説明

π共役金属錯体固定化基板を水系電解質で用いる装置

【課題】π共役金属錯体分子を、π共役分子構造を介して基板に接続したπ共役金属錯体固定化基板が、水系電解質にてπ共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)の観測に対応する。
【解決手段】導電性基板上に直接又はπ共役分子構造を介してπ共役金属錯体分子を固定したπ共役金属錯体固定化基板と、イオン半径がr(m)の陽イオンを含む水系電解質とを有し、前記水系電解質中で前記π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を利用した電気化学装置であって、前記π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球の半径をA(m)としたとき、電解質の陽イオンのイオン半径rが
r≧A
となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役金属錯体固定化基板を水系電解質で使用することを特徴とする電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
π共役金属錯体分子を基板に固定化したπ共役金属錯体固定化基板は、分子エレクトロニクスの分野で、例えば分子電線材料として注目される材料である。中でもπ共役金属錯体分子を、π共役分子構造を介して基板に接続したπ共役金属錯体固定化基板は、π共役分子構造がもつ高い電子伝達特性を生かし、π共役金属錯体分子の酸化還元反応による、π共役金属錯体分子と基板との間の高速の電子移動を可能とする。非特許文献1には、コバルトのターピリジン錯体をπ共役分子構造のアゾベンゼンを介して基板に固定化したπ共役金属錯体固定化基板を用いた、コバルトのターピリジン錯体のCH2Cl2中における酸化還元挙動が報告されている。
【0003】
前記π共役分子構造を介して基板接続したπ共役金属錯体固定化基板を電気化学装置の基板として生体材料と共に用いる場合、対象物質が生体材料であるため、その生体材料の構造、機能等の保持の観点から水系電解質での電子移動の観測に対応する必要がある。
【0004】
【非特許文献1】Katsuhiko Kanaizuka, Masaki Murata, Yoshihiko Nishimori, Ichiro Mori, Kazuyuki Nishio, Hideki Masuda, Hiroshi Nishihara Chem. Lett. 2005, 34, 534−535.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当初発明者は、π共役金属錯体分子を、π共役分子構造を介して基板に接続し、水系電解質中でπ共役金属錯体の酸化還元挙動の観測を試みたが、これを観測することは容易でなかった。酸化還元挙動の観測が困難な原因について考察したところ、水系電解質に可溶な支持電解質、中でも陰イオンと比較してイオン半径の小さな陽イオンが、π共役金属錯体と基板の間に入りこんで錯体にかかる電位をスクリーニングしている可能性があると考えた。
【0006】
そこで、固定化されるπ共役金属錯体分子として錯体半径の小さなコバルトのターピリジン錯体(推定錯体半径0.58nm)を使用し、金蒸着ガラス基板への吸着量を限界まで増大させた(吸着密度1.25×10-10molcm-2)。錯体の吸着は、錯体(若しくは、錯体配位子、金属中心それぞれ)の溶液に基板を浸漬することで行い、吸着溶液の濃度、吸着時間を、吸着密度が飽和するまで向上させた。その結果、電解質の陽イオンが錯体と基板の間に入り込みにくい環境となったと考えられる電極を用いて、水系電解質での測定を行ったが、電子移動(酸化還元反応)を観測するのは容易でなかった。
【0007】
本発明は、水系電解質中で、導電性基板上に固定化されたπ共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を観測可能な電気化学装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、前記した電子移動(酸化還元反応)が観測できない原因として、以下の考察を行った。即ち、π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙より小さなイオン半径をもつ、一般的な電解質の陽イオンであるナトリウムイオン(イオン半径0.102nm)が、π共役金属錯体分子と基板との間に侵入し、錯体に印加される電位を遮蔽したと考えた。
【0009】
本発明は、π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球と同等、若しくは大きなイオン半径をもつ陽イオンからなる電解質を含む水系電解液を用いたとき、錯体の電子移動(酸化還元反応)の観測を行うことができる。
【0010】
本発明は、導電性基板上に直接又はπ共役分子構造を介してπ共役金属錯体分子を固定したπ共役金属錯体固定化基板と、イオン半径がr(m)の陽イオンを含む水系電解質とを有し、前記水系電解質中で前記π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を利用した電気化学装置であって、前記π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球の半径をA(m)としたとき、電解質を構成する陽イオンのイオン半径rが
r≧A
となることを特徴とする。
【0011】
前記Aは下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【数1】

(式(1)中、Gはπ共役金属錯体分子の吸着密度(molcm-2)、NAはアボガドロ数、Rはπ共役金属錯体分子の分子半径(m)を示す。)
【0012】
前記イオン半径rを有する陽イオンは、有機物由来の陽イオンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電気化学装置は、水系電解質中で、導電性基板上に固定化されたπ共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を観測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般的に、水系電解質の電解質の陽イオンとして、溶解度の高さ、入手の容易性等から、比較的に小さなイオン半径を持つ陽イオン、例えばナトリウムイオン(イオン半径0.102nm)等が用いられる。
【0015】
一方、π共役金属錯体分子の吸着密度から基板上における錯体の配置を予想した。まず、π共役金属錯体分子が基板上面から見た場合に円形となると仮定した。さらに、π共役金属錯体分子はその円の中心が正方形の各頂点に位置するように配置され、隣り合う円同士が接触するように配置されたモデルを仮定した。このπ共役金属錯体分子の基板上での配置モデルを図1に示す。図1において、1000は基板上に固定化されたπ共役金属錯体分子を模した円(半径R(m)とする)である。これらは、円の中心が正方形を描く配置をとっている。このような図形中の円同様にコバルトターピリジン錯体(推定錯体半径0.58nm)が配置されるとすると、吸着密度は1.23×10-10molcm-2と算出される。この値は、コバルトターピリジン錯体を金蒸着ガラス基板に、吸着量が限界となるまで吸着させた際の吸着密度の実測値(1.25×10-10molcm-2)と同等であった。これより、π共役金属錯体分子(コバルトターピリジン錯体)はその中心が正方形の各頂点に位置し、隣り合うπ共役金属錯体分子同士が接するように配置されることが推測された。また、図1においてπ共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球1010(半径A(m)とする)の半径Aは、π共役金属錯体分子の半径R(m)、錯体の吸着密度G(molcm-2)を用いて下記式(1)で記述することができる。ここで、π共役金属錯体分子にコバルトターピリジン錯体(推定錯体半径R 0.58nm)を用い、コバルトターピリジン錯体の吸着密度Gが1.25×10-10molcm-2の場合を考える。このとき、コバルトターピリジン錯体の分子間に形成される空隙に接する球の半径Aは下記式(1)より0.239nmと算出される。
【0016】
【数2】

(式(1)中、Gはπ共役金属錯体分子の吸着密度(molcm-2)、NAはアボガドロ数、Rはπ共役金属錯体分子の分子半径(m)を示す。)
【0017】
仮に、π共役金属錯体分子(コバルトターピリジン錯体)の分子間に形成される空隙(半径0.239nm)よりも小さなイオン半径をもつ陽イオンであるナトリウムイオン(イオン半径0.102nm)が、π共役金属錯体分子と基板の間に侵入したとする。この状態では、π共役金属錯体分子に印加されるはずの電位は遮蔽され、電子移動(酸化還元反応)を観測することは困難である。このとき、π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球の半径と同等、若しくは大きなイオン半径をもつ陽イオンからなる電解質を用いれば、電子移動(酸化還元反応)の観測を行うことができると推測した。即ち、電解質の陽イオンのイオン半径rが、π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球の半径A以上のとき(r≧A)、陽イオンがπ共役金属錯体分子と基板との間に侵入することを妨げることができる。したがって、π共役金属錯体分子に印加される電位は遮蔽されないため、電子移動(酸化還元反応)は観測されると考えられる。
【0018】
この論理から発想すると、π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を観測するためには、π共役金属錯体分子の吸着密度が高い程、電解質にイオン半径の小さな陽イオンを用いることができる。前記したようにπ共役金属錯体分子に錯体半径の小さなコバルトターピリジン錯体(推定錯体半径0.58nm)を用いた場合、前記モデルにてコバルトターピリジン錯体の吸着密度は1.23×10-10molcm-2となる。このとき用いることの出来る電解質陽イオンのイオン半径は0.239nm以上である。ただし、π共役金属錯体分子の吸着密度が、π共役金属錯体分子と基板とを接続するπ共役分子構造、例えばアルカンチオールのみの吸着密度(7.7×10-10molcm-2)以上になることは、現実的には考えにくい。
【0019】
電解質に加えられる支持塩は、電解質に必要な伝導度を与え、電気化学反応を進行させるために用いられる。伝導度は電解質イオンの移動度に比例する。また、一般的に電解質イオンの移動度は、電解質イオン半径に反比例する。したがって、電解質イオンのイオン半径の増大は伝導度の低下をもたらす。しかし、本来の支持塩の機能を鑑みると、電解質イオン半径を増大させるためとはいえ、伝導度を低下させることは実用上現実的ではない。この伝導度の低下を補償するために、電解質濃度を向上させることが考えられる。しかし、実用上高濃度の電解質を用いることは、電解質の溶解度、コストの観点から現実的ではない。したがって、電解質陽イオンのイオン半径の上限は、実用上、通常用いられる電解質陽イオンのイオン半径の10倍が限度である。電解質陽イオンに一般的に用いられるナトリウムイオンを想定した場合、ナトリウムイオン半径の10倍以下である1.02nm以下がこの場合用いることのできる電解質陽イオンのイオン半径となる。前記したコバルトターピリジン錯体を用いる場合(錯体吸着密度を1.23×10-10molcm-2とする)、用いることの出来る電解質陽イオンのイオン半径は0.239nm以上、1.02nm以下となる。
【0020】
本発明に係るπ共役金属錯体固定化基板の概念図を図2に示す。同図において、2000は基板、2010はπ共役金属錯体分子、2020はπ共役金属錯体分子と基板とを接続するπ共役分子構造、2030は水系電解質とする(π共役金属錯体分子を基板に直接固定化する場合には、2020のπ共役分子構造は不要である)。そして、2040は大きなイオン半径を持つ電解質の陽イオンとする。
【0021】
本発明は、π共役金属錯体の分子間に形成される空隙と同等、若しくは大きなイオン半径を持つ水系電解質陽イオンを用いることで、基板に直接、又はπ共役分子構造を介して接続されたπ共役金属錯体分子と基板との間に陽イオンが侵入しない。これにより、π共役金属錯体にかかる電位のスクリーニングを防止する。その結果、水系電解質中で導電性基板上に固定化されたπ共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を観測できる。
【0022】
本発明に用いられるπ共役金属錯体固定化基板は、基板に固定化されたπ共役金属錯体分子を用いることを特徴とする。ここで、π共役金属錯体分子は、錯体の骨格が錯体の中心金属と少なくともひとつのπ共役配位子によって構成されている錯体分子とする。
【0023】
本発明で用いられるπ共役金属錯体分子は、そのπ共役配位子が、π共役配位子に直接結合している官能基を通して直接基板に固定化されているか、或いは、π共役分子構造とそのπ共役分子構造に直接結合している官能基を通して基板に固定化されている。具体例を挙げると金基板にターピリジン錯体がチオール基を介して結合しているもの、金基板にターピリジン錯体がフェニル基とフェニル基に結合したチオール基を介して結合しているものが挙げられる。
【0024】
前記π共役金属錯体分子は、複数の金属元素を含む多核錯体と、ひとつの金属元素を含む単核錯体のどちらでも良い。また、π共役金属錯体分子一分子に含まれる金属元素は、一種類であっても良いし複数種類が含まれていても良い。このπ共役金属錯体分子を構成する金属元素としては、遷移金属元素が好適に用いられ、Os、Fe、Ru、Co、Cu、Ni、V、Mo、Cr、Mn、Pt、Rh、Pd、Ir等が例として挙げられる。
【0025】
前記π共役金属錯体分子を構成するπ共役配位子としては、分子の骨格にπ共役が広がっており、水系電解質中、電極が使用される条件において充分な化学的安定性と配位能を有する化合物であれば、好適に使用できる。例として、ビピリジン、ターピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン、フタロシアニン及びこれらの誘導体が挙げられ、ビピリジン誘導体若しくはターピリジン誘導体がより好ましい。
【0026】
前記π共役金属錯体分子と基板とを接続するπ共役分子構造としては、π共役分子であって、水系電解質中、電極が使用される条件において充分な化学的安定性と配位能を有する構造が好適に使用できる。例として、アセチレン結合、ベンゼン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、ジアゾ結合が挙げられ、これらの誘導体が1から5個程度含まれているものがより好ましい。また、π共役金属錯体分子を基板に直接結合することもできる。
【0027】
π共役金属錯体分子を基板に固定化する手法は、特に制限されるものではない。水系電解質中、電極が用いられる条件において充分な化学的、電気化学的安定性を有する基板とπ共役金属錯体分子との結合が得られる固定化方法であれば好適に使用できる。また、このπ共役配位子の少なくともひとつには、電極との結合を確保するための官能基を有するものが好ましい。官能基の例としては、チオール基、ケイ酸基、カルボキシル基、リン酸基、アミノ基、ジアゾ基が挙げられる。また、同一電極中に、目的とする特性を得る上で、固定化のための複数の同一、若しくは異なる結合の組合せを基板とπ共役金属錯体分子との結合に用いることもできる。この結合の例としては、金属−チオール結合、ケイ素−ケイ素結合、炭素−炭素結合、金属−リン酸結合等が挙げられる。
【0028】
π共役金属錯体分子の基盤への吸着密度は、例えば吸着をおこなう際の溶液の濃度、溶媒、浸漬時間、共吸着物の存在及びその濃度、共吸着物との量比、基板の選択、基板の表面状態、基板の下地の選択、表面処理等によって制御することが可能である。
【0029】
前記π共役金属錯体分子の基板への吸着密度は、サイクリックボルタメトリー、クロノアンペロメトリー等の電気化学測定を行った際の錯体由来の電荷量によって見積もることができる。それ以外にも、例えば、チオール基を介して吸着している場合には、塩基性水溶液等の条件下で、負電位側へのリニアスイープボルタメトリー、水晶振動子マイクロ天秤法、エリプソメトリー等の手法で見積もることができる。また、π共役金属錯体分子の分子半径は、基板に固定化したπ共役金属錯体分子を基板上面から見て、円形と見立てたときの円の半径として、文献、分子モデリングソフトを用いた計算等から推定した。
【0030】
吸着量評価方法の具体例として、サイクリックボルタメトリーを利用した、錯体金属の酸化還元電荷量の測定方法を以下に記述する。調製したπ共役金属錯体固定化基板を作用電極とし、参照電極、白金を対電極とし、サイクリックボルタンモグラム測定を行う。それぞれの電極をポテンショスタットに接続し、100mVs-1の走査速度で、π共役金属錯体分子の中心金属が酸化還元する電位領域を含む電位範囲(例えば錯体金属がCo(II/III)であれば、0.4〜−0.4V vs Ag/Ag+)で測定を行う。電解液としては、たとえば、0.1M tetrabutylammouniumhexafluorophosphateのアセトニトリル溶液(窒素バブリング済み)を使用する。電荷量は、観測されたボルタンモグラムのピーク(例えば錯体金属がCo(II/III)であれば0V vs Ag/Ag+付近)の電荷量を測定する。測定された電荷量をQ1(C)、ファラデー定数をF(Cmol-1)、電極面積A(cm2)とすると、吸着密度G(molcm-2)は下記式(2)で表される。
【0031】
【数3】

【0032】
さらに、吸着量評価方法の具体例として、リニアスイープボルタメトリーを利用した、錯体分子のチオール基の還元脱離時の電荷量の測定方法を以下に記述する。調製したπ共役金属錯体固定化基板を作用電極とし、参照電極、白金を対電極とし、リニアスイープボルタメトリー測定を行う。それぞれの電極をポテンショスタットに接続し、50mVs-1の走査速度で、電解液として強塩基性の電解質溶液(0.5M KOH水溶液、窒素バブリング済み)を使用する。電荷量は、観測されたボルタンモグラムのピーク(例えば錯体分子が4’−(4−mercaptophenyl)−2,2’;6’,2’’−terpyridine)であれば、−1.1V vs Ag/AgCl付近)の電荷量を測定する。測定された電荷量をQ2(C)、ファラデー定数をF(Cmol-1)、電極面積A(cm2)とすると、吸着密度G(molcm-2)は下記式(3)で表される。
【0033】
【数4】

【0034】
基板は、π共役金属錯体分子の電子移動反応で授受した電荷を外部回路に取出す働きを担う。基板の形状は、特に限定されるものではなく平面、曲面、球状等、どのような形状であってもよい。基板の構成材料としては、導電性が高く、電極が使用される条件において充分な電気化学安定性を有する材料が好適に使用できる。このような基板の構成材料の例としては、金属、導電性高分子、金属酸化物、及び炭素材料などが挙げられる。金属としては、Au、Pt、Ag、Ni、Cr、Fe、Mo、Ti、Al、Cu、V、In、Ga、Wのうち少なくとも一種類の元素を含む金属が好ましく、これらは合金でも、めっきを施したものでもよい。導電性高分子としては、ポリアセチレン類、ポリアリーレン類、ポリアリーレンビニレン類、ポリアセン類、ポリアリールアセチレン類、ポリジアセチレン類、ポリナフタレン類、ポリピロール類、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリチエニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリイソチアナフテン類のうち少なくともひとつの化合物を含む高分子が好ましい。金属酸化物としては、In、Sn、Zn、Ti、Al、Si、Zr、Nb、Mg、Ba、Mo、W、V、Srのうち、少なくとも一種類の元素を含む金属酸化物が好ましい。炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン化合物及びこれらの誘導体が好ましい。
【0035】
本発明のπ共役金属錯体分子の調製法は、特に限定されるものではないが、別途合成したπ共役金属錯体分子を基板に結合させる方法、又は、基板上で錯体を調製する方法が好適に用いられる。基板上で錯体を調製する方法の例としては、基板上に基板と結合することができる官能基を持ったπ共役配位子を結合させ、その後に金属イオンを配位させる方法が挙げられる。また、これにさらにπ共役配位子を金属中心に配位させ、金属イオンを配位させる、またこの工程を繰り返すことによって、多核錯体を調製することもできる。π共役金属錯体固定化基板が形成されていることは、電気化学測定において錯体の酸化還元に起因する電流が観測できることや、水晶振動子マイクロ天秤測定における重量の増大、原子間力顕微鏡等の微細観察、赤外スペクトル等で確認できる。
【0036】
本発明の装置で使用される水系電解質を構成する溶媒の主成分は水である。具体的には、常温の調製後の電解質の体積に対し、原料とする水の体積が40%以上のものを意味する。この値は、生体材料とともに利用することを考えた場合に、たんぱく質等の変性、機能の失活を防ぐ目的から設定している。また、用いられる支持塩の溶解度や、電解質中に並存する物質の安定性確保等のために、有機溶媒等を含んでもよい。この有機溶媒の例としては、グリセロールが挙げられる。また、イオン半径の大きな陽イオン、陰イオンの組合せはイオン性液体を構成することが多く、これを溶媒として含んでいてもよい。
【0037】
支持塩は、電解質に必要な伝導度を与え、電気化学反応を進行させるために用いられる。そのため支持塩は、電解質に十分な伝導度を与えるために、溶媒への十分な溶解度を持つ必要がある。水系電解質では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、といった比較的に小さなイオン半径の陽イオンを有する塩が、高い溶解度、入手の容易性等から用いられることが多い。
【0038】
本発明者は、π共役金属錯体固定化基板を用いたπ共役金属錯体分子の、水系電解質中での電子移動(酸化還元反応)の観測が困難である原因について以下のように考察した。つまり、水系電解質でよく用いられる比較的小さなイオン半径をもつ陽イオンが、π共役金属錯体分子と基板との間に侵入し、π共役金属錯体分子に印加されるはずの電位が遮蔽されるため、電子移動(酸化還元反応)の観測が困難となると考えた。そこで、前記考察を検証するために、π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球の半径と同等以上のイオン半径をもつ陽イオンを用いて水系電解液を調製し、π共役金属錯体の電子移動(酸化還元反応)の観測を行った。この手法では、π共役金属錯体の電子移動(酸化還元反応)を観測することができ、本発明を完成させた。
【0039】
発明の錯体分子/基板界面模式図を図3に示す。図3(A)には、支持塩としてπ共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球と比較して小さなイオン半径を持つ陽イオンを用いた場合の錯体分子/基板界面模式図を示す。図3(B)には、支持塩としてπ共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球と同等若しくは大きなイオン半径を持つ陽イオンを用いた場合の錯体分子/基板界面模式図を示す。図中3000は基板であり、これにπ共役金属錯体分子3010がπ共役分子構造3020を通して接続され、水系電解質3030内に設置されている。
【0040】
ここで、支持塩としてπ共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球と比較して小さなイオン半径を持つ陽イオン3050を使用した場合には、錯体分子/基板間に侵入することができる。したがって、基板に印加された電位を電極のごく近傍で緩和し、3060のような電位プロファイルを与えることでπ共役金属錯体分子に印加される電位を遮蔽するため、π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)が観測できないと考えられる。一方で、電解質としてπ共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球と同等、若しくは大きなイオン半径をもつ陽イオン3040を用いた場合には、錯体分子/基板間に侵入できない。したがって、基板に印加された電位はπ共役金属錯体分子に印加されるため、π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)が観測されると考えられる。
【0041】
本発明で使用される有機物由来の陽イオンの例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン(0.239nm)、テトラエチルアンモニウムイオン(0.4nm)、テトラプロピルアンモニウムイオン(0.452nm)、テトラブチルアンモニウムイオン(0.494nm)等が挙げられる。大きなイオン半径を持つ陽イオン、陰イオンの組合せは、イオン性液体となる物質も多く、これを支持塩兼溶媒として用いてもよい。支持塩に必要な条件としては、高い溶解度、電極の動作電位において、十分安定であることが挙げられる。
【0042】
前記イオン半径については、文献値を用いて規定することができる。金属イオンのイオン半径は、R.D.Shanon Acta Crystallographica A 1976,vol 32 pp.751.に記載されている。ここでは、Na+(0.102nm)、K+(0.138nm)、Cs+(0.167nm)(ここで挙げたものは全て六配位時の値)等が記載されている。有機物イオンについては、例えばアンモニウムイオンについては、R.Wachter,K.Riederer Pure and Applied Chemistry 1981 vol.53, pp.1301.に記載があり、例えばtetraethylammonium ion(0.4nm)、tetrapropylammonium ion(0.452nm)、tetrabutylammonium ion(0.494nm)である。また、例えば、イミダゾリウムイオンであれば、N.E.Heimer,J.S.Wilkes,P.G.Wahlbeck,W.R.Carper The Journal of Physical Chemistry A 2006,vol.110, pp.868.に記載があり、1−ethyl−3−methylimidazolium ion(0.239nm)である。
【0043】
本発明のπ共役金属錯体分子の固定化基板は、水系電解質を組み合わせて、π共役金属錯体分子の電気化学応答の変化を観察することで、物質を検知する装置、また電気化学反応で生成したエネルギーを電気エネルギーとして取出す装置等として利用可能である。
【0044】
多くの生体材料は、本来的には、体液等の水溶液中に存在する。DNAやたんぱく質に代表される生体材料は、水溶液以外の環境においては凝集、変性をおこしてしまうため、その本来の構造を保って機能を発揮することができないことが多い。本発明ではπ共役金属錯体固定化基板を水系電解質中で用いても、π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を容易に観察できるため、生体材料検出デバイス、生体材料を燃料とするエネルギーデバイスとして使用することができる。なお、ここで記述する生体材料とは、生体内に存在する物質を意味し、具体例としては、各種たんぱく質、核酸、糖、アルコール等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明の装置は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、電極上に固定化する金属錯体配位子の合成、π共役金属錯体固定化電極の調製、電気化学測定は以下の方法により実施した。
【0046】
(実施例1)
実施例1で形成されるπ共役金属錯体固定化基板の概念図を図4に示す。同図において、4000は金蒸着ガラス基板であり、これに4010のπ共役金属錯体分子(コバルトターピリジン錯体)が、4020のπ共役分子構造(フェニルチオール)を通して固定化されている。
【0047】
[電極上に固定化する金属錯体配位子の合成]
以下の式(i)に示す錯体配位子の合成法を記述する。
【0048】
【化1】

【0049】
等モルの2−アセチルピリジン、4−メチルチオベンズアルデヒドのエタノール溶液に、その半分の体積の1.5M水酸化ナトリウム水溶液を加え反応させた後、ろ過し、水、メタノールで洗浄、乾燥し中間生成物1を得た。
窒素雰囲気下、カリウム−tert−ブトキサイドのテトラヒドロフラン溶液に、0.1mLの2−アセチルピリジンを加え、室温で攪拌した。0.16gの前記中間生成物1を加え、室温で反応させた後に、過剰量の酢酸アンモニウムを加え、還流を行った。その後、溶液を減圧溜去し、生成物を水洗後、クロロホルムからメタノールで再沈殿させることにより式(i)に示す中間生成物2を得た。
窒素雰囲気下、中間生成物2のDMF溶液に10倍モル当量のナトリウムエタンチオレートを加えて還流後、反応液を減圧溜去し、過剰量の塩化アンモニウム水溶液を加え、沈殿を回収後、メタノールで再結晶することで式1に示す化合物を得た。同定は、1H,13H NMR、質量分析法で行った。
【0050】
[π共役金属錯体固定化基板の調製]
市販のスライドグラスを2−プロパノール、アセトン中で超音波洗浄し、窒素気流下で乾燥後、チタン/金を20/200nmの厚さで蒸着して、導電性基板を調製した。基板を切断後、過酸化水素水/濃硫酸の質量比が3/7の溶液中に20分間浸漬し、水洗、窒素気流で乾燥した。
(a)この基板を式(i)の配位子のクロロホルムに浸漬、洗浄し、窒素気流下乾燥した。
(b)次に、この基板をホウフッ化コバルト(II)のエタノール溶液に浸漬、洗浄後、窒素気流下乾燥を行った。
(c)次に2,2’:6’,2’’−terpyridineのエタノール溶液に浸漬、洗浄後、窒素気流下で乾燥した。
調製したπ共役金属錯体固定化基板におけるπ共役金属錯体分子の吸着密度は1.25×10-10molcm-2であり、π共役金属錯体分子の分子半径は0.58nmと推定される。したがって、π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球の半径は0.239nmとなる。
【0051】
[電気化学測定]
次に、前記π共役金属錯体固定化基板を用いた装置と、測定方法を示す。図8に示すように、調製したπ共役金属錯体固定化基板を作用電極8000とし、銀/塩化銀(NaCl)電極を参照電極8010、白金を対電極8020とし、サイクリックボルタンモグラム(CV)測定を行った。三種類の電極をポテンショスタット8030に接続し、100mVs-1の走査速度で測定を行った。測定温度は約25℃で行った。本発明に関る大きなイオン半径を持つ陽イオンからなる支持塩を用いた電解液8040として、0.1M 1−ethyl−3−methylimidazolium hexafluorophosphate(EMIPF6)水溶液を使用した。前記電解質の陽イオンのイオン半径は0.239nm、陰イオンのイオン半径は0.254nmである。また、比較対象とする電解液として0.1Mリン酸緩衝液(Na塩)pH 7.0(陽イオンのイオン半径0.102nm、陰イオンのイオン半径0.238nm)を用いた。
【0052】
図5には、前記EMIPF6を電解質として用いたCVを実線、リン酸緩衝液を電解質として用いたCVを点線で示す。図5からわかるように、EMIPF6を支持塩として用いた電解液を使用したCVからは、コバルトの酸化還元に起因する電流が0.3V付近に観測された。一方、リン酸緩衝液を電解液として用いたCVからは、コバルトの酸化還元に起因する電流は観測されなかった。
【0053】
(実施例2)
実施例2で形成されるπ共役金属錯体固定化基板の概念図を図6に示す。同図において、6000は金蒸着ガラス基板であり、これに6010のπ共役金属錯体分子(コバルトターピリジン錯体)が、6020のπ共役分子構造(アゾベンゼン部位)を通して固定化されている。
【0054】
[電極上に固定化する金属錯体配位子の合成]
以下の式(ii)に示す錯体配位子の合成法を記述する。
【0055】
【化2】

【0056】
1当量の4−アミノベンズアルデヒド、2当量の2−アセチルピリジン、酢酸アンモニウム、アセトアミドを加え、空気雰囲気下3時間還流を行った。反応溶液を空冷し、50g水酸化ナトリウム水溶液を加え、還流させた。その後、反応溶液を空冷、油状の固体を水洗した。さらに、残留物を熱臭化水素酸に溶かし、生じた濃茶色の沈殿を濾過し、300mLの水に加え、炭酸水素ナトリウムで塩基性にした。得られた固体をクロロホルムで抽出し、カラムをかけ再結晶させることで、4’−(4−anilino)−2,2’:6’,2’’−terpyridineを得た。
その後、水溶媒に、4’−(4−anilino)−2,2’:6’,2’’−terpyridine、塩化アンモニウムを加え、スターラで強攪拌下、亜鉛粉末を加え20分間反応させた。反応溶液を濾過し、多量の砕氷に注ぎ、濃硫酸を加えた。この溶液にニクロム酸ナトリウムを加え、攪拌、生じた沈殿を回収し、水洗、乾燥することで、4’−(4−nitrosobenzene)−2,2’:6’,2’’−terpyridineを得た。
酢酸に前記4’−(4−nitrosobenzene)−2,2’:6’,2’’−terpyridineを加え、4,4’−dithioanilineを加え室温で攪拌した。水、炭酸ナトリウムを加えて中和し、生成物を150mLのクロロホルムで抽出した。アルミナを充填剤としてカラムをかけ、得られた溶液を減圧溜去、乾燥させることで式(ii)に示す錯体配位子を得た。
【0057】
[π共役金属錯体固定化基板の調製]
市販のスライドグラスを2−プロパノール、アセトン中で超音波洗浄、窒素気流下で乾燥した後、チタン/金を20/200nmの厚さで蒸着して、導電性基板を調製した。基板を切断後、過酸化水素水/濃硫酸の質量比が3/7の溶液中に20分間浸漬し、水洗後、窒素気流で乾燥した。
(a)この基板を式(ii)の配位子のクロロホルム溶液に浸漬、洗浄後、窒素気流下乾燥した。
(b)次に、この基板をホウフッ化コバルト(II)のエタノール溶液に浸漬、洗浄後、窒素気流下乾燥を行った。
(c)次に4’,4’ ’ ’ ’−(1,4−Phenylene)bis(2,2’:6’,2’ ’−terpyridine)のクロロホルム溶液に浸漬、洗浄後、窒素気流下で乾燥した。
【0058】
[電気化学測定]
次に、前記π共役金属錯体固定化基板を用いた装置と、測定方法を示す。装置は実施例1同様図8に示す装置を用いた。調製したπ共役金属錯体固定化基板を作用電極8000とし、銀/塩化銀(NaCl)電極を参照電極8010、白金を対電極8020とし、サイクリックボルタンモグラム(CV)測定を行った。三種類の電極をポテンショスタット8030に接続し、100mVs-1の走査速度で測定を行った。測定温度は約25℃にて行った。本発明に関る大きなイオン半径を持つ陽イオンからなる支持塩を用いた電解液9040として、0.1M 1−ethyl−3−methylimidazolium hexafluorophosphate(EMIPF6)水溶液を使用した。前記電解質の陽イオンのイオン半径は0.239nm、陰イオンのイオン半径は0.254nmである。また、比較対象とする電解液として、0.1Mリン酸緩衝液(Na塩)pH 7.0(陽イオンのイオン半径0.102nm、陰イオンのイオン半径0.238nm)を用いた。
【0059】
図7では、前記EMIPF6を電解質として用いたCVを実線、リン酸緩衝液を電解質として用いたCVを点線で示す。図7からわかるように、EMIPF6を支持塩として用いた電解液を使用したCVからは、コバルトの酸化還元に起因する電流が0.13V付近に観測された。一方、リン酸緩衝液を電解液として用いたCVからは、コバルトの酸化還元に起因する電流は観測されなかった。
【0060】
[実施例の効果]
本発明のπ共役金属錯体固定化基板を用いた装置においては、水系電解質に多用されている支持塩と比較して大きなイオン半径をもつ陽イオンを電解質として使用する。これにより、π共役金属錯体分子を、直接、若しくはπ共役分子構造を介して基板に接続したπ共役金属錯体固定化基板のπ共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を水系電解質中で観測することができる。前記装置では、以下の効果が得られる。
【0061】
1.π共役分子構造がもつ高い電子伝達特性を生かした装置を作成することができる。
従来水系電解質中で用いられてきたπ共役金属錯体分子を固定化した基板では、非π共役の分子構造を介して電極に接続していた。この構造では、非π共役分子のもつフレキシビリティにより移動することが可能なため、支持塩の内圏(より電極寄り)に到達できる、若しくは、アルキル鎖の分子間力によるパッキングにより支持電解質の侵入を阻止することができると想像する。したがって、水系電解質においてもπ共役金属錯体分子の酸化還元が観測されていたと考えられる。しかし、このような非π共役分子構造を介して錯体と基板とを接続する構造では、π共役分子構造の有する高い電子伝達特性を生かすことはできなかった。本発明の実施例では、現在水系電解質に一般的に用いられている多くの支持塩と比較して大きなイオン半径をもつ陽イオンを電解質として使用することで、陽イオンがπ共役金属錯体分子と基板との間に侵入することを阻害できたと考えられる。その結果、π共役分子構造の有する高い電子伝達特性を水系電解液でも活かすことができる。
錯体から基板への電子伝達が高速化すると、例えば応答速度の速いセンサや、酵素電極において、酵素から基質(錯体)への電子移動が律速段階となっている系では、酵素のターンオーバー数を向上させることができる。その結果、検出可能濃度範囲の広いセンサや、微小センサ、また電流(出力)の大きな電池等のエネルギーデバイスを作製することが可能となる。
【0062】
2.多くの生体材料を使用することができる。
多くの生体材料は、本来的には、体液等の水溶液中に存在する。このため、DNAやたんぱく質に代表される生体材料は、水溶液以外の環境においては凝集、変性をおこしてしまうため、その本来の構造を保って機能を発揮することができないことが多い。
本発明のπ共役金属錯体固定化基板においては、π共役金属錯体分子を、直接、若しくはπ共役分子構造を介して基板に接続したπ共役金属錯体固定化基板の、π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を水系電解質中で観測することができる。このため、生体材料を、その本来の構造と機能を保持したまま利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】基板上に固定化されたπ共役金属錯体分子の分子半径と、π共役金属錯体分子の分子間に形成された空隙に接する円の半径との関係図である。
【図2】π共役金属錯体固定化基板の概念図である。
【図3】錯体分子/基板界面模式図である。
【図4】実施例1で形成されるπ共役金属錯体固定化基板の概念図である
【図5】各電解液におけるサイクリックボルタンモグラム測定図である。(実施例1)
【図6】実施例2で形成されるπ共役金属錯体固定化基板の概念図である。
【図7】各電解液におけるサイクリックボルタンモグラム測定図である。(実施例2)
【図8】π共役金属錯体固定化電極基板を用いた三電極セルの概略図である。
【符号の説明】
【0064】
1000 基板上に固定化されたπ共役金属錯体分子
1010 基板上に固定化されたπ共役金属錯体分子を模した円に内接する円
2000 基板
2010 π共役金属錯体分子
2020 π共役金属錯体分子と基板とを接続するπ共役分子構造
2030 水系電解質
2040 錯体と基板との間に形成される空隙と同等、若しくは大きなイオン半径をもつ陽イオン
3000 基板
3010 π共役金属錯体分子
3020 π共役金属錯体分子と基板とを接続するπ共役分子構造
3030 水系電解質
3040 錯体と基板との間に形成される空隙と同等、若しくは大きなイオン半径をもつ陽イオン
3050 錯体と基板との間に形成される空隙より小さなイオン半径をもつ陽イオン
3060 電位プロファイル
3070 電位プロファイル
4000 金蒸着ガラス基板
4010 π共役金属錯体分子(コバルトのターピリジン錯体)
4020 π共役金属錯体分子と基板とを接続するπ共役分子構造(フェニルチオール)
6000 金蒸着ガラス基板
6010 π共役金属錯体分子(コバルトのターピリジン錯体)
6020 π共役金属錯体分子と基板とを接続するπ共役分子構造(アゾベンゼン部位)
8000 作用電極
8010 参照電極
8020 対電極
8030 ポテンショスタット
8040 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板上に直接又はπ共役分子構造を介してπ共役金属錯体分子を固定したπ共役金属錯体固定化基板と、イオン半径がr(m)の陽イオンを含む水系電解質とを有し、前記水系電解質中で前記π共役金属錯体分子の電子移動(酸化還元反応)を利用した電気化学装置であって、前記π共役金属錯体分子の分子間に形成される空隙に接する球の半径をA(m)としたとき、電解質の陽イオンのイオン半径rが
r≧A
となることを特徴とする電気化学装置。
【請求項2】
前記Aは下記式(1)で表されるものである請求項1に記載の電気化学装置。
【数1】

(式(1)中、Gはπ共役金属錯体分子の吸着密度(molcm-2)、NAはアボガドロ数、Rはπ共役金属錯体分子の分子半径(m)を示す。)
【請求項3】
前記イオン半径rを有する陽イオンが、有機物由来の陽イオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−25230(P2009−25230A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190705(P2007−190705)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)