−ダイマー濃度及びH−FABP濃度を測定する場合に好適に使用することができる。
【0098】
かかる本発明の鑑別用キットに含まれる抗D−ダイマー抗体を含む試薬、および抗H−FABP抗体を含む試薬は、各抗体を含む前記鑑別用試薬とその構成は同じであり、それぞれ、免疫化学的方法により血液中のD−ダイマー濃度を測定する試薬およびH−FABP濃度を測定する試薬である。
【0099】
これらの試薬は、各々別個独立した形態で該キットに含まれるのが一般的であるが、例えば特開平8−5635号公報や特開2000−292427号公報に記載されているような、複数の抗原を同時に検出できる試薬として製造した場合には、該キットは抗D−ダイマー抗体及び抗H−FABP抗体を同時に含む単一の試薬の形態であっても良い。
【0100】
本発明の鑑別用キットは、実際の医療現場において、商業パッケージの形態で提供される。かかる商業パッケージは本発明の鑑別用キット及び該キットに関する記載物(添付文書)を含み、前記記載物および/または前記商業パッケージには、本発明の鑑別用キットはStanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別の用途に使用できる、または使用すべきであることが記載されている。
【実施例】
【0101】
以下、実施例に基いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0102】
実施例1;急性大動脈解離患者の血液中D−ダイマー濃度及びH−FABP濃度の測定(対照:急性心筋梗塞患者)
【0103】
胸痛(胸背部痛含む)を訴えて来院した患者のうち急性大動脈解離を発症していると確定診断された59症例(Stanford A-DeBakey I型;16例、Stanford A-DeBakey II型;7例、Stanford A-DeBakey IIIb型;9例、Stanford B-DeBakey IIIa型;11例、Stanford B-DeBakey IIIb型;16例)の血液中D−ダイマー濃度及びH−FABP濃度を以下のようにして測定した。対照として急性心筋梗塞患者の血液中の両マーカーを同様にして測定した。
【0104】
なお、これらの患者からはインフォームドコンセントを取得した。
【0105】
(1)D−ダイマー濃度の測定
ラテックス凝集法を測定原理とするD−ダイマー測定試薬「STAライアテストD−ダイマー」(商品名、ロッシュダイアグノステイックス社製)を使用して以下のとおり測定した。なおこの試薬の基準値は400ng/mLである。
病院搬入時に患者の静脈から市販のクエン酸ナトリウム採血管(インセパック−C凝固検査用(積水化学工業)、3.13%クエン酸ナトリウム0.2mL含有)に1.8mLの全血を採取した。その後、採血管を緩やかに転倒混和し、3000rpmで5分間、室温で遠心分離した。遠心分離後の採血管をそのままD−ダイマー測定自動装置であるSTA(ロシュダイアグノステイックス社製)にセットし、分析した。D−ダイマーの測定には上記測定試薬を用いた。分析条件は、検体血液量50μL、緩衝液(上記D−ダイマー検出試薬に添付の試薬1;トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 11.5mg/mL,アジ化ナトリウム 1mg/mL,NaCl 23.5mg/mL,メチルパラオキシ安息香酸[防腐剤]0.95mg/mL)100μL、上記D−ダイマー測定試薬用のSTA機器用希釈液50μL、ラテックス感作抗D−ダイマー抗体液(上記D−ダイマー検出試薬に添付の試薬2;抗ヒトD−ダイマーマウスモノクローナル抗体55μg/mL,ラテックス0.65mg/mL,ウシ血清アルブミン 3mg/mL,メチルパラオキシ安息香酸[防腐剤]0.95mg/mL,アジ化ナトリウム 1mg/mL)150μLを自動的に添加し、分析時間240秒、反応温度37℃で測定した。この測定試薬の検量線範囲はD−ダイマー濃度0.2〜4.0μg/mLであり、この濃度範囲を超える高値検体は再検査の対象とした。高値検体は前記STA機器用希釈液で予め所定の希釈倍数で希釈し、再度STA装置に掛けて検体中のD−ダイマー濃度を測定した。D−ダイマーの測定値はオンラインでコンピューター処理及び管理された。
【0106】
(2)H−FABP濃度の測定
前記(1)と同様にして採取した血液を3000rpmで遠心分離し、血漿分画を得た。この血漿分画をH−FABP測定用ELISAの検体とした。H−FABP測定用ELISAは市販の「マーキットM H−FABP」(大日本製薬株式会社)を用いた。予め本ELISAキットに添付されている検体分注プレートにキット緩衝液70μLを分注し、そこに先に得た血清あるいは血漿を70μL分注し、撹拌後その100μLを、抗ヒトH−FABPモノクローナル抗体を固相化した抗体結合プレートに添加し、25℃で30分間静置することにより検体中のH−FABPを抗体と反応させた。上記キットに添付の洗浄液300μLで各ウェルを3回洗浄した後、西洋ワサビパーオキシダーゼ標識抗ヒトH−FABPモノクローナル抗体を添加し、25℃で30分間静置することにより固相化抗体に捕捉されたH−FABPに標識抗体を反応させた。前記と同様に洗浄し過剰の酵素標識抗体を除いた後、基質液(o−フェニレンジアミン/過酸化水素)を各ウェルに100μL添加し、25℃で15分間酵素反応した。その後、反応停止液を100μL添加した。撹拌後、各ウェルの吸光度を主波長492nm(副波長620nm)で測定した。同様に操作したH−FABP標準溶液で得られた吸光度を基に標準曲線を作成し、検体中のH−FABP濃度を求めた。
【0107】
(3)測定結果
測定結果は下記[表1]に示すとおりであり、血液中のD−ダイマー濃度とH−FABP濃度の両方の値を組合せて検討すると、各病型の間において、そのパターンが大きく相違していた。
【0108】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の急性大動脈解離の鑑別方法及び鑑別用キット等を使用すれば、血液中の生化学的マーカーの濃度を測定すことによって、Stanford-DeBakey分類による急性大動脈解離の各病型の中、どの病型を発症している可能性が高いのかを判断することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性大動脈解離が疑われるヒトから分離された血液中のD−ダイマー濃度およびH−FABP濃度に基づいて、Stanford A-DeBakey I型、Stanford A-DeBakey II型、Stanford A-DeBakey IIIb型、Stanford B-DeBakey IIIa型またはStanford B-DeBakey IIIb型の病型の中のいずれの急性大動脈解離を発症しているか、又はいずれの急性大動脈解離も発症していないかを判断する急性大動脈解離の鑑別方法。
【請求項2】
急性大動脈解離を発症しているヒトから分離された血液中のD−ダイマー濃度およびH−FABP濃度に基づいて、発症している急性大動脈解離が、Stanford A-DeBakey I型、Stanford A-DeBakey II型、Stanford A-DeBakey IIIb型、Stanford B-DeBakey IIIa型またはStanford B-DeBakey IIIb型のいずれの病型であるかを判断する急性大動脈解離の鑑別方法。
【請求項3】
D−ダイマー濃度およびH−FABP濃度が免疫化学的方法により測定された濃度である請求項1又は2記載の鑑別方法。
【請求項4】
免疫化学的方法が酵素免疫化学的方法、ラテックス凝集法または免疫クロマト法のいずれかである請求項3記載の鑑別方法。
【請求項5】
D−ダイマーを認識する抗体を含む、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用試薬であって、H−FABPを認識する抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とする試薬。
【請求項6】
H−FABPを認識する抗体を含む、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用試薬であって、D−ダイマーを認識する抗体を含む試薬と組合せて用いることを特徴とする試薬。
【請求項7】
D−ダイマーを認識する抗体を含む試薬およびH−FABPを認識する抗体を含む試薬を含んでなる、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別用キット。
【請求項8】
請求項7に記載の鑑別用キット及び該キットに関する記載物を含む商業パッケージであって、該記載物および/または該パッケージに、該キットは、Stanford A-DeBakey I型と、Stanford A-DeBakey II型と、Stanford A-DeBakey IIIb型と、Stanford B-DeBakey IIIa型と、Stanford B-DeBakey IIIb型の急性大動脈解離の鑑別の用途に使用できる、または使用すべきであることが記載されている商業パッケージ。

【公開番号】特開2007−93312(P2007−93312A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281012(P2005−281012)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本臨床衛生検査技師会 日本臨床衛生検査技師会誌医学検査 第54巻 第4号 平成17年4月25日発行及び第54回日本医学検査学会 社団法人 日本臨床衛生検査技師会 平成17年5月13日開催
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)