説明

船舶用侵入防止装置

【課題】既存の船舶に容易に設置でき、かつ不法侵入者に対してより脅威となり得る船舶用侵入防止装置を提供する。
【解決手段】基端側が上甲板に設けた各T字状配管の各分岐路に接続され、先端側が海面に向けて垂下した可撓性を有するホース部材32と、ホース部材32の先端側に設けられるノズル33と、ノズル33に設けられ、海水Wを噴射してホース部材32の先端側を揺動させる推力を発生する噴射孔33aと、ノズル33に設けられ、推力とバランスしてホース部材32の先端側の前後左右方向への揺れ幅を決定する錘部材36とを備える。船舶の乾舷部分でホース部材32の先端側が前後左右方向に不規則に揺動運動し、これが海賊(不法侵入者)への脅威となる。ホース部材32を揺動運動させる駆動源に船舶に予め設置された海水ポンプ等を用いるため、既存の船舶に比較的低コストでかつ容易に設置できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の上甲板の周囲に設けられ、流体を供給することにより作動し、不法侵入者の侵入を防止する船舶用侵入防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インド洋などに出没する海賊(不法侵入者)が社会問題となっており、海賊の出没が船舶の安全な航行に大きな障害となっている。海賊は、高速で航行できる小型ボートを利用し、襲撃対象とする船舶に近寄り、右舷,左舷または船尾等からロープを付けたアンカー等を上甲板に投げ上げて引っ掛け、これを基にして梯子等を掛けて船舶に侵入する。そして、船舶に侵入した海賊は、乗組員を人質として高額な身代金を要求することがある。
【0003】
このような海賊の襲撃に対し、複数の乗組員によってその侵入を阻止することも考えられるが、この場合には乗組員が危険に曝されるため好ましくない。そこで、乗組員を海賊に曝さずに海賊を撃退できる装置、つまり船舶への海賊の侵入を未然に防ぐ装置が開発されている。例えば、音響,光線,電気による方法や、物理的に侵入を阻止する有刺鉄線や大きな侵入防止壁を取り付ける方法等が挙げられる。しかしながら、前者は耳栓やサングラス,ゴム手袋等によって比較的容易に対抗でき、後者は航行の際の強い揺れ等で損傷する虞があり、どれも決め手に欠くものであった。そこで、より効果的に海賊の侵入を防止でき、さらには既存の船舶に容易に設置できる装置の開発が望まれている。
【0004】
ところで、貨物船等においては、船舶設備規定等により、消火ポンプ,非常用消火ポンプ等の海水ポンプが設置されている。また、大型貨物船等においては、バラストタンクに大型の海水ポンプ(バラストポンプ)で大量の海水を注入し、この重みで空荷時における船舶の姿勢を安定化させるようにしている。つまり、船舶には海水を自由に利用できる環境が整っているため、海水(水)を利用した装置とすることで、既存の船舶に比較的容易に設置可能となる。
【0005】
このような海水を利用した装置としては、例えば、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1に記載された船舶への違法乗り込み防止装置(船舶用侵入防止装置)は、海賊が船外からロープを付けたアンカー等を上甲板に投げ入れることで作動するトリガーを備えている。そして、トリガーの作動により機関室で製造した熱湯(海水)を船外に向けて噴射する。これにより、船外から侵入する海賊を撃退するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−037179号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された船舶用侵入防止装置は、海賊が船舶に近寄り、かつロープを付けたアンカー等を上甲板に投げ入れることで作動する構造を採用している。したがって、海賊は容易に船舶に近寄ることができ、その分、船舶は海賊の驚異に曝されることになる。そのため、海賊が船舶に近寄れないよう工夫することが望ましく、例えば、海賊が船舶を遠方から見た際に、海賊対策がされていることを確認できれば、これが海賊のモチベーションを低下させ、ひいては船舶が海賊の驚異に曝される確率を低下させることが可能となる。
【0008】
本発明の目的は、既存の船舶に容易に設置することができ、かつ不法侵入者に対してより驚異となり得る船舶用侵入防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の船舶用侵入防止装置は、船舶の上甲板の周囲に設けられ、流体を供給することにより作動し、不法侵入者の侵入を防止する船舶用侵入防止装置であって、基端側が前記上甲板に設けた流体配管に接続され、先端側が水面に向けて垂下した可撓性を有するホースと、前記ホースの先端側に設けられる揺動ノズルと、前記揺動ノズルに設けられ、前記流体を噴射して前記ホースの先端側を揺動させる推力を発生する噴射孔と、前記揺動ノズルに設けられ、前記推力とバランスして前記ホースの先端側の前後左右方向への揺れ幅を決定する錘部材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の船舶用侵入防止装置は、前記揺動ノズルと前記錘部材との間に、一端側が前記揺動ノズルに回動自在に連結され、他端側が前記錘部材に回動自在に連結される連結棒を設けることを特徴とする。
【0011】
本発明の船舶用侵入防止装置は、前記上甲板の周囲に沿って延在する前記流体配管に前記ホースを所定間隔で複数設け、前記各ホース間に前記水面に向けて水を噴射する噴射孔を有する放水ノズルを設けることを特徴とする。
【0012】
本発明の船舶用侵入防止装置は、前記放水ノズルの前記噴射孔を、前記船舶の長手方向に沿って延びる長方形形状に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基端側が上甲板に設けた流体配管に接続され、先端側が水面に向けて垂下した可撓性を有するホースと、ホースの先端側に設けられる揺動ノズルと、揺動ノズルに設けられ、流体を噴射してホースの先端側を揺動させる推力を発生する噴射孔と、揺動ノズルに設けられ、推力とバランスしてホースの先端側の前後左右方向への揺れ幅を決定する錘部材とを備える。したがって、船舶の乾舷部分において、ホースの先端側を前後左右方向に不規則に揺動運動させることができる。このホースの不規則な揺動運動は遠方から認識でき、かつ錘部材も不規則に揺動運動することから不法侵入者への驚異となる。これにより、不法侵入者のモチベーションを低下させて船舶へ近寄らせないようにすることができ、ひいては船舶を不法侵入者の驚異から保護できる。また、ホースを揺動運動させる駆動源として、船舶に予め設置された海水ポンプ等を用いることができ、専用の駆動源を新たに設置する必要が無く、既存の船舶に比較的低コストでかつ容易に設置することができる。
【0014】
本発明によれば、揺動ノズルと錘部材との間に、一端側が揺動ノズルに回動自在に連結され、他端側が錘部材に回動自在に連結される連結棒を設けるので、ホースの不規則な揺動運動により、錘部材をより複雑かつ不規則に揺動運動させることができる。
【0015】
本発明によれば、上甲板の周囲に沿って延在する流体配管にホースを所定間隔で複数設け、各ホース間に水面に向けて水を噴射する噴射孔を有する放水ノズルを設けるので、船舶の乾舷部分を水のカーテンで覆うことができ、より不法侵入者を船舶へ近寄らせないようにすることができる。
【0016】
本発明によれば、放水ノズルの噴射孔を、船舶の長手方向に沿って延びる長方形形状に形成するので、仮に不法侵入者の小型ボートが船舶の長手方向に沿うよう近寄ったとしても、当該小型ボートに効率良く水を溜めることができ、不法侵入者を転覆の驚異に曝すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は海賊侵入防止装置を設置した船舶の右舷側を示す平面図、(b)は(a)の船舶を上方側から見た平面図である。
【図2】図1の船舶を前方側から見た平面図である。
【図3】海賊侵入防止装置の詳細構造を説明する部分拡大図である。
【図4】暴れホースの詳細構造および動作状態を説明する説明図である。
【図5】連結棒および錘部材の動作状態を説明する説明図である。
【図6】(a),(b)は大量放水ノズルを示す平面図である。
【図7】大量放水ノズルとスイベルジョイントとの接続構造を説明する部分断面図である。
【図8】大量放水ノズルの動作状態を説明する説明図である。
【図9】第2実施の形態に係る海賊侵入防止装置の詳細構造を説明する部分拡大図である。
【図10】第2実施の形態に係る暴れホースの詳細構造および動作状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1(a)は海賊侵入防止装置を設置した船舶の右舷側を示す平面図、(b)は(a)の船舶を上方側から見た平面図を、図2は図1の船舶を前方側から見た平面図をそれぞれ表している。
【0020】
図1および図2に示す船舶10は、複数の貨物倉11を有する大型の貨物船であって、各貨物倉11には、複数の貨物12がそれぞれ積載されている。船舶10には上甲板13が設けられ、当該上甲板13の船尾側(図1中左側)には、コンパス船橋14が設けられている。コンパス船橋14の天井部分には、レーダー14aや無線アンテナ14b等が設置されている。また、船舶10のコンパス船橋14に対応する喫水線DLの下方側には、ディーゼルエンジンを格納したエンジンルーム(何れも図示せず)が設けられ、当該エンジンルームに近接してスクリュー15およびラダー16が設けられている。
【0021】
船舶10の上甲板13には、図1(b)に示すように、消火栓である複数の海水放出弁17a〜17f(図示では6つ示す)が設けられている。各海水放出弁17a〜17fの上流側には、消火ポンプ等の海水ポンプ(図示せず)が接続されており、各海水放出弁17a〜17fは、海水ポンプの動作により船外の海水を上甲板13上の各所に放出するようになっている。これにより、上甲板13上において消火活動等を行えるようにしている。ここで、海水ポンプとしては、消火ポンプ等に限らず、バラストタンクおよびバラストポンプを有する船舶等であれば、バラストポンプを用いることもできる。
【0022】
上甲板13には、各海水放出弁17a〜17fに対応して、複数の海賊侵入防止装置(船舶用侵入防止装置)18a〜18fが設けられている。各海賊侵入防止装置18a〜18fは、図1(b)および図2に示すように、それぞれ上甲板13の周囲に沿うよう設けられている。各海水放出弁17a〜17cおよび各海賊侵入防止装置18a〜18cは船舶10の左舷側に配置され、各海水放出弁17d〜17fおよび各海賊侵入防止装置18d〜18fは船舶10の右舷側に配置されている。
【0023】
各海賊侵入防止装置18a〜18fは、上甲板13の船首側(図1中右側)を除いて、海賊(不法侵入者)が侵入し易い部分となる左舷部分,右舷部分および船尾部分に配置されている。ここで、図1(a)および図2に示すように、船首側には上方に向けて拡開した形状のフレア19が設けられ、かつ船首側は船舶10の舵取りにより左右に大きく振ることができる。つまり、海賊は船首側を狙って侵入することは殆ど無く、このため船首側には海賊侵入防止装置を設けていない。
【0024】
次に、各海賊侵入防止装置18a〜18fの詳細構造について、図面を用いて詳細に説明する。ここで、各海賊侵入防止装置18a〜18fは何れも同様に構成されるため、海賊侵入防止装置18aのみについて図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
図3は海賊侵入防止装置の詳細構造を説明する部分拡大図を、図4は暴れホースの詳細構造および動作状態を説明する説明図を、図5は連結棒および錘部材の動作状態を説明する説明図を、図6(a),(b)は大量放水ノズルを示す平面図を、図7は大量放水ノズルとスイベルジョイントとの接続構造を説明する部分断面図を、図8は大量放水ノズルの動作状態を説明する説明図をそれぞれ表している。
【0026】
図3に示すように、海賊侵入防止装置18aは、接続部分を2箇所有する複数のI字状配管(流体配管)20と、接続部分を3箇所有する複数のT字状配管(流体配管)21とを備えている。各I字状配管20および各T字状配管21は、それぞれ手動操作し得るナット部材22の締め付けにより接続されている。接続された各I字状配管20および各T字状配管21の一端側は海水放出弁17aに接続され、他端側はエンドキャップ(図示せず)により閉塞されている。
【0027】
各T字状配管21には、それぞれ分岐路21aが設けられている。これらの各分岐路21aには差し込み式継ぎ手21bがそれぞれ取り付けられ、当該各差し込み式継ぎ手21bには、後述する暴れホース30および大量放水ノズル40に、流体としての海水(水)W(図4および図8参照)を供給する供給ホース23の一端側が、それぞれ差し込み式で接続されている。
【0028】
暴れホース30(大量放水ノズル40)の基端側と供給ホース23の他端側との間には、供給ホース23側から、放水圧力調整バルブ24,圧力計25,角度変換エルボ26およびスイベルジョイント27が設けられている。放水圧力調整バルブ24は、暴れホース30(大量放水ノズル40)から噴射される海水Wの水量,水圧を調整するもので、操作者が圧力計25を目視しつつ、放水圧力調整バルブ24を操作できるようになっている。
【0029】
角度変換エルボ26は、供給ホース23の向きと暴れホース30(大量放水ノズル40)の向きとを略45°変換するもので、これにより暴れホース30(大量放水ノズル40)は、上甲板13の周囲から船舶10の乾舷部分に向けられている。スイベルジョイント27は、暴れホース30(大量放水ノズル40)の基端側を回動自在に支持するものである。
【0030】
暴れホース30の先端側は、図1および図2に示すように、上甲板13の周囲から乾舷部分に垂下して海面(水面)に向けられている。暴れホース30は、海水放出弁17a(図3参照)を介して、水量5m3/h,水圧0.2Mpaの海水Wを噴射することで、船舶10の乾舷部分で前後左右方向に不規則に揺動運動する(暴れる)ようになっている(図1および図2中太曲線参照)。
【0031】
図4に示すように、暴れホース30は、可撓性を有するホース部材(ホース)32を備えており、当該ホース部材32の基端側(図中上側)には、スイベルジョイント27(図3参照)に回動自在に接続されるアタッチメント31が設けられている。また、ホース部材32の先端側には、噴射孔33aを有するノズル(揺動ノズル)33が設けられている。
【0032】
ホース部材32の長さ寸法は、本実施の形態においては7.0mに設定されており、このホース部材32の長さ寸法は、船舶10の乾舷部分の高さ寸法8.0mよりも短い長さ寸法に設定されている。これにより、暴れホース30は、船舶10の乾舷部分で前後左右方向に不規則に揺動運動できるようになっている。ここで、ホース部材32としては、例えば、ポリエステル繊維を編み込んで形成し、内側にポリエステル樹脂を塗布した消防用ホースを流用している。これにより、暴れホース30の低コスト化を実現しつつ、柔軟性および耐久性を兼ね備えたホース部材32とすることができる。
【0033】
ホース部材32の基端側には、ホース部材32のアタッチメント31との接続部分を保護する保護部材34が装着されている。保護部材34は、例えば、プラスチック等の樹脂材料により筒状に形成され、ホース部材32の揺動運動に応じて、バネ性を持って若干変形するようになっている。これにより、ホース部材32のアタッチメント31との接続部分に無理な力(大きな屈曲力)が作用するのを抑制している。ここで、保護部材34の長さ寸法を適宜調整することで、ホース部材32の揺れ幅を調整することもできる。
【0034】
ノズル33には、連結棒35を介して錘部材36が設けられている。ノズル33には、連結棒35の一端側がピン35aを介して回動自在に連結されており、連結棒35の他端側には、ピン35bを介して円盤状の錘部材36が回動自在に連結されている。つまり、連結棒35はノズル33と錘部材36との間に揺動自在に設けられ、これにより錘部材36は、ホース部材32の不規則な揺動運動に対してより複雑かつ不規則に揺動運動するようになっている。
【0035】
錘部材36は、例えば、ブロック状の鋼材を切削加工等することにより、直径7.0cm,重さ1.0kgの円盤形状に形成されている。また、錘部材36は遠方から確認可能となっており、錘部材36を遠方からより目立つようにするために、白色,黄色,蛍光色等に着色しても良い。
【0036】
ここで、錘部材36は、遠方から確認し易くする機能に加えて、噴射孔33aから噴射される海水Wによる推力とバランスして、ホース部材32の先端側の前後左右方向への揺れ幅を調整(規制)する機能を備えている。仮に錘部材36を設けないと、ホース部材32の先端側のコントロールが難しくなり、例えばホース部材32の先端側が大きな揺れ幅で振れてしまい、船舶10の上甲板13に勢い良く持ち上げられるようなことが起こり得る。
【0037】
図5に示すように、ノズル33の基端側には、ホース部材32の先端側を接続するためのホース接続部33bが設けられ、ノズル33の先端側には、ピン35aが装着されるピン装着孔33cが設けられている。ノズル33の長手方向(図中上下方向)に沿うホース接続部33bとピン装着孔33cとの間には、ホース部材32から流れてくる海水W(図4参照)を噴射する噴射孔33aが設けられている。
【0038】
噴射孔33aのノズル33に対する傾斜角度は、海水Wの噴射角度がノズル33の長手方向に沿うアタッチメント31側(図中上側)を向くよう60°に設定されている。これにより、噴射孔33aから噴射される海水Wによる推力は、船舶10の乾舷部分で垂下されたホース部材32を揺動運動させる方向に作用する。ここで、噴射孔33aの傾斜角度は、ホース部材32の先端側を揺動運動させる推力を発生し得る角度に設定する。本構造のノズル33においては、噴射角度が略15°〜90°の範囲となるよう噴射孔33aの傾斜角度を設定することで、ホース部材32の先端側を良好に揺動運動させることができる。
【0039】
ここで、噴射角度を15°よりも小さくすると、噴射孔33aから噴射した海水Wがホース部材32にぶつかって設計通りの推力が得られず、ホース部材32を基準の揺れ幅、つまり水量5m3/h,水圧0.2Mpaで前後左右方向に片側5.0mの揺れ幅で揺動運動させることができなくなる。一方、噴射角度を90°よりも大きくすると、ホース部材32の先端側に図中上方側に押し上げる推力が発生し、これによってもホース部材32を基準の揺れ幅で揺動運動させることができなくなる。
【0040】
大量放水ノズル(放水ノズル)40は、海面に向けて大量の海水Wを噴射するものであり、図6および図7に示すように、本体筒部41とノズルヘッド42とを備えている。本体筒部41の長手方向一端側(図7中右側)には、スイベルジョイント27の雄ネジ部27aにネジ結合される雌ネジ部41aが設けられ、本体筒部41の長手方向他端側(図7中左側)には、ノズルヘッド42が固定される固定部41bが設けられている。
【0041】
ノズルヘッド42は本体筒部41よりも大径に形成され、その内部には流体導入室42aが設けられ、当該流体導入室42aには、スイベルジョイント27の内部および本体筒部41の内部を流れてきた海水W(図8参照)が導入されるようになっている。そして、流体導入室42aに導入された海水Wは、ノズルヘッド42に設けられた第1開口部43aおよび第2開口部43bを介して外部に噴射されるようになっている。なお、各開口部43a,43bは、何れも本発明における放水ノズルの噴射孔を構成している。
【0042】
各開口部43a,43bは、図6(a)に示すように何れも船舶10の長手方向(図中左右方向)に沿って延びるよう長方形形状に形成されている。また、各開口部43a,43bの開口角度は、図6(b)に示すようにノズルヘッド42を中心として120°に設定され、流体導入室42aと各開口部43a,43bとの間には、放射状に延びる複数の凹凸溝44a,44bが設けられている。各凹凸溝44a,44bは、流体導入室42aからの海水Wの流れを放射状に案内し、これにより各開口部43a,43bから、海水Wを略扇形形状にムラ無く外部に噴射できるようにしている(図8参照)。
【0043】
図7に示すように、第1開口部43aは、ノズルヘッド42の長手方向に3°の傾斜角度を持って形成され、第2開口部43bは、ノズルヘッド42の長手方向に8°の傾斜角度を持って形成されている。これにより、各開口部43a,43bから噴射した海水Wは、大量放水ノズル40の下方側、つまり船舶10の乾舷部分の下方部分で交差するよう纏められ、分散しないようになっている。
【0044】
具体的には、図8に示すように、各開口部43a,43b(図6および図7参照)から噴射される海水Wを、水量20m3/h,水圧0.2Mpaに設定したときに、各開口部43a,43bから噴射した海水Wは略扇形形状を描いて降水する。そして、船舶10の乾舷部分の高さ寸法に相当する8.0m下方部分で、船舶10の長さ方向に10.0m,船舶10の幅方向に1.0m〜2.0mの略長方形形状を描くようになっている。つまり、海水Wの形状を10.0m×1.0m〜2.0mの略長方形形状とすることで、例えば、長さ寸法が7.0mの小型ボート(海賊船)に効率良く海水Wを溜めることができる。
【0045】
このように、各開口部43a,43bの形状や傾斜角度を設定し、さらに各凹凸溝44a,44bを設けたことで、図1および図2に示すように船舶10に並ぶよう接近した海賊船の部分で、海水Wの形状を10.0m×1.0m〜2.0mの略長方形形状とし、これにより海賊を素早く転覆の驚異に曝すことができる。また、各開口部43a,43bから噴射した海水Wは、図8に示すように略扇形形状を描き、船舶10の周囲をカーテンのように覆うため、暴れホース30と同様に遠方から容易に確認可能となっている。
【0046】
図1および図3に示すように、暴れホース30および大量放水ノズル40は、各I字状配管20および各T字状配管21を介して、5.0m間隔で交互に複数設けられている。つまり、隣り合うホース部材32間に大量放水ノズル40を設けている。隣り合う各ホース部材32の間隔および隣り合う各大量放水ノズル40の間隔はそれぞれ10.0mとなり、これにより図1に示すように、前後左右方向に揺動運動する暴れホース30が互いに絡まるようなことが無い。また、各大量放水ノズル40からの海水Wにより形成されるカーテン(図中網掛部分)によって、船舶10の右舷部分,左舷部分および船尾部分を隙間無く連続的に覆うことができる。
【0047】
次に、以上のように形成した海賊侵入防止装置18aの動作について、図面を用いて詳細に説明する。
【0048】
まず、操作者によって、図3に示す海水放出弁17aを開操作する。すると、海水ポンプから海水放出弁17aを介して、I字状配管20およびT字状配管21に海水Wが圧送される。ここで、海賊侵入防止装置18aは、海水放出弁17aの開操作による水量,水圧によって充分に動作可能に設計されている。
【0049】
I字状配管20およびT字状配管21に圧送された海水Wは、T字状配管21の分岐路21aを介して、図4の矢印(1)に示すように暴れホース30のホース部材32に供給されるとともに、図8の矢印(5)に示すように大量放水ノズル40に供給される。ホース部材32に供給された海水Wは、図4に示すようにノズル33の噴射孔33aに到達し、その後、当該噴射孔33aから外部に向けて放射状に噴射される。
【0050】
噴射孔33aから噴射した海水Wは推力を発生し、これにより図4の矢印(2)に示すように、ホース部材32の先端側、つまりノズル33が揺動運動を始める。ここで、ホース部材32は可撓性を有するため、あらゆる方向に容易に屈曲することができる。これにより、ホース部材32の先端側は、前後左右方向に揺れ幅片側5.0mで不規則に揺動運動する(暴れる)。
【0051】
ホース部材32の先端側の不規則な揺動運動に伴い、錘部材36は、図5の矢印(3)および矢印(4)に示すように、ノズル33の下方側に常に位置するよう連結棒35を介して不規則に揺動運動する。ここで、錘部材36およびホース部材32の先端側は、それぞれが個別に不規則に揺動運動するため、暴れホース30の最も先端側にある錘部材36は、より複雑かつ不規則に揺動運動する。このような錘部材36およびホース部材32の先端側の不規則な揺動運動、つまり、錘部材36およびホース部材32の先端側の予測不能な揺動運動が海賊への驚異となり、ひいては海賊のモチベーションを低下させることになる。
【0052】
一方、大量放水ノズル40に供給された海水Wは、図8の矢印(6)に示すように略扇形形状に噴射され、図1に示すように、船舶10の右舷部分,左舷部分および船尾部分にカーテンを形成する。このとき海水Wは、略扇形形状の範囲内(図8の網掛部分)においてムラ無く分散されるので、カーテンの厚みを船舶10の周囲に沿って略一定とすることができる。つまり、船舶10の周囲には、海賊を侵入し易くさせるような隙間が形成されない。
【0053】
また、仮に海賊船が船舶10に並ぶよう近付いたとしても、大量放水ノズル40は海水Wを大量(20m3/h)に放水(噴射)するので、全長が7.0m程度の海賊船であれば、当該海賊船内を約3分で略5.0cm程度の水深に浸水させることができる。つまり、約3分で海賊船の復原性を大きく低下させる(バランスを崩す)ことができ、船舶10に侵入する前に、余裕を持って海賊を転覆の驚異に曝すことができる。
【0054】
以上詳述したように、第1実施の形態に係る海賊侵入防止装置18aによれば、基端側が上甲板13に設けた各T字状配管21の各分岐路21aに接続され、先端側が海面に向けて垂下した可撓性を有するホース部材32と、ホース部材32の先端側に設けられるノズル33と、ノズル33に設けられ、海水Wを噴射してホース部材32の先端側を揺動させる推力を発生する噴射孔33aと、ノズル33に設けられ、推力とバランスしてホース部材32の先端側の前後左右方向への揺れ幅を決定する錘部材36とを備えている。
【0055】
したがって、船舶10の乾舷部分において、ホース部材32の先端側を前後左右方向に不規則に揺動運動させることができる。このホース部材32の不規則な揺動運動は遠方から認識でき、かつ錘部材36も不規則に揺動運動することから海賊への驚異となる。これにより、海賊のモチベーションを低下させて船舶10へ近寄らせないようにすることができ、ひいては船舶10を海賊の驚異から保護できる。また、ホース部材32を揺動運動させる駆動源として、船舶10に予め設置された海水ポンプ等を用いるため、専用の駆動源を新たに設置する必要が無く、既存の船舶10に比較的低コストでかつ容易に設置することができる。
【0056】
さらに、第1実施の形態に係る海賊侵入防止装置18aによれば、ノズル33と錘部材36との間に、一端側がノズル33に回動自在に連結され、他端側が錘部材36に回動自在に連結される連結棒35を設けたので、ホース部材32の不規則な揺動運動により、錘部材36をより複雑かつ不規則に揺動運動させることができる。
【0057】
また、第1実施の形態に係る海賊侵入防止装置18aによれば、上甲板13の周囲に沿って延在する各配管20,21にホース部材32を10.0m間隔で複数設け、各ホース部材32間に海面に向けて海水Wを噴射する各開口部43a,43bを有する大量放水ノズル40を設けたので、船舶10の乾舷部分を海水Wのカーテンで覆うことができ、より海賊を船舶10へ近寄らせないようにすることができる。
【0058】
さらに、第1実施の形態に係る海賊侵入防止装置18aによれば、各開口部43a,43bを、船舶10の長手方向に沿って延びる長方形形状に形成したので、仮に海賊船が船舶の長手方向に沿うよう近寄ったとしても、当該海賊船に効率良く海水Wを溜めることができ、海賊を転覆の驚異に曝すことができる。
【0059】
次に、本発明の第2実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した第1実施の形態と同様の機能を有する部分については同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0060】
図9は第2実施の形態に係る海賊侵入防止装置の詳細構造を説明する部分拡大図を、図10は第2実施の形態に係る暴れホースの詳細構造および動作状態を説明する説明図をそれぞれ表している。
【0061】
図9および図10に示すように、第2実施の形態に係る海賊侵入防止装置50は、第1実施の形態に比して、エア回路60を付加しつつ暴れホース70を形成する保護部材71および錘部材72の形状が異なっている。
【0062】
エア回路60は、複数のエア配管61,T字状配管62および分岐配管63を備えており、各エア配管61および分岐配管63は、何れも可撓性を有するゴムチューブ等により形成されている。ここで、エア配管61,T字状配管62および分岐配管63は、本発明における流体配管を構成している。
【0063】
エア回路60の一端側はエア放出弁64に接続され、エア回路60の他端側はエンドキャップ(図示せず)により閉塞されている。エア放出弁64の上流側にはエアコンプレッサ(図示せず)が接続され、このエアコンプレッサとしては、例えば、ディーゼルエンジンを起動するためのエンジン起動用のエアコンプレッサを利用することができる。よって、エア回路60においても、既存の船舶10に比較的低コストでかつ容易に設置することができる。
【0064】
分岐配管63の一端側はT字状配管62に差し込み固定され、分岐配管63の他端側はスイベルジョイント65に設けられたエア導入接続部65aに差し込み固定されている。分岐配管63の他端側には、エア導入接続部65a側から、圧力計66およびエア圧調整バルブ67が設けられ、エア圧調整バルブ67は、スイベルジョイント65に供給されるエア量,エア圧を調整するようになっている。ここで、エア圧を調整するには、操作者が圧力計66を目視しつつ、エア圧調整バルブ67を操作することで行われる。
【0065】
このように、第2実施の形態に係る海賊侵入防止装置50においては、スイベルジョイント65のエア導入接続部65aからエアを導入して、暴れホース70のホース部材32内を流通する海水Wに所定量のエア(流体)Aを混入(図10参照)させている。これにより、第1実施の形態に比してより少ない水量でホース部材32の先端側を前後左右方向に揺動運動させる(暴れさせる)ことができる。
【0066】
図10に示すように、ホース部材32の基端側には、ホース部材32のアタッチメント31との接続部分を保護する保護部材71が装着されている。保護部材71は、線状の鋼材を螺旋状にしたコイルスプリングよりなり、ホース部材32の揺動運動に応じて、バネ性を持って変形可能となっている。これにより、ホース部材32のアタッチメント31との接続部分に無理な力が作用するのを抑制している。ここで、保護部材71の長さ寸法を適宜調整することで、ホース部材32の揺れ幅を調整することもできる。
【0067】
ノズル33には、連結棒35を介して錘部材72が設けられている。この錘部材72は、例えば、ブロック状の鋼材を切削加工等することにより、一辺の長さが6.0cm,重さ1.0kgの略正方形形状に形成されている。錘部材72においても遠方から確認可能となっており、より目立つようにするために白色,黄色,蛍光色等に着色しても良い。
【0068】
そして、海水放出弁17aおよびエア放出弁64を開操作することで、図10の矢印(7)および矢印(8)に示すように、スイベルジョイント65の部分、つまり暴れホース70の上流側部分で海水WにエアAが混入される。その後、海水WとエアAとの混合流体WAは、ノズル33の噴射孔33aから噴射され、これによりホース部材32の先端側が、図10の矢印(9)に示すように揺動運動する。
【0069】
以上詳述したように、第2実施の形態に係る海賊侵入防止装置50においても、上述した第1実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。これに加え、第2実施の形態においては、暴れホース70に供給する海水WにエアAを混入するようにしたので、より少ない海水Wで暴れホース70を揺動運動させることができ、ひいては小型の海水ポンプ等を設置した小型の船舶に、低コストかつ容易に海賊侵入防止装置を設けることができる。
【0070】
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記各実施の形態においては、海賊侵入防止装置18a,50として、暴れホース30,70と大量放水ノズル40との双方を設けたものを示したが、本発明はこれに限らず、暴れホース30,70のみでも海賊に対して充分な驚異を与えられるため、大量放水ノズル40を省略しても良い。
【0071】
また、上記各実施の形態においては、暴れホース30,70に海水Wを供給し、ホース部材32の先端側を前後左右方向に不規則に揺動運動させるものを示したが、本発明はこれに限らず、暴れホース30,70にエアのみを供給し、エアの供給量を制御することでホース部材32の先端側を前後左右方向に不規則に揺動運動させることもできる。
【0072】
さらに、上記各実施の形態においては、錘部材36,72をそれぞれ円形および略正方形に形成したものを示したが、本発明はこれに限らず、三角形,五角形,球状等の他形状に形成しても良いし、材質や大きさ等も自由に設定することができる。要は、錘部材の不規則な揺動運動が海賊に恐怖心を与え、ひいては海賊のモチベーションを低下させることができる形状や大きさ等であれば良い。
【符号の説明】
【0073】
10 船舶
13 上甲板
18a〜18f 海賊侵入防止装置(船舶用侵入防止装置)
20 I字状配管(流体配管)
21 T字状配管(流体配管)
32 ホース部材(ホース)
33 ノズル(揺動ノズル)
33a 噴射孔
35 連結棒
36 錘部材
40 大量放水ノズル(放水ノズル)
43a 第1開口部(放水ノズルの噴射孔)
43b 第2開口部(放水ノズルの噴射孔)
50 海賊侵入防止装置(船舶用侵入防止装置)
61 エア配管(流体配管)
62 T字状配管(流体配管)
63 分岐配管(流体配管)
72 錘部材
A エア(流体)
W 海水(流体,水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の上甲板の周囲に設けられ、流体を供給することにより作動し、不法侵入者の侵入を防止する船舶用侵入防止装置であって、
基端側が前記上甲板に設けた流体配管に接続され、先端側が水面に向けて垂下した可撓性を有するホースと、
前記ホースの先端側に設けられる揺動ノズルと、
前記揺動ノズルに設けられ、前記流体を噴射して前記ホースの先端側を揺動させる推力を発生する噴射孔と、
前記揺動ノズルに設けられ、前記推力とバランスして前記ホースの先端側の前後左右方向への揺れ幅を決定する錘部材と、
を備えることを特徴とする船舶用侵入防止装置。
【請求項2】
請求項1記載の船舶用侵入防止装置において、前記揺動ノズルと前記錘部材との間に、一端側が前記揺動ノズルに回動自在に連結され、他端側が前記錘部材に回動自在に連結される連結棒を設けることを特徴とする船舶用侵入防止装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の船舶用侵入防止装置において、前記上甲板の周囲に沿って延在する前記流体配管に前記ホースを所定間隔で複数設け、前記各ホース間に前記水面に向けて水を噴射する噴射孔を有する放水ノズルを設けることを特徴とする船舶用侵入防止装置。
【請求項4】
請求項3記載の船舶用侵入防止装置において、前記放水ノズルの前記噴射孔を、前記船舶の長手方向に沿って延びる長方形形状に形成することを特徴とする船舶用侵入防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−14244(P2013−14244A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148990(P2011−148990)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(390031554)株式会社横井製作所 (9)