説明

氷の製造方法及び該方法によって得られる氷

【課題】 色素や糖類、塩類、果汁等の添加物がほぼ均一に分散した氷を作ることができるようにした氷の製造方法及び該方法によって得られた氷を提供する。
【解決手段】 添加物が均一に溶解又は分散した水を凍結させて氷を製造する際に、前記水に、環状構造部分を有さないデキストリンを含有させる。前記デキストリンとして、DE3〜8のデキストリンを用いることが好ましい。また、前記添加物としては、色素、糖類、塩類、果汁、植物エキス、茶、コーヒー、香料、香辛料、蛋白質、アミノ酸、ゲル化剤、酸味料、食物繊維から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば色素、糖類、塩類、果汁等の添加物を含有する水を凍らせて氷を製造する方法及び該方法によって得られる氷に関する。
【背景技術】
【0002】
氷は、例えば冷菓などの各種の飲食品に利用されている。また、保存のために、果汁飲料や各種のエキス等を凍らせておき、使用時に解凍して使用することも行われている。
【0003】
しかし、氷結晶は不純物を排除しながら成長するため、例えば色素を添加した水を凍らせても一部に色素が凝集し、その他は透明な氷となるか、濃度勾配のある氷にしかならない。また、糖類や塩類等の添加物を添加しても、色素を添加した場合と同様である。つまり、氷の結晶の中に色素や糖類、塩類等、水以外の成分を均一に含有させることは非常に難しい。
【0004】
上記のような添加物が凝集した状態で凍った場合には、例えば冷菓のように氷を食するものにおいては、食感や味覚が偏ったり、外観的にも不均一なものとなり、商品価値の低下にもつながる。また、果汁飲料などにおいては、解凍したときに均一な溶液とならず、安定した品質のものが得られない。
【0005】
このため、色素や糖類、塩類、果汁等の添加物をほぼ均一に分散した氷を製造する技術が種々提案されている。
【0006】
例えば、下記特許文献1には、色素等と特殊な安定剤を含む水に蒸気を注入し、脱気した水を凍結させる方法が開示されている。
【0007】
下記特許文献2には、均一に溶解した色素等を含む水を−5〜−30℃に冷却されている製氷缶の内壁方面に噴霧することを特徴とする氷の製造方法が開示されている。
【0008】
下記特許文献3には、着色料等を含む水を耐圧容器内で加圧圧縮状態のまま凍結させる方法が開示されている。
【0009】
下記特許文献4には、ゲル化剤を含有させた水溶液を冷凍させることにより色や味むらのない氷菓を製造する方法が開示されている。
【0010】
下記特許文献5には、均一に溶解した色素や甘味料や果汁を含む水を−5〜−20℃に冷却されている製氷体の表面を流下させることを特徴とする、色素や甘味料や果汁がほぼ均一に分散し、しかも、ある程度の大きさを有する氷の製造方法が開示されている。
【0011】
下記特許文献6には、添加物を含む水を摺動板が圧接した容器に入れ、摺動することで撹拌しつつ表面に形成される一部の氷結晶を圧壊し及び削り取りながら、徐々に凍結させる方法が開示されている。
【0012】
一方、冷菓における食感を改善するため、下記特許文献7には、デキストリンを配合して硬度を低下させた冷菓が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−56753号公報
【特許文献2】特公平5−70066号公報
【特許文献3】特公平7−6720号公報
【特許文献4】特開平8−252067号公報
【特許文献5】特開平7−280400号公報
【特許文献6】特開平10−281601号公報
【特許文献7】特開2000−279097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1〜6に記載された方法では、特別な製造設備を導入する必要や、特殊な安定剤等の添加物を用いる必要があった。
【0014】
また、上記特許文献7においては、アイスクリーム類やフローズンヨーグルト等の冷菓の硬度を低下させて組織を柔らかくするためにデキストリンを用いており、氷の結晶の中に色素や糖類、塩類等、水以外の成分を均一に含有させることについては何ら記載されていない。
【0015】
したがって、本発明は、色素や糖類、塩類、果汁等の添加物がほぼ均一に分散した氷を作ることができるようにした氷の製造方法及び該方法によって得られた氷を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の1つは、添加物が均一に溶解又は分散した水を凍結させて氷を製造する方法において、前記水に、環状構造部分を有さないデキストリンを含有させることを特徴とする氷の製造方法を提供するものである。
【0017】
上記発明によれば、水に環状構造部分を有さないデキストリンを含有させることにより、水に溶解又は分散させた添加物が凝集することなく、均一に溶解又は分散した状態で凍結させることができる。このため、得られた氷は、添加物が均一に溶解又は分散しており、例えば冷菓等においては、均一な食感や味覚が得られ、果汁飲料等においては、解凍したときに均一な溶液が得られる。また、特別な製造設備や、特殊な安定剤等を用いる必要がなく、簡便に実施することができる。
【0018】
上記発明においては、前記デキストリンとして、DE3〜8のデキストリンを用いることが好ましい。DE9以上のデキストリンでは、水に溶解または分散させた添加物が凝集し、不均一に溶解又は分散した状態で凍結してしまう。
【0019】
また、前記デキストリンを0.01〜30質量%含有させることが好ましい。これにより、凍結したときの添加物の均一性をより向上させることができる。
【0020】
更にまた、前記添加物が、色素、糖類、塩類、果汁、植物エキス、茶、コーヒー、香料、香辛料、蛋白質、アミノ酸、ゲル化剤、酸味料、食物繊維から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
本発明のもう1つは、上記の方法によって得られた氷を提供するものである。この氷は、前記のように添加物が均一に溶解又は分散しているので、例えば冷菓等においては、均一な食感や味覚が得られ、果汁飲料等においては、解凍したときに均一な溶液が得られる。
【0022】
上記の氷は、氷菓、ゼリー、飲料、加工食品から選ばれた1種又はその原料として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、例えば色素、糖類、塩類、果汁等の添加物を含有する水を凍らせるとき、添加物が均一に溶解又は分散した状態で凍結させることができるので、冷菓等のそのまま食される氷の場合には均一な食感や味覚が得られ、果汁飲料等の解凍して利用される氷の場合には解凍したときに均一な溶液を得ることができる。また、環状構造部分を有さないデキストリンを含有させるだけでよいので、工業的に簡便に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明において、環状構造部分を有さないデキストリン(以下、単に「デキストリン」という)とは、シクロデキストリンや特開平8−134104号公報に記載された高度分岐環状デキストリン等を含まないデキストリン、すなわち、通常のデキストリンを意味する。本発明においては、DE3〜8のデキストリンが好ましく用いられる。なお、DE(Dextrose Equivalent)は、澱粉糖類の加水分解率の指標となる単位であり、下式(1)によって求められる。
DE=直接還元糖(グルコース換算)÷固形分×100…(1)
【0025】
本発明で凍結させる水は、上記デキストリンを0.01〜30質量%含有することが好ましく、0.1〜10質量%含有することが更に好ましい。デキストリンの含有量が0.01質量%未満では、凍結させたときに添加物が均一に溶解又は分散した状態を維持する効果が乏しく、30質量%を超えると、溶解性の点で問題が生じる。
【0026】
本発明で凍結させる水に溶解又は分散させる添加物としては、例えば、アナトー色素、クチナシ黄色素、デュナリエラカロチン、ニンジンカロチン、パーム油カロチン、トマト色素及びパプリカ色素等のカロチノイド系色素、アカネ色素、コチニール色素、シコン色素及びラック色素等のキノン系色素、赤キャベツ色素、シソ色素、ハイビスカス色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、紫イモ色素、紫コーン色素、エルダーベリー色素及びボイセンベリー色素等のアントシアニン系色素、カカオ色素、コウリャン色素、シタン色素、タマネギ色素、タマリンド色素、カキ色素、カロブ色素、カンゾウ色素、スオウ色素、ベニバナ赤色素及びベニバナ黄色素等のフラボノイド系色素、クロロフィリン、クロロフィル及びスピルリナ色素等のポルフィリン系色素、ウコン色素等のジケトン系色素、紅麹色素等のアザフィロン系色素、ビートレッド等のベタシアニン系色素、紅麹黄色素、カラメル、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、金、銀、アルミニウム等の天然色素、赤色2号、赤色3号、赤色40号、赤色102号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、青色1号、青色2号、緑色3号等のタール色素、三二酸化鉄や二酸化チタンなどの無機顔料、ノルビキシNa・K、銅クロロフィル、銅クロロフィリンNa及び鉄クロロフィリンNa等の天然色素誘導体、並びにβ−カロチン、リボフラビン、リボフラビン酪酸エステル及びリボフラビン5'−リン酸エステルNa等の合成天然色素等の合成着色料等の色素や、フラクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、リボース、タガトース、フコース、ラムノース、トレハロース、コージビオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、スクロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ラフィノース等の糖類や、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムカリウム等の高甘味度甘味料や、金属類等の塩類や、各種果汁や、ポリフェノール、カテキン、春ウコン、秋ウコン、紫ウコン、高麗人参、霊芝、イチョウ葉等の植物エキスや、コーヒー、紅茶、茶、果肉、香料、香辛料、タンパク類、アミノ酸、保存料、澱粉、グアーガム、セルロース、デキストリン、デキストラン、寒天、ゼラチン、ペクチン、ジェランガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、タマリド種子多糖類等のゲル化剤や、酸味料、食物繊維等の任意のものが挙げられ、これらの1種又は2種以上が含有されていてもよい。
【0027】
上記のような添加物と、デキストリンとを水に含有させて、ほぼ均一に溶解又は分散した原料水を調製する方法は、特に限定されないが、例えば、デキストリンを上記添加物と一緒に水に添加して分散又は溶解させる方法や、あるいは最初に上記添加物を分散又は溶解させた後、デキストリンを添加してもよく、各種食品の製造工程の実状に適した添加方法を用いればよい。
【0028】
本発明において、水の凍結方法としては、凍結缶、製氷皿、製氷缶等の製氷容器を用いる方法の他、冷却された製氷体表面に流下させる方法等の任意の方法が採用できる。
【0029】
更に、氷の形状も塊状、シャーベット状、スラリー状、粉雪状、チップ状等の任意の形状が挙げられるが、特に塊状の形状やシャーベット状、チップ状の場合に効果的である。
【0030】
本発明によって得られた氷は、上述したような、色素、糖類、塩類、果汁、植物エキス、茶、コーヒー、香料、香辛料、蛋白質、アミノ酸、ゲル化剤、酸味料、食物繊維などから選ばれた添加物が、均一に溶解又は分散した状態で凍結されている。このため、例えば該氷をそのまま食する場合には、食感や味覚に偏りがなく、該氷を解凍して利用する場合にも、添加物が均一に溶解又は分散した溶液が得られ、沈殿物が少ないという利点を有している。
【0031】
このような本発明の氷は、例えば、シャーベット、かき氷、かちわり氷、アイスキャンディー、シェイク、ソルベット等の冷菓や、ゼリー等の和洋菓子類や、果汁入り飲料や、アミノ酸飲料、スポーツドリンク等の清涼飲料水や、その他の加工食品類や、インスタント食品類等の飲食物として利用することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の内容により技術的範囲が限定されるものではない。
【0033】
なお、以下の例において、デキストリンとしては、商品名「フジスター#5V」(DE 約5、日本食品化工(株)製、「以下デキストリン(DE5)と略」)、「フジスター#12V」(DE 約12、日本食品化工(株)製、「以下デキストリン(DE12)と略」)、商品名「BLD」(DE 約8、参松工業(株)製、「以下デキストリン(DE8)と略」)、果糖ぶどう糖液糖としては、商品名「フジフラクトH−100」(日本食品化工(株)製)、マルトオリゴ糖としては、商品名「フジオリゴ#360」(日本食品化工(株)製)を用いた。
【0034】
試験例1
下記表1に示す処方により、定法に従って氷を作った。すなわち、エルダーベリー色素と、果糖ぶどう糖液糖(比較区1)、マルトオリゴ糖(比較区2)、トレハロース(比較区3)、デキストリン(DE5)(試験区)から選ばれた1種とを水に混合し、均一な水溶液とした後、冷凍庫にて冷凍した。なお、糖質無添加のサンプルを対照区とした。





【0035】
【表1】

【0036】
各サンプルの冷凍時における形状及び解凍時の形状の写真を図1及び図2に示す。
【0037】
図1から、対照区、比較区1、2、3は色素の分散が不均一であるのに対し、試験区は色素が均一に分散していることが分かる。また、図2から、溶解時においても、試験区は、他の区に比べて、色素が均一に分散した溶液であることが分かる。
【0038】
試験例2
試験1と同様の処方により対照区、比較区1、2、3の溶液を調製し、筒状容器に入れて冷凍庫にて凍結を行った。また、試験区においては、デキストリン(DE5)の添加量を変えて、デキストリン(DE5)添加量1質量%(試験区1)、デキストリン(DE5)添加量3質量%(試験区2)、デキストリン(DE5)添加量5質量%(試験区3)の溶液を調製し、同様にして凍結を行った。
【0039】
その後、筒状容器から氷を取り出し、ロート上にのせ、室温放置にて溶解した。溶解液を25mlずつ4つに分画し、それぞれの522.5nmの吸光度(Abs)及び色差(Δa値)を分光光度計及び色差計にて測定した。なお、色差は冷凍前の溶液の色値(a値)を測定し、その値と4つの分画液それぞれの色値(a値)との差を色差(Δa値)とした。4つの分画液のうち、吸光度が最大のものと最少のものの差、及び色差の最大値を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から、対照区や比較区1〜3に比べ、試験区1〜3はデキストリンの濃度依存的に吸光度の最大値と最小値差、並びに色差が少なくなり、溶解時に色素が比較的均一に分散した溶液であったことが分かる。
【0042】
試験例3
試験2と同様の試験をデキストリンの種類を変えて行なった。つまりデキストリン(DE5)(試験区1)、デキストリン(DE8)(試験区2)、デキストリン(DE12)(試験区3)の溶液を調製し、同様にして凍結を行った。比較のため、果糖ぶどう糖液糖(比較区1)、マルトオリゴ糖(比較区2)、糖質無添加(対照区)でも同様の試験を行なった。
【0043】
結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3から、比較区1、2、試験区3に比べ、試験区1、2は吸光度の最大値と最小値差、並びに色差が少なくなり、溶解時に色素が比較的均一に分散した溶液であったことが分かる。特に試験区1は対照区よりも吸光度の最大値と最小値差、並びに色差が少なくなっており、本試験において溶解時に色素が最も均一に分散した溶液であったことが分かる。試験区3は比較区とほぼ同様であり、色素が不均一に分散した溶液であったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、例えば色素、糖類、塩類、果汁等の添加物を含有する水を凍らせて氷を製造する方法及び該方法によって得られる氷を提供するものであり、この氷は、例えば冷菓、和洋菓子類、果汁入り飲料、清涼飲料水等の飲料、その他の加工食品類、インスタント食品類等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】試験例1において、各試料を凍結させた状態を示す写真である。
【図2】試験例1において、各試料を凍結させた後、更に解凍した状態を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加物が均一に溶解又は分散した水を凍結させて氷を製造する方法において、前記水に、環状構造部分を有さないデキストリンを含有させることを特徴とする氷の製造方法。
【請求項2】
前記デキストリンとして、DE3〜8のデキストリンを用いる請求項1記載の氷の製造方法。
【請求項3】
前記デキストリンを0.01〜30質量%含有させる請求項1又は2記載の氷の製造方法。
【請求項4】
前記添加物が、色素、糖類、塩類、果汁、植物エキス、茶、コーヒー、香料、香辛料、蛋白質、アミノ酸、ゲル化剤、酸味料、食物繊維から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか一つに記載の氷の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の方法によって得られた氷。
【請求項6】
氷菓、ゼリー、飲料、加工食品から選ばれた1種又はその原料として用いられる請求項5記載の氷。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−125694(P2006−125694A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312085(P2004−312085)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)