説明

TaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体、その製造方法及び顔料

【課題】TaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体、その製造方法及び顔料を提供する。
【解決手段】タンタル酸化物粉末を出発原料として使用し、これと、窒化ケイ素や窒化アルミニウム、或いはそれらの2種の窒化物の混合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物と、更に、TaON構造を有する結晶の生成を促進し、耐酸化性を高める目的で添加する酸化ジルコニウムとを混合した粉体を、窒素雰囲気中で熱処理することにより、耐酸化性を有するTaON構造タンタル(V)系酸窒化物含有黄色系粉体を合成する方法、及びそのタンタル(V)系酸窒化物含有黄色系粉体。
【効果】耐熱性が要求される陶磁器用顔料としても有用な、耐酸化性及び耐熱性を有するTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体、該粉体を毒性のあるアンモニアガスを使用することなく合成する方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料或いは光触媒として注目されているTaON構造を有する5価のタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体、その製造方法及びその用途に関するものであり、更に詳しくは、耐酸化性及び耐熱性を有する陶磁器用上絵顔料として使用することが可能な、TaON構造を有する5価のタンタルを含むタンタル(V)系酸窒化物含有粉体、当該タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を、より安全で、且つ簡便な手法で合成することを可能とするタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の製造方法、及び陶磁器用黄色顔料に関するものである。
【0002】
本発明は、環境親和性が高く、耐酸化性及び耐熱性に優れている陶磁器用顔料等として有用な、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体並びに顔料、及び、その粉体顔料を、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、従来の合成法と比べて、低環境負荷プロセスで、簡便、且つ短時間に製造することを可能とする、タンタル(V)系酸窒化物含有粉体の製造方法とその製品に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
一般に、セラミック、プラスチック、塗料等の着色用顔料として製造されるものの中には、人体にとって極めて有害な金属である、カドミウム、セレン、鉛、クロム、コバルト等が含まれている。これらの有害成分は、上記製品の使用中、及び廃棄処理中に放出され、環境/生物に影響を及ぼすため、その使用に関する規制が、年々厳しくなっている。
【0004】
従って、上記セラミック、プラスチック、塗料等の着色用顔料としては、毒性の疑いの少ない成分を含有する顔料を使用することが重要である。タンタルは、毒性がなく、その5価の窒化物や、酸窒化物は、環境親和性の高い顔料として、当該顔料の量産化の手法を含めて、タンタル系窒化物や酸窒化物を基剤とする顔料、及び、その製造法の研究が、ヨーロッパを中心に行われている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0005】
しかし、従来法で得られた顔料については、耐熱性が低いため、主に、耐熱性が要求されない、プラスチック、塗料用顔料としての応用が種々検討されているが、高耐熱性が要求される陶磁器用顔料としての応用例は全く見られない。例えば、純粋なTaONは、大気中における、700℃以上の加熱では、酸化が急激に進む(非特許文献1参照)ことから、陶磁器上絵用顔料として、大気中で焼き付ける目的で使用することは難しい。
【0006】
酸窒化タンタルTaONの製造方法としては、先行技術として、ウオーターバス中でバブリングさせたアンモニアガスを、反応容器に流し、それにより、酸化タンタル(V)を窒化する、酸窒化タンタルTaONの製造方法が報告されている(非特許文献1参照)。
【0007】
また、他の先行技術として、加湿したアンモニア気流中(30−40L/h)で、10〜15時間、酸化タンタル(V)を窒化する、酸窒化タンタルTaONの製造方法が報告されている(非特許文献2参照)。
【0008】
また、他の先行技術として、酸窒化タンタルTaON以外のタンタル(V)系酸窒化物顔料に関して、タンタル酸化物或いは予め組成調合した酸化物出発物質を、アンモニア気流中で窒化して、酸窒化物を合成する方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0009】
このように、従来の酸窒化タンタルTaONの合成法では、タンタル(V)系の窒化物、及び酸窒化物の製造に際しては、酸化タンタルを可燃性、且つ毒性のアンモニアガスを、大量に、長時間流しながら窒化する手法を用いているため、安全、及びコスト面で問題があり、大量合成することは難しいという、非常に大きな問題を抱えていた。
【0010】
以上のことから、当技術分野においては、安全、及びコスト面で問題がなく、アンモニアガスによる長時間の窒化プロセスを用いない、低環境負荷プロセスで、より安全並びに簡便な手法で、酸化物のタンタル(V)化合物を窒化して、耐熱性が要求される陶磁器用としての使用も可能な、タンタル(V)系酸窒化物を製造することができる新しいタンタル(V)系酸窒化物の合成技術の開発が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−247646号公報
【特許文献2】特開2000−247646号公報
【特許文献3】特開平8−67507号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ceramics International,Vol.34,2008,1481−1486
【非特許文献2】Solid State Science,Vol.4,2002,1071−1076
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、安全、且つ簡便に、耐熱性が要求される陶磁器用としての使用も可能な、タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を量産することができる新しいタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成手法及びその製品を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた。
【0014】
その結果、本発明者らは、タンタル酸化物を出発原料として使用し、これに、酸化タンタルを窒化させるための窒化成分供給源としての窒化ケイ素や窒化アルミニウムと、窒化反応を促進させる鉱化剤となるアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物と、更に、TaON構造を有する結晶の生成を促進し、耐酸化性を高める目的で添加される酸化ジルコニウムとを混合した混合粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で、650℃から1000℃の温度域で熱処理することにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、陶磁器用として使用可能な、耐酸化性及び耐熱性に優れているTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体を提供することを目的とするものである。また、本発明は、酸化タンタルを、可燃性、且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する従来の手法を適用することなしに、環境親和性の高い5価のタンタル窒化物や酸窒化物を量産することが可能な、タンタル(V)系酸窒化物含有粉体の新しい合成法を開発し、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、アンモニアガスによる窒化プロセスを採用することなく、陶磁器用顔料として使用可能な、耐酸化性、及び耐熱性を有するTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有黄色系粉体を合成することを可能とする、タンタル(V)系酸窒化物含有黄色系粉体の合成方法及びその製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)TaON構造を有する5価のタンタル(V)系酸窒化物をTaON固溶体として含有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体を合成する方法であって、タンタル酸化物粉末を出発原料として、該タンタル酸化物粉末と、タンタルを窒化させるための窒素成分供給源となる窒化ケイ素乃至窒化アルミニウム、或いはそれらの2種の窒化物の混合物と、窒化を促進させる鉱化剤となるアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物、とを混合した粉体を、窒素の存在下で熱処理することにより、TaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成することを特徴とするタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(2)出発原料として、ジルコニア(ZrO)を、Zr/Taモル比で0.01〜0.5程度添加することにより、TaON構造を有する結晶の生成を促進し、タンタル(V)系酸窒化物構造中にZrを固溶させ、酸窒化物の耐酸化性を向上させたTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体を合成する、前記(1)に記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(3)窒化を促進させる鉱化剤となるアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩として、アルカリ金属のハロゲン化物を用いる、前記(1)に記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(4)上記混合粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で熱処理する、前記(1)から(3)のいずれかに記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(5)窒素の存在下で、650〜1000℃の温度域で熱処理する、前記(1)から(4)のいずれかに記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(6)窒化反応のプロセスで、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を合成する、前記(1)から(5)のいずれかに記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の方法で合成されたタンタル(V)系酸窒化物含有粉体を、大気中で、500〜900℃で酸化処理し、より彩度を高めることを特徴とするTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(8)TaON構造を有する5価のタンタル(V)系窒化物をTaON固溶体として含有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体であって、TaON構造のTaサイトの一部をSi,Al,乃至Zrにより置換固溶した構造を有し、耐酸化性、及び耐熱性を有することを特徴とするTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体。
(9)前記(7)、又は(8)に記載のTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体からなることを特徴とする黄色系顔料。
(10)上記顔料が、陶磁器用顔料である、前記(9)に記載の黄色系顔料。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、陶磁器用顔料として使用可能な、耐酸化性及び耐熱性を有するTaON構造タンタル(V)系酸窒化物含有粉体、及びその合成方法であって、タンタル酸化物粉末を出発原料として、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化ケイ素乃至窒化アルミニウム、或いはそれらの2数種の窒化物の混合物と、窒化反応を促進させる鉱化剤としてのアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物とを混合した粉体を、窒素の存在下で熱処理することにより、タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を合成することを特徴とするものである。
【0018】
本発明では、上記粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で熱処理すること、窒化反応を促進させる鉱化剤として、アルカリ金属のハロゲン化物を用いること、窒素の存在下で、650〜1000℃の温度域で熱処理すること、熱処理時間が、1〜6時間であること、を好ましい実施の態様としている。
【0019】
更に、本発明は、上記タンタル酸化物粉末、窒化ケイ素、或いは窒化アルミニウム、及び鉱化剤に加えて、出発原料として、酸化ジルコニウムを混合した粉体を、Zr/Taモル比で0.01〜0.5程度添加して、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で、650℃から1000℃の温度域で熱処理することにより、TaON構造を有する結晶の生成を促進し、耐酸化性を高めたタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成することを主たる特徴としている。
【0020】
本発明では、主に、陶磁器、プラスチック、塗料等の着色用顔料として、或いは光触媒として使用されるTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物を主成分とする黄色系の粉体を、毒性、及び可燃性の強いアンモニアガスを使用することなく、従来の合成法と比べて、より簡便、且つ安全に合成することが可能である。
【0021】
このように、本発明は、出発原料であるタンタル酸化物粉末を、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化ケイ素、或いは窒化アルミニウムを用いて窒化することを主要な特徴とするものである。
【0022】
本発明の手法では、両化合物間の反応により、TaON結晶構造中のタンタル(Ta)のサイトに、シリコン(Si)或いはアルミニウム(Al)が固溶した酸窒化物が生成する。また、更に、酸化ジルコニウムを添加した場合は、TaON結晶のTaサイトに、Si、Alに加えて、Zrが固溶した酸窒化物が生成する。
【0023】
しかし、単純に、酸化タンタルと窒化物粉末を混合して、窒素中で熱処理しても、窒化反応は進行しない。そのため、本発明では、窒化を促進させる鉱化剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物を、これらに添加した上で、熱処理を行うことが好ましい。
【0024】
アルカリ金属の塩としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属のハロゲン化物、また、アルカリ土類金属の塩としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等、が用いられる。
【0025】
これらのうち、特に、アルカリ金属のハロゲン化物が、鉱化剤としての効果が高いことが判明した。熱処理の温度域は、窒化アルミニウムを用いた場合、好ましくは700〜850℃であり、より好適には750〜800℃辺りであり、当該温度域における熱処理により、黄〜黄緑色を有するタンタル(V)系酸窒化物を主成分とする粉体が得られる。
【0026】
熱処理の時間は、熱処理温度にもよるが、1〜6時間程度で十分である。窒化ケイ素を用いた場合は、好適には800〜1000℃であり、より好適には900〜950℃辺りの窒素雰囲気での熱処理により、黄〜黄緑色を有するタンタル(V)系酸窒化物を主成分とする粉体が得られる。
【0027】
得られた上記タンタル(V)系酸窒化物を主成分とする粉体を、更に、大気中、500〜900℃で酸化処理することにより、彩度の高いより鮮やかな、黄〜黄緑色を有するタンタル(V)系酸窒化物を主成分とする粉体が得られる。
【0028】
従来の合成法では、出発原料である酸化タンタルの窒化物、及び酸窒化物の製造に際して、酸化タンタルを、可燃性、且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する手法を用いているため、特に、安全、及びコスト面に大きな問題を抱えていた。また、アンモニアガスによる窒化反応を十分に進行させるためには、一般的に、850〜1000℃程度の温度で、10時間以上の長時間に亘る熱処理が必要とされていた。
【0029】
これに対して、本発明では、タンタル酸化物粉末を出発原料として使用し、これに、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化ケイ素や窒化アルミニウムと、窒化を促進させる鉱化剤となる、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩とを混合した混合物を使用し、更に、好ましくは、TaON構造を有する結晶の生成を促進し、耐酸化性を高める目的で添加される酸化ジルコニウムを混合した粉体を使用する。
【0030】
これらの粉末を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で、650℃から1000℃の温度域で、熱処理することにより、アンモニアガスによる窒化プロセスを採用することなく、陶磁器用顔料として使用可能な、耐酸化性を有する、TaON構造タンタル(V)系酸窒化物を含有する黄〜黄緑色系の粉体の合成が可能となる。
【0031】
本発明は、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、環境調和性の高いタンタル(V)系窒化タンタルを含有する粉体を製造することを可能とする新しい窒化物及び酸窒化物の合成法を提供することを実現するものであり、また、本発明により得られたTaON構造タンタル(V)系酸窒化物は、耐酸化性、及び耐熱性を有し、環境親和性の高い顔料として有用である。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明では、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、タンタル(V)系酸窒化物を含む粉体を製造し、提供することができる。
(2)本発明では、出発原料のタンタル酸化物粉末と、窒素成分の供給源となる窒化ケイ素や窒化アルミニウム、及び窒化を促進させる鉱化剤のアルカリ金属等を混合した粉体を、窒素雰囲気中で熱処理することで特徴付けられる、TaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の新しい合成技術が提供される。
(3)本発明は、酸化タンタルを、可燃性、且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する、従来の合成法と比べて、安全、及びコスト面で大きな利点を有する。
(4)本発明により、有害成分を含まない黄〜黄緑色系顔料として注目されているタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成することができる。
(5)本発明は、製造方法が簡便であり、上記タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を大量合成する手法として好適に使用することができる。
(6)本発明により合成されたTaON構造タンタル(V)系酸窒化物含有粉体は、従来のTaONに比べて、耐酸化性が高く、陶磁器用顔料としての応用が十分可能である。
(7)出発原料として、ZrOを適量添加することにより、TaON構造を有する酸窒化物の生成が促進され、更に、このZr成分を固溶した当該酸窒化物は、耐酸化性に優れ、陶磁器用顔料としての利用が期待できる。
(8)窒素雰囲気及び窒素気流中で一旦合成されたTaON構造タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を酸化処理することにより、高い彩度を持った顔料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、当該実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
酸化タンタル(Ta)、酸化ジルコニウム(ZrO)、窒化ケイ素(Si)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)を、表1に示される重量比(mass%)で混合した試料No.1〜8の試料粉末を、窒素雰囲気中、950℃で、3時間熱処理して、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を作製した。得られたタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の、粉末X線結晶回折法(XRD)により同定した構成結晶相と、分光測色計(主光源D65、視野角10°、正反射光処理SCE)で測定したLh表色度、すなわちL:明度、C:彩度、h:色相角度、を表2に示す。
【0035】
すべての試料において、焼成後、黄〜黄緑色の顔料が得られ、粉末X線結晶回折法(XRD)により、TaONと同様の結晶構造を有すると考えられる結晶相の生成が確認された。透過型電子顕微鏡(TEM)に付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により、元素分析を行ったところ、生成物は、Siを含むTa系酸窒化物(Ta−Si−O−N)であることが確認された。
【0036】
酸化ジルコニウムを添加した試料においては、TaONと同様の結晶構造を有するTa−Si−Zr−O−N結晶の生成が促進された。これは、TaONと同様の結晶構造[バッデリアイト(Baddeleyite;単斜晶ジルコニア)構造]を有するジルコニア(ZrO)粉末(単斜晶ジルコニア)を添加することにより、このZrO粒子が、Ta−Si−Zr−O−N結晶の種結晶として作用し、Ta−Si−Zr−O−N結晶の生成が促進されたものと考えられる。
【0037】
また、表3に、窒素雰囲気中、950℃で、3時間熱処理して合成したタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体(試料No.1,2,6,8)を、大気中において、毎分、5℃で昇温し、700〜900℃で、5分間酸化処理した後の構成結晶相、及びLh表色度の変化を示す。上記酸化処理を施すことにより、粉体は、色調が暗い黄色(未酸化試料、表2参照)から、鮮やかな黄色に変化した。
【0038】
表2及び表3におけるLh表色度を比較すると、適当な温度で、酸化処理を施すことにより、窒素雰囲気で、熱処理したままの粉体に比べて、粉体の彩度(C)が増加していることがわかる。酸化処理温度の上昇に伴って、Ta系酸窒化物(Ta−Si(−Zr)−O−N)の酸化が認められるが、酸化ジルコニウムを添加した試料(試料No.6,8)と、無添加試料(1,2)を比較した場合、酸化ジルコニウムを添加した試料(試料No.6,8)において、明らかに、耐酸化性の改善が認められた。
【0039】
酸化ジルコニウムを添加した試料No.6(鉱化剤LiF+NaF)では、900℃まで、また、試料No.8(鉱化剤LiF)では、850℃まで、酸化後も黄色の色調が残ったが、酸化ジルコニウム未添加の試料No.1(鉱化剤LiF+NaF)では、900℃で、また、試料No.2(鉱化剤LiF)では、850℃で、白色に近い色に変化した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【実施例2】
【0043】
酸化タンタル(Ta)、酸化ジルコニウム(ZrO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、フッ化カリウム(KF)を、表4に示される重量比(mass%)で混合した試料No.9〜14の試料粉末を、窒素雰囲気中、800℃で、3時間熱処理して、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を作製した。尚、試料No.13,14については、750℃で熱処理した。得られたタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の構成結晶相と、Lh表色度を、表5に示す。
【0044】
すべての試料において、焼成後、黄色の顔料が得られ、粉末X線結晶回折法(XRD)により、TaONと同様の結晶構造を有するTa−Al−Zr−O−N結晶相の生成が確認され、透過型電子顕微鏡(TEM)に付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDS)により、元素分析を行ったところ、生成物は、TaON中にAl,Zrを含む固溶体であることが確認された。
【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【実施例3】
【0047】
試料No.9の組成を有する試料を、800℃で3時間(in N)の条件で焼成して作製した粉体を、陶磁器の上絵付け用無鉛フラックスと、2:1(フラックス:試料)の重量比で混合して顔料を調製した。得られた顔料を、石灰透明釉を施釉した磁器板に上絵付けして、大気中において、700〜900℃で15分間焼き付けを行った。
【0048】
表6に、焼き付け後の磁器板の表面上での当該顔料の発色を、Lh表色度で示す。その結果、大気中で焼き付けをしたにも関わらず、850℃まで、ほとんど酸化退色することがなく、鮮やかな黄色の発色が確認された。
【0049】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明は、TaON構造を有す5価のるタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体とその製造方法に係るものであり、本発明により、有害成分を含まない環境親和性の高い黄色系顔料、或いは光触媒として注目されている5価のタンタルを含む酸窒化物を含有する粉体を、従来の合成法と比べて、毒性の強いアンモニアガスを使用せず、より低温、且つ短時間で合成することができる。
【0051】
本発明は、目的化合物の製造方法が安全、且つ簡便であることから、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を大量合成する手法として好適に使用することが可能である。本発明では、酸化タンタルを、可燃性、且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する手法を用いないため、従来の合成法と比べて、安全、及びコスト面で大きな優位性を有する。更に、本発明により得られる顔料は、高い耐酸化性と耐熱性を有しており、毒性のない環境親和性の高い陶磁器用顔料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TaON構造を有する5価のタンタル(V)系酸窒化物をTaON固溶体として含有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体を合成する方法であって、タンタル酸化物粉末を出発原料として、該タンタル酸化物粉末と、タンタルを窒化させるための窒素成分供給源となる窒化ケイ素乃至窒化アルミニウム、或いはそれらの2種の窒化物の混合物と、窒化を促進させる鉱化剤となるアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物、とを混合した粉体を、窒素の存在下で熱処理することにより、TaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成することを特徴とするタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項2】
出発原料として、ジルコニア(ZrO)を、Zr/Taモル比で0.01〜0.5程度添加することにより、TaON構造を有する結晶の生成を促進し、タンタル(V)系酸窒化物構造中にZrを固溶させ、酸窒化物の耐酸化性を向上させたTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体を合成する、請求項1に記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項3】
窒化を促進させる鉱化剤となるアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩として、アルカリ金属のハロゲン化物を用いる、請求項1に記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項4】
上記混合粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で熱処理する、請求項1から3のいずれかに記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項5】
窒素の存在下で、650〜1000℃の温度域で熱処理する、請求項1から4のいずれかに記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項6】
窒化反応のプロセスで、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を合成する、請求項1から5のいずれかに記載のタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法で合成されたタンタル(V)系酸窒化物含有粉体を、大気中で、500〜900℃で酸化処理し、より彩度を高めることを特徴とするTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項8】
TaON構造を有する5価のタンタル(V)系窒化物をTaON固溶体として含有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体であって、TaON構造のTaサイトの一部をSi,Al,乃至Zrにより置換固溶した構造を有し、耐酸化性、及び耐熱性を有することを特徴とするTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体。
【請求項9】
請求項7、又は8に記載のTaON構造を有するタンタル(V)系酸窒化物含有粉体からなることを特徴とする黄色系顔料。
【請求項10】
上記顔料が、陶磁器用顔料である、請求項9に記載の黄色系顔料。

【公開番号】特開2010−202428(P2010−202428A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47392(P2009−47392)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(文部科学省 平成20年度地域科学技術振興事業委託事業「環境調和型セラミックス新産業の創出」の再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】