説明

TetR発現非ヒトトランスジェニック動物及びその製造方法

【課題】
薬物で誘導した際に十分な発現が得られない分子をin vivoで発現誘導させるために使用可能なトランスジェニックマウスを得ること及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
プロモーターの下流にTetRが配置されている発現ベクターを受精卵又は胚性幹細胞に導入しTetR導入細胞を作製する工程と、前記TetR導入細胞を非ヒト哺乳動物に導入しTetRトランスジェニック動物を得る工程とを含むことを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物の製造方法及び当該製造方法によって製造された非ヒトトランスジェニック動物により、薬剤で誘導した際に十分な発現が得られない分子をin vivoで発現誘導させる際に使用可能な非ヒトトランスジェニック動物を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の遺伝子をin vivoで発現誘導させる際に利用するTetR発現トランスジェニック動物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲノム研究の進展に伴い、遺伝子の機能解析が急速に進んでいる。遺伝子の機能解析には主として組換えタンパク質や培養細胞を用いたin vitroでの実験系が用いられることが多いが、in vitroでの実験から得られた知見が必ずしも生体内(in vivo)での遺伝子の機能を反映していない場合もあり、in vivoにおける遺伝子の機能解析には非常に意義がある。
【0003】
一方、遺伝子の発現を人為的に制御する手法は遺伝子の発現及び機能を解析する上で極めて有用であり、これまでに特にin vitroでの遺伝子発現制御システムの開発が盛んになされてきた。このような遺伝子発現制御システムは、in vitroの実験系のみならず、in vivoの実験系についても利用価値が高く、トランスジェニック動物やノックアウト動物を作製することにより特定の遺伝子の発現量を制御し、動物の表現系を解析することにより、その遺伝子の機能について知見を得ることが行われている。
【0004】
しかしながら、従来のトランスジェニック動物やノックアウト動物に用いられる遺伝子改変ベクターでは、遺伝子の発現を任意に制御する、すなわち、組織特異性や発現時期を特定して所望の組織やタイミングで発現を制御することは容易ではなかった。例えばトランスジェニック動物では、野生型であれば神経系にしか発現していない遺伝子がトランスジェニック化することにより全組織に発現してしまい、本来の機能を探ることができないというような弊害が生じる場合があった。
【0005】
かかる弊害を克服するため、例えばMark Mayfordらは、前脳特異的に発現するプロモーターを用いてカルシウムカルモジュリンディペンデントキナーゼ(calcium-calmodulin-dependent kinase)II(CaMKII)を前脳特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製し、当該分子の機能に関して知見を得ている(Science, Vol.274, 1678-1683,1996:非特許文献1)。また、同文献では、前脳特異的に発現するプロモーターを持つマウスと、テトラサイクリントランス活性化因子システムを持つマウスとを掛け合わせたマウスを作製し、このマウスにドキシサイクリンを投与することによりCaMKIIの発現を誘導するシステムが用いられている。類似の試みはMol. Pharmacology, 54, 495-503, 1998(非特許文献2)においても開示されている。
【0006】
【非特許文献1】Science, 274, 1678-1683, 1996
【非特許文献2】Mol. Pharmacology, 54, 495-503, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えばshRNAのような比較的分子量の小さい核酸を薬剤によって発現誘導するには非特許文献1又は2において使用されているようなプロモーターでは十分な発現が認められず、他の発現系を使用する必要があった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、薬物で誘導した際に十分な発現が得られない分子をin vivoで発現誘導させるために使用可能なトランスジェニックマウスを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のプロモーターを使用するとともに、高効率な発現に寄与する配列を導入することにより、低分子量のタンパク質分子を所望のタイミングで発現誘導する際に用いることができるトランスジェニック動物を開発することに成功し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、TetRタンパク質を発現していることを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明の非ヒトトランスジェニック動物において、TetRタンパク質を発現させるために使用するプロモーターがCAGプロモーターであることが好ましい。かかるプロモーターを使用することにより、より強力にTetR遺伝子を発現させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の非ヒトトランスジェニック動物において、TetRタンパク質を発現させる発現ベクター中にインシュレーター配列を含んでいてもよい。インシュレーター配列を含むことにより、高い確率で導入遺伝子の発現を誘導することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の非ヒトトランスジェニック動物において、TetRタンパク質を発現させる発現ベクター内にIRES配列を含んでいてもよい。IRES配列を含むことによりTetRタンパク質を高レベルに発現する細胞を高効率で選択することが可能となる。
【0014】
また、本発明の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法は、プロモーターの下流にTetRが配置されている発現ベクターを受精卵又は胚性幹細胞に導入しTetR導入細胞を作製する工程と、前記TetR導入細胞を非ヒト哺乳動物に導入しTetRトランスジェニック動物を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
ここで、本発明の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法において、前記発現ベクターを受精卵又は胚性幹細胞に導入する方法として、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム共沈法、マイクロインジェクション及びウイルスベクターによる方法からなる群より選択されるいずれか一つを利用することが好ましい。
【0016】
また、本発明の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法において、前記プロモーターがCAGプロモーターであることが好ましい。かかるプロモーターを使用することにより、より強力にTetR遺伝子を発現させることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法において、前記発現ベクター中にインシュレーター配列をさらに含んでいてもよい。インシュレーター配列を含むことにより、高い確率で導入遺伝子の発現を誘導することが可能となる。
【0018】
さらに、本発明の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法において、前記発現ベクター内にIRES配列を含んでいてもよい。IRES配列を含むことによりTetRタンパク質を高レベルに発現する細胞を高効率で選択することが可能となる。
【0019】
また、本発明の被検核酸Tet誘導型の非ヒトトランスジェニック動物は、上述した非ヒトトランスジェニック動物と被検核酸を発現する動物を掛け合わせて作製したことを特徴とする。かかる動物により、生体内で所望の被検核酸をテトラサイクリンで誘導することが可能となり、被検核酸の機能解析が可能となる。
【0020】
また、本発明の被検核酸Tet誘導型の非ヒトトランスジェニック動物において、前記被検核酸がRNAiであることが好ましい。RNAiは比較的分子量の小さい核酸であるが、本発明の非ヒトトランスジェニック動物を使用することにより、テトラサイクリンによりin vivoにおいて発現誘導が可能となる。
【0021】
ここで、本発明において使用する用語について説明する。
【0022】
本発明における「プロモーター」とは、遺伝子の転写開始部位を決定するとともに、転写の頻度を調節するDNA上の領域を意味する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、薬剤で誘導した際に十分な発現が得られない分子をin vivoで発現誘導させる際に使用可能な非ヒトトランスジェニック動物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明のトランスジェニック動物は、TetRタンパク質を発現していることを特徴とする。
【0026】
テトラサイクリン遺伝子による発現誘導系は、大腸菌のテトラサイクリン耐性オペロンの転写調節に働くTetリプレッサー(TetRタンパク質)とTetオペレーター(tetO)配列の特性を利用したシステムである。このシステムによれば、テトラサイクリンやドキシサイクリン等(誘導物質も含め、Tetと表す)の誘導によって所望の遺伝子の発現を開始・停止させることが可能である。例えば、Tet存在下で転写のスイッチが切られるTet-offシステムの場合、Tetトランスアクチベータ(tTA)タンパク質がTetと複合体を形成し、当該複合体がTetOのタンデム配列に結合することによって近傍のプロモーターの活性を抑制し、プロモーター下流の所望の遺伝子の発現を抑制する。一方、Tet存在下で転写のスイッチが入るTet-onシステムの場合、tTAタンパク質の代わりにtTAタンパク質の4アミノ酸が変異したリバースTetトランスアクチベータ(rtTA)タンパク質を使用する。rtTAタンパク質は、Tet非存在下でTet応答プロモーターの転写活性を抑制し、Tet存在下で活性化する。
【0027】
ここで、tTAやrtTAを利用したシステムは、RNAポリメラーゼIIによって転写されるpolII系のプロモーターを使用する場合が多い。しかし、当該システムに使用されているようなプロモーターでは、比較的分子量の小さい核酸(例えばRNA)を発現するには発現能力が不足し、十分な発現を期待できない。従って、本発明の非ヒトトランスジェニック動物を作製するにあたり、tTAやrtTAを利用したテトラサイクリン誘導型の発現システムを利用することはできない。
【0028】
そこで、本発明者らは、かかる観点に鑑み、より高い発現を期待できるプロモーターやPolIII系のプロモーターを使用したTetRの発現系を構築し、所望の低分子核酸の発現に利用可能なトランスジェニックマウスの作製に成功した。
【0029】
本発明に係るTetR遺伝子は、Tetリプレッサーとして機能タンパク質をコードするものであればTetR遺伝子に1又は2以上の塩基の置換、欠失、付加又は挿入がある変異体であってもよい。また、TetR遺伝子に対して、DNAの組換えに必要な制限酵素サイトやリンカーの付加などは必要に応じて適宜行うことができる。
【0030】
本発明に係るプロモーターとしては、その種類は特に限定されないが、例えば、CAGプロモーター(Niwa, Hら、Gene 107, 193-200 (1991))、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーターが挙げられる。
【0031】
また、本発明に係る発現ベクターにおいて、前記プロモーターの下流にはTetRが配置されている。プロモーターとTetRとは直接連結していても、間に任意の塩基配列が挿入されていてもよいが、機能的に結合している必要がある。ここで、「機能的に結合」とは、プロモーターの転写の活性化に伴い、TetRの発現が誘導されるようにプロモーターとTetRが結合していることをいう。
【0032】
また、発現ベクターには、TetR及びプロモーターに加えて、遺伝子の発現や発現した遺伝子の検出等に必要な他のコンポーネントを含んでいてもよい。このようなコンポーネントとしては、例えば、IRES(internal ribosome entry site)、GFP (Green Fluorescent Protein)、インシュレーターが挙げられる。
【0033】
ここで、IRESとは、mRNA内部のリボソーム結合配列のことをいい、発現ベクターに組み込んでおくことにより1種類のmRNAから2箇所のオープンリーディングフレームの翻訳が可能となる(J. Virology, 62, p2636-2643(1988))。すなわち、リボソームがバイシストロン性mRNAの5'末端から目的遺伝子(TetR)を翻訳するとともに、IRES配列からもその下流の選択マーカーやレポーター遺伝子を翻訳する。その結果、IRESによって翻訳効率が低下している選択マーカーの働きにより、目的タンパク質を高レベルに発現する細胞を高効率で選択することが可能となる。
【0034】
また、GFPとは、発光クラゲ由来の蛍光タンパク質であり、例えば、TetRとGFPの融合遺伝子を構築して発現ベクターに組み込むことにより、融合タンパク質が発現し、これにGFPの励起波長を照射することにより生体内で緑色蛍光を発する。この蛍光を指標
として、TetRの発現を可視的に検出することが可能となる。
【0035】
また、インシュレーターとは、プロモーターに作用して遺伝子発現を強化したり抑制したりする機能を有し、導入遺伝子の位置効果を回避する作用を有するDNAセグメントをいう(Cell, 74, p505, (1993))。トランスジェニック動物においては、外来遺伝子がランダムに染色体に組み込まれる際、組み込まれる位置の違いによって導入遺伝子の発現量に差が出る場合がある。こういう場合に、導入遺伝子の両側をインシュレーターで挟むことにより、位置効果による導入遺伝子の発現量の低下が回避される。その結果、高い確率で導入遺伝子の発現を導くことが可能となる。
【0036】
また、本発明の非ヒトトランスジェニック動物としては、ヒト以外の動物であれば動物種は特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ等のげっ歯類が挙げられる。
【0037】
次に、本発明のトランスジェニック動物の作製方法について説明する。
【0038】
先ず、上述したようなTetRを有する発現ベクターを組換えDNA技術により構築する。かかる構築は、当業者に周知の方法で行えばよく、構築に使用する制限酵素やリガーゼ等の酵素類は利用する制限酵素部位に対して適当なものを適宜選択すればよい。また、発現ベクターには、前述したコンポーネントのほかに、得られた相同組換え体を選別し濃縮するために、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子又はピューロマイシン耐性遺伝子等のポジティブ選択マーカー、並びに、ジフテリア毒素A遺伝子又は単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子等のネガティブ選択マーカーが含まれていてもよい。
【0039】
次に、構築した発現ベクターを動物に導入し、トランスジェニック動物を作製する。かかるトランスジェニック動物の作製は、当業者に周知の方法で行うことができ、例えば、受精卵の前核に発現ベクターを導入し、得られた細胞を仮親の卵管に戻す方法、又は、胚性幹細胞に発現ベクターを導入して相同組換えを起こさせ、得られた相同組換え体を選別し、この相同組換え体を胚盤胞腔内に戻してキメラ胚を形成させた後、これを仮親の子宮に移植することによりキメラ動物を作製し、このキメラ動物を野生型動物と交配させてヘテロ接合体であるトランスジェニック動物を作製する方法、更に、こうして得られたヘテロ接合体であるトランスジェニック動物同士を交配させてさらにトランスジェニックを作製する方法が挙げられる。
【0040】
また、発現ベクターを受精卵や胚性肝細胞に導入する方法も当業者に周知の方法で行うことができ、例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム共沈法、マイクロインジェクション及びウイルスベクターによる方法が挙げられる。また、当該ウイルスベクターによる方法としては、SV-40、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス及びレトロウイルス等をウイルスベクターとして使用する方法が挙げられ、中でも、レトロウイルス(例えばレンチウイルス)をウイルスベクターとして使用することが好ましい。
【0041】
こうして作製された非ヒトトランスジェニック動物は、使用したプロモーターの発現の組織特異性に基づいて、当該組織にTetRが発現している。従って、かかる非ヒトトランスジェニック動物を、被検核酸を導入したトランスジェニック動物と掛け合わせることにより、被検核酸をTet投与によって発現誘導できる被検核酸トランスジェニック動物を作製することができる。この場合、被検核酸は、比較的分子量の小さい核酸(RNA等)であってもよく、通常の発現系では発現が困難な低分子量の核酸であっても発現誘導が可能となる。また、分子量が特に小さくない通常の遺伝子の発現においては、高効率で発現を誘導することが可能となる。
【0042】
ここで、「被検核酸を導入したトランスジェニック動物」は、被検核酸の他、TetRの結合配列であるTetOを含む発現ベクターを有している必要があり、本発明の非ヒトトランスジェニック動物と掛け合わせることにより被検核酸をTet誘導的に発現することが可能となる。また、本発明の非ヒトトランスジェニック動物から単離した卵(TetR+ egg)や組織(TetR+ tissue)に、さらに被検核酸トランスジェニック用の発現ベクターを導入し、この卵や組織を仮親に戻してキメラ動物を得ることにより、被検核酸をTet誘導的に発現可能なモデル動物を得ることが可能となる。こうして作製されたTet誘導的に被検核酸の発現が可能なトランスジェニック動物は、被検核酸の機能解析に使用することができ、被検核酸が関与する疾患等のモデル動物として有用である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(TetR mouse コンストラクションとTGマウスの作製)
1.pGlobin TetR IRES EGFPの調製
pcDNA6TRベクター(Invitrogen社)をテンプレートとして下記のプライマーを用い、PCR法によりラビット ベータグロビン イントロン(Rabitt beta globin intron)II及びTetRコーディング配列の領域を増幅した。なお、プライマーにはPstI切断部位、及びXhoI切断部位が含まれている。
PstI-TetR-PCR:CTGCAGTTAATAAGATCTGAATTCCCGGGATCCGCTGTACG(配列番号1)
XhoI-globin-PCR:CTCGAGGTGAGTTTGGGGACCCTTGATTGTTC(配列番号2)
次に、増幅した1.3kbの断片をpBlue script SK(-)のEcoRV siteへ平滑末端としてクローニングした。クローニングしたプラスミドからPstI切断部位及びXhoI切断部位でRabitt beta globin intron II及びTetRコーディング配列の断片を切り出した。
【0044】
一方で、pIRES-EGFP (Clontech社)プラスミドをPstI切断部位及びXhoI切断部位で切断しておいた。両者をライゲーションすることにより、pGlobin TetR IRES EGFPをクローニングした。
2.pSK/CAGGSの調製
pCAGGS(化学及血清療法研究所)からSspIとHindIIIでCAGプロモーターの部分を切り出し、あらかじめ用意しておいたpBlue script SK(-) SmaI/HindIII切断済みプラスミドと、平滑末端処理後にライゲーションしてpSK/CAGGSをクローニングした。
3.pSK/CAG TetR IRES EGFPの調製
pGlobin TetR IRES EGFPからXhoIとNotIでGlobin TetR IRES EGFPの断片を切り出し、あらかじめ用意しておいたpSK/CAGGS EcoRI切断済みプラスミドと、平滑末端処理後にライゲーションしてpSK/CAG TetR IRES EGFPをクローニングした。
4.pSKM /Ins CAG TetR IRES EGFPの調製
pSK/CAG TetR IRES EGFPにおいて、CAGプロモーターの5’上流に位置するNotI切断部位及びpolyA signal配列の3’下流に位置するClaI切断部位に、それぞれ1.2Kbのインシュレーター(insulator)配列を2つタンデムにクローニングした。すなわち、インシュレーター配列でCAG TetR IRES EGFPの発現カセットが挟まれたpSKM /Ins CAG TetR IRES EGFPを調製した。なお、インシュレーター配列はCell 74, pp505-514にて報告されている配列を使用した。
【0045】
5.pCAG TetRの調製
pcDNA6TRベクター(Invitrogen社)をテンプレートとして下記のプライマーを用い、PCR法によりTetRコーディング配列の領域を増幅した。
TetR-F1:GATATCACCATGTCTAGATTAGATAAAAGTAAAGTG(配列番号3)
TetR-R1:CTATAGTTAATAAGATCTGAATTCCCGGGATCCGCTGTACG(配列番号4)
増幅した約1.3kbの断片をpBlue script SK(-)へ一旦クローニングした後、改めてEcoRVでTetRコーディング配列の断片を切り出した。
【0046】
一方で、pCAGGS(化学及血清療法研究所)のプラスミドをEcoRIで切断して、平滑末端処理後にTetRコーディング配列の断片とライゲーションしてpCAG TetRをクローニングした。
【0047】
6.pSKM /Ins CAG TetRの調製
pCAG TetR上で、CAGプロモーターの5’上流に位置するNotI切断部位及びpolyA signal配列の3’下流に位置するClaI切断部位にそれぞれ1.2Kbのインシュレーター配列を2つタンデムにクローニングした。すなわち、インシュレーター配列でCAG TetR IRES EGFPの発現カセットがはさまれているpSKM /Ins CAG TetRを調製した。なお、インシュレーター配列はCell 74, pp505-514にて報告されている配列を使用した。
【0048】
7.TGマウスの作製
以上の様にクローニングしたプラスミド4種からそれぞれクローニングベクター自体の配列を出来るだけ含まないよう、下記の通り制限酵素で消化後、アガロースゲルで電気泳動してインサートとベクターを分離した。
pCAG TetR(SspI/ PstI)
pSKM /Ins CAG TetR (ClaI/ClaI)
pSK/CAG TetR IRES EGFP (NotI/ClaI)
pSKM /Ins CAG TetR IRES EGFP (ClaI/ClaI)。
【0049】
次に、ゲルからインサートDNA断片だけを切り出し、DNA断片精製キット(キアゲン社)を用いてDNA断片を精製し、TEバッファーに溶解した。こうして得られたDNA溶液をガラスキャピラリーに充填し、マウスの受精卵の雌性前核へマイクロインジェクションで注入した。さらに、その受精卵を偽妊娠の里親マウスの卵管へ移植した後、自然分娩でトランスジェニックマウスを得た。
(相同組換えによるTetR mouse コンストラクションとKnock inマウスの作製)
1.Knock in vectorの調製
胚の発生過程においてユビキタスに発現するROSA26遺伝子座(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 3789-3794, 1997)を使用し、TetRのKnock in vectorを調製した。
【0050】
具体的には、ROSA26遺伝子座からSacII及びXbaIで切り出した約4.3kbの核酸断片をpGK DT-A bpAベクターのSacII及びXbaI切断部位に挿入した。次に、SacII切断部位から約0.9kbのところにあるXbaI切断部位にPGK-neo-bpA/CAG TetR IRES EGFPを挿入し、TetR-EGFPのKnock in vectorとした。
【0051】
2.Knock inマウスの作製
調製したKnock in vectorをエレクトロポレーションにより胚性幹細胞に導入し、G418存在下で培養することによりCAG TetR IRES EGFP配列とROSA26遺伝子座との間で相同組換えが生じたクローンを得た。また、サザンブロットにより目的とする遺伝子座にKnock in vectorが導入されていることを確認した。
【0052】
次に、相同組換えが生じた胚性幹細胞をマイクロインジェクションにより胚盤胞へ導入し、キメラ胚を形成させた後、仮親の子宮に移植し、キメラマウスを得た。得られたキメラマウスの尾から抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行ったところ、TetRが導入されていることが確認できた。また、各組織におけるTetRの発現をウエスタン解析により確認した(図1)
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、薬剤で誘導した際に十分な発現が得られない分子をin vivoで発現誘導させる際に使用可能なトランスジェニック動物を得ることが可能となる。従って、かかるトランスジェニック動物を使用して所望の遺伝子の発現を制御することが可能となり、当該遺伝子の及びその産物であるタンパク質のin vivoにおける機能を解析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】各組織におけるTetRの発現をウエスタン解析により確認した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TetRタンパク質を発現していることを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
TetRタンパク質を発現させるために使用するプロモーターがCAGプロモーターであることを特徴とする請求項1に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項3】
TetRタンパク質を発現させる発現ベクター中にインシュレーター配列を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項4】
TetRタンパク質を発現させる発現ベクター中にIRES配列を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項5】
プロモーターの下流にTetRが配置されている発現ベクターを受精卵又は胚性幹細胞に導入しTetR導入細胞を作製する工程と、
前記TetR導入細胞を非ヒト哺乳動物に導入しTetRトランスジェニック動物を得る工程とを含むことを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物の製造方法。
【請求項6】
前記発現ベクターを受精卵又は胚性幹細胞に導入する方法としてエレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム共沈法、マイクロインジェクション及びウイルスベクターによる方法からなる群より選択されるいずれか一つを利用することを特徴とする請求項5に記載の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法。
【請求項7】
前記プロモーターがCAGプロモーターであることを特徴とする請求項5又は6に記載の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法。
【請求項8】
前記発現ベクター中にインシュレーター配列を含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法。
【請求項9】
前記発現ベクター中にIRES配列を含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の非ヒトトランスジェニック動物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4に記載の非ヒトトランスジェニック動物と被検核酸を発現する動物を掛け合わせて作製したことを特徴とする被検核酸Tet誘導型の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項11】
前記被検核酸がRNAiであることを特徴とする請求項10に記載の非ヒトトランスジェニック動物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−104357(P2008−104357A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32664(P2005−32664)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000005072)萬有製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】