説明

Vリブドベルト

【課題】被水時のスリップの発生ならびに異音の発生を抑制させ得るVリブドベルトの提供を課題としている。
【解決手段】ベルト長手方向に延在するリブが複数条形成されているリブ形成面を有し、該リブ形成面をプーリーに当接させて用いられるVリブドベルトであって、ベルト駆動時にプーリーと当接しない非接触領域を形成して、被水時に前記非接触領域に水を流入させ得るように、前記リブ形成面には凹入箇所が設けられていることを特徴とするVリブドベルトを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト長手方向に延在するリブが複数条形成されているリブ形成面を有するVリブドベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
Vリブドベルトは、通常、複数のプーリー間に掛け渡されて用いられている。
そして、Vリブドベルトは、通常、ベルト長手方向に延在するリブが複数条形成されたリブ形成面を有し、ベルト駆動時には、前記リブ形成面をプーリーに当接させて摩擦伝動が実施されている。
【0003】
このVリブドベルトを用いた摩擦伝動においては、例えば、Vリブドベルトやプーリーが被水した際には、リブ形成面とプーリーとの接触界面においてスリップが発生し、該スリップの発生に伴って異音(騒音)が発生することが知られている。
この被水時におけるスリップ対策としては、リブ形成面を形成する圧縮ゴム層を繊維を含むゴム組成物で形成し、しかも、この繊維をリブ表面からフィブリル化させて突出させる方法などが検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような方法によっても被水時のスリップの発生は、十分抑制されてはおらず、したがって、従来のVリブドベルトは、異音の発生が十分抑制されてはいない。
【0005】
【特許文献1】特開平07−151191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、被水時のスリップの発生ならびに異音の発生を抑制させ得るVリブドベルトの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決すべく、ベルト長手方向に延在するリブが複数条形成されているリブ形成面を有し、該リブ形成面をプーリーに当接させて用いられるVリブドベルトであって、ベルト駆動時にプーリーと当接しない非接触領域を形成して、被水時に前記非接触領域に水を流入させ得るように、前記リブ形成面には凹入箇所が設けられていることを特徴とするVリブドベルトを提供する。
【0008】
なお、前記凹入箇所は、リブ側面部に形成された複数条の溝であることが好適である。
また、前記凹入箇所は、リブ底部に開口された孔であることが好適である。
【0009】
前記複数条の溝には、流入させた水をベルト側方から排出させ得るように、ベルトを横断する方向に延在されている溝が含まれていることが好ましく、また、前記複数条の溝は、互いに交差する状態で設けられていることが好ましい。
【0010】
前記孔は、Vリブドベルトを、そのベルト厚み方向に貫通する貫通孔であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ベルト駆動時にプーリーと当接しない非接触領域を形成して、被水時に前記非接触領域に水を流入させ得るように、リブ形成面には凹入箇所が設けられていることから、被水時に、リブ形成面とプーリーとの接触界面に水が介在されることを抑制でき、リブ形成面とプーリーとの間の摩擦力が被水時に変化することを抑制させ得る。
したがって、被水時のスリップの発生ならびに、スリップにともなう異音の発生を抑制させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
【0013】
まず、本実施形態のVリブドベルトの概略構成について説明する。
本実施形態におけるVリブドベルトは、その全体が、帯状のベルトによって無端状に形成されている。
そして、その内周側の面をプーリーに当接させて用いるべく、ベルト長手方向に延在するリブが複数条形成されているリブ形成面をその内周側に有している。
また、ベルト駆動時にプーリーと当接しない非接触領域を形成して、被水時に前記非接触領域に水を流入させ得るように、前記リブ形成面(内周面)には凹入箇所が設けられている。
図1は、本実施形態におけるVリブドベルトの一実施形態を表す図であり、リブ形成面を上側に向けて配した状態のVリブドベルトの一部分を表す斜視図である。
また、図2〜9にその他の実施形態を表す。
さらに、それぞれの斜視図の左上部分に、図中に示す円形領域を拡大した拡大図を併せて示す。
なお、この図1〜9においては、同一の構成は、同一の図記号を用いて表している。
【0014】
図中1は、Vリブドベルトを表し、2は、リブ形成面(内周面)を表している。3は、リブ形成面とは逆の背面(外周面)を表している。
10は、Vリブドベルト1の最内周側の部分を形成する第一のゴム層である圧縮ゴム層を表しており、該圧縮ゴム層10は、Vリブドベルト1のベルト周方向に連続形成されている。
11は、この圧縮ゴム層10に形成されたリブを表している。
すなわち、この圧縮ゴム層10の内周側の表面が、前記リブ形成面2となる。
このリブ11は、上側(内周側)ほど狭幅となるように形成されており断面形状が略等脚台形となるように形成されている。
11a、11b、11cは、このリブ11の各部位を表しており、11aは、前記等脚台形の上底部分に相当するリブ頂部を表しており、11bは、前記等脚台形の斜辺に相当するリブ側面部を表している。
さらに11cは、隣接するリブの間に形成される谷間の底の部分となるリブ底部を表している。
【0015】
20は、Vリブドベルト1を構成する第二のゴム層である接着ゴム層を表しており、30は、Vリブドベルト1の最外周側の部分を形成する第三のゴム層である背面層を表している。
すなわち、図にも示されているように、本実施形態のVリブドベルト1は、ベルト外周面側から内周面側(下層側から上層側)に向かって、背面層30、接着ゴム層20、圧縮ゴム層10の三層の積層構造が形成されている。
【0016】
40は、心線を表し、該心線40は、前記接着ゴム層20中に埋設されてVリブドベルト1に備えられている。
この心線40は、ベルト周方向に延在されており、しかも、1本の心線がVリブドベルト1中をスパイラルに複数回周回する状態で埋設されている。
したがって、図にも示されているように、ベルトを幅方向に横断する断面においては、心線40の断面がベルトを幅方向に一定間隔を置いて複数並んだ状態となる。
【0017】
次いで、前記リブ形成面2に形成されている凹入箇所について、図1〜9を参照しつつより詳しく説明する。
図1に例示のVリブドベルト1は、前記凹入箇所として、リブ側面部11bに形成された複数条の溝12aを有している。
この図1における複数条の溝12aは、リブ11の延在方向に沿って連続して延在されており、しかも、互いに一定間隔を置いて平行に配されている。
すなわち、図1における複数条の溝12aは、一つの溝を通って、Vリブドベルト1の内周面(リブ形成面2)を移動した際に、同じ溝を繰り返して周回する状態となるようにそれぞれの溝が交差することなく互いに平行してリブ側面部11bに形成されている。
【0018】
この図1に例示する溝12aは、その幅(図中「W」)、深さ(図中「D」)ならびに隣接する溝間の距離(ピッチ)(図中「P1」)が、ベルト駆動時において、この溝12aの内面側の少なくとも一部を、プーリーと接触しない非接触領域とすることができるものであれば特に限定されるものではない。
例えば、この図1に例示する溝12aは、リブの幅ならびに高さが数mm程度の一般的なVリブドベルトにおいては、通常、幅50〜150μm、深さ50〜300μm、ピッチ100〜200μmとすることができる。
中でも、排水性および摩擦による耐摩耗性の点から、溝12aの幅は、70〜120μmであることが好適である。
また、溝12aの深さは、100〜250μmであることが好適である。
また、溝12aは、ピッチ120〜180μmで形成されていることが好適である。
さらには、リブ形成面2の表面積の内、溝12aが占める面積割合が、10〜70%とされることが好ましい。
【0019】
なお、図1においては、断面半円形の溝を例示しているが、この溝形状については、特に限定されず、例えば、断面矩形、楔形など種々のものを採用することができる。
この溝については、一旦リブ11を形成した後に、レーザー加工機などによりリブ側面部11bにレーザー光を照射して一定深さの掘り込みを実施するなどして形成することができる。
【0020】
次いで、図2を参照しつつ、凹入箇所についての第二の例を説明する。
この図2に例示のVリブドベルト1は、リブ11の延在方向(図中「矢印A」)に対して、所定の角度(図中「θ」)をなす方向に溝12bが延在されている点を除いて、図1に例示のVリブドベルト1と同様に形成されている。
【0021】
そして、図1の溝12aが、リブ11の延在方向と同一方向に延在し、一つの溝を通って、Vリブドベルトの内周面(リブ形成面)を移動した際に、同じ溝を繰り返してに周回する状態となるように形成されていたのに対し、この図2に例示のVリブドベルト1においては、溝12bがリブ11の延在方向Aに対して角度(θ)をもって延在していることから、一つの溝12bを通って、Vリブドベルト1の内周面(リブ形成面2)を移動した際には、同じ溝を周回する状態とはならず、Vリブドベルト1の幅方向に移動する状態となる。
しかも、この図2の溝12bは、リブ側面部11bに形成されている溝に続き、リブ頂部11aとリブ底部11cとの両方にも形成されており、ベルトを横断する方向に連続して形成されている。
したがって、ベルト幅方向一端側に形成された溝を通って、Vリブドベルト1の内周面(リブ形成面2)を移動した場合には、複数周回あるいは1周以内の移動により他端側へとベルトを横断することとなる。
【0022】
このように、ベルトを横断する方向に延在されている溝を有することにより、ベルト駆動において被水した時には、この溝12bに水を流入させ、さらに、遠心力等により流入させた水を溝12bに沿って流動させることができる。
したがって、溝12bに流入させた水を、最終的にはベルト側方から排出させることができ、Vリブドベルト1のスリップをよりいっそう抑制させることができる。
【0023】
次いで、図3を参照しつつ、凹入箇所についての第三の例を説明する。
この図3に例示のVリブドベルト1は、リブ側面部11bに形成されている溝12cが、リブ11の延在方向に連続しておらず、破線状態となって形成されている。
この溝12cが連続していない点を除き、図3に例示のVリブドベルト1は、図1に例示のVリブドベルトと同様に形成されている。
すなわち、図3に例示のVリブドベルト1においては、溝12cが、寸断された状態でリブ11の延在方向に沿って延在されており、しかも、互いに一定間隔を置いて平行に配されている。
【0024】
この図3に例示する溝12cの幅W、深さDならびに溝間のピッチP3については、通常、図1に例示のVリブドベルトの説明において述べた幅、深さ、ならびに、ピッチと同等の値とすることができ、この溝の断面形状が半円に限定されない点についても図1に例示のVリブドベルトと同様である。
【0025】
次いで、図4を参照しつつ、凹入箇所についての第四の例を説明する。
図1〜3に例示のVリブドベルトにおいては、溝が、全て一方向に延在されていたが、この図4に例示のVリブドベルト1においては、図1に例示のVリブドベルトと同様の、リブ11の延在方向に連続して形成されている溝12a(以下「縦溝12a」ともいう)以外に、このリブ11の延在方向とは直交する方向(Vリブドベルトを横断する方向)に延在する溝12d(以下「横溝12d」ともいう)を有する。
すなわち、この図4に例示のVリブドベルト1においては、縦溝12aと横溝12dとの異なる方向に延在する溝が互いに交差する状態で設けられている。
しかも、この横溝12dは、リブ側面部11bに形成されている溝に続き、リブ頂部11aとリブ底部11cとにも形成されており、ベルトを横断する方向に連続して形成されている。
【0026】
したがって、被水時に流入させた水を、この横溝12dを通じてベルト側方から排出させることができ、この図4に例示のVリブドベルト1も、図2に例示のVリブドベルトと同様の効果を奏し、スリップの発生をよりいっそう抑制させ得る。
【0027】
この横溝12dは、通常、縦溝12aと同等の幅ならびに深さとすることができ、この横溝12dのピッチP42も、通常、縦溝12aのピッチP41と同等の値に設定することができる。
この図4に例示する溝12a(12d)の幅W、深さDならびに溝間のピッチP41(P42)については、通常、図1に例示のVリブドベルトの説明において述べた幅、深さ、ならびに、ピッチと同等の値とすることができ、この溝の断面形状が半円に限定されない点についても図1に例示のVリブドベルトと同様である。
【0028】
次いで、図5を参照しつつ、凹入箇所についての第五の例を説明する。
この図5のVリブドベルト1は、横溝12dがベルトを横断する方向に一直線となっていないことを除いて図4に例示のVリブドベルト1と同様にリブ形成面2に縦溝12aと横溝12dとが形成されている。
【0029】
すなわち、隣接する縦溝12a間を横断する横溝12dに対して、次の縦溝12aとの間を横断する横溝12dの形成位置がオフセットされており、横溝12dを通ってベルト横断方向に移動する際には、一つの横溝12dを通じて隣接する縦溝12a間を横断した後に、縦溝12aに沿って移動しないと、次に隣接する縦溝12aへと横断できないようになっている。
したがって、横溝12dと縦溝12aとで囲まれる四角の領域は、図4に例示のVリブドベルトにおいては、リブ形成面2の縦横に揃って配列されていたが、この図5に例示のVリブドベルト1においては、リブ形成面2に千鳥配置された状態となっている。
【0030】
この横溝12dが、通常、縦溝12aと同等の幅ならびに深さとされ得る点、横溝12dのピッチP52が、通常、縦溝12aのピッチP51と同等の値に設定され得る点についても図4に例示のVリブドベルト1と同様である。
また、溝12a(12d)の幅W、深さDならびに溝間のピッチP51(P52)が、通常、図1に例示のVリブドベルトの説明において述べた幅、深さ、ならびに、ピッチと同等の値とされ得る点、溝の断面形状が半円に限定されない点についても図4に例示のVリブドベルトと同様である。
【0031】
なお、図5に例示のVリブドベルト1においては、この溝で囲まれた四角の領域がベルト駆動時にプーリーと接触する領域(以下「接触領域」ともいう)となる。
そして、千鳥配置された接触領域を有することにより、図5に例示のVリブドベルト1は、被水時に接触領域の表面に付着した水を溝に流入させやすく、スリップの発生をよりいっそう抑制させるという効果を奏する。
【0032】
次いで、図6を参照しつつ、凹入箇所についての第六の例を説明する。
この図6のVリブドベルト1においては、リブ11の延在方向に沿って連続して延在されている溝12aは、各リブ側面部11bの略中央部に一本のみ形成されており、この中央の溝12a(以下「中央溝12a」ともいう)から分岐して枝分かれ状に広がる方向に延在された溝12e(以下「分岐溝12e」ともいう)が所定間隔を置いて複数リブ側面部11bに形成されている。
【0033】
したがって、例えば、この分岐溝12eが中央溝12aから分岐し始める箇所から分岐溝12eが広がる側にプーリーとの接触箇所が移動する方向にVリブドベルト1を駆動させることにより、被水時には、この中央溝12aや分岐溝12eに水を流入させて、さらに、この分岐溝12eの先端部から流入させた水を放出させるという機能を発揮させ得る。
すなわち、この図6に例示のVリブドベルト1も、これまでに例示したVリブドベルトとはその機能を異ならせるものの、スリップの発生をよりいっそう抑制させるという効果を奏する。
【0034】
この中央溝12a、分岐溝12dの幅、深さなどが、通常、図1に例示のVリブドベルトの説明において述べた値と同等のものとされ得る点、溝の断面形状が半円に限定されない点についてもこれまでに例示のVリブドベルトと同様である。
【0035】
次いで、図7を参照しつつ、凹入箇所についての第七の例を説明する。
この図7のVリブドベルト1においては、ヘリンボーン状の溝12fが形成されている。
この図7のVリブドベルト1は、図6に例示のVリブドベルトと同様に、このヘリンボーン状の溝12fが広がる側に向けてプーリーとリブ形成面2との接触箇所が移動するようにVリブドベルト1を駆動させることにより、被水時に、この溝12fの先端部から水を放出させるという機能を発揮させ得る。
すなわち、この図7に例示のVリブドベルト1も、図6に例示のVリブドベルトと同様にスリップの発生をよりいっそう抑制させるという効果を奏する。
【0036】
次いで、図8を参照しつつ、凹入箇所についての第八の例を説明する。
この図8のVリブドベルト1においては、円板状の突子11byがリブ側面部11bに複数形成されている。
そして、この複数の突子11byが互いに僅かに間隔を置いてリブ側面部11bに配列されており、この突子11byの間の領域11bx(以下「間隙部11bx」ともいう)がプーリーに接触されない非接触領域として形成されている。
すなわち、図8のVリブドベルト1には、前記突子11byの表面に対して凹入された凹入箇所として前記間隙部11bxが設けられている。
【0037】
この円板状の突子11byの高さ(円板の厚み:図中「T」)、突子11byの幅(円板の直径:図中「d」)、ならびに、隣接する突子間の距離(円板端縁間の距離:図中「P8」)については、ベルト駆動時において、この間隙部11bxの少なくとも一部を、プーリーと接触しない非接触領域とすることができるものであれば特に限定されるものではない。
【0038】
例えば、この図8に例示する突子11byについては、リブの幅ならびに高さが数mm程度の一般的なVリブドベルトにおいては、通常、高さ(T)100〜500μm、幅(d)100〜700μm、突子間の距離(P8)100〜200μmとすることができる。
中でも、排水性および摩擦による耐摩耗性の点から、突子11byの高さTは、200〜400μmであることが好適である。
また、突子11byの幅dは、300〜600μmであることが好適である。
また、突子間の距離P8は、100〜150μmで形成されていることが好適である。
さらには、リブ形成面2の表面積の内、突子11byが占める面積割合が、30〜70%とされることが好ましい。
【0039】
なお、ここでは円板状の突子を例に説明したが、本発明においては、四角板状、三角板状、不定形状などの種々の形状の突子を採用することも可能である。
【0040】
さらに、図9を参照しつつ、凹入箇所についての第九の例を説明する。
この図9のVリブドベルト1には、リブ底部11cに開口された孔が備えられている。
しかも、この孔は、リブ形成面2から背面3にかけてVリブドベルト1をベルト厚み方向に貫通する貫通孔12gである。
【0041】
すなわち、これまでに例示したVリブドベルトにおいては、リブ側面部11bにある程度の領域にわたって延在する溝を凹入箇所として備えていたが、この図9のVリブドベルト1においては、凹入箇所として、リブ底部11cに開口された貫通孔12gが備えられている。
【0042】
通常、Vリブドベルトの駆動時において被水した場合には、水は、リブ11の表面を伝ってリブ間の谷間部分に集まり易い。
したがって、このリブ底部11cに水を流入させるための凹入箇所が設けられている図9に例示のVリブドベルト1は、より効率良く凹入箇所に水を流入させることができ、被水時に、リブ形成面2とプーリーとの接触界面に水が介在されることを抑制させ得る。
しかも、図9に例示のVリブドベルト1は、この凹入箇所として貫通孔12gを有していることから、流入させた水を背面3側に排出させることができリブ形成面2とプーリーとの接触界面に水が介在されることをいっそう抑制させ得る。
【0043】
この貫通孔12gの形状、大きさ、ならびに、数などについては、特に限定される限定されるものではないが、大きな径の貫通孔を形成したり、一つのVリブドベルトに多数の貫通孔を形成したりするとVリブドベルトの強度を低下させるおそれがある。
一方で、貫通孔の径を小さくしたり、数を少なくしたりすると背面3からの水の排出が十分実施されないおそれがある。
すなわち、Vリブドベルトの強度低下を抑制しつつ、優れた排水性能を発揮させ得る点において、前記貫通孔12gの大きさは、直径0.1〜2.0mmであることが好ましい。
また、数については、リブ底部11cに沿って形成した際に、貫通孔の間隔(ピッチP9)が、数mm〜数十cmとなるよう選択されることが好ましい。
また、貫通孔12gの形状については、ベルト駆動時において貫通孔12gに局所的な応力が発生することを抑制させ得るように、断面円形であることが好ましい。
【0044】
この貫通孔12gについても、溝と同様にレーザー加工機などを用いて形成することができる。
【0045】
なお、本発明においては、凹入箇所をこの図1〜9に例示の溝や孔に限定するものではなく、例えば、曲線的に形成された溝や、無配向な状態の溝なども凹入箇所として採用し得る。
また、貫通孔についても、Vリブドベルトを斜めに貫通するものや、あるいは、途中に曲折箇所が設けられているものなども凹入箇所として採用することができる。
さらには、一つのVリブドベルトに、上記のような溝や孔を組み合わせて採用することも可能である。
【0046】
本実施形態のVリブドベルトにおける圧縮ゴム層10、接着ゴム層20、ならびに、背面層30、一般的なVリブドベルトの形成に用いられる材料を用いて形成することができる。
また、心線40についても、一般的なVリブドベルトに用いられる心線を用いることができる。
また、本実施形態においては、ベルト周回方向に延在するゴム層が積層されて形成されている場合を例にVリブドベルトを説明したが、本発明においては、Vリブドベルトをゴム製のものに限定するものではなく、樹脂製のVリブドベルトも本発明の意図する範囲である。
【0047】
さらに、従来のVリブドベルトに採用されている種々の改良点などについても、本発明のVリブドベルトに、その効果を損ねない範囲において採用可能である。
【実施例】
【0048】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1〜3、比較例1)
各実施例、比較例とも同一のゴム組成物を用いて、ベルト幅10mm、リブ数3本、リブ高さ2.5mmのVリブドベルトを作製した。
このVリブドベルトのリブ形成面全面にレーザー加工機を用いて、図10(実施例1)、図11(実施例2)、図12(実施例3)に示すパターンで溝を形成した。
なお、図10〜13は、顕微鏡を用いて表面観察を行った顕微鏡写真である。
実施例1は、幅約80μmの破線状(溝が形成されている区間:約1100μm、溝が形成されていない区間:約900μm)の溝を250μmピッチで形成したものであり、実施例2は、幅約150μmの直線状の溝を250μmピッチで形成したものである。
さらに、実施例3は、幅約80μmの直線状の溝を縦横それぞれ250μmピッチで格子状に形成したものである。
なお、比較例1として、溝等を形成しないVリブドベルトを用いて後述の評価を実施した。
【0050】
(評価)
(摩擦係数の測定方法)
摩擦係数の測定にあたっては、図13に示すような装置を用いて実施した。
すなわち、各Vリブドベルトを所定長さに切断して測定試料(図中“B”)とし、その一端部を、垂直な壁面に取付けられしかも水平方向への応力を測定し得るように壁面に固定されて取付けられたロードセル(図中“LC”)に接続し、他端部に1.75kgの荷重(図中“SW”)を取り付け、前記ロードセルの応力測定方向前方に配置した直径60mmのプーリー(図中“PR”)に測定試料の略中間部分を支持させた。
このとき、プーリーに対する測定試料の接触区間の角度(図中“θ1”)が90度となるようにしてプーリーで測定試料の略中間部分を支持させた。
すなわち、プーリーの上端部とロードセル固定位置との区間において測定試料が水平方向に指示され、プーリーの側端部から荷重までの区間において測定試料が垂直下方に吊り下げられた状態となるようプーリー位置をセットした。
この状態で、プーリーをその上部側が前記ロードセルから遠ざかる方向(図中“矢印”方向)に20rpmの速度で回転させ、該回転中に前記ロードセルにかかる応力(Tt)を測定した。
そして、このロードセルにかかる応力(Tt)と試料の垂直区間にかかる応力(Ts=1.75kgf)とにより下記式を用いて摩擦係数(μ’)を測定した。
摩擦係数(μ’)=ln(Tt/Ts)÷0.5π
【0051】
(被水時摩擦係数変化)
上記に示した摩擦係数の測定方法により、ベルト乾燥時の摩擦係数(μ0’)と、プーリーに2000cm3/分の注水を実施した際の摩擦係数(μ1’)とを測定し、下記式を用いて摩擦係数変化量(Δμ’)を測定した。
摩擦係数変化量(Δμ’)=μ0’−μ1
測定結果を表1に示す。
【0052】
また、実施例1〜3、比較例1のVリブドベルトを同一状態に配置されたプーリーに巻き掛け、注水後(乾燥時)に発する異音の大きさ(騒音レベル)を騒音計を用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
この表1からも、本発明によれば、被水時に摩擦係数が変化することを抑制させることができ、スリップの発生ならびに、スリップにともなう異音の発生を抑制させ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】一実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図2】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図3】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図4】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図5】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図6】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図7】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図8】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図9】他実施形態のVリブドベルトを示す斜視図。
【図10】実施例1のVリブドベルトの溝の状態を示す外観写真。
【図11】実施例2のVリブドベルトの溝の状態を示す外観写真。
【図12】実施例3のVリブドベルトの溝の状態を示す外観写真。
【図13】摩擦係数測定方法を示す概略説明図。
【符号の説明】
【0056】
1:Vリブドベルト、2:リブ形成面、3:背面、10:圧縮ゴム層、11:リブ、11a:リブ頂部、11b:リブ側面部、11bx:間隙部、11by:突子、11c:リブ底部、12a〜12f:溝、12g:貫通孔、20:接着ゴム層、30:背面層、40:心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に延在するリブが複数条形成されているリブ形成面を有し、該リブ形成面をプーリーに当接させて用いられるVリブドベルトであって、
ベルト駆動時にプーリーと当接しない非接触領域を形成して、被水時に前記非接触領域に水を流入させ得るように、前記リブ形成面には凹入箇所が設けられていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項2】
前記凹入箇所がリブ側面部に形成された複数条の溝である請求項1記載のVリブドベルト。
【請求項3】
前記複数条の溝には、流入させた水をベルト側方から排出させ得るように、ベルトを横断する方向に延在されている溝が含まれている請求項2記載のVリブドベルト。
【請求項4】
前記複数条の溝が、互いに交差する状態で設けられている請求項2または3に記載のVリブドベルト。
【請求項5】
前記凹入箇所が、リブ底部に開口された孔である請求項1記載のVリブドベルト。
【請求項6】
前記孔が、ベルト厚み方向に貫通する貫通孔である請求項5記載のVリブドベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−30717(P2009−30717A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194982(P2007−194982)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)