説明

γ−アミノ酪酸含有豆乳の製造方法

【課題】 食味を向上させながら、豆乳にγ−アミノ酪酸を付加することができ、微生物の増殖も抑制する新しい技術を提供する。
【解決手段】 原豆乳にイチジクを混合し、一定温度で反応させることにより、γ-アミノ酪酸含量を高め、かつ微生物の増殖抑制を行い、イチジク風味が加えられ、食味の優れている豆乳の製造方法を提供することにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸の含量の高められた食品、特に豆乳を製造するための新規な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(本明細書および図面においてはGABAと記していることがある)は、非蛋白質構成アミノ酸であるが、血圧降下作用や脳代謝促進作用など生体内で重要な作用に寄与することが明らかにされている。近年、このようなγ−アミノ酪酸の作用に注目して、γ−アミノ酪酸を含有する機能性食品の開発が盛んに進められている。
【0003】
現在、提示されているγ−アミノ酪酸含有食品としては、γ−アミノ酪酸を直接添加したり乳酸発酵により含量を高めているものが多い。例えば、特開2000−210075号公報(特許文献1)や、特開2006−25669号公報(特許文献2)には、乳酸菌を利用してγ−アミノ酪酸を生成し食品に付加する技術が示されている。しかしながら、一般的に、乳酸発酵では原料の風味が変化したり、手間や高度な技術が必要である。
【0004】
γ−アミノ酪酸は穀類に含まれていることが知られており、このような穀類に内在する酵素を利用してγ−アミノ酪酸を生成する技術も提案されており、例えば、特開平7−213252号公報(特許文献3)には、米胚芽、胚芽を含む米糠、胚芽米、小麦胚芽などを水に浸漬し、γ−アミノ酪酸を生成する方法が開示されている。また、別途調製した酵素を利用してγ−アミノ酪酸を生成する技術も提案されており、例えば、特開2002−281922号公報(特許文献4)および特開2002−45138号公報(特許文献5)には、大豆等の穀類の破砕物に別途調製された蛋白質分解酵素を作用させてγ−アミノ酪酸を生成する方法が開示されている。
【0005】
豆乳は、各種の栄養素をバランス良く含む食品であり、これにγ−アミノ酪酸が含有されれば、ますます優れた健康食品となるが、食味の点では、青臭みや苦みなどを呈する等の理由から一部の消費者に敬遠されている。しかしながら、上述したような従来の技術を適用しても、食味の向上したγ−アミノ酪酸含有豆乳を得ることはできない。また、γ−アミノ酪酸生成時には、微生物の増殖も見られるが、その抑制技術については、如上の従来技術においては特に検討されていない。
【特許文献1】特開2000−210075号公報
【特許文献2】特開2006−25669号公報
【特許文献3】特開平7−213252号公報
【特許文献4】特開2002−281922号公報
【特許文献5】特開2002−45138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、食味を向上させながら、豆乳にγ−アミノ酪酸を付加することができ、微生物の増殖も抑制する新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、検討を重ねた結果、豆乳の製造工程に工夫を加え、且つ、果実類の1種であるイチジクを混合し、特定の条件下にインキュベーションすることにより、如上の目的が達成されることを見出し、本発明を導き出した。
かくして、本発明は、大豆を水浸漬し磨砕して得られる原豆乳にイチジクを混合してインキュベーションする工程を含むことを特徴とするγ−アミノ酪酸含量を高めた豆乳の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、豆乳にイチジクを加えて静置すると、原料に含まれる酵素の作用で、γ-アミノ酪酸含量が大幅に増加することができる。本発明に従えば、「大豆とイチジク」という新しい組み合わせに基づき、簡単な工程でγ−アミノ酪酸含量を増加させることができる。
また、本発明は、製造工程中のγ−アミノ酪酸生成反応温度を最適にすることにより、生成量を維持したまま微生物の増殖を抑制できることを明らかにした。さらに、本発明によって得られる豆乳は、イチジクの風味が付加され、従来の豆乳に比べ、食味が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、果実類を豆乳に混合することにより、豆乳中のγ−アミノ酪酸含量を大幅に増加させるものであり、従来の技術には見られない新規な手法に基づく。例えば、特許文献5(特開2002−45138号公報)はγ−アミノ酪酸を含有する豆乳等に関するものであるが、磨砕した大豆そのものを蛋白質分解酵素を用いて分解することによるものであり、本発明とは異なる。
【0010】
本発明において、イチジクは、ピューレ(すりつぶしたもの)や果汁(しぼったもの)などの形態で原豆乳に混合しインキュベーション工程に供される。
従来から知られている豆乳の製造法は、大豆を水浸漬することに次いで、蒸煮加熱を行い、その後、粉砕、搾汁する工程から成る。本発明の特徴の一つは、大豆を水浸漬し、粉砕したものを原豆乳とし、これにイチジクを混合してインキュベーションすることにあり、従来のように大豆の水浸漬後の蒸煮加熱を行わない。大豆を水浸漬し蒸煮加熱したものにイチジクを混合、インキュベーションしても本発明におけるような豆乳中のγ−アミノ酪酸含量の増加は達成されない。
【0011】
なお、本発明において、おからの分離は、イチジクを混合する前、およびイチジクを混合する後のいずれでも構わない。すなわち、本発明において原豆乳とは、大豆を水浸漬し磨砕して得られるものであればよく、大豆を水浸漬し磨砕し且つおからを分離したもののみならず、大豆を水浸漬し磨砕したが、おからを未だ分離していないものも包含するものとする。
【0012】
本発明の更なる特徴は、γ−アミノ酪酸の生成を効率的に高め且つ微生物の増殖を抑制するためにイチジクの添加濃度や反応温度(インキュベーションの温度)の好適値を確立したことである。すなわち、イチジクの添加濃度が大きい方がγ−アミノ酪酸の含量は高くなるが、一定濃度を超えるとγ−アミノ酪酸の含量は飽和する。したがって、イチジクの添加濃度は原豆乳に対して20重量%以下でよく、実用的には10重量%程度でよい。また、反応温度に関しては、γ−アミノ酪酸の含量(生成量)に関しては40〜45℃が好ましく、他方、微生物の有意な増殖抑制の点からは45℃以上が好ましい。したがって、実用的には45〜50℃、特に45℃においてインキュベーションを行うことが好ましい。反応時間(インキュベーションの時間)は、一般に、2〜3時間である。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0013】
<果実類の混合が豆乳中のγ−アミノ酪酸含量に及ぼす影響>
大豆を水浸漬、磨砕後、おからを分離し、原豆乳とした。この原豆乳に果実類(果汁)を5%(W/W)混合し、反応温度40℃で3時間静置した。反応スタート時と3時間静置後のγ−アミノ酪酸含量を株式会社日本分光製高速液体クロマトグラフィーで測定した。豆乳中のγ−アミノ酪酸含量は、豆乳100gあたりのmgで表した。
測定した結果を図1に示す。これから明らかなように、イチジクを混合した豆乳が最もγ−アミノ酪酸含量が高かった。
【0014】
【表1】

【実施例2】
【0015】
<イチジク添加濃度が豆乳中のγ−アミノ酪酸含量に及ぼす影響>
大豆を水浸漬、磨砕後、おからを分離し、原豆乳とした。この原豆乳にイチジク(ピューレ)を0〜20%(W/W)混合し、反応温度40℃で3時間静置した。反応スタート時と3時間静置後のγ−アミノ酪酸含量を株式会社日本分光製高速液体クロマトグラフィーで測定した。豆乳中のγ−アミノ酪酸含量は、豆乳100gあたりのmgで表した。
測定した結果を図1に示す。これから明らかなように、イチジクを原豆乳に混合した場合、添加濃度が高くなるほど豆乳中のγ−アミノ酪酸含量は増加した。ただし、添加濃度が10%を超えるとγ−アミノ酪酸含量の増加量はほぼ一定となり、20%で飽和値に達することが認められた。
【実施例3】
【0016】
<反応温度が豆乳中のγ-アミノ酪酸含量に及ぼす影響>
大豆を水浸漬、磨砕後、おからを分離し、原豆乳とした。この原豆乳にイチジク(ピューレ)を10%(W/W)混合し、反応温度30〜50℃で1〜3時間静置した。γ-アミノ酪酸含量を経時的に株式会社日本分光製高速液体クロマトグラフィーで測定した。豆乳中のγ-アミノ酪酸含量は、豆乳100gあたりのmgで表した。
測定した結果を図2に示す。これから明らかなように、反応温度が40〜45℃において、豆乳中のγ-アミノ酪酸含量が最も高かった。
【実施例4】
【0017】
<反応温度別の豆乳中における一般生菌数の変化>
大豆を水浸漬、磨砕後、おからを分離し、原豆乳とした。この原豆乳にイチジク(ピューレ)を10%(W/W)混合し、反応温度30、35、40、45、50℃で4時間静置した。経時的にサンプリングし、一般生菌数を測定した。
測定した結果を表2に示す。これから明らかなように、反応温度が30〜40℃までは、経時的に生菌数が増加するが、45℃以上では生菌数の増殖抑制が認められた。
【0018】
【表2】

【実施例5】
【0019】
<試作豆乳の官能評価>
図3の豆乳製造フローに従って試作したイチジク豆乳の官能評価をパネル11名で行った。評価項目は、青臭み、苦み、総合である。青臭み、苦みは3段階で、総合は4段階で評価した。
評価を表3に示す。これから明らかなように、イチジク豆乳は、原豆乳、豆乳と比べ、青臭み、総合評価で優れていた。
【0020】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】イチジク添加濃度が豆乳中のγ−アミノ酪酸含量に及ぼす影響を示す。
【図2】インキュベーション温度が豆乳中のγ−アミノ酪酸含量に及ぼす影響を示す。
【図3】本発明に従いイチジク添加する豆乳の製造フローと、イチジクを添加しない豆乳製造フローを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆を水浸漬し磨砕して得られる原豆乳にイチジクを混合してインキュベーションする工程を含むことを特徴とするγ−アミノ酪酸含量を高めた豆乳の製造方法。
【請求項2】
45〜50℃でインキュベーションを行うことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
原豆乳に対して、20重量%までのイチジクを混合することを特徴とする請求項1または請求項2の方法。
【請求項4】
原豆乳に対して10重量%のイチジクを混合し、45℃においてインキュベーションを行うことを特徴とする請求項3の方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかの方法で製造されイチジク風味が加えられていることを特徴とする豆乳。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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