説明

かつらベース、かつら及びかつらの製造方法

【課題】ネットを用い、植設した毛髪のボリューム感と、耐久性と、形状安定性とに優れたかつら、その製造に用いるかつらベース及び製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】所定形状の網目22を多数形成する網目形成糸23と、網目形成糸23と方向性の異なる補強糸24とを有するかつらベース20を備え、網目形成糸23に多数の毛髪30aを取り付けると共に補強糸24に毛髪30bを取り付けることで、網目形成糸23の方向性及び補強糸24の方向性により異なる指向性を持った毛髪を混在させることができ、毛髪30a同士を根元付近で異なる方向に交差させて互いに支え合わせるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットを用いたかつらベースと、このかつらベースに多数の毛髪が取り付けられたかつらと、このかつらを製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、かつらは天然素材又は合成樹脂製の人工皮膚やネットで成形されたかつらベースに天然毛髪や人工毛髪を植設された構成を備える。かつらベースとして人工皮膚を用いたかつらは、ネットを用いたものに比べて通気性が劣ることがある。快適さを追求するかつらにおいては通気性の確保は重要な要素であるため、ネットを用いたかつらベースも多用されている。
【0003】
人間の頭髪は、通常毛包から頭皮を通って略垂直に生えているが、頭髪の先端部は頭部の湾曲形状に応じた流れを有している。例えば、前頭部では頭髪の流れは前額部方向へ、後頭部側では後方へ、また側頭部側では各々の側方へというように、頭部の湾曲状態に応じた方向に毛髪の流れを有する。
【0004】
この毛髪の流れに加え、人間の頭髪は多数の毛髪の立ち上がりによるボリューム感を有している。
図17(A)は、人間の頭髪、すなわち自毛51が生えている頭皮付近の断面模式図である。自毛51は頭皮52の内部にある毛包53によって固定されており、頭皮52が弾力性を有すると共に表面付近では自毛51との間に凹部54が形成されている。これにより頭皮52が自毛51の左右の動きに弾力的に対応することで、自毛51の弾力的可動範囲55が確保されている。そのため自毛51は毛包53を含む自毛固定層56で確実に固定されて立ち上がることができ、弾力的可動範囲55があることで弾力的に変位できるようになっている。
【0005】
その結果、ボリューム感のあるヘアスタイルを形成することができ、またブラッシング等により自毛51が一方向にまとまったり、束になって倒伏したりすることがない。しかも自毛51が弾力的に変位できるため、外部からの力、特に、上方向からの力が繰り返し加わっても無理なく追従できると共に、外部からの力による変位を復元できる。その結果、自毛51のボリューム感が失われずに維持することができ、外観が不自然になることがない。
【0006】
これに対し、図17(B)は、ネットを用いたかつらベースに毛髪30が取り付けられた状態を示す断面模式図である。
特に、ネットを用いたかつらベース61に毛髪を取り付ける場合には、かつらベース61を形成するネットのフィラメント25に毛髪30を捲回して結着固定する取付方法が広く行われている。
【0007】
かつらに取り付けた毛髪30の流れは、かつらベース61を構成するネットのフィラメント25に毛髪に所定の指向性を与えて取り付けることで形成できる。例えば図5に示すように、前額部の毛髪には前額部側Aに向けた流れを形成し、後頭部の毛髪には後頭部側Bに向けた流れを形成し、左右の側頭部の毛髪には各々の側方部側C、Dに向けた毛髪の流れを形成できる。
【0008】
かつらに毛髪の流れを付与する方法としては、例えば図18(A)に示す通り、毛髪30の毛先がA方向又はB方向を向くように、かつらベース61を構成する横糸25X及び縦糸25Yの一方又は双方に対し、略直角方向に毛髪30を結びつける、或いは図18(B)に示すように、かつらベース61を構成する横糸25X及び縦糸25Yの一方又は双方に対し、所望の角度をつけて毛髪30を結びつけることが知られている。各図中、破線は毛髪30を示し、黒丸は毛髪30の取り付け個所を示し、毛髪30の矢印が毛髪30の向きを示す。
【0009】
毛髪の取り付けは通常手作業で行なわれており、かつらベース61を構成するネットのフィラメント25に毛髪30を捲回して絡ませてから一定方向に引っ張ることで取り付けられる。その際、毛髪30は引っ張った方向に流れるので、毛髪30に所定の指向性を与えることができる。
【0010】
図18(A)に示すように、かつらベース61を構成するネットのフィラメント25に対し、略直角方向に毛髪を結びつける方法によれば、毛髪の取り付けが容易で作業効率が高く、しかも取り付けた毛髪が同一方向の毛流で規則的に並ぶので、毛髪がまとまりやすくきっちりとしたヘアスタイルを簡単にセットできる利点がある。
一方、図18(B)に示すように、かつらベース61を構成するネットのフィラメント25に対し、所望の角度をつけて毛髪を結びつける方法では、毛髪同士が根元付近で交差するため、立ち上がってボリューム感が得られる。
【0011】
ところが、ネットを用いたかつらでは、頭皮52のように毛髪30の弾力的可動範囲55がないため、かつらベース61に取り付けられた毛髪30は様々な動きに弾力的に追従することができない、あるいは追従できてもすぐに取り付けた時の毛髪30の流れる方向に戻ってしまう。そのため、ブラッシングなどによって毛髪30が束になりやすく、束になった毛髪が自重により倒伏して立ち上がらない結果、ボリューム感が失われて外観が不自然になり易い。しかも毛髪30が自毛のように弾力的に変位しないので、外部からの力などにより毛髪30が取り付け個所やその付近で折れ曲がってしまうと、毛髪30に折れ癖がつき、復元することが困難になる。
【0012】
毛髪の立ち上がりやボリューム感を維持するためには、かつらベース61の表面に弾力的可動範囲を設けて、毛髪30の倒伏を抑制することが必要であるが、かつらベース61を構成するネットのフィラメントには頭皮52のように凹部54が存在しない。そのため各毛髪30自体に所定の方向性を付与して、毛髪30の根元付近で毛髪同士を交差させてお互いに支え合わせることで、毛髪30の倒伏を抑制することや、弾力的可動範囲のような効果を得ることが知られている。
【0013】
例えば下記特許文献1には、矩形状の網目からなるネットが一面に張られ、網目の各辺に複数の毛髪が取り付けられて作製されたかつらが開示されている。
特許文献1に開示されたかつらによれば、網目を形成する各フィラメントに複数本の毛髪を取り付けることによって、毛髪が異なる方向に向いて毛髪同士が支えあうので、毛髪が立ち上がりやすく、ボリューム感を出すことができる。
特許文献2には、取り付ける毛髪の位置が規則的に制御されたかつらが開示されている。この文献2に開示されたかつらによれば、網目を形成する各フィラメントに対して、毛髪の位置を規則的に制御して取り付けられているので、毛髪にバラツキが生じることによって毛髪が束になることがなく、毛髪が立ち上がりやすく、ボリューム感を出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平10−77514号公報
【特許文献2】特開2009−35829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、かつらベースを構成するネットのフィラメントに対して、略直角方向に毛髪を結びつける方法で作製されたかつらでは、取り付けた毛髪が同一の方向に規則的に並びやすいため、毛髪の根元から毛先までがまとまり、束になる傾向があった。そうすると、束状にまとまった毛髪の自重によって、毛髪が立ち上がらずに倒伏してしまい、ボリューム感が失われ易かった。
【0016】
かつらベースを構成するネットのフィラメントに対して、所望の角度をつけて毛髪を結びつける方法は、取り付け技術が高度であり、取り付ける毛髪のフィラメントに対する方向を制御することが困難であるので、かつら全体で均一に毛髪同士を支えあうように取り付けることが難しかった。さらに取り付ける際に毛髪1本ずつの角度を確認する作業が不可欠となり、作業効率が著しく低下していた。
【0017】
特許文献1に開示された矩形に設けた網目の各辺に複数本の毛髪を取り付けるかつらでは、ヘアスタイルに応じた必要な毛髪量と毛髪のボリューム感とをバランスよく両立させることが容易でなかった。即ち、毛髪同士が互いに支え合える範囲でネットの網目を適度に大きく形成すれば毛髪が立ち上がり状態で維持できるため、ボリューム感は得られるものの、毛髪量が不足する。ところが、毛髪量を多くするためにネットの網目を小さくして多数の毛髪を取り付けると、毛髪が集まって束になり易く、時間の経過によって毛髪の自重で倒伏が起こり、その結果、ボリューム感が失われる。しかも、毛髪の結び目が所定の領域に集中するので、黒い斑点のように見えてしまうことがあり、外観が不自然になり易かった。
特許文献2に開示されたフィラメントに対して毛髪の方向性を規則的に制御して取り付けるかつらは、取り付ける各毛髪の方向と位置とを確認する作業が不可欠となり、作業効率が低下するという問題があった。
【0018】
これらの問題点に加えて、ネットを用いたかつらベースにより作製されるかつら全般においては、長期間の使用により、かつらの着脱時に生じる引張荷重やかつらベース自体の脆化によって、かつらベースを構成しているネットのフィラメントが切れることもあり得る。
ネットに切れが生じると、その切断箇所からシワが発生してかつらの形状が歪む原因となる。かつらが歪むと、かつらの変形、フィット感の低下等が生じる。さらに、かつらベースの切断箇所から取り付けた毛髪が脱落すると、所望のヘアスタイルを維持できなくなる。
【0019】
特に、ネットを用いたかつらベースにより製造されたかつらは通気性が良好であるために、一定期間着けっぱなしによる使用形態に向いている。一定期間着けっぱなしにする手段として、接着剤や両面粘着テープでかつらと装着者の頭部とを固定する他に、かつらと頭部自毛とを糸などを用いて編み込むように緊締する方法が広く行われているが、緊締する方法ではかつらベースが切れやすく、安定した固定力が得られないばかりでなく、かつらの形状に歪みが生じる。
【0020】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、毛髪を取り付けることで毛髪のボリューム感と、耐久性と、形状安定性とに優れたかつらが得られる、ネットを用いたかつらベースを提供すると共に、このネットを用いたかつらベースを使用し、毛髪のボリューム感と耐久性と形状安定性とに優れたかつらを提供し、さらに、そのかつらを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のかつらベースは、網目形成糸により形成された網目内に、該網目形成糸とは異なる方向性を有する補強糸が配置されたネットを備えたことを特徴とする。このかつらベースでは、補強糸が網目形成糸と一体に編成されていてもよい。
【0022】
本発明のかつらは、このかつらベースにおける網目形成糸と補強糸とに毛髪を取り付けてなることを特徴とする。
このかつらでは、網目形成糸に取り付けられた毛髪と補強糸に取り付けられた毛髪とが、根元付近で交差していること、網目形成糸に取り付けられた毛髪と補強糸に取り付けられた毛髪は、網目形成糸又は補強糸に対して略直交方向に延びているようにしてもよい。
【0023】
本発明のかつらの製造方法は、上述のようなかつらベースを準備する工程と、網目形成糸と補強糸とのそれぞれに毛髪を取り付ける工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のかつらベースによれば、網目を形成する網目形成糸と、この網目形成糸とは方向性の異なる補強糸とを備えるので、網目形成糸と補強糸とに毛髪を取り付ければ、網目形成糸の方向性及び補強糸の方向性により異なる指向性を持った毛髪を混在させることができ、毛髪同士を根元付近で異なる方向に交差させて互いに支え合わせることが可能である。そのため多数の毛髪が立ち上がった状態で多方向に支え合うことで、倒伏が抑制されて、毛髪のボリューム感に優れるかつらが得られる。
【0025】
しかも、網目形成糸によって多数の網目を形成していることに加えて、網目内に網目形成糸と異なる方向に補強糸が配置されているので、かつらベースに負荷される力を多くの方向に分散でき、かつらベースの切れを防止して耐久性と形状安定性とに優れるかつらを得ることができる。特にかつら装着者の頭部自毛とかつらを編込んで一定期間着けっぱなしする用途に好適に使用できる。
【0026】
本発明のかつらは、このかつらベースに毛髪を取り付けたものであるので、毛髪のボリューム感と耐久性と形状安定性とに優れている。しかも、多数の毛髪の倒伏が抑制されることで、かつらベースが露見しにくい。さらに補強糸に毛髪を取り付けられるため、ヘアスタイルに応じた必要な毛髪量を得ることができる。
本発明のかつらの製造方法によれば、網目形成糸により形成された網目内に、該網目形成糸とは異なる方向性を有する補強糸が配置されたネットを備えたかつらベースを予め準備し、網目形成糸と補強糸とにそれぞれ毛髪を取り付けるので、上述のようなかつらを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る実施形態のかつらの概略斜視図である。
【図2】本発明に係る実施形態のかつらベースの概略を示す平面図であり、(A)はかつらベースの全体の概要、(B)は一部の拡大図である。
【図3】本発明に係る実施形態におけるかつらベースの一部を表した模式図であり、(A)は網目形成糸と補強糸の配置を、(B)は補強糸の配置を示す。
【図4】本発明に係る実施形態における網目の一辺の長さが6mmの場合と3mmの場合とを説明する平面図である。
【図5】本発明に係る実施形態における毛髪の流れの方向を示す平面図である。
【図6】本発明における実施形態のかつらベースの製造工程の一部を示す平面図である。
【図7】実施例1における網目形成糸と補強糸との構成角度を示す平面図である。
【図8】(A)(B)は実施例1における網目形成糸及び補強糸の形態並びに毛髪を取り付けた状態を示す平面図である。
【図9】実施例2における網目形成糸及び補強糸に毛髪を取り付けた状態を示す平面図である。
【図10】実施例3における網目形成糸及び補強糸に毛髪を取り付けた状態を示す平面図である。
【図11】実施例4における網目形成糸及び補強糸に毛髪を取り付けた状態を示す平面図である。
【図12】実施例5における網目形成糸及び補強糸に毛髪を取り付けた状態を示す平面図である。
【図13】比較例1における網目形成糸及び毛髪を取り付けた状態を示す平面図である。
【図14】(A)(B)は実施例1の外観試験の結果を示す像の図であり、(A)は平面方向、(B)は側面方向を示す。
【図15】(A)(B)は比較例1の外観試験の結果を示す像の図であり、(A)は平面方向、(B)は側面方向を示す。
【図16】網目形成糸又は補強糸を構成するフィラメントの方向性を説明する図であり、(A)が1本の場合、(B)が異なる方向性で2本配置された場合、(C)が同一の方向性で2本配置された場合を示す平面図である。
【図17】自毛の状態(A)と人工毛髪の取り付け状態(B)との違いを説明する断面模式図である。
【図18】従来のかつらを説明する平面図であり、(A)はかつらベースを構成するネットのフィラメントに対して、略直角方向に毛髪を結びつける取付方法を示し、(B)は所定の角度をつけて毛髪を結びつける取付方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。
まず、各実施形態の説明に先立ち、かつらベースのネットにおけるフィラメントの方向性と、かつらにおける毛髪の指向性とについて説明する。
かつらベースを構成するネットのフィラメントの方向性とは、例えばフィラメントを直線とみなした場合や直線とみなせる範囲とした場合のフィラメントの向きに相当し、毛髪の取付方法などに左右されるものではない。例えば図16(A)に示すように、フィラメント25が1本の場合には方向性は一方向であり、図16(B)に示すように、横方向のフィラメント25Xと縦方向のフィラメント25Yとが配置されている場合には方向性は二方向である。また、図16(C)に示すように、横方向のフィラメント25Xと横方向のフィラメント25Xとが平行に配置されている場合には、方向性は一方向である。図18(A)及び(B)に示すかつらベース61のように、網目が矩形状に構成されたネットのフィラメント25では、横方向のフィラメント25Xと縦方向のフィラメント25Yとで二方向の方向性を有している。
【0029】
毛髪の指向性は、かつらベースを構成するネットのフィラメント25に毛髪30を取り付けた状態で、毛髪30の根元付近から先端側へ向かう向きであり、例えばフィラメント25に毛髪30を取り付ける際、図18(A)のようにフィラメント25から矢印Aの方向に毛髪30を引っ張ると、矢印Aの方向に毛髪30の毛先(先端)9が向くが、この毛先の向く方向を指向性と呼ぶ。
【0030】
図1〜図6は、実施形態を示す図である。
本発明の実施形態のかつら10は、図1に示すように、例えば頭部形状に応じた湾曲形状を呈するかつらベース20と、かつらベース20に植設された多数の毛髪30とを備える。なお図1はかつらの構成の概略を示すもので、理解容易のためにかつらベース20の詳細な構成や多数の毛髪30を簡略している。
かつらベース20は、例えば頭部形状に応じた湾曲形状を呈し、ネットのみを用いたものであっても、ネットに樹脂製の人工皮膚や布地等の他の材料が一体化された複合体であってもよい。
【0031】
[かつらベース]
図2及び図3に示すように、ネットを用いたかつらベース20は、二方向以上の方向性を有して所定形状の網目22を多数配列して形成するように間隔を開けて配置された多数の網目形成糸23と、網目形成糸23と異なる方向性を有して配置された多数の補強糸24とを備えたものであり、例えば経編機等で網目形成糸23と補強糸24とを一体に編成したものを用いることができる。
各網目形成糸23及び各補強糸24は、それぞれモノフィラメント糸又はマルチフィラメント糸により形成されている。網目形成糸23と補強糸24とは同じ繊度、断面形状、同じ素材であっても、いずれか一つ以上が異なってもよい。素材は特に限定されないが、吸水性がなく形状安定性に優れたポリエステルは好適である。
【0032】
かつらベース20の網目形成糸23は、モノフィラメント糸又はマルチフィラメント糸を直線状又は屈曲させて配置したもので、網目形成糸23同士を所定間隔で互いに交差させたり絡めたりすることで、一体に編成された多数の交点26が形成されている。本実施形態では、網目形成糸23を各交点26において交差させることで、平面的にとじられた空間が形成されており、この空間を網目22と称している。網目形成糸23の網目の形状は、特に限定されるものではなく、三角形、矩形等の多角形を採用できる。
【0033】
網目形成糸23により形成される網目の大きさは、特に限定されるものではないが、網目22の一辺あたりの長さは2.0mm以上6.0mm以下の範囲が好ましい。この範囲であれば、所望の毛髪量及びヘアスタイルが作り易く、さらに毛髪30の結び目が所定の箇所に集中することを抑制し易く、結び目が黒い斑点のように見え難くて外観が自然になる。
【0034】
網目22の一辺あたりの長さが2.0mm未満の場合、網目22内に配置される補強糸24との間の間隙が狭くなり過ぎて、複数の毛髪30が過剰に狭い間隔で近接して取り付けられることになり、互いに交差して支え合う効果が低減する。そうすると多数の毛髪30が集中して束になり易く、毛髪30が倒伏して、ボリューム感のあるヘアスタイルの維持が困難になることがある。しかも、毛髪30が倒伏することで、多数の毛髪30の取り付け部分が黒い斑点のように見えて、不自然な外観になることもある。
【0035】
一方、網目22の一辺あたりの長さが6.0mmを超える場合には、かつらベース20全体において網目形成糸23の絶対数が少なくなることで、植設可能な毛髪量の範囲が少なくなるとともに、各網目形成糸23に取り付けられる各毛髪30同士の間隙が大きくなってしまう。そのため網目形成糸23に取り付けられる毛髪30同士や、網目形成糸23に取り付けられる毛髪30と後述する補強糸24に取り付けられる毛髪30とが、それぞれの根元付近で交差しにくくなり、毛髪30同士が互いに支えあう効果が低減し、多数の毛髪30が倒伏し易くなる。
【0036】
具体例として、図4に網目形成糸23で形成される網目の一辺あたりの長さが6.0mmの網目22一個分を実線で示し、網目形成糸23の網目の一辺あたりの長さが3.0mmを破線で示す。図4からも明らかなように、一辺の長さが3.0mmの場合に4つの網目を形成できるのに比べ、6.0mmの場合には1つの網目しか形成できず、網目形成糸23に取り付けられる毛髪30同士の間隙は格段に大きくなる。
【0037】
この実施形態では、図3(A)に示すように、互いに隣接する網目形成糸23は、平行に配置された補強糸24に交互に一定の振幅で折り返して絡めることでジグザグに配置されている。網目形成糸23同士の折り返し部分23aで絡めることで、一体に編成された多数の交点26が形成され、平面的に閉じられた矩形の網目22が形成されている。
【0038】
一方、かつらベース20の補強糸24は、網目形成糸23により形成された各網目22内を横断するように網目形成糸23と異なる方向性で配置されていることが必要である。このように補強糸24が各網目22内に配置されることで、網目形成糸23の強度を向上でき、かつらベース20の製造時や使用時の引っ張り荷重が負荷された際の切れや変形を防止できる。
【0039】
各網目22内に配置される補強糸24の数は1本でも、複数本としてもよく、例えば補強糸24を複数本配置することで、多種のヘアスタイルに必要な毛髪量を得易く、また、配置本数に応じて引張強度を向上することができる。
【0040】
さらに、同じ方向性を持つ複数の補強糸24が二方向以上に配置されることで、網目形成糸23により形成された網目22内に、網目22より小さくて平面的に閉じられた面状閉空間(以下、第2の網目と称す)28を複数有する補強支持網29が構成されて、より強度を向上させることができる。
【0041】
補強支持網29を構成する場合、第2の網目28の形状は特に限定されるものではなく、三角形、矩形等の多角形を採用できる。
補強糸24により第2の網目28を形成する場合、第2の網目28の一辺あたりの長さは0.5mm〜2.0mmの範囲が好ましい。この範囲であれば、網目形成糸23の各網目22内に取り付ける毛髪30の本数を調整し易く、ヘアスタイルに応じて所望の部位に所望の毛髪量を得易くできる。しかも毛髪量を増やしても、網目形成糸23とは異なる場所に毛髪30を取り付けるので、毛髪30の結び目が所定の箇所に集中することを抑制でき、黒い斑点のように見えることがなく、自然な外観が得られる。
【0042】
補強糸24による第2の網目28の一辺あたりの長さが0.5mm未満の場合には、取り付ける毛髪30が束になり易くなるので、毛髪30の自重によって毛髪30が立ち上がらずに倒伏し、時間の経過によりボリューム感が失われ易くなる。また、各毛髪30同士の結び目が近接して所定の箇所に集中し、黒い斑点のように見えてしまうことがあり、外観が不自然になりやすい。
一方、補強糸24による第2の網目28の一辺あたりの長さが2.0mmを超える場合には、第2の網目28の空隙が大きくなるので、取り付け可能な毛髪量が少なくなり、ヘアスタイルに応じた必要な毛髪量を得ることができないこともある。
【0043】
このような網目形成糸23及び補強糸24により構成された本実施形態のかつらベース20では、網目形成糸23により形成される網目22が矩形を呈しており、図2に示した通り網目形成糸23の方向性はFからGにかけての方向と、EからHにかけての方向との2つである。一方、網目形成糸23により形成された網目22内に配置された複数の補強糸24は、網目形成糸23とは異なる方向性を有し且つ矩形を呈しており、補強糸24の方向性はCからDにかけての方向と、AからBにかけての方向との2つである。従って、本実施形態のかつらベース20における各部のネットの方向性は、合計4つである。
この網目形成糸23及び補強糸24の方向性は、後述するかつらベース20に取り付ける毛髪30の指向性の基礎となるものであり、本発明の課題を解決するためには3方向以上とすることが必要で、好ましくは4方向以上である。
【0044】
[毛髪]
次いで、上述のようなかつらベース20に植設される毛髪30について説明する。
本発明で用いる毛髪30は、天然毛髪、人工毛髪等の何れでもよい。網目形成糸23に取り付けられる毛髪30と補強糸24に取り付けられる毛髪30とは同一の毛髪30を用いてもよく、異なる材質からなる毛髪30を用いてもよい。ここでは網目形成糸23に取り付けられる毛髪を基本毛髪30aと称し、補強糸24に取り付けられる毛髪を支持毛髪30bと称す。また、基本毛髪30aと支持毛髪30bとは、材質だけでなく、長さ、カール径、色等を異ならせてもよい。
【0045】
毛髪30は、かつらベース20を構成するそれぞれの網目形成糸23又は補強糸24に結着することで取り付けられている。網目形成糸23又は補強糸24に対する各毛髪30を取り付ける部分31は、網目形成糸23又は補強糸24の交点26であってもよいが、毛髪30を安定して取り付けられ、取り付け箇所が解け難くなることに加えて、取り付け時の作業性を向上し得るため、交点26を除いた網目形成糸23又は補強糸24に毛髪30を取り付けることが好適である。
【0046】
基本毛髪30a及び支持毛髪30bの指向性は、特に限定されるものではなく、網目形成糸23により形成される網目22の少なくとも一辺と、補強糸24の第2の網目28の少なくとも一辺とに、公知の毛髪取付方法により付与される指向性であってもよい。また、基本毛髪30aの指向性は網目形成糸23の方向性に対して略直交するのが好ましく、同様に補強糸24に取り付けられた支持毛髪30bの指向性も、補強糸24の方向性に対して略直交するのが好ましい。このようにすれば高度な植設技術を要せず、作業効率が高い簡単な取付方法によって、網目形成糸23や補強糸24の方向性に応じた各毛髪30の指向性を安定して確実に付与することができる。
【0047】
本実施形態のかつら10では、多数の毛髪30が網目形成糸23と補強糸24とに取り付けられることで、それぞれ毛髪30の指向性を異ならせることができ、多数の毛髪30が根元付近で自然に交差する状態となる。
これらの多数の毛髪30は、さらにかつらベース20に取り付けられた後にスタイルセットされることで、所定の毛髪30の流れが形成される。ここでは、図5に示すように、網目形成糸23及び補強糸24の方向性と、毛髪30の指向性とに基づいて、前額部側A、後頭部側B、左右の側頭部側C及びD、左側方前額部側E、右側方前額部側F、左側方後頭部側G、並びに右側方後頭部側Hの8つの向きで、図中に矢印で示すようにそれぞれ頭部の湾曲状態に応じた方向で毛流が形成されている。これにより多種多様なヘアスタイルに対応することが可能となる。なお、左側方前額部側Eの向きの毛流とは頭頂部側から左前額髪際隅部付近に向かう毛流であり、右側方前額部側Fの向きの毛流とは頭頂部側から右前額髪際隅部付近に向かう毛流である。さらに左側方後頭部側Gとは右前額髪際隅部に対して頭頂部を挟んで反対位置のことであり、右側方後頭部側Hとは左前額髪際隅部に対して頭頂部を挟んで反対位置のことである。
【0048】
[かつらの製造方法]
次に、かつら10の製造方法について説明する。
かつら10を製造する方法は、本発明に適したネット27を用いてかつらベース20を準備する準備工程と、かつらベース20の網目形成糸23に対して基本毛髪30aを取り付ける基本毛髪取付工程と、かつらベース20の補強糸24に対して支持毛髪30bを取り付ける支持毛髪取付工程とを備える。
【0049】
準備工程では、まず、上述のかつらベース20を形成するための平坦なネット27を準備する。次いで平坦なネット27をかつら装着者の頭部形状に成形する。
例えば図6に示すように、かつら装着者の頭部形状に模して作製した雄型の石膏型41に、図3に示されるように編成したネット27を張り付けて固定する。ネット27に熱硬化性ウレタン樹脂溶液を塗布した後に、加熱処理によりネット27を頭部形状に成形する。
【0050】
その後、ネット27を石膏型41から取り外し、成形されたネット27の外周に、かつら外縁部露見防止用の帯状部材42を取り付ける。この外縁部露見防止用の帯状部材42を半折りにし、成形されたネット27の表面側、即ち、植設した毛髪が延出する側の外周端部の所定の位置に仮止めした後、縫製によりネット27と一体化する。これによりネットを用いたかつらベース20を作製する。
【0051】
基本毛髪の取付工程では、かつらベース20の網目形成糸23に基本毛髪30aを取り付ける。
かつらベース20に基本毛髪30aを取り付けるには、まず頭部形状の雄型に一致する位置にかつらベース20を合わせて固定する。そして、基本毛髪30aの中央部を二つ折りにした折れ部をかつらベース20に結びつけることで取り付ける。具体的には、網目形成糸23により形成された網目に対し、表面から鉤針を挿入して網目形成糸23をすくい上げた後、鉤針の鉤部に基本毛髪30aを引っ掛けて結ぶが、その際、基本毛髪30aを、かつらベース20の網目形成糸23に対して略直角の向きに引っ張って結着する。取付方法としては、公知のひばり結びもしくは巻き結びなどを用いてもよい。
【0052】
支持毛髪30bの取付工程では、網目形成糸23により形成された網目22内の補強糸24に支持毛髪30bを取り付ける。かつらベース20に支持毛髪30bを取り付けるには、基本毛髪30aを網目形成糸23に取り付ける方法と同様に鉤針を用いて行うことができる。
【0053】
そして、このような基本毛材の取付工程及び支持毛材の取付工程を完了することで、かつらベース20の全ての領域に多数の毛髪30を取り付け、かつらを完成することができる。
このようにしてかつら10を製造すれば、上述のようなかつら10を容易且つ確実に製造することが可能である。
【0054】
なお、基本毛髪30aの取付工程と支持毛髪30bの取付工程との順序は特に限定されるものではなく、作業効率などの観点から、上記とは逆に、先に支持毛髪30bの取付工程を行った後、基本毛髪30aの取付工程を行うことも可能であり、各取付工程を交互に行うことも可能である。
また、各毛髪取付工程では、網目形成糸23又は補強糸24に対して毛髪30を引っ張る方向を全て同じ方向としなくてもよく、例えば各網目形成糸23又は補強糸24の方向性に対して略直交と、略反対となる二方向としてもよい。
【0055】
このような実施形態のかつら10に対し、仮に2枚以上の異なる形状のネットを重ねて縫製による一体化で製造したかつらベースを用いたりすると、ネットを重ねることでかつらベースが厚くなり、装着感の低下のような問題が生じることに加え、かつらの使用中にブラッシング等で重ねたかつらベース同士の縫合部分がほつれて、上部に位置するかつらベースが浮いてしまうなど、かつらベースに歪みが生じて、取り付けた毛髪30が意図しない方向に向き、外観が不自然になることがある。
しかし、本実施形態のかつら10では、所定形状の網目22を多数形成する網目形成糸23と、網目形成糸23と方向性の異なる補強糸24とが例えば一体に編成されたかつらベース20を用いるため、このようなことを容易且つ確実に防止できる。
【0056】
上記実施形態は本発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば上記では、網目形成糸23により形成される各網目22内に補強糸24を配置した例について説明したが、特に限定される必要はなく、かつらベース20の一部の網目22内に補強糸24が配置された構成であってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例について説明する。
異なる構成で予め形成されたネット27を用いる他は全て同様にして、実施例1〜5及び比較例1,2のかつらを製造し、得られたかつら10におけるかつらベース20の引張切断荷重を測定した。
【0058】
[かつらベースの製造]
図6に示すように、複数のフィラメントからなる各実施例のネットを雄型の石膏型41に貼り付け、熱硬化性ウレタン樹脂溶液を塗布し、加熱温度100℃で8時間乾燥させて成形を行ない、ネットを用いたかつらベース20を作製した。使用した熱硬化性ウレタン樹脂溶液は、日新レジン株式会社製のE−64A(No.1.2.3)6.5g、E−6・S(No.1)3.5g、メチルエチルケトンを所定量混合して使用した。ここではメチルエチルケトンの配合量を調整することにより、成形後のネット27の硬さを適度なものに調整した。
その後、成形されたネット27の外周にかつら外縁部露見防止用のメッシュ状である帯状部材42を取り付けた。帯状部材42は14mmの幅で長さ70cm以上に切断し、ネット27の外周端部にある不要部分を切除した後、外縁部露見防止用の帯状部材42を半折にし、植設する毛髪30が延出する側であるネット27の表面側の外周端部の所定位置に取り付けて縫製した。
【0059】
[引張切断荷重の測定方法]
試験片の寸法を6mm×150mmに切断採取し、1gの初荷重を加えたこと以外は、全てJIS K6404−3 試験方法B(ストリップ法)に準拠した。
【0060】
[実施例1]
実施例1のかつらベース20は、84dtex/48fのポリエステルからなるフィラメントを用いて編成した図7及び図8(B)に示すような平坦なネット27を用いた。網目22は一辺あたりの長さが4.0mmの矩形状であった。さらに、4本の横糸と3本の縦糸からなる補強糸24を網目22内に一辺あたりの長さが1mmの矩形状になるように第2の網目28を構成した。図7に示すように、網目形成糸23と補強糸24とは45度で交差していた。また、網目形成糸23により形成された網目22の中心線上の1つの交点26aが前額部側Aに向いて左右対称となるように、かつらベース20を位置させた。
【0061】
図8(A)及び(B)に示すように、網目形成糸23のa辺及びc辺には、左側方前額部側Eの指向性を有するように複数本の毛髪30aを取り付け、b辺及びd辺には、右側方前額部側Fの指向性を有するように複数本の毛髪30aを取り付けた。また、補強糸24には、横糸に後頭部側Bの向きに指向性を有するように複数本の毛髪30bを取り付けた。
得られたかつら10の引張切断荷重は、かつらベース20の前額部側A及び後頭部側Bの向き(縦方向)が12.26N/mmであり、左右側頭部側C、Dの向き(横方向)が5.87N/mmであった。
【0062】
[実施例2]
実施例2のかつらベース20は、実施例1と同様のフィラメントを用いて編成したネット27を用いた。網目22は実施例1と同一の矩形状で、網目22の一辺あたりの長さが4.0mmで構成した。
図9に示すように、1本の縦糸で補強糸24を構成した。網目形成糸23により形成された網目22の中心線上の1つの交点26aが前額部側Aに向いて左右対称となるように、かつらベース20を位置させた。
網目形成糸23には、左側方前額部側E及び右側方前額部側Fの指向性を有するように複数本の毛髪30aを取り付けた。補強糸24には、縦糸に左右側頭部側C、Dの向きに指向性を有するように複数本の毛髪30bを取り付けた。
得られたかつら10の引張切断荷重は、かつらベース20の前額部側A及び後頭部側Bの向き(縦方向)が7.10N/mmであり、左右側頭部側C、Dの向き(横方向)が3.01N/mmであった。
【0063】
[実施例3]
実施例3のかつらベース20は、実施例1と同様のフィラメントを用いて編成したネット27を用いた。網目22は実施例1と同一の矩形状で、網目22の一辺あたりの長さが4.0mmで構成した。
図10に示すように、1本の横糸と1本の縦糸とで補強糸24を構成した。網目形成糸23により形成された網目22の中心線上の1つの交点26aが前額部側Aに向いて左右対称となるように、かつらベース20を位置させた。
網目形成糸23には、左側方前額部側E及び右側方前額部側Fの指向性を有するように複数本の毛髪30aを取り付けた。補強糸24には、横糸に前額部側Aの向きに指向性を有するように複数本の毛髪30bを取り付け、縦糸に左右側頭部側C、Dの向きに指向性を有するように複数本の毛髪30bを取り付けた。
得られたかつら10の引張切断荷重は、かつらベース20の前額部側A及び後頭部側Bの向き(縦方向)が8.64N/mmであり、左右側頭部側C、Dの向き(横方向)が4.08N/mmであった。
【0064】
[実施例4]
実施例4のかつらベース20は、実施例1と同様のフィラメントを用いて編成した。網目22は六角形状で、網目22の一辺あたりの長さが3.0mmで構成した。
図11に示すように3本の補強糸24を配置した。網目形成糸23により形成された網目22の中心線上の1つの交点26aが前額部側Aに向いて左右対称となるように、かつらベース20を位置させた。
網目形成糸23には、左側方前額部側E及び右側方前額部側Fの指向性を有するように複数本の毛髪30aを取り付けた。補強糸24には、前額部側A、右側方前額部側F及び右側方後頭部側Hの向きに指向性を有するように複数本の毛髪30bを取り付けた。
得られたかつら10の引張切断荷重は、かつらベース20の前額部側A及び後頭部側Bの向き(縦方向)が11.09N/mmであり、左右側頭部側C、Dの向き(横方向)が5.47N/mmであった。
【0065】
[実施例5]
実施例5のかつらベース20は、実施例1と同様のフィラメントを用いて編成したネット27を用いた。網目22は三角形状で、網目22の一辺あたりの長さが5.0mmで構成した。図12に示すように3本の補強糸24を配置した。網目形成糸23により形成された網目22の中心線上の1つの交点26aが前額部側Aに向いて左右対称となるように、かつらベース20を位置させた。
網目形成糸23には、前額部側A、左側方後頭部側G及び右側方後頭部側Hの指向性を有するように複数本の毛髪30aを取り付けた。補強糸24には、右側頭部側D、左側方前額部側E及び右側方前額部側Fの向きに指向性を有するように複数本の毛髪30bを取り付けた。
得られたかつら10の引張切断荷重は、かつらベース20の前額部側A及び後頭部側Bの向き(縦方向)が10.32N/mmであり、左右側頭部側C、Dの向き(横方向)が5.33N/mmであった。
【0066】
[比較例1]
比較例1のかつらベース61は、実施例1と同様のフィラメントを用いて編成したネットを用いた。網目22は実施例1と同一の矩形状で、網目22の一辺あたりの長さが4.0mmで構成した。
図13に示すように、網目22内に補強糸24を編成しなかった。網目形成糸23により形成された網目22の中心線上の1つの交点26aが前額部側Aに向いて左右対称となるように、かつらベース61を位置させた。
網目形成糸23には、左側方前額部側E及び右側方前額部側Fの指向性を有するように複数本の毛髪30を取り付けた。
得られたかつら10の引張切断荷重は、かつらベース61の前額部側A及び後頭部側Bの向き(縦方向)が1.87N/mmであり、左右側頭部側C、Dの向き(横方向)が1.13N/mmであった。
【0067】
[比較例2]
比較例2のかつらベース61は、84dtex/77fのポリエステルからなるフィラメントを用いて平織りで構成したネットを用いた。比較例1とほぼ同一の矩形状の網目で、網目22の一辺あたりの長さが4.0mmで構成した。網目形成糸23により形成された網目22の中心線上の1つの交点26aが前額部側Aに向いて左右対称となるように、かつらベース61を位置させた。毛髪30の取り付けは、比較例1と同様に行なった。
得られたかつら10の引張切断荷重は、かつらベース61の前額部側A及び後頭部側Bの向き(縦方向)が7.94N/mmであり、左右側頭部側C、Dの向き(横方向)が5.13N/mmであった。
【0068】
以上のようにして製造された実施例及び比較例の各かつら10を使用者に装着し、外観試験を行った。
その結果、実施例1〜5のかつら10では、かつら10に取り付けた毛髪30が立ち上がり、毛髪30の倒伏が抑制されており、時間が経過してもボリューム感が保持されるので、自然な外観であった。毛髪30が倒伏しにくくなっていることから、毛髪30の根元付近のかつらベース20が露見することはなく、極めて自然な外観が維持された。
【0069】
しかも、引張切断荷重の測定からも明らかな通り、網目形成糸23と補強糸24とが異なる向きに配置されて連結されているので、かつらベース20にかかる力を分散できて、引張強度が向上した。そのためかつらベース20が切れにくくなり、優れたかつら10の形状安定性を得ることができた。
かつらの製造時には、異なる方向に配置された網目形成糸23と補強糸24とに対して同じ角度で毛髪30を取り付けたので、取り付け時に毛髪30の角度や位置を規則的に制御する必要がなく、作業効率が格段に高まり、かつら10の品質も向上した。
【0070】
一方、比較例1、2では、補強糸が編成されておらず、かつらベース61にかかる力が一方向に集まりやすくなるので、引張強度が低くなり、かつら10に歪みが生じやすくなっていた。
さらに比較例2は平織物であり、糸の交点の自由度が低いため、装着感が低下した。
【0071】
次に、実施例1と比較例2のかつらベース20,61を縦横3cmに切断したものに、同じ毛髪30を、同じ毛髪量で取り付けたサンプルを作成して外観試験を行った。
【0072】
実施例1のサンプルの外観を図14(A)(B)の像に示すと共に、比較例2サンプルの外観を図15(A)(B)の像に示す。
さらに、10名のパネラーによりボリューム感を目視で評価する目視試験を行った。
結果を表1に示す。
【0073】
【表1】


これらの結果から明らかな通り、実施例サンプルでは、毛髪30がふんわりと立ち上がり、優れたボリューム感が得られた。
一方、比較例サンプルでは、毛髪30が束状になり易くて倒伏してしまい、ボリューム感が劣る不自然な外観となった。
【符号の説明】
【0074】
10 かつら
20 かつらベース
22 網目
23 網目形成糸
24 補強糸
25 フィラメント
25X 横糸
25Y 縦糸
26 交点
27 ネット
28 第2の網目
30 毛髪
30a 基本毛髪
30b 支持毛髪
31 取り付け部
41 石膏型
42 帯状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目形成糸により形成された網目内に、該網目形成糸とは異なる方向性を有する補強糸が配置されたネットを備えたかつらベース。
【請求項2】
前記補強糸は前記網目形成糸と一体に編成されてなる、請求項1に記載のかつらベース。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のかつらベースにおける前記網目形成糸と前記補強糸とに毛髪を取り付けてなるかつら。
【請求項4】
前記網目形成糸に取り付けられた前記毛髪と前記補強糸に取り付けられた前記毛髪とが、根元付近で交差している、請求項3に記載のかつら。
【請求項5】
前記網目形成糸に取り付けられた前記毛髪と前記補強糸に取り付けられた前記毛髪は、上記網目形成糸又は上記補強糸に対して略直交方向に延びている、請求項3又は4に記載のかつら。
【請求項6】
網目形成糸により形成された網目内に、該網目形成糸とは異なる方向性を有する補強糸が配置されたネットを備えたかつらベースを準備する工程と、上記網目形成糸と上記補強糸とのそれぞれに毛髪を取り付ける工程とを備えた、かつらの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−246831(P2011−246831A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119145(P2010−119145)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000126676)株式会社アデランス (49)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)