説明

Oリング嵌入冶具

【課題】Oリングの破断や欠損、或いは表面のキズ付きを抑制しながら、正確な嵌めこみ位置へ効率的にOリングを嵌入しうるOリング嵌入冶具を提供する。
【解決手段】マニホールドMの対象面の所定位置に当接し得る当接面を有してこの当接面の反対側の入口面から当接面までを貫通する挿通孔が形成された当接具1と、前記当接具1の入口面側から挿通孔内に挿通して当接面側の出口から突出しうる押し出し棒21を具備する。挿通孔は、入口面側から孔内部に向かって縮径形成された縮径部11aと、縮径部11aの孔内部の端から当接面側にかけて等径形成された等径部11bとから構成される。Oリングを内部配置した状態の縮径部11aに押し出し棒21を挿し入れることで、Oリングは縮径変形して当接面側に排出され、円形溝MO内に嵌入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Oリング取り付け用の溝や穴或いは孔にOリングを嵌入するための冶具に関する。特に、マニホールドやマニピュレーターといった流体調整器をはじめとする各種部品同士を連結したり、各種部品に圧力計、圧力継手等の付属部品を接続したりする際に、これら各種部品の連結部や接続部へOリングを取り付けるためのOリング嵌入冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Oリングガイドとこれに重ねられるOリング押付ガイドとから構成されるOリング取付治具が開示される(たとえば、特許文献1参照)。このOリングガイドは、下方に向かって広がるテーパー周面を有し、この周面から中心軸方向に切込んだ複数の縦溝を形成してある。Oリング押付ガイドは、縦溝の各々に上方から嵌合させて縦溝内を下方にスライドできる複数のフィンを有し、フィン下部は縦溝から外方へ突出し、また、Oリングガイドの周面に嵌合したOリングはフィン下部により押し下げられて、グローブカフ部の所定位置に取付られる、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開平05-341095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記取付冶具は、Oリングの内側空間を拡張させて押し広げた状態として、この押し広げたOリングを複数のフィンによって断続的に押し下げるため、弾性変形状態のOリングに大きなせん断力と応力集中が生じ、Oリングの破断や欠損、或いは表面のキズ付きが生じやすいものであった。また上記取り付け冶具は、グローブボックスのグローブポートに嵌め込むインナーリングにグローブをOリングにより取付け固定する際に用いるものとされ、このOリングは流体流通の接続部における漏えい防止といった機能は全く考慮されていない大型のものである。このため、上記取り付け冶具の技術思想では、Oリングの解放径よりも小さい溝や穴或いは孔へOリングを嵌入するような作業を行うことができなかった。また、リング外形50mm未満といった比較的小型のOリングを均等に縮径させ、嵌めこみ位置へ正確に嵌め込むといった作業、或いはOリング表面のキズ付き保護性を保持しながら嵌め込むといった作業は、迅速に行うことが困難であった。特にマニホールド等の流体部品においては、複数の嵌め入れ穴や嵌め入れ溝にそれぞれOリングを嵌め入れる必要があり、作業の高効率化が求められていた。
【0005】
そこで本発明では、Oリングの破断や欠損、或いは表面のキズ付きを抑制しながら、正確な嵌めこみ位置へ効率的にOリングを嵌入しうるOリング嵌入冶具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明では以下(1)〜(3)の手段を講じている。
【0007】
(1)本発明のOリング嵌入冶具は、マニホールドMの対象面に形成された円形溝MOにOリングを嵌入するためのOリング嵌入冶具であって、少なくとも、
マニホールドMの対象面Ftの所定位置に当接し得る当接面Fbを有してこの当接面Fbの反対側の入口面Faから当接面Fbまでを貫通する挿通孔11が形成された当接具1と、
前記当接具1の入口面Fa側から挿通孔11内に挿通して当接面Fb側の出口から突出しうる押し出し棒21とを具備してなり、
前記挿通孔11は、入口面Fa側から孔内部に向かって縮径形成された縮径部11aと、縮径部11aの孔内部の端から当接面Fb側にかけて等径形成された等径部11bとから構成され、
前記縮径部11aは入口面Fa側にOリングを内部配置可能であり、
Oリングを内部配置した状態の縮径部11aに押し出し棒21を挿し入れることで、Oリングは縮径変形しながら縮径部11a内を通って等径部11b内に押し出され、等径部11b内を通って当接面Fb側に排出され、当接面Fbが当接した対象面Ftの円形溝MO内に嵌入されることを特徴とする。
【0008】
(2)前記のOリング嵌入冶具において、押し出し棒21の先端には、棒の外周に沿って環状に突出した突出部21tが形成され、この突出部21tは、棒軸と垂直な端面に対して内側に傾斜した内傾斜面212tを有しており、この内傾斜面212tが等径部11b内でOリングに接することが好ましい。
【0009】
このようなものであれば、等径部11bのOリングは、内傾斜面212tによってOリングの外周側が軸断面視似てリング中央側に傾斜した斜め方向に押される。これはすなわち孔長方向に沿う軸方向外力のほかに、リング中央に向かう軸側方向外力が加えられた状態であり、弾性部材からなるOリングをより縮径させる方向の外力を加えながら押し出すものとなっている。これによってOリング外周部と等径部11bの孔内面との摺動摩擦を低減し、等径部11bへの引っ掛かりや摩擦によるOリングへのキズ付きの発生を抑止することができる。
【0010】
また押し出しステップ後半の解放状態に至る際に、Oリング縮径方向の外力付加状態を保持したまま押し出し棒2が突出するため、Oリングが円形溝MO内に至るまでに広がりきって解放状態径まで広がりきってしまうことがない。特に後述する実施例では、内傾斜面とその外側の外傾斜面とが、軸断面視略円弧状のなめらかな緩曲面によって連ねられるため、解放状態のOリングは内傾斜面上から緩曲面上を経て外傾斜面上に至りながら徐々に拡径することとなる。この拡径状態中は応力集中が生じることなく、軸中心から均等に広がるため、Oリングがキズつきにくい。
【0011】
(3)前記いずれかのOリング嵌入冶具において、当接具1の当接面には、マニホールドMの連結構成のために設けられた複数のマニホールド孔Mhにそれぞれ突入しうる二つ以上の保持突起12が突出形成され、複数の保持突起12によって当接位置を保持しうることが好ましい。またマニホールドには複数の円形溝MOが規格配置されるものであって、当接具1は、前記規格配置に合わせた複数本の挿通孔が形成されると共に、押し出し棒21は、複数本が前記規格配置に合わせて配置されると共に集合板22によって集合固定されることが好ましい。
【0012】
マニホールドMは連結用に規格されたマニホールド孔Mhを有しており、同規格形状で共通するマニホールド孔Mhへの保持突起12を設けることで、当接具1の当接位置を確実に保持しうるものとなる。またマニホールドMは決められた数の円形溝MOが規格配置されており、同規格配置に合わせて挿通孔11及び押し出し棒21を複数配置することで、複数本の嵌入作業を同時にかつ規格上のものとして正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
上記手段を採用することで、本発明のOリング嵌入冶具は、Oリング解放径よりも小さい溝等へのOリング嵌入作業において、Oリングの破断や欠損、或いは表面のキズ付きを抑制しながら、正確な嵌めこみ位置へ効率的にOリングを嵌入することができるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のOリング嵌入冶具の嵌入方法を示す上方斜視構成図。
【図2】実施例1のOリング嵌入冶具の嵌入方法を示す下方斜視構成図。
【図3】実施例1のOリング嵌入冶具による押し出しステップ後の嵌入状態を示す平面図。
【図4】図4の正面A−A線断面図。
【図5】実施例1の配置ステップ後の初期配置状態及び押し出しステップ中の縮径状態を示す正面拡大孔軸断面図。
【図6】実施例1の押し出しステップ中の排出状態及び嵌入状態を示す正面拡大孔軸断面図。
【図7】マニホールドへのOリングの嵌め入れ前後の状態を示す一部破断斜視図。
【図8】実施例2による押し出しステップ中の縮径状態を示す正面孔軸断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を実施例1(図1〜図7)、実施例2(図8)として示す図面と共に説明する。
【0016】
本発明のOリング嵌入冶具は、マニホールドMの対象面の所定位置に当接し得る当接面を有してこの当接面とその反対側の入口面とを貫通する挿通孔11が形成された当接具1と、
前記当接具の入口面から挿通孔11内に挿通して当接面の出口から突出しうる押し出し棒21とを用いて、
マニホールドMの対象面に形成されたOリング嵌入用の円形溝11にリング外形50mm未満といった比較的小型のOリングを均等に縮径させ、嵌めこみ位置へ正確に嵌め込むものである。
【0017】
このOリング嵌入冶具を用いたOリングの嵌入方法は、当接具1の当接面をマニホールドの対象面に当接させ、挿通孔の当接面側の出口が円形溝11と同中心位置に配置された状態で保持する当接ステップと、
解放径のOリングを挿通孔11の入口面側の内部に横置き配置するOリング配置ステップと、配置したOリングの上から押し出し棒を挿通孔11の入口面側から出口までを挿通させてOリングをお押し出す押し出しステップとを順に具備する。以下、実施例の各構成につき詳述する。
【実施例1】
【0018】
(挿通孔11) 挿通孔11は、入口面Fa側から孔内部に向かって縮径形成された縮径部11aと、縮径部11aの孔内部の端から当接面Fb側にかけて等径形成された等径部11bとから構成され、このうち縮径部11aの入口面側の孔内面に接するようにOリングを配置しうる。
【0019】
(縮径部11a) 縮径部11aは入口面側の端から孔内部側の端まで一定の割合で縮径する部分内錐面で形成される。縮径部11aの入口面側の端径は、Oリングの解放状態の外径よりも大きく設定され、Oリングが入口面寄りの孔内面に接する状態で、孔内部へ初期配置されうるものとなっている。縮径部11aの前記初期配置の位置は、入口面側から縮径部11aの長さの3分の一以下の距離までの間に設定され、この位置における孔の内部は、Oリングの解放状態の外径と同一径に設定される。これにより、縮径部11a内にOリングを安定して横置き載置できるものとなっている。また縮径部11aの孔内部側の端径は、Oリングの解放状態の外径よりも小さく設定される。縮径角度11θは1度未満であり、片側の縮径量は0.5mm以下である。このわずかな縮径によって、Oリングが縮径変形されながらも正確に芯だしされ、孔軸と垂直なリング軸に揃えられる。
【0020】
(等径部11b) 等径部11bは、縮径部11aの孔内部の端の縮小径と同じ径のまま、挿通孔全長の三分の一以下の長さで形成される。この径は円形溝MOと同一であるか、0.1mm以内の差で僅かに小さいことが望ましい。この縮径部11aから連なる等径部11bによって短い距離を均等に押し出されることで、傾かずに正確に対象面Ftと正対する向きに揃えられる。
【0021】
(押し出し棒21) 押し出し棒21は等径部よりもわずかに小さい径で直線的に伸びる円柱からなり、その先端は円周側に沿って環状の突出部21tが形成され、突出部21tの内側は窪み部21dが形成される。
【0022】
突出部21tは少なくとも、棒の外周側から棒中心側に向かって外傾斜した外傾斜面211tと、外傾斜面の内縁の頂部からさらに棒中心側に向かって連なって形成された内傾斜面212tとを有して形成される。実施例では加えて、内傾斜面の内縁端から棒中心側に向かってさらに内傾斜して形成された第二内傾斜面213tを有して形成される。
【0023】
実施例1の押し出し棒21の先端は具体的には、押し出し棒21の3分の2径である同心円形水平面を有したくぼみ部21dが中央に形成され、その周囲に環状の突出部21tが形成される。突出部21tは押し出し棒21の外形側から中心側へ向けて順に、軸断面視にて円弧状の外傾斜面211tと、軸断面視にて長軸が内側へ15度内傾した部分長円状の内傾斜面212tと、軸断面視にて四半円弧状に曲がって上方に湾曲する第二内傾斜面213tとから構成される。
【実施例2】
【0024】
実施例2は突出部21tの先端の傾斜面の構造が実施例1と異なる。その他の基本的な構成及び使用方法は実施例1と同様である。
実施例2の押し出し棒21の先端は具体的には、押し出し棒21の9分の7径である同心円形水平面を有したくぼみ部21dが中央に形成され、その周囲に環状の突出部21tがOリングの太さの半分以下の厚さとして形成される。突出部21tは具体的には、軸断面視半円状の曲面が下方に突出して形成される。そしてこの断面視半円状の曲面のうち、内側(押し出し棒21の中心側)にある内傾斜部がOリングの外側面と接してOリングを軸中心側へ加圧しながら押し出し方向へ押し出すものとなっている(図8参照)。
【0025】
(使用方法)
先ず当接具1をマニホールドの対象面に当接させ、この当接面Faが対象面Ftと当接した状態で、保持突起12がマニホールド孔Mh内に突入して、容易に位置ずれが生じないように当接具の当接状態を所定位置として保持する「当接ステップ」を行う。次にOリングを挿通孔11の縮径部11aの内部に初期配置し、そして押し出し棒21でOリングを当接面Fb側へ押し出す「押し出しステップ」を行う。この押し出しステップにおいて、Oリングは、孔軸と直交した状態となって徐々に縮径変形しながら縮径部11a内を通って等径部11b内に押し出される。次いで孔軸と直交して縮径変形した状態のまま等径部11b内を通って当接面Fb側からの当接具1外に押し出される。次いで押し出されたOリングは、マニホールドMの対象面Ftに形成された円形溝内へ嵌入される。
Oリングは解放状態の外径から縮径孔内で押し出しステップによって縮径され、縮径状態となる。この縮径状態のまま等径孔11b内で中心側に加圧されながら先端側へ押し出され、当接面から排出される排出状態となる。この排出状態では、等径孔11bから解放され、Oリング自身の弾性反力によって瞬間的に拡径する。そして押し出された先の円形溝MO内で、溝の内縁に沿って溝形状に嵌入された嵌入状態となる。
【符号の説明】
【0026】
1 当接具
11 挿通孔
11a 縮径部
11b 等径部
12 保持突起
21 押し出し棒
21t 突出部
212t 内傾斜面
22 集合板
Fa 入口面
Fb 当接面
Ft 対象面
M マニホールド
Mh マニホールド孔
MO 円形溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニホールド(M)の対象面に形成された円形溝(MO)にOリングを嵌入するためのOリング嵌入冶具であって、少なくとも、
マニホールド(M)の対象面の所定位置に当接し得る当接面を有してこの当接面の反対側の入口面から当接面までを貫通する挿通孔(11)が形成された当接具(1)と、
前記当接具(1)の入口面側から挿通孔(11)内に挿通して当接面側の出口から突出しうる押し出し棒(21)とを具備してなり、
前記挿通孔(11)は、入口面側から孔内部に向かって縮径形成された縮径部(11a)と、縮径部(11a)の孔内部の端から当接面(Fb)側にかけて等径形成された等径部(11b)とから構成され、
前記縮径部(11a)は入口面側にOリングを内部配置可能であり、
Oリングを内部配置した状態の縮径部(11a)に押し出し棒(21)を挿し入れることで、Oリングは縮径変形しながら縮径部(11a)内を通って等径部(11b)内に押し出され、等径部(11b)内を通って当接面(Fb)側に排出され、当接面が当接した対象面の円形溝(MO)内に嵌入されることを特徴とするOリンク゛嵌入冶具。
【請求項2】
押し出し棒(21)の先端には、棒の外周に沿って環状に突出した突出部(21t)が形成され、この突出部(21t)は、棒軸と垂直な端面に対して内側に傾斜した内傾斜面(212t)を有しており、この内傾斜面(212t)が等径部(11b)内でOリングに接する請求項1記載のOリンク゛嵌入冶具。
【請求項3】
当接具1の当接面には、マニホールド(M)の連結構成のために設けられた複数のマニホールド孔(Mh)にそれぞれ突入しうる二つ以上の保持突起(12)が突出形成され、複数の保持突起(12)によって当接位置を保持しうる請求項1又は2記載のOリング嵌入冶具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−17429(P2011−17429A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164307(P2009−164307)
【出願日】平成21年7月11日(2009.7.11)
【出願人】(509198000)株式会社コバチュウ (1)