説明

X線画像の処理装置

【課題】 輪郭のぼけや動きの速い部分での画像のぼけを避けながら、X線画像のノイズを低減させる。
【解決手段】 入力されたX線画像データのN×Nの画素分を一時的に格納するラインメモリ21〜2Nと、着目画素の各ベクトルでの画素値の分散値σiと平均値Miとを算出する回路30〜33と、最もσiが小さいベクトル番号i*を求めるコンパレータ34と、その番号i*のベクトルの平均値Mi*を選択するセレクタ35とからなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、医療などにおけるX線画像データを処理する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】X線TVシステムを用いて被写体(患者の身体など)のX線透過像を電気的な画像信号として撮像し、これをモニター装置に表示して観察することが広く行なわれている。さらに、この画像信号をデジタル画像データに変換して種々のデジタル画像処理を行なうことも普及している。X線画像の中でもとくにX線透視像は、低線量で撮影するため、S/N比が悪く、量子ノイズが多いので、ノイズを低減し、画像を見易くする処理を行うことが不可欠である。
【0003】従来、ノイズ低減のための画像処理としては、画像を時間方向にスムージングするリカーシブフィルタや、テンプレート処理によるデジタル空間フィルタなどが主に用いられてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の画像処理では、ノイズ低減効果を大きくすると別の問題が生じ、そのため十分なノイズ低減効果を得ることができない。すなわち、リカーシブフィルタにより時間方向にスムージングする場合には、ノイズ低減効果を大きくすると、速い動きに追従できず、動きの速い部分で画像がぼける。また、空間フィルタでは、ノイズ低減効果を大きくすると画像の輪郭がぼけてシャープさが失われる。
【0005】この発明は、上記に鑑み、輪郭がぼけたり動きの速い部分で画像がぼけたりすることなく、ノイズを低減させることができる、X線画像の処理装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、この発明によるX線画像の処理装置においては、入力されたX線画像データにおける着目画素の各方向での画素値のばらつき度を算出する手段と、最もばらつき度が小さい方向で画素値をスムージングする手段と、そのスムージングした値をその画素の値とする処理をすべての画素について行なってX線画像データとして出力する手段とが備えられることが特徴となっている。
【0007】たとえば造影剤が充満した血管像を考えてみると、その血管像の輪郭付近では、輪郭線に直角な方向にスムージングしたのでは輪郭のシャープさが失われてしまう。この場合は、輪郭線に沿った方向にスムージングすれば、輪郭線の中で平均化が行なわれ、ノイズは低減するが、輪郭線がぼけるということはなくなる。着目画素の各方向での画素値のばらつき度を求め、そのばらつき度が最も小さい方向を見出すことは、その輪郭線を検出することに相当する。また、そのばらつき度が最も小さい方向で画素値をスムージングすることは輪郭線に沿ってスムージングすることである。そのため、画像の輪郭をぼけさせずシャープさを失わないようにしてノイズを少なくする処理を行なうことが可能となる。
【0008】
【発明の実施の形態】つぎに、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1において、X線管11から発射されたX線が被写体10を透過してイメージインテンシファイア12に入射し、X線透過像が光学像に変換される。イメージインテンシファイア12には光学系13を介してTVカメラ14が結合されており、イメージインテンシファイア12の出力光学像の画像信号が得られる。この画像信号はA/D変換器15によりデジタル画像データに変換された後、デジタル画像処理装置16に送られてノイズ低減のための処理を受け、その後D/A変換器17でアナログの画像信号に戻され、TVモニター装置18に送られる。
【0009】デジタル画像処理装置16は、n本のラインメモリ21〜2Nと、各方向での画素値のばらつき度を示す分散値σと画素値の平均値Mを算出する回路30〜33が備えられている。ここでは、図2に示すように着目画素Ixyに対して、それを中心とするN×Nのテンプレートを設定してn本のラインメモリ21〜2Nにそのデータを一時的に格納する。このN×Nのマトリクスデータの中で45゜間隔の方向に4つのベクトルV0、V1,V2,V3を設定する。回路30〜33は、この4つのベクトルV0、V1,V2,V3に沿ったN個の画素値の分散値σ0、σ1、σ2、σ3とN個の画素値の平均値M0、M1,M2,M3をそれぞれ算出する。
【0010】そして4つの分散値σ0、σ1、σ2、σ3はコンパレータ34において比較され、最も小さい分散値を示すベクトル番号i*が求められる。このベクトル番号i*はセレクタ35に送られ、そのベクトル番号i*のベクトルにおける画素値の平均値Mi*が選択される。このデータが着目画素Ixyにおける処理後の画像データPxyとして出力される。このような処理が、全画素について順次リアルタイムで繰り返し行なわれる。すなわち、着目画素を中心とするN×Nのマトリクスデータが揃うごとにこのような処理がリアルタイムで行なわれる。これにより処理後の画像データがリアルタイムで得られ、D/A変換器17を経てTVモニター装置18で表示されることになる。
【0011】ここで、上記の通り処理後の画像データPxyはつぎの式で表される。
Pxy=Mi*MiはベクトルVi上のN個の画素の平均値であり、つぎの数式1で表される。
【数1】


また、ベクトルVi上のN個の画素の分散値σiは式で表せばつぎの数式2のようになる。
【数2】


分散値σiの最も小さいベクトル番号i*はつぎの数式3で表される。
【数3】


【0012】図3で示すような造影剤が充満した血管像41を上記のように処理することを考えてみると、A部ではV2方向の平均値M2が採用され、B部ではV1方向の平均値M1が選択され、C部ではV3方向の平均値M3が採用され、D部ではV0方向の平均値M0が採用されることになる。つまり、血管像41の輪郭付近では、輪郭線に沿った方向にのみスムージングがなされるので、輪郭線を横切る方向にスムージングが行われて輪郭がぼけるということを避けることができ、輪郭のシャープさを損なうことなくノイズを減らすことができる。このように画像の辺縁に最もマッチしたベクトルを選択してスムージング処理を行うため、平均する画素数Nを大きくしてノイズ低減効果を大きくしても、辺縁部のぼけを抑えることができる。
【0013】なお、上記ではベクトル(方向)を4つとしたが、さらに増加させたり、あるいは図4に示すようにベクトルではなく、各方向に分割したエリアR0、R1、…、R7を考えて、この各エリア内での画素の分散値σと平均値Mとを求めて、最も分散値σが小さいエリアの平均値Mを選択するよう構成することもできる。また、画素値のばらつき度を表すものとして分散値σを用いたが、画素値のばらつき度を表すものであれば、他の算術値を採用することもできる。画素値の平均値Mについても同様で、実質的にスムージング処理するものであればよい。さらにラインメモリはN×Nのマトリクスのデータを一時的に格納するために用いたものであり、他のメモリを用いることができることは勿論である。
【0014】
【発明の効果】以上説明したように、この発明のX線画像の処理装置によれば、着目画素が画像の辺縁部(画像データつまり輝度が大きく変化する部分)の近傍にあるときその辺縁に最も近い方向のベクトルを検出し、このベクトル上の画素間でスムージングを行なうため、画像の輪郭をぼかすことなく大きなノイズ低減効果を得ることができる。また、時間方向にスムージングすることがないので、動きのある部分で画像がぼけることもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態を示すブロック図。
【図2】テンプレートおよびベクトルを示す模式図。
【図3】実際のX線画像での処理を説明するための図。
【図4】他の例のテンプレートを示す模式図。
【符号の説明】
10 被写体
11 X線管
12 イメージインテンシファイア
13 光学系
14 TVカメラ
15 A/D変換器
16 デジタル画像処理装置
17 D/A変換器
18 TVモニター装置
21〜2N ラインメモリ
30 M0、σ0算出回路
31 M1、σ1算出回路
32 M2、σ2算出回路
33 M3、σ3算出回路
34 コンパレータ
35 セレクタ
41 血管像

【特許請求の範囲】
【請求項1】 入力されたX線画像データにおける着目画素の各方向での画素値のばらつき度を算出する手段と、最もばらつき度が小さい方向で画素値をスムージングする手段と、そのスムージングした値をその画素の値とする処理をすべての画素について行なってX線画像データとして出力する手段とを備えることを特徴とするX線画像の処理装置。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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