説明

QCMデバイス及びQCMデバイスを用いた気体分子の検出方法

【課題】測定チャンバー内を被測定ガスが気体分子の組成を変えることなく流れるようにしたQCMデバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】一端側に被測定対象気体が供給される吸入口を有し、他端側に被測定対象気体が排出される排出口を有する閉空間を形成する測定チャンバーと、吸入口と排出口との相互間に気圧差を形成して被測定対象気体を吸入口から排出口に向かって移動させる圧力差発生手段と、測定チャンバー内に被測定対象気体の流れ方向において配置される複数の振動子と、を備え、測定チャンバーは内壁にフッ素系ポリマーが塗布された金属容器であり、フッ素系ポリマーの内壁で囲まれた複数の振動子にはそれぞれ特定の気体分子を吸着する感応膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオイに関係する気体分子などの吸着を発振周波数の変化によって検出するQCM(Quartz Micro Balance)デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ニオイをもたらす気体分子を検出するセンサーとして、例えば、QCMデバイスがある。QCMデバイスは、水晶振動子の振動体表面に何らかの分子が付着すると、その付着量(重さ)に応じて共振周波数が変化(減少)する現象を利用して特定分子の存在やその量を検出するものである。QCMデバイスには、例えば、ATカット型の水晶振動子が用いられる。ATカットとは水晶結晶軸に対しある特定の方位のカット基板のことで、室温近傍で温度係数変化が極小になり温度安定性に優れている。
【0003】
ATカット水晶振動子は、基板表裏に形成した励振電極間に電圧を印加すると表面と裏面が互い違いにスライドするいわゆる厚みすべり振動モードで動作する。その共振振動数f0は表裏の電極に挟まれた部位の水晶板厚に反比例し、一般に次のような関係がある。
【0004】
f0(MHz)=1670/水晶板厚(μm)
そして、このATカット水晶振動子を用いたQCMデバイスの吸着物質量ΔMと周波数
変化量Δfの関係は次のSauerbreyの式で表されることが知られている。
【数1】

ここで、f0:振動子の共振周波数、ρ:水晶の密度、μ:水晶のせん断弾性定数、A:有効振動面積(略電極面積)である。上式より、水晶振動子の共振周波数f0を高めることにより、感度すなわち吸着物質量ΔMあたりの周波数変化量Δfを高められることがわかる。
【0005】
QCMデバイスは様々な用途に用いることができるが、振動子の表面にニオイ分子のような特定の分子を選択的に吸着する吸着膜(感応膜)を形成しておくことで、特定のニオイを検出するニオイセンサとして応用することができる。また、DNAのハイブリダイゼーションを利用したバイオセンサー、ガスセンサーなどとしても応用が検討されている。
【0006】
例えば、特開2009−236607号公報にはQCMデバイスの例が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−236607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ニオイは、単一の気体分子(化合物)のみで構成される場合よりも、複数種類の気体分子(化合物)で構成される混合気体である場合が多い。よって、ニオイを検出する場合に、検出途中で被測定対象気体から一つあるいはいくつかの気体成分が抜ける(減少する)と別のニオイになったり、そのニオイの特徴がなくなったりしてしまい、検出誤差の原因の一つとなる。
【0009】
上述したQCMデバイスのニオイセンサーでは、通常、特定の感応膜を使用した複数種類の振動子センサが測定チャンバー内に上流から下流に向かって多数配置される。各振動子センサーには同じ組成の状態で被測定対象気体が供給されることが望ましいが、多数の振動子センサーを配置するために一定の距離を要する。このため、被測定気体を構成する気体分子が途中でトラップされる等して被測定気体の組成が途中で変化することが考えられる。これは被測定気体の成分を検出する際の誤差要因となる。
【0010】
よって、本発明は複数の振動子センサーが配置されたチャンバー内を被測定気体が可及的に気体組成を変えることなく流れるようにしたQCMデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成する本発明のQCMデバイスの一形態は、一端側に被測定対象気体が供給される吸入口を有し、他端側に上記被測定対象気体が排出される排出口を有する閉空間を形成する測定チャンバーと、上記吸入口と上記排出口との相互間に気圧差を形成して上記被測定対象気体を上記吸入口から上記排出口に向かって移動させる圧力差発生手段と、上記測定チャンバー内に上記被測定対象気体の流れ方向において配置される複数の振動子と、を備え、上記測定チャンバーは、内壁にフッ素系ポリマーが塗布された金属容器であり、上記フッ素系ポリマーの内壁で囲まれた上記複数の振動子にはそれぞれ特定の気体分子を吸着する感応膜が形成されている、ことを特徴とする。
【0012】
かかる構成とすることによって、被測定対象気体(混合気体)を構成する気体成分の測定チャンバー内壁への付着あるいは物理的吸着を抑制し、被測定気体の組成が途中で変化する(組成気体の種類及び濃度)ことを防止する。測定チャンバー内を上流から下流に向かって同じ組成の被測定気体が複数の振動子上を流れるので測定の精度が向上する。
【0013】
望ましくは、測定チャンバーの内径を可及的に狭くし、被測定対象気体が複数の振動子からなる振動子アレイに沿って流れるようにする。それにより、被測定対象気体が各振動子の感応膜に同条件(ガス組成)で当たるようにする。また、測定チャンバーの内壁表面積を減少することにより、、被測定対象気体の分子が測定チャンバーの内壁に吸着される量を減少する。
【0014】
上記フッ素系ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンを含むことが望ましい。後述のように、測定チャンバー内壁に気体分子が物理的に付着することを抑制する(付着が少ない)種々の材料を検討したところ、フッ素系ポリマーが好ましく、ポリフッ化ビニリデンが最も良い結果を示した。
【0015】
QCMデバイスの複数の振動子に形成された各感応膜は、それぞれ特定の気体分子を吸着する特性を持つ、異なる種類の感応膜であることが望ましい。それにより、複数種類の気体分子を検出することが可能となる。検出した気体分子の組み合わせによって特定物質のニオイであることを判別可能となる。
【0016】
上記感応膜は、有機低分子膜、有機高分子膜、及び無機膜のいずれかによって形成されていることが望ましい。これ等の膜が感応膜として使用可能であることが実験で確かめられている。
上記感応膜は、膜材料を溶剤に溶かして塗布、抵抗加熱蒸着、イオンビーム蒸着、スパッタリング法、CVD(Chemical vapor deposition)法などを使用して形成されている。
【0017】
好ましくは、上記測定チャンバーは、金属容器と、該金属容器の内壁に形成されたフッ素系ポリマーを含んで構成される。金属容器とすることによって測定チャンバーの機械的強度を確保することができる。測定チャンバーに生じた撓みなどは、測定チャンバーに結合した部材によって内部に配置(支持)された振動子(圧電素子)アレイに歪みなどの影響を与えるので、樹脂パイプ(容器)などよりも金属(例えば、アルミニウム)が望ましい。また、金属容器の内壁にフッ素系ポリマーを塗布することによって測定チャンバーを製作すれば、フッ素系樹脂だけで測定チャンバーを製作する場合に比べて、製造技術的にも容易で、安価である。
【0018】
また、本発明の一つの実施態様である気体分子の検出方法は、QCMデバイスを用いた気体分子の検出方法において、被測定対象気体が一方向に流れる流路に特定の気体分子を吸着する感応膜を形成した複数の振動子からなる振動子列を該流れに沿って配置し、少なくとも上記複数の振動子の列全体を内壁がフッ素系ポリマーである流路で囲んだ状態で各振動子の周波数測定を行う、ことを特徴とする。
【0019】
かかる構成とすることによって、流路の内壁に被測定対象気体の一部が物理的に吸着されて気体流路の上流側の振動子と下流側の振動子とで被測定対象気体の組成が変化することを可及的に抑制することが可能となる。
【0020】
上記フッ素系ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンを含むことが望ましい。種々の実験の結果、フッ素系高分子膜に気体分子が付着しにくい傾向があり、とりわけポリフッ化ビニリデンの複数種類の気体分子に対する付着防止効果が顕著である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のQCMデバイスによれば、測定チャンバー内壁における気体分子の物理的な吸着が減少するので、気体の流れ方向に沿って配置された振動子アレイの各振動子に被測定ガスが可及的に均等に与えられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】QCMデバイスの出力特性例を説明するグラブである。
【図2】QCMデバイスのセンサアレイの出力例(試料がトルエンの場合)を説明するグラフである。
【図3】QCMデバイスのセンサアレイの出力例(試料が酢酸の場合)を説明するグラフである。
【図4】QCMデバイスによる測定装置の構成例を説明する説明図である。
【図5】QCMデバイスの測定チャンバー部の構成例を説明する説明図である。
【図6】ポリフッ化ビニリデンによる吸着防止効果を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、発明の実施形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
なお、以下の実施形態では、本発明のQCMデバイスをニオイセンサーに適用したものを例に説明するが、本発明のQCMデバイスが適用されるものはこれに限られず、例えば、ガス警報器、火災警報器、呼気などのニオイ分析を利用した健康診断装置等にも使用できる。
【0024】
まず、QCMデバイスによる混合気体の測定例を説明する。図1は、被測定気体としてアップル香料(多成分の混合気体)をQCMデバイスで測定した例(一つの振動子センサの出力例)を示す。同図において、縦軸は周波数変化量(Hz)、横軸は時間(秒)である。
【0025】
図中に示すように、被測定気体を測定チャンバーに導入し、振動子を短時間暴露した後、暴露を停止している。暴露を停止した後も吸着した気体分子の量の上昇が確認される。これは気体分子(化合物)の種類によって物質表面への物理的な吸着特性が異なるため、流路に存在する物質(物体)によってトラップされている時間が気体分子の種類によって異なる結果、クロマトグラフ現象と類似の、気体分子の吸着特性などの違いによって移動に時間差を生じるためと考えられる。
【0026】
図2及び図3は、QCMデバイスの振動子センサアレイの配置位置による出力例を示している。各図において、縦軸は周波数変化量(Hz)を、横軸は時間(秒)を表している。これ等の例では、測定チャンバー内に、気体分子の流れ方向に(上流側から下流に向かって)16個の振動子センサ(16チャンネル)を一列に配置し、単一の気体分子(化合物)で短時間暴露している。各センサはセンサの位置以外は同じ条件となるようにしている。
【0027】
図2は、被測定対象気体として、濃度10ppmのトルエン(単一の化合物)を空気をキャリアとしてアルミニウム製の被測定チャンバーに短時間導入し、上流側から下流側に向かって配置された16個の振動子センサ(16チャンネル)の内、チャネル1、4、9、12、16の出力周波数変化を示している。各振動子センサの感応膜は同じものである。
【0028】
同図に示されるように、同じ被測定対象気体であるにもかかわらず、上流側から下流側に位置するに従って振動子センサの周波数変化量は減少する(出力が減る)。これは、被測定対象の気体分子の付着量が下流側に行くに従って減少していることを意味している。
【0029】
図3は、被測定対象気体として、濃度0.3ppmの酢酸(単一の化合物)を空気をキャリアとしてアルミニウム製の被測定チャンバーに短時間導入し、上流側から下流側に向かって配置された16個の振動子センサ(16チャンネル)の内、チャンネル1、8、16の出力周波数変化例を示している。各振動子センサの感応膜は同じものである。この例においても、同じ被測定対象気体(酢酸蒸気)であるにもかかわらず、上流側から下流側に位置するに従って振動子センサの周波数変化量は減少する(出力が減る)傾向を示している。
【0030】
これ等の、直列に並べられた振動子の最前と最後のものでは同一の素子、同一の濃度のニオイを暴露したにもかかわらず周波数変化量が異なるという結果は、気体分子が振動子に到着するまでに流路(測定チャンバー)への吸着で濃度変化が起きたと考えられる。流路・測定チャンバーへの吸着は、流路・測定チャンバーの部材の材質、気体分子(ニオイ)の種類によって異なる。
【0031】
そこで、本願は測定チャンバーへの被測定対象気体分子の物理的吸着を減少したQCMデバイスを提供する。
図4及び図5は、本発明の実施例を示している。図4は、QCMデバイスの全体構成を概略的に示しており、図5は、測定チャンバーの構成を示している。
【0032】
図4に示すように、図示しない、被試料のニオイ物質(あるいは臭気気体)を詰めた容器から試料供給弁を介して被測定対象気体がキャリアガス(例えば、空気)と共に測定チャンバー10の吸入口12に供給される。測定チャンバー10の吸入口12と対向する側には排出口14が設けられている。排出口14には、負圧を形成して被測定対象気体を測定チャンバー内に導入するための圧力差発生手段としてのエアポンプ20が設けられる。圧力差発生手段は吸入口12と排出口14との間に気圧差を形成してキャリアガスと共に被測定対象気体を測定チャンバー内を流動させるものであり、上記ポンプの他、回転ファンなどであってもよい。測定チャンバー10の排出口14に導出された被測定対象気体はポンプの排気口から外部に排出される。
【0033】
測定チャンバー10は機械的強度を保つために金属製の密閉容器であり、一段側に吸入口12が設けられ、他端側に排出口14が設けられた筒状の部材である。実施例では、加工の容易性と装置重量の点から部材にアルミニウムを用いているが、鉄、ステンレスなど、他の材質であっても良い。測定チャンバー10の内壁の表面積を小さくするため水晶振動子のサイズ、数に合わせて可能な限り測定チャンバー10の容積あるいは内径を可及的に小さくする。例えば、実施例では流路の断面積を100mm2としている。後述のように、測定チャンバー10の内壁には、被測定対象気体分子の付着を防止する付着防止膜が形成されている。付着防止膜としては、例えば、フッ素系ポリマーが好ましく、実施例では、フッ素系ポリマーのポリフッ化ビニリデンが成膜されている。
【0034】
なお、測定チャンバーの部材をフッ素樹脂で作ることも可能であるが、フッ素樹脂(例えば、商品名「テフロン(登録商標)」)は型の形成性が悪い。例えば、テフロン(登録商標)の塊からの削りだしや粉末の圧縮加温により行われる。このため製造効率があまり良くない。また、水晶振動子は圧力変化などに敏感であるため、プラスチックなど柔軟な素材をセンサー部の周囲に用いることができない。
【0035】
測定チャンバー10内には、複数の水晶振動子が一列(列状)に配置された振動子アレイ30が配置される。図示しないが、振動子アレイ30の基板は支持部材によって測定チャンバー10に固定されている。振動子アレイ30の複数の振動子(複数チャンネル)は発振回路部40に設けられた複数の発振回路にそれぞれ接続されている。各発振回路の周波数出力信号は周波数カウンタ部50に設けられた複数の周波カウンタにそれぞれ供給され、各出力信号の周波数が計測される。各チャンネルの周波数計測値はコンピュータシステム(図示せず)によってデータ処理されてニオイ物質の判別が行われる。
【0036】
図5は、測定チャンバー10の構成例を示す断面図である。
測定チャンバー10は、アルミニウムの金属容器16の内壁にフッ素系ポリマーであるポリフッ化ビニリデン18を塗布によって成膜している。チャンバーへのポリフッ化ビニリデンの塗布方法(手順)は、まず、ポリフッ化ビニリデンを溶液に溶かす。溶剤は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトフェノン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフランなど溶かすことができるものであれば良い。例えば、溶媒として、ケトン、エステル、環状エーテル、アミド、スルフィド類などの極性溶媒を使用することが考えられる。このポリフッ化ビニリデンを溶かした溶液中にアルミニウム製のチャンバーを浸漬する。その後、溶液から引き上げて乾燥させる。それにより、測定チャンバー10の内壁にポリフッ化ビニリデン18を成膜することができる。
【0037】
なお、測定チャンバー10を両端が開口した筒状体(パイプ)で形成し、内壁にポリフッ化ビニリデン膜の形成後、筒状体の両端部にそれぞれ内側にポリフッ化ビニリデン膜を形成した蓋を結合(螺合など)することによって製造しも良い。
【0038】
測定チャンバー10の内部には、複数の振動子センサ32からなる振動子センサアレイ30が配置されている。図5では、振動子センサ32は5つのみ示されているが、所要数設けられる。振動子センサ32は、圧電素子である共振周波数30MHzのATカット水晶振動子と、その表面に、例えば、厚さ100nmのポリスチレン膜がニオイ吸着膜(感応膜)として形成されている。既述したように、水晶振動子は発振回路に接続されて1つの発振器を構成しており、その振動周波数は周波数カウンタにより計測されている。水晶振動子は、例えば、断面積100mm2の流路(測定チャンバー)内に気体の流れに平行に配置される。流路の出口端14にはポンプ20が接続され、例えば、毎分約500ccの気体が流路入口12より流入するようになされる。
【0039】
複数の振動子センサ32の水晶振動子の表面には、それぞれ特性の異なる感応膜が形成されている。感応膜は有機低分子膜、有機高分子膜、無機膜などにより形成される。感応膜の形成方法は、感応膜材料を溶剤に溶かして塗布する塗布法、抵抗加熱蒸着法、イオンビーム蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical vapor deposition)法など薄膜を形成できる方法が適宜に選択される。
【0040】
例えば、ポリマーの製膜材料としては、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、6−ナイロン、セルロースアセテート、ポリ-9,9-ジオクチレフルオレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカルバゾール、ポリエチレンオキシド、ポリ塩化ビニル、ポリ-p-フェニレンエーテルスルホン、ポリ-1-ブテン、ポリブタジエン、ポリフェニルメチルシラン、ポリカプロラクトン、ポリビスフェノキシホスファゼン、ポリプロピレンなどの単一構造からなるホモポリマー。ホモポリマー2種以上の共重合体であるコポリマー。これらを混合したブレンドポリマーなどが使用可能である。
【0041】
例えば、有機低分子材料としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、α-NPD、BCP(2,9-dimethyl-4,7-diphenyl- 1,10-phenanthroline)、CBP(4,4'-N,N'-dicarbazole-biphenyl)、銅フタロシアニン、C60、ペンタセン、アントラセン、チオフェン、Ir(ppy)3、トリアジンチオール誘導体、ジオクチルフルオレン誘導体、テトラテトラコンタン、パリレンなどが使用可能である。
【0042】
また、例えば、無機材料としては、アルミナ、チタニア、五酸化バナジウム、酸化タングステン、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、アルミニウム、金、銀、スズ、インジウム・シン・オキサイド(ITO)、カーボンナノチューブ、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどが使用可能である。
【0043】
図6は、ポリフッ化ビニリデンの非吸着性の効果を説明する説明図である。
同図は、ポリフッ化ビニリデンを測定値チャンバーの内壁に成膜することによる効果(気体分子の非吸着性)を検証するために、水晶振動子上に感応膜としてポリフッ化ビニリデンを100nmの膜厚で形成し、複数のニオイの気体分子(濃度10ppm)で暴露した結果(周波数変化量)を示している。
【0044】
測定結果は同図に示すように、n−ヘキサンは0.1Hz、n−オクタンは0.1Hz、シクロヘキサンは0.06Hz、トルエンは0.3Hz、p−キシレンは0.5Hz、酢酸エチルは0.2Hz、酢酸ブチルは0.5Hz、ジエチルエーテルは0.02Hz、テトラヒドロフランは0.1Hz、クロロホルムは0.2Hz、ジクロロメタンは0Hz、1,2−ジクロロエタンは0.04Hz、アセトンは0.02Hz、メタノールは0.1Hz、エタノールは0.2Hz、IPAは0.06Hz、酢酸は0.09Hz、プロピオン酸は0.5Hzであった。
【0045】
既述のように、水晶振動子の感応膜に気体分子が吸着すると共振周波数が低下し、気体分子の付着量が増す程周波変化量が増大する。実験の結果は、気体分子の種類に拘わらず、全般的に周波数変化は僅かであることを示している。試料のうち最も大きい周波数変化を示したものは酢酸ブチル、p−キシレンであり、0.5Hz程度の周波数変化である。これは、気体の濃度が10ppmであるとき、最大0.002ng(ナノグラム)/mm2程度の吸着量である。よって、ポリフッ化ビニリデンを皮膜した測定チャンバーを用いることによって各種の気体分子の付着を減らすことが出来ることが判る。
【0046】
以上説明しように、測定チャンバーの金属やその他の部材がむき出しの時と比較して、ポリフッ化ビニリデンを塗布した測定チャンバーを使うことにより、流路の途中で被測定対象気体分子の特定成分が流路壁に吸着されて減少することが回避可能となり、水晶振動子センサの測定チャンバー内の位置による影響(出力低下)を軽減することが可能となる。
また、測定チャンバ内を被測定混合気体分子がガス組成を変化することなく移動するので、各水晶振動子センサを同じ組成の混合ガスで暴露することが可能となる。
【0047】
上述した実施例では、測定チャンバーへのポリフッ化ビニリデン膜の形成をポリフッ化ビニリデン溶液の塗布により行うので、フッ素樹脂ブロックを測定チャンバーの形状に加工する場合と比較して製造容易であり、製造効率が向上する。また、フッ素樹脂ブロックを加工する場合と比較してフッ素樹脂使用量を大幅に低減できる。
【0048】
また、測定チャンバーを金属材料で構成するので測定チャンバを電気的に接地することで測定チンバー内を電気的にシールドすることが出来、高周波遮断効果や、周囲の電磁的外乱(電気ノイズ)の影響を受けにくいノイズ防止効果が得られるQCMデバイスとなる。
また、測定チャンバーにおける気体分子の吸着ロスが減少することによって測定チャンバーに供給される被測定対象ガス(入口気体)と、測定チャンバーから排出される被測定対象ガス(出口気体)が略同じであり、測定チャンバ内を被測定混合ガスがガス組成を変化することなく移動する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本願発明はQCMデバイスの特性を向上させるものであるり、ニオイセンサーの用途に限られるものではない。例えば、各種のガスセンサーなどに用いて好適である。
なお、上記発明の実施形態を通じて説明された実施例や応用例は、用途に応じて適宜に組み合わせて、又は変更若しくは改良を加えて用いることができ、本発明は上述した実施形態の記載に限定されるものではない。そのような組み合わせ又は変更若しくは改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0050】
10 測定チャンバー、12 吸入口、14 排出口、18 ポリフッ化ビニリデン膜、20 ポンプ、30 振動子アレイ、32 振動子センサ、40 発振回路部、50 周波数カウンタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に被測定対象気体が供給される吸入口を有し、他端側に前記被測定対象気体が排出される排出口を有する閉空間を形成する測定チャンバーと、
前記吸入口と前記排出口との相互間に気圧差を形成して前記被測定対象気体を前記吸入口から前記排出口に向かって移動させる圧力差発生手段と、
前記測定チャンバー内に前記被測定対象気体の流れ方向において配置される複数の振動子と、を備え、
前記測定チャンバーは、内壁にフッ素系ポリマーが塗布された金属容器であり、
前記フッ素系ポリマーの内壁で囲まれた前記複数の振動子にはそれぞれ特定の気体分子を吸着する感応膜が形成されている、
ことを特徴とするQCMデバイス。
【請求項2】
前記フッ素系ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンを含む、請求項1に記載のQCMデバイス。
【請求項3】
前記複数の振動子に形成された各感応膜は、それぞれ吸着する気体分子を異にする特性もつ、請求項1又は2に記載のQCMデバイス。
【請求項4】
前記感応膜は、有機低分子膜、有機高分子膜、及び無機膜のいずれかによって形成されている、請求項1乃至3のいずれかに記載のQCMデバイス。
【請求項5】
QCMデバイスを用いた気体分子の検出方法であって、
被測定対象気体が一方向に流れる流路に特定の気体を吸着する感応膜を形成した複数の振動子からなる振動子列を該流れに沿って配置し、
少なくとも前記複数の振動子の列全体を内壁がフッ素系ポリマーである流路で囲んだ状態で各振動子の周波数測定を行う、ことを特徴とする、気体分子の検出方法。
【請求項6】
前記フッ素系ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンを含む、請求項5に記載のQCMデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−13620(P2012−13620A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152349(P2010−152349)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)