説明

突然変異βCTF99を発現するアルツハイマー病誘発形質転換マウス

本発明は、アルツハイマー病誘発形質転換動物に関し、より具体的には、インディアナ突然変異(βCTF99)を有する突然変異ヒトベータアミロイドタンパク質のC末端切片を含む動物形質転換用ベクター、及び、これを受精卵の核に移植して製造したアルツハイマー病誘発形質転換マウスに関する。本発明の形質転換マウスは、認知能力及び記憶力の減少、不安感の増加のようなアルツハイマー病の臨床的症状を現わした。したがって、本発明の形質転換マウスは、アルツハイマー病を研究するための動物モデルになり得る。特に、本発明の形質転換マウスは、当業界に公知のアルツハイマー病に関する他の形質転換動物モデルよりさらに著しく不安感の増加を現わすため、不安感に関わる疾患用動物モデルとして使用できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、アルツハイマー病誘発形質転換マウスに関し、より具体的には、突然変異ヒトアミロイドベータ前駆タンパク質の一部を導入して製造したアルツハイマー病誘発形質転換マウスに関する。
【0002】
〔背景技術〕
ベータ−アミロイドペプチド(β−amyloid peptide、以下「Aβ」と略称する)の生産量増加は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease、AD)の病理症状において必須に作用すると報告された。Aβは、β−セクレターゼ(secretase)及びγ−セクレターゼによってAPPタンパク質が順次プロテオリティック(proteolytic)切断されて形成される。プレセニリン−1(presenilin−1、以下「PS1」と略称する)は、γ−セクレターゼ及びその基質のトラフィック(traffic)を調節するか、γ−セクレターゼの主要素になり得る(Esler WP and Wolfe MS、2001、Science、293:1449−1454)。したがって、PS1はアルツハイマー病の症状の発現を遅らせるか、これを治療するための標的になると考えられた(Esler WP and Wolfe MS、2001、Science、293:1449−1454;Li YM et al.、2000、Nature、405:689−694)。しかし、γ−セクレターゼ抑制剤を使用したとき、β−セクレターゼによって切断されたカルボキシル末端切片(βCTF)が蓄積される可能性は、実際に明らかであるとはされていない。
【0003】
条件的遺伝子除去(knockout)方法に関する近年の研究においては、PS1欠損マウスの致死を回避しながらも、脳特異的にPS1が欠損された大人マウスを生産した(Yu H et al.、2001、Neuron、31:713−726;Dewachter I et al.、2002、J.Neurosci、22:3445−3453)。PS1条件的突然変異遺伝子及びAPPV717I突然変異遺伝子を共に発現する二重突然変異マウスに関する研究においては、PS1によるγ−セクレターゼ活性の除去によってAβの生産を減少させ、プラークが蓄積され、かつ、海馬LTPの不均衡から解放されたものの、APPV717I形質転換マウスで現れる記憶力の欠陷を修正できず(Dewachter I et al.、2002、J.Neurosci、22:3445−3453)、相変らず脳では増加する神経生理学的(neurophysiological)または病理学的徴候が進行された。たとえ基本的な作用機序がまだ完成されてはいないが、脳におけるγ−セクレターゼ活性減少によってβCTF99が蓄積されるということを見せることで、これがプラーク蓄積の消失から現れる認識の欠陷を誘発することに潜在的な役割をすることを提案した。しかし、APPV717I形質転換マウスで現れる他の生化学的不均衡または行動学的変化が復帰されたということに関してはまだ知られていない。ノッチ(Notch)(Naruse S et al.、1998、Neuron、21:1213−1221;Song W et al.、1999、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、96:6959−6953)及びN−カドヘリン(cadherin)プロセッシング(Marambaud P et al.、2003、Cell、114:635−645)を含む脳における公知のPS1の複合的機能の場合、二重突然変異マウスで観察される記憶力の消失がβCTF99によって完全に形成されるかに関しては確かではない。
【0004】
脳においてβCTF99を発現する突然変異マウスを研究することで、生体内βCTF99の作用に関するさらに直接的な証拠が得られる。これを確認するため、8つの個別的な研究グループにおいて、脳でヒトAPPの多様な形態のCTFを発現する形質転換マウスを製造した。これらの中4つのラインでは、12ないし28ヶ月齢で神経細胞的消失(Oster−Granite et al.、1996、J.Neurosci.、16:6732−6741;Nalbantoglu J et al.、1997、Science、387:500−505;Sato et al.、1997、Dement Geriatr Cogn Disord、8:296−307)または非正常的学習能力(Nalbantoglu J et al.、1997、Science、387:500−505;Berger−Sweeney J et al.、1999、Brain Res Mol Brain Res、66:150−162;Laronde R et al.、2002、Brain Res、956:36−44)を示したが、他の4つのラインでは神経細胞的消失または認知能力不均衡において明らかな欠陥を示していなかった(Sandhu et al.、1991、J Biol Chem.、266:21331−21334;Araki et al.、1994、Int.J.Exp.Clin.Invest.、2:100−106;Sberna et al.、1998、J.Neurochem.、71:723−731;Li et al.、1999、J.Neurochem.、72:2479−2487;Rutten et al.、2003、Neurobiol Dis.、12:110−120)。したがって、前記開発されたCTFを発現する形質転換マウスは、症状がないものからアルツハイマー病類似病理症状までの相反した結果を示すことが分かる。なぜなら、このような相反する結果の原因が確かではないため、βCTF99の生体内作用に関しては正確に定義しにくい。
【0005】
これに、本発明者らは、アルツハイマー病のモデル動物を製造するための努力を重ね、アルツハイマー病の臨床的特徴を表すのに必須のβCTF99を大量に発現する形質転換マウスを製造し、これがアルツハイマー病の臨床的特徴を効果的に表せることを確認することで本発明を完成した。
【0006】
〔発明の開示〕
〔技術的課題〕
本発明の目的は、アルツハイマー病誘発用形質転換ベクター及びこれを受精卵の核に移植して製造したアルツハイマー病誘発形質転換マウスを提供することである。
【0007】
〔技術的解決方法〕
前記の目的を達成するため、本発明は、突然変異ヒトアミロイドベータ前駆タンパク質(APP)のC末端切片(CTF)をコードする遺伝子を含むアルツハイマー病誘発用形質転換ベクターを提供する。
【0008】
また、本発明は前記形質転換ベクターをマウスの受精卵の核に移植して製造したアルツハイマー病誘発形質転換マウスを提供する。
【0009】
〔発明の効果〕
本発明の形質転換マウスは、モリスの水迷路テストでは、正常マウスに比べて認知能力が衰え記憶力が減少する結果を示し、受動的回避テストでは、記憶力維持能力が減少した。また、高架式十字迷路テストでは、正常マウスに比べて相当な不安感の増加をみせ、従来に製作されたアルツハイマー病のモデル動物よりアルツハイマー病の臨床的特徴をよく表していることを確認した。したがって、本発明において製造した形質転換マウスは、記憶力及び認知能力の減少、不安感増加のようなアルツハイマー病の臨床的特徴をそのまま表すことが分かり、アルツハイマー病のモデル動物として有用であることが分かる。
【0010】
〔発明を実施するための最良の形態〕
以下、本発明を詳しく説明する。
【0011】
本発明は、突然変異ヒトアミロイドベータ前駆タンパク質(APP)のC末端切片(C terminal fragment、CTF)をコードする遺伝子を含むアルツハイマー病誘発用形質転換ベクターを提供する。
【0012】
前記突然変異ヒトアミロイドベータ前駆タンパク質(APP)のC末端切片は、配列番号1で記載されるAPP770タンパク質の717番目アミノ酸バリン(V)をフェニルアラニン(F)で置換したV717F突然変異が誘導されたAPPV717Fタンパク質のC末端切片アミノ酸を含むタンパク質である。すなわち、突然変異誘導されたAPPV717Fタンパク質のC末端切片アミノ酸は、配列番号3で記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質であることが望ましい。本発明の望ましい実施例においては、配列番号2で記載されるAPPV717FcDNAの2番目半ば部分を鋳型として用いてPCR増幅することで配列番号3で記載される突然変異βCTF99を製造し、これを「βCTF99(V717F)」と命名した。
【0013】
また、本発明の形質転換ベクターは、PDGF−βプロモーター遺伝子、配列番号3で記載されるアミノ酸配列をコードする、突然変異遺伝子(βCTF99(V717F))及びSV40ポリアデニル化遺伝子を含むことが望ましい。前記突然変異遺伝子の前側には、翻訳効率を高めるためにコザック配列(Kozac sequence)をさらに含ませることもできる。本発明においては、PDGF−βプロモーター遺伝子、コザック配列、配列番号3で記載されるアミノ酸配列をコードする、突然変異遺伝子(βCTF99(V717F))及びSV40ポリアデニル化遺伝子を含むように形質転換ベクターを製造し、これを「PDGF−βCTF99(V717F)−polyA」と命名した(図1参照)。
【0014】
また、本発明の形質転換ベクターは、PDGF−βプロモーター遺伝子とβCTF99(V717F)遺伝子間に、さらにヒトβ−グロビン遺伝子から誘導されたイントロンB遺伝子を含むことが望ましい。前記ヒトβ−グロビン遺伝子から誘導されたイントロンB遺伝子は、突然変異遺伝子の発現効率を増加させ、転写安定度を増加させるために挿入したものであり、本発明においてはPDGF−βプロモーター遺伝子、ヒトβ−グロビン遺伝子から誘導されたイントロンB遺伝子、コザック配列、配列番号3で記載されるアミノ酸配列をコードする、突然変異遺伝子(βCTF99(V717F))及びSV40ポリアデニル化遺伝子を含むように形質転換ベクターを製造し、これを「PDGF−intron−βCTF99(V717F)−polyA」と命名した(図1A参照)。
【0015】
また、本発明は、前記形質転換ベクターをマウスに導入して製造したアルツハイマー病誘発形質転換マウスを提供する。
【0016】
本発明の形質転換マウスに導入される形質転換ベクターは、PDGF−βCTF99(V717F)−polyAまたはPDGF−intron−βCTF99(V717F)−polyAであることが望ましく、PDGF−intron−βCTF99(V717F)−polyAであることがさらに望ましい。本発明の望ましい実施例においては、前記PDGF−βCTF99(V717F)−polyAまたはPDGF−intron−βCTF99(V717F)−polyA形質転換ベクターをそれぞれC75BL/6マウスの未受精卵の前核に微細注入し、これを代理母に移植して生まれた子孫及びこれを近交配して生まれた子孫から発現されるβCTF99(V717F)突然変異遺伝子の発現様相を比べた結果、イントロンが導入されたPDGF−intron−βCTF99(V717F)−polyA形質転換ベクターが導入された形質転換マウスにおいて、より高い発現を示し、本発明のβCTF99(V717F)突然変異遺伝子を効率的に導入させて高い発現を示すためにはPDGF−intron−βCTF99(V717F)−polyA形質転換ベクターで導入することが望ましいことが分かった。
【0017】
本発明においては、PDGF−intron−βCTF99(V717F)−polyA形質転換ベクターを受精卵の核に移植して製造した形質転換マウスを「Tg−βCTF/B6」と名付け、前記マウスにおいてβCTF遺伝子の発現及びβCTFタンパク質の発現水準を分析した後、本発明の突然変異βCTF遺伝子が効果的に導入されてタンパク質水準まで発現することを確認し、2003年3月10日付で韓国生命工学研究院遺伝子銀行に寄託した(受託番号:KCTC 10609BP)。
【0018】
本発明のアルツハイマー病誘発形質転換マウス(Tg−βCTF/B6)は、海馬でカルビンジン(calbindin)とリン酸化されたCREBタンパク質の発現量が漸進的に、そして年齢依存的に減少する傾向を呈する。また、ヒトアルツハイマー病患者の脳で発見される臨床的特徴である神経変性(neurodegeneration)、運動性の減少(motor coordination defict)、認知能力消失(cognitive defict)及び不安感の増加を示す。
【0019】
まず、本発明の望ましい実施例においては、14ないし15ヶ月齢のTg−βCTF/B6形質転換マウス脳の海馬部位でカルビンジンの発現が非常に減少することを確認した(図5参照)。カルビンジンは、パルブアルブミン(parvalbumin)とカルレチニン(calretinin)とともにカルシウム結合タンパク質を構成し、これは前頭(frontal)、側頭(temporal)及び内側嗅領(entorhinal)及び海馬を含む多様な部位の脳においてGABA性(GABAergin)及びピラミッド細胞型のニューロンを示す(Mikkonen et al.、1999、Neuroscience、92:515−532)。カルシウム結合タンパク質は、これらの緩衝作用によって細胞内におけるカルシウム濃度を調節する。細胞内カルシウム濃度の恒常性が保たれなければ、正常細胞の作用が不均衡になるか神経細胞の細胞毒性を誘発する(Berridge et al.、1998、Neuron、21:13−26;Mattson、MP、1998、Trends Neurosci、21:53−57;Carafoli、E.、2002、Proc.Natl.Acad.Sci USA、99:1115−1122)。カルビンジンが欠乏されたマウスは、空間記憶力及びLTPにおいて不均衡を見せた(Molinari S et al.、1996.、Proc.Natl.Acad.Sci USA、93:8028−8033)。老化するか神経変性が起こり、脳においてカルビンジンの発現が減少し、これにより病理学的変化が起きるようになる(Iacopino A et al.、1990、Proc.Natl.Acad.Sci USA、87:4078−4082;Leuba et al.、1998、Exp Neurol.、152:278−291;Bu、J.et al.、2003、Exp Neurol.、182:220−231)。アルツハイマー病モデルが多く開発されたにもかかわらず、カルビンジンの減少と認知能力減少間の関係についての文献は、近年に製造されたヒト突然変異APPを発現する形質転換マウスに関するものしかない(Palop et al.、2003、J.Neurosci.、100:9572−9577)。したがって、本発明において確認したカルシウム結合タンパク質の減少は、認知能力の不均衡及びアルツハイマー病患者から発見される他の欠陷の原因になることが分かる。
【0020】
次に、本発明のTg−βCTF/B6形質転換マウスの海馬部位でリン酸化されたCREBの発現が減少することを確認した(図6)。海馬において、アンチセンス−オリゴデオキシヌクレオチドにより誘導されたCREB遺伝子の欠陷は長期間の記憶力形成不均衡を示し(Guzoski et al.、1997、Proc.Natl.Acad.Sci USA、94:2693−2698)、異性体CREBβの標的突然変異は非正常的な学習と記憶力を示した(Bourechuladze et al.、1994、Cell、79:59−68;Blendy et al.、1996、EMBO J.、15:1098−1106)。一方、脳におけるCREB水準の増加は長期間の記憶力維持を増進させた(Josselyn et al.、2001、J.Neurosci.、21:2404−2412)。したがって、本発明の形質転換マウスにおいて現れるリン酸化されたCREBの発現減少はアルツハイマー病患者から現れるものと同じ結果を示すことが確認でき、年齢依存的に認知力不均衡、神経変性及び不安感の増加を示すことがこのような結果によって現れることを確認し、本発明の形質転換マウスがアルツハイマー病誘発用マウスとして適していることが分かる。
【0021】
次に、本発明のTg−βCTF/B6形質転換マウスは、二重突然変異誘発形質転換マウスであるTg2576+PS1P246Lモデル(Savage et al.、2002、J.Neurosci.、22:3376−3385)において観察される症状である増加したJNK活性をそのまま示し(図3参照)、アルツハイマー病患者の脳で観察される特性をそのまま示すことを確認した(Zhu et al.、2001、J.Neurochem.、76:435−441;Savage et al.、2002、J.Neurosci.、22:3376−3385)。単一突然変異誘発形質転換マウスであるTg2576マウスまたはTg−PS1P246Lマウスは、リン酸化されたJNK活性の変化を見せなかったが(Savage et al.、2002、J.Neurosci.、22:3376−3385)、本発明の形質転換マウスはリン酸化されたJNK活性の変化を見せた。しかも、本発明の形質転換マウスの脳ではBcl−2ファミリータンパク質の発現不均衡を見せた(図4参照)。本発明の形質転換マウスの脳においては、Bcl−2、Bad及びBaxタンパク質の発現がかなり増加する一方、Bcl−xタンパク質の発現は減少してBcl−2ファミリータンパク質の発現不均衡を見せていることが分かった。したがって、本発明の形質転換マウスで観察されるBcl−2ファミリータンパク質の発現不均衡は、アルツハイマー病患者から見られる症状と類似であり(Nagy et al.、1997、Neurobiol Aging、18:565−571;Kitamura et al.、1998、Brain Res.、780:260−269)、本発明の形質転換マウスがアルツハイマー病のモデル動物として有用であることが分かる。
【0022】
また、本発明の形質転換マウス(Tg−βCTF/B6)は、アルツハイマー病の臨床的特徴である運動性の減少(motor coordination defict)、認知能力の消失(cognitive defict)及び不安感の増加を示した(図8ないし図10参照)。本発明の望ましい実施例においては、本発明のTg−βCTF/B6形質転換マウスがアルツハイマー病の臨床的特徴を示すかを確認するため、認知能力を分析できる開放範囲(Open field)テスト、ロタ−ロッド(Rota−rod)テスト、モリス水迷路(Morris water maze)テスト及び受動的回避(Passive avoidance)テストを行い、不安感の増加症状を分析するために高架式十字迷路(elevated plus maze)テストを行った。その結果、開放範囲テストでは、正常マウスと移動能力において特に差がなかったが(図8A参照)、ロタ−ロッドテストでは、正常マウスに比べて運動均衡能力において少し減少したことを示すものの有意性は示さなかった(図8B参照)。モリス水迷路テストでは、正常マウスに比べて認知能力が衰えて記憶力が減少する結果を示し(図9AないしC参照)、受動的回避テストでは記憶力維持能力が減少した(図9D参照)。また、高架式十字迷路テストでは、正常マウスに比べて不安感がかなり増加した(図10参照)。したがって、本発明において製造した形質転換マウスは、記憶力及び認知能力の減少、不安感の増加のようなアルツハイマー病の臨床的特徴をそのまま示すことが分かり、アルツハイマー病のモデル動物として有用であることが分かる。
【0023】
〔発明の実施のための形態〕
以下、本発明を実施例により詳しく説明する。
【0024】
但し、下記の実施例は本発明を例示するものであるだけであり、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>ヒトアミロイドベータ前駆タンパク質cDNA遺伝子の確保及びβCTF99突然変異遺伝子の製造
<1−1>ヒトアミロイドベータ前駆タンパク質cDNA遺伝子の確保
ヒトアミロイドベータ前駆タンパク質(homo sapiens amyloid beta precursor protein。以下「APP」と略称する)をコードするcDNA遺伝子をヒト脳で構築されたマラソン−レディーライブラリー(Marathon−Ready cDNA library、Clontech、Palo Alto、CA、USA)からPCR増幅して製造した。前記cDNAはAPP770を基準として開放読み取り枠(open reading frame、ORF)の大きさが約2.3kbであるため、一度に増幅しにくく、前記cDNAを2つの部分に分けて前半部は配列番号6で記載されるapp−1fプライマー(5’−gcaagggtcgcgatgctgcccggtttg−3’、下線はNruI制限酵素認識部位を示す)及び配列番号9で記載されるapp−2rプライマー(5’−gacattctctctcggtgcttggcc−5’)で増幅してからNurI及びXhoIで切断した後、pBluescriptII KSベクター(Stratagene、USA)のSmaI及びXhoI制限酵素認識部位を用いて挿入し、後半部は配列番号8で記載されるapp−2fプライマー(5’−cctaccacagcagccagtacccctg−3’)及び配列番号7で記載されるapp−1rプライマー(5’−gggggactagttctgcatctgctc−3’、下線はSpeI制限酵素認識部位を示す)で増幅してからSpeI及びXhoIで切断した後、pBluescriptII KSベクターのSpeI及びXhoI制限酵素認識部位を用いて挿入した。前記cDNAの前半部がクローニングされたpBluescriptII KSベクターをBamHI及びXhoIで切断して生成されたDNA切片と、後半部がクローニングされたpBluescriptII KSベクターをXbaI及びXhoIで切断して生成されたCNA切片とを、XbaI及びBamHIで切断されたpBluescriptII KSベクターとともに結紮して全長APP cDNAが挿入されたベクターコンストラクトを製造した。一方、選択的スプライシングによって、ヒトベータアミルロイドの同一遺伝子からコードされるタンパク質のアミノ酸残基の個数に応じて3つの異なる形態の異性体が生成される。すなわち、コードされるタンパク質のアミノ酸残基の個数に応じ、APP cDNAにはAPP770、APP751及びAPP695が存在する。前記クローニングされたcDNAをDNA塩基配列分析を通じて確認した結果、前記3つの異性体の中、APP751(配列番号2)をコードする配列番号1で記載されるAPP751 cDNAであることが確認できた。
【0026】
<1−2>APP751突然変異遺伝子の製造
APP751 cDNAにPCR方法で「V717F突然変異(APP770異性体を基準として717番目アミノ酸がバリンからフェニルアラニンに置換された突然変異)」を導入した。具体的に、前記実施例1−1で製造したAPP751 cDNAの後半部がクローニングされたpBluescriptII KSベクターを鋳型にして配列番号8で記載されるapp−2fプライマーと配列番号11で記載されるapp−717−rプライマー(5’−caaggtgatgaagatcactgtcgc−3’)で95℃で1分間熱変性、57℃で40秒間プライマー結合、72℃で1分間伸長反応を32回繰り返す条件でPCR反応を施した。その後、配列番号12で記載されるapp717−fプライマー(5’−gcgacagtgatcttcatcaccttg−3’)と配列番号7で記載されるapp−1rプライマー対を用いて前記と同じ条件でPCR反応を施した。前記2つのPCR反応の結果生成されたPCR産物は「V171F突然変異」部分を共通の配列として有しているので、前記2つのPCR産物を分離させた後、徐冷して、クレノウ酵素で延長して1つの切片に連結した。その後、前記繋がれた切片をapp−2fプライマー上に存在するXhoI制限酵素認識部位、及び、app−1rプライマーに挿入されたSpeI制限酵素認識部位を用いてXhoI及びSpeIで切断し、同様にあらかじめXhoI及びSpeIで切断したAPP cDNAの後半部が挿入されたpBluescriptII KSベクターに挿入し、突然変異APP751後半部cDNAを製造した。一方、突然変異が誘発された前記DNA切片でAPP751 cDNA全長が挿入されたpBluescriptII KSベクターの該当部位を置換して配列番号4で記載されるタンパク質をコードする配列番号3で記載される突然変異APP751 cDNAを製造し、これを「hAPP(V717F)」と命名した。突然変異されたhAPP(V717F)遺伝子の塩基配列はDNA塩基配列分析を通じて確認した。
【0027】
<実施例1−3>βCTF99突然変異遺伝子の製造
配列番号1で記載されるヒトアミロイドベータ前駆タンパク質の717番目アミノ酸部位にV717F突然変異が誘導され、前記タンパク質のC末端アミノ酸配列を含むタンパク質を製造しようとした。具体的に、配列番号2で記載されるAPPタンパク質にインディアナ突然変異を誘導したAPP751V717Fタンパク質(配列番号4)をコードするcDNA(配列番号3)を鋳型にして、C末端(672番目から751番目)断片をPCR増幅して突然変異遺伝子を製造した。前記実施例1及び2で製造したhAPP(V717F) cDNAが挿入されたベクターを鋳型にして配列番号24で記載されるプライマーapp99f(5’−cgaattcgatgcagaattcc−3’)と配列番号7で記載されるappr−1rプライマーで95℃で1分間熱変性、57℃で40秒間プライマー結合、72℃で1分間伸長反応を32回繰り返す条件でPCR反応を施した。生成されたPCR産物はEcoRI及びSpeIで切断し、EcoRI及びSpeIで切断されたpBluescriptII KSベクター(Stratagene)で連結した。突然変異誘導されたAPPタンパク質のC末端タンパク質は、配列番号10で記載されるタンパク質であり、これをコードする配列番号5で記載される突然変異遺伝子を「βCTF99」と命名した。突然変異された遺伝子の塩基配列はDNA塩基配列分析を通じて確認した。
【0028】
前記製造された突然変異に信号ペプチドを挿入するため、信号ペプチドを有しているpKS−aap696−1/2ベクターを鋳型にして信号ペプチド部位をPCR増幅した。PCR増幅に用いたプライマーとしては、BglII認識部位を有している配列番号22で記載されるapp−sig−1fプライマー及びEcoRI認識部位を有している配列番号23で記載されるapp−sig−1fプライマー対を使用し、95℃で1分間熱変性、55℃で1分間プライマー結合、72℃で1分間伸長反応を32回繰り返す条件でPCR反応を施した。PCR増幅された産物はBglIIで切断した後、クレノウ酵素で平滑化してEcoRIで切断し、pBluescriptII KSベクター(Stratagene)のBamHIで切断した後、クレノウ酵素で平滑化してEcoRIで切断した位置にサブクローニングした。
【0029】
また、前記信号ペプチドタンパク質の翻訳効率を高めるため、前記信号ペプチドが挿入されたpBluescriptII KSベクターを鋳型にしてXbaI認識部位及びコザック配列(Kozak sepuence、GACC)を有している配列番号15で記載されるapp−koz−fプライマー及びNotI認識部位を有している配列番号21で記載されるapp−koz−fプライマー対を用いてPCR増幅することで、信号ペプチドの開始コドン(ATG)の前にコザック配列(Kozak sequence、GACC)を挿入した。前記PCR増幅された産物をXbaI及びNotIで切断した後、XbaI及びNotIで切断されたpBluescriptII KSと連結してpKS−kozappsigベクターを製作した。製作されたベクターをEcoRIで切断し、前記製作されたβCTF99ベクターをEcoRIで切断して連結させれば、信号ペプチドとβCTF99が結合された融合タンパク質を生産するベクターが製作される。このようにコザック配列、信号ペプチド、インディアナ突然変異誘導されたβCTF99タンパク質をコードする遺伝子順に製造された再組み換えタンパク質を「βCTF99(V717F)」と命名した。
【0030】
<実施例2>βCTF99(V717F)突然変異遺伝子を含む形質転換用発現カセットの製造
アルツハイマー性痴呆動物モデルを生産するため、βCTF99(V717F)突然変異遺伝子を含む形質転換用発現カセットを製造した。具体的に、まず、配列番号13で記載されるSV40pA−fプライマー(5’−tccccgcggrccagacatgataagatacattga−3’、下線はSacII制限酵素認識部位を示す)と配列番号14で記載されるSV40pA−rプライマー(5’−gttcgagctcataatcagccataccacatttg−5’、下線はSacI制限酵素認識部位を示す)でpGK−neo−pAベクター(Lee et al.、J.Neurosci.、2002、15:7931−7940)を増幅して、突然変異遺伝子のポリアデニル化信号のための大きさ247bpのSV40−pA切片を収得し、これをSacII及びSacIで切断し、pBluescriptII KSベクターに挿入した。次いで、psisCAT6aベクター(Sadahara、M.et al.、Cell、1991、64(1):217−27)をXbaIで切断した後、クレノウ酵素で平滑化してHindIIIで切断し、ヒト血小板来由成長因子ベータ(platlet−derived growth factor−beta、PDGF−beta)プロモーター切片を収得した。その後、SalIで切断した後、クレノウ酵素で平滑化してHindIIIで切断したpBluescriptII KSベクターに前記収得したPDGF−betaプロモーター切片を挿入した。次いで、前記PDGF−betaプロモーター切片が挿入されたpBluescriptII KSベクターをKpnI及びHindIIIで切断して収得した大きさ約1.5kbのPDGF−betaプロモーター切片を、前記SV40 pA部位が挿入されたpBluescriptII KSベクターのKpnI及びHindIII部位を通じて挿入した。このようにして生成されたベクターは、pBluescriptII KSベクターの多重クローニング部位(multicloning site)の両側にそれぞれPDGF−betaプロモーター及びSV40−pA部位が存在する構造になる。前記のように製造されたベクターに、開始コドンの前方にコザック配列(Kozak sequence、GACC)を有する前記実施例1で製造したβCTF99(V717F)遺伝子を挿入して形質転換用発現カセットを製造した。最終的に、PDGF−βプロモーター−βCTF99(V717F)−pAの順に発現カセットを製作し、これを「PDGF−βCTF99(V717F)−pA」と命名した(図1A)。
【0031】
<実施例3>イントロンとβCTF99(V717F)突然変異遺伝子を含む形質転換用発現カセットの製造
イントロン(intron)は、突然変異遺伝子の発現効率を増加させ、転写安定度を増加させる。これに、本発明の突然変異遺伝子をより効率的に動物に導入させるため、ヒトβ−グロビン遺伝子(human β−globin gene)から誘導されたイントロンB遺伝子(918 bp)(Choi et al.、Molecular and cellular biology、June 1991、p.3070−3074;Palmiter et al.、PNAS、1991、88:478−482)を前記実施例2で製造した発現用カセットに導入した。具体的に、ヒト神経芽細胞腫(neuroblastoma)細胞株SH−SY5YからゲノムDNAを分離した後、配列番号16で記載されるhglob−fプライマーと配列番号17で記載されるhglob−rプライマー対を用いてヒトβ−グロビン遺伝子のイントロンB遺伝子を増幅した。増幅されたヒトβ−グロビン遺伝子のイントロンB遺伝子産物(918 bp)をpGEM−T Easyベクター(Promega、Madison、WI、USA)にサブクローニングし、これを前記実施例2で製造したPDGF−βCTF99(V717F)−pA発現用カセットのPDGF−βプロモーター遺伝子とβCTF99(V717F)遺伝子間に挿入させた。このようにして製造された形質転換用発現ベクターを「PDGF−βCTF99(V717F)−pA」と命名した(図1A)。
【0032】
<実施例4>形質転換動物生産
前記実施例2で製造したPDGF−βCTF99(V717F)−pA発現カセットと前記実施例3で製造したPDGF−intron−βCTF99(V717F)−pA発現カセットとを制限酵素(BssHII)で切断し、大きさ約3.1kbの線形化された切断産物を収得した後、近交配(inbred)C57BL/6マウスの受精卵(fertilized egg)の前核(pronuclei)に微細注入(microinjection)した。注入された受精卵はICR代理母マウスの卵管(oviduct)へ伝達された。本発明で用いた微細注入方法のような形質転換動物製作過程は、通常の方法によって行った(Games et al.、Nature、1995;Hisao et al.、Science、1996)。
【0033】
<実施例5>突然変異遺伝子の受精卵の核移植の確認
前記実施例4において施した形質転換動物製作によって生まれた子孫(F1)のしっぽからゲノムDNAを分離した後、ゲノムPCR増幅を通じて突然変異遺伝子の受精卵の核移植を確認した。具体的に、イントロンを含まない発現カセット(PDGF−βCTF99(V717F)−pA)を導入して生まれた子孫の分析には、配列番号18で記載されるtrapp−fsプライマーと配列番号19で記載されるtrapp−r1プライマー対を用いてPCR増幅反応を施し、イントロンを含む発現カセット(PDGF−intron−βCTF99(V717F)−pA)を導入して生まれた子孫の分析には、配列番号20で記載されるtrint−f1プライマーと配列番号14で記載されるsv40pA−r1プライマー対を用いてPCR増幅反応を施した。
【0034】
その結果、イントロンを含まない発現カセット(PDGF−βCTF99(V717F)−pA)を導入して生まれた子孫は16匹に前記発現カセットが導入されたことを確認したし、イントロンを含む発現カセット(PDGF−intron−APP(Sw、V717F)−pA)を導入して生まれた子孫は2匹で前記発現カセットが導入されたことを確認した。
【0035】
次に、サザンブロット分析を通じて本発明の発現カセットが導入されたことを確認した。具体的に、前記実施例4で施した形質転換動物製作によって生まれた子孫(F1)のしっぽからゲノムDNAを分離した後、15μgのゲノムDNAを制限酵素SpeIで切断した。切断されたゲノムDNAをアガロースゲルに電気泳動した後、ニトロセルロースメンブレインに伝達させ、APP cDNAのC末端SpeI切片(350 bp)を32Pで同位元素標識させたプローブを用いて混成化反応を施した後、X−rayフィルムに現像した。
【0036】
その結果、前記ゲノムPCRで分析したように、イントロンを含まない発現カセット(PDGF−βCTF99(V717F)−pA)を導入したマウスにおいては、16匹に前記発現カセットが導入されたし、イントロンを含む発現カセット(PDGF−intron−βCTF99(V717F)−pA)を導入したマウスにおいては、2匹で前記発現カセットが導入されたことを確認した(図1B)。
【0037】
前記ゲノムPCR及びサザンブロット分析を通じて本発明の突然変異βCTF99(V717F)遺伝子が導入されたことを確認した形質転換マウスは、C57BL/6マウスと近交配して繁殖させた。
【0038】
<実施例6>形質導入された遺伝子の発現分析
本発明において製造した形質転換動物にβCTF99(V717F)突然変異遺伝子が導入され遺伝子が発現するかを確認するため、形質導入確認されたマウスの脳から全体RNAを分離した後、ノーザンブロット分析を行った。ノーザンブロット分析方法はリ等の方法(Lee et al.、J Neurosci、2002、15:7931−7940)に従って行った。具体的に、前記実施例4及び実施例5で突然変異βCTF99(V717F)遺伝子が形質導入されたことを確認した2ヶ月齢のマウス及び正常マウスから全体RNAを分離した。全体RNAはトリゾール溶液(Trizol reagent)(Sigma、St.Louis、MO、USA)を用いて分離し、分離した30μgの全体RNAを1%変性(denaturing)アガロースゲル(1%アガロース、6.2%formaldehyde in 1 MOPS)で電気泳動した。電気泳動されたアガロースゲルのRNAを、ニトロセルロースメンブレインに伝達させた後、前記実施例5のサザンブロット分析で用いたAPP cDNAのC末端SpeI切片(350 bp)を32Pで同位元素標識させたプローブを用いて混成化反応を施した後、X−rayフィルムに現像した。前記プローブDNAは内部APP転写体(〜3.5kb)及び突然変異βCTF99(V717F)転写体(〜700kb)を共に認識できるプローブである。
【0039】
その結果、イントロンを含むか、または、含まない突然変異βCTF99(V717F)遺伝子を形質導入したマウスは、内部APP遺伝子の発現に比べ突然変異APP遺伝子の転写体発現が大部分高く現れた。その中でも、イントロンを含む突然変異βCTF99(V717F)遺伝子を形質導入したマウス(特に、F17と命名したマウス)の場合、βCTF99(V717F)の発現量が非常に高く現れた(図1C)。このようにイントロンを含み高い水準のβCTF99(V717F)突然変異遺伝子を発現する形質転換マウスを「Tg−βCTF99/B6」と命名し、以後の実験で用いた。
【0040】
また、前記形質転換マウスTg−βCTF99/B6を2003年3月10日付で韓国生命工学研究院遺伝子銀行に寄託した(受託番号:KCTC 10609BP)。
【0041】
<実施例7>形質導入された遺伝子から生産されるタンパク質の確認
前記実施例6において、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換動物がβCTF99(V717F)突然変異遺伝子を発現することを確認し、このように発現された遺伝子がタンパク質として生産されるかを確認するために、4ヶ月齢ないし5ヶ月齢のTg−βCTF99/B6マウス及び対照群正常マウスの脳から全体タンパク質を分離した後、ウエスタンブロット分析を行った。ウエスタンブロット分析はリ等の方法(Lee et al.、Brain Res Mol Brain Res、1999、70:116−124)によって行った。具体的に、マウスの脳組織を摘出した後、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(phenylmethylsulfonyl fluoride)及びプロテアーゼ抑制剤カクテル(CompleteTM;Roche、Mannheim、Germany)を含む4℃で保管された溶解緩衝液(50mM Tris−HCl、pH 8.0、150mM NaCl、1% NP−40、0.1% SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)に入れて均質化させた。均質化された脳のサンプルを13,000 rpmで4℃で20分間遠心分離した後、上澄液を収得した。上澄液に含まれたタンパク質をBCA定量キット(Sigma、St.Louis、MO、USA)を用いて測定した。30μgのタンパク質をアクリルアミドゲルに電気泳動させた後、PVDFメンブレイン(Bio−Rad、Hercules、CA、USA)に伝達させた。タンパク質の伝達されたメンブレインは5%脱脂粉乳、2%BSA、4%FBS、4%馬血清及び4%ヤギ血清を含むTris緩衝された食塩水及び0.1%Tween 20でブロッキングさせた。突然変異βCTF99(V717F)タンパク質の生成を確認するため、約12kD βCTF99タンパク質を認識するポリクローナル抗体(A8717;Sigma、St.Louis MO、USA)及び約10kD αCTF83(p3切片)タンパク質を認識するポリクローナル抗体(51−2700:Zymed、San Francisco、CA、USA)を用いて免疫反応させた。前記βCTF99タンパク質及びαCTF83タンパク質はそれぞれ正常マウスにあるβ−セクレターゼ及びα−セクレターゼへの活性によって生成されるタンパク質である。また、免疫分析はECL検出試薬(Santa Cruz、CA、USA)を用いて検出した。
【0042】
βCTF99を検出するためには、マウスの脳を摘出した後、50mM Tris、pH 8.0、175mM NaCl、5mM EDTA、2mM フッ化フェニルメチルスルホニル(phenylmethylsulfonyl fluoride)及びプロテアーゼ抑制剤(CompleteTM;Roche、Mannheim)を含むTris緩衝された生理食塩水(TBS)に1:10(g/vol)割合で入れた後、均質化させた。50μgのタンパク質サンプルを同量の10%β−メルカプトエタノールを含む2×Laemmliサンプル緩衝液と混合した後、10分間沸騰させ16.5%Tris/tricineアガロースゲルに電気泳動させた(Li et al.、1999)。電気泳動が終わったゲルのタンパク質をPVDFメンブレインに伝達させた後、ポリクローナル抗−CTF抗体で混成化反応させた。免疫ブロットはECL検出試薬を用いて検出した。
【0043】
その結果、Tg−βCTF99/B6形質転換マウスの脳では、βCTF99タンパク質及びαCTF83タンパク質の生産が正常マウスに比べて相当量増加した。また、ウエスタンブロット分析を通じて現れたβCTFタンパク質の発現量をデンシトメータを用いてコンピュータープログラムを使って分析した結果、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの脳においては、βCTF99タンパク質及びαCTF83タンパク質の発現量が内部βCTF99タンパク質及びαCTF83タンパク質の発現量に比べ、それぞれ2.63±0.37倍及び2.61±0.2倍ほどさらに高く現れた(図2A)。
【0044】
<実施例8>形質転換マウス脳の免疫組職学的分析
免疫組職学的分析を行うため、マウスは0.9%生理食塩水で上行大動脈に還流させ、続けて4%パラホルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸緩衝液(以下「PB」と略称する、pH 7.4)を還流させた。次いで、4℃で固定溶液に固定させた。固定された脳は、切断機(vibratome)を用いて40μmの厚さに切断した。切断されたセクション(section)を0.1 M PB(pH 7.4)に溶かした3%過酸化水素溶液で30分間反応させ、PBで洗浄した。洗浄されたセクションは、5%正常ヤギ血清、2%BSA、2%FBSを含む溶液で2時間常温でブロッキングさせた。ブロッキング緩衝液に一次抗体を入れた後、4℃で一晩中反応させた。PB溶液で洗浄した後、1:200倍に希釈したビオチン化された二次抗体を入れ、次に1:100倍に希釈したアビジン及びビオチン化されたHRP複合体(Vector Laboratories、Burlingame、CA)を入れて1時間反応させた。その後、発色反応を誘導するため、0.05% 3,3’−ジアミノベンジジン(diaminobenzidine)及び0.001%過酸化水素を含む0.1 M Tris(pH 7.4)溶液を処理した。分析した脳組織としては、大脳皮質(cerebral cortex、以下「CX」と略称する)、CA1ないしCA3部位のピラミッド細胞(以下「CA1」ないし「CA3」と略称する)、海馬(hipocampus、以下「HP」と略称する)、歯状回(dentate gyrus、以下「DG」と略称する)部位を用いた。
【0045】
その結果、本発明のTg−βCTF/B6形質転換マウスは、大脳皮質を含む脳全体の神経細胞でβCTF99タンパク質の発現が増加した(図2B及びC)。しかし、18ヶ月齢までのTg−βCTF/B6形質転換マウスの脳では、プラーク類似Aβ−沈着が確認できなかった。そして、Tg−βCTF/B6形質転換マウスの約92%は480日以上まで生存し、対照群正常マウスに比べて致死率が増加するものの既存の形質転換マウスに比べてより長く生きることができ、動物モデルとしてさらに効果的に使用できることが分かった。
【0046】
<実施例9>形質転換マウス脳における他のタンパク質の発現変化分析
突然変異βCTF99(V717F)タンパク質の導入により、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの脳において発現の影響を受けたタンパク質を分析しようとした。具体的に、前記実施例7に記載されたウエスタンブロット分析方法と同様に脳組職を用いてウエスタンブロット分析を行った。分析時用いた抗体としては、抗−リン酸(phospho)−JNK抗体(9251S;Cell Signaling、Beverly、MA、USA)、抗−リン酸−c−Jun抗体(9261S;Cell Signaling)、抗−リン酸−p38抗体(9211S;Cell Signaling)、抗−JNK3抗体(06−749;Upstate Biotechnology、Lake placid、NY、USA)、抗−CREB抗体(Upstate Biotechnology)、抗−リン酸−CREB抗体(Upstate Biotechnology)、抗−MAP2抗体(Upstate Biotechnology)、抗−カルビンジン(calbindin)抗体(C9848;Sigma、St.Louis、MO、USA)、抗−パルブアルブミン(parvalbumin)(P3088;Sigma)、抗−カルレチニン(calretinin)抗体(AB5054;Chemi−Con、Temecula、CA、USA)、抗−JNK1抗体(15701A;Pharmingen、San Diego、CA、USA)、抗−JNK2抗体(sc−572;Santa Cruz Bio−Technology、Santa Cruz、CA、USA)、抗−リン酸−ERK抗体(sc−7383;Santa Cruz Bio−Technology)、抗−ERK抗体(sc−154;Santa Cruz Bio−Technology)、抗−Bcl−2抗体(sc−783;Santa Cruz Bio−Technology)、抗−Bad抗体(sc−942−G)、抗−Bax抗体(sc−6236;Santa Cruz Bio−Technology)、抗−Bcl−xL(sc−7195;Santa Cruz Bio−Technology)を用いた。
【0047】
アルツハイマー病の脳ではリン酸(phospho)−JNKタンパク質の発現が増加すると知られている(Zhu et al.、2001、J Neurochem.、76:435−441;Savage et al.、2002、J Neurosci.、22:3376−3385)。それ故に、本発明の形質転換マウスの脳でリン酸−JNKタンパク質の発現がいかに変化するかを調べるためにウエスタンブロット分析した結果、15ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの脳では、リン酸−JNKタンパク質及びリン酸−c−Junタンパク質の発現量が同一年齢の対照群正常マウスに比べて増加した一方、JNK1、JNK2、JNK3、リン酸−ERK、ERK及びリン酸−p38の発現量は変化しなかった(図3)。
【0048】
Bcl−2及びBcl−xLタンパク質は抗−細胞死滅作用をし、Bax及びBadタンパク質は前駆−細胞死滅作用をし、前記4つの遺伝子はB−細胞白血病−2(Bcl−2)ファミリータンパク質に属する(Davies et al.、1995、Trend Neurosci.、18:355−358)。それ故に、本発明の形質転換マウスの脳でBcl−2ファミリータンパク質の発現様相の変化を確認するためにウエスタンブロット分析した結果、14ヶ月齢ないし16ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの脳では、Bcl−2、Bad及びBaxタンパク質の発現量が対照群正常マウスに比べてかなり増加したが、Bcl−xLタンパク質の発現は減少した(図4A)。したがって、本発明のβCTF99(Ld)突然変異遺伝子の導入によってBclタンパク質の発現が不均衡になることが分かった。また、前記結果を基に、Badタンパク質及びBaxタンパク質の発現が海馬のピラミッド細胞レイヤーであるCA1部位でいかに発現されるかを調べるため、前記実施例8と同様に組職免疫学的分析を行った結果、前記ウエスタンブロット分析のようにCA1部位でBadタンパク質及びBaxタンパク質の発現が増加することが分かった(図4B)。
【0049】
アルツハイマー病患者の脳では、カルシウム−結合タンパク質の発現が増加すると知られている(Anthony et al.、1990、Proc.Natl.Acad.Sci USA.、87:4078−4082;Mikkonen et al.、1999、Neuroscience、92:515−532;Bu et al.、2003、Exp Neurol.、182:220−231)。それ故に、カルシウム結合タンパク質であるカルビンジン、パルブアルブミン、カルレチニンの発現水準をウエスタンブロット及び免疫組職学的分析で分析した結果、14ヶ月齢ないし16ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの海馬部位、CA1、CA3部位及び歯状回部位(DG)においては、カルビンジンの発現量が対照群正常マウスに比べて減少した(図5A−ウエスタンブロット、図5B−免疫組職学的に分析)。また、カルビンジンの発現は4ないし5ヶ月齢のマウスでは検出できず、パルブアルブミンとカルレチニンの発現は対照群正常マウスと差がなかった。
【0050】
アルツハイマー病患者の脳では、全体CREBタンパク質の変化とは関係なくリン酸化されたCREBタンパク質(phospho−CREB)の発現水準が減少すると知られている(Yamamoto−Sasaki et al.、1999、J Neurosci.、22:1858−1867)。また、神経細胞的活性中のCREBタンパク質の発現増加は長期間のシナプス可塑性(synaptic plasticity)、特に海馬−基礎的記憶力を誘導すると知られている(Mayford et al.、1999、Trends Genet.、15:463−470;Colombo et al.、2003、J Neurosci.、23:3547−3554;Viola et al.、2000、J Neurosci.、20:RC112(1−5))。それ故に、本発明の形質転換マウスにおけるリン酸化されたCREBタンパク質の発現をウエスタンブロット及び免疫組職学的に分析した結果、14ヶ月齢ないし16ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの脳では、全体CREBタンパク質の量は変化しなかったが、リン酸化されたCREBタンパク質は海馬部位、CA1部位及び大脳皮質(CX)部位で正常マウスに比べ発現量が減少した(図6A−ウエスタンブロット、図6AないしK−免疫組職学的分析)。しかし、5ないし7ヶ月齢の形質転換マウスにおいては正常マウスと同様な発現量を示した。
【0051】
次に、本発明のβCTF99(V717F)突然変異遺伝子が神経細胞的減少に影響を与えるか否かを確認するために神経細胞特異的マーカーであるMAP−2タンパク質の発現様相を分析した結果、15ないし18ヶ月齢の本発明の形質転換マウスの大脳皮質(CX)及び海馬のCA1部位では、MAP−2タンパク質の発現量が減少して神経細胞形成過程に影響を与えたことが分かった(図7AないしH)。しかし、7ヶ月齢の形質転換マウスにおいては、前記のような明白な差は確認できなかった。
【0052】
次に、本発明のβCTF99(Ld)突然変異遺伝子が神経細胞的変性に影響を与えるか否かを確認するためにNeuタンパク質の発現様相を分析した結果、11ないし12ヶ月齢には生存する神経細胞の数が約5ないし10%減少し、18ヶ月齢には生存する神経細胞の数が25%程度減少して漸進的な神経細胞変性(neuronal degeneration)を起こすことが分かった(図7I)。
【0053】
<実施例10>形質転換マウスの認知機能分析
アルツハイマー病患者の組職病理学的特徴は(1)細胞外老人斑(extracellular senile plaques)の沈着、(2)細胞内神経原線維濃縮体(intracellular neurofibrillary tangle)の形成、(3)神経細胞の突起及びシナプスの退化及び神経細胞の消失などが挙げられ、このような特徴は組職学的方法で検査可能である。アルツハイマー病の他の生理的特徴は(4)神経細胞消失による脳機能の喪失であり、特に認知機能の喪失はアルツハイマー病の最も特徴的かつ重要な外形的、臨床的症状として見なされる。したがって、最も理想的なアルツハイマー病痴呆動物モデルが取り揃えなければならない部分は、老人斑の沈着のような組職学的特徴も重要ではあるが、認知機能が低下する特徴を見せることも重要である。それ故に、本発明者らは、痴呆モデルの候補動物の認知知能の喪失有無を判定するのに使うため、モリス水迷路(Morris water maze)テスト、受動的回避(passive avoidance)テスト、開放範囲(open field)テストなどを適用して調査した。
【0054】
認知機能の分析を行うためのマウスは、温度及び湿度が調節された環境において12時間間隔の昼/夜サイクル(朝7時に点灯)に合わし、動物の飼育は梨花女子医科大学の動物飼育指針に従って行った。コンピューター化されたビデオ−トラッキングシステム(SMART;Panlab S.I.、Barcelona、Spain)を用いてマウスの行動を評価した。
【0055】
すべての実験を行った後、2つのサンプルの結果を比べるために、スチューデントt−テストを行い、複合比較のためには単一方向ANOVAテストを行い、ニューマン・クールズ(Newman−Keuls)複合範囲テストを引き継いで行った。すべてのデータは平均±S.E.M.で示し、統計的相違点は他の表示がなければ5%水準で受容した。
【0056】
<10−1>開放範囲テスト(Open field test)
移動性能力は白のプレキシグラス(Plexiglas)チェンバー(45×45×40cm)の開放範囲で測定した。チェンバーの照明は70ルクス(lux)に調整した。マウスを開放範囲に露出させる30分前に同じ環境に位置させた。各マウスは個別的に開放範囲の中央に位置させ、60分間移動を記録した。水平的移動活動力は、マウスの移動距離をもって判断した。内部30%範囲は中央部分と判断した。
【0057】
その結果、7ヶ月齢または11ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの運動性は対照群正常マウスと差がなかった。そして、14ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの運動性は、対照群正常マウスに比べて増加したが有意性はなかった(図8A)。また、開放範囲の中央に接近する程度(不安感に対する指標の1つ)の場合も大差を見せなかった。
【0058】
<10−2>ロタ−ロッドテスト(Rota−rod test)
運動調整能力(motor coordination)と運動学習能力(motor learning)は、ロタ−ロッド(rota−rod)テストを通じて測定された。ロタ−ロッドは速度調節機を有する回転シリンダ(直径:4.5cm)で構成されている。マウスは堅いグリップが提供されるシリンダの一番の上に位置させた。ロタ−ロッドは5ないし20rpmの速度で固定して回転させ、漸進的に速度を高める状態にマウスを位置させてテストを行った。カット−オフ(cut−off)時間は3分にし、試行間間隔は60分にした。落ちずにロッドにとどまる時間を測定した。
【0059】
その結果、5.5ヶ月齢において対照群マウスと本発明の形質転換マウスとで運動均衡能力の差が現れなかった。しかし、11ヶ月齢においては、対照群に比べて本発明の形質転換マウスで運動均衡能力が少し減少したものと示されたが有意性を示してはいなかった(図8B)。
【0060】
<10−3>モリス水迷路テスト(Morris water maze test)
モリス水迷路テストは、遠い距離の刺激及び隠された脱出プラットホーム間の関係を学習して憶える動物の能力に依存する海馬−依存的遂行方法である(Morris et al.、1982、Nature、297、701)。すなわち、モリス水迷路テストは、マウスが強制に泳ぐか、または、プラットホームに安着している間に覚えた周辺の空間的な指標を用いてプラットホームの位置をいかに早く見つけ出すかを測定することで、マウスの空間認知能力をプラットホームに辿り着くまで永ぐ間の運動した距離または時間を測定して定量的に比べる方法である。この場合、必要によってマウスがプールに進入する位置を変えることもあり、既存に位置した座標から他の座標にプラットホームの位置を変化させて空間的な指標の位置をそのままにして記憶力の検索だけを行い得る。具体的に、水迷路器具は直径90cmのシリンダプールで構成され、プールには22℃の牛乳を混ぜた水を溜め、目視では見えないようにした。不透明な水の表面から四分円の1.5cm下に10cm直径のプラットホームを隠しておいた。プールは幾多の条件の環境及び窓、椅子及びポスターを含む人為的暗示(cue)を有する部屋に位置させた。毎日のテスト過程で、マウスはそれぞれの四分面に成功的に到逹するようにし、最大90秒間永ぐようにした。プラットホームに到着すれば、マウスは次の訓練が始まるまでプラットホームで30秒間休ませた。前記2つの各訓練において、プラットホームを見つけ出すまでの潜伏期及び訓練の平均を記録した。
【0061】
その結果、7ヶ月齢、11ヶ月齢及び14ヶ月齢の対照群正常マウスは、モリス水迷路にある隠されたプラットホームの位置する座標を認識でき、このような成果は訓練の回数に比例して認識能力が増加した。しかし、7ヶ月齢、11ヶ月齢及び14ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの場合、モリス水迷路にある隠されたプラットホームが位置していた座標を認識する能力が同一年齢の対照群正常マウスに比べかなり衰えて座標を認識する時間が長くなり、毎日の差は有意性を示さなかった(図9A及びB)。しかし、7ヶ月齢、11ヶ月齢及び14ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスのスイミング速度は、対照群マウスと差がなかった(図9C)。したがって、前記結果を通じてTg−βCTF99/B6形質転換マウスは、正常マウスに比べ認知能力の欠陷が増加することが分かった。
【0062】
<10−4>受動的回避テスト(Passive avoidance test)
マウスは暗い所を好む性質があり、明るいチェンバーと暗いチェンバーの中の1つを選択させると素早く暗いチェンバーに移動して行く。マウスが明るいチェンバーから暗いチェンバーに移動した後、強い電気刺激を与え(すなわち、訓練後)、再び明るいチェンバーと暗いチェンバーの中の1つを選択させると、正常動物の場合、好きな暗いチェンバーに行かず、嫌がりながらも電気刺激のなかった明るいチェンバーに残り続けようとする行動を見せる。このように、受動的回避テストを通じた認知機能の測定は、明るいチェンバーと暗いチェンバーという空間的情報と電気刺激という事件を連携させる学習及び記憶が維持されるか否かを測定するものである。
【0063】
具体的に、本発明の受動的回避テストは、明るいチェンバーと暗いチェンバー(それぞれの容積は15×15×15cm)で構成され、2つのチェンバーの間にある廊下とドアにはショック−格子を設けた。テスト一日目の間、各マウスは明るいチェンバーに入れておき、明るい部屋及び暗い部屋を見つけ出せるようにするために各チェンバーで5分間経験させた。2日目、マウスを明るいチェンバーに入れておいた。30秒後に中間ドアを開けた後、マウスが暗いチェンバーに入るまで遅滞する時間を測定した。マウスが暗い部屋に入ると、ドアを閉めて格子−床を通じて連続的な電気足裏−ショック(100V、0.3mA、2秒)を伝達させた。訓練させた後、マウスは暮していたケージに戻した。24時間後にそれぞれのマウスは再び明るいチェンバーに入れておき、暗いチェンバーに入るのに遅滞する時間を測定した。
【0064】
その結果、7ヶ月齢及び14ヶ月齢の対照群正常マウスと本発明のTg−βCTF99/B6マウスは、ショックを与える前の場合(pre−shock)、暗いチェンバーへの移動にあまり差を示していなかった。しかし、本発明のTg−βCTF99/B6マウスはショックを与えた後の場合(post−shock)、訓練した後にも暗いチェンバーに入る遅滞時間が正常マウスに比べて非常に短かった(図9D)。したがって、本発明の形質転換マウスは認知力能力が低下することが分かる。
【0065】
<10−5>高架式十字迷路テスト(Elevated plus maze test)
ヒトアルツハイマー疾患患者の一番の問題になる症状の1つは、不安感が増加するということである(Folstein and Bylsma、1999、Alzheimer Disease(Eds by Terry et al.、)2nd.Lippincott Williams&Wilkins、Philadelphia)。それ故に、本発明者らはTg−APP/B6形質転換マウスの不安感がAPP突然変異遺伝子の導入によって変化するか否かを確認しようとした。高架式十字迷路テストは、黒いプレキシグラスで製作した。迷路装置は右側角から1つの他方向に4つの通路(arms)(30×7cm)を位置させ、これは底から50cm上側に位置させた。2つの通路は20cmの高い壁を有し(閉められた通路)、残り2つは壁を有していなかった(開けられた通路)。中心における明るさは、40ルクス(lux)に合わせた。テストを行うためにマウスは、初めにはプラットホームの中央に位置させて5分間通路を経験させた。開けられた地域と閉められた地域に進入する回数と進入にかかる時間の割合を記録した。マウスのすべての4つの足がそれぞれのセクターに入ることをもって、それぞれの通路への進入を点数化した。
【0066】
その結果、7ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスは、同一年齢の対照群正常マウスと類似に開けられた通路及び閉められた通路における進入結果を見せた。しかし、13ヶ月齢のTg−βCTF99/B6形質転換マウスは、同一年齢の対照群正常マウスに比べ、開けられた通路に進入する回数が少なく、開けられた通路で過ごす時間が少なくなった。この結果から、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスは、不安感が増加することが分かった(図10)。
【0067】
〔産業上の利用可能性〕
以上、説明したように、本発明の形質転換マウスは、モリス水迷路テストでは正常マウスに比べて認知能力が衰えて記憶力が減少する結果を示し、受動的回避テストでは記憶力維持能力が減少した。また、高架式十字迷路テストでは正常マウスに比べて不安感がかなり増加することを見せ、従来に製作されたアルツハイマー病のモデル動物よりアルツハイマー病の臨床的特徴をよく示していることを確認した。したがって、本発明で製造した形質転換マウスは、記憶力及び認知能力の減少、不安感増加のようなアルツハイマー病の臨床的特徴をそのまま示すことが分かり、アルツハイマー病のモデル動物として有用であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1Aは、本発明において製造した形質転換ベクターPDGF−βCTF99(V717F)−pA及びPDGF−intron−βCTF99(V717F)−pAを示した模式図である。図1Bは、本発明において製造した形質転換動物Tg−βCTF99/B6(−intron)及びTg−βCTF99/B6(+intron)に突然変異βCTF99(V717F)遺伝子が挿入されたか否かを確認したサザンブロット分析写真である。図面において矢印は、SpeIによって切断された350bp βCTF99切片を示す。図1Cは、本発明において製造した形質転換動物Tg−βCTF99/B6(−intron)及びTg−βCTF99/B6(+intron)に突然変異βCTF99(V717F)遺伝子が発現されるか否かを確認したノーザンブロット分析写真である。図面において上側矢印は、内部に存在するβCTF99転写体(3.5kb)を示し、下側矢印は本発明の突然変異βCTF99転写体(700bp)を示す。
【図2】図2Aは、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスがβCTF99タンパク質を生産するか否かを確認したウエスタンブロット分析写真(左側パネル)及びこれの値を数値化したグラフ(右側パネル)である。ウエスタンブロット分析写真において上側パネルはαCTF抗体、下側パネルはβCTF抗体を使用して分析したものである。また、グラフにおいて、各データは4つの他の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。図2B及びCは、正常マウス(B)と比べ、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウス(C)の大脳皮質(CX)でβCTFタンパク質を発現するか否かを確認した免疫組職学的に分析写真である。
【図3】図3Aは、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスで発現されるp−JNK、p−c−Jun、JNK1、JNK2、JNK3、p−ERK、ERK、p−p38及びp38αタンパク質の発現量をウエスタンブロット分析した写真である。図3Bは、本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスで発現されるp−JNK(左側パネル)及びp−c−Jun(右側パネル)の発現量を数値化したグラフである。各データはp−JNK及びp−c−Junに対してそれぞれ6つ及び4つの動物(n=4−6)を用いて7回及び4回の他の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。
【図4】図4Aは、14ないし15ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスにおいて発現されるBcl−2、Bcl−x、Bad及びBaxタンパク質の発現量をウエスタンブロット分析した写真(左側パネル)、及び、これを数値化したグラフ(右側パネル)である。各データは、3つの他の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。図4Bは、14ないし15ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウス脳の海馬(HP)にあるCA1、CA3及びDG部位において発現されるBad及びBaxタンパク質の発現量を免疫組職学的に分析した写真である。写真で、1つの上側パネルにあるスケールバーは200μmであり、3つの下側パネルにあるスケールバーは500μmを示す。
【図5】図5Aは、15ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウス脳において発現されるカルビンジンタンパク質の発現量をウエスタンブロット分析した写真(左側パネル)及びこれを数値化したグラフ(右側パネル)である。各データは3つの他の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。図5Bは、15ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウス脳の海馬(HP)にあるCA1、CA3及びDG部位において発現されるカルビンジンタンパク質の発現量を免疫組職学的に分析した写真である。写真で、1つの上側パネルにあるスケールバーは200μmであり、2つの下側パネルにあるスケールバーは500μmを示す。
【図6】図6Aは、15ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウス脳において発現されるCREB及びリン酸化−CREBタンパク質の発現量をウエスタンブロット分析した写真(左側パネル)及びこれを数値化したグラフ(右側パネル)である。グラフにおいて、各データは3つの他の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。図6BないしKは、15ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウス脳の海馬(HP)にあるCA1、CX(大脳皮質)及びDG部位において発現されるCREB及びリン酸化−CREBタンパク質の発現量を免疫組職学的に分析した写真である。パネルC、E及びKにあるスケールバーは50μmを示す。
【図7】図7AないしHは、正常対照群マウス及び18ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウス脳の大脳皮質(CX)及び海馬(HP)にあるCA1部位で発現されるNeu−Nタンパク質(AないしD)及びMAP2タンパク質(EないしH)の発現量を免疫組職学的に分析した写真である。A:正常対照群マウスの前駆(prefrontal)皮質を抗Neu−N抗体で染色、B:Tg−βCTF99/B6形質転換マウスの前駆皮質を抗Neu−N抗体で染色、C:正常対照群マウスの錐体(pyramidal)細胞を抗Neu−N抗体で染色、D:Tg−βCTF99/B6形質転換マウスの錐体細胞を抗Neu−N抗体で染色、E:正常対照群マウスの前駆皮質を抗MAP2抗体で染色、F:Tg−βCTF99/B6形質転換マウスの前駆皮質を抗MAP2抗体で染色、G:正常対照群マウスのCA1部位を抗MAP2抗体で染色、H:Tg−βCTF99/B6形質転換マウスのCA1部位を抗MAP2抗体で染色。図7Iは、12ヶ月齢及び18ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスの脳でNeuタンパク質の発現を調査することで、漸進的な神経細胞的変性を分析したグラフである。
【図8】図8Aは、7ヶ月齢及び14ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスを用いて運動性不均衡を分析した開放範囲分析結果である。図8Bは、5.5ヶ月齢及び11ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスを用いて運動性不均衡を分析したロタ−ロッド分析結果である。グラフにおいてデータは、6ないし15個の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。
【図9】図9A及びBは、7ヶ月齢(A)及び14ヶ月齢(B)の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスを用いて認知能力不均衡を分析するために隠されたプラットホームを見つけ出すのに遅滞する時間を分析したモリス水迷路実験結果である。グラフで*は、スチューデントt−テストを通じて各実験群でp<0.05の有意性を有するものを示す。また、データは6ないし8個の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。図9Cは、7ヶ月齢及び14ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスを用いて認知能力不均衡を分析するために隠されたプラットホームを見つけ出すため永いだ速度を分析したモリス水迷路実験結果である。グラフで*は、スチューデントt−テストを通じて各実験群でp<0.05の有意性を有するものを示す。また、データは6ないし8個の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。図9Dは、7ヶ月齢及び14ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスを用いて記憶力遅滞を分析した受動的回避実験結果である。グラフで*は、スチューデントt−テストを通じて各実験群でp<0.05の有意性を有するものを示す。また、データは6ないし8個の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。
【図10】図10は、13ヶ月齢の本発明のTg−βCTF99/B6形質転換マウスを用いて不安感増加現象を分析した高架式十字迷路テストの結果である。グラフで*は、スチューデントt−テストを通じて各実験群でp<0.05の有意性を有するものを示す。また、データは7ないし10個の実験群の結果を平均±SEMで示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AP751タンパク質の、698番目アミノ酸バリン(V)がフェニルアラニン(F)に置換された突然変異ヒトアミロイドベータ前駆体タンパク質のC末端部位を含む配列番号10で記載されるタンパク質をコードする遺伝子を含むアルツハイマー病誘発用形質転換ベクター。
【請求項2】
プロモーター及びポリアデニル化部位をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のアルツハイマー病誘発用形質転換ベクター。
【請求項3】
前記プロモーターはヒトPDGF−βプロモーターであることを特徴とする請求項2に記載のアルツハイマー病誘発用形質転換ベクター。
【請求項4】
前記ポリアデニル化部位はSV40pAであることを特徴とする請求項2に記載のアルツハイマー病誘発用形質転換ベクター。
【請求項5】
プロモーター及び突然変異ヒトアミロイドベータ前駆体タンパク質のC末端部位をコードする遺伝子の間にコザック配列をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のアルツハイマー病誘発用形質転換ベクター。
【請求項6】
ヒトアミロイドベータ前駆体タンパク質のC末端部位をコードする遺伝子前部にシグナルペプチドをコードする核酸配列がさらに含まれることを特徴とする請求項2に記載のアルツハイマー病誘発用形質転換ベクター。
【請求項7】
核酸配列は配列番号25であることを特徴とする請求項6に記載のアルツハイマー病誘発用形質転換ベクター。
【請求項8】
ヒトPDGF−βプロモーター遺伝子、配列番号3で記載されるアミノ酸配列をコードする突然変異遺伝子及びSV40pAを順次含み、裂開地図PDGF−βCTF99(V717F)−pAで示されることを特徴とする請求項2に記載の形質転換ベクター。
【請求項9】
プロモーター及び突然変異タンパク質をコードする遺伝子の間にイントロンがさらに含まれることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか一項に記載のアルツハイマー誘発用形質転換ベクター。
【請求項10】
前記イントロンはヒトベータ−グロビン遺伝子から来由されたイントロンBであることを特徴とする請求項9に記載のアルツハイモ誘発用形質転換ベクター。
【請求項11】
ヒトPDGF−βプロモーター遺伝子と配列番号3で記載されるアミノ酸配列をコードする突然変異遺伝子の間にヒトベータ−グロビン遺伝子から来由されたイントロンB遺伝子を順次含み、裂開地図PDGF−intron−βCTF99(V717F)−pAで示されることを特徴とする請求項9に記載のアルツハイモ誘発用形質転換ベクター。
【請求項12】
請求項1の形質転換用発現ベクターを導入して製造したアルツハイマー病誘発用形質転換マウス。
【請求項13】
前記アルツハイマー病の臨床的特徴である運動性の減少、記憶力及び認知能力の消失、不安症状の増加を示すことを特徴とする請求項12に記載の受託番号KCTC10609BPで寄託されたアルツハイマー病モデル形質転換マウスTg−βCTF/B6。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−530072(P2007−530072A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506088(P2007−506088)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000969
【国際公開番号】WO2006/004306
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(505274379)ニューロテック ファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド (7)
【Fターム(参考)】