説明

βラクタム系抗生物質含有水の処理装置および処理方法

【課題】第1に、OHラジカルが効率的に生成され、もってβラクタム系抗生物質を、確実に酸化,分解することができ、第2に、しかもこれが、ランニングコスト,後処理コスト,制御の容易性,処理の安定性,イニシャルコスト、等にも優れて実現される、βラクタム系抗生物質含有水の処理装置、および処理方法を提案する。
【解決手段】この処理装置2および処理方法は、被処理水3に含有されたβラクタム系抗生物質1を、フェントン法に基づき酸化,分解する。そして処理装置2は、処理槽4と、処理槽4に付設された被処理水供給手段5,過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8とを、備えている。過酸化水素添加手段6は、処理槽4の被処理水3に過酸化水素を添加し、鉄イオン添加手段7は、処理槽4の被処理水3に2価の鉄イオンを添加し、pH調整手段8は、処理槽4の被処理水3を所定の弱酸性に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、βラクタム系の抗生物質含有水の処理装置および処理方法に関する。すなわち、廃水等の被処理水に含有されたβラクタム系の抗生物質を、フェントン法に基づき酸化,分解する、処理装置および処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
最近、欧米諸国や日本においては、飲料水や河川中に残留,混入した医薬品について、人体や環境への影響が指摘され、その対策の必要性が議論されている。
特に、廃水中に含有された抗生物質については、大きな問題となっており、大都市圏での浄水場や河川中での検出が、厚労省調査や新聞紙上等でも話題となっている。
これらについて、更に詳述する。(1)抗生物質等の医薬品は、人の医療目的のみならず、家畜等に対しても大量使用されている。
そして(2)、体内で代謝,生物分解されずに排泄され廃水や、皮膚に塗って洗い流された廃水や、病院等の医療機関からの廃水中には、抗生物質が含有されている。
そのため(3)、河川水,浄水場取入水,下水処理場流入水,下水処理場放流水,地下水,湖水,そして水道水,飲料水等々、様々な水の中に、抗生物質が残留,混入されている可能性が濃厚であり、その検出,確認も相次いでいる。
(4)その残留濃度は微量であり、人の健康に直ちに影響する虞はないが、長期的にみると人体,生態系,環境等への悪影響が、懸念され始めている状況にある。
【0003】
《従来技術》
これに対し、有効な対策技術は、未だ提案されていない。廃水中に含有された抗生物質処理のニーズ、例えばβラクタム系抗生物質の処理ニーズは、今後高まることが予想されるが、分子量が大きな難分解性の有機化合物であることに起因して、その効果的な処理技術は、未だ確立されていない。
この種の従来技術として把握されうるのは、僅かに次の程度に過ぎない。
・まず、従来よりの浄水場や下水処理場の設備が考えられる。
・病院その他の医療機関では、産業廃棄物の一環として、業者処理,焼却処理が行われている。
・又、技術的提案としては、汚染水に放射線を照射して酸化,分解する技術(特許文献1)や、汚泥水を菌類処理やフェントン法(過酸化水素と鉄塩のフェントン試薬を用いてOHラジカルを生成)にて、酸化,分解処理する技術(特許文献2)が、散見される程度である。
【0004】
《先行技術文献情報》
特許文献1は放射線処理法に関し、特許文献2は菌類やフェントン処理法に関する。
【特許文献1】特開2004−74119号公報
【特許文献2】特表2005−526595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
《問題点について》
ところで、上述したこの種従来例については、次の問題が指摘されていた。
・まず、従来の浄水場や下水処理場の設備,能力,使用薬品で、分子量が大きい抗生物質を処理することは、およそ困難とされていた。
・産業廃棄物としての処理については、周知のように極めてコスト高となる、という難点があった。
・放射線処理や菌類処理については、設備コスト,その他のイニシャルコスト,制御の複雑さ,処理の安定性等に、問題が指摘されていた。
・従来のフェントン法については、処理性能が悪く、ランニングコスト(薬品使用コスト)が嵩む、という問題が指摘されていた。例えば、過酸化水素が処理途中で水と酸素に分解され易く、OHラジカルの生成効率が悪いと共に、これをカバーすべく過酸化水素が多量に過剰添加されており、その残存処理コストつまり中和剤による後処理コストも嵩んでいた。
【0006】
《本発明について》
本発明のβラクタム系抗生物質含有水の処理装置および処理方法は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、OHラジカルが効率的に生成され、もってβラクタム系抗生物質を、確実に酸化,分解することができ、第2に、しかもこれが、ランニングコスト,後処理コスト,制御の容易性,処理の安定性,イニシャルコスト、等々にも優れて実現される、βラクタム系抗生物質含有水の処理装置および処理方法を、提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段、つまり特許請求の範囲記載の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。
請求項1のβラクタム系抗生物質含有水の処理装置は、被処理水に含有された抗生物質を、フェントン法に基づき酸化,分解する。
該抗生物質は、ペニシリンその他のβ−ラクタム構造をもつβラクタム系の有機化合物よりなる。該処理装置は、処理槽と、該処理槽に付設された被処理水供給手段,過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段とを、備えている。
そして該被処理水供給手段は、該処理槽に該抗生物質を含有した該被処理水を供給する。該過酸化水素添加手段は、該処理槽の該被処理水に過酸化水素を添加する。該鉄イオン添加手段は、該処理槽の該被処理水に2価の鉄イオンを添加する。
該pH調整手段は、該被処理水供給手段から該処理槽に供給される該被処理水、および該処理槽に供給された該被処理水にpH調整剤を添加して、該被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする。
【0008】
請求項2については、次のとおり。請求項2のβラクタム系抗生物質含有水の処理装置では、請求項1おいて、該過酸化水素添加手段は、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加する。該鉄イオン添加手段は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン溶液を分割添加する。
そして該pH調整手段は、過酸化水素の添加前には酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後においては鉄イオン溶液の添加毎に、アルカリpH調整剤を添加すること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3のβラクタム系抗生物質含有水の処理装置では、請求項2において、該βラクタム系抗生物質は、ペニシリン系,βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系,セフェム系,βラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系,カルバペネム系,又はモノバクタム系よりなる。
そして該鉄イオン添加手段は、硫酸第一鉄や塩化第一鉄の水溶液を添加する。該pH調整手段は、例えば硫酸又はカセイソーダを添加し、もって該処理槽内の該被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする。
【0009】
請求項4については、次のとおり。請求項4のβラクタム系抗生物質含有水の処理方法は、被処理水に含有された抗生物質を、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する。該抗生物質は、ペニシリンその他のβ−ラクタム構造をもつβラクタム系の有機化合物よりなる。
そして、該抗生物質を含有した該被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液とpH調整剤とが添加される。過酸化水素は、反応当初に全量添加される。2価の鉄イオン溶液は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して分割添加される。
pH調整剤は、過酸化水素の添加前は酸pH調整剤が添加され、過酸化水素の添加後は2価の鉄イオン溶液の分割添加毎にアルカリpH調整剤が添加され、もって該被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする。
【0010】
請求項5については、次のとおり。請求項5のβラクタム系抗生物質含有水の処理方法では、請求項4において、全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて分割添加の都度還元されて、OHラジカルが生成される。
もって、該被処理水に含有された該抗生物質が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
請求項6については、次のとおり。請求項6のβラクタム系抗生物質含有水の処理方法では、請求項5において、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成される。
もって、該被処理水に含有された該抗生物質が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
請求項7については、次のとおり。請求項7のβラクタム系抗生物質含有水の処理方法では、請求項5又は6において、生成されたOHラジカルが、更に該被処理水等の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、連鎖的に繰り返される。
もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、該抗生物質が酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
請求項8については、次のとおり。請求項8のβラクタム系抗生物質含有水の処理方法では、請求項5又は6において、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、少なくとも新たなOHラジカルを生成する反応が、連鎖的に繰り返される。
もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、該抗生物質が酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
【0011】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)ペニシリン,その他のβラクタム系抗生物質を含有した被処理水は、処理装置に供給される。そして、フェントン法に基づく処理方法により、βラクタム系抗生物質が酸化,分解される。
(2)この処理装置は、被処理水供給手段,処理槽,後処理槽等を備えている。処理槽には、過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段等が、付設されている。
(3)そして被処理水は、処理槽に供給されるが、その前にpH調整手段から硫酸等が添加されて、pH4程度の弱酸性とされる。
(4)処理槽では被処理水に対して、まず、過酸化水素添加手段から過酸化水素が全量添加される。
(5)それから、鉄イオン添加手段から2価の鉄イオン溶液が分割添加されるが、その分割添加毎に、pH調整手段からカセイソーダ等が添加されて、被処理水の弱酸性が維持される。
(6)さてそこで、処理槽内では、2価の鉄イオンを触媒として、過酸化水素がOHラジカルを生成する。
この生成反応では、鉄イオンが分割添加されるので、OHラジカルそして鉄イオンを浪費する反応が起こる虞はない。又、弱酸性雰囲気なので、鉄イオンの触媒機能が促進されるので、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費されることも回避される。
(7)OHラジカルは、上記反応にて生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンの反応によっても、生成可能である。
(8)OHラジカルは、更に、上記反応により生成されたOHラジカルが、被処理水等の水と反応することによっても、又、上記反応により生成された3価の鉄イオンと過酸化水素が反応することによっても、それぞれ、連鎖的に繰り返して新たに生成される。
(9)処理槽内では、このように生成されたOHラジカルの強力な酸化力により、被処理水中に含有されたβラクタム系抗生物質は、分子量が大きい難分解性の有機化合物よりなるものの、確実に酸化,分解される。もって、水,二酸化炭素,その他の低分子化合物に無機化される。
(10)それから被処理水は、後処理槽を経由して外部排水される。
(11)なお、この処理装置および処理方法では、フェントン試薬等の添加量が反応理論値から容易に算出されると共に、構成も比較的簡単であり、安定的処理が可能である。
(12)さてそこで、本発明の処理装置および処理方法は、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0012】
《第1の効果》
第1に、OHラジカルが効率的に生成され、もってβラクタム系抗生物質を、確実に酸化,分解することができる。
すなわち、本発明の処理装置および処理方法では、まずa.被処理水の弱酸性維持,過酸化水素の全量添加,2価の鉄イオンの分割添加等により、OHラジカルが効率良く生成される。
しかもb.OHラジカルは、3価の鉄イオンと水酸化イオンとの反応や、生成されたOHラジカルの水との反応や、3価の鉄イオンの過酸化水素との反応等によっても、連鎖的に繰り返し高効率で生成される。
これらa,bにより、本発明では、廃水等の被処理水に残留,混入,含有されたβラクタム系抗生物質が、確実に酸化,分解,除去されるようになる。
【0013】
《第2の効果》
第2に、しかもこれは、ランニングコスト,後処理コスト,制御の容易性,処理の安定性,イニシャルコスト、等にも優れて実現される。
すなわち、本発明の処理装置および処理方法では、まずa.前述したこの種従来例のフェントン法のように、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費されることがなく、過剰に多量の過酸化水素を添加する必要もなく、フェントン試薬等の薬品使用コスト、そしてランニングコストが低減される。
又b.この種従来例フェントン法のように、過酸化水素が過剰添加されることもなく、処理後の被処理水は過酸化水素の残存含有量が少なく、中和剤による後処理コストも低減される。
更にc.βラクタム系抗生物質の含有量に対応した過酸化水素の添加量や、過酸化水素の添加量に見合った2価の鉄イオンの添加量や、pH調整剤の添加量等は、反応理論値から容易に算出され、必要モル数が得られる。もって、過不足のない適量の薬品添加制御が容易であり、自動制御も可能となり、例えば、2価の鉄イオンが余剰に残存したり不足したりする事態は発生せず、処理も安定化する。
又d.前述したこの種従来例の産業廃棄物処理,放射線処理,菌類処理等に比べ、構成が比較的簡単容易であり、この面からも処理の安定性に優れると共に、設備コスト等のイニシャルコスト、その他の諸コストも低減される。
本発明の処理装置および処理方法は、これらa,b,c,dの各面から、本格的処理,大規模処理,大容量処理等へのスケールアップ適用、つまり実用化への道が開ける。例えば、本発明の処理装置を、医療機関の施設内に設置して、本発明の処理方法を実施することにより、βラクタム系抗生物質を含有した廃水の浄化が、容易に可能となる。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
《図面について》
以下、本発明のβラクタム系の抗生物質含有水の処理装置および処理方法を、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。
図1は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供し、構成フロー図である。
【0015】
《βラクタム系抗生物質1について》
まず、本発明の処理装置2や処理方法の処理対象である、βラクタム系抗生物質1について、説明する。
抗生物質は、周知のように、微生物によって生産される化学物質であり、細菌や他の微生物について、その発育や機能を阻止,阻害,変質,抑制等する能力があり、医薬等として広く用いられている。つまり、抗菌剤を始め、抗真菌剤,抗ウィルス剤,抗腫瘍剤等として用いられている。
本発明は、このような抗生物質のうち、βラクタム系抗生物質1を対象とする。すなわち、ペニシリン(PENICILLIN)、その他のβ−ラクタム構造(βラクタム環)をもつβラクタム系の有機化合物を対象とする。具体的には、ペニシリン系,βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系,セフェム系,βラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系,カルバペネム系,又はモノバクタム系よりなる、βラクタム系抗生物質1を対象とする。
【0016】
このようなβラクタム系抗生物質1について、更に詳述する。
βラクタム系抗生物質1とは、原子団−CONH−を環内に含む、環状有機化合物の総称である。代表例としては、ペニシリン系(PC)が挙げられ、その内、ペニシリンGが最も知られているが、その置換基Rの差異により、ペニシリンG以外にも、ペニシリンF,ペニシリンK,ペニシリンU,ペニシリンV,ペニシリンX等がある。
βラクタム系抗生物質1の具体的分類,内容を列記すると、次の(1)〜(6)のとおり。
(1)ペニシリン系(PC)
・ペニシリンG(PCG)
・ペニシリンF(PCF)
・ペニシリンK(PCK)
・ペニシリンU(PCU)
・ペニシリンV(PCV)
・ペニシリンX(PCX)
・メチシリン
・アモキシシリン(AMPC)
・アンピシリン(ABPC)
・クロキサシリン(MCIPC)
・ピペラシリン(PIPI)
(2)βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系
・アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)
・ピペラシリン/タゾバクタム((PIPC/TAZ)
(3)セフェム系(Ceph)
・セファゾリン(CEZ)
・セフォチアム(CTM)
・セフトリアキソン(CTRX)
・セフタジジム(CAZ)
・セフピロム(CPR)
・セフェピム(CEPM)
(4)βラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系
・セフォペラゾン/スルバクタム(CPZ/SBT)
(5)カルバペネム系
・イミペネム/シラスタチン(IPM/CS)
・パニペネム/ベタミプロン(PAPM/BP)
・メロペネム(MEPM)
(6)モノバクタム系
・アズトレオナム(AZT)
・スルバクタム
・タゾバクタム
本発明は、各種廃水等の被処理水3に含有された、このようなβラクタム系抗生物質1を、その処理対象とする。
【0017】
《その他の抗生物質について》
ところで、本発明の処理装置2および処理方法は、このようなβラクタム系抗生物質1以外の、その他の抗生物質についても適用可能であるが、現在の特許請求の範囲からは除外してある。つまり、βラクタム系抗生物質1以外の構造の抗生物質は、この特許出願の特許請求の範囲からは、現在の所では、除外されており対象外となっている。
このような、その他の抗生物質を列記すると、次の(1)〜(8)のとおり。
(1)アミノグリコシド系
・カナマイシン(KM)
・ストレプトマイシン(SM)
・ネオマイシン
・ゲンタマイシン(GM)
・フラジオマイシン
・トブラマイシン(TOB)
・アミカシン(AMK)
・アルベカシン(ABK)
・アストロマイシン
・イセパマイシン
・ベカナマイシン
・ジベカシン
・ミクロノマイシン
・ネチルマイシン
・パロモマイシンン
・リボスタマイシン
・シソマイシン
(2)テトラサイクリン系
・テトラサイクリン((TC)
・ドキシサイクリン(DOXY)
・ミノサイクリン(MINO)
(3)クロラムフェニコール系
・クロラムフェニコール
(4)マクロライド系
1)14員環マクロライド
・エリスロマイシン(EM)
・クラリスロマイシン(CAM)
・ロキシスロマイシン(RXM)
2)含窒素15員環マクロライド
・アジスロマイシン(AZM)
3)16員環マクロライド
・ロキタマイシン(RKM)
・キタサマイシン(LM)
(5)ケトライド系
・テリスロマイシン(TEL)
(6)ポリエンマクロライド系
・ナイスタチン
・アムホテリシンB(AMPH−B)
(7)グリコペプチド系
・バンコマイシン(VCM)
・テイコプラニン(THIC)
(8)核酸系
・ホスミドシン
その他の抗生物質については、以上のとおり。
【0018】
《処理装置2および処理方法の概要》
本発明の処理装置2および処理方法は、被処理水3に含有されたβラクタム系抗生物質1を、改良されたフェントン法の処理プロセスに基づいて、酸化,分解する。すなわち、本発明の処理装置2および処理方法は、βラクタム系抗生物質1の含有水を、被処理水3とする。
もって、含有されたβラクタム系抗生物質1を、フェントン試薬の過酸化水素(H)と2価の鉄イオン(Fe2+)を用い、フェントン主反応で生成されたOHラジカル(・OH)や、このようなフェントン主反応の付随的,副次的,連鎖的反応にて生成されたOHラジカルにて酸化,分解し、もって水,二酸化炭素,その他の低分子化合物へと無機化する。
そして、本発明の処理装置2および処理方法は、処理槽4と、この処理槽4に付設された被処理水供給手段5,過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8とを、備えている。
以下、これらについて詳細に説明する。
【0019】
《被処理水供給手段5等について》
まず、被処理水供給手段5等について、説明する。被処理水供給手段5は、処理槽4に対し、βラクタム系抗生物質1を含有した被処理水3を、処理対象として供給する。
すなわち図示例では、被処理水供給手段5の原水槽9には、被処理水3が導入されており、この原水槽9そしてpH調整槽10を経由して、処理槽4に被処理水3が供給される。原水槽9に導入される被処理水3は、必要に応じ予め粉塵汚泥除去,生物処理等の前処理が施されている。pH調整槽10では、付設されたpH調整手段8からpH調整剤が添加される。
このpH調整手段8は、被処理水供給手段5の原水槽9から処理槽4に供給される途中の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を所定の弱酸性に調整してから、処理槽4に供給する。すなわち、原水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることも多いので、これをpH5〜pH3程度、代表的にはpH4程度に調整すべく、pH調整剤として硫酸等の酸pH調整剤が用いられる。
このように事前にpH調整しておく理由は、後述するように、過酸化水素と2価の鉄イオンによるOHラジカルの生成反応が、所期の通り効率良く行われるようにする為、等々である。
なお、上記pH調整槽10は、例えば、被処理水3の大容量処理,連続処理や、高濃度のβラクタム系抗生物質1の処理、等の場合に使用されるが、pH調整槽10を使用せず、原水槽9において代用的,兼用的に、上述したpH調整を実施することも可能である。
被処理水供給手段5等は、このようなっている。
【0020】
《過酸化水素添加手段6について》
次に、処理槽4に付設された過酸化水素添加手段6について、説明する。過酸化水素添加手段6は、処理槽4の被処理水3に対し、その反応当初において、過酸化水素(H)の水溶液を、フェントン試薬として全量添加する。過酸化水素は、OHラジカルの発生源となる。
過酸化水素の1回の反応当たりの添加量は、その被処理水3中に含有された処理対象のβラクタム系抗生物質1の具体的含有量,濃度次第であるが、その反応理論値を基準として多目に算出された実際必要量(必要モル数)が、反応当初に一度に全量添加される。次回の添加は、処理槽4の被処理水3中から過酸化水素がなくなった時、つまり次の反応時であり、同様にその全量が添加されて行くことになる。
このように、この明細書において全量添加とは、反応に必要な薬剤量を1回に100%全量一括添加すること、を意味する。
このように過酸化水素添加手段6から、過酸化水素が全量添加される。
【0021】
《鉄イオン添加手段7について》
次に、処理槽4に付設された鉄イオン添加手段7について、説明する。鉄イオン添加手段7は、上述により過酸化水素が添加された後の処理槽4の被処理水3に対し、間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン(Fe2+)溶液を、フェントン試薬として分割添加する。
すなわち、液中で2価の鉄イオンを生じる物質、例えば硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)が、このような鉄塩として代表的に使用されるが、その他の無水塩や含水塩、例えば塩化鉄(FeCl)やその水和物も使用可能である。2価の鉄イオンは、過酸化水素のOHラジカル生成反応の触媒として機能する。
この鉄イオンの1回の反応当たりの添加量は、反応理論値を基準として、より多い実際必要量が算出されるが、例えば、過酸化水素の1モルに対し0.5モル程度とされる。
又、この鉄イオンは、複数回に分けて分割添加される。すなわち、1回の反応についての必要量が、全量添加されずに3〜7回程度に分けて、例えば5回に分けて順次添加される。各回毎の添加タイミングは、前回添加したものがなくなった段階で、次回分が添加される。このように、この明細書において分割添加とは、反応に必要な薬剤量を複数回に分けて添加すること、を意味する。
2価の鉄イオンを分割添加する理由は、次のa,b,cのとおり。まずa.もしも全量添加すると、後述する化学反応において、過酸化水素を反応物質とする原系から、OHラジカルを生成物質とする生成系へと向かう所期の正反応と同時に、OHラジカルを消費する無駄な反応が起こり易くなる。つまり、余ったOHラジカルが水に戻る反応が起こり易くなり、ロスが生じ、OHラジカル生成のために使用した鉄イオンが、無駄に消費されることになる。これに対し分割添加すると、このような反応が抑制され、鉄イオンの無駄も解消される。
又b.OHラジカルは、反応が激しいだけに存在時間が瞬間的,超短寿命であり、全量添加より分割添加した方が、その都度OHラジカルが生成されて、処理槽4内の被処理水3の隅々まで行き渡るようになる。もってその分、βラクタム系抗生物質1の酸化,分解が確実化,効率化,迅速化される。
更にc.分割添加すると、全量添加に比し残存する過酸化水素が少なくなるので、その分、中和剤による後処理コストも低減される。
このように鉄イオン添加手段7から、2価の鉄イオン等が分割添加される。
【0022】
《pH調整手段8について》
次に、処理槽4に付設されたpH調整手段8について、説明する。pH調整手段8は、前述したように被処理水供給手段5から処理槽4に供給される前の被処理水3、および処理槽4に供給された後の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を例えばpH4程度の弱酸性に維持する。
すなわちpH調整手段8は、過酸化水素の添加前には、硫酸(HSO)等の酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後は、上述した鉄イオンの添加毎に、カセイソーダ(NaOH)等のアルカリpH調整剤を添加する。
被処理水3を、pH3〜pH5程度代表的にはpH4程度に維持する理由は、次のa,b,cのとおり。
まずa.後述するように、所期の反応を阻害する過酸化水素の水と酸素への無駄な分解反応を、抑制すべく機能する。これと共にb.2価の鉄イオンの過酸化水素への電子供与を、促進すべく機能する。更にc.後述する付随的,副次的,連鎖的に繰り返されるOHラジカル生成反応を、促進し確実化すべく機能する。これらa,b,cにより、OHラジカルの生成が、効率良く進行するようになる。
これに対し、まず、被処理水供給手段5の原水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることが多いので、前述したようにpH調整槽10において、pH調整手段8から例えば硫酸が添加されて、例えば4程度にpH調整される。
そして事後、処理槽4において、2価の鉄イオンが添加されると、そのままでは被処理水3のpHが例えば2.8程度まで低下し酸性度が過度に上がるので、2価の鉄イオンの分割添加毎にその都度、例えばカセイソーダが添加され、もって例えばpH4程度へと被処理水3がpH調整される。
pH調整手段8は、このようになっている。
【0023】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その1)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その1)について、説明する。
この処理装置2や処理方法において、処理槽4内では、まず第1に、被処理水3が攪拌,流下されると共に、添加された過酸化水素が、触媒として添加された2価の鉄イオンにて還元されて、OHラジカルを生成する。
このようなOHラジカルの生成について、更に詳述する。処理槽4内では、次の化1,化2の反応式(化3の反応式)に基づき、OHラジカルが生成される。これがフェントン主反応である。
【0024】
【化1】

【化2】

【化3】

【0025】
これらについて、更に詳述する。このフェントン主反応では、上記化1の反応式において、鉄イオン添加手段7から順次分割添加される2価の鉄イオン(Fe2+)は、被処理水3が例えばpH4程度の弱酸性雰囲気に維持されているので容易に、触媒として上記化2の反応式の過酸化水素(H)に対し、順次電子(e)を供与すると共に、自己は酸化して3価の鉄イオン(Fe3+)となる。
そこで、化2の反応式において、過酸化水素添加手段6から最初に全量添加された過酸化水素は、化1の反応式に基づき電子が順次供与され、もってその都度、OHラジカル(・OH)と水酸化イオン(OH)が生成される。化1と化2の反応式をまとめて合成すると、上記化3の反応式となる。
ところで、このような反応に際し、前述したように被処理水3が弱酸性雰囲気に維持されているので、過酸化水素が水と酸素に分解され、浪費されてしまうことは抑制される。これに対し、もしも弱酸性雰囲気に維持されないと、次の化4の反応式により、過酸化水素が、発生期の酸素(O)を発生しつつ水分子(HO)になり、所期の化2(化3)の反応式によりOHラジカルを生成することなく、浪費されてしまうことになる。なお、この発生期の酸素は、その酸化対象がない場合、酸素分子(O)となって系外にでる。
処理槽4内では、まず第1に、このようなフェントン主反応により、OHラジカルが生成される。
【0026】
【化4】

【0027】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その2)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その2)について、説明する。処理槽4では、第2に、次の化5,化6の反応式によっても、OHラジカル(・OH)を生成可能である。
すなわち、処理槽4内では、まず第1に、前記化3(化1,化2)の反応式のフェントン主反応により、OHラジカルが生成されるが、これと共に第2に、次の化5,化6の反応式によっても、付随的,副次的,連鎖的にOHラジカルを生成可能である。
【0028】
【化5】

【化6】

【0029】
これについて、更に詳述する。処理槽4内では、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオン(OH)が、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオン(Fe3+)にて酸化されて、OHラジカル(・OH)を生成する。
すなわち、前記化1の反応式で生成された3価の鉄イオンは、前記化2の反応式で生成された水酸化イオンから、上記化5,化6の反応式により、電子(e)を奪ってOHラジカルを生成させ、自らは2価の鉄イオンに還元されて戻る。
このように、化3(化1,化2)の反応式のみならず、化5,化6の反応式が、連鎖的にバランス良く起こるようにすると、OHラジカルが、より効率的に生成される。
処理槽4内では、第2に、このような反応によって、OHラジカルを生成可能である。
【0030】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その3)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その3)について、説明する。処理槽4では、上述した第1,第2に加え、更に第3の反応によっても、付随的,副次的,連鎖的に、新たなOHラジカルが生成される。
すなわち、前記化3(化1,化2)や前記化5,化6の反応式にて生成されたOHラジカルが、被処理水3等の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、次の化7,化8の反応式により、連鎖的に繰り返される。
【0031】
【化7】

【化8】

【0032】
これらについて、更に詳述する。まずOHラジカルは、中性〜アルカリ性雰囲気下では、水分子から水素原子を引き抜いてこれを酸化し、酸素分子を発生せしめると共に、自身は還元されて水分子に帰す。
これに対し酸性雰囲気下では、上記化7の反応式により、OHラジカル(・OH)は、水分子(HO)から電子(e)を引き抜き、自身は水酸化イオン(OH)になるが、この引き抜き反応が、水分子をラジカル分裂させ活性化させて、新たなOHラジカル(・OH)とプロトン(H)を生成させる。生成された水酸化イオンとプロトンは、上記化8の反応式にて、新たな水(HO)を生成して消滅する。
処理槽4の被処理水3は、弱酸性雰囲気に維持されているので、このようにして、新たなOHラジカルが生成されるが、更にこのように生成されたOHラジカルを基に、再びこのような一連の反応が連鎖的に起き、事後も同様に連鎖的に繰り返される。
つまり、前記化3等の反応式にてOHラジカルが一旦生成されると、これを開始反応,反応開始剤として、事後は連鎖的反応により、半永続的にOHラジカルが得られることになる。βラクタム系抗生物質1の酸化,分解過程において消費された分を除いたOHラジカルが、プロトンの連鎖的な生成・消滅と共存的に、生成・消滅を繰り返す。OHラジカルは超短寿命であることに鑑み、このような繰り返し生成の意義は大きい。
処理槽4内では、第3に、このような反応によっても、OHラジカルが生成される。
【0033】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その4)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その4)について、説明する。処理槽4では、上述した第1,第2,第3に加え、更に第4に、次の反応によっても付随的,副次的,連続的に、新たにOHラジカルが生成される。
すなわち、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、新たにOHラジカル等を生成する反応が、次の化9,化10の反応式(化11の反応式)により、連鎖的に繰り返される。
【0034】
【化9】

【化10】

【化11】

【0035】
これらについて、更に詳述する。前記化3(化1)の反応式で生成された3価の鉄イオ
ン(Fe3+)が、過酸化水素(H)と上記化9の反応式により反応し、もって、3価の鉄イオンが2価の鉄イオン(Fe2+)に還元されると共に、酸素分子が電子と結合して生じたイオンであるスーパーオキシドアニオン(・O)が生成される。
そして、上記化10の反応式により、このラジカルなスーパーオキシドアニオンが、過酸化水素と反応して、OHラジカル(・OH)を生成可能である。化9と化10の反応式をまとめて合成すると、化11の反応式が得られる。
このように、前記化3(化2)の反応式にてOHラジカル生成の源泉となっていた過酸化水素が残ってさえいれば、(βラクタム系抗生物質1の酸化,分解過程で、OHラジカルが、例え消費され尽くされてしまった場合においても、余剰に過酸化水素が残存してさえいれば、)その過酸化水素を基に、新たなOHラジカルが、連鎖的に半永続的に生成され続けられることになる。OHラジカルは超短寿命であることに鑑み、このような生成継続の意義は大きい。
但し、化11(化9,化10)の反応式が確実に起こるためには、過酸化水素が水と溶存酸素に分解(前記化4の反応式を参照)しない程度の弱酸性雰囲気まで、pH調整手段8にてカセイソーダ等を処理槽4の被処理水3に加える等、pH操作が必要であり、pH値をアルカリ側に移動させておくことが必要である。
更に、化11(化9)の反応式で生じた2価の鉄イオンは、pHを下げるが、上述により弱酸性雰囲気で安定存在する過酸化水素との共存を図るべく、必要なpH操作を実施しておけば、前記化3等の反応式のフェントン主反応により、OHラジカルの生成も見込める。
処理槽3内では、第4に、このような反応によっても、OHラジカルが生成される。
【0036】
《処理槽4における反応(βラクタム系抗生物質1の酸化,分解)》
次に、OHラジカルによるβラクタム系抗生物質1の酸化,分解,無機化について説明する。
この処理装置2や処理方法において、処理槽4内では、被処理水3に含有されたβラクタム系抗生物質1が、このようにフェントン主反応,その他にて生成されたOHラジカルにて、酸化,分解されて無機化される。
これらについて、更に詳細に説明する。OHラジカルつまりヒドロキシラジカル(・OH)は、周知のごとく強力な酸化力を備えている。つまり、活性酸素種として他に類を見ない極めて強力な電子(e)の奪取力,酸化力,つまり活性力,分解力を有しており、ラジカルで反応性に富んでいる。なお反応が激しいだけに、その存在時間は、ほんの瞬間的で寿命の短い化学種でもある。
さてそこで、水相分散したOHラジカルは、被処理水3中に含有されたβラクタム系抗生物質1を酸化し、遂には分解してしまう。すなわちOHラジカルは、βラクタム系抗生物質1の有機構造や、その分解過程の中間体の有機構造について、酸化や付加の連鎖プロセスを辿り、もって、その炭素連鎖,有機結合,分子結合を順次切断,分解,分断して、最終的には無機の低分子化合物へと、酸化,分解,無機化してしまう。
βラクタム系抗生物質1は、その大部分が、水,二酸化炭素に、酸化,分解,無機化される。そして、残りの僅かな部分が、極く微量のその他の低分子化合物に、酸化,分解,無機化されてしまう。
処理槽4では、このようにβラクタム系抗生物質1が、酸化,分解,無機化される。
【0037】
《後処理槽11について》
次に、後処理槽11について説明する。以上述べた処理槽4には、後処理槽11が付設されている。そして、この後処理槽11に、前述によりβラクタム系抗生物質1が酸化,分解された後の被処理水3が、処理槽4から排出され、必要な処理が施されて外部排水される。
このような後処理槽11について、更に詳述する。図示例の後処理槽11は、中和槽12,沈殿槽13,凝集沈殿槽14,濾過槽15,pH調整槽16,処理水槽17等を、下流に向け順に備えている。
まず処理槽4から、βラクタム系抗生物質1の酸化,分解処理が済んだ被処理水3が、後処理槽11の中和槽12へと排出される。中和槽12では、このような被処理水3に対し、カセイソーダ等のpH調整剤が添加され、もって無機凝集剤への最適pHへと調整される。なお、被処理水3中に僅かでも過酸化水素が残留している場合には、水質汚濁を回避すべくカタラーゼ等の中和剤が添加される。
次に沈殿槽13では、中和層12から流入した被処理水3中に残留物として含有されていた鉄分とのコロイド状錯体が、固液分離されて下部に沈殿,除去される。
次の、凝集沈殿槽14では、沈殿槽13上部から流入した被処理水3に対し、無機凝集剤として、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC,Al(OH)Cl6−n)や、塩化第二鉄(FeCl)が、添加されて攪拌される。もって、沈殿槽13で沈殿されることなく被処理水3中に残存していた上記コロイド状錯体が、凝集化され固液分離されて、沈殿,除去される。
なお、被処理水3中にフェントン法にて発生した3価の鉄イオン(Fe3+)の残存量が多い場合は、この鉄イオン(Fe3+)が無機凝集剤として機能するので、例えばPAC等の添加は不用である。又、必要に応じこの凝集沈殿槽14の次に貯留沈殿槽を設けて、高分子凝集剤として例えばアニオンを添加し、もって、上記コロイド状錯体の一層の凝集化,ブロック化,固液分離化,そして沈殿,除去を図るようにしてもよい。
それから被処理水3は、濾過槽15,pH調整槽16,処理水槽17を、順次経由する。もって被処理水3は、更に浄化されると共に、外部排水に適したpH値に調整された後、処理水槽17から外部排水されて、放流される。
後処理槽11は、このようになっている。
【0038】
《作用等》
本発明のβラクタム系抗生物質1含有水の処理装置2および処理方法は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)ペニシリン系,βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系,セフェム系,βラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系,カルバペネム系,又はモノバクタム系等、β−ラクタム構造をもつβラクタム系抗生物質1を含有した廃水等の被処理水3は、処理装置2へと供給される。
処理装置2は、フェントン法の処理プロセスに基づく処理方法により、残留,混入していたβラクタム系抗生物質1を酸化,分解し、もって被処理水3を浄化する。
【0039】
(2)そして、この処理装置2は、被処理水供給手段5の原水槽9,pH調整槽10,処理槽4,後処理槽11等を、順に備えている。
pH調整槽10には、pH調整手段8が付設されている。処理槽4には、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が、付設されている。
【0040】
(3)そして被処理水3は、被処理水供給手段5の原水槽9から、処理槽4に供給される。なお被処理水3は、処理槽4に供給される前に、図示例ではpH調整槽10において、pH調整手段8から例えば硫酸等の酸pH調整剤が添加され、もってpH3〜pH5例えばpH4程度の弱酸性とされる。
【0041】
(4)処理槽4に供給された被処理水3には、まず、過酸化水素添加手段6から過酸化水素の水溶液が、添加される。過酸化水素は、反応当初に全量添加される。
【0042】
(5)処理槽4では、このように過酸化水素が添加された後、被処理水3に対して、鉄イオン添加手段7から2価の鉄イオン溶液が、添加される。この添加は、過酸化水素添加後の反応中において、分割添加により複数回に分けて間欠的に、複数サイクル繰り返して行われる。
又、このような鉄イオンの分割添加毎に、pH調整手段8から例えばカセイソーダ等のアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水3は常時、例えばpH4程度の弱酸性を維持する。つまり被処理水3は、OHラジカル生成に最適なpHへと調整される。
【0043】
(6)さてそこで、処理槽4内では、次の第1,第2,第3,第4の反応に基づき、OHラジカルが生成される。
第1に、上述により全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されて、OHラジカルを生成する。
すなわち、前記化3(化1,化2)の反応式のフェントン主反応により、2価の鉄イオンが、過酸化水素に電子を供与して3価の鉄イオンになり、電子を供与された過酸化水素が、OHラジカルを生成する。
なお、このOHラジカルの生成は、2価の鉄イオンが分割添加されるので、OHラジカルそして2価の鉄イオンが浪費される反応が起こる虞もなく、分割添加の都度、無駄なく効率良く実施される。
これに加え、このOHラジカルの生成は、pH4程度の弱酸性雰囲気に維持されていることによって、一段と効率良く確実に実施される。すなわち、弱酸雰囲気下であることにより、まず、2価の鉄イオンの電子供与が促進されると共に、更に過酸化水素が、前記化4の反応式により水と酸素に分解,浪費される反応が抑制,回避され、能力いっぱいのOHラジカルを生成するようになる。
【0044】
(7)第2に、OHラジカルは、処理槽4内で2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、酸化されることによっても生成可能である。
すなわちOHラジカルは、前記化3(化1,化2)の反応式で生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンとに基づき、前記化5,化6の反応式によっても生成され可能であり、この面からも、OHラジカルが効率良く生成される。なおこのOHラジカルも、鉄イオンの分割添加の都度、連鎖的にそれぞれ生成される。
【0045】
(8)OHラジカルは更に、次の第3,第4によっても生成される。つまり、上記(6)のフェントン主反応以外でも、付随的,副次的,連鎖的反応によって、効率良く生成され続ける。
第3に、前記化3の反応式等により生成されたOHラジカルが、前記化7,化8の反応式により被処理水3等の水と反応することにより、新たなOHラジカルが連鎖的に繰り返し生成される。
第4に、前記化3(化1)の反応式で生成された3価の鉄イオンと、過酸化水素とが、前記化11(化9,化10)の反応式により反応することによっても、新たなOHラジカルが、連鎖的に繰り返し生成される。
なお、これら第1,第2,第3,第4のOHラジカルの生成は、処理槽4内でフェントン試薬の過酸化水素が使い尽くされてなくなった時に、終了する。
【0046】
(9)さて、このように生成されたOHラジカルは、極めて強力な酸化力を備えている。そこで処理槽4内では、被処理水3中に含有されたβラクタム系抗生物質1は、このOHラジカルにて酸化,分解され、もって低分子化合物へと無機化されてしまう。
ペニシリン,その他のβラクタム系抗生物質1は、分子量が極めて大きく難分離性の有機化合物ではあるが、OHラジカルの連鎖的な付加や酸化反応により、水,二酸化炭素等の低分子化合物へと、無機化されてしまう。
【0047】
(10)被処理水3は、含有されていたβラクタム系抗生物質1が、このように水や二酸化炭素等に無機化され、もって処理槽4から後処理槽11へと排出される。図示の後処理槽11は、中和槽12,沈殿槽13,凝集沈殿槽14,濾過槽15,pH調整槽16,処理水槽17、等を備えている。
なお過酸化水素は、前述によりOHラジカル生成に関し、無駄なく有効使用されるので、処理後の残存量は僅かであり、中和槽12における中和剤の使用も、極く僅か又は皆無となる。
そして被処理水3は、後処理槽11を経由することにより、排水可能な状態に調整されて、外部排水される。
【0048】
(11)この処理装置2および処理方法では、上述したように、フェントン法の処理プロセス等に基づき、被処理水3に含有されたβラクタム系抗生物質1を無機化するが、これは簡単容易に実現される。
すなわち、過酸化水素,2価の鉄イオン,pH調整剤等のフェントン試薬等の薬品添加量は、反応理論値から実際必要量が容易に算出され、反応理論値と同量か多目の例えば数倍程度が、実際必要量として添加され、もって添加量の最適化が実現される。
又、この処理装置2は、処理槽4を中心に、原水槽9や後処理槽11が配設されると共に、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が付設された構成よりなる。つまり、この処理方法では、比較的簡単な構成の処理装置2が用いられており、安定的な処理が可能である。
本発明の作用等は、このようになっている。
【実施例1】
【0049】
以下、本発明の処理装置2および処理方法の実施例に関し、その酸化,分解過程の1例について、詳細に説明しておく。
すなわち、この実施例1では、処理槽4内における反応(βラクタム系抗生物質1の酸化,分解)と題して前述した所について、βラクタム系抗生物質1の代表例であるペニシリンGについて、その酸化,分解過程の1例を、理論的に検証しておく。
被処理水3中に含有されたペニシリンG(PCG)は、その酸化,分解過程の不安定な中間体の有機構造を含め、以下に述べる化13〜化18に示した反応式の連鎖プロセス(1)〜(32)を辿ることにより、順次、OHラジカル(・OH)にて酸化されて行く。そして、水(HO),二酸化炭素(CO),その他の低分子化合物へと、分解,無機化されてしまう。
まずペニシリンGの分子式(実験式)は、C1618Sであり、構造式(示性式)は、次の化12のとおり。
【0050】
【化12】

【0051】
まず、出発物質であるペニシリンGは、最初に下記の化13,化14の反応式の連鎖プロセス(1)〜(6)を辿り、順次、OHラジカルによる酸化や付加が行われる。
もって、その環状構造の分解が進行し、順次、アルデヒド化,カルボン酸化,アルコール化等されて行くと共に、二酸化炭素(CO)や水(HO)が、途中で派生,生成,遊離される。
なお、化14の反応式のプロセス(5)−1において生成されたメタノール(CHOH)は、プロセス(5)−2において、OHラジカルにより二酸化炭素と水に酸化,分離されてしまう。プロセス(5)−1の残基は、プロセス(6)へと進む。
【0052】
【化13】

【0053】
【化14】

【0054】
さて次に、このような上記した化13,化14の反応式の連鎖プロセス(1)〜(6)の次に、下記の化15,化16の反応式の連鎖プロセス(7)〜(18)を辿ることにより、それぞれの残基について順次、OHラジカルによる酸化や付加が行われる。もって、分解が進行すると共に、二酸化炭素や水が途中で派生,生成,遊離されて行く。
これらについて、更に詳述する。まず、前記した化14のプロセス(6)から、化15のプロセス(7),(8),(9)を経由した後、プロセス(10)に至る。
そして、プロセス(10)の右側の残基本体は、化16のプロセス(11)へと進んだ後、そのプロセス(12)において、残基本体が、後で詳述するプロセス(27)以下へと進むことになる。なお、プロセス(12)において生成された−N(=O)は、プロセス(13),(14)を経由してプロセス(15)に至り、硝酸イオン(NO)となる。
これらに対し、プロセス(10)の左側の残基本体は、プロセス(16)へと進んだ後、プロセス(17),(18)に至る。
【0055】
【化15】

【0056】
【化16】

【0057】
更に、このような上記した化15,化16の反応式の連鎖プロセス(7)〜(18)に続いて、下記の化17の反応式の連鎖プロセス(19)〜(24)を辿り、順次それぞれの残基について、更にOHラジカルの酸化や付加により分解が進行し、二酸化炭素や水が途中で派生的に生成,遊離される。
これらについて、更に詳述する。まず、前記した化16のプロセス(18)の右側の残基本体(HO−NHO)は、化17のプロセス(19)−1へと進んだ後、プロセス(19)−2で生成された1/2Oにより、プロセス(19)−3において、硝酸(HNO)となる。
これに対し、前記した化16のプロセス(18)の左側の残基本体(カルボン酸)は、プロセス(20)からプロセス(21)へと進む。そして、プロセス(21)で生成されたホルムアルデヒド(HCHO)は、プロセス(22)に至り、二酸化炭素と水に酸化,分解されてしまう。
他方、プロセス(21)で生成されたフェノール(COH)は、次のプロセス(23)そして(24)へと向かう。
【0058】
【化17】

【0059】
【化18】

【0060】
最後に、前記化17の反応式の連鎖プロセス(19)〜(24)に続いて、上記した化18の反応式の連鎖プロセス(25)〜(32)を辿り、更なるOHラジカルの酸化や付加により、分解が進行する。そして、途中で二酸化炭素や水が派生,生成,遊離されると共に、最終的に残基自体も、すべて二酸化炭素や水に帰すに至る。
これらについて、更に詳述する。まず、先の化17のプロセス(21)で生成されたフェノール(COH)は、前述したようにプロセス(23),(24)を経由した後、化18のプロセス(25)−1で生成された水素ラジカル(H+e)により、プロセス(25)−2において、ホルムアルデヒド(HCHO)を生成した後、プロセス(26)において、二酸化炭素と水に帰すことになる。
又、前述した化16のプロセス(12)の残基本体は、化18のプロセス(27)から、プロセス(28)そして(29)に至る。
それから、プロセス(29)で生成されたO=S−は、プロセス(30)で水と硫酸イオン(SO2−)に帰す。プロセス(29)で生成された−CO−CHは、プロセス(31)で酢酸(CH−COOH)を生成した後、プロセス(32)において、二酸化炭素と水に帰す。
【0061】
例えばこのようにして、βラクタム系抗生物質1の1例であるペニシリンG(PCG)は、化13〜化18の反応式の連鎖プロセス(1)〜(32)を辿ることにより、理論上すべて酸化,分解,無機化されてしまう。
すなわち大部分が、二酸化炭素(CO)と水(HO)に、酸化,分解,無機化されると共に、極く僅かのその他の低分子化合物に、酸化,分解,無機化されてしまう。
ところで、以上説明したところを総括すると(つまり各反応式を合算すると)、次の化19の総括反応式が得られる。
【0062】
【化19】

【0063】
この化19の総括反応式では、1モルのペニシリンGは、理論上、126モルのOHラジカルにより、70モルの水および16モルの二酸化炭素と、9モルの酸素,2モルの硝酸,1モルの硫酸とに、無機化される。
なおOHラジカルは、この例では、反応理論値として126モルを予め準備すれば良いが、実際必要量としては、例えばその数倍程度と多目に準備される。勿論、OHラジカルの生成物質である過酸化水素や2価の鉄イオン等についても、同様である。
実施例1については、以上のとおり
【実施例2】
【0064】
次に、本発明の実施例2について、説明する。
この実施例2では、βラクタム系抗生物質1の代表例であるペニシリンG(PCG,ベンジルペニシリン)について、その酸化,分解過程の他の例を、理論的に検証する。実施例2の例は、前述した実施例1の例に少なからず準じるものの、かなり異なる酸化,分解過程を辿るので、これについて検証しておく。
さて、この実施例2においても、被処理水3中に含有されたペニシリンGは、その酸化,分解過程の不安定な中間生成物の有機構造を含め、下記の化20〜化37に示した連鎖プロセスの式1〜式42の反応式を、辿って行く。
そして順次、OHラジカル(・OH)が関与して、酸化反応や付加反応が進行すると共に、水,二酸化炭素,酸素,その他の低分子化合物が派生,生成,遊離し、もって分解,無機化されてしまう。
【0065】
これらについて、更に詳述する。出発物質であるペニシリンG(その構造式・示性式については前記化12を参照)は、最初に、下記化20〜化24に示した連鎖プロセスの式1〜式5を辿り、順次、OHラジカルによる酸化や付加が行われる。
そして、式5の生成側から以降は、次のa,b,cの各連鎖プロセスへと分かれる。すなわちa.式5生成側の左側残基は、下記化25の式6以下の連鎖プロセスへと進み、b.式5生成側の中央残基は、下記化27の式14以下の連鎖プロセスへと進み、c.式5生成側の右側残基は、下記化29の式21以下の連鎖プロセスへと進む。
そしてまずa.下記化25〜化26の連鎖プロセスの式6〜式13では、順次、OHラジカルによる酸化や付加が行われ、最終的に生成されたホルムアルデヒド(HCHO)が、式13において二酸化炭素と酸素と水とに分解される。
又b.下記化27〜化28の連鎖プロセスの式14〜式20では、順次、OHラジカルによる酸化や付加が行われ、最終的には式20で硝酸(HNO)が生成される。
更にc.下記化29の連鎖プロセスの式21,式22を経由した後、式22で生成されたSOは、下記化30〜化31の連鎖プロセスの式23〜式27へと進み、OHラジカルによる酸化や付加が進行して、最終的には式27で硫酸(HSO)が生成される。これと共に、式22生成側の残基本体は、下記化32〜化37の連鎖プロセスの式28〜式42へと進み、OHラジカルによる酸化や付加が進行して、最終的には式42で硝酸(HNO)が生成される。
なお第1に、勿論、各プロセスの反応式では、それぞれ、水,二酸化炭素,酸素等が派生,生成,遊離して行く。
なお第2に、式12,式20,式27,式42では、それぞれ、まずOHラジカルによる水分子の酸化分解により、発生期の水素原子である水素ラジカル(H+e)が酸素分子と共に生成され(この生成反応は化学式のみにて記載し、構造式は記載せず)、もって、この水素ラジカルにて対象残基(中間生成物)の還元反応が進行する。
なお第3に、各プロセスの反応式の記載に関しては、原則として、それぞれ上段に化学式、下段にその構造式を併記した。
【0066】
【化20】

【0067】
【化21】

【0068】
【化22】

【0069】
【化23】

【0070】
【化24】

【0071】
【化25】

【0072】
【化26】

【0073】
【化27】

【0074】
【化28】

【0075】
【化29】

【0076】
【化30】

【0077】
【化31】

【0078】
【化32】

【0079】
【化33】

【0080】
【化34】

【0081】
【化35】

【0082】
【化36】

【0083】
【化37】

【0084】
【化38】

【0085】
上記化38は、前記化20〜化37に示した連鎖プロセスの式1〜式42の反応式の総括反応式である。
この化38の総括反応式にて示されたように、理論上、1モルのペニシリンGは、137モルのOHラジカルにより、16モルの二酸化炭素と、12モルの酸素と、2モルの硝酸と、1モルの硫酸と、75モルの水とに、酸化,分解,無機化されてしまう。
なおOHラジカルは、反応理論値としては、137モルを準備すれば良いが、実際必要量としては、その数倍程度準備される。OHラジカルの生成物質である過酸化水素や2価の鉄イオン等についても、同様である。
実施例2については、以上のとおり。
【実施例3】
【0086】
次に、本発明の実施例3について、説明する。
すなわち、本発明の処理装置2および処理方法に関し、その実施例3の実験結果について、説明する。
この実験では、ペニシリンGの1例であるベンジルペニシリンカリウム(C1617KNS)を含有した被処理水3(濃度10mg/L)を、まずサンプル1−1(原水)として、常温下で処理槽4に供給した。そして各薬品を、サンプル1−2,1−3,1−4,1−5毎に、添加量を適宜変えつつ所定順序で添加した。
他方、ベンジルペニシリンカリウムの濃度を変えた被処理水3(濃度50mg/L)を、サンプル2−1(原水)として、常温下で処理槽4に供給した。そして各薬品を、サンプル2−2,2−3とで、添加量を変えて所定順序で添加した。
サンプル2−2は、単に過酸化水素のみを添加処理したに過ぎない参考例であり、サンプル1−2,1−3,1−4,1−5,2−3は、本発明のフェントン法で処理した実施例である。
・実験手順については、次のとおり。すなわち、まず被処理水3をフェントン法等にて処理した後に、錯体をPAC添加により凝集,沈殿,除去して固液分離し(後処理槽11に関し前述した所を参照)、もって、得られた濾液状の被処理水3を、実験の分析対象,実験結果の評価対象とした。
・テスト条件については、次のとおり。すなわち、フェントン法のOHラジカルの発生源となる過酸化水素、触媒となる硫酸第一鉄、pH調整用の硫酸やカセイソーダ、凝集用のPAC等々、各薬品の添加量については、次の表1,表2のとおり。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
このような表1,表2のテスト条件のもとで実験した所、下記表3に示した実験結果が得られた。
すなわち、分析対象の被処理水3中に含有されたベンジルペニシリンカリウムの含有量、その他の分析項目を、フェントン処理前のサンプル1−1,2−1(原水)と、サンプル2−2(参考例)と、フェントン処理後のサンプル1−2,1−3,1−4,1−5,2−3(本発明の実施例)とについて、それぞれ計測した結果、次の表3の実験結果が得られた。
なお、各分析項目毎の計測,分析方法については、次のとおり。
・水 温:JIS K0102.12(ガラス製棒状温度計による)
・COD−Mn(100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量)
:JIS K0102.17(100℃における過マンガン酸カリウム滴定法)
(酸素換算)
・COD−Cr(二クロム酸カリウムによる酸素消費量)
:JIS K0102.20(二クロム酸カリウム酸化法)(酸素換算)
・TOC(全有機体炭素)
:JIS K0102.22.1(燃焼酸化−赤外線式TOC分析法)(C換算)
・ベンジルペニシリンカリウム
:高速液体クロマトグラフ質量分析法
・電気伝導率:JIS K0102.13.1(電極法)
【0090】
【表3】

【0091】
この表3に示した実験結果により、次の点がデータ的に確認された。すなわち、本発明のフェントン法で処理したサンプル1−2,1−3,1−4,1−5,2−3の各実施例によると、βラクタム系抗生物質1の代表例であるペニシリンGのベンジルペニシリンカリウムは、OHラジカルにより、二酸化炭素,酸素,水,硝酸等へと酸化,分解,無機化されてしまい、被処理水3中には殆ど存在しなくなったことが、データ的に確認,評価された。
このことは、COD−Mn,COD−Cr,TOC等のデータ値減少や、電気伝導率のデータ値増加等によっても、裏付けられた。
なおベンジルペニシリンカリウムは、前提濃度が10mg/Lであるのに対し、サンプル1−1(原水)では1.5mg/Lと計測され、又、前提濃度が50mg/Lであるのに対し、サンプル2−1(原水)では5.5mg/Lと計測されているが、これは、計測残がイオンとして存在していることに起因する。すなわちベンジルペニシリンカリウムは、水溶液中において電離すると思われ、今回分析方法として採用した高速液体クロマトグラフ質量分析法によると、ベンジルペニシリンカリウムとして存在する質量を計測したところ、上記の値となった。
実施例3については、以上のとおり。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係るβラクタム系抗生物質含有水の処理装置および処理方法について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、その構成フロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含有された抗生物質を、フェントン法に基づき酸化,分解する処理装置であって、
該抗生物質は、ペニシリンその他のβ−ラクタム構造をもつβラクタム系の有機化合物よりなり、該処理装置は、処理槽と、該処理槽に付設された被処理水供給手段,過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段とを、備えており、
該被処理水供給手段は、該処理槽に該抗生物質を含有した該被処理水を供給し、該過酸化水素添加手段は、該処理槽の該被処理水に過酸化水素を添加し、該鉄イオン添加手段は、該処理槽の該被処理水に2価の鉄イオンを添加し、
該pH調整手段は、該被処理水供給手段から該処理槽に供給される該被処理水、および該処理槽に供給された該被処理水にpH調整剤を添加して、該被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載したβラクタム系抗生物質含有水の処理装置において、該過酸化水素添加手段は、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加し、該鉄イオン添加手段は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン溶液を分割添加し、
該pH調整手段は、過酸化水素の添加前には酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後においては鉄イオン溶液の添加毎に、アルカリpH調整剤を添加すること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載したβラクタム系抗生物質含有水の処理装置において、該βラクタム系抗生物質は、ペニシリン系,βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系,セフェム系,βラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系,カルバペネム系,又はモノバクタム系よりなり、
該鉄イオン添加手段は、硫酸第一鉄や塩化第一鉄の水溶液を添加し、該pH調整手段は、例えば硫酸又はカセイソーダを添加し、もって該処理槽内の該被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理装置。
【請求項4】
被処理水に含有された抗生物質を、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する処理方法であって、
該抗生物質は、ペニシリンその他のβ−ラクタム構造をもつβラクタム系の有機化合物よりなり、
該抗生物質を含有した該被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液とpH調整剤とが添加されると共に、過酸化水素は、反応当初に全量添加され、2価の鉄イオン溶液は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して分割添加され、
pH調整剤は、過酸化水素の添加前は酸pH調整剤が添加され、過酸化水素の添加後は2価の鉄イオン溶液の分割添加毎にアルカリpH調整剤が添加され、もって該被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載したβラクタム系抗生物質含有水の処理方法において、全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて分割添加の都度還元されて、OHラジカルが生成され、
もって、該被処理水に含有された該抗生物質が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載したβラクタム系抗生物質含有水の処理方法において、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成され、
もって、該被処理水に含有された該抗生物質が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載したβラクタム系抗生物質含有水の処理方法において、生成されたOHラジカルが、更に該被処理水等の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、連鎖的に繰り返され、
もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、該抗生物質が酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載したβラクタム系抗生物質含有水の処理方法において、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、少なくとも新たなOHラジカルを生成する反応が、連鎖的に繰り返され、
もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、該抗生物質が酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする、βラクタム系抗生物質含有水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−255077(P2009−255077A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79090(P2009−79090)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(507141066)株式会社ニクス (10)
【Fターム(参考)】