説明

NDフィルタ

【課題】基板と蒸着膜の密着性を向上させることにより、成膜時の皺、クラック、外形切断時のクラック、膜の剥離を防止でき、複屈折が小さく高画質化対応のフィルタを生産性良く得る。
【解決手段】リタデーション値Reが20nm以下、ガラス転移点が110℃以上の透明樹脂基板21上に、反射防止膜23a、光吸収膜23b、反射防止膜23cから成るND膜23を積層したNDフィルタ20において、透明樹脂基板21の少なくとも片面に易接着層22を形成し、基板21とND膜23の密着性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルビデオカメラ或いはデジタルスチルカメラ等の撮影光学系の使用に適した光量を調整するためのNDフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のビデオカメラやデジタルカメラ等の撮像機器には、固体撮像素子に入射する光量を制御するための光量絞り装置が設けられており、快晴時や高輝度の被写体を撮影する場合に、その開口が小さく絞り込まれるようになっている。
【0003】
しかしながら、絞り開口を絞り過ぎると、通過する光の回折の影響で像性能の劣化を生ずる問題がある。この問題の対策として、例えば絞り羽根にフィルム状のND(Neutral Density)フィルタを取り付けることにより、被写界の明るさが大きくなっても絞り開口が極端に小さくなることを防止し、所定の大きさのままで光量を減衰させるようにしている。
【0004】
従来から、NDフィルタの基材には合成樹脂製のフィルム基板が広く使用されている。例えば、特許文献1においては材料の光学特性が良好であり、耐久性も優れているPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のフィルム状の透明樹脂基板が使用されている。
【0005】
また特許文献2においては、基板として120℃以上のガラス転移温度を有するノルボルネン系樹脂を使用し、蒸着時の加熱温度を樹脂基板のガラス転移温度よりも低く保持し、伸縮変形を抑制することにより皺の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−190833号公報
【特許文献2】特開2004−37548号公報
【特許文献3】特開平10−235820号公報
【特許文献4】特公昭42−24194号公報
【特許文献5】特公昭46−7720号公報
【特許文献6】特公昭46−10193号公報
【特許文献7】特公昭49−37839号公報
【特許文献8】特開昭50−123197号公報
【特許文献9】特開昭53−126058号公報
【特許文献10】特開昭54−138098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮像機器は高画質化が進んでおり、それに合わせて光量調整装置に使用されるNDフィルタの光学特性への要求も厳しくなっている。
【0008】
従来、NDフィルタの基材としては、PETが一般的に使用されてきたが、PETは複屈折が大きいため、更なる高画質化に向けて低複屈折材料を使用した基板が使用され始めている。複屈折とは、屈折率が方向により異なる材料を通る光が異常光線と常光線に分離する現象であり、材料固有の複屈折性と成形加工時の剪断力による分子配向や、溶融した樹脂が固化する時に生ずる残留応力等に大きく依存する。
【0009】
ノルボルネン系樹脂は低複屈折材料として知られており、透明性も高くガラス転移温度も比較的高いため、NDフィルタの基材として適している。
【0010】
図10は従来のNDフィルタ1の膜構成図を示し、基板2にノルボルネン系樹脂フィルムを使用し、基板2上に誘電体層である反射防止膜3aと光吸収膜3bを交互に積層し、更に最上層に反射防止膜3cを積層したND膜3が成膜されている。
【0011】
しかし、ノルボルネン系樹脂から成る基板2とND膜3との密着性は悪く、成膜時の皺やクラックが発生し易いため、蒸着膜が剥離し易いという問題を有している。
【0012】
本発明の目的は、上述の課題を解決し、光学特性に優れ、成膜時に基材の皺や積層膜のクラック等が発生し難いNDフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係るNDフィルタは、リタデーション値が20nm以下、ガラス転移点が110℃以上の透明樹脂基板上に光吸収膜と誘電体層から成るND膜を蒸着して積層したNDフィルタにおいて、前記ND膜は前記透明樹脂基板の表面に設けた易接着層上に成膜したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るNDフィルタによれば、易接着層を用いることにより基板と蒸着膜の密着性を向上させ、成膜時の皺、クラック、外形切断時のクラック、膜の剥離を防止でき、複屈折が小さく高画質化対応のフィルタを生産性良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】撮像装置の構成図である。
【図2】NDフィルタの膜構成図である。
【図3】NDフィルタの構成図である。
【図4】蒸着治具の模式断面図である。
【図5】チャンバの構成図である。
【図6】ND膜を蒸着した透明樹脂基板の説明図である。
【図7】NDフィルタの切断方法の説明図である。
【図8】ノルボルネン及びノルボルネン系樹脂の化学構造式である。
【図9】NDフィルタの光学特性グラフ図である。
【図10】従来のNDフィルタの膜構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を図1〜図9に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は本実施例における撮像装置の構成図を示し、レンズ11〜14中に、光量調整装置15が配置され、これらの後方にローパスフィルタ16、CCD等から成る固体撮像素子17が順次に配列されている。光量調整装置15においては、絞り羽根支持板18に一対の絞り羽根19a、19bが可動に取り付けられている。絞り羽根19aには、絞り羽根19a、19bにより形成される開口部を通過する光量を減光することを目的としたNDフィルタ20が接着されている。
【0018】
本実施例におけるNDフィルタ20に使用する基板は、板厚60μmのノルボルネン系樹脂から成り、リタデーション値Reが5nm、ガラス転移点が130℃のフィルムを使用している。基板の板厚としては、20〜200μmが好ましいが、特に限定されるものではない。一般的には、板厚が20μm以下であると基材のコシが弱く、成膜時にクラック等が発生し易くなる。また、基板の板厚が200μm以上となると、光量調整装置15に組み込んで使用する際に、必要なスペースが大きくなり、装置の小型化に支障を生じ易い。
【0019】
従来、一般的に用いられてきたPETは複屈折が大きいため、近年の撮像機器の高画質化に伴い複屈折は小さいことが望ましい。この複屈折が大きいと、透過光が分離して結像点がずれるため、結像性能が低下するという問題を有している。リタデーション値Reとは基板の複屈折と厚みに起因する位相差量であり、異常光線の屈折率をNe、常光線の屈折率をN0、複屈折物質の厚さをd[nm]とすると、Re[nm]=d・(Ne−N0)で表される。
【0020】
通常では、NDフィルタの基板として用いられるPETフィルムは、フィルム成形時に延伸加工されるため分子配向による複屈折が大きく、Re>100である。近年の撮像機器の高画質化に伴い、複屈折の小さい透明樹脂フィルムが求められており、画質を考慮すると、リタデーション値Reは100nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以下である。
【0021】
また、基板のガラス転移温度は蒸着時の蒸着源から受ける熱を考慮すると、110℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が低いと、成膜時に蒸着源からの熱により基板が熱変形し、蒸着した膜に皺が発生する場合があるが、ガラス転移温度が110℃以上であれば、蒸着時に受ける熱の影響は少なく、皺の発生を抑制することが可能である。これらのことから、ノルボルネン系樹脂から成るフィルムは、NDフィルタの基板として好適である。
【0022】
しかし、上述したようにノルボルネン系樹脂と蒸着膜とは密着性が劣り、成膜時の皺やクラックが発生し易く、膜が剥離する虞れがある。成膜時の基板温度を上昇させれば、密着性を向上させることができるが、基板温度を上昇させると熱応力による皺やクラックの発生が増加し、反りも大きくなるという問題を解決する必要がある。
【0023】
そこで本実施例においては、図2に示すようにノルボルネン系樹脂フィルムから成る透明樹脂基板21上に易接着層22を塗布している。そして、この易接着層22上に、反射率を低下させるための誘電体層である反射防止膜23aのAl23膜と、透過率を低下させるための光吸収膜23bのTiOx膜とを交互に積層し、最表層に反射防止膜23cのMgF2膜を積層したND膜23を成膜している。
【0024】
ND膜23の材料はこれらに限定されず、例えば反射防止膜23aはAl23、TiO2、SiO2、MgF2、Nb23、Ta25、HfO2、ZrO2等の単体、或いは混合物を使用することができる。光吸収膜23bはCeO2、HfO2、Pr23、Sc23、Tb23、TiO2、Nb25、Ta25、Y23、ZnO、ZrO2等を酸素ガスを導入せずに高真空状態で成膜した不飽和酸化物、Ti、Cr、Ni等の金属やこれらの酸化物及び合金、更にこれらの吸収材料と上述した誘電体材料との混合物を使用することもできる。また、最表層の反射防止膜23cとなる誘電体層は、屈折率の小さいSiO2やMgF2が望ましい。
【0025】
一般に、これらの反射防止膜23a、光吸収膜23b、反射防止膜23cの成膜には、真空蒸着法が用いられるが、イオンプレーティング法又はスパッタリング法等によっても同様な効果を得ることができる。また、膜の材質、層数、膜厚等はこれらに限定されるものではない。
【0026】
NDフィルタ20の構成としては、図3(a)に示すように、透明樹脂基板21の表面の易接着層22の上にND膜23を成膜し、裏面に反射防止膜24を成膜したり、(b)に示すように、透明樹脂基板21の両面に易接着層22を介してND膜23を成膜する。或いは、(c)に示すように、透明樹脂基板21の表面の易接着層22上に、ND膜23の膜厚を連続的に変化させることにより、光学濃度を連続的に変化させてもよい。
【0027】
図4はNDフィルタ20を作製するための蒸着治具31の模式断面図を示し、この蒸着治具31には、図示しないピン等を介して易接着層22が塗布された透明樹脂基板21が、成膜面を成膜面側に向けて蒸着パターン形成マスク32と共に固定されている。
【0028】
図5は透明樹脂基板21上に蒸着膜を成膜するための真空蒸着機のチャンバの構成図を示している。チャンバ41内には、蒸着源42が設けられていると共に、回転可能な回転ドーム43が設けられている。この回転ドーム43には図4に示す透明樹脂基板21をセットした蒸着治具31が取り付けられている。蒸着治具31に固定された透明樹脂基板21は、回転ドーム43と共にチャンバ41のZ軸を中心に回転し、ND膜23の成膜が行われる。
【0029】
そして、透明樹脂基板21の片面に最表層まで成膜が完了すると、チャンバ41から蒸着治具31を一旦取り出し、透明樹脂基板21の表裏を反転し、同様の手順で透明樹脂基板21の裏面に再度ND膜23を蒸着する。
【0030】
図6は透明樹脂基板21の裏面の成膜が完了し、チャンバ41から取り出した透明樹脂基板21の平面図を示し、NDフィルタ20の形状に切断することにより、NDフィルタ20を得ることができる。
【0031】
図7はNDフィルタ20を切断加工する際の模式断面図を示し、上型51と下型52がセットされたプレス機等を用いて、透明樹脂基板21をNDフィルタ20の形状に切断する。なお、切断方法は上型51と下型52から成るプレス方式に限らず、ビク抜き等の剪断力を利用した切断方式や、レーザーカット、ダイシング、スクライブカット等の切断方法を使用することもできる。
【0032】
図8(a)はノルボルネンの化学構造式を示しており、NDフィルタ20に用いるノルボルネン系樹脂フィルムはノルボルネン又はその誘導体をモノマとして合成されたポリマである。(b)、(c)はノルボルネン系樹脂フィルムの代表的な例を示す構造式である。しかし、これらに限定されず、例えばノルボルネン系モノマの開環重合体の水素添加物、ノルボルネン系モノマと他のオレフィン系モノマとの付加共重合体、ノルボルネン系モノマ同士の付加共重合体及びこれらの誘導体等を利用することができる。
【0033】
透明樹脂基板21の表面に塗布する易接着層22を構成する材料は特に制限されないが、例えばポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。
【0034】
また、特許文献3に記載されているように、疎水性共重合ポリエステル樹脂に少なくとも1種の二重結合を有する酸無水物がグラフトしたポリエステル系グラフト共重合体も好適である。或いは、これら材料は混合して使用することもできる。
【0035】
ポリエステル系樹脂としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。ポリエステル系樹脂のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p’−ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等及びそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0036】
ポリエステル系樹脂のグリコール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。また、グリコール成分としては、分岐したグリコール成分を用いるのが好適であり、例えば、ネオペンチルグリコール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、及び2,2−ジ−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0037】
また、ポリエステル系樹脂の水溶性化を容易にするため、カルボン酸塩基を含む化合物や、スルホン酸塩基を含む化合物を共重合することが好ましい。
【0038】
カルボン酸塩基を含む化合物としては、例えばトリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1、2−ジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6,−ナフタレンテトラカルボン酸、エチレングリコールビステリメリテート、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸等或いはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0039】
スルホン酸塩基を含む化合物としては、例えばスルホルテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、スルホ−p−キシリレングリコール、2−スルホ−1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等或いはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0040】
また、ポリエステル系樹脂としては、変性ポリエステル共重合体、例えばアクリル、ウレタン、エポキシ等で変性したブロック共重合体、グラフト共重合体等を使用することも可能である。
【0041】
ポリウレタン系樹脂の主要な構成成分は、ポリオール及びポリイソシアネート、更に必要により鎖延長剤、鎖長停止剤等である。
【0042】
ポリウレタン系樹脂の合成に用いるポリオール成分としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・ポリプロピレングリコール、ポリテトラプロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペートポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、グリセリン等を挙げることができる。
【0043】
ポリイソシアネート成分としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物等が挙げられる。
【0044】
鎖延長剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び1,6−ヘキサンジオール等のグリコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、及びペンタエリスリトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びピペラジン等のジアミン類、モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等のアミノアルコール類、チオジエチレングルコール等のチオジグリコール類が挙げられる。
【0045】
上述のポリウレタン系樹脂は溶剤系、水性の何れでもよく、用途、製造方法に合わせて選択できる。製膜工程中で塗布、延伸をする場合には水性ポリウレタン系樹脂が好ましい。水性ポリウレタン系樹脂としては、カルボン酸塩基、スルホン酸塩基又は硫酸半エステル塩基により水への親和性が高められたポリウレタン系樹脂を挙げることができる。水性ポリウレタン系樹脂中への前記親和性官能基の導入は、ポリオール、又は鎖延長剤、鎖長停止剤として、カルボン酸含有ポリオール、アミノ酸含有カルボン酸、アミノ基又は水酸基とスルホン酸基を有する化合物等が用いられる。
【0046】
カルボン酸含有ポリオールとしては、例えばジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸、トリメリット酸ビス(エチレングリコール)エステル等が挙げられる。アミノ酸含有カルボン酸としては、例えばβ−アミノプロピオン酸、γ−アミノ酪酸、p−アミノ安息香酸等が挙げられる。水酸基含有カルボン酸としては、例えば3−ヒドロキシプロピオン酸、γ−ヒドロキシ酪酸、p−(2−ヒドロキシエチル)安息香酸、リンゴ酸等が挙げられる。アミノ基又は水酸基とスルホン酸基を有する化合物としては、例えばアミノメタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼン−2−スルホン酸、β−ヒドロキシエタンスルホン酸ナトリウム、脂肪族ジ第1級アミン化合物のプロパンサルトン、ブタンサルトン付加生成物等が挙げられ、好ましくは脂肪族ジ第1級アミン化合物のプロパンサルトン付加物が挙げられる。更に、アミノ基又は水酸基と硫酸半エステル基を含有する化合物としては、例えばアミノエタノール硫酸、アミノブタノール硫酸、ヒドロキシエタノール硫酸、α−ヒドロキシブタノール硫酸等が挙げられる。
【0047】
また、水性ポリウレタン系樹脂としては、特許文献4〜10等で公知のアニオン性基を有するポリウレタン系樹脂、或いはそれらに準じたポリウレタン系樹脂を挙げることができる。
【0048】
また、水性ポリウレタン系樹脂としては、分子量300〜20000のポリオール、ポリイソシアネート、反応性水素原子を有する鎖延長剤及びイソシアネート基と反応する基、及びアニオン性基を少なくとも1個有する化合物から成る樹脂が望ましい。このポリウレタン系樹脂中のアニオン性基は、好ましくは−SO3H、−OSO2H、−COOH、及びこれらのアンモニウム塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩或いはマグネシウム塩として用いられる。
【0049】
ポリウレタン樹脂はブロック型イソシアネート基を含有する樹脂であって、末端イソシアネート基を親水性基で封鎖した熱反応型の水溶性ウレタンでもよい。上述のイソシアネート基のブロック化剤としては、重亜硫酸塩類及びスルホン酸基を含有したフェノール類、アルコール類、ラクタム類オキシム類及び活性メチレン化合物類等が挙げられる。ブロック化されたイソシアネート基はウレタンプレポリマを親水化或いは水溶化する。フィルム製造時の乾燥或いは熱セット過程で、上述の樹脂に熱エネルギが与えられると、ブロック化剤がイソシアネート基から外れるため、上述の樹脂は自己架橋した編み目に混合した水分散性共重合ポリエステル樹脂を固定化すると共に、樹脂の末端基等とも反応する。塗布液調整中の樹脂は親水性であるため耐水性が悪いが、塗布、乾燥、熱セットして熱反応が完了すると、ウレタン樹脂の親水基、即ちブロック化剤が外れるため、耐水性が良好な塗膜が得られる。
【0050】
ポリウレタン系樹脂は、単独使用ができる他に、上述のポリエステル系樹脂に加えることにより、高度な接着性、耐水性、耐溶剤性を付与することができる。
【0051】
アクリル系樹脂としては、従来公知のものを特に制限なく使用できる。アクリル系樹脂を構成するモノマ成分としては公知のものを例示できる。例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロビル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等)、2−ヒドロキシルエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有モノマ、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド等のアミド基含有モノマ、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有モノマ、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマ、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等のカルボキシル基又はその塩を含有するモノマ等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いて共重合される。更に、これらは他種のモノマと併用することができる。
【0052】
他種のモノマとしては、例えばアリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマ、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のスルホン酸基又はその塩を含有するモノマ、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のカルボキシル基又はその塩を含有するモノマ、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を含有するモノマ、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アリキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0053】
また、アクリル系樹脂としては、ブロック共重合体、グラフト共重合体等を使用することも可能である。更に、アクリル系樹脂の分子量は10万以上が好ましく、更に好ましくは30万以上とするのが密着性の点で望ましい。
【0054】
易接着層22を形成のための塗布液には、水性塗布液を用いるのが好ましい。この水性塗布液には、熱架橋反応を促進させるため、触媒を添加してもよく、例えば無機物質、塩類、有機物質、アルカリ性物質、酸性物質及び含金属有機化合物等、種々の化学物質が用いられる。また、水溶液のpHを調節するために、アルカリ性物質或いは酸性物質を添加してもよい。
【0055】
また、上述の水性塗布液を熱可塑性フィルムの表面に塗布する際には、フィルムへの濡れ性を向上させ、塗布液を均一に塗布するために、公知のアニオン性活性剤及びノニオン性の界面活性剤を必要量添加して使用することができる。塗布液に用いる溶剤は、水の他にエタノール、イソプロピルアルコール及びベンジルアルコール等のアルコール類を、全塗布液に占める割合が50重量%未満となるまで混合してもよい。更に、10重量%未満であれば、アルコール類以外の有機溶剤を溶解可能な範囲で混合してもよい。ただし、塗布液中のアルコール類とその他の有機溶剤との合計は50重量%未満とする。
【0056】
有機溶剤の添加量が50重量%未満であれば、塗布乾燥時に乾燥性が向上すると共に、水のみの場合と比較して塗布膜の外観向上の効果がある。しかし、50重量%を超過すると、溶剤の蒸発速度が速く塗工中に塗布液の濃度変化が起こり、粘度が上昇して塗工性が低下するために、塗布膜の外観不良を起こす虞れがあり、更には火災発生等の危険性も有している。
【0057】
また、透明樹脂基板21中に易滑性付与を目的とした滑剤を添加しないので、上述の水性塗布液には、粒子を添加しフィルム表面に適度な突起を形成するのが好ましい。この粒子の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子を挙げることができる。中でも、シリカがポリエステル樹脂と屈折率が比較的近く、高い透明性が得易いため最も好適である。
【0058】
上述の水性塗布液に添加する粒子の平均粒径は、通常では1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.1μm以下である。平均粒径が1.0μmを超過すると、フィルム表面が粗面化し、フィルムの透明性が低下する傾向がある。また、塗液中に含まれる粒子含有量は、通常の塗布、乾燥後で塗布膜の粒子含有量が60重量%以下、好ましくは50重量%以下、更に好ましくは40重量%以下となるように添加する。塗布膜の粒子含有量が60重量%を超過すると、フィルムの易接着性が損なわれることがある。
【0059】
透明樹脂基板21中に上述の粒子を2種類以上配合してもよく、同種の粒子で粒径の異なるものを配合してもよい。何れにしても、粒子全体の平均粒径、及び合計の含有量が上記範囲を満足することが好ましい。上述の塗布液を塗布する際には、塗布液中の粒子の粗大凝集物を除去するために、塗布直前に塗布液が精密濾過されるように濾材を配置する必要がある。
【0060】
塗布液を精密濾過するための濾材は、濾過粒子サイズ25μm以下(初期濾過効率95%)であることが必要である。25μm以上では粗大凝集物が十分に除去できず、除去できなかった多くの粗大凝集物は、塗布、乾燥後に一軸延伸又は二軸延伸した際に、易接着層22に粒子の粗大凝集物が広がって100μm以上の凝集物として認識され、結果として多くの光学欠点が発生する。
【0061】
塗布液を精密濾過するための濾材のタイプは、上述の性能を有していれば特に限定されないが、例えばフィラメント型、フェルト型、メッシュ型が挙げられる。塗布液を精密濾過するための濾材の材質は上述の性能を有しており、かつ塗布液に悪影響を及ばさなければ特に限定はされないが、例えばステンレス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等が挙げられる。
【0062】
上述の水性塗布液の組成物には、その効果を消失しない限り、帯電防止剤、紫外線吸収防止剤可塑剤、顔料、有機フィラー及び潤滑剤等の種々の添加剤を混合してもよい。更に、塗布液が水性であるため、その寄与効果を消失しない限り、性能向上のために他の水溶性樹脂、水分散性樹脂及びエマルジョン等を塗布液に添加してもよい。
【0063】
また、易接着層22の塗布量つまりフィルム単位面積当りの固形分重量は、約0.05〜0.50g/m2が好ましい。易接着層22の塗布量が少ないと接着性が不十分となり、塗布量が多いとヘイズ値が高くなる懸念がある。ヘイズ値が高いと、光が散乱しフレアの原因となるため、ヘイズ値は1.5%以下であることが好ましく、更に好ましくは1%以下である。
【0064】
本実施例1においては、板厚60μmのノルボルネン系樹脂から成る透明樹脂基板21に水分散ポリエステル樹脂を塗布することにより、光学濃度0.9のNDフィルタ20を作製した。
【0065】
図9は本実施例1において作製したNDフィルタ20の光学特性グラフ図を示し、透過率の平坦性も良く、反射率も許容レベルである。
【0066】
表1は得られたNDフィルタ20について、画質、ヘイズ値、成膜皺、切断部クラック、膜密着性について評価を行った結果を示している。
【0067】
また、比較例1として、実施例1で用いたノルボルネン系樹脂から成る透明樹脂基板21に易接着層22を設けず、実施例1と同様の手順で光学濃度0.9のNDフィルタを作製し、得られたNDフィルタについて評価を行っている。
【0068】
また、比較例2として、板厚50μmの2軸延伸ポリエステルフィルムにポリエステル系の易接着層22を塗布し、実施例1と同様の手順で図2に示す構成のNDフィルタを作製し、得られたNDフィルタについて、同様の評価を行っている。
【0069】
表1に示すように、実施例1の易接着層22を設けたノルボルネン系樹脂を用いたNDフィルタ20では画質も良好であり、成膜皺、切断部クラック、膜密着性においても良好である。
【0070】
表1
実施例1 比較例1 比較例2
ノルボルネン系樹脂 ノルボルネン系樹脂 2軸延伸PET
易接着層有無 易接着層有り 易接着層無し 易接着層有り
板厚 60μm 60μm 50μm
リタデーション値 5nm 5nm 300nm
画質 ◎(良好) ◎(良好) △(複屈折有り)
ヘイズ値 0.7% 0.2% 1.2%
成膜皺 ○ ○〜△ ○
切断部クラック ○(無し) △ ○(無し)
膜密着性(120℃成膜時) ○(剥離無し) ○(剥離無し) ○(剥離無し)
膜密着性(90℃成膜時) ○(剥離無し) ○〜△(軽微な剥離有り) ○(剥離無し)
【実施例2】
【0071】
本実施例2においては、透明樹脂基板21として板厚80μmの無延伸ポリカーボネート系樹脂フィルムを使用し、実施例1と同様に易接着層22を設け、図2に示す構成のNDフィルタを作製した。そして、得られたNDフィルタ20について評価を行い、その結果を表2に示している。
【実施例3】
【0072】
本実施例3においては、透明樹脂基板21として板厚100μmの透明ポリイミド系樹脂フィルムを使用し、実施例1と同様に易接着層22を設け、図2に示す構成のNDフィルタ20を作製した。得られたNDフィルタ20について評価を行い、その結果を表2に示している。
【実施例4】
【0073】
本実施例4においては、透明樹脂基板21として板厚30μmの透明アラミド系樹脂フィルムを使用し、実施例1と同様の手順で易接着層22を設け、図2に示す構成のNDフィルタ20を作製した。得られたNDフィルタ20について評価を行い、その結果を表2に示している。
【0074】
表2
実施例2 実施例3 実施例4
無延伸ポリカーボ 透明ポリイミド 透明アラミド
ネート系樹脂フィルム 系樹脂フィルム 系樹脂フィルム
易接着層有無 易接着層有り 易接着層有り 易接着層有り
板厚 80μm 100μm 30μm
リタデーション値 5nm 5nm 10nm
画質 ◎(良好) ◎(良好) ◎(良好)
ヘイズ値 0.2% 0.3% 0.8%
成膜皺 ○ ○ ○
切断部クラック ○(無し) ○(無し) ○(無し)
膜密着性(120℃成膜時) ○(剥離無し) ○(剥離無し) ○(剥離無し)
膜密着性(90℃成膜時) ○(剥離無し) ○(剥離無し) ○(剥離無し)
【0075】
表2に示すように、易接着層22を設けた無延伸ポリカーボネート系樹脂フィルム、透明ポリイミド系樹脂フィルム、透明アラミド系樹脂フィルムを用いたNDフィルタ20においても画質が良好であり、成膜皺、切断部クラック、膜密着性においても良好である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明はデジタルカメラやビデオカメラ等の撮像機器に使用される光学フィルタとして広く適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
11〜14 レンズ
15 光量調整装置
17 固体撮像素子
19a、19b 絞り羽根
20 NDフィルタ
21 透明樹脂基板
22 易接着層
23 ND膜
23a、23c、24 反射防止膜
23b 光吸収膜
31 蒸着治具
32 蒸着パターン形成マスク
41 チャンバ
42 蒸着源
43 回転ドーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リタデーション値が20nm以下、ガラス転移点が110℃以上の透明樹脂基板上に光吸収膜と誘電体層から成るND膜を蒸着して積層したNDフィルタにおいて、前記ND膜は前記透明樹脂基板の表面に設けた易接着層上に成膜したことを特徴とするNDフィルタ。
【請求項2】
前記透明樹脂基板はヘイズ値が1.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載のNDフィルタ。
【請求項3】
前記透明樹脂基板の板厚は20μm〜200μmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項4】
前記透明樹脂基板はノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、アラミド系樹脂の何れかから成ることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項5】
前記易接着層は、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂の何れかから成ることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1つの請求項に記載のNDフィルタと絞り羽根とから成ることを特徴とする光量調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−41199(P2013−41199A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179408(P2011−179408)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】