miR155トランスジェニックマウスにおけるプレB細胞増殖及びリンパ芽球性白血病/高悪性度リンパ腫
マウスのようなトランスジェニック非ヒト動物は、該動物のB細胞における発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を有している核酸構築物を含むゲノムを有し、該転写調節配列はmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されている。リンパ増殖性状態を治療すること及び予防することにおける剤の治療効力を試験する方法は、トランスジェニック非ヒト動物に対する該剤の効果(一つ又は複数)を評価することを含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府援助
本発明は、全体が又は部分的に、米国政府からの基金により支援された。政府は本発明に特定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
急性白血病は、骨髄及び血液中の芽球細胞と称される未成熟無機能性細胞の蓄積を生じる、骨髄及び血液の急速に進行する悪性疾患である。骨髄中での芽球細胞の蓄積は、正常血液細胞の発生を阻止する。その結果、赤血球、白血球及び血小板が十分な数で産生されない。該疾患が骨髄リンパ球前駆細胞で起こる場合、急性リンパ芽球性白血病(ALL)を生じ、該疾患が骨髄系前駆細胞で起こる場合、急性骨髄性白血病(AML)を生じる。
【0003】
ALLは、骨髄リンパ球の悪性形質転換により開始される急速進行性癌である。ALLは、全年齢群で毎年3、000の新規ケースを有する、小児白血病の最も一般的なタイプである。形質転換した(悪性になった)細胞は増殖し、そして白血病性リンパ芽球として骨髄に蓄積する。リンパ芽球は骨髄での正常血液細胞形成を阻止し、赤血球、白血球及び血小板の不十分な産生を生じる。
【0004】
侵攻性リンパ腫としても知られている高悪性度リンパ腫には、もし治療されないならば比較的急速に進行する、リンパ腫のいくつかのサブタイプが含まれる。これらのサブタイプには、例えば、AIDS関連リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型リンパ腫、免疫芽球性リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫及び小型非切れ込み核細胞性リンパ腫が含まれる。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と比較し、高悪性度リンパ腫はより侵襲的に挙動し、より強力な化学療法を必要とし、及び小児においてより頻繁に発生する。急速に分裂する細胞はより抗癌剤に感受性であるので、及び若年の患者は通常他の健康問題がないので、これらのリンパ腫のいくつかは、療法に対して劇的な応答を示す。急性リンパ芽球性白血病及び高悪性度リンパ腫は、小児において最も一般的な白血病及びリンパ腫である。これらの疾患は、大部分についてポリクローナルであり、悪性病変を誘発するにはわずかな遺伝子変化のみで十分であることを示唆している。
【0005】
マイクロRNA(miRNA)は、標的との相補性の程度に従って、標的とされたmRNAに結合することにより、及びそれらの翻訳を阻止することによるか又はそれらの分解を開始させることにより、転写レベル後に重要な調節的役割を果たす、大量の小さなRNAの新規クラスを意味する。1993年のカエノルハブディテキス・エレガンスでのそれらの発見以来(Lee, R. et al., Cell 75:843-854 (1993))、細胞増殖及び分化から脂質代謝の範囲に及ぶ、非常に多様な役割を有するタンパク質の大きなアレイの転写後調節に、これらの小さな分子を結びつける多数の報告がある(Nairz, K., et al., Dev. Biol. 291:314-324 (2006); Chen, J.F., et al, Nat. Genet. 33:228-233 (2006); Naguibneva, L, et al, Nat. Cell Biol. 8:278-284 (2006); Esau, C, et al, Cell Metab. 3:87-98 (2006);及び Gauthier, B.R., et al, Nat. Med. 12:36-18 (2006))。
【0006】
ヒト及びマウスにおける造血系のmiRNAプロファイリングは、miRNAが血球発生の過程で差次的に発現されることを示した(Chen, C.Z., et al., Science 303:83-86 (2004); Chen, C.Z., et al., Semin. Immunol. 77:155-165 (2005)及び Ramkissoon, S.H., et al., Leuk. Res. 30:643-647 (2006))。我々は、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)の68%の場合において、miR−15a及びmiR−16−1が除去又は下方制御されていること(Calin, G.A., et al., Proc. Natl Acad Sci. USA 99: 15524-15529 (2002)及び Calin, G.A., et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 101:11755-11760 (2004))、及びmiRNA遺伝子がしばしば脆弱部及び癌に関与するゲノム領域に位置していること(Calin, G.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:2999-3004 (2004))を示した。miR155及びBIC(その宿主遺伝子)転写体が、ヒトB細胞リンパ腫、特に、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Eis, P.S., et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 102:3627-3632 (2005))、ホジキンリンパ腫(Kluvier, J., et al., J. Pathol. 207:243-249 (2006))及び特定のタイプのバーキットリンパ腫(潜伏型IIIエプスタイン・バーウイルス陽性バーキットリンパ腫) (Kluvier, J., et al., Genes Chromosomes Cancer 45:147-153 (2006))で蓄積されていることが示されている。
【0007】
現在、B細胞悪性腫瘍(例えば、B細胞白血病、B細胞リンパ腫)のようなリンパ球増殖性障害の治療のための治療可能性を有する候補剤を、スクリーニングする又は同定するために使用することができる動物を作製する緊急の必要性がある。
【発明の開示】
【0008】
発明の要旨
本発明は、その発現がB細胞を標的とし(例えば、Ig重鎖Eμエンハンサーを使用して)、最初に前白血病性プレB細胞増殖を示し(脾臓及び骨髄で明白)、及び後でB細胞悪性腫瘍を発生させる、miR155導入遺伝子を運んでいるトランスジェニックマウスの発見に基づいている。miR155を過剰発現するトランスジェニックマウスは、ヒトリンパ球増殖性疾患に似ているリンパ球増殖性疾患を発生し、それ故、これらの疾患の開始及び/又は進行におけるmiR155を強く示唆している。Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスは、ヒトにおけるB細胞悪性腫瘍(例えば、急性リンパ芽球性白血病、高悪性度リンパ腫)のようなリンパ球増殖性疾患の異なった形態を治療するための新規治療アプローチを考案するために有用である。
【0009】
従って、一つの側面において、リンパ球増殖性障害のための新規動物モデルが本明細書において提供される。具体的には、一つの側面に従うと、B細胞悪性腫瘍(例えば、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病)、リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)及び新生物)のための動物モデルが提供される。
【0010】
一つの態様において、そのゲノムが、miR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物(例えば、マウス)が本明細書において提供される。特定の態様において、該miRl55遺伝子産物は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、該miRl55遺伝子産物は、配列番号1のヌクレオチド配列を含んでなる。さらに別の態様において、該miR155遺伝子産物は、配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる。
【0011】
一つの態様に従うと、該少なくとも一つの転写調節配列は、動物のB細胞中の発現を方向付けることができるいずれかの配列であり得る。一つの態様において、該転写調節配列は、VHプロモーター(例えば、マウス由来のVHプロモーター)を含んでなる。別の態様において、該転写調節配列は、Ig重鎖Eμエンハンサー(例えば、マウス由来のIg重鎖Eμエンハンサー)を含んでなる。関連する態様において、該核酸構築物は、βグロビン遺伝子(例えば、ヒト又は他の哺乳類種由来のβグロビン遺伝子)の3’UTR及びポリ(A)配列を含んでなる。
【0012】
そのゲノムが、配列番号1及び/又は配列番号2を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、VHプロモーター及びIg重鎖Eμエンハンサーを含んでなる核酸構築物を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物も本明細書において提供される。特定の態様において、該トランスジェニック非ヒト動物のゲノムは、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、VHプロモーター及びIg重鎖Eμエンハンサーを含んでなる核酸構築物を含んでなる。
【0013】
特定の態様において、該トランスジェニック非ヒト動物は、適した対照動物におけるB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の集団と比較して、拡大したこの集団を、脾臓、骨髄又は脾臓及び骨髄の両方に有する。関連する態様において、該トランスジェニック非ヒト動物はリンパ球増殖性状態を示す。特定の態様において、該リンパ球増殖性状態はB細胞悪性腫瘍(例えば、B細胞白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病;B細胞リンパ腫、B細胞新生物)である。さらなる態様において、該B細胞悪性腫瘍はヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す。さらに別の態様において、該リンパ球増殖性状態は前白血病の状態(例えば、プレB細胞増殖)である。追加の態様において、該トランスジェニック非ヒト動物は腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症、又はそれらの組み合わせを示す。
【0014】
対象のリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおける剤の治療効力を試験する方法も本明細書において提供される。一つの態様に従うと、該方法は、そのゲノムが動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列(例えば、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー、それらの組み合わせ)を含んでなる核酸構築物を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物(例えば、マウス)に該剤を投与することを含んでなり、該転写調節配列は配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に、機能可能なように連結されている。特定の態様において、miR155遺伝子産物は配列番号1のヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、miR155遺伝子産物は配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる。
【0015】
トランスジェニック動物に該剤を投与した後、トランスジェニック動物におけるリンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を、該剤が投与されていない同一ゲノムタイプの対照動物のそれらと比較する。もし、対照動物と比較して、剤が投与されたトランスジェニック動物において一つ又はそれより多くのリンパ球増殖性状態の症状及び/又は徴候が抑制され、予防され及び/又は軽減されているならば、該剤はリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおいて治療効力を有すると考えられる。特定の態様において、該リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候は、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。
【0016】
別の態様において、剤が対象におけるリンパ球増殖性状態に影響するかどうかを決定する方法が本明細書において提供される(例えば、リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの徴候及び/又は症状の検出能及び/又は出現比の相違に影響すること)。該方法は、本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物に剤を投与すること、そしてトランスジェニック動物における一つ又はそれより多くのリンパ球増殖性状態の症状及び/又は徴候を、同一ゲノムタイプの対照動物のそれらと比較することを含んでなり、ここで該対照動物には該剤は投与されていない。該対照動物と比較し、該トランスジェニック動物における検出能及び/又は出現比の相違は、該剤がリンパ球増殖性状態の影響していることを示す。
【0017】
一つの態様において、リンパ球増殖性状態はB細胞悪性腫瘍である。特定の態様において、B細胞悪性腫瘍は、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)、B細胞新生物及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。B細胞悪性腫瘍は、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はその両方の特質を示すことができる。別の態様において、リンパ球増殖性状態は、プレB細胞増殖により特徴づけられる状態のような前白血病状態である。
【0018】
本発明のこれらならびに他の重要な側面は、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の特定の態様の説明が以下に示される。
本明細書に例示され及び記述されるように、マイクロRNA、miR155を過剰発現するトランスジェニックマウスは、ヒトの急性リンパ芽球性白血病及び高悪性度リンパ腫に似ているリンパ球増殖性疾患を発症する。本明細書で提供される結果は、miR155及び/又は他の遺伝子(単数又は複数)(例えば、癌で活性化される遺伝子(例えば、シグナル伝達遺伝子))の発癌性発現が、B細胞悪性腫瘍の開始及び/又は進行に関与していることを強く示している。従って、B細胞悪性腫瘍及び他のリンパ球増殖性状態の開始及び進行の根底にある機構を調べるために使用することができる動物モデルが本明細書で提供される。この動物モデルは、リンパ球増殖性障害を治療する又は予防することにおいて有用である新規治療剤の同定、開発及び試験にも使用することができる。
【0020】
一つの態様において、そのゲノムが、miR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、B細胞への発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物又は導入遺伝子を含んでなるトランスジェニック動物が本明細書において提供され、ここで該転写調節配列はmiRl55遺伝子産物をコードする核酸配列に機能可能なように連結されている。用語「導入遺伝子」とは、本明細書に記載されている方法によるようなヒト介入により、非ヒト動物の一つ又はそれより多くの細胞内に導入された核酸配列を指す。導入された遺伝子情報は、レシピエントが属する動物の種にとって外来性、特定の個々のレシピエントについてのみ外来性であるか、又は遺伝子情報はレシピエントによりすでにプロセシングされていることができる。後者の場合において、導入された遺伝子情報は、天然の内在性遺伝子と比較して差次的に発現されてもよい。
【0021】
該トランスジェニック非ヒト動物は、miR155遺伝子産物を発現することができる核酸構築物/導入遺伝子を含んでなるゲノムを有する。miR遺伝子産物(本明細書においてマイクロRNA、miR及びmiRNAとも称される)はタンパク質に翻訳されないので、用語「miR遺伝子産物」はタンパク質を含んでいない。プロセシングされていないmiR遺伝子転写体は「miR前駆体」とも称され、そして典型的には約70〜100ヌクレオチド長のRNA転写体を含んでなる。該miR前駆体は、活性19〜25ヌクレオチドRNA分子にプロセシングし得る(例えば、天然のプロセシング経路(例えば、無傷の細胞又は細胞溶解物を使用して)を介して、又は合成プロセシング経路(例えば、単離されたダイサー、アルゴノート又はRNAse III(例えば、大腸菌RNAse III)のような単離されたプロセシング酵素を使用して)により)。この活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、「プロセシングされた」miR遺伝子転写物又は「成熟」miRNAとも称される。本明細書においてマイクロRNAが名称で呼ばれる場合、該名称は、特に示されない限り、前駆体及び成熟形の両方に対応する。
【0022】
本明細書で使用される「miR155遺伝子産物」とは、限定されるわけではないが、マウス(ハツカネズミ)からのmiR155遺伝子のような、miR155遺伝子からのプロセシングされていない(例えば、前駆体)又はプロセシングされた(例えば、成熟)RNA転写体を指す。マウスからの前駆体miR155遺伝子産物はヌクレオチド配列:
5’-CUGUUAAUGCUAAUUGUGAUAGGGGUUUUGGCCUCUGACUGACUCCUACCUGUUAGCAUUAACAG-3’ (配列番号1)により表され、一方、プロセシングされた又は成熟マウスmiR155遺伝子産物はヌクレオチド配列:
5’- UUAAUGCUAAUUGUGAUAGGGG-3’(配列番号2;GenBank 寄託番号AJ459767)により表される。
【0023】
特定の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号1及び/又は配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。特定の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号1のヌクレオチド配列と100%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号2のヌクレオチド配列と100%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。
【0024】
二つの配列の実際の比較は、例えば、数学アルゴリズムを使用した公知の方法により達成し得る。こうした数学アルゴリズムの好ましい非制限例は、Karlin et al.(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、 90:5873-5877(1993)) 、に記載されている。こうしたアルゴリズムは、Schaffer et al( Nucleic Acids Res., 29:2994-3005 (2001)) 、に記載されているようにBLASTN及びBLASTXプログラム(バージョン2.2)に組み込まれている。BLAST 及びGapped BLAST プログラムを利用する時、それぞれのプログラム(例えば、BLASTN;National Center for Biotechnology Informationのインターネットサイトから利用可能)のデフォルトパラメータを使用し得る。一つの態様において、探索されたデータベースは非冗長(NR)データベースであり、及び配列比較のためのパラメータは:フィルターなし:期待値10;3のワードサイズ;のセットを使用することができ;マトリックスはBLOSUM62であり;及びギャップコストは11のイグジステンス(Existence)及び1のエクステンション(Extension )を有する。
【0025】
配列の比較のために利用された数学アルゴリズムの別の非制限例は、Myers and Miller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。こうしたアルゴリズムはGCG(Accelrys, San Diego, California)配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120ウエイト残基テ−ブル、12のギャップレングスペナルティー、及び4のギャップペナルティーを使用し得る。配列分析のための追加のアルゴリズムが当該技術分野で公知であり、Torellis and Robotti(Comput. Appl. Biosci., 10: 3-5, 1994)に記載されているADVANCE及びADAM;及びPearson and Lipman(Proc. Natl. Acad. Sci USA, 85: 2444-2448, 1988)に記載されているFASTAが含まれる。
【0026】
別の態様において、二つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、Blossom 63マトリックスか又はPAM250マトリックス、及び12、10、8、6、又は4のギャップウエイト及び2、3、又は4のレングスウエイトを使用する、GCG ソフトウェアパッケージ中のGAP プログラム(Accelrys, San Diego, California)を使用して達成し得る。さらに別の態様において、二つの核酸配列間のパーセント同一性は、50のギャップウエイト及び3のレングスウエイトを使用する、GCG ソフトウェアパッケージ中のGAP プログラム(Accelrys, San Diego, California)を使用して達成し得る。
【0027】
一つの側面に従うと、該トランスジェニック非ヒト動物は、核酸配列が該動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列に、機能可能なように連結されたmiR155遺伝子産物をコードする核酸構築物を含んでなるゲノムを有する。用語「転写調節配列」は、当該技術分野で認識されている意味に従って使用される。それは、その配列により、連結された遺伝子を特定の細胞中で上方か又は下方に調節させることができる、いずれのDNA配列も意味することを意図する。プロモーターの場合、該プロモーターは一般的にコード領域に隣接しているであろう。しかしながら、エンハンサーの場合、エンハンサー及びコード領域間に介在DNA配列が存在するように、エンハンサーはコード領域からいくらか離れて機能することができる。特定のタンパク質をコードするDNA配列(又は「コード領域」)を含むことができる遺伝子情報の発現を方向付けるため、目的のコード領域を少なくとも一つの転写調節配列に機能的様式で共役させることができる。該転写調節配列は、遺伝子の発現を、増加させる、減少させる、調節する、又は特定の組織に又は特定の発生の段階に指定するために使用することができる。該転写調節配列は、天然に存在する配列である必要はない。
【0028】
それ故、本明細書に記載された一つの態様において、miR155をコードする配列はB細胞への発現を方向付けている転写調節配列(単数又は複数)に機能可能なように連結されており、組換え構築物又は導入遺伝子を発生する。該転写調節配列は、B細胞での発現を方向付けることができるいずれの配列でもあり得る。適した転写調節配列の例には、限定されるわけではないが、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー及びそれらの組み合わせが含まれる。特定の態様において、該転写調節配列はマウス転写調節配列又はマウス由来の転写調節配列である。
【0029】
核酸分子は、もしそれが転写調節情報を含むヌクレオチド配列(単数又は複数)を含んでいるならば、マイクロRNAを「発現できる」又は「発現を方向付けることができる」といわれており、及びこうした配列(単数又は複数)はマイクロRNAをコードするヌクレオチド配列(単数又は複数)に「機能可能なように連結」されている。機能可能なリンケージ(linkage)とは、調節核酸配列(単数又は複数)及び発現されようとするヌクレオチド配列(単数又は複数)が、遺伝子発現を可能にするように連結されているリンケージである。
【0030】
一般に、遺伝子発現に必要とされる調節領域には、限定されるわけではないが、転写調節配列(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域)、ならびに、RNAに転写された時に遺伝子転写体の安定性に寄与するDNA配列(単数又は複数)が含まれる。
【0031】
用語「プロモーター」は、当該技術分野で認識されている意味に従って使用される。それは、RNAポリメラーゼを結合しそして該酵素を正しい転写開始部位へ方向付ける、通常、遺伝子のコード領域又はオペロンの上流のDNA領域を意味することを意図する。プロモーター領域は、もし該プロモーターがDNA配列の転写に影響できるならば、該DNA配列に機能可能なように連結されている。
【0032】
用語「エンハンサー」は、当該技術分野で認識されている意味に従って使用される。それは、研究されている遺伝子から数キロ塩基までに位置する(両方向で)場合、遺伝子からの転写を増加させることができる、真核生物及び特定の真核生物ウイルスに見いだされる配列を意味することを意図する。これらの配列は通常、問題とする遺伝子の5’側 (上流)にある場合、エンハンサーとして働く。しかしながら、いくつかのエンハンサーは、遺伝子の3’側 (下流)に位置している場合に活性である。一部の例では、エンハンサー要素は(既知の)プロモーターを有していない遺伝子からの転写を活性化し得る。
【0033】
該核酸構築物は、該構築物及び/又は該構築物から発現された遺伝子産物の発現及び/又は安定性を促進する配列も含むことができる。特定の態様において、該核酸構築物は、βグロビン遺伝子(例えば、マウスβグロビン遺伝子)の3’UTR及びポリ(A)配列を含んでなる。該構築物及び/又は該構築物から発現された遺伝子産物の発現及び/又は安定性を促進する他の配列が当該技術分野で公知であり、本明細書に包含される。
【0034】
本明細書で使用される用語「トランスジェニック非ヒト動物」は、ヒト以外の全ての脊椎動物を含む。一つの態様において、トランスジェニック非ヒト動物は哺乳動物である。こうしたトランスジェニック非ヒト動物には、例えば、トランスジェニックブタ、トランスジェニックラット、トランスジェニックウサギ、トランスジェニックウシ、トランスジェニックヤギ、及び他のトランスジェニック動物種、特に哺乳動物種が含まれる。加えて、げっ歯類ファミリーの他のメンバー、例えば、ラット及びモルモット、及びチンパンジーのような非ヒト霊長類を、本明細書に記載した態様を実施するために使用することができる。特定の態様において、トランスジェニック非ヒト動物はマウスである。本明細書に記載されたトランスジェニック非ヒト動物には、胚胎児期を含むすべての発生段階のそれぞれの動物が含まれる。
【0035】
「トランスジェニック動物」は、マイクロインジェクション又は組換え型ウイルスの感染によるような、細胞内レベルでの計画的遺伝子操作により、直接的又は間接的に受け取った遺伝子情報を運んでいる一つ又はそれより多くの細胞を含有する動物である。導入された核酸分子は、染色体内に組み入れられていてもよいし、又は染色体外で複製するDNAであってもよい。本明細書に記載された適したトランスジェニック動物には、限定されるわけではないが、遺伝子情報が生殖系列細胞内に導入され、それにより情報を子孫に伝達する能力を与える動物が含まれる。もしこうした子孫が、該情報のいくらか又は全てを実際に所有していれば、それらも又トランスジェニック動物である。
【0036】
トランスジェニック動物を作製するためには、例えば、マイクロインジェクション、細胞銃の使用、トランスフェクション、リポソーム融合、エレクトロポレーションなどのような、胚内に組換え構築物又は導入遺伝子を導入するために当該技術分野で公知であるいずれの方法も使用することができる。特定の態様において、トランスジェニック動物を作製するための方法は、受精卵の雄性前核内にDNA分子を注入することを含む、マイクロインジェクションである(例えば、米国特許番号4,870,009; 5,550,316; 4,736,866;及び4,873,191を参照されたい)。哺乳類及びそれらの生殖細胞内に組換え型の構築物/導入遺伝子を導入するための方法は、もともとマウスにおいて開発された。こうした方法は、引き続いて、家畜種を含むより大きい動物での使用のために採用された(例えば、PCT出願番号WO88/00239、WO90/05188及びWO92/11757を参照されたい)。接合体の細胞質内へのDNAのマイクロインジェクションは、トランスジェニック動物を作製するためにも使用することができる。
【0037】
導入された導入遺伝子の存在ならびにその発現を評価するための方法は、容易に利用可能であり及び当該技術分野では公知である。こうした方法には、限定されるわけではないが、外来性DNAを検出するためのDNA(サザン)ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びDNA、RNA又はタンパク質を検出するためのブロットが含まれる。
【0038】
本態様は、動物のいずれか一つの種に限定されるわけではなく、いずれかの適切な非ヒト脊椎動物種のために提供される。例えば、本明細書に記載した及び例示したトランスジェニックマウスを産生し得る。他の非制限例には、例えば、モルモット、ウサギ、ブタ、ヒツジなどのような、本明細書に記載された他の非ヒト哺乳動物が含まれる。マイクロインジェクションによりトランスジェニック動物を作製する成功率はマウスにおいて最も高く、DNAが注入され及びメスに移植された受精マウス卵のおよそ25%がトランスジェニックマウスに発育するであろう。より低い成功率がウサギ、ブタ、ヒツジ及びウシで達成されている。
【0039】
特定の態様において、本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物は、脾臓、骨髄又は脾臓及び骨髄の両方において、適した対照動物におけるB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の集団と比較して、拡大したこの集団を示す。本明細書で使用される、用語「B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の拡大した集団」又は「B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の増加」とは、対照動物の集団と比較して、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の数における、及び/又はリンパ球系細胞の他のサブタイプと比較したB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の集団の増加を示す、リンパ球系細胞の集団を指す。
【0040】
別の態様において、本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物は、リンパ球増殖性状態を示す。「リンパ球増殖性」とは、リンパ細網系の細胞の増殖に関する又は特徴付けられるものを指し;本用語は一般に、悪性新生物の群を指すために使用される。「リンパ細網」は、リンパ系及び細網内皮系の両方の細胞又は組織を指す。「リンパ球増殖性状態」(又は「リンパ球増殖性疾患 」又は「リンパ球増殖性障害」)とは、共通の多分化能、原始的リンパ細網細胞に関連する細胞から起こる悪性新生物の群の一つを指し、中でも、リンパ球性、組織球性及び単球性白血病、多発性骨髄腫、形質細胞腫、ホジキン病、全リンパ球性リンパ腫、及び単クローン性免疫グロブリン血症に付随する免疫分泌性障害が含まれる。本明細書で使用される「リンパ球増殖性障害」「リンパ球増殖性疾患 」又は「リンパ球増殖性状態」は、リンパ細網系の細胞の増殖、増倍及び/又は蓄積が正常又は対照動物と比較して変化しているが、影響を受けた動物は上記の新生物の一つの症状をまだ必ずしも示していない生理学的状態も指すことができる。本明細書で使用される「前白血病」状態は、白血病の明白な症状の発生に先立つこうしたリンパ球増殖性状態を指す。
【0041】
特定の態様において、リンパ球増殖性状態は、B細胞悪性腫瘍(例えば、B細胞白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病);B細胞リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)、B細胞新生物)である。さらなる態様において、B細胞悪性腫瘍はヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す。さらに別の態様において、リンパ球増殖性状態は前白血病の状態(例えば、プレB細胞増殖)である。追加の態様において、トランスジェニック非ヒト動物は腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症、又はそれらの組み合わせを示す。
【0042】
別の態様において、リンパ球増殖性障害(例えば、B細胞悪性腫瘍(例えば、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病)、リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)及び新生物))の研究のための、及び可能性がある発癌及び治療剤を試験するための実験モデルとしての、トランスジェニック非ヒト動物の使用についての方法が本明細書に記載されている。
【0043】
別の側面において、対象のリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおける剤の治療効力を試験する方法が本明細書に記載されている。一つの態様に従うと、該方法は、該剤を本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物(例えば、マウス)に投与することを含んでなる。一つの態様において、該トランスジェニック非ヒト動物は、動物のB細胞での発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列(例えば、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー、それらの組み合わせ)を含んでなる、核酸構築物を含んでなるゲノムを有し、該転写調節配列は、miR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されている。特定の態様において、該転写調節配列は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列に機能可能なように連結されている。別の態様において、miR155遺伝子産物は配列番号1のヌクレオチド配列を含んでなる。さらに別の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる。
【0044】
該剤を該トランスジェニック動物に投与した後、該トランスジェニック動物における一つ又はそれより多くのリンパ球増殖性状態症状及び/又は徴候を、該剤が投与されていない同一遺伝子型の対照動物と比較する。もし、該剤が、対照動物と比較して、それが投与された該トランスジェニック動物におけるリンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を抑制する、予防する及び/又は軽減するならば、該剤はリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおいて治療効力を有すると考えられる。特定の態様において、リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候は:B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。
【0045】
剤の治療効力を試験するために適しているリンパ球増殖性状態には、例えば、本明細書に記載されているものが含まれる。一つの態様において、リンパ球増殖性状態はB細胞悪性腫瘍である。特定の態様において、B細胞悪性腫瘍は、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)、B細胞新生物及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。B細胞悪性腫瘍は、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はその両方の特質を示す。別の態様において、リンパ球増殖性状態は、プレB細胞増殖により特徴づけられる状態のような前白血病状態である。
【0046】
本明細書に記載されるように、B細胞中でmiR155を発現するトランスジェニック非ヒト動物が本明細書において提供される。一つの態様において、そのゲノムが、B細胞への発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物又は導入遺伝子を含んでなるトランスジェニック動物が提供され、該転写調節配列は、miR155をコードする核酸配列に機能可能なように連結されている。特定の態様において、該導入遺伝子は、VHプロモーター及び/又はIg重鎖Eμエンハンサーの転写調節下に置かれている、miR155をコードするDNA配列を含んでなる。こうした動物において、miR155発現は未成熟及び成熟B細胞に向けられる。一つの態様において、該トランスジェニック動物は、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団を発生するマウスである。
【0047】
別の態様において、リンパ球増殖を示すトランスジェニック動物からの白血球細胞を、第二の動物(非トランスジェニック動物であってもよい)に移すことができ、それにより、第二の「レシピエント」動物においてリンパ球増殖性疾患の迅速な発症を誘発する。
【0048】
別の態様に従うと、リンパ球増殖性障害を予防する及び/又は治療するための潜在的治療モダリティ(therapeutic modality)又は剤を、本明細書に記載した一つまたはそれより多くの様相に従って作り出された動物において、こうした様式の抗リンパ球増殖性活性を測定することにより試験することができる。こうした活性は、一つの態様に従って作り出されたトランスジェニック動物により、及び/又は別の態様に従って作り出された「レシピエント」動物において示される一つまたはそれより多くのリンパ球増殖性疾患の症状又は徴候を抑制する、予防する及び/又は消失させる潜在的治療モダリティの能力を測定することにより評価することができる。
【0049】
タンパク質(例えば、抗体)、ペプチド、ペプチド模倣薬、有機小分子、核酸などのような多様な治療モダリティ又は剤を、リンパ球増殖性障害を予防する及び/又は治療することについて試験し得る。本明細書に記載した方法に従うと、複数の剤を個々にスクリーニングでき、又は一つまたはそれより多くの剤を同時に試験し得る。化合物の混合物が試験される場合、記載されたプロセスにより選択された化合物は、適した方法(例えば、配列決定、クロマトグラフィー)を使用して分離でき(必要に応じて)及び同定し得る。試験サンプル中の一つまたはそれより多くの化合物の存在も、これらの方法に従って決定し得る。
【0050】
リンパ球増殖性障害を予防する及び/又は治療する剤は、例えば、本明細書に記載されたトランスジェニック動物により示される、一つまたはそれより多くのリンパ球増殖性疾患の症状又は徴候の抑制及び/又は予防を測定するアッセイにおいて、Chemical Repository of the National Cancer Institute のような分子のライブラリー又はコレクションをスクリーニングすることにより同定し得る。コンビナトリアル化学合成又は他の方法により作り出された化合物(例えば、有機化合物、組換え又は合成ペプチド、「ペプトイド」、核酸)のコンビナトリアルライブラリーのようなライブラリーを試験し得る(例えば、Zuckerman, R.N. et al,, J. Med. Chem., 37: 2678-2685 (1994)及びその中に引用されている文献を参照されたい;Ohlmeyer, M.H.J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10922-10926 (1993)及び De Witt, S.H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-6913 (1993)、タグ付けされた化合物に関して;Rutter, WJ. et al., 米国特許第5,010,175 号; Huebner, V.D. et al., 米国特許第5,182,366 号;及びGeysen, H.M., 米国特許第4,833,092 号も参照されたい)。ライブラリーから選択された化合物が独特のタグを運んでいる場合、クロマトグラフィー法による個々の化合物の同定が可能である。
【0051】
同定された治療モダリティは、既知の方法に従ってさらに処方することができ、薬学的に許容できる組成物が作り出される。治療モダリティ又はこうした治療モダリティを含んでなる組成物は、多様な標準様式で対象(例えば、トランスジェニック動物)に投与することができる。例えば、剤は、例えば、経口的、食事性、局所的、経皮的、直腸的、非経口的(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、皮内注射)及び吸入(例えば、気管支内、鼻腔内、経口吸入、鼻腔内点滴)を含む多様な経路を使用して投与し得る。投与は、示されているように局所的又は全身的であり得る。好ましい投与の様式は、投与されるべき抗体又は抗原結合断片、治療されている特定の状態(例えば、疾患)に依存して変化し得るが、経口又は非経口的投与が一般的に好ましい。
【0052】
剤は、例えば、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内又は皮下注射のように非経口的に投与することができる。非経口投与は、該剤を溶液又は懸濁液に取り込ませることにより成し遂げ得る。こうした溶液又は懸濁液は、注射用水、生理食塩水、静菌性生理食塩水(約0.9%mg/mlベンジルアルコール含有生理食塩水)、リン酸緩衝食塩水(本明細書においてPBSと称される)、ハンクス液、乳酸リンゲル、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、及び他の合成溶媒のような無菌希釈液も含むことができる。非経口的製剤は 抗菌剤(例えば、ベンジルアルコール、メチルパラベン)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム)及びキレート剤(例えば、EDTA)も含むことができる。酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩のような緩衝剤、及び塩化ナトリウム及びデキストロースのような浸透圧を調節するための剤も加えることができる。非経口調製物は、アンプル、ディスポーザブル注射器、又はガラス又はプラスチック製の複数回用(multiple dose)バイアル中に封入し得る。
【実施例】
【0053】
実施例1:Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスの作製
材料及び方法
トランスジェニックマウス:
miR155の前駆配列を含有する318bp断片をPCRにより129SvJマウス(The Jackson Laboratory)のゲノムから増幅し、Ig重鎖のためのEμエンハンサーVHプロモーター及びヒトβ−グロビン遺伝子の3’UTR及びポリ(A)を含有し(図1)、及び以前にEμ−TCL1トランスジェニックマウスにおける慢性リンパ球性白血病の発生のために使用されている(Bichi, R., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6955-6960 (2002))、pBSVE6BK(pEμ)プラスミドのEcoRV及びSalI部位内にクローン化した。該構築物をBssHII及びPvuIで切断することにより単離された導入遺伝子を、妊娠FVB/N及びC57/B6マウスの受精卵母細胞の雄性前核内に注入した。Eμエンハンサー配列を標的にするように設計されたプローブを使用し、BamHIで消化した尾部抽出DNAに対して実施されたサザンブロット分析により、導入遺伝子の存在について子をスクリーニングした(図2A、2B)。トランスジェニック初代を同定し、同年齢の野生型マウスと繁殖させた。トランスジェニックヘミ接合性マウスが誕生し、研究され、そしてそれらの野生型対応マウスと比較された。尾部抽出DNAに対して実施されたPCRによりマウスの遺伝子型を同定した(データは示されていない)。
【0054】
ノーザンブロット分析:
脾臓を二つのすりガラス間で解離させ、溶解物をリン酸緩衝食塩水(PBS)中で洗浄し、塩化アンモニウム(NH4Cl)による低浸透圧性溶解により赤血球を枯渇させ、遠心分離し、PBSに再懸濁した。全RNAをトリゾール試薬(GIBCO,Invitrogen )で抽出し、SDS/PAGEにロードし及び変性させ、Hybond N+膜(Amersham Pharmacia)にブロットした。該膜を、成熟mmu−miR155配列のアンチセンス含有γ−32P放射性プローブとハイブリダイズし、一晩インキュベートし、洗浄し、及びPhosphorImagerスクリーン(Molecular Dynamics)に暴露した。イメージはTyphoon イメージ処理システム(Amersham Biosciences)を使用して処理した(図3)。
【0055】
結果
B細胞発生の後期プロB細胞段階で活性になるmmu−miR155(マウスmiR155)の発現が、VHプロモーター−Ig重鎖Eμエンハンサーの制御下であるトランスジェニックマウスが作製された。C57BL/B6バックグラウンドで7匹(F1〜F7と命名された)、及びFVB/Nバックグラウンドで8匹(F8〜F15と命名された)、計15匹のトランスジェニック初代がサザンブロットハイブリダイゼーションにより同定された(図2A、2B)。これらの初代を同一系統の野生型マウスと繁殖させて、15の独立したトランスジェニック系統を作製した。
【0056】
トランスジェニック及び野生型脾臓から抽出された全RNAに対して実施されたリアルタイムPCR(データは示されていない)及びノーザンブロット分析(図3)は、トランスジェニックマウスの五つの初代系統について高レベルのmiR155発現を示した。一つのトランスジェニック系統は完全に発現が欠如しており、一方、他の初代系統は導入遺伝子を発現した。野生型マウスは、以前に報告されているように(Monticelli, S., et al., Genome Biol. 6:R71 (2005))、脾臓で成熟miR155を発現しない。
【0057】
実施例2:Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスの表現型特徴付けは、B細胞悪性腫瘍を導く脾臓及び骨髄中のプレB細胞増殖を明らかにする
材料及び方法
体部測定
マウスを殺した後に秤量し、それらの脾臓を切り取り、計測し、及び秤量した。
【0058】
白血球(WBC)及び塗抹標本:
マウスの後眼窩血管から血液を抜き、すりガラススライド上に塗抹してギムザで染色するか、又は遠心分離し、PBS中で洗浄し、塩化アンモニウムで処理した。細胞を細胞計数器チャンバーで計数した。
【0059】
フローサイトメトリー分析:
脾細胞又は骨髄細胞の単細胞懸濁液は低浸透圧性溶解(0.165M NH4Cl)により成熟赤血球を枯渇させ、以下の共役抗体で染色した:抗B220−PE、抗IgM−FITC、抗TCR−PE cy5、抗CD5−PE、及び抗CD43−FITC。全ての抗体はBD PharMingen から入手した。フローサイトメトリーは、Becton Dickinson FACSCalibur で実施し、データはMac ソフトウエアのためのBecton Dickinson FACS CONVERT 1.0 を使用して解析した。
【0060】
組織学及び免疫組織化学:
脾臓、大腿、及び胸骨を剖検したマウスから単離し、10%ホルマリン緩衝液で固定し、パラフィン中に含ませ、4ミクロン切片に切断した。切片を、標準プロトコールに従ってヘマトキシリン/エオシンで染色した。脱ワックス工程のため切片を55℃で1時間加熱し、段階的なエタノール系列及び蒸留水を通して再水和し、PBSに浸し、そして次ぎに中37℃にて30分、0.1%トリプシン含有トリス緩衝液で処理した。内在性ペルオキシダーゼは10%正常血清でブロックした。CD43、B220及びVpreB1(CD179a)抗体(BD PharMingen)を一次抗体に使用した。二次抗体及びジアミノベンジジンは使用説明書に従って加えた。
【0061】
結果
トランスジェニックマウスの脾臓は、野生型マウスの脾臓と比較して肥大しており(図4A、4B)、脾臓重量/体重比は野生型マウスの比よりも3から4倍高かった(表1)。興味深いことに、該比は年齢であまり変化しなかった。
【0062】
【表1】
【0063】
3月齢トランスジェニックマウスの白血球数(WBC)は、正常同年齢のマウスについての末梢血ml当たり40X106±1.5X106と比較して、末梢血ml当たり10X106±1X106であった。トランスジェニックマウスのWBCについては、6月齢で幾分低く、野生型同年齢のマウスについて末梢血ml当たり40X106±1.5X106の変化しない値と比較して、末梢血ml当たり6X106±0.5X106の値を有した。
【0064】
3月齢トランスジェニックマウスの脾臓(ヘマトキシリン/エオシン染色)の病理組織診断は、赤色髄に侵入する及び拡大する一貫した非定型リンパ球集団を特色とする。胚濾胞は影響されておらず、及び二次血球生成の多病巣がある(図5A)。組織学的には、6月齢のマウスは、著しい非定型性及び芽細胞外観を有し、赤色髄の血管通路中で増殖し、及び徐々に白色髄を置換している非常に増加した悪性リンパ球集団を示した。胚濾胞の数は減少しており、脾臓の全アーキテクチャが非定型リンパ球増殖により歪められていた(図5B)。組織学的に類似のリンパ球集団が6月齢マウスの骨髄に存在していた。増殖抗原、Ki67の発現は、野生型マウスでは観察されなかった著しい非定型リンパ球増殖をトランスジェニックマウスで示した(図5D)。
【0065】
トランスジェニック脾臓中の非定型リンパ球増殖の免疫組織学的分析は、B220及びVpreBl(CD179a)についての非定型拡大リンパ球の低い陽性を示したが、CD43は陰性であった(データは示されていない)。トランスジェニックマウスの脾臓パラフィン包埋切片のIgM染色は、増殖しているリンパ球の細胞質中にμ鎖の存在を示した(図6)。対照的に、フローサイトメトリー分析は、これらの細胞の表面上に、IgMの発現を同定することに失敗しており、拡大リンパ球細胞は細胞質μ鎖を発現するが、表面IgMを発現しないことを示している。
【0066】
3、6又は7週齢又は6月齢のトランスジェニック及び野生型マウスの、脾臓及び骨髄両方からのWBCの単細胞懸濁液で実施したフローサイトメトリー分析は、トランスジェニックマウスの脾臓及び骨髄の両方におけるB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球の数が、野生型対応物のものと比較して、増加を示した。この表現型は、ヒト急性リンパ芽球性白血病又はリンパ芽球性リンパ腫で観察された増殖リンパ球の表現型と似ている。これらの発見は、3週齢のトランスジェニックマウスの脾臓においてのB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ系集団は、野生型マウスの脾臓中での1.65%のみと比較し、全ゲーテッド(gated)リンパ系集団の9%である(一匹のトランスジェニック及び一匹の野生型マウスで評価された)。6週齢では、これらのパーセンテージはトランスジェニックマウスの脾臓で6.6±1.4%、及び7週齢では4.7±0.3%となったが、一方、野生型脾臓では変化しなかった(二匹のトランスジェニックマウスが二つの異なった初代系統から、及び二匹の野生型マウスが分析された)。
【0067】
6月齢のトランスジェニックマウスの骨髄において、野生型と比較して、B2201ow/IgM−発現により定義されるプレB細胞集団の増加が観察された(図7及び8)。B2201ow/IgM−細胞集団の前方散乱分析は、これらの細胞が大型の芽球様細胞であることを示した(データは示されていない)。
フローサイトメトリー、組織学的及び免疫組織化学的分析に基づき、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−と定義されたプレB細胞増殖がトランスジェニックマウスの脾臓及び骨髄中で起こり、そして3週齢ですでに検出可能であった。この増殖は、最後には、しばしば高悪性度B細胞悪性腫瘍と関係があることを特色とする、脾腫、骨髄置換及び著しいリンパ球減少症を生じる。この特徴付けと一致して、全てのトランスジェニックマウスは6月齢までに、全て健康であった野生型対照と比較して(11匹の内の11匹の野生型マウス)、高悪性度B細胞新生物を発生した(7匹の内の7匹のトランスジェニックマウス)。とりわけ、miR155を過剰発現しないトランスジェニックマウス系統も又正常であった。
【0068】
実施例3:Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスの細胞遺伝学的分析
材料及び方法
細胞遺伝学:
大腿骨髄をRPMI培地1640/20%FBSで洗い流し、5mlの1%ヘパリン含有RPMI培地1640/20%FBSに集めた。細胞を増殖させ、標準細胞学的技術を用いて染色体欠失、転座、逆位、及びメタフェーズの数を評価した。
【0069】
Ig重鎖転位:
プローブは、以下のオリゴヌクレオチドプライマ−を使用してマウスゲノムDNAのIg重鎖領域のJH4断片中の配列を増幅することにより設計した:フォワード、5’-TGAAGGATCTGCCAGAACTGAA-3’(配列番号3)及びリバース、5’-TGCAATGCTCAGAAAACTCCAT-3’(配列番号4)。
【0070】
トランスジェニック及び野生型マウスの脾臓を、PBS中、すりガラスの間で解離させ、塩化アンモニウムで処理して赤血球を溶解し、遠心分離し、そしてPBS中に再懸濁した。DNAを脾臓の白血球から抽出し、そしてEcoRI、StuI、BglII、BamHI及びHindIIIで消化した。消化したDNAをHybond N+ 膜上にブロットし、γ−32Pで放射活性的に標識されたJH4プローブとハイブリダイズさせ、PhosphorImager スクリーンへ暴露し、Typhoon スキャナーを使用して処理した。
【0071】
結果
脾細胞の核型の細胞遺伝学的研究は、正常同腹子からの脾臓と比較し、トランスジェニックマウスからのからの脾臓における一貫した染色体異常を同定することに失敗した。しかしながら、いくつかのゲノム変化が時折観察された(図9;矢印参照)。これらの結果は、プレB細胞の拡大した集団は二倍体であり、及び細胞遺伝学的に準正常であることを示している。クローン性を検出するため、V(D)J転位を評価する多消化酵素を使用し、3から6週齢のマウスからの脾細胞DNAに対してサザンブロット分析を実施した。野生型マウスと比較し、トランスジェニックマウスにおいて転位したバンドの存在は検出されなかった(図10)、但し一匹のトランスジェニックマウスは、異なった制限酵素のそれぞれで実施されたサザンブロット上に一貫した転位バンドを有していた(データは示されていない)。これらのデータは、この年齢のマウスにおけるB細胞集団は、大部分、少なくとも6週齢まではポリクローナルであったことを示している。悪性腫瘍の大部分はモノクローナルであるので、この発見は、miR155が、癌で活性化されるシグナル伝達経路の下流標的である可能性を示唆している。
【0072】
興味深いことに、miR155の過剰発現は、乳癌及び結腸癌のような固形腫瘍、ならびに肺癌で観察されており、miR155の過剰発現は予後不良の指標であった(Volinia, S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:2257- 2261 (2006))。
【0073】
実施例4:マイクロアレイ発現プロファイリングはVpreB1 mRNA及び他の標的の上方調節を明らかにする
材料及び方法
RNA単離:
全RNA単離は、使用説明書に従ってトリゾール試薬(Invitrogen)で実施した。
【0074】
miRNA発現プロファイリング:
RNA標識及びmiRNAマイクロアレイチップ上のハイブリダイゼーションは記載されているように(Liu, C.G., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:9740-9744)実施した。簡単には、5μgの各サンプルからの全RNAは、5’ビオチン末端標識ランダムオクタマーオリゴヌクレオチドプライマ−を使用する逆転写によりビオチンで標識した。ビオチン標識化cDNAのハイブリダイゼーションを、245のヒト及び200のマウスmiRNA遺伝子を含む800のmiRNAプローブを含有するmiRNAマイクロアレイチップ(Ohio State University, Ver. 2.0)上で四重に実施した。ハイブリダイゼーションシグナルを、Axon スキャナー4000B(Axon Instruments, Union City, CA)を使用する、ビオチンへのストレプトアビジン−アレキサン(Alexa)647複合物の結合により検出した。画像はGENEPIX 6.0 ソフトウエア(Axon Instruments)により定量した。
【0075】
mRNA発現プロファイリング:
45,000より多くの特徴付けられた遺伝子及び発現された配列タグのためのプローブセットを含有するGeneChip Mouse genom 430 2.0 アレイ(Affymetrix)を使用した。サンプル標識及びプロセシング、GeneChip ハイブリダイゼーション及びスキャニングはAffymetrix プロトコールに従って実施した。簡単には、二重鎖cDNAを、3’末端にT7 RNAポリメラーゼプロモーター部位(Genset, La Jolla, CA)を付加するSuperscript Choice System(Invitrogen)を使用して全RNAから合成した。ビオチン化cRNAをインビトロでcDNAから発生させ、BioArray T7 RNAポリメラーゼ標識キット(Enzo Diagnostics)を使用して増幅した。cRNAの精製後、RNeasyミニキット(Qiagen, Hilden, Germany)を使用し、20μgのcRNAを94℃で35分断片化した。およそ12.5μgの断片化cRNAは、ハイブリダイゼーション効率の内部対照として働かせるためのニシン精子DNA(0.1mg/ml;Promega)+細菌及びファージ対照(1.5pM BioB、5pM BioC、25pM BioD及び100pM Cre)、を含有する250μlのハイブリダイゼーション混合物で使用した。混合物の一定分量(200μl)を、GeneChip ハイブリダイゼーションオーブン640(Affymetrix)中、45℃で18時間、アレイにハイブリダイズさせた。各アレイを洗浄し、ストレプトアビジン−フィコエリトリン(Invitrogen)で染色し、そしてGeneChip Fluidics Station 450 (Affymetrix)上、ビオチン化抗ストレプトアビジン抗体(Vector Laboratories)で増幅した。アレイをGeneArray G7スキャナー(Affymetrix)でスキャンし、画像及びシグナル強度を得た。
【0076】
結果
マイクロアレイ分析を、5匹のトランスジェニックマウス(miR155導入遺伝子を発現しない1匹のマウスを含む)の脾臓白血球、及び6匹の野生型同腹子対応動物の白血球から抽出した全RNAに対して実施した。該分析は、野生型同腹子対照マウスと比較し(データは示されていない)、miR155を過剰発現するトランスジェニックマウスはmiR155、miR194、miR224、miR217及びmiR151の発現が10〜20倍増加し(表3)、及びmiR146及びmiR138の発現は2〜3分の1に減少した。Affymetrix マイクロアレイチップを使用し、トランスジェニックマウスの同一群におけるmRNAの差次的発現を研究し、同腹子対照におけるmRNA発現と比較した。Affymetrix マイクロアレイデータの統計的解析は、miR155過剰発現マウスにおいて、200の増殖関連遺伝子が上方制御され、及び50の遺伝子が下方制御されていたことを示した(表3)。とりわけ、プレB細胞の増殖が行われる時に起こることが予期されるVpreBl mRNAが上方制御されていた。これらのデータは、フローサイトメトリー分析及び免疫組織化学からのデータを補完する。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
【表13】
【0089】
【表14】
【0090】
【表15】
【0091】
参照文献として明確に援用されていなかった、本明細書で引用されたすべての出版物の関連する教示は、その全体が本明細書において援用される。本発明はそれらの好ましい態様に関して特定的に示され及び記述されてきたが、付随する特許請求の範囲により包含される本発明の範囲から離れることなく、形態及び詳細の多様な変更をその中で行えることを当業者は理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0092】
本特許又は出願ファイルは、カラーで作成されている少なくとも一つの図を含む。カラーの図を含む本特許又は特許出願の印刷物は、依頼及び必要な料金の支払い後、本事務所により提供されるであろう。
【図1】図1は、妊娠中のC57/B6及びFVB/Nメスマウスの卵母細胞の雄性前核に注入されたmiR155導入遺伝子構築物を示している模式図である。miR155導入遺伝子構築物は、VHプロモーターEμエンハンサーの下流のEcoRV及びSalI部位間にmmu−miR155遺伝子を挿入することにより作製された。
【図2】図2Aは、7匹のmiR155トランスジェニック初代(レーン1、3、5、6、7、10及び14)及びC57BL/6バックグラウンドを有する8匹の野生型(レーン2、4、8、9、11、12、13及び15)マウスの遺伝子型を示しているサザンブロットである。図2Bは、8匹のmiR155トランスジェニック初代(レーン1、3、5、7、9、11、13及び15)及びFVB/Nfバックグラウンドを有する7匹の野生型(レーン2、4、6、8、10、12及び14)マウスの遺伝子型を示しているサザンブロットである。
【図3】図3は、プローブとしてmmu−miR155成熟配列のアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用し、15のトランスジェニック系統の内の6の3週齢マウスの脾臓から単離されたリンパ球中の、成熟miR155の発現を示している全RNAのノーザンブロット法である。脾細胞中に成熟miR155の最も高い発現を有する5トランスジェニック系統(レーン1、2、5、8及び9)をさらなる繁殖及び分析のために選択した。1つのトランスジェニック系統は導入遺伝子を発現しなかった(レーン3)。導入遺伝子発現は、野生型対照からはなかった(レーン4、6及び7)。
【図4】図4Aは、6月齢で、野生型と比較し、臨床的に明白な脾腫のためにかなりの腹部腫脹(左)を有するトランスジェニックマウスを示している写真である。図4Bは、図4Aで示したマウスの脾臓を示している写真である。トランスジェニックマウスの脾臓は(左)、白血病/リンパ腫細胞の拡大により肥大している。
【図5】図5Aは、3週齢トランスジェニックマウス(マウス番号50;初代番号10)からの脾臓のヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色切片を示している200倍での顕微鏡写真である。切片は、白色髄を圧迫している非定型リンパ増殖を示している。図5Bは、6月齢トランスジェニックマウス(初代番号8)からの脾臓のH&E染色切片を示している100倍での顕微鏡写真である。脾臓の全アーキテクチャは非定型リンパ様増殖により置き換えられている。ごくわずかな胚リンパ濾胞が残存し、それは大きさが非常に減少し、該増殖により圧縮されていた。図5Cは、6月齢トランスジェニックマウス(初代番号8)からの脾臓のH&E染色切片を示している200倍での顕微鏡写真である。脾臓アーキテクチャはほとんど完全にリンパ芽球性増殖により削除されていた。2つの小さな圧縮されたリンパ濾胞の残余物が見られる。図5Dは、6月齢トランスジェニックマウス(初代番号8)からの骨髄のH&E染色切片を示している400倍での顕微鏡写真であり、造血増殖巣の置換を導く、骨髄中のリンパ芽球性増殖を示している。図5Eは、正常脾臓のH&E染色切片を示している200倍での顕微鏡写真である。図5Fは、3週齢トランスジェニックマウス(マウス番号72)からの脾臓の切片を示している200倍での顕微鏡写真である。切片はKi67について染色されており、脾臓中の増加した非定型リンパ様増殖を示している。
【図6】図6は、IgMについて免疫組織化学的染色された、3週齢トランスジェニックマウス(マウス番号50)からの脾臓の切片における非定型リンパ様増殖を示している400倍での顕微鏡写真である。トランスジェニックマウスにおいてIgMは、褐色核周囲輪として増殖しているリンパ球の細胞質(clgM)に存在し、一方、野生型リンパ球は、sIgM及びcIgM両方の存在のため、明瞭な核を有さない、強い褐色である。
【図7】図7Aは、初代の2つの異なった系統(初代8及び10)からのトランスジェニックマウスの脾臓におけるリンパ球の、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−集団の拡大を示しているフローサイトメトリー分析プロファイルである。3週齢(トランスジェニックマウス番号74、初代8(74TG;左上)及び野生型マウス番号68(68WT;右上))及び7週齢(トランスジェニックマウス番号156、初代10(156TG;左下)及び野生型マウス番号157(157WT;右下))での2匹のトランスジェニックマウス及び2匹の野生型マウスについてのゲーテッド脾細胞が示されている。野生型に関し、プロットの左上象限(B220+IgM集団をゲーティング)の比較は、トランスジェニック脾臓中の前駆体B細胞数の増加を示している。図7Bは、初代8からのトランスジェニックマウスの骨髄におけるリンパ球の、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−集団の拡大を示しているフローサイトメトリー分析プロファイルである。6月齢での、1匹のトランスジェニック及び1匹の野生型マウス(トランスジェニックマウス番号8(8TG;左)及び野生型マウス番号24(24WT;右))についてのゲーテッド骨髄白血球が示されている。野生型に関し、2つのプロットの右上象限の比較は、トランスジェニックマウスの骨髄の200+IgM+ゲーテッド成熟B細胞集団の減少を示している。
【図8】図8Aは、7週齢での野生型マウス番号223(223WT)のB220+ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたB220−PE発現を示しているグラフである。図8Bは、7週齢での野生型マウス番号223(223WT)のB220+ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたCD10−FITC発現を示しているグラフである。図8Cは、7週齢のトランスジェニックマウス番号222(222TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたB220−PE発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウスにおけるB220low集団(B220−及びB220+の2つのピーク間に間在している)の注目すべき増加を示している。図8Dは、7週齢のトランスジェニックマウス番号222(222TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたCDl0−FITC発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウス中のB220+−ゲーテッド集団中にのみCD10+集団のパーセンテージの増加を示しており、該B220low増殖は、少なくとも一部、CD10+集団の増加によることを示している。図8Eは、7週齢のトランスジェニックマウス番号221(221TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたB220−PE発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウスにおけるB220low集団(B220−及びB220+の2つのピーク間に間在している)の注目すべき増加を示している。図8Fは、7週齢のトランスジェニックマウス番号221(221TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたCDl0−FITC発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウス中のB220+−ゲーテッド集団中にのみCD10+集団のパーセンテージの増加を示しており、該B220low増殖は、少なくとも一部、CD10+集団の増加によることを示している。
【図9】図9は、染色体欠失、転座及び逆位、ならびにメタフェーズの数について分析された、トランスジェニック脾臓から単離されたリンパ球系細胞の核型である。矢印は、厚い余分のバンドの存在により同定された、染色体9中の異常を示している。
【図10】図10は、3から6週齢の間の、5匹のトランスジェニック(TG)及び4匹の野生型(WT)マウスの脾細胞から抽出されたDNAについてのサザンブロットである。サザンブロットハイブリダイゼーションは、JH4プローブ及びレーンの上に示されている異なった消化酵素(StuI、BglII、BamHI及びHindIII)を使用して実施した。高分子量の厚いバンドは、生殖細胞系と一致する。野生型と比較して、トランスジェニック動物には転位したバンドはなかった。
【技術分野】
【0001】
政府援助
本発明は、全体が又は部分的に、米国政府からの基金により支援された。政府は本発明に特定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
急性白血病は、骨髄及び血液中の芽球細胞と称される未成熟無機能性細胞の蓄積を生じる、骨髄及び血液の急速に進行する悪性疾患である。骨髄中での芽球細胞の蓄積は、正常血液細胞の発生を阻止する。その結果、赤血球、白血球及び血小板が十分な数で産生されない。該疾患が骨髄リンパ球前駆細胞で起こる場合、急性リンパ芽球性白血病(ALL)を生じ、該疾患が骨髄系前駆細胞で起こる場合、急性骨髄性白血病(AML)を生じる。
【0003】
ALLは、骨髄リンパ球の悪性形質転換により開始される急速進行性癌である。ALLは、全年齢群で毎年3、000の新規ケースを有する、小児白血病の最も一般的なタイプである。形質転換した(悪性になった)細胞は増殖し、そして白血病性リンパ芽球として骨髄に蓄積する。リンパ芽球は骨髄での正常血液細胞形成を阻止し、赤血球、白血球及び血小板の不十分な産生を生じる。
【0004】
侵攻性リンパ腫としても知られている高悪性度リンパ腫には、もし治療されないならば比較的急速に進行する、リンパ腫のいくつかのサブタイプが含まれる。これらのサブタイプには、例えば、AIDS関連リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型リンパ腫、免疫芽球性リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫及び小型非切れ込み核細胞性リンパ腫が含まれる。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と比較し、高悪性度リンパ腫はより侵襲的に挙動し、より強力な化学療法を必要とし、及び小児においてより頻繁に発生する。急速に分裂する細胞はより抗癌剤に感受性であるので、及び若年の患者は通常他の健康問題がないので、これらのリンパ腫のいくつかは、療法に対して劇的な応答を示す。急性リンパ芽球性白血病及び高悪性度リンパ腫は、小児において最も一般的な白血病及びリンパ腫である。これらの疾患は、大部分についてポリクローナルであり、悪性病変を誘発するにはわずかな遺伝子変化のみで十分であることを示唆している。
【0005】
マイクロRNA(miRNA)は、標的との相補性の程度に従って、標的とされたmRNAに結合することにより、及びそれらの翻訳を阻止することによるか又はそれらの分解を開始させることにより、転写レベル後に重要な調節的役割を果たす、大量の小さなRNAの新規クラスを意味する。1993年のカエノルハブディテキス・エレガンスでのそれらの発見以来(Lee, R. et al., Cell 75:843-854 (1993))、細胞増殖及び分化から脂質代謝の範囲に及ぶ、非常に多様な役割を有するタンパク質の大きなアレイの転写後調節に、これらの小さな分子を結びつける多数の報告がある(Nairz, K., et al., Dev. Biol. 291:314-324 (2006); Chen, J.F., et al, Nat. Genet. 33:228-233 (2006); Naguibneva, L, et al, Nat. Cell Biol. 8:278-284 (2006); Esau, C, et al, Cell Metab. 3:87-98 (2006);及び Gauthier, B.R., et al, Nat. Med. 12:36-18 (2006))。
【0006】
ヒト及びマウスにおける造血系のmiRNAプロファイリングは、miRNAが血球発生の過程で差次的に発現されることを示した(Chen, C.Z., et al., Science 303:83-86 (2004); Chen, C.Z., et al., Semin. Immunol. 77:155-165 (2005)及び Ramkissoon, S.H., et al., Leuk. Res. 30:643-647 (2006))。我々は、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)の68%の場合において、miR−15a及びmiR−16−1が除去又は下方制御されていること(Calin, G.A., et al., Proc. Natl Acad Sci. USA 99: 15524-15529 (2002)及び Calin, G.A., et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 101:11755-11760 (2004))、及びmiRNA遺伝子がしばしば脆弱部及び癌に関与するゲノム領域に位置していること(Calin, G.A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:2999-3004 (2004))を示した。miR155及びBIC(その宿主遺伝子)転写体が、ヒトB細胞リンパ腫、特に、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Eis, P.S., et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 102:3627-3632 (2005))、ホジキンリンパ腫(Kluvier, J., et al., J. Pathol. 207:243-249 (2006))及び特定のタイプのバーキットリンパ腫(潜伏型IIIエプスタイン・バーウイルス陽性バーキットリンパ腫) (Kluvier, J., et al., Genes Chromosomes Cancer 45:147-153 (2006))で蓄積されていることが示されている。
【0007】
現在、B細胞悪性腫瘍(例えば、B細胞白血病、B細胞リンパ腫)のようなリンパ球増殖性障害の治療のための治療可能性を有する候補剤を、スクリーニングする又は同定するために使用することができる動物を作製する緊急の必要性がある。
【発明の開示】
【0008】
発明の要旨
本発明は、その発現がB細胞を標的とし(例えば、Ig重鎖Eμエンハンサーを使用して)、最初に前白血病性プレB細胞増殖を示し(脾臓及び骨髄で明白)、及び後でB細胞悪性腫瘍を発生させる、miR155導入遺伝子を運んでいるトランスジェニックマウスの発見に基づいている。miR155を過剰発現するトランスジェニックマウスは、ヒトリンパ球増殖性疾患に似ているリンパ球増殖性疾患を発生し、それ故、これらの疾患の開始及び/又は進行におけるmiR155を強く示唆している。Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスは、ヒトにおけるB細胞悪性腫瘍(例えば、急性リンパ芽球性白血病、高悪性度リンパ腫)のようなリンパ球増殖性疾患の異なった形態を治療するための新規治療アプローチを考案するために有用である。
【0009】
従って、一つの側面において、リンパ球増殖性障害のための新規動物モデルが本明細書において提供される。具体的には、一つの側面に従うと、B細胞悪性腫瘍(例えば、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病)、リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)及び新生物)のための動物モデルが提供される。
【0010】
一つの態様において、そのゲノムが、miR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物(例えば、マウス)が本明細書において提供される。特定の態様において、該miRl55遺伝子産物は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、該miRl55遺伝子産物は、配列番号1のヌクレオチド配列を含んでなる。さらに別の態様において、該miR155遺伝子産物は、配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる。
【0011】
一つの態様に従うと、該少なくとも一つの転写調節配列は、動物のB細胞中の発現を方向付けることができるいずれかの配列であり得る。一つの態様において、該転写調節配列は、VHプロモーター(例えば、マウス由来のVHプロモーター)を含んでなる。別の態様において、該転写調節配列は、Ig重鎖Eμエンハンサー(例えば、マウス由来のIg重鎖Eμエンハンサー)を含んでなる。関連する態様において、該核酸構築物は、βグロビン遺伝子(例えば、ヒト又は他の哺乳類種由来のβグロビン遺伝子)の3’UTR及びポリ(A)配列を含んでなる。
【0012】
そのゲノムが、配列番号1及び/又は配列番号2を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、VHプロモーター及びIg重鎖Eμエンハンサーを含んでなる核酸構築物を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物も本明細書において提供される。特定の態様において、該トランスジェニック非ヒト動物のゲノムは、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、VHプロモーター及びIg重鎖Eμエンハンサーを含んでなる核酸構築物を含んでなる。
【0013】
特定の態様において、該トランスジェニック非ヒト動物は、適した対照動物におけるB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の集団と比較して、拡大したこの集団を、脾臓、骨髄又は脾臓及び骨髄の両方に有する。関連する態様において、該トランスジェニック非ヒト動物はリンパ球増殖性状態を示す。特定の態様において、該リンパ球増殖性状態はB細胞悪性腫瘍(例えば、B細胞白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病;B細胞リンパ腫、B細胞新生物)である。さらなる態様において、該B細胞悪性腫瘍はヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す。さらに別の態様において、該リンパ球増殖性状態は前白血病の状態(例えば、プレB細胞増殖)である。追加の態様において、該トランスジェニック非ヒト動物は腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症、又はそれらの組み合わせを示す。
【0014】
対象のリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおける剤の治療効力を試験する方法も本明細書において提供される。一つの態様に従うと、該方法は、そのゲノムが動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列(例えば、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー、それらの組み合わせ)を含んでなる核酸構築物を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物(例えば、マウス)に該剤を投与することを含んでなり、該転写調節配列は配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に、機能可能なように連結されている。特定の態様において、miR155遺伝子産物は配列番号1のヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、miR155遺伝子産物は配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる。
【0015】
トランスジェニック動物に該剤を投与した後、トランスジェニック動物におけるリンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を、該剤が投与されていない同一ゲノムタイプの対照動物のそれらと比較する。もし、対照動物と比較して、剤が投与されたトランスジェニック動物において一つ又はそれより多くのリンパ球増殖性状態の症状及び/又は徴候が抑制され、予防され及び/又は軽減されているならば、該剤はリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおいて治療効力を有すると考えられる。特定の態様において、該リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候は、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。
【0016】
別の態様において、剤が対象におけるリンパ球増殖性状態に影響するかどうかを決定する方法が本明細書において提供される(例えば、リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの徴候及び/又は症状の検出能及び/又は出現比の相違に影響すること)。該方法は、本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物に剤を投与すること、そしてトランスジェニック動物における一つ又はそれより多くのリンパ球増殖性状態の症状及び/又は徴候を、同一ゲノムタイプの対照動物のそれらと比較することを含んでなり、ここで該対照動物には該剤は投与されていない。該対照動物と比較し、該トランスジェニック動物における検出能及び/又は出現比の相違は、該剤がリンパ球増殖性状態の影響していることを示す。
【0017】
一つの態様において、リンパ球増殖性状態はB細胞悪性腫瘍である。特定の態様において、B細胞悪性腫瘍は、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)、B細胞新生物及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。B細胞悪性腫瘍は、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はその両方の特質を示すことができる。別の態様において、リンパ球増殖性状態は、プレB細胞増殖により特徴づけられる状態のような前白血病状態である。
【0018】
本発明のこれらならびに他の重要な側面は、以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の特定の態様の説明が以下に示される。
本明細書に例示され及び記述されるように、マイクロRNA、miR155を過剰発現するトランスジェニックマウスは、ヒトの急性リンパ芽球性白血病及び高悪性度リンパ腫に似ているリンパ球増殖性疾患を発症する。本明細書で提供される結果は、miR155及び/又は他の遺伝子(単数又は複数)(例えば、癌で活性化される遺伝子(例えば、シグナル伝達遺伝子))の発癌性発現が、B細胞悪性腫瘍の開始及び/又は進行に関与していることを強く示している。従って、B細胞悪性腫瘍及び他のリンパ球増殖性状態の開始及び進行の根底にある機構を調べるために使用することができる動物モデルが本明細書で提供される。この動物モデルは、リンパ球増殖性障害を治療する又は予防することにおいて有用である新規治療剤の同定、開発及び試験にも使用することができる。
【0020】
一つの態様において、そのゲノムが、miR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、B細胞への発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物又は導入遺伝子を含んでなるトランスジェニック動物が本明細書において提供され、ここで該転写調節配列はmiRl55遺伝子産物をコードする核酸配列に機能可能なように連結されている。用語「導入遺伝子」とは、本明細書に記載されている方法によるようなヒト介入により、非ヒト動物の一つ又はそれより多くの細胞内に導入された核酸配列を指す。導入された遺伝子情報は、レシピエントが属する動物の種にとって外来性、特定の個々のレシピエントについてのみ外来性であるか、又は遺伝子情報はレシピエントによりすでにプロセシングされていることができる。後者の場合において、導入された遺伝子情報は、天然の内在性遺伝子と比較して差次的に発現されてもよい。
【0021】
該トランスジェニック非ヒト動物は、miR155遺伝子産物を発現することができる核酸構築物/導入遺伝子を含んでなるゲノムを有する。miR遺伝子産物(本明細書においてマイクロRNA、miR及びmiRNAとも称される)はタンパク質に翻訳されないので、用語「miR遺伝子産物」はタンパク質を含んでいない。プロセシングされていないmiR遺伝子転写体は「miR前駆体」とも称され、そして典型的には約70〜100ヌクレオチド長のRNA転写体を含んでなる。該miR前駆体は、活性19〜25ヌクレオチドRNA分子にプロセシングし得る(例えば、天然のプロセシング経路(例えば、無傷の細胞又は細胞溶解物を使用して)を介して、又は合成プロセシング経路(例えば、単離されたダイサー、アルゴノート又はRNAse III(例えば、大腸菌RNAse III)のような単離されたプロセシング酵素を使用して)により)。この活性19〜25ヌクレオチドRNA分子は、「プロセシングされた」miR遺伝子転写物又は「成熟」miRNAとも称される。本明細書においてマイクロRNAが名称で呼ばれる場合、該名称は、特に示されない限り、前駆体及び成熟形の両方に対応する。
【0022】
本明細書で使用される「miR155遺伝子産物」とは、限定されるわけではないが、マウス(ハツカネズミ)からのmiR155遺伝子のような、miR155遺伝子からのプロセシングされていない(例えば、前駆体)又はプロセシングされた(例えば、成熟)RNA転写体を指す。マウスからの前駆体miR155遺伝子産物はヌクレオチド配列:
5’-CUGUUAAUGCUAAUUGUGAUAGGGGUUUUGGCCUCUGACUGACUCCUACCUGUUAGCAUUAACAG-3’ (配列番号1)により表され、一方、プロセシングされた又は成熟マウスmiR155遺伝子産物はヌクレオチド配列:
5’- UUAAUGCUAAUUGUGAUAGGGG-3’(配列番号2;GenBank 寄託番号AJ459767)により表される。
【0023】
特定の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号1及び/又は配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。特定の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号1のヌクレオチド配列と100%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。別の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号2のヌクレオチド配列と100%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる。
【0024】
二つの配列の実際の比較は、例えば、数学アルゴリズムを使用した公知の方法により達成し得る。こうした数学アルゴリズムの好ましい非制限例は、Karlin et al.(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、 90:5873-5877(1993)) 、に記載されている。こうしたアルゴリズムは、Schaffer et al( Nucleic Acids Res., 29:2994-3005 (2001)) 、に記載されているようにBLASTN及びBLASTXプログラム(バージョン2.2)に組み込まれている。BLAST 及びGapped BLAST プログラムを利用する時、それぞれのプログラム(例えば、BLASTN;National Center for Biotechnology Informationのインターネットサイトから利用可能)のデフォルトパラメータを使用し得る。一つの態様において、探索されたデータベースは非冗長(NR)データベースであり、及び配列比較のためのパラメータは:フィルターなし:期待値10;3のワードサイズ;のセットを使用することができ;マトリックスはBLOSUM62であり;及びギャップコストは11のイグジステンス(Existence)及び1のエクステンション(Extension )を有する。
【0025】
配列の比較のために利用された数学アルゴリズムの別の非制限例は、Myers and Miller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。こうしたアルゴリズムはGCG(Accelrys, San Diego, California)配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120ウエイト残基テ−ブル、12のギャップレングスペナルティー、及び4のギャップペナルティーを使用し得る。配列分析のための追加のアルゴリズムが当該技術分野で公知であり、Torellis and Robotti(Comput. Appl. Biosci., 10: 3-5, 1994)に記載されているADVANCE及びADAM;及びPearson and Lipman(Proc. Natl. Acad. Sci USA, 85: 2444-2448, 1988)に記載されているFASTAが含まれる。
【0026】
別の態様において、二つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、Blossom 63マトリックスか又はPAM250マトリックス、及び12、10、8、6、又は4のギャップウエイト及び2、3、又は4のレングスウエイトを使用する、GCG ソフトウェアパッケージ中のGAP プログラム(Accelrys, San Diego, California)を使用して達成し得る。さらに別の態様において、二つの核酸配列間のパーセント同一性は、50のギャップウエイト及び3のレングスウエイトを使用する、GCG ソフトウェアパッケージ中のGAP プログラム(Accelrys, San Diego, California)を使用して達成し得る。
【0027】
一つの側面に従うと、該トランスジェニック非ヒト動物は、核酸配列が該動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列に、機能可能なように連結されたmiR155遺伝子産物をコードする核酸構築物を含んでなるゲノムを有する。用語「転写調節配列」は、当該技術分野で認識されている意味に従って使用される。それは、その配列により、連結された遺伝子を特定の細胞中で上方か又は下方に調節させることができる、いずれのDNA配列も意味することを意図する。プロモーターの場合、該プロモーターは一般的にコード領域に隣接しているであろう。しかしながら、エンハンサーの場合、エンハンサー及びコード領域間に介在DNA配列が存在するように、エンハンサーはコード領域からいくらか離れて機能することができる。特定のタンパク質をコードするDNA配列(又は「コード領域」)を含むことができる遺伝子情報の発現を方向付けるため、目的のコード領域を少なくとも一つの転写調節配列に機能的様式で共役させることができる。該転写調節配列は、遺伝子の発現を、増加させる、減少させる、調節する、又は特定の組織に又は特定の発生の段階に指定するために使用することができる。該転写調節配列は、天然に存在する配列である必要はない。
【0028】
それ故、本明細書に記載された一つの態様において、miR155をコードする配列はB細胞への発現を方向付けている転写調節配列(単数又は複数)に機能可能なように連結されており、組換え構築物又は導入遺伝子を発生する。該転写調節配列は、B細胞での発現を方向付けることができるいずれの配列でもあり得る。適した転写調節配列の例には、限定されるわけではないが、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー及びそれらの組み合わせが含まれる。特定の態様において、該転写調節配列はマウス転写調節配列又はマウス由来の転写調節配列である。
【0029】
核酸分子は、もしそれが転写調節情報を含むヌクレオチド配列(単数又は複数)を含んでいるならば、マイクロRNAを「発現できる」又は「発現を方向付けることができる」といわれており、及びこうした配列(単数又は複数)はマイクロRNAをコードするヌクレオチド配列(単数又は複数)に「機能可能なように連結」されている。機能可能なリンケージ(linkage)とは、調節核酸配列(単数又は複数)及び発現されようとするヌクレオチド配列(単数又は複数)が、遺伝子発現を可能にするように連結されているリンケージである。
【0030】
一般に、遺伝子発現に必要とされる調節領域には、限定されるわけではないが、転写調節配列(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域)、ならびに、RNAに転写された時に遺伝子転写体の安定性に寄与するDNA配列(単数又は複数)が含まれる。
【0031】
用語「プロモーター」は、当該技術分野で認識されている意味に従って使用される。それは、RNAポリメラーゼを結合しそして該酵素を正しい転写開始部位へ方向付ける、通常、遺伝子のコード領域又はオペロンの上流のDNA領域を意味することを意図する。プロモーター領域は、もし該プロモーターがDNA配列の転写に影響できるならば、該DNA配列に機能可能なように連結されている。
【0032】
用語「エンハンサー」は、当該技術分野で認識されている意味に従って使用される。それは、研究されている遺伝子から数キロ塩基までに位置する(両方向で)場合、遺伝子からの転写を増加させることができる、真核生物及び特定の真核生物ウイルスに見いだされる配列を意味することを意図する。これらの配列は通常、問題とする遺伝子の5’側 (上流)にある場合、エンハンサーとして働く。しかしながら、いくつかのエンハンサーは、遺伝子の3’側 (下流)に位置している場合に活性である。一部の例では、エンハンサー要素は(既知の)プロモーターを有していない遺伝子からの転写を活性化し得る。
【0033】
該核酸構築物は、該構築物及び/又は該構築物から発現された遺伝子産物の発現及び/又は安定性を促進する配列も含むことができる。特定の態様において、該核酸構築物は、βグロビン遺伝子(例えば、マウスβグロビン遺伝子)の3’UTR及びポリ(A)配列を含んでなる。該構築物及び/又は該構築物から発現された遺伝子産物の発現及び/又は安定性を促進する他の配列が当該技術分野で公知であり、本明細書に包含される。
【0034】
本明細書で使用される用語「トランスジェニック非ヒト動物」は、ヒト以外の全ての脊椎動物を含む。一つの態様において、トランスジェニック非ヒト動物は哺乳動物である。こうしたトランスジェニック非ヒト動物には、例えば、トランスジェニックブタ、トランスジェニックラット、トランスジェニックウサギ、トランスジェニックウシ、トランスジェニックヤギ、及び他のトランスジェニック動物種、特に哺乳動物種が含まれる。加えて、げっ歯類ファミリーの他のメンバー、例えば、ラット及びモルモット、及びチンパンジーのような非ヒト霊長類を、本明細書に記載した態様を実施するために使用することができる。特定の態様において、トランスジェニック非ヒト動物はマウスである。本明細書に記載されたトランスジェニック非ヒト動物には、胚胎児期を含むすべての発生段階のそれぞれの動物が含まれる。
【0035】
「トランスジェニック動物」は、マイクロインジェクション又は組換え型ウイルスの感染によるような、細胞内レベルでの計画的遺伝子操作により、直接的又は間接的に受け取った遺伝子情報を運んでいる一つ又はそれより多くの細胞を含有する動物である。導入された核酸分子は、染色体内に組み入れられていてもよいし、又は染色体外で複製するDNAであってもよい。本明細書に記載された適したトランスジェニック動物には、限定されるわけではないが、遺伝子情報が生殖系列細胞内に導入され、それにより情報を子孫に伝達する能力を与える動物が含まれる。もしこうした子孫が、該情報のいくらか又は全てを実際に所有していれば、それらも又トランスジェニック動物である。
【0036】
トランスジェニック動物を作製するためには、例えば、マイクロインジェクション、細胞銃の使用、トランスフェクション、リポソーム融合、エレクトロポレーションなどのような、胚内に組換え構築物又は導入遺伝子を導入するために当該技術分野で公知であるいずれの方法も使用することができる。特定の態様において、トランスジェニック動物を作製するための方法は、受精卵の雄性前核内にDNA分子を注入することを含む、マイクロインジェクションである(例えば、米国特許番号4,870,009; 5,550,316; 4,736,866;及び4,873,191を参照されたい)。哺乳類及びそれらの生殖細胞内に組換え型の構築物/導入遺伝子を導入するための方法は、もともとマウスにおいて開発された。こうした方法は、引き続いて、家畜種を含むより大きい動物での使用のために採用された(例えば、PCT出願番号WO88/00239、WO90/05188及びWO92/11757を参照されたい)。接合体の細胞質内へのDNAのマイクロインジェクションは、トランスジェニック動物を作製するためにも使用することができる。
【0037】
導入された導入遺伝子の存在ならびにその発現を評価するための方法は、容易に利用可能であり及び当該技術分野では公知である。こうした方法には、限定されるわけではないが、外来性DNAを検出するためのDNA(サザン)ハイブリダイゼーション、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及びDNA、RNA又はタンパク質を検出するためのブロットが含まれる。
【0038】
本態様は、動物のいずれか一つの種に限定されるわけではなく、いずれかの適切な非ヒト脊椎動物種のために提供される。例えば、本明細書に記載した及び例示したトランスジェニックマウスを産生し得る。他の非制限例には、例えば、モルモット、ウサギ、ブタ、ヒツジなどのような、本明細書に記載された他の非ヒト哺乳動物が含まれる。マイクロインジェクションによりトランスジェニック動物を作製する成功率はマウスにおいて最も高く、DNAが注入され及びメスに移植された受精マウス卵のおよそ25%がトランスジェニックマウスに発育するであろう。より低い成功率がウサギ、ブタ、ヒツジ及びウシで達成されている。
【0039】
特定の態様において、本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物は、脾臓、骨髄又は脾臓及び骨髄の両方において、適した対照動物におけるB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の集団と比較して、拡大したこの集団を示す。本明細書で使用される、用語「B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の拡大した集団」又は「B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の増加」とは、対照動物の集団と比較して、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の数における、及び/又はリンパ球系細胞の他のサブタイプと比較したB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−細胞の集団の増加を示す、リンパ球系細胞の集団を指す。
【0040】
別の態様において、本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物は、リンパ球増殖性状態を示す。「リンパ球増殖性」とは、リンパ細網系の細胞の増殖に関する又は特徴付けられるものを指し;本用語は一般に、悪性新生物の群を指すために使用される。「リンパ細網」は、リンパ系及び細網内皮系の両方の細胞又は組織を指す。「リンパ球増殖性状態」(又は「リンパ球増殖性疾患 」又は「リンパ球増殖性障害」)とは、共通の多分化能、原始的リンパ細網細胞に関連する細胞から起こる悪性新生物の群の一つを指し、中でも、リンパ球性、組織球性及び単球性白血病、多発性骨髄腫、形質細胞腫、ホジキン病、全リンパ球性リンパ腫、及び単クローン性免疫グロブリン血症に付随する免疫分泌性障害が含まれる。本明細書で使用される「リンパ球増殖性障害」「リンパ球増殖性疾患 」又は「リンパ球増殖性状態」は、リンパ細網系の細胞の増殖、増倍及び/又は蓄積が正常又は対照動物と比較して変化しているが、影響を受けた動物は上記の新生物の一つの症状をまだ必ずしも示していない生理学的状態も指すことができる。本明細書で使用される「前白血病」状態は、白血病の明白な症状の発生に先立つこうしたリンパ球増殖性状態を指す。
【0041】
特定の態様において、リンパ球増殖性状態は、B細胞悪性腫瘍(例えば、B細胞白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病);B細胞リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)、B細胞新生物)である。さらなる態様において、B細胞悪性腫瘍はヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す。さらに別の態様において、リンパ球増殖性状態は前白血病の状態(例えば、プレB細胞増殖)である。追加の態様において、トランスジェニック非ヒト動物は腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症、又はそれらの組み合わせを示す。
【0042】
別の態様において、リンパ球増殖性障害(例えば、B細胞悪性腫瘍(例えば、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病)、リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)及び新生物))の研究のための、及び可能性がある発癌及び治療剤を試験するための実験モデルとしての、トランスジェニック非ヒト動物の使用についての方法が本明細書に記載されている。
【0043】
別の側面において、対象のリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおける剤の治療効力を試験する方法が本明細書に記載されている。一つの態様に従うと、該方法は、該剤を本明細書に記載したトランスジェニック非ヒト動物(例えば、マウス)に投与することを含んでなる。一つの態様において、該トランスジェニック非ヒト動物は、動物のB細胞での発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列(例えば、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー、それらの組み合わせ)を含んでなる、核酸構築物を含んでなるゲノムを有し、該転写調節配列は、miR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されている。特定の態様において、該転写調節配列は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列に機能可能なように連結されている。別の態様において、miR155遺伝子産物は配列番号1のヌクレオチド配列を含んでなる。さらに別の態様において、miR155遺伝子産物は、配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる。
【0044】
該剤を該トランスジェニック動物に投与した後、該トランスジェニック動物における一つ又はそれより多くのリンパ球増殖性状態症状及び/又は徴候を、該剤が投与されていない同一遺伝子型の対照動物と比較する。もし、該剤が、対照動物と比較して、それが投与された該トランスジェニック動物におけるリンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を抑制する、予防する及び/又は軽減するならば、該剤はリンパ球増殖性状態を治療する又は予防することにおいて治療効力を有すると考えられる。特定の態様において、リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候は:B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。
【0045】
剤の治療効力を試験するために適しているリンパ球増殖性状態には、例えば、本明細書に記載されているものが含まれる。一つの態様において、リンパ球増殖性状態はB細胞悪性腫瘍である。特定の態様において、B細胞悪性腫瘍は、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫(例えば、高悪性度リンパ腫)、B細胞新生物及びそれらの組み合わせから成る群より選択される。B細胞悪性腫瘍は、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はその両方の特質を示す。別の態様において、リンパ球増殖性状態は、プレB細胞増殖により特徴づけられる状態のような前白血病状態である。
【0046】
本明細書に記載されるように、B細胞中でmiR155を発現するトランスジェニック非ヒト動物が本明細書において提供される。一つの態様において、そのゲノムが、B細胞への発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物又は導入遺伝子を含んでなるトランスジェニック動物が提供され、該転写調節配列は、miR155をコードする核酸配列に機能可能なように連結されている。特定の態様において、該導入遺伝子は、VHプロモーター及び/又はIg重鎖Eμエンハンサーの転写調節下に置かれている、miR155をコードするDNA配列を含んでなる。こうした動物において、miR155発現は未成熟及び成熟B細胞に向けられる。一つの態様において、該トランスジェニック動物は、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団を発生するマウスである。
【0047】
別の態様において、リンパ球増殖を示すトランスジェニック動物からの白血球細胞を、第二の動物(非トランスジェニック動物であってもよい)に移すことができ、それにより、第二の「レシピエント」動物においてリンパ球増殖性疾患の迅速な発症を誘発する。
【0048】
別の態様に従うと、リンパ球増殖性障害を予防する及び/又は治療するための潜在的治療モダリティ(therapeutic modality)又は剤を、本明細書に記載した一つまたはそれより多くの様相に従って作り出された動物において、こうした様式の抗リンパ球増殖性活性を測定することにより試験することができる。こうした活性は、一つの態様に従って作り出されたトランスジェニック動物により、及び/又は別の態様に従って作り出された「レシピエント」動物において示される一つまたはそれより多くのリンパ球増殖性疾患の症状又は徴候を抑制する、予防する及び/又は消失させる潜在的治療モダリティの能力を測定することにより評価することができる。
【0049】
タンパク質(例えば、抗体)、ペプチド、ペプチド模倣薬、有機小分子、核酸などのような多様な治療モダリティ又は剤を、リンパ球増殖性障害を予防する及び/又は治療することについて試験し得る。本明細書に記載した方法に従うと、複数の剤を個々にスクリーニングでき、又は一つまたはそれより多くの剤を同時に試験し得る。化合物の混合物が試験される場合、記載されたプロセスにより選択された化合物は、適した方法(例えば、配列決定、クロマトグラフィー)を使用して分離でき(必要に応じて)及び同定し得る。試験サンプル中の一つまたはそれより多くの化合物の存在も、これらの方法に従って決定し得る。
【0050】
リンパ球増殖性障害を予防する及び/又は治療する剤は、例えば、本明細書に記載されたトランスジェニック動物により示される、一つまたはそれより多くのリンパ球増殖性疾患の症状又は徴候の抑制及び/又は予防を測定するアッセイにおいて、Chemical Repository of the National Cancer Institute のような分子のライブラリー又はコレクションをスクリーニングすることにより同定し得る。コンビナトリアル化学合成又は他の方法により作り出された化合物(例えば、有機化合物、組換え又は合成ペプチド、「ペプトイド」、核酸)のコンビナトリアルライブラリーのようなライブラリーを試験し得る(例えば、Zuckerman, R.N. et al,, J. Med. Chem., 37: 2678-2685 (1994)及びその中に引用されている文献を参照されたい;Ohlmeyer, M.H.J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10922-10926 (1993)及び De Witt, S.H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6909-6913 (1993)、タグ付けされた化合物に関して;Rutter, WJ. et al., 米国特許第5,010,175 号; Huebner, V.D. et al., 米国特許第5,182,366 号;及びGeysen, H.M., 米国特許第4,833,092 号も参照されたい)。ライブラリーから選択された化合物が独特のタグを運んでいる場合、クロマトグラフィー法による個々の化合物の同定が可能である。
【0051】
同定された治療モダリティは、既知の方法に従ってさらに処方することができ、薬学的に許容できる組成物が作り出される。治療モダリティ又はこうした治療モダリティを含んでなる組成物は、多様な標準様式で対象(例えば、トランスジェニック動物)に投与することができる。例えば、剤は、例えば、経口的、食事性、局所的、経皮的、直腸的、非経口的(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、皮内注射)及び吸入(例えば、気管支内、鼻腔内、経口吸入、鼻腔内点滴)を含む多様な経路を使用して投与し得る。投与は、示されているように局所的又は全身的であり得る。好ましい投与の様式は、投与されるべき抗体又は抗原結合断片、治療されている特定の状態(例えば、疾患)に依存して変化し得るが、経口又は非経口的投与が一般的に好ましい。
【0052】
剤は、例えば、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内又は皮下注射のように非経口的に投与することができる。非経口投与は、該剤を溶液又は懸濁液に取り込ませることにより成し遂げ得る。こうした溶液又は懸濁液は、注射用水、生理食塩水、静菌性生理食塩水(約0.9%mg/mlベンジルアルコール含有生理食塩水)、リン酸緩衝食塩水(本明細書においてPBSと称される)、ハンクス液、乳酸リンゲル、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、及び他の合成溶媒のような無菌希釈液も含むことができる。非経口的製剤は 抗菌剤(例えば、ベンジルアルコール、メチルパラベン)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム)及びキレート剤(例えば、EDTA)も含むことができる。酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩のような緩衝剤、及び塩化ナトリウム及びデキストロースのような浸透圧を調節するための剤も加えることができる。非経口調製物は、アンプル、ディスポーザブル注射器、又はガラス又はプラスチック製の複数回用(multiple dose)バイアル中に封入し得る。
【実施例】
【0053】
実施例1:Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスの作製
材料及び方法
トランスジェニックマウス:
miR155の前駆配列を含有する318bp断片をPCRにより129SvJマウス(The Jackson Laboratory)のゲノムから増幅し、Ig重鎖のためのEμエンハンサーVHプロモーター及びヒトβ−グロビン遺伝子の3’UTR及びポリ(A)を含有し(図1)、及び以前にEμ−TCL1トランスジェニックマウスにおける慢性リンパ球性白血病の発生のために使用されている(Bichi, R., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:6955-6960 (2002))、pBSVE6BK(pEμ)プラスミドのEcoRV及びSalI部位内にクローン化した。該構築物をBssHII及びPvuIで切断することにより単離された導入遺伝子を、妊娠FVB/N及びC57/B6マウスの受精卵母細胞の雄性前核内に注入した。Eμエンハンサー配列を標的にするように設計されたプローブを使用し、BamHIで消化した尾部抽出DNAに対して実施されたサザンブロット分析により、導入遺伝子の存在について子をスクリーニングした(図2A、2B)。トランスジェニック初代を同定し、同年齢の野生型マウスと繁殖させた。トランスジェニックヘミ接合性マウスが誕生し、研究され、そしてそれらの野生型対応マウスと比較された。尾部抽出DNAに対して実施されたPCRによりマウスの遺伝子型を同定した(データは示されていない)。
【0054】
ノーザンブロット分析:
脾臓を二つのすりガラス間で解離させ、溶解物をリン酸緩衝食塩水(PBS)中で洗浄し、塩化アンモニウム(NH4Cl)による低浸透圧性溶解により赤血球を枯渇させ、遠心分離し、PBSに再懸濁した。全RNAをトリゾール試薬(GIBCO,Invitrogen )で抽出し、SDS/PAGEにロードし及び変性させ、Hybond N+膜(Amersham Pharmacia)にブロットした。該膜を、成熟mmu−miR155配列のアンチセンス含有γ−32P放射性プローブとハイブリダイズし、一晩インキュベートし、洗浄し、及びPhosphorImagerスクリーン(Molecular Dynamics)に暴露した。イメージはTyphoon イメージ処理システム(Amersham Biosciences)を使用して処理した(図3)。
【0055】
結果
B細胞発生の後期プロB細胞段階で活性になるmmu−miR155(マウスmiR155)の発現が、VHプロモーター−Ig重鎖Eμエンハンサーの制御下であるトランスジェニックマウスが作製された。C57BL/B6バックグラウンドで7匹(F1〜F7と命名された)、及びFVB/Nバックグラウンドで8匹(F8〜F15と命名された)、計15匹のトランスジェニック初代がサザンブロットハイブリダイゼーションにより同定された(図2A、2B)。これらの初代を同一系統の野生型マウスと繁殖させて、15の独立したトランスジェニック系統を作製した。
【0056】
トランスジェニック及び野生型脾臓から抽出された全RNAに対して実施されたリアルタイムPCR(データは示されていない)及びノーザンブロット分析(図3)は、トランスジェニックマウスの五つの初代系統について高レベルのmiR155発現を示した。一つのトランスジェニック系統は完全に発現が欠如しており、一方、他の初代系統は導入遺伝子を発現した。野生型マウスは、以前に報告されているように(Monticelli, S., et al., Genome Biol. 6:R71 (2005))、脾臓で成熟miR155を発現しない。
【0057】
実施例2:Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスの表現型特徴付けは、B細胞悪性腫瘍を導く脾臓及び骨髄中のプレB細胞増殖を明らかにする
材料及び方法
体部測定
マウスを殺した後に秤量し、それらの脾臓を切り取り、計測し、及び秤量した。
【0058】
白血球(WBC)及び塗抹標本:
マウスの後眼窩血管から血液を抜き、すりガラススライド上に塗抹してギムザで染色するか、又は遠心分離し、PBS中で洗浄し、塩化アンモニウムで処理した。細胞を細胞計数器チャンバーで計数した。
【0059】
フローサイトメトリー分析:
脾細胞又は骨髄細胞の単細胞懸濁液は低浸透圧性溶解(0.165M NH4Cl)により成熟赤血球を枯渇させ、以下の共役抗体で染色した:抗B220−PE、抗IgM−FITC、抗TCR−PE cy5、抗CD5−PE、及び抗CD43−FITC。全ての抗体はBD PharMingen から入手した。フローサイトメトリーは、Becton Dickinson FACSCalibur で実施し、データはMac ソフトウエアのためのBecton Dickinson FACS CONVERT 1.0 を使用して解析した。
【0060】
組織学及び免疫組織化学:
脾臓、大腿、及び胸骨を剖検したマウスから単離し、10%ホルマリン緩衝液で固定し、パラフィン中に含ませ、4ミクロン切片に切断した。切片を、標準プロトコールに従ってヘマトキシリン/エオシンで染色した。脱ワックス工程のため切片を55℃で1時間加熱し、段階的なエタノール系列及び蒸留水を通して再水和し、PBSに浸し、そして次ぎに中37℃にて30分、0.1%トリプシン含有トリス緩衝液で処理した。内在性ペルオキシダーゼは10%正常血清でブロックした。CD43、B220及びVpreB1(CD179a)抗体(BD PharMingen)を一次抗体に使用した。二次抗体及びジアミノベンジジンは使用説明書に従って加えた。
【0061】
結果
トランスジェニックマウスの脾臓は、野生型マウスの脾臓と比較して肥大しており(図4A、4B)、脾臓重量/体重比は野生型マウスの比よりも3から4倍高かった(表1)。興味深いことに、該比は年齢であまり変化しなかった。
【0062】
【表1】
【0063】
3月齢トランスジェニックマウスの白血球数(WBC)は、正常同年齢のマウスについての末梢血ml当たり40X106±1.5X106と比較して、末梢血ml当たり10X106±1X106であった。トランスジェニックマウスのWBCについては、6月齢で幾分低く、野生型同年齢のマウスについて末梢血ml当たり40X106±1.5X106の変化しない値と比較して、末梢血ml当たり6X106±0.5X106の値を有した。
【0064】
3月齢トランスジェニックマウスの脾臓(ヘマトキシリン/エオシン染色)の病理組織診断は、赤色髄に侵入する及び拡大する一貫した非定型リンパ球集団を特色とする。胚濾胞は影響されておらず、及び二次血球生成の多病巣がある(図5A)。組織学的には、6月齢のマウスは、著しい非定型性及び芽細胞外観を有し、赤色髄の血管通路中で増殖し、及び徐々に白色髄を置換している非常に増加した悪性リンパ球集団を示した。胚濾胞の数は減少しており、脾臓の全アーキテクチャが非定型リンパ球増殖により歪められていた(図5B)。組織学的に類似のリンパ球集団が6月齢マウスの骨髄に存在していた。増殖抗原、Ki67の発現は、野生型マウスでは観察されなかった著しい非定型リンパ球増殖をトランスジェニックマウスで示した(図5D)。
【0065】
トランスジェニック脾臓中の非定型リンパ球増殖の免疫組織学的分析は、B220及びVpreBl(CD179a)についての非定型拡大リンパ球の低い陽性を示したが、CD43は陰性であった(データは示されていない)。トランスジェニックマウスの脾臓パラフィン包埋切片のIgM染色は、増殖しているリンパ球の細胞質中にμ鎖の存在を示した(図6)。対照的に、フローサイトメトリー分析は、これらの細胞の表面上に、IgMの発現を同定することに失敗しており、拡大リンパ球細胞は細胞質μ鎖を発現するが、表面IgMを発現しないことを示している。
【0066】
3、6又は7週齢又は6月齢のトランスジェニック及び野生型マウスの、脾臓及び骨髄両方からのWBCの単細胞懸濁液で実施したフローサイトメトリー分析は、トランスジェニックマウスの脾臓及び骨髄の両方におけるB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球の数が、野生型対応物のものと比較して、増加を示した。この表現型は、ヒト急性リンパ芽球性白血病又はリンパ芽球性リンパ腫で観察された増殖リンパ球の表現型と似ている。これらの発見は、3週齢のトランスジェニックマウスの脾臓においてのB2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−リンパ系集団は、野生型マウスの脾臓中での1.65%のみと比較し、全ゲーテッド(gated)リンパ系集団の9%である(一匹のトランスジェニック及び一匹の野生型マウスで評価された)。6週齢では、これらのパーセンテージはトランスジェニックマウスの脾臓で6.6±1.4%、及び7週齢では4.7±0.3%となったが、一方、野生型脾臓では変化しなかった(二匹のトランスジェニックマウスが二つの異なった初代系統から、及び二匹の野生型マウスが分析された)。
【0067】
6月齢のトランスジェニックマウスの骨髄において、野生型と比較して、B2201ow/IgM−発現により定義されるプレB細胞集団の増加が観察された(図7及び8)。B2201ow/IgM−細胞集団の前方散乱分析は、これらの細胞が大型の芽球様細胞であることを示した(データは示されていない)。
フローサイトメトリー、組織学的及び免疫組織化学的分析に基づき、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−と定義されたプレB細胞増殖がトランスジェニックマウスの脾臓及び骨髄中で起こり、そして3週齢ですでに検出可能であった。この増殖は、最後には、しばしば高悪性度B細胞悪性腫瘍と関係があることを特色とする、脾腫、骨髄置換及び著しいリンパ球減少症を生じる。この特徴付けと一致して、全てのトランスジェニックマウスは6月齢までに、全て健康であった野生型対照と比較して(11匹の内の11匹の野生型マウス)、高悪性度B細胞新生物を発生した(7匹の内の7匹のトランスジェニックマウス)。とりわけ、miR155を過剰発現しないトランスジェニックマウス系統も又正常であった。
【0068】
実施例3:Eμ−mmu−miR155トランスジェニックマウスの細胞遺伝学的分析
材料及び方法
細胞遺伝学:
大腿骨髄をRPMI培地1640/20%FBSで洗い流し、5mlの1%ヘパリン含有RPMI培地1640/20%FBSに集めた。細胞を増殖させ、標準細胞学的技術を用いて染色体欠失、転座、逆位、及びメタフェーズの数を評価した。
【0069】
Ig重鎖転位:
プローブは、以下のオリゴヌクレオチドプライマ−を使用してマウスゲノムDNAのIg重鎖領域のJH4断片中の配列を増幅することにより設計した:フォワード、5’-TGAAGGATCTGCCAGAACTGAA-3’(配列番号3)及びリバース、5’-TGCAATGCTCAGAAAACTCCAT-3’(配列番号4)。
【0070】
トランスジェニック及び野生型マウスの脾臓を、PBS中、すりガラスの間で解離させ、塩化アンモニウムで処理して赤血球を溶解し、遠心分離し、そしてPBS中に再懸濁した。DNAを脾臓の白血球から抽出し、そしてEcoRI、StuI、BglII、BamHI及びHindIIIで消化した。消化したDNAをHybond N+ 膜上にブロットし、γ−32Pで放射活性的に標識されたJH4プローブとハイブリダイズさせ、PhosphorImager スクリーンへ暴露し、Typhoon スキャナーを使用して処理した。
【0071】
結果
脾細胞の核型の細胞遺伝学的研究は、正常同腹子からの脾臓と比較し、トランスジェニックマウスからのからの脾臓における一貫した染色体異常を同定することに失敗した。しかしながら、いくつかのゲノム変化が時折観察された(図9;矢印参照)。これらの結果は、プレB細胞の拡大した集団は二倍体であり、及び細胞遺伝学的に準正常であることを示している。クローン性を検出するため、V(D)J転位を評価する多消化酵素を使用し、3から6週齢のマウスからの脾細胞DNAに対してサザンブロット分析を実施した。野生型マウスと比較し、トランスジェニックマウスにおいて転位したバンドの存在は検出されなかった(図10)、但し一匹のトランスジェニックマウスは、異なった制限酵素のそれぞれで実施されたサザンブロット上に一貫した転位バンドを有していた(データは示されていない)。これらのデータは、この年齢のマウスにおけるB細胞集団は、大部分、少なくとも6週齢まではポリクローナルであったことを示している。悪性腫瘍の大部分はモノクローナルであるので、この発見は、miR155が、癌で活性化されるシグナル伝達経路の下流標的である可能性を示唆している。
【0072】
興味深いことに、miR155の過剰発現は、乳癌及び結腸癌のような固形腫瘍、ならびに肺癌で観察されており、miR155の過剰発現は予後不良の指標であった(Volinia, S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:2257- 2261 (2006))。
【0073】
実施例4:マイクロアレイ発現プロファイリングはVpreB1 mRNA及び他の標的の上方調節を明らかにする
材料及び方法
RNA単離:
全RNA単離は、使用説明書に従ってトリゾール試薬(Invitrogen)で実施した。
【0074】
miRNA発現プロファイリング:
RNA標識及びmiRNAマイクロアレイチップ上のハイブリダイゼーションは記載されているように(Liu, C.G., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:9740-9744)実施した。簡単には、5μgの各サンプルからの全RNAは、5’ビオチン末端標識ランダムオクタマーオリゴヌクレオチドプライマ−を使用する逆転写によりビオチンで標識した。ビオチン標識化cDNAのハイブリダイゼーションを、245のヒト及び200のマウスmiRNA遺伝子を含む800のmiRNAプローブを含有するmiRNAマイクロアレイチップ(Ohio State University, Ver. 2.0)上で四重に実施した。ハイブリダイゼーションシグナルを、Axon スキャナー4000B(Axon Instruments, Union City, CA)を使用する、ビオチンへのストレプトアビジン−アレキサン(Alexa)647複合物の結合により検出した。画像はGENEPIX 6.0 ソフトウエア(Axon Instruments)により定量した。
【0075】
mRNA発現プロファイリング:
45,000より多くの特徴付けられた遺伝子及び発現された配列タグのためのプローブセットを含有するGeneChip Mouse genom 430 2.0 アレイ(Affymetrix)を使用した。サンプル標識及びプロセシング、GeneChip ハイブリダイゼーション及びスキャニングはAffymetrix プロトコールに従って実施した。簡単には、二重鎖cDNAを、3’末端にT7 RNAポリメラーゼプロモーター部位(Genset, La Jolla, CA)を付加するSuperscript Choice System(Invitrogen)を使用して全RNAから合成した。ビオチン化cRNAをインビトロでcDNAから発生させ、BioArray T7 RNAポリメラーゼ標識キット(Enzo Diagnostics)を使用して増幅した。cRNAの精製後、RNeasyミニキット(Qiagen, Hilden, Germany)を使用し、20μgのcRNAを94℃で35分断片化した。およそ12.5μgの断片化cRNAは、ハイブリダイゼーション効率の内部対照として働かせるためのニシン精子DNA(0.1mg/ml;Promega)+細菌及びファージ対照(1.5pM BioB、5pM BioC、25pM BioD及び100pM Cre)、を含有する250μlのハイブリダイゼーション混合物で使用した。混合物の一定分量(200μl)を、GeneChip ハイブリダイゼーションオーブン640(Affymetrix)中、45℃で18時間、アレイにハイブリダイズさせた。各アレイを洗浄し、ストレプトアビジン−フィコエリトリン(Invitrogen)で染色し、そしてGeneChip Fluidics Station 450 (Affymetrix)上、ビオチン化抗ストレプトアビジン抗体(Vector Laboratories)で増幅した。アレイをGeneArray G7スキャナー(Affymetrix)でスキャンし、画像及びシグナル強度を得た。
【0076】
結果
マイクロアレイ分析を、5匹のトランスジェニックマウス(miR155導入遺伝子を発現しない1匹のマウスを含む)の脾臓白血球、及び6匹の野生型同腹子対応動物の白血球から抽出した全RNAに対して実施した。該分析は、野生型同腹子対照マウスと比較し(データは示されていない)、miR155を過剰発現するトランスジェニックマウスはmiR155、miR194、miR224、miR217及びmiR151の発現が10〜20倍増加し(表3)、及びmiR146及びmiR138の発現は2〜3分の1に減少した。Affymetrix マイクロアレイチップを使用し、トランスジェニックマウスの同一群におけるmRNAの差次的発現を研究し、同腹子対照におけるmRNA発現と比較した。Affymetrix マイクロアレイデータの統計的解析は、miR155過剰発現マウスにおいて、200の増殖関連遺伝子が上方制御され、及び50の遺伝子が下方制御されていたことを示した(表3)。とりわけ、プレB細胞の増殖が行われる時に起こることが予期されるVpreBl mRNAが上方制御されていた。これらのデータは、フローサイトメトリー分析及び免疫組織化学からのデータを補完する。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
【表13】
【0089】
【表14】
【0090】
【表15】
【0091】
参照文献として明確に援用されていなかった、本明細書で引用されたすべての出版物の関連する教示は、その全体が本明細書において援用される。本発明はそれらの好ましい態様に関して特定的に示され及び記述されてきたが、付随する特許請求の範囲により包含される本発明の範囲から離れることなく、形態及び詳細の多様な変更をその中で行えることを当業者は理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0092】
本特許又は出願ファイルは、カラーで作成されている少なくとも一つの図を含む。カラーの図を含む本特許又は特許出願の印刷物は、依頼及び必要な料金の支払い後、本事務所により提供されるであろう。
【図1】図1は、妊娠中のC57/B6及びFVB/Nメスマウスの卵母細胞の雄性前核に注入されたmiR155導入遺伝子構築物を示している模式図である。miR155導入遺伝子構築物は、VHプロモーターEμエンハンサーの下流のEcoRV及びSalI部位間にmmu−miR155遺伝子を挿入することにより作製された。
【図2】図2Aは、7匹のmiR155トランスジェニック初代(レーン1、3、5、6、7、10及び14)及びC57BL/6バックグラウンドを有する8匹の野生型(レーン2、4、8、9、11、12、13及び15)マウスの遺伝子型を示しているサザンブロットである。図2Bは、8匹のmiR155トランスジェニック初代(レーン1、3、5、7、9、11、13及び15)及びFVB/Nfバックグラウンドを有する7匹の野生型(レーン2、4、6、8、10、12及び14)マウスの遺伝子型を示しているサザンブロットである。
【図3】図3は、プローブとしてmmu−miR155成熟配列のアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用し、15のトランスジェニック系統の内の6の3週齢マウスの脾臓から単離されたリンパ球中の、成熟miR155の発現を示している全RNAのノーザンブロット法である。脾細胞中に成熟miR155の最も高い発現を有する5トランスジェニック系統(レーン1、2、5、8及び9)をさらなる繁殖及び分析のために選択した。1つのトランスジェニック系統は導入遺伝子を発現しなかった(レーン3)。導入遺伝子発現は、野生型対照からはなかった(レーン4、6及び7)。
【図4】図4Aは、6月齢で、野生型と比較し、臨床的に明白な脾腫のためにかなりの腹部腫脹(左)を有するトランスジェニックマウスを示している写真である。図4Bは、図4Aで示したマウスの脾臓を示している写真である。トランスジェニックマウスの脾臓は(左)、白血病/リンパ腫細胞の拡大により肥大している。
【図5】図5Aは、3週齢トランスジェニックマウス(マウス番号50;初代番号10)からの脾臓のヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色切片を示している200倍での顕微鏡写真である。切片は、白色髄を圧迫している非定型リンパ増殖を示している。図5Bは、6月齢トランスジェニックマウス(初代番号8)からの脾臓のH&E染色切片を示している100倍での顕微鏡写真である。脾臓の全アーキテクチャは非定型リンパ様増殖により置き換えられている。ごくわずかな胚リンパ濾胞が残存し、それは大きさが非常に減少し、該増殖により圧縮されていた。図5Cは、6月齢トランスジェニックマウス(初代番号8)からの脾臓のH&E染色切片を示している200倍での顕微鏡写真である。脾臓アーキテクチャはほとんど完全にリンパ芽球性増殖により削除されていた。2つの小さな圧縮されたリンパ濾胞の残余物が見られる。図5Dは、6月齢トランスジェニックマウス(初代番号8)からの骨髄のH&E染色切片を示している400倍での顕微鏡写真であり、造血増殖巣の置換を導く、骨髄中のリンパ芽球性増殖を示している。図5Eは、正常脾臓のH&E染色切片を示している200倍での顕微鏡写真である。図5Fは、3週齢トランスジェニックマウス(マウス番号72)からの脾臓の切片を示している200倍での顕微鏡写真である。切片はKi67について染色されており、脾臓中の増加した非定型リンパ様増殖を示している。
【図6】図6は、IgMについて免疫組織化学的染色された、3週齢トランスジェニックマウス(マウス番号50)からの脾臓の切片における非定型リンパ様増殖を示している400倍での顕微鏡写真である。トランスジェニックマウスにおいてIgMは、褐色核周囲輪として増殖しているリンパ球の細胞質(clgM)に存在し、一方、野生型リンパ球は、sIgM及びcIgM両方の存在のため、明瞭な核を有さない、強い褐色である。
【図7】図7Aは、初代の2つの異なった系統(初代8及び10)からのトランスジェニックマウスの脾臓におけるリンパ球の、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−集団の拡大を示しているフローサイトメトリー分析プロファイルである。3週齢(トランスジェニックマウス番号74、初代8(74TG;左上)及び野生型マウス番号68(68WT;右上))及び7週齢(トランスジェニックマウス番号156、初代10(156TG;左下)及び野生型マウス番号157(157WT;右下))での2匹のトランスジェニックマウス及び2匹の野生型マウスについてのゲーテッド脾細胞が示されている。野生型に関し、プロットの左上象限(B220+IgM集団をゲーティング)の比較は、トランスジェニック脾臓中の前駆体B細胞数の増加を示している。図7Bは、初代8からのトランスジェニックマウスの骨髄におけるリンパ球の、B2201ow/CD19low/CD10low/IgM−/TCR−/CD43−集団の拡大を示しているフローサイトメトリー分析プロファイルである。6月齢での、1匹のトランスジェニック及び1匹の野生型マウス(トランスジェニックマウス番号8(8TG;左)及び野生型マウス番号24(24WT;右))についてのゲーテッド骨髄白血球が示されている。野生型に関し、2つのプロットの右上象限の比較は、トランスジェニックマウスの骨髄の200+IgM+ゲーテッド成熟B細胞集団の減少を示している。
【図8】図8Aは、7週齢での野生型マウス番号223(223WT)のB220+ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたB220−PE発現を示しているグラフである。図8Bは、7週齢での野生型マウス番号223(223WT)のB220+ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたCD10−FITC発現を示しているグラフである。図8Cは、7週齢のトランスジェニックマウス番号222(222TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたB220−PE発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウスにおけるB220low集団(B220−及びB220+の2つのピーク間に間在している)の注目すべき増加を示している。図8Dは、7週齢のトランスジェニックマウス番号222(222TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたCDl0−FITC発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウス中のB220+−ゲーテッド集団中にのみCD10+集団のパーセンテージの増加を示しており、該B220low増殖は、少なくとも一部、CD10+集団の増加によることを示している。図8Eは、7週齢のトランスジェニックマウス番号221(221TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたB220−PE発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウスにおけるB220low集団(B220−及びB220+の2つのピーク間に間在している)の注目すべき増加を示している。図8Fは、7週齢のトランスジェニックマウス番号221(221TG)のB220+−ゲーテッド脾細胞に対するフローサイトメトリー分析により評価されたCDl0−FITC発現を示しているグラフであり、野生型マウスと比較して、トランスジェニックマウス中のB220+−ゲーテッド集団中にのみCD10+集団のパーセンテージの増加を示しており、該B220low増殖は、少なくとも一部、CD10+集団の増加によることを示している。
【図9】図9は、染色体欠失、転座及び逆位、ならびにメタフェーズの数について分析された、トランスジェニック脾臓から単離されたリンパ球系細胞の核型である。矢印は、厚い余分のバンドの存在により同定された、染色体9中の異常を示している。
【図10】図10は、3から6週齢の間の、5匹のトランスジェニック(TG)及び4匹の野生型(WT)マウスの脾細胞から抽出されたDNAについてのサザンブロットである。サザンブロットハイブリダイゼーションは、JH4プローブ及びレーンの上に示されている異なった消化酵素(StuI、BglII、BamHI及びHindIII)を使用して実施した。高分子量の厚いバンドは、生殖細胞系と一致する。野生型と比較して、トランスジェニック動物には転位したバンドはなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスジェニック非ヒト動物であって、そのゲノムが該動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物を含んでなり、前記転写調節配列が、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されている、前記トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
該少なくとも一つの転写調節配列が、VHプロモーターを含んでなる、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
該少なくとも一つの転写調節配列が、Ig重鎖Eμエンハンサーを含んでなる、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
該核酸が、配列番号1及び/又は配列番号2を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
該VHプロモーターがマウスに由来する、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
該Ig重鎖Eμエンハンサーがマウスに由来する、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項7】
該動物がマウスである、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
該動物が、適した対照と比較し、脾臓、骨髄又はその両方にB2201ow/CD191ow/CD101ow/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団を有する、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項9】
該動物がリンパ球増殖性状態を示す、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項10】
該リンパ球増殖性状態がB細胞悪性腫瘍である、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項11】
該B細胞悪性腫瘍が白血病、リンパ腫又は新生物である、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項12】
該リンパ球増殖性状態が前白血病の状態である、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項13】
該動物がB2201ow/CD191ow/CD101ow/lgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせを示す、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項14】
該核酸構築物が、βグロビン遺伝子の3’UTR及びポリ(A)配列を含んでなる、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項15】
該B細胞悪性腫瘍が、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項16】
トランスジェニック非ヒト動物であって、そのゲノムが、配列番号1及び/又は配列番号2を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されている、VHプロモーター及びIg重鎖Eμエンハンサーを含んでなる核酸構築物を含んでなる、前記トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項17】
剤が対象のリンパ球増殖性状態に影響するかどうかを決定する方法であって:
a)そのゲノムが、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、該動物のB細胞中での発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物、を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物に前記剤を投与すること;及び
b) 前記トランスジェニック動物に前記剤を投与した後、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を、同一遺伝子型の対照動物と比較することを含んでなり、ここで該対照動物に前記剤は投与されておらず、
前記対照動物と比較し、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の前記一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候の、検出能及び/又は出現比における相違は、該剤が該リンパ球増殖性状態の影響していることを示す、前記方法。
【請求項18】
対象のリンパ球増殖性状態を治療すること又は予防することにおいての剤の治療効力を試験する方法であって:
(a)前記剤を、そのゲノムが該動物のB細胞中での発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物を含んでなる、トランスジェニック非ヒト動物に投与すること、ここで該転写調節配列は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されており;及び
(b)前記トランスジェニック動物に前記剤を投与した後、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を、同一遺伝子型の対照動物と比較することを含んでなり、ここで該対照動物に前記剤は投与されておらず、
もし前記剤が、前記対照動物と比較し、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の前記一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を抑制する、予防する及び/又は軽減するならば、前記剤は対象におけるリンパ球増殖性状態を治療すること又は予防することにおいて治療効力を有していると考えられる、前記方法。
【請求項19】
該少なくとも一つの転写調節配列が、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー又はそれらの組み合わせを含んでなる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
該転写調節配列がマウスに由来する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
該核酸が、配列番号1及び/又は配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
該トランスジェニック動物がマウスである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
該リンパ球増殖性状態がB細胞悪性腫瘍である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
該B細胞悪性腫瘍が、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、B細胞新生物及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
該B細胞悪性腫瘍が、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
該リンパ球増殖性状態が前白血病状態である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
該前白血病の状態がプレB細胞増殖により特徴付けられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記リンパ球増殖性状態の該一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候が、B2201ow/CD191ow/CD101ow/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせから成る群より選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
トランスジェニック非ヒト動物であって、そのゲノムが該動物のB細胞中の発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物を含んでなり、前記転写調節配列が、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されている、前記トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
該少なくとも一つの転写調節配列が、VHプロモーターを含んでなる、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
該少なくとも一つの転写調節配列が、Ig重鎖Eμエンハンサーを含んでなる、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
該核酸が、配列番号1及び/又は配列番号2を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
該VHプロモーターがマウスに由来する、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
該Ig重鎖Eμエンハンサーがマウスに由来する、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項7】
該動物がマウスである、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
該動物が、適した対照と比較し、脾臓、骨髄又はその両方にB2201ow/CD191ow/CD101ow/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団を有する、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項9】
該動物がリンパ球増殖性状態を示す、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項10】
該リンパ球増殖性状態がB細胞悪性腫瘍である、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項11】
該B細胞悪性腫瘍が白血病、リンパ腫又は新生物である、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項12】
該リンパ球増殖性状態が前白血病の状態である、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項13】
該動物がB2201ow/CD191ow/CD101ow/lgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせを示す、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項14】
該核酸構築物が、βグロビン遺伝子の3’UTR及びポリ(A)配列を含んでなる、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項15】
該B細胞悪性腫瘍が、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す、前記請求項のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項16】
トランスジェニック非ヒト動物であって、そのゲノムが、配列番号1及び/又は配列番号2を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されている、VHプロモーター及びIg重鎖Eμエンハンサーを含んでなる核酸構築物を含んでなる、前記トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項17】
剤が対象のリンパ球増殖性状態に影響するかどうかを決定する方法であって:
a)そのゲノムが、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結された、該動物のB細胞中での発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物、を含んでなるトランスジェニック非ヒト動物に前記剤を投与すること;及び
b) 前記トランスジェニック動物に前記剤を投与した後、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を、同一遺伝子型の対照動物と比較することを含んでなり、ここで該対照動物に前記剤は投与されておらず、
前記対照動物と比較し、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の前記一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候の、検出能及び/又は出現比における相違は、該剤が該リンパ球増殖性状態の影響していることを示す、前記方法。
【請求項18】
対象のリンパ球増殖性状態を治療すること又は予防することにおいての剤の治療効力を試験する方法であって:
(a)前記剤を、そのゲノムが該動物のB細胞中での発現を方向付けることができる少なくとも一つの転写調節配列を含んでなる核酸構築物を含んでなる、トランスジェニック非ヒト動物に投与すること、ここで該転写調節配列は、配列番号1及び/又は配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列含んでなるmiR155遺伝子産物をコードする核酸に機能可能なように連結されており;及び
(b)前記トランスジェニック動物に前記剤を投与した後、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を、同一遺伝子型の対照動物と比較することを含んでなり、ここで該対照動物に前記剤は投与されておらず、
もし前記剤が、前記対照動物と比較し、前記トランスジェニック動物における前記リンパ球増殖性状態の前記一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候を抑制する、予防する及び/又は軽減するならば、前記剤は対象におけるリンパ球増殖性状態を治療すること又は予防することにおいて治療効力を有していると考えられる、前記方法。
【請求項19】
該少なくとも一つの転写調節配列が、VHプロモーター、Ig重鎖Eμエンハンサー又はそれらの組み合わせを含んでなる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
該転写調節配列がマウスに由来する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
該核酸が、配列番号1及び/又は配列番号2のヌクレオチド配列を含んでなる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
該トランスジェニック動物がマウスである、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
該リンパ球増殖性状態がB細胞悪性腫瘍である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
該B細胞悪性腫瘍が、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、B細胞新生物及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
該B細胞悪性腫瘍が、ヒト急性リンパ芽球性白血病、ヒトリンパ芽球性リンパ腫又はそれらの組み合わせの特徴を示す、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
該リンパ球増殖性状態が前白血病状態である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
該前白血病の状態がプレB細胞増殖により特徴付けられる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記リンパ球増殖性状態の該一つ又はそれより多くの症状及び/又は徴候が、B2201ow/CD191ow/CD101ow/IgM−/TCR−/CD43−リンパ球系細胞の拡大した集団、腹部腫脹、脾腫、骨髄置換、リンパ球減少症及びそれらの組み合わせから成る群より選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2009−534051(P2009−534051A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507755(P2009−507755)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/009910
【国際公開番号】WO2007/127190
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(593172050)ジ・オハイオ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション (33)
【氏名又は名称原語表記】THE OHIO STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/009910
【国際公開番号】WO2007/127190
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(593172050)ジ・オハイオ・ステイト・ユニバーシティ・リサーチ・ファウンデイション (33)
【氏名又は名称原語表記】THE OHIO STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】
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