R型二酸化マンガンナノニードル多孔体とそれを構成するR型二酸化マンガンナノニードル、水素化した酸化マンガン、赤外線吸収材料、赤外線フィルター、およびそれらの製造方法
【課題】ナノスケールのR型二酸化マンガンのナノニードルから構成された高比表面積のR型二酸化マンガンナノニードル多孔体とそれを構成するR型二酸化マンガンナノニードル並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることとする。
【解決手段】R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、R型二酸化マンガンナノニードル多孔体とそれを構成するR型二酸化マンガンナノニードル、水素化した酸化マンガン、赤外線吸収材料、赤外線フィルター、およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料(ポーラス材料)とは、内部に大小さまざまな孔をもつ固体の総称であって、その構造や表面の性質を利用して断熱材、緩衝材、吸音材、あるいは本発明で扱う吸着材や触媒担体として多方面に利用されている。この多孔質材料は、平均細孔直径の大きさに応じてマイクロポーラス(2nm以下)、メソポーラス(2〜50nm)、マクロポーラス(50nm以上)と分類される。
【0003】
合成方法や構成元素の如何を問わず、平均細孔直径が均一なメソポーラス材料の合成が世界で初めて報告されたのは1992年であり、それらは界面活性剤の分子集合体を鋳型にして酸化ケイ素のメソポア構造を実現したメソポーラス多孔体であった(非特許文献1、2参照)。このような平均細孔直径が均一なメソポーラス材料は、実際に合成が成功してからまだ間がないため、現時点で工業的な実用例は存在しない。しかし、ゼオライトに代表されるマイクロポーラスの細孔では小さすぎて入ることが困難であった分子径の大きな化合物が絡む触媒反応や吸着反応、あるいはナノ材料の物性を研究するために格好のモデル物質であるため、近年、合成方法や物性とその応用に関する研究論文が急増している。中でもマンガン酸化物に関する報告は現在でも数件しか存在せず、その代表例として1997年に平均細孔直径2nmの合成が報告された(非特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、平均細孔直径2nmはマイクロポーラスとの境界領域であって、天然ガスなど分子径の大きな化合物が絡む触媒反応や溶液中における錯体の吸着・析出反応、あるいはナノ機能性材料のホスト物質としての利用目的には孔径が細かいため、平均細孔直径が10〜20nm近辺の二酸化マンガン・メソポーラス材料には各方面で大きな期待がかかっている。通常、二酸化マンガンは、その結晶構造に応じて、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、ε(イプシロン)、δ(デルタ)、λ(ラムダ)、R(アール)型に分類されている。この内、γ型は、β型とε型、およびR型が混在した結晶構造である。これらの結晶構造の違いは、結晶を構成する最小ユニットである八面体(マンガン原子の周りに6つの酸素原子が配位した八面体)の均一で規則的な配列が異なっていることが理由で生じることが周知である。
【0005】
なお、R型二酸化マンガンに関しては、従来より、λ(ラムダ)型二酸化マンガン結晶内にリチウムが配位したスピネル結晶構造を有するリチウム・マンガン酸化物を出発原料とした水熱合成法によって得られることが報告されている(非特許文献4参照)が、それ以外の合成方法で、ナノスケールで、かつ、ニードルの形状のR型二酸化マンガンが合成された例は存在しない。
【非特許文献1】J.S.Beck et al,J. Am. Chem. Soc.,114,10834(1992)
【非特許文献2】J.C.Vartuli et al.,Chem. Mater.,6,2317(1994)
【非特許文献3】Zheng−Rong Tian et al. Science vol.276
【非特許文献4】H.Rossouw, J.Mater.chem, vol.2,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明は、以上のとおりの背景よりなされたものであって、ナノスケールのR型二酸化マンガンのナノニードルから構成された高比表面積のR型二酸化マンガンナノニードル多孔体とそれを構成するR型二酸化マンガンナノニードル、赤外線吸収材料、赤外線フィルター、およびそれらの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
<1> R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<2> メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積が40〜200m2/g、全細孔容積が0.1〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする上記<1>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<3> メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が7nm〜14nmの範囲、BET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする上記<1>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<4> メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が15nm〜30nmの範囲、BET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲であることを特徴とする上記<1>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<5> 表面硬さは、ビッカース硬さ試験法による測定でビッカース硬度15〜35の範囲であることを特徴とする上記<1>から<4>のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<6> 大きさがナノメートルスケールであって、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<7> 太さ1〜100nm、長さ3〜900nmの範囲であることを特徴とする上記<6>に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<8> 太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲である上記<6>に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<9> 太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲である上記<6>に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<10> 上記<6>から<9>のいずれかのR型二酸化マンガンのナノニードルに、金属が担持されていることを特徴とする金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
<11> 担持される金属は、金またはパラジウムであることを特徴とする上記<10>に記載の金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
<12> R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
<13> 太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲であって、ニードル状である上記<12>に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
<14> 太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲であって、ニードル状である上記<12>に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
<15> 上記<1>から<5>のいずれかの二酸化マンガンナノニードル多孔体で形成されてなるメソポーラス多孔体材料。
<16> 膜状に形成された膜状体であることを特徴とする上記<15>に記載のメソポーラス多孔体材料。
<17> 炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O粉末を焼成し、これを酸処理してペースト状とした後、乾燥することを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
<18> 炭酸マンガンn水和物とともに炭酸酸化ビスマスを混合して焼成することを特徴とする上記<17>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
<19> 酸処理を少なくとも2回以上行うこと特徴とする上記<17>または<18>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
<20> 上記<6>から<9>のR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理することを特徴とする水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子の製造方法。。
<21> 上記<1>から<5>のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体からなる赤外線吸収材料。
<22> 上記<21>に記載の赤外線吸収材料が含有されていることを特徴とする赤外線フィルター。
<23> 透過される赤外線は、波長領域10〜14μmの範囲であることを特徴とする上記<22>に記載の赤外線フィルター。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおりの本願発明によれば、高比表面積を有する二酸化マンガンナノニードル多孔体、それを構成するR型二酸化マンガンナノニードルや、これらを簡便に製造することができる製造方法が提供される。
【0009】
以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体は、固体酸の性質や新規な光学特性の発現に加えて、燃料電池電極材料へ応用あるいは触媒担体などの基盤材料への応用が可能となる。
【0010】
さらに、本願発明によれば、以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いた赤外線吸収材料とそれを含有する赤外線フィルターが提供される。赤外線は、電磁波としての波長はマイクロメートル・オーダーであり、エネルギー的には熱線である。一般に、材料に赤外線を吸収させるためには、赤外線を吸収する性質を有する炭素材料などを材料表面に塗布被覆することや材料に混入添加する手法が知られており、より少ない被覆・添加量で、より高い吸収効果を得るためには、単位容積当たりの熱容量が大きく、断熱性が高い材料が必要であった。本願の赤外線吸収材料は、BET比表面積が40〜200m2/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体からなるもので、通常の炭素材料の比重と比較して2倍以上も重いため、単位体積当たりの熱容量も大きい。このため、より少ない被覆・添加量で赤外線を効率よく吸収することができる。
【0011】
また、これまで、波長10μm以上の赤外線領域において、特定波長の赤外線だけを選択的に透過するような特性をもった赤外線フィルターは実現されておらず、本願の赤外線フィルターはこれを実現するものであり、産業上有用性が高い。
【0012】
さらに、以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体は安価でかつ簡便に製造することが可能であるため、赤外線吸収材料および赤外線フィルターについても安価に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0014】
本願発明の二酸化マンガンナノニードル多孔体は、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることを特徴としている。ここで、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルとは、一般的に重量比で50%以上好ましくは80%以上、さらには95%以上のR型二酸化マンガンが成分として構成されており、大きさ、すなわち、太さ(平均直径)および長さ(両端距離)がナノメートルスケールであり、太さが略均一で針状(ロッドともいう)の形状を有するものをいう。通常の溶液反応では、1本のニードル内で表面の凹凸が生じてしまうため、太さが不均一であったり、また、数本のニードルが束になった状態で得られたりするために、本願発明のように太さが略均一なニードルを得ることが極めて困難である。
【0015】
この二酸化マンガンナノニードル多孔体は、たとえば、メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積40〜115m2/gの範囲であるものが考慮される。特には、平均細孔直径が3nm〜15nmでBET比表面積が50〜200m2/gの範囲のもの、なかでも平均細孔直径が7nm〜14nmでBET比表面積が80〜130m2/gの範囲のもの、あるいは平均細孔直径が15nm〜30nmでBET比表面積が40〜50m2/gの範囲のものなどを挙げることができる。なお、上記二酸化マンガンナノニードル多孔体のメソポーラス多孔体構造の全細孔容積は、0.1〜0.5cm3/g程度である。
【0016】
本願発明のR型二酸化マンガンのナノニードルは、その太さ(平均直径)および長さ(両端距離)は、太さ1〜100nm、長さ3〜900nmの範囲である。このようなナノメートルスケールの大きさでニードル状のR型二酸化マンガンのナノニードルは、これまで報告された例はなく、本発明者によってはじめて実現されたものである。さらに、本願発明では、高純度のR型二酸化マンガンのナノニードルを短時間で合成することができる。また、本願発明では、上記R型二酸化マンガンのナノニードルとして、特に、太さ2〜10nmで長さ5〜30nmのものや、太さ10〜30nmで長さ30〜300nmのものを提供する。このR型二酸化マンガンのナノニードルが凝集しブロック化されて、メソポーラス多孔体構造が形成されて、二酸化マンガンナノニードル多孔体となるのである。特に、太さ2〜10nmで長さ5〜30nmのナノニードルで構成される二酸化マンガンナノニードル多孔体は、メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が7nm〜14nmでBET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲の多孔体構造が形成されるが、後述するように炭酸マンガンn水和物とともに炭酸酸化ビスマスを混合して焼成することで、平均細孔直径を3nm程度まで小さくでき、BET比表面積を200m2/g程度まで大きくすることができる。また、太さ10〜30nmで長さ30〜300nmのナノニードルで構成される二酸化マンガンナノニードル多孔体は、メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が15nm〜30nmでBET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲の多孔体構造が形成される。
【0017】
以上のとおりの二酸化マンガンナノニードル多孔体は、ナノニードル同士が絡み合ってブロック化されている。そのブロック化された二酸化マンガンナノニードル多孔体の表面硬度は比較的硬く、具体的には、ビッカース硬さ試験法による測定でビッカース硬度15〜35程度となる。アルミニウム金属のビッカース硬度が50以上であることを考慮すると、本願発明の二酸化マンガンナノニードル多孔体の表面硬度はかなり高いことがわかる。
【0018】
以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体は、たとえば、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末を焼成し、酸処理して水素化した酸化マンガンHMnO2を生成した後、これをペースト状にして乾燥固化することで得られる。
【0019】
焼成温度は、たとえば、180℃〜210℃の範囲が好ましい。焼成温度が180℃未満の場合には、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが平均的に薄くなる。この酸化マンガンMn2O3の外殻は、後述するが、酸処理の際に水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oに相変化することで、酸処理溶液中のマンガンイオンMn2+を水素化した酸化マンガンHMnO2に相変化させる役割をもつが、酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが薄くなることで、この相変化を効率的に生じさせるための水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oが不足してしまい、結果として、最終的に二酸化マンガンナノニードル多孔体を構成する二酸化マンガンナノニードルを十分に生成することができない。焼成温度が210℃を超える場合には、焼成後に得られる炭酸マンガン表面の酸化マンガンMn2O3の外殻は厚くなり、原料である炭酸マンガンの残留量が少なくなるため、酸処理時にマンガンイオンMn2+として溶解するマンガン成分が不足し、二酸化マンガンナノニードル多孔体を構成する二酸化マンガンナノニードルを十分に生成することができない。なお、以上の二酸化マンガンナノニードル生成の詳細な説明については以下のとおりである。
【0020】
まず所定量の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末をセラミックなどのルツボに入れて、たとえば、大気下180〜210℃の温度範囲で所定時間焼成する。より好ましくは195℃、6時間(昇温時間を含む)の条件で焼成する。焼成によって原料の炭酸マンガンn水和物粉末の表面が酸化されて酸化マンガンMn2O3の外殻を有する炭酸マンガンMnCO3の粉末が得られる。
【0021】
次いで、この酸化マンガンMn2O3の外殻を有する炭酸マンガンの粉末を酸処理して炭酸マンガンを塩化マンガンとして溶解除去してマンガンイオンMn2+を発生させる。このマンガンイオンMn2+が水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oと接触することで水素化した酸化マンガンHMnO2を生成する。このメカニズムの概略を図1に示す。
【0022】
図1の(a)は、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻(被膜)を持った炭酸マンガンの粒子を表している。この炭酸マンガンの粒子は、酸処理によって、たとえば希塩酸などの酸処理溶液に炭酸マンガン粒子を入れて懸濁させることによって、外殻の酸化マンガンMn2O3が希塩酸との接触で発生した塩素ガスの影響を受けて水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oに変化し、外殻内部の炭酸マンガンMnCO3は塩化マンガンMnCl2と二酸化炭素CO2と水H2Oに変化する(図1(b))。塩化マンガンMnCl2は、2価のマンガンイオンMn2+となり、炭酸成分は二酸化炭素CO2のガスとなり外殻内部での内圧を高め、結果としてマンガンイオンMn2+を含んだ二酸化炭素の気泡が水H2Oと共に、水和した二酸化マンガンMnO2・H2O化した外殻の表面を通じて噴出する。この噴出の際に、マンガンイオンMn2+が外殻の水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oと効率良く接触するため、マンガンイオンMn2+を酸化して、水素化した酸化マンガンHMnO2を形成する(図1(c))。そして、これをペースト状にして乾燥することで、純度の高いR型二酸化マンガンのナノニードルで構成される二酸化マンガンナノニードル多孔体を短時間で合成することができるのである。
【0023】
以上の反応は、触媒反応と考えられる。すなわち、外殻の成分である酸化マンガンMn2O3と、炭酸マンガンMnCO3n水和物を混合した粉体を上記と同様にして酸処理および乾燥処理したところ、ベータ型のMn2O3が得られ、R型のMnO2は得られなかった。また、外殻の成分である酸化マンガンMn2O3と、炭酸マンガンMnCO3n水和物を混合した粉体を希塩酸の中に4ヶ月保ち、これを濾過・乾燥して得られたものは、R型MnO2とベータ型MnO2が混合した二酸化マンガンであるが、ナノスケールの大きさのものは得られなかった。これらの実験結果から、純度の高いR型二酸化マンガンのナノニードルをナノスケールで短時間に合成することを可能とした本手法の化学反応は触媒反応であるといえる。
【0024】
本願発明において、使用する炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末としては、市販品を用いることができる。たとえば本願発明では、後述する実施例において炭酸マンガン・n水和物(試薬特級和光純薬工業製)を用いている。この炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末は、一般的には、大きさ数ナノ〜数10ナノメートルの不定形の単結晶粒子が凝集して1〜数10マイクロメートル程度の粒径の粒が形成されている。なお、この炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末は、試薬瓶を開封した直後の大きさの揃っている状態のものを使用することが好ましい。試薬瓶を長時間開放していた場合には、時間の経過にともない炭酸マンガンn水和物が吸湿して粒が粗くなって大きさが不均一な粒子群となるため、焼成時には外殻に生じる酸化マンガンMn2O3の厚みや形を均一にすることができなくなる場合があるので好ましくない。
【0025】
酸処理は、5〜60℃の範囲の温度で行うことが考慮される。マンガンイオンの酸化反応は、酸処理温度(酸処理溶液の温度)を室温で保管された状態での酸処理溶液の温度よりも高めに設定したり、太陽光(紫外線)をあてることで、より反応速度が高まり、大きなサイズのニードルを合成することができる。より大きなサイズのニードルを合成する場合には、酸処理溶液の温度を30℃以上に保ち、かつ太陽光が当たる場所で酸処理溶液を攪拌することが効果的である。
【0026】
なお、酸処理に用いる酸としては、たとえば塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸であってよく、なかでも、焼成後の炭酸マンガンn水和物の外殻として生じる酸化マンガンMn2O3を効率的に水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oに相変化するためには塩酸が好ましい。酸の濃度としては、0.1〜1.0mol/Lの範囲、より好ましくは0.5〜1.0mol/Lの範囲である。
【0027】
水素化した酸化マンガンHMnO2は、上述したように、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末を焼成し、これを希塩酸などの酸処理溶液中でたとえば1〜5時間程度攪拌して酸処理し、減圧ろ過器で固液分離して回収することで得られる。この処理を少なくとも2回以上繰り返すことで、HMnO2以外の不純物、例えば残留炭酸マンガン成分や酸化マンガン微粒子などを溶解除去できる。なお、酸処理の回数は、酸処理する焼成炭酸マンガンから発生する二酸化炭素の気泡の発生が酸処理を繰り返しても目視できなくなれば充分である。たとえば、毎回容量1Lのビーカーに希塩酸を新たに注ぎなおして酸処理の回数を重ねずとも、1つのビーカー内で、酸処理時の希塩酸のpHが0.5〜0.6を保つように濃塩酸を適時滴下する操作でも構わないが、特に一回目の酸処理時には炭酸マンガンの溶解反応から発生する水の影響でpHの上昇が激しく生じる。このためpHを0.5〜0.6に保つ操作は専用の滴定装置なしには容易ではない。このため本手法では、酸処理の回数を数回重ねている。
【0028】
上記回収物は、水分を含んだ状態で水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子が多数集まったペースト状となっている。この水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子は不定形であるが、このペーストを乾燥処理してR型二酸化マンガンのナノニードルを合成した後、再びこのR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理することで、そのR型二酸化マンガンのナノニードルと同様の大きさおよび形状の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノニードルである水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子を得ることができる。R型二酸化マンガンのナノニードルへの酸処理については、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末の焼成物への酸処理と同様である。
【0029】
二酸化マンガンナノニードル多孔体は、上述したように、ペーストの乾燥処理によって得られるが、その乾燥処理の際にペーストから水分が蒸発して、水素化した酸化マンガンがR型二酸化マンガンMnO2のナノニードルへと成長し、このナノニードル同士が絡み合うことで、大きさがセンチメートル単位のブロックを得ることができる。なお、酸化マンガンのナノニードルが得られずに単に酸化マンガンのナノ粒子が主成分として得られている場合や、原料成分の除去が不完全な場合には、上記乾燥処理によって得られる材料はブロック化せずに、脆い砂状となり、表面のビッカース硬度は測定することさえ困難となる。
【0030】
また、乾燥処理の際に数百メッシュ程度の金属の網(網の材質は用途に応じてテフロン(登録商標)やカーボンメッシュなど変えることができる)に上記ペーストを塗布して乾燥処理することで、メッシュが骨材となり、種々の用途に応じた形状を有する膜状体を作ることができる。さらに、このようにして得られた膜状体同士を接触させた状態で150〜220℃、好ましくは200℃で加熱することで接合することができ、目的に応じて簡易に膜厚を増加させることも可能である。
【0031】
上記の乾燥処理後に得られたブロックや膜状体を窒素ガス吸着法によって平均細孔直径とBET比表面積を計測すると、平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積が40〜200m2/gの範囲であるメソポーラス多孔体構造であることがわかる。
【0032】
炭酸マンガンn水和物の焼成は、以上のとおりルツボに入れて焼成しているが、このルツボの形状としては、原料の炭酸マンガンMnCO3・nH2Oが酸化マンガンMn2O3に酸化される際に発生する二酸化炭素CO2ガスの流出方向が一方向になるような形状であることが好ましい。具体的には、中心に小孔の開いたフタをしたルツボや試験管のような形状が好ましい。二酸化炭素CO2ガスの流出方向を一方向にすることで、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが一定にすることができ、最終的に得られるニードル状の二酸化マンガンの収率を向上させることができる。開口部が広い、たとえば平たい皿型セラミック板上で原料の炭酸マンガンMnCO3・nH2Oを焼成した場合には、CO2ガスの拡散が一方向に流出しないために、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが一定化せず、結果として最終的にニードル状の二酸化マンガンの収率が低下してしまう。
【0033】
また、焼成には電気炉を用いることが考慮されるが、この電気炉は炭酸マンガンの表面を均一に酸化するために、外部との通気孔がついていてかつ充分な炉内の容積を有するものであることが好ましい。炉内の容積が原料を入れたルツボの大きさ程度しかなく、密閉されているような電気炉を用いて焼成した場合は、炭酸マンガンの表面の酸化が均一になりにくいため好ましくない。
【0034】
本願発明では、上記ペーストの乾燥条件を変えることによって、得られる二酸化マンガンナノニードルの大きさを制御するとともに、二酸化マンガンナノニードル多孔体の平均細孔直径およびBET比表面積の大きさを調節することができる。たとえば、乾燥条件として、大気中、乾燥機などで90〜120℃、2時間〜12時間乾燥することで、すなわちペースト中の水分の脱水速度を速めることで、得られるR型二酸化マンガンのナノニードルの大きさをより小さくすることができる。具体的には、太さ2〜10nm、長さ5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルとすることが可能となる。
【0035】
一方で、より大きく成長したR型二酸化マンガンのナノニードルを得るためには、ペースト中の水分の脱水速度を遅くしたり、上記ペーストに希塩酸などの希酸を添加してペーストが含む水分中の水素イオンの量を増加させた後、乾燥処理することで、より大きく成長したR型二酸化マンガンのナノニードルを得ることができる。具体的には、太さ10〜30nm、長さ30〜300nmのR型二酸化マンガンのナノニードルとすることが可能となる。上述したように、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末を焼成し、これを希塩酸などの酸処理溶液中で攪拌して、減圧ろ過器で固液分離して回収したペーストには、当然希塩酸が含まれている。このペーストに対して、新たに希塩酸を添加して該ペーストに含まれる希塩酸の量を増加させる、すなわち、該ペーストが含む水素イオンの量を増加することで、より大きく成長したR型二酸化マンガンのナノニードルを得ることができるのである。この理由としては、ペーストの乾燥処理において、ペースト内の水分が蒸発するにつれて希塩酸の濃度が高まり、水素化した酸化マンガンがマンガンイオンMn2+として溶解し、水素化した酸化マンガンの粒子同士の結合が生じるためと考えられる。該ペーストが含む水素イオンの量を増加する方法としては、上記のようにペーストに新たに希塩酸を添加してもよいが、減圧ろ過器で回収する際に希塩酸を充分吸引除去されない段階でろ過操作を止めるようにしてもよい。
【0036】
このように乾燥条件およびペースト中の水素イオンの量を調整することで、R型二酸化マンガンのナノニードルの大きさを制御することができるのである。したがって、目的とする大きさのR型二酸化マンガンのナノニードルを得るためには、あらかじめ所定の乾燥条件でナノニードルを合成して、そのナノニードルの大きさを測定しておくことで、適宜に条件を設定して目的のナノニードルを得ることができる。たとえば、目的とする大きさがあらかじめ合成したナノニードルより大きい場合には、乾燥条件の脱水速度を遅くする、あるいは該ペーストが含む水素イオンの量を増加する。一方、目的とする大きさがあらかじめ合成したナノニードルより小さい場合には、乾燥条件の脱水速度を速くするか、ペースト中の水素イオンの量を少なくするように条件を設定する。この操作を繰り返すことにより、細くて短いR型二酸化マンガンのナノニードルと、太くて長いR型二酸化マンガンのナノニードルを作り分けることができる。このR型二酸化マンガンのナノニードルが凝集されてメソポーラス多孔体構造が形成される二酸化マンガンナノニードル多孔体は、その平均細孔直径と比表面積はR型二酸化マンガンのナノニードルの太さと長さに依存する。たとえば、太さ2〜10nm、長さ5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルで構成される酸化マンガンナノニードル多孔体では、平均細孔直径が7nm〜14nmの範囲、BET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲となる。そして、太さ10〜30nm、長さ30〜300nmのR型二酸化マンガンのナノニードルで構成される酸化マンガンナノニードル多孔体では、平均細孔直径が15nm〜30nmの範囲、BET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲となる。
【0037】
したがって、本願発明は、乾燥条件およびペーストが含む水素イオンの量を調整することで、使用目的に応じた平均細孔直径と比表面積を有する二酸化マンガンのメソポーラス多孔体を合成することができる。
【0038】
さらに、本願発明は、炭酸酸化ビスマスを原料である炭酸マンガン水和物に混合して、上記の一連の手法で焼成と酸処理および乾燥処理行うことで、最終的に得られたR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の比表面積を向上させることができる。たとえば、炭酸酸化ビスマスを混合することによって、混合前と比較してメソポーラス多孔体のBET比表面積を約1.75倍の200m2/g程度まで向上させ、平均細孔直径を3nm程度まで小さくすることができる。以上の炭酸酸化ビスマスは、酸処理の際に炭酸マンガン水和物よりもゆっくり溶解することで、最終的に得られる二酸化マンガンのメソポーラス多孔体内に細孔を作るテンプレートの役割を果たしていると考えられる。したがって、このようなテンプレートとしての役割を果たす材料としては、炭酸マンガン水和物よりも酸化物に変わる温度が高く、酸処理溶液中での溶解度が炭酸マンガンよりも低いものであればよく、上記の炭酸酸化ビスマスに限定されるものではない。
【0039】
上記二酸化マンガンナノニードル多孔体は赤外線吸収材料として用いることができる。赤外線吸収材料としての赤外線吸収能・透過能の評価は、たとえば後述の実施例のように赤外分光光度計(FT・IR)を用いて評価することが有効である。この赤外分光光度計による測定は、上記の二酸化マンガンナノニードル多孔体をプレス機で加圧成形した試験体に総出力170Wのセラミック光源から放出される2.5〜25μmの波長領域の赤外線を照射している。たとえば試験体が直径10mm、厚さ0.5mm(誤差プラスマイナス0.1mm)である場合、試験体中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の重量が0.2g以上では、照射した赤外線をほとんど透過せずに吸収してしまうことがわかった。また、試験体中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の重量を0.115gまで減らすと、10μm以上の領域で赤外線の透過が観察されることもわかった。
【0040】
実際に赤外線吸収材料として二酸化マンガンナノニードル多孔体を利用する際には、乾燥後の二酸化マンガンナノニードル多孔体粉末を任意の材料の表面に塗布したり、塗料に添加することで任意の表面に赤外線吸収能を付加することができる。また、乾燥固化前のペーストを布などの生地に塗り付けた後、乾燥処理することで布の生地など不定形な材料表面に赤外線吸収能を付加することができる。
【0041】
また、本願発明は上記の赤外線吸収材料を含有する赤外線フィルターをも提供する。この赤外線フィルターは、波長10μm以上の赤外線領域において、特定波長の赤外線だけを選択的に透過することを可能とするものである。具体的には、たとえば、総出力170Wのセラミック光源から2.5〜25μmの波長領域の赤外線を照射した場合、波長領域10〜14μm、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)1.2〜1.6の範囲の赤外線が透過され、より好適には波長領域12〜13μm、半値幅1.3〜1.5μmの範囲の赤外線が透過される。
【0042】
以上の赤外線フィルターは、赤外線が透過するような、ガラスや樹脂あるいは後述するKBr粉末などの透明な材料に添加されて作製することができる。
【0043】
この赤外線フィルターの性能は、上記の赤外線吸収材料のように赤外分光光度計で測定することで評価することができる。たとえば、二酸化マンガンナノニードル多孔体粉末とKBr粉末とを重量混合比1:15.5の割合でメノウ乳鉢でよく混合し、これをプレス機で直径10mm、厚さ0.5mm(誤差プラスマイナス0.1mm)に加圧成形した試験体に総出力170Wのセラミック光源から放出される2.5〜25μmの波長領域の赤外線を試験体に照射して、赤外線吸収能・透過能を評価すると、赤外線透過強度のピークトップ波長が12.3〜12.5μm、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)が1.36〜1.49μmである赤外線の透過性を示すことがわかる。一方、後述するが、市販の二酸化マンガン粉末を同条件でペレット化して赤外線透過性を測定したところ、吸着水に起因するピークが見られ、さらに透過ピークの半値幅も10%近く広い結果が得られた。このため、二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外吸収能の高さと、狭い波長領域の赤外線が透過することから、赤外線フィルターとしての性能が優れていることがわかる。
【0044】
さらに、本願の赤外線フィルターは、比表面積が大きい二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いた場合、試験体を透過する赤外線強度が低くなる傾向にある。したがって、入射する赤外線の出力が高い場合には、比表面積が大きい二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いることで、効果的に赤外線を吸収することできる。また、本願の赤外線フィルターは、二酸化マンガンナノニードル多孔体の添加量や比表面積を適宜に選択することで、赤外線透過性を制御することができる。
【0045】
本願発明の水素化した酸化マンガンHMnO2は、二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価のナノ微粒子であり、この水素化した酸化マンガンは付加的な電気エネルギーなしに、水中で金の錯体HAuCl4やパラジウムの錯体PdCl2をそれぞれ金属金ナノ粒子、金属パラジウムのナノ粒子として水素化した酸化マンガンの表面に析出させる強い還元能力を有している。したがって、上述したようなR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理した水素化した酸化マンガンを用いることで、その表面に金属金ナノ粒子、あるいは金属パラジウムのナノ粒子を析出させることができる。よって、金属を担持させた金属担持R型二酸化マンガンのナノニードルを得ることが可能となる。
【0046】
従来報告されている水素化した酸化マンガンは、Groutite(alpha・MnOOH),およびGroutellite(Mn0.5Mn0.5)O1.5(OH)0.5)であるが、これらはいずれもR型二酸化マンガンがプロトンH+の侵入によってマンガンが+3価に還元されることで生じる化学種であり、少なくとも+3価のマンガンを40%以上含んでいる。さらに、これらのX線回折パターンはR型二酸化マンガンのX線回折パターンと比較して、プロトンの含有量に応じて明確な回折ピーク位置のシフトをみせる。C. Klingsberg and R. Roy, Amer. Mineral., Vol. 44, pp. 819−838, 1959、L.A.H. MacLean and F.L. Tye, The Structure of fully H−Inserted gamma− Manganese Dioxide Conpoounds, J. Solid State Chem., Vol. 123, pp. 150−160, 1996、J.E. Post and P.J. Heaney, Neutron and synchrotron X−ray diffraction study of the structures and dehydration behaviors of ramsdellite and groutellite, American Mineralogist, Vol. 89, pp. 969−975, 2004。
【0047】
以上を考慮すると、本願発明の水素化した酸化マンガンは、1)R型二酸化マンガンと同様のX線回折ピーク位置を示すこと、2)X線吸収端分析によって+4価のマンガンであること、3)従来から既知の水素化した酸化マンガンであるGroutite,およびGroutelliteには全く報告例が存在しない金錯体やパラジウム錯体に対する強い還元能力を有することなどから、新種の水素化した酸化マンガンであり、化学式は(H+,e−)xMnO2であると考えられる。この酸化マンガンの中で、プロトンH+は2つの酸素原子O−O間に存在することが予想されるため、(H+,e−)xMnO2の化学式の中でXは1.0以下の数値であると考えられる。そして、この水素化したマンガンは、R型二酸化マンガンの結晶構造の中にプロトンH+と電子e−が固溶した状態にあり、金の錯体やパラジウムの錯体などと接触した際に自身の電子e−をそれら錯体に供与し、プロトンH+を水中に放出するものと考えられる。
【0048】
さらに、本願発明の水素化した酸化マンガンについて詳細に説明する。
【0049】
本願発明の水素化した酸化マンガンに中性子を照射して非弾性散乱した中性子を調べることで、水素化した酸化マンガンに含まれる、水素原子‐酸素原子結合の振動エネルギーを測定することができる。この結果を図2に示す。
【0050】
この図2の縦軸は振動の強度、横軸は振動のエネルギーである。黒丸で示されたグラフが本願発明の水素化した酸化マンガンに中性子を照射した結果であり、もう一方のグラフは、比較のために氷に中性子を照射した結果である。図2中の右上に示した(a)図は、振動エネルギー0〜50meVの範囲(横軸)を拡大した図である。水素化した酸化マンガンのグラフにおいて366meVに検出されたピークは2.57〜2.60Åの結合距離を有する酸素原子−酸素原子間に捕捉されて振動しているプロトンH+の存在を示しており、酸処理によって水素化した酸化マンガンに含まれる水H2O内のプロトンH+の振動エネルギーである410meVとは異なる水素原子−酸素原子結合の振動エネルギーである。一方で、氷のグラフには、酸処理起源の366meVのピークが存在せずに、水起源のO−H振動のみが観察される。なお、測定には米国アルゴンヌ国立研究所におけるIntense Pulsed Neutron Source部門の非弾性中性子散乱エネルギー測定装置HRMECSを使用し、計測温度9Kである。
【0051】
表1は種々の結晶構造の二酸化マンガン内に存在する、酸素原子−酸素原子間距離である。
【0052】
【表1】
表1中、R型の二酸化マンガンの結晶構造には、2.573および2.589Åの酸素原子−酸素原子間距離が存在することがわかる。先の中性子照射実験の結果から得られた情報である2.57〜2.60Åの結合距離に相当する酸素−酸素が、このようにR型二酸化マンガンの結晶中に存在する。したがって、酸処理によってR型二酸化マンガンの結晶に侵入したプロトンH+は結合距離が2.573および2.589Åの酸素原子−酸素原子間に捕捉されて固溶していることがわかる。
【0053】
原子間距離が2.589Åである酸素原子−酸素原子の結合は、図3に示すように、R型二酸化マンガンの結晶構造のb軸方向に沿ってネットワークを構成している。
【0054】
このため、R型二酸化マンガンの結晶に侵入したプロトンH+はこのネットワークをに沿って拡散伝導して行くものと考えられる。また、このネットワークが存在するb方向は、R型二酸化マンガンナノニードルの長さの成長方向でもある。このため、同ナノニードルの長さが成長するメカニズムには、酸処理によって侵入したプロトンH+がネットワーク導伝する現象が関係しているものと考えられる。通常、電池材料として年間20万トンが消費されているガンマ型二酸化マンガンは、R型結晶構造の中にイプシロン型の結晶構造や、ベータ型の結晶構造が不純物として混入している。これら不純物の結晶構造には、表1に示すように、2.57〜2.60Åの結合距離の酸素原子−酸素原子結合が存在しない。このためそれらの不純物が存在する箇所ではプロトンH+を伝導するネットワークが途切れてしまう。
【0055】
このため、高純度のR型結晶が反応性の高いナノ粒子として得られる本願のR型二酸化マンガンには、プロトンH+やプロトンに伴われた電子e−の伝導に係わるエネルギーロスの少ない電池材料として期待される。
【0056】
水素化した酸化マンガンに固溶可能なプロトンH+と電子e−の数の最大値は、結晶内に存在する結合距離が2.573および2.589Åの酸素原子−酸素原子結合の数に等しいと考えられる。また、これらの原子間距離をもった酸素原子−酸素原子の結合は結晶構造内で規則正しいネットワークを構成しているため、これらの酸素原子−酸素原子間に捕捉されているプロトンH+と電子e−も結晶内で均一な密度で分布していると考えられる。このため、電子e−だけが二酸化マンガンの結晶内に存在する場合に比較して、二酸化マンガンの表面において局部的な電界集中が起りにくいという利点が発生する。よって、本願の水素化した酸化マンガンの表面には、上述したように金属金ナノ粒子、あるいは金属パラジウムのナノ粒子を析出させることができるが、その析出状態は均一で高密度に金属ナノ粒子の析出を表面に生じさせることができる。金属パラジウムには、水素ガスH2をプロトンH+に分解し、パラジウムの結晶内にPd−Hの結合として侵入させる性質が有るため、本願によって実現された高密度・均一分布なパラジウムのナノ粒子を析出した酸化マンガンは、水素ガスや炭化水素ガスの分解触媒分野での応用が期待される。
【0057】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本願発明が限定されることはない。
【実施例】
【0058】
<実施例1> 太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の合成と特性
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gをアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に入れて、大気圧下、195℃で、昇温時間も含めて計6時間、電気炉を使って焼成した。その際、室温から195℃までの昇温速度は3℃/分とした。つぎに、焼成によって得られた粉末50gを水温14℃の濃度0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させてマグネチックスタラーで1時間攪拌した。攪拌の際には、懸濁液に実験室の窓のすりガラスを透過した太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。1時間攪拌後の懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返した。したがって、焼成した炭酸マンガンn水和物に対して計3回酸処理を実施した。最後に、酸処理後のペーストを100mLの純水で通水洗いした後、そのままガラス密閉容器内に保管した。
【0059】
ガラス密閉容器に保管した湿ったペーストから10gを取り出し、ガラスシャーレに移して、乾燥機内で大気圧下、110℃で6時間乾燥した。乾燥後の固化したブロックから、透過電子顕微鏡による観察と窒素ガス吸着法による表面分析のための必要量をサンプリングし、それぞれの測定手順に従って、観察・分析した。その結果、透過電子顕微鏡による観察では、太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのナノニードルが、空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された(図4参照)。また、ナノニードルの先端部を観察した写真を図5に示す。この図5よりナノニードルの先端部は、丸みを帯びた(角が丸まった)形状をしていることが確認された。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0060】
また、窒素ガス吸着法による表面分析から、サンプリングした材料が平均細孔直径11.7nm(図6参照)、BET比表面積109.35m2/g、全細孔容積0.32cm3/gのメソポーラス多孔体であることを確認した。なお、平均細孔直径とBET比表面積の測定には、島津製作所ーマイクロメリティクス製ASAP2020を使用した。
【0061】
また、同ブロックからサンプリングした材料をX線回折分析することによって、同ブロックの化学組成がR型の二酸化マンガンであること、およびX線回折パターンに炭酸マンガン起源の回折ピークが観察されないことから原料の炭酸マンガンが残留していないことを確認した。なお、X線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
【0062】
また、同ブロックの表面硬さをビッカースの硬さ試験法により測定した。測定に当たっては、同ブロック表面に金薄膜をスッパッタリング法によって被覆することで、表面の反射率を上げて試験圧痕のサイズを測定した。測定の結果、同ブロック表面のビッカース硬度が24であることがわかった。なお、ビッカース硬度の測定には、島津製作所製マイクロビッカース固さ試験機HMV−2000を使用した。
<実施例2> 太さが10〜30nm、長さが30〜300nmのR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の合成と特性
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gをアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に入れて、大気圧下、200℃に予め加熱した状態の電気炉に素早く設置して、昇温時間も含めて計6時間焼成した。つぎに、焼成によって得られた粉末50gを水温32℃、濃度0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させてマグネチックスタラーで2時間攪拌した。攪拌の際には、懸濁液に太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。実験当日は、8月の晴天日であったため、酸処理に使った上記の希塩酸の水温が高く、また、太陽光が実験室の透明ガラスを通過して照射されることで、マンガンイオンの酸化反応が実施例1や実施例3の場合に比べて促進されていたと考えられる。2時間30分攪拌後の懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返し、減圧ろ過器でろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。したがって、焼成した炭酸マンガンn水和物に対して計3回酸処理を実施した。
【0063】
ろ紙上の湿ったペーストに、0.5M希塩酸2mLを滴下して含ませ、さらにそのペーストを0.5M希塩酸を充分含ませたろ紙2枚で包装して、高さ80mm、内径30mmのガラス瓶に挿入した。その後、このガラス瓶を乾燥機内で大気圧下、100℃で乾燥した。乾燥後の固化したブロックから、透過電子顕微鏡(TEM)による観察と窒素ガス吸着法による表面分析のために必要量をサンプリングし、それぞれの測定手順に従って、観察・分析した。その結果、透過電子顕微鏡による観察では、太さ10〜30nm、長さ30〜300nmのナノニードルが空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された(図7,図8参照)。また、ナノニードルの先端部を観察した写真を図9に示す。この図9よりナノニードルの先端部は、丸みを帯びた形状をしていることが確認された。図10は、図8の高解像度写真である。この図10では(101)面の結晶の乱れが観察できる。右下の画像処理により得られた電子線回折パターンのコントラストの高さが本サンプルの結晶性の高さを示している。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0064】
また、窒素ガス吸着法による表面分析から、サンプリングした材料が平均細孔直径18.68nm(図11参照)、BET比表面積46.47m2/g、全細孔容積0.22cm3/gのメソポーラス多孔体であることを確認した。なお、平均細孔直径、BET比表面積、全細孔容積の測定には、島津製作所ーマイクロメリティクス製ASAP2020を使用した。
【0065】
また、同ブロックからサンプリングされた材料のX線回折分析を行うことで、同ブロックがR型の二酸化マンガンを主成分とすること、およびX線回折パターンに炭酸マンガン起源の回折ピークが観察されないことから原料の炭酸マンガンが残留していないことを確認した(図12参照)。図中、菱形印の横の数字はR型二酸化マンガンのX線回折ピークの理論回折角ピーク位置を示す。本発明のサンプルは、R型二酸化マンガンの理論回折角ピークの位置にピークを示していることがわかる。なお、X線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
【0066】
また、同ブロックの表面硬さをビッカースの硬さ試験法により測定した。測定に当たっては、同ブロック表面に金薄膜をスッパッタリング法によって被覆することで、表面の反射率を上げて試験圧痕のサイズを確認した。測定の結果、同ブロック表面のビッカース硬度が27であることがわかった。なお、ビッカース硬度の測定には、島津製作所製マイクロビッカース固さ試験機HMV−2000を使用した。
<実施例3> 太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の比表面積を向上させる実験
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gと試薬特級の炭酸酸化ビスマス(III)、Bi2(CO3)O22.5gをメノウ乳鉢でよく混合する。混合した粉末をアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に移し、大気圧下、195℃で、昇温時間も含めて計6時間、電気炉を使って焼成した。その際、室温から195℃までの昇温速度は3℃/分とした。つぎに、焼成によって得られた粉末25gを水温が12℃、濃度0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させてマグネチックスタラーで1時間攪拌した。攪拌の際には、懸濁液に実験室のすりガラスを透過した太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。1時間攪拌後の懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返した。したがって、炭酸マンガンn水和物と炭酸酸化ビスマスの混合粉体を焼成して得た粉体に対して計3回酸処理を実施した。最後に、酸処理後のペーストを100mLの純水で通水洗いした後、湿った状態のままガラス密閉容器内に保管した。
【0067】
ガラス密閉容器に保管した湿ったペーストから2gを取り出し、ガラスシャーレに移して、乾燥機内で大気圧下、110℃で6時間乾燥した。乾燥後の固化したブロックから、透過電子顕微鏡(TEM)による観察と窒素ガス吸着法による表面分析のために必要量をサンプリングし、それぞれの測定手順に従って、観察・分析した。その結果、透過電子顕微鏡による観察では、太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのナノニードルが空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された。また、1本のナノニードルの拡大写真を図9に示す。この図13によれば、太さ6nm程度の均一なナノニードルであることが観察された。また、ナノニードルの先端部を観察した写真を図14に示す。この図14よりナノニードルの先端部は、丸みを帯びた形状をしていることが確認された。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0068】
窒素ガス吸着法による表面分析から、サンプリングされた材料が平均細孔直径9.26nm、BET比表面積173.29m2/g、全細孔容積0.40cm3/gのメソポーラス多孔体であることを確認した。
【0069】
また、炭酸マンガンn水和物25gに混合する炭酸酸化ビスマスを5gと増やした場合には、上記と同条件の方法によって、最終的に同じサイズの二酸化マンガンのナノニードルが得られ、それが凝集することで、平均細孔直径5.487nm、BET比表面積190.93m2/g、全細孔容積0.263cm3/gのメソポーラス多孔体が得られることを確認した。
【0070】
このように炭酸酸化ビスマスを少量混合することで、最終的に得られるR型の二酸化マンガンのナノニードルから構成されたメソポーラス多孔体ブロックのBET比表面積を、同条件下で合成した炭酸酸化ビスマスを混合しない場合のBET比表面積109.35m2/g(実施例1)の結果に比べて約1.59倍〜1.75倍に増加させる効果が得られることを確認した。なお、平均細孔直径とBET比表面積の測定には島津製作所製ASAP2020を使用した。
【0071】
また、同ブロックからサンプリングされた材料のX線回折分析を行うことで、同ブロックがR型の二酸化マンガンを主成分とすること、およびX線回折パターンに炭酸マンガン起源の回折ピークと、炭酸酸化ビスマスおよび酸化ビスマス起源のピークがほとんど観察されないことを確認した。したがって、原料の炭酸マンガンおよび炭酸酸化ビスマスが同ブロックにはほとんど残留していないこと、および195℃の様な低温の焼成では同多孔体の化学成分的な観点からは不純物となる酸化ビスマスBi2O3が生じていないことを確認した。なお、X線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
【0072】
また、同ブロックの表面硬さをビッカースの硬さ試験法により測定した。測定に当たっては、同ブロック表面に金薄膜をスッパッタリング法によって被覆することで、表面の反射率を上げて試験圧痕のサイズを確認した。測定の結果、同ブロック表面のビッカース硬度が20であることがわかった。なお、ビッカース硬度の測定には、島津製作所製マイクロビッカース固さ試験機HMV−2000を使用した。
<実施例4> 太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードル合成の際に、酸処理時に使用する希塩酸の水温の影響を確認した実験、および水素化した酸化マンガンHMnO2の結晶構造が乱れていることを確認した実験
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gをアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に入れて、大気圧下、200℃で、昇温時間も含めて計6時間、電気炉を使って焼成した。その際、室温から195℃までの昇温速度は5℃/分とした。つぎに、焼成によって得られた粉末5gを、水温が14℃で濃度が0.5Mの希塩酸100mL、または水温が35℃で濃度が0.5Mの希塩酸100mLにそれぞれ懸濁させてマグネチックスタラーで1時間攪拌した。攪拌の際には、各懸濁液に実験室の窓のすりガラスを透過した太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。1時間攪拌後の各懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返した。したがって、焼成した炭酸マンガンn水和物に対して計3回酸処理を実施した。酸処理時の希塩酸の温度が14℃の場合と、35℃の場合にそれぞれ得られた酸処理後の各ペーストを希塩酸で湿った状態のままガラス密閉容器内に保管した。
【0073】
ガラス密閉容器に保管した湿ったペーストから各10gを取り出し、ガラスシャーレに移して、乾燥機内で大気圧下、110℃で2時間乾燥した。乾燥後の固化した各ブロックから、透過電子顕微鏡による観察のための必要量をサンプリングし、測定手順に従って観察した。その結果、酸処理時の酸の水温が14℃の場合では、太さが3nm、長さが10nmのナノニードルが、空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された。一方、酸処理時の水温が35℃の場合では、太さが3〜8nm、長さが20〜30nmのナノニードルが、空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された。このように、酸処理時に使用する酸の水温が高いとサイズが大きなナノニードルが得られることがわかった。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0074】
次に、酸処理直後の各ペーストと、各ペーストを上記乾燥条件で乾燥処理した場合に生じる結晶構造の変化をX線回折分析することによってを調べた。その結果、図15に示すように酸の水温が14℃場合には、酸処理直後のペースト(主成分がHMnO2)は極めてブロードなX線の回折ピーク(a)を示し、プロトンH+の侵入によって結晶構造の規則性が弱められている結果が得られた。このペーストのサンプルを乾燥すると、同図(b)に示した様なR型二酸化マンガンに特徴的な回折角をもつX線回折パターンが現れた。
【0075】
一方、図16に示すように酸の水温が35℃と高い場合には、先の透過電子顕微鏡観察結果から明らかなように、ナノニードルのサイズが大きいことが原因で比表面積が小さくなるため、プロトンH+の侵入量が減少し、結果として酸処理直後のペースト(主成分がHMnO2)の回折パターン(a)においても乾燥後のR型二酸化マンガンの回折パターン(b)と同等な強度のX線回折ピークが観察される。この(a)のペーストも乾燥処理後には、同図(b)に示したようにR型二酸化マンガンの結晶構造が得られることがわかる。なお、これらのX線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
<実施例5> R型二酸化マンガンの純度の評価
実施例1で得たR型二酸化マンガンの純度を、X線回折分析により評価した。純度は、二酸化マンガン結晶の歪みを表す指標である「歪み係数」Jahn−Teller distortion factor(Y. Chabre and J. Pannetier, Structural and electrochemical properties of the proton /gamma−MnO2, Prog. Solid St. Chem., Vol. 23, pp. 1−130, 1995)を、K. Suetsugu, K. Sekitani and T. Shoji, An investigation of structural water in electrolytic manganese dioxide (EMD), TOSOH, Research & Technology Review, Vol. 49, pp.21−27, 2005の算出方法にしたがって算出・評価した。算出の結果、本願のR型二酸化マンガンの場合に得られた歪み係数は0.957であり、ベータ型やイプシロン型など他の結晶構造が混じっていない純度が100%のR型二酸化マンガンとしての理論的な歪み係数の値である0.95に非常に近い値が得られた。純度の比較例として、工業的に二酸化マンガンを合成する一般的な手法である電解法を用いて高純度のR型二酸化マンガンを得る条件(アノード電流12A/m2,9×104C、二酸化マンガンが析出する電極に50mm×100mmを使ったとすると析出には17日必要)で合成した場合に得られるR型二酸化マンガンの歪み係数が0.96以上であることが挙げられる。この値を考慮すると、本願のR型二酸化マンガンは極めて高純度であり、しかも付加的な電気エネルギーを必要としない水溶液中の触媒反応よって1〜3時間と極めて短時間で合成できることが明らかになった。
【0076】
なお、歪み係数の算出に当たっては、本願の方法で得たR型二酸化マンガンのX線(Cu−Kα)回折パターンから求められた格子乗数であるd(210)=2.424、d(211)=2.127、d(610)=1.359Åが使われた。その際、結晶軸を決める三次元軸であるa,b,c軸の設定はC. Fong, B.J. Kennedy, M.M. Elcombe, A powder neutron diffraction study of lambda and gamma manganese dioxide and of LiMn2O4, Zeitschrift Fuer Kristallographie, Vol. 209, pp. 941−945, 1994に従った。
<実施例6> 酸処理に使用する酸の種類
実施例2において、濃度0.5Mの希塩酸の代わりに濃度0.5Mの希硫酸を用いて酸処理を実施した。また、酸処理後のペーストに添加する酸およびそのペーストを包装するろ紙に含ませる酸についても、希塩酸の代わりに濃度0.5Mの希硫酸を用いて、実施例2の条件下で乾燥処理し、得たサンプルをX線回折分析した。その結果、R型の二酸化マンガンに特有なX線回折パターンが得られた。このため、塩酸よりも単価の安い硫酸を用いた場合でもR型二酸化マンガンが得られることがわかった。ただし、同条件下で酸処理に希塩酸を用いた場合に比較して、得られるR型二酸化マンガンのX線回折パターンの強度が若干低いことから、R型二酸化マンガンの成長を促すためには希硫酸よりも希塩酸を用いた方が好適であるといえる。同様に、希塩酸の代わりに希硝酸を酸処理に用いてもR型二酸化マンガンが得られた。
<実施例7> 水素化した酸化マンガンの評価
200℃で6時間、炭酸マンガンn水和物を加熱して得た粉末25gを0.5M希塩酸1Lに懸濁させて1時間攪拌後濾過回収してペーストを得た。さらにこのペーストを0.5M希塩酸1Lに懸濁させて1時間攪拌するといった一連の酸処理を2回繰り返して(したがって酸処理はトータル3回)、ペーストを濾過回収した。これをガラスプレートに塗布し、ただちに粉末X線回折分析装置に装填して分析した。また、このペーストに2mLの0.5M希塩酸を滴下し、同希塩酸を含んだろ紙で包装した後、高さ80mm、内径30mmのガラス瓶に挿入して乾燥機内に12時間大気圧下100℃に保持・乾燥処理してR型二酸化マンガンを得た。このR型二酸化マンガンの塊をメノウ乳鉢で粉砕し、ガラスプレートに圧着して粉末X線回折分析を実施した。上記ペースト、およびそれを乾燥処理して得たR型二酸化マンガン(R−MnO2)に関するX線回折分析結果を図17に示す。
【0077】
図17では、ペーストとR型二酸化マンガン(R−MnO2)は同じ回折角にピークを示している。これは、ペーストを構成している物質の結晶構造がR型二酸化マンガンと同じ結晶構造を有していることを示す。また、ペーストの(101)面に関するピークはR型二酸化マンガンの(101)面のピークに比べてブロードであり、ペーストの(101)面はプロトンH+の侵入の影響を強く受けて結晶構造が乱れていることがわかる。なお、図17中の最下段に線で示した回折ピークは文献値(C. Fong, B.J. Kennedy, M.M. Elcombe, A powder neutron diffraction study of lambda and gamma manganese dioxide and of LiMn2O4, Zeitschrift Fuer Kristallographie, Vol. 209, pp. 941−945, 1994)による理論的なR型二酸化マンガンの回折ピーク位置を示す。計測は、Rigaku RAD−II Bを使用した。
【0078】
また、ペーストのX線吸収端分析(XANES)によるマンガン価数の分析結果を図18に示す。なお、XANESの測定に当たっては、ペーストの乾燥を防ぐため、X線に対して透明なポリエチレンの袋に密閉して測定サンプルとし、計測には、Rigaku R−XAS Looperを使用した。
【0079】
図18では、ペーストのX線吸収端の位置は、標準試料として測定した二酸化マンガンMnO2とほぼ同じ位置に生じており、+3価のマンガンであるMn2O3の標準試料の吸収端とは異なる位置で生じることが明らかとなった。
【0080】
以上の結果より、上記ペーストは、R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンHMnO2であることが確認された。
<実施例8> 金属パラジウム担持R型二酸化マンガンのナノニードルの合成
実施例2で製造したR型二酸化マンガンのナノニードルの塊をメノウ乳鉢で充分粉砕し、0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させて1時間攪拌した後、減圧ろ過器でろ紙上にナノニードルからなるペースト捕収した。つぎに、パラジウム濃度10000ppmの塩化パラジウム水溶液(キシダ化学製)100mLをビーカーに移し、水酸化ナトリウムのペレットと、水酸化ナトリウムの水溶液を用いてpH6.2に調整した。このpH調整した塩化パラジウム水溶液に、ろ紙上に捕収されたナノニードルからなるペーストを懸濁させて24時間攪拌保持した。ナノニードルを懸濁したパラジウム水溶液のpHは、パラジウムの析出が進行するにつれて低下するため、攪拌の間中はpH6.0を保つように、適時水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。24時間の攪拌終了後、減圧ろ過器でパラジウム水溶液に懸濁させたペーストをろ紙上に捕収し、次いでガラスシャーレに移し、電気炉を用いて大気圧下、100℃で12時間乾燥した。この様な一連の操作によって、金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンのナノニードルを得た。これを透過電子顕微鏡で観察した結果を図19に示す。
【0081】
なお、ナノニードルにパラジウムを析出させるためには、ナノニードル自身が含む電子をパラジウム錯体に渡して還元させる必要がある。また、このパラジウムの還元・析出反応の際にナノニードルを懸濁したパラジウム水溶液のpHが低下している。これらのことから、このナノニードルは、R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンのナノ微粒子であることがわかる。この金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンの化学式は、水素化した酸化マンガン(H+,e−)xMnO2のナノ微粒子が水溶液中の塩化パラジウム(+2価のパラジウム)PdCl2に電子を2個供給して金属パラジウムPdとして析出させるため、Pdx/2MnO2であると考えられる。
【0082】
また、実施例2で得たR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理し、濾過回収したペーストをガラスプレートに塗布し、X線回折分析したところ、R型二酸化マンガンのナノニードルの回折角の位置とほとんどずれていないことが確認された。
【0083】
この合成方法で重要な点は、一度、R型二酸化マンガンのナノニードルを合成してから、再びそれを酸処理することでR型二酸化マンガンのナノニードル表面を水素化した後、塩化パラジウム水溶液に懸濁させてナノニードルの表面にパラジウムを析出させることである。焼成炭酸マンガンを酸処理した直後に、塩化パラジウム水溶液と同条件下で接触させた場合には、図20に示すような、金属パラジウムのナノ粒子(濃いコントラストの点達)が析出した塊状のR型二酸化マンガンが得られ、ニードル状で得ることができない。これは、パラジウム水溶液中での析出反応では、水素化した酸化マンガンからは電子の供給に伴って、プロトンH+が約pH6のパラジウム水溶液中に放出された際に水中の水酸基OH−に中和されるために、パラジウムを析出したペーストには前出の酸素−酸素結合のネットワークを流れるプロトンH+が不足し、同ペーストを乾燥処理してもナノニードルとしては成長しないためと考えられる。
<実施例9> 金属金担持R型二酸化マンガンのナノニードルの合成
実施例8において、パラジウム濃度10000ppmの塩化パラジウム水溶液の代わりに金濃度1000ppmのHAuCl4水溶液「試薬名:原子吸光分析用標準試薬 金1000ppm」(和光純薬工業)を用いて同様の操作をおこなったところ、金属金のナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンのナノニードルが得られることが確認された。
<実施例10> 酸処理後のペーストからR型二酸化マンガンのメソポーラス多孔体膜の作成
上記実施例1〜3の合成中に得られた酸処理後のペーストを乾燥処理する際に、直径3cm、300メッシュのステンレス製の網に、同ペーストを塗布して100℃で7時間乾燥処理した。その結果、メッシュが骨材となり、メッシュの形と面積に応じた形状を有するR型二酸化マンガンのナノニードルで構成されたメソポーラス材料を担持した膜を作ることができた。さらに、このようにして得られた膜同士の面と面を接触させた状態で、200℃に加熱されたヒーター中に静置することで、膜どうしを接合することができた。このため、目的に応じて接合枚数を増やすことで、簡易に膜厚を増加させることが可能であることが証明された。
<実施例11> 二酸化マンガンナノニードル多孔体からなる赤外線吸収材料の赤外線吸収能の評価
実施例2で得られた平均細孔直径18.68nm、BET比表面積46.47m2/g、全細孔容積0.22cm3/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体0.115gをメノウ鉢で粉砕し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mmの試験体ペレット(赤外線吸収材料)を作成した。
【0084】
この試験体ペレットを赤外分光光度計に設置し、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して試験体ペレットを透過してくる赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図21に示す。図21では、波数1000cm-1以下(10.0μm以下)では縦軸の透過率が0.01%以下であり、ほとんどの波長領域において赤外線が吸収されていることがわかる。波数1000cm-1以上(10.0μm以上)においては、透過が観察されるが、これは本試験体ペレット中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の量が0.115gと極めて少ないためであり、ペレット中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の量を増加させるに従って、波数1000cm−1以上(10.0μm以上)における透過強度が速やかに低下することを確認した。測定には、日本分光製のフーリェ変換赤外分光光度計FT−IR4200TYPE−Aを使用した。また、本試験体ペレットを光学顕微鏡で観察することを試みることは強力な観察光光源を照射しても、極めて困難であることを確認した。これは、二酸化マンガンナノニードル多孔体が、グラファイトなどに代表されるカーボン材料に比べて、赤外線だけではなく、可視光に対しても高い吸収性を有するためであり、単に赤外線だけの吸収能に優れるカーボン材料などに比べた場合の長所である。なお、赤外線吸収の測定には、日本分光製のフーリェ変換赤外分光光度計FT−IR4200TYPE−Aを使用した。
<実施例12> 赤外線フィルターの赤外線吸収能の評価(1)
実施例3で得られた平均細孔直径9.26nm、BET比表面積173.29m2/g、全細孔容積0.40cm3/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体0.0286gをKBr粉末0.4362gとともにメノウ鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mm(プラス・マイナス0.1mm)の試験体ペレットを作成した。したがって、この試験体ペレット中の二酸化マンガンのナノニードル多孔体とKBrとの混合重量比は、1:15.3である。また、二酸化マンガンナノニードル多孔体濃度は6.15wt%である。
【0085】
この試験体ペレットを、赤外分光光度計に設置し、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して試験体ペレットを透過する赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図22に示す。図22では、縦軸の透過率のピークトップが、波数799.74cm−1(12.5μm)、かつ、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)が90cm−1(1.36μm)の赤外線のみを透過している。このため、作成した試験体は、特定の波長領域の赤外線を透過させるフィルターとして機能していることがわかる。
【0086】
また、二酸化マンガンナノニードル多孔体を得るための前駆体である焼成された炭酸マンガン粉末0.0283gを、KBr粉末0.4389gとともにメノウ乳鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mmの試験体ペレットを作成した(焼成炭酸マンガンとKBrの重量混合比は1:15.5、試験体ペレット中での焼成炭酸マンガンの濃度は0.00606wt%)。この試験体ペレットの赤外線透過特性を図23に示した。図23では、炭酸塩に起因する赤外線透過成分が観察されることから、二酸化マンガンナノニードル多孔体を合成する手順において、酸処理を充分に行うことで炭酸成分を除去することが、赤外線のフィルター特性を高めるために重要であることがわかる。なお、赤外線透過の測定には、パーキンエルマー社製のフーリェ変換赤外分光分析装置Spectrum One Image System FT−IR Spectrometerを使用した。
<実施例13> 赤外線フィルターの赤外線吸収能の評価(2)
実施例2で得た平均細孔直径18.68nm、BET比表面積46.47m2/g、全細孔容積0.22cm3/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体0.0280gをKBr粉末0.4355gとともにメノウ鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mm(プラス・マイナス0.1mm)の試験体ペレットを作成した。したがって、この試験体ペレット中の二酸化マンガンナノニードル多孔体とKBrとの混合重量比は、1:15.6である。また、二酸化マンガンナノニードル多孔体濃度は6.04wt%である。
【0087】
この試験体ペレットを、赤外分光光度計に設置し、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して試験体ペレットを透過する赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図24に示す。図24では、縦軸の透過率のピークトップが、波数810.92cm−1(12.3μm)、かつ、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)が100cm−1(1.49μm)の赤外線のみを透過している。このため、作成した試験体は、特定の波長領域の赤外線を透過させるフィルターとして機能していることがわかる。実施例11の結果である図22と比べると、比表面積が小さく、平均細孔直径が大きい二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いた本例の方が、若干半値幅が広い透過ピークとなり、ピークの透過率の値が高いことから、実施例11の試験体ペレットに比べて、ほぼ同じ波長域の赤外線の透過性が高いことがわかる。
【0088】
また、グラファイトや活性炭などのカーボン材料をKBrに添加して、同様の試験体ペレットを作成し、同様の手法で赤外線透過特性を確認したが、カーボン材料を添加した場合には、2.5〜25μmの全波長領域に渡って赤外線の吸収が生じるため、本発明のようなフィルター効果が得られないことを確認した。なお、赤外線透過の測定には、パーキンエルマー社製のフーリェ変換赤外分光分析装置Spectrum One Image System FT−IR Spectrometerを使用した。
<実施例14>
上記実施例3で合成した酸処理後のペーストをサラシ布に均一に塗布した後、自然乾燥させた。約50℃のお湯が入った紙コップ(高さ10cm、直径6cm)を用意し、この紙コップを台の上において、紙コップの手前10mmの位置に、1)何もない、2)白いウエス、3)二酸化マンガンのナノニードルから構成された多孔体の粉末を塗布したサラシ布を設置して、赤外線モニター・ナイトビジョン(本田技研レジェンド2005年式搭載)で観察した。なお、紙コップと赤外線センサーを搭載した自動車との距離は10mに設定した。
【0089】
その結果、1)では、白く紙コップがはっきりモニターに浮かび上がる。2)ぼんやり白く紙コップが浮かび上がる。3)グレー色に映って物がありそうなことはわかるが、1)や2)の様に白くはならない。という結果が得られた。この結果から、布に塗布した二酸化マンガンのナノニードルから構成された多孔体の粉末がお湯を入れた紙コップから発する赤外線を吸収遮断していることがわかった。したがって、本発明の材料が、市販の自動車に組み込まれた信頼性の高い高感度の赤外線モニターを使った場合でも、効果的な赤外線吸収体の性能を発揮することが証明された。
<比較例>
市販の二酸化マンガン(和光純薬製特級酸化マンガンIV化学処理品)、市販の酸化マンガン(和光純薬製特級酸化マンガンIII Mn2O3)、市販の酸化チタン(和光純薬製特級酸化チタンIII TiO2)を表2の条件で、各材料をメノウ乳鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、ロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mm(プラス・マイナス0.1mm)の試験体ペレットを作成した。
【0090】
【表2】
つぎに、作成した各試験体ペレットを、赤外分光光度計に設置して、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して各試験体ペレットを透過する赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図25〜27に示す。
【0091】
図25は、市販の二酸化マンガンとKBrを混合した試験体ペレットに関する赤外線透過特性を示す。この市販の二酸化マンガン(和光純薬工業製試薬特級)は、透過型電子顕微鏡観察すると大きさが10ナノメートル程度の微粉体であるため、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体を用いた場合の結果である図22や図24に類似した透過波長や透過強度を示すが、1500〜1000cm−1の波数領域に市販の二酸化マンガンが含んでいる吸着水に基づく赤外線の透過ピークが観察される。これは、市販の二酸化マンガンが単なる微粒子の集合体であるために、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体を用いた場合のように、照射された赤外線が材料内部で拡散反射されて強度が減衰する効果が得られないためであると考えられる。このため、赤外線フィルターを作るための添加材としては、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体の方が優れていると言える。
【0092】
つぎに、図26は市販の酸化マンガン(III)(STREM CHEMICALS製試薬99%)とKBrを混合した試験体ペレットに関する赤外線透過特性を示す。図25の市販の二酸化マンガンに比べると1500〜1000cm−1の波数領域に吸着水の透過ピークは存在しないが透過強度が7倍以上高く、半値幅も広いため、入射する赤外線のエネルギーが高い場合には、半値幅が広がることでフィルター特性が悪化することが予想される。
【0093】
また、図27は市販の酸化チタン(IV)(和光純薬工業製試薬特級)とKBrを混合した試験体ペレットに関する赤外線透過特性を示す。図27の結果は、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体を用いた場合の結果である図22や図24の場合に比べて、透過波長のピークが9.2μmに見られるといった違いがあることがわかる。しかしながら透過強度が図22や24に比べると6倍から10倍高いため、入射する赤外線のエネルギーが高い場合には、半値幅が広がることでフィルター特性が悪化することが予想される。
【0094】
なお、以上の赤外線透過の測定には、パーキンエルマー社製のフーリェ変換赤外分光分析装置Spectrum One Image System FT−IR Spectrometerを使用した。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本願の水素化した酸化マンガンHMnO2の合成のメカニズムの概略図である。
【図2】水素化した酸化マンガンおよび氷に中性子を照射した結果である。
【図3】R型二酸化マンガンの結晶構造中における結合距離が2.589Å(b方向)の酸素原子−酸素原子、および2.573Å(a方向)の酸素原子−酸素原子によって構成されるネットワークを模式的に示した図である。
【図4】実施例1におけるナノニードル凝集体の透過電子顕微鏡像である。
【図5】実施例1におけるナノニードルの先端部の透過電子顕微鏡像である。
【図6】実施例1におけるナノニードル凝集体の窒素ガス吸着法による表面分析結果である。
【図7】実施例2におけるナノニードル凝集体の透過電子顕微鏡像である。
【図8】実施例2における別のナノニードル凝集体の透過電子顕微鏡像である。
【図9】実施例2におけるナノニードルの先端部の透過電子顕微鏡像である。
【図10】図8の高解像度写真である。
【図11】実施例2におけるナノニードル凝集体の窒素ガス吸着法による表面分析結果である。
【図12】実施例2におけるナノニードル凝集体のX線回折パターンである。
【図13】実施例3におけるナノニードルの透過電子顕微鏡像である。
【図14】実施例3におけるナノニードルの先端部の透過電子顕微鏡像である。
【図15】実施例4における酸処理に水温14℃の希塩酸を使った場合に得られるナノニードル凝集体のX線回折パターンである。
【図16】実施例4における酸処理に水温35℃の希塩酸を使った場合に得られるナノニードル凝集体のX線回折パターンである。
【図17】実施例7におけるペーストおよびそれを乾燥処理して得たR型二酸化マンガンのX線回折分析結果である。
【図18】実施例7におけるペーストのX線吸収端分析(XANES)によるマンガン価数の分析結果である。
【図19】実施例8における金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンのナノニードルの透過電子顕微鏡像である。
【図20】実施例8における金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンの透過電子顕微鏡像である。
【図21】実施例11における二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外線吸収特性を表した図である。
【図22】実施例12における二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外線透過特性を表した図である。
【図23】実施例12における焼成炭酸マンガンの赤外線透過特性を表した図である。
【図24】実施例13における二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外線吸収特性を表した図である。
【図25】比較例における市販の二酸化マンガンの赤外線透過特性を表した図である。
【図26】比較例における市販の酸化マンガン(III)の赤外線透過特性を表した図である。
【図27】比較例における市販の酸化チタン(IV)の赤外線透過特性を表した図である。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、R型二酸化マンガンナノニードル多孔体とそれを構成するR型二酸化マンガンナノニードル、水素化した酸化マンガン、赤外線吸収材料、赤外線フィルター、およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料(ポーラス材料)とは、内部に大小さまざまな孔をもつ固体の総称であって、その構造や表面の性質を利用して断熱材、緩衝材、吸音材、あるいは本発明で扱う吸着材や触媒担体として多方面に利用されている。この多孔質材料は、平均細孔直径の大きさに応じてマイクロポーラス(2nm以下)、メソポーラス(2〜50nm)、マクロポーラス(50nm以上)と分類される。
【0003】
合成方法や構成元素の如何を問わず、平均細孔直径が均一なメソポーラス材料の合成が世界で初めて報告されたのは1992年であり、それらは界面活性剤の分子集合体を鋳型にして酸化ケイ素のメソポア構造を実現したメソポーラス多孔体であった(非特許文献1、2参照)。このような平均細孔直径が均一なメソポーラス材料は、実際に合成が成功してからまだ間がないため、現時点で工業的な実用例は存在しない。しかし、ゼオライトに代表されるマイクロポーラスの細孔では小さすぎて入ることが困難であった分子径の大きな化合物が絡む触媒反応や吸着反応、あるいはナノ材料の物性を研究するために格好のモデル物質であるため、近年、合成方法や物性とその応用に関する研究論文が急増している。中でもマンガン酸化物に関する報告は現在でも数件しか存在せず、その代表例として1997年に平均細孔直径2nmの合成が報告された(非特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、平均細孔直径2nmはマイクロポーラスとの境界領域であって、天然ガスなど分子径の大きな化合物が絡む触媒反応や溶液中における錯体の吸着・析出反応、あるいはナノ機能性材料のホスト物質としての利用目的には孔径が細かいため、平均細孔直径が10〜20nm近辺の二酸化マンガン・メソポーラス材料には各方面で大きな期待がかかっている。通常、二酸化マンガンは、その結晶構造に応じて、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、ε(イプシロン)、δ(デルタ)、λ(ラムダ)、R(アール)型に分類されている。この内、γ型は、β型とε型、およびR型が混在した結晶構造である。これらの結晶構造の違いは、結晶を構成する最小ユニットである八面体(マンガン原子の周りに6つの酸素原子が配位した八面体)の均一で規則的な配列が異なっていることが理由で生じることが周知である。
【0005】
なお、R型二酸化マンガンに関しては、従来より、λ(ラムダ)型二酸化マンガン結晶内にリチウムが配位したスピネル結晶構造を有するリチウム・マンガン酸化物を出発原料とした水熱合成法によって得られることが報告されている(非特許文献4参照)が、それ以外の合成方法で、ナノスケールで、かつ、ニードルの形状のR型二酸化マンガンが合成された例は存在しない。
【非特許文献1】J.S.Beck et al,J. Am. Chem. Soc.,114,10834(1992)
【非特許文献2】J.C.Vartuli et al.,Chem. Mater.,6,2317(1994)
【非特許文献3】Zheng−Rong Tian et al. Science vol.276
【非特許文献4】H.Rossouw, J.Mater.chem, vol.2,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明は、以上のとおりの背景よりなされたものであって、ナノスケールのR型二酸化マンガンのナノニードルから構成された高比表面積のR型二酸化マンガンナノニードル多孔体とそれを構成するR型二酸化マンガンナノニードル、赤外線吸収材料、赤外線フィルター、およびそれらの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
<1> R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<2> メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積が40〜200m2/g、全細孔容積が0.1〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする上記<1>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<3> メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が7nm〜14nmの範囲、BET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする上記<1>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<4> メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が15nm〜30nmの範囲、BET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲であることを特徴とする上記<1>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<5> 表面硬さは、ビッカース硬さ試験法による測定でビッカース硬度15〜35の範囲であることを特徴とする上記<1>から<4>のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
<6> 大きさがナノメートルスケールであって、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<7> 太さ1〜100nm、長さ3〜900nmの範囲であることを特徴とする上記<6>に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<8> 太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲である上記<6>に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<9> 太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲である上記<6>に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
<10> 上記<6>から<9>のいずれかのR型二酸化マンガンのナノニードルに、金属が担持されていることを特徴とする金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
<11> 担持される金属は、金またはパラジウムであることを特徴とする上記<10>に記載の金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
<12> R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
<13> 太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲であって、ニードル状である上記<12>に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
<14> 太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲であって、ニードル状である上記<12>に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
<15> 上記<1>から<5>のいずれかの二酸化マンガンナノニードル多孔体で形成されてなるメソポーラス多孔体材料。
<16> 膜状に形成された膜状体であることを特徴とする上記<15>に記載のメソポーラス多孔体材料。
<17> 炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O粉末を焼成し、これを酸処理してペースト状とした後、乾燥することを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
<18> 炭酸マンガンn水和物とともに炭酸酸化ビスマスを混合して焼成することを特徴とする上記<17>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
<19> 酸処理を少なくとも2回以上行うこと特徴とする上記<17>または<18>に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
<20> 上記<6>から<9>のR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理することを特徴とする水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子の製造方法。。
<21> 上記<1>から<5>のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体からなる赤外線吸収材料。
<22> 上記<21>に記載の赤外線吸収材料が含有されていることを特徴とする赤外線フィルター。
<23> 透過される赤外線は、波長領域10〜14μmの範囲であることを特徴とする上記<22>に記載の赤外線フィルター。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおりの本願発明によれば、高比表面積を有する二酸化マンガンナノニードル多孔体、それを構成するR型二酸化マンガンナノニードルや、これらを簡便に製造することができる製造方法が提供される。
【0009】
以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体は、固体酸の性質や新規な光学特性の発現に加えて、燃料電池電極材料へ応用あるいは触媒担体などの基盤材料への応用が可能となる。
【0010】
さらに、本願発明によれば、以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いた赤外線吸収材料とそれを含有する赤外線フィルターが提供される。赤外線は、電磁波としての波長はマイクロメートル・オーダーであり、エネルギー的には熱線である。一般に、材料に赤外線を吸収させるためには、赤外線を吸収する性質を有する炭素材料などを材料表面に塗布被覆することや材料に混入添加する手法が知られており、より少ない被覆・添加量で、より高い吸収効果を得るためには、単位容積当たりの熱容量が大きく、断熱性が高い材料が必要であった。本願の赤外線吸収材料は、BET比表面積が40〜200m2/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体からなるもので、通常の炭素材料の比重と比較して2倍以上も重いため、単位体積当たりの熱容量も大きい。このため、より少ない被覆・添加量で赤外線を効率よく吸収することができる。
【0011】
また、これまで、波長10μm以上の赤外線領域において、特定波長の赤外線だけを選択的に透過するような特性をもった赤外線フィルターは実現されておらず、本願の赤外線フィルターはこれを実現するものであり、産業上有用性が高い。
【0012】
さらに、以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体は安価でかつ簡便に製造することが可能であるため、赤外線吸収材料および赤外線フィルターについても安価に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0014】
本願発明の二酸化マンガンナノニードル多孔体は、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることを特徴としている。ここで、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルとは、一般的に重量比で50%以上好ましくは80%以上、さらには95%以上のR型二酸化マンガンが成分として構成されており、大きさ、すなわち、太さ(平均直径)および長さ(両端距離)がナノメートルスケールであり、太さが略均一で針状(ロッドともいう)の形状を有するものをいう。通常の溶液反応では、1本のニードル内で表面の凹凸が生じてしまうため、太さが不均一であったり、また、数本のニードルが束になった状態で得られたりするために、本願発明のように太さが略均一なニードルを得ることが極めて困難である。
【0015】
この二酸化マンガンナノニードル多孔体は、たとえば、メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積40〜115m2/gの範囲であるものが考慮される。特には、平均細孔直径が3nm〜15nmでBET比表面積が50〜200m2/gの範囲のもの、なかでも平均細孔直径が7nm〜14nmでBET比表面積が80〜130m2/gの範囲のもの、あるいは平均細孔直径が15nm〜30nmでBET比表面積が40〜50m2/gの範囲のものなどを挙げることができる。なお、上記二酸化マンガンナノニードル多孔体のメソポーラス多孔体構造の全細孔容積は、0.1〜0.5cm3/g程度である。
【0016】
本願発明のR型二酸化マンガンのナノニードルは、その太さ(平均直径)および長さ(両端距離)は、太さ1〜100nm、長さ3〜900nmの範囲である。このようなナノメートルスケールの大きさでニードル状のR型二酸化マンガンのナノニードルは、これまで報告された例はなく、本発明者によってはじめて実現されたものである。さらに、本願発明では、高純度のR型二酸化マンガンのナノニードルを短時間で合成することができる。また、本願発明では、上記R型二酸化マンガンのナノニードルとして、特に、太さ2〜10nmで長さ5〜30nmのものや、太さ10〜30nmで長さ30〜300nmのものを提供する。このR型二酸化マンガンのナノニードルが凝集しブロック化されて、メソポーラス多孔体構造が形成されて、二酸化マンガンナノニードル多孔体となるのである。特に、太さ2〜10nmで長さ5〜30nmのナノニードルで構成される二酸化マンガンナノニードル多孔体は、メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が7nm〜14nmでBET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲の多孔体構造が形成されるが、後述するように炭酸マンガンn水和物とともに炭酸酸化ビスマスを混合して焼成することで、平均細孔直径を3nm程度まで小さくでき、BET比表面積を200m2/g程度まで大きくすることができる。また、太さ10〜30nmで長さ30〜300nmのナノニードルで構成される二酸化マンガンナノニードル多孔体は、メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が15nm〜30nmでBET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲の多孔体構造が形成される。
【0017】
以上のとおりの二酸化マンガンナノニードル多孔体は、ナノニードル同士が絡み合ってブロック化されている。そのブロック化された二酸化マンガンナノニードル多孔体の表面硬度は比較的硬く、具体的には、ビッカース硬さ試験法による測定でビッカース硬度15〜35程度となる。アルミニウム金属のビッカース硬度が50以上であることを考慮すると、本願発明の二酸化マンガンナノニードル多孔体の表面硬度はかなり高いことがわかる。
【0018】
以上の二酸化マンガンナノニードル多孔体は、たとえば、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末を焼成し、酸処理して水素化した酸化マンガンHMnO2を生成した後、これをペースト状にして乾燥固化することで得られる。
【0019】
焼成温度は、たとえば、180℃〜210℃の範囲が好ましい。焼成温度が180℃未満の場合には、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが平均的に薄くなる。この酸化マンガンMn2O3の外殻は、後述するが、酸処理の際に水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oに相変化することで、酸処理溶液中のマンガンイオンMn2+を水素化した酸化マンガンHMnO2に相変化させる役割をもつが、酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが薄くなることで、この相変化を効率的に生じさせるための水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oが不足してしまい、結果として、最終的に二酸化マンガンナノニードル多孔体を構成する二酸化マンガンナノニードルを十分に生成することができない。焼成温度が210℃を超える場合には、焼成後に得られる炭酸マンガン表面の酸化マンガンMn2O3の外殻は厚くなり、原料である炭酸マンガンの残留量が少なくなるため、酸処理時にマンガンイオンMn2+として溶解するマンガン成分が不足し、二酸化マンガンナノニードル多孔体を構成する二酸化マンガンナノニードルを十分に生成することができない。なお、以上の二酸化マンガンナノニードル生成の詳細な説明については以下のとおりである。
【0020】
まず所定量の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末をセラミックなどのルツボに入れて、たとえば、大気下180〜210℃の温度範囲で所定時間焼成する。より好ましくは195℃、6時間(昇温時間を含む)の条件で焼成する。焼成によって原料の炭酸マンガンn水和物粉末の表面が酸化されて酸化マンガンMn2O3の外殻を有する炭酸マンガンMnCO3の粉末が得られる。
【0021】
次いで、この酸化マンガンMn2O3の外殻を有する炭酸マンガンの粉末を酸処理して炭酸マンガンを塩化マンガンとして溶解除去してマンガンイオンMn2+を発生させる。このマンガンイオンMn2+が水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oと接触することで水素化した酸化マンガンHMnO2を生成する。このメカニズムの概略を図1に示す。
【0022】
図1の(a)は、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻(被膜)を持った炭酸マンガンの粒子を表している。この炭酸マンガンの粒子は、酸処理によって、たとえば希塩酸などの酸処理溶液に炭酸マンガン粒子を入れて懸濁させることによって、外殻の酸化マンガンMn2O3が希塩酸との接触で発生した塩素ガスの影響を受けて水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oに変化し、外殻内部の炭酸マンガンMnCO3は塩化マンガンMnCl2と二酸化炭素CO2と水H2Oに変化する(図1(b))。塩化マンガンMnCl2は、2価のマンガンイオンMn2+となり、炭酸成分は二酸化炭素CO2のガスとなり外殻内部での内圧を高め、結果としてマンガンイオンMn2+を含んだ二酸化炭素の気泡が水H2Oと共に、水和した二酸化マンガンMnO2・H2O化した外殻の表面を通じて噴出する。この噴出の際に、マンガンイオンMn2+が外殻の水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oと効率良く接触するため、マンガンイオンMn2+を酸化して、水素化した酸化マンガンHMnO2を形成する(図1(c))。そして、これをペースト状にして乾燥することで、純度の高いR型二酸化マンガンのナノニードルで構成される二酸化マンガンナノニードル多孔体を短時間で合成することができるのである。
【0023】
以上の反応は、触媒反応と考えられる。すなわち、外殻の成分である酸化マンガンMn2O3と、炭酸マンガンMnCO3n水和物を混合した粉体を上記と同様にして酸処理および乾燥処理したところ、ベータ型のMn2O3が得られ、R型のMnO2は得られなかった。また、外殻の成分である酸化マンガンMn2O3と、炭酸マンガンMnCO3n水和物を混合した粉体を希塩酸の中に4ヶ月保ち、これを濾過・乾燥して得られたものは、R型MnO2とベータ型MnO2が混合した二酸化マンガンであるが、ナノスケールの大きさのものは得られなかった。これらの実験結果から、純度の高いR型二酸化マンガンのナノニードルをナノスケールで短時間に合成することを可能とした本手法の化学反応は触媒反応であるといえる。
【0024】
本願発明において、使用する炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末としては、市販品を用いることができる。たとえば本願発明では、後述する実施例において炭酸マンガン・n水和物(試薬特級和光純薬工業製)を用いている。この炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末は、一般的には、大きさ数ナノ〜数10ナノメートルの不定形の単結晶粒子が凝集して1〜数10マイクロメートル程度の粒径の粒が形成されている。なお、この炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末は、試薬瓶を開封した直後の大きさの揃っている状態のものを使用することが好ましい。試薬瓶を長時間開放していた場合には、時間の経過にともない炭酸マンガンn水和物が吸湿して粒が粗くなって大きさが不均一な粒子群となるため、焼成時には外殻に生じる酸化マンガンMn2O3の厚みや形を均一にすることができなくなる場合があるので好ましくない。
【0025】
酸処理は、5〜60℃の範囲の温度で行うことが考慮される。マンガンイオンの酸化反応は、酸処理温度(酸処理溶液の温度)を室温で保管された状態での酸処理溶液の温度よりも高めに設定したり、太陽光(紫外線)をあてることで、より反応速度が高まり、大きなサイズのニードルを合成することができる。より大きなサイズのニードルを合成する場合には、酸処理溶液の温度を30℃以上に保ち、かつ太陽光が当たる場所で酸処理溶液を攪拌することが効果的である。
【0026】
なお、酸処理に用いる酸としては、たとえば塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸であってよく、なかでも、焼成後の炭酸マンガンn水和物の外殻として生じる酸化マンガンMn2O3を効率的に水和した二酸化マンガンMnO2・H2Oに相変化するためには塩酸が好ましい。酸の濃度としては、0.1〜1.0mol/Lの範囲、より好ましくは0.5〜1.0mol/Lの範囲である。
【0027】
水素化した酸化マンガンHMnO2は、上述したように、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末を焼成し、これを希塩酸などの酸処理溶液中でたとえば1〜5時間程度攪拌して酸処理し、減圧ろ過器で固液分離して回収することで得られる。この処理を少なくとも2回以上繰り返すことで、HMnO2以外の不純物、例えば残留炭酸マンガン成分や酸化マンガン微粒子などを溶解除去できる。なお、酸処理の回数は、酸処理する焼成炭酸マンガンから発生する二酸化炭素の気泡の発生が酸処理を繰り返しても目視できなくなれば充分である。たとえば、毎回容量1Lのビーカーに希塩酸を新たに注ぎなおして酸処理の回数を重ねずとも、1つのビーカー内で、酸処理時の希塩酸のpHが0.5〜0.6を保つように濃塩酸を適時滴下する操作でも構わないが、特に一回目の酸処理時には炭酸マンガンの溶解反応から発生する水の影響でpHの上昇が激しく生じる。このためpHを0.5〜0.6に保つ操作は専用の滴定装置なしには容易ではない。このため本手法では、酸処理の回数を数回重ねている。
【0028】
上記回収物は、水分を含んだ状態で水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子が多数集まったペースト状となっている。この水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子は不定形であるが、このペーストを乾燥処理してR型二酸化マンガンのナノニードルを合成した後、再びこのR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理することで、そのR型二酸化マンガンのナノニードルと同様の大きさおよび形状の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノニードルである水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子を得ることができる。R型二酸化マンガンのナノニードルへの酸処理については、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末の焼成物への酸処理と同様である。
【0029】
二酸化マンガンナノニードル多孔体は、上述したように、ペーストの乾燥処理によって得られるが、その乾燥処理の際にペーストから水分が蒸発して、水素化した酸化マンガンがR型二酸化マンガンMnO2のナノニードルへと成長し、このナノニードル同士が絡み合うことで、大きさがセンチメートル単位のブロックを得ることができる。なお、酸化マンガンのナノニードルが得られずに単に酸化マンガンのナノ粒子が主成分として得られている場合や、原料成分の除去が不完全な場合には、上記乾燥処理によって得られる材料はブロック化せずに、脆い砂状となり、表面のビッカース硬度は測定することさえ困難となる。
【0030】
また、乾燥処理の際に数百メッシュ程度の金属の網(網の材質は用途に応じてテフロン(登録商標)やカーボンメッシュなど変えることができる)に上記ペーストを塗布して乾燥処理することで、メッシュが骨材となり、種々の用途に応じた形状を有する膜状体を作ることができる。さらに、このようにして得られた膜状体同士を接触させた状態で150〜220℃、好ましくは200℃で加熱することで接合することができ、目的に応じて簡易に膜厚を増加させることも可能である。
【0031】
上記の乾燥処理後に得られたブロックや膜状体を窒素ガス吸着法によって平均細孔直径とBET比表面積を計測すると、平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積が40〜200m2/gの範囲であるメソポーラス多孔体構造であることがわかる。
【0032】
炭酸マンガンn水和物の焼成は、以上のとおりルツボに入れて焼成しているが、このルツボの形状としては、原料の炭酸マンガンMnCO3・nH2Oが酸化マンガンMn2O3に酸化される際に発生する二酸化炭素CO2ガスの流出方向が一方向になるような形状であることが好ましい。具体的には、中心に小孔の開いたフタをしたルツボや試験管のような形状が好ましい。二酸化炭素CO2ガスの流出方向を一方向にすることで、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが一定にすることができ、最終的に得られるニードル状の二酸化マンガンの収率を向上させることができる。開口部が広い、たとえば平たい皿型セラミック板上で原料の炭酸マンガンMnCO3・nH2Oを焼成した場合には、CO2ガスの拡散が一方向に流出しないために、焼成後に得られる酸化マンガンMn2O3の外殻の厚さが一定化せず、結果として最終的にニードル状の二酸化マンガンの収率が低下してしまう。
【0033】
また、焼成には電気炉を用いることが考慮されるが、この電気炉は炭酸マンガンの表面を均一に酸化するために、外部との通気孔がついていてかつ充分な炉内の容積を有するものであることが好ましい。炉内の容積が原料を入れたルツボの大きさ程度しかなく、密閉されているような電気炉を用いて焼成した場合は、炭酸マンガンの表面の酸化が均一になりにくいため好ましくない。
【0034】
本願発明では、上記ペーストの乾燥条件を変えることによって、得られる二酸化マンガンナノニードルの大きさを制御するとともに、二酸化マンガンナノニードル多孔体の平均細孔直径およびBET比表面積の大きさを調節することができる。たとえば、乾燥条件として、大気中、乾燥機などで90〜120℃、2時間〜12時間乾燥することで、すなわちペースト中の水分の脱水速度を速めることで、得られるR型二酸化マンガンのナノニードルの大きさをより小さくすることができる。具体的には、太さ2〜10nm、長さ5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルとすることが可能となる。
【0035】
一方で、より大きく成長したR型二酸化マンガンのナノニードルを得るためには、ペースト中の水分の脱水速度を遅くしたり、上記ペーストに希塩酸などの希酸を添加してペーストが含む水分中の水素イオンの量を増加させた後、乾燥処理することで、より大きく成長したR型二酸化マンガンのナノニードルを得ることができる。具体的には、太さ10〜30nm、長さ30〜300nmのR型二酸化マンガンのナノニードルとすることが可能となる。上述したように、炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2Oの粉末を焼成し、これを希塩酸などの酸処理溶液中で攪拌して、減圧ろ過器で固液分離して回収したペーストには、当然希塩酸が含まれている。このペーストに対して、新たに希塩酸を添加して該ペーストに含まれる希塩酸の量を増加させる、すなわち、該ペーストが含む水素イオンの量を増加することで、より大きく成長したR型二酸化マンガンのナノニードルを得ることができるのである。この理由としては、ペーストの乾燥処理において、ペースト内の水分が蒸発するにつれて希塩酸の濃度が高まり、水素化した酸化マンガンがマンガンイオンMn2+として溶解し、水素化した酸化マンガンの粒子同士の結合が生じるためと考えられる。該ペーストが含む水素イオンの量を増加する方法としては、上記のようにペーストに新たに希塩酸を添加してもよいが、減圧ろ過器で回収する際に希塩酸を充分吸引除去されない段階でろ過操作を止めるようにしてもよい。
【0036】
このように乾燥条件およびペースト中の水素イオンの量を調整することで、R型二酸化マンガンのナノニードルの大きさを制御することができるのである。したがって、目的とする大きさのR型二酸化マンガンのナノニードルを得るためには、あらかじめ所定の乾燥条件でナノニードルを合成して、そのナノニードルの大きさを測定しておくことで、適宜に条件を設定して目的のナノニードルを得ることができる。たとえば、目的とする大きさがあらかじめ合成したナノニードルより大きい場合には、乾燥条件の脱水速度を遅くする、あるいは該ペーストが含む水素イオンの量を増加する。一方、目的とする大きさがあらかじめ合成したナノニードルより小さい場合には、乾燥条件の脱水速度を速くするか、ペースト中の水素イオンの量を少なくするように条件を設定する。この操作を繰り返すことにより、細くて短いR型二酸化マンガンのナノニードルと、太くて長いR型二酸化マンガンのナノニードルを作り分けることができる。このR型二酸化マンガンのナノニードルが凝集されてメソポーラス多孔体構造が形成される二酸化マンガンナノニードル多孔体は、その平均細孔直径と比表面積はR型二酸化マンガンのナノニードルの太さと長さに依存する。たとえば、太さ2〜10nm、長さ5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルで構成される酸化マンガンナノニードル多孔体では、平均細孔直径が7nm〜14nmの範囲、BET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲となる。そして、太さ10〜30nm、長さ30〜300nmのR型二酸化マンガンのナノニードルで構成される酸化マンガンナノニードル多孔体では、平均細孔直径が15nm〜30nmの範囲、BET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲となる。
【0037】
したがって、本願発明は、乾燥条件およびペーストが含む水素イオンの量を調整することで、使用目的に応じた平均細孔直径と比表面積を有する二酸化マンガンのメソポーラス多孔体を合成することができる。
【0038】
さらに、本願発明は、炭酸酸化ビスマスを原料である炭酸マンガン水和物に混合して、上記の一連の手法で焼成と酸処理および乾燥処理行うことで、最終的に得られたR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の比表面積を向上させることができる。たとえば、炭酸酸化ビスマスを混合することによって、混合前と比較してメソポーラス多孔体のBET比表面積を約1.75倍の200m2/g程度まで向上させ、平均細孔直径を3nm程度まで小さくすることができる。以上の炭酸酸化ビスマスは、酸処理の際に炭酸マンガン水和物よりもゆっくり溶解することで、最終的に得られる二酸化マンガンのメソポーラス多孔体内に細孔を作るテンプレートの役割を果たしていると考えられる。したがって、このようなテンプレートとしての役割を果たす材料としては、炭酸マンガン水和物よりも酸化物に変わる温度が高く、酸処理溶液中での溶解度が炭酸マンガンよりも低いものであればよく、上記の炭酸酸化ビスマスに限定されるものではない。
【0039】
上記二酸化マンガンナノニードル多孔体は赤外線吸収材料として用いることができる。赤外線吸収材料としての赤外線吸収能・透過能の評価は、たとえば後述の実施例のように赤外分光光度計(FT・IR)を用いて評価することが有効である。この赤外分光光度計による測定は、上記の二酸化マンガンナノニードル多孔体をプレス機で加圧成形した試験体に総出力170Wのセラミック光源から放出される2.5〜25μmの波長領域の赤外線を照射している。たとえば試験体が直径10mm、厚さ0.5mm(誤差プラスマイナス0.1mm)である場合、試験体中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の重量が0.2g以上では、照射した赤外線をほとんど透過せずに吸収してしまうことがわかった。また、試験体中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の重量を0.115gまで減らすと、10μm以上の領域で赤外線の透過が観察されることもわかった。
【0040】
実際に赤外線吸収材料として二酸化マンガンナノニードル多孔体を利用する際には、乾燥後の二酸化マンガンナノニードル多孔体粉末を任意の材料の表面に塗布したり、塗料に添加することで任意の表面に赤外線吸収能を付加することができる。また、乾燥固化前のペーストを布などの生地に塗り付けた後、乾燥処理することで布の生地など不定形な材料表面に赤外線吸収能を付加することができる。
【0041】
また、本願発明は上記の赤外線吸収材料を含有する赤外線フィルターをも提供する。この赤外線フィルターは、波長10μm以上の赤外線領域において、特定波長の赤外線だけを選択的に透過することを可能とするものである。具体的には、たとえば、総出力170Wのセラミック光源から2.5〜25μmの波長領域の赤外線を照射した場合、波長領域10〜14μm、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)1.2〜1.6の範囲の赤外線が透過され、より好適には波長領域12〜13μm、半値幅1.3〜1.5μmの範囲の赤外線が透過される。
【0042】
以上の赤外線フィルターは、赤外線が透過するような、ガラスや樹脂あるいは後述するKBr粉末などの透明な材料に添加されて作製することができる。
【0043】
この赤外線フィルターの性能は、上記の赤外線吸収材料のように赤外分光光度計で測定することで評価することができる。たとえば、二酸化マンガンナノニードル多孔体粉末とKBr粉末とを重量混合比1:15.5の割合でメノウ乳鉢でよく混合し、これをプレス機で直径10mm、厚さ0.5mm(誤差プラスマイナス0.1mm)に加圧成形した試験体に総出力170Wのセラミック光源から放出される2.5〜25μmの波長領域の赤外線を試験体に照射して、赤外線吸収能・透過能を評価すると、赤外線透過強度のピークトップ波長が12.3〜12.5μm、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)が1.36〜1.49μmである赤外線の透過性を示すことがわかる。一方、後述するが、市販の二酸化マンガン粉末を同条件でペレット化して赤外線透過性を測定したところ、吸着水に起因するピークが見られ、さらに透過ピークの半値幅も10%近く広い結果が得られた。このため、二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外吸収能の高さと、狭い波長領域の赤外線が透過することから、赤外線フィルターとしての性能が優れていることがわかる。
【0044】
さらに、本願の赤外線フィルターは、比表面積が大きい二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いた場合、試験体を透過する赤外線強度が低くなる傾向にある。したがって、入射する赤外線の出力が高い場合には、比表面積が大きい二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いることで、効果的に赤外線を吸収することできる。また、本願の赤外線フィルターは、二酸化マンガンナノニードル多孔体の添加量や比表面積を適宜に選択することで、赤外線透過性を制御することができる。
【0045】
本願発明の水素化した酸化マンガンHMnO2は、二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価のナノ微粒子であり、この水素化した酸化マンガンは付加的な電気エネルギーなしに、水中で金の錯体HAuCl4やパラジウムの錯体PdCl2をそれぞれ金属金ナノ粒子、金属パラジウムのナノ粒子として水素化した酸化マンガンの表面に析出させる強い還元能力を有している。したがって、上述したようなR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理した水素化した酸化マンガンを用いることで、その表面に金属金ナノ粒子、あるいは金属パラジウムのナノ粒子を析出させることができる。よって、金属を担持させた金属担持R型二酸化マンガンのナノニードルを得ることが可能となる。
【0046】
従来報告されている水素化した酸化マンガンは、Groutite(alpha・MnOOH),およびGroutellite(Mn0.5Mn0.5)O1.5(OH)0.5)であるが、これらはいずれもR型二酸化マンガンがプロトンH+の侵入によってマンガンが+3価に還元されることで生じる化学種であり、少なくとも+3価のマンガンを40%以上含んでいる。さらに、これらのX線回折パターンはR型二酸化マンガンのX線回折パターンと比較して、プロトンの含有量に応じて明確な回折ピーク位置のシフトをみせる。C. Klingsberg and R. Roy, Amer. Mineral., Vol. 44, pp. 819−838, 1959、L.A.H. MacLean and F.L. Tye, The Structure of fully H−Inserted gamma− Manganese Dioxide Conpoounds, J. Solid State Chem., Vol. 123, pp. 150−160, 1996、J.E. Post and P.J. Heaney, Neutron and synchrotron X−ray diffraction study of the structures and dehydration behaviors of ramsdellite and groutellite, American Mineralogist, Vol. 89, pp. 969−975, 2004。
【0047】
以上を考慮すると、本願発明の水素化した酸化マンガンは、1)R型二酸化マンガンと同様のX線回折ピーク位置を示すこと、2)X線吸収端分析によって+4価のマンガンであること、3)従来から既知の水素化した酸化マンガンであるGroutite,およびGroutelliteには全く報告例が存在しない金錯体やパラジウム錯体に対する強い還元能力を有することなどから、新種の水素化した酸化マンガンであり、化学式は(H+,e−)xMnO2であると考えられる。この酸化マンガンの中で、プロトンH+は2つの酸素原子O−O間に存在することが予想されるため、(H+,e−)xMnO2の化学式の中でXは1.0以下の数値であると考えられる。そして、この水素化したマンガンは、R型二酸化マンガンの結晶構造の中にプロトンH+と電子e−が固溶した状態にあり、金の錯体やパラジウムの錯体などと接触した際に自身の電子e−をそれら錯体に供与し、プロトンH+を水中に放出するものと考えられる。
【0048】
さらに、本願発明の水素化した酸化マンガンについて詳細に説明する。
【0049】
本願発明の水素化した酸化マンガンに中性子を照射して非弾性散乱した中性子を調べることで、水素化した酸化マンガンに含まれる、水素原子‐酸素原子結合の振動エネルギーを測定することができる。この結果を図2に示す。
【0050】
この図2の縦軸は振動の強度、横軸は振動のエネルギーである。黒丸で示されたグラフが本願発明の水素化した酸化マンガンに中性子を照射した結果であり、もう一方のグラフは、比較のために氷に中性子を照射した結果である。図2中の右上に示した(a)図は、振動エネルギー0〜50meVの範囲(横軸)を拡大した図である。水素化した酸化マンガンのグラフにおいて366meVに検出されたピークは2.57〜2.60Åの結合距離を有する酸素原子−酸素原子間に捕捉されて振動しているプロトンH+の存在を示しており、酸処理によって水素化した酸化マンガンに含まれる水H2O内のプロトンH+の振動エネルギーである410meVとは異なる水素原子−酸素原子結合の振動エネルギーである。一方で、氷のグラフには、酸処理起源の366meVのピークが存在せずに、水起源のO−H振動のみが観察される。なお、測定には米国アルゴンヌ国立研究所におけるIntense Pulsed Neutron Source部門の非弾性中性子散乱エネルギー測定装置HRMECSを使用し、計測温度9Kである。
【0051】
表1は種々の結晶構造の二酸化マンガン内に存在する、酸素原子−酸素原子間距離である。
【0052】
【表1】
表1中、R型の二酸化マンガンの結晶構造には、2.573および2.589Åの酸素原子−酸素原子間距離が存在することがわかる。先の中性子照射実験の結果から得られた情報である2.57〜2.60Åの結合距離に相当する酸素−酸素が、このようにR型二酸化マンガンの結晶中に存在する。したがって、酸処理によってR型二酸化マンガンの結晶に侵入したプロトンH+は結合距離が2.573および2.589Åの酸素原子−酸素原子間に捕捉されて固溶していることがわかる。
【0053】
原子間距離が2.589Åである酸素原子−酸素原子の結合は、図3に示すように、R型二酸化マンガンの結晶構造のb軸方向に沿ってネットワークを構成している。
【0054】
このため、R型二酸化マンガンの結晶に侵入したプロトンH+はこのネットワークをに沿って拡散伝導して行くものと考えられる。また、このネットワークが存在するb方向は、R型二酸化マンガンナノニードルの長さの成長方向でもある。このため、同ナノニードルの長さが成長するメカニズムには、酸処理によって侵入したプロトンH+がネットワーク導伝する現象が関係しているものと考えられる。通常、電池材料として年間20万トンが消費されているガンマ型二酸化マンガンは、R型結晶構造の中にイプシロン型の結晶構造や、ベータ型の結晶構造が不純物として混入している。これら不純物の結晶構造には、表1に示すように、2.57〜2.60Åの結合距離の酸素原子−酸素原子結合が存在しない。このためそれらの不純物が存在する箇所ではプロトンH+を伝導するネットワークが途切れてしまう。
【0055】
このため、高純度のR型結晶が反応性の高いナノ粒子として得られる本願のR型二酸化マンガンには、プロトンH+やプロトンに伴われた電子e−の伝導に係わるエネルギーロスの少ない電池材料として期待される。
【0056】
水素化した酸化マンガンに固溶可能なプロトンH+と電子e−の数の最大値は、結晶内に存在する結合距離が2.573および2.589Åの酸素原子−酸素原子結合の数に等しいと考えられる。また、これらの原子間距離をもった酸素原子−酸素原子の結合は結晶構造内で規則正しいネットワークを構成しているため、これらの酸素原子−酸素原子間に捕捉されているプロトンH+と電子e−も結晶内で均一な密度で分布していると考えられる。このため、電子e−だけが二酸化マンガンの結晶内に存在する場合に比較して、二酸化マンガンの表面において局部的な電界集中が起りにくいという利点が発生する。よって、本願の水素化した酸化マンガンの表面には、上述したように金属金ナノ粒子、あるいは金属パラジウムのナノ粒子を析出させることができるが、その析出状態は均一で高密度に金属ナノ粒子の析出を表面に生じさせることができる。金属パラジウムには、水素ガスH2をプロトンH+に分解し、パラジウムの結晶内にPd−Hの結合として侵入させる性質が有るため、本願によって実現された高密度・均一分布なパラジウムのナノ粒子を析出した酸化マンガンは、水素ガスや炭化水素ガスの分解触媒分野での応用が期待される。
【0057】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本願発明が限定されることはない。
【実施例】
【0058】
<実施例1> 太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の合成と特性
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gをアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に入れて、大気圧下、195℃で、昇温時間も含めて計6時間、電気炉を使って焼成した。その際、室温から195℃までの昇温速度は3℃/分とした。つぎに、焼成によって得られた粉末50gを水温14℃の濃度0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させてマグネチックスタラーで1時間攪拌した。攪拌の際には、懸濁液に実験室の窓のすりガラスを透過した太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。1時間攪拌後の懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返した。したがって、焼成した炭酸マンガンn水和物に対して計3回酸処理を実施した。最後に、酸処理後のペーストを100mLの純水で通水洗いした後、そのままガラス密閉容器内に保管した。
【0059】
ガラス密閉容器に保管した湿ったペーストから10gを取り出し、ガラスシャーレに移して、乾燥機内で大気圧下、110℃で6時間乾燥した。乾燥後の固化したブロックから、透過電子顕微鏡による観察と窒素ガス吸着法による表面分析のための必要量をサンプリングし、それぞれの測定手順に従って、観察・分析した。その結果、透過電子顕微鏡による観察では、太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのナノニードルが、空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された(図4参照)。また、ナノニードルの先端部を観察した写真を図5に示す。この図5よりナノニードルの先端部は、丸みを帯びた(角が丸まった)形状をしていることが確認された。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0060】
また、窒素ガス吸着法による表面分析から、サンプリングした材料が平均細孔直径11.7nm(図6参照)、BET比表面積109.35m2/g、全細孔容積0.32cm3/gのメソポーラス多孔体であることを確認した。なお、平均細孔直径とBET比表面積の測定には、島津製作所ーマイクロメリティクス製ASAP2020を使用した。
【0061】
また、同ブロックからサンプリングした材料をX線回折分析することによって、同ブロックの化学組成がR型の二酸化マンガンであること、およびX線回折パターンに炭酸マンガン起源の回折ピークが観察されないことから原料の炭酸マンガンが残留していないことを確認した。なお、X線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
【0062】
また、同ブロックの表面硬さをビッカースの硬さ試験法により測定した。測定に当たっては、同ブロック表面に金薄膜をスッパッタリング法によって被覆することで、表面の反射率を上げて試験圧痕のサイズを測定した。測定の結果、同ブロック表面のビッカース硬度が24であることがわかった。なお、ビッカース硬度の測定には、島津製作所製マイクロビッカース固さ試験機HMV−2000を使用した。
<実施例2> 太さが10〜30nm、長さが30〜300nmのR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の合成と特性
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gをアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に入れて、大気圧下、200℃に予め加熱した状態の電気炉に素早く設置して、昇温時間も含めて計6時間焼成した。つぎに、焼成によって得られた粉末50gを水温32℃、濃度0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させてマグネチックスタラーで2時間攪拌した。攪拌の際には、懸濁液に太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。実験当日は、8月の晴天日であったため、酸処理に使った上記の希塩酸の水温が高く、また、太陽光が実験室の透明ガラスを通過して照射されることで、マンガンイオンの酸化反応が実施例1や実施例3の場合に比べて促進されていたと考えられる。2時間30分攪拌後の懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返し、減圧ろ過器でろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。したがって、焼成した炭酸マンガンn水和物に対して計3回酸処理を実施した。
【0063】
ろ紙上の湿ったペーストに、0.5M希塩酸2mLを滴下して含ませ、さらにそのペーストを0.5M希塩酸を充分含ませたろ紙2枚で包装して、高さ80mm、内径30mmのガラス瓶に挿入した。その後、このガラス瓶を乾燥機内で大気圧下、100℃で乾燥した。乾燥後の固化したブロックから、透過電子顕微鏡(TEM)による観察と窒素ガス吸着法による表面分析のために必要量をサンプリングし、それぞれの測定手順に従って、観察・分析した。その結果、透過電子顕微鏡による観察では、太さ10〜30nm、長さ30〜300nmのナノニードルが空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された(図7,図8参照)。また、ナノニードルの先端部を観察した写真を図9に示す。この図9よりナノニードルの先端部は、丸みを帯びた形状をしていることが確認された。図10は、図8の高解像度写真である。この図10では(101)面の結晶の乱れが観察できる。右下の画像処理により得られた電子線回折パターンのコントラストの高さが本サンプルの結晶性の高さを示している。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0064】
また、窒素ガス吸着法による表面分析から、サンプリングした材料が平均細孔直径18.68nm(図11参照)、BET比表面積46.47m2/g、全細孔容積0.22cm3/gのメソポーラス多孔体であることを確認した。なお、平均細孔直径、BET比表面積、全細孔容積の測定には、島津製作所ーマイクロメリティクス製ASAP2020を使用した。
【0065】
また、同ブロックからサンプリングされた材料のX線回折分析を行うことで、同ブロックがR型の二酸化マンガンを主成分とすること、およびX線回折パターンに炭酸マンガン起源の回折ピークが観察されないことから原料の炭酸マンガンが残留していないことを確認した(図12参照)。図中、菱形印の横の数字はR型二酸化マンガンのX線回折ピークの理論回折角ピーク位置を示す。本発明のサンプルは、R型二酸化マンガンの理論回折角ピークの位置にピークを示していることがわかる。なお、X線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
【0066】
また、同ブロックの表面硬さをビッカースの硬さ試験法により測定した。測定に当たっては、同ブロック表面に金薄膜をスッパッタリング法によって被覆することで、表面の反射率を上げて試験圧痕のサイズを確認した。測定の結果、同ブロック表面のビッカース硬度が27であることがわかった。なお、ビッカース硬度の測定には、島津製作所製マイクロビッカース固さ試験機HMV−2000を使用した。
<実施例3> 太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードルによって構成されたメソポーラス多孔体の比表面積を向上させる実験
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gと試薬特級の炭酸酸化ビスマス(III)、Bi2(CO3)O22.5gをメノウ乳鉢でよく混合する。混合した粉末をアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に移し、大気圧下、195℃で、昇温時間も含めて計6時間、電気炉を使って焼成した。その際、室温から195℃までの昇温速度は3℃/分とした。つぎに、焼成によって得られた粉末25gを水温が12℃、濃度0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させてマグネチックスタラーで1時間攪拌した。攪拌の際には、懸濁液に実験室のすりガラスを透過した太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。1時間攪拌後の懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返した。したがって、炭酸マンガンn水和物と炭酸酸化ビスマスの混合粉体を焼成して得た粉体に対して計3回酸処理を実施した。最後に、酸処理後のペーストを100mLの純水で通水洗いした後、湿った状態のままガラス密閉容器内に保管した。
【0067】
ガラス密閉容器に保管した湿ったペーストから2gを取り出し、ガラスシャーレに移して、乾燥機内で大気圧下、110℃で6時間乾燥した。乾燥後の固化したブロックから、透過電子顕微鏡(TEM)による観察と窒素ガス吸着法による表面分析のために必要量をサンプリングし、それぞれの測定手順に従って、観察・分析した。その結果、透過電子顕微鏡による観察では、太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのナノニードルが空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された。また、1本のナノニードルの拡大写真を図9に示す。この図13によれば、太さ6nm程度の均一なナノニードルであることが観察された。また、ナノニードルの先端部を観察した写真を図14に示す。この図14よりナノニードルの先端部は、丸みを帯びた形状をしていることが確認された。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0068】
窒素ガス吸着法による表面分析から、サンプリングされた材料が平均細孔直径9.26nm、BET比表面積173.29m2/g、全細孔容積0.40cm3/gのメソポーラス多孔体であることを確認した。
【0069】
また、炭酸マンガンn水和物25gに混合する炭酸酸化ビスマスを5gと増やした場合には、上記と同条件の方法によって、最終的に同じサイズの二酸化マンガンのナノニードルが得られ、それが凝集することで、平均細孔直径5.487nm、BET比表面積190.93m2/g、全細孔容積0.263cm3/gのメソポーラス多孔体が得られることを確認した。
【0070】
このように炭酸酸化ビスマスを少量混合することで、最終的に得られるR型の二酸化マンガンのナノニードルから構成されたメソポーラス多孔体ブロックのBET比表面積を、同条件下で合成した炭酸酸化ビスマスを混合しない場合のBET比表面積109.35m2/g(実施例1)の結果に比べて約1.59倍〜1.75倍に増加させる効果が得られることを確認した。なお、平均細孔直径とBET比表面積の測定には島津製作所製ASAP2020を使用した。
【0071】
また、同ブロックからサンプリングされた材料のX線回折分析を行うことで、同ブロックがR型の二酸化マンガンを主成分とすること、およびX線回折パターンに炭酸マンガン起源の回折ピークと、炭酸酸化ビスマスおよび酸化ビスマス起源のピークがほとんど観察されないことを確認した。したがって、原料の炭酸マンガンおよび炭酸酸化ビスマスが同ブロックにはほとんど残留していないこと、および195℃の様な低温の焼成では同多孔体の化学成分的な観点からは不純物となる酸化ビスマスBi2O3が生じていないことを確認した。なお、X線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
【0072】
また、同ブロックの表面硬さをビッカースの硬さ試験法により測定した。測定に当たっては、同ブロック表面に金薄膜をスッパッタリング法によって被覆することで、表面の反射率を上げて試験圧痕のサイズを確認した。測定の結果、同ブロック表面のビッカース硬度が20であることがわかった。なお、ビッカース硬度の測定には、島津製作所製マイクロビッカース固さ試験機HMV−2000を使用した。
<実施例4> 太さが2〜10nm、長さが5〜30nmのR型二酸化マンガンのナノニードル合成の際に、酸処理時に使用する希塩酸の水温の影響を確認した実験、および水素化した酸化マンガンHMnO2の結晶構造が乱れていることを確認した実験
試薬特級の炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O(和光純薬製)25gをアルミナのルツボ(ルツボの内径6cm、深さ5cm、フタの中心部のガス流出用の孔の内径5mm)に入れて、大気圧下、200℃で、昇温時間も含めて計6時間、電気炉を使って焼成した。その際、室温から195℃までの昇温速度は5℃/分とした。つぎに、焼成によって得られた粉末5gを、水温が14℃で濃度が0.5Mの希塩酸100mL、または水温が35℃で濃度が0.5Mの希塩酸100mLにそれぞれ懸濁させてマグネチックスタラーで1時間攪拌した。攪拌の際には、各懸濁液に実験室の窓のすりガラスを透過した太陽光があたる場所にマグネチックスタラーを設置して攪拌した。1時間攪拌後の各懸濁液から酸化マンガンを減圧ろ過器で、ろ紙上に捕集し、湿ったペーストを得た。このペーストを再び上記と同じ条件で酸処理することを2回繰り返した。したがって、焼成した炭酸マンガンn水和物に対して計3回酸処理を実施した。酸処理時の希塩酸の温度が14℃の場合と、35℃の場合にそれぞれ得られた酸処理後の各ペーストを希塩酸で湿った状態のままガラス密閉容器内に保管した。
【0073】
ガラス密閉容器に保管した湿ったペーストから各10gを取り出し、ガラスシャーレに移して、乾燥機内で大気圧下、110℃で2時間乾燥した。乾燥後の固化した各ブロックから、透過電子顕微鏡による観察のための必要量をサンプリングし、測定手順に従って観察した。その結果、酸処理時の酸の水温が14℃の場合では、太さが3nm、長さが10nmのナノニードルが、空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された。一方、酸処理時の水温が35℃の場合では、太さが3〜8nm、長さが20〜30nmのナノニードルが、空隙を形成した状態で凝集している様子が観察された。このように、酸処理時に使用する酸の水温が高いとサイズが大きなナノニードルが得られることがわかった。なお、TEM写真の撮影には、日本電子製透過電子顕微鏡JEM−ARM1000を使用した。
【0074】
次に、酸処理直後の各ペーストと、各ペーストを上記乾燥条件で乾燥処理した場合に生じる結晶構造の変化をX線回折分析することによってを調べた。その結果、図15に示すように酸の水温が14℃場合には、酸処理直後のペースト(主成分がHMnO2)は極めてブロードなX線の回折ピーク(a)を示し、プロトンH+の侵入によって結晶構造の規則性が弱められている結果が得られた。このペーストのサンプルを乾燥すると、同図(b)に示した様なR型二酸化マンガンに特徴的な回折角をもつX線回折パターンが現れた。
【0075】
一方、図16に示すように酸の水温が35℃と高い場合には、先の透過電子顕微鏡観察結果から明らかなように、ナノニードルのサイズが大きいことが原因で比表面積が小さくなるため、プロトンH+の侵入量が減少し、結果として酸処理直後のペースト(主成分がHMnO2)の回折パターン(a)においても乾燥後のR型二酸化マンガンの回折パターン(b)と同等な強度のX線回折ピークが観察される。この(a)のペーストも乾燥処理後には、同図(b)に示したようにR型二酸化マンガンの結晶構造が得られることがわかる。なお、これらのX線回折分析には理学製X線回折分析装置RAD−IIBを使用した。
<実施例5> R型二酸化マンガンの純度の評価
実施例1で得たR型二酸化マンガンの純度を、X線回折分析により評価した。純度は、二酸化マンガン結晶の歪みを表す指標である「歪み係数」Jahn−Teller distortion factor(Y. Chabre and J. Pannetier, Structural and electrochemical properties of the proton /gamma−MnO2, Prog. Solid St. Chem., Vol. 23, pp. 1−130, 1995)を、K. Suetsugu, K. Sekitani and T. Shoji, An investigation of structural water in electrolytic manganese dioxide (EMD), TOSOH, Research & Technology Review, Vol. 49, pp.21−27, 2005の算出方法にしたがって算出・評価した。算出の結果、本願のR型二酸化マンガンの場合に得られた歪み係数は0.957であり、ベータ型やイプシロン型など他の結晶構造が混じっていない純度が100%のR型二酸化マンガンとしての理論的な歪み係数の値である0.95に非常に近い値が得られた。純度の比較例として、工業的に二酸化マンガンを合成する一般的な手法である電解法を用いて高純度のR型二酸化マンガンを得る条件(アノード電流12A/m2,9×104C、二酸化マンガンが析出する電極に50mm×100mmを使ったとすると析出には17日必要)で合成した場合に得られるR型二酸化マンガンの歪み係数が0.96以上であることが挙げられる。この値を考慮すると、本願のR型二酸化マンガンは極めて高純度であり、しかも付加的な電気エネルギーを必要としない水溶液中の触媒反応よって1〜3時間と極めて短時間で合成できることが明らかになった。
【0076】
なお、歪み係数の算出に当たっては、本願の方法で得たR型二酸化マンガンのX線(Cu−Kα)回折パターンから求められた格子乗数であるd(210)=2.424、d(211)=2.127、d(610)=1.359Åが使われた。その際、結晶軸を決める三次元軸であるa,b,c軸の設定はC. Fong, B.J. Kennedy, M.M. Elcombe, A powder neutron diffraction study of lambda and gamma manganese dioxide and of LiMn2O4, Zeitschrift Fuer Kristallographie, Vol. 209, pp. 941−945, 1994に従った。
<実施例6> 酸処理に使用する酸の種類
実施例2において、濃度0.5Mの希塩酸の代わりに濃度0.5Mの希硫酸を用いて酸処理を実施した。また、酸処理後のペーストに添加する酸およびそのペーストを包装するろ紙に含ませる酸についても、希塩酸の代わりに濃度0.5Mの希硫酸を用いて、実施例2の条件下で乾燥処理し、得たサンプルをX線回折分析した。その結果、R型の二酸化マンガンに特有なX線回折パターンが得られた。このため、塩酸よりも単価の安い硫酸を用いた場合でもR型二酸化マンガンが得られることがわかった。ただし、同条件下で酸処理に希塩酸を用いた場合に比較して、得られるR型二酸化マンガンのX線回折パターンの強度が若干低いことから、R型二酸化マンガンの成長を促すためには希硫酸よりも希塩酸を用いた方が好適であるといえる。同様に、希塩酸の代わりに希硝酸を酸処理に用いてもR型二酸化マンガンが得られた。
<実施例7> 水素化した酸化マンガンの評価
200℃で6時間、炭酸マンガンn水和物を加熱して得た粉末25gを0.5M希塩酸1Lに懸濁させて1時間攪拌後濾過回収してペーストを得た。さらにこのペーストを0.5M希塩酸1Lに懸濁させて1時間攪拌するといった一連の酸処理を2回繰り返して(したがって酸処理はトータル3回)、ペーストを濾過回収した。これをガラスプレートに塗布し、ただちに粉末X線回折分析装置に装填して分析した。また、このペーストに2mLの0.5M希塩酸を滴下し、同希塩酸を含んだろ紙で包装した後、高さ80mm、内径30mmのガラス瓶に挿入して乾燥機内に12時間大気圧下100℃に保持・乾燥処理してR型二酸化マンガンを得た。このR型二酸化マンガンの塊をメノウ乳鉢で粉砕し、ガラスプレートに圧着して粉末X線回折分析を実施した。上記ペースト、およびそれを乾燥処理して得たR型二酸化マンガン(R−MnO2)に関するX線回折分析結果を図17に示す。
【0077】
図17では、ペーストとR型二酸化マンガン(R−MnO2)は同じ回折角にピークを示している。これは、ペーストを構成している物質の結晶構造がR型二酸化マンガンと同じ結晶構造を有していることを示す。また、ペーストの(101)面に関するピークはR型二酸化マンガンの(101)面のピークに比べてブロードであり、ペーストの(101)面はプロトンH+の侵入の影響を強く受けて結晶構造が乱れていることがわかる。なお、図17中の最下段に線で示した回折ピークは文献値(C. Fong, B.J. Kennedy, M.M. Elcombe, A powder neutron diffraction study of lambda and gamma manganese dioxide and of LiMn2O4, Zeitschrift Fuer Kristallographie, Vol. 209, pp. 941−945, 1994)による理論的なR型二酸化マンガンの回折ピーク位置を示す。計測は、Rigaku RAD−II Bを使用した。
【0078】
また、ペーストのX線吸収端分析(XANES)によるマンガン価数の分析結果を図18に示す。なお、XANESの測定に当たっては、ペーストの乾燥を防ぐため、X線に対して透明なポリエチレンの袋に密閉して測定サンプルとし、計測には、Rigaku R−XAS Looperを使用した。
【0079】
図18では、ペーストのX線吸収端の位置は、標準試料として測定した二酸化マンガンMnO2とほぼ同じ位置に生じており、+3価のマンガンであるMn2O3の標準試料の吸収端とは異なる位置で生じることが明らかとなった。
【0080】
以上の結果より、上記ペーストは、R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンHMnO2であることが確認された。
<実施例8> 金属パラジウム担持R型二酸化マンガンのナノニードルの合成
実施例2で製造したR型二酸化マンガンのナノニードルの塊をメノウ乳鉢で充分粉砕し、0.5Mの希塩酸1Lに懸濁させて1時間攪拌した後、減圧ろ過器でろ紙上にナノニードルからなるペースト捕収した。つぎに、パラジウム濃度10000ppmの塩化パラジウム水溶液(キシダ化学製)100mLをビーカーに移し、水酸化ナトリウムのペレットと、水酸化ナトリウムの水溶液を用いてpH6.2に調整した。このpH調整した塩化パラジウム水溶液に、ろ紙上に捕収されたナノニードルからなるペーストを懸濁させて24時間攪拌保持した。ナノニードルを懸濁したパラジウム水溶液のpHは、パラジウムの析出が進行するにつれて低下するため、攪拌の間中はpH6.0を保つように、適時水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。24時間の攪拌終了後、減圧ろ過器でパラジウム水溶液に懸濁させたペーストをろ紙上に捕収し、次いでガラスシャーレに移し、電気炉を用いて大気圧下、100℃で12時間乾燥した。この様な一連の操作によって、金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンのナノニードルを得た。これを透過電子顕微鏡で観察した結果を図19に示す。
【0081】
なお、ナノニードルにパラジウムを析出させるためには、ナノニードル自身が含む電子をパラジウム錯体に渡して還元させる必要がある。また、このパラジウムの還元・析出反応の際にナノニードルを懸濁したパラジウム水溶液のpHが低下している。これらのことから、このナノニードルは、R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンのナノ微粒子であることがわかる。この金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンの化学式は、水素化した酸化マンガン(H+,e−)xMnO2のナノ微粒子が水溶液中の塩化パラジウム(+2価のパラジウム)PdCl2に電子を2個供給して金属パラジウムPdとして析出させるため、Pdx/2MnO2であると考えられる。
【0082】
また、実施例2で得たR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理し、濾過回収したペーストをガラスプレートに塗布し、X線回折分析したところ、R型二酸化マンガンのナノニードルの回折角の位置とほとんどずれていないことが確認された。
【0083】
この合成方法で重要な点は、一度、R型二酸化マンガンのナノニードルを合成してから、再びそれを酸処理することでR型二酸化マンガンのナノニードル表面を水素化した後、塩化パラジウム水溶液に懸濁させてナノニードルの表面にパラジウムを析出させることである。焼成炭酸マンガンを酸処理した直後に、塩化パラジウム水溶液と同条件下で接触させた場合には、図20に示すような、金属パラジウムのナノ粒子(濃いコントラストの点達)が析出した塊状のR型二酸化マンガンが得られ、ニードル状で得ることができない。これは、パラジウム水溶液中での析出反応では、水素化した酸化マンガンからは電子の供給に伴って、プロトンH+が約pH6のパラジウム水溶液中に放出された際に水中の水酸基OH−に中和されるために、パラジウムを析出したペーストには前出の酸素−酸素結合のネットワークを流れるプロトンH+が不足し、同ペーストを乾燥処理してもナノニードルとしては成長しないためと考えられる。
<実施例9> 金属金担持R型二酸化マンガンのナノニードルの合成
実施例8において、パラジウム濃度10000ppmの塩化パラジウム水溶液の代わりに金濃度1000ppmのHAuCl4水溶液「試薬名:原子吸光分析用標準試薬 金1000ppm」(和光純薬工業)を用いて同様の操作をおこなったところ、金属金のナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンのナノニードルが得られることが確認された。
<実施例10> 酸処理後のペーストからR型二酸化マンガンのメソポーラス多孔体膜の作成
上記実施例1〜3の合成中に得られた酸処理後のペーストを乾燥処理する際に、直径3cm、300メッシュのステンレス製の網に、同ペーストを塗布して100℃で7時間乾燥処理した。その結果、メッシュが骨材となり、メッシュの形と面積に応じた形状を有するR型二酸化マンガンのナノニードルで構成されたメソポーラス材料を担持した膜を作ることができた。さらに、このようにして得られた膜同士の面と面を接触させた状態で、200℃に加熱されたヒーター中に静置することで、膜どうしを接合することができた。このため、目的に応じて接合枚数を増やすことで、簡易に膜厚を増加させることが可能であることが証明された。
<実施例11> 二酸化マンガンナノニードル多孔体からなる赤外線吸収材料の赤外線吸収能の評価
実施例2で得られた平均細孔直径18.68nm、BET比表面積46.47m2/g、全細孔容積0.22cm3/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体0.115gをメノウ鉢で粉砕し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mmの試験体ペレット(赤外線吸収材料)を作成した。
【0084】
この試験体ペレットを赤外分光光度計に設置し、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して試験体ペレットを透過してくる赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図21に示す。図21では、波数1000cm-1以下(10.0μm以下)では縦軸の透過率が0.01%以下であり、ほとんどの波長領域において赤外線が吸収されていることがわかる。波数1000cm-1以上(10.0μm以上)においては、透過が観察されるが、これは本試験体ペレット中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の量が0.115gと極めて少ないためであり、ペレット中の二酸化マンガンナノニードル多孔体の量を増加させるに従って、波数1000cm−1以上(10.0μm以上)における透過強度が速やかに低下することを確認した。測定には、日本分光製のフーリェ変換赤外分光光度計FT−IR4200TYPE−Aを使用した。また、本試験体ペレットを光学顕微鏡で観察することを試みることは強力な観察光光源を照射しても、極めて困難であることを確認した。これは、二酸化マンガンナノニードル多孔体が、グラファイトなどに代表されるカーボン材料に比べて、赤外線だけではなく、可視光に対しても高い吸収性を有するためであり、単に赤外線だけの吸収能に優れるカーボン材料などに比べた場合の長所である。なお、赤外線吸収の測定には、日本分光製のフーリェ変換赤外分光光度計FT−IR4200TYPE−Aを使用した。
<実施例12> 赤外線フィルターの赤外線吸収能の評価(1)
実施例3で得られた平均細孔直径9.26nm、BET比表面積173.29m2/g、全細孔容積0.40cm3/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体0.0286gをKBr粉末0.4362gとともにメノウ鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mm(プラス・マイナス0.1mm)の試験体ペレットを作成した。したがって、この試験体ペレット中の二酸化マンガンのナノニードル多孔体とKBrとの混合重量比は、1:15.3である。また、二酸化マンガンナノニードル多孔体濃度は6.15wt%である。
【0085】
この試験体ペレットを、赤外分光光度計に設置し、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して試験体ペレットを透過する赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図22に示す。図22では、縦軸の透過率のピークトップが、波数799.74cm−1(12.5μm)、かつ、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)が90cm−1(1.36μm)の赤外線のみを透過している。このため、作成した試験体は、特定の波長領域の赤外線を透過させるフィルターとして機能していることがわかる。
【0086】
また、二酸化マンガンナノニードル多孔体を得るための前駆体である焼成された炭酸マンガン粉末0.0283gを、KBr粉末0.4389gとともにメノウ乳鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mmの試験体ペレットを作成した(焼成炭酸マンガンとKBrの重量混合比は1:15.5、試験体ペレット中での焼成炭酸マンガンの濃度は0.00606wt%)。この試験体ペレットの赤外線透過特性を図23に示した。図23では、炭酸塩に起因する赤外線透過成分が観察されることから、二酸化マンガンナノニードル多孔体を合成する手順において、酸処理を充分に行うことで炭酸成分を除去することが、赤外線のフィルター特性を高めるために重要であることがわかる。なお、赤外線透過の測定には、パーキンエルマー社製のフーリェ変換赤外分光分析装置Spectrum One Image System FT−IR Spectrometerを使用した。
<実施例13> 赤外線フィルターの赤外線吸収能の評価(2)
実施例2で得た平均細孔直径18.68nm、BET比表面積46.47m2/g、全細孔容積0.22cm3/gの二酸化マンガンナノニードル多孔体0.0280gをKBr粉末0.4355gとともにメノウ鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、これをロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mm(プラス・マイナス0.1mm)の試験体ペレットを作成した。したがって、この試験体ペレット中の二酸化マンガンナノニードル多孔体とKBrとの混合重量比は、1:15.6である。また、二酸化マンガンナノニードル多孔体濃度は6.04wt%である。
【0087】
この試験体ペレットを、赤外分光光度計に設置し、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して試験体ペレットを透過する赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図24に示す。図24では、縦軸の透過率のピークトップが、波数810.92cm−1(12.3μm)、かつ、半値幅(透過率0%からピークトップの透過率までの二分の一の高さにおけるピーク幅)が100cm−1(1.49μm)の赤外線のみを透過している。このため、作成した試験体は、特定の波長領域の赤外線を透過させるフィルターとして機能していることがわかる。実施例11の結果である図22と比べると、比表面積が小さく、平均細孔直径が大きい二酸化マンガンナノニードル多孔体を用いた本例の方が、若干半値幅が広い透過ピークとなり、ピークの透過率の値が高いことから、実施例11の試験体ペレットに比べて、ほぼ同じ波長域の赤外線の透過性が高いことがわかる。
【0088】
また、グラファイトや活性炭などのカーボン材料をKBrに添加して、同様の試験体ペレットを作成し、同様の手法で赤外線透過特性を確認したが、カーボン材料を添加した場合には、2.5〜25μmの全波長領域に渡って赤外線の吸収が生じるため、本発明のようなフィルター効果が得られないことを確認した。なお、赤外線透過の測定には、パーキンエルマー社製のフーリェ変換赤外分光分析装置Spectrum One Image System FT−IR Spectrometerを使用した。
<実施例14>
上記実施例3で合成した酸処理後のペーストをサラシ布に均一に塗布した後、自然乾燥させた。約50℃のお湯が入った紙コップ(高さ10cm、直径6cm)を用意し、この紙コップを台の上において、紙コップの手前10mmの位置に、1)何もない、2)白いウエス、3)二酸化マンガンのナノニードルから構成された多孔体の粉末を塗布したサラシ布を設置して、赤外線モニター・ナイトビジョン(本田技研レジェンド2005年式搭載)で観察した。なお、紙コップと赤外線センサーを搭載した自動車との距離は10mに設定した。
【0089】
その結果、1)では、白く紙コップがはっきりモニターに浮かび上がる。2)ぼんやり白く紙コップが浮かび上がる。3)グレー色に映って物がありそうなことはわかるが、1)や2)の様に白くはならない。という結果が得られた。この結果から、布に塗布した二酸化マンガンのナノニードルから構成された多孔体の粉末がお湯を入れた紙コップから発する赤外線を吸収遮断していることがわかった。したがって、本発明の材料が、市販の自動車に組み込まれた信頼性の高い高感度の赤外線モニターを使った場合でも、効果的な赤外線吸収体の性能を発揮することが証明された。
<比較例>
市販の二酸化マンガン(和光純薬製特級酸化マンガンIV化学処理品)、市販の酸化マンガン(和光純薬製特級酸化マンガンIII Mn2O3)、市販の酸化チタン(和光純薬製特級酸化チタンIII TiO2)を表2の条件で、各材料をメノウ乳鉢で粉砕・混合し、加圧成型治具に入れ、ロータリーポンプで脱気しながら、圧力4MPa、3分間で圧縮成型して、直径10mm、厚さ0.5mm(プラス・マイナス0.1mm)の試験体ペレットを作成した。
【0090】
【表2】
つぎに、作成した各試験体ペレットを、赤外分光光度計に設置して、波数4000〜400cm−1(波長2.5〜25.0μm)の赤外線を照射して各試験体ペレットを透過する赤外線の強度と波数(波長)を調べた。この測定結果を図25〜27に示す。
【0091】
図25は、市販の二酸化マンガンとKBrを混合した試験体ペレットに関する赤外線透過特性を示す。この市販の二酸化マンガン(和光純薬工業製試薬特級)は、透過型電子顕微鏡観察すると大きさが10ナノメートル程度の微粉体であるため、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体を用いた場合の結果である図22や図24に類似した透過波長や透過強度を示すが、1500〜1000cm−1の波数領域に市販の二酸化マンガンが含んでいる吸着水に基づく赤外線の透過ピークが観察される。これは、市販の二酸化マンガンが単なる微粒子の集合体であるために、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体を用いた場合のように、照射された赤外線が材料内部で拡散反射されて強度が減衰する効果が得られないためであると考えられる。このため、赤外線フィルターを作るための添加材としては、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体の方が優れていると言える。
【0092】
つぎに、図26は市販の酸化マンガン(III)(STREM CHEMICALS製試薬99%)とKBrを混合した試験体ペレットに関する赤外線透過特性を示す。図25の市販の二酸化マンガンに比べると1500〜1000cm−1の波数領域に吸着水の透過ピークは存在しないが透過強度が7倍以上高く、半値幅も広いため、入射する赤外線のエネルギーが高い場合には、半値幅が広がることでフィルター特性が悪化することが予想される。
【0093】
また、図27は市販の酸化チタン(IV)(和光純薬工業製試薬特級)とKBrを混合した試験体ペレットに関する赤外線透過特性を示す。図27の結果は、本発明の二酸化マンガンのナノニードル多孔体を用いた場合の結果である図22や図24の場合に比べて、透過波長のピークが9.2μmに見られるといった違いがあることがわかる。しかしながら透過強度が図22や24に比べると6倍から10倍高いため、入射する赤外線のエネルギーが高い場合には、半値幅が広がることでフィルター特性が悪化することが予想される。
【0094】
なお、以上の赤外線透過の測定には、パーキンエルマー社製のフーリェ変換赤外分光分析装置Spectrum One Image System FT−IR Spectrometerを使用した。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本願の水素化した酸化マンガンHMnO2の合成のメカニズムの概略図である。
【図2】水素化した酸化マンガンおよび氷に中性子を照射した結果である。
【図3】R型二酸化マンガンの結晶構造中における結合距離が2.589Å(b方向)の酸素原子−酸素原子、および2.573Å(a方向)の酸素原子−酸素原子によって構成されるネットワークを模式的に示した図である。
【図4】実施例1におけるナノニードル凝集体の透過電子顕微鏡像である。
【図5】実施例1におけるナノニードルの先端部の透過電子顕微鏡像である。
【図6】実施例1におけるナノニードル凝集体の窒素ガス吸着法による表面分析結果である。
【図7】実施例2におけるナノニードル凝集体の透過電子顕微鏡像である。
【図8】実施例2における別のナノニードル凝集体の透過電子顕微鏡像である。
【図9】実施例2におけるナノニードルの先端部の透過電子顕微鏡像である。
【図10】図8の高解像度写真である。
【図11】実施例2におけるナノニードル凝集体の窒素ガス吸着法による表面分析結果である。
【図12】実施例2におけるナノニードル凝集体のX線回折パターンである。
【図13】実施例3におけるナノニードルの透過電子顕微鏡像である。
【図14】実施例3におけるナノニードルの先端部の透過電子顕微鏡像である。
【図15】実施例4における酸処理に水温14℃の希塩酸を使った場合に得られるナノニードル凝集体のX線回折パターンである。
【図16】実施例4における酸処理に水温35℃の希塩酸を使った場合に得られるナノニードル凝集体のX線回折パターンである。
【図17】実施例7におけるペーストおよびそれを乾燥処理して得たR型二酸化マンガンのX線回折分析結果である。
【図18】実施例7におけるペーストのX線吸収端分析(XANES)によるマンガン価数の分析結果である。
【図19】実施例8における金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンのナノニードルの透過電子顕微鏡像である。
【図20】実施例8における金属パラジウムのナノ粒子を担持したR型二酸化マンガンの透過電子顕微鏡像である。
【図21】実施例11における二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外線吸収特性を表した図である。
【図22】実施例12における二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外線透過特性を表した図である。
【図23】実施例12における焼成炭酸マンガンの赤外線透過特性を表した図である。
【図24】実施例13における二酸化マンガンナノニードル多孔体の赤外線吸収特性を表した図である。
【図25】比較例における市販の二酸化マンガンの赤外線透過特性を表した図である。
【図26】比較例における市販の酸化マンガン(III)の赤外線透過特性を表した図である。
【図27】比較例における市販の酸化チタン(IV)の赤外線透過特性を表した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項2】
メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積が40〜200m2/g、全細孔容積が0.1〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項3】
メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が7nm〜14nmの範囲、BET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項4】
メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が15nm〜30nmの範囲、BET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項5】
表面硬さは、ビッカース硬さ試験法による測定でビッカース硬度15〜35の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項6】
大きさがナノメートルスケールであって、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項7】
太さ1〜100nm、長さ3〜900nmの範囲であることを特徴とする請求項6に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項8】
太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲である請求項6に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項9】
太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲である請求項6に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかのR型二酸化マンガンのナノニードルに、金属が担持されていることを特徴とする金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項11】
担持される金属は、金またはパラジウムであることを特徴とする請求項10に記載の金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項12】
R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
【請求項13】
太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲であって、ニードル状である請求項12に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
【請求項14】
太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲であって、ニードル状である請求項12に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
【請求項15】
請求項1から5のいずれかの二酸化マンガンナノニードル多孔体で形成されてなるメソポーラス多孔体材料。
【請求項16】
膜状に形成された膜状体であることを特徴とする請求項15に記載のメソポーラス多孔体材料。
【請求項17】
炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O粉末を焼成し、これを酸処理してペースト状とした後、乾燥することを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
【請求項18】
炭酸マンガンn水和物とともに炭酸酸化ビスマスを混合して焼成することを特徴とする請求項17に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
【請求項19】
酸処理を少なくとも2回以上行うこと特徴とする請求項17または18に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
【請求項20】
請求項6から9のR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理することを特徴とする水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子の製造方法。
【請求項21】
請求項1から5のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体からなる赤外線吸収材料。
【請求項22】
請求項21に記載の赤外線吸収材料が含有されていることを特徴とする赤外線フィルター。
【請求項23】
透過される赤外線は、波長領域10〜14μmの範囲であることを特徴とする請求項22に記載の赤外線フィルター。
【請求項1】
R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のナノニードルで構成されており、これらナノニードルでメソポーラス多孔体構造が形成されていることを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項2】
メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が3nm〜30nmの範囲であって、BET比表面積が40〜200m2/g、全細孔容積が0.1〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項3】
メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が7nm〜14nmの範囲、BET比表面積が80〜130m2/g、全細孔容積が0.2〜0.5cm3/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項4】
メソポーラス多孔体構造の平均細孔直径が15nm〜30nmの範囲、BET比表面積が40〜50m2/g、全細孔容積が0.1〜0.3cm3/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項5】
表面硬さは、ビッカース硬さ試験法による測定でビッカース硬度15〜35の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体。
【請求項6】
大きさがナノメートルスケールであって、R型二酸化マンガンを主成分とするニードル状のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項7】
太さ1〜100nm、長さ3〜900nmの範囲であることを特徴とする請求項6に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項8】
太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲である請求項6に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項9】
太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲である請求項6に記載のR型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかのR型二酸化マンガンのナノニードルに、金属が担持されていることを特徴とする金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項11】
担持される金属は、金またはパラジウムであることを特徴とする請求項10に記載の金属担持R型二酸化マンガンのナノニードル。
【請求項12】
R型二酸化マンガンMnO2の結晶構造に、プロトンH+および電子e−が含侵したマンガン価数+4価の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
【請求項13】
太さ2〜10nm、長さ5〜30nmの範囲であって、ニードル状である請求項12に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
【請求項14】
太さ10〜30nm、長さ30〜300nmの範囲であって、ニードル状である請求項12に記載の水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子。
【請求項15】
請求項1から5のいずれかの二酸化マンガンナノニードル多孔体で形成されてなるメソポーラス多孔体材料。
【請求項16】
膜状に形成された膜状体であることを特徴とする請求項15に記載のメソポーラス多孔体材料。
【請求項17】
炭酸マンガンn水和物MnCO3・nH2O粉末を焼成し、これを酸処理してペースト状とした後、乾燥することを特徴とする二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
【請求項18】
炭酸マンガンn水和物とともに炭酸酸化ビスマスを混合して焼成することを特徴とする請求項17に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
【請求項19】
酸処理を少なくとも2回以上行うこと特徴とする請求項17または18に記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体の製造方法。
【請求項20】
請求項6から9のR型二酸化マンガンのナノニードルを酸処理することを特徴とする水素化した酸化マンガンHMnO2のナノ微粒子の製造方法。
【請求項21】
請求項1から5のいずれかに記載の二酸化マンガンナノニードル多孔体からなる赤外線吸収材料。
【請求項22】
請求項21に記載の赤外線吸収材料が含有されていることを特徴とする赤外線フィルター。
【請求項23】
透過される赤外線は、波長領域10〜14μmの範囲であることを特徴とする請求項22に記載の赤外線フィルター。
【図1】
【図3】
【図6】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図19】
【図20】
【図3】
【図6】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−238424(P2007−238424A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229893(P2006−229893)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(505334020)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(505334020)
【Fターム(参考)】
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