説明

QCMセンサおよびその製造方法

【課題】感度を向上させたQCMセンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】水晶振動子12の表面に対する物質の吸着による水晶振動子12の共振周波数の変化に基づいて物質の質量を測定するQCMセンサ10において、水晶振動子12の表面に設けた電極14と、電極14の表面に形成した薄いシリコン層16と、シリコン層16の表面に対するエッチング処理によって形成した表面積を増大するための微細な凹凸18とを有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム内の汚染物質をモニタリングする場合などに用いるQCM(Quartz Crystal Microbalance)センサおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体や液晶デバイスの生産・開発用クリーンルームでは、素材表面に吸着して汚染したり、製造プロセスに悪影響を与えたりする各種の分子状・ガス状物質(以後、ケミカル汚染物質と呼ぶ。)の室内空気中濃度の低減が必要とされている。
【0003】
その濃度測定に関しては、クリーンルーム空気中の有機ガス等ケミカル汚染物質のオンサイト(現地)でのリアルタイム測定として、いくつかの方法・装置が提案され、実用化されている。
【0004】
その一例として、QCM(水晶振動子)センサを用いた方法・装置が知られている(例えば、特許文献1〜7参照)。QCMセンサは、水晶の薄片表面に電極を設けて成形した微小デバイスであり、これをクリーンルーム内に配置し、そのセンサの電極表面に物質が吸着したことによる振動子の共振周波数の変化度からケミカル汚染物質濃度をリアルタイムでモニタするものである。
【0005】
半導体工場では、シリコンウエハに特異的に吸着して汚染するケミカル汚染物質の対策が特に重要視される。このため、QCMセンサにおいても、特許文献1のように、電極表面をシリコンで改質し、この表面への汚染物質の吸着現象を利用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−180332号公報
【特許文献2】特開2002−168748号公報
【特許文献3】特開2002−333394号公報
【特許文献4】特開2005−249528号公報
【特許文献5】特開2009−281858号公報
【特許文献6】特開2009−300095号公報
【特許文献7】特開2010−271285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、QCMセンサの感度をさらに向上させる技術の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、感度を向上させたQCMセンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るQCMセンサは、水晶振動子の表面に対する物質の吸着による前記水晶振動子の共振周波数の変化に基づいて前記物質の質量を測定するQCMセンサにおいて、前記水晶振動子の表面に設けた電極と、前記電極の表面に形成した薄いシリコン層と、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって形成した表面積を増大するための微細な凹凸とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係るQCMセンサの製造方法は、上述した請求項1に記載のQCMセンサを製造する方法であって、前記電極の表面に薄いシリコン層を形成した後、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって表面積を増大するための微細な凹凸を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るQCMセンサによれば、水晶振動子の表面に対する物質の吸着による前記水晶振動子の共振周波数の変化に基づいて前記物質の質量を測定するQCMセンサにおいて、前記水晶振動子の表面に設けた電極と、前記電極の表面に形成した薄いシリコン層と、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって形成した表面積を増大するための微細な凹凸とを有するので、物質が吸着できる面積が大きくなり、微量の物質を感度良く検出することが可能となる。このため、QCMセンサの感度を向上させることができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係るQCMセンサの製造方法によれば、前記電極の表面に薄いシリコン層を形成した後、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって表面積を増大するための微細な凹凸を形成するので、物質が吸着できる面積が大きくなり、微量の物質を感度良く検出することが可能となる。このため、QCMセンサの感度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係るQCMセンサの実施例を示す外観図である。
【図2】図2は、図1のA部分の光学顕微鏡拡大図である。
【図3】図3は、図2のB部分の拡大斜視図である。
【図4】図4は、QCMセンサへのDBPガスの供給による周波数変化量の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るQCMセンサおよびその製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明に係るQCMセンサの外観図、図2は、図1のA部分の光学顕微鏡拡大図、図3は、図2のB部分の拡大斜視図である。
【0016】
図1〜図3に示すように、本発明に係るQCMセンサ10は、薄片の水晶振動子12の表面に対する物質(例えば、ケミカル汚染物質)の吸着による水晶振動子12の共振周波数の変化に基づいて物質の質量を測定するセンサであって、水晶振動子12の表面に設けた電極14と、電極14の表面上に形成した薄いシリコン層16と、シリコン層16の表面に対するエッチング処理によって形成した表面積を増大するための微細な凹凸18とを有する。
【0017】
このように、物質が吸着できる表面積を増大させることによって、微量の物質を感度良く検出することが可能となり、QCMセンサの感度を向上させることができる。
【0018】
次に、このQCMセンサ10の製造方法の手順(工程1〜3)の一例について説明する。
【0019】
[工程1]
工程1は、電極14の表面に薄いシリコン層16を形成するものである。電極14は、金などの導電性素材で構成することができる。シリコン層16は、この電極表面に対する電子ビーム蒸着法やスパッタ法の適用により形成する。シリコン層16の厚さは、数百nmに設定するのが好ましい。これ以上の厚さではセンサ重量が重くなり、吸着による周波数変化が鈍くなってしまうおそれがあるので留意する必要がある。
【0020】
[工程2]
工程2は、半導体製造技術を利用してシリコン層16の表面に凹凸18用の適切なパターンを加工形成するものである。利用する半導体製造技術としては、レジストを塗布して露光処理することなどが挙げられる。図2は、この表面加工によるパターンの一例である。同心円状の規則的なパターンが形成してある。
【0021】
[工程3]
工程3は、さらにシリコン層16の表面をエッチング処理して微細な凹凸18を形成するものである。エッチングの方法はガスを使用したドライ法(CFやC+SF)や薬液を使用したウェット法のいずれでもよい。
【0022】
ウェット法の一例として、水酸化カリウムまたはTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を使用した場合の条件範囲を以下の(1)〜(3)に示す。なお、必要とされるエッチング速度に応じて、各範囲の中から適切な条件に設定して処理を行う。
【0023】
(1)薬液:水酸化カリウム 8〜32重量%、またはTMAH 3〜10重量%
(2)浸漬温度:23〜110℃
(3)浸漬時間:2〜20分
【0024】
こうしたエッチング処理により、図3に示すように、シリコン層16の表面に規則的な凹凸18が形成される。ここで、凹凸18の寸法については、例えば、間隔L=2μm、高さh=100または200nmとすることができる。このような凹凸により、シリコン層16の表面積を計算上で5%〜10%程度増大することが可能である。
【0025】
なお、上記の工程1〜3のうち、工程2を省略してもよい。このようにしても、本発明と同一の効果を奏することができる。
【0026】
次に、クリーンルームのケミカル汚染物質に対する本発明のQCMセンサの感度の向上具合を調べた結果について説明する。
【0027】
図4は、電極表面を未処理とした場合(図中、未処理(金電極)と表記)と、シリコン層を蒸着した場合(シリコン蒸着のみと表記)と、シリコン層に微細な凹凸をエッチング形成した場合(シリコン蒸着+微細加工と表記。本発明の構成に相当)について、QCMセンサの感度の違いを比較したグラフである。ケミカル汚染物質としては、代表的なガス状汚染有機物質であるDBP(ジブチルフタレート、濃度は300μg/m)を使用し、センサ表面に空気を強制的に流通させる方法で周波数変化量を測定した。
【0028】
この図4に示すように、「シリコン蒸着+微細加工」の場合は、同じ濃度のDBPに対してQCMセンサの周波数変化量(ΔHz)が大きくなることが判る。これはセンサ感度が向上したことを示している。この「シリコン蒸着+微細加工」におけるセンサ感度は、1Hz変化量あたり、およそ3μg/mである。これは極めて高感度であり、本発明のQCMセンサの実用性が高いことを示すものである。
【0029】
以上説明したように、本発明に係るQCMセンサによれば、水晶振動子の表面に対する物質の吸着による前記水晶振動子の共振周波数の変化に基づいて前記物質の質量を測定するQCMセンサにおいて、前記水晶振動子の表面に設けた電極と、前記電極の表面に形成した薄いシリコン層と、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって形成した表面積を増大するための微細な凹凸とを有するので、物質が吸着できる面積が大きくなり、微量の物質を感度良く検出することが可能となる。このため、QCMセンサの感度を向上させることができる。
【0030】
また、本発明に係るQCMセンサの製造方法によれば、前記電極の表面に薄いシリコン層を形成した後、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって表面積を増大するための微細な凹凸を形成するので、物質が吸着できる面積が大きくなり、微量の物質を感度良く検出することが可能となる。このため、QCMセンサの感度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明に係るQCMセンサおよびその製造方法は、クリーンルームのケミカル汚染評価に有用であり、特に、QCMセンサの感度を高感度化するのに適している。
【符号の説明】
【0032】
10 QCMセンサ
12 水晶振動子
14 電極
16 シリコン層
18 凹凸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子の表面に対する物質の吸着による前記水晶振動子の共振周波数の変化に基づいて前記物質の質量を測定するQCMセンサにおいて、
前記水晶振動子の表面に設けた電極と、前記電極の表面に形成した薄いシリコン層と、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって形成した表面積を増大するための微細な凹凸とを有することを特徴とするQCMセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のQCMセンサを製造する方法であって、
前記電極の表面に薄いシリコン層を形成した後、前記シリコン層の表面に対するエッチング処理によって表面積を増大するための微細な凹凸を形成することを特徴とするQCMセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−220395(P2012−220395A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87938(P2011−87938)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)