説明

β−ケトチオラーゼ変異体

【課題】 野生型と比較してβ−ケトチオラーゼの触媒活性が向上した形質転換体を創出しうる、β−ケトチオラーゼの新規な酵素変異体をコードするDNAを提供することを課題とする。
【解決手段】 野生型β−ケトチオラーゼ酵素のアミノ酸残基部位、Met−290、Met−379、Cys−380において単数または複数のアミノ酸を置換したβ−ケトチオラーゼの新規な酵素変異体をコードするDNAを用いて形質転換体を作製することにより、野生型を導入した場合と比較して、β−ケトチオラーゼの触媒活性が向上した形質転換体を創出した。該形質転換体を用いることにより、β−ケトアシル−CoAおよびポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の効率の良い製造方法が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野生型と比較してβ−ケトチオラーゼの酵素活性が向上した形質転換体を創出しうる、β−ケトチオラーゼの新規な酵素変異体をコードするDNAに関する。また、本発明は、該DNAがコードする酵素変異体、該DNAを有するベクター、このベクターで形質転換された形質転換体、該酵素変異体の製造方法、ならびに該酵素変異体または該形質転換体を用いるβ−ケト脂肪酸及びその誘導体の製造方法に関する。また、本発明は、該形質転換体を用いるポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−ケトチオラーゼは生物細胞の脂肪酸代謝経路に普遍的に存在する酵素の一つであり、β−ケトアシル−CoAチオラーゼあるいは単にチオラーゼとも呼称される酵素である。多種類のβ−ケトチオラーゼ群が自然界から発見されており、酵素のアミノ酸配列および基質特異性の差違が見られる。一般にβ−ケトチオラーゼは2個のアシル−CoAを基質分子とし、触媒的な縮合反応によりβ−ケトアシル−CoA(3−オキソアシル−CoA)を生成する。
【0003】
一方、β−ケトチオラーゼによる触媒反応は、生物由来ポリマーの一つであるポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を発酵生産する際において、中間原料を供給する反応としても重要である(非特許文献1〜2、特許文献1〜2)。すなわち、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を合成し、蓄積する微生物においては以下の反応が進行する。脂肪酸代謝系より生じたアシル−CoAはβ−ケトチオラーゼ酵素により縮合し、3−オキソアシル−CoAを生じる。この反応に関わるβ−ケトチオラーゼとしては、PhaA、PhbA、BktBといった種類が知られている。次いで3−オキソアシル−CoAはβ−ケトアシル−CoA還元酵素により還元され、3−ヒドロキシアシル−CoAを生じる。この反応に関わるβ−ケトアシル−CoA還元酵素としては、PhaB、PhbBといった種類が知られている。最終的に3−ヒドロキシアシル−CoAはポリ−3−ヒドロキシアルカン酸ポリメラーゼにより連続的に縮合され、高分子であるポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を生じる。この反応に関わるポリ−3−ヒドロキシアルカン酸ポリメラーゼは、PhaC、PhbCといった種類が知られている。
【0004】
ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を工業的に生産し活用するためには、微生物による生産量を増加させることについて、技術開発を行う必要がある。この要件においては、先述したポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の生合成経路を構成する酵素群を、他種微生物の対応する酵素と置換したり、あるいは野生型酵素に突然変異を加えたりすることにより、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の産生量を増加させる試みが行われ、一定の成果が得られていた(非特許文献3、4)。しかしながら、ポリヒドロキシアルカン酸の実用的な工業的生産を行なうには、それら酵素群のさらなる改良による、微生物による生産量の向上と効率化が必要であった。特にポリヒドロキシアルカン酸の中間原料である3−オキソアシル−CoAを触媒的に生成するβ−ケトチオラーゼの改良により、生体内でのモノマー原料の生産量を向上させ、もってポリマー生産量を向上させることが必要であった。
【特許文献1】米国特許5958745号
【特許文献2】米国特許6946588号
【非特許文献1】Slater,S.,et.al.、J. Bacteriology、1998年、180巻、1979頁
【非特許文献2】Madison,L.L.,Huisman,G.W.、Microbiology and Molecular Biology Reviews、1999年、63巻、21頁
【非特許文献3】発酵ハンドブック (共立出版)、2001年、374−378頁
【非特許文献4】Matsusaki,H.,et.al.、J. Bacteriol.、1998年、180巻、6459−6467頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、野生型と比較してβ−ケトチオラーゼの触媒活性が向上した形質転換体を創出しうる、β−ケトチオラーゼの新規な酵素変異体をコードするDNAを提供する。また、該DNAがコードする酵素変異体、該DNAを有するベクター、および該DNAを導入した形質転換体を提供する。さらに本発明は、該酵素変異体の製造方法、該酵素変異体または該形質転換体を用いたβ−ケト脂肪酸及びその誘導体の製造方法を提供する。さらに本発明は、該形質転換体を用いるポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、蛋白質工学的手法および遺伝子工学的手法を用いて、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する野生型β−ケトチオラーゼを雛形として、数多くのβ−ケトチオラーゼ変異体を分子設計した。設計した該酵素変異体をコードするDNAを導入した形質転換体を作製し、形質転換体の菌体当たりのβ−ケトチオラーゼ活性を比較検討することにより、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、配列番号1〜3で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAである。さらに本発明は、以下の、(a)〜(c)の特徴を有するポリペプチドをコードするDNA;
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有する、
(b)M290L、M379L、及び、C380Hから選ばれる少なくとも1以上の変異を有する、
(c)2個のアシル−CoAを縮合して、β−ケトアシル−CoAを生成する活性を有する、
であって、野生型β−ケトチオラーゼ遺伝子を導入した時よりも高い菌体当たりの触媒活性を示す形質転換体を与えるDNAに関する。さらに本発明は該DNAがコードするポリペプチド、該ポリペプチドをコードするDNAを有するベクター、該ベクターにより形質転換された形質転換体、および該形質転換体を用いたβ−ケトチオラーゼ変異体の製造方法に関する。さらに本発明は該ポリペプチドもしくは該形質転換体を用いたβ−ケト脂肪酸またはβ−ケト脂肪酸−CoAの製造方法に関する。さらに本発明は該形質転換体を用いたポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酵素又は該酵素をコードするDNAを含んでなる形質転換体を触媒として用いることにより、β−ケト脂肪酸もしくはβ−ケト脂肪酸−CoAを高い効率で製造することが可能となる。本発明の酵素または本発明の形質転換体を用いることにより、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を高い効率で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本明細書中において、「β−ケトチオラーゼ(β−Ketothiolase)」とは、2分子のアシル−CoAを基質とし、それら基質を縮合反応させ、β−ケトアシル−CoA(別の化合物命名法では、3−オキソアシル−CoA)を合成する酵素である。2分子のアシル−CoAの内、一方は、酵素により基質特異性が異なり、アセチル−CoA、プロピオニル−CoA、ブタノイル−CoA、あるいはさらに長鎖脂肪酸に由来するアシル−CoAを基質とする。2分子のアシル−CoAの他方は、酵素によらず、アセチル−CoAを基質とする。すなわちβ−ケトチオラーゼは、前者のアシル−CoA基質分子に後者のアセチル−CoA基質分子を縮合させる反応を触媒する酵素である。β−ケトチオラーゼはPhaA酵素、PhbA酵素、もしくはBktB酵素と称される場合もある。
【0010】
本明細書中において、β−ケトアシル−CoAとは、β−ケトブタノイル−CoA、β−ケトペンタノイル−CoA、β−ケトヘキサノイル−CoA、あるいはよりアルキル鎖の長いβ−ケトアシル−CoA、おのおの単独の化合物もしくはそれら化合物の混合物である。
【0011】
本発明により、作製されまたは考慮されるβ−ケトチオラーゼ変異体を記述するに際して、参照を容易にするため、(もとのアミノ酸;位置;置換したアミノ酸)の命名法を適用する。従って、64残基目のチロシンのアスパラギン酸への置換はTyr64Asp、またはY64Dと示される。多重変異については、スラッシュ記号(“/”)により分けることで表記する。例えば、S41A/Y64Dとは、41残基目のセリンをアラニンへ、かつ、64残基目のチロシンをアスパラギン酸へ置換することを示す。
【0012】
本明細書において、酵素の「変異体」とは、酵素のアミノ酸配列に含まれるアミノ酸が少なくとも1つ以上置換、挿入、付加、もしくは欠失、または修飾されたアミノ酸配列を有し、酵素の活性の少なくとも一部を保持する改変された酵素をいう。
【0013】
本発明者らは、Cupriavidus necatorに由来するβ−ケトチオラーゼをコードするDNAを導入して得られる形質転換体の菌体当たりの触媒活性向上を図るために、該酵素と基質分子との結合能を増強しうるアミノ酸変異の設計を行った。この設計は、β−ケトチオラーゼの基質分子結合部位を特定する工程と、該結合部位近傍において基質分子と相互作用するアミノ酸残基を決定する工程と、該決定残基に対して基質分子の結合エネルギーの大きさを変更するために置換導入すべきアミノ酸残基種の決定を行う工程を含む。β−ケトチオラーゼの基質分子結合部位を特定する工程は、該酵素のアミノ酸配列と配列同一性が高く、かつ立体構造が既知である類縁酵素群のアミノ酸配列とをマルチプル・アラインメントした結果を分析することにより、また、該酵素の三次元構造をモデリングした結果を分析することにより、実施した。β−ケトチオラーゼが基質分子と相互作用するアミノ酸残基を決定する工程は、該酵素の三次元構造をモデリングし、その立体構造を分析することにより実施した。該酵素の三次元構造モデリングにあたっては、Protein Data Bankに収載の、コード番号1M3Zおよび同1M4Tに含まれる原子座標データを参考とした。該決定残基に対して基質分子の結合エネルギーの大きさを制御するための変異設計を行う工程は、多重変異蛋白質アミノ酸配列の最適化解を算出する方法(特開2001−184381号公開公報)などの計算化学的分析により実施した。これらの設計作業の結果として、野生型β−ケトチオラーゼ酵素の基質結合能を向上させ、もって酵素触媒活性が向上しうる、種々のβ−ケトチオラーゼ変異体のアミノ酸配列を考案した。考案したアミノ酸配列を持つ種々のβ−ケトチオラーゼ変異体をコードするDNAを含む形質転換体を遺伝子工学的手法により取得し、それらの無細胞抽出液の比活性を検証したところ、β−ケトアシル−CoAの生産を効率的に行いうるβ−ケトチオラーゼ変異体を発現する形質転換体を得ることに成功した。
【0014】
前記設計法による考案および実施態様を具体的に以下に示す。すなわち、配列番号4で示される野生型β−ケトチオラーゼのアミノ酸残基部位、Met−290、Met−379、Cys−380において単数または複数のアミノ酸を置換することにより、該酵素と基質分子との結合能を向上させ、もって触媒活性が向上したβ−ケトチオラーゼ変異体を得ることができる。より好ましい実施態様としては、配列番号4で示される野生型β−ケトチオラーゼのアミノ酸残基部位、Met−290をLeuに、Met−379をLeuに、Cys−380をHisに、アミノ酸を置換またはそれらの置換を組み合わせることにより、該酵素と基質分子との結合能を向上させ、触媒活性が向上したβ−ケトチオラーゼ変異体を得ることができる。さらにより好ましい実施態様としては、配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列を有するβ−ケトチオラーゼが挙げられる。
【0015】
本発明の一つの実施態様としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、M290L、M379L、または、C380Hから選ばれる1以上の変異が保持されているβ−ケトチオラーゼ変異体を挙げることができる。配列同一性は、プログラムFASTA(Perason W.R.et al.、Genomics、46、24−36(1997))やBLAST(Altschul、Stephen F. et al.、Nucleic Acids Res. 25、3389−3402(1997))を用いたアミノ酸配列相同性解析により、決定することができる。上記配列同一性は、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。配列番号1〜3で示されるアミノ酸配列に対して十分な配列同一性を有する酵素に対しても、本発明による触媒活性が向上した形質転換体取得のためのアミノ酸変異は有効であるためである。2個のアシル−CoAを縮合してβ−ケトアシル−CoAを与える活性を有するポリペプチドであれば本発明に含まれる。
【0016】
また本発明の一つの実施態様としては、上記β−ケトチオラーゼ変異体と種々のアシル−CoAおよびアセチル−CoAとを適切な条件下にて反応させ、対応するβ−ケトアシル−CoAを製造する方法を挙げることができる。さらに本発明の一つの実施態様としては、前記基質に対応するβ−ケト脂肪酸を製造する方法を挙げることができる。
【0017】
さらに本発明の一つの実施態様としては、前記酵素改変方法により得られたβ−ケトチオラーゼ変異体をコードするDNA、そのDNAを有するベクター、そのベクターにより形質転換された形質転換体を挙げることができる。さらに本発明の一つの実施態様としては、前記形質転換体を培養・増殖させ、該形質転換体によりβ−ケトアシル−CoAないしポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を製造する方法を挙げることができる。
【0018】
本発明のβ−ケトチオラーゼ変異体をコードするDNAは、野生型β−ケトチオラーゼをコードするDNAに、部位特異的な変異を導入して取得し得る。部位特異的変異は、以下のように、組換えDNA技術、PCR法等を用いて行うことができる。例えば、組換えDNA技術による変異の導入は、野生型β−ケトチオラーゼ遺伝子中の変異を導入する部位の両側に適当な制限酵素認識配列が存在する場合に、そこを前記制限酵素で切断し、変異を導入する部位を含む領域を除去した後、化学合成等によって目的の部位のみに変異導入したDNA断片を挿入するカセット変異法によって行うことができる。また、PCRによる部位特異的変異の導入は、野生型β−ケトチオラーゼ遺伝子中の変異を導入する目的の部位に目的の変異を導入した変異プライマーと前記遺伝子の一方の末端部位の配列を含む変異を有しない増幅用プライマーとで前記遺伝子の片側を増幅し、前記変異用プライマーに対して相補的な配列を有する変異用プライマーと前記遺伝子のもう一方の末端部位の配列を含む変異を有しない増幅用プライマーでもう片側を増幅し、得られた2つの増幅断片をアニーリング操作後、さらに前記2種類の増幅用プライマーでPCR操作することにより、行うことができる。
【0019】
本発明のベクターは前述したβ−ケトチオラーゼ変異体をコードするDNAを適当なベクターに連結(挿入)することにより得ることができ、また、本発明の形質転換体は本発明の組換えベクターを本発明の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。遺伝子を宿主に導入するためのベクターは、宿主中で自律複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドDNAやファージDNAをベクターとして用いることができる。例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、pBR322、pUC18、pBluescript II等のプラスミドDNA、EMBL3、M13、λgt11等のファージDNA等を、酵母を宿主として用いる場合は、YEp13、YCp50等を、植物細胞を宿主として用いる場合には、pBI121、pBI101等を、動物細胞を宿主として用いる場合は、pcDNAI、pcDNAI/Amp等をベクターとして用いることができる。
【0020】
本発明の形質転換細胞は、宿主となる細胞へ前記ベクターを導入することにより得ることができる。細菌への組換え体DNAの導入方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法やエレクトロポレーション法等が挙げられる。酵母への組換え体DNAの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。植物細胞への組換え体DNAの導入方法としては、アグロバクテリウム感染法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法等が挙げられる。動物細胞への組換え体DNAの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等が挙げられる。
【0021】
本発明の酵素変異体は、前記した形質転換体を培地で培養し、培養物(培養菌体又は培養上清)中に本発明の酵素変異体を生成蓄積させ、該培養物から前記酵素変異体を採取することにより製造することができる。
【0022】
本発明の形質転換体を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。大腸菌等の細菌を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、完全培地又は合成培地、例えばLB培地、M9培地等が挙げられる。また、培養温度は20〜40℃で好気的に6〜24時間培養することにより本発明の酵素変異体を菌体内に蓄積させ、回収することができる。
【0023】
本発明の酵素変異体の活性は、精製酵素または菌体破砕液を用いて測定する事ができる。精製は、前述した培養法により得られる培養物を遠心して回収し(細胞についてはソニケーター等にて破砕する)、アフィニティークロマトグラフィー、陽イオンまたは陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過等を単独でまたは適宜組み合わせることによって行うことができる。菌体破砕液は前述した培養法により得られる培養物を遠心して回収し、適当な緩衝液に再懸濁後、ソニケーターやガラスビーズ等にて菌体を破砕した後、再び遠心し、上清成分を回収する事で調製できる。
【0024】
本発明のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造は、前述した方法によって得られた形質転換体を適切な培地、例えば、グルコース等の糖や脂肪酸グリセリド等を十分な量だけ含む培地にて培養することによって、ポリエステルであるポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を製造することができる。より具体的には、大腸菌を形質転換する方法(特開2002−199890号公開公報)、酵母を形質転換する方法(WO03/033707号国際公開公報)に記載された方法により、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を生産する形質転換体を得ることができる。
【0025】
形質転換体内に蓄積されたポリエステルの含量及び組成は、加藤らの方法(Appl. Microbiol. Biotechnol., 45巻、363ページ、(1996); Bull. Chem. Soc., 69巻、515ページ(1996))に従い、培養細胞からクロロホルム等の有機溶媒を用いて抽出後、抽出物をガスクロマトグラフィー、NMRなどで測定分析することができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1)KNK005株の作製
先ず、遺伝子置換用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。
【0027】
Cupriavidus necator H16株(DSM430)の菌体を鋳型DNAの供給源として、配列番号5及び6に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR反応を行い、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子(phaCRe)の構造遺伝子を含むDNA断片を得た。PCR条件は(1)94℃で2分、(2)94℃で30秒、45℃で30秒、72℃で3分、を25サイクル、(3)72℃で5分、であり、ポリメラーゼとしてはTaKaRa LA Taq(タカラバイオ社製)を用いた。PCRで得たDNA断片を制限酵素BamHIで切断し、ベクターpBluescriptIIKS(−)(東洋紡社製)を同酵素で切断した部位にサブクローニングしてプラスミドpBlue−phaCReを作製した。
【0028】
Aeromonas caviae由来のポリエステル合成酵素変異体であるN149S/D171G変異体をコードする遺伝子は、次のように作製した。まず、pBluescriptIIKS(−)(東洋紡社製)をPstI処理し、DNA Blunting Kit(タカラバイオ製)を用いて平滑末端化し、ライゲーションすることによりPstIサイトを欠失したプラスミドpBlue−Newを作製した。このプラスミドのEcoRIサイトにpJRD215−EE32d13(特開平10−108682号公報)より同酵素で切り出したd13断片をクローニングしてプラスミドpBlue−d13を作製した。d13断片とは、Aeromonas caviaeが有するphaPCJオペロン(phaPCJオペロンは、遺伝子発現制御因子であるプロモーター、Phasinタンパク質をコードするphaP遺伝子、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素をコードするphaC遺伝子、エノイルCoAヒドラターゼをコードするphaJ遺伝子、および、ターミネータ−を含む。)から、phaP遺伝子およびphaJ遺伝子を欠失させた断片である。したがって、d13断片とは、遺伝子発現制御因子であるプロモーター、phaC遺伝子、および、ターミネーターからなるDNAである。次に、Mutant(E2−50)由来のプラスミド(Kichise等、Appl.Environ.Microbiol、68:2411−2419(2002))を鋳型とし、配列番号7及び8に記載の塩基配列からなるプライマーセット、及び、配列番号9及び10に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてそれぞれPCR法によりDNAフラグメントを増幅し、2断片を得た。PCR条件は(1)94℃で2分、(2)94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で2分、を25サイクル、(3)72℃で5分であった。増幅された2断片を等モル混合し再びPCR反応を行い、2断片を結合させた。そのPCR条件は(1)96℃で5分、(2)95℃で2分、72℃で1分、を12サイクル、であり、ポリメラーゼとしてはPyrobestポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いた。目的サイズである1005bpに相当するDNA断片を、アガロース電気泳動で分離し、ゲルより切り出し、PstIとXhoIで処理し、同酵素で処理したpBlue−d13に断片を入れ替える形でクローニングしてプラスミドpBlue−N149S/D171Gを作製した。挿入断片の塩基配列決定を、APPLIED BIOSYSTEMS社製のDNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzerを用いて行い、作製した遺伝子が、PHA合成酵素の149番目のアミノ酸であるアスパラギンがセリンに、171番目のアミノ酸であるアスパラギン酸がグリシンに置換された変異酵素をコードする変異遺伝子であることを確認した。
【0029】
pBlue−N149S/D171Gを鋳型として配列番号11及び12に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR反応を行い、N149S/D171G変異体の構造遺伝子を含むDNAを増幅させた。PCR条件は(1)94℃で2分、(2)94℃で30秒、45℃で30秒、72℃で2分、を25サイクル、(3)72℃で5分、であり、ポリメラーゼとしてはTaKaRa LA Taq(タカラバイオ社製)を用いた。次に、pBlue−phaCReを制限酵素SbfIとCsp45Iで処理し、同酵素で処理した上記増幅DNA断片をphaCRe構造遺伝子を含むSbfI−Csp45I断片と入れ替える形でクローニングして、プラスミドpBlue−phaCRe::N149S/D171Gを作製した。
【0030】
次に、プラスミドpJRD215(ATCC37533)を制限酵素XhoIとDraIで処理してカナマイシン耐性遺伝子を含む約1.3kbのDNA断片を単離後、DNA Blunting Kit(タカラバイオ社製)を用いて末端を平滑化し、pBlue−phaCRe::N149S/D171Gを制限酵素SalIで切断後、同様に平滑末端化した部位に挿入して、プラスミドpBlue−phaCRe::N149S/D171G−Kmを作製した。
【0031】
続いて、プラスミドpMT5071(Tsuda、GENE,207:33−41(1998))を制限酵素NotIで処理してsacB遺伝子(sacB遺伝子はlevansucraseをコードする遺伝子であり、levansucraseはsucroseを細胞致死性のlevansucroseに変換する反応を触媒する)を含む約8kbのDNA断片を単離し、pBlue−phaCRe::N149S/D171G−KmをNotIで切断した部位に挿入して遺伝子置換用プラスミドpBlue−phaCRe::N149S/D171G−KmSACを作製した。
【0032】
次に、遺伝子置換株の作製を行った。
【0033】
遺伝子置換用プラスミドpBlue−phaCRe::N149S/D171G−KmSACで大腸菌S17−1株(ATCC47005)を形質転換し、Cupriavidus necator H16株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(くえん酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、りん酸二水素アンモニウム1g/L、りん酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがCupriavidus necator H16株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株を選択してプラスミドが脱落した株を取得した。さらにPCRによる解析によりphaCRe遺伝子がN149S/D171G変異体遺伝子に置換された菌株を単離した。この遺伝子置換株をKNK005株と命名し、染色体上の遺伝子置換箇所周辺領域の塩基配列決定を、APPLIED BIOSYSTEMS社製のDNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzerを用いて行い、染色体上のphaCRe遺伝子の開始コドンから終止コドンまでがN149S/D171G変異体遺伝子の開始コドンから終止コドンまでに置換された株であることを確認した。
【0034】
(実施例2)KNK005−ASの作製
<β−ケトチオラーゼ遺伝子の破壊用プラスミドの作製>
プラスミドpJRD215を鋳型とし、配列番号13及び14に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR反応を行い、約1.2kbpのカナマイシン耐性遺伝子を含むDNA断片を調製した。次にpMT5071を制限酵素BamHIで処理し、同酵素で処理した上記DNA断片を、プラスミドpMT5071上のクロラムフェニコール耐性遺伝子と入れ替える形でクローニングして、プラスミドpSACKmを作製した。
【0035】
KNK005株の菌体を鋳型DNAの供給源として、配列番号15及び6に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR反応を行い、約1.1kbpのβ−ケトチオラーゼ遺伝子(phbA)を含むDNA断片を調製した。PCR条件は(1)98℃で2分、(2)98℃で30秒、55℃で30秒、72℃で2分、を30サイクル、(3)72℃で3分であり、ポリメラーゼとしてはTaKaRa Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いた。このDNA断片を制限酵素BamHIで切断し、ベクターpBluescriptIIKS(−)(東洋紡社製)を同酵素で切断した部位にサブクローニングした。配列番号16で示される塩基配列からなる変異プライマーPHBASTOP2を用い、TaKaRa LA PCR in vitro Mutagenesis System(タカラバイオ社製)を利用して開始コドンから16残基目のアミノ酸が終止コドンとなり、同時に制限酵素NheI切断部位が生じるような塩基置換を行った。この様にして作製した変異型phbAがクローニングされたプラスミドを制限酵素NotIで切断し、pSACKmを同酵素で切断して調製した約5.7kbのDNA断片(oriT+KmR+sacBR)を挿入して染色体置換用ベクター(pBlueASRU)とした。
【0036】
<染色体置換>
実施例1の遺伝子置換株の作製方法と同様にして、KNK005株を親株としてpBlueASRUを用いて染色体置換株KNK005−AS株を作製した。KNK005−AS株の染色体上の遺伝子置換箇所周辺領域のDNA塩基配列を解析して、β−ケトチオラーゼ遺伝子がpBlueASRUの相同配列部分と置き換わって終止コドンと制限酵素NheI切断部位が生成していることを確認した。
【0037】
(実施例3)プラスミドベクターpCUP2EEbktBの作製
<pCUP2ベクターの作製>
本発明においてβ−ケトチオラーゼ遺伝子を導入するプラスミドベクターとしては、Cupriavidus属細菌にて使用可能なものであれば特に制限はない。本発明に使用したプラスミドベクターpCUP2は以下のように作成した。プラスミドベクターは配列番号17に記載のCupriavidus metallidurans CH34株(DSM 2839)が保有するメガプラスミド(pMOL28)の複製開始点及を用いた。
【0038】
具体的な作製手順としては、まず、Cupriavidus metallidurans CH34株からDNA Purification Kit(Promega社製)を使用し、メガプラスミドを含むゲノムを調製、このゲノムを鋳型に配列番号18及び19に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCRによって約4kbpの配列番号17に記載の塩基配列を含むDNA領域を増幅した。PCR条件は(1)98℃で2分、(2)98℃で30秒、55℃で30秒、72℃で5分、を30サイクル、(3)72℃で5分であり、ポリメラーゼとしてはTaKaRa Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いた。増幅断片を大腸菌用のクローニングベクターPCR−Blunt2−TOPO(Invitrogen社製)にクローニングしたベクターpCUPMTを作製した。
【0039】
次に、ベクターpCUPMTを鋳型に配列番号20及び21に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCRを行い、DNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))によって繋ぐ事によりベクターpCUPMTのうち、641bpを欠失させたベクターpCUPを作製した。PCR条件は(1)98℃で2分、(2)98℃で30秒、55℃で30秒、72℃で7分、を30サイクル、(3)72℃で7分、であり、ポリメラーゼとしてはTaKaRa Pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用いた。
【0040】
便宜上、さらにpCUPに制限酵素MunIサイトを導入した。具体的な作製手順としては、まず配列番号22及び23に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用い、実施例3にて作製したpCUPを鋳型にしてPCRを行い、得られた増幅断片をDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))によって繋ぐ事により、MunIサイトを導入した。PCR条件は(1)98℃で2分、(2)98℃で30秒、55℃で7分、72℃で5分、を30サイクル、であった。ポリメラーゼとしてはTaKaRa Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いた。
【0041】
このようにして、配列番号17で示される塩基配列を含有する、本発明に使用したプラスミドベクターpCUP2を作製した。
【0042】
<pCUP2EEbktBベクターの作製>
まず、本発明で使用するβ−ケトチオラーゼ遺伝子を有しているCupriavidus necator H16株からDNA Purification Kit(Promega社製)を使用しゲノムを調製、このゲノムを鋳型に配列番号24及び25に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR法によって増幅、配列番号26に記載の塩基配列からなるβ−ケトチオラーゼ遺伝子を含む増幅断片を得た。その条件は(1)94℃で2分、(2)98℃で10秒、60℃で10秒、68℃で2分、を30サイクル、(3)68℃で3分であった。ポリメラーゼとしてはLA Taq DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を使用した。次にこの増幅断片をBglII及びAflIIによって処理し、同じくBglII及びAflIIで処理した後、アルカリホスファターゼ処理を行いDNAを脱リン酸化処理したpJRD215−EE32d13とライゲーション処理を行い、pJRD215−EE32d13のBglIIとAflIIの間のDNA断片と入れ替える形でクローニングを行い、プラスミドpJRD215−EEbktBを作製した。ライゲーションにはLigation High(東洋紡社製)を用いた。
【0043】
この様にして作製したpJRD215−EEbktBをEcoRIで切断して、bktB遺伝子を含むDNA断片を調製し、MunI処理したpCUP2とライゲーションを行う事で、pCUP2EEbktBを作製した。ライゲーションにはLigation High(東洋紡社製)を使用した。
【0044】
(実施例4)プラスミドベクターpCUP2EEbktBM290Lの作製
実施例3にて作製したpCUP2EEbktBを鋳型に配列番号27及び28に記載の塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR法によって目的のDNA断片を増幅し、増幅断片を得た。その条件は(1)98℃で4分、(2)98℃で10秒、68℃で10分、を30サイクルである。ポリメラーゼとしてはKODplus(東洋紡社製)を使用した。
【0045】
次にこの増幅断片をDpnI処理する事で鋳型であるpCUP2EEbktBを分解した。その後、増幅断片の末端をキナーゼでリン酸化処理した。キナーゼとしてはT4PolynucleotideKinase(タカラバイオ社製)を用いた。この様にして末端がリン酸化されたDNA断片を調整し、ライゲーションを行う事で配列番号29に記載の塩基配列を含む環状のプラスミドベクターpCUP2EEbktBM290Lを作製した。ライゲーションにはLigation High(東洋紡社製)を使用した。変異導入箇所の塩基配列決定は、APPLIED BIOSYSTEMS社製のDNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzerを用いて行い、配列番号26に記載の配列からなるβ−ケトチオラーゼ遺伝子の868bp目のアデニン(A)がシトシン(C)に変わっている事を確かめた。この変異によって、290番目のメチオニンコドン(ATG)がロイシンコドン(CTG)に変換される。
【0046】
(実施例5)プラスミドベクターpCUP2EEbktBM379L作製
プライマーセットとして配列番号30及び31に記載の塩基配列からなるプライマーセットを使用した以外は実施例4と同様の操作により、配列番号32に記載の塩基配列を含むプラスミドベクターpCUP2EEbktBM379Lを作製した。変異導入箇所の塩基配列決定は、APPLIED BIOSYSTEMS社製のDNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzerを用いて行い、配列番号25に記載の塩基配列からなるβ−ケトチオラーゼ遺伝子の1135bp目のアデニン(A)がシトシン(C)に変わっている事を確かめた。この変異によって、379番目のメチオニンコドン(ATG)がロイシンコドン(CTG)に変換される。
【0047】
(実施例6)プラスミドベクターpCUP2EEbktBC380Hの作製
配列番号34に記載の塩基配列を含むプラスミドベクターpCUP2EEbktBC380Hを作製した。変異導入箇所の塩基配列決定は、APPLIED BIOSYSTEMS社製のDNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzerを用いて行い、配列番号25に記載の塩基配列からなるβ−ケトチオラーゼ遺伝子の1138bp目のチミン(T)がシトシン(C)に、1139番目のグアニン(G)がアデニン(A)変わっている事を確かめた。この変異によって、380番目のシステインコドン(TGC)がヒスチジンコドン(CAC)に変換される。
【0048】
(実施例7)形質転換体の作製
エレクトロポレーション法による形質転換は、次のように実施した。エレクトロポレーションに使用した遺伝子導入装置はBio−rad社製のジーンパルサーを用い、キュベットは同じくBio−rad社製のgap0.2cmを用いた。キュベットに、KNK005−AS株のコンピテント細胞400μlとプラスミドpCUP2EEbktB、pCUP2EEbktBM290L、pCUP2EEbktBM379L、または、pCUP2EEbktBC380Hの調製液5μlを注入してジーンパルサーにセットし、静電容量25μF、電圧1.5kV、抵抗値800Ωの条件で電気パルスをかけた。パルス後、キュベット内の菌液をNutrientBroth培地(DIFCO社製)(以後NB培地とも記す)で30℃、3時間振とう培養し、選択プレート(Nutrient Agar培地(DIFCO社製)、カナマイシン100mg/L)で、30℃にて2日間培養して、形質転換体KNK005−AS+pCUP2EEbktB株、KNK005−AS+pCUP2EEbktBM290L株、KNK005−AS+pCUP2EEbktBM379L株、または、KNK005−AS+pCUP2EEbktBC380H株を取得した。コンピテント細胞は次の様に調製した。まず、KNK005−AS株のグリセロールストックをNB培地に接種して30℃で20時間前培養し、その培養液をさらにNB培地に接種した。接種量は接種する培地に対して1%(v/v)であった。接種後さらに30℃で3時間培養した。培養後の培養液適当な容器に移し、遠心分離により菌体回収した。回収した菌体に培養液の同量の滅菌水を入れ、懸濁し、再び遠心分離によって菌体を回収する事で菌体を洗浄した。その後、培養液50ml当たり1mlの滅菌水に再懸濁し、コンピテント細胞とした。
【0049】
(実施例8)β−ケトチオラーゼ活性の測定
まず、前培養培地(1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Trypton、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4、(pH6.8))5mlにKNK005−AS+pCUP2EEbktBM290L株、KNK005−AS+pCUP2EEbktBM379L株、または、KNK005−AS+pCUP2EEbktBC380H株を植菌して30℃で1晩培養したものを、5mlの酵素活性測定用培地(1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、0.29w/v%(NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5w/v% フラクトース、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの))に対して0.05ml接種して、30℃で24時間培養した。この培養液2mlを4℃で10000xg、1分間の遠心分離する事で菌体を集めた。この菌体を緩衝液(100mM Tris−塩酸緩衝液、1mM EDTA、pH7.5)で2回洗浄し、1mlの同緩衝液に懸濁した。これを超音波処理して菌体を破砕した後、15000xg、4℃、5分間の遠心分離した上清を粗酵素液として用いた。
【0050】
β−ケトチオラーゼ活性は反応液(100mM Tris−HCl(pH8.0)、0.06mM アセトアセチル−CoA、0.1mM CoA−SH、20mM MgCl2)に前記粗酵素液0.01mlを添加して、全量を0.5mlとし、25℃で反応させてアセトアセチル−CoAの分解を303nmの吸光度で測定した。β−ケトチオラーゼ活性は、1分間に1μmolのアセトアセチル−CoAを分解する酵素量を1ユニットとした。
【0051】
比活性はタンパク質1mgあたりのユニットとした。なお、タンパク質の定量はウシ血清アルブミンをスタンダードとして、Bio−Radプロテインアッセイ試薬(バイオラッド社製)を用いたブラッドフォード法で測定した。
結果は表1に示した。
【0052】
【表1】

(比較例1)β−ケトチオラーゼ活性の測定
実施例8と同様の操作により、KNK005−AS株及びKNK005−AS+pCUP2EEbktBのβ−ケトチオラーゼ活性を測定した。結果は表1に示した。
【0053】
(実施例9)ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造
実施例7にて作製したKNK005−AS+pCUP2EEbktBM290L株、KNK005−AS+pCUP2EEbktBM379L株、または、KNK005−AS+pCUP2EEbktBC380H株を用いたポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造を行なった。
【0054】
製造は次の様な培養によって行った。前培地の組成は1w/v%Meat−extract、1w/v%Bacto−Trypton、0.2w/v%Yeast−extract、0.9w/v%Na2HPO4・12H2O、0.15w/v%KH2PO4、(pH6.7)とした。ポリエステル生産培地の組成は1.1w/v%Na2HPO4・12H2O、0.19w/v%KH2PO4、0.6w/v%(NH42SO4、0.1w/v%MgSO4・7H2O、0.5v/v%微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v%FeCl3・6H2O、1w/v%CaCl2・2H2O、0.02w/v%CoCl2・6H2O、0.016w/v%CuSO4・5H2O、0.012w/v%NiCl2・6H2O、0.01w/v%CrCl3・6H2Oを溶かしたもの。)炭素源は形質転換体が資化可能であれば特に限定されないが、パーム核油オレイン画分(PKOO)100重量部に対して酪酸を20重量部にて混合した炭素源を使用した。培養は炭素源を流加する流加培養にて行った。培養手順を以下に示す。
【0055】
KNK005−AS+pCUP2EEbktBM290L株、KNK005−AS+pCUP2EEbktBM379L株、または、KNK005−AS+pCUP2EEbktBC380H株のグリセロールストックを前培地に接種して20時間培養し、2.5Lの生産培地を入れた5Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−U50型)に10v/v%で接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度420rpm、通気量0.6vvmとし、pHは6.6から6.8の間でコントロールした。コントロールには14%のアンモニア水を使用した。培養は50時間まで行った。培養後遠心分離によって菌体を回収し、110℃、8時間乾燥させた後、乾燥菌体重量を測定した。また乾燥菌体からクロロホルムにてポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を抽出し、へキサンにて晶析する事により得られたポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の乾燥重量を量る事で生産量を測定した。また、乾燥菌体重量とポリ−3−ヒドロキシアルカン酸生産量との差からポリマー含量を算出した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の、(a)〜(c)の特徴を有するポリペプチドをコードするDNA;
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有する、
(b)M290L、M379L、及び、C380Hから選ばれる少なくとも1以上の変異を有する、
(c)2個のアシル−CoAを縮合して、β−ケトアシル−CoAを生成する活性を有する。
【請求項2】
配列番号1、2、または、3に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載のDNA。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のDNAがコードするポリペプチド。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターにより形質転換された形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を用いたβ−ケトチオラーゼ変異体の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載のポリペプチドを用いた、β−ケト脂肪酸またはβ−ケト脂肪酸−CoAの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の形質転換体を用いた、β−ケト脂肪酸またはβ−ケト脂肪酸−CoAの製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の形質転換体を用いた、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造方法。

【公開番号】特開2010−4763(P2010−4763A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165191(P2008−165191)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】