説明

S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸及びその製造方法

【課題】原料の(S)−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを塩基性条件下で加水分解し、これを中和して(S)−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を製造する際、固液分離性に優れた高純度の(S)−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸結晶が得られる条件を明らかにする。
【解決手段】加水分解後の反応液をそのまま又はpH5〜7に中和し、該反応液中に含まれる不溶物を除去した後、該処理液を50〜80℃の温度範囲で中和することにより、固液分離性に優れ、それ故に取り扱い性に優れた、極めて高純度の(S)−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸結晶を製造し提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを加水分解して、高純度のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を製造する方法に関する。さらに詳しくは、原料のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを塩基性条件下で加水分解し、得られた反応液から、固液分離性に優れた高純度のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の結晶を安定的に得るための中和処理条件及びその中和処理条件で得られた製造物に関する。光学活性体であるS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸、取り分け、高純度のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸は、ビタミン、又は消炎剤や抗アレルギー剤等の医薬原料として極めて重要である。
【背景技術】
【0002】
クロマン化合物の製造方法を示した従来例としては、フェノール類、及び不飽和カルボニル化合物を出発原料とする多段階法(例えば、特許文献1参照)、フェノール類、ホルムアルデヒド類、及び不飽和化合物類を無触媒、又は酸若しくはアミンの存在下に反応させる方法(例えば、特許文献2,3,4参照)等がある。
【0003】
光学活性な6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸誘導体を得る方法としては、特許文献4の方法に従うことによって得られる6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを、1)光学活性アミンによるジアステレオマー分割法(例えば、特許文献5,6参照)、2)(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマンカルボン酸エステルの酵素触媒による不斉加水分解法(例えば、特許文献7参照)を用い光学的な分割を行うことによって得られる。
【0004】
上述の方法に従うことにより、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を製造することは可能であるが、高純度のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を工業的かつ経済的に提供する上では改善工夫すべき点が残されている。既に本発明者等は、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を簡便かつ収率良く製造する方法について提案している。しかしながら、それらの方法を用いても、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを製造した後、加水分解してS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を製造する場合、加水分解後に行う中和及び温度管理条件が不適切であると反応液がペースト状の分離性の悪いスラリーになる。従って、工業的な実施には、これらの課題を解決して経済的に目的物を取得する手段を確立する必要があった。しかしながら、従来技術及び先行文献には、結晶の固液分離性及び乾燥を容易ならしめるようなS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の晶析分離条件についてはなんら開示されていない。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,026,907号明細書
【特許文献2】特開昭60−92283号公報
【特許文献3】特開平7−97380号公報
【特許文献4】特開2003−146981号公報
【特許文献5】特開平11−80149号公報
【特許文献6】国際公開02/12221号パンフレット
【特許文献7】米国特許5348973号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルから、固液分離性に優れた高純度のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を効率的に製造するための、工業的に実施可能な製造方法及びそれによって得られた製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを加水分解して、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を製造する際、以下の操作条件を採用することで、結晶スラリーの濾過性に優れ、乾燥性が良好でしかも結晶の粉立ちが殆ど無い、取り扱い性に優れた極めて高純度の結晶を収率良く得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、原料のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラクロマン−2−カルボン酸エステルを塩基性条件下に加水分解した後、得られた反応液から固液分離性に優れた高純度のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の結晶を取得するための、以下の(1)〜(6)に示す製造方法及び製造物に関する。
(1)一般式(1)で表されるS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを加水分解してS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を製造する方法に於いて、一般式(1)で表されるS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを塩基性条件下で加水分解した後、該反応液中に含まれる不溶物を除去し、得られた処理液を50〜80℃の温度範囲で中和することを特徴とする、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
【0009】
【化1】

(1)
(但し、一般式(1)におけるRは、アルキル基又はアリール基を表す。)
(2)塩基性条件下での加水分解反応を50〜80℃の温度範囲で行う、(1)に記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
(3)塩基性条件下で加水分解した反応液中に含まれる不溶物の除去を50〜80℃の温度範囲で行う、(1)又は(2)に記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
(4)塩基性条件下で加水分解した反応液中に含まれる不溶物の除去を、該反応液のpHを5〜7に調整した後に行う、(1)〜(3)の何れかに記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
(5)不溶物を除去することによって得られた処理液を50〜80℃の温度範囲で中和する際に、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の結晶を種結晶として添加する、(1)〜(4)の何れかに記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
(6)(1)〜(5)の何れかに記載の製造方法で得られるS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸。
【発明の効果】
【0010】
簡便な方法で固液分離性に優れた結晶を安定的に得ることができる本発明の方法を用いることによって、再結晶等の精製工程を付加することなく、医薬、農薬等の原料として有用なより純度の高い(S)−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を経済的に製造し提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用い得る原料は、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルである。このような光学活性なエステルは、ラセミ又は光学活性な6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の混合物を原料とし、これを立体選択的にエステル化する酵素触媒を用いたりすることによって得ることが出来る。
S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルのアルキル又はアリール基は、炭素数1〜24迄の、ハロゲン、水酸基等の官能基を置換基として有する事のある脂肪族又は芳香族炭化水素が好ましい。エステルの該炭化水素残基を具体的に挙げれば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−アミル、アリル、n−ヘキシル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル基等が好ましい例である、特に好ましいのはメチル基及びエチル基である。
【0012】
次ぎに、原料として6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルを用いた場合を例にして説明する。原料となる6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルは6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸とメタノールを、酵素触媒(リパーゼ)の存在下、有機溶媒中においてエステル化反応を行うことで得られる。仕込む原料の比率は任意に決める事ができるが、反応効率の点から24時間程度で目的の収率になるように調節することが好ましい。なお、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルは、既に発明者等によって提案されている方法に基づく実施例1に示した手順に従って製造する事が出来る。
【0013】
S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルの加水分解反応は、酸性条件下に行う事もできるが、比較的穏和な条件で効率よく加水分解できる点で、水溶媒中、塩基性条件下で行うことが好ましい。加水分解に用いる塩基は、弱塩基性から強塩基性の無機化合物又は有機化合物を用いる事が出来るが、反応性が良好で未反応物が残存し難い点から、強塩基性のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。特に好ましいのはKOHとNaOHである。加水分解に用いる塩基の量は、基質に対して1〜5倍モルが好ましく、特に1〜2倍モルが好ましい。
加水分解時の反応温度は50〜80℃の範囲で行う事が好ましく、反応時間は0.1〜6時間が好ましく、特に1〜3時間で行うのがより好ましい。
【0014】
加水分解に用いる溶媒の量は、基質に対して2〜10倍重量用いることが好ましく、3〜5倍重量用いることがより好ましい。また、水と良く混ざり、基質を溶解し、反応に不活性な有機溶媒を添加する事で、反応をより円滑に進めることが出来る。そのような有機溶媒としては、例えば、アルコール、ニトリル類等が挙げられるが、基質の溶解性やエステル交換反応の恐れが無く、溶媒組成が複雑化しない点でメチルアルコールが特に好ましい。溶媒中に含まれる有機溶媒の水に対する割合は任意でよいが、水に対して0.1〜1倍重量用いる事が好ましい。なお、有機溶媒を更に過剰に用いても大きな支障は無いが反応釜の使用効率、経済的な点から好ましくない。
【0015】
加水分解反応終了後、反応液中に含まれる不溶物を濾過等の分離手段によって除去する。不溶物は、原料中に含まれていた低溶解性の物質、反応中に生成した副生物、又は原料の未転化物等によって構成されており、反応終了後、液中に含まれる不溶物を出来る限り取り除くことが重要である。この不溶物の除去操作は最終的に得られる製品純度に直結する為、必ず実施する必要がある。なお、不溶物の分離手段としては、一般的なデカンテーション、常圧濾過、減圧濾過、加圧濾過、及び遠心分離等の手段を用いることが出来るが、不溶物を分離除去することができれば特にこれらの方法に限定されるものではない。
不溶物を除去する際の液温は、上記加水分解の反応温度と同等の50〜80℃の温度範囲で行うことが好ましい。なおその際、冷却し過ぎるとS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸のアルカリ塩が析出する場合があるので、それらが析出する温度よりも高い温度で行う事が好ましい。また、加水分解の反応温度に近い温度で不溶物を除去するのが不溶物の除去効率及び熱効率の面で有利である。
不溶物の除去は、加水分解後の反応液をそのまま処理しても良いが、反応液に酸を加えpH5〜7に調整してから行うとより良い。この操作によって、溶解していた不純物成分が不溶物として析出するため、より高純度のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を取得する事が可能となる。なお、この時、酸を過剰に加えてpHを5よりもさらに低下させると、不溶物ばかりかS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の析出も起こり始めるので収率低下に繋がり好ましくない。なお、pH調整に用いる酸は、次の中和工程と同じものを用いることが作業上好ましい。
【0016】
このようにして不溶物を除去した後に反応液の中和を行う。なお、その際、少量のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の結晶を種結晶を添加した後、中和処理を行うと良い。種結晶を添加しない場合に比較して、より沈降し易く固液分離性に優れたS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の結晶を得ることが可能となる。
中和には塩酸、硫酸、硝酸等の強酸性の鉱産、又は硫酸水素ナトリウムや硫酸水素カリウム等の弱酸の何れを用いても良い。硫酸水素ナトリウムや硫酸水素カリウム等の酸を用いる場合、酸に対して1〜10倍量の水に溶解して用いるのが好ましい。
【0017】
中和処理は40〜80℃の温度範囲で行う事が好ましく、50〜70℃の温度範囲で行う事がより好ましい。40℃を下回る温度で行った場合、析出する結晶が沈降性の悪い微小結晶になるため液全体がペースト状となる。このペースト状の結晶は濾過性及び乾燥性が極めて悪く、固液分離した際、母液の付着量が非常に多い含液率の高い結晶になる。そのため、母液中に含まれていた無機塩や不純物が残留し易くなり、得られる結晶の純度が低下する。
一方、80℃を上回る場合には、中和により析出するはずの結晶がオイル状となり2層状態になる。因みに、そのまま中和を継続すると、下層のオイル部分が一度に結晶化し塊状となる場合がある。塊状になると、反応容器からの取り出しが困難になるだけではなく、化学純度も低くなるので好ましくない。
中和時の圧力は、通常、大気圧下で行うが、必要に応じて加圧又は減圧下に実施しても良い。何れの操作に於いても可能であれば不活性ガス雰囲気下に実施する事が好ましい。中和処理後、固液分離した結晶スラリー中に含まれる中和塩を、水で十分に洗浄除去した後、乾燥して最終製品とする事が出来る。
【0018】
中和の際の溶液の加え方は、不溶物を除去した処理液に中和用の酸性溶液を加えても、中和用の酸性溶液に処理液を加えても、また、処理液と酸性溶液を、水、又は水に有機溶媒を加えた混合溶液に加える方法の何れをとっても良い。
加え方としては、一度に入れることもできるが、1時間程の時間をかけて除々に滴下するのが好ましい。有機溶媒としては水と良く混ざるアルコール、ニトリル類等が挙げられるが、加水分解反応の時に添加した溶媒と同じ物にすることが好ましい。
【0019】
本発明の方法を用いることにより、粒径の大きい固液分離性に優れた結晶を得ることが可能となる。また、結晶濾過性が改善されることにより、塩類等を含む付着母液の洗浄が容易になるとともに濾過時間を大幅に短縮することが出来る。このようにして、従来技術では製造する事が出来なかった粉立ちの少ない、取り扱い性に優れた高純度の(S)−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を効率的に製造する事が可能となる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明を、実施例及び比較例をもってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものでは無い。なお、光学純度の分析はSUMICHIRALOA−3200(住友分析センター、4.6φmm×250mm)を用いたHPLCで行った。
実施例1
【0021】
1)(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルの製造
1,4−ジヒドロキシ−2,3,5−トリメチルベンゼン100g(0.657mol)、ホルマリン水溶液(ホルムアルデヒド37wt%、水56wt%、メタノール7wt%)110g、メチルメタクリレート330g(3.296mol)を1Lのステンレス製オートクレーブに入れ、180℃で3時間撹拌しながら反応させた。40℃まで冷却後、析出した結晶を濾過し、メタノール200gで2回リンスした。回収した結晶を乾燥して目的とする6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチル(以下、CCMと記す)135g(CCMとして0.478mol、収率72.6%、化学純度93.5%)を得た。
2)(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造
上記のようにして製造したCCM16.7g(CCMとして59.1mmol、化学純度93.5%)、メタノール16.7g、NaOH3.3g(82.5mmol)、水50gを200mlのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下80℃で1時間攪拌しながらエステルの加水分解反応を行った。この反応液をそのままの温度で濾過し不溶物を除いた後、300mLのガラス容器に仕込んだ硫酸水素カリウム11.7g(85.9mmol)を50gの水に溶かし80℃に保った酸性溶液中に1時間かけて滴下した。中和処理終了後、攪拌を止め静置すると、結晶は速やかに沈降した。この結晶を80℃で濾別し、50mLの水で2回洗浄した後、80℃で24時間、真空乾燥し6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(以下、CCAと記す)14.5g(57.9mmol)を得た(収率98.3%、化学純度は99.7%)。
3)S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルの製造
上記の操作によって得たCCA1200g(4.79mol)、メタノール767g(23.93)、イソプロピルエーテル15000g、固定化酵素CHIRAZYMEL−2,c−f、C2(ロッシュ・ダイアグノスティック社製)400gを、200mlのステンレス製耐圧容器に仕込み、Arで置換した後、80℃で24時間反応を行った。24時間後、濾過によって触媒を取り除き反応液を回収した。この反応液に、炭酸ナトリウム760g(7.17mol)を水6000gに溶解した水溶液を加えて未反応のCCAを水層に除去した。有機層と水層を分離した後に、有機層を濃縮して、析出した結晶を濾過により回収し、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチル(以下、S−CCMと記す)500g(1.89mol)を得た。(収率39.5mol%、化学純度99.0%、光学純度99%ee)。
4)S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造
上記のようにして製造したS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を60℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を停止すると、沈降分離性に優れた結晶が析出した。この結晶を濾過し、1250mLの水で2回洗浄した。得られたスラリー状の結晶の含液率は31wt%であり、濾過性、結晶の乾燥性共に非常に良好であった。乾燥後にS−CCAの顆粒状結晶(図1参照)365g(1.46mol、収率92.4mol%、化学純度99.7%、光学純度99%ee)を得た。
【0022】
実施例2
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を50℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を停止すると、沈降分離性に優れた結晶が析出した。この結晶を濾過し、1250mLの水で2回洗浄した。得られたスラリー状の結晶の含液率は30wt%であり、濾過性、結晶の乾燥性共に非常に良好であった。乾燥後にS−CCAの顆粒状結晶368g(1.47mol、収率93.0mol%、化学純度99.5%、光学純度99%ee)を得た。
【0023】
実施例3
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を70℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を停止すると、沈降分離性に優れた結晶が析出した。この結晶を濾過し、1250mLの水で2回洗浄した。得られたスラリー状の結晶の含液率は29wt%であり、濾過性、結晶の乾燥性共に非常に良好であった。乾燥後にS−CCAの顆粒状結晶363g(1.45mol、収率91.8mol%、化学純度99.6%、光学純度99%ee)を得た。
【0024】
実施例4
実施例1で得られたS−CCM209g(0.79mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を60℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を停止すると、沈降性に優れた結晶が析出した。この結晶を濾過し、1250mLの水で2回洗浄した。得られたスラリー状の結晶の含液率は30wt%であり、濾過性、結晶の乾燥性共に非常に良好であった。乾燥後にS−CCAの顆粒状結晶186g(0.74mol、収率93.6mol%、化学純度99.8%、光学純度99%ee)を得た。
【0025】
実施例5
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた後、濾過によって不溶物を除いた。濾液に種結晶を1g添加した後に、60℃に保ちながら残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を停止すると、沈降分離性に優れた結晶が析出した。この結晶を濾過し、1250mLの水で2回洗浄した。得られたスラリー状の結晶の含液率は31wt%であり、濾過性、結晶の乾燥性共に非常に良好であった。乾燥後にS−CCAの顆粒状結晶368g(1.47mol、収率93.0mol%、化学純度99.7%、光学純度99%ee)を得た。
【0026】
実施例6
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH7になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を60℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を停止すると、沈降分離性に優れた結晶が析出した。この結晶を濾過し、1250mLの水で2回洗浄した。得られたスラリー状の結晶の含液率は32wt%であり、濾過性、結晶の乾燥性共に非常に良好であった。乾燥後にS−CCAの顆粒状結晶(図1参照)368g(1.47mol、収率93.0mol%、化学純度99.5%、光学純度99%ee)を得た。
【0027】
実施例7
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液を、60℃に保った反応液に1時間かけて滴下した。滴下終了後、攪拌を停止すると、沈降分離性に優れた結晶が析出した。この結晶を濾過し、1250mLの水で2回洗浄した。得られたスラリー状の結晶の含液率は31wt%であり、濾過性、結晶の乾燥性共に非常に良好であった。乾燥後にS−CCAの顆粒状結晶(図1参照)375g(1.50mol、収率94.9mol%、化学純度99.0%、光学純度99%ee)を得た。
【0028】
比較例1
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を25℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。中和処理途中から混合液全体がペースト状となり、中和処理終了後、攪拌を止め静置しても、結晶の沈降分離は起こらなかった。濾過は可能であったが、濾過性は非常に悪く6時間を要した。この濾別した結晶を1000gの水で2回洗浄したが洗浄効果に乏しく中和塩の除去は不充分であった(分析の結果2.7gの中和塩が残存していた)。スラリー状の結晶を圧搾した後、さらに1000gの水で2回洗浄し水切りした後、80℃で24時間、真空乾燥したが乾燥にも長時間を要した。なお、濾別後、真空乾燥に供した結晶スラリーの含液率は75wt%で、乾燥し難く、粉立ちも多い取り扱い性の悪い細かい粉末状の結晶(図2参照)となった。最終的に、S−CCAの微粉末結晶365g(1.46mol、収率92.3mol%、化学純度98.5%、光学純度99%ee)を得た。
【0029】
比較例2
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を35℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。中和処理途中から混合液全体がペースト状となり、中和処理終了後、攪拌を止め静置しても、結晶の沈降分離は起こらなかった。濾過は可能であったが、濾過性は非常に悪く6時間を要した。この濾別した結晶を1000gの水で2回洗浄したが洗浄効果に乏しく中和塩の除去は不充分であった(分析の結果2.6gの中和塩が残存していた)。スラリー状の結晶を圧搾した後、さらに1000gの水で2回洗浄し水切りした後、80℃で24時間、真空乾燥したが乾燥にも長時間を要した。なお、濾別後、真空乾燥に供した結晶スラリーの含液率は72wt%で、乾燥し難く、粉立ちも多い取り扱い性の悪い細かい粉末状の結晶となった。最終的に、S−CCAの微粉末結晶368g(1.47mol、収率93.1mol%、化学純度98.6%、光学純度99%ee)を得た。
【0030】
比較例3
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液をpH5になるまで加えた。濾過によって不溶物を除いた後、濾液を45℃に保って残りの酸性溶液を1時間かけて滴下した。中和処理途中から混合液全体がペースト状となり、中和処理終了後、攪拌を止め静置しても、結晶の沈降分離は起こらなかった。濾過は可能であったが、濾過性は非常に悪く6時間を要した。この濾別した結晶を1000gの水で2回洗浄したが洗浄効果に乏しく中和塩の除去は不充分であった(分析の結果2.7gの中和塩が残存していた)。スラリー状の結晶を圧搾した後、さらに1000gの水で2回洗浄し水切りした後、80℃で24時間、真空乾燥したが乾燥にも長時間を要した。なお、濾別後、真空乾燥に供した結晶スラリーの含液率は60wt%で、乾燥し難く、粉立ちも多い取り扱い性の悪い細かい粉末状の結晶となった。最終的に、S−CCAの微粉末結晶362g(1.45mol、収率91.5mol%、化学純度98.7%、光学純度99%ee)を得た。
【0031】
比較例4
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液を、25℃に保った反応液に1時間かけて滴下した。中和処理途中から混合液全体がペースト状となり、中和処理終了後、攪拌を止め静置しても、結晶の沈降分離は起こらなかった。濾過は可能であったが、濾過性は非常に悪く6時間を要した。この濾別した結晶を1000gの水で2回洗浄したが洗浄効果に乏しく中和塩の除去は不充分であった(分析の結果2.7gの中和塩が残存していた)。スラリー状の結晶を圧搾した後、さらに1000gの水で2回洗浄し水切りした後、80℃で24時間、真空乾燥したが乾燥にも長時間を要した。なお、濾別後、真空乾燥に供した結晶スラリーの含液率は74wt%で、乾燥し難く、粉立ちも多い取り扱い性の悪い細かい粉末状の結晶となった。最終的に、S−CCAの微粉末結晶360g(1.44mol、収率91.1mol%、化学純度98.2%、光学純度99%ee)を得た。
【0032】
比較例5
実施例1で得られたS−CCM418g(1.58mol)、メタノール417.5g、NaOH82.0g(2.05mol)、水1250gを3Lのガラス容器に仕込み、窒素雰囲気下に80℃で1時間攪拌しながら反応を行った。次いで、硫酸水素カリウム292.5g(2.15mol)を1250gの水に溶かした酸性溶液を、100℃に保った反応液に1時間かけて滴下した。中和処理終了後、攪拌を止め静置すると、オイル層と水層に分離した。これを攪拌しながら室温まで下げると、一度にオイル層の結晶化が起こり塊状の結晶となった。これを取り出し、ろ過を行うと、外観上も不均一な結晶であった。この濾別した結晶を1000gの水で2回洗浄した後、80℃で24時間真空乾燥した。なお、濾別後、真空乾燥に供した結晶スラリーの含液率は50wt%で、乾燥し難くかった。最終的に、S−CCAの結晶349g(1.39mol、収率88.3mol%、化学純度98.0%、光学純度99%ee)を得た。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】固液分離性に優れた結晶が得られた例(顕微鏡写真)。
【図2】固液分離性の悪い結晶が得られた例(顕微鏡写真)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを加水分解してS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を製造する方法に於いて、一般式(1)で表されるS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルを塩基性条件下で加水分解した後、該反応液中に含まれる不溶物を除去し、得られた処理液を50〜80℃の温度範囲で中和することを特徴とする、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
【化1】

(1)
(但し、一般式(1)におけるRは、アルキル基又はアリール基を表す。)
【請求項2】
塩基性条件下での加水分解反応を50〜80℃の温度範囲で行う、請求項1に記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
塩基性条件下で加水分解した反応液中に含まれる不溶物の除去を50〜80℃の温度範囲で行う、請求項1又は2に記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
塩基性条件下で加水分解した反応液中に含まれる不溶物の除去を、該反応液のpHを5〜7に調整した後に行う、請求項1〜3の何れかに記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
不溶物を除去することによって得られた処理液を50〜80℃の温度範囲で中和する際に、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の結晶を種結晶として添加する、請求項1〜4の何れかに記載のS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の製造方法で得られるS−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−306809(P2006−306809A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132914(P2005−132914)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】