説明

PETを用いた疾患の診断法及びその治療の評価法

本発明は、PETデータ解析技術を用いて、哺乳動物が糖尿病などの疾患を有するかどうかを決定する方法に関する。これらの方法は、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)受容体に特異的な放射性リガンドなどのPET適合性トレーサーを哺乳動物に投与し、PETデータ解析技術を用いて、哺乳動物の膵臓の全機能的β細胞容量(容積)を測定することを含む。糖尿病の治療効果を追跡し、膵臓におけるβ細胞の再生を評価し、移植された膵臓を有する患者をモニターする方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府資金
本明細書に記載された作業は、全体又は部分的には、国立衛生研究所(助成2R01DK63567−03)の国立糖尿病・消化器疾患・腎疾患研究所によって資金提供された。米国政府は、本発明にある種の権利を有する場合がある。
【0002】
関連出願への相互参照
本特許出願は、2007年5月10日に出願された米国仮特許出願第60/928,738号、及び2007年6月28日に出願された米国仮特許出願第60/937,622号の優先権を主張し、それらは全体として参照により援用する。
【0003】
発明の分野
本発明の分野は、陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET)データ解析を用いて、治療プロトコールを診断し、評価することに関する。より具体的には、本発明は、糖尿病、特に1型糖尿病、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病の治療の有効性を診断し、評価することに関する。また、本発明は、ランゲルハンス島の再生、及び膵臓などの移植された臓器の健康状態をモニターすることに関する。本発明は、さらに、機能的β細胞の容量の測定として、PETを用いて、例えば膵臓のβ細胞集団の有意な結合能を測定することに関する。
【背景技術】
【0004】
膵臓のランゲルハンス島のβ細胞集団は、血糖値の正常な対照にどれくらいのインスリンが分泌され得るかの測定において主要な因子である。β細胞の機能的容量を測定するための非侵襲的方法は、例えば、糖尿病、ランゲルハンス島の再生、及び膵臓移植の新規な治療法の効率のモニターにおけるバイオマーカーを提供するのに必要とされる。
【0005】
小胞モノアミントランスポーター2(vesicular monoamine transporter 2:VMAT2)受容体は、β細胞によって発現される。VMAT2に特異的に結合する、例えば、11C又は18Fで標識されたテトラベナジンの類似体([11C]ジヒドロテトラベナジン[DTBZ])を用いて、最近、PETは、膵臓においてVMAT2への放射性リガンドの結合を撮像する可能性を有することが示されている。しかしながら、膵臓の機能的β細胞の容量を定量するのに適切な診断用PETデータ解析ツールは知られていない。
【0006】
したがって、例えば、PETを用いた膵臓β細胞の容量を測定するための方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述及び他の必要性を満たすことに関する。したがって、本発明の一態様は、患者の糖尿病を診断する方法である。この方法は、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)受容体に結合する陽電子放出断層撮影(PET)適合性トレーサーを患者に投与し、患者のPETスキャンを実行し、PANC MAP法をPETスキャンデータに適用して、患者の有意な結合能(significant binding capacity:SBC)を生じさせることを含む。この方法では、糖尿病でない対照個体のSBCと比較して低い、患者に対して生じたSBCは、その患者が糖尿病であることを指示する。
【0008】
本発明の別の態様は、哺乳動物が1型糖尿病であるか否かを決定する方法である。この方法は、小胞モノアミントランスポーター2型(VMAT2)受容体に結合する放射性リガンドを用いた、哺乳動物の膵臓のPETスキャンから有意な結合能(SBC)を計算し、この哺乳動物のSBCと糖尿病でない対照哺乳動物とを比較することを含む。この方法では、対照哺乳動物と比較して哺乳動物の低いSBCは、その哺乳動物が糖尿病であることを指示する。
【0009】
本発明の更なる態様は、小胞モノアミントランスポーター2型(VMAT2)陽電子放出断層撮影(PET)画像データを用いた膵臓のβ細胞集団の有意な結合能(SBC)を定量する方法である。この方法は下記を含む:a.モジュール1をVMAT2 PET画像データに適用し、ここで、モジュール1は、i.PETデータから抽出された結合能(binding potential:BP)陽性ボクセル(voxel)を同定し;ii.工程a.i.で同定された全てのBP陽性ボクセルの回収から対象とする領域(region of interest:ROI)時間活性曲線(time activity curve:TAC)を機能的に特定することを含み;b.モジュール2をモジュール1から機能的に特定したROI TACに適用し、ここで、モジュール2は、i.3パラメーター多重線形参照組織モデル(multilinear reference tissue model:MRTM)を適用して、腎臓皮質である参照組織からの組織トレーサークリアランス速度(k’2)の概算を得て;ii.2パラメーター多重線形回帰解析(MRTM2)を適用して、BPパラメトリック画像及び相対的な血流パラメトリック画像を生じさせ;iii.工程b.ii.で生じたBP及び相対的な血流パラメトリック画像からBP陽性ボクセルを特定することを含み;そして、c.モジュール3をモジュール2で同定されたBP陽性ボクセルに適用し、ここで、モジュール3は、i.モジュール2からのBP陽性ボクセルの度数分布プロットを生じさせ;ii.膵臓のβ細胞集団について、工程c.i.の度数分布プロットからSBCを計算することを含む。
【0010】
本発明のなお別の態様は、疾患のマーカーに特異的に結合するPET適合性トレーサーから導かれる陽電子放出断層撮影(PET)画像データを用いて、患者が疾患を有するか否かを診断する方法である。この方法は下記を含む:a.PETデータから抽出された結合能(BP)陽性ボクセルを同定し;b.工程aで同定された全てのBP陽性ボクセルの回収から対象とする領域(ROI)時間活性曲線(TAC)を機能的に特定し;c.工程bから機能的に特定したROI TACに3パラメーター多重線形参照組織モデル(MRTM)を適用して、参照組織からの組織トレーサークリアランス速度(k’)の概算を得て;d.2パラメーター多重線形回帰解析(MRTM2)を適用して、BPパラメトリック画像及び相対的な血流パラメトリック画像を生じさせ;e.工程dで生じたBP及び相対的な血流パラメトリック画像からBP陽性ボクセルを同定し;f.工程eからBP陽性ボクセルの度数分布プロットを生じさせ;そして、g.工程fの度数分布プロットから有意な結合能(SBC)を計算することを含む。この方法では、患者のSBCと疾患のない対照個体のSBCとの間の相違は、その患者が疾患であることを指示する。
【0011】
本発明の別の態様は、患者が糖尿病であるか否かを診断する方法である。この方法は、糖尿病であることが疑われる患者のPETスキャンデータにPANC MAP法を適用することを含み、ここで、患者が糖尿病である場合、PANC MAP法によって生じた度数分布は、糖尿病でない対照個体の度数分布と比較して左にシフトする。
【0012】
本発明の更なる態様は、患者における糖尿病の治療が有効であるか否かを評価する方法である。この方法は、治療前と治療中又は治療後に患者の膵臓の小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)PETスキャンから有意な結合能(SBC)を計算し、治療中又は治療後の患者のSBCが治療前の患者のSBCと比較して変化したか否かを決定することを含む。この方法では、治療前と比較した治療中又は治療後の患者のSBCの増加は、その治療が有効であることを指示する。
【0013】
本発明の別の態様は、患者におけるランゲルハンス島の再生をモニターする方法である。この方法は、一定期間中の患者の膵臓の小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)PETスキャンから有意な結合能(SBC)を計算し、その一定期間中に患者のSBCが変化したか否かを測定することを含む。この方法では、その一定期間中の患者のSBCの増加は、ランゲルハンス島が再生中であることを指示し、その一定期間中の患者のSBCの減少は、ランゲルハンス島が縮退中であることを指示し、その一定期間中のSBCの無変化は、ランゲルハンス島の数が一定のままであることを指示する。
【0014】
本発明の更なる態様は、患者における移植された膵臓の健康状態をモニターする方法である。この方法は、一定期間中の患者の膵臓の小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)PETスキャンから有意な結合能(SBC)を計算し、その一定期間中に患者のSBCが変化したか否かを測定することを含む。この方法では、その一定期間中、同じ状態であるか又は増加しているSBCは、移植された膵臓が健康な状態であることを指示し、その一定期間中、減少しているSBCは、移植された膵臓が健康な状態でないことを指示する。
【0015】
本出願は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(単数又は複数)を含む本特許及び/又は出願公開の写しは、必要な料金の請求又は支払いに応じて、特許庁によって提供される。下記の図面は、本出願の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書に提示された発明の詳細な説明及び実施例と合わせて、これらの1以上の図面を参照することによって、より良く理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】PETによる神経受容体の画像を示す概略図である。
【0017】
【図2】動的PETデータを示すスキャンである。
【0018】
【図3】図3Aは、脳ROI時間活性データを示すグラフである。図3Bは、動脈血ROI TIME活性データを示すグラフである。脳時間活性曲線は、局部血流量、血漿トレーサークリアランス、局部受容体(トランスポーター)密度を反映する。
【0019】
【図4】分布容積(V)及び結合能(BP)計算を示す概略図である。
【0020】
【図5】[11C]DTBZを用いた膵臓β細胞集団の定量を含む課題を説明する概略図である。定量は、結果判定法−−−β細胞集団(平均BPでない)である;膵臓は、脂肪組織と同様に、外分泌腺及び内分泌腺からなる不均一臓器である。必要とされるのは、ボクセルワイズ(voxel−wise)なBPマップである。しかし、ボクセルTACはノイズであり得る。したがって、非適合BPマップが必要とされ、それは非侵襲性である。図5Aは、膵臓(PAN)、肝臓(LIV)、胃(STO)、及び動脈(ART)を含む臓器の容積及びマップを示すMRIである。図5B及び5Cは、染色していない組織によって取り囲まれたVMAT2染色されたランゲルハンス島(単数又は複数)を示す。
【0021】
【図6】ROI対ボクセルTACをプロットしたグラフである。
【0022】
【図7】各々が[11C]DTBZの20mCiボーラス注射を投与され、その後、90分間の膵臓及び左の腎臓の動的PET画像による二人(それぞれ、図7A及び図7B)における[11C]DTBZデータ解析を示す。
【0023】
【図8】擬似又は過渡平衡アプローチ(モジュールI)を示す図である。ここで、BP=AUC膵臓(30〜90分)/AUC腎臓(30〜90分)−1である場合、C膵臓/C腎臓−一定である。
【0024】
【図9】図9Aは、非適合BP画像がVMAT2陽性ボクセルの同定を可能にすることを示す。図9Bは、初期に積算された画像が、腸ループ内のそれらのボクセルから膵臓ボクセルの分離を可能にすることを示す(胆汁活性)。
【0025】
【図10】MRTM2及び一般的なトレーサー条件を示す。図10A(バイアス)及び10B(変動性)が示すように、MRTM2は、例えば、[11C]DTBZ膵臓画像について例外的に十分に適している。
【0026】
【図11】図11A(BP)及びB(R)は、MRTM2法を用いて生じた膵臓の画像を示す。
【0027】
【図12】ボクセルMRTM BP対非適合BPのグラフを示す。
【0028】
【図13】図13Aは、疾患でない正常な(対照)個体と比較した、1型糖尿病の個体におけるBPのグラフを示す。図13Bは、疾患でない正常な(対照)個体と比較した、1型糖尿病(T1DM)の個体における容積のグラフを示す。
【0029】
【図14】疾患のない正常な(対照)個体と比較した、1型糖尿病(T1DM)の個体におけるBP×容積のグラフを示す。
【0030】
【図15】疾患のない正常な(対照)個体(図15B及び15D)と比較した、1型糖尿病(T1DM)で影響を受けた個体(図15A及び15C)におけるBPの度数分布マップを示す。
【0031】
【図16】インスリン産生能とVMAT2受容体密度との間の関係を示すグラフである。図16Aは、インスリン抗体及びVMAT2抗体を用いたFACS解析である。図16B及びCは、それらのボクセルにおけるBPの度数分布マップであり、正常な(対照)個体(16B)及び1型糖尿病(T1DM)個体(16C)ではBP>0である。
【0032】
【図17】疾患のない正常な(対照)個体と比較した、1型糖尿病(T1DM)で影響を受けた個体におけるSBCのグラフである。
【0033】
【図18】PANC MAP法を概要する概略図である。
【0034】
【図19】健常な対照及び1型糖尿病(T1D)患者は異なるBPプロフィールを有することを示すグラフである。
【0035】
【図20】本発明にかかるモジュール1のフローチャートである。
【0036】
【図21】本発明にかかるモジュール2のフローチャートである。
【0037】
【図22】本発明にかかるモジュール3のフローチャートである。
【0038】
【図23】[18F]FP−TZTPを用いた3パラメーター多重線形解析(MRTM)及び1組織動的解析(1TKA)によって概算されたk’2間の関係を示す。
【0039】
【図24】k2/k’2パラメーター空間におけるシミュレートされた時間活性データについての1.5%の標的領域ノイズ(視床)での3パラメーター多重線形参照組織(MRTM)によるk’2概算のバイアス(24A)及び変動性(24B)を示す。また、図24Aにおけるk’2図キーは、図24Bにも当てはまる。
【0040】
【図25】表2における視床についてのパラメーター値を用いた、式3に従ってシミュレートされた完全な1T TAC(α=0及びβ=0、実線)、僅かに離れた1T TAC(α=0.01及びβ=5、実点線)を示す(図25A)。α=0.01及びβ=5である場合、k2/k’2パラメーター空間における1.5%の標的領域ノイズ(視床)でのk’2のバイアス(25B)及び変動性(25C)を示す。また、図25Bにおけるk’2図キーは、図25Cにも当てはまる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の方法は、疾患状態を定量し、マッピングすることができ、その疾患状態が診断され、モニターされてもよく、及び/又はその治療はPETデータ解析を用いてモニターされてもよい。本発明は、例えば、PET適合性トレーサー(例えば、11C若しくは18F標識されたDTBZ又は蛍光標識されたピッツバーグ化合物B(PIB))が、糖尿病、特に1型糖尿病におけるβ細胞集団の減少(11C又は18F標識されたDTBZ)、又は神経変性障害、例えばアルツハイマー病におけるβアミロイドプラークの存在(蛍光標識されたPIB)などの疾患に対して特定のマーカーに利用可能であり、それに特異的である多くの疾患の診断及び/又はモニターにおいて有用性を有する。膵臓における機能的β細胞集団の定量及びマッピングに関して、本方法は、「PANC MAP」と呼ばれる。
【0042】
この発明の含意は、この診断/モニター/評価技術が、例えばβ細胞集団のPET画像として本質的なツールであり、幅広く利用可能であるということである。さらに、本発明の方法は特に有用であり、それは、従来のPET画像データ解析法は、例えば機能的な膵臓β細胞集団の正確な定量を提供しないためである。本発明の方法は、脳におけるVMAT2結合などの神経受容体結合の定量のための従来法と比較して、適用可能であるように本明細書に記載されている。
【0043】
従来、画像データからの神経受容体結合の結果判定法は、脳の線条体などの解剖学的に特定された対象とする領域(ROI)における神経受容体の密度を反映するVMAT2などの神経受容体の特異的な結合の指標である(図1)。解剖学的ROIは、PET又は単光子放出断層撮影(single photon emission tomography:SPECT)データ(SPECTはまた、適切な放射性リガンドが利用可能である場合にVMAT2を可能にする)に同時登録された磁気共鳴映像法(magnetic resonance imaging:MRI)又はコンピュータ断層撮影法(computed tomography:CT)データ上で特定される。
【0044】
特異的結合又は結合能(BP)を定量する1つの方法は、第一に、PET又はSPECTデータからROIの平均時間活性曲線(TAC)を抽出し、次に、区画動的モデルの使用によって、血漿中の放射性リガンドTACの有無によるこれらのTACからBPを概算することである(例えば、図3及び4参照)。あるいは、ROI TACとは対照的に、ボクセル(画像データの最少容積要素)TACはこの目的のために使用可能であるが、後者のアプローチは、多くの場合、ROI TACよりも、ボクセルTACにおいてより多くのノイズに起因して障害が生じる。どちらにしても、従来の結果判定法は、解剖学的に特定されたROIにおける平均BPである(図5)。
【0045】
膵臓のVMAT2結合の定量は脳とは異なり、それは、膵臓が外分泌系及び内分泌系(β細胞)組織コンポーネントの両方を含むためであり、そのコンポーネントでは、VMAT2は、主に、β細胞によって発現される(図5B)。磁気共鳴映像法(MRI)又はコンピュータ断層撮影法(CT)によって特定されるROIは、これらの2つの組織コンポーネント、並びに脂肪組織を含む。しかしながら、これらの解剖学的な画像ツール(MRI及びCT)は、2つの組織タイプである外分泌系組織及び内分泌系組織(β細胞)間で区別することができない。VMAT2 PET画像データから必要とされる最も関連し、重要な情報は、膵臓内の全VMAT2部位を反映する定量的測定であり、それは、このVMAT2測定が、機能的β細胞集団を反映し、次に、それは、膵臓のインスリン分泌能の主要な決定要因であると考えられるという仮説を考慮している。さらに、最近の証拠では、VMAT2の閾値がある場合があり、それを下回る場合にはインスリン分泌能が障害されているということが示唆されている。
【0046】
膵臓におけるVMAT2定量化についての上記考慮は、解剖学的に特定されたROIを使用せずにVMAT2密度(BP)のボクセルワイズなマッピングを可能にするPETデータ解析ツール(ストラテジー)、並びにボクセルBP値に従う全てのVMAT2結合ボクセルのプロフィーリングを可能にするツール(ストラテジー)を必要とする。下記により詳細に記載されるPANC MAP法は、これらの2つの目的を達成する。本明細書で使用される両方のストラテジーは、新規であり、例えば、β細胞集団の決定に予想外に有用である。本発明の方法は、3つのモジュールを含む。これらの3つのモジュールは、基本的には周知であり、及び/又は商業的に利用可能であるコンピュータソフトウェア、例えばMATALB(例えば、MathWorks,Inc.,Natick,MAからのMATLAB7.4を含むR2007a)において実施されてもよいが、本発明の方法は、PANC MAP法を含み、本明細書に開示された情報を用いて、専用の操作可能なソフトウェアパッケージにプログラムされてもよい。
【0047】
一般に、本発明は、3つのモジュールを含む。モジュール1及び2は、トレーサー(例えば、放射性リガンド)結合の3次元マップの生成を可能にし、モジュール3は、トレーサー(例えば、放射性リガンド)のボクセルワイズ分布のプロフィーリングを可能にする。このようにして、例えば、PANC MAPに関して、モジュール1及び2は、VMAT2結合の3次元マップの生成を可能にし、モジュール3は、VMAT2結合のボクセルワイズ分布のプロフィーリングを可能にする。本発明では、モジュール1、2、及び3を一緒に使用してもよい。しかしながら、モジュールの他の組み合わせ、例えばモジュール1とモジュール3もまた、本発明において使用されてもよい。
【0048】
従来の神経受容体結合測定は、解剖学的に特定されたROI全体の平均BPである。本発明では、膵臓におけるVMAT2の新しい結果判定法が定義され、定量された。新規な定義は次のとおりである:
有意な結合能(SBC)=
Σ(予め決定された有意値を超える個々のボクセルBP×ボクセル容積)
(単位は、BPに単位がないため、容積(例えば、mL)である)。したがって、SBCは、有意性の全β細胞容量(容積)を反映すべき結果判定法である。本発明では、予め測定された有意な値は、例えば、ゼロよりも大きなBP値であってもよい。
【0049】
モジュール1−フィットしないボクセルワイズなパラメトリックマッピング
上述したように、ボクセルワイズなパラメトリックBP画像の作成は問題であり、それは、ボクセルTACがROI TACと比較してノイズであるためである(図6)。しかしながら、大部分のPETトレーサー、例えば放射性リガンドに関して、動的モデルによるBPの概算が必要とされ、それは、TAC自体が、投与される放射性リガンドの投薬量、血流量、個体の体重、VMAT2結合、トレーサー、例えば放射性リガンド、血漿からクリアランスの組み合わせた効果を表すためである。したがって、TACは、トレーサー、例えば放射性リガンドの注射される投薬量、被験者の体重によって標準化されるときでさえ、VMAT2結合を正確に反映しない。特に、膵臓への血流量は、1型糖尿病において有意に減少する。しかしながら、動的モデに基づく方法によって概算されるBPは、これらの追加の因子の全てに独立している。
【0050】
1つのアプローチは、動的モデルに基づくデータ適合技術を使用することではない。例えば、標的TACが、参照TACと同じ速度である種の時間点を超える期間で減少する場合、組織比は、理論的には真のBPを過大評価するけれども、受容体パラメーターとして用いることができる。このストラテジーは、ある種の条件下で、ある種のトレーサーを用いて可能である。この性質は、トレーサーに依存する。しかしながら、[11C]DTBZは、この条件を満たすようである。実際に、DTBZ TACは、ある種の時間点で過度平衡と呼ばれる条件に従うが、TACデータのモデル適合なしにこの期間中に測定されたBPは、理論的には真のBPを過大評価する(図8)。しかしながら、過大評価が系統的な過大評価、即ち、BPの範囲を超えるのと同程度の過大評価である場合、このデータ適合アプローチは、結果判定法として作用しない。モジュール1は、PETデータを適合する数学的モデルなしに、BPのボクセルワイズなマッピングを生じる。モジュール1を実行するための手法のフローチャートを図20に記載する。
【0051】
モジュール1は、全ての対象において、[11C]DTBZ及び他の関連したVMAT2 PET/SPECTトレーサーについて十分に作用して、BPのボクセルワイズなマッピング(BPのパラメトリック画像と呼ばれる)を生じる場合があるが、モジュール2は、数学的モデルに基づき、より正確でなければならない。しかしながら、モジュール1は、最初に実行されなければならず、それは、膵臓ROIを特定せずにBPパラメトリック画像を生じ、これらのBP画像が、全てのBP陽性VMAT2を含むボクセルの同定を可能にするためである。次に、VMAT2陽性ROI(全てのボクセルの合成、BP>0)は、BPパラメトリック画像に関する情報をボクセルダンピング(voxel−dumping)することによってスプレッドシート上で特定されてもよい(各ボクセルの3次元位置とそのBP値)。次に、この技術は、モジュール2について使用可能でもある元々のPETデータから機能的に特定されたβ細胞ROI TACの生成を可能にする(下記参照)。図20のフローチャートに示されるように、モジュール1は、腎臓皮質の同定を要求し、それは、初期の時間経過におけるそれらのPET画像を合計することによって達成され、血流に反映される(腎臓の血流が最も速い)。
【0052】
モジュール2−ボクセルワイズな適合法
別のアプローチは、モジュール1パラメトリック画像よりも正確である、ボクセルTACのモデル適合を用いたノイズ抵抗パラメトリック画像である。MRTM2と呼ばれる血漿データを含まないBPのボクセルワイズな概算についてのノイズ抵抗パラメトリック画像法は、従来、開発され、セロトニントランスポーターの脳画像に適用された。本明細書中に完全に引用されているかのように参照により援用されるIchise M,Liow J−S,Lu J−Q,Takano A,Model K,Toyama H,Suhara T,Suzuki K,Innis RB and Carson RE.Linearized reference tissue parametric imaging methods:Application to [11C]DASB positron emission tomography imaging of the serotonin transporter in human brain.J.Cereb Blood Flow Metab.,23:1096−1112(2003)を参照されたい。この方法は、MRTMと呼ばれる別の関連モデルの使用によって、参照組織クリアランス速度k2’の事前概算を必要とする(Id)。
【0053】
MRTM2法は、ある種の条件が満たされる場合、最大のノイズ抵抗及びBPの不偏パラメトリック画像を提供する。予想外に、これらの条件は、DTBZに対して例外的に十分に満たされ、このモデルによるボクセルBPのバイアス及び変動性は1〜2パーセント未満である(例えば、実施例1及び図10を参照されたい)。このようにして、非適合又はMRTM2法のいずれかは、膵臓のDTBZ PETデータ解析に当てはまる(図12)。しかしながら、MRTM2は、さらに、BP画像におけるVMAT2ボクセルの同定に役立つ場合がある相対的な血流パラメトリック画像を提供する(図11)。
【0054】
MRTM2パラメトリック画像は、正確なVMAT2BP画像、並びに相対的な血流パラメトリック画像を提供する。MRTM2法は、初期工程において、ROI TACデータを用いてMRTMによるk2’概算を必要とする。モジュール1で得られた機能的に特定されたROI TACデータ(BPデータではない)は、この目的のために使用される。モジュール2を実行するためのこの手法のフローチャートを図21に示す。
【0055】
モジュール3−ボクセルVMAT2BPのプロフィーリング及びSBCの決定
SBCを得るために、個々のボクセルBPのプロフィーリングを必要とする。これは、BPの度数分布におけるボクセルBPデータの結果を示すことによって達成可能である。DTBZボクセルBPデータの度数分布解析は、1型糖尿病(T1D)患者が、正常対照と比較して、明らかに異なる(即ち、左にシフトされる)ボクセルVMAT2BPプロフィールを有することを示した(図15〜19)。この種のボクセルBPプロフィーリングは、従来の神経受容体PETデータ解析において実行されていない。モジュール3を実行するためのこの手法のフローチャートを図22に示す。
【0056】
したがって、本発明、より具体的にはPANC MAP法は、VMAT2 PET画像データから膵臓のβ細胞集団のSBCの定量についての新しい診断ツールである。このツールは、VMAT2 PETデータが機能的β細胞集団を定量するためにどのように解析されるかについての新しいいくつかの発想からなり、下記を含む:(1)解剖学的に(MRI又はCT)特定される膵臓ROIを使用しない膵臓のBPマップの生成、(2)VMAT2結合のボクセルプロフィーリング、そして(3)SBCの特定。これらの発想は、従来のPETデータ解析法にはない。PANC MAPアプローチは、膵臓の研究へのVMAT2画像の提供において本質的であるようである。また、この方法は、パラメトリック画像法を組み込み、それは、その取り込みが、DTBZ解析に例外的に十分に適しているからである。現在、このツールは、基本のソフトウェアの使用を必要とするが、専用の単一のソフトウェアパッケージである「PANC MAP」は、本明細書に開示されている情報から生じさせることが可能であり、PETデータ解析手法を実行する場合がある。
【0057】
下記の実施例は、本発明の方法をさらに例証するために提供される。これらの実施例は例証のためだけにあって、多少なりとも本発明の範囲に限定することを意図しない。
【実施例】
【0058】
実施例1−MRTM2及びMRTM
MRTM2(2パラメーター多重線形回帰解析)は、トレーサー動的モデルから生じる下記の演算式を使用する(Ichise M,et al.,J Cereb Blood Flow Met;23:1096−1112(2003)):
【0059】
【数1】

【0060】
BPのパラメトリック画像は、k2’(参照組織(本ケースでは腎臓皮質)からの組織トレーサークリアランス速度)の初期概算を必要とする。このk2’は、ボクセルワイズなパラメトリック画像を実行する前に、式1にプラグインすることが必要である単一の値である。k2’概算は、2つのROI TAC及びMRTM(多重線形回帰解析)を必要とする(Id)。MRTM演算式は下記のとおりである:
【0061】
【数2】

【0062】
PANC MAP(モジュール2)では、モジュール1からの機能的に特定されたROI TACS(β細胞膵臓及び腎臓皮質)は、従来のMRI又はCTにより特定されるROIとは対照的に使用される。機能的に特定されるROIのこの概念は、PANC MAPにおいて新しい発想である。
【0063】
MRTM2パラメトリック画像上のBPの精度は、どのようにしてk2’を特定できるかに依存している。k2’概算のバイアス及び変動性に関して表されるこの精度は、それぞれ、図10A及び10Bに図式的に示される。予想外に、[11C]DTBZを用いたVMAT2に関して、k2’は、例外的に十分に予測することができ、バイアス及び変動性は<1〜2%であることが分かる(図10A及び10Bを参照されたい)。
【0064】
実施例2−MRTMによるk2’概算の精度の評価
A.神経受容体リガンド[18F]FP−TZTPを用いたMRTM k’2
F−18標識されたムスカリン性−2(M2)サブタイプ−選択的アゴニストである3−(3−(3−[18F]フルオロプロピル)チオ)−1,2,5−チアジアゾル−4−イル)−1,2,5,6テトラヒドロ−1−メチルピリジン([18F]FP−TZTP)は、ヒトにおける中心M2コリン作動性受容体の陽電子放出断層撮影(PET)画像について首尾よく使用されている。Cohen RM,Podruchny TA,Bokde AL,Carson RE,Higher in vivo muscarinic−2 receptor distribution volumes in aging subjects with an apolipoprotein E−epsilon4 allele.Synapse 49:150−156(2003)。[18F]FP−TZTP PETデータの動的モデリング研究は、[18F]FP−TZTP時間−活性データが、1組織(1T)コンパートメントモデルによって記載することができることを示し、2つの運動速度定数であるK(mL/分/cm3、血漿から組織への移動に関する速度定数)及びk2(分-1、組織クリアランス速度定数)を用いる。Carson RE,Kiesewetter DO,Jagoda E,Der MG,Herscovitch P,Eckelman WC,Muscarinic cholinergic receptor measurements with [18F]FP−TZTP:control and competition studies. J Cereb Blood Flow Metab 18:1130−42(1998);Carson RE,Kiesewetter DO,Connely K.Mentis MJ,Cohen RM,Herscovitch P,Sunderland T,Eckelman,WC,Kinetic analysis of the muscarinic cholinergic ligand[F−18]FP−TZTP in humans.J Nucl Med 40:30P(1999)。
【0065】
18F]FP−TZTPを用いたPET研究(データ示さず)では、MRTM k2’は24%まで正にバイアスをかけ、即ち、MRTM k’2値は、1TKAによって概算される値よりも24%高く、2つの概算方法には強い正の線形相関がある。図23は、3パラメーター多重線形解析(MRTM)によって概算されたk’2と1組織の動的解析(1TKA)との間の関係を示す。シミュレートされたデータに関するMRTM k’2バイアスと[18F]F−TZTPデータについてバのイアスとは互いに一致しない。
【0066】
B.シミュレーション解析法
コンピュータシミュレーション解析を実行して、ROI TACデータを用いたMRTMによってk’2概算の精度を評価した。このシミュレーションに採用される工程を表1に概説する。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
工程1:コンピューターシミュレーション解析に使用可能である群平均のパラメーター値を計算するために、ROI TACが、個別の代謝補正された血漿入力関数を用いて、1組織動的解析「1TKA」によって適合された。次に、11の対象からの平均1TKAパラメーター値を用いて、工程3において後述されるようにノイズなしのTACデータを生じた。
【0070】
工程2:ROI TACパーセントノイズは、TACの後期部分(60〜120分)に適合する1TKA適合(100×SD/平均)からの偏差に基づいて計算した(表2)。
【0071】
工程3:予備シミュレーション解析によって、典型的なROIノイズレベルでのMRTM k2’概算のバイアス及び変動性は、k2/k’2比及びk’2の規模に依存することが示唆された。したがって、1T TACデータは、k2/k’2パラメーター空間においてシミュレートされた。この目的を達成するために、1つの典型的な代謝補正された血漿入力は、対象群から選択され、群平均の注射された投与量が10.2mCiとなるように測定された。小脳(インプット領域)及び視床(標的領域)についてのノイズなしのTACは、120分間、それぞれの領域について1T KAによって概算された群平均のK1及びk2値(n=11)から誘導された1Tパラメーター値を用いてシミュレートされた(33フレーム、実際のPETデータにおいて使用されるものと同じサンプリング)。血管内放射能は含まれず、それは、その寄与が、血漿から組織への高い速度定数(「K1」)と全分布容積(「VT」)値により、最少となるためである。k2/k’2=1.60が最大であるため、視床を選択した。次に、別の9のノイズフリー小脳TACを生成し、その場合、k’2は、0.0002増加で0.005分-1から0.023分-1まで変化し、k’1=0.466mL/分/mLで同じ値を維持した。これらの10の小脳TACの各々の対応して、30の視床TACは、全体で10×30、即ち、300TACが生成され、k1=0.506mL/分/cm3で同じ値を維持したが、k2は異なった値であり、そのため、k2/k’2は0.25から7.14に変化した。
【0072】
工程4:次に、正常に分布した平均ゼロのノイズのランダムな量が、以前のノイズモデル(Ichiseら,2003)を用いて、ノイズなしの視床TACに添加された。1000のノイズTACは、11の対象の平均%(表2)(全体1,000×300TAC)であるノイズレベル1.5%で、視床TACの各々について生成された。
【0073】
工程5:k’2概算の精度は、バイアス(真の値からの試料平均(n=1000)の偏差%)及び変動性(真の値と比較した試料SD%)を計算することによって評価された。加重線形最小二乗のMRTM適合を行い、加重は、シミュレートされたデータ変化の逆数に等しい。
【0074】
工程6:予備シミュレーション解析によって、実質的なMRTM k’バイアスは、1Tモデルに対する僅かな相違によって導かれてもよい。したがって、10の小脳TACの各々に関しては、別の一連の30の視床TACは、上述と同じやり方で生成されるが、ただし、元々の1Tコンパートメントと並行して、別の組織が、下記のD節において記載されるように添加された。
【0075】
工程7:工程4を繰り返して、工程6で生じた相違TACからノイズ視床TACを生成した。
【0076】
工程8:工程5を繰り返して、ノイズなしの小脳TAC、並びにk2/k’2空間のノイズ及び相違視床TACを用いて、k’2概算のバイアス及び変動性を評価した。
【0077】
全てのシミュレーション解析は、MATLAB及び/又はピクセルワイズな動的モデリングにおいて実行した。
【0078】
C.シミュレーション解析
図24は、k2/k’2パラメーター空間で表2からのパラメーター値を用いて、シミュレートされた時間活性データについて、1.5%の標的領域ノイズ(視床)で、3パラメーター多重参照組織モデル(MRTM)によるk’2概算のバイアス(24A)及び変動性(24B)を示す。MRTMによるk’2概算のバイアスは、0.7%と非常に小さく、k2/k’2が1に非常に近くなる場合を除いて、k2/k’2パラメーター空間を横切るk’2の規模とは相対的に独立している(k2/k’2が1であるときには、バイアス=130%である)(図24A)。k2/k’2=1でのこの例外的に大きなk2’バイアスについての理由は、インプット及び標的領域が同じ組織クリアランス速度定数(k’2=k2)を有する場合に、式2は不安定となるためである。
【0079】
MRTM k’2変動性は、k2/k’2比とk’2の規模の両方に強く依存している。k2/k’2が1に達するにつれて、k’2変動性は漸近的に増加した(図24B)。反対に、k2/k’2が1からさらに離れるについて、k’2変動性が減少する。例えば、k’2=0.011を用いると、変動性は、2.3、11.0及び230であり、その場合、k2/k’2は、それぞれ、4.0、1.6及び1.0であった。さらに、k’2値が増加するにつれて、k2/k’2空間におけるk’2変動性は進行的に減少した(図24B)。例えば、k’2=0.023を用いると、変動性は、1.5、4.9及び118%であり、この場合、k2/k’2は、それぞれ、4.01.6及び1.0であった。
【0080】
下記のD節に記載されるように、完全な1Tモデルによってシミュレートされたデータを伴う場合とは対照的に、[18F]−TZTPを用いて、僅かな相違データ(示さず)についてのMRTM k’2概算のバイアスは、有意にバイアスを受けた。しかしながら、k’2概算の変動性は、2つのデータセットについて本質的の同じであった。また、僅かに相違する1Tモデルについてのシミュレーションデータは、MRTM k’2概算のバイアスと変動性の両方が、k2/k’2が1(unity)から十分に離れている場合には有意に減少し得ることを示した。
【0081】
D.MRTM k2’概算に関する1Tモデルからのデータの僅かな相違の効果の評価
MRTM k’2概算に関する1Tモデルからのデータの僅かな相違の効果を評価するために、元々の1Tコンポーネントと並行した別の組織コンポーネントを添加し、その結果、全VT及びK1は、下記の式:
【0082】
【数3】

【0083】
(式中、α及びβは、1Tモデルからのモデルの偏差の程度を決定する定常値である)
に従って、定常を維持した。
【0084】
図25Aは、表2の視床についてのパラメーター値を用いて、式3に従ってシミュレートされた完全な1T TAC(α=0及びβ=0、実線)及び僅かに離れた1T TAC(α=0.01及びβ=5、実点線)を示す。理想モデルからのこの偏差の規模は、神経画像データにおいて共通して見られる。図25B及びCは、それぞれ、k’2のバイアス及び変動性を示し、α=0.01及びβ=5である場合、k2/k’2パラメーター空間では標的領域ノイズは1.5%であった。完全な1Tモデルによってシミュレートされたデータを有するケース(図24)とは対照的に、MRTM k’2は、有意にバイアスを受け、この場合、バイアスが増加し、α及びβの値は増加した(データ示さず)。本発明者らは、更なるシミュレーションのためにα=0.05、β=5を設定した。これは、MRTM k’2バイアスが21%であって、それは[18F]FP−TZTPデータについてのk’2バイアス(24%)に近い。僅かな相違の1TデータについてのMRTM k’2バイアスは、k2/k’2比とk’2の頻度の両方に依存していた(図25B)。k2/k’2が1に近づくにつれて、k’2バイアスは漸近的に増加した(図25B)。反対に、k2/k’2が1からさらに離れるにつれて、k’2バイアスは減少した。例えば、k’2=0.011を用いると、k’バイアスは、3.5、21.0及び320%であり、その場合、k2/k’2は、それぞれ4.0、1.6及び1.0であった。また、k’2値が増加するにつれて、k’2バイアスは次第に減少した(図25B)。例えば、k’2=0.023を用いると、バイアスは、1.0、7.6及び210%であり、その場合、k2/k’2は、それぞれ4.0、1.6及び1.0であった。最後に、僅かな相違の1Tデータについてのk2/k’2空間におけるMRTM k’2変動性プロフィールは非摂動な1Tデータと非常に類似していた(図24B)。このようにして、これらのシミュレーション解析は、[18F]FP−TZTPデータと1Tモデルとの間の僅かな相違が、有意にバイアスを受けたMRTM k’2概算を引き起こすことができ、MRTM k’2概算のバイアスと変動性の両方は、k2/k’2が1から十分に離れている場合に、有意に減少し得ることを示した。
【0085】
シミュレーション解析は、k’2バイアスが、別の同等の組織のコンパートメントを添加することによって、1Tモデルと僅かに相違したROIデータによって導入可能であることを示している。しかしながら、このMRTM k’2バイアスは組織的バイアスであって、その特徴はk’2及びk2/k’2に依存している(図25B)。k’2概算が変動性である場合のように、k2/k’2が1から十分に離れるようにインプット組織領域が選択される場合に、このk’2バイアスは有意に減少可能である。
【0086】
2/k’2空間におけるMRTM k’2概算のシミュレーション解析により、k2/k’2比及びk’2の規模は、MRTMによる正確なk’2概算に重要であることが示された。k’2=0.011、例えばk2/k’2>3である場合、MRTM k’2概算のバイアスと変動性の両方は、非常に小さくなる。しかしながら、[18F]FP−TZTP PETデータに関しては、k2/k’2>3を与えることができる領域はない。したがって、k2/k’2が1から十分に離れ、k’2が高い値である2つの組織領域の変動性は、トレーサーに依存し、受容体システムのタイプが撮像される。
【0087】
本発明の例示的な態様が本明細書に記載されているが、本発明は、開示された態様に限定されず、種々の他の変更又は修飾が、本発明の範囲及び精神から逸脱することなしに当業者によってなされ得ることは理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の糖尿病を診断する方法であって、
a.小胞モノアミントランスポーター2(vesicular monoamine transporter 2:VMAT2)受容体に結合する陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET)適合性トレーサーを患者に投与し;
b.患者のPETスキャンを実行し;並びに
c.PANC MAP法をPETスキャンデータに適用して、患者に対して有意な結合能(significant binding capacity:SBC)を生じさせ、ここで、糖尿病でない対照個体のSBCよりも低い患者に対して生じたSBCは、その患者が糖尿病であることを指示する
ことを含む方法。
【請求項2】
PANC MAP法が、モジュール1、モジュール2、及びモジュール3を実行することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PANC MAP法が、モジュール1及びモジュール3を実行することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
モジュール1が、機能的に特定されたβ細胞の対象とする領域(region of interest:ROI)時間活性曲線(time activity curve:TAC)を生じることを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
モジュール2が、3パラメーター多重線形参照組織モデル(multilinear reference tissue model:MRTM)及び2パラメーター多重線形参照組織モデル(MRTM2)をモジュール1からのROI TACデータに適用して、BP陽性ボクセル(voxel)(複数)を同定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
モジュール3が、モジュール2において同定されたBP陽性ボクセルから度数分布プロットを生じさせ、有意な結合能(SBC)を計算し、患者のSBCと対照個体のSBCとを比較することを含み、ここで、対照と比較して患者の低いSBCは、その患者が糖尿病であることを指示する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
モジュール3が、モジュール1において同定されたBP陽性ボクセルから度数分布プロットを生じさせ、有意な結合能(SBC)を計算し、患者のSBCと対照個体のSBCとを比較することを含み、ここで、対照と比較して患者の低いSBCは、その患者が糖尿病であることを指示する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
トレーサーがテトラベナジンの放射性標識した類似体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
テトラベナジンの放射性標識した類似体がジヒドロテトラベナジン(dihydrotetrabenazine:DTBZ)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
放射性標識したDTBZが11C−DTBZ又は18F−DTBZである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
糖尿病が1型糖尿病である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物が1型糖尿病であるか否かを決定する方法であって、小胞モノアミントランスポーター2型(VMAT2)受容体に結合する放射性リガンドを用いて、哺乳動物の膵臓のPETスキャンからの有意な結合能(SBC)を計算し、哺乳動物のSBCと糖尿病でない対照哺乳動物とを比較することを含み、ここで、対照哺乳動物と比較して哺乳動物の低いSBCは糖尿病であることを指示する方法。
【請求項13】
放射性リガンドがテトラベナジンの放射性標識した類似体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
テトラベナジンの放射性標識した類似体がジヒドロテトラベナジン(DTBZ)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
放射性標識したDTBZが11C−DTBZ又は18F−DTBZである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物がヒトである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
小胞モノアミントランスポーター2型(VMAT2)の陽電子放出断層撮影(PET)画像データを用いて、膵臓のβ細胞集団の有意な結合能(SBC)を定量する方法であって、
a.モジュール1をVMAT2 PET画像データに適用し、ここで、モジュール1は、
i.PETデータから抽出された結合能(binding potential:BP)陽性ボクセルを同定し;
ii.工程a.i.で同定された全てのBP陽性ボクセルの回収から対象とする領域(ROI)時間活性曲線(TAC)を機能的に特定する
ことを含み;
b.モジュール2をモジュール1から機能的に特定したROI TACに適用し、ここで、モジュール2は、
i.3パラメーター多重線形参照組織モデル(MRTM)を適用して、腎臓皮質である参照組織からの組織トレーサークリアランス速度(k’2)の概算を得て;
ii.2パラメーター多重線形回帰解析(MRTM2)を適用して、BPパラメトリック画像及び相対的な血流パラメトリック画像を生じさせ;及び
iii.工程b.ii.で生じたBP及び相対的な血流パラメトリック画像からBP陽性ボクセルを同定する
ことを含み、
c.モジュール3をモジュール2で同定されたBP陽性ボクセルに適用し、ここで、モジュール3は、
i.モジュール2からのBP陽性ボクセルの度数分布プロットを生じさせ;
ii.膵臓のβ細胞集団について、工程c.i.の度数分布プロットから有意な結合能(SBC)を計算する
ことを含む、
ことを含む方法。
【請求項18】
疾患のマーカーに特異的に結合するPET適合性トレーサーから導かれる陽電子放出断層撮影(PET)画像データを用いて、患者が疾患であるか否かを診断する方法であって、
a.PETデータから抽出された結合能(BP)陽性ボクセルを同定し;
b.工程aで同定された全てのBP陽性ボクセルの回収から対象とする領域(ROI)時間活性曲線(TAC)を機能的に特定し;
c.工程bから機能的に特定されたROI TACに3パラメーター多重線形参照組織モデル(MRTM)を適用して、参照組織からの組織トレーサークリアランス速度(k’)の概算を得て;
d.2パラメーター多重線形回帰解析(MRTM2)を適用して、BPパラメトリック画像及び相対的な血流パラメトリック画像を生じさせ;
e.工程dで生じたBP及び相対的な血流パラメトリック画像からBP陽性ボクセルを同定し;
f.工程eからBP陽性ボクセルの度数分布プロットを生じさせ;
g.工程fの度数分布プロットから有意な結合能(SBC)を計算する
ことを含み、ここで、患者のSBCと疾患のない対照個体のSBCとの間の相違は、その患者が疾患であることを指示する方法。
【請求項19】
マーカーが小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)受容体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
トレーサーがテトラベナジンの放射性標識した類似体である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
テトラベナジンの放射性標識した類似体がジヒドロテトラベナジン(DTBZ)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
放射性標識したDTBZが11C−DTBZ又は18F−DTBZである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
疾患が糖尿病である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
糖尿病が1型糖尿病である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
マーカーがβアミロイドプラークである、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
トレーサーが蛍光標識されたピッツバーグ化合物(Pittsburgh Compound)−Bである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
疾患が神経変性疾患である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
患者が糖尿病であるか否かを診断する方法であって、糖尿病であることが疑われる患者のPETスキャンデータにPANC MAP法を適用することを含み、ここで、患者が糖尿病である場合、PANC MAP法によって生じた度数分布は、糖尿病でない対照個体の度数分布と比較して左にシフトする方法。
【請求項30】
糖尿病が1型糖尿病である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
患者における糖尿病の治療が有効であるか否かを評価する方法であって、治療前と治療中又は治療後に患者の膵臓の小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)PETスキャンから有意な結合能(SBC)を計算し、治療中又は治療後の患者のSBCが治療前の患者のSBCと比較して変化したか否かを決定することを含み、ここで、治療前と比較した治療中又は治療後の患者のSBCの増加は、その治療が有効であることを指示する方法。
【請求項32】
患者におけるランゲルハンス島の再生をモニターする方法であって、一定期間中の患者の膵臓の小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)PETスキャンから有意な結合能(SBC)を計算し、その一定期間中に患者のSBCが変化したか否かを決定することを含み、ここで、その一定期間中の患者のSBCの増加は、ランゲルハンス島が再生中であることを指示し、その一定期間中の患者のSBCの減少は、ランゲルハンス島が縮退中であることを指示し、その一定期間中のSBCの無変化は、ランゲルハンス島の数が一定のままであることを指示する方法。
【請求項33】
患者における移植された膵臓の健康状態をモニターする方法であって、一定期間中の患者の膵臓の小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)PETスキャンから有意な結合能(SBC)を計算し、その一定期間中に患者のSBCが変化したか否かを決定することを含み、ここで、その一定期間中、同じ状態であるか又は増加しているSBCは、移植された膵臓が健康な状態であることを指示し、その一定期間中、減少しているSBCは、移植された膵臓が健康な状態でないことを指示する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公表番号】特表2010−526999(P2010−526999A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507477(P2010−507477)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/005994
【国際公開番号】WO2008/140779
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(505019998)トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク (7)
【Fターム(参考)】