説明

I3−を有する層状複水酸化物およびその製造方法

【課題】 層状複水酸化物およびその製造方法を提供することであり、詳細には、Iを有する層状複水酸化物およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明による層状複水酸化物は、M12+イオンとM23+イオンとを含有するホスト層と、アニオンを含有する中間層との積層構造からなり、M12+イオンの元素M1は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から少なくとも1つ選択される遷移金属であり、M23+イオンの元素M2は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、モル比(M23+/M12+)は1/2であり、アニオンは、IイオンとIイオンとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状複水酸化物およびその製造方法に関し、より詳細には、Iを有する層状複水酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロタルサイト化合物あるいはアニオン型粘土鉱物として知られている層状複水酸化物(Layered Double Hydroxides;LDH)は、陰イオン交換材料、吸着剤、触媒、ナノリアクタ、モレキュラーシーブ、ポリマー複合材料、生体材料等への応用が期待されている。また、層状複水酸化物を単層に剥離して得られるカチオン性ナノシートを用いた新規なナノデバイスの構築も期待されている。
【0003】
このような層状複水酸化物として、水酸化コバルト(II)・(III)結晶である層状複水酸化物が開発された(例えば、特許文献1を参照)。別の層状複水酸化物として、水酸化コバルト(II)・鉄(III)結晶である層状複水酸化物が開発された(例えば、特許文献2を参照)。また、別の層状複水酸化物として、水酸化コバルト・ニッケル結晶である層状複水酸化物が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1によれば、水酸化コバルト(II)とコバルト(III)とからなり、アニオンとして臭素がインターカレートされたCo系層状複水酸化物が得られる。しかしながら、製造に用いる臭素は、刺激臭を持ち、猛毒であり、人体への影響が懸念される。また、製造に用いる臭素は、出発物質に対して40倍を必要とし、非効率的でもあった。
【0005】
特許文献2によれば、水酸化コバルト(II)と鉄(III)とからなり、六角板状でかつ層状の結晶であり、アニオンとしてヨウ素(I)がインターカレートされたCo−Fe系層状複水酸化物が得られる。しかしながら、特許文献2によれば、出発物質における鉄とコバルトとの原子比(モル比)は1/2に限られているので、異なる原子比を有する出発物質を用いて層状複水酸化物が得られることが望ましい。
【0006】
また、非特許文献1によれば、コバルト(II)とニッケル(II)とコバルト(III)とからなり、アニオンとして臭素がインターカレートされたCo−Ni系層状複水酸化物が得られるが、臭素以外の酸化剤を用いて他の遷移金属からなる層状複水酸化物が得られることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本発明の課題は、層状複水酸化物およびその製造方法を提供することであり、詳細には、Iを有する層状複水酸化物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による層状複水酸化物は、M12+イオンとM23+イオンとを含有するホスト層と、アニオンを含有する中間層との積層構造からなり、前記M12+イオンの元素M1は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から少なくとも1つ選択される遷移金属であり、前記M23+イオンの元素M2は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、前記M23+イオンと前記M12+イオンとのモル比(M23+/M12+)は1/2であり、前記アニオンは、IイオンとIイオンとを含み、これにより上記課題を解決する。
前記Iイオンと前記Iイオンとのモル比(I/I)は1/2であってもよい。
前記ホスト層は、一般式[M12+2/3M23+1/3(OH)1/3+で表され、前記中間層は、一般式[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−(mは、0.1〜0.5の範囲である)で表されてもよい。
前記層状複水酸化物は、六角板状の形状を有してもよい。
前記層状複水酸化物のX線回折パターンにおける一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低くてもよい。
本発明による層状複水酸化物の製造方法は、M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Coおよび/またはFeの遷移金属を、必要に応じて、Niおよび/またはZnの遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、0≦x<1/3の範囲を満たす)で表されるブルーサイト型金属水酸化物、または、M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から選択される遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、x=1/3である)で表されるブルーサイト型金属水酸化物を、ヨウ素が溶解した溶液に添加し、撹拌するステップを包含し、前記ヨウ素と前記ブルーサイト型金属水酸化物とのモル比(ヨウ素/ブルーサイト型金属水酸化物)は、2.5×1/3〜40×1/3(ただし、ヨウ素をIとする)の範囲であり、これにより上記課題を解決する。
3価になるCoおよび/またはFeの含量は、モル比で、前記ブルーサイト型金属水酸化物中の金属含量の1/3以上であってもよい。
前記ヨウ素と前記ブルーサイト型金属水酸化物とのモル比(ヨウ素/ブルーサイト型金属水酸化物)は、10×1/3〜25×1/3(ただし、ヨウ素をIとする)の範囲であってもよい。
前記添加し、撹拌するステップは、前記ブルーサイト型金属水酸化物が添加された前記溶液を、室温で1日〜7日間撹拌してもよい。
前記ヨウ素が溶解した溶液の溶媒は、クロロホルムであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明による層状複水酸化物は、M12+イオン(M12+イオンの元素M1は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から少なくとも1つ選択される遷移金属である)とM23+イオン(M23+イオンの元素M2は、Coおよび/またはFeの遷移金属である)とを含有するホスト層と、IイオンとIイオンとを含むアニオンを含有する中間層との積層構造からなり、M23+イオンとM12+イオンとのモル比(M23+/M12+)が1/2を満たせばよいので、M1およびM2として種々の組み合わせ、および、種々の組成を実現できる。このような層状複水酸化物を剥離すれば、ビルディングブロックとして新規なナノシートが得られる。
【0010】
本発明による層状複水酸化物の製造方法によれば、M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Coおよび/またはFeの遷移金属を、必要に応じて、Niおよび/またはZnの遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、0≦x<1/3の範囲を満たす)で表されるブルーサイト型金属水酸化物、または、M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から選択される遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、x=1/3を満たす)で表されるブルーサイト型金属水酸化物を、ヨウ素が溶解した溶液に添加し、撹拌する工程を包含するトポ化学法であり、ヨウ素とブルーサイト型金属水酸化物とのモル比(ヨウ素/ブルーサイト型金属水酸化物)は、2.5×1/3〜40×1/3(ただし、ヨウ素をIとする)の範囲を満たす。本発明の製造方法によれば、ヨウ素を過剰に溶解した溶液に所望のブルーサイト型金属水酸化物を添加し、撹拌するだけでよいので、簡便であり、大量生産に有利である。また、格別の技術および装置を要することなく、上述の層状複水酸化物が得られるので、安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による層状複水酸化物を示す模式図
【図2】本発明による層状複水酸化物を示す別の模式図
【図3】アニオン交換された本発明による層状複水酸化物を示す模式図
【図4】本発明による層状複水酸化物を製造するフローチャートを示す図
【図5】実施例1および比較例1による生成物のXRDパターンを示す図
【図6】比較例2〜4による生成物B〜DのXRDパターンを示す図
【図7】実施例2〜4による生成物2〜4のXRDパターンを示す図
【図8】実施例3による生成物3のTEM像(a)と電子回折パターン(b)とを示す図
【図9】実施例1による生成物1−4のXPSスペクトルを示す図
【図10】実施例4による生成物4のXPSスペクトルを示す図
【図11】実施例2〜4による生成物2〜4のUV−visスペクトルを示す図
【図12】実施例3によるアニオン交換された生成物3のXRDパターンを示す図
【図13】実施例3による生成物3dsのUV−visスペクトルを示す図
【図14】実施例3による生成物3および生成物3pのTG曲線を示す図
【図15】比較例2による生成物Bおよび生成物BpのTG曲線を示す図
【図16】実施例5による生成物3の超格子構造の模式的な図
【図17】実施例5による生成物3の中間層のヨウ素の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図
【図18】実施例5による生成物3の中間層のヨウ素の別の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図
【図19】実施例5による生成物3の中間層のヨウ素のさらに別の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図
【図20】実施例5による生成物3の中間層のヨウ素のさらに別の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図
【図21】実施例5による生成物3の中間層のヨウ素の別のさらに分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明による層状複水酸化物を示す模式図である。
【0014】
本発明による層状複水酸化物100は、ホスト層110と中間層120との積層構造からなる。
【0015】
ホスト層110は、M12+イオンとM23+イオンとを含有する。M12+イオンの元素M1は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から少なくとも1つ選択される遷移金属である。M23+イオンの元素M2は、Coおよび/またはFeの遷移金属である。さらに、M23+イオンとM12+イオンとのモル比(M23+/M12+)は1/2を満たす。ここで、M1とM2とが同一の元素であってもよい。
【0016】
中間層120は、アニオンとしてIイオンとIイオンとを含む。より好ましくは、IイオンとIイオンとのモル比(I/I)は1/2である。
【0017】
M23+イオンとM12+イオンとのモル比(M23+/M12+)が1/2を満たせばよいので、M1およびM2として種々の組み合わせ、および、種々の組成を実現できる。例えば、M1とM2とに同一の遷移金属を選択してもよいし、M1としてCoおよびNi、および、M2としてCoを選択してもよい。また、上記モル比を満たす限り、M1およびM2の組み合わせおよび組成に制限はないので、設計の自由度が高い。
【0018】
さらに、ホスト層110は、一般式[M12+2/3M23+1/3(OH)1/3+で表され、中間層120は、一般式[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−で表され、本発明の層状複水酸化物を一般式[M12+2/3M23+1/3(OH)1/3+[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−あるいは組成式M12+2/3M23+1/3(OH)5/9・mHOと表してもよい。ここで、mは、0.1〜0.5の範囲であり、この範囲であれば、安定である。
【0019】
本明細書において、モル比1/2、あるいは、一般式および組成式中のイオンの数(2/3、1/3等)は、誤差を含んでもよく、実質的に1/2、2/3、1/3、5/9等の値の場合に一般式を満足するものを意図する。
【0020】
図2は、本発明による層状複水酸化物を示す別の模式図である。
【0021】
本発明による層状複水酸化物100は、六角板状の形状を有する。この六角板状の形状は、後述する製造方法において出発物質として用いられるブルーサイト型金属水酸化物の形状を反映しているためである。本発明の層状複水酸化物100は、六角板状の厚さ方向dに、ホスト層110と中間層120とが積層されている。
【0022】
本発明による層状複水酸化物は、中間層にIを含有することにより、既存の層状複水酸化物(例えば、特許文献1および2)と異なるX線回折パターンを示す。いわゆる層状複水酸化物は、ホスト層と中間層との積層構造に由来する特有な底面反射をX線回折パターンに示すことが知られている。既存の層状複水酸化物のX線回折パターンにおける底面反射のピーク強度は、一次、二次と次数が上がるにつれて、順次低減する。しかしながら、本発明による層状複水酸化物によれば、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低いことを特徴とする。このような特徴を利用すれば、X線回折を測定することによって、本発明の層状複水酸化物が得られたか否か容易に判定できる。
【0023】
図3は、アニオン交換された本発明による層状複水酸化物を示す模式図である。
【0024】
本発明による層状複水酸化物100(図1および図2)によれば、中間層120(図1および図2)のアニオン(IおよびI)が異なるアニオン310に交換可能であり、層状複水酸化物を機能化できる。例えば、本発明によるアニオン交換された層状複水酸化物300は、ClO、Cl、NO、CO2−、SO2−およびHPO2−からなる無機アニオン、および、有機カルボン酸および有機スルホン酸により誘導される有機アニオンからなる群から選択されるアニオンと交換されている。代表的な有機カルボン酸にはCHCOOが、代表的な有機スルホン酸にはC1225OSOがあるが、これらに限定されない。
【0025】
なお、本発明によるアニオン交換された層状複水酸化物300によれば、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも高く、本発明の層状複水酸化物100のそれと逆転し得る。このような特徴を利用すれば、X線回折を測定することによって、本発明の層状複水酸化物がアニオン交換された否か容易に判定できる。
【0026】
例えば、本発明による層状複水酸化物のアニオンを炭酸(CO2−)で交換した場合、アニオン交換後の層状複水酸化物を500℃等の温度で加熱し、脱水・脱炭酸すれば、酸化物を得ることができる。
【0027】
例えば、本発明による層状複水酸化物のアニオンを過塩素酸(ClO)で交換した場合、アニオン交換後の層状複水酸化物をホルムアミド等の非プロトン性溶媒に分散させるだけで、ホスト層と中間層とをばらばらに剥離し、ナノシートを得ることができる。
【0028】
次に、本発明による層状複水酸化物を製造する方法を詳述する。
【0029】
図4は、本発明による層状複水酸化物を製造するフローチャートを示す図である。
【0030】
ステップS410:M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Coおよび/またはFeの遷移金属を、必要に応じて、Niおよび/またはZnの遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、0≦x<1/3の範囲を満たす)で表されるブルーサイト型金属水酸化物、または、M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から選択される遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、x=1/3である)で表されるブルーサイト型金属水酸化物を、ヨウ素が溶解された溶液に添加し、撹拌する。以降では簡単のため、前者のブルーサイト型金属水酸化物を第1の金属水酸化物と、後者のブルーサイト型金属水酸化物を第2の金属水酸化物と、両者のブルーサイト型金属水酸化物を総称して単に金属水酸化物と称する。
【0031】
出発物質である第1の金属水酸化物において、M1’は、2価であるが、反応後、すべてあるいは一部が3価になり得るCoおよび/またはFeの遷移金属を含み、かつ、必要に応じて、最終的に得たい層状複水酸化物100(図1および図2)がNiおよび/またはZnの遷移金属を含む場合には、反応後も2価であるNiおよび/またはZnの遷移金属を含み、ならびに、M2’は、2価であるが、反応後すべて3価になるCoおよび/またはFeの遷移金属である。
【0032】
出発物質である第2の金属水酸化物において、M1’は、2価であるが、反応後も2価であるCo、Fe、NiおよびZnからなる群から選択される遷移金属を含み、かつ、M2’は、2価であるが、反応後すべて3価になるCoおよび/またはFeの遷移金属である。
【0033】
ここで、ヨウ素と金属水酸化物とのモル比(ヨウ素/金属水酸化物)は、2.5×1/3〜40×1/3の範囲を満たす(ただしヨウ素をIとして算出するものとする)。なお、ヨウ素をIとして算出した場合には、モル比は、2.5×1/6〜40×1/6の範囲を満たす。この範囲より下回れば、本発明による層状複水酸化物単一相の生成が困難であり、この範囲を超えれば、過剰なヨウ素を必要とするためコスト高につながる。より好ましくは、モル比は、10×1/3〜25×1/3の範囲を満たす(ただしヨウ素をIとして算出するものとする)。この範囲であれば、本発明による層状複水酸化物の生成を促進し、出発物質の金属水酸化物が残留することもない。なお、ヨウ素が溶解された溶液の溶媒は、極性の低い有機溶媒であればよく、具体的には、クロロホルムが使用され得る。
【0034】
ステップS410において、撹拌は、具体的には、出発物質である金属水酸化物が添加された溶液を、室温で、1日〜7日間撹拌すればよい。これにより、確実に、ヨウ素がIおよびIとしてインターカレートし、かつ、M2’(必要に応じて、M1’)が2価から3価に酸化された層状複水酸化物が得られる。なお、撹拌期間は長いほど効果的であり、5日以上が好ましいが、7日を超えても効果は変わらない。
【0035】
ステップS410におけるヨウ素を溶解した溶液は、例えば、特許文献2で用いられるヨウ素の量(1.0×1/3〜2.0×1/3)を超える過剰なヨウ素を含有する。本発明者らは、上記範囲の過剰なヨウ素が溶解した溶液を用いることにより、ステップ410において、出発物質である金属水酸化物において、M2’は必ず3価になり、M1’のCoおよび/Feの遷移金属は、最終的に得られる層状複水酸化物100におけるM23+イオンとM12+イオンとのモル比(M23+/M12+)が1/2を満たすように、必要に応じて、3価になり得ることを見出した。すなわち、出発物質であるブルーサイト型金属水酸化物中3価になり得る遷移金属Coおよび/またはFeの含量(モル比)は、金属全体含量の1/3以上である。
【0036】
なお、金属水酸化物におけるM1’およびM2’と、図1を参照して説明した本発明の層状複水酸化物100におけるM1およびM2とは、必ずしも同一ではないことに留意されたい。M1’およびM2’とM1およびM2とが完全に同一の場合もあるし、M1’の一部はM1となり、M1’の一部およびM2の全部がM2となり、M2’の全部がM2となる場合もある。次に例を挙げて説明する。
【0037】
例えば、第1の金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)において、M1’が、Coであり、M2’がFeであり、xが1/4である場合を想定する。この場合、出発物質の第1の金属水酸化物は、Co3/4Fe1/4(OH)で表される。この第1の金属水酸化物を用い、上記ステップS401を行うと、Fe1/4は2価から3価に酸化される。Co3/4のうちCo1/12は2価から3価に酸化され、Co2/3は2価のままとなる。この結果、M23+(M2はCoとFeとである)とM12+(M1はCoである)とのモル比は1/2となる。最終的に得られる層状複水酸化物は、[Co2+2/3(Co3+1/12Fe3+1/4)(OH)1/3+[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−(mは0.1〜0.5の範囲である)となる。
【0038】
同様に、第1の金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)において、M1’が、Coであり、M2’がFeであり、xが1/5である場合を想定する。この場合、出発物質の第1の金属水酸化物は、Co4/5Fe1/5(OH)で表される。この第1の金属水酸化物を用い、上記ステップS401を行うと、Fe1/5は2価から3価に酸化される。Co4/5のうちCo2/15は2価から3価に酸化され、Co2/3は2価のままとなる。この結果、M23+(M2はCoとFeとである)とM12+(M1はCoである)とのモル比は1/2となる。最終的に得られる層状複水酸化物は、[Co2+2/3(Co3+2/15Fe3+1/5)(OH)1/3+[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−(mは0.1〜0.5の範囲である)となる。
【0039】
その他の組み合わせでも同様であり、最終的にM23+とM12+とのモル比が1/2となるように、第1の金属水酸化物中のM2’の全部およびM1’の一部または全部が酸化される。
【0040】
一方、例えば、第2の金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)において、M1’が、Coであり、M2’がFeである場合、出発物質の第2の金属水酸化物は、Co2/3Fe1/3(OH)で表される。この第2の金属水酸化物を用い、上記ステップS401を行うと、Fe1/3は2価から3価に酸化される。Co2/3は2価のままとなる。この結果、M23+(M2はFeである)とM12+(M1はCoである)とのモル比は1/2となる。最終的に得られる層状複水酸化物は、[Co2+2/3Fe3+1/3)(OH)1/3+[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−(mは0.1〜0.5の範囲である)となる。
【0041】
同様に、第2の金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)において、M1’が、Niであり、M2’がFeである場合、出発物質の第2の金属水酸化物は、Ni2/3Fe1/3(OH)で表される。この第2の金属水酸化物を用い、上記ステップS401を行うと、Fe1/3は2価から3価に酸化される。Ni2/3は2価のままとなる。この結果、M23+(M2はFeである)とM12+(M1はNiである)とのモル比は1/2となる。最終的に得られる層状複水酸化物は、[Ni2+2/3Fe3+1/3)(OH)1/3+[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−(mは0.1〜0.5の範囲である)となる。
【0042】
このように、本発明のトポ化学法によれば、上記モル比を満たすヨウ素が過剰に溶解した溶液に所望の金属水酸化物を添加し、撹拌するだけでよいので、簡便であり、大量生産に有利である。また、格別の技術および装置を要することなく、上述の層状複水酸化物が得られるので、安価に提供できる。
【0043】
本発明の製造方法は、ステップS401により得られた生成物である本発明の層状複水酸化物を、ClO、Cl、NO、CO2−、SO2−およびHPO2−からなる無機アニオン、および、有機カルボン酸および有機スルホン酸により誘導される有機アニオンからなる群から選択されるアニオンを溶解した溶液に添加し、撹拌するステップをさらに包含してもよい。これにより、本発明の層状複水酸化物のアニオン(IおよびI)をアニオン交換できる。撹拌は、具体的には、層状複水酸化物が添加されたアニオンを溶解した溶液を密封(容器内の空気は窒素等の不活性ガスでパージされる)し、室温で、10時間〜24時間、振盪すればよい。このようなアニオン交換には、例えば、エタノール添加アニオン交換法(例えば、非特許文献1を参照)が適用され得る。
【0044】
代表的な有機カルボン酸にはCHCOOが、代表的な有機スルホン酸にはC1225OSOがあるが、これらに限定されない。また、交換されるべきアニオンと、本発明の層状複水酸化物とのモル比は、好ましくは、3×10:1〜1×10:1の範囲である。
【0045】
さらに、本発明の層状複水酸化物は、適切なソフト化学処理により、ホスト層110[M12+2/3M23+1/3(OH)1/3+に単層剥離され、正電荷を持つナノシートが得られる。例えば、過塩素酸でアニオン交換された層状複水酸化物を、ホルムアミドに代表される非プロトン性溶媒に分散し、密封(容器内の空気は窒素等の不活性ガスでパージされる)し、室温で機械的に振盪または超音波処理すればよい。
【0046】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例1】
【0047】
実施例1では、図4のステップS410において、(第1の)金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)として、M1’がCoであり、x=0であるCo(OH)を用い、種々のヨウ素Iと金属水酸化物とのモル比により本発明の層状複水酸化物を製造した。
【0048】
Co(OH)は、例えば、特許文献1に記載のブルーサイト型水酸化コバルト(II)の製造方法により製造した。1000cmの三口フラスコを用い、ミリQ水に塩化コバルト・六水和物(CoCl・6HO)を溶解させた。このとき、Coカチオンの濃度は7.5mMであった。三口フラスコを窒素ガスでパージした。窒素ガスをパージしたルートと同じルートを使って、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)溶液(1.2M、50cm)を三口フラスコの1つのネックに導入し、分離バルブにて保持した。一晩パージした後、分離バルブを開放し、HMT溶液を三口フラスコ内に入れた。このとき、外気/O不純物の混入はなかった。塩化コバルト・六水和物とHMT溶液との混合溶液を、マグネチックスターラで撹拌しながら、約5時間還流した。三口フラスコ内にピンク色の固体生成物が沈殿しているのを確認した。次いで、窒素ガスを満たしたグローブボックス内で沈殿物を濾過し、ピンク色の固体生成物を回収した。回収した固体生成物(Co(OH))は、脱ガスしたミリQ水および無水エタノールで数回洗浄した。このようにして、Co(OH)を製造した。
【0049】
次に、金属水酸化物Co(OH)を、クロロホルム(50cm)にヨウ素を溶解した溶液(以降では簡単のためクロロホルム溶液と呼ぶ)に添加し、室温にて撹拌した(図4のステップS410)。ここで、ヨウ素とCo(OH)とのモル比、および、撹拌時間(時間)を、2.5×1/3および24、10×1/3および24、25×1/3および24、ならびに、25×1/3および120と変化させた。濾過により黒ずんだ生成物を回収し、濾液が無色になるまで無水エタノールで繰り返し洗浄した。
【0050】
このようにして得られた各生成物を、総称して生成物1、あるいは、個別に生成物1−1〜1−4と称する。生成物1−1〜1−4は、それぞれ、ヨウ素とCo(OH)とのモル比、および、撹拌時間(時間)が、2.5×1/3および24、10×1/3および24、25×1/3および24、ならびに、25×1/3および120の条件で撹拌することによって得られた生成物である。
【0051】
粉末X線回折装置(Rigaku RINT−2200、モノクロメータで単色化したCuKα線(λ=0.15405nm))を用いたX線回折パターンにより、生成物1を同定した。結果を図5に示す。
【0052】
PHI XPS 5700(Al Kα線(200W、1486.6eV))により、生成物1−4のX線光電子分光(XPS)スペクトルを測定した。結果を図9に示す。スペクトルはいずれも、C 1sピークおよびO 1sピークを用いて較正された。
【0053】
生成物1中のCoおよびIの含有量を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)により解析し、組成式を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
生成物1の2価および3価の金属カチオンのモル比を滴定法により決定した。希釈したHClに生成物1(0.030g)を溶解させ、等量に分けた。一方のHCl溶液を、指示薬としてムレキシドを用い、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の硫酸塩で直接滴定した。これにより、生成物1中の2価の金属カチオンの合計量を得た。滴定中、希釈したアンモニウムを用いて、pH値を約10に調整した。滴定終点において、溶液の色が、黄色から紫色に変わった。
【0055】
もう一方のHCl溶液にヨウ化カリウム(KI)を添加した。HCl溶液中の3価の金属カチオン(Co3+)によるIの酸化から生成するヨウ素の化学量論量は、指示薬としてでんぷんを用い、Naによる逆滴定から求めた。なお、インターカレートされたヨウ素はKI滴定を阻害し得るので、生成物1のヨウ素を他のアニオンと交換し、それを同様の手順を用いて滴定し、結果を較正した。決定したモル比を表1に示す。
【実施例2】
【0056】
実施例2では、図4のステップS410において、(第2の)金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)として、M1’がCoであり、M2’がFeであり、x=1/3であるCo2/3Fe1/3(OH)を用い、ヨウ素Iと金属水酸化物とのモル比を10×1/3、ならびに、撹拌時間を120時間とすることにより本発明の層状複水酸化物を製造した。
【0057】
実施例1において、CoCl・6HOに加えて、塩化鉄・四水和物(FeCl・4HO)を添加した混合溶液(FeとCoとのモル比が、1:2となるように調製した)を用いた以外は、実施例1と同様にして金属水酸化物Co2/3Fe1/3(OH)を得た。このようにして得た金属水酸化物Co2/3Fe1/3(OH)を、ヨウ素Iと金属水酸化物とのモル比を10×1/3、ならびに、撹拌時間を120時間として、実施例1と同様にヨウ素が溶解されたクロロホルム溶液に添加し撹拌した。得られた生成物を生成物2と称する。
【0058】
実施例1と同様に、生成物2についてXRDパターンを測定した。結果を図7に示す。U−4100分光光度計(Hitachi)を用いて、生成物2のUV−vis吸収スペクトルを測定した。測定には、生成物2の希釈エタノール分散液を含有させた石英製セル(パス長10mm)を用いた。結果を図11に示す。また、実施例1と同様に、EDSにより生成物2の組成を求め、2価および3価の金属カチオンのモル比を滴定法により決定した。組成およびモル比を表1に示す。
【実施例3】
【0059】
実施例3では、図4のステップS410において、(第1の)金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)として、M1’がCoであり、M2’がFeであり、x=1/4であるCo3/4Fe1/4(OH)を用いた以外は、実施例2と同様であった。得られた生成物を生成物3と称する。
【0060】
エタノール添加アニオン交換法を用いて、生成物3にアニオン交換を行った。NaClO(0.3mol)およびC1225OSONa(0.3mol)を、それぞれ、エタノール−水の混合溶液(エタノール(v)と水(v)との容積比は1:1)に溶解させ、過塩素酸塩(ClO)溶液(1.5M)およびドデシル硫酸塩(C1225OSO)溶液(1.5M)を調製した。生成物3(0.25g)を過塩素酸塩溶液およびドデシル硫酸塩溶液にそれぞれ分散させ、容器を窒素ガスでパージした。容器を密封し、室温で24時間、機械的に振盪させた。アニオン交換された生成物3を濾過し、脱ガスしたミリQ水および無水エタノールで洗浄し、大気中で乾燥させた。過塩素酸塩でアニオン交換された生成物3を生成物3pと、ドデシル硫酸塩でアニオン交換された生成物3を生成物3dsと称する。
【0061】
実施例2と同様に、生成物3、生成物3pおよび生成物3dsについてXRDパターンおよびUV−visスペクトルを測定した。結果を図7、図11〜図13に示す。
【0062】
エネルギーフィルタ型透過電子顕微鏡(JEOL、JEM−3100F)を用いて、生成物3について透過型電子顕微鏡(TEM)観察をした。結果を図8に示す。
【0063】
TGA−8120装置(Rigaku)を用いて、生成物3および生成物3pについて熱重量(TG)測定を行った。測定は、大気中、25℃〜1000℃の温度範囲について昇温速度5℃/分で行われた。結果を図14に示す。
【0064】
また、実施例1と同様に、EDSにより生成物3の組成を求め、2価および3価の金属カチオンのモル比を滴定法により決定した。組成およびモル比を表1に示す。
【実施例4】
【0065】
実施例4では、図4のステップS410において、(第1の)金属水酸化物M1’1−xM2’(OH)として、M1’がCoであり、M2’がFeであり、x=1/5であるCo4/5Fe1/5(OH)を用いた以外は、実施例2と同様であった。得られた生成物を生成物4と称する。
【0066】
実施例1と同様に、生成物4についてXRDパターンおよびXPSスペクトルを測定した。結果を図7および図10に示す。実施例2と同様に、生成物4についてUV−visスペクトルを測定した。結果を図11に示す。また、実施例1と同様に、EDSにより生成物4の組成を求め、3価と2価との金属カチオンのモル比を滴定法により決定した。組成およびモル比を表1に示す。
【比較例1】
【0067】
比較例1では、ヨウ素Iと金属水酸化物とのモル比を1.2×1/3、ならびに、撹拌時間を24時間とした以外は、実施例1と同様の手順で、金属水酸化物Co(OH)をクロロホルム溶液に添加し、撹拌した。得られた生成物を生成物Aと称する。
【0068】
実施例1と同様に、生成物AについてXRDパターンを測定した。結果を図5に示す。
【比較例2】
【0069】
比較例2では、ヨウ素Iと金属水酸化物とのモル比を1.2×1/3、ならびに、撹拌時間を12時間とした以外は、実施例2と同様の手順で、金属水酸化物Co2/3Fe1/3(OH)をクロロホルム溶液に添加し、撹拌した。得られた生成物を生成物Bと称する。さらに、実施例3と同様に、過塩素酸塩溶液を用いて生成物Bをアニオン交換した。アニオン交換された生成物Bを生成物Bpと称する。
【0070】
実施例1と同様に、生成物BについてXRDパターンを測定した。結果を図6に示す。実施例3と同様に、生成物Bおよび生成物BpについてTG測定を行った。結果を図15に示す。また、実施例1と同様に、EDSにより生成物Bの組成を求め、3価と2価との金属カチオンのモル比を滴定法により決定した。組成およびモル比を表1に示す。
【比較例3】
【0071】
比較例3では、ヨウ素Iと金属水酸化物とのモル比を1.2×1/4、ならびに、撹拌時間を12時間とした以外は、実施例3と同様の手順で、金属水酸化物Co3/4Fe1/4(OH)をクロロホルム溶液に添加し、撹拌した。得られた生成物を生成物Cと称する。実施例1と同様に、生成物CについてXRDパターンを測定した。結果を図6に示す。
【比較例4】
【0072】
比較例4では、ヨウ素Iと金属水酸化物とのモル比を1.2×1/5、ならびに、撹拌時間を12時間とした以外は、実施例4と同様の手順で、金属水酸化物Co4/5Fe1/5(OH)をクロロホルム溶液に添加し、撹拌した。得られた生成物を生成物Dと称する。実施例1と同様に、生成物DについてXRDパターンを測定した。結果を図6に示す。
【実施例5】
【0073】
実施例3で得た生成物3について、多目的パターンフィッティングプログラムRIETAN−2000によりシミュレーションを行った。構造モデルおよびXRDシミュレーションの結果を、図16〜図21に示し、後述する。
【0074】
実施例1〜5および比較例1〜4の実験条件および生成物の組成式を、簡単のため、表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
次に、実施例1〜5および比較例1〜4の測定結果を示し、詳述する。
【0077】
図5は、実施例1および比較例1による生成物のXRDパターンを示す図である。
【0078】
XRDパターンa〜eは、それぞれ、生成物A、生成物1−1、生成物1−2、生成物1−3および生成物1−4のXRDパターンである。XRDパターンaは、生成物A〜生成物1の出発物質であるブルーサイト型Co(OH)のXRDパターン(JCPDSカードNo.74−1057)に一致し、4.6Åに第1次底面反射ピークを示した。XRDパターンbによれば、ブルーサイト型Co(OH)の4.6Åに一次底面反射ピークに加えて、4.3Åに別のピークを示した。XRDパターンc〜eを参照すれば、ステップS410におけるヨウ素の量が増大するにつれて、ブルーサイト型Co(OH)のピークは消失し、4.3Åを主要ピークとする複数の異なるピークが出現した。
【0079】
さらに、XRDパターンeにおいて、ブルーサイト型Co(OH)のピークは完全に消失し、ブルーサイト型Co(OH)とは完全に異なるXRDパターンを示した。より詳細には、XRDパターンeのいずれのピークも、底面間隔約8.7Å(一次底面反射ピーク8.7Å、二次底面反射ピーク4.3Å、三次底面反射ピーク2.9Å、四次底面反射ピーク2.23Å、五次底面反射ピーク1.75Å、六次底面反射ピーク1.48Å)を有する層状構造を示した。また、XRDパターンeによれば、XRDパターンaと異なり、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低いことが分かった。
【0080】
以上より、生成物1−1は、出発物質であるブルーサイト型Co(OH)を含むものの、出発物質とは異なる底面間隔約8.7Åを有する層状構造を示した。したがって、本発明の製造方法のステップS410(図4)において、ヨウ素と金属水酸化物とのモル比の下限が2.5×1/3であることが確認された。また、生成物1−2は、出発物質とは異なる4.3Åの主要ピーク(底面間隔約8.7Å)を明瞭に示したことから、本発明の製造方法のステップS410(図4)において、ヨウ素と金属水酸化物とのモル比は、好ましくは、10×1/3以上であることが確認された。
【0081】
さらに、生成物1−4は、出発物質であるブルーサイト型Co(OH)を含むことなく、出発物質とは異なる底面間隔約8.7Åを有する層状構造を有する層状物質であることが分かった。したがって、本発明の製造方法のステップS410(図4)において、ヨウ素と金属水酸化物とのモル比の好適な上限は25×1/3であることが確認された。
【0082】
図6は、比較例2〜4による生成物B〜DのXRDパターンを示す図である。
【0083】
XRDパターンa〜cは、それぞれ、生成物B〜DのXRDパターンである。XRDパターンaは、底面間隔8.3Åを有する層状構造を示し、既存の特許文献1の図2のXRDパターンbと同様であった。詳細には、ブルーサイト型金属水酸化物において、Fe2+は、Co2+よりも酸化されやすいことが分かっており、ほぼ定比組成のヨウ素と金属水酸化物とのモル比(比較例2の1.2×1/3)を満たすヨウ素とCo2+1−xFe2+(OH)(x=1/3)とを反応させることにより、Fe2+がFe3+へと酸化され、Fe3+/Co2+のモル比が1/2を満たし、IはIとなりインターカレートされる。この反応式は次のように表される。
Co2+1−xFe2+(OH)+x/2I→Co2+1−xFe3+(OH)(ただし、x=1/3)
したがって、生成物Bは、アニオンとしてヨウ素(I)がインターカレートされた水酸化コバルト(II)と鉄(III)からなる層状複水酸化物であることが分かった。
【0084】
一方、XRDパターンbおよびcによれば、出発物質であるブルーサイト型Co3/4Fe1/4(OH)およびCo4/5Fe1/5(OH)のピーク、および、XRDパターンaと同様のヨウ素(I)がインターカレートされた水酸化コバルト(II)と鉄(III)からなる結晶のピークに加えて、底面間隔約12.9Åを有する層状構造を示した。これは、生成物CおよびDでは、1層おきにヨウ化物イオンがインターカレートするステージングという現象が起きたことを示唆する。すなわち、ヨウ化物イオン(I)がインターカレートされたスラブ(底面間隔8.3Å)と、残留する出発物質であるブルーサイト型スラブ(底面間隔4.6Å)とが交互に積層し、底面間隔が12.9Å(8.3Å+4.6Å)である周期構造を有することを示す。なお、比較例3および4について撹拌時間を120時間とした生成物においても、ブルーサイト型スラブが存在することを確認した。
【0085】
このことから、ほぼ定比組成の、ヨウ素と金属水酸化物とのモル比(比較例3および4の1.2×1/3)を満たすヨウ素とCo2+1−xFe2+(OH)(xは0≦x<1/3)とを反応させても、Fe3+/Co2+のモル比が1/2とならず、単相の層状複水酸化物が得られないことが分かった。
【0086】
図7は、実施例2〜4による生成物2〜4のXRDパターンを示す図である。
【0087】
XRDパターンa〜cは、それぞれ、生成物2〜4のXRDパターンである。XRDパターンa〜cのいずれも、図5のXRDパターンeと同様であった。すなわち、いずれのピークも、底面間隔約8.6Å〜8.7Åを有する層状構造を示し、かつ、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射(4.3Å〜4.4Å)のそれよりも低いことが分かった。
【0088】
ここで、図6のXRDパターンa(生成物B)と図7のXRDパターンa(生成物2)とを比較する。生成物2は、生成物Bと同様の底面間隔約8.3Åを有する層状構造をわずかに示すものの、主として、生成物Bと異なり、底面間隔約8.6Åを有する層状構造を示した。このことから、生成物2が、生成物B(すなわち、Iがインターカレートされた層状複水酸化物)と異なることが明らかとなった。
【0089】
また、図6のXRDパターンaの一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のそれよりも高いが、図7のXRDパターンaの一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のそれよりも低かった。このことは、層状構造を示す生成物2の層間に、Iよりもより強いX線散乱能を有する別のアニオン種がインターカレートされていることを示唆しており、本発明の製造方法から別のアニオン種はIであり得ると言える。本明細書において、「層間にアニオンがインターカレートされている」とは、「中間層がアニオンを有する」と同義であることに留意されたい。
【0090】
以上より、M1’1−xM2’(OH)(xは0≦x≦1/3)である金属水酸化物に対して、本発明の製造方法のステップS410(図4)において、ヨウ素と金属水酸化物とのモル比が、2.5×1/3〜40×1/3の範囲であれば、単相の層状構造を示す層状物質が得られることが示された。さらに、得られた層状物質の一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のそれよりも低く、層状物質の層間には、Iに加えてIがインターカレートされていることが示唆された。
【0091】
本発明の層状複水酸化物が、中間層のアニオンイオンとしてIとIとを含むとすれば、中間層のアニオンイオンとしてI単独の層状複水酸化物である生成物Aと比較して、本発明の層状複水酸化物の層間隔が拡大され、底面間隔が8.3Åから約8.6Å〜8.7Åへと増大すると推測できる。
【0092】
図8は、実施例3による生成物3のTEM像(a)と電子回折パターン(b)とを示す図である。
【0093】
図8(a)によれば、生成物3が、六角板状の形状を有することが分かった。詳細には、生成物3は、横方向(板状の面の広がり方向)に2〜4μmおよび厚さ方向に数十nmの大きさを有することを確認した。なお、この形状および大きさは、出発物質に用いたCo2+3/4Fe2+1/4(OH)金属水酸化物のそれとほぼ同様であった。なお、図示しないが、生成物1、2および4についても同様のモルフォロジであった。
【0094】
図8(b)によれば、面内に六角形の対称性(格子長a=3.1Å)が示され、生成物3が単結晶であることを確認した。
【0095】
以上より、本発明の製造方法において、特許文献2に記載のヨウ素と金属水酸化物とのモル比(最大でも2×1/3)よりもはるかに過剰なヨウ素と金属水酸化物とのモル比を採用しても、出発物質からのトポタクティックな反応が可能であることが分かった。
【0096】
図9は、実施例1による生成物1−4のXPSスペクトルを示す図である。
【0097】
XPSスペクトルaは、実施例1で用いた出発物質であるCo(OH)のXPSスペクトルであり、XPSスペクトルbは、生成物1−4のXPSスペクトルである。
【0098】
XPSスペクトルaによれば、Co(OH)のCo2p内殻線は、Co2p3/2(780.2eV)とCo2p1/2(796.6eV)とに分裂される。これらメインピークは、それぞれ、785.5eVおよび802.1eVのサテライトバンドを伴う。Co2p3/2のサテライトバンドは、高スピンCo2+状態を示す。
【0099】
XPSスペクトルbによれば、Co2p3/2とCo2p1/2とのメインピークは、それぞれ、780.2eVから779.7eV、および、796.6eVから795.5eVの低エネルギー側にシフトした。また、XPSスペクトルbにおけるサテライトバンドの強度も、XPSスペクトルaのそれに比べてわずかに低減した。
【0100】
これらのXPSスペクトルaおよびbにおける分光学的な差異は、Co2+からCo3+への部分的な価数の変化を示唆する。すなわち、本発明の製造方法において特許文献2に記載のヨウ素よりもはるかに過剰なヨウ素を用いることによって、例えば、濃度効果によってCo2+の酸化が生じ得ることを示す。
【0101】
図5および図9より、生成物1−4は、Co(OH)のCoの一部が、Co2+からCo3+へと酸化され、IおよびIがインターカレートされた層状複水酸化物であることが示唆された。すなわち、本発明の製造方法において、出発物質であるM1’1−xM2’(OH)(x=0)において、M1’は、必要に応じて、2価から3価へ酸化することが分かった。
【0102】
図10は、実施例4による生成物4のXPSスペクトルを示す図である。
【0103】
図10(A)のXPSスペクトルaおよびbは、それぞれ、Co(OH)および生成物4のCoに対するXPSスペクトルである。図10(B)のXPSスペクトルaおよびbは、それぞれ、Co(OH)および生成物4のFeに対するXPSスペクトルである。
【0104】
図10(B)のXPSスペクトルaに示されるように、715eV近傍のCoLMNオージェピークからのオーバーラップにより、正確な価数の解析が困難になっているが、図10(B)のXPSスペクトルbにおけるFe2pメインピーク近傍のサテライトバンドの出現は、Fe3+状態を示す。
【0105】
同様に、図10(A)のXPSスペクトルbにおいても、785eV近傍のFeLMNオージェピークが、Co内殻線のエネルギー領域とオーバーラップしているため、Coの価数の解析を困難にしているが、XPSスペクトルbのCo2p3/2とCo2p1/2とのメインピークは、いずれも、XPSスペクトルaのそれに比べて低エネルギー側にシフトした。また、XPSスペクトルbにおけるサテライトバンドの強度も、XPSスペクトルaのそれに比べてわずかに低減した。
【0106】
図9と同様に、これらのXPSスペクトルにおける分光学的な差異は、Fe2+からFe3+への完全な価数の変化と、Co2+からCo3+への部分的な価数の変化を示唆する。すなわち、本発明の製造方法において特許文献1に記載のヨウ素よりもはるかに過剰なヨウ素を用いることによって、Fe2+の完全な酸化に加えて、Co2+の酸化が動力学的に生じ得ることを示す。すなわち、本発明の製造方法において、出発物質であるM1’1−xM2’(OH)(0≦x≦1/3)において、M2’に加えて、M1’は、必要に応じて、2価から3価へ酸化することが分かった。
【0107】
さらに表1を参照すれば、滴定により求めた生成物1〜4の3価と2価との金属カチオンのモル比は、出発物質中のM2’とM1’とのモル比(原子比)に関わらず、いずれも、1/2になることが分かった。また、表1の元素分析による生成物1〜4の組成式を見れば、実施例1、実施例3および4において、出発物質中のM1’であるCo2+の一部が、Co3+になったことが分かった。このことからも、本発明の製造方法によれば、出発物質であるM1’1−xM2’(OH)(0≦x≦1/3)において、M2’に加えて、M1’は、必要に応じて、2価から3価へ酸化することが確認された。
【0108】
図11は、実施例2〜4による生成物2〜4のUV−visスペクトルを示す図である。
【0109】
スペクトルa〜cは、それぞれ、生成物2〜4のUV−visスペクトルである。いずれのスペクトルも、波長290nmおよび360nmに吸収を示すピークを有した。これらのピークは、いずれも、Iによるものであり、σ→σ遷移およびπ→σ遷移に相当する。一方、Iが低対称である場合に顕著に表れる、440nmおよび560nmにおけるIのスピン−禁制一重項−三重項遷移は、観察されなかった。このことから、生成物2〜4の層間には直線状のIがインターカレートしていることが示唆される。
【0110】
なお、波長230nm近傍のピークは、コバルトと酸素との間の電荷移動に起因し、Iに関与しないため無視する。
【0111】
図12は、実施例3によるアニオン交換された生成物3のXRDパターンを示す図である。
【0112】
XRDパターンa〜cは、それぞれ、生成物3、生成物3pおよび生成物3dsのXRDパターンである。XRDパターンbおよびcによれば、アニオン交換後の生成物3pおよび3dsも、単一相を示した。より詳細には、生成物3pの一次底面反射ピーク9.2Åおよび生成物3dsの一次底面反射ピーク23.7Åは、例えば、非特許文献1の図3に一致した。
【0113】
また、アニオン交換によるXRDパターンの顕著な特徴は、一次底面反射ピークのピーク強度と二次底面反射ピークのピーク強度との間の強度比にある。アニオン交換前のXRDパターンaによれば、一次底面反射ピーク(約8.7Å)のピーク強度は、二次底面反射ピーク(4.3Å)のそれよりも低い。一方、アニオン交換後のXRDパターンbおよびcによれば、一次底面反射ピーク(9.2Åおよび23.7Å)のピーク強度は、二次底面反射ピークのそれよりも高い。すなわち、アニオン交換前後において、一次底面反射ピークと二次底面反射ピークとの強度比が逆転することが分かった。
【0114】
このような強度比の逆転から、本発明の製造方法によって得られた生成物(層状複水酸化物)は、アニオン交換可能であること、ならびに、本発明の製造方法によって得られた層状複水酸化物に見られる特異なXRDパターン(すなわち、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低いこと)は、層状複水酸化物の層間にインターカレートされた三ヨウ化物イオン(I)に起因し得ることが分かった。
【0115】
図13は、実施例3による生成物3dsのUV−visスペクトルを示す図である。
【0116】
スペクトルdは、生成物3dsのUV−visスペクトルであり、スペクトルa〜cは、図11のUV−visスペクトルa〜cと同一である。スペクトルdは、スペクトルa〜cで見られた波長290nmおよび360nmに吸収を示すピークを有さなかった。すなわち、スペクトルdは、Iを有さないことが確認された。このことからも、本発明の製造方法によって得られた生成物(層状複水酸化物)は、容易にアニオン交換可能であることが示された。
【0117】
図14は、実施例3による生成物3および生成物3pのTG曲線を示す図である。
図15は、比較例2による生成物Bおよび生成物BpのTG曲線を示す図である。
【0118】
図14の曲線aおよびbは、それぞれ、生成物3および生成物3pのTG曲線である。図15の曲線cおよびdは、それぞれ、生成物Bおよび生成物BpのTG曲線である。
【0119】
曲線aと曲線cとを比較すると、生成物3は約50%の重量損失を示し、生成物Bは約34%の重量損失を示した。一方、曲線bと曲線dとを比較すると、アニオン交換後の生成物3pおよび生成物Bpいずれも、同様の重量損失を示した。なお、曲線a〜cは、いずれも、同様の挙動であった。
【0120】
このことから、本発明の製造方法によって得られた生成物(層状複水酸化物)は、層間に高含有量のアニオン(IおよびI)を有する点を除いて、既存の層状複水酸化物と同様の層状構造を有していることが分かった。
【0121】
表1のEDSによる元素分析を参照すると、生成物1〜4におけるヨウ素の平均モル比は、生成物Bにおけるヨウ素のそれ(約1/3)の約1.6倍であり、図14〜図15の結果と同様に高含有量のヨウ素が含まれる。すなわち、本発明の製造方法によって得られた層状複水酸化物は、化学式あたりのヨウ素の平均含有量は、1.6×1/3モルであり、誤差はあるものの組成式M12+2/3M23+1/3(OH)5/9・mHO(mは0.1〜0.5の範囲である)を満たすことを確認した。
【0122】
高濃度ヨウ素/ヨウ化物イオン溶液において、次式に示すように、ヨウ素(I)は、ヨウ化物イオン(I)と結合し、三ヨウ化物イオン(I)を形成する。
+ I → I
ヨウ素−ヨウ化物イオン系では、多数の一電子還元反応が生じ得る。この一電子還元反応により、ヨウ化物イオン/三ヨウ化物イオンの対は、例えば、色素増感太陽電池(DSSC)において有効な酸化還元メディエータとして用いられている。本発明の製造方法において、高濃度ヨウ素を用い、三ヨウ化物イオン(I)を生成することによって、Fe2+のFe3+への完全な酸化に加えて、Co2+のCo3+への酸化も可能になった。すなわち、出発物質であるM1’1−xM2’(OH)(0≦x≦1/3)において、M2’に加えて、M1’は、必要に応じて、2価から3価への酸化が可能になったことで、層状複水酸化物の生成を促進する効果を得たと考えられる。
【0123】
図16は、実施例5による生成物3の超格子構造の模式的な図である。
【0124】
層状複水酸化物の構造は、電荷分布を制御するホスト層における金属カチオンの配列、ならびに、中間層における対応するアニオンの分布によって決定される。ホスト層におけるM1およびM2イオンは、より価数の高いM23+の近接を避けることにより、超格子配列が出現すると考えられる。超格子の様態は、ホスト層の電荷(M23+/(M12++M23+))に密接に関係する。図16には実施例3で得た生成物3(出発物質がCo2+3/4Fe2+1/4(OH)の場合)について可能性のある超格子構造を示す。図16において、実線の菱形は基本単位格子を表し、点線の菱形は超格子を表す。格子長はaであり、金属カチオン間の距離に相当する。各超格子は1つの正電荷を有する。
【0125】
本発明の製造方法により、Co2+3/4Fe2+1/4(OH)のうちFe2+のみが酸化されると仮定すると、ホスト層は[Co2+3/4Fe3+1/4(OH)1/4+となる。この場合、ホスト層には、図16(I)に示されるような超格子(2a×2a超格子と呼ぶ)が存在し得る。この2a×2a超格子(aは金属カチオン間の距離)は、1つの正電荷に対して、3つのM12+(すなわちCo2+)と、1つのM23+(すなわちFe3+)とを有し、M23+/M12+=1/3を満たす。
【0126】
一方、本発明の製造方法により、Co2+3/4Fe2+1/4(OH)のうちFe2+のすべてに加えて、Co2+の一部が酸化されると仮定すると、ホスト層は[Co2+2/3(Co3+1/12Fe3+1/4)(OH)1/3+となる。この場合、ホスト層には、図16(II)に示されるような超格子(√3a×√3a超格子と呼ぶ)が存在し得る。この√3a×√3a超格子は、1つの正電荷に対して、2つのM12+(すなわちCo2+)と、1つのM23+(すなわちCo3+およびFe3+)とを有し、M23+/M12+=1/2を満たす。
【0127】
2a×2a超格子および√3a×√3a超格子のいずれも、中間層に1つのアニオンサイトを生成する。それぞれのアニオンは、その電荷を、下にあるホスト層の1つのM23+カチオンと、上にあるホスト層の1つのM23+カチオンと共有する。各アニオンサイトの周りには6個の等価なサイトがあり、これらにより、アニオンの六角形配列が形成される。
【0128】
次に、図16の超格子構造(I)および(II)を用いて、中間層における可能性のあるヨウ化物イオン(I)および三ヨウ化物イオン(I)の分布を検討した。
【0129】
図17は、実施例5による生成物3の中間層のヨウ素の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図である。
図18は、実施例5による生成物3の中間層のヨウ素の別の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図である。
図19は、実施例5による生成物3の中間層のヨウ素のさらに別の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図である。
図20は、実施例5による生成物3の中間層のヨウ素のさらに別の分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図である。
図21は、実施例5による生成物3の中間層のヨウ素の別のさらに分布とシミュレーション低角XRDパターンとを示す図である。
【0130】
図17〜図19は、それぞれ、図16の超格子構造(I)に対する中間層におけるヨウ化物イオンおよび三ヨウ化物イオンが、1/4I、1/4(2/3I+1/3I)および1/4(1/2I+1/2I)の分布、ならびに、それに対応するシミュレーションした低角XRDパターンを示す。
【0131】
図20および図21は、それぞれ、図16の超格子構造(II)に対する中間層におけるヨウ化物イオンおよび三ヨウ化物イオンが、1/3Iおよび1/3(2/3I+1/3I)の分布、ならびに、それに対応するシミュレーションした低角XRDパターンを示す。
【0132】
のイオン直径(4.32Å)は、金属カチオン間の距離(約3.1Å)よりもはるかに大きい。しかし、図16(I)の2a×2a超格子および図16(II)の√3a×√3a超格子を考えれば、いずれも、中間層に1つのアニオンサイトを生成する。図16(I)の2a×2a超格子では、2a(6.2Å)、または、図16(II)の√3a×√3a超格子では、√3a(5.37Å)と、Iイオン直径(4.32Å)より大きな距離だけ離れており、各超格子は、1つのヨウ化物イオンにより電荷中性をとり得る。このように、中間層ヨウ化物イオンの配列は、ホスト層における金属カチオンの長距離秩序と整合する。
【0133】
図17(A)に示すように、アニオンサイトがIにのみ占有される場合、生成物3のモデル組成式は、Co2+3/4Fe3+1/4(OH)1/4・0.2HO(すなわち、組成式中のヨウ素の含有量はI0.25となる。)となる。このヨウ素の含有量は、組成分析により得たヨウ素の含有量(例えば、表1の組成式)に比べて極端に低いことが分かった。さらに、図17(B)に示すように、モデル組成式からシミュレーションした低角XRDパターンによれば、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも高くなった。このことは、実験結果(例えば、図7)と異なることが分かった。したがって、図17に相当する超格子構造および組成式は、本発明の層状複水酸化物に該当しない。
【0134】
アニオンサイトに直線状にIが占有すると、XRDパターンは、Iによる極めて高いX線散乱能により、劇的に変化する。図11を参照して説明した直線状の三ヨウ化物イオン(I)の大きさは、4.32×9.64Åと見積もられる。
【0135】
図18(A)に示すように、アニオンサイトが2/3Iと1/3Iとに占有される場合、生成物3のモデル組成式は、Co2+3/4Fe3+1/4(OH)(2/3I+1/3I1/4・0.2HO(すなわち、組成式中のヨウ素の含有量はI0.42となる。)となる。このヨウ素の含有量は、組成分析により得たヨウ素の含有量(例えば、表1の組成式)に比べて低いことが分かった。一方、図18(B)に示すように、モデル組成式からシミュレーションした低角XRDパターンによれば、実験結果(図7)と同様に、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低くなったが、一次底面反射のピークは、明瞭に示される。
【0136】
図19(A)に示すように、アニオンサイトが1/2Iと1/2Iとに占有される場合、生成物3のモデル組成式は、Co2+3/4Fe3+1/4(OH)(1/2I+1/2I1/4・0.2HO(すなわち、組成式中のヨウ素の含有量はI0.50となる。)となる。このヨウ素の含有量は、組成分析により得たヨウ素の含有量(例えば、表1の組成式)に比べてわずかに低いものの、比較的良好に一致した。また、図19(B)に示すように、モデル組成式からシミュレーションした低角XRDパターンによれば、実験結果(図7)と同様に、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低くなった。しかしながら、図18(B)に比較して、一次底面反射のピーク強度は、低いものの、依然として明瞭に示される。
【0137】
図17〜図19から、生成物3が、中間層に三ヨウ化物イオン(I)を有することが示唆される。Co2+3/4Fe2+1/4(OH)のうちFe2+のみが酸化されると仮定すると、ホスト層は[Co2+3/4Fe3+1/4(OH)1/4+であり、中間層は[(1/2I+1/2I1/4・0.2HO]1/4−であると予想される。
【0138】
図20(A)に示すように、アニオンサイトがIにのみ占有される場合、生成物3のモデル組成式は、Co2+2/3(Co3+1/12Fe3+1/4)(OH)1/3・0.2HO(すなわち、組成式中のヨウ素の含有量はI0.33となる。)となる。このヨウ素の含有量は、組成分析により得たヨウ素の含有量(例えば、表1の組成式)に比べて極端に低いことが分かった。さらに、図20(B)に示すように、モデル組成式からシミュレーションした低角XRDパターンによれば、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも幾分低くなったが、図6のXRDパターンa(生成物B)に良好に一致した。したがって、図20に相当する超格子構造および組成式は、本発明の層状複水酸化物に該当しない。
【0139】
図21(A)に示すように、アニオンサイトが2/3Iと1/3Iとに占有される場合、生成物3のモデル組成式は、Co2+2/3(Co3+1/12Fe3+1/4)(OH)(2/3I+1/3I1/4・0.2HO(すなわち、組成式中のヨウ素の含有量はI0.555となる。)となる。このヨウ素の含有量は、組成分析により得たヨウ素の含有量(例えば、表1の組成式)に良好に一致した。また、図21(B)に示すように、モデル組成式からシミュレーションした低角XRDパターンによれば、一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低くなり、かつ、一次底面反射のピーク強度は、無視できる程度に低くなり、実験結果(図7)に良好に一致した。
【0140】
図20〜図21から、生成物3が、中間層に三ヨウ化物イオン(I)を有することが示唆される。Co2+3/4Fe2+1/4(OH)のうちFe2+に加えてCo2+の一部が酸化されると仮定すると、ホスト層は[Co2+2/3(Co3+1/12Fe3+1/4)(OH)1/3+であり、中間層は[(2/3I+1/3I1/3・0.2HO]1/3−であると予想される。
【0141】
さらに、図19と図21とを比較すると、図21において、より実験結果(図17および表1)と一致することから、生成物3は、ホスト層が[Co2+2/3(Co3+1/12Fe3+1/4)(OH)1/3+であり、中間層が[(2/3I+1/3I1/4・0.2HO]1/3−である層状複水酸化物と示唆される。
【0142】
以上の図16〜図21により、本発明の層状複水酸化物は、出発物質M1’1−xM2’(OH)のM2’とM1’とのモル比に関わらず、M23+/M12+のモル比は1/2であり、かつ、中間層はIイオンとIイオンとを含むことが示された。さらに、本発明の層状複水酸化物において、中間層のヨウ素の含有量は、1/3(2/3I+1/3I)であることが示された。
【0143】
XRDパターンは、中間層中のヨウ素の含有量に顕著に影響受けるので、上述のモデル組成式およびXRDシミュレーションは、他の実施例の生成物についても同様に適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明による層状複水酸化物は、選択されるM1およびM2に起因した電気特性、磁気特性を利用した微細デバイスに適用される。本発明による層状複水酸化物は、既存の層状複水酸化物と同様に、陰イオン交換材料、吸着剤、触媒、ナノリアクタ、モレキュラーシーブ、ポリマー複合材料、生体材料等に適用できる。また、本発明による層状複水酸化物を剥離すれば、ビルディングブロックとして機能し得るナノシートを提供できる。
【符号の説明】
【0145】
100、300 層状複水酸化物
110 ホスト層
120 中間層
310 アニオン
【先行技術文献】
【特許文献】
【0146】
【特許文献1】特開2008−290913号公報
【特許文献2】特開2009−203081号公報
【非特許文献】
【0147】
【非特許文献1】Liangら, Chem.Mater.2010,22,371

【特許請求の範囲】
【請求項1】
M12+イオンとM23+イオンとを含有するホスト層と、アニオンを含有する中間層との積層構造からなる層状複水酸化物であって、
前記M12+イオンの元素M1は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から少なくとも1つ選択される遷移金属であり、
前記M23+イオンの元素M2は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、
前記M23+イオンと前記M12+イオンとのモル比(M23+/M12+)は1/2であり、
前記アニオンは、IイオンとIイオンとを含む、層状複水酸化物。
【請求項2】
前記Iイオンと前記Iイオンとのモル比(I/I)は1/2である、請求項1に記載の層状複水酸化物。
【請求項3】
前記ホスト層は、一般式[M12+2/3M23+1/3(OH)1/3+で表され、
前記中間層は、一般式[(I2/3+I1/31/3・mHO]1/3−(mは、0.1〜0.5の範囲である)で表される、請求項1に記載の層状複水酸化物。
【請求項4】
前記層状複水酸化物は、六角板状の形状を有する、請求項1に記載の層状複水酸化物。
【請求項5】
前記層状複水酸化物のX線回折パターンにおける一次底面反射のピーク強度は、二次底面反射のピーク強度よりも低い、請求項1に記載の層状複水酸化物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の層状複水酸化物の製造方法であって、
M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Coおよび/またはFeの遷移金属を、必要に応じて、Niおよび/またはZnの遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、0≦x<1/3の範囲を満たす)で表されるブルーサイト型金属水酸化物、または、M1’1−xM2’(OH)(M1’は、Co、Fe、NiおよびZnからなる群から選択される遷移金属を含み、M2’は、Coおよび/またはFeの遷移金属であり、xは、x=1/3である)で表されるブルーサイト型金属水酸化物を、ヨウ素が溶解した溶液に添加し、撹拌するステップを包含し、
前記ヨウ素と前記ブルーサイト型金属水酸化物とのモル比(ヨウ素/ブルーサイト型金属水酸化物)は、2.5×1/3〜40×1/3(ただし、ヨウ素をIとする)の範囲である、方法。
【請求項7】
3価になるCoおよび/またはFeの含量は、モル比で、前記ブルーサイト型金属水酸化物中の金属含量の1/3以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヨウ素と前記ブルーサイト型金属水酸化物とのモル比(ヨウ素/ブルーサイト型金属水酸化物)は、10×1/3〜25×1/3(ただし、ヨウ素をIとする)の範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記添加し、撹拌するステップは、前記ブルーサイト型金属水酸化物が添加された前記溶液を、室温で1日〜7日間撹拌する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ヨウ素が溶解した溶液の溶媒は、クロロホルムである、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−240873(P2012−240873A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111055(P2011−111055)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年12月15日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja1087216?prevScarch=%2528Rcnzhi%2BMa%2529%2BNOT%2B%255Batype%253A%2Bad%255D%2BNOT%2B%255Batype%253A%2Bacs−toc%255D&searchHistoryKey=」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】