説明

Vリブドベルト

【課題】ベルトの伸びやスリップを抑えて弛み側での振動、異音を軽減し、更にベルト寿命を延長し自動車の雨中走行時にもスリップ音を抑えられるVリブドベルトを提供する。。
【解決手段】Vリブドベルト1がエチレン−2,6−ナフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維フィラメント群を撚り合わせた総デニール数4,000〜8,000の撚糸の心線4をもち、22,〜30,000N/リブのベルト引張弾性率を有し、さらに圧縮部に綿短繊維を5〜20質量部含有したVリブドベルトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はVリブドベルトに係り、詳しくはベルトの伸びやスリップを抑えて弛み側での振動、異音を軽減し、更にベルト寿命を延長したVリブドベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
Vリブドベルトは、クッションゴム層中に心線を埋設し、該クッションゴム層の下部に複数のリブ部を設けている。このVリブドベルトは、Vベルトに代わって自動車のウォータポンプや発電機等の多軸駆動の動力伝動用として広く使用されてきている。
従来、ベルトの動力を効率良く伝達する為には、ベルトとプーリ間のスリップ率を小さくする必要があり、ベルトの聴力を高めてスリップ率を小さくしていた。又、自動車の雨中走行時にはエンジンルーム内に水が入ることにより、ベルトとプーリの間に水が付着しベルトがスリップする為にスリップ音が発生していた。
【0003】
さらには、現在の自動車は静粛化が進み、特にエンジン音以外の音は異音とされる。従って、雨中走行時にエンジンルーム内に水が入っても水によるベルトのスリップ音が発生しないようによりベルト張力を高めてスリップ率を小さくしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ベルト張力を高める上で、ベルト収縮応力を高くすると、ベルト乾熱収縮率が高くなり、ベルト長さの経時収縮が大きくなるという問題が発生した。更に、従来の多軸駆動装置では、心線としてポリエチレンテレフタレート繊維のコードを有するVリブドベルトが懸架されており、大きな回転慣性を持った発電機のプーリから離れ出たベルトは、大きな慣性トルクと発電トルクを担持するために瞬時に伸ばされ、そして弛み側のプーリ間で起こる共振現象によって異音を発生していた。
【0005】
本発明はこのような問題点を改善するものであり、これに対処するものでベルトの伸びやスリップを抑えて弛み側での振動、異音を軽減し、更にベルト寿命を延長し自動車の雨中走行時にもスリップ音を抑えられるVリブドベルトを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本願請求項1記載の発明は、伸張部とベルト長手方向に沿って心線を埋設したクッションゴム層とクッションゴム層に隣接してベルトの周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部とからなるVリブドベルトを、駆動プーリと、少なくともひとつの従動プーリに懸架した多軸駆動装置において、上記Vリブドベルトの心線がエチレン−2,6−ナフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維フィラメント群を撚り合わせた総デニール数4,000〜8000の撚糸を有し、ベルトの引張弾性率が17,000N/リブ以上であり、なおかつ圧縮部に綿短繊維を5〜20質量部含有したVリブドベルトにある。
【発明の効果】
【0007】
本願請求項1記載の発明では、伸張部とベルト長手方向に沿って心線を埋設したクッションゴム層とクッションゴム層に隣接してベルトの周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部とからなるVリブドベルトを、駆動プーリと、少なくともひとつの従動プーリに懸架した多軸駆動装置において、上記Vリブドベルトの心線がエチレン−2,6−ナフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維フィラメント群を撚り合わせた総デニール数4,000〜8000の撚糸を有し、ベルトの引張弾性率が17,000N/リブ以上であり、なおかつ圧縮部に綿短繊維を5〜20質量部含有したVリブドベルトであることから、綿繊維がベルト上の水分を吸収し水によるスリップを防止する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明に係るVリブドベルトを示す断面斜視図である。
図1において、Vリブドベルト1は、カバー帆布3からなる伸張部2と、コードよりなる心線4を埋設したクッションゴム層5と、その下側に弾性体層である圧縮部6からなっている。この圧縮部6は、ベルト長手方向に延びる断面略三角形である台形の複数のリブ7を有している。
【0009】
前記リブ7には、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、CSM、ACSM、SBR、又はエチレン・α−オレフィンエラストマーが使用され、水素化ニトリルゴムは水素添加率80%以上であり、耐熱性及び耐オゾン性の特性を発揮するためには、好ましくは90%以上が良い。水素添加率80%未満の水素化ニトリルゴムは、耐熱性及び耐オゾン性が極度に低下する。耐油性及び耐オゾン性の特性を発揮するために、好ましくは90%以上が良い。水素添加率80%未満の水素化ニトリルゴムは、耐熱性及び耐オゾン性が極度に低下する。耐油性及び耐寒性を考慮すると、結合アクリロにトリル量は20〜45%の範囲が好ましい。
【0010】
エチレン・α−オレフィンエラストマーとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、へキセン、或いはオクテン)の共重合体、或いは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などであり、具体的にはEPMやEPDMなどのゴムを言う。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。
【0011】
又、上記リブ7には綿からなる短繊維を混入してリブ7の耐側圧性を向上させるとともに、プーリと接する面になるリブ7の表面に該短繊維を突出させリブ7の摩擦係数を低下させて、ベルト走行時の騒音を軽減させる。さらにはリブ7の表面に綿短繊維を突出させてリブ7表面に付着した水分を吸水する。
短繊維としては、綿の他にはナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、アラミドの繊維があるが、最も水分を吸収し易い綿が最適である。
そして上記綿短繊維は、ゴム100質量部に対して5〜20質量部添加する。綿短繊維の添加量が5質量部未満であると吸水の効果が無く、リブ7表面に付着した水分を十分吸収することができない。一方、綿短繊維の添加量が20質量部を超えると短繊維がゴム中に均一に分散しなくなる。
【0012】
上記綿短繊維はリブ7のゴムとの接着を向上させるためにも、該短繊維をエポキシ化合物やイソシネート化合物から選ばれた処理液によって接着処理される。
【0013】
又、上記心線4としては、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維フィラメント群を撚り合わせた総デニール数が4,000〜8,000の接着処理したコードが使用される。このコードの上撚り数は10〜23/10cmであり、又下撚り数は17〜38/10cmである。
総デニールが4,000未満の場合には、心線のモジュラス、強力が低くなりすぎ、又8,000を超えると、ベルトの厚みが厚くなって、屈曲疲労性が悪くなる。
【0014】
本発明で使用するエチレン−2,6−ナフタレートは、通常ナフタレン−2,6−ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を触媒の存在下に適当な条件のもとにエチレングリコールと縮重合させることによって合成させる。このとき、エチレン−2,6−ナフタレートの重合完結前に適当な1種又は2種以上の第3成分を添加すれば、共重合体ポリエステルが合成される。
【0015】
上記心線4の接着処理は、まず(1)未処理コードをエポキシ化合物やイソシアネート化合物から選ばれた処理液を入れたタンクに含浸してプレディップした後、(2)160〜200°Cに温度設定した乾燥炉に30〜600秒間通して乾燥し、(3)続いてRFL液からなる接着液を入れたタンクに浸漬し、(4)210〜260°Cに温度設定した延伸熱固定処理機に30〜600秒間通して−1〜3%延伸して延伸処理コードとする。
【0016】
上記エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとエピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物や、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類やハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物である。このエポキシ化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0017】
RFL液はレゾルシンとホルマリンとの初期縮合体をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしてはクロロプレン、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリル、NBR等である。
【0018】
上記延伸熱固定処理されたコードは、スピニングピッチ、即ち心線の巻き付けピッチを1.0〜1.3mmにすることで、モジュラスの高いベルトに仕上げることができる。もし1.0mm未満になると、コードが隣接するコードに乗り上げて巻き付けができず、一方1.3mmを超えると、ベルトのモジュラスが徐々に低くなる。
【0019】
上記カバー帆布3は綿、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アラミド繊維からなる糸を用いて、平織、綾織、朱子織等に製織した布である。
【0020】
上記心線4を用いたVリブドベルトは、引張弾性率が17,000N/リブ以上、好ましくは22,000〜33,000N/リブであり、このような引張弾性率であると、たとえ駆動軸にトルク変動があり、ベルトの張力変動でベルトが伸張し、そしてこの状態で大きな回転慣性を有する発電機13に入って追従しても、Vリブドベルトは急激に伸張することが無く、弛み側での振動、異音を軽減する。
【0021】
しかもベルトに147Nの初荷重を掛け、100°C雰囲気下30分放置した後に発生したベルト乾熱時収縮応力が200Nを超える場合には、ベルト長さの経時収縮が大きくなる傾向がある上に、スリップ率が小さくなる効果は小さい。
【0022】
尚、アラミド繊維を使用した場合には、ベルトのモジュラスを高めることができるが、熱収縮が無い為に別途オートテンショナーが必要になり、伝達機構が複雑になる欠点がある。しかし、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維を用いた心線は、熱収縮を起こすため、オートテンショナーを使用しなくても良い。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を具体的な実施例により更に詳細に説明する。
実施例1〜3、比較例1〜2
心線として、1000デニールのエチレン−2,6−ナフタレート繊維(PEN繊維)、1000デニールと1100デニールのポリエチレンナフタレート繊維(PET繊維)を2×3の撚構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で諸撚りで撚糸してトータルデニール6000又は6600の未処理コードを準備した。この物性を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
次いで、各処理コードをトルエン90gにPAPI(化成アップジョン社製ポリイソシネート化合物)10gからなる接着剤でプレディップした後、約170〜190°Cの温度設定をした乾燥炉に10〜300秒間通して乾燥し、続いて表2に示すRFL液からなる接着剤に含浸させ、表3に示す処理条件で熱延伸固定処理を行って処理コードとした。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
本実施例におけるVリブドベルトの製造方法は、以下の通りである。
まず、円筒状モールドに経糸と緯糸とが綿糸である平織物にクロロプレンゴムをフリクションしたゴム付帆布を1プライ巻き付けた後、表4に示すクロロプレンゴム組成物からなる接着ゴムシートを巻き、更にその上に上記コードをスピニングし、そして表4に示すクロロプレンゴム組成物からなるゴム層を巻き付け成形を終えた。これを公知の方法で160°C、30分で加硫して円筒状の加硫ゴムスリーブを得た。
【0029】
上記加硫ゴムスリーブを研磨機の駆動ロールと従動ロールに装着して、張力を付与した後に回転させた。150メッシュのダイヤモンド表面に装着した研磨ホイールを1,600rpmで回転させ、これを加硫スリーブに当接させてリブ部を研磨した。研磨機から取り出したスリーブを切断機に設置した後、回転しながら切断した。
【0030】
作製したVリブドベルトは、上記各延伸固定処理コードからなる心線がクッションゴム層内に埋設され、その上側にゴム付綿帆布を1プライ積層し、他方クッションゴム層の下側には圧縮部があって3個のリブがベルト長手方向に有していた。このVリブドベルトはRMA規格による長さ1100mmのK型3リブドベルトであり、リブピッチ3.56mm、リブ高さ2.9mm、リブ角度40°、そして種々のベルト長さを有するものであった。
【0031】
ここで圧縮部及びクッションゴム層を、それぞれ表4に示すゴム組成物から調合し、バンバリーミキサーで混練後、カレンダーで圧延したものを用いた。圧縮部には、短繊維が含まれベルト幅方向に配向している。
尚、該短繊維は予めトルエン90gにPAPI(化成アップジョン社製ポリイソシアネート化合物)10gからなる処理液に浸漬した。
【0032】
【表4】

【0033】
次いで、前記コード及びVリブドベルトの静的性能の評価を行った。この結果を表5に示す。
尚、コード及びベルトの試験方法は、以下の通りである。
【0034】
コード強度
JIS L−1071(1983年)に基づき、コード強度を求めた。
【0035】
コード乾熱収縮率
JIS L−1071(1983年)に基づき、150°Cの雰囲気温度下で30分間放置して求めた。
【0036】
コード乾熱時収縮応力
25g/dの初荷重を掛け、150°C雰囲気下で8分間放置した後、発生した応力を求めた。
【0037】
(4)ベルトの引張弾性率
ベルトを2つの溝付きプーリに巻き付け、一方のプーリを50mm/分の速度で引っ張って、プーリの移動距離と荷重を測定し、1リブ(3.56mm)当たりの応力に換算した。
【0038】
続いて、上記Vリブドベルトを図2に示す駆動プーリ(直径140mm)、発電機に設けた従動プーリ(直径55mm)、そしてエアーコンプレッサーに設けた従動プーリ(直径150mm)からなる3軸のプーリにベルトを掛架し、発電機に設けた従動プーリとエアーコンプレッサーに設けた従動プーリとの間にテンションプーリ(直径85mm)を当接させ、テンションプーリを調節してベルトに390Nの張力を与えた。走行条件は、雰囲気温度が室温、駆動プーリの回転数が1000rpm、角速度変動1.0deg、従動プーリ(直径55mm)の負荷が1.9kwである。
【0039】
この駆動装置を用いて、まず発音試験を行った。張力を徐々に下げていき発音が起こったときの張力を発音限界張力として表5に示した。
【0040】
【表5】

【0041】
表5から本発明のVリブドベルトでは、従来のものに比べて発音限界張力が小さくなることがわかる。
【0042】
次に、エンジン実機にて実施例と比較例1のベルトにて速度変動を調べた。このときのエンジン回転数は650rpmであった。
測定としてはプーリのみの速度変動とそのプーリの速度変動と対比してベルトがどのような挙動を示すかを調査した。このときの結果を図3及び図4に示す。
【0043】
図3及び図4から実施例のベルトはプーリの速度変動と同じ曲線を描いているのに比べて、図4の比較例のベルトは波形が崩れているところがあり、これが微小滑りと呼ばれるもので微小なスリップを起こしている為にプーリの速度変動と差異が生じているものである。
この微小スリップが要因となって発音を起こしている。従って、実施例では発音の要因となる微小スリップが起こっていないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のVリブドベルトの断面斜視図である。
【図2】本発明のVリブドベルトを用いた駆動装置を示す概略図である。
【図3】実施例のプーリの速度変動とベルトの速度変動を示した図である。
【図4】比較例1のプーリの速度変動とベルトの速度変動を示した図である。
【符号の説明】
【0045】
1 Vリブドベルト
2 伸張部
3 カバー帆布
4 心線
5 クッションゴム層
6 圧縮部
7 リブ
10 多軸駆動装置
11 駆動軸
12 従動軸
14 従動軸
16 駆動プーリ
17 従動プーリ
18 従動プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸張部とベルト長手方向に沿って心線を埋設したクッションゴム層とクッションゴム層に隣接してベルトの周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部とからなるVリブドベルトを、駆動プーリと、少なくともひとつの従動プーリに懸架した多軸駆動装置において、上記Vリブドベルトの心線がエチレン−2,6−ナフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維フィラメント群を撚り合わせた総デニール数4,000〜8000の撚糸を有し、ベルトの引張弾性率が17,000N/リブ以上であり、なおかつ圧縮部に綿短繊維を5〜20質量部含有したことを特徴とするVリブドベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−38231(P2006−38231A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262152(P2005−262152)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【分割の表示】特願平10−296650の分割
【原出願日】平成10年10月19日(1998.10.19)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)