説明

IR吸収体としてのキノイドリレンジカルボキシミド

一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物、可視可能な又は可視不可能な標識物質としての、材料の着色のための、材料のレーザー溶接での、塩基、酸又はpH値変化の検出のための、分散助剤、有機顔料のための顔料添加剤及び顔料添加剤の製造のための中間生成物としての、熱マネージメント又はエネルギーマネージメントにおける、光起電体における又は光学的データ記録体における化合物(I)又は(II)の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、peri位でアミノ置換したリレンジカルボキシミド及びその使用に関する。
【0002】
本発明の更なる実施態様は、特許請求の範囲、明細書及び実施例から確認することができる。本発明による主題の前述の特徴及び以下でなお説明されるべき特徴は、そのつど具体的に記載された組み合わせのみにおいて使用可能であるだけでなく、本発明の範囲から離れることなく、別の組み合わせにおいても使用可能であることが理解される。有利には又は特に有利には、とりわけ、本発明の主題の全ての特徴部がこの有利な又は特に有利な意味合いを有する本発明の実施態様でもある。
【0003】
ペリレンイミド化合物及びその同族体は一般的に知られている(L. Schmidt-Mende, et al., Science, 2001, 293, 1119; M.A. Angadi, et al., Mat.Sci. Eng., B, 1999, B63, 191)。
【0004】
EP 0 596 292 A1には、例えばクアテリレンカルボン酸ジイミド、その製造方法及び蛍光着色剤としてのその使用が記載されている。
【0005】
ペリレン−及びテリレン−ビス(ジカルボキシミド)は知られているように電磁線を主として可視可能な領域で吸収し(F. Holtrup, et al., Chem.Eur.J., 1997, 3, 219-225; F. Nolde et al., Chem.Eur.J., 2005, 11, 3959)、その一方で、より高級なリレン同族体、例えばクアテリレン−、ペンタリレン(Pentarylen)−及びヘキサリレン(Hexarylen)−ビス(ジカルボキシミド)は近赤外(NIR)において吸収する(H. Quante et al., Angew.Chem.Int.Ed., 1995, 34, 1323, N.G. Pschirer et al., Angew.Chem. 2006, 118, 1429)。
【0006】
WO 02/066438 A1は、リレン誘導体、リレン誘導体の製造方法、及び、例えば高分子量の有機の及び無機の材料の着色のための、分散助剤としての、有機顔料のための顔料添加剤及び蛍光着色剤及び顔料添加剤の製造のための中間生成物の製造のためのその使用を記載する。更に、装飾的化粧品における着色成分としての、有色の又は電磁スペクトルの近赤外領域において吸収する及び/又は放出する水性ポリマー分散液の製造のための、電子写真における光伝導体としての、エレクトロルミネッセンス適用及び化学ルミネッセンス適用における放射体としての、蛍光変換にける活性成分としての、及びレーザー着色剤としてのこの化合物の使用が記載されている。
【0007】
WO 04/029028 A1は、9−シアノ置換したペリレン−3,4−ジカルボン酸モノイミド及びその製造及び使用を記載する。
【0008】
既に記載のリレン誘導体並びにNIRスペクトル領域でのその吸収能力と関連したその使用にもかかわらず、NIRにおいて吸収し、特に単純に製造可能であり、かつ、化学的に安定である、更なる、とりわけ特殊に置換した誘導体に関する要求が存在する。
【0009】
したがって、本発明の課題は、特に、製造の際に好ましく、かつ、その安定性及びその吸収能力のために良好な特性を有するようなリレン誘導体の提供であった。
【0010】
前記課題は、式(I):
【化1】

[式中、
1は、H、C1〜C20−アルキル、C3〜C15−シクロアルキル、アリール又はヘタリール、
2は、H、C1〜C20−アルキル、C3〜C15−シクロアルキル、アリール又はヘタリール、
Xは、相互に独立して、同じか又は相違し、
ハロゲン、C1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2、3、4又は5
p、qは、相互に独立して、同じか又は相違し、0、1、2、3又は4である、
かつ、置換基R1又はR2はそのつど任意の位置で1又は複数個の、場合により水素により飽和している、ヘテロ原子により中断されていることができ、その際、このヘテロ原子の数は10より多くなく、有利には8より多くなく、特に有利には6より多くなく、とりわけ4より多くなく、かつ/又はそのつど任意の位置で、但し5回より多くなく、有利には4回より多くなく、特に有利には3回より多くなく、NR56、CONR56、COOM、COOR5、SO3M、SO35
(式中、
5、R6は、相互に独立して、同じか又は相違し、H、C1〜C8−アルキル、アリール、
Mは、H、アルカリ金属、NR74
7は、相互に独立して、H、C1〜C8−アルキル)、
CN、NO2、C1〜C20−アルキル、C1〜C20−アルコキシ、アリール、アリールオキシ、複素環、ヘテロ原子又はハロゲンにより置換されていることができ、その際、これらは同様に最大2回、有利には最大1回、上述の基で置換されていることができる]のperi位でアミノ置換されたリレンジカルボキシミド又はその混合物により解決された。
【0011】
一般式(I)の上記化合物が、peri位にあるアミン−窒素での脱プロトン化により、意外なことに、NIRスペクトル領域において強力な吸収バンドを示すことが見出された。更に、この化合物は高い安定性を、特に塩基性媒体において示す。
【0012】
a〜Cbという形の表現は、この発明の範囲内で、ある一定数の炭素原子を有する化学化合物又は置換基を表す。炭素原子の数は、a及びbを含めた、aからbの範囲全体から選択されることができ、aは少なくとも1であり、かつbは常にaより大きい。この化学化合物又は置換基は、さらにCa〜Cb−Vという形の表現によって詳しく説明される。この場合、Vは、化学化合物種又は置換基種、例えばアルキル化合物又はアルキル置換基を表す。
【0013】
本発明の範囲内において近赤外放射線(短略してIR線)は、可視光とより長波のマイクロ波との間のスペクトル領域にある電磁波を指す。これは、約760nm〜1mmの波長領域に相当する。短波のIR線(760nmから)では、近赤外(near infrared, NIR)という、約5〜25マイクロメーターの波長では中赤外(mid infrared, MIR)という言葉が用いられる。極端に長波のIR線(25μm〜1mm)を遠赤外(far infrared, FIR)と呼ぶ。赤外放射は、熱放射の一部である。
【0014】
本発明の範囲内では約380nm〜760nmのスペクトル領域内の電磁波が可視光と呼ばれる。
【0015】
電磁線をIR線の波長領域において吸収する物質も本発明の範囲内においてIR吸収体と呼ばれる。有利にはIR吸収体は760〜2000nm、特に有利には780〜1500nmの波長領域における吸収及び少なくとも100I/(cm*mol)のIR線のための吸光係数を有する。有利にはIR線のための吸収係数は、1000I/(cm*mol)を超え、特に有利には104I/(cm*mol)を超える。
【0016】
可視光を吸収する物質は本発明の範囲内において有色とも呼ばれる。有利には有色物質は少なくとも100I/(cm*mol)の、可視光のための吸収係数を有する。有利には可視光のための吸収係数は、1000I/(cm*mol)を超え、特に有利には104I/(cm*mol)を超える。
【0017】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素、好ましくはフッ素、塩素又は臭素、特に有利にはフッ素又は塩素を表わす。
【0018】
アルカリ金属はLi、Na又はKである。とりわけアルカリ金属(M)は化学基−SO3M又は−COOMにおいて一価の正に荷電したイオンとして挙動することができる。
【0019】
詳細には、様々な上記集合的概念について次の意味を有する:
1〜C20−アルキル:炭素原子を20個まで有する直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基、例えばC1〜C10−アルキル又はC11〜C20−アルキル、有利にはC1〜C10−アルキル、例えばC1〜C8−アルキル、C1〜C3−アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はC4〜C6−アルキル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、2−メチルブチル、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル又はC7〜C10−アルキル、例えばヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2,4,4−トリメチルペンチル、1,1,3,3−テトラメチルブチル、ノニル又はデシルならびにそれらの異性体。
【0020】
1〜C20−アルコキシは、酸素原子(−O−)を介して結合している、炭素原子1〜20個を有する直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(上記基)、例えばC1〜C10−アルコキシ又はC11〜C20−アルコキシ、有利にはC1〜C10−アルキルオキシ、とりわけ有利にはC1〜C3−アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシを意味する。
【0021】
3〜C15−シクロアルキル:炭素環員3〜15個を有する単環式の飽和炭化水素基、有利にはC3〜C8−シクロアルキル、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチル並びに飽和したか又は飽和してない環系、例えばノルボルニル又はノルベニル。
【0022】
アリール:炭素原子環員6〜14個を含有する一環〜三環の芳香族環系、例えばフェニル、ナフチル又はアントラセニル、有利には一環〜二環の、特に有利には一環の芳香族環系。
【0023】
アリールオキシ:は、酸素原子(−O−)を介して結合している、一環〜三環の芳香族環系(上記基)、有利には一環〜二環の、特に有利には一環の芳香族環系である。
【0024】
複素環式化合物(複素環式置換基):5〜12員の、有利には5〜9員の、特に有利には5〜6員の、酸素原子、窒素原子及び/又は硫黄原子、場合により複数の環を有する環系、例えばフリル、チオフェニル、ピリル、ピリジル、インドリル、ベンゾオキサゾリル、ジオキソリル、ジオキシル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、ジメチルピリジル、メチルキノリル、ジメチルピリル、メトキシフリル、ジメトキシピリジル、ジフルオロピリジル、メチルチオフェニル、イソプロピルチオフェニル又はt−ブチルチオフェニル。複素環は任意の様式で一般式(I)の化合物に化学的に結合していることができ、例えば結合を介して複素環の炭素原子の1つに又は結合を介してヘテロ原子の1つに結合していることができる。更に、とりわけ、環窒素原子を介して結合し、かつ、更に1又は2の更なる窒素原子又は1の更なる酸素又は硫黄原子を含有できる5員又は6員の飽和した窒素含有環系である。
【0025】
ヘタリール:1つ又は複数のメチン基(−C=)及び/又はビニレン基(−CH=CH−)が三価又は二価のヘテロ原子によって置き換えられることにより形式的にはアリール基から誘導される、複素環式置換基。ヘテロ原子として有利なのは、酸素、窒素、及び/又は硫黄である。特に有利には窒素及び/又は酸素である。
【0026】
COOR1:カルボン酸(R1=H)又はカルボン酸エステル(例えばR1=C1〜C20−アルキル又はアリールを有する)である。
【0027】
COOM:カルボン酸の塩である(例えば一価のアルカリ金属塩)
SO31は、スルホン酸(R1=H)又はスルホン酸エステル(例えばR1=C1〜C20−アルキル又はアリールを有する)である。
【0028】
SO3M:スルホン酸の塩である(例えば一価のアルカリ金属塩)。
【0029】
CONR12:場合により置換されたカルボン酸アミドである。例えばこの場合にR1及びR2は同じか又は相違するC1〜C20−アルキル又はアリールである。
【0030】
ヘテロ原子は、リン、酸素、窒素又は硫黄、有利には酸素、窒素又は硫黄である。
【0031】
有利には、本発明による化合物のためには式(I)中の記号は以下の意味合いを有する:
1は、C1〜C20−アルキル、アリール、
2は、アリール、
Xは、ハロゲン、C1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2又は3
かつ、全ての他の記号及び指数は冒頭で挙げたものと同じ意味合いを有する。
【0032】
特に有利には、本発明による化合物のためには式(I)中の記号は以下の意味合いを有する:
1は、C1〜C20−アルキル、アリール、
2は、アリール、
Xは、全て同じハロゲン又はC1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2又は3
p、qは、相互に独立して、同じか又は相違して0、1、2
かつ、全ての他の記号及び指数は上述のと同じ意味合いを有する。特にとりわけ有利には、p、qは相互に独立して、同じか又は相違して0又は2である。
【0033】
一般式(I)の化合物は当業者に慣用の方法により製造されることができ、例えばこれはT. Edvinsson, et al., J.Phys.Chem. C, 2007, 111, 15137に記載されている。
【化2】

【0034】
臭化物−出発化合物(I′)の製造方法も同様に、例えばWO 2006/117383 A1 ; F. Holtrup, et al., Chem.Eur.J., 1997, 3, 219-225; F. Nolde et al., Chem.Eur.J., 2005, 11, 3959; H. Quante et al., Angew.Chem.Int.Ed., 1995, 34, 1323; N.G. Pschirer et al., Angew.Chem. 2006, 118, 1429又はY. Avlasevich, et al., J.Org.Chem., 2007, 72, 10243から当業者に知られている。
【0035】
一般式(I)の化合物は本発明により塩基の使用下でperi位にあるアミノ置換基で脱プロトン化される。
【0036】
したがって、本発明の主題は、一般式(II):
【化3】

[式中、
Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム
であり、かつ、この他の記号が、一般式(I)のために冒頭で挙げたものと同じ意味合いを有する]
の化合物でもある。
【0037】
有利には、本発明による化合物のためには式(II)中の記号は以下の意味合いを有する:
1は、C1〜C20−アルキル、アリール、
2は、アリール、
Xは、ハロゲン、C1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2又は3
かつ、全ての他の記号及び指数は上述したのと同じ意味合いを有する。
【0038】
特に有利には、本発明による化合物のためには式(II)中の記号は以下の意味合いを有する:
1は、C1〜C20−アルキル、アリール、
2は、アリール、
Xは、全て同じハロゲン又はC1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2又は3
p、qは、相互に独立して、同じか又は相違し0、1、2
かつ、全ての他の記号及び指数は上述のと同じ意味合いを有する。
【0039】
特にとりわけ有利には、p、qは相互に独立して、同じか又は相違して0又は2である。
【0040】
peri−アミノ基の脱プロトン化は一般的には可逆的であり、かつ、例えば酸を用いて再度逆行させることができる。この場合に一般式(II)の化合物は、相応する一般式(I)の化合物に変換される。無論、本発明による化合物は、脱プロトン化及びプロトン化からの1又は複数のサイクルを経ることができる。本発明による化合物(I)及び(II)の利点はこの場合に、これがpH値の又はプロトン又はヒドロキシドイオンの濃度の変化に対して概して安定であり、かつ、peri−アミン置換基の脱プロトン化又はプロトン化のみが生じることである。
【0041】
一般的にこの脱プロトン化は溶媒又は溶媒混合物中で実施される。例えば溶媒としては極性溶媒又はその混合物、例えば水、テトラヒドロフラン、エタノール、2−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチル−ピロリドン又は塩化メチレンが適する。有利な溶媒は、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン又は塩化メチレンである。
【0042】
塩基として例えばアルカリ水酸化物、例えばNaOH、KOH、アルカリ−t−ブチルアルコラート、例えばt−BuONa、t−BuOK、カリウム−ビス−(トリメチルシリル)−アミド、アンモニア又はアルキルアンモニウム化合物が使用される。有利にはt−BuONa又はt−BuOKである。
【0043】
特に有利にはアセトン中での脱プロトンがt−BuONa又はt−BuOKを用いて実施される。
【0044】
一般式(II)の化合物は一般式(I)のプロトン化した化合物に対して概して強力に深色シフトした吸収スペクトルを有する。一般式(II)の化合物の吸収はNIRスペクトル領域において、一般式(I)のプロトン化した化合物に対して概して顕著により強力である。
【0045】
したがって、一般式(I)及び(II)の化合物は例えば可視可能な又は可視不可能な標識物質として適する。
【0046】
有利には、本発明によるものは、紙、鉱油、プラスチック又は金属表面の標識に使用される。特に有利には、一般式(I)又は(II)の化合物は鉱油又は紙の標識物質として使用される。特に有利には、紙の標識のための、特に文書、有価証券又は紙幣のためのセキュリティ特徴としての使用である。
【0047】
鉱油のための標識物質としての使用の利点は、鉱油が自体ではしばしば、一般式(II)の化合物のスペクトル吸収領域において、例えばNIRにおいて吸収を示さず、かつ、成功した脱プロトン化により、極めて少量の標識物質の検出のためにも傑出した信号/雑音比を達成することである。
【0048】
しばしば、一般式(I)の化合物は自体で可視可能な光を吸収し、したがって、材料、例えば高分子の有機の及び無機の材料、例えば紙、プラスチック、塗料又は印刷インクの着色のためにも使用されることができる。この着色は、脱プロトン化した化合物の吸収スペクトルがIR領域へと深色シフトされる条件下での、一般式(II)の化合物への脱プロトンにより減少されるか又は取り除かれることができる。
【0049】
本発明の更なる主題は、材料を一般式(I)又は(II)の化合物と接触させる、材料の標識化のための方法である。この標識の検出は通常は、視覚的に(裸眼で)又は(吸収)スペクトロメーターを用いて行われる。
【0050】
本発明による、紙の標識化は、例えば、一般式(I)及び/又は(II)の化合物を標識すべき紙の表面に、例えば、式(I)又は(II)の化合物を含有する溶液を用いた吹付け、含浸又は滴下により設けることにより行われる。とりわけ、一般式(I)又は(II)の化合物は印刷インクと混合して紙に設けられる。一般式(I)又は(II)の化合物の量は適用に応じて広い範囲で変動できる。有利には、一般式(I)又は(II)の化合物を、印刷インクの量に対して10質量%よりも少なく、特に有利には5質量%よりも少なく使用する。この標識の検出は例えば色変化により視覚的に又は(吸収)スペクトロメーターを用いて実施されることができる。
【0051】
本発明による、鉱油の標識化は、一般式(I)又は(II)の化合物を標識すべき鉱油に添加することにより行われる。一般式(I)又は(II)の化合物の量は適用に応じて広い範囲で変動できる。有利には、一般式(I)又は(II)の化合物を、鉱油の量に対して5ppmよりも少なく、特に有利には1ppmよりも少なく使用する。この標識の検出は例えば、場合により脱プロトン化により、塩基の使用下で、(吸収)スペクトロメーターを用いて実施されることができる。
【0052】
更に、本発明による一般式(I)又は(II)の化合物はレーザー溶接で使用される。
【0053】
したがって、本発明の更なる主題は、材料をまず一般式(I)又は(II)の化合物と接触させる、材料のレーザー溶接のための方法である。溶接のために一実施態様においては材料中で脱プロトン化によりIR吸収の増加が引き起こされ、すなわち、本発明による一般式(II)の化合物は、以下記載するとおり、IR吸収体として使用される。
【0054】
材料、特にプラスチックの溶接は、添加されたレーザー感受性のIR吸収体によるプラスチック材料中又はプラスチック材料上でのレーザーエネルギーの吸収によって行われ、このIR吸収体は、レーザーエネルギーの吸収によってこの材料の局所的な加熱をもたらす。例えば2つの材料のレーザー溶接に際して、溶接されるべき材料の接合領域中で、レーザーエネルギーの吸収によって強い加熱が生み出され、その結果、この材料は溶融し、かつ2つの材料は互いに融合する。しばしば、この材料の少なくとも1つのみがレーザー感受性のIR吸収体を材料中に又は層として表面に含有していれば十分である。このレーザー溶接性は材料、特にプラスチックの性質並びに使用されるレーザーの波長及び放射出力に依存する。例えばレーザー溶接のための本発明による方法にはCO2−、エキシマー−又はND:YAG−レーザーが考慮される。
【0055】
通常、一般式(I)又は(II)の化合物の含有量は、溶接されるべき材料に対して、計0.0001〜1質量%の間にある。有利には、0.001〜0.1質量%の含有量である。とりわけ、プラスチックの十分な溶接性が0.001〜0.1質量%のこの範囲内で明らかである。
【0056】
一般式(I)又は(II)の化合物は、特にこのレーザー溶接性を付与するために、当業者に知られた方法を用いて、例えば押出により、実質的に全てのプラスチック中に組み込まれることができる。典型的には、プラスチックマトリックスがポリ(メタ)アクリラート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン、スチレンポリマー及びスチレンコポリマー、ポリカーボナート、シリコーン、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、PEEK、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフィド(例えばPET、PEN、PBT)、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン、ポリオレフィン、シクロオレフィンコポリマー又はフッ素含有ポリマー(例えばPVDF、EFEP、PTFE)を基礎とするプラスチック材料である。同様に、成分として上述のプラスチックを含むブレンド中に、又は後反応によって変性された、これらの種から誘導されたポリマー中に組み込まれることも可能である。これらの材料は、広く多岐にわたって知られており、かつ商業的に入手可能である。
【0057】
本発明の更なる主題は、塩基の検出のための一般式(I)の化合物の使用である。検出されるべき塩基により一般式(II)の相応する化合物への脱プロトン化が行われ、かつこの検出が、例えば視覚的に知覚できる色変更により、又は、スペクトロメーターを用いた吸収スペクトルにおける変更の測定により行われる。
【0058】
本発明の更なる主題は、プロトン酸の検出のための一般式(II)の化合物の使用である。検出されるべきプロトン酸により一般式(II)の相応する化合物へのプロトン化が行われ、かつ、この検出が、例えば視覚的に知覚できる色変更により、又は、スペクトロメーターを用いた吸収スペクトルにおける変更の測定により行われる。
【0059】
本発明の更なる主題は、分散助剤、有機顔料のための顔料添加剤及び顔料添加剤の製造のための中間生成物としての、一般式(I)又は(II)の化合物の使用である。
【0060】
本発明の更なる主題は、熱マネージメント又はエネルギーマネージメントにおける一般式(I)又は(II)の化合物の使用である。
【0061】
本発明の更なる主題は、光起電体における一般式(I)又は(II)の化合物の使用である。
【0062】
本発明の更なる主題は、光学的データ記録体における一般式(I)又は(II)の化合物の使用である。
【0063】
しばしば、本発明による一般式(I)及び(II)の化合物は強塩基性条件下でも安定であり、その一方で、他のリレン着色剤のイミド基はこの条件下で開環反応を経る。一般式(II)の脱プロトン化した化合物はNIRスペクトル領域において高い吸光を示す。
【0064】
本発明は、実施例によりより詳細に説明され、この場合に本発明の主題はこの実施例に限定されない。
【0065】
実施例:
1H、13C、H、H COSY及びNOR NMRをBruker DPX 250、DRX 500及びAvance 700 NMRスペクトロメーターを用いて実施した。赤外スペクトルをNicolet FT IR320スペクトロメーターを用いて得た。FD質量スペクトルをVG instruments ZAB 2-SE-FPD装置を用いて得た。MALDI-TOFをBrukerスペクトロメーターで記録した。UV/Vis/NIRを1cmの石英キュベット中でPerkin-Elmer Lambda 900分光光度計を用いて記録した。
【0066】
一般式(I)の化合物の製造:
実施例1:
(A)4−アミノベンノニトリルをPd触媒によりBuchwald条件下でこの相応するperi−臭素化合物と反応させる(T. Edvinsson, et al., J.Phys.Chem. C, 2007, 111, 15137を参照のこと)。試薬:4−アミンpベンゾニトリル、Pd2(dba)3、トリス−tert−ブチルホスフィン、t−BuONa、トルエン、80℃で12時間の反応。収率:理論値(der Theorie)の84%。
【0067】
Buchwald条件下での反応:
このperi−臭素化合物(0.18mmol)、4−アミノベンゾニトリル(0.36mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)−ジパラジウム(0)(17mg、0.018mmol)、トリス−tert−ブチルホスフィン(18mg、0.09mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド(67mg、0.69mmol)及び無水トルエン(10ml)を80℃でアルゴン雰囲気下で一晩撹拌した。 冷却後にこの混合物を真空中で蒸発させ、引き続きカラムクロマトグラフィにより精製した(シリカゲル、ジクロロメタンを溶出剤として用いる)。
【化4】

【0068】
N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−9−(p−シアンフェニル−アミノ)−ペリレン−3,4−ジカルボキシミド(A):

【0069】
(A)に属する脱プロトンした化合物(A′)は定量的な収率で、当量のNaOHとのアセトン中での反応により室温(20℃)で得られる:
【化5】


【0070】
(A′)は当量のHClの使用によりアセトン中で室温で定量的に再度(A)に変換される。
【0071】
同様にして、化合物(B)(収率55%)及び(C)(収率53%)又はこの相応する脱プロトン化した化合物(B′)及び(C′)が製造された。
【化6】

【0072】
N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−1,6,9,14−テトラキス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノキシ]−11−(p−シアノフェニル−アミノ)−テリレン−3,4−ジカルボキシミド(B):

【0073】
N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−1,6−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノキシ]−13−(p−シアノフェニル−アミノ)−クアテリレン−3,4−ジカルボキシミド(C):

【0074】
化合物(D)(収率77%)又は(D′)を同様にして製造し、4−アミノベンゾニトリルの代わりに4−オクチルアニリンを使用した。
【化7】

【0075】
N−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−9−(p−オクチルフェニル−アミノ)−ペリレン−3,4−ジカルボキシド(D):

【0076】
実施例2:
化合物(D′)は、2−プロパノール中の過剰量のNaOHを用いた処理に対して還流条件下で安定であった。
【0077】
実施例3:
λmax:吸収最大の波長[nm]
ε:吸光係数[M-1cm-1]。
【0078】
化合物(A)−(D)又は(A′)−(D′)の吸収最大:
【表1】

【0079】
化合物D′はアセトン水溶液中で3日間にわたり安定であり、かつ、強度損失5%だけ被った。
【0080】
アセトン中での水性のNaOH(0.1molar)及びHCl(0.1molar)を用いた化合物Dの繰り返した滴定(5サイクル)は、このプロトン化及び脱プロトン化の可逆性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、
1は、H、C1〜C20−アルキル、C3〜C15−シクロアルキル、アリール又はヘタリール、
2は、H、C1〜C20−アルキル、C3〜C15−シクロアルキル、アリール又はヘタリール、
Xは、相互に独立して、同じか又は相違し、ハロゲン、C1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2、3、4又は5
p、qは、相互に独立して、同じか又は相違し、0、1、2、3又は4である、
かつ、置換基R1又はR2はそのつど任意の位置で1又は複数個の、場合により水素により飽和している、ヘテロ原子により中断されていることができ、その際、このヘテロ原子の数は10より多くなく、有利には8より多くなく、特に有利には6より多くなく、とりわけ4より多くなく、かつ/又はそのつど任意の位置で、但し5回より多くなく、有利には4回より多くなく、特に有利には3回より多くなく、NR56、CONR56、COOM、COOR5、SO3M、SO35
(式中、
5、R6は、相互に独立して、同じか又は相違し、H、C1〜C8−アルキル、アリール、
Mは、H、アルカリ金属、NR74
7は、相互に独立して、H、C1〜C8−アルキル)、
CN、NO2、C1〜C20−アルキル、C1〜C20−アルコキシ、アリール、アリールオキシ、複素環、ヘテロ原子又はハロゲンにより置換されていることができ、その際、これらは同様に最大2回、有利には最大1回、上述の基で置換されていることができる]の化合物。
【請求項2】
1は、C1〜C20−アルキル、アリール、
2は、アリール、
Xは、全て同じハロゲン又はC1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2又は3であり、
その際、全ての他の記号及び指数は請求項1と同じ意味合いを有する、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
一般式(II)
【化2】

[式中、
Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム
であり、かつ、この他の記号は、一般式(I)のために請求項1に記載のものと同じ意味合いを有する]
の化合物。
【請求項4】
1は、C1〜C20−アルキル、アリール、
2は、アリール、
Xは、全て同じハロゲン又はC1〜C20−アルコキシ、
nは、1、2又は3であり、
その際、全ての他の記号及び指数は請求項3と同じ意味合いを有する、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
可視可能又は可視不可能な標識物質としての請求項1から4記載の化合物の使用。
【請求項6】
請求項1から4記載の化合物を紙、鉱油、プラスチック又は金属表面の標識で使用する請求項5記載の使用。
【請求項7】
材料の着色のための請求項1から4記載の化合物の使用。
【請求項8】
請求項1から4記載の化合物を高分子の有機及び無機の材料の着色で使用する請求項7記載の使用。
【請求項9】
材料を請求項1から4記載の化合物と接触させることを特徴とする材料の標識化方法。
【請求項10】
材料のレーザー溶接での請求項1から4記載の化合物の使用。
【請求項11】
まず材料をIR吸収体として使用される請求項1から4記載の化合物と接触させ、場合により脱プロトンによりIR吸収が増加し、この材料を、放出される波長がIR吸収体の吸収領域と重複するレーザーで照射する、材料をレーザー溶接するための方法。
【請求項12】
塩基、酸又はpH値変化の検出のための請求項1から4記載の化合物の使用。
【請求項13】
分散助剤、有機顔料のための顔料添加剤及び顔料添加剤の製造のための中間生成物としての請求項1から4記載の化合物の使用。
【請求項14】
熱マネージメント又はエネルギーマネージメントにおける請求項1から4記載の化合物の使用。
【請求項15】
光起電体における請求項1から4記載の化合物の使用。
【請求項16】
光学的データ記録体における請求項1から4記載の化合物の使用。

【公表番号】特表2011−520998(P2011−520998A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510952(P2011−510952)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056157
【国際公開番号】WO2009/141387
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
【Fターム(参考)】