説明

OA機器用多層ベルトの製造方法と製造装置

【課題】画像形成装置の転写ベルト等のOA機器用多層ベルトを、簡単な設備で、高度の技術を必要とせず、加熱による接合後の冷却も速やかであり、また加熱による接合時にベルトに皺が発生したりすることがないため歩留まりよく製造する。
【解決手段】内部側樹脂層と外部側樹脂層を有する円筒状のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、内部側樹脂層を両端に押圧部が設置された内筒の外周面に配置すると共に、外部側樹脂層を内筒の外周に位置する外筒の内周面に配置した状態で、押圧部が、内部側樹脂層の内周面の両端部を外部側樹脂層の方に押圧することにより、内部側樹脂層の内周面側と押圧部の内周面側を封止する封止ステップと、内部側樹脂層の内周面側に流体圧を作用させて、内部側樹脂層を外部側樹脂層の方に押圧させ、両方の樹脂層を接合する接合ステップを、有していることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円筒状のOA機器用多層ベルトの製造方法と製造装置に関し、特に内部側樹脂層の内周面側の両端部を押圧して内部側樹脂層の両端部を封止し、その後内部側樹脂層の中央部を直接押圧して両方の樹脂層を接合させる円筒状のOA機器用多層ベルトの製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の転写ベルト、定着ベルト等の各種のOA機器用ベルト(円筒状のいわゆるエンドレスのベルトに限定されず、例えば円筒形の回転体の外周に装着され、転写ローラ、定着ローラ等の樹脂層として使用されるものを含める)に対するユーザの各種の品質に対する要望は、近年ますます厳しくなってきている。かかるユーザの要望を充たすためには、ただ1種類の樹脂層からなるベルトでは困難であり、複数の樹脂層が積層された多層ベルトとすることがなされている。
【0003】
例えば、機械的性質に優れた樹脂によりベルト本来の形状、強度を保持する基材層を形成し、その上面(画像を形成する用紙側)に弾性に優れた樹脂により用紙にトナーを定着させる際に各色のトナーの溶融、混合を促進する弾性層を形成し、さらにその上面にトナーの非付着性(以下、「離型性」と記す)に優れた樹脂により表層を形成することがなされている。
【0004】
このような多層ベルトは、一般的には、形成する層の材料の樹脂を分散させた溶液をスプレー法、ディップ法などにより、円筒形の被積層体の外周面あるいは内周面に塗布し、溶媒を乾燥させた後、樹脂を焼成する等して目的の層を形成することを繰返して製造される。
また、必要に応じて各層の間に、例えば表層と弾性層の間に、バインダー層を設けたり、その他接合性改善処理を施したりする様なこともなされている。
【0005】
しかし、基材層に機械的性質にきわめて優れたポリアミドやポリイミドアミド等を使用し、弾性層に弾性にきわめて優れたゴム系の樹脂を使用し、表層に離型性にきわめて優れたフッ素樹脂を使用する場合には、中間にある弾性層を構成するゴム系の樹脂の耐熱温度が、その上下にあるフッ素樹脂やポリアミドやポリイミドアミド等の層を形成する際の焼成温度より低いため、前記の様な各層を順次形成する方法は適用できない。
【0006】
このため、表層をステンレス製の外筒(熱膨張係数は、1.7×10−5/℃)の内周面に形成し、基材層をドラム状の金型(内筒に相当する)の外周面に形成し、さらに基材層の外周面に弾性層を形成した状態で、外周面に弾性層が形成された基材層を金型から取外してナイロン6(熱膨張係数は、8.0×10−5/℃)製の中子に装着し(嵌め込み)、この状態で中子を外筒内に挿入し、真空下で加熱することにより内筒の半径を相対的に増大させてその外周面に形成した樹脂層を金属製外筒の内周面に形成した樹脂層に押圧して、両方の樹脂を接合させる等の内筒を半径方向に膨張させる技術が公開されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−47621号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記の方法は、表層と基材層の間に、両層を形成する温度より耐熱温度が低い中間層があるベルトを製造するには問題がない方法であるが、生産性の観点からは改善の余地がある。即ち、前記の方法では、両方の樹脂層を接合後に取り出すためには中子が冷却するまで待たねばならないため、冷却に要する時間が長くなり、設備の稼働性が低下する。
また、両方の樹脂層が中子の熱膨張により接触するまでにある程度の時間がかかるが、その間に樹脂層から残っていた溶剤が気化する等のため気体が発生すること、中子は軸方向にも相対的に伸びること等のため、ベルトに横方向の皺が発生したりする等の不具合品が生じないようにするためには、細心の注意と高度の技術が必要である。
【0008】
また、中子に換えて、内部の流体圧で半径方向に膨張可能なシリコンゴム製の円筒状の袋を使用する、具体的には内周面に表層が形成された外筒の内部に外周面に基材層と弾性層が装着されたシリコンゴム製の円筒状の袋を挿入後、流体圧で袋を半径方向に膨張させることも考えられる。この方法では、冷却に要する時間と両方の樹脂層が内筒の膨張により接触するまでの時間は多少短くなし得るが、外筒と袋の熱膨張の差は補償し難く、ベルトに横方向の皺が発生したりする等の不具合が生じないようにするためには、細心の注意と高度の技術が必要であり、また設備費もかかる。
【0009】
以上の課題は画像形成装置の定着ベルトに限らず、多層ベルトをその各層を順に形成して製造するのではなく、何らかの理由で別個に製造した各層を接合させて製造する場合にも生じる。
【0010】
このため、画像形成装置の定着ベルトのように、中間にその上下何れの層の形成温度よりも低い耐熱温度の層がある多層ベルトを、簡単な設備で効率よく、しかも細心の注意や高度の技術を必要とせず、接合時にベルトに皺が発生したりすることがないため歩留まりよく製造できる製造方法や製造装置の開発が望まれていた。
【0011】
また、別個に製造した各層を接合させて多層ベルトを製造する際にも、同様に製造できる製造方法や製造装置の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としてなされたものであり、内部側樹脂層の両端部を外部側樹脂層の方に押圧することにより、前記内部側樹脂層の内周面側と押圧部の内周面側を封止し、その後内部側樹脂層の中央部を押圧して両方の樹脂層を接合させて円筒状のOA機器用多層ベルトを製造する様にしたものである。以下、各請求項の発明を説明する。
【0013】
請求項1に記載の発明は、
内部側樹脂層と外部側樹脂層を有する円筒状のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記内部側樹脂層を両端に押圧部が設置された内筒の外周面に配置すると共に、前記外部側樹脂層を前記内筒の外周に位置する外筒の内周面に配置した状態で、前記押圧部が、前記内部側樹脂層の内周面の両端部を前記外部側樹脂層の方に押圧することにより、前記内部側樹脂層の内周面側と前記押圧部の前記内周面側を封止する封止ステップと、
前記内部側樹脂層の内周面側に流体圧を作用させて、前記内部側樹脂層を前記外部側樹脂層の方に押圧させ、両方の樹脂層を接合する接合ステップを、
有していることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0014】
本請求項の発明においては、内部側樹脂層を両端に押圧部が設置された内筒の外周面に配置すると共に、外部側樹脂層を内筒の外周に位置する外筒の内周面に配置した状態で、内部側樹脂層の内周面の両端部を外部側樹脂層の方に押圧することにより、内部側樹脂層の内周面側と押圧部の内周面側が封止された状態で、前記内部側樹脂層の内周面側に加圧流体を導いて、内部側樹脂層全体を外部側樹脂層の方に押圧させ、両方の樹脂層を接合させるため、簡単な設備で効率よく、しかも細心の注意や高度の技術を必要とせず、また接合時にベルトに皺が発生したりすることがないため歩留まりよく円筒状のOA機器用多層ベルトを製造できる。
【0015】
なお、前記内部側樹脂層の両端部を押圧することにより、前記内部側樹脂層の外周面側と前記外部側樹脂層の内周面側が封止(密封)されているが、隙間が空いていても、本発明の目的を達成することができる。
【0016】
ここに、「多層」とは、2種類以上の樹脂層を有していること、特に3種類以上の樹脂層を有していることを指す。
また、「内部側樹脂層全体を外部側樹脂層に押圧させ」とあるが、押圧部により押圧され、封止されている部分は、原則として流体圧による押圧からは除外される。
また、「両端部」とは、円筒状の樹脂層の円筒の2つの端部やその近傍を指す。
また、「中央部」とは、前記の両端部でない箇所を指し、厳密な意味での中央やその近くに限定されない。
【0017】
また、内部側樹脂層や外部側樹脂層は、例えば外部側樹脂層はフッ素樹脂からなる本来の外部側樹脂層(表層)の内周面にバインダー層が形成された2層構造である等、複数の種類の樹脂層からなっていても良い。
【0018】
請求項2に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記外部側樹脂層の内周面または前記内部側樹脂層の外周面の何れか一方に、耐熱温度が前記外部側樹脂層と前記内部側樹脂層の作製温度より低い中間樹脂層を作製する中間樹脂層作製ステップを有し、
前記封止ステップは、前記中間樹脂層を作製した状態でなされるものであり、
前記接合ステップは、間に前記中間樹脂層を介在させた状態で前記3つの樹脂層を接合するものであることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0019】
本請求項の発明においては、請求項1に記載の方法で、外部側樹脂層と内部側樹脂層の間に、両層を作製する温度より耐熱温度が低い中間樹脂層がある多層ベルトを製造するため、中間樹脂層は外部側樹脂層の内周面または内部側樹脂層の外周面の何れか一方に作製(成膜)され、この状態で中間樹脂層の外周面と外部側樹脂層の内周面、または中間樹脂層の内周面と内部側樹脂層の外周面との接合がなされることとなる。
【0020】
このため、外部側樹脂層と内部側樹脂層の間に、両層を作製する温度より耐熱温度が低い中間樹脂層がある構造の多層ベルトの製造に最適となる。この様な多層ベルトとしては、表層(外部側樹脂層)がフッ素樹脂層(焼成温度は、300℃以上)、基材層(内部側樹脂層)がポリイミド樹脂層(焼成温度は、350℃以上)を有し、表層と基材層の中間に耐熱温度が低いウレタン系樹脂(耐熱温度は、170℃以下)を使用した樹脂層を有する転写ベルトや定着ベルト等を挙げられる。
【0021】
なお、内部側樹脂層は、別途円筒形の金型等を使用して作製され、その外部側樹脂層との接合のために、両端に押圧部を有する内筒の外周に嵌め込まれる。
また、外部側樹脂層を外筒の内周面に直接作製すれば、工程の簡略化につながるため好ましい。ただし、外部側樹脂層が、一旦他の円筒の内周面や外周面を使用して作製され、押圧による接合のため、外筒の内周面に装着されることを排除するものではない。
【0022】
請求項3に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記押圧部は、内部が膨張する膨張部であって、
前記封止ステップは、前記膨張部を、前記内部側樹脂層の両端部を押圧するように膨張させることにより封止を行なうことを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0023】
本請求項の発明においては、外部側樹脂層の内部に、外周面に内部側樹脂層が配置された内筒を、外筒の芯に合わせると共に、軸長さ方向の位置合せを行いつつ挿入後、内筒の両端部にある膨張部を内部側樹脂層の両端部ごと外部側樹脂層の方に膨張させて、内部側樹脂層と膨張部の固定、そして封止を行なうため、操作が容易、確実となる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記膨張部の膨張は、膨張型シールの内部の流体の圧力上昇による膨張であることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0025】
本請求項の発明においては、膨張型シールが内部の流体の圧力により半径方向に膨張する(膨らむ)構成(構造)により、その外周面に配置されている内部側樹脂層の端部を押圧し、端部と膨張部を封止する。このため、封止のための操作が簡単、確実となる。
なお、内部の流体の圧力により半径方向に膨張するシールとしては、例えば日本バルカー工業のインフラートシール(登録商標)を、挙げられる。
【0026】
また、膨張型シールは、内筒の両端に装備された状態で外筒内に挿入されるため、その膨張していない状態における外径は、外筒の内径より小さい。さらに、内筒の半径方向に膨張する(外径が大きくなる)原理は問わないが、大量生産の場合には空気圧による膨張が好ましい。
【0027】
接合ステップにおける加圧は、例えば蓄圧器(槽)から内筒の外周面に、嵌め込み、被せ等で配置されている内部側樹脂層の内周面側に圧縮空気を導いて、内部側樹脂層を内筒の外周面から剥離(単なる離脱や離れることを含む)させ、さらに外筒の内周面に形成されている外部側樹脂層に押圧させ、両方の樹脂層を接合させるが、封止により内部側樹脂層の内周面側は1つの独立したスペースとなっているため、流体による押圧が良好、均等になされ、両方の樹脂層のずれ、外部からの気体の侵入等の不都合が生じない。
なおこの際、膨張型シール内の流体圧は内部側樹脂層の内周面側の流体圧より高く設定していると、充分な封止が可能となる。
【0028】
請求項5に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記膨張部の膨張は、内筒の軸方向へ押圧されたことによる弾性体シールの半径方向への膨張であることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0029】
本請求項の発明においては、膨張部は、例えばリング状の弾性体であり、これをリングの軸方向から押圧して半径方向に膨張させるため、膨張部の構造が簡単となる。
なおこの際、弾性体シールの押圧力は、内部側樹脂層の内周面側からの押圧力に比較して充分大きくしていると、充分な封止が可能となる。
【0030】
請求項6に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記接合ステップは、前記流体圧を直接作用させるために流体を使用することを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0031】
本請求項の発明においては、加圧に流体を使用するため、接合に際して均等な押圧を行なうことと押圧力の調節が容易となる。
【0032】
請求項7に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記接合ステップは、前記流体圧を直接作用させるために気体を使用することを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0033】
本請求項の発明においては、気体を使用するため、ベルトの高さ位置による流体から受ける圧力の差を考慮する必要がないため、特に表面積が広いベルトを製造する際に便利である。
気体としては、取扱い易さ、コスト等の面から空気が好ましい。
また、気体として空気を用いれば、工場に普通にある圧縮空気をそのままあるいは減圧弁を用いて使用可能であるため、水やオイルを使用する場合と異なり、ポンプ等の手配が不必要となり、さらにメンテナンスも不必要となる。
【0034】
請求項8に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記封止ステップに先立って、前記2つの樹脂層間のスペースの真空引きを行なう真空引きステップを有していることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0035】
本請求項の発明においては、接合がなされる2つの(内側と外側の)樹脂層間のスペースは、内部側樹脂層の両端部が押圧され、封止されるのに先立っての真空引きがなされる。このため、接合ステップにおいて、樹脂層間に残った空気を噛み込んで、ベルトに風船状の膨らみが生じることがなく、接合も強固となる。
なお、外部側樹脂層が外筒の内周面に直接作製されているのではなく、単に装着されているのであれば、外部側樹脂層の外周面と外筒の内周面の真空引きもなされることとなる。
【0036】
また、内部側樹脂層の内周面と内筒の外周面の間のスペースの真空引きもなされることとなる。
また、内部側樹脂層の両端部は膨張部により予め押圧し、封止されることによる封止(密封)であるため、真空引き後に内部側樹脂層の中央部の内周面側から流体圧を作用させる際に、この流体が2つの樹脂層間に侵入してくることはない。
【0037】
請求項9に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記接合ステップは、加熱を使用することを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0038】
本請求項の発明においては、樹脂層の接合に、押圧のみならず加熱が使用されるため、樹脂層の接合が一層確実となる。
【0039】
請求項10に記載の発明は、前記のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記接合ステップ終了後、前記内部側樹脂層の中央部の内周面側に冷却用の流体を循環させる冷却ステップを有していることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法である。
【0040】
本請求項の発明においては、前記内部側樹脂層の中央部の内周面側から流体圧を作用させる配管系を使用する等して冷却用の流体を循環させるため、接合終了後の樹脂の冷却が速やかになされ、生産性が向上する一方で、冷却のための設備は簡単で済む。
【0041】
請求項11に記載の発明は、
内部側樹脂層と外部側樹脂層を有する円筒状のOA機器用多層ベルトの製造装置であって、
前記内部側樹脂層を両端に押圧部が設置された内筒の外周面に配置すると共に、前記外部側樹脂層を前記内筒の外周に位置する外筒の内周面に配置した状態で、前記押圧部が、前記内部側樹脂層の内周面の両端部を前記外部側樹脂層の方に押圧することにより、前記内部側樹脂層の内周面側と前記押圧部の前記内周面側を封止する封止手段と、
前記内部側樹脂層の内周面側に流体圧を作用させて、前記内部側樹脂層を前記外部側樹脂層の方に押圧させ、両方の樹脂層を接合する接合手段を、
有していることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造装置である。
【0042】
本請求項の発明は、請求項1の構成を有する発明を、製造装置から捉えたものである。
【発明の効果】
【0043】
本発明においては、円筒状のOA機器用多層ベルトを、簡単な設備で効率よく、しかも細心の注意や高度の技術を必要とせずに歩留まりよく製造できる。また、ベルトに皺が発生したりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明をその好ましい実施の形態に基づいて説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
(第1の実施の形態)
本実施の形態は、外部側樹脂層が最外層に位置する表層と、その内周面側になるバインダー層からなり、内部側樹脂層が前記バインダー層と接合される弾性層と、その内周面側(反バインダー層側)に位置する基材層とからなる4層構造の転写ベルトを、圧縮空気により作動する膨張型シールを有する装置を使用して製造することに関する。
【0046】
(外部側樹脂層の作製)
内面を鏡面加工したSUS製の外筒の内周面に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、融点327℃)のディスパージョン溶液を、ディップ法により塗布し、380℃で焼成し、表層を形成した。
さらに、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびビニリデンフロライドの共重合体、融点120℃)を酢酸ブチルに溶融し、表層の内周面にディップ法により成膜して、乾燥させた。さらに、全体をPTFEとTHVの融点を越える350℃に加熱し、PTFE製の表層の内周面にTHV製のバインダー層が形成されてなる外部側樹脂層を作製(形成)した。
【0047】
(内部側樹脂層の作製)
円筒形の金型の外表面に、体積抵抗値を調整したポリイミドを成膜し、380℃で焼成し、基材層を形成した。
さらに、基材層の外周面に、ウレタン系ゴムのディスバージョン液を塗布し、その後乾燥させて、ウレタン系ゴムからなる弾性層を形成し、内部側樹脂層を作製した。なお、ウレタン系ゴムの耐熱温度(熱分解点温度)は、170℃程度である。
【0048】
(両樹脂層の接合装置)
本実施の形態の円筒状のOA機器用多層ベルトの製造装置の要部である両樹脂層の接合装置の構造を、図1から図3を参照しつつ説明する。図1は、両樹脂層を接合するため装置にセットした状態を概念的に示す図であり、図2は、押圧部が内部側樹脂層の内周面の両端部を押圧し、封止している状態を概念的に示す図であり、図3は両樹脂層を接合中の状態を概念的に示す図である。
【0049】
図1から図3において、10は内筒であり、11は内部側樹脂層であり、18は内筒の上下両端のシールを膨張させるための空気の導入孔であり、19は内筒の樹脂押圧用空気を導入するための細孔であり、20は外筒であり、21は外部側樹脂層であり、30は膨張型シール{日本バルカー製インフラートシール(登録商標)}あり、40は下部側端栓であり、41は上部側端栓であり、42はタップボルトであり、43はナットであり、49は真空引き用の細孔であり、50は圧縮機や蓄圧器を有する圧縮空気供給系(CA)であり、51は膨張型シール用の配管系であり、52は内筒に設けた細孔用の配管系であり、53は膨張型シール用の配管系に取付けられている圧力調整機構付きバルブであり、54は細孔用の配管系に取付けられている圧力調整機構付きバルブであり、60は真空ポンプ(VP)であり、61は真空引き用配管であり、70はバンドヒータ(加熱用コイル)である。
【0050】
なお、図1から図3において、内部側樹脂層11はポリイミド製の基材層とウレタン系ゴム製の弾性層からなり、外部側樹脂層21はPTFE製の表層とTHV製のバインダー層からなるが、図が細かくなりすぎ、また煩雑ともなるため、区分けして描いてはいない。また、この製造装置には、シール機構、圧力計、温度計等を装備しているが、それらは本発明の趣旨に関係が薄く、また自明であるため、図示や説明は省略している。
そして、これらのことは、後の実施の形態における図4でも同じである。
【0051】
図1に示す様に、前記の金型(図示せず)を使用して作製した内部側樹脂層11は、内筒10の外周面に被せられ、さらに内筒10は、内周面に外部側樹脂層21が形成された外筒20の内部に、芯合わせと軸方向の位置合せを行って挿入されている。また、内筒10を内部に挿入された状態で、外筒20の上下両端には、各々上部側端栓41と下部側端栓40が嵌め込まれ、ボルト42とナット43を締め付けることにより、内筒10と外筒20と上部側端栓41と下部側端栓40は相互に封止され、さらに外筒20の内部は外気と遮断されている。また、外筒20の内部は、真空引き用の細孔49から真空引き用配管61を介して真空ポンプに60に連通されている。
【0052】
また、内筒10の両端は中央部に比べて外径が小さくされ、その外周に膨張型シール30が取付けられている。さらに、内筒10の両端にはその内部(側)から外周面に取付けられている膨張型シール30に圧縮空気を導入するための導入孔18が形成されている。また、この導入孔18は、膨張型シール用の配管系51を介して圧縮空気供給系50に連通している。
また、膨張型シール30は、導入孔18を介して圧縮空気を供給されることにより、半径方向に膨張する。ただし、図1では、圧縮空気は供給されておらず、膨張していない状態である。なお、膨張していない状態の膨張型シール30の外径は内筒10の外径と同じであり、さらにその外表面には、内部側樹脂層11の両端部が被さった状態となっている。
【0053】
また、内筒10のその外周面に内部側樹脂層11が形成されている箇所には、やはり内部(側)から外周面にいたる樹脂押圧用空気を導入する細孔19が形成されており、さらにこの細孔19も内筒用配管系52を介して圧縮空気供給系50に連通している。ただし、図1では、圧縮空気は供給されていない状態である。
また、外筒20の外周にはバンドヒータ70が取付けられており、外筒20内部を設定温度で加熱することが可能になっている。
【0054】
(両樹脂層の接合)
図2と図3を参照しつつ、両樹脂層の接合について説明する。
図1に示す状態において、真空引き用の細孔49から真空引き用配管61を介して真空ポンプに60で真空引きを行い、外筒20の内部を真空にする。
次いで、図2に示す様に、膨張型シール30に導入孔18を介して0.30MPaの圧縮空気を供給し、その先端を半径方向に膨張させ、外表面に被さった状態の内部側樹脂層11の両端部の内周面に強く接触させる。これにより、内部側樹脂層の内周面側と押圧部が真空雰囲気下で押圧により封止されることとなる。
【0055】
次に、内筒10の樹脂押圧用空気を導入する細孔19に圧縮空気供給系50から0.25MPaの圧縮空気を供給することにより、内筒10の外周面に形成されている内部側樹脂層11と内筒10の外周面間に圧縮空気を導き、内部側樹脂層11を内筒10の外周面から剥離させ、外部側樹脂層21の内周面に押圧させる。この状態を、図3に示す。
【0056】
さらに、バンドヒータ70に通電し、140℃で12分加熱し、これにより外部側樹脂層21の(バインダー層の)内周面に内部側樹脂層11の(弾性体層の)外周面が確実に接合した多層ベルトとする。
その後、冷却し、内部側樹脂の内周面側の圧、膨張型シールの圧、外筒内の真空を大気圧に戻してから、外筒20から下部側端栓40と上部側端栓41を取外し、内筒10を引抜き、多層ベルトを外筒20の内周面から取外し、裁断して画像形成装置用転写ベルトを完成させた。
【0057】
得られた画像形成装置用転写ベルトは、ベルトの(帯の)幅が350mm、内径が168mmであり、ベルトの厚み60μmの基材層上に、厚み200μmの弾性層と、厚み1μmのバインダー層と、厚み5μmの表層がこの順に形成されており、各層の接合が確実になされ、皺等が発生していなかった。またこのため、耐久性、強度とも充分であり、また表面抵抗率、離トナー性、非汚染性も優れていた。
【0058】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、外部側樹脂層が内周面に接合性改善処理を施された表層からなり、内部側樹脂層は第1の実施の形態と同じく弾性層と、その内周面側(反表層側)に位置する基材層とからなる3層構造の定着ベルトを、押圧により作動する膨張型シールを有する装置を使用して製造することに関する。
以下、本第2の実施の形態の固有の構成のみ説明する。
【0059】
(外部側樹脂層の作成)
第1の実施の形態と同じ方法で表層を形成し、さらにその内周面をラジカルに晒して接合性を改善させた。
(内部側樹脂層の作成)
第1の実施の形態と同じ方法で内部側樹脂層を作製し、内筒10の外周面に被せた。
【0060】
(両樹脂層の接合装置の説明)
本実施の形態の多層ベルトの製造装置の要部である両樹脂層の接合装置の構造を、図4を参照しつつ説明する。図4は、本第2の実施の形態において、接合装置に装着された両樹脂層の接合開始直前の状態と接合中の状態を、概念的に示す図であり、図4の(1)と(2)は、各々第1の実施の形態における図1と図3に相当する。
ただし、装置はほぼ上下対称であるため上部近くのみ図示している。さらに、内部側樹脂層11と内筒10の外周面に圧縮空気を導入する細孔や各種の配管系、その他真空ポンプや圧縮空気供給系等は、第1の実施の形態と基本的には同じであるため、図示はしていない。
【0061】
図4において、31はシリコンゴム製の円板からなる膨張型シールであり、32は膨張型シールを締め付けるための内筒の端栓であり、33は締め込み用のボルトである。
図4に示す様に、内筒10は内筒の端栓32、締め込み用のボルト33、上部側あるいは下部側の端栓40、41(図では、上部側端栓41。以下も同じ)を介して外筒20の内周面に封止されている。
また、シリコンゴム製の円板からなる膨張型シール31は、外筒20に嵌め込まれた端栓と内筒の端栓32間に挟みこまれている。
【0062】
(両樹脂層の接合)
図4の(1)に示す状態で、第1の実施の形態と同じく、外筒20の内部全体を、図示しない真空ポンプ、真空引き用配管系により真空にする。
次いで、内筒の端栓32を、締め込み用のボルト33をねじ込むことにより外筒20に嵌め込まれた上部側あるいは下部側の端栓40、41側に移動させ、2つの端栓でシリコンゴム製の円板からなる膨張型シール31の円板面を押圧する。これにより、図4の(2)に示す様に、膨張型シール31は半径方向に膨張し、その端面(円板の外周側側面)が外筒20の方向に膨張し、内部側樹脂層11と膨張型シール31とを封止する。
【0063】
さらに、第1の実施の形態と同じく、圧縮空気供給系(図示せず)から細孔用の配管系(図示せず)を介して樹脂押圧用空気を導入する細孔(図示せず)に0.3MPaの圧縮空気を供給して内筒10の外周面に形成されている内部側樹脂層11を内筒10の外周面から剥離させ、外筒20の内周面に形成されている外部側樹脂層21の内周面に押圧させる。
【0064】
次いで、バンドヒータ70に通電し、140℃で12分加熱し、外部側樹脂層21の内周面と内部側樹脂層11の外周面を確実に接合させ、冷却後多層ベルトを外筒20の内周面から取外し、裁断して画像形成装置用転写ベルトを完成させた。
【0065】
得られた画像形成装置用転写ベルトは、ベルトの(帯の)幅が350mm、内径が168mmであり、ベルトの厚み60μmの基材層上に、厚み200μmの弾性層と、厚み5μmの表層がこの順に形成されており、各層の接合が確実になされ、皺等が発生していなかった。またこのため、耐久性、強度とも充分であり、また表面抵抗率、離トナー性、非汚染性も優れていた。
【0066】
(第3の実施の形態)
本実施の形態は、加熱を使用した接合後の冷却に関する。
第1の実施の形態において、内筒に樹脂押圧用空気を内筒の内部に逃がす細孔と弁を装着しておく。そして、樹脂を接合中はこの弁を閉に保持しておき、接合後に開とし、併せて圧縮空気供給系50により空気を供給しつつ、真空引き用配管系61から外部に流すようにする。これにより、装置の速やかな冷却を行ない、稼働率を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施の形態において、内部側樹脂層と外部側樹脂層が、接合装置に装着された直後の状態を概念的に示す図である。
【図2】同じく、内部側樹脂層の内周面側の両端部にある膨張部が膨張し、膨張部が内部側樹脂層の内周面の両端部を押圧し、封止している状態を概念的に示す図である。
【図3】同じく、接合装置に装着された両樹脂層の接合がなされている状態を概念的に示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態において、弾性体からなる膨張部が、押圧により膨張し、膨張部が内部側樹脂層の内周面の両端部を押圧し、封止する様子を、概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0068】
10 内筒
11 内部側樹脂層
18 シール用空気の導入孔
19 樹脂押圧用空気を導入する細孔
20 外筒
21 外部側樹脂層
30 膨張型シール
31 膨張型シール
32 内筒の端栓
33 締め込み用のボルト
40 下部側端栓
41 上部側端栓
42 ボルト
43 ナット
49 真空引き用細孔
50 圧縮空気供給系
51 膨張型シール用の配管系
52 細孔用の配管系
53 膨張型シール用の配管系のバルブ
54 細孔用の配管系のバルブ
60 真空ポンプ
61 真空引き用配管系
70 バンドヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部側樹脂層と外部側樹脂層を有する円筒状のOA機器用多層ベルトの製造方法であって、
前記内部側樹脂層を両端に押圧部が設置された内筒の外周面に配置すると共に、前記外部側樹脂層を前記内筒の外周に位置する外筒の内周面に配置した状態で、前記押圧部が、前記内部側樹脂層の内周面の両端部を前記外部側樹脂層の方に押圧することにより、前記内部側樹脂層の内周面側と前記押圧部の前記内周面側を封止する封止ステップと、
前記内部側樹脂層の内周面側に流体圧を作用させて、前記内部側樹脂層を前記外部側樹脂層の方に押圧させ、両方の樹脂層を接合する接合ステップを、
有していることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項2】
前記外部側樹脂層の内周面または前記内部側樹脂層の外周面の何れか一方に、耐熱温度が前記外部側樹脂層と前記内部側樹脂層の作製温度より低い中間樹脂層を作製する中間樹脂層作製ステップを有し、
前記封止ステップは、前記中間樹脂層を作製した状態でなされるものであり、
前記接合ステップは、間に前記中間樹脂層を介在させた状態で前記3つの樹脂層を接合するものであることを特徴とする請求項1に記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項3】
前記押圧部は、内部が膨張する膨張部であって、
前記封止ステップは、前記膨張部を、前記内部側樹脂層の両端部を押圧するように膨張させることにより封止を行なうことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項4】
前記膨張部の膨張は、膨張型シールの内部の流体の圧力上昇による膨張であることを特徴とする請求項3に記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項5】
前記膨張部の膨張は、内筒の軸方向へ押圧されたことによる弾性体シールの半径方向への膨張であることを特徴とする請求項3に記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項6】
前記接合ステップは、前記流体圧を直接作用させるために流体を使用することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項7】
前記接合ステップは、前記流体圧を直接作用させるために気体を使用することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項8】
前記封止ステップに先立って、前記2つの樹脂層間のスペースの真空引きを行なう真空引きステップを有していることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項9】
前記接合ステップは、加熱を使用することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項10】
前記接合ステップ終了後、前記内部側樹脂層の中央部の内周面側に冷却用の流体を循環させる冷却ステップを有していることを特徴とする請求項9に記載のOA機器用多層ベルトの製造方法。
【請求項11】
内部側樹脂層と外部側樹脂層を有する円筒状のOA機器用多層ベルトの製造装置であって、
前記内部側樹脂層を両端に押圧部が設置された内筒の外周面に配置すると共に、前記外部側樹脂層を前記内筒の外周に位置する外筒の内周面に配置した状態で、前記押圧部が、前記内部側樹脂層の内周面の両端部を前記外部側樹脂層の方に押圧することにより、前記内部側樹脂層の内周面側と前記押圧部の前記内周面側を封止する封止手段と、
前記内部側樹脂層の内周面側に流体圧を作用させて、前記内部側樹脂層を前記外部側樹脂層の方に押圧させ、両方の樹脂層を接合する接合手段を、
有していることを特徴とするOA機器用多層ベルトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−209500(P2008−209500A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44128(P2007−44128)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】