説明

β−アルミナ管とセラミツクスとのガラス接合体及びその接合方法

【目的】 接合部の機械的強度に優れたβ−アルミナ管とセラミックスとのガラス接合体を提供すること。
【構成】 β−アルミナ管1と絶縁リング2とのアルミナ硼珪酸系ガラスによるガラス接合部を雰囲気保護用治具5で覆い、ガラス表面からの成分蒸発を抑制しつつ接合する。これにより表面からの深さ10μmにおける硼素濃度を、表面からの深さ1000μmにおける硼素濃度の90%以上に維持する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はナトリウム−硫黄電池の固体電解質として使用されるβ−アルミナ管とセラミックスとの接合体及びその接合方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ナトリウム−硫黄電池の固体電解質であるβ−アルミナ管は、セル陰陽極の絶縁を図るためにセラミックス(α−アルミナ)製の絶縁リングと接合して使用されており、接合剤としてはアルミナ硼珪酸系ガラスが一般的に使用されている。従来、このような接合はβ−アルミナ管の下部を絶縁リングにさし込み、その間にガラスリングを嵌めて電気炉内で加熱し、ガラスリングを溶融させる方法で行われている。
【0003】ところでこの接合部はナトリウム−硫黄電池の運転中や昇降温時に容器材料からの機械的ストレスを受けるため、信頼性を高めるために安定した強度が要求されるのであるが、従来の方法により接合されたβ−アルミナ管とセラミックスとの接合体は機械的強度にばらつきが大きく、信頼性に欠ける点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記した従来の問題点を解決して、接合部の機械的強度が大きくかつばらつきが小さいβ−アルミナ管とセラミックスとの接合体及びその接合方法を提供するために完成されたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記の課題を解決するために、従来の接合体の機械的強度のばらつきが大きい理由を追求した結果、溶融時にガラス表面からB2O3等のガラス成分が蒸発するためにガラスの内部と表面との間に組成差が生じ、これに伴い熱膨脹係数も変化して残留応力が生じ、これが機械的強度を低下させたりばらつかせている原因であることを知った。
【0006】本発明は上記の知見に基づいて完成されたものであり、第1の発明はβ−アルミナ管とセラミックスとをアルミナ硼珪酸系ガラスにより接合したガラス接合体であって、接合部のアルミナ硼珪酸系ガラスの表面からの深さ10μmにおける硼素濃度を、表面からの深さ1000μmにおける硼素濃度の90%以上に維持したことを特徴とするβ−アルミナ管とセラミックスとのガラス接合体を要旨とするものである。また第2の発明は、β−アルミナ管とセラミックスとをアルミナ硼珪酸系ガラスにより接合するにあたり、ガラス接合部を雰囲気保護用治具により限定された小空間内に置くことにより、ガラス表面からの成分蒸発を抑制しつつ接合することを特徴とするβ−アルミナ管とセラミックスとの接合方法を要旨とするものである。
【0007】
【作用】上記のように本発明の接合方法においては、β−アルミナ管とセラミックスとを接合する際にガラス接合部を雰囲気保護用治具により覆い、ガラス表面からのガラス成分の蒸発を抑制する。この結果、ガラス表面とガラス内部との組成差が減少し、特に蒸発し易い硼素の濃度に着目したとき、ガラスの表面からの深さ10μmにおける硼素濃度を、表面からの深さ1000μmにおける硼素濃度の90%以上に維持することができる。このようにして接合部の表面部と内部とのガラス組成を均一化すれば熱膨脹係数も均一化され、残留応力も減少して接合部の機械的強度に優れた接合体を得ることが可能となる。なおここで硼素濃度の差を10%未満に限定したのは、後述する実施例に示されるようにこれを越えると次第に従来品のレベルに近づくためである。以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明する。
【0008】
【実施例】まず図1に示すように外径30.0mm、長さ300mm の片端を封口した形状のβ−アルミナ管1と、外径42mm、高さ10.0mmのα- アルミナ製の絶縁リング2とを作成し、これらを固定用治具3の上にセットし、それらの間にアルミナ硼珪酸系ガラスからなるガラスリング4を置く。なお絶縁リング2にはガラスリング4の位置を決めるためのテーパ部を形成しておく。ガラスリング4は肉厚1mm、高さ2mmであり表1に示すA〜Dの4種類の組成からなり、十分に脱泡されたものを使用する。
【0009】またβ−アルミナ管1よりも僅かに大きい外径を持ち、ガラスリング4を覆う形状の円筒体をα−アルミナにより作成し、雰囲気保護用治具5として絶縁リング2の上面に置いた。本発明の効果を確認するため、内径と高さを表2のように変えた5種類の雰囲気保護用治具5を容易した。さらに比較のために雰囲気保護用治具5を使用しない接合も行った。
【0010】
【表1】


【0011】
【表2】


【0012】上記のA〜Dのガラス組成とa〜eの雰囲気保護用治具5とを組合せ、接合テストを行った。接合はそれぞれのガラスの高温粘性に対応した条件で行い、例えばガラスAの場合には室温から200 ℃/Hr で最高温度1150℃まで昇温し、1Hr保持した後、200 ℃/Hrでガラス転移点付近まで降温し、20℃/Hr で室温まで冷却した。
【0013】このようにして得られたガラス接合体の機械的強度を測定した。測定方法は、得られたガラス接合体の絶縁リング2の上下面を把持し、βアルミナ管1の封口端部に荷重を掛けることにより接合部にモーメント荷重を負荷して、その破壊荷重を測定する方法によった。以下の各接合条件について、20本ずつの接合破壊試験を実施した。その平均破壊荷重と標準偏差を示す。尚、破壊位置は総てβアルミナ管1と絶縁リング2とのガラス接合部であった。
【0014】
【表3】


【0015】いずれのガラス組成においても、雰囲気保護用治具5を用いたガラス接合体はその破壊荷重が大きく、本発明による効果が顕著であることが分かる。また雰囲気保護用治具5を用いた実施例の中でも、保護される空間体積が小さい場合、あるいはβアルミナ管1と雰囲気保護用治具5との間隙が小さい場合は破壊荷重のばらつきを示す標準偏差も小さく、信頼性が高い点でより優れた組み合わせと考えられる。
【0016】また、破壊後のガラス接合部について、ガラス部分の均質性を評価するために接合部断面の組成分布を調査した。ガラス接合部をβアルミナ管1の軸方向に切断したのち、その切断面を光学研摩し、雰囲気保護用治具5により保護されたガラス表面と内部の組成偏析状態をEPMAにより分析した。分析は点分析により雰囲気保護用治具5により保護されたガラス表面から約30μm 内部と1000μm 内部で実施した。その結果を表4に示す。また線分析によって、ガラス表面から内部への特定元素濃度を調査し、その結果を表5に示した。
【0017】
【表4】


【0018】
【表5】


【0019】
【発明の効果】以上に示したように、雰囲気保護用治具によってβ−アルミナ管とセラミックスとのガラス接合部を限定された小空間内に置き、ガラス表面からの成分蒸発を抑制しつつ接合を行わせた場合には、ガラス表面と内部との組成差が小さく均質となる。特に雰囲気保護用治具を使用しない従来法によるときは、ガラス表面からの深さ10μmにおける硼素濃度が、表面からの深さ1000μmにおける硼素濃度の60%以下に低下するが、本発明の接合体では90%以上に維持されており、その結果として表3に示したように接合部の機械的強度を従来品よりも極めて高くすることができる。よって本発明は従来の問題点を解消したβ−アルミナ管とセラミックスとのガラス接合体及びその接合方法として、産業の発展に寄与するところは極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 β−アルミナ管
2 絶縁リング
3 固定用治具
4 ガラスリング
5 雰囲気保護用治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】 β−アルミナ管とセラミックスとをアルミナ硼珪酸系ガラスにより接合したガラス接合体であって、接合部のアルミナ硼珪酸系ガラスの表面からの深さ10μmにおける硼素濃度を、表面からの深さ1000μmにおける硼素濃度の90%以上に維持したことを特徴とするβ−アルミナ管とセラミックスとのガラス接合体。
【請求項2】 β−アルミナ管とセラミックスとをアルミナ硼珪酸系ガラスにより接合するにあたり、ガラス接合部を雰囲気保護用治具により限定された小空間内に置くことにより、ガラス表面からの成分蒸発を抑制しつつ接合することを特徴とするβ−アルミナ管とセラミックスとの接合方法。

【図1】
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