説明

γ線被曝に対する放射線防護および治療の方法

放射線防護剤、ならびに放射線被曝から生じる細胞損傷および細胞死を減少させるための使用方法が開示される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月15日に出願された先に出願の米国特許仮出願第60/865,871号の優先権の恩典を主張する。
【0002】
政府権利の声明
本研究は、米国公衆衛生局助成金番号HL61469によって一部支援された。従って、米国政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
発明の分野
本発明は、概して放射線防護剤、より具体的にはLPA2受容体のエフェクターとして作用する組成物および放射線防護剤としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
腸粘膜の幹細胞は、哺乳動物の身体において最も放射線に弱い細胞タイプの1つを示す。テロ行為によって、職場被曝によって、または原発事故の結果としてにかかわらず、放射線被曝の脅威は、公衆衛生上の深刻な問題である。著しい放射線被曝には、3つの主要な症候群が付随する:(1)造血症候群は、骨髄の破壊の結果であり、感染および出血を生じさせる;(2)胃腸症候群は、胃腸管および骨髄における破壊的変化の結果であり、感染、脱水および電解質平衡異常を生じさせ、通常2週間以内に死亡する;ならびに(3)心血管/中枢神経系症候群は、循環系の崩壊の結果であり、脳内の液体および圧力を増加させ、脈管炎、ならびに髄膜炎を生じさせる。心血管/中枢神経系症候群による死亡は、通常、3日以内に起こる。特定のフリーラジカル消去剤は、中枢神経系症候群を改善し得る。骨髄移植は、造血症候群を治療し得るが、多数の個体が被曝した場合、被曝した複数の個体に骨髄移植を提供することは明らかに困難である。胃腸症候群、および腸幹細胞の放射線誘導アポトーシスに起因する引き続いての腸管バリアの破壊を効果的に治療することは、さらにより困難であることがわかっている。
【0005】
リゾホスファチジン酸(1-ラジル(radyl)-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスフェート、LPA)は、一連のGタンパク質共役受容体(GPCR)によって誘発される抗アポトーシス作用を有する増殖因子様脂質メディエータである。少なくとも5つのLPA GPCR(LPA1、LPA2、LPA3、LPA4、およびLPA5)が、これまで同定されている(Ishii I, et al. Lysophospholipid receptors: signaling and biology. Annu Rev Biochem 2004;73:321-54(非特許文献1))。マウスの腸は、LPA1およびLPA2受容体サブタイプを発現し(Li C, et al. Lysophosphatidic acid inhibits cholera toxin-induced secretory diarrhea through CFTR-dependent protein interactions. J Exp Med 2005;202:975-86(非特許文献2);Yun CC, et al. LPA2 receptor mediates mitogenic signals in human colon cancer cells. Am J Physiol Cell Physiol 2005;289:C2-11(非特許文献3))、LPA2受容体は、腸細胞の頂端膜側へ標的化される(Li C, et al. Lysophosphatidic acid inhibits cholera toxin-induced secretory diarrhea through CFTR-dependent protein interactions. J Exp Med 2005;202:975-86(非特許文献4))。
【0006】
高レベルのリン脂質が、炎症性腸疾患を有する患者の結腸粘膜中において検出され、LPAは、結腸炎のラットモデルにおいて壊死および炎症の程度を顕著に減少させる(Sano T, et al. Multiple mechanisms linked to platelet activation result in lysophosphatidic acid and sphingosine 1-phosphate generation in blood. J Biol Chem 2002;277:21197-206(非特許文献5))。LPAは、百日咳毒素(PTX)感受性機序による腸上皮の回復を刺激することが示された(Hines OJ, et al. Lysophosphatidic acid stimulates intestinal restitution via cytoskeletal activation and remodeling. J Surg Res 2000;92:23-8(非特許文献6))。LPA2受容体は、CFTR Cl-チャネルの活性化を阻害するPDZドメイン媒介タンパク質−タンパク質相互作用によって細菌毒素誘導分泌性下痢を減弱させる重要な役割を果たす(Li C, et al. Lysophosphatidic acid inhibits cholera toxin-induced secretory diarrhea through CFTR-dependent protein interactions. J Exp Med 2005;202:975-86(非特許文献7))。
【0007】
リゾホスファチジン酸(LPA)は、腸上皮に対する強力な抗アポトーシス剤である(Gastroenterology, 123:206-216(非特許文献8))。腸上皮におけるアポトーシスは、化学療法または放射線により誘発される胃腸損傷を引き起こす主要な病理学的因子である(Potten CS. Radiation, the ideal cytotoxic agent for studying the cell biology of tissues such as the small intestine. Radiat Res 2004; 161: 123- 36(非特許文献9);Hall PA, et al. Regulation of cell number in the mammalian gastrointestinal tract: the importance of apoptosis. J Cell Sci 1994; 107(Pt 12):3569-77(非特許文献10);Pritchard DM, Watson AJ. Apoptosis and gastrointestinal pharmacology. Pharmacol Ther 1996;72: 149-69(非特許文献11))。しかし、外因性LPAは、胃腸管において急速に代謝される。リン脂質を含む複合脂質は、原形質膜を通過する非極性中間体に分解されるので、LPAの作用は、ホスホリパーゼおよびリパーゼ媒介脱アシル化または(脂質)ホスファターゼ−媒介脱リン酸化によって終了される。これは、これらの酵素反応の産物は、LPA受容体をもはや活性化することができないためである。この機序は急速にLPAを不活性にする一方、それはまた、上皮の管腔表面上に存在する受容体に対するLPAの効果を制限し、γ線に被曝したヒトまたは動物における有効な放射線防護剤としての使用についてLPAを見込みのない候補にする。
【0008】
細胞および組織に対する放射線損傷ならびに潜在的に放射線宿酔および死を生じさせ得る顕著な量の放射線に個体が被曝し得る多数の方法が存在する。有効な放射線防護剤を見出すことは、公衆衛生上の重要な問題であり、例えば、放射線療法を受ける人、顕著なレベルの放射性化合物のもとで働く人、核エネルギーの分野で働く人、または放射線テロによる環境中への放射能の放出の標的となり得る人の利益となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ishii I, et al. Lysophospholipid receptors: signaling and biology. Annu Rev Biochem 2004;73:321-54
【非特許文献2】Li C, et al. Lysophosphatidic acid inhibits cholera toxin-induced secretory diarrhea through CFTR-dependent protein interactions. J Exp Med 2005;202:975-86
【非特許文献3】Yun CC, et al. LPA2 receptor mediates mitogenic signals in human colon cancer cells. Am J Physiol Cell Physiol 2005;289:C2-11
【非特許文献4】Li C, et al. Lysophosphatidic acid inhibits cholera toxin-induced secretory diarrhea through CFTR-dependent protein interactions. J Exp Med 2005;202:975-86
【非特許文献5】Sano T, et al. Multiple mechanisms linked to platelet activation result in lysophosphatidic acid and sphingosine 1-phosphate generation in blood. J Biol Chem 2002;277:21197-206
【非特許文献6】Hines OJ, et al. Lysophosphatidic acid stimulates intestinal restitution via cytoskeletal activation and remodeling. J Surg Res 2000;92:23-8
【非特許文献7】Li C, et al. Lysophosphatidic acid inhibits cholera toxin-induced secretory diarrhea through CFTR-dependent protein interactions. J Exp Med 2005;202:975-86
【非特許文献8】Gastroenterology, 123:206-216
【非特許文献9】Potten CS. Radiation, the ideal cytotoxic agent for studying the cell biology of tissues such as the small intestine. Radiat Res 2004; 161: 123- 36
【非特許文献10】Hall PA, et al. Regulation of cell number in the mammalian gastrointestinal tract: the importance of apoptosis. J Cell Sci 1994; 107(Pt 12):3569-77
【非特許文献11】Pritchard DM, Watson AJ. Apoptosis and gastrointestinal pharmacology. Pharmacol Ther 1996;72: 149-69
【発明の概要】
【0010】
本発明は、放射線被曝後の胃腸系の細胞に対する損傷を減少させかつ該細胞の生存を増加させるための方法における使用のための組成物に関し、該方法は、放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の式(I)を投与する工程を含む:

式中、
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、(HO)2PS-Z1-もしくは(HO)2PO-Z2-P(OH)S-Z1-であるか、X1およびX2は、-O-PS(OH)-O-として一緒に連結されるか、またはX1およびX3は、-O-PS(OH)-NH-として一緒に連結され;
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、R1-Y1-A-であり、ここで、X1、X2、およびX3の2つがR1-Y1-A-である場合に各々は同一もしくは異なるか、またはX2およびX3は、-N(H)-C(O)-N(R1)-として一緒に連結され;
任意で、X1、X2、およびX3の1つは、Hであり;
Aは、直接結合、kが0〜30の整数である(CH2)k、またはOであり;
Y1は、lが1〜30の整数である-(CH2)l-、-O-、-S-、

または-NR2-であり;
Z1は、mが1〜50の整数である-(CH2)m-、-CF2-、-CF2(CH2)m-、もしくは-O(CH2)m-、-C(R3)H-、-NH-、-O-、または-S-であり;
Z2は、nが1〜50の整数である-(CH2)n-もしくは-O(CH2)n-、または-O-であり;
Q1およびQ2は、独立して、H2、=NR4、=O、またはHと-NR5R6との組み合わせであり;
R1は、X1、X2、またはX3の各々について、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである。
【0011】
ある態様において、式(I)の組成物は、
X1が、R1-Y1-A-であり;
X2が、-Z1-P(S)(OH)2であり;
X3が、水素であり;
Aが、直接結合、またはlが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Y1が、lが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Z1が、酸素であり;
Q1およびQ2が、独立して、H、=NR4、=O、または-NR5R6からなる群より選択され;
R1が、独立して、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、(任意で置換された)芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8が、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである
化合物を含み得る。
【0012】
放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の式(I)の化合物を投与する工程は、細胞損傷の予防のため、細胞生存を増加させるため、および、例えば小腸、大腸、または両方の細胞を含む胃腸系への放射線被曝に起因する放射線宿酔を治療するために、経口投与によって行われ得る。
【0013】
本発明はまた、放射線被曝の前または後の造血系の細胞に対する損傷を減少させかつ該細胞の生存を増加させるための上述の式(I)の組成物の使用方法を提供し、該方法は、放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の式(I)の化合物を投与する工程を含む。
【0014】
造血症候群に起因する細胞損傷、細胞死、および/または放射線宿酔の予防のために、放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の式(I)の化合物を投与する工程は、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、または他の類似の手段によって行われ得、自己投与が必要である場合には注射による皮下投与または筋肉内投与によってより容易に行われ得る。
【0015】
式(I)の組成物の使用によって細胞損傷を減少させかつ細胞生存を増加させる方法と共に、本発明はまた、放射線宿酔を予防または治療するためのキットであって、経口投与可能な形態、ならびに、皮下、筋肉内、静脈内、および腹腔内投与からなる群より選択される形態で、治療有効量の式(I)の化合物を含む、キットを提供する。1態様において、このようなキットは、放射線宿酔の胃腸症候群および造血症候群の治療用のチオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステルの経口投与可能な形態およびチオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステルの注射可能な形態を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】LPAおよびOTPの化学構造(パネルA)。LPA受容体のリガンド結合ポケット中へドッキングされたOTPの分子モデル(パネルB)。個々のEDGファミリーLPA受容体を安定して発現するRH7777細胞中においてOTPおよびLPAによって誘発されたCa2+過渡電流(transient)(パネルC)。野生型RH7777細胞は、LPAに応答してのCa2+過渡電流を、10μMの濃度まで示さない。
【図2】IEC-6細胞中におけるLPAおよびOTPによる生存促進シグナル伝達経路の活性化。IEC-6細胞を、百日咳毒素(PTX、50 ng/ml)で一晩、PD98059(20μM)で1時間、またはLY294002(10μM)で30分間、前処理し、続いて、10□M OTPまたはLPAを添加した。ERK1/2(パネルA)、P38 MAPK(パネルB)、およびPKB/AKT(パネルC)の活性化を、10μM OTPまたはLPAでの処理の5分後、ウエスタンブロットによって評価した。合計20μgの溶解物タンパク質を各レーンにロードした。(パネルD)IEC-6細胞を、OTPまたはLPA処理(10μM)の15分後、25 Gyのγ線照射に曝露した。DNAフラグメント化を照射の18時間後に評価した。照射のみと比較した場合*p<0.05。照射のみと比較した場合**p<0.01。示されるデータは、少なくとも3つの実験の平均値±SDである。
【図3】OTPは、LPA2トランスフェクタントをTNF-α誘導アポトーシスから選択的に保護する。RH7777細胞に空pCDNA3.1ベクターまたはLPA1、LPA2、もしくはLPA3をトランスフェクトし、10μM OTPまたはLPAと共に15分間プレインキュベートし、続いてTNF-α(20 ng/ml)およびCHX(10μg/ml)に曝露し、アポトーシスを誘導した(パネルA)。LPAは3つ全てのトランスフェクタントにおいてTNF-αCHX-誘導DNAフラグメント化を低下させたが、OTPはLPA2細胞においてのみ有効であった。リガンドは両方とも、これら同一の細胞株においてCa2+過渡電流を誘発した(図1C参照)。LPA1およびLPA2トランスフェクタント(パネルB)を、百日咳毒素(PTX、50 ng/ml)で一晩、MEK阻害剤PD98059(20μM)で1時間、またはPI3K阻害剤LY294002(10μM)で30分間、前処理し、続いて15分間、10μM OTPまたはLPAを添加し、TNF-α(20 ng/ml)およびCHX(10μg/ml)を与えた。DNAフラグメント化を、TNF-αCHX添加の6時間後に評価した。DNAフラグメント化の減少は、LPA2細胞においてPTXに対して部分的に感受性であり、LPA1細胞において無効にされた。TNF-αCHXのみと比べた場合、*p<0.05、**p<0.001。示されるデータは、3つの実験の平均値±SDを示す。
【図4】OTPは、γ線照射後のマウスの小腸上皮においてアポトーシスを阻害する。野生型C57BL6マウス(黒色バー)およびLPA1 KOマウス(灰色バー)またはLPA2 KOマウス(白色バー)に、それらを15 Gyのγ線全身照射に供する2時間前に、経口的にビヒクル(100μl 200μM BSA対照)、LPA(200μM)またはOTP(200μM)を与えた。動物を照射の4時間後に屠殺し、H&E染色によって小腸におけるアポトーシスを評価した。(パネルA)1陰窩−絨毛単位当たりのアポトーシス細胞の平均数。LPAおよびOTPは両方とも、ビヒクル処理された動物群と比較して、アポトーシス小体の数の統計的に有意な減少を生じさせた(p<0.01)。さらに、OTPは、LPAよりも有意により有効であった(*p<0.05)。アポトーシス小体の数は、野生型またはLPA1マウスと比較して、LPA2 KOマウスにおいて有意により高かった(*p<0.01)。(パネルB)アポトーシス細胞指数(所定の細胞位置でのアポトーシス細胞のパーセンテージ)と陰窩−絨毛軸に沿ってのアポトーシス細胞の位置との相関関係。グラフにおいて、1〜2の細胞は、パネート細胞である。各群においてn=6匹の動物、および最低100個の陰窩−絨毛単位を、各群においてスコアリングした。
【図5】OTPおよびLPAは、インビボにおいて、カスパーゼ3活性化を低下させ、生存促進経路を活性化させた。C57/BL6マウスを、2 mg/kg LPAまたはOTPで2時間、前処理し、15 Gyの放射線被曝に供した。マウスを照射の4時間後に屠殺した。(パネルA)活性カスパーゼ3免疫反応性細胞の定量。放射線処理しLPAまたはOTPのいずれかで前処理した動物由来のパラフィン包埋空腸切片を、方法の項において記載するように、間接免疫蛍光法を使用して、ウサギポリクローナル活性カスパーゼ3抗体およびフルオレセイン標識二次抗体で染色し、切片をDAPIで対比染色した。活性カスパーゼ3免疫反応性細胞を、群中4匹の動物の群において最低100個の陰窩−絨毛単位においてカウントした。薬剤は両方とも、ビヒクル処理した対照と比較した場合、活性化カスパーゼ3陽性細胞の数を有意に低下させた(p<0.05)。(パネルB)カスパーゼ3活性を、パネルAにおける活性化カスパーゼ3免疫染色においてその空腸セグメントを使用した同一の動物から作製した上皮細胞溶解物において測定した。LPAおよびOTPは両方とも、組織溶解物においてカスパーゼ3活性を有意に低下させた:活性カスパーゼ3細胞の数の低下と一致した知見である。(パネルC〜D)示される時間についてのビヒクル、2 mg/kg LPA、またはOTPで経口的に処理したマウス由来の空腸組織をホモジナイズし、溶解物を、抗-ホスホ-ERK1/2(C)または抗-ホスホ-AKT抗体(7D)および同等のローディングをモニタリングするためのキナーゼの非リン酸化形態に対する好適な抗体を用いてのウエスタンブロット法を使用して、分析した。両方のキナーゼの活性化が、LPAと比較してOTPに対してより強くかつより長く持続したことに注意のこと。
【図6】ビヒクル(200μM BSA)、LPAおよびOTPで前処理した(各々2 mg/kg)、照射したC57/BL6マウスの小腸切片における、抗アポトーシス性Bcl-XLタンパク質の免疫組織化学的限局化。ビヒクル処理したマウスの切片(A)は、LPA(B)またはOTP(C)で処理したマウスから得た切片と比較して、より少ないBcl-XL発現を示した。較正バーは200μmである。示されているパターンは、1処理当たりマウス4匹である対応する群における全てのマウスから得られた切片を代表する。
【図7】クローン原性再生アッセイは、照射後のOTPおよびLPA処理マウスにおける腸陰窩生存の増加を明らかにする。(パネルA)野生型C57/BL6マウスに、15 Gyのγ線全身照射に供する2時間前に、経口的にビヒクル(BSA 200μM)、LPAまたはOTP(0〜2 mg/kg)のいずれかを与えた。(パネルB)野生型C57/BL6マウス(黒色バー)およびLPA1 KOマウス(灰色バー)またはLPA2 KOマウス(白色バー)に、15 Gyのγ線照射の2時間前に、2 mg/kgのビヒクル、LPA、またはOTPを経口的に与え、動物を照射の4日後に屠殺した。陰窩生存を、BrdU免疫染色と組み合わせたH&E染色によって評価した。動物の数は、各群においてn=6であった。データを、1横断面当たりの生存する陰窩の平均値±SDとして表す。スチューデントt検定に基づく有意性のレベルは、指定の群の間で*p<0.05、または**p<0.01であり、照射のみと比較して、野生型マウスにおける平均陰窩生存とLPA1およびLPA2 KOマウスにおける平均陰窩生存との間で#p<0.01であった。
【図8】放射線誘導急性造血症候群を改善することにおけるオレイルチオホスフェート(OTP)の効果を示すグラフ。左パネル:OTPは、示されるように、末梢WBCカウントを増加させる。右パネル:OTPは、示されるように、末梢血小板カウントを増加させる。マウスを対照群およびOTP処理群へランダムに分け、次いで6 Gyの全身照射の単回線量に供した。単回用量のOTP(2.5 mg/kg)またはビヒクルを、放射線被曝の6時間後、皮下注射によって投与した。放射線被曝後の6日目、12日目および18日に、末梢血を回収した。全ての白血球(WBC)および血小板(PLT)を、Z1セルコールター(Beckman, FL)を使用してカウントした。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
本発明者らは、放射線被曝前に投与された場合に胃腸の放射線防護剤として使用される新規組成物の発見を以前報告した。今回、本発明者らは、放射線被曝後に投与された場合の胃腸の放射線防護剤としての前記組成物の使用が、放射線被曝の数時間後に提供されても有効であることが本発明者らによって示されたこと、および、放射線被曝の前または数時間後に投与された場合の、放射線被曝と関連する造血症候群を予防または治療するための放射線防護剤としての前記組成物の使用を報告する。
【0018】
本発明によって、γ線に被曝するヒトおよび動物を保護および治療するための放射線防護剤キットもまた提供され、該キットは、胃腸系の細胞の保護および治療のための経口投与用の形態の式(I)の化合物と、造血系の細胞の保護および治療のための皮下または静脈内投与用の式(I)の化合物との組み合わせを含む。皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、または他の投与手段が、造血系の保護および治療のための前記組成物の使用に含まれ得、腹腔内および他の投与手段が、胃腸系の細胞および組織を保護するための前記組成物の使用に含まれ得、皮下、静脈内、腹腔内、または胃腸系外での前記組成物の分布を達成する他の投与手段がまた、心血管および中枢神経系の保護のための前記組成物の使用に含まれ得る。錠剤、カプセル剤、ゲルキャップ、シロップ剤、液体、および他の経口投与可能な製剤が、式(I)の化合物の経口投与について提供され得、一方、注射器、単回注射デバイス、および他の注射手段が、式(I)の化合物の皮下投与について提供され得る。本発明の1態様において、例えば、前記化合物チオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステル(オレイルチオホスフェート;OTP)を含む、経口投与可能な錠剤、カプセル剤、または投与が容易な他の製剤が、OTPの皮下注射可能な形態、例えば、OTPの1つまたは複数のバイアルと少なくとも1つの注射器との組み合わせ、または、OTPと注射デバイスとの1つまたは複数の自動注射可能な単一ユニット組み合わせを備えたキットの、ボトル、バイアル、ブリスターパック、または他の容器中に提供され得る。
【0019】
経口投与可能なOTPはまた、別個に提供され得、一方、キットは、例えば、OTPのバイアルおよび注射器、OTPと注射デバイスとの自動注射可能な単一ユニット組み合わせ、または、OTPとOTPの皮下もしくは筋肉内注射のための手段との他の組み合わせなどの形態で、皮下注射可能なOTPの製剤を含み得る。式(I)の化合物の有用な投薬量は、本明細書において与えられる情報を使用し、それらのインビトロ活性、および動物モデルにおけるインビボ活性を比較することによって決定され得る。マウスおよび他の動物における有効な投薬量からヒトにおける投薬量を推定するための方法は、当業者に公知である。該組成物の製剤は、単回用量形態で、または好適な間隔での投与のための分割用量として、例えば1日当たり2回、3回、4回もしくはそれ以上の副用量として、与えられ得る。
【0020】
下記式(I)の化合物は、以前、本発明者らによって、LPA受容体アゴニストおよびアンタゴニストとして有効であることが示された。これらの化合物の中に、γ線への被曝に関連するアポトーシス、細胞破壊、および組織破壊を減少させることにおける有効性を示すLPA2受容体アゴニストがある。

式中、
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、(HO)2PS-Z1-もしくは(HO)2PO-Z2-P(OH)S-Z1-であるか、X1およびX2は、-O-PS(OH)-O-として一緒に連結されるか、またはX1およびX3は、-O-PS(OH)-NH-として一緒に連結され;
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、R1-Y1-A-であり、ここで、X1、X2、およびX3の2つがR1-Y1-A-である場合に各々は同一もしくは異なるか、またはX2およびX3は、-N(H)-C(O)-N(R1)-として一緒に連結され;
任意で、X1、X2、およびX3の1つは、Hであり;
Aは、直接結合、kが0〜30の整数である(CH2)k、またはOであり;
Y1は、lが1〜30の整数である-(CH2)l-、-O-、-S-、

または-NR2-であり;
Z1は、mが1〜50の整数である-(CH2)m-、-CF2-、-CF2(CH2)m-、もしくは-O(CH2)m-、-C(R3)H-、-NH-、-O-、または-S-であり;
Z2は、nが1〜50の整数である-(CH2)n-もしくは-O(CH2)n-、または-O-であり;
Q1およびQ2は、独立して、H2、=NR4、=O、またはHおよび-NR5R6の組み合わせであり;
R1は、X1、X2、またはX3の各々について、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである。
【0021】
1つの特に有効な組成物、チオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステル(オレイルチオホスフェート;OTP)は、式(I)のある種類の組成物のうちの1つであり、式中、
X1は、R1-Y1-A-であり;
X2は、-Z1-P(S)(OH)2であり;
X3は、水素であり;
Aは、直接結合、またはlが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Y1は、lが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Z1は、酸素であり;
Q1およびQ2は、独立して、H、=NR4、=O、または-NR5R6からなる群より選択され;
R1は、独立して、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、(任意で置換された)芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである。
【0022】
本発明者らは、以前、LPAが放射線防護効果を示すことを実証し、最近になって、それらの化合物であるチオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステル(オレイルチオホスフェート;OTP)

が、LPAよりも放射線防護剤として顕著により有効であることを見出した。LPAは、ヒドロキシル基、リン酸基、および脂肪酸または脂肪アルコール鎖を有する、グリセロール骨格からなる。本発明者らによって行われたモデリング研究は、負に帯電した頭部基および脂肪尾部について絶対的必須条件を同定する一方で、グリセロール骨格はリガンド結合および受容体活性化に必要ではないことも明らかにした。従って、本発明者らは、LPAアナログ−LPAによって示される効果と同様の、LPA受容体に対してアゴニストまたはアンタゴニスト効果を有する化合物−の開発を開始し、γ線への著しい被曝の前または後に投与されると放射線防護効果を提供し得る化合物であるOTPを見出した。OTPは、本発明者らの実験で、胃腸系において細胞損傷を減少させかつ細胞生存を増加させることにおいて効果を示し、一方、LPAは、胃腸系において急速に代謝される。経口投与されたOTPのうちごく少量しか血流中に入らないため、LPA2受容体がOTPの放射線防護効果の標的であるという発見は、本発明者らおよび他者が、OTPの放射線防護効果を有するが、放射線被曝によって引き起こされる胃腸症候群だけでなく、造血症候群および心血管/中枢神経系症候群をも治療するために経口投与され得る薬剤をさらに開発することを可能にする。放射線事故または放射線テロを含む事件が起こった場合、経口投与される放射線防護剤化合物は、多数の人および動物の生命を救うことにおいて特に有利である。
【0023】
放射線被曝後に使用するための経口投与される放射線防護剤化合物はまた、食品または栄養補助食品で提供され得、これらは、動物、特に、飼い主が放射線防護剤組成物を投与し得るペットおよび家畜の保護および治療について特別な利益を有し得る。
【0024】
本発明者らは、OTPが、インビトロおよびインビボの両方において小腸上皮細胞をアポトーシスから保護し、かつ、LPAと比較して、カスパーゼ3活性化およびDNAフラグメント化を減少させることにおいて顕著により強力であったことを実証した。LPA誘発保護とは異なり、OTP誘発保護は、PTXに対して部分的に感受性であった。DNAフラグメント化およびカスパーゼ3活性化のOTP誘導減少は、MEK-ERK1/2およびPI3K-AKTを必要とした。LPAは、RH7777細胞中へ挿入された3つのEDGファミリーLPA受容体のいずれを介しても腫瘍壊死因子-αおよびシクロヘキシミド(TNF-α/CHX)誘導DNAフラグメント化を防いだが、OTPは、LPA2を発現する細胞のみを保護した。放射線被曝後、LPA2ノックアウトマウスの陰窩の幹細胞領域におけるアポトーシスの割合は、野生型マウスのそれと比較した場合、顕著により高く、陰窩生存は顕著により低かった。LPAおよびOTPは両方とも、アポトーシスおよびカスパーゼ3活性化を減少させ、陰窩生存を増加させ;しかし、両方とも、LPA2ノックアウトマウスにおいては、アポトーシスを減少させることおよび陰窩生存を増加させることにおいて効果がなかった。
【0025】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明され得る。
【0026】
実施例
材料および方法
試薬
LPA(オレオイル)をAvanti Polar Lipids(Alabaster, AL)から購入した。LPAおよびOTP(Durgam GG, et al. Synthesis, structure-activity relationships, and biological evaluation of fatty alcohol phosphates as lysophosphatidic acid receptor ligands, activators of PPARgamma, and inhibitors of autotaxin. J Med Chem 2005; 48: 4919-30に記載されるように合成)を、Virag T, et al.(Fatty Alcohol Phosphates are Subtype-Selective Agonists and Antagonists of LPA Receptors. Mol Pharmacol 2003; 63: 1032-1042)に以前記載されたように、脂肪酸を含まないBSA(Sigma, St. Louis, MO)と複合された細胞に適用した。カンプトテシンおよびシクロヘキシミド(CHX)をSigmaから購入した。組換えラットTNF-αをBD Pharmingen(San Diego, CA)から購入した。PD98059およびPD158780をCalbiochem(San Diego, CA)から購入した。百日咳毒素(PTX)、AG1296、AG1487、N-アセチル-Asp-Glu-His-Asp-p-ニトロアニリド(Ac-DEVD-pNA)およびN-アセチル-Leu-Glu-His-Asp-p-ニトロアニリド(Ac-LEHD-pNA)比色分析カスパーゼ基質を、Biomol Laboratories Inc.(Plymouth Meeting, PA)から購入した。以下の抗体および供給源を使用した:ウサギ抗-カスパーゼ3(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)、ウサギ抗-活性カスパーゼ3(Abcam, Inc., Cambridge, MA)、マウスモノクローナル抗-JNK1(BD Pharmingen)、およびマウスモノクローナル抗-ホスホ(Thr183/Tyr185)-JNK;ウサギ抗-ERK1/2およびウサギ抗-ホスホ-(Tyr202/Tyr204) ERK1/2、ウサギ抗-AKT、およびウサギ抗-phospho-(Ser473)-AKT、ウサギ抗-Bcl-2、モノクローナルマウス抗-Bcl-XI(Cell Signaling, Inc., Beverly, MA)、モノクローナルマウス抗-ホスホ-(Thr180/Tyr182)-P38(Promega, Madison, WI)、およびマウスモノクローナル抗-アクチン(Calbiochem)。ウエスタンブロット法に使用される西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗-ウサギおよび抗-マウス二次抗体は、Sigmaから購入した。FITC標識ヤギ抗-ウサギIgGをMolecular Probe(Eugene, OR)から購入した。正常ヤギ血清およびVECTASHIELD(登録商標)Mounting Medium with DAPIは、Vector Laboratories, Inc.(Burlingame, CA)から購入した。
【0027】
コンピュータモデリング
LPA1、LPA2、およびLPA3のコンピュータモデルを開発するために使用した詳細な方法は、以前に公開されている(Wang D, et al. A Single Amino Acid Determines Ligand Specificity of the S1P1 (EDG1) and LPA1 (EDG2) Phospholipid Growth Factor Receptors. J. Biol. Chem. 2001;276: 49213-49220; Sardar VM, et al. Molecular basis for lysophosphatidic acid receptor antagonist selectivity. Biochim Biophys Acta 2002; 1582: 309-17;Fujiwara Y, et al. Identification of residues responsible for ligand recognition and regioisomeric selectivity of LPA receptors expressed in mammalian cells. J Biol Chem 2005; 280: 35038-50)。簡潔には、本発明者らが確認したS1P1受容体モデル(Parrill AL, et al. Identification of Edg1 receptor residues that recognize sphingosine 1-phosphate. J Biol Chem 2000; 275:39379-84;Wang D, et al. A Single Amino Acid Determines Ligand Specificity of the S1P1 (EDG1) and LPA1 (EDG2) Phospholipid Growth Factor Receptors. J. Biol. Chem. 2001; 276: 49213-49220;Inagaki Y, et al. Sphingosine 1-phosphate analogue recognition and selectivity at S1P4 within the endothelial differentiation gene family of receptors. Biochem J 2005; 389: 187-95)を、LPA受容体モデルを作製するためのテンプレートとして使用した。ホモロジーモデル開発を、MOEソフトウエアプログラムにおいて実行される自動アルゴリズムを使用して行った(MOE. (2002) 03 ed. Montreal: Chemical Computing Group)。最善のモデルを、0.1 kcal/mol・Åの二乗平均平方根勾配に対してMMFF94(Halgren TA. Merck Molecular Force Field. I. Basis, Form, Scope, Parameterization, and Performance of MMFF94*. J. Comp. Chem. 1996; 17: 490-519)力場を使用して形状最適化した。個々の受容体モデルを、-2の総電荷を有するOTPを用いてドッキング研究において使用した。ドッキング計算を、Autodock 3.0ソフトウエア(Morris GM, et al. Automated Docking Using a Lamarckian Genetic Algorithm and an Empirical Binding Free Energy Function. J. Comput. Chem. 1998; 19: 1639-1662)を使用し、実行回数(10)、エネルギー評価(9.0 x 1010)、ジェネレーション(60,000)、およびローカルサーチイテレーション(3000)以外は全てのパラメータについてデフォルト値を用いて行った。各ドッキング計算から最善の形状として選択された複合体は、最も低い最終ドッキングエネルギー値を有するものであった。結果は、BallesterosおよびWeinstein(Ballesteros JA, Weinstein H. Chapter 19. In: Conn PM, Sealfon SC, eds. Methods in Neurosciences. Volume 25. San Diego: Academic Press, 1995: 366-428)によって記載されるように、Gタンパク質共役受容体における相同な位置間での比較を促進するナンバリングシステムを使用して記載される。このシステムにおいて、膜貫通ドメインにおける各アミノ酸は、フォーマットX.YYでの数を与えられ、ここで、Xは、そのアミノ酸が見られるヘリックスの数を示し、YYは、参照位置50でのそのヘリックスにおいて最も保存されたアミノ酸に関する位置を示す。
【0028】
OTPの放射標識
トリチウム化OTPを本発明者らの研究室において合成した。簡潔には、オレイルアルコールのピリジニウムクロロクロマート媒介酸化によって、オレイルアルデヒドを得、これをNaB3H4での還元に供し、トリチウム化オレイルアルコールを形成した。アルコール3を、以前報告されたようにリン酸化し(Durgam GG, et al. Synthesis, structure-activity relationships, and biological evaluation of fatty alcohol phosphates as lysophosphatidic acid receptor ligands, activators of PPARgamma, and inhibitors of autotaxin. J Med Chem 2005;48:4919-30)、保護されたオレイルチオホスフェートエステルを得た。メタノール性KOHでオレイルチオホスフェートエステルを処理し、続いて酸性化し、[3H]-OTPを得た。生成物の比放射能は10.8 mCi/mmolであった。
【0029】
腸からのOTP吸収の測定
OTPの経口吸収を測定するために、雌性8〜10週齢C57BL/6マウス(平均体重20 g)を使用した。マウスを12時間:12時間明暗サイクルに維持し、標準的な実験マウス用餌および水を不断給餌した。意識のあるマウスに、1.5 mg/kg OTPを、106 dpm OTPを含むPBS中1 mM BSAで経口強制飼養を介して投与した。4匹のマウスの群を、30分、90分、および180分後に屠殺し、0.2% EDTA抗凝固剤を使用して心穿刺を介して、血液サンプルを回収した。各マウスからの全血サンプル10μlをEcolume(Packard, Boston, MA)液体シンチレーションカクテルと混合し、平衡の24時間後に液体シンチレーションカウンターにおいてカウントした。
【0030】
膵リパーゼおよび脂質リン酸ホスファターゼ1(LPP1)によるOTP代謝の評価
ホスホリパーゼによるOTPの酵素安定性を測定するために、0.03 mM冷OTPと混合した[3H]-OTP(5.2 x 106 dpm)を、ウシ膵リパーゼ(Sigma)を使用することによる24時間の酵素加水分解に供し、続いて生成物を、以前確立されたプロトコル(Kates M. Techniques of Lipidology. Elsevier, 1988)を使用しての薄層クロマトグラフィー(TLC)分離に供した。脂質リン酸ホスファターゼを、該酵素のトランスジェニック過剰発現を有するマウスに由来するマウス胚線維芽細胞から得た。トランスジェニックLPP1線維芽細胞から104 x gでの遠心分離によって調製した膜画分(300μg/反応)を、8μmol冷OTPと混合した[3H]-OTP(1.5x106 dpm)へ添加し、以前確立されたプロトコル(Yue J, et al. Mice with transgenic overexpression of lipid phosphate phosphatase-1 display multiple organotypic deficits without alteration in circulating lysophosphatidate level. Cell Signal 2004; 16: 385-99)を使用しての8時間のLPP-1加水分解に供した。反応混合物を真空乾燥し、残渣を100μl 1N HClで酸性化し、0.5 ml酢酸エチルで4回抽出した。抽出物を合わせ、溶媒を蒸発させた。抽出された反応生成物を、2 ml 酢酸エチルに溶解し、20μlアリコートを、(Kates M. Techniques of Lipidology. Elsevier, 1988)に記載されるように、メタノール:エーテル溶媒(2:98. V/V)を使用してTLCに適用した。
【0031】
細胞培養およびインビトロでのアポトーシス誘発
IEC-6細胞を、第13継代でAmerican Type Culture Collection(Manassas, VA)から得、37℃で、加湿した90%空気/10% CO2雰囲気中において、10%ウシ胎仔血清、インスリン(10μg/ml)、および硫酸ゲンタマイシン(50μg/ml)が添加されたダルベッコ改変イーグル培地中において増殖させた。LPA2受容体を安定して発現するRH7777細胞は、岡島史和博士(群馬大学、日本)によって提供された。LPA1またはLPA3受容体を安定して発現するRH7777細胞は、本発明者らのグループが作製し、他のところで特徴付けられた(Fischer DJ, et al. Short-chain phosphatidates are subtype-selective antagonists of lysophosphatidic acid receptors. Mol Pharmacol 2001; 60: 776-84)。野生型および安定にトランスフェクトされたRH7777細胞を、安定なトランスフェクタントについては250μg/ml G418を含有する、10%ウシ胎仔血清および2 mMグルタミンを含むダルベッコ改変イーグル培地中において増殖させた。IEC-6細胞におけるアポトーシスを、それらを20μMカンプトテシンへまたは4.80 Gy/分の線量率で25-Gy Cs137源γ線照射(Mark I model 25 Gamma Irradiator, J. L. Shepherd & Associates, San Fernando, CA)に曝露することによって誘導した。DNAフラグメント化およびカスパーゼ3活性を、カンプトテシン処理の6時間後または照射の18時間後に測定した。RH7777細胞におけるアポトーシスを、10 ng/ml TNF-αおよび10□g/ml CHXによって誘導し、6時間後に評価した。
【0032】
OTPの薬理学的特徴付け
OTPのリガンド特性を、本発明者らの以前の報告(Durgam GG, et al. Synthesis, structure-activity relationships, and biological evaluation of fatty alcohol phosphates as lysophosphatidic acid receptor ligands, activators of PPAR-gamma, and inhibitors of autotaxin. J Med Chem 2005; 48: 4919-30)に記載される通りに、EDGファミリーの各LPA受容体が安定にトランスフェクトされたRH7777細胞を使用して、評価した。RH7777細胞は、試験した最も高い濃度である30μMまで適用されたLPAに対して内因性Ca2+応答を欠くが、LPA受容体のいずれかをトランスフェクトするとこれらの応答を獲得する(Virag T, et al. Fatty Alcohol Phosphates are Subtype-Selective Agonists and Antagonists of LPA Receptors. Mol Pharmacol 2003; 63: 1032-1042;Durgam GG, et al. Synthesis, structure-activity relationships, and biological evaluation of fatty alcohol phosphates as lysophosphatidic acid receptor ligands, activators of PPARgamma, and inhibitors of autotaxin. J Med Chem 2005; 48: 4919-30;Fischer DJ, et al. Short-chain phosphatidates are subtype-selective antagonists of lysophosphatidic acid receptors. Mol Pharmacol 2001; 60: 776-84)。
【0033】
RT-PCR
RNAを、空腸に沿って等間隔の4つの0.5cmセグメントを使用して、野生型マウスおよびKOマウスから、Trizol(登録商標)(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用して抽出した。LPA1、LPA2、LPA3、LPA4、LPA5、およびβ-アクチンについて遺伝子特異的プライマーを使用した。逆転写PCRを、Superscript IIIキット(Invitrogen)を使用して行い、合計31サイクルを実行し;生成物を全てアガロースゲルに適用し、臭化エチジウムで染色した。
【0034】
DNAフラグメント化およびカスパーゼ活性によるアポトーシスの評価
DNAフラグメント化を、以前記載されたように(Deng W, et al. Lysophosphatidic acid protects and rescues intestinal epithelial cells from radiation- and chemotherapy-induced apoptosis. Gastroenterology 2002; 123: 206-16;Deng W, et al. LPA protects intestinal epithelial cells from apoptosis by inhibiting the mitochondrial pathway. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2003; 284: G821-9)、ELISA、続いてRoche, Inc.(Indianapolis, IN)製の細胞死検出キットで提供される手順によって測定し、1分1μgタンパク質当たりの吸光度単位(405 nmで)として表した。IEC-6細胞におけるカスパーゼ3およびカスパーゼ9活性を、以前記載されたように、特異的Ac-DEVD-pNA発色基質(カスパーゼ3について)およびカスパーゼ9についてAc-LEHD-pNAを使用することにより、ELISAによって測定した。小腸サンプルをPBSで徹底的に洗浄し、筋層を削ぎ落とし、溶解緩衝液と混合し、ホモジナイズし、遠心分離した。上澄みを回収し、上述のようにカスパーゼ3活性を評価した。カスパーゼ活性を、1分1μgタンパク質当たりの切断されたpNAのピコモルとして表した。
【0035】
ウエスタンブロット法
カスパーゼ3を、本発明者らの以前の報告に記載されるように、IEC-6細胞またはカスパーゼ3活性について調製した腸上皮溶解物中において測定した。以前記載した手順を使用することによって、ERK1/2およびAKTを、総細胞タンパク質溶解物中において測定した。簡潔には、IEC-6細胞を、62.5 mM TRIS-HCl(pH 6.8)、2% SDS、25%グリセロール、1 mM NaF、1 mMオルトバナデート、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)中において溶解した。溶解物を4℃で15分間遠心分離(104 x g)によって清澄化し、上澄みを回収した。タンパク質濃度を、BCA試薬キット(Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL)を使用して測定した。細胞溶解物の、ERK1/2について10μg、AKTについて40μg、p38について20μg、およびJNKについて50μgを、SDS-PAGEによって分画し、PVDF膜へ移し、5%脱脂乳でブロッキングし、種々の一次抗体と共にインキュベートした。ブロットを好適なHRP結合二次抗体と反応させ、SuperSignal化学発光試薬(Pierce Biotechnology, Inc.)を使用して現像した。
【0036】
動物の処理および照射
全身照射プロトコルが、University of Tennessee Health Science Center Animal Care and Use Committeeによって検討され、承認された。8〜10週齢のC57/BL6マウスをHarlan(Indianapolis, IN)から購入し、12時間:12時間明暗サイクルに維持し、標準的な実験マウス用餌および水を不断給餌した。Jerold Chun博士(Scripps Institute, La Jolla, CA)により寄贈されたLPA1 KOマウスおよびLPA2 KOマウスを、飼育小屋内で飼育し、8〜12週で使用した。マウスを、γ線全身照射(Cs137源 4.80 Gy/分の線量率で)の前に一晩絶食させた。LPAまたはOTPを、照射の2時間前に経口強制飼養によって投与した。マウスを、イソフルラン吸入によってアポトーシスの分析のために照射の4時間後に、またはクローン原性アッセイのために4日後に屠殺した。空腸および回腸の4つのセグメントを、10%中性化ホルムアルデヒド(pH7.4)バッファー中で固定し、組織学的評価のために処理した。クローン原性再生アッセイにおいて使用されるマウスに、屠殺の2時間前にブロモデオキシウリジン(BrdU、120 mg/kg)および5-フルオロ-2'-デオキシウリジン(12 mg/kg)を腹腔内に受容させ、腸におけるS期再生細胞を標識した。
【0037】
腸におけるアポトーシスおよび陰窩生存の評価
パラフィン横断面を、小腸の長軸に対して垂直に切断し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色するか、またはモノクローナル抗-BrdU抗体で免疫染色した。上皮細胞アポトーシスおよび陰窩生存を、以前記載されたように(Deng W, et al. Lysophosphatidic acid protects and rescues intestinal epithelial cells from radiation- and chemotherapy-induced apoptosis. Gastroenterology 2002; 123: 206-16)、1セグメント当たり4つの切片において分析した。アポトーシスを検出するために、各実験群から最低100個の半(half)陰窩−絨毛単位をスコアリングし、1腸円周(intestinal circumference)当たりのアポトーシス小体の数をカウントした。クローン原性アッセイについて、1空腸円周当たりの生存する陰窩の数を、異なるセグメント由来の切片においてカウントした。生存する陰窩を、10個以上のH&E染色された細胞のクラスターを含む再生性陰窩と定義した。生存する陰窩の生存能力を、5個以上の陰窩細胞中へ組み込まれたBrdUの陽性免疫染色によって確認した。
【0038】
免疫組織学的染色
陰窩中においてBrdU標識されたS期細胞を同定するために、本発明者らは、本発明者らによって記載された染色プロトコルを使用した(Balazs L, et al. Topical application of the phospholipid growth factor lysophosphatidic acid promotes wound healing in vivo. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2001; 280: R466-72)。活性化カスパーゼ3染色のために、15分間の熱媒介抗原回復を伴って、ホルマリン固定パラフィン包埋組織スライドを使用した。TRIS緩衝食塩水(TBS、25 mM TRIS、150 mM NaCl pH 7.6)中において5分間洗浄を3回した後、スライドを、室温で2時間、TBS/0.1% Tween中の10%正常ヤギ血清でブロッキングした。ウサギ活性カスパーゼ3抗体を、1% BSA/TBS/0.1% Tween中において1:50に希釈し、4℃で一晩インキュベートした。FITC標識ヤギ抗-ウサギIgGを、洗浄後2時間適用し、このスライドに、VECTASHIELD(登録商標)とDAPI(Vector Laboratories)をマウントし、Nikon Eclipse 80i蛍光顕微鏡によって視覚化した。1匹の動物当たり少なくとも100個の絨毛を、活性化カスパーゼ3陽性細胞の存在についてカウントした。
【0039】
Bcl-XLについての免疫組織化学的染色を、合計6匹のマウスからの照射4時間後に採取した空腸および回腸のホルマリン固定したパラフィン包埋ブロックから切断した5μm厚切片を使用して行った。抗原アンマスキング時に、Bcl-XL抗体(1:25希釈)での免疫染色を、製造業者の指示に従ってウサギVectastain ABC Eliteキット(Vector Laboratories)を使用して行った。Vector 3,3'-ジアミノベンジジンペルオキシダーゼ基質(Vector Laboratories)を、発色のために使用した。次いで、染色された切片を脱水し、Vector Hematoxylin QS(Vector Laboratories)で対比染色し、免疫反応性を少なくとも2人の研究者によって評価した。
【0040】
統計分析
データを平均値±SDまたはSEMとして表す。各インビトロ実験を少なくとも3回繰り返した。動物実験について、各実験群は、少なくとも6匹のマウスからなり;1群当たり最低8匹のKOマウスを使用した。対照群および処理群を比較するために、スチューデントt検定を使用した。<0.05のp値を有意と考えた。
【0041】
実施例2−造血症候群
マウスを対照群およびOTP処理群へランダムに分け、次いで6 Gyの単回線量の全身照射に供した。単回用量のOTP(2.5 mg/kg)またはビヒクルを、放射線被曝の6時間後、皮下注射によって投与した。放射線被曝後の6日目、12日目および18日目に、末梢血を回収した。全ての白血球(WBC)および血小板(PLT)を、Z1セルコールター(Beckman, FL)を使用してカウントした。
【0042】
図8に示されるように、OTPは、白血球産生を増加させることおよび/または中枢造血系からの白血球の放出を促進することによって;ならびに(2)血小板産生を刺激することによって、放射線誘導造血症候群を改善する。
【0043】
結果
OTPの分子モデリングおよび薬理学的特徴付け
OTPとLPA受容体モデルとの複合体を、図1Bに示す。LPA1複合体は、チオリン酸基とR3.28との間で強力なイオン相互作用を示す(2.0Å P-O:H-N距離)。LPA結合およびLPA誘導LPA1受容体活性化に必要な残基であるQ3.29を含む相互作用は生じない(Wang D, et al. A Single Amino Acid Determines Ligand Specificity of the S1P1 (EDG1) and LPA1 (EDG2) Phospholipid Growth Factor Receptors. J. Biol. Chem. 2001; 276: 49213-49220)。LPA1複合体と同様に、LPA3複合体は、アミドN-Hと水素結合アクセプターとによって形成される不利に非線形の角(112°)に起因して、Q3.29との強力な水素結合相互作用を示さない。しかし、R3.28だけでなくK7.35をも含む(それぞれ、2.2Å P-O:H-Nおよび2.4Å P-S:H-N距離)LPA3複合体において、より多数の強力なイオン相互作用が観察される。LPA誘導LPA3活性化におけるR5.38についての役割を実証する本発明者らの以前の研究36とは対照的に、OTPはR5.38と相互作用しなかった。LPA1およびLPA3のLPA誘導活性化に必要とされることが公知の残基とOTPが相互作用しないことは、これらの受容体での単に部分的なアゴニズムの観察と一致している(図1C)。OTPは、R3.28との強力なイオン相互作用(1.6Å P-O:H-N距離)およびQ3.29との中程度の水素結合相互作用(142°)の両方を示す。この水素結合角は、結晶構造において観察される、角の最も密集したクラスター内にある。LPA2受容体は、TM7の先端部でカチオン性アミノ酸残基を欠いており、従って、これら2つの相互作用は、完全なアゴニズムについて必要とされる頭部基相互作用を含む。
【0044】
LPAおよびOTPは、RH7777細胞において安定して発現されるLPA受容体を活性化し、これは、多くの以前の報告に記載されたように、これらの受容体の薬理学的特性を研究するための単純なアッセイプラットホームを提供する。受容体活性化の指標としてCa2+動員を使用して、野生型、LPA1、LPA2、およびLPA3がトランスフェクトされたRH7777細胞において、OTPを比較した(図1C)。OTPは、試験した最も高い濃度である30μMまで、野生型RH7777細胞において不活性であった。しかし、それは、異なる効力および効能を伴って、3つ全てのEDGファミリーLPA受容体を活性化した。OTPは、常に、3つ全ての受容体でオレオイルLPAよりも効力が低く、LPA1およびLPA3受容体で効能が低かった。LPA2受容体サブタイプにおいて、OTPは完全なアゴニストであり、オレオイルLPAについての1 nMと比較して90 nMの明白なEC50を示した。
【0045】
膵リパーゼおよび脂質リン酸ホスファターゼ1に対するOTPの代謝耐性
LPA分解の2つの主要な経路は、(ホスホ)リパーゼ媒介脱アシル化および脂質リン酸ホスファターゼ媒介脱リン酸化を含む(Brindley DN, et al. Lipid phosphate phosphatases regulate signal transduction through glycerolipids and sphingolipids. Biochim Biophys Acta 2002; 1582:33-44)。膵リパーゼおよびLPP1によってOTPの酵素安定性を測定するために、本発明者らは、以前に確立されたプロトコルを使用して、生成物の酵素加水分解、続いてのTLC分離をモニタリングするために[3H]-OTPを合成した。24時間までの[3H]-OTPの膵リパーゼ媒介加水分解のTLC分析は、予想された[3H]-オレイルアルコールの分解も形成も示さなかった。対照的に、LPAは、これらの条件下で完全に代謝された。切断が行われないことは、OTP構造には存在しないグリセロール骨格についての要件と一致している。8時間までの[3H]-OTPのLPP1切断は、検出可能な脱リン酸化を示さず、このことは、チオリン酸部分がLPA中に存在するリン酸部分よりもこの酵素による切断に対しはるかにより耐性があることを示している。
【0046】
経口的に適用されたOTPの血液中への吸収
経口投与されたOTPの血流中への吸収を、冷OTPと混合された106 dpm [3H]-OTPトレーサを、1.5 mg/kgをもたらすように胃中へ注射することによって、測定した。60、90、および180分後に回収した血液サンプルによって、適用した放射能のわずか0.67%±0.15、0.61%±0.2、および0.45%±0.15しか血液区画中に存在しないことがわかった。その全てが代謝されていないOTPであると想定すると、これは180 nMの最大血液濃度を生じさせ、これはLPA受容体を活性化できる。しかし、血液から抽出された放射能標識化合物のTLC分析によって、本来の[3H]-OTP標準の位置においては、注入された物質の0.01%以下であることが明らかとなり、これは、放射能が前記化合物の代謝産物をほとんど表さないことを示している。経口投与後に血液中に見られる[3H]-OTPがごく少量であることは、腸管腔中に存在する膵リパーゼおよびLPP1による代謝の欠如によって補強される。これは、これらの酵素が、OTPなどの帯電化合物よりもより効果的に吸収され得る中性オレイルアルコールを産生するためである。
【0047】
OTPはIEC-6細胞中においてLPAの抗アポトーシス活性を上回る
本発明者らは、以前、LPAは、4つの異なる機序によって誘導されるアポトーシスから腸上皮細胞を保護することを示した(Deng W, et al. Lysophosphatidic acid protects and rescues intestinal epithelial cells from radiation- and chemotherapy-induced apoptosis. Gastroenterology 2002; 123: 206-16;Deng W, et al.. LPA protects intestinal epithelial cells from apoptosis by inhibiting the mitochondrial pathway. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2003 ; 284: G821-9)。本発明者らは、OTPの抗アポトーシス効果とLPAのそれとを比較した。OTPおよびLPAは両方ともγ線照射誘導DNA損傷から用量依存的にIEC-6細胞を保護したが、OTPは、1μMより高い濃度で、有意により高い保護を与えた(図2A)。10μMで適用されたOTPおよびLPAの両方は、対照と比較した場合、トポイソメラーゼ阻害剤カンプトテシン誘導DNA損傷または炎症性サイトカインTNF-α誘導DNA損傷からIEC-6細胞を有意に保護し(p<0.001)、この濃度で、OTPは、LPAよりもより強い抗アポトーシス活性を示した(p<0.05、図2B)。OTPおよびLPAは、γ線照射で誘導されたカスパーゼ3活性およびカスパーゼ9活性を有意に阻害し;また、OTP誘導阻害は、LPAのそれよりも有意に高かった(p<0.05、図2C)。さらに、ウエスタンブロット法によるカスパーゼ3活性化の分析によって、OTPおよびLPAの両方が、32-kDaプロカスパーゼがその活性形態へ変換することを有意に阻害し、OTPは、LPAと比較して有意により高い阻害を示す(図2D、p<0.05)ことが実証された。これらの結果を合わせると、OTPは、LPA1およびLPA2受容体を発現するIEC-6細胞においてLPAの抗アポトーシス作用を模倣することが示される。
【0048】
OTPの抗アポトーシス活性は、PTX感受性Gタンパク質、マイトジェン活性化プロテインキナーゼおよびPI3-キナーゼ/AKTシグナル伝達を必要とする
本発明者らは、以前、IEC-6細胞において、LPAの抗アポトーシス作用は、PTX感受性Gタンパク質、MEK、およびPI3-キナーゼシグナル伝達を必要とすることを示した。本発明者らは、OTPは、LPAと同様に、ERK1/2およびp38 MAPKおよびAKTリン酸化を活性化することを見出した(図3A〜C)。本発明者らは、同一の条件下でJNKリン酸化を検出しなかった。これら同一のシグナル伝達機序がOTP誘発抗アポトーシス活性において必要であるかどうかを評価するために、本発明者らは、薬理学的阻害剤を使用し、これらの細胞を25 Gyのγ線照射有りまたは無しでOTPまたはLPAに曝露することによって、これらの経路を試験した。照射されていない細胞において、LPAと同様に、5分間のOTP処理は、ERK1/2、p38、およびAKTリン酸化の顕著な増加を誘導した(図3)。MEK阻害剤PD98059およびPI3K阻害剤LY294002によるERK1/2およびAKT活性化の上流でのブロッキングは、OTPおよびLPA誘発活性化および保護の両方を完全に無効にし(図3A、C、およびD)、これは、OTPの抗アポトーシス活性はERK1/2およびAKT経路の活性化を必要とすることを示している。PTXでのIEC-6細胞の前処理は、LPA-誘発ERK1/2およびAKT活性化を完全に無効にした(図3AおよびC)。抗アポトーシス機序におけるPTX感受性Gタンパク質についての要件と一致して、PTXは、γ線照射誘導DNA損傷からのLPA誘発防護を無効にした。対照的に、PTXは、OTP誘導AKTリン酸化を無効にしたが、それは、ERK1/2活性化を部分的に弱めただけであり、このことは、OTP刺激ERK1/2活性化はPTX感受性Gタンパク質のみによって媒介されたのではないことを示している。この結果の裏付けとして、PTX前処理は、OTPによって開始される保護を単に部分的に低下させ、これは、この毒素での処理後、統計的に有意のままであった(p<0.05、図3D)。これらの結果は、OTPおよびLPAによって使用されるシグナル伝達経路間でのいくらかの類似性および相違を示す。
【0049】
OTPはTNF-α誘導アポトーシスからLPA2トランスフェクタントを選択的に保護する
RH7777細胞は、EDGファミリーLPA受容体を内因的に発現しないが、少量のLPA5転写物を発現する。アポトーシスを誘発するためにTNF-αおよびシクロヘキシミドに曝露された野生型RH7777細胞へLPAまたはOTPを適用した場合、10μMで適用されたいずれの化合物も、DNAフラグメント化を弱めなかった(図4A)。対照的に、LPA1、LPA2、またはLPA3が個々にトランスフェクトされたRH7777細胞において、DNAフラグメント化は、LPA前処理によって有意に低下した(図4A)。10μMで適用されたOTPは、LPA1またはLPA3安定トランスフェクタントにおいて有意な抗アポトーシス活性を示さなかったが、LPA2トランスフェクタントにおいて極めて有意な保護を誘起し、10μM LPAのそれの効果を上回った(図3A、p<0.001)。OTPおよびLPAが両方とも、LPA1、LPA2、またはLPA3トランスフェクタントにおいてCa2+過渡電流を活性化する(図1C)が、野生型RH7777細胞においては活性化しないことは注目に値する。従って、OTPの抗アポトーシス効果は、受容体活性化およびCa2+動員と単に関連しているのではなく、特定の受容体サブタイプすなわちLPA2と関連していると考えられる。IEC-6細胞におけるのと同様に、RH7777 LPA2トランスフェクタントにおけるOTPの防護効果は部分的にのみPTX感受性であり、ERK1/2およびPI3K/AKT経路をブロッキングすることによってのみ完全に無効にされた(図4B)。これらの結果は、このモデル系におけるLPA2をOTPの主要な標的と同定し、複数のPTX非感受性Gタンパク質およびPTX感受性Gタンパク質によって媒介されるMEK/ERK1/2およびPI3K/AKT活性化を含む機序を正確に指摘する。LPA2は、Gqへカップリングされることが公知であり、かつそれは、ERK1/2活性化を部分的に媒介する:IEC6において、ならびにLPA2がトランスフェクトされたRH7777細胞において見られたアポトーシス効果に対するPTXの部分的阻害効果と一致する知見である。
【0050】
OTPは腸における放射線誘導アポトーシスを弱める
本発明者らは、以前、経口的に与えられたLPAが、腸陰窩の幹細胞領域におけるγ線照射によって誘導されるアポトーシスを妨げることを実証した(Deng W, et al. Lysophosphatidic acid protects and rescues intestinal epithelial cells from radiation- and chemotherapy-induced apoptosis. Gastroenterology 2002; 123: 206- 16)。本発明者らは、さらに、OTPが同様の効果を発揮するかどうかを試験し、15 Gyのγ線照射(~LD100/10)の4時間後に空腸上皮におけるアポトーシス小体を定量することによって、その抗アポトーシス効能とLPAのそれとを比較した。ICRマウスを使用する本発明者らの以前の報告と一致して、対照である照射されていない動物の空腸におけるアポトーシス小体の数は、1陰窩−絨毛単位当たり0.5未満であった(図5A)。ビヒクル処理した(PBS中200μM BSAを100μL)野生型C57/BL6マウスにおいて、1陰窩−絨毛単位当たりのアポトーシス小体の数は、γ線照射の4時間後、6倍に増加した。LPAでの経口前処理(照射の2時間前に胃中へ200μMを100μL)は、1陰窩−絨毛単位当たりのアポトーシス小体の数を有意に低下させた(p<0.01、図5A)。経口OTP前処理(LPAと同一のタイミングおよび濃度)は、アポトーシス小体の数を50%低下させ、これは、LPAによって誘発されたそれよりも有意に高かった(p<0.05、図5A)。陰窩−絨毛単位に沿ったアポトーシス小体の分布の分析によって、γ線照射は、陰窩の幹細胞領域にわたって高頻度のアポトーシス細胞を生じさせたことが示された:ベースから4〜7細胞位置(図5B)。LPAおよびOTPは両方とも、照射された動物における幹細胞領域にわたってアポトーシス細胞の数を有意に低下させた。
【0051】
RH7777異種過剰発現モデルを使用する本発明者らのインビトロデータによって、OTPは、LPA2受容体サブタイプを介してその抗アポトーシス作用を誘発することが示された(図4)。LPA受容体がインビボでOTPの防護効果を媒介するかどうかを評価するために、本発明者らは、LPA1およびLPA2ノックアウトマウスにおいて同一の処理を行った。本発明者らは、この同一の遺伝的背景において、野生型C57/BL6マウスとLPA1またはLPA2 KOマウスとの間で、アポトーシス小体のベースカウントの差異を検出しなかった。驚くべきことに、γ線照射は、野生型マウスにおけるそれと比較してLPA2ノックアウトにおいて1陰窩−絨毛単位当たり有意により高い割合のアポトーシスを誘導し、一方で、野生型およびLPA1マウスの間では差異はなかった(図5A)。LPAおよびOTPは、野生型およびLPA1マウスにおいて同一の防護効果を有した。対照的に、LPAおよびOTPは、LPA2 KOマウスにおいて、γ線照射誘導アポトーシスを弱めなかった。野生型動物において、アポトーシス小体の最大の放射線誘導増加は、陰窩の幹細胞領域において見られた(図5B)。LPAおよびOTPは、陰窩のこの領域においてアポトーシス細胞の数の最大の減少を引き起こし、このことは、LPAおよびOTPの細胞標的が幹細胞であることを示唆している。LPA受容体のRT-PCR分析によって、LPA4転写物を除いた全てが、組織において発現されたことが示された(図5C)。LPA1およびLPA2 KO動物は、他のLPA受容体の発現の代償性変化を示さなかった。従って、インビボでのデータは、LPA2がOTPの抗アポトーシス効果において必要とされるという本発明者らのインビトロでの知見と一致している。それにもかかわらず、これらのデータは、LPAの場合のインビトロでの知見とは相違しており、LPAのインビボ抗アポトーシス効果を媒介することにおけるLPA2の必須の役割を指摘する。さらに、LPA2 KOマウスにおけるアポトーシスの割合の増加は、この受容体が、小腸の放射線感受性において生理学的役割を果たし得ることを示唆している。これらの結果はまた、放射線感受性およびアポトーシス保護における、2つのLPA受容体サブタイプの根本的に異なる役割を指摘する。
【0052】
次に、本発明者らは、LPAおよびOTP処理が、本発明者らがインビトロで同定したのと同一のシグナル伝達機序を活性化することの直接的な証拠を得ようとした。先ず、本発明者らは、本発明者らがインビトロでIEC-6細胞において見たように(図1C)、LPAおよびOTPがカスパーゼ3の活性化を弱めるかどうかを試験した。空腸切片および回腸切片を、カスパーゼ3の活性化形態について特異的な抗体で免疫染色し、陽性細胞の数を、4匹の動物の群から作製したスライド中の最低100個の陰窩−絨毛単位においてカウントした。正常な小腸におけるそれらの低発生率と組み合わされた、天然でアポトーシスを受ける細胞中に存在する少量の抗原に恐らく起因して、本発明者らは、照射されていないビヒクル処理した群においてカスパーゼ3陽性細胞を検出することができなかった。対照的に、ビヒクル処理した照射された群において、カスパーゼ3陽性細胞は容易に検出された。LPAおよびOTP処理は両方とも、活性化カスパーゼ3陽性細胞の数を約60%有意に低下させた(図6A、p<0.05)。LPAおよびOTPによるカスパーゼ3活性化の阻害はまた、酵素活性を測定することによって、腸上皮溶解物中においても確認された(図6B)。これらの実験によって、対照である照射されていない動物において、低レベルのカスパーゼ3基質切断活性が存在し、これは、15 Gyのγ線照射後に4倍増加したことが明らかとなった。LPAおよびOTPは、カスパーゼ3活性を有意に低下させたが、OTPの阻害効果のほうがより高かった。
【0053】
IEC-6および他のタイプの細胞を使用する本発明者らの以前および今回のインビトロ研究は、LPAおよびOTPに対する抗アポトーシス応答におけるERK1/2およびAKT活性化の要件を確立した。本発明者らは、次に、これらの経路が、経口強制飼養によって前記2つのリガンドで処理された動物から作製された腸細胞ホモジネートにおいて活性化されるかどうかを測定した。図6C〜Dに示されるように、薬剤は両方とも、照射されていない動物において投与の30分後までにERK1/2およびAKTリン酸化を活性化した。しかし、OTPの効果は、投与の60分後に回収されたサンプル中には効果が存在しなかったLPAと比較して、前記組織においてはるかにより長く持続した。
【0054】
IEC-6細胞を使用するインビトロ研究によって、LPAは抗アポトーシスBcl-2の発現をアップレギュレートし、Bcl-XL、BAD、およびBakに対しては効果を有さないことが示された。照射の4時間後にLPAおよびOTP処理したマウスから作製した空腸ホモジネートにおいて(処理の6時間後)、本発明者らは、Bcl-2発現の有意な変化を検出することができなかった。しかし、Bcl-XL特異的抗体での免疫染色によって、ビヒクル処理動物由来の空腸および回腸(データは示さず)と比べて、LPAおよびOTP処理動物において顕著な増加が明らかとなった(図7)。OTP処理によって、最も強烈な免疫染色が引き起こされ(図7C)、しかしLPAもまた免疫反応性の実質的な増加を誘発した(図7B)。これらの結果を合わせると、インビトロでの培養細胞およびインビボでの小腸組織におけるこれらの2つの薬剤によって誘発された生存促進シグナル間の、高い類似性および若干の相違が確立される。
【0055】
OTPおよびLPAは、放射線傷害後、腸陰窩生存を増強させる
γ線照射は、陰窩細胞においてアポトーシスを誘導し、これは、次に、再生またはクローン原性の可能性を低下させ、傷つけられた腸におけるバリアおよび吸収機能の破壊へ至る。本発明者らは、再生しているS期腸細胞をモニタリングするためにH&E染色およびBrdU組み込みを使用して、照射されたマウスにおける陰窩生存に対するLPAおよびOTPの効果を試験した。15 Gyの線量での照射によって、4日以内に、野生型マウスにおける空腸中の陰窩の数が90%低下した(図8〜9)。経口でのLPAまたはOTP前処理は、用量依存様式で、腸陰窩生存を増強した(図8A)。0.2 mg/kgを超える用量でのマウスのOTP処理は、陰窩生存を有意に増強し、一方、LPA処理は、陰窩生存における有意な保護を引き起こすために1.5 mg/kgの最小用量を必要とした(p<0.05、図8A)。OTPは、1 mg/kgを超える用量で、LPAよりも有意により多い数の陰窩を維持した(p<0.05、図8A)。15 Gyのγ線照射の後、2 mg/kgで適用された経口OTPは、1円周当たり10個の陰窩から平均27個の陰窩へ、空腸における生存する陰窩の数を増加させた(図8A)。
【0056】
LPAおよびOTPの抗アポトーシス作用の標的としてのLPA2をさらに確認するために、本発明者らはまた、上述した野生型相当物と同一の様式で処理したLPA2 KOマウスにおいて陰窩生存を試験した。照射された野生型マウスとは対照的に、LPA1 KOマウスおよび特にLPA2 KOマウスは、より低い陰窩生存を示した。しかし、LPA1 KOマウスにおいて、LPAおよびOTPは両方とも有意に増加された陰窩生存を誘発し、これは、同一の様式で処理した野生型において見られたものとは大きく相違しなかった。LPA2 KOマウスは、有意により高い放射線感受性を示した。15 Gyの線量に曝露された野生型マウスにおいて、1円周当たりの平均陰窩生存は10個である一方、LPA2 KOマウスにおいて、それはわずか1陰窩/円周であった(図8B)。試験した最も高い用量である2 mg/kgで適用されたLPAおよびOTPはいずれも、LPA2 KOマウスにおいて腸陰窩生存を増強する効果を示さなかった。
【0057】
本発明者らのデータは、OTPが、LPA2受容体サブタイプを介してLPAによって誘発されるものと類似の生存促進経路を保証する非常に有効な抗アポトーシス剤であることを示している。OTPは、RH7777細胞において異種発現される3つのEDGファミリーLPA受容体を活性化する点で、LPAと類似した薬理学的プロフィールを共有する。OTPのEC50値の順位は、この異種発現系において誘発されたCa2+過渡電流に基づいて、LPA2(90 nM)<LPA3<LPA1であった。これらの値は、3つのLPA受容体について、OTPを、LPAと比べて18:1とずっと弱いリガンドとする。放射線およびカンプトテシン誘発DNA損傷誘導およびTNF-α/CHX誘発受容体誘導機序を含んだ、3つの異なるアポトーシスモデルにおいて、LPAと比較した場合、OTPは、LPAの防護効果を常に上回った。アポトーシスのインビトロ細胞モデルと一致して、OTPは、LD100/15線量のγ線照射に曝露されたC57/BL6マウスにおいて、アポトーシス小体の数、カスパーゼ3陽性細胞の数、およびカスパーゼ3活性を低下させることにおいてより有効であった。
【0058】
OTPは、腸における主要なリパーゼである膵リパーゼによって切断されなかった。OTPは、LPAの不活性化についての別の主要な機序である脂質リン酸ホスファターゼ1によって分解されなかった。グリセロール骨格の欠如に起因して、LPAとは異なり、OTPは、リゾホスファチジン酸トランスアセチラーゼによってアシル化され得ない。同様に、その極性特性に起因して、OTPは、細胞膜を容易には通過せず、本発明者らは、経口強制飼養による適用後、実験動物の血液中に、放射能標識されたOTPを検出することができなかった。LPAと比べてのその代謝およびバイオアベイラビリティーにおけるこれらの相違は、アポトーシスアッセイにおけるそのより高い効能についての原因のいくつかを示し得る。体循環中への[3H]-OTPの吸収の欠如は、それが、血流において薬理学的および生物学的に有効な濃度で存在することなく、腸管腔内から局所的にその効果を発揮することを示している。放射能標識されたLPAは、細胞中へ急速に(数分内に)吸収され、急速に脱リン酸化および再アシル化され;ただし、細胞外適用の30分後まで、約15%は細胞質中においてインタクトなままであることが示されている。バイオアベイラビリティーにおけるこれらの相違は、少なくとも一部分は、LPAと比較してのOTPのインビボ効能の相違を説明することができた。
【0059】
別の重要な相違は、LPA2受容体サブタイプが、OTPの抗アポトーシス効果において必要十分であることであった。個々の受容体サブタイプが安定にトランスフェクトされたRH7777細胞において行われた受容体再構成実験において、OTPは各受容体サブタイプを介してCa2+過渡電流を活性化したが、LPA2を発現する細胞のみがアポトーシスから保護された。このモデル系におけるLPA2の役割と一致して、LPA2 KOマウスにおいて行った実験によって、この受容体が、OTPによって誘発される陰窩生存の増加およびアポトーシスの弱化に絶対的に必要であることが確認された。第3の証拠、即ち、野生型動物と比較した場合のLPA2 KO腸組織の放射線感受性の増加は、この受容体サブタイプが、生存促進シグナルを媒介することに独自に関与することを示唆している。生存促進機能の原因をLPA2とする場合にのみ、LPA1およびLPA3は発現したままであるLPA2 KOマウスにおいて観察されるLPA投与に応答しての防護効果の欠如を説明することができる。RT-PCR分析によって、マウス腸において、ならびに本研究において使用したIEC-6細胞において、LPA1およびLPA2受容体サブタイプのみが同定された。PTXに対するOTP誘発抗アポトーシス応答の部分的感受性は、LPA2のGqカップリングと一致している。しかし、LPAはまた、TNF-α/CHX誘導アポトーシスモデルにおいて、LPA1またはLPA3のいずれかを発現するRH7777細胞において、抗アポトーシス保護を示した。RH7777細胞は、放射線に対して極度の耐性を示し、このため、このモデルにおいてこれらの受容体によって発揮される放射線防護効果の研究が妨げられた。LPA2は、そのC末端が、PDZおよびLIMドメイン含有タンパク質と相互作用することが示されている点で、他の2つのサブタイプとは異なる。LPA2は、非Gタンパク質共役様式で特定のタンパク質−タンパク質相互作用を介してシグナル伝達し、TRIP6、ザイキシン、LPP、およびSiva-1を含むトリプルLIMドメイン含有タンパク質にアクセスし得る。LPA2によるc-srcのGタンパク質関連活性化は、TRIP6をリン酸化し、これは、次いで、LPA誘導ERK活性化を増大させ、BADリン酸化の増加およびプロカスパーゼ9の阻害へ至り得る。Siva-1のDNA損傷誘導活性化は、抗アポトーシス性Bcl-XLを捕捉するため、LPA2とSiva-1との潜在的な相互作用は刺激的な可能性を提供する。LPA2は、Siva-1を捕獲し、Bcl-XLに、DNA損傷によって誘発されたアポトーシスを弱めさせることができる。CaCo-2細胞におけるNHERF2の安定なノックダウンが、LPA2誘導ERK1/2、AKT、およびPLCβ活性化を弱めることが見出されたため、PDZ結合タンパク質NHERF2を含むPDZドメイン媒介相互作用は、抗アポトーシスシグナル伝達とのまた別の関連を提供する。
【0060】
経口投与されるOTPは、胃腸系の保護のみでない他の使用を提供する。本実験において使用したものと同様の用量でのC57/BL6マウスにおけるOTPの腹腔内および皮下投与で行った実験はまた、死亡率の有意な低下を実証した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の下記式(I)の化合物を投与する工程を含む、放射線被曝後の胃腸系の細胞に対する損傷を減少させかつ該細胞の生存を増加させるための方法:

式中、
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、(HO)2PS-Z1-もしくは(HO)2PO-Z2-P(OH)S-Z1-であるか、X1およびX2は、-O-PS(OH)-O-として一緒に連結されるか、またはX1およびX3は、-O-PS(OH)-NH-として一緒に連結され;
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、R1-Y1-A-であり、ここで、X1、X2、およびX3の2つがR1-Y1-A-である場合に各々は同一もしくは異なるか、またはX2およびX3は、-N(H)-C(O)-N(R1)-として一緒に連結され;
任意で、X1、X2、およびX3の1つは、Hであり;
Aは、直接結合、kが0〜30の整数である(CH2)k、またはOであり;
Y1は、lが1〜30の整数である-(CH2)l-、-O-、-S-、

または-NR2-であり;
Z1は、mが1〜50の整数である-(CH2)m-、-CF2-、-CF2(CH2)m-、もしくは-O(CH2)m-、-C(R3)H-、-NH-、-O-、または-S-であり;
Z2は、nが1〜50の整数である-(CH2)n-もしくは-O(CH2)n-、または-O-であり;
Q1およびQ2は、独立して、H2、=NR4、=O、またはHおよび-NR5R6の組み合わせであり;
R1は、X1、X2、またはX3の各々について、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである。
【請求項2】
式(I)の化合物が、
X1が、R1-Y1-A-であり;
X2が、-Z1-P(S)(OH)2であり;
X3が、水素であり;
Aが、直接結合、またはlが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Y1が、lが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Z1が、酸素であり;
Q1およびQ2が、独立して、H、=NR4、=O、または-NR5R6からなる群より選択され;
R1が、独立して、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、(任意で置換された)芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8が、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである
化合物をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の式(I)の化合物を投与する工程が、経口投与によって行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
胃腸系の細胞が、小腸、大腸、または両方の細胞をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の下記式(I)の化合物を投与する工程を含む、放射線被曝の前または後の造血系の細胞に対する損傷を減少させかつ該細胞の生存を増加させるための方法:

式中、
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、(HO)2PS-Z1-もしくは(HO)2PO-Z2-P(OH)S-Z1-であるか、X1およびX2は、-O-PS(OH)-O-として一緒に連結されるか、またはX1およびX3は、-O-PS(OH)-NH-として一緒に連結され;
X1、X2、およびX3の少なくとも1つは、R1-Y1-A-であり、ここで、X1、X2、およびX3の2つがR1-Y1-A-である場合に各々は同一もしくは異なるか、またはX2およびX3は、-N(H)-C(O)-N(R1)-として一緒に連結され;
任意で、X1、X2、およびX3の1つは、Hであり;
Aは、直接結合、kが0〜30の整数である(CH2)k、またはOであり;
Y1は、lが1〜30の整数である-(CH2)l-、-O-、-S-、

または-NR2-であり、;
Z1は、mが1〜50の整数である-(CH2)m-、-CF2-、-CF2(CH2)m-、もしくは-O(CH2)m-、-C(R3)H-、-NH-、-O-、または-S-であり;
Z2は、nが1〜50の整数である-(CH2)n-もしくは-O(CH2)n-、または-O-であり;
Q1およびQ2は、独立して、H2、=NR4、=O、またはHおよび-NR5R6の組み合わせであり;
R1は、X1、X2、またはX3の各々について、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである。
【請求項6】
式(I)の化合物が、
X1が、R1-Y1-A-であり;
X2が、-Z1-P(S)(OH)2であり;
X3が、水素であり;
Aが、直接結合、またはlが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Y1が、lが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Z1が、酸素であり;
Q1およびQ2が、独立して、H、=NR4、=O、または-NR5R6からなる群より選択され;
R1が、独立して、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、(任意で置換された)芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8が、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである
化合物をさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の式(I)の化合物を投与する工程が、皮下投与によって行われる、請求項5記載の方法。
【請求項8】
放射線に被曝したヒトまたは動物へ治療有効量の式(I)の化合物を投与する工程が、筋肉内投与によって行われる、請求項5記載の方法。
【請求項9】
治療有効量の式(I)の化合物を含む、放射線宿酔を予防または治療するためのキットであって、該化合物が、経口投与用の形態、ならびに、皮下、筋肉内、静脈内、および腹腔内投与からなる群より選択される投与用の形態で提供される、
キット:
式中、
X1が、R1-Y1-A-であり;
X2が、-Z1-P(S)(OH)2であり;
X3が、水素であり;
Aが、直接結合、またはlが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Y1が、lが1〜30の整数である(CH2)lであり;
Z1が、酸素であり;
Q1およびQ2が、独立して、H、=NR4、=O、または-NR5R6からなる群より選択され;
R1が、独立して、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、(任意で置換された)芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキル、

であり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8が、独立して、水素、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキル、直鎖もしくは分岐鎖C2〜C30アルケニル、環の一、二、もしくは三置換を有するかまたは有さない芳香族もしくはヘテロ芳香族環、C1〜C30アルキルまたは芳香族もしくはヘテロ芳香族環を含むアシル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールアルキル、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C30アルキルを含むアリールオキシアルキルである。
【請求項10】
放射線宿酔の胃腸症候群および造血症候群の治療用の、チオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステルの経口投与可能な形態、およびチオリン酸O-オクタデカ-9-エニルエステルの注射可能な形態をさらに含む、請求項9記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−510238(P2010−510238A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537375(P2009−537375)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/084875
【国際公開番号】WO2008/140574
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(504326686)ユニバーシティ オブ テネシー リサーチ ファウンデーション (22)
【Fターム(参考)】