βアミロイド生成抑制剤
【課題】 アミロイド前駆体切断酵素を阻害することなくβアミロイドの生成を抑制し得る新規なアルツハイマー治療薬の提供。
【解決手段】 X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体とX11Lとの結合増強剤、アミロイド前駆体の代謝抑制剤、βアミロイド生成抑制剤、並びにX11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体とX11Lとの結合を増強し得る化合物、アミロイド前駆体の代謝を抑制し得る化合物、βアミロイド生成を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
【解決手段】 X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体とX11Lとの結合増強剤、アミロイド前駆体の代謝抑制剤、βアミロイド生成抑制剤、並びにX11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体とX11Lとの結合を増強し得る化合物、アミロイド前駆体の代謝を抑制し得る化合物、βアミロイド生成を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、βアミロイド生成抑制方法及びβアミロイド生成抑制剤に関し、特にX11Lとアミロイド前駆体との結合を増強することによりアミロイド前駆体の代謝を抑制してβアミロイドの生成を抑制する方法及びβアミロイドの生成を抑制し得る剤に関する。さらに本発明はβアミロイド生成抑制に有用な化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)の治療薬としては、(1)βアミロイド(Aβ)の生成阻害、(2)Aβの凝集阻害、(3)分泌されたAβの分解促進、(4)沈着したAβの除去等の方法が開発途中である。(1)のAβの生成阻害としては、アミロイド前駆体タンパク質(APP)切断酵素BACE(β−site ATP Cleaving enzyme)及びγ−セクリターゼの阻害物質の開発が進められている。これらは切断酵素を直接阻害するため、生体内の他の基質の切断も阻害し、副作用の可能性を除去できない。(2)のAβの凝集阻害は、細胞外に分泌したAβの凝集を阻害する薬剤である。Aβは凝集体形成が神経毒性を示すとされており効果が期待されているが臨床試験にまで進んでいる薬剤は少ない。(3)の分泌されたAβの分解促進は、Aβを分解することを目的とした治療方法である。Aβ分解酵素としてはネプリライシン及びインスリン分解酵素が候補として挙げられており、分解活性を細胞外で示すネプリライシンの活性化、発現量増大を惹起する方法が開発されている。この方法も、細胞外刺激が可能な薬剤の開発により臨床試験までたどり着いている。(4)はAβ免疫療法であり、ELAN社を筆頭に臨床試験を行ったが、脳炎の副作用で一時中断しており、現在免疫方法の改善等が行われている。
【0003】
一方、X11Lタンパク質は、APPに結合する神経特異的タンパク質として単離された。X11LはAPPの細胞質ドメインに結合し、APPの代謝を安定化する(非特許文献1)。X11Lはさらにタンパク質Alcadeinと結合し、神経細胞ではAPP−X11L−Alcadeinの三量体として存在する。三量体中のAPPはより代謝的に安定化され、ADの発症原因とされるAβの生成が強く抑制される(非特許文献2)。X11Lが複合体から解離すると、APPとAlcadeinは協調的な代謝を受け始め、APPからAβが生成し始める(非特許文献3)。AD患者脳切片を用いた免疫染色から、APPとAlcadeinはAβが沈着した老人斑周辺の神経変性を起こしつつある神経細胞の肥大化した末端(腫大神経突起部)に蓄積している(非特許文献2)が、X11Lはむしろ老人斑に検出できる(非特許文献4)ことがわかった。また、X11Lを過剰発現したトランスジェニック(Tg)マウスをAPPのスウェーデン型変異を持つTgマウス(Tg2576)と交配させると、Aβの脳内産生量が減少する(非特許文献5)。これまでの知見は、X11LのAPPへの結合維持がAPPの代謝を安定化させAβの生成を抑制することを示しており、X11LのAPPへの結合制御を利用した新たなAβ抑制剤の開発がADの治療薬として有望であることを示唆している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−164298号公報
【非特許文献1】Tomita S, Ozaki T, Taru H, Oguchi S, Takeda S, Yagi Y, Sakiyama S, Kirino Y, Suzuki T. Interaction of a neuron-specific protein containing PDZ domains with Alzheimer's amyloid precursor protein. J Biol Chem. 1999 Jan 22;274(4):2243-54.
【非特許文献2】Araki Y, Tomita S, Yamaguchi H, Miyagi N, Sumioka A, Kirino Y, Suzuki T. Novel cadherin-related membrane proteins, Alcadeins, enhance the X11-like protein-mediated stabilization of amyloid beta-protein precursor metabolism. J Biol Chem. 2003 Dec 5;278(49):49448-58.
【非特許文献3】Araki Y, Miyagi N, Kato N, Yoshida T, Wada S, Nishimura M, Komano H, Yamamoto T, De Strooper B, Yamamoto K, Suzuki T. Coordinated metabolism of Alcadein and amyloid beta-protein precursor regulates FE65-dependent gene transactivation. J Biol Chem. 2004 Jun 4;279(23):24343-54.
【非特許文献4】McLoughlin DM, Irving NG, Brownlees J, Brion JP, Leroy K, Miller CC. Mint2/X11-like colocalizes with the Alzheimer's disease amyloid precursor protein and is associated with neuritic plaques in Alzheimer's disease.Eur J Neurosci. 1999 Jun;11(6):1988-94.
【非特許文献5】Lee JH, Lau KF, Perkinton MS, Standen CL, Rogelj B, Falinska A, McLoughlin DM, Miller CC. The neuronal adaptor protein X11beta reduces amyloid beta-protein levels and amyloid plaque formation in the brains of transgenic mice. J Biol Chem. 2004 Nov 19;279(47):49099-104.
【非特許文献6】Uhlik MT, Abell AN, Johnson NL, Sun W, Cuevas BD, Lobel-Rice KE, Horne EA, Dell'Acqua ML, Johnson GL. Rac-MEKK3-MKK3 scaffolding for p38 MAPK activation during hyperosmotic shock. Nat Cell Biol. 2003 Dec;5(12):1104-10.
【非特許文献7】Seet BT, Pawson T. MAPK signaling: Sho business. Curr Biol. 2004 Sep 7;14(17):R708-10. Review.
【非特許文献8】Saiardi A, Bhandari R, Resnick AC, Snowman AM, Snyder SH. Phosphorylation of proteins by inositol pyrophosphates. Science. 2004 Dec 17;306(5704):2101-5.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記(1)に属する、新規なAD治療薬の開発を目的とする。具体的には直接APP切断酵素を阻害することなく、上記(3)の方法と同様に、細胞外からの薬剤による活性化が可能なAβ生成抑制剤の提供、それを含むAD治療薬の提供及びそれを得る為のスクリーニング方法の提供等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
1)細胞を高浸透圧処理した場合、APPへのX11Lの結合が増加すること、
2)高浸透圧刺激は、X11Lのリン酸化を促進し、このリン酸化がAPPへの結合を強めること、
3)X11LのAPPへの結合サイトは中央のPhosphotyrosine Interaction(PI)ドメイン(アミノ酸番号368〜555)であるが、APPへの結合を強める領域はPIドメインのN末端側221〜250の間にあること、及び
4)X11Lの221〜250領域のリン酸化可能アミノ酸に変異を導入し、高浸透圧刺激でAPPへの結合が増加しないことを指標に、2箇所のリン酸化サイトとして236番目のセリン(以下、Ser236ともいう)及び238番目のセリン(以下、Ser238ともいう)が同定されたこと。
これらの知見をもとに、X11Lのリン酸化を制御することによってX11LのAPPへの結合を強化しAPPからAβの生成を抑制し得ることが可能になった。すなわち本発明は以下の通りである。
【0006】
〔1〕X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体とX11Lとの結合増強剤。
〔2〕X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体の代謝抑制剤。
〔3〕X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、βアミロイド生成抑制剤。
〔4〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ
酸番号221〜250の領域内にある、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤。
〔5〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の剤を含む、βアミロイドが関連する疾患の予防・治療剤。
〔7〕βアミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、上記〔6〕記載の予防・治療剤。
〔8〕X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体タンパク質とX11Lタンパク質との結合を増強する方法。
〔9〕X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制する方法。
〔10〕X11Lのリン酸化を促進することを含む、βアミロイドの生成を抑制する方法。
【0007】
〔11〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、上記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、上記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体とX11Lとの結合を増強し得る化合物のスクリーニング方法。
〔14〕X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
〔15〕X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、βアミロイドの生成を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
〔16〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、上記〔13〕〜〔15〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
〔17〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、上記〔13〕〜〔15〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
〔18〕リン酸化X11L特異抗体を用いることを特徴とする上記〔13〕〜〔17〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、APPが代謝を受けAβが産生されるのを効果的に抑制することができ、従って、アルツハイマー病等の、Aβがその発症原因の一つといわれている種々の疾患の新しい予防法や治療法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
細胞に高浸透圧刺激を与えた場合、X11Lのリン酸化が促進され、このリン酸化がAPPへの結合を強めている、という、本発明者らが得た知見は、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物がAPPとX11Lとの結合を増強してAPPの代謝を抑制し、それによってAβの生成を抑制し得ることを示している。従って本発明は、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有するAPPとX11Lとの結合増強剤、APPの代謝抑制剤及びAβ生成抑制剤を提供する。また、X11Lのリン酸化を促進することを含む、APPとX11Lとの結合を増強する方法、APPの代謝を抑制する方法及びAβ生成を抑制する方法を提供する。
本発明において有効成分として含められるX11Lのリン酸化促進作用を有する化合物としては、X11Lタンパク質のリン酸化を促進する化合物であれば特に限定されないが、詳細には、X11Lタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250領域内にあるリン酸化部位のリン酸化、より好ましくはSer236及び/又はSer238をリン酸化し得る化合物である。より好ましくはSer236及びSer238の両方のセリン残基をリン酸化し得る化合物である。
【0010】
高浸透圧刺激により活性化される細胞内情報伝達系リン酸化酵素としては、MAPキナーゼスーパーファミリーが考えられる(非特許文献6)。これらのリン酸化酵素群を活性化する化合物として高浸透圧剤の他に、例えば過酸化水素、熱ショック、タンパク質合成阻害剤、紫外線、放射線、抗ガン剤、LPS、炎症性サイトカイン、TGF−β、FAS、カプサイシン酸のいわゆるストレス応答惹起物質および環境が考えられる。しかしながら、X11Lのリン酸化を行うキナーゼが、これら既知の情報伝達系によって活性化されるキナーゼ以外である可能性もあり、X11Lのリン酸化を促進、もしくはAPPとの結合を促進する化合物であればMAPキナーゼスーパーファミリー以外のキナーゼを介してリン酸化を促進、もしくはAPPとの結合を促進してもよい。酵母では、高浸透圧を感知する細胞膜受容体Sho1、Sln1が知られており、その下流に位置するキナーゼとしてHog1(MAPK)が同定されており、このキナーゼによる何らかの基質リン酸化が、酵母の高浸透圧耐性反応を惹起していると考えられている(非特許文献7)。哺乳類ではSho1/Sln1からHog1に相当する情報伝達系が明らかになっていないが、このような哺乳類において未同定の経路を活性化する薬剤であっても、X11Lのリン酸化を促進、もしくはAPPとの結合を促進する効果があればよい。また、最近キナーゼを介さず、イノシトールピロリン酸と呼ばれる高エネルギー結合を持ったイノシトールリン酸が直接、タンパク質をリン酸化する経路が見いだされており(非特許文献8)、X11Lのリン酸化がこのような新規経路によって促進され、その結果としてAPPとの結合を促進する場合は、キナーゼを介さないタンパク質リン酸化経路を活性化する薬剤であっても差し支えない。
【0011】
本発明において、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物の、X11LのAβへの結合を増強する能力(結合能の増強)は、当該化合物で処理した場合のX11LのAβへの結合能における変化を、例えば、エピトープタグを用いた共役免疫沈降(例えば、pull−down法)、共鳴プラズモン相互作用解析などにより評価することができる。結合能の評価として、具体的には、下記方法等が挙げられる。
尚、本発明において結合能評価方法で用いる細胞は、X11L及びAPPを発現し得る細胞であれば特に限定されず、本来の性質としてX11L及びAPPを発現しAβを生成し得るものであっても、各タンパク質発現プラスミドをトランスフェクトすることによって各タンパク質を発現するように改変されたものであってもよい。
X11L及びAPPを発現し得る細胞として具体的には、これらの遺伝子を含有するベクターで形質転換した形質転換体を用いることができるが、他にIMR−32、PC12h、Neuro−2a(N2a)、SK−N−SHなどの細胞株、又はAPPとX11Lを導入したHEK−293などの細胞株を用いることもできる。
【0012】
結合能評価方法1(共免疫沈降法)
(1)FLAG等のタグ配列を有するX11L又はAPP発現プラスミド(シグナル配列の下流にFLAG等のタグ配列を有するAPP発現プラスミド(FLAG−APP)又はX11LのN−末又はC−末等にFLAG等のタグ配列を有するX11L発現プラスミド(FLAG−X11L又はX11L−FLAG))を得るステップ;
(2)細胞に、前記ステップ(1)で得られたFLAG−X11L発現プラスミド(又はFLAG−APP発現プラスミド)とAPP発現プラスミド(又はX11L発現プラスミド)とを、一過的にコトランスフェクトして、コトランスフェクタントを得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られたコトランスフェクタントを培養して、培養細胞を得るステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた培養細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(5)前記ステップ(4)で得られた処理後の培養細胞から、細胞抽出液を得るステップ;
(6)前記ステップ(5)で得られた細胞抽出液に抗FLAG抗体を加えて共免疫沈降を行なうステップ;並びに
(7)共免疫沈降を、ウエスタンブロット解析により検出するステップ;を含む方法。
かかる評価方法1においては、抗FLAG抗体を用いる場合において、X11L−APPの複合体の沈降がみられることをX11LとAPPとが結合することの指標とし、その程度を評価する。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0013】
結合能評価方法2(pull−down法)
(1)X11L発現プラスミドをトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞を培養して培養細胞を得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られた培養細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた処理後の培養細胞から細胞抽出液を得るステップ;(5)GSTとAPPとからなる融合タンパク質(GST−APP)、好ましくはGSTとAPP細胞質ドメインとからなる融合タンパク質(GST−APPcyt)を得るステップ(APPはアミノ酸残基695からなるタンパク質であり、全てをGST−融合タンパク質で生合成し回収するのは難しい。従って、X11Lの結合部位であるAPPの細胞質ドメイン47アミノ酸だけGST融合タンパク質として調製する。この方法はJ.Biol.Chem.274,2243−2254(1999)に記載されている);
(6)融合タンパク質GST−APP(好ましくはGST−APPcyt)と前記ステップ(4)で得られた細胞抽出液とを接触させるステップ;
(7)グルタチオンビーズでタンパク質を、回収するステップ;並びに
(8)抗X11L抗体を用いたウエスタンブロット解析を行い、GST−APP(好ましくはGST−APPcyt)とX11Lとの複合体を検出するステップ;を含む方法。
かかる評価方法2においては、GST−APPとX11Lとの複合体の存在をX11LとAPPとが結合することの指標とする。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0014】
結合能評価方法3(共鳴プラズモン相互作用解析)
(1)X11L発現プラスミドをトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞を培養して培養細胞を得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られた培養細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた処理後の培養細胞から細胞抽出液を得、X11Lを得るステップ;
(5)APPを固定化したチップに、前記ステップ(4)で得られたX11Lを一定の流速で、送液するステップ;及び
(6)適切な検出手段〔例えば、光学的検出(蛍光度、蛍光偏向度など)、質量分析計との組み合わせ(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計:MALDI−TOF MS、エレクトロスプレー・イオン化質量分析計:ESI−MSなど)〕により相互作用を検出するステップ;を含む方法。
ここで、X11LとAPPとからなる複合体の形成を示すセンサーグラムが呈示された場合、X11LとAPPとが結合することの指標とする。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0015】
結合能評価方法4(FRET法)
X11L及びAPPに蛍光タンパク質を融合させたcDNAを細胞に発現させ、当該細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理する。X11L及びAPPの両者の結合をFRET(Fluorescence resonance energy transfer)で検出する。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0016】
結合能評価方法5(レポーターアッセイ法)
APPの細胞質ドメイン断片(AICD)がgene transactivation活性を示す(Science 293,115−120(2001))ことが知られており、この特性を利用してX11LとAPPとの結合能を評価することができる。具体的には以下のような手順で行うことができる(図14参照)
(1)酵母転写因子Gal4のDNA結合ドメインとX11Lの融合タンパク質Gal4BD−X11Lをコードするプラスミドおよび、Gal4の転写活性化ドメインとAICDの融合蛋白質AICD−Gal4ADをコードするプラスミドを作成するステップ;
(2)レポーター遺伝子として、Gal4結合配列を上流にもつルシフェラーゼもしくはGFPもしくは抗生物質耐性タンパク質遺伝子を作成するステップ;
(3)前記(1)のプラスミド2種および(2)のプラスミドを細胞に導入し、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を細胞に作用させるステップ;
(4)X11LとAICDとの結合が促進されることにより、レポーター遺伝子の発現が増加する事をレポーター遺伝子産物による細胞の発色または死滅でアッセイする。
【0017】
また、APPとX11Lとの結合が増強されたことによるAPPの代謝抑制作用は、例えば、パルスチェイス法、免疫測定法などにより評価することができる。パルスチェイス法は、例えばJ.Biol.Chem.278,49448−49582(2003)のFig.5に記載した方法等を用いることが出来る。
【0018】
具体的には、例えば、下記方法が挙げられる。
代謝分解抑制能評価方法1(パルスチェイス法)
(1)X11L及びAPP発現プラスミドを一過的にトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(3)前記ステップ(1)で得られた細胞を、35S−標識メチオニン含有培地で一定時間培養し、ついで、過剰量のメチオニンを添加するステップ;
(4)培養液と細胞抽出液とを調製し、抗APP抗体を用いた免疫沈降により、タンパク質を回収するステップ;及び
(5)回収されたタンパク質をゲル上で電気泳動して分離し、シグナルの解析を行い、それにより量的変動を調べるステップ;を含む方法。
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。また、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物での処理は35S−標識メチオニン含有培地における培養と同時か、あるいは培養より前に行われることが好ましい。
【0019】
代謝分解抑制能評価方法2(免疫測定法)
(1)X11L及びAPP発現プラスミドを一過的にトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;及び
(3)前記ステップ(2)により得られた処理後の細胞の培養上清を回収し、サンドイッチELISA法によりAβ濃度を測定するステップ;を含む方法。
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0020】
さらに、APP代謝が制御されたことによるAβ生成の抑制作用は、例えば上記代謝分解抑制機能評価方法2と同様にしてAβ濃度を測定することによって確認することができる。
【0021】
各タンパク質(ポリペプチド)の発現プラスミドや各融合タンパク質の合成、細胞へのトランスフェクション、免疫沈降等の種々の操作は、当分野で通常実施されている方法に準じて行うことができる。
【0022】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物は、上述のようにAPPとX11Lとの結合を増強し、それによってAPPの代謝を抑制し、ひいてはAβの生成を抑制する。従ってX11Lリン酸化促進作用を有する化合物は、Aβが関連する疾患、特にAβの生成が不都合な疾患の予防又は治療に有用である。Aβの生成が不都合な疾患とは、Aβがその発症原因になっているか、あるいは増悪因子である疾患であり、特にアルツハイマー病が挙げられる。
【0023】
本発明に有効成分として含められる、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物は塩を形成していてもよく、そのような塩としては、例えば金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
【0024】
金属塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩などが挙げられる。
【0025】
有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
【0026】
無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
【0027】
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
【0028】
このうち、薬学的に許容し得る塩が好ましい。例えば、化合物内に酸性官能基を有する場合にはアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩など)などの無機塩、アンモニウム塩など、また、化合物内に塩基性官能基を有する場合には、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸など無機酸との塩、又は酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。
【0029】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を上記の医薬として使用する場合は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、本発明のタンパク質を用いる場合には生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。
【0030】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解又は懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO−50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調整された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
【0031】
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、ヒト又は温血動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。製剤中の有効成分の含有量、該製剤の投与量及びその投与回数は、投与化合物の種類、投与対象、症状、投与方法などに応じて、X11Lのリン酸化を促進してAPPとX11Lとの結合を増強し、APPの代謝を抑制し、且つAβの産生を抑制する効果を十分に発揮させうる範囲で適宜設定され得る。
【0032】
投与手段は、特に神経細胞に作用し得、APPの代謝を制御し、かつAβの産生を抑制する効果を十分に発揮させうるものであれば、特に限定されるものではない。
【0033】
X11Lのリン酸化を促進することによりAPPとX11Lとの結合が増強されてAPP代謝が抑制され、Aβの生成が抑制されるという本発明で得られた知見に基づいて、X11Lのリン酸化の程度を測定することを含む、X11Lのリン酸化を促進してAPPと
X11Lとの結合を増強し得る化合物、X11Lのリン酸化を促進してAPPの代謝を抑制し得る化合物及びAβの生成を抑制し得る化合物(以下、これらの化合物をあわせて本発明化合物と称する)のスクリーニング方法が提供される。本発明化合物は上記同様、Aβが関連する疾患、特にアルツハイマー病の予防又は治療に有効である。
【0034】
X11Lのリン酸化レベルの上昇は、当分野で通常実施されている方法を用いて間接的に、又直接的に測定することができる。リン酸化は好ましくはX11Lタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にあるリン酸化可能部位で行われ、特に好ましくはSer236及び/又はSer238でリン酸化が起こる。
ここで、「X11Lのリン酸化レベルの測定」とは、X11Lのリン酸化の有無を調べることに加え、例えば、236番目及び238番目のいずれか一方のセリンがリン酸化されているのか、あるいは両方ともリン酸化されているのか、等のX11Lのリン酸化様式を調べることも含まれる。X11Lのリン酸化様式を調べる方法としては、各リン酸化サイト特異抗体(後述)を用いて認識する方法や、X11Lをトリプシン等のプロテアーゼで分解し、その分解産物を質量分析で解析しリン酸化サイトを同定する方法等が挙げられる。
リン酸化レベルの間接的な測定方法としては、X11Lがリン酸化されるとAPPとの結合が増強されるという本発明で得られた知見から、両者の結合能の増加でもって調べる方法が挙げられる。例えば、X11L及びAPPに蛍光タンパク質を融合させたcDNAを細胞に発現させ、両者の結合増加をFRETで検出する方法等が例示される。直接的な測定方法としては、X11L特異抗体やリン酸化X11L特異抗体を用いた方法等が挙げられる。
リン酸化X11L特異抗体としては、当分野で通常実施されている方法によって作製することができ、好ましくはモノクローナル抗体である。好ましいリン酸化X11L抗体は、Ser236のリン酸化を認識する抗体、Ser238のリン酸化を認識する抗体、Ser236とSer238の両方のリン酸化を認識する抗体の3種であり、それらを併用することがいっそう好ましい。リン酸化X11L特異抗体は、リン酸化されたX11Lタンパク質(特にSer236及び/又はSer238がリン酸化されている)をリン酸化特異的に認識することができるので、試料、好ましくは細胞抽出液等の試料溶液中のリン酸化されたX11Lタンパク質の定量、組織染色等による検出に利用することができる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab’)2、Fab’、あるいはFab画分を用いてもよい。
【0035】
本発明のスクリーニング方法においてリン酸化X11L特異抗体を用いてリン酸化X11Lを定量する工程は、特に制限されるべきものではなく、試料中の抗原量(例えば、タンパク質量)に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的又は物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法及びサンドイッチ法が好適に用いられる。標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが、上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが、蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが、発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどがそれぞれ用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0036】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担
体としては、例えば、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラスなどが用いられる。サンドイッチ法においては不溶化したモノクローナル抗体に被検液を反応させ(1次反応)、さらに標識化したモノクローナル抗体を反応させ(2次反応)たのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することにより被検液中の本発明のタンパク質量等を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。標識化剤及び不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相用抗体あるいは標識用抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。サンドイッチ法によるリン酸化X11Lタンパク質の測定法においては、1次反応と2次反応に用いられるモノクローナル抗体は、当該タンパク質に結合する部位が相異なる抗体が好ましく用いられる。すなわち、1次反応及び2次反応に用いられる抗体は、例えば、X11L特異抗体とリン酸化X11L特異抗体の組み合わせであり得る。
【0037】
サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどを用いることもできる。
【0038】
これら個々の免疫学的測定法を本発明のスクリーニング方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のタンパク質の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、 同書Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、 同書Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、 同書Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、 同書Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、 同書Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0039】
本発明化合物の候補となり得る試験化合物は、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、遺伝子(ゲノムDNA、cDNA)などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
【0040】
APPとX11Lとの結合を増強し得る化合物は、X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングすることによって得られる。具体的なスクリーニング方法は、例えば、以下の手順にて行うことができる(図15参照)。
(1)X11LのSer236又はSer238、及びSer236とSer238の両方がリン酸化された状態を特異的に認識する抗体を作成するステップ−抗原としてSer236がリン酸化されたペプチド、Ser238がリン酸化されたペプチド、及びSer236とSer238の両方がリン酸化されたペプチドを用いて、これらのサイトが特異的にリン酸化されたX11Lと特異的に反応するポリクローナルもしくはモノクローナル抗体の作成を行う。方法はThr668でリン酸化されたAPPを特異的に認識する抗体を作成する方法(文献 Methods in Molecular Medicine Vol32:Alzheimer’s Disease: Me
thods and Protocols (Edited by N. H. Hooper Humana Press) pp271-282
“Phosphorylation of amyloid precursor protein (APP) family protein”, Suzuki, T., Ando, K., Iijima, K., Oguchi, S., & Takeda, S.)に準じる;
(2)X11L発現プラスミドをトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られた細胞を培養して培養細胞を得るステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた培養細胞を試験化合物で処理するステップ;
(5)前記ステップ(4)で得られた処理後の培養細胞から細胞抽出液を得、X11Lを得るステップ;
(6)ELISAプレートにX11L抗体を固定するステップ;
(7)固定化したプレートに前記(5)で得たX11Lを含む細胞抽出液を加え、抗体と反応させるステップ;
(8)洗浄後、前記(1)で得られた抗X11Lリン酸化特異抗体でプレートにトラップしたリン酸化X11Lを挟むステップ;
(9)適当な手段(酵素発色反応)等で、リン酸化X11Lを検出するステップ。
上記方法では、一次抗体(キャプチャー)としてX11L抗体を用い、二次抗体としてX11Lリン酸化特異抗体を用いたが、逆でもよい。
また、前記(5)の細胞抽出液をニトロセルロース膜等にスポットし、これに対してX11Lリン酸化特異抗体を反応させるイムノドットブロット法でも良い(図16参照)。また、細胞を固定し、X11Lリン酸化特異抗体で染色させる方法(いわゆるCytoblot法)でもよい(図17参照)。
【0041】
本発明のスクリーニング方法においては、例えば、リン酸化X11L抗体を用いたX11Lのリン酸化レベルの測定を一次スクリーニングとし、Aβの産生量の測定を二次スクリーニングとしてもよい。一次スクリーニングで選別された試験化合物の存在下又は非存在下におけるAβの産生量を測定し、比較する。Aβの測定法には種々の方法が用いられるが、Aβ特異的抗体を用いる免疫化学的方法を用いることが好ましい。これらの方法には、免疫沈降法、ウエスタンブロッティング、酵素免疫測定法、サンドイッチ型酵素免疫測定法あるいはそれらの組み合わせ方法が用いられる。Aβ特異的抗体としては、ポリクローナル抗体を用いても良いが、例えば、BAN50、BNT77、BS85、BA27、BC05(Biochemistry 34,10272−10278(1995))又は6E10、4G8などのモノクローナル抗体を用いても良い。とりわけ、BA27及びBC05は、それぞれAβ40及びAβ42/43に選択的な抗体であるため、これらの抗体、あるいは同様な選択性を有する抗体を用いれば、Aβ40の産生を阻害する化合物、Aβ42/43の産生を阻害する化合物、あるいはAβ40及びAβ42/43いずれの産生も阻害する化合物を選択することが可能となる。さらに、分泌型APP量はAβの産生を間接的に反映すると考えられることから、分泌型APP量を免疫沈降法、ウエスタンブロッティング、酵素免疫測定法、サンドイッチ型酵素免疫測定法などの免疫化学的方法で検出しても良い。
【0042】
本発明のスクリーニング方法においては、例えば、試験化合物の存在下におけるAβ産生量が、試験化合物の非存在下におけるAβ産生量に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上減少している試験化合物をAβの産生を阻害する化合物又はその塩として選択することができる。また、コントロールとして、APPを発現していない細胞を用いて、試験化合物の存在下におけるAβ産生量を測定することもできる。
【0043】
上記したスクリーニング方法で得られた化合物又はそれから誘導される化合物は、塩を形成していてもよく、該化合物の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属)等との塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水
素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が用いられる。
【0044】
上記した本発明のスクリーニング方法で得られた化合物は、Aβの産生を効率良く阻害することができるので、Aβ関連疾患(例えば、アルツハイマー病)の予防・治療剤として使用することができる。本発明のスクリーニング方法で得られた化合物を含有する医薬は、それ自体又は適当な医薬組成物として投与することができる。上記投与に用いられる医薬組成物は、上記化合物又はその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものである。かかる組成物は、経口又は非経口投与に適する剤形として提供される。すなわち、例えば、経口投与のための組成物としては、固体又は液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等があげられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウム等が用いられる。また、例えば非経口投与に適する剤形としては、注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉注射剤、腹腔内注射剤など)、外用剤(例、経鼻投与剤、経皮投与剤、軟膏剤など)、座剤(例、直腸剤、膣座剤など)、徐放剤(例、徐放性マイクロカプセルなど)、ペレット、点滴剤などが用いられる。
【0045】
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、ヒト又は温血動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。製剤中の有効成分の含有量、該製剤の投与量及びその投与回数は、投与化合物の種類、投与対象、症状、投与方法などに応じて、X11Lのリン酸化を促進してAPPとX11Lとの結合を増強し、APPの代謝を抑制し、且つAβの産生を抑制する効果を十分に発揮させうる範囲で適宜設定され得る。
【0046】
リン酸化X11L特異抗体は上記スクリーニング方法に用いられるだけでなく、当該抗体を用いX11Lのリン酸化レベルを測定することによって、Aβに関連する各種疾患の診断を行なうことができる。例えば、X11Lのリン酸化レベルが低下している場合は、APPとX11Lとの結合が弱くAPPが代謝されてAβが過剰に生産されている。一方X11Lのリン酸化レベルが上昇している場合にはAPPとX11Lとの結合が強くAPPが代謝を受けにくい状態にあり、従ってAβの産生が抑制されている。前者の場合、例えば、APP代謝異常に関連する疾患、Aβ関連疾患(例えばアルツハイマー病など)などの疾病である可能性ありと診断することができる。一方、後者の場合でも、異常なレベルの変化は、例えば、APP代謝異常に関連する疾患、Aβ関連疾患などの疾病である可能性ありと診断することができる。
【0047】
本発明化合物のスクリーニング方法としては、例えば以下のようなプロトコルが例示される。
(1)X11L発現細胞に対し、試験化合物を作用させる。培地を除去し、当該細胞から細胞抽出液を得て、X11L特異抗体とリン酸化X11L特異抗体で挟むサンドイッチエライザ法で解析し、X11Lのリン酸化レベルを上昇させる化合物(陽性化合物)をスクリーニングする。陽性化合物をAPPとX11Lとを共発現している細胞に作用させ、培地中に分泌されるAβ量を測定してAβ量の分泌量が抑制されている化合物を選択する工程を二次スクリーニングとして行ってもよい。
(2)X11L発現細胞に対し、試験化合物を作用させる。培地を除去した後、細胞を溶解し、得られた抽出液を膜上にブロットし、リン酸化X11L特異抗体を用いたイムノブ
ロットで解析し、X11Lのリン酸化レベルを上昇させる化合物(陽性化合物)をスクリーニングする。陽性化合物について(1)と同様に二次スクリーニングを行う。
(3)X11L及びAPPに蛍光タンパク質を融合させたcDNAを細胞に発現させ、試験化合物を作用させ、両者の結合増加をFRET(Fluorescence resonance energy transfer)で検出することで、X11Lのリン酸化レベルを上昇させる化合物(陽性化合物)をスクリーニングする。X11LのAPPへの結合量増加は、FRETの発色で検出することができる。
いずれの方法についても、試験化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分〜数時間程度である。処理時の温度も用いる細胞の種類に応じて適宜設定された培養温度と同様なものが利用できる。
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、大腸菌を用いての遺伝子操作は、モレキュラー・クローニング(Molecular cloning)に記載されている方法に従った。
【実施例】
【0049】
実施例1:神経細胞におけるX11L及びX11のリン酸化(図1)
(方法)
18日齢ラット胎児海馬を摘出し、トリプシンで分散させた後、ポリ−D−リジンでコートした培養プレートに5×105細胞/mL濃度で播種した。細胞は0.5mM L−グルタミン及び0.01mg/mL ピルビン酸を含有するNeurobasal medium,B27 supplement(Life technology)中37℃で培養した。7日間培養後、培地をリン酸を含まない培地に置換し、これに[32P]オルソリン酸塩を添加した。添加から2時間後に細胞を10mM CHAPS溶液(10mM
CHAPS,5μg/mL キモスタチン,5μg/mL ロイペプチン,5μg/mL ペプスタチンA,1mM Na3VO4,1mM NaF及び0.5mM マイクロシスチンL−Rを含有するPBS)で可溶化し、抗X11Lモノクローナル抗体(Mint2 Transduction Laboratorry Cat# M76120)で免疫沈降した。これをプロテインGセファロースで回収し、洗浄した。これを細菌アルカリホスファターゼ(BAP;takara)の存在下(BAP処理)、あるいは非存在下(対照)でインキュベートし、再度セファロースを洗浄後、SDS−PAGEサンプルバッファーを添加した。サンプルを7.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離後、ゲルを濾紙上で乾燥させ、X線フィルムに感光させ、オートラジオグラフィーによりリン酸化X11Lを検出した。同様な方法でリン酸化X11を検出した。
(結果)
X11L及びファミリー分子X11が神経細胞でリン酸化されていることが明らかとなった。
【0050】
実施例2:ソルビトール刺激によるAPPとX11Lの結合増強効果(1)(図2)
(方法)
DMEM/10%FCSで培養したHEK293細胞(American Type Culture Collectionより入手)にLipofectamine(Invitrogen)を用いてFLAG−APPをコードするプラスミド(0.6μg)及びHA−X11Lをコードするプラスミド(0.2μg)を導入した。FLAG−APPをコードするプラスミドとしては、APP695(695個のアミノ酸からなるAPPアイソフォーム)の17番目のアラニン(Ala17)と18番目のロイシン(Leu18)との間にFLAG配列が挿入されているFLAG−APPをpcDNA3ベクター(Invitrogen)に組み込んだものを用いた(pcDNA3−FLAG−APP695;J.Neurosci.19,4421−4427(1999))。HA−X11Lをコードするプラスミドとしては、X11LのN末端にHAタグが付いたHA−X11LをpcDNA3ベクター(Invitrogen)に組み込んだものを用いた(pcDNA3−HA−X11L;J.Biol.Chem.278,49448−49458(2003))。
導入から24時間後に培地をDMEM/10%FCS又はこれにオカダ酸(終濃度400nM、3時間処理)若しくはソルビトール(終濃度0.5M、45分間処理)を添加し、処理後の細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、抗FLAG抗体(SigmaのM2)で共役免疫沈降を行った。これをプロテインGセファロースで回収し洗浄した。これらにSDS−PAGEサンプルバッファーを加え、7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離後、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜のHA−X11Lは抗HAモノクローナル抗体(Rocheの12CA5)、FLAG−APPは抗FLAG抗体を用いたイムノブロットにより検出した。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
細胞をソルビトールで刺激した場合に、細胞内におけるAPPとX11Lとの結合が増強することが明らかになった。オカダ酸は効果を示さなかった。
【0051】
実施例3:ソルビトール刺激によるAPPとX11Lの結合増強効果(2)(図3)
(方法)
HEK293細胞にHA−hX11LをコードするプラスミドをLipofectamineを用いて導入した(hX11L発現細胞)。HA−hX11Lをコードするプラスミドとしては、hX11LのN末端にHAタグが付いたHA−hX11LをpcDNA3
ベクター(Invitrogen)に組み込んだものを用いた(pcDNA3.1−HA−hX11L;J.Biol.Chem.279,21628−36(2004))。
24時間後、0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した(高浸透圧刺激)。ソルビトールを含まないDMEM/10%FCSで同様に45分間処理したものを対照群とした。その後、細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し細胞溶解物とした。
APP細胞内領域タンパク質(APP695アイソフォームのAPP649−695)のアミノ末端側にGSTタンパク質を融合させたタンパク質(GST−APP)を大腸菌に発現させ、培養後、グルタチオンセファロースで精製し、融合タンパク質GST−APPを得た。これを先に得られた細胞溶解物と混合し4℃で2時間インキュベートした後、グルタチオンセファロースでGST−APPを回収し、洗浄後、SDS−PAGEサンプルバッファーを添加して7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜のX11Lは抗X11Lモノクローナル抗体を用いたイムノブロットにより検出した。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
X11Lを発現している細胞にソルビトール刺激を行ったところ、細胞溶解物中のX11LはGST−APP細胞質ドメインにより多く結合する。本結果よりソルビトール刺激がX11Lを修飾してAPPとの結合を増強していることが示された。
【0052】
実施例4:X11Lの脱リン酸化とAPPへの結合能の消失(図4)
(方法)
HEK293細胞を6ウェルの培養皿で培養し、0.7μgのpcDNA3.1−HA−X11Lを導入してHA−X11Lを強制発現させた。24時間後、0.5Mソルビトールにより刺激した(図4中、ソルビトール +)。一方で、ソルビトール刺激しない細胞を調製した(図4中、ソルビトール −)。200μLのλPPase溶解バッファーにより可溶化後遠心しLysateとし、5倍量のλPPase反応バッファー中で30℃、30分反応させ脱リン酸化処理を行った(図4中、λPPase +)。一方で、脱リン酸化処理を行わなかったサンプルを調製した(図4中、λPPase −)。5μgのGST−APPcytを結合させたresinに反応液(input)と終濃度2mMとなるようにEDTAを添加し、全量200μLにてCHAPSバッファー中で2時間インキュベートした。3回のCHAPSバッファーでの洗浄後サンプルバッファーで溶出しSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングを行った。HA−X11Lの検出には抗HA抗体(Roche)を、GST−APPcytの検出には抗GST抗体(Upstate)をそれぞれ用いた。また脱リン酸化処理の指標としてX11Lの304番目のThrがリン酸化した状態に反応するUT33抗体(Ando K, Oishi M, Takeda S, Iijima K, Isohara T, Nairn AC, Kirino Y, Greengard P, Suzuki T. Role of phosphorylation of Alzheimer's amyloid precursor protein during neuronal differentiation. J
Neurosci. 1999 Jun 1;19(11):4421-7.を参照して調製できる)を用いた。Versa Doc(BIO−RAD)により定量化し、高浸透圧、脱リン酸化ともに未処理のサンプルを1としてグラフ化した。
・λPPase溶解バッファー:0.5% Triton X−100/50mM Tris−HCl(pH7.4)
・λPPase反応バッファー:50mM Tris−HCl(pH7.5),0.1mM EDTA,5mM DTT,0.01% BRIJ35(10×buffer),2mM MnCl2(10×MnCl2),10μg/mL leupeptin,10μg/mL pepstatin A,10μg/mL chymostatin
・400ユニットのλPPase(SIGMA)/15μL lysate又は1mM NaF+1mM Na3VO4 (コントロール用)
・CHAPSバッファー:10mM CHAPS,150mM NaCl,1mM NaF,1mM Na3VO4,10mM Na−Phosphate pH7.4,5μg/mL leupeptin,5μg/mL pepstatin A,5μg/mL chymostatin,1μM microcystin−LR
【0053】
実施例5:X11Lのリン酸化を介したAPPへの結合能増強とJNK(図5)
(方法)
実施例3と同様にして、HEK293細胞にX11Lをコードするプラスミドを導入した。24時間後、JNK阻害剤であるSP600125(BIOMOL Research Laboratories Inc)を0、25、100μM存在下、0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した(高浸透圧刺激)。ソルビトールを含まないDMEM/10%FCSで同様に45分間処理したものを対照群とした。これとは別に、HEK293細胞に、X11L及びJNK阻害効果を持つJBD(JNK binding domain)又はJNKタンパク質をコードするプラスミドをLipofectamineを用いて導入した。JBDをコードするプラスミドとしてpcDNA3−FLAG−JBDを、JNKをコードするプラスミドとしてpcDNA3−FLAG−JNKを用いた(J.Biol.Chem.279,21628−21636(2004))。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。ソルビトールを含まないDMEM/10%FCSで同様に45分間処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し細胞溶解物とした。これの1/100量をタンパク質発現チェック用のサンプルとした。図5中ではinputとして示した。
実施例3と同様にして、得られた細胞溶解物と、APPの細胞質ドメイン(APPcyt)とGSTとの融合タンパク質GST−APPcytをインキュベートして、細胞溶解物中のX11LとAPPcytとの結合をイムノブロットにより調べた。GST−APPcytは、pGEX−4T−1−APPcyt(J.Biol.Chem.279,21628−21636(2004))で発現させた。
(結果)
ソルビトール刺激で活性化する代表的なタンパク質リン酸化酵素は、ストレスキナーゼであるJNKである。しかしながら、本実験からJNKの阻害剤、阻害ペプチド(JBD)はソルビトール刺激によるX11LのAPP結合増強を阻害しないことがわかった。ま
た、JNKの強制発現もソルビトール刺激によるX11LのAPP結合をさらに増強しなかった(この条件下でJNKが活性化されているということは別途確認済み)。すなわち、X11LのAPPへの結合増強を行うX11Lリン酸化酵素がJNKではないことが示された。
【0054】
実施例6:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域の同定(その1:N末端領域の解析)(図6)
(方法)
X11Lタンパク質の各ドメインを含む構築プラスミドを作成し、それぞれ、N+PI(1〜555アミノ酸)、PI+C(368〜749アミノ酸)、ΔMI(268〜749アミノ酸)、ΔPDZ2(1〜660アミノ酸)とした(図6下)。これらのN末端側にはFLAG配列が付加してある。
各プラスミドは、J.Biol.Chem.274,2243−2254(1999)に記載される方法に準じて調製した。
X11L:X11L(1−749全長) pcDNA3−FLAG−hX11L
N+PI:X11L(1−555) pcDNA3−FLAG−hX11L(N+PI)
PI+C:X11L(368−749) pcDNA3−FLAG−hX11L(PI+C)
ΔMI:X11L(268−749) pcDNA3−FLAG−hX11LMI
ΔPDZ2:X11L(1−660) pcDNA3−FLAG−hX11LΔPDZ2
実施例2と同様の手順でLipofectamineを用いてこれらのX11Lコンストラクト(0.4μg)とAPPをコードするプラスミド(pcDNA3−FLAG−APP695;0.7μg)をHEK293細胞に導入した。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、抗FLAG抗体で共役免疫沈降を行った。免疫沈降物をプロテインGセファロースで回収し、洗浄した。これにSDS−PAGEサンプルバッファーを加え、7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜上のAPP及びX11Lについて抗APPポリクローナル抗体(G369抗体;Thomas Jefferson大学のSamuel Gandy博士から供与された;Mol.Med.3,111−123,1997)及び抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
ソルビトール刺激によるX11LとAPPとの結合増強にはX11LのPIドメインよりN末端側の領域が必要であることが明らかになった。PIドメインはAPPへの結合領域である。特にN末端領域の前半267アミノ酸を欠失したX11LはAPPへの結合増強能力を失っていたので、この領域にAPPへの結合能を制御するX11Lのリン酸化サイトが含まれる事が明らかになった。
【0055】
実施例7:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域の同定(その2:N末端領域の解析)(図7)
(方法)
X11Lの221から250アミノ酸を欠失したコンストラクトをコードするプラスミド(X11LΔ221−250)は、pcDNA3−HA−hX11L(J.Biol.Chem.277,20070−20078 1999)を鋳型にメガプライマー法を用いて作成し、このN末端側にFLAG配列を付加した(pcDNA3−FLAG−hX11LΔ221−250)。実施例2と同様な手順で、0.4μgのX11LΔ221−250もしくはX11Lをコードするプラスミド(それぞれ、pcDNA3−FLAG−h
X11LΔ221−250又はpcDNA3−FLAG−hX11L)と0.6μgのAPPをコードするプラスミド(pcDNA3−NFLAG−APP695)とをHEK293細胞にLipofectamineを用いて導入した。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、抗APPポリクローナル抗体(G369)で共役免疫沈降を行った。免疫沈降物をプロテインGセファロースで回収し、洗浄した。これにSDS−PAGEサンプルバッファーを加え、7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜上のAPP及びX11Lについて抗APPポリクローナル抗体及び抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
図7から明らかなように、X11Lの221から250アミノ酸を欠失したX11Lは、ソルビトール処理によるAPPへの結合増強能が失われていた。
【0056】
実施例8:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域の同定(その3:インビトロにおける結合解析)(図8)
実施例7と同様にして作成したX11LΔ221−250(N末端側にFLAG配列が付加されている)又はX11LをコードするプラスミドをHEK293細胞にLipofectamineを用いて導入し、24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、細胞溶解物とした。
実施例3と同様にして作成したGST−APPをこの細胞溶解物と混合し、4℃で2時間インキュベートした後、グルタチオンセファロースでGST−APPを回収し、洗浄後、SDS−PAGEサンプルバッファーを添加して7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜のX11Lを抗X11Lモノクローナル抗体を用いたイムノブロットにより検出した。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
実施例7で示した221〜250領域を欠失したX11Lは、ソルビトール処理によるAPPへの結合増強能を失うことがインビトロで示された。221〜250領域を欠失したX11Lは、ソルビトール刺激後もAPP細胞質ドメインに結合する能力の増強程度が著しく低下していることがインビトロで明らかになった。
【0057】
実施例9:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位の同定(その1)(図9、図10)
(方法)
N末端にHAタグの付いたX11Lをwtとし、以下の変異体をメガプライマー法によって作成した(図9参照)。尚、S236は、236番目のセリンを意味し、同様に「アミノ酸の種類−その位置」の記載様式で各位置のアミノ酸を示す。
NHA−X11Lall(all;S236,S238,T240,S241,T243,S244,S246,S249全てをアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lfor(for;S236,S238,T240,S241をアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lback(back;T243,S244,S246,S249をアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lmid(mid;T240,S241,T243,S244をアラニンに置換したもの)
実施例2と同様の手順でLipofectamineを用いてこれらのNHA−X11L(wt,all,for,back,midのいずれか)をコードするプラスミド(例
えばpcDNA3−HA−X11Lall)0.4μgとNFLAG−APP(APPのN末端にFLAGタグが付されている)をコードするプラスミド(pcDNA3−NFLAG−APP695)0.2μgとをHEK293細胞に導入した。X11Lのプラスミドを入れていない実験では、空のpcDNA3ベクターを同量加えた。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化した。遠心後の上清を細胞溶解物とし抗FLAG M2抗体(Sigma)で免疫沈降した。反応物を6%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEで分離後、ニトロセルロース膜に転写、NHA−X11Lについては抗HA抗体、NFLAG−APPについては抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
実施例8で同定したX11Lの221から250アミノ酸には、図9で示す様に8個のリン酸化可能なセリン、スレオニン残基が存在する。これらのアラニン置換変異を導入した4種類のX11Lコンストラクト(all,for,back,mid)のソルビトール刺激によるAPP結合能増強効果を測定したところ、all及びforコンストラクトがAPP結合増強効果を有意に失っていた(図10)。この結果、APP結合能増強に影響を与えるリン酸化サイトはforコンストラクト内に含まれる4つのアミノ酸のうちmidコンストラクトに含まれない最初の2つのSer残基である可能性が示唆された。
【0058】
実施例10:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位の同定(その2)(図11〜13)
(方法)
N末端にHAタグの付いたX11Lをwtとし、以下の変異体をメガプライマー法によって作成した(図11参照)。
NHA−X11LS236A(S236をアラニンに置換したもの)
NHA−X11LS238A(S238をアラニンに置換したもの)
NHA−X11LS236/238A(S236とS238の両方をアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lfor(for;S236,S238,T240,S241をアラニンに置換したもの)
実施例2と同様の手順でLipofectamineを用いてこれらのNHA−X11Lをコードするプラスミド(例えばpcDNA3−HA−X11L−S236A)0.4μgとNFLAG−APPをコードするプラスミド(pcDNA3−NFLAG−APP695)0.2μgとをHEK293細胞に導入した。X11Lのプラスミドを入れていない実験では、空のpcDNA3ベクターを同量加えた。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化した。遠心後の上清を細胞溶解物とし抗FLAG M2抗体で免疫沈降した。反応物を6%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEで分離後、ニトロセルロース膜に転写、NHA−X11Lについては抗HA抗体、FLAG−APPについては抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
実施例9より同定したSer236及びSer238のいずれか、又は両方をアラニンに置換したコンストラクトを図11に示すように作成し、ソルビトール刺激によるAPP結合能増強効果を測定したところ、いずれか一方にAla変異を導入した場合は、その効果は強く失われていた(図12)。この結果、ソルビトール刺激によるX11LのAPP結合能強化には、Ser236及びSer238のリン酸化が必要であることが明らかになった。X11Lと同様にリン酸化され(実施例1)、又、Aβ生成抑制阻害効果を持つ
X11中にもこのリン酸化部位が保存されている(図13参照)。一方、X11、X11Lとは異なり、神経細胞での特異的発現を示さないX11L2にはこのリン酸化部位は含まれていない。
【0059】
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
[配列番号:1]X11Lをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
[配列番号:2]X11Lのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:3]X11Lの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:4]NHA−X11Lallの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:5]NHA−X11Lforの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:6]NHA−X11Lbackの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:7]NHA−X11Lmidの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:8]NHA−X11LS236Aの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:9]NHA−X11LS238Aの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:10]S236とS238がともにアラニンに置換された、N末端にHAタグの付いたX11Lの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:11]ヒトX11L(hX11L)の部分アミノ酸配列(220〜250)を示す。
[配列番号:12]ラットX11L(rX11L)の部分アミノ酸配列(221〜251)を示す。
[配列番号:13]ヒトX11(hX11)の部分アミノ酸配列(264〜294)を示す。
[配列番号:14]ラットX11(rX11)の部分アミノ酸配列(265〜295)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(A)は、神経細胞におけるX11L及びX11のリン酸化を示した図である。(B)は、X11及びX11Lのタンパク質構造を模式的に示したものである。
【図2】ソルビトール刺激によるAPPとX11Lとの結合増強効果を示す図である。IPのレーン:抗FLAG抗体で抽出物を免疫沈降させた沈降物を試料として用いた場合の結果。crudeのレーン:抽出物そのものを試料として用いた場合の結果。
【図3】ソルビトール刺激によるAPPとX11Lの結合増強効果を示す図である。inputのレーン:細胞溶解物をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。GST−APPのレーン:細胞溶解物とGST−APPとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。GSTのレーン:細胞溶解物とGSTとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。
【図4】X11Lの脱リン酸化によりAPPへの結合能が消失することを示した図である。lysateのレーン:ソルビトール刺激した(又はしていない)細胞の溶解物(Lysate)をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。inputのレーン:LysateをλPPaseで脱リン酸化処理した(又はしていない)試料を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。boundのレーン:LysateをλPPaseで脱リン酸化処理した(又はしていない)試料とGST−APPとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。下図は上記結果(boundのレーン)を比で数値化したグラフである。
【図5】X11Lのリン酸化を介したAPPへの結合能増強へのJNKの関与を調べた結果を示す図である。pull downのレーン:細胞溶解物とGST−APPとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。input:細胞溶解物をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。
【図6】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域を同定した結果を示す図である。 左側上段は抗FLAG抗体を用いた免疫沈降物を抗APP抗体でイムノブロットした結果であり、中段は溶解物をそのまま抗APP抗体でイムノブロットした結果であり、下段は溶解物をそのまま抗FLAG抗体でイムノブロットした結果である。下側は各X11Lコンストラクトの構造を模式的に示したものである。
【図7】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域を同定した結果を示す図である。IP:G369のレーン;細胞溶解物を抗APPポリクローナル抗体(G369)で免疫沈降し、抗FLAG抗体又は抗APP抗体(C末端APP抗体)でイムノブロットした結果。crudeのレーン;細胞溶解物をそのまま抗FLAG抗体又は抗APP抗体(C末端APP抗体)でイムノブロットした結果。
【図8】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域を同定した結果を示す図である。pull downのレーン:細胞溶解物をGST−APPと混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物をイムノブロットした結果。inputのレーン:細胞溶解物をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。
【図9】X11Lのリン酸化が可能な部位をアラニンに置換することによって得られる各種変異体の部分アミノ酸配列を示した図である。
【図10】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位を同定した結果を示す図である。IPのレーン:細胞溶解物を抗FLAG抗体で免疫沈降し、沈降物を抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。Lysateのレーン:細胞溶解物をそのまま抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。
【図11】X11Lのリン酸化が可能な部位をアラニンに置換することによって得られる各種変異体の部分アミノ酸配列を示した図である。
【図12】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位を同定した結果を示す図である。IPのレーン:細胞溶解物を抗FLAG抗体で免疫沈降し、沈降物を抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。Lysateのレーン:細胞溶解物をそのまま抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。
【図13】ヒト及びラットのX11L、並びにヒト及びラットのX11の部分アミノ酸配列を示す図である。
【図14】APPとX11Lとの結合能を評価する為の方法の一例(レポーターアッセイ法)を示す図である。
【図15】X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングする方法(サンドイッチ法)の一例を示す図である。
【図16】X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングする方法(イムノブロット)の一例を示す図である。
【図17】X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングする方法(Cytoblot法)の一例を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、βアミロイド生成抑制方法及びβアミロイド生成抑制剤に関し、特にX11Lとアミロイド前駆体との結合を増強することによりアミロイド前駆体の代謝を抑制してβアミロイドの生成を抑制する方法及びβアミロイドの生成を抑制し得る剤に関する。さらに本発明はβアミロイド生成抑制に有用な化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)の治療薬としては、(1)βアミロイド(Aβ)の生成阻害、(2)Aβの凝集阻害、(3)分泌されたAβの分解促進、(4)沈着したAβの除去等の方法が開発途中である。(1)のAβの生成阻害としては、アミロイド前駆体タンパク質(APP)切断酵素BACE(β−site ATP Cleaving enzyme)及びγ−セクリターゼの阻害物質の開発が進められている。これらは切断酵素を直接阻害するため、生体内の他の基質の切断も阻害し、副作用の可能性を除去できない。(2)のAβの凝集阻害は、細胞外に分泌したAβの凝集を阻害する薬剤である。Aβは凝集体形成が神経毒性を示すとされており効果が期待されているが臨床試験にまで進んでいる薬剤は少ない。(3)の分泌されたAβの分解促進は、Aβを分解することを目的とした治療方法である。Aβ分解酵素としてはネプリライシン及びインスリン分解酵素が候補として挙げられており、分解活性を細胞外で示すネプリライシンの活性化、発現量増大を惹起する方法が開発されている。この方法も、細胞外刺激が可能な薬剤の開発により臨床試験までたどり着いている。(4)はAβ免疫療法であり、ELAN社を筆頭に臨床試験を行ったが、脳炎の副作用で一時中断しており、現在免疫方法の改善等が行われている。
【0003】
一方、X11Lタンパク質は、APPに結合する神経特異的タンパク質として単離された。X11LはAPPの細胞質ドメインに結合し、APPの代謝を安定化する(非特許文献1)。X11Lはさらにタンパク質Alcadeinと結合し、神経細胞ではAPP−X11L−Alcadeinの三量体として存在する。三量体中のAPPはより代謝的に安定化され、ADの発症原因とされるAβの生成が強く抑制される(非特許文献2)。X11Lが複合体から解離すると、APPとAlcadeinは協調的な代謝を受け始め、APPからAβが生成し始める(非特許文献3)。AD患者脳切片を用いた免疫染色から、APPとAlcadeinはAβが沈着した老人斑周辺の神経変性を起こしつつある神経細胞の肥大化した末端(腫大神経突起部)に蓄積している(非特許文献2)が、X11Lはむしろ老人斑に検出できる(非特許文献4)ことがわかった。また、X11Lを過剰発現したトランスジェニック(Tg)マウスをAPPのスウェーデン型変異を持つTgマウス(Tg2576)と交配させると、Aβの脳内産生量が減少する(非特許文献5)。これまでの知見は、X11LのAPPへの結合維持がAPPの代謝を安定化させAβの生成を抑制することを示しており、X11LのAPPへの結合制御を利用した新たなAβ抑制剤の開発がADの治療薬として有望であることを示唆している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−164298号公報
【非特許文献1】Tomita S, Ozaki T, Taru H, Oguchi S, Takeda S, Yagi Y, Sakiyama S, Kirino Y, Suzuki T. Interaction of a neuron-specific protein containing PDZ domains with Alzheimer's amyloid precursor protein. J Biol Chem. 1999 Jan 22;274(4):2243-54.
【非特許文献2】Araki Y, Tomita S, Yamaguchi H, Miyagi N, Sumioka A, Kirino Y, Suzuki T. Novel cadherin-related membrane proteins, Alcadeins, enhance the X11-like protein-mediated stabilization of amyloid beta-protein precursor metabolism. J Biol Chem. 2003 Dec 5;278(49):49448-58.
【非特許文献3】Araki Y, Miyagi N, Kato N, Yoshida T, Wada S, Nishimura M, Komano H, Yamamoto T, De Strooper B, Yamamoto K, Suzuki T. Coordinated metabolism of Alcadein and amyloid beta-protein precursor regulates FE65-dependent gene transactivation. J Biol Chem. 2004 Jun 4;279(23):24343-54.
【非特許文献4】McLoughlin DM, Irving NG, Brownlees J, Brion JP, Leroy K, Miller CC. Mint2/X11-like colocalizes with the Alzheimer's disease amyloid precursor protein and is associated with neuritic plaques in Alzheimer's disease.Eur J Neurosci. 1999 Jun;11(6):1988-94.
【非特許文献5】Lee JH, Lau KF, Perkinton MS, Standen CL, Rogelj B, Falinska A, McLoughlin DM, Miller CC. The neuronal adaptor protein X11beta reduces amyloid beta-protein levels and amyloid plaque formation in the brains of transgenic mice. J Biol Chem. 2004 Nov 19;279(47):49099-104.
【非特許文献6】Uhlik MT, Abell AN, Johnson NL, Sun W, Cuevas BD, Lobel-Rice KE, Horne EA, Dell'Acqua ML, Johnson GL. Rac-MEKK3-MKK3 scaffolding for p38 MAPK activation during hyperosmotic shock. Nat Cell Biol. 2003 Dec;5(12):1104-10.
【非特許文献7】Seet BT, Pawson T. MAPK signaling: Sho business. Curr Biol. 2004 Sep 7;14(17):R708-10. Review.
【非特許文献8】Saiardi A, Bhandari R, Resnick AC, Snowman AM, Snyder SH. Phosphorylation of proteins by inositol pyrophosphates. Science. 2004 Dec 17;306(5704):2101-5.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記(1)に属する、新規なAD治療薬の開発を目的とする。具体的には直接APP切断酵素を阻害することなく、上記(3)の方法と同様に、細胞外からの薬剤による活性化が可能なAβ生成抑制剤の提供、それを含むAD治療薬の提供及びそれを得る為のスクリーニング方法の提供等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
1)細胞を高浸透圧処理した場合、APPへのX11Lの結合が増加すること、
2)高浸透圧刺激は、X11Lのリン酸化を促進し、このリン酸化がAPPへの結合を強めること、
3)X11LのAPPへの結合サイトは中央のPhosphotyrosine Interaction(PI)ドメイン(アミノ酸番号368〜555)であるが、APPへの結合を強める領域はPIドメインのN末端側221〜250の間にあること、及び
4)X11Lの221〜250領域のリン酸化可能アミノ酸に変異を導入し、高浸透圧刺激でAPPへの結合が増加しないことを指標に、2箇所のリン酸化サイトとして236番目のセリン(以下、Ser236ともいう)及び238番目のセリン(以下、Ser238ともいう)が同定されたこと。
これらの知見をもとに、X11Lのリン酸化を制御することによってX11LのAPPへの結合を強化しAPPからAβの生成を抑制し得ることが可能になった。すなわち本発明は以下の通りである。
【0006】
〔1〕X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体とX11Lとの結合増強剤。
〔2〕X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体の代謝抑制剤。
〔3〕X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、βアミロイド生成抑制剤。
〔4〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ
酸番号221〜250の領域内にある、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤。
〔5〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の剤。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の剤を含む、βアミロイドが関連する疾患の予防・治療剤。
〔7〕βアミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、上記〔6〕記載の予防・治療剤。
〔8〕X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体タンパク質とX11Lタンパク質との結合を増強する方法。
〔9〕X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制する方法。
〔10〕X11Lのリン酸化を促進することを含む、βアミロイドの生成を抑制する方法。
【0007】
〔11〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、上記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、上記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体とX11Lとの結合を増強し得る化合物のスクリーニング方法。
〔14〕X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
〔15〕X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、βアミロイドの生成を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
〔16〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、上記〔13〕〜〔15〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
〔17〕X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、上記〔13〕〜〔15〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
〔18〕リン酸化X11L特異抗体を用いることを特徴とする上記〔13〕〜〔17〕のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、APPが代謝を受けAβが産生されるのを効果的に抑制することができ、従って、アルツハイマー病等の、Aβがその発症原因の一つといわれている種々の疾患の新しい予防法や治療法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
細胞に高浸透圧刺激を与えた場合、X11Lのリン酸化が促進され、このリン酸化がAPPへの結合を強めている、という、本発明者らが得た知見は、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物がAPPとX11Lとの結合を増強してAPPの代謝を抑制し、それによってAβの生成を抑制し得ることを示している。従って本発明は、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有するAPPとX11Lとの結合増強剤、APPの代謝抑制剤及びAβ生成抑制剤を提供する。また、X11Lのリン酸化を促進することを含む、APPとX11Lとの結合を増強する方法、APPの代謝を抑制する方法及びAβ生成を抑制する方法を提供する。
本発明において有効成分として含められるX11Lのリン酸化促進作用を有する化合物としては、X11Lタンパク質のリン酸化を促進する化合物であれば特に限定されないが、詳細には、X11Lタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250領域内にあるリン酸化部位のリン酸化、より好ましくはSer236及び/又はSer238をリン酸化し得る化合物である。より好ましくはSer236及びSer238の両方のセリン残基をリン酸化し得る化合物である。
【0010】
高浸透圧刺激により活性化される細胞内情報伝達系リン酸化酵素としては、MAPキナーゼスーパーファミリーが考えられる(非特許文献6)。これらのリン酸化酵素群を活性化する化合物として高浸透圧剤の他に、例えば過酸化水素、熱ショック、タンパク質合成阻害剤、紫外線、放射線、抗ガン剤、LPS、炎症性サイトカイン、TGF−β、FAS、カプサイシン酸のいわゆるストレス応答惹起物質および環境が考えられる。しかしながら、X11Lのリン酸化を行うキナーゼが、これら既知の情報伝達系によって活性化されるキナーゼ以外である可能性もあり、X11Lのリン酸化を促進、もしくはAPPとの結合を促進する化合物であればMAPキナーゼスーパーファミリー以外のキナーゼを介してリン酸化を促進、もしくはAPPとの結合を促進してもよい。酵母では、高浸透圧を感知する細胞膜受容体Sho1、Sln1が知られており、その下流に位置するキナーゼとしてHog1(MAPK)が同定されており、このキナーゼによる何らかの基質リン酸化が、酵母の高浸透圧耐性反応を惹起していると考えられている(非特許文献7)。哺乳類ではSho1/Sln1からHog1に相当する情報伝達系が明らかになっていないが、このような哺乳類において未同定の経路を活性化する薬剤であっても、X11Lのリン酸化を促進、もしくはAPPとの結合を促進する効果があればよい。また、最近キナーゼを介さず、イノシトールピロリン酸と呼ばれる高エネルギー結合を持ったイノシトールリン酸が直接、タンパク質をリン酸化する経路が見いだされており(非特許文献8)、X11Lのリン酸化がこのような新規経路によって促進され、その結果としてAPPとの結合を促進する場合は、キナーゼを介さないタンパク質リン酸化経路を活性化する薬剤であっても差し支えない。
【0011】
本発明において、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物の、X11LのAβへの結合を増強する能力(結合能の増強)は、当該化合物で処理した場合のX11LのAβへの結合能における変化を、例えば、エピトープタグを用いた共役免疫沈降(例えば、pull−down法)、共鳴プラズモン相互作用解析などにより評価することができる。結合能の評価として、具体的には、下記方法等が挙げられる。
尚、本発明において結合能評価方法で用いる細胞は、X11L及びAPPを発現し得る細胞であれば特に限定されず、本来の性質としてX11L及びAPPを発現しAβを生成し得るものであっても、各タンパク質発現プラスミドをトランスフェクトすることによって各タンパク質を発現するように改変されたものであってもよい。
X11L及びAPPを発現し得る細胞として具体的には、これらの遺伝子を含有するベクターで形質転換した形質転換体を用いることができるが、他にIMR−32、PC12h、Neuro−2a(N2a)、SK−N−SHなどの細胞株、又はAPPとX11Lを導入したHEK−293などの細胞株を用いることもできる。
【0012】
結合能評価方法1(共免疫沈降法)
(1)FLAG等のタグ配列を有するX11L又はAPP発現プラスミド(シグナル配列の下流にFLAG等のタグ配列を有するAPP発現プラスミド(FLAG−APP)又はX11LのN−末又はC−末等にFLAG等のタグ配列を有するX11L発現プラスミド(FLAG−X11L又はX11L−FLAG))を得るステップ;
(2)細胞に、前記ステップ(1)で得られたFLAG−X11L発現プラスミド(又はFLAG−APP発現プラスミド)とAPP発現プラスミド(又はX11L発現プラスミド)とを、一過的にコトランスフェクトして、コトランスフェクタントを得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られたコトランスフェクタントを培養して、培養細胞を得るステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた培養細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(5)前記ステップ(4)で得られた処理後の培養細胞から、細胞抽出液を得るステップ;
(6)前記ステップ(5)で得られた細胞抽出液に抗FLAG抗体を加えて共免疫沈降を行なうステップ;並びに
(7)共免疫沈降を、ウエスタンブロット解析により検出するステップ;を含む方法。
かかる評価方法1においては、抗FLAG抗体を用いる場合において、X11L−APPの複合体の沈降がみられることをX11LとAPPとが結合することの指標とし、その程度を評価する。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0013】
結合能評価方法2(pull−down法)
(1)X11L発現プラスミドをトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞を培養して培養細胞を得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られた培養細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた処理後の培養細胞から細胞抽出液を得るステップ;(5)GSTとAPPとからなる融合タンパク質(GST−APP)、好ましくはGSTとAPP細胞質ドメインとからなる融合タンパク質(GST−APPcyt)を得るステップ(APPはアミノ酸残基695からなるタンパク質であり、全てをGST−融合タンパク質で生合成し回収するのは難しい。従って、X11Lの結合部位であるAPPの細胞質ドメイン47アミノ酸だけGST融合タンパク質として調製する。この方法はJ.Biol.Chem.274,2243−2254(1999)に記載されている);
(6)融合タンパク質GST−APP(好ましくはGST−APPcyt)と前記ステップ(4)で得られた細胞抽出液とを接触させるステップ;
(7)グルタチオンビーズでタンパク質を、回収するステップ;並びに
(8)抗X11L抗体を用いたウエスタンブロット解析を行い、GST−APP(好ましくはGST−APPcyt)とX11Lとの複合体を検出するステップ;を含む方法。
かかる評価方法2においては、GST−APPとX11Lとの複合体の存在をX11LとAPPとが結合することの指標とする。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0014】
結合能評価方法3(共鳴プラズモン相互作用解析)
(1)X11L発現プラスミドをトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞を培養して培養細胞を得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られた培養細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた処理後の培養細胞から細胞抽出液を得、X11Lを得るステップ;
(5)APPを固定化したチップに、前記ステップ(4)で得られたX11Lを一定の流速で、送液するステップ;及び
(6)適切な検出手段〔例えば、光学的検出(蛍光度、蛍光偏向度など)、質量分析計との組み合わせ(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計:MALDI−TOF MS、エレクトロスプレー・イオン化質量分析計:ESI−MSなど)〕により相互作用を検出するステップ;を含む方法。
ここで、X11LとAPPとからなる複合体の形成を示すセンサーグラムが呈示された場合、X11LとAPPとが結合することの指標とする。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0015】
結合能評価方法4(FRET法)
X11L及びAPPに蛍光タンパク質を融合させたcDNAを細胞に発現させ、当該細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理する。X11L及びAPPの両者の結合をFRET(Fluorescence resonance energy transfer)で検出する。X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0016】
結合能評価方法5(レポーターアッセイ法)
APPの細胞質ドメイン断片(AICD)がgene transactivation活性を示す(Science 293,115−120(2001))ことが知られており、この特性を利用してX11LとAPPとの結合能を評価することができる。具体的には以下のような手順で行うことができる(図14参照)
(1)酵母転写因子Gal4のDNA結合ドメインとX11Lの融合タンパク質Gal4BD−X11Lをコードするプラスミドおよび、Gal4の転写活性化ドメインとAICDの融合蛋白質AICD−Gal4ADをコードするプラスミドを作成するステップ;
(2)レポーター遺伝子として、Gal4結合配列を上流にもつルシフェラーゼもしくはGFPもしくは抗生物質耐性タンパク質遺伝子を作成するステップ;
(3)前記(1)のプラスミド2種および(2)のプラスミドを細胞に導入し、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を細胞に作用させるステップ;
(4)X11LとAICDとの結合が促進されることにより、レポーター遺伝子の発現が増加する事をレポーター遺伝子産物による細胞の発色または死滅でアッセイする。
【0017】
また、APPとX11Lとの結合が増強されたことによるAPPの代謝抑制作用は、例えば、パルスチェイス法、免疫測定法などにより評価することができる。パルスチェイス法は、例えばJ.Biol.Chem.278,49448−49582(2003)のFig.5に記載した方法等を用いることが出来る。
【0018】
具体的には、例えば、下記方法が挙げられる。
代謝分解抑制能評価方法1(パルスチェイス法)
(1)X11L及びAPP発現プラスミドを一過的にトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;
(3)前記ステップ(1)で得られた細胞を、35S−標識メチオニン含有培地で一定時間培養し、ついで、過剰量のメチオニンを添加するステップ;
(4)培養液と細胞抽出液とを調製し、抗APP抗体を用いた免疫沈降により、タンパク質を回収するステップ;及び
(5)回収されたタンパク質をゲル上で電気泳動して分離し、シグナルの解析を行い、それにより量的変動を調べるステップ;を含む方法。
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。また、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物での処理は35S−標識メチオニン含有培地における培養と同時か、あるいは培養より前に行われることが好ましい。
【0019】
代謝分解抑制能評価方法2(免疫測定法)
(1)X11L及びAPP発現プラスミドを一過的にトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(2)前記ステップ(1)で得られた細胞をX11Lリン酸化促進作用を有する化合物で処理するステップ;及び
(3)前記ステップ(2)により得られた処理後の細胞の培養上清を回収し、サンドイッチELISA法によりAβ濃度を測定するステップ;を含む方法。
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分間〜2時間、好ましくは5分間〜1時間程度である。
【0020】
さらに、APP代謝が制御されたことによるAβ生成の抑制作用は、例えば上記代謝分解抑制機能評価方法2と同様にしてAβ濃度を測定することによって確認することができる。
【0021】
各タンパク質(ポリペプチド)の発現プラスミドや各融合タンパク質の合成、細胞へのトランスフェクション、免疫沈降等の種々の操作は、当分野で通常実施されている方法に準じて行うことができる。
【0022】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物は、上述のようにAPPとX11Lとの結合を増強し、それによってAPPの代謝を抑制し、ひいてはAβの生成を抑制する。従ってX11Lリン酸化促進作用を有する化合物は、Aβが関連する疾患、特にAβの生成が不都合な疾患の予防又は治療に有用である。Aβの生成が不都合な疾患とは、Aβがその発症原因になっているか、あるいは増悪因子である疾患であり、特にアルツハイマー病が挙げられる。
【0023】
本発明に有効成分として含められる、X11Lリン酸化促進作用を有する化合物は塩を形成していてもよく、そのような塩としては、例えば金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
【0024】
金属塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩などが挙げられる。
【0025】
有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
【0026】
無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
【0027】
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
【0028】
このうち、薬学的に許容し得る塩が好ましい。例えば、化合物内に酸性官能基を有する場合にはアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩など)などの無機塩、アンモニウム塩など、また、化合物内に塩基性官能基を有する場合には、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸など無機酸との塩、又は酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸との塩が挙げられる。
【0029】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を上記の医薬として使用する場合は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、本発明のタンパク質を用いる場合には生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。
【0030】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解又は懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO−50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調整された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
【0031】
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、ヒト又は温血動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。製剤中の有効成分の含有量、該製剤の投与量及びその投与回数は、投与化合物の種類、投与対象、症状、投与方法などに応じて、X11Lのリン酸化を促進してAPPとX11Lとの結合を増強し、APPの代謝を抑制し、且つAβの産生を抑制する効果を十分に発揮させうる範囲で適宜設定され得る。
【0032】
投与手段は、特に神経細胞に作用し得、APPの代謝を制御し、かつAβの産生を抑制する効果を十分に発揮させうるものであれば、特に限定されるものではない。
【0033】
X11Lのリン酸化を促進することによりAPPとX11Lとの結合が増強されてAPP代謝が抑制され、Aβの生成が抑制されるという本発明で得られた知見に基づいて、X11Lのリン酸化の程度を測定することを含む、X11Lのリン酸化を促進してAPPと
X11Lとの結合を増強し得る化合物、X11Lのリン酸化を促進してAPPの代謝を抑制し得る化合物及びAβの生成を抑制し得る化合物(以下、これらの化合物をあわせて本発明化合物と称する)のスクリーニング方法が提供される。本発明化合物は上記同様、Aβが関連する疾患、特にアルツハイマー病の予防又は治療に有効である。
【0034】
X11Lのリン酸化レベルの上昇は、当分野で通常実施されている方法を用いて間接的に、又直接的に測定することができる。リン酸化は好ましくはX11Lタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にあるリン酸化可能部位で行われ、特に好ましくはSer236及び/又はSer238でリン酸化が起こる。
ここで、「X11Lのリン酸化レベルの測定」とは、X11Lのリン酸化の有無を調べることに加え、例えば、236番目及び238番目のいずれか一方のセリンがリン酸化されているのか、あるいは両方ともリン酸化されているのか、等のX11Lのリン酸化様式を調べることも含まれる。X11Lのリン酸化様式を調べる方法としては、各リン酸化サイト特異抗体(後述)を用いて認識する方法や、X11Lをトリプシン等のプロテアーゼで分解し、その分解産物を質量分析で解析しリン酸化サイトを同定する方法等が挙げられる。
リン酸化レベルの間接的な測定方法としては、X11Lがリン酸化されるとAPPとの結合が増強されるという本発明で得られた知見から、両者の結合能の増加でもって調べる方法が挙げられる。例えば、X11L及びAPPに蛍光タンパク質を融合させたcDNAを細胞に発現させ、両者の結合増加をFRETで検出する方法等が例示される。直接的な測定方法としては、X11L特異抗体やリン酸化X11L特異抗体を用いた方法等が挙げられる。
リン酸化X11L特異抗体としては、当分野で通常実施されている方法によって作製することができ、好ましくはモノクローナル抗体である。好ましいリン酸化X11L抗体は、Ser236のリン酸化を認識する抗体、Ser238のリン酸化を認識する抗体、Ser236とSer238の両方のリン酸化を認識する抗体の3種であり、それらを併用することがいっそう好ましい。リン酸化X11L特異抗体は、リン酸化されたX11Lタンパク質(特にSer236及び/又はSer238がリン酸化されている)をリン酸化特異的に認識することができるので、試料、好ましくは細胞抽出液等の試料溶液中のリン酸化されたX11Lタンパク質の定量、組織染色等による検出に利用することができる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab’)2、Fab’、あるいはFab画分を用いてもよい。
【0035】
本発明のスクリーニング方法においてリン酸化X11L特異抗体を用いてリン酸化X11Lを定量する工程は、特に制限されるべきものではなく、試料中の抗原量(例えば、タンパク質量)に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的又は物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法及びサンドイッチ法が好適に用いられる。標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが、上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが、蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが、発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどがそれぞれ用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0036】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担
体としては、例えば、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラスなどが用いられる。サンドイッチ法においては不溶化したモノクローナル抗体に被検液を反応させ(1次反応)、さらに標識化したモノクローナル抗体を反応させ(2次反応)たのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することにより被検液中の本発明のタンパク質量等を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。標識化剤及び不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相用抗体あるいは標識用抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。サンドイッチ法によるリン酸化X11Lタンパク質の測定法においては、1次反応と2次反応に用いられるモノクローナル抗体は、当該タンパク質に結合する部位が相異なる抗体が好ましく用いられる。すなわち、1次反応及び2次反応に用いられる抗体は、例えば、X11L特異抗体とリン酸化X11L特異抗体の組み合わせであり得る。
【0037】
サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどを用いることもできる。
【0038】
これら個々の免疫学的測定法を本発明のスクリーニング方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のタンパク質の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、 同書Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、 同書Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、 同書Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、 同書Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、 同書Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0039】
本発明化合物の候補となり得る試験化合物は、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、遺伝子(ゲノムDNA、cDNA)などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
【0040】
APPとX11Lとの結合を増強し得る化合物は、X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングすることによって得られる。具体的なスクリーニング方法は、例えば、以下の手順にて行うことができる(図15参照)。
(1)X11LのSer236又はSer238、及びSer236とSer238の両方がリン酸化された状態を特異的に認識する抗体を作成するステップ−抗原としてSer236がリン酸化されたペプチド、Ser238がリン酸化されたペプチド、及びSer236とSer238の両方がリン酸化されたペプチドを用いて、これらのサイトが特異的にリン酸化されたX11Lと特異的に反応するポリクローナルもしくはモノクローナル抗体の作成を行う。方法はThr668でリン酸化されたAPPを特異的に認識する抗体を作成する方法(文献 Methods in Molecular Medicine Vol32:Alzheimer’s Disease: Me
thods and Protocols (Edited by N. H. Hooper Humana Press) pp271-282
“Phosphorylation of amyloid precursor protein (APP) family protein”, Suzuki, T., Ando, K., Iijima, K., Oguchi, S., & Takeda, S.)に準じる;
(2)X11L発現プラスミドをトランスフェクトした細胞を得るステップ;
(3)前記ステップ(2)で得られた細胞を培養して培養細胞を得るステップ;
(4)前記ステップ(3)で得られた培養細胞を試験化合物で処理するステップ;
(5)前記ステップ(4)で得られた処理後の培養細胞から細胞抽出液を得、X11Lを得るステップ;
(6)ELISAプレートにX11L抗体を固定するステップ;
(7)固定化したプレートに前記(5)で得たX11Lを含む細胞抽出液を加え、抗体と反応させるステップ;
(8)洗浄後、前記(1)で得られた抗X11Lリン酸化特異抗体でプレートにトラップしたリン酸化X11Lを挟むステップ;
(9)適当な手段(酵素発色反応)等で、リン酸化X11Lを検出するステップ。
上記方法では、一次抗体(キャプチャー)としてX11L抗体を用い、二次抗体としてX11Lリン酸化特異抗体を用いたが、逆でもよい。
また、前記(5)の細胞抽出液をニトロセルロース膜等にスポットし、これに対してX11Lリン酸化特異抗体を反応させるイムノドットブロット法でも良い(図16参照)。また、細胞を固定し、X11Lリン酸化特異抗体で染色させる方法(いわゆるCytoblot法)でもよい(図17参照)。
【0041】
本発明のスクリーニング方法においては、例えば、リン酸化X11L抗体を用いたX11Lのリン酸化レベルの測定を一次スクリーニングとし、Aβの産生量の測定を二次スクリーニングとしてもよい。一次スクリーニングで選別された試験化合物の存在下又は非存在下におけるAβの産生量を測定し、比較する。Aβの測定法には種々の方法が用いられるが、Aβ特異的抗体を用いる免疫化学的方法を用いることが好ましい。これらの方法には、免疫沈降法、ウエスタンブロッティング、酵素免疫測定法、サンドイッチ型酵素免疫測定法あるいはそれらの組み合わせ方法が用いられる。Aβ特異的抗体としては、ポリクローナル抗体を用いても良いが、例えば、BAN50、BNT77、BS85、BA27、BC05(Biochemistry 34,10272−10278(1995))又は6E10、4G8などのモノクローナル抗体を用いても良い。とりわけ、BA27及びBC05は、それぞれAβ40及びAβ42/43に選択的な抗体であるため、これらの抗体、あるいは同様な選択性を有する抗体を用いれば、Aβ40の産生を阻害する化合物、Aβ42/43の産生を阻害する化合物、あるいはAβ40及びAβ42/43いずれの産生も阻害する化合物を選択することが可能となる。さらに、分泌型APP量はAβの産生を間接的に反映すると考えられることから、分泌型APP量を免疫沈降法、ウエスタンブロッティング、酵素免疫測定法、サンドイッチ型酵素免疫測定法などの免疫化学的方法で検出しても良い。
【0042】
本発明のスクリーニング方法においては、例えば、試験化合物の存在下におけるAβ産生量が、試験化合物の非存在下におけるAβ産生量に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上減少している試験化合物をAβの産生を阻害する化合物又はその塩として選択することができる。また、コントロールとして、APPを発現していない細胞を用いて、試験化合物の存在下におけるAβ産生量を測定することもできる。
【0043】
上記したスクリーニング方法で得られた化合物又はそれから誘導される化合物は、塩を形成していてもよく、該化合物の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属)等との塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水
素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が用いられる。
【0044】
上記した本発明のスクリーニング方法で得られた化合物は、Aβの産生を効率良く阻害することができるので、Aβ関連疾患(例えば、アルツハイマー病)の予防・治療剤として使用することができる。本発明のスクリーニング方法で得られた化合物を含有する医薬は、それ自体又は適当な医薬組成物として投与することができる。上記投与に用いられる医薬組成物は、上記化合物又はその塩と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものである。かかる組成物は、経口又は非経口投与に適する剤形として提供される。すなわち、例えば、経口投与のための組成物としては、固体又は液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等があげられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウム等が用いられる。また、例えば非経口投与に適する剤形としては、注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉注射剤、腹腔内注射剤など)、外用剤(例、経鼻投与剤、経皮投与剤、軟膏剤など)、座剤(例、直腸剤、膣座剤など)、徐放剤(例、徐放性マイクロカプセルなど)、ペレット、点滴剤などが用いられる。
【0045】
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、ヒト又は温血動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。製剤中の有効成分の含有量、該製剤の投与量及びその投与回数は、投与化合物の種類、投与対象、症状、投与方法などに応じて、X11Lのリン酸化を促進してAPPとX11Lとの結合を増強し、APPの代謝を抑制し、且つAβの産生を抑制する効果を十分に発揮させうる範囲で適宜設定され得る。
【0046】
リン酸化X11L特異抗体は上記スクリーニング方法に用いられるだけでなく、当該抗体を用いX11Lのリン酸化レベルを測定することによって、Aβに関連する各種疾患の診断を行なうことができる。例えば、X11Lのリン酸化レベルが低下している場合は、APPとX11Lとの結合が弱くAPPが代謝されてAβが過剰に生産されている。一方X11Lのリン酸化レベルが上昇している場合にはAPPとX11Lとの結合が強くAPPが代謝を受けにくい状態にあり、従ってAβの産生が抑制されている。前者の場合、例えば、APP代謝異常に関連する疾患、Aβ関連疾患(例えばアルツハイマー病など)などの疾病である可能性ありと診断することができる。一方、後者の場合でも、異常なレベルの変化は、例えば、APP代謝異常に関連する疾患、Aβ関連疾患などの疾病である可能性ありと診断することができる。
【0047】
本発明化合物のスクリーニング方法としては、例えば以下のようなプロトコルが例示される。
(1)X11L発現細胞に対し、試験化合物を作用させる。培地を除去し、当該細胞から細胞抽出液を得て、X11L特異抗体とリン酸化X11L特異抗体で挟むサンドイッチエライザ法で解析し、X11Lのリン酸化レベルを上昇させる化合物(陽性化合物)をスクリーニングする。陽性化合物をAPPとX11Lとを共発現している細胞に作用させ、培地中に分泌されるAβ量を測定してAβ量の分泌量が抑制されている化合物を選択する工程を二次スクリーニングとして行ってもよい。
(2)X11L発現細胞に対し、試験化合物を作用させる。培地を除去した後、細胞を溶解し、得られた抽出液を膜上にブロットし、リン酸化X11L特異抗体を用いたイムノブ
ロットで解析し、X11Lのリン酸化レベルを上昇させる化合物(陽性化合物)をスクリーニングする。陽性化合物について(1)と同様に二次スクリーニングを行う。
(3)X11L及びAPPに蛍光タンパク質を融合させたcDNAを細胞に発現させ、試験化合物を作用させ、両者の結合増加をFRET(Fluorescence resonance energy transfer)で検出することで、X11Lのリン酸化レベルを上昇させる化合物(陽性化合物)をスクリーニングする。X11LのAPPへの結合量増加は、FRETの発色で検出することができる。
いずれの方法についても、試験化合物で細胞を処理する時間は、用いる化合物や細胞の状態等によって適宜変更されるが、通常1分〜数時間程度である。処理時の温度も用いる細胞の種類に応じて適宜設定された培養温度と同様なものが利用できる。
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、大腸菌を用いての遺伝子操作は、モレキュラー・クローニング(Molecular cloning)に記載されている方法に従った。
【実施例】
【0049】
実施例1:神経細胞におけるX11L及びX11のリン酸化(図1)
(方法)
18日齢ラット胎児海馬を摘出し、トリプシンで分散させた後、ポリ−D−リジンでコートした培養プレートに5×105細胞/mL濃度で播種した。細胞は0.5mM L−グルタミン及び0.01mg/mL ピルビン酸を含有するNeurobasal medium,B27 supplement(Life technology)中37℃で培養した。7日間培養後、培地をリン酸を含まない培地に置換し、これに[32P]オルソリン酸塩を添加した。添加から2時間後に細胞を10mM CHAPS溶液(10mM
CHAPS,5μg/mL キモスタチン,5μg/mL ロイペプチン,5μg/mL ペプスタチンA,1mM Na3VO4,1mM NaF及び0.5mM マイクロシスチンL−Rを含有するPBS)で可溶化し、抗X11Lモノクローナル抗体(Mint2 Transduction Laboratorry Cat# M76120)で免疫沈降した。これをプロテインGセファロースで回収し、洗浄した。これを細菌アルカリホスファターゼ(BAP;takara)の存在下(BAP処理)、あるいは非存在下(対照)でインキュベートし、再度セファロースを洗浄後、SDS−PAGEサンプルバッファーを添加した。サンプルを7.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離後、ゲルを濾紙上で乾燥させ、X線フィルムに感光させ、オートラジオグラフィーによりリン酸化X11Lを検出した。同様な方法でリン酸化X11を検出した。
(結果)
X11L及びファミリー分子X11が神経細胞でリン酸化されていることが明らかとなった。
【0050】
実施例2:ソルビトール刺激によるAPPとX11Lの結合増強効果(1)(図2)
(方法)
DMEM/10%FCSで培養したHEK293細胞(American Type Culture Collectionより入手)にLipofectamine(Invitrogen)を用いてFLAG−APPをコードするプラスミド(0.6μg)及びHA−X11Lをコードするプラスミド(0.2μg)を導入した。FLAG−APPをコードするプラスミドとしては、APP695(695個のアミノ酸からなるAPPアイソフォーム)の17番目のアラニン(Ala17)と18番目のロイシン(Leu18)との間にFLAG配列が挿入されているFLAG−APPをpcDNA3ベクター(Invitrogen)に組み込んだものを用いた(pcDNA3−FLAG−APP695;J.Neurosci.19,4421−4427(1999))。HA−X11Lをコードするプラスミドとしては、X11LのN末端にHAタグが付いたHA−X11LをpcDNA3ベクター(Invitrogen)に組み込んだものを用いた(pcDNA3−HA−X11L;J.Biol.Chem.278,49448−49458(2003))。
導入から24時間後に培地をDMEM/10%FCS又はこれにオカダ酸(終濃度400nM、3時間処理)若しくはソルビトール(終濃度0.5M、45分間処理)を添加し、処理後の細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、抗FLAG抗体(SigmaのM2)で共役免疫沈降を行った。これをプロテインGセファロースで回収し洗浄した。これらにSDS−PAGEサンプルバッファーを加え、7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離後、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜のHA−X11Lは抗HAモノクローナル抗体(Rocheの12CA5)、FLAG−APPは抗FLAG抗体を用いたイムノブロットにより検出した。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
細胞をソルビトールで刺激した場合に、細胞内におけるAPPとX11Lとの結合が増強することが明らかになった。オカダ酸は効果を示さなかった。
【0051】
実施例3:ソルビトール刺激によるAPPとX11Lの結合増強効果(2)(図3)
(方法)
HEK293細胞にHA−hX11LをコードするプラスミドをLipofectamineを用いて導入した(hX11L発現細胞)。HA−hX11Lをコードするプラスミドとしては、hX11LのN末端にHAタグが付いたHA−hX11LをpcDNA3
ベクター(Invitrogen)に組み込んだものを用いた(pcDNA3.1−HA−hX11L;J.Biol.Chem.279,21628−36(2004))。
24時間後、0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した(高浸透圧刺激)。ソルビトールを含まないDMEM/10%FCSで同様に45分間処理したものを対照群とした。その後、細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し細胞溶解物とした。
APP細胞内領域タンパク質(APP695アイソフォームのAPP649−695)のアミノ末端側にGSTタンパク質を融合させたタンパク質(GST−APP)を大腸菌に発現させ、培養後、グルタチオンセファロースで精製し、融合タンパク質GST−APPを得た。これを先に得られた細胞溶解物と混合し4℃で2時間インキュベートした後、グルタチオンセファロースでGST−APPを回収し、洗浄後、SDS−PAGEサンプルバッファーを添加して7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜のX11Lは抗X11Lモノクローナル抗体を用いたイムノブロットにより検出した。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
X11Lを発現している細胞にソルビトール刺激を行ったところ、細胞溶解物中のX11LはGST−APP細胞質ドメインにより多く結合する。本結果よりソルビトール刺激がX11Lを修飾してAPPとの結合を増強していることが示された。
【0052】
実施例4:X11Lの脱リン酸化とAPPへの結合能の消失(図4)
(方法)
HEK293細胞を6ウェルの培養皿で培養し、0.7μgのpcDNA3.1−HA−X11Lを導入してHA−X11Lを強制発現させた。24時間後、0.5Mソルビトールにより刺激した(図4中、ソルビトール +)。一方で、ソルビトール刺激しない細胞を調製した(図4中、ソルビトール −)。200μLのλPPase溶解バッファーにより可溶化後遠心しLysateとし、5倍量のλPPase反応バッファー中で30℃、30分反応させ脱リン酸化処理を行った(図4中、λPPase +)。一方で、脱リン酸化処理を行わなかったサンプルを調製した(図4中、λPPase −)。5μgのGST−APPcytを結合させたresinに反応液(input)と終濃度2mMとなるようにEDTAを添加し、全量200μLにてCHAPSバッファー中で2時間インキュベートした。3回のCHAPSバッファーでの洗浄後サンプルバッファーで溶出しSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングを行った。HA−X11Lの検出には抗HA抗体(Roche)を、GST−APPcytの検出には抗GST抗体(Upstate)をそれぞれ用いた。また脱リン酸化処理の指標としてX11Lの304番目のThrがリン酸化した状態に反応するUT33抗体(Ando K, Oishi M, Takeda S, Iijima K, Isohara T, Nairn AC, Kirino Y, Greengard P, Suzuki T. Role of phosphorylation of Alzheimer's amyloid precursor protein during neuronal differentiation. J
Neurosci. 1999 Jun 1;19(11):4421-7.を参照して調製できる)を用いた。Versa Doc(BIO−RAD)により定量化し、高浸透圧、脱リン酸化ともに未処理のサンプルを1としてグラフ化した。
・λPPase溶解バッファー:0.5% Triton X−100/50mM Tris−HCl(pH7.4)
・λPPase反応バッファー:50mM Tris−HCl(pH7.5),0.1mM EDTA,5mM DTT,0.01% BRIJ35(10×buffer),2mM MnCl2(10×MnCl2),10μg/mL leupeptin,10μg/mL pepstatin A,10μg/mL chymostatin
・400ユニットのλPPase(SIGMA)/15μL lysate又は1mM NaF+1mM Na3VO4 (コントロール用)
・CHAPSバッファー:10mM CHAPS,150mM NaCl,1mM NaF,1mM Na3VO4,10mM Na−Phosphate pH7.4,5μg/mL leupeptin,5μg/mL pepstatin A,5μg/mL chymostatin,1μM microcystin−LR
【0053】
実施例5:X11Lのリン酸化を介したAPPへの結合能増強とJNK(図5)
(方法)
実施例3と同様にして、HEK293細胞にX11Lをコードするプラスミドを導入した。24時間後、JNK阻害剤であるSP600125(BIOMOL Research Laboratories Inc)を0、25、100μM存在下、0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した(高浸透圧刺激)。ソルビトールを含まないDMEM/10%FCSで同様に45分間処理したものを対照群とした。これとは別に、HEK293細胞に、X11L及びJNK阻害効果を持つJBD(JNK binding domain)又はJNKタンパク質をコードするプラスミドをLipofectamineを用いて導入した。JBDをコードするプラスミドとしてpcDNA3−FLAG−JBDを、JNKをコードするプラスミドとしてpcDNA3−FLAG−JNKを用いた(J.Biol.Chem.279,21628−21636(2004))。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。ソルビトールを含まないDMEM/10%FCSで同様に45分間処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し細胞溶解物とした。これの1/100量をタンパク質発現チェック用のサンプルとした。図5中ではinputとして示した。
実施例3と同様にして、得られた細胞溶解物と、APPの細胞質ドメイン(APPcyt)とGSTとの融合タンパク質GST−APPcytをインキュベートして、細胞溶解物中のX11LとAPPcytとの結合をイムノブロットにより調べた。GST−APPcytは、pGEX−4T−1−APPcyt(J.Biol.Chem.279,21628−21636(2004))で発現させた。
(結果)
ソルビトール刺激で活性化する代表的なタンパク質リン酸化酵素は、ストレスキナーゼであるJNKである。しかしながら、本実験からJNKの阻害剤、阻害ペプチド(JBD)はソルビトール刺激によるX11LのAPP結合増強を阻害しないことがわかった。ま
た、JNKの強制発現もソルビトール刺激によるX11LのAPP結合をさらに増強しなかった(この条件下でJNKが活性化されているということは別途確認済み)。すなわち、X11LのAPPへの結合増強を行うX11Lリン酸化酵素がJNKではないことが示された。
【0054】
実施例6:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域の同定(その1:N末端領域の解析)(図6)
(方法)
X11Lタンパク質の各ドメインを含む構築プラスミドを作成し、それぞれ、N+PI(1〜555アミノ酸)、PI+C(368〜749アミノ酸)、ΔMI(268〜749アミノ酸)、ΔPDZ2(1〜660アミノ酸)とした(図6下)。これらのN末端側にはFLAG配列が付加してある。
各プラスミドは、J.Biol.Chem.274,2243−2254(1999)に記載される方法に準じて調製した。
X11L:X11L(1−749全長) pcDNA3−FLAG−hX11L
N+PI:X11L(1−555) pcDNA3−FLAG−hX11L(N+PI)
PI+C:X11L(368−749) pcDNA3−FLAG−hX11L(PI+C)
ΔMI:X11L(268−749) pcDNA3−FLAG−hX11LMI
ΔPDZ2:X11L(1−660) pcDNA3−FLAG−hX11LΔPDZ2
実施例2と同様の手順でLipofectamineを用いてこれらのX11Lコンストラクト(0.4μg)とAPPをコードするプラスミド(pcDNA3−FLAG−APP695;0.7μg)をHEK293細胞に導入した。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、抗FLAG抗体で共役免疫沈降を行った。免疫沈降物をプロテインGセファロースで回収し、洗浄した。これにSDS−PAGEサンプルバッファーを加え、7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜上のAPP及びX11Lについて抗APPポリクローナル抗体(G369抗体;Thomas Jefferson大学のSamuel Gandy博士から供与された;Mol.Med.3,111−123,1997)及び抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
ソルビトール刺激によるX11LとAPPとの結合増強にはX11LのPIドメインよりN末端側の領域が必要であることが明らかになった。PIドメインはAPPへの結合領域である。特にN末端領域の前半267アミノ酸を欠失したX11LはAPPへの結合増強能力を失っていたので、この領域にAPPへの結合能を制御するX11Lのリン酸化サイトが含まれる事が明らかになった。
【0055】
実施例7:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域の同定(その2:N末端領域の解析)(図7)
(方法)
X11Lの221から250アミノ酸を欠失したコンストラクトをコードするプラスミド(X11LΔ221−250)は、pcDNA3−HA−hX11L(J.Biol.Chem.277,20070−20078 1999)を鋳型にメガプライマー法を用いて作成し、このN末端側にFLAG配列を付加した(pcDNA3−FLAG−hX11LΔ221−250)。実施例2と同様な手順で、0.4μgのX11LΔ221−250もしくはX11Lをコードするプラスミド(それぞれ、pcDNA3−FLAG−h
X11LΔ221−250又はpcDNA3−FLAG−hX11L)と0.6μgのAPPをコードするプラスミド(pcDNA3−NFLAG−APP695)とをHEK293細胞にLipofectamineを用いて導入した。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、抗APPポリクローナル抗体(G369)で共役免疫沈降を行った。免疫沈降物をプロテインGセファロースで回収し、洗浄した。これにSDS−PAGEサンプルバッファーを加え、7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜上のAPP及びX11Lについて抗APPポリクローナル抗体及び抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
図7から明らかなように、X11Lの221から250アミノ酸を欠失したX11Lは、ソルビトール処理によるAPPへの結合増強能が失われていた。
【0056】
実施例8:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域の同定(その3:インビトロにおける結合解析)(図8)
実施例7と同様にして作成したX11LΔ221−250(N末端側にFLAG配列が付加されている)又はX11LをコードするプラスミドをHEK293細胞にLipofectamineを用いて導入し、24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化し、細胞溶解物とした。
実施例3と同様にして作成したGST−APPをこの細胞溶解物と混合し、4℃で2時間インキュベートした後、グルタチオンセファロースでGST−APPを回収し、洗浄後、SDS−PAGEサンプルバッファーを添加して7.5%ポリアクリルアミドゲルで分離、ニトロセルロース膜に転写した。転写した膜のX11Lを抗X11Lモノクローナル抗体を用いたイムノブロットにより検出した。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
実施例7で示した221〜250領域を欠失したX11Lは、ソルビトール処理によるAPPへの結合増強能を失うことがインビトロで示された。221〜250領域を欠失したX11Lは、ソルビトール刺激後もAPP細胞質ドメインに結合する能力の増強程度が著しく低下していることがインビトロで明らかになった。
【0057】
実施例9:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位の同定(その1)(図9、図10)
(方法)
N末端にHAタグの付いたX11Lをwtとし、以下の変異体をメガプライマー法によって作成した(図9参照)。尚、S236は、236番目のセリンを意味し、同様に「アミノ酸の種類−その位置」の記載様式で各位置のアミノ酸を示す。
NHA−X11Lall(all;S236,S238,T240,S241,T243,S244,S246,S249全てをアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lfor(for;S236,S238,T240,S241をアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lback(back;T243,S244,S246,S249をアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lmid(mid;T240,S241,T243,S244をアラニンに置換したもの)
実施例2と同様の手順でLipofectamineを用いてこれらのNHA−X11L(wt,all,for,back,midのいずれか)をコードするプラスミド(例
えばpcDNA3−HA−X11Lall)0.4μgとNFLAG−APP(APPのN末端にFLAGタグが付されている)をコードするプラスミド(pcDNA3−NFLAG−APP695)0.2μgとをHEK293細胞に導入した。X11Lのプラスミドを入れていない実験では、空のpcDNA3ベクターを同量加えた。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化した。遠心後の上清を細胞溶解物とし抗FLAG M2抗体(Sigma)で免疫沈降した。反応物を6%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEで分離後、ニトロセルロース膜に転写、NHA−X11Lについては抗HA抗体、NFLAG−APPについては抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
実施例8で同定したX11Lの221から250アミノ酸には、図9で示す様に8個のリン酸化可能なセリン、スレオニン残基が存在する。これらのアラニン置換変異を導入した4種類のX11Lコンストラクト(all,for,back,mid)のソルビトール刺激によるAPP結合能増強効果を測定したところ、all及びforコンストラクトがAPP結合増強効果を有意に失っていた(図10)。この結果、APP結合能増強に影響を与えるリン酸化サイトはforコンストラクト内に含まれる4つのアミノ酸のうちmidコンストラクトに含まれない最初の2つのSer残基である可能性が示唆された。
【0058】
実施例10:APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位の同定(その2)(図11〜13)
(方法)
N末端にHAタグの付いたX11Lをwtとし、以下の変異体をメガプライマー法によって作成した(図11参照)。
NHA−X11LS236A(S236をアラニンに置換したもの)
NHA−X11LS238A(S238をアラニンに置換したもの)
NHA−X11LS236/238A(S236とS238の両方をアラニンに置換したもの)
NHA−X11Lfor(for;S236,S238,T240,S241をアラニンに置換したもの)
実施例2と同様の手順でLipofectamineを用いてこれらのNHA−X11Lをコードするプラスミド(例えばpcDNA3−HA−X11L−S236A)0.4μgとNFLAG−APPをコードするプラスミド(pcDNA3−NFLAG−APP695)0.2μgとをHEK293細胞に導入した。X11Lのプラスミドを入れていない実験では、空のpcDNA3ベクターを同量加えた。
24時間後に0.5Mソルビトール(終濃度)を含むDMEM/10%FCSで45分間処理した。DMEM/10%FCSのみで同様に処理したものを対照群とした。その後細胞を10mM CHAPS溶液で可溶化した。遠心後の上清を細胞溶解物とし抗FLAG M2抗体で免疫沈降した。反応物を6%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEで分離後、ニトロセルロース膜に転写、NHA−X11Lについては抗HA抗体、FLAG−APPについては抗FLAG抗体を用いたイムノブロットを行った。検出にはECL検出キットを用いた。
(結果)
実施例9より同定したSer236及びSer238のいずれか、又は両方をアラニンに置換したコンストラクトを図11に示すように作成し、ソルビトール刺激によるAPP結合能増強効果を測定したところ、いずれか一方にAla変異を導入した場合は、その効果は強く失われていた(図12)。この結果、ソルビトール刺激によるX11LのAPP結合能強化には、Ser236及びSer238のリン酸化が必要であることが明らかになった。X11Lと同様にリン酸化され(実施例1)、又、Aβ生成抑制阻害効果を持つ
X11中にもこのリン酸化部位が保存されている(図13参照)。一方、X11、X11Lとは異なり、神経細胞での特異的発現を示さないX11L2にはこのリン酸化部位は含まれていない。
【0059】
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
[配列番号:1]X11Lをコードする遺伝子の塩基配列を示す。
[配列番号:2]X11Lのアミノ酸配列を示す。
[配列番号:3]X11Lの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:4]NHA−X11Lallの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:5]NHA−X11Lforの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:6]NHA−X11Lbackの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:7]NHA−X11Lmidの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:8]NHA−X11LS236Aの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:9]NHA−X11LS238Aの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:10]S236とS238がともにアラニンに置換された、N末端にHAタグの付いたX11Lの部分アミノ酸配列(221〜250)を示す。
[配列番号:11]ヒトX11L(hX11L)の部分アミノ酸配列(220〜250)を示す。
[配列番号:12]ラットX11L(rX11L)の部分アミノ酸配列(221〜251)を示す。
[配列番号:13]ヒトX11(hX11)の部分アミノ酸配列(264〜294)を示す。
[配列番号:14]ラットX11(rX11)の部分アミノ酸配列(265〜295)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(A)は、神経細胞におけるX11L及びX11のリン酸化を示した図である。(B)は、X11及びX11Lのタンパク質構造を模式的に示したものである。
【図2】ソルビトール刺激によるAPPとX11Lとの結合増強効果を示す図である。IPのレーン:抗FLAG抗体で抽出物を免疫沈降させた沈降物を試料として用いた場合の結果。crudeのレーン:抽出物そのものを試料として用いた場合の結果。
【図3】ソルビトール刺激によるAPPとX11Lの結合増強効果を示す図である。inputのレーン:細胞溶解物をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。GST−APPのレーン:細胞溶解物とGST−APPとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。GSTのレーン:細胞溶解物とGSTとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。
【図4】X11Lの脱リン酸化によりAPPへの結合能が消失することを示した図である。lysateのレーン:ソルビトール刺激した(又はしていない)細胞の溶解物(Lysate)をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。inputのレーン:LysateをλPPaseで脱リン酸化処理した(又はしていない)試料を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。boundのレーン:LysateをλPPaseで脱リン酸化処理した(又はしていない)試料とGST−APPとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。下図は上記結果(boundのレーン)を比で数値化したグラフである。
【図5】X11Lのリン酸化を介したAPPへの結合能増強へのJNKの関与を調べた結果を示す図である。pull downのレーン:細胞溶解物とGST−APPとを混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物を抗X11L抗体でイムノブロットした結果。input:細胞溶解物をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。
【図6】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域を同定した結果を示す図である。 左側上段は抗FLAG抗体を用いた免疫沈降物を抗APP抗体でイムノブロットした結果であり、中段は溶解物をそのまま抗APP抗体でイムノブロットした結果であり、下段は溶解物をそのまま抗FLAG抗体でイムノブロットした結果である。下側は各X11Lコンストラクトの構造を模式的に示したものである。
【図7】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域を同定した結果を示す図である。IP:G369のレーン;細胞溶解物を抗APPポリクローナル抗体(G369)で免疫沈降し、抗FLAG抗体又は抗APP抗体(C末端APP抗体)でイムノブロットした結果。crudeのレーン;細胞溶解物をそのまま抗FLAG抗体又は抗APP抗体(C末端APP抗体)でイムノブロットした結果。
【図8】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化領域を同定した結果を示す図である。pull downのレーン:細胞溶解物をGST−APPと混合した後、グルタチオンセファロースで回収した沈降物をイムノブロットした結果。inputのレーン:細胞溶解物をそのまま抗X11L抗体でイムノブロットした結果。
【図9】X11Lのリン酸化が可能な部位をアラニンに置換することによって得られる各種変異体の部分アミノ酸配列を示した図である。
【図10】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位を同定した結果を示す図である。IPのレーン:細胞溶解物を抗FLAG抗体で免疫沈降し、沈降物を抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。Lysateのレーン:細胞溶解物をそのまま抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。
【図11】X11Lのリン酸化が可能な部位をアラニンに置換することによって得られる各種変異体の部分アミノ酸配列を示した図である。
【図12】APPへの結合能に影響を与えるX11Lリン酸化部位を同定した結果を示す図である。IPのレーン:細胞溶解物を抗FLAG抗体で免疫沈降し、沈降物を抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。Lysateのレーン:細胞溶解物をそのまま抗HA抗体又は抗FLAG抗体でイムノブロットした結果。
【図13】ヒト及びラットのX11L、並びにヒト及びラットのX11の部分アミノ酸配列を示す図である。
【図14】APPとX11Lとの結合能を評価する為の方法の一例(レポーターアッセイ法)を示す図である。
【図15】X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングする方法(サンドイッチ法)の一例を示す図である。
【図16】X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングする方法(イムノブロット)の一例を示す図である。
【図17】X11Lリン酸化特異抗体を用いて、X11Lのリン酸化を促進する化合物をスクリーニングする方法(Cytoblot法)の一例を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体とX11Lとの結合増強剤。
【請求項2】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体の代謝抑制剤。
【請求項3】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、βアミロイド生成抑制剤。
【請求項4】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤を含む、βアミロイドが関連する疾患の予防・治療剤。
【請求項7】
βアミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、請求項6記載の予防・治療剤。
【請求項8】
X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体タンパク質とX11Lタンパク質との結合を増強する方法。
【請求項9】
X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制する方法。
【請求項10】
X11Lのリン酸化を促進することを含む、βアミロイドの生成を抑制する方法。
【請求項11】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体とX11Lとの結合を増強し得る化合物のスクリーニング方法。
【請求項14】
X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
【請求項15】
X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、βアミロイドの生成を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
【請求項16】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、請求項13〜15のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、請求項13〜15のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
リン酸化X11L特異抗体を用いることを特徴とする請求項13〜17のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項1】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体とX11Lとの結合増強剤。
【請求項2】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、アミロイド前駆体の代謝抑制剤。
【請求項3】
X11Lリン酸化促進作用を有する化合物を有効成分として含有する、βアミロイド生成抑制剤。
【請求項4】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤を含む、βアミロイドが関連する疾患の予防・治療剤。
【請求項7】
βアミロイドが関連する疾患が、アルツハイマー病である、請求項6記載の予防・治療剤。
【請求項8】
X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体タンパク質とX11Lタンパク質との結合を増強する方法。
【請求項9】
X11Lのリン酸化を促進することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制する方法。
【請求項10】
X11Lのリン酸化を促進することを含む、βアミロイドの生成を抑制する方法。
【請求項11】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体とX11Lとの結合を増強し得る化合物のスクリーニング方法。
【請求項14】
X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、アミロイド前駆体の代謝を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
【請求項15】
X11Lのリン酸化レベルを測定することを含む、βアミロイドの生成を抑制し得る化合物のスクリーニング方法。
【請求項16】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、アミノ酸番号221〜250の領域内にある、請求項13〜15のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
X11Lのリン酸化部位が該タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)中、236番目のセリン及び/又は238番目のセリンである、請求項13〜15のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
リン酸化X11L特異抗体を用いることを特徴とする請求項13〜17のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−315982(P2006−315982A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139114(P2005−139114)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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