説明

Ni基合金

【課題】耐高温酸化性及び耐高温窒化性に優れ、しかも、耐疲労性及び延性に優れたNi基合金を提供すること。
【解決手段】0.005≦C<0.10mass%、1.0<Si≦3.0mass%、0.05≦Mn≦1.0mass%、20.0≦Cr≦32.0mass%、6.0≦Fe≦16.0mass%、0.001≦Y≦0.5mass%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなるNi基合金。Ni基合金は、所定量のAl、Nb、Cu、REM、B、及び/又はMgをさらに含んでいても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金に関し、さらに詳しくは、耐高温酸化性、及び、耐高温窒化性に優れたNi基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、点火プラグなどのエンジン部品で1000℃近くの高温に曝される部位で使用される耐熱材料として、JIS NCF600が知られている。この材料は、Crを多く含むNi基合金であり、耐酸化性に優れている。しかしながら、内燃機関の高出力化及び高効率化のために、エンジン部品がより高温に曝されるようになっている。一方、Ni基合金を各種エンジン部品等に加工するためには、冷間加工性が優れていることが必要とされる。そのため、この種のエンジン部品に用いられる材料には、さらなる耐酸化性の向上、高温強度の向上、及び、冷間加工性の向上が求められている。
【0003】
JIS NCF600の耐酸化性をさらに高めた材料として、Alを添加したJIS NCF601も知られている。また、NCF601を改良した材料も開発されている。
例えば、特許文献1には、質量%でC:0.1%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:12〜32%、Fe:20%以下、Ti:0.03%以下、Mg:0.001〜0.04%、不純物であるSは0.01%以下(但し、Mg/S≧1)を含み、残部はNi及び不可避的不純物からなる点火プラグ用電極材料が開示されている。
同文献には、Ti量を低く抑えることにより耐酸化性を改善できる点、及び、Mgを添加してSをMgとの化合物として除去又は固定することにより熱間加工性が向上する点が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、質量%でC:0.1%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:12〜32%、Fe:20%以下、Ti:1.0%以下、Al:5.0%以下、MoとWの一種又は二種をMo+1/2Wで0.5%を超え4.0%未満含み、残部は実質的にNiからなる点火プラグ用電極材料が開示されている。
同文献には、適量のMoとWを添加すると、冷間加工性を維持しながら、さらに高温強度を改善できる点が記載されている。
【0005】
Ni基合金にAlを添加すると、高温下で表層にAl酸化物が形成され、酸化による材料の消耗が抑制される。しかしながら、Ni基合金にAlを添加すると、酸化物層の下部に塊状のAl窒化物が層状に形成される現象が見られる。この窒化物層は、温度が高く、高温保持時間が長いほど、材料内部まで析出し、厚みが薄い材料では、深さ方向全面に析出する。そのため、機械的特性や各種物性など部品として本来材料に必要な特性(例えば、耐疲労性など)が損なわれるという問題がある。
また、Al添加は、固溶化熱処理後の硬さを上昇させ、冷間加工性を低下させるために、部品の加工が困難になり、コスト上昇を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−336446号公報
【特許文献2】特開2002−129268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐高温酸化性及び耐高温窒化性に優れ、しかも、耐疲労性及び延性に優れたNi基合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るNi基合金は、
0.005≦C<0.10mass%、
1.0<Si≦3.0mass%、
0.05≦Mn≦1.0mass%、
20.0≦Cr≦32.0mass%、
6.0≦Fe≦16.0mass%、
0.001≦Y≦0.5mass%、
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0009】
Ni基合金に対して所定量のSi及びYを添加すると、耐窒化性を害することなく、耐酸化性が向上する。また、所定量のSi及びYを含むNi基合金に対してさらにAlを添加すると、耐窒化性を害することなく、さらに耐酸化性が向上する。さらに、このようなNi基合金に対してCu、Nb、REM等を添加すると、耐酸化性がさらに向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. Ni基合金]
本発明に係るNi基合金は、以下のような元素を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
[1.1. 主構成元素]
(1) 0.005≦C<0.10mass%。
Cは、CrやNbと結合して炭化物を形成し、固溶化熱処理時の結晶粒粗大化防止及び粒界の強化に寄与する。そのためには、C含有量は、0.005mass%以上とする必要がある。
一方、C含有量が過剰になると、マトリックス中のCrを過剰に消費し、耐酸化性を低下させる。従って、C含有量は、0.10mass%未満である必要がある。
【0011】
(2) 1.0<Si≦3.0mass%。
Siは、脱酸元素として有用である。また、Siは、耐窒化性を低下させることなく、耐酸化性を向上させるのに有効である。さらに、Siは、Alと複合で添加しても耐窒化性を低下させることなく、耐酸化性を向上させる作用がある。そのためには、Si含有量は、1.0mass%超とする必要がある。Si含有量は、さらに好ましくは、1.1mass%以上である。
一方、Siの過剰添加は、熱間加工性、冷間加工性、及び、靱性を低下させる。従って、Si含有量は、3.0mass%以下とする必要がある。Si含有量は、さらに好ましくは、2.0mass%以下である。
【0012】
(3) 0.05≦Mn≦1.0mass%。
Mnは、脱酸元素として有用である。Mn含有量は、0.05mass%以上である必要がある。
一方、Mn含有量が過剰になると、熱間加工性、冷間加工性、及び、耐酸化性を低下させる。従って、Mn含有量は、1.0mass%以下とする必要がある。
【0013】
(4) 20.0≦Cr≦32.0mass%。
Crは、高温下で材料表面にCr23を形成し、耐酸化性を付与するために必須の元素である。また、Cと結びついて炭化物を形成し、固溶化熱処理時の結晶粒粗大化防止や高温強化に役立つ。その効果を得るためには、Cr含有量は、少なくとも20.0mass%以上が必要である。
一方、Cr含有量が過剰になると、熱間加工性や靱性が低下する。従って、Cr含有量は、32.0mass%以下とする必要がある。Cr含有量は、さらに好ましくは、30.0mass%以下、さらに好ましくは、25.0mass%以下である。
【0014】
(5) 6.0<Fe≦16.0mass%。
Feは、固溶化熱処理後の硬さを低下させる効果、熱間加工性を向上させる効果、及び材料を低コスト化する効果がある。このような効果を得るためには、Fe含有量は、6.0mass%以上とする必要がある。
一方、Feの過剰添加は、耐酸化性を低下させるだけでなく、脆性相であるσ相が析出しやすくなる。従って、Fe含有量は、16.0mass%以下とする必要がある。
【0015】
(6) 0.001≦Y≦0.5mass%。
Yは、酸化スケール、特にSi酸化物の剥離を抑制し、耐酸化性を向上させる。また、熱間加工性を改善し、粒界を強化する。このような効果を得るためには、Y含有量は、0.001mass%以上とする必要がある。
一方、Yの過剰添加は、逆に熱間加工性を低下させる。また、溶接が必要な部品に用いる場合、Yの過剰添加は、溶接性を害する。従って、Y含有量は、0.5mass%以下とする必要がある。
【0016】
[1.2. 副構成元素]
本発明に係るNi基合金は、上述した各種の添加元素に加えて、以下のいずれか1以上の元素をさらに含んでいても良い。
(7) 0.05≦Al≦3.5mass%。
Alは、1000℃以上での耐酸化性向上に有効な元素である。但し、Alを添加すると、窒化物を材料内部に形成してしまい、靱性や疲労強度の低下を招く。従って、Alを添加する場合には、Si及びYとの複合添加が必須である。耐酸化性を向上させるためには、Al含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。Al含有量は、さらに好ましくは、0.1mass%以上である。
一方、Al含有量が過剰になると、加工性が低下する。従って、Al含有量は、3.5mass%以下が好ましい。Al含有量は、さらに好ましくは、2.5mass%以下である。
【0017】
(8) 0.1≦Nb≦2.0mass%。
Nbは、Cと結びついて炭化物を形成し、固溶化熱処理時の結晶粒粗大化防止や高温強化に役立つ。Nbは、Crよりも優先的に炭化物を生成するため、マトリックス中のCr量を相対的に増加させることができ、2次的に耐酸化性を向上させる。このような効果を得るためには、Nb含有量は、0.1mass%以上が好ましい。
一方、Nbの過剰添加は、熱間加工性を低下させる。従って、Nb含有量は、2.0mass%以下が好ましい。
【0018】
(9) 0.1≦Cu≦5.0mass%。
Cuは、高温下では表層に形成されるCr23層とマトリックスとの境界に濃化し、酸化スケールの耐剥離性を高めて耐酸化性を向上させる。このような効果を得るためには、Cu含有量は、0.1mass%以上が好ましい。Cu含有量は、さらに好ましくは、0.5mass%以上である。
一方、Cuの過剰添加は、熱間加工性を低下させる。従って、Cu含有量は、5.0mass%以下が好ましい。Cu含有量は、さらに好ましくは、2.5mass%以下である。
【0019】
(10) 0.001≦REM≦0.3mass%、
REM(Ce、Laなど)は、Cuと同様に、高温下では表層に形成されるCr23層とマトリックスとの境界に濃化し、酸化スケールの耐剥離性を高めて耐酸化性を向上させる。このような効果を得るためには、REM含有量は、0.001mass%以上が好ましい。
一方、REMの過剰添加は、熱間加工性を低下させる。従って、REM含有量は、0.3mass%以下が好ましい。
なお、REMは、単独で添加しても良く、あるいは、Cuと同時に添加しても良い。
【0020】
(11) 0.001≦B≦0.01mass%。
(12) 0.001≦Mg≦0.01mass%。
B及びMgは、いずれも熱間加工性を改善し、粒界を強化する。このような効果を得るためには、これらの元素の含有量は、それぞれ、上記の下限値以上が好ましい。
一方、B及び/又はMgの過剰添加は、逆に熱間加工性を低下させる。また、溶接が必要な部品に用いる場合、これらの元素の過剰添加は、溶接性を害する。従って、これらの元素の含有量は、それぞれ、上記の上限値以下が好ましい。
【0021】
[2. Ni基合金の作用]
Ni基合金に対して所定量のSi及びYを添加すると、耐窒化性を害することなく、耐酸化性が向上する。また、所定量のSi及びYを含むNi基合金に対してさらにAlを添加すると、耐窒化性を害することなく、さらに耐酸化性が向上する。さらに、このようなNi基合金に対してCu、Nb、REM等を添加すると、耐酸化性がさらに向上する。
Si添加によって耐酸化性を保持したまま、耐窒化性が向上する理由の詳細は不明であるが、おそらく、Si添加によって表面に窒素の拡散を阻止する保護層が形成されたためと考えられる。
【実施例】
【0022】
(実施例1〜30、比較例1〜20)
[1. 試料の作製]
表1及び表2に示す各成分の合金を真空高周波誘導炉で溶解し、50kgのインゴットを得た。次にφ16mmの丸棒に鍛造した後、1100℃の固溶化熱処理を行った。
[2. 試験方法]
これらの素材から、幅15mm、長さ25mm、厚さ3mmの試験片を切り出し、大気腐食試験に供した。大気腐食試験は、JIS Z 2281に準拠し、1050℃で200時間保持後の大気腐食後増量及び減量を測定した。さらに、1050℃×200時間連続大気腐食後に、断面での窒化物層深さ(窒化物生成先端深さ)を測定した。
なお、本発明において、「大気腐食後増量」とは、大気腐食後、剥離スケールと密着スケールを含めた試験片の単位面積当たりの質量増をいう。また、「大気腐食後減量」とは、大気腐食後、剥離スケールを除いた試験片の単位面積当たりの質量減をいう。
また、「窒化物生成先端深さ(先端深さ)」とは、1050℃×200時間連続大気腐食後の材料表面から、窒化物の生成が認められる材料内部の最深部までの距離をいう。
【0023】
[3. 試験結果]
表1及び表2に、各試料の組成及び各種試験の結果を示す。なお、比較例16〜20は、鍛造割れが生じたため、腐食後増量及び先端深さを測定できなかった。
表1及び表2より、以下のことが分かる。
(1)Si又はYが過剰になると、鍛造割れが生ずる(比較例16〜20)。
(2)Si又はYのいずれか一方が不足すると、1050℃×200時間連続大気腐食後の大気腐食後増量が相対的に大きくなる(比較例1〜15)のに対し、適量のSi及びYが含まれていると、大気腐食後増量が少なくなる(実施例1〜30)。
(3)所定量のSi及びYを含まない材料にAlを添加すると、大気腐食試験後に材料内部に窒化物の生成が認められる(比較例6〜8、11〜12、14)のに対し、所定量のSi及びYを含む材料にAlをさらに添加すると、大気腐食試験後も窒化物の生成が認められない(実施例6、10〜12、14、16〜30)。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係るNi基合金は、エンジンの点火プラグ用電極、エンジンの排気系、内燃機関部品、1000℃以上の高温に曝される各種プラント部品などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.005≦C<0.10mass%、
1.0<Si≦3.0mass%、
0.05≦Mn≦1.0mass%、
20.0≦Cr≦32.0mass%、
6.0≦Fe≦16.0mass%、
0.001≦Y≦0.5mass%、
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなるNi基合金。
【請求項2】
0.05≦Al≦3.5mass%
をさらに含む請求項1に記載のNi基合金。
【請求項3】
0.01≦Nb≦2.0mass%
をさらに含む請求項1又は2に記載のNi基合金。
【請求項4】
0.1≦Cu≦3.0mass%、及び、
0.001≦REM≦0.3mass%、
から選ばれるいずれか1以上をさらに含む請求項1から3までのいずれかに記載のNi基合金。
【請求項5】
0.001≦B≦0.01mass%、及び、
0.001≦Mg≦0.01mass%、
から選ばれるいずれか1以上をさらに含む請求項1から4までのいずれかに記載のNi基合金。

【公開番号】特開2011−252199(P2011−252199A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126602(P2010−126602)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)