説明

Vリブドベルト

【課題】トルクロスを低減することができるVリブドベルトを提供することを目的とする。
【解決手段】圧縮層4を有するVリブドベルト1に関する。圧縮層4を形成するゴム組成物が、エチレン−α−オレフィンエラストマーを主成分とするものであり、且つ圧縮層4の、初期歪0.1%、周波数10Hz、歪0.5%の条件で動的粘弾性を測定したときの、40℃におけるtanδが0.150未満であることを特徴とする。このように圧縮層4のtanδが0.150未満であることによって、Vリブドベルト1によるトルクロスを0.24N・m以下に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝動用に用いられるVリブドベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Vリブドベルトを用いたベルト伝動システム、例えば自動車エンジン補機駆動システムなどにおいて、駆動軸と従動軸の間でのVリブドベルトのトルクロスを抑制したいと要請がある。例えば上記の自動車エンジン補機駆動システムでは、0.30N・m程度以下にトルクロスを抑制することが望まれている。
【0003】
一方、EPDM等のエチレン−α−オレフィンエラストマーは、優れた耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有していると同時に比較的安価なゴムであり、しかも脱ハロゲンという環境上の要求も満たしている。そこで、このエチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム成分とするゴム組成物で圧縮層を形成するようにしたVリブドベルトが提供されている(特許文献1参照)。
【0004】
またVリブドベルトの騒音を低減するために、カーボンブラックをエチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部に対して50質量部以上含むゴム組成物で圧縮層を形成することが提案されている(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−262147号公報
【特許文献2】特開2006−316812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなトルクロスの抑制という要請を満たすためには、トルクロスはVリブドベルトの内部損失(発熱)に起因するために、内部損失を低減したVリブドベルト、すなわち損失正接tanδが小さいゴム組成物からなるVリブドベルトを作製する必要がある。
【0007】
しかしエチレン−α−オレフィンエラストマーとカーボンブラックを含有するゴム組成物において、上記の特許文献2のようにカーボンブラックを多量に配合すると、このゴム組成物で作製した圧縮層のtanδが増大し、トルクロスを低減することが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、トルクロスを低減することができるVリブドベルトを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、圧縮層を有するVリブドベルトにおいて、圧縮層を形成するゴム組成物が、エチレン−α−オレフィンエラストマーを主成分とするものであり、且つ圧縮層の、初期歪0.1%、周波数10Hz、歪0.5%の条件で動的粘弾性を測定したときの、40℃におけるtanδが0.150未満であることを特徴とするものである。
【0010】
エチレン−α−オレフィンエラストマーを主成分とするゴム組成物で形成した圧縮層のtanδが、このように0.150未満であることによって、内部損失を抑制することができ、Vリブドベルトによるトルクロスを低減することができるものである。
【0011】
また本発明において、上記ゴム組成物は、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率が45質量%以上、カーボンブラックの含有比率が35質量%未満であることを特徴とするものである。
【0012】
このようにエチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率を高く、カーボンブラックの含有比率を低くしたゴム組成物を用いることによって、上記のようなtanδが0.150未満である圧縮層を容易に形成することができるものである。
【0013】
また本発明において、直径55mmの駆動プーリと、直径55mmの従動プーリに、Vリブドベルトを張力525〜825Nで懸架し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを回転数2000〜4000rpmで回転させたときの、トルクロス(駆動トルクと従動トルクの差)が0.24N・m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記のようにエチレン−α−オレフィンエラストマーを主成分とするゴム組成物で形成した圧縮層のtanδが0.150未満であることによって、内部損失を抑制することができ、Vリブドベルトによるトルクロスを0.24N・m以下に低減することができるものである。
【0015】
またエチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率を45質量%以上、カーボンブラックの含有比率を35質量%未満に設定したゴム組成物を用いることによって、圧縮層のtanδを0.150未満に容易に調整することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Vリブドベルトの一例を示す、一部破断した斜視図である。
【図2】tanδとトルクロスの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1はVリブドベルト1の一例を示すものである。図1において2は心線であり、ベルト長手方向全長に亘って接着層3内に埋設してある。接着層3の内側には圧縮層4が積層してあり、圧縮層4には複数本の平行なリブ部5が形成してある。リブ部5は断面略V字形(正確には台形)であって、ベルト長手方向全長に亘って設けてある。接着層3の外側には伸張層6が積層してある。
【0019】
上記の圧縮層4を形成するゴム組成物は、エチレン−α−オレフィンエラストマーをゴム主成分として含有するものであり、さらに補強剤としてカーボンブラックを含有するものである。
【0020】
本発明においてエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、エチレン−プロピレンゴム(EPR)やエチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)などを用いることができるものであり、これらを単独で、あるいはこれらの混合物を使用することができる。EPDMのジエンモノマーの例としては、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどを挙げることができる。耐熱性や耐摩耗性を考慮すれば、エチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの共重合体であるEPDMが好ましく、中でもエチレン含量が51〜68質量%であって、且つ二重結合が0.2〜7.5質量%のものが好ましい。このEPDMとしてはヨウ素価が3〜40のものを用いるのが好ましく、ヨウ素価が3未満であると、ゴム組成物の加硫が十分でなく、摩耗や粘着の問題が発生するおそれがあり、またヨウ素価が40を超えると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなり、耐熱性が悪くなるおそれがある。
【0021】
圧縮層4を形成するゴム組成物にあって、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率は45質量%以上に設定されるものであり、カーボンブラックの含有比率は35質量%未満に設定されるものである。ゴム組成物を硬化させて形成した圧縮層4の動的粘弾性の損失正接tanδは、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率を高くし、カーボンブラックの含有比率を低くすることによって、低下させることができるものである。そして、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率が45質量%以上であり、カーボンブラックの含有比率が35質量%未満であると、このゴム組成物を用いて形成した圧縮層4の動的粘度を、初期歪0.1%、周波数10Hz、歪0.5%の条件で測定したとき、40℃におけるtanδを0.150未満に調整することができるものである。エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率が45質量%未満の場合や、カーボンブラックの含有比率が35質量%以上の場合は、tanδは0.150以上の大きな値になるものである。
【0022】
ゴム組成物における、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率の上限は特に設定されるものではないが、実用上、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率は55質量%以下であることが望ましい。またカーボンブラックの含有比率の下限は特に設定されるものではないが、カーボンブラックの含有比率が20質量%未満であると、ベルトの耐久性が低下するので、カーボンブラックの含有比率は20質量%以上であることが望ましい。このようにカーボンブラックの含有比率を小さくすると耐久性が低下する傾向があるので、グラファイトを併用して、耐久性の低下を抑制しつつカーボンブラックの含有比率を小さくするようにするのが好ましい。
【0023】
圧縮層4を形成するゴム組成物には、さらに必要に応じて、ゴムに通常配合される、有機過酸化物等の架橋剤、N,N´−m−フェニレンジマレイミド、キノンジオキシム類、硫黄等の共架橋剤、加硫促進剤、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤、短繊維等を配合することができる。短繊維としては、綿、ナイロン(登録商標)、p−アラミド、m−アラミドなどを用いることができる。そしてこれらの各種配合物をバンバリーミキサー、ニーダー等の通常用いられる手段を用いて混練りすることによってシート状に成形することができる。
【0024】
接着層3や伸張層6を形成するゴム組成物も、上記と同様な組成で調製することができるが、接着層3や伸張層6を形成するゴム組成物は短繊維を含有しない組成であることが好ましい。
【0025】
また心線2としては、ポリアリレート繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などで形成された高強度・低伸度のコードを用いることができる。心線2にはゴムとの接着性を向上させる目的で接着処理を施すのが好ましい。このような接着処理としては、心線2をレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス液(RFL液)などの処理液に浸漬して加熱乾燥することによって行なうことができる。
【0026】
次に、上記のようなVリブドベルト1の製造方法の一例について説明する。まず、円筒状の成形ドラムの外周に、伸張層6を形成するゴム組成物のシートを巻き、その上に接着層3を形成するゴム組成物のシートを巻き付ける。次に、この上に心線2をスピニングして螺旋状に巻きつけ、さらにこの上に圧縮層4を形成するゴム組成物のシートを巻き付けることによって、未加硫スリーブを作製する。次に成形ドラムに巻きつけたこの未加硫スリーブを加硫ドラム入れて加硫することによって、円筒状の加硫スリーブを得る。この後に、この加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールの間に懸架して走行回転させながら、加硫スリーブの外周の圧縮層4に切削ホイールを接触させてV溝を切削・研磨加工することによって、リブ部5を形成する。リブ部5をこのように切削・研磨する際に、リブ部5の表面に短繊維の一部が突出することになる。そしてこの加硫スリーブを輪切りするように所定幅寸法で切断し、さらに内周と外周を裏返すことによって、図1のようなVリブドベルト1として仕上げることができるものである。
【0027】
このように作製されるVリブドベルト1にあって、駆動軸と従動軸にVリブドベルト1を懸架して走行駆動させる際に、内側の圧縮層4に圧縮力が作用するが、上記のように、圧縮層4の動的粘弾性の損失正接tanδは0.150未満に設定されているので、内部損失が小さい。このため、駆動軸から従動軸にVリブドベルト1で動力を伝動するにあたって、Vリブドベルト1の内部損失に起因するトルクロスを低減することができるものである。圧縮層4のtanδが0.150を超えると、内部損失を充分に抑制することができず、トルクロスの低減の効果が不十分になる。尚、Vリブドベルト1において上記の伸張層6は帆布で形成されることが多いが、上記の実施の形態のように伸張層6をゴム組成物によるゴム層として形成することによって、トルクロスをより低減することができるものである。
【0028】
そして本発明において、上記のように作製したVリブドベルト1を、直径55mmの駆動プーリと、直径55mmの従動プーリに、張力525〜825Nで懸架し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを回転数2000〜4000rpmで回転させたときの、トルクロス(駆動トルクと従動トルクの差)が、0.24N・m以下に低減していることが好ましい。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0030】
(実施例1)
表1の配合のゴム組成物から、JIS K6394に準じて、実施例1〜5、比較例1〜4の試験片を作製した。そして粘弾性測定装置(上島製作所製「VR−7121」)のチャックに、この試験片をチャック間距離15mmでセットし、初期歪0.1%を与え、周波数10Hz、歪0.5%で−45℃から140℃において動的粘弾性を測定し、40℃におけるtanδを求めた。
【0031】
また、JIS K6264に準じてDIN磨耗量を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1にみられるように、EPDMポリマーの含有比率が45質量%以上、カーボンブラックの含有比率が35質量%未満である各実施例のものは、tanδが0.150未満と小さいものであった。これに対して、EPDMポリマーの含有比率が45質量%未満である比較例1及び2、カーボンブラックの含有比率が35質量%以上の比較例3は、いずれもtanδが0.150以上と大きいものであった。
【0034】
尚、実施例6は、tanδが0.150未満と小さいものの、カーボンブラックの含有比率が20質量%を下回って少ないため、磨耗量が多くなっており、耐久性に問題を有するものであった。これに対して、実施例4ではグラファイトを併用しているために、同様にカーボンブラックの含有比率を少なくしても、磨耗量は少ないものであり、耐久性を確保することができるものであった。
【0035】
一方、表1の実施例1〜5及び比較例1〜3の配合のゴム組成物で圧縮層4を、表1の配合からナイロン短繊維と綿短繊維を除いた配合のゴム組成物で接着層3と伸張層6を作製し、さらにポリエステル繊維のロープを心線2として用いて、図1のような構造の、実施例1〜5、比較例1〜3のVリブドベルト1を作製した。このVリブドベルト1において、リブ部5の本数は6本、周長は1100mmであった。
【0036】
そしてこのように作製した実施例1〜5、比較例1〜3のVリブドベルト1を、直径55mmの駆動プーリと、直径55mmの従動プーリに、張力525〜825Nで懸架し、従動プーリを無荷重で、駆動プーリを回転数2000〜4000rpmで回転させたときの、駆動トルクと従動トルクの差(トルクロス)を測定した。結果を表2に示し、またtanδとトルクロスの関係を図2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2及び図2にみられるように、tanδが0.150未満と小さい各実施例のものは、トルクロスも0.24N・m以下と小さいが、tanδが0.150以上と大きい各比較例のものは、トルクロスも0.24N・mを超えて大きいものであり、tanδとトルクロスの間に相関関係が認められるものであった。
【符号の説明】
【0039】
1 Vリブドベルト
2 心線
3 接着層
4 圧縮層
5 リブ部
6 伸張層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮層を有するVリブドベルトにおいて、圧縮層を形成するゴム組成物が、エチレン−α−オレフィンエラストマーを主成分とするものであり、且つ圧縮層の、初期歪0.1%、周波数10Hz、歪0.5%の条件で動的粘弾性を測定したときの、40℃におけるtanδが0.150未満であることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項2】
上記ゴム組成物は、エチレン−α−オレフィンエラストマーの含有比率が45質量%以上、カーボンブラックの含有比率が35質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のVリブドベルト。
【請求項3】
直径55mmの駆動プーリと、直径55mmの従動プーリに、張力525〜825Nで懸架し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを回転数2000〜4000rpmで回転させたときの、トルクロス(駆動トルクと従動トルクの差)が0.24N・m以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のVリブドベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−276127(P2010−276127A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130096(P2009−130096)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)