説明

MEMSスイッチおよびその製造方法

【課題】可撓梁を利用したマイクロスイッチの新たな構造での問題を解決する。
【解決手段】MEMSスイッチは、SOI基板の活性Si層ALから形成され、ボンディング酸化膜BOXを介して支持Si基板SSに支持された可撓梁FBと、可撓梁FB上に形成された可動駆動電極MDEと、可撓梁FB上に形成された可動コンタクト接点を有する可動コンタクト電極MCEと、第1組の固定部に支持され、可動駆動電極MDE上方に延在する固定駆動電極FDEと、第2組の固定部に支持され、可動コンタクト接点上方に固定コンタクト接点を有する固定コンタクト電極FCEと、を有し、固定駆動電極FDEと固定コンタクト電極FCEとは、第1組及び第2組の固定部上方においては、密着金属層AM、シード層SD、メッキ層PLの積層を含み、可動駆動電極MDE、可動コンタクト接点と対向する自由下面においては、シード層SDの上に、メッキ層PLが存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(micro electromechanical system)スイッチおよびその製造方法に関する。mmオーダより短い寸法の構成部分を有する電気機械的部材をMEMSと呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
シリコン加工技術は、集積回路の進歩と共に高度に発達し、MEMS作製に適している。支持Si基板上に、酸化シリコン膜を接着膜(ボンディング酸化膜BOX膜)として、活性Si層を貼り付けたSOI基板は、活性Si層を薄くでき、誘電体分離の高性能Si素子を形成できるのみでなく、酸化シリコン膜は希弗酸等で選択的に除去でき、可動部を有するMEMS作製に利用できる。SOI基板は、一般的には、1対のSi基板の少なくとも一方を熱酸化し、酸化シリコン膜を介して1対のSi基板を熱圧着することで作製される。
【0003】
携帯電話等の高周波(RF)部品に対する小型化、高性能化の要求に応えるため、MEMS技術を用いたRF信号切り替えスイッチの研究、開発が盛んに行われている。MEMSスイッチは機械的なスイッチであって、寄生容量を小さくでき、半導体素子を用いたスイッチに比べ、損失が少なく、絶縁性が高く、信号に対する歪み特性がよい。
【0004】
SOI基板の活性シリコン層を梁形状にパターニングし、梁下方のBOX膜をエッチング除去して、可撓梁を形成することができる。可撓梁は、片持ち梁(カンチレバー)、両持ち梁などの形態で形成できる。可撓梁上に上面に可動接点を有する可動電極、その上方に延在し、下面に固定接点を有する固定電極を形成し、可撓梁を上方に変形可能とすればスイッチを形成することができる。可撓梁を上方に変形する手段としては、圧電部材を用いる方法、静電駆動電極を用いる方法等が知られている。
【0005】
特開2006−261515号は、カンチレバーの先端に両端を接点とする可動コンタクト電極を形成し、両側の固定部から可動コンタクト電極上方に延在する1対の固定コンタクト電極を形成してスイッチを形成すると共に、カンチレバーの根元部から中間位置までの領域に、下側電極、圧電材料層、上側電極を積層した圧電駆動部を形成し、圧電駆動部の周囲のカンチレバー(活性Si層)に溝部を形成することを提案する。
【0006】
可撓梁上に可動接点を形成し、空隙を介してその上方に固定接点を配置し、可動接点と固定接点が接触可能な構造を形成すれば、スイッチを形成することができる。例えば、カンチレバーの上に形成した可動接点とそれを跨ぐように形成したブリッジ状の固定電極でRF−MEMSスイッチを形成できる。
【0007】
可動電極と固定電極を対向させ、対向電極間に電圧を印加すると、静電引力により駆動力を得ることができる。対向する電極により静電駆動構造を形成し、静電駆動によりカンチレバーを駆動する構造が知られている。
【0008】
特開2007−196303号は、カンチレバー先端にスイッチ用可動電極、カンチレバーの中間部に可動静電駆動電極を設け、スイッチ用可動電極上方に1対の固定スイッチ電極、可動静電駆動電極上方にブリッジ状固定静電駆動電極を形成し、対向する静電駆動電極に適当な駆動電圧を与えると、可動静電駆動電極とブリッジ状固定静電駆動電極との間に発生する静電引力により、カンチレバーが上方に引き寄せられ、1対の固定スイッチ電極間をスイッチ用可動電極が閉じ、駆動電圧を切ると、弾性によりカンチレバーが元の状態に戻り、接点が離れた状態に戻る、マイクロスイッチを開示している。以下、公報の図面を復元して説明する。
【0009】
図6AはSOI基板の表面に下部電極を形成した状態を示す平面図、図6Bは下部電極上方にオーバーハングする上部電極構造を形成した状態を示す平面図であり、図6Cは図6BのZC−ZC線に沿う断面図である。図示の都合上、図6Cは左右が反転している。
【0010】
図6Cに示すように、SOI基板は、支持シリコン基板SS上にボンディング酸化(酸化シリコン)膜BOXを介して活性シリコン層ALを結合した構造を有する。活性シリコン層ALは、1000Ω・cm以上の高い抵抗率を有する。活性シリコン層ALの厚さは例えば5μm〜20μm、ボンディング酸化膜BOXの厚さは例えば2μm〜4μmである。支持シリコン基板SSの厚さは400μm〜600μmで供給される。支持シリコン基板SSは物理的支持を与えるための部材であり、必要に応じて、支持シリコン基板SSを薄く加工できる。
【0011】
図6Aに示すように、活性シリコン層AL上に可動コンタクト電極MCE、可動駆動電極MDEを含む下部電極が形成される。活性シリコン層ALを貫通するスリットSLによって片持ち梁(カンチレバー)CLの可動部が画定される。この状態では、可動部下部のボンディング酸化膜BOXは、未だ除去されていない。
【0012】
なお、スリットSLの幅は例えば1.5μm〜2.5μm、カンチレバーCLの長さは例えば700μm〜1000μmである。カンチレバーCLの先端部および中間部が幅広にパターニングされ、それぞれの上に可動コンタクト電極MCE、可動駆動電極MDEが形成されている。カンチレバー先端の幅は、100μm〜200μmである。可動駆動電極MDEは、図中下方に引き出されて接続領域を画定している。これらの可動電極MCE,MDEは、例えば厚さ50nmのCr層と厚さ500nmのAu層の積層で形成する。電極のパターニングはレジストパターンを用いたリフトオフまたはエッチング(ミリング)で行える。
【0013】
上部電極構造は、可動部外側の固定部に支持され、可動部の下部電極上方に延在する形状を有する固定電極である。スリットSL形成後、可動電極を覆って活性シリコン層AL上に犠牲膜を形成し、犠牲膜をパターニングして、メッキ底面構造を形成する。メッキ底面構造の上にメッキ下地膜を形成し、その上にレジストパターンを形成し、メッキ層を形成する領域を画定した後、露出しているメッキ下地膜上に電解メッキを行う。メッキ底面構造、レジストパターンによって画定された固定電極が形成される。なお、犠牲膜は例えば酸化シリコン膜で形成できる。メッキ下地膜は、例えば厚さ50nmのCr密着膜と厚さ500nmのAuシード層の積層で形成する。メッキ層は例えば金を電解メッキする。
【0014】
メッキ終了後、レジストパターンを除去し、露出したメッキ下地膜を除去する。露出した犠牲膜をバッファ−ド弗酸等で除去し、続けてスリットを介してカンチレバー下のボンディング酸化膜BOXをエッチング除去する。カンチレバーが可動となる。犠牲膜を除去すると、その上に形成したメッキ層のメッキ下地Cr膜が露出する。固定接点をAu表面とするため、露出したメッキ下地Cr膜をさらに除去する。
【0015】
図6Bに示すように、可動コンタクト電極MCE上方に張出す1対の固定コンタクト電極FCE,可動駆動電極MDE上方にブリッジ型の固定駆動電極FDEが形成される。1対の固定コンタクト電極FCEは高周波RF信号線路に接続され、高周波信号をON/OFFする高周波スイッチを構成する。
【0016】
図6Cは、図6BにおけるZC−ZC線に沿う断面を示し、可動電極と固定電極の離隔対向関係を示している。固定駆動電極FDEを例えば接地し、可動駆動電極MDEに所定電位を与えると、静電引力が生じ、カンチレバーCLが上方に変位する。カンチレバーCLと共に、可動コンタクト電極MCEも上方に変位し、1対の固定コンタクト電極FCE間を接続する。
【0017】
なお、可動電極が固定電極に張り付いてしまうスティッキング現象も知られている。スティッキングは可動電極を載置する可撓梁のばね定数が弱いほど生じやすい。一方、スイッチの駆動電圧の低減化が望まれている。スイッチの駆動電圧を低減化するには、可撓梁のバネ定数を低くするか、可動範囲を狭くすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2006−261515号公報
【特許文献2】特開2007−196303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
スイッチの駆動電圧を低減化するため、接点間距離を減少させたMEMSスイッチを試作したところ、駆動電極間短絡、接点間抵抗増大等の問題が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0020】
1実施例によれば、MEMSスイッチは、
活性Si層がボンディング酸化膜を介して支持Si基板上に結合されたSOI基板と、
活性Si層から形成され、1端部又は両端部がボンディング酸化膜を介して支持Si基板に支持され、可動部を有する可撓梁構造と、
可撓梁構造の可動部下方のボンディング酸化膜を除去することにより、可撓梁構造と支持Si基板との間に形成されたキャビティと、
可撓梁構造上に形成された可動駆動電極と、
可撓梁構造上に形成された可動コンタクト接点を有する可動コンタクト電極と、
可撓梁構造の両側の活性Si層を除去することによって形成された窓領域と、
窓領域内で可撓梁領域両側に残された、ボンディング酸化膜と活性Si層の積層を含む第1組及び第2組の固定部と、
第1組の固定部に支持され、可動駆動電極上方に延在する固定駆動電極と、
第2組の固定部に支持され、可動コンタクト接点上方に固定コンタクト接点を有する固定コンタクト電極と、
を有し、
固定駆動電極と固定コンタクト電極とは、第1組及び第2組の固定部上方においては、MoまたはMo合金の密着金属層、密着金属層の上に形成されたAuまたはAu合金のシード層、シード層の上に形成されたAuまたはAu合金のメッキ層を含み、可動駆動電極、可動コンタクト接点と空隙を介して対向する自由下面においては、MoまたMo合金の密着金属層が存在せず、シード層の上に、メッキ層が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1−1】図1AはSOI基板の断面図、図1B,1Cは活性Si層ALに貫通孔THを形成し下のボンディング酸化膜BOXをエッチングしてキャビティCVを形成する工程を示す平面図と断面図、図1Dは整形した犠牲膜SFの上に、密着金属層AM、メッキシード層SDを介してメッキ層PLを電解メッキする工程を示す断面図、図1E,1F,1Gは第1の実施例によるMEMSスイッチの長さ方向に沿う断面図、下部電極を形成した状態の平面図および静電駆動機構、スイッチ機構を形成した状態の断面図である。
【図1−2】図1Hは第1の実施例によるMEMSスイッチの平面図、図1I,1J,1Kは、第1の実施例によるMEMSスイッチのX1−X1線、X2−X2線、X3−X3線に沿う断面図である。
【図2−1】図2XA−2XFは、第1の実施例によるMEMSスイッチの製造プロセスを示すX方向に沿う断面図である。
【図2−2】図2XG−2XJは、第1の実施例によるMEMSスイッチの製造プロセスを示すX方向に沿う断面図である。
【図2−3】図2XK−2XNは、第1の実施例によるMEMSスイッチの製造プロセスを示すX方向に沿う断面図である。
【図2−4】図2YA−2YDは、第1の実施例によるMEMSスイッチの製造プロセスを示すY方向に沿う断面図である。
【図2−5】図2ZA−2ZDは、第1の実施例によるMEMSスイッチの製造プロセスを示す平面図である。
【図3】図3A,3B,3Cは、比較例によるMEMSスイッチの平面図、X−X線に沿う断面図、Y−Y線に沿う断面図である。
【図4】図4XA、4XB、4XC、4XDは、比較例によるMEMSスイッチの製造プロセスを示すX−X線に沿う断面図である。
【図5】第2の実施例によるMEMSスイッチを示す平面図である。
【図6】図6A、6B,6Cは、公知技術のSOI基板の表面に電極を形成した状態を示す平面図、SOI基板表面に立体的電極構造を形成した状態を示す平面図、図6BのZC−ZC線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して説明する。
【0023】
図1Aは、SOI基板の構成を示す断面図である。SOI基板は、例えば抵抗率1000Ωcm以上、厚さ10μm〜20μm、例えば厚さ15μmの(100)活性Si層ALが、厚さ2μm〜30μm、例えば厚さ4μmのボンディング酸化膜(熱酸化膜)BOXを介して、厚さ300μm〜700μm、例えば厚さ525μmのSi支持基板SS上に結合されたものである。MEMSスイッチを形成するSOIチップの寸法は、例えば500〜800μm×600〜900μm程度である。
【0024】
図1Bに示すように、活性Si層ALに、例えば幅2μm、長さ6μm程度の貫通孔THをSFガスを用いたディープRIE(反応性イオンエッチング)を用いて所定ピッチで形成し、貫通孔TH底面に熱酸化膜BOXを露出する。
【0025】
図1Cに示すように、希フッ酸エッチング液にSOI基板を浸漬すると、活性Si層に形成した貫通孔THからエッチング液が侵入し、熱酸化膜BOXをエッチング除去する。このようにして所望領域の熱酸化膜を除去することができる。貫通孔の寸法は、活性Si層AL上に形成する構造が所定の機能を果たせるように選択する。例えば幅50μmの配線中に幅2μmの開口が複数分布しても、配線機能を果たすことは容易である。
【0026】
図1Dは、活性Si層AL上に立体構造を形成するための犠牲層SFの機能を示す。犠牲層SFは例えば化学気相堆積(CVD)で堆積した酸化シリコン膜で形成する。必要に応じて犠牲層SF表面を化学機械研磨(CMP)で平坦化し、その表面上に所定形状の開口を有するレジストパターンを形成し、開口内に露出した犠牲層SFを所定深さ、時間制御によるコントロールエッチングで、掘り下げる。レジストパターンを取り換えて、浅いリセスから深いリセスへと加工を続ける。犠牲膜SFの全厚さを除去した部分が下地と結合する支持部になる。
【0027】
電解メッキを行うには、給電層が必要である。酸化シリコン等の絶縁材料の犠牲層SF上に、例えば金(Au)のメッキ層を形成する場合、通常Cr、Mo等絶縁層との密着性の高い密着金属層AM、金メッキの下地となるAuシード層SDをスパッタリングなどで成膜する。メッキ層下の密着金属層AMはMoで形成した。シード層SDを形成した後、作成するメッキ層より厚く、メッキする領域を画定するレジストパターンRPを形成する。下地金属層AM,SDを給電層としてAuまたはAu合金の電解メッキを行い、レジストパターンで画定されたメッキ領域内にメッキ層PLを形成する。作成するメッキ層の厚さは、例えば約20μmである。立体的構造を有するメッキ層PLを形成できる。その後、レジストパターンRP,露出する下地金属層SD,AM,犠牲層SFはそれぞれ除去する。スイッチ機構の固定電極を例示したが、ブリッジ状の梁部から下方に突出する接点部を平坦な下面を有する板部に置き換えれば、静電駆動機構の固定電極となる。
【0028】
図1E、1Fは、両持ち梁構造の可撓梁とその周辺部を示す断面図及び平面図である。図1Gは、固定駆動電極FDE,固定コンタクト電極FCEの支持部、駆動機構DR、スイッチ機構SWを示す断面図である。可撓梁FBは、活性Si層ALをパターニングして形成され、その両端部は酸化シリコン層BOXを介して支持シリコン基板SSに支持されたアンカ構造ANCを形成している。両端のアンカANCの間の領域では酸化シリコン膜BOXが除去され、キャビティCVが形成されている。両持ち梁構造の活性Si層は全周において隣接する活性Si層が除去されており、完全絶縁状態にある。固定電極FDE,FCEの支持部も同様の構造であり、完全絶縁状態である。
【0029】
活性Si層ALの上に、下部配線用として、例えば厚さ50nmのTi密着金属層AM1,例えば厚さ500nmのAu下層配線層WM1がスパッタリングで積層される。下層配線層WM1上にレジストパターンを形成し、イオンミリングで露出部を除去することでパターニングし、可動コンタクト電極MCE,可動駆動電極MDE,配線W1,W2等を形成する。固定駆動電極FDE,固定コンタクト電極FCEを形成するメッキ工程において、配線端部上にパッドPD(スイッチパッドSPD,駆動パッドDPD)が形成され、チップ周辺部にはループ状の接地電極GNDが形成される。可撓梁FBと接地電極GNDの間の領域では、活性Si層ALが除去されて窓部WDを形成している。
【0030】
Auメッキ層PL下方のMo接着金属層AM2をエッチング除去する際、下層配線層下方の密着金属層AM1はダメージを受けないよう、密着金属層AM1はMoウェットエッチにおける選択性が高いTiとした。
【0031】
図1Gにおいて、左側に示す支持部においては、活性Si層AL上にTi密着金属層AM1,Au下部配線層WM1,Mo密着金属層AM2,Auシード層SD,Auメッキ金属層PLが積層されている。右側に示すスイッチ機構SWの接点部においては、Au下部配線層WM1の上方にスペースが形成され、メッキ金属層PL下方の密着金属層AM2が除去されて、Auシード金属層が露出している。Auのコンタクト電極を作成するため、接触抵抗の高いMo接着金属層AM2は除去されている。中央に示す駆動機構DRにおいても、Au下部配線層WM1の上方にスペースが形成され、メッキ金属層PL下方の密着金属層AM2は除去されている。同一工程で形成される構造である。可撓梁の長さ方向に沿う断面図では、ブリッジ状の固定電極は中空部のみが示される。
【0032】
図1Hは、MEMSスイッチチップの平面図である。可撓梁FBとその両端のパッド部SPD,DPDを有する固定部の活性Si層がパターニングされている。可撓梁FBと交差するように固定駆動電極FDE,固定コンタクト電極FCEが形成され、可動梁FB両側(上下)で、活性Si層AL、ボンディング酸化膜BOXを介して,Si支持基板SSに支持されている。チップ周辺部には、接地配線GNDが形成されている。接地配線GNDの内側では可撓梁FB、固定電極支持部以外の活性Si層ALは除去され、窓部WDが形成されている。
【0033】
図1I,1J,1Kは、図1HのX1−X1線、X2−X2線、X3−X3線に沿う断面図である。
図1I,1Jに示すように、固定電極FCE,FDEは、可撓梁FBと交差して、可撓梁FB上方に延在する部分を有する。ギャップと対向する固定電極FCE,FDE下面からは、Mo密着金属層AM2がウェットエッチングで除去されている。エッチャントは、林純薬工業製、燐酸酢酸硝酸溶液からなる「SLAエッチャント」を用いた。
【0034】
図1Kに示すように、接地配線GND内側では、可撓梁FB,固定電極FCE,FDE以外の領域の活性Si層ALが除去されている。活性Si層の除去は、後に説明するように、例えばSFガスを用いたディープRIEによるスリット群のエッチングと、SFガスを用いたRIEによる幅の狭いSi層のエッチングの組み合わせで行なうことができる。
【0035】
以上説明した第1の実施例によるMEMSスイッチの製造プロセスを説明する。図2XA〜2XNは、図1H,1Kに示すX3−X3線に沿う断面図であり、図2YA〜2YDは、可撓梁の長さ方向(Y−Y方向)に沿う断面図であり、図2ZA〜2ZDは平面図である。
【0036】
図2XAに示すように、支持Si層SS上にボンディング酸化膜BOXを介して活性Si層ALが貼りあわされたSOI基板を準備する。例えば、活性Si層の厚さは15μm、酸化膜BOXの厚さは4μm、支持Si基板の厚さは525μmである。
【0037】
図2XBに示すように、酸化膜エッチング用の幅約2μm、長さ約6μmの貫通孔THを、対象領域内に所定ピッチで分布させ、SFを用いたディープRIE(ボッシュプロセス)で活性Si層ALを貫通して形成する。酸化膜BOX表面が露出する。
【0038】
図2ZAは、貫通孔THの配置例を示す。左側部分の幅が右側部分の幅より広い可撓部を作成するため、可撓部の形状に合わせて貫通孔THを配置する。
【0039】
図2XCに示すように、希フッ酸水溶液等に基板を浸漬し、酸化膜をエッチングする。貫通孔THから入り込んだ希フッ酸水溶液により、酸化膜が徐々にエッチされ、互いに連続して所定領域のキャビティCVを形成する。
【0040】
図2ZBに示すように、所定形状のキャビティCVが形成される。
【0041】
図2XDに示すように、厚さ50nmのTi密着金属層AM1、厚さ500nmのAu層WM1をスパッタリングして、下部電極層を形成する。下部電極層上にレジストパターンを形成し、イオンミリングを行なって、所定パターンの下部電極LEを形成する。
【0042】
図2ZCは、形成される下部電極LEの形状例を示す。可撓梁上に駆動電極MDE、スイッチ電極MCE、可撓梁の上下に固定電極支持部のアンカANCが形成される。
【0043】
図2XEに示すように、可撓梁を画定するスリットSL、及び窓部WDの活性Si層を除去するためのスリット群SLを、SFを用いたディープRIEで形成する。
【0044】
図2ZDはスリット群SLの分布を示す平面図である。例えば幅2μmのスリット群を1μmのスペースを介して形成する。
【0045】
図2XFに示すように、下部電極LEを覆って、活性Si層AL上に犠牲膜SFを成膜する。例えばCVDにより、TEOS(テトラエトキシシラン)酸化膜を厚さ5μm堆積する。
【0046】
図2XGに示すように、犠牲膜SFに所定形状のリセスを所定深さエッチングして、メッキ層の下面形状を画定するリセスを形成する。例えば、深さ4μmのエッチング、その底面の選択された領域に深さ0.5μmのエッチング、その底面の選択された領域に深さ0.5μm(残存厚全て)のエッチングを行なう。この図には、下部電極を露出する1番深い孔と固定駆動電極を収容する1番浅いリセスが示されている。
【0047】
図2YAを参照すると、犠牲膜SFに固定駆動電極を画定する1番浅いリセスRC1、固定コンタクト接点を画定する中間深さのリセスRC2,下部電極LE表面を露出する1番深いリセスRC3が形成されている。
【0048】
図2XHに示すように、深さの異なるリセスRCを形成した犠牲膜SF上に、厚さ50nmのMo第2密着金属層AM2,厚さ500nmのAuシード層SDをスパッタリングで形成する。絶縁性犠牲膜SFの上にも導電性給電層が形成され、密着金属層AM2によって密着性が確保される。
【0049】
図2XIに示すように、Auシード層SDの上に、メッキ領域を画定するレジストパターンRPを形成する。Mo密着金属層AM2,Auシード層SDを給電層とし、Auの電解メッキを行って、例えば厚さ20μmのAuメッキ層PLを形成する。
【0050】
図2YBは、この状態を可撓梁長さ方向の断面で示す。
【0051】
図2XJに示すように、レジストパターンRPをアッシング、レジストリムーバ等で除去し、露出するシード層SD,Mo密着金属層AM2をイオンミリングなどで除去する。
【0052】
図2XKに示すように、露出する犠牲膜SFをフッ酸蒸気等のエッチャントで除去する。固定電極の自由下面が露出する。Au電極の接点がMo層で覆われており、このままでは電気特性が悪い。
【0053】
図2XLに示すように、SFガスを用いたRIEを行い、幅1μmの活性Si層ALをエッチングする。金属電極で覆われた領域はエッチングされない。
【0054】
図2YCはこの状態を可撓梁長さ方向断面で示す。スリット群が形成されている領域は、スリット間の幅1μmの活性Si層ALが両側からのエッチングで除去される。スリット群が形成されていない領域では、活性Si層AL表面がエッチングされるが、その厚さの大部分は残る。活性Si層ALと共に、酸化シリコン層BOXもエッチされる。酸化シリコン層BOXは全てエッチされても、一部残ってもかまわない。
【0055】
図2XMは、活性Si層ALエッチング後の状態を示す。可撓梁FB両側の活性Si層ALが除去され、窓部WDが形成されている。
【0056】
図2XNは、林純薬工業製、燐酸酢酸硝酸溶液からなる「SLAエッチャント」を用い、Moの第2密着金属層AM2をエッチング除去する工程を示す。可撓梁の両側に広く窓部WDが形成されている。固定電極と可動電極の間隔を狭くしてもその近傍に広い窓部WDが形成されているので、粘性の高い液体であっても移動させることが容易になる。
【0057】
図2YDはこの状態を可撓梁長さ方向断面で示す。図2YDの状態では、活性Si層上の下部電極上方に僅かな間隙を置いて、可動上部電極が配置されている。しかし図面の前後においては、図2XNに示すように、活性Si層ALが除去されている。
【0058】
図3A,3B,3Cは、比較例によるMEMSスイッチの平面図、X−X線に沿う断面図、Y−Y線(可撓梁長さ方向)に沿う断面図である。第1の実施例の図1Hに示す平面図、図1Kに示すX3−X3線に沿う断面図、図1Eに示す可撓梁長さ方向(Y−Y線)に層断面図に対応する。第1の実施例と比較例の相違点は、比較例では窓部WDが形成されていないことである。
【0059】
図4XA−4XDは、比較例の製造プロセスを示す、図3AのX−X線に沿う断面図である。第1の実施例と異なる点を主に説明する。図2XA−2XDに示す工程を同様に行なう。活性Si層下のキャビティCV,活性Si層上の下部電極LEが形成される。
【0060】
図4XAは、図2XEに対応する、可撓梁の輪郭を画定するスリットSLのエッチング工程を示す。一定間隔のスリット群は形成されず、可撓梁の形状を画定する片側1本のスリットSLが形成される。
【0061】
図4XBは、図2XGに対応し、犠牲膜SFを堆積し、リセスをエッチングした状態を示す。
【0062】
図4XCは、図2XKに対応し、犠牲膜SF上に密着金属層AM2,Auシード層SDを形成し、レジストパターンを形成し、Auメッキ層PLを形成し、レジストパターンを除去し、露出したAuシード層、Mo密着金属層をミリングで除去した状態を示す。
【0063】
図4XDは、図2XNに対応し、犠牲膜SFをエッチング除去し、露出した固定電極自由下面のMo密着金属層AM2を林純薬工業製、燐酸酢酸硝酸溶液からなる「SLAエッチャント」を用い、エッチング除去した状態を示す。可撓梁FB両側には、片側1本のスリットSLを介して、活性Si層ALが残存している。
【0064】
以前は、接点ギャップが0.5μm、アクチュエータギャップが1.2μmであった。駆動電圧の低減を図り、接点ギャップ0.3μm、アクチュエータギャップ0.6μmになるように設計変更した。設計変更したMEMSスイッチは、駆動電圧印加時にアクチュエータの上下電極が接触してショートする不良が73%生じ、オン状態の接点間抵抗が2Ωを超える素子が17%生じた。残った良品は10%であった。
【0065】
これに対して、第1の実施例により作成したサンプルは、アクチュエータのショート不良は生じず、接点抵抗が2Ωを超える素子は7%であった。良品率93%が得られた。可撓梁FB両側の活性Si層を除去した窓部WDを形成することにより、予期せざる大きな効果が得られた。
【0066】
可撓梁構造両側の活性Si層が除去されたことにより、MoまたMo合金の密着金属層除去のウェットエッチングが好適に行なえ、残渣が残らず、歩留まりが向上したと思料される。
【0067】
両持ち梁型の第1の実施例を説明した。片持ち梁型のMEMSスイッチを作成することもできる。
【0068】
図5はコの字形片持ち梁形状のMEMSスイッチの例を示す。活性Si層にスリット群SLを形成した状態で示す。スリット群SLにより、矩形形状の可動部MPが左右両側に配置された2本の可撓梁FB1,FB2を介し、パッド部SPD,DPDにおいて、ボンディング酸化膜を介して支持シリコン基板に支持される。可動部MP,可撓梁FB1,FB2下のボンディング酸化膜は除去されてキャビティを形成し、可動部MPは可撓梁FB1,FB2を介して弾性変形可能に支持されている。可動部MP,可撓梁FB1,FB2の外側では、スリット群SL間の活性Si層をエッチング除去することにより、広い窓部が形成される。
【0069】
可撓梁の形状は以上に説明したものに限られない。図6で示したカンチレバー形状においてカンチレバー外側の活性Si層を除去することもできる。
【0070】
例示した材料、数値は、制限的意味を有さない。Mo,Auの代わりにMo合金、Au合金を用いることもできる。その他、種々の変形、置換、改良、組み合わせ等が可能なことは、当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0071】
SS 支持シリコン基板、
BOX ボンディング酸化(酸化シリコン)膜、
AL 活性シリコン層、
MCE 可動コンタクト電極、
MDE 可動駆動電極、
FDE 固定駆動電極、
FCE 固定コンタクト電極、
SL スリット、
CL カンチレバー、
LE 下部電極、
FB 可撓梁、
TH スルーホール(貫通孔)、
CV キャビティ、
RP レジストパターン、
SF 犠牲膜、
AM 密着金属層、
SD シード層、
PL メッキ層、
GND 接地配線、
PD パッド部、
SPD スイッチパッド,
DPD 駆動パッド、
WD 窓部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性Si層がボンディング酸化膜を介して支持Si基板上に結合されたSOI基板と、
前記活性Si層から形成され、1端部又は両端部がボンディング酸化膜を介して前記支持Si基板に支持され、可動部を有する可撓梁構造と、
前記可撓梁構造の可動部下方のボンディング酸化膜を除去することにより、前記可撓梁構造と前記支持Si基板との間に形成されたキャビティと、
前記可撓梁構造上に形成された可動駆動電極と、
前記可撓梁構造上に形成された可動コンタクト接点を有する可動コンタクト電極と、
前記可撓梁構造の両側の前記活性Si層を除去することによって形成された窓領域と、
前記窓領域内で前記可撓梁領域両側に残された、前記ボンディング酸化膜と前記活性Si層の積層を含む第1組及び第2組の固定部と、
前記第1組の固定部に支持され、前記可動駆動電極上方に延在する固定駆動電極と、
前記第2組の固定部に支持され、前記可動コンタクト接点上方に固定コンタクト接点を有する固定コンタクト電極と、
を有し、
前記固定駆動電極と前記固定コンタクト電極とは、前記第1組及び第2組の固定部上方においては、MoまたはMo合金の密着金属層、前記密着金属層の上に形成されたAuまたはAu合金のシード層、前記シード層の上に形成されたAuまたはAu合金のメッキ層を含み、前記可動駆動電極、前記可動コンタクト接点と空隙を介して対向する自由下面においては、MoまたMo合金の前記密着金属層が存在せず、前記シード層の上に、前記メッキ層が存在する、
MEMSスイッチ。
【請求項2】
前記窓領域が、前記可撓梁構造及び前記第1組及び第2組の固定部の各全周を取り囲む請求項1記載のMEMSスイッチ。
【請求項3】
前記窓領域において、前記ボンディング酸化膜も除去されている請求項1または2に記載のMEMSスイッチ。
【請求項4】
前記可撓梁構造が、両端部でボンディング酸化膜を介して前記支持Si基板に支持された両持ち梁構造である請求項1〜3のいずれか1項に記載のMEMSスイッチ。
【請求項5】
前記可撓梁構造が、1端側が自由端であり、他端側でボンディング酸化膜を介して前記支持Si基板に支持された片持ち梁構造である請求項1〜3のいずれか1項に記載のMEMSスイッチ。
【請求項6】
前記1端側が矩形可動部であり、前記他端側で前記矩形可動部の対向辺から可撓梁が延在しボンディング酸化膜を介して前記支持Si基板に支持されている請求項5に記載のMEMSスイッチ。
【請求項7】
支持Si基板上に活性Si層がボンディング酸化膜を介して結合されたSOI基板の活性Si層内に両持ち梁型又は片持ち梁型の可撓梁領域および立体的な固定駆動電極と固定コンタクト電極を支持する第1組、第2組の電極支持領域を画定し、
前記可撓梁領域の可動部に前記活性Si層を貫通する貫通孔群を形成し、
前記貫通孔を介して、前記可撓梁領域の可動部下の前記ボンディング酸化膜をエッチング除去して、キャビティを形成し、
前記可撓梁領域上に、可動駆動電極、可動コンタクト接点を有する可動コンタクト電極を形成し、
前記可撓梁領域および前記電極支持領域周囲に、前記活性Si層を貫通するスリット群を形成し、
メッキ金属層の底面構造を画定する犠牲膜構造を形成し、
前記犠牲膜構造上にMoまたはMo合金の密着金属層、AuまたはAu合金のシード層を形成し、
前記シード層上にメッキ領域を画定するパターンを形成し、
露出している前記シ-ド層上にAuまたはAu合金のメッキ層を形成して固定駆動電極、固定コンタクト電極を形成し、
前記パターン、露出した前記シード層と前記密着金属層、前記犠牲膜構造を除去し、
前記スリット群間の活性Si層をエッチング除去して窓部を形成し、
前記犠牲膜の除去により露出する前記密着金属層をウェットエッチングする、
MEMSスイッチの製造方法。
【請求項8】
前記貫通孔群の形成、前記スリット群の形成はディープRIEで行い、前記密着金属層のウェットエッチングは燐酸酢酸硝酸溶液で行なう請求項7に記載のMEMSスイッチの製造方法。
【請求項9】
前記スリット群は一定ピッチの平行スリットを含む請求項7または8に記載のMEMSスイッチの製造方法。
【請求項10】
前記窓部は、前記可撓梁領域、前記第1組及び第2組の電極支持領域の各全周を取り囲む請求項7〜9のいずれか1項に記載のMEMSスイッチの製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89482(P2013−89482A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229587(P2011−229587)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)