説明

かつら及びその製造方法

【課題】 薄いかつらベースの場合においても艶消し効果が高く、外部から視認し難く、かつ、頭皮に貼着した時に皮膚の動きに追従し、頭皮との密着性が良好で剥離し難い艶消しかつらベースを有するかつら及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 かつらベース2の少なくとも一部が軟質合成樹脂製の人工皮膚ベース2で成り、人工皮膚ベース2に艶消し剤4を混合すると共に、人工皮膚ベース2表面に微細な凹凸部20を形成することで艶消し処理を行う。人工皮膚ベース2の部材としてウレタン樹脂を、艶消し剤4としてシリカなどからなる無機物粒子を用い得る。微細な凹凸部20を細メッシュ繊維による転写で形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部の薄毛又は脱毛状態の部位を覆うかつらに利用でき、外部から視認し難い艶消しかつらベースを有するかつら及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、かつらは、かつらベースとこのかつらベースに植設した人毛又は人工毛髪でなる毛髪とで構成されている。かつらベースとしては、通気性の点で優れるネット部材を主体としたものや、主として軟質の合成樹脂、例えばウレタン樹脂で成形した人工皮膚製のものなどが知られている。後者の人工皮膚製のかつらベースは、外観上、頭皮と同じ皮膚感を呈することができるので、とくに生え際や分髪部又はつむじ部などのように外部から視認し易い部分に好適であるため、かつらベース全体を人工皮膚で成形する場合のほか、ネット製のかつらベースの生え際や分髪部又はつむじ部だけを部分的に人工皮膚とする場合などに、多用されている。
【0003】
人工皮膚製のかつらベースに毛髪を取り付ける場合、頭皮から恰も頭髪が生えているように見せるために、かつらベースに毛髪を挿通させるだけの、所謂V型植設(V植え)が重用される。V型植設は、鉤針などの植設具を用いて二つ折りにした毛髪を表面側から裏面側に貫通し、1mm程度の針足部を作って、二つ折りにした毛髪の一方を再び表面側に引き抜くことでV状に植設するものである。しかし、毛髪をV状に植設しただけでは手指やブラッシングなどで簡単に毛髪が引き抜かれるので、毛髪を固定するの為の毛止め工程が不可欠になる。この毛髪固定のために、通常、植設後にかつらベースの裏面から、有機溶剤で希釈した接着用溶剤を塗布し、人工皮膚に対してこの溶剤を付着して固化することで、毛髪の針足部を人工皮膚と接着剤塗膜との間でサンドイッチ状に挟んで固定保持している(特許文献1及び2参照)。
【0004】
さらに、人工皮膚製のかつらであっても、植設した毛髪の隙間を通して光が人工皮膚ベースに反射されて、頭皮色と異なる不自然な光沢が現れる場合がある。かつらベースの表面に光沢があるとかつらを装着していることが容易に視認される恐れがあるため、不自然な光沢を抑える艶消し加工を施すことが望ましい。この艶消し加工としては、合成樹脂材で形成した人工皮膚ベースの表面をサンドブラストやエンボス加工等で物理的に粗面化したり、無機物などの異物を合成樹脂中に混入したりすることにより、入射した光を乱反射させて光沢を抑える工夫などが知られている。
サンドブラストやエンボス加工は、機械を用いてシート状あるいはフイルム状の平たい材料を加工するには向いているが、頭部の形状が付いた膨出状のかつらベースを加工するのには不向きである。無機物などの異物を混入する方法は簡便でかつらの製造に好適ではあるが、これだけで艶を消して自然な光沢に制御することは困難であり、また軟質の合成樹脂材中に無機物が混合されるため、かつらベースが硬くなり、使用者それぞれの頭部形状や頭皮の動きへの追従が困難である。
【0005】
さらに、頭部の形状が付いたかつらベースの艶消し加工として、特許文献3及び4には、かつらベース部材表面をランダムに浸食させて微細な凹凸を付与して粗面化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭52−123755号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第3484565号公報
【特許文献3】特開平2−216207号公報
【特許文献4】特開平3−69601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来のかつらベースの表面の光沢を抑える艶消し加工において、サンドブラストやエンボス加工などによって物理的に表面を粗面化する方法や、無機物などの異物を混入して艶を抑える方法は、適宜の度合いに艶を消し、ヒトの頭皮と同じような光沢感や皮膚感を醸しだして自然な光沢に制御することが困難である。
【0007】
とくに、人工皮膚ベースとなる合成樹脂材に無機物などの異物を混入する方法は、或る混入割合までは混入する無機物の色は目立たないが、一定割合を超えると無機物の色が目立ち、人工皮膚ベース自体の色が不自然になること、さらに、成形した人工皮膚ベースが硬くなり、頭皮に貼着した時に皮膚の動きに追従できず頭皮との密着性が低下することから、特に接着剤を用いてかつらベースを頭皮に接着する方式では剥離し易い点で不利である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、軟質の合成樹脂材で肉薄に成形した人工皮膚製のかつらベースの場合においても、艶消し効果が高く、恰もヒトの頭皮の光沢感と皮膚感とを備えており、従って外部からかつらベースであることを視認し難く、かつ、特に接着剤を用いてかつらベースを頭皮に接着する方式の場合、頭皮の動きに追従し、頭皮との密着性が良好で剥離し難い、艶消しかつらベースを有するかつら及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明のかつらは、かつらベースの少なくとも一部が軟質合成樹脂製、例えばウレタン樹脂の薄いシート状に作られた頭形状の人工皮膚ベースで成っており、この人工皮膚ベースは、艶消し剤が混合されていると共に、表面に微細な凹凸部が形成されることにより、艶消し処理がされていることを特徴とする。
上記構成において、艶消し剤は無機物粒子であり、好ましくは、人工皮膚ベース表面の微細凹凸部の表面に露出し、この表面側から所定の深さまで添加されているだけで、人工皮膚ベースの裏面、即ち、装着時に頭皮と密着する内面側には艶消し剤は達していない。さらに、人工皮膚ベースの表面は、細メッシュ繊維による転写により微細な凹凸部が形成されている。人工皮膚ベースは、例えばウレタン樹脂で薄いシート状に成形される。
さらに、本発明の他の構成のかつらは、かつらベースの少なくとも一部が軟質合成樹脂製の人工皮膚ベースで成っており、人工皮膚ベースが、艶消し剤を含まない基層と、この基層上に積層した艶消し剤を混合した上層との二層で成り、上層の表面に微細凹凸部が形成されることで艶消し処理されてなることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、人工皮膚ベースには艶消し剤が添加されると共に、表面が微細な凹凸部により艶消し処理されているので、恰も人の頭部と同程度に艶消しされた頭皮感が得られると共に、微細凹凸が皮膚の皺模様を呈してヒトと同じ皮膚感が得られ、毛髪の隙間を通して外部光が人工皮膚ベースに入射しても、艶消し剤と表面の微細凹凸の存在により、光が乱反射されてかつらベースの存在が露見されにくいかつらを実現できる。さらに、艶消し剤が人工皮膚ベースの表面から所定の深さまで添加されている場合、すなわち、人工皮膚の表面側だけに配合されて、裏面側すなわち装着時に頭皮と密着する内面側の領域には艶消し剤が達していない場合には、人工皮膚ベースの頭皮に接する下側には艶消し剤が配合されず柔軟な状態を維持しているので、特に人工皮膚ベースを接着剤を用いて頭皮に貼着した場合には皮膚の動きに追従し、頭皮との密着性が良好で剥離し難いかつらを提供することができる。
【0011】
また、本発明のかつらの製造方法は、かつらベースの少なくとも一部を構成する軟質合成樹脂材の人工皮膚ベースを形成する際に、人工皮膚ベースに艶消し処理を行う工程を含み、この艶消し処理工程は、軟質合成樹脂材に艶消し剤を添加して艶消し層を形成する工程と、表面に微細な凹凸部を形成する工程と、からなることを特徴としている。
上記構成において、人工皮膚ベースの形成工程は、好ましくは、合成樹脂材の溶液を塗布し乾燥することで所定のベース形状と所定厚さの基層を形成する工程と、次いで、合成樹脂材の溶液に無機物粒子を添加した溶液を基層の上面に塗布し乾燥することにより所定厚さの艶消し層を形成する工程とで成る。上記艶消し層の形成工程は、合成樹脂材の溶液に無機物粒子を添加した溶液を塗布し乾燥することにより、人工皮膚ベースの形成工程中で行われる。
また、人工皮膚ベースの微細凹凸部形成工程は、好ましくは、艶消し層の形成工程の後に、艶消し層の上から細メッシュ状のネット部材を被せ、この細メッシュの転写により行う。さらに詳しくは、艶消し層の形成工程の後に、艶消し層の上から細メッシュ状のネット部材を被せ、さらに合成樹脂材の溶剤を塗布して乾燥した後ネット部材を剥離することにより、艶消し層を若干溶解することで細メッシュを転写して、凹凸部を形成する。
さらに、人工皮膚ベースの形成工程は、好ましくは、頭部形状の雄型に合成樹脂材の溶液を所定のベース形状になるよう塗布し乾燥することにより所定厚さの基層を形成する工程と、次いで、合成樹脂材の溶液に無機物粒子を添加した溶液を上記基層の上面に塗布し乾燥することにより所定厚さの艶消し層を形成する工程とで成る。
前記人工皮膚ベースは、例えばウレタン樹脂により、頭部形状の雄型上で頭形のシート状に成形される。
【0012】
上記構成によれば、人工皮膚ベースを、無機物粒子を含まない基層とその上側の無機物粒子の艶消し剤を含む艶消し層との二層に形成するので、少なくとも頭皮に密着する人工皮膚ベースの基層側は柔軟性に富み、人工皮膚ベースを被着した時に頭皮との密着性が良好なかつらが得られる。また、艶消し層の表面にさらに微細な凹凸部を形成することで艶消し処理するので、恰も人の頭部と同程度に艶消しされた頭皮感が得られると共に、微細凹凸が皮膚の皺模様を呈してヒトと同じ皮膚感が得られ、毛髪の隙間を通して外部光が人工皮膚ベースに入射しても、艶消し剤と表面の微細凹凸の存在により、光が乱反射されてかつらベースの存在が露見され難い。
【発明の効果】
【0013】
本発明のかつら及びこのかつらの製造方法によれば、人工皮膚ベースに艶消し剤が添加されると共に、表面が微細な凹凸部により艶消し処理されているので、恰も人の頭部と同程度に艶消しされた頭皮感が得られると共に、微細凹凸が皮膚の皺模様を呈してヒトと同じ皮膚感が得られ、毛髪の隙間を通して外部光が人工皮膚ベースに入射しても、艶消し剤と表面の微細凹凸の存在により光が乱反射され、人工皮膚を用いたかつらベースであることが視認でき難いかつらを実現できる。さらに、人工皮膚ベースを接着剤により頭皮に貼着した時に皮膚の動きに追従し、頭皮との密着性が良好で剥離し難いかつらを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明により艶消し処理されたかつらベース2を有するかつら1の構成を模式的に示す断面図で、図2は図1のかつら1の表面側、即ち、毛髪3が上方に伸びる方向を示す平面図である。図に示すように、かつら1は、基本的には艶消し処理されたかつらベース2とこのかつらベース2に植設される毛髪3とで構成されている。
かつらベース2の艶消し処理は、かつらベース2中へ艶消し剤4を添加することによりかつらベースに艶消し層を形成することと、かつらベース表面、即ち、植設された毛髪が延在し外部から視認される側の表面、に微細な凹凸部20を形成することから成る。この微細な凹凸部20は、凹部20aと凸部20bとから成っている。また、図示の場合、艶消し剤4は、かつらベース2の全体に混合されることなく、かつらベース2の表面側から所定の領域21の深さまで添加されている。
さらに、本発明のかつらベース2には、その裏面(内面)側に、後述するように、植設した毛髪3をかつらベース2に固定するための接着層5を備えていてもよい。
【0015】
ここで、艶消し処理されたかつらベース2は人工皮膚部材で形成される。以下、人工皮膚部材で作ったかつらベースを人工皮膚ベースと称する。本発明では特にかつらベースの全体を人工皮膚部材で作ったものであってもよく、或いは、ネット部材を主体として形成したかつらベースの一部、例えば前額部や頭頂部或いは分髪部のみに人工皮膚ベースを用いて形成したものであってもよい。この人工皮膚部材の材料は、例えばウレタン樹脂やシリコン樹脂のような軟質合成樹脂にて肉薄に成形することができる。ウレタン樹脂やシリコン樹脂のように軟質の合成樹脂はある程度の弾力性や伸縮性を有しているため、頭皮に密着して被着したときにフィット感に優れている。
【0016】
人工皮膚ベース2を軽量化するために厚さを薄くする場合には、艶消し効果と頭皮に貼着したときの皮膚の動きへの追従性とを考慮して、艶消し剤4を人工皮膚ベース2の表面からの深さをなるべく浅く添加することが好ましい。一例として、人工皮膚ベース2の厚さを、0.05〜0.1mm程度に設定する場合には、艶消し剤4を人工皮膚ベース2の表面側から0.01〜0.02mm程度の深さまで添加すれば十分である。0.01mmよりも浅いと艶消し剤自体の色が目立って艶消し効果が十分でなく、0.02mm程度よりも厚いと人工皮膚ベース2の表面の光沢が消えず、さらに硬化し、頭皮の動きに追従し難くなり好ましくない。
【0017】
図3は本発明のかつらの構成の変形例を模式的に示す断面図である。本発明のかつら10は、人工皮膚ベース2を、艶消し剤4を含まない基層2aとこの基層2a上に積層した艶消し剤4を混合した上層2bとの二層で形成し、この上層2bの表面に微細凹凸部2c(図2参照)を形成することで艶消し処理する。他の構成は、図1に示したかつら1と同じであるので説明は省略する。いま、人工皮膚ベース2の全体の厚さを0.05〜0.1mm程度に設定した場合は、基層2aは0.04〜0.08mm程度の厚さとし、艶消し剤4を添加した上層2bを0.01〜0.02mm程度の厚さに設定すれば、良好な艶消し効果と共に、柔軟な基層2aによる頭皮への良好な追従を発現することができる。
【0018】
艶消し剤4は、各種の無機物粒子が使用できる。この無機物粒子4の材料としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ゼオライト、硝子の何れかを用いることができる。特に、粒子径が1〜10μmの粉末状のシリカが好適である。この際、粉末状のシリカは、塗布する適宜な有機溶剤中に溶解させた熱可塑性エラストマー重量に対して5〜25%が望ましい。艶消し剤4として、例えば粉末状のシリカを適量用いることで、シリカ自身の色が目立つこと無く、被着者の頭皮の色が透けて見えるので、艶消し処理した人工皮膚ベース2と頭皮の境目が視認され難くなり、かつら被着時の自然さが向上する。
【0019】
微細な凹凸部20は、後で詳述するが、ネット状の織物などの細メッシュ繊維を用いた転写により形成することができる。このようなネット部材を構成する縦横の微細な格子状のフィラメントを人工皮膚ベース2に押しつけてこのメッシュ模様を転写することで、人工皮膚ベース2の表面に微細なメッシュ模様の凹凸が形成される。この微細な凹凸部が、皮膚を擬似した模様を呈する。
【0020】
人工皮膚ベース2へ植設される毛髪3は人毛または人工毛からなる。図示するように、毛髪3は、艶消し処理された人工皮膚ベース2の表面側から裏面に貫通して植設され、再び人工皮膚ベース2の表面側に引き抜くことにより、V字状又はU字状に植設することができる。この人工皮膚ベース2の裏面に貫通し、裏面側の露出する毛髪部を針足部3Aと呼ぶことにする。なお、このような植設方法を通常、V植えと称している。
【0021】
ところで、V植え技法により人工皮膚ベース2に植設した毛髪3は、単に人工皮膚ベース2の表側から裏側に毛髪3の一方を通して再び表側に引き抜くことでV状に植設しているだけであるから、簡単に引き抜かれてしまうので、植設した毛髪3を確実に固定するために、植設後、艶消し人工皮膚ベース2の裏面から、有機溶剤で希釈した接着用溶液を塗布し、人工皮膚に対してこの溶液を付着して固化させ、所謂接着層5を形成することが必要である。これにより、V植えした毛髪の針足部3Aを人工皮膚と接着剤塗膜との間でサンドイッチ状に挟んで確実に固定保持することができる。
【0022】
図4は本発明のかつらの構成の別の変形例を模式的に示す断面図である。図4に示すように、本発明のかつら15は、図1に示したかつら1の毛髪3を固定した接着層5上に、すなわちかつら1の最下面側に、さらに、頭皮に貼着するための接着層6を備えている。他の構成はかつら1と同じであるので説明は省略する。この接着層6は、例えば、両面テープを用いることができ、使用者はかつらを被着する際、両面テープの保護紙或いは保護テープを剥がして粘着層を頭皮に貼着することでかつらを装着することができる。この頭皮に貼着するための接着層6は、図3に示したかつら10に適用してもよい。
【0023】
本発明のかつら1,10,15において、艶消し処理された人工皮膚ベース2をかつらベースの全体に用いたものでもよく、或いは、この人工皮膚ベース2をかつらベースの一部に設けたものであってもよい。したがって、被着者の脱毛又は薄毛の状態に応じて適宜にかつらのサイズやデザインを設計し、人工皮膚ベースを用いる部分だけを艶消し処理すればよい。
【0024】
このように、本発明の艶消し処理したかつらベース2を有するかつら1,10,15によれば、艶消し剤4及び微細な凹凸部20による外部からの入射光の乱反射により、複合された艶消し効果が発揮される。そして、粉末状のシリカ自身の色は目立たなく、被着者の頭皮の色が透けて見えるので、かつらベースと頭皮の境目が視認され難くなり、かつら被着時の自然さが向上する。
さらに、無機物を人工皮膚ベース2の全体に添加混合したものにあっては、所望の光沢が得られても、人工皮膚ベース2が硬くなって頭部に装着した場合の装着感に劣っていたり、添加した無機物の作用により艶消しかつらベース2の色合いが大きく変化して、被着者の頭皮の色に近似させることが困難であったが、本発明のように、人工皮膚ベース2の表面からある程度の深さ領域だけに艶消し剤を導入した構造とすることによってこのような欠点が解決される。これにより、本発明によれば、頭皮の動きに追従し易く、かつ、艶消し効果の極めて高い艶消し処理されたかつらベース2を有するかつら1,10,15を実現できる。
【0025】
次に、本発明によるかつらの製造方法について説明する。
本発明のかつら1,10,15は、人工皮膚ベース2を形成する際に人工皮膚ベース2に艶消し処理を行う工程を含み、艶消し処理工程が、軟質合成樹脂材に、艶消し剤4を添加して艶消し層を形成する工程と、さらに、艶消し層表面に微細な凹凸部20を形成する工程と、により製造することができる。
艶消し層の形成工程を、合成樹脂材の溶液に無機物粒子を添加した溶液を塗布し乾燥することにより、人工皮膚ベース2の形成工程中で行ってもよい。また、艶消し層の形成工程は、合成樹脂材の溶液を塗布及び乾燥して所定のベース形状と所定厚さの基層2aを形成する工程と、次いで、合成樹脂材の溶液に無機物粒子を添加した溶液を基層2aの上面に塗布し乾燥することにより所定厚さの艶消し層2bを形成する工程と、で行なってもよい。人工皮膚ベース2は、ウレタン樹脂で頭形のシート状に成形すればよい。特に、好ましくは、頭部形状の雄型を用いて、頭形のシート状に成形すれば、フィット感に優れたかつらが得られる。
【0026】
艶消し層の形成後、人工皮膚ベース2への微細な凹凸部20を形成する工程は、艶消し層の上から細メッシュ状のネット部材を被せ、細メッシュの転写により行なうことができる。例えば、艶消し層の形成工程の後に、艶消し層の上から細メッシュ状のネット部材を被せて合成樹脂材の溶剤を塗布し、これをある程度乾燥させて、ネット部材を剥離することにより、細メッシュの転写を行なうことができる。
【0027】
次に、本発明によるかつら1の具体的な製造方法について説明する。
第1工程として、艶消し処理する前の毛髪3を植設するかつらベースは、軟質合成樹脂からなる熱可塑性エラストマーを、適宜、有機溶剤に溶解した溶液(以下、適宜、熱可塑性エラストマー溶液と呼ぶ)を、予め用意したかつら被着者の頭部形状の雄型(例えば、石膏型など)に塗布した後に、乾燥して成形することで恰も人の頭皮に近似した人工皮膚が得られる。また、人工皮膚の強度を向上させるために、かつら被着者の頭部形状雄型に細メッシュ繊維或いはネットなどの編み地を被せた上に、上記熱可塑性エラストマー溶液を塗布した後、乾燥して細メッシュ繊維或いはネットなどの編み地を混在させた人工皮膚に形成してもよい。熱可塑性エラストマーは各種のものが適用可能であるが、例えばウレタンエラストマーが好ましい。また、必要に応じて防黴剤などを添加してもよい。この際、かつらの大きさは、被着者の頭部状態に応じて決めればよく、所謂部分かつらや頭部全体を覆うかつらであってもよい。本人工皮膚を使用者の頭部の扁平な箇所に用いる場合はシート状に成形してもよい。
【0028】
第2工程として、第1工程で成形したかつらベースに以下の工程で艶消しを行い、かつらベース2の表面に自然な艶消し光沢を付与することができる。
具体的には、上記かつらベースの作製で使用した熱可塑性エラストマー溶液に艶消し剤4となる無機物粒子を添加した溶液を塗布した後に乾燥させる。かつらベースの厚さが0.05〜0.1mm程度の場合には、この溶液を塗布及び乾燥させたときの艶消し剤4を含む領域21の深さは、0.01〜0.015mm程度が好ましい。そのためには、塗布する溶液中の熱可塑性エラストマーの粘度を調整すればよい。無機物粒子は各種適用可能であるが、粒子径が1〜10μmの粉末状のシリカが好ましく、その添加量は、塗布する溶液中に溶解させた熱可塑性エラストマー重量に対して5〜25%が望ましい。
また、必要に応じて、艶消し剤4と共に、かつらベースの劣化防止のための紫外線吸収剤や黄変防止のための酸化剤などを添加してもよい。
【0029】
第3工程として、第2工程で表面に艶消し剤4が添加されたかつらベースに細メッシュ繊維状のネットを被せてかつらベース材質の溶剤を塗布し、乾燥した後にネットを取り除くことで、被せたネットを構成する繊維に接触しているかつらベース部分が溶解して、かつらベース表面に細メッシュ繊維により微細な凹凸部20を形成する。
この工程で使用される細メッシュ繊維状ネットは、上記かつらベースに塗布する溶剤に溶解しない材料であれば何れでもよい。例えば、かつらベースをウレタン樹脂で形成した場合には、ナイロンを用いることができる。また、ネットは、0.03〜0.1mmの糸径で編まれ、30〜100メッシュ(本/インチ、1インチ=2.54cm)程度のサイズが好ましい。
【0030】
上記第2及び第3工程により、第1工程で成形したかつらベースに艶消し処理が施され、自然な光沢が付与された艶消し処理されたかつらベース2を形成することができる。これにより、艶消し処理されたかつらベース2には、無機物粒子の添加された艶消し剤添加領域21及び微細な凹凸部20の形成による複合された艶消し処理が施される。
【0031】
第4工程として、かつらベース2に毛髪3となる人毛または人工毛を、V植えなどにより植設する。
【0032】
第5工程として、毛髪3を植設したかつらベース2の裏面に毛髪3をかつらベースに固定するための接着層5を形成する。この接着層5は、かつらベース2の裏面にある毛髪の針足部3Aをかつらベース2に固定する。この接着層5の形成はかつら用接着剤をスプレー法や刷毛を用いた塗布方法にて行われる。
【0033】
上記の工程により、本発明の艶消し処理されたかつらベース2を形成し、艶消し処理されたかつらベース2を有するかつら1を製造することができる。また、かつら1に頭皮との接着層6を設ければ、かつら15を製造することができる。
【0034】
次に、本発明の他の態様によるかつら10の製造方法について説明する。
かつら10の場合には、上記第1の工程で人工皮膚ベース2の艶消し剤4を含まない基層2aを形成し、上記第2の工程でこの基層2a上に艶消し剤4を混合した上層2bを形成することにより、人工皮膚ベースを形成する。
次に、上記第3の工程により、人工皮膚ベースの上層2bの表面に微細凹凸部20を形成することで艶消し処理して、人工皮膚ベース2を形成することができる。以降の工程は、かつら1の第4及び第5工程と同様に行なうことで、かつら15を製造することができる。ここで、人工皮膚ベース2の全体の厚さを0.05〜0.1mm程度に設定した場合は、基層2aは0.04〜0.08mm程度の厚さとし、艶消し剤4を添加した上層2bを0.01〜0.02mm程度の厚さに設定すれば、良好な艶消し効果と共に、柔軟な基層2aによる頭皮への良好な追従を発現することができる。
【実施例】
【0035】
本実施例として、本発明による艶消しされたかつらベース2を有するかつら1を製造した。
第1工程として、予め用意したかつら被着者の頭部形状の石膏型に、ウレタンエラストマーをDMF及びMEKに溶解させ、さらに紫外線吸収剤、酸化防止剤、防黴剤を添加した溶液を塗布し、加熱温度60℃で、1時間程度乾燥させ、厚さが0.04mm程度のかつらベースを作製した。
【0036】
次に、第2工程として、ウレタンエラストマーをDMF及びMEKに溶解させ、防黴剤を添加した溶液に、さらに、艶消し剤4となる粉状シリカ(平均粒径3.1μm〜4.1μm)と、紫外線吸収剤と、酸化防止剤を添加した艶消し用溶液を作成した。シリカの重量は、ウレタンエラストマー重量に対して、約15%であった。この艶消し用溶液をかつらベースに塗布し、加熱温度60℃で、2〜4時間程度乾燥させた。
【0037】
次に、第3工程として、上記第2工程で表面に艶消し剤4が添加された側のかつらベースに、細メッシュ繊維状のネットとして、市販のナイロン製のストッキング用ネットを被せて、かつらベースの有機溶剤であるMEK及びDMFを塗布し、100℃で4時間乾燥させた。乾燥した後に、該ネットを取り除き、かつらベース表面に微細な凹凸部20を形成した。この際、用いたネットの糸径は0.05mmであり、メッシュは、50メッシュ(本/インチ)程度であった。
このようにして、ウレタン樹脂からなるかつらベース2の表面に艶消し剤4を含む領域21と微細な凹凸部20とを形成し、艶消し処理されたかつらベース2を製造した。かつらベース2の厚さは、艶消し剤4を含む領域21の厚さの0.01〜0.015mm程度が増加して、全体のかつらベース2の厚みが0.5〜0.6mm程度の厚さとなった。
【0038】
第4工程として、かつらベース2にナイロンからなる人工毛3を、V植えにより植設した。
【0039】
第5工程として、毛髪3を植設したかつらベース2の裏面に接着層5を形成した。具体的には、毛髪3を植設したかつらベース2を裏返してかつら被着者の頭部形状雄型に張り付けた。
次に毛髪を固定するための接着層5を形成するための接着剤として、かつら製造で使用したウレタンとは別グレードのウレタンエラストマーをかつらベースの有機溶剤であるMEK及びDMFで希釈した接着用溶液を用い、かつらベース2の裏面にハケ塗りし、乾燥した。このようにして、厚さが0.1mm程度の接着層5を形成した。
【0040】
図5は、実施例によるかつら1における艶消し処理されたかつらベース2表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。電子の加速電圧は15keVで、倍率は150倍である。図示するように、表面が艶消し剤4により平坦ではなく荒れた表面になっていることが分かる。そして、かつら1の表面の微細な凹部20aがネットにより転写された図面水平方向の2本の線状部分により形成されていることが分かる。
図5から明らかなように、本発明のかつら1のかつらベース2は、艶消し剤4と、かつら1の表面に形成された微細な凹凸部20と、により艶消しされていることが分かる。
【0041】
次に、このかつら1を両面テープ6により被試験者の頭皮に貼着し、外観観察を行ったところ、かつらベース2の周囲からの光の反射は観察されなかった。さらに、かつら1を装着しない別の被試験者に観察させても、かつらベース2を用いたことにより、かつら1を装着していることは分からず、見栄えがよいことが分かった。
【0042】
さらに、かつら1の被試験者の頭皮への貼着性及び頭皮への追従性は良好であり、接着層6の剥がれが生じ難くなった。これは、かつらベース2の全体の厚みが0.05〜0.06mm程度であり、その表面の0.01〜0.015mm程度の領域21にだけ艶消し剤4を含む層を形成したために、頭皮と接触する艶消し処理されたかつらベース2が硬化しないためであることが明らかとなった。
【0043】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は実施形態にのみ限定されるものでなく、本発明の範囲内で適宜変更等が可能である。たとえば、艶消し剤はシリカに限らずその他の艶消し剤でもよい。さらに、上記実施形態で説明した具体的数値等は必要に応じて適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明により艶消し処理されたかつらベースを有するかつらの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のかつらの表面側、即ち、毛髪が上方に伸びる方向を示す平面図である。
【図3】本発明のかつらの構成の変形例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明のかつらの構成の別の変形例を模式的に示す断面図である。
【図5】実施例によるかつらにおける艶消し処理されたかつらベース2表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1,10,15:かつら
2:かつらベース(人工皮膚ベース)
2a:艶消し剤を含まない基層
2b:艶消し剤を混合した上層
3:毛髪
3A:毛髪の針足部
4:艶消し剤
5:毛髪を固定する接着層
6:頭皮へ貼着するための接着層
20:微細な凹凸部
20a:凹部
20b:凸部
21:艶消し剤の添加された領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かつらベースとかつらベースに取り付けた毛髪とを有するかつらにおいて、
上記かつらベースの少なくとも一部が軟質合成樹脂製の人工皮膚ベースで成っており、該人工皮膚ベースに艶消し剤が混合されていると共に、該人工皮膚ベース表面に微細な凹凸部が形成されることにより、艶消し処理されてなることを特徴とする、かつら。
【請求項2】
前記艶消し剤が、前記人工皮膚ベース表面の微細凹凸部の表面に露出していることを特徴とする、請求項1に記載のかつら。
【請求項3】
前記艶消し剤が、人工皮膚ベースの表面から所定の深さまで添加されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のかつら。
【請求項4】
かつらベースとかつらベースに取り付けた毛髪とを有するかつらにおいて、
上記かつらベースの少なくとも一部が軟質合成樹脂製の人工皮膚ベースで成っており、該人工皮膚ベースが、艶消し剤を含まない基層と、該基層上に積層した艶消し剤を混合した上層との二層で成り、該上層の表面に微細凹凸部が形成されることで艶消し処理されてなることを特徴とする、かつら。
【請求項5】
前記微細な凹凸部が、細メッシュ繊維による転写で形成されていることを特徴とする、請求項1又は4に記載のかつら。
【請求項6】
前記人工皮膚ベースは、ウレタン樹脂の薄いシート状に成形されていることを特徴とする、請求項1又は4に記載のかつら。
【請求項7】
かつらベースの少なくとも一部を構成する軟質合成樹脂材の人工皮膚ベースを形成する工程と、該人工皮膚ベースに毛髪を取り付ける工程と、を有するかつらの製造方法において、
人工皮膚ベースを形成する際に該人工皮膚ベースに艶消し処理を行う工程を含み、
上記艶消し処理工程が、上記軟質合成樹脂材に、艶消し剤を添加して艶消し層を形成する工程と、さらに、該艶消し層表面に微細な凹凸部を形成する工程と、からなることを特徴とする、かつらの製造方法。
【請求項8】
前記人工皮膚ベースの形成工程が、前記合成樹脂材の溶液を乾燥して所定のベース形状と所定厚さの基層を形成する工程と、次いで、前記合成樹脂材の溶液に無機物粒子を添加した溶液を該基層の上面に塗布し乾燥することにより所定厚さの艶消し層を形成する工程と、で成ることを特徴とする、請求項7に記載のかつらの製造方法。
【請求項9】
前記艶消し層の形成工程が、前記合成樹脂材の溶液に無機物粒子を添加した溶液を塗布し乾燥することにより、前記人工皮膚ベースの形成工程中で行われることを特徴とする、請求項7又は8に記載のかつらの製造方法。
【請求項10】
前記微細凹凸部の形成工程が、前記艶消し層の形成工程の後に、該艶消し層の上から細メッシュ状のネット部材を被せ、該細メッシュの転写により行われることを特徴とする、請求項7に記載のかつらの製造方法。
【請求項11】
前記微細凹凸部の形成工程が、前記艶消し層の形成工程の後に、該艶消し層の上から細メッシュ状のネット部材を被せて前記合成樹脂材の溶剤を塗布し乾燥後該ネット部材を剥離することにより、該細メッシュの転写が行われることを特徴とする、請求項7に記載のかつらの製造方法。
【請求項12】
前記人工皮膚ベースは、ウレタン樹脂で頭形のシート状に成形されることを特徴とする、請求項7に記載のかつらの製造方法。
【請求項13】
前記人工皮膚ベースは、頭部形状の雄型を用いて頭形のシート状に成形されることを特徴とする、請求項12に記載のかつらの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−299432(P2006−299432A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118989(P2005−118989)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000126676)株式会社アデランス (49)