説明

HRPの測定方法

【目的】 HRPの測定条件を確立してその検出感度を向上させる。
【構成】 ルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定する際に、上記発光測定試薬の緩衝液としてトリス緩衝液を用いると共に、この発光測定試薬中のH22濃度を2.06〜41.2(mmol/l)とする。好ましくはP−ヨードフェノール濃度を36.4〜364(μmol/l)とする。更に好ましくはルミノール濃度を2.06〜10.3(μmol/l)とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は臨床検査、微量分析等における西洋わさびペルオキシターゼ(ホースラディッシュペルオキシターゼ;HRP)の検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、HRPは生化学分析、臨床検査等の分野でよく用いられる代表的な酵素であり、特に微量分析が期待できるので、様々な測定に用いられている。
【0003】このHRPを用いた測定における測定条件は、例えば1986 G.H.G.Thorpe Methods in Enzymology 133,331-353、Enhanced Chemiluminescent reactions Catalyzed by Horseradish Peroxidase等の文献に述べられており、通常は以下のような測定条件が用いられている。
【0004】
【表1】
発光測定試薬(0.1mol/l Tris buffer pH8.5) ルミノール(luminol) 61.6(μmol/l) 過酸化水素(H22) 20.6(mmol/l) P−ヨードフェノール(P-iodophenol) 374(μmol/l)(最終濃度)
(各1ml)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、HRPを高感度に測定する事はそのHRPを検出系に利用した測定系そのものの感度を上昇させることになり、実用上の意義はきわめて大きい。
【0006】しかし、HRPの検出時における測定条件は未だ確立されてはおらず、最適なHRP測定条件の選定が求められている。
【0007】本発明は上記背景のもとになされたものであり、HRPの測定条件を確立してその検出感度を向上させることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用】上記課題を解決するため、請求項1記載の発明はルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のP−ヨードフェノール濃度を36.4〜364(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法を提供する。
【0009】請求項2記載の発明はルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のH22濃度を2.06〜41.2(mmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法を提供する。
【0010】請求項3記載の発明はルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬は緩衝液としてトリス緩衝液を用いると共に、この発光測定試薬中のH22濃度を2.06〜41.2(mmol/l)とし、かつ前記発光測定試薬中のP−ヨードフェノール濃度を36.4〜364(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法を提供する。
【0011】請求項4記載の発明はルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のルミノール濃度を2.06〜10.3(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法を提供する。
【0012】請求項5記載の発明は請求項3記載のHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のルミノール濃度を2.06〜10.3(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法を提供する。
【0013】上記各請求項記載の発明においてはP−ヨードフェノール濃度、H22濃度、ルミノール濃度によってHRPの測定感度が変化する。
【0014】上記P−ヨードフェノールはその濃度を0.1×364(μmol/l)〜10×364(μmol/l)として測定を行うことが好ましく、特に濃度を182(μmol/l)とすると高い測定精度が得られる。
【0015】また、H22はその濃度を0.1×20.6(mmol/l)〜2×20.6(mmol/l)として測定を行うことが好ましく、特に濃度を4.12(mmol/l)とすると高い測定精度が得られる。
【0016】更に、ルミノールはその濃度を2.06〜10.3(μmol/l)として測定を行うことが好ましく、特に濃度を4.12(μmol/l)とすると高い測定精度が得られる。
【0017】また、HRPの測定を行う際のトリス緩衝液濃度には特に制限はなく、通常のHRP測定時と同じ濃度としてよい。好ましくはトリス緩衝液としては0.1(mol),pH8.5のものを用いる。
【0018】
【実施例】
実施例1本実施例においてはHRPの測定試薬としてルミノール、過酸化水素、P−ヨードフェノールを含むトリス緩衝液を用い、この測定試薬におけるP−ヨードフェノールの濃度を変化させてHRPの測定を行い、最適なP−ヨードフェノール濃度を求めた。尚、HRPの測定器としては明電舎製のルミノメータUPD−8000を用いた。
【0019】まず、HRPを1×10-4(mol/l)の濃度に調製し、このHRP溶液を順次希釈してHRP濃度10-12〜10-7(mol/l)の標準液を調製した。
【0020】次に、ルミノール(シグマ製)28.5(mg)を0.2(mol/l)炭酸塩緩衝液(carbonate buffer,pH9.8)に溶解し、25(ml)に調製した。
【0021】同様に、P−ヨードフェノール(P-iodophenol,東京化成製)100(mg)をDMSOに溶解し、25(ml)に調製して18.2(mmol/l)の溶液を得た。
【0022】過酸化水素は市販の10(mol/l)のものを用いた。
【0023】
【表2】
基本測定試薬 6 (mmol/l) luminol 1(ml) 10 (mol/l) H22 20(μl) 18.2 (mmol/l) P-iodophenol 2(ml) 0.1 (mol/l) Tris buffer pH8.5 100(ml)上記基本測定試薬を用いて、6(mmol/l)のルミノール1(ml)、10(mmol/l)のH2220(μl)、及びP−ヨードフェノールを含むトリス緩衝液100(ml)を調整し、上記HRPの各標準液と発光反応を行った。この際、P−ヨードフェノールの最終濃度が0,0.1×364(μmol/l),0.5×364(μmol/l),1×364(μmol/l),2×364(μmol/l),10×364(μmol/l)となるようにそれぞれ試料液a,b,c,d,eを作成してそれぞれ検量線を作成した。その結果を順次図1のA,B,C,D,E,Fの各線にて示す。
【0024】上記検量線においては、1.バックグラウンドが低い(HRP濃度0における発光値が低い)
2.検量線の立ち上がりが良い(S/N比が大きい)
3.検量線のカーブがスムーズであることという3点を判断基準とする。
【0025】図から明らかなように、P−ヨードフェノールの濃度が上がるにつれてバックグラウンドは低くなるが、検量線の傾きは小さくなっており試料液d,eの検量線は良好とはいいがたい。これに対し、試料液a,b,cにおいては検量線の傾きが大きく、良い検量線が得られている。最も良い検量線は試料液b(P−ヨードフェノール濃度182(μmol/l):最終濃度)のものである。
【0026】実施例2実施例1と同様に、HRPを1×10-4(mol/l)の濃度に調製して順次希釈することにより、10-13〜10-7(mol/l)の検量線用の標準液を作成した。
【0027】次に、実施例1に示した基本測定試薬を用いて6(mmol/l)のルミノール1(ml)10(mol/l)のH2220(μl)、364(μmol/l)のP−ヨードフェノール2(ml)を含む0.1(mol/l)のトリス緩衝液100(ml)を調整し、上記HRPの各標準液と発光反応を行った。
【0028】この際、上記トリス緩衝液におけるH22濃度を0,0.1×20.6(mmol/l),0.2×20.6(mmol/l),0.5×20.6(mmol/l),1×20.6(mmol/l),2×20.6(mmol/l)としてそれぞれ試料液f,g,h,i,j,kを作成し、それぞれ検量線を作成した。その結果を順次図2のF,G,H,I,J,Kの各線にて示す。
【0029】実施例1と同様に、上記検量線においては、1.バックグラウンドが低い(HRP濃度0における発光値が低い)
2.検量線の立ち上がりが良い(S/N比が大きい)
3.検量線のカーブがスムーズであることという3点を判断基準とする。
【0030】図2から明らかなように、P−ヨードフェノールの濃度が上がるにつれてバックグラウンドは高くなり、検量線の傾きも小さくなって検量線の精度が低くなっていることがわかる。
【0031】しかし、H〜K線にてはHRP濃度が10-12(mol/l)程度で検量線が立ち上がるのに対し、P−ヨードフェノール濃度が0.1×20.6(mmol/l)と低いG線にては,HRP濃度10-11(mol/l)程度にてようやく検量線が立ち上がっており、検量線の立ち上がりが悪くなっている。
【0032】従って最も良い検量線は試料液h(H22濃度4.12(mmol/l):最終濃度)のものであるが、試料液g,i,j,kおける検量線においても比較的良好な検量線が得られていることがわかる。
【0033】実施例3実施例1と同様に、HRPを1×10-4(mol/l)の濃度に調製して順次希釈することにより、10-13〜10-7(mol/l)の検量線用の標準液を作成した。
【0034】次に、実施例1に示した基本測定試薬を用いて、ルミノール、10(mol/l)のH2220(μl)、18.2(mmol/l)のP−ヨードフェノール2(ml)を含む0.1(mol/l)のトリス緩衝液100(ml)を調整し、上記HRPの各標準液と発光反応を行った。
【0035】この際、上記トリス緩衝液におけるルミノール濃度を20.6(μmol/l)としたものを基本としてルミノール濃度がそれぞれ0,0.1×20.6(μmol/l),0.2×20.6(μmol/l),0.5×20.6(μmol/l),1×20.6(μmol/l)である試料液l,m,n,o,pを作成し、それぞれ検量線を作成した。その結果を順次図3のL,M,N,O,Pの各線にて示す。
【0036】実施例1と同様に、上記検量線においては、1.バックグラウンドが低い(HRP濃度0における発光値が低い)
2.検量線の立ち上がりが良い(S/N比が大きい)
3.検量線のカーブがスムーズであることという3点を判断基準とする。
【0037】図3から明らかなように、ルミノールの濃度が上がるにつれてバックグラウンドは高くなり、検量線の傾きも小さくなる(検量線O,P)。従って検量線の精度が低くなることがわかる。
【0038】これに対し、ルミノール濃度が低くなると検量線の立ち上がりが悪くなり、低濃度領域を測定することが困難となる(検量線M)。
【0039】従って、最も良い検量線は試料液nの検量線N(ルミノール濃度4.12(μmol/l):最終濃度)であるが、試料液m,oにおいても比較的良好な検量線M,Oが得られていることがわかる。
【0040】
【発明の効果】本発明によれば、HRPを高感度に検出できるので様々な測定系を高感度化できる。
【0041】また、特殊な設備や試薬等を必要としないので、容易に測定を行うことができ、経済的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】各P−ヨードフェノール濃度におけるHRP濃度と発光強度との相関を示すグラフ。
【図2】各H22濃度におけるHRP濃度と発光強度との相関を示すグラフ。
【図3】各ルミノール濃度におけるHRP濃度と発光強度との相関を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のP−ヨードフェノール濃度を36.4〜364(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法。
【請求項2】 ルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のH22濃度を2.06〜41.2(mmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法。
【請求項3】 ルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬は緩衝液としてトリス緩衝液を用いると共に、この発光測定試薬中のH22濃度を2.06〜41.2(mmol/l)とし、かつ前記発光測定試薬中のP−ヨードフェノール濃度を36.4〜364(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法。
【請求項4】 ルミノール、H22、P−ヨードフェノールを含む発光測定試薬とHRPとを反応させ、この反応時における発光量に基づいてHRPの濃度を決定するHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のルミノール濃度を2.06〜10.3(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法。
【請求項5】 請求項3記載のHRPの測定方法において、前記発光測定試薬中のルミノール濃度を2.06〜10.3(μmol/l)としたことを特徴とするHRPの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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