説明

L−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する乳酸菌

【課題】 L−乳酸の生産を工業的に行い、その副産物としての菌体をTNF産生誘導物質として利用できるものを提供する。
【解決手段】 ラクトコッカス属に属し、受託番号 FERM P−15764として寄託され、L−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
【0002】本発明は、L−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する乳酸菌に関し、詳細には、L−乳酸を工業的に生産し、その菌体を制癌効果を有する物質として利用できる乳酸菌に関する。
【0003】
【従来の技術】
【0004】L−乳酸は、食品添加物の一つであり酸味剤として使用される他、生分解性プラスティックであるポリ乳酸の原料として利用される。
【0005】従来、L−乳酸の生産菌については、ストレプトコッカス(Streptococcus)属,ラクトバチルス キシロサス(Lactobacillus xylosus),ラクトバチルスカゼイ(Lactobacillus casei),ラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei),エンテロコッカス フェシウム(Enterococcus faecium),バチルス コアギュランス(Bacillus coagulans),リゾプス オリーゼ(Rhizopus oryzae)等が知られている。
【0006】また、TNFとは、腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor)の略称であり、体内に於て乳酸菌等の微生物が進入したとき、それを抗原として免疫を担う細胞マクロファージより誘導分泌されるタンパク質サイトカインの一つであり、癌の壊死を引き起こす因子が含まれている。
【0007】このTNF産生誘導活性を有する菌については、ストレプトコッカス パイオジェネス(Streptococcus pyogenes),エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis),ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)等が知られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】しかし、工業的なL−乳酸の生産を行い、その副産物としての菌体をTNF(腫瘍壊死因子:Tumor Necrosis Factor)産生誘導物質として利用できるものは未だ見いだされていない。
【0010】乳酸及び抗腫瘍活性物質を個々に生産する従来の方法に於ては、乳酸製造で分離除去される菌体は産業廃棄物であり、また、抗腫瘍活性物質製造に於て副生する乳酸を含んだ発酵液も利用することが出来ず廃水処理の負荷量増加となる。TNF産生誘導活性を有する乳酸菌にはL−乳酸生産能を持つ菌も多数存在するが、現状では何れもL−乳酸の生産量が低く、工業的生産として利用出来る段階に達していない。
【0011】
【課題を解決するための手段】
【0012】本発明者らは、乳酸及び抗腫瘍活性物質を同時に利用することができれば、廃棄物とならずコストの削減になると考え、また、採算性等を考えたとき大規模生産が必須条件となることより、両条件を満足する菌の探索を行い、乳酸菌ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス 332(Lactococcus lactis subsp. lactis 332)が、L−乳酸生産能力、菌体のTNF産生誘導活性、共に満足出来るものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】即ち、本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0014】第1に、高光学純度のL−乳酸生産能とTNF産生誘導活性を有する事より、L−乳酸の工業的生産と制癌効果を有する物質を同時に生産する事を特徴とする、L−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する乳酸菌。
【0015】第2に、ラクトコッカス属に属し、受託番号 FERM P−15764として寄託されている、上記第1に記載のL−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する乳酸菌。
【0016】上記のラクトコッカス(Lactococcus)属に属し、受託番号 FERM P−15764として寄託されている、L−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する乳酸菌は、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシズ ラクティス 332(Lactococcus lactis subsp. lactis 332)(以下、ラクティス332という)を、日本国茨城県にある工業技術院生命工学研究所に、平成8年8月5日付で寄託したものであり、次の菌学的性質を有する。
【0017】なお、下記で「+」は活性ありを示し、「−」は活性なしを示している。
【0018】(1)性質
【0019】
細胞の形態:短桿〜球細胞の配列:2連グラム染色:+運動性:−胞子形成:−カタラーゼ反応:−NO3 → NO2:−ブドウ糖からのガス発生:−発酵形式:Homo乳酸の光学型体:L型
【0020】(2)生育の範囲
【0021】
温度15℃:−温度20℃:+温度30℃:+温度40℃:+温度45℃:+温度50℃:−
【0022】
pH4.0:−pH4.5:±pH5.0:+pH9.0:+
【0023】
リトマスミルク酸性化:+リトマスミルク還元:+リトマスミルク凝固:−リトマスミルク液化:−ゼラチン液化:−食塩要求:−二酸化炭素要求:−
【0024】(3)糖発酵性
【0025】
アラビノース,L:−リボース,D:+キシロース,D:+グルコネート:+グルコース:+フラクトース:+ガラクトース:+マンノース:+ラムノース:−セロビオース:+ラクトース:−マルトース:−メリビオース:−蔗糖:+ラフィノース:−サリシン:+トレハロース:+メレジトース:−マンニトール:+ソルビトール:−澱粉:−イヌリン:−
【0026】
蔗糖よりデキストラン:−分離源:サイレージ
【0027】
【実施例1】
【0028】L−乳酸製造を主目的としたラクティス332は、次の条件で培養した。
【0029】培地としては、培地用CSLを固形分濃度25%に希釈してNH4OHを加え、pH8.5に調整後、沈澱を除去したものを固形分濃度2.0%に調整し、これにグルコース10.0%添加したものを用いた。
【0030】また、中和剤として、25%NH4OHを用い、温度37℃、pH5.5で64時間培養した。
【0031】培養後、集菌し、菌体を洗浄した後に殺菌を行い、凍結乾燥した。
【0032】得られた菌体は、乾燥量が培養液1リットルあたり2.98g、TNF活性が6.89U/ml±1.76(n=5)、L−乳酸濃度が10.0%、光学純度が96.2%であり、L−乳酸の製造に適したものであった。
【0033】
【実施例2】
【0034】TNF活性を主目的としたラクティス332は、次の条件で培養した。
【0035】培地としては、培地用CSLを固形分濃度25%に希釈してNH4OHを加え、pH8.5に調整後、沈澱を除去したものを固形分濃度2.0%に調整し、これにグルコース4.0%添加したものを用いた。
【0036】また、中和剤として、25%NH4OHを用い、温度37℃、pH5.5で24時間培養した。
【0037】培養後、集菌し、菌体を洗浄した後に殺菌を行い、凍結乾燥した。
【0038】得られた菌体は、乾燥量が培養液1リットルあたり2.66g、TNF活性が7.84U/ml±1.38(n=5)、L−乳酸濃度が3.98%、光学純度が96.2%であり、TNF活性に優れたものであった。
【0039】
【試験例1】
【0040】本発明に係るラクティス332と各種乳酸菌との乳酸生成量及びL−乳酸光学純度を比較して、L−乳酸光学純度が高く、乳酸生成量の多く、糖耐性の高い菌を選択するために、CaCO3法を用いてグルコース10%添加のCSL培地での培養液中の乳酸生成量を測定した(CSL 固形分濃度3%、グルコース10%、CaCO3 5%、37℃で2日間)。
【0041】なお、本試験は培養時間が短く、乳酸発酵は完結していないが、各乳酸菌の比較が容易であるため敢えてこの条件で試験した。
【0042】その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】


【0044】表1に示すように、本発明に係るラクティス332は、他の菌株より乳酸生成量が多かった。
【0045】
【試験例2】
【0046】本発明に係るラクティス332によって誘導されたTNF(腫瘍壊死因子)誘導活性測定値を、市販品であるピシバニール(中外製薬製)と比較した。
【0047】なお、測定法はCarswell等の方法による。
【0048】その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】


【0050】
【発明の効果】
【0051】本発明に係るラクティス332は、工業的なL−乳酸の生産を行い、その副産物としての菌体をTNF産生誘導物質として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高光学純度のL−乳酸生産能とTNF産生誘導活性を有する事より、L−乳酸の工業的生産と制癌効果を有する物質を同時に生産する事を特徴とする、L−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する乳酸菌。
【請求項2】 ラクトコッカス属に属し、受託番号 FERM P−15764として寄託されている、請求項1に記載のL−乳酸生産能及びTNF産生誘導活性を有する乳酸菌。

【公開番号】特開平9−135681
【公開日】平成9年(1997)5月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−263755
【出願日】平成8年(1996)9月13日
【出願人】(591014097)サンエイ糖化株式会社 (15)