説明

Si−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法及びスマート繊維ウェア

【課題】Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物の表面乃至は内部に光学的機能を有する光学的機能層を位置選択的ならびに空間選択的に付与できる手法を確立する。
【解決手段】Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1に、波長190nm以下の第1の光3、波長190nmを超え266nm未満の第2の光5及び波長266nm以上の第3の光6を照射することにより、シリカガラス光導波路、白色発光素子及び炭素系センサなどの機能を有する新規スマート繊維を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の作製法に係り、特にSi−O−Si結合を含む化合物からなる所望の成形物に波長190nm以下、波長190nmを超え266nm未満乃至は波長266nm以上の光を照射することにより、従来困難とされてきたSi−O−Si結合を含む化合物からなる成形物への光学的機能の多元的付与を位置選択的若しくは空間選択的に行うことが可能なスマート繊維の作製法及びスマート繊維ウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の中に光学部品を組み込んでデータの伝送を行うスマート繊維は、イベントや娯楽、アパレル分野において利用されている。また最近、極めて重要な任務遂行の場での個人間の安全や交信能力を高めるための新しい衣服の開発に注目が集まっている。特に防衛分野では、戦地近傍で活動する自衛隊員に、状況認識のために必要なすべての機能を与えることが極めて重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、戦闘服を含めた装備品のサイズ、重量、消費電力及びコストの点において、その使用が制限されているため、任意の繊維に光学的機能を多元的に付与できる新規の作製技術を確立し、これらを組み込んだ次世代兵士システムの構築が今後不可欠になるものと考えられている。
【0004】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、Si−O−Si結合を含む化合物からなる所望の成形物に所定の光を照射することにより、シリカガラス光導波路、白色発光素子及び炭素系センサーなどの光学的機能を有する新規スマート繊維を作製し、その手法を基に新規スマート繊維ウェアを提供することを目的とする。
【0005】
以下、本発明のその他の目的や新規の特徴については、後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、請求項1記載のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物に所定波長の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部に光学的機能を有するシリカガラス層、発光性材料層、炭素層の何れかの光学的機能層を形成することを特徴としている。
【0007】
また、請求項2記載のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、請求項1記載のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において、前記成形物に、波長190nm以下である第1の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部にシリカガラス層を形成することを特徴としている。
【0008】
また、請求項3記載のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、請求項1記載のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において、前記成形物に、波長190nmを超え266nm未満である第2の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部に発光性材料層を形成することを特徴としている。
【0009】
また、請求項4記載のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、請求項1記載のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において、前記成形物に、波長266nm以上である第3の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部に炭素層を形成することを特徴としている。
【0010】
また、請求項5記載のスマート繊維ウェアは、請求項2記載の作製法により、前記成形物の表面乃至は内部にシリカガラス層が形成されたことを特徴としている。
【0011】
また、請求項6記載のスマート繊維ウェアは、請求項3記載の作製法により、前記成形物の表面乃至は内部に発光性材料層が形成されたことを特徴としている。
【0012】
また、請求項7記載のスマート繊維ウェアは、請求項4記載の作製法により、前記成形物の表面乃至は内部に炭素層が形成されたことを特徴としている。
【0013】
また、請求項8記載のスマート繊維ウェアは、請求項2〜4に記載のスマート繊維の作製法のうち任意に選択された2以上の作製法の組み合わせによって、前記成形物の表面乃至は内部に前記光学的機能層が多元的に形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物に、種々の波長の光を照射し光学的機能を多元的に付与することにより、新規スマート繊維及び新規スマート繊維ウェアの作製法を確立することができるため、次世代兵士システムの基盤技術として利用可能であるなど防衛分野において必要不可欠な技術となる。また、これら分野にとどまらず、今後電気・電子工学を利用して発展するデバイス作製の分野に多大に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法及びスマート繊維ウェアを実施するための最良の形態について、添付する図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)、(b)は本発明に係る第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法を説明するための説明図であり、図2(a)、(b)は本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法を説明するための説明図であり、図3は(a)、(b)は本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法を説明するための説明図である。
【0016】
本例のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物に所定波長の光を照射し、光が照射された成形物の表面乃至は内部に光学的機能を有するシリカガラス層、発光性材料層、炭素層の何れかの光学的機能層を形成するものである。
【0017】
なお、以下の説明で用いるSi−O−Si結合を含む化合物からなる成形物とは、例えば所望の長さ、径及び断面形状を有する繊維や例えば靴下、手袋、衣服、帽子などの被着可能な形状に成形した被服など、ユーザの用途に合せて任意に成形されたものである。
【0018】
〔第1形態〕
まず、図1を参照しながら、本発明に係る第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法について説明する。第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物の表面乃至は内部に波長が190nm以下の第1の光を照射することで、光学的機能を有するシリカガラス(SiO2 )からなるシリカガラス層を形成するための方法である。
【0019】
具体的に説明すると、成形物1の表面に光学的機能層2であるシリカガラス層2aを形成する場合は、図1(a)に示すように、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面に、波長が190nm以下の第1の光3をレンズ4を介して集光照射する。そして、この集光照射した部分のみが光学的機能を有するシリカガラス層2aに改質される。
【0020】
また、成形物1の内部にシリカガラス層2aを形成する場合は、図1(b)に示すように、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1内部に、波長が190nm以下の第1の光3を集光レンズ4を介して集光照射する。そして、この集光照射した部分のみが光学的機能を有するシリカガラス層2aに改質される。
【0021】
〔第2形態〕
次に、図2を参照しながら、本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法について説明する。本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物の表面乃至は内部に波長が190nmを超え266nm未満の第2の光を照射することで、光学的機能を有する発光性材料からなる発光性材料層を形成するための方法である。
【0022】
具体的に説明すると、成形物1の表面に光学的機能層2である発光性材料層2bを形成する場合は、図2(a)に示すように、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面に、波長が190nmを超え266nm未満の第2の光5を集光レンズ4を介して集光照射する。そして、この集光照射した部分のみが光学的機能を有する発光性材料層2bに改質される。
【0023】
また、成形物1の内部に発光性材料層2bを形成する場合は、図2(b)に示すように、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面に、波長が190nmを超え266nm未満の第2の光5を集光レンズ4を介して集光照射する。そして、この集光照射した部分のみが光学的機能を有する発光性材料層2bに改質される。
【0024】
〔第3形態〕
次に、図3を参照しながら、本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法について説明する。本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物の表面乃至は内部に光学的機能を有する炭素層を形成するための方法である。
【0025】
具体的に説明すると、成形物1の表面に光学的機能層2である炭素層2cを形成する場合は、図3(a)に示すように、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面に、波長が266nm以上の第3の光6を集光レンズ4を介して集光照射する。そして、この集光照射した部分のみが光学的機能を有する炭素層2cに改質される。
【0026】
また、成形物1の内部に炭素層2cを形成する場合は、図3(b)に示すように、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面に、波長が266nm以上の第3の光6を集光レンズ4を介して集光照射する。そして、この集光照射した部分のみが光学的機能を有する炭素層2cに改質される。
【0027】
なお、上述した第1〜第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において、集光レンズ4は第1の光3、第2の光5、第3の光6の出力に基づいて必要に応じて使用されるものであるため、例えば光出力装置(不図示)から出力される各光3、5、6の光出力が大きい場合には、集光レンズ4を使用せず直接照射しても良い。
【0028】
また、上記第1〜3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法では、不図示の移動手段により成形物1又は集光レンズ4を精密に三次元的に微動可能な構成とすることで、結果的に各波長の光3、5、6が精密に三次元的に走査されるように制御されている。これにより、成形物1の表面に位置選択的に、また成形物1の内部に位置選択的若しくは空間選択的に光学的機能層2を形成することが可能となる。なお、集光レンズ4を使用しない場合は、不図示の光出力装置を精密に三次元的に微動することで、同様の効果が得られる。
【0029】
さらに、上述した第1〜3形態におけるSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法を任意に選択して組み合わせることで、成形物1に所望の種類の光学的機能層2を形成することが可能である。
【0030】
このように、上述した第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法によれば、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面乃至は内部に、波長が190nm以下の第1の光3を照射することにより、その照射された部分の成形物1を光学的機能層2であるシリカガラス層2aに位置選択的若しくは空間選択的に自在に形成することができる。
【0031】
また、第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法によれば、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面乃至は内部に、波長が190nmを超え266nm未満の第2の光5を照射することにより、その照射された部分の成形物1を光学的機能層2である発光性材料層2bに位置選択的若しくは空間選択的に自在に形成することができる。
【0032】
さらに、第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法によれば、Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1の表面乃至は内部に、波長が266nm以上の第3の光6を照射することにより、その照射された部分の成形物1を光学的機能層2である炭素層2cに位置選択的若しくは空間選択的に自在に形成することができる。
【0033】
以下、各形態におけるSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法により作製したデバイスについて各実施例に基づき詳述する。なお、下記の各実施例は、本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0034】
〔実施例1〕
実施例1は上述した第1形態の作製法による実験概略構成とし、第1の光3として波長157nmのF2 レーザー、第2の光5として波長193nmのArFレーザー及び第3の光6として波長266nmのNd:YAGレーザーの第4高調波を用いた。レーザー照射部分でのエネルギー密度は、それぞれ10、30及び50mJ/cm2 /pulseとし、パルス繰り返し周波数は10Hz一定とした。また、実施例1で使用するSi−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1として、2液性シリコーンから作るシリコーンゴム細線を用いた。実験は大気中で行った。
【0035】
〔実施例2〕
実施例2は上述した第2形態の作製法による実験概略構成とし、第1の光3として波長157nmのF2 レーザー、第2の光5として波長193nmのArFレーザー及び第3の光6として波長266nmのNd:YAGレーザーの第4高調波を用いた。レーザー照射部分でのエネルギー密度は、それぞれ10、30及び50mJ/cm2 /pulseとし、パルス繰り返し周波数は10Hz一定とした。また、実施例2で使用するSi−O−Si結合を含む化合物からなる成形物1として、2液性シリコーンから作るシリコーンゴム細線を用いた。実験は大気中で行った。
【0036】
実施例1及び実施例2の何れの場合であっても、レーザー照射領域は、F2 レーザーの場合炭素混入のないシリカガラス層2aに、ArFレーザーの場合白色発光性材料からなる発光性材料層2bに、Nd:YAGレーザーの場合には炭素層2cにそれぞれ改質されていることが、フーリエ変換赤外分光分析、X線光電子分光分析、ラマン分光分析及び発光スペクトル測定により判明した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法は、従来困難とされてきたSi−O−Si結合を含む化合物からなる成形物への光学的機能の多元的付与を位置選択的若しくは空間選択的に行うことが可能となる。すなわち、上述した作製法によって作製されるスマート繊維ウェアは、シリカガラス層2aによるシリカガラス光導波路、発光性材料層2bによる白色発光素子及び炭素層2cによる炭素系センサーなどの光学的機能を有する新規のスマート繊維が作製可能であるため、オプトエレクトロニクスやフォトニクス、バイオ/ メディカル、福祉工学分野などのデバイス作製に適用可能になるなど、その用途は防衛のみならず、あらゆる分野で有用である。
【0038】
以上、本願発明における最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a) 本発明に係る第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において成形物表面にシリカガラス層を形成する場合の構成図である。 (b) 本発明に係る第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において成形物内部にシリカガラス層を形成する場合の構成図である。
【図2】(a) 本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において成形物表面に発光性材料層を形成する場合の構成図である。 (b) 本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において成形物内部に発光性材料層を形成する場合の構成図である。
【図3】(a) 本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において成形物表面に炭素層を形成する場合の構成図である。 (b) 本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物を基にしたスマート繊維の作製法において成形物内部に炭素層を形成する場合の構成図である。
【符号の説明】
【0040】
1 成形物
2 光学的機能層
2a シリカガラス層
2b 発光性材料層
2c 炭素層
3 第1の光
4 集光レンズ
5 第2の光
6 第3の光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−O−Si結合を含む化合物からなる成形物に所定波長の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部に光学的機能を有するシリカガラス層、発光性材料層、炭素層の何れかの光学的機能層を形成することを特徴とするスマート繊維の作製法。
【請求項2】
前記成形物に、波長190nm以下である第1の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部にシリカガラス層を形成することを特徴とする請求項1記載のスマート繊維の作製法。
【請求項3】
前記成形物に、波長190nmを超え266nm未満である第2の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部に発光性材料層を形成することを特徴とする請求項1記載のスマート繊維の作製法。
【請求項4】
前記成形物に、波長266nm以上である第3の光を照射し、前記成形物の表面乃至は内部に炭素層を形成することを特徴とする請求項1記載のスマート繊維の作製法。
【請求項5】
請求項2記載の作製法により、前記成形物の表面乃至は内部にシリカガラス層が形成されたことを特徴とするスマート繊維ウェア。
【請求項6】
請求項3記載の作製法により、前記成形物の表面乃至は内部に発光性材料層が形成されたことを特徴とするスマート繊維ウェア。
【請求項7】
請求項4記載の作製法により、前記成形物の表面乃至は内部に炭素層が形成されたことを特徴とするスマート繊維ウェア。
【請求項8】
請求項2〜4に記載のスマート繊維の作製法のうち任意に選択された2以上の作製法の組み合わせによって、前記成形物の表面乃至は内部に前記光学的機能層が多元的に形成されたことを特徴とするスマート繊維ウェア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228166(P2009−228166A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75850(P2008−75850)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】