説明

かつら用接着剤及びそれを用いたかつら並びに製造方法

【課題】 単一の層でなり、かつらベース裏面には剥離不能に接着され、頭皮には再剥離可能に加圧接着され得る、かつら用接着剤及びこれを用いたかつら並びにこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 かつらベース2の裏面に通した毛髪3の針足部を固定する接着層4を設ける。接着層4の一面はかつらベース2裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中にかつらベース2裏面に化学反応により接着され、他面は頭皮へ再剥離可能に加圧接着され得る。接着層4の一面は、かつらベース2の裏面に貫通して植設された毛髪の針足部3Aを固着する毛髪固定機能を有している。かつら1は単一の接着層4との2層構造からなるので軽量で、接着層4は再剥離性を有しているので、繰り返し使用ができ低コストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部の薄毛又は脱毛状態の部位を覆うかつらに利用できる、かつら用接着剤及びこれを用いたかつら並びに製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、かつらは、かつらベースとこのかつらベースに植設した人毛又は人工毛髪でなる毛髪とで構成されており、かつらベースとしては、主として軟質の合成樹脂、例えばウレタン樹脂で成形した人工皮膚製のもの、或いは、通気性の点で優れるネットを主体としたものなどが知られている。
人工皮膚製のかつらベースに毛髪を植設する場合、頭皮から毛髪が生えているように見せるために、かつらベースに毛髪を挿通させるだけの、所謂V型植毛(V植え)が重用される。V型植毛は、鉤針などの植毛具を用いて二つ折りにした毛髪を表面側から裏面側に貫通し、1mm程度の針足部を作って、二つ折りにした毛髪の一方を再び表面側に引き抜くことでV状に植毛するものである。しかし、V状に植毛しただけでは手指やブラッシングなどで簡単に毛髪が引き抜かれるので、植毛を固定するの為の毛止め工程が不可欠である。この毛髪固定のために、通常、植毛後にかつらベースの裏面から、有機溶剤で希釈した接着用溶液を塗布し、人工皮膚に対してこの溶液を付着して固化することで、毛髪の針足部を人工皮膚と接着剤塗膜との間でサンドイッチ状に挟んで固定保持している(特許文献1及び2参照)。
【0003】
毛髪を固定した接着層を人工皮膚製ベースの裏面に有する上記かつらを頭部に取り付ける場合、人工皮膚製ベースの裏側に専用のストッパーを取り付けて頭部の自毛をこのストッパーにて挟持したり、自毛をかつらの毛髪に編み込んだり或いはベースの周縁に設けた紐部材などに自毛を結着するなどにより、薄毛又は脱毛部周辺の自毛を利用してかつらを取り付けている。或いは、人工皮膚製のベースを接着剤や粘着剤などで頭皮に直接貼着してかつらを取り付けるようにしている。
後者の場合、即ち、接着剤や粘着剤でかつらを頭皮に貼着する場合は、被着者がかつらを被着する都度、別途、瞬間接着剤や粘着テープを用意し、これを人工皮膚製のベース周囲の所定箇所に該接着剤を塗布したり粘着テープを貼着して、頭皮に接着している。そして、かつらを取り去るときは、粘着テープの場合は加圧接着しただけであるので頭皮から比較的簡単に剥がすことができるが、瞬間接着剤の場合は頭皮との間に剥離液を塗布しながら徐々に注意深く剥がしていかなければならない。このように、被着者はかつらを脱着する度に、接着剤又は粘着剤(粘着テープ)の貼付や剥離作業を要するので、非常に煩わしいものであった。
【0004】
ところで、特許文献3には、頭皮に貼着するための接着層を予めかつらベースの裏面全面に付けたかつらが開示されている。このかつらは、かつらベースと、かつらベース裏面に接着剤を付着して毛をベースに固定するための第1の接着層と、第1の接着層の上からベースの裏面全面に頭皮に貼着するための第2の接着層の、2層構造の接着層で形成されている。
上記2層構造は、具体的には、特許公報の明細書段落0010に記載のように、第1の接着層は、かつらベースに植設されかつらベースの裏面に突出した毛髪の基端部(本出願では毛髪の針足部と呼んでいる。)を固定するための接着層であり、特許文献1及び2に記載の技術と同様に、速乾性の接着剤をかつらベース裏側から吹き付けて固化させることにより毛髪を固定している。また、第2接着層はかつらベースを頭皮に直接貼付するために、第1接着層の固化後、この第1接着層の上からかつらベースの裏面全面に粘着物を吹き付け、この粘着物層にセパレータを貼付しておくものであり、使用時に、セパレータを剥がして第2接着層の全面を頭皮に貼着するようにしている。すなわち、この2層構造の接着層は、毛髪固定の為にかつらベースの裏面に速乾性の第1接着層を積層して固化し、さらに、固化した第1接着層の上に、頭皮へのかつらベース貼着の為に上記速乾性の接着剤とは異なる粘着物から成る第2接着層を、予め、順次積層したものである。
【0005】
上記したように、特許文献3に開示されている技術をはじめとして、従来の頭皮貼着式のかつらは、一般に、人工皮膚ベースの裏面側に現れている毛髪の針足部固定のために、速乾性の接着剤をベース裏面から塗布して固化し、次いで、固化しない粘着剤をその上から塗布し又は粘着テープを貼着することで頭皮に貼り付けており、第1接着層と第2接着層とをこのように二層に順次積層することで、かつらベースへの毛髪の固定と、頭皮へのかつらベースの貼着と、を可能にしている。
このように従来方式では、第1接着層は速乾性の接着剤でなる為、これを頭皮に貼着しようとしても、既に固化しているので接着力は全く生じない。これは、第1接着層の接着剤が合成樹脂製のかつらベースとの化学反応による接着性は存するものの、固化により頭皮への粘着性がないからである。また、第2接着層のみでは、逆に、粘着力により頭皮にかつらを貼着することはできても、毛髪をかつらベースに固定することはできない。何故なら、粘着物は加圧して物理的な粘着力を利用しているだけで化学反応による接着ではないので、毛髪を固定して引き抜けないようにする程の接着力は生じないからである。従来の粘着剤では、毛髪をかつらベースに固定するために必要な接着性を有しておらず、物理的性質が全く異なる接着面に対して共用できる単層の粘着剤は存在していなかった。
従って、上記2層の接着層は、それぞれ用途が異なる接着剤と粘着剤との2種類を用い、これらを順次、形成して2層の接着層とすることが必要であった。このように、毛髪のかつらベースへの固定と、かつらベースの頭皮への貼着の両方の機能を兼ね備えた単一の接着剤又は粘着剤は知られていなかった。
【0006】
なお、頭皮へのかつらの貼着を粘着剤によらず接着剤を用いると堅固に貼着できるが、頭皮の皮脂、汗やブラッシングによる引張りなどが発生する環境下では接着力が短期間で低下する。接着力が低下した場合、新たに接着剤を塗布して再使用することもできるが、接着剤の繰り返し塗布によるかつらの硬化及びその厚さが増して、装着時の自然さが損なわれる。
【0007】
さらに、人工皮膚製のかつらであっても、植設した毛髪の隙間を通して光がベースに反射されて、不自然な光沢が現れる場合がある。かつらの表面に光沢があると被着部分が、容易に視認される恐れがあるために艶消し加工が必要となる。この艶消し加工としては、サンドブラスト等で物理的に表面を粗面化する方法、エンボス加工のように表面に微細な凹凸を付ける方法、無機物などの異物を混入する方法などが知られている。
サンドブラストやエンボス加工は、機械を用いてシート状あるいはフイルム状の物を加工するのに向いているが、頭部の形状が付いた膨出状のかつらベースを加工するのには不向きである。無機物などの異物を混入する方法は簡便でかつらの製造に好適ではあるが、艶を消して自然な光沢に制御することが困難であり、またかつらベースが硬くなる欠点を有する。
さらに、頭部の形状が付いたかつらベースの艶消し加工として、特許文献4及び5には、かつらベース部材表面をランダムに浸食させて微細な凹凸を付与して粗面化する方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭52−123755号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第3484565号公報
【特許文献3】特開2001−89921号公報(図3)
【特許文献4】特開平2−216207号公報
【特許文献5】特開平3−69601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、従来の頭皮貼着式かつらでは、かつらベースに植設した毛髪の針足部を固定するために、特許文献1及び特許文献2に開示のような、速乾性の接着剤をかつらベース裏側から吹き付けて接着固化させ、次いで、特許文献3に記載のように、かつらベース裏側から粘着物を吹き付けて頭皮貼着のための第2接着層を形成しており、毛髪の固着機能と頭皮への貼着機能とを併せ持ったかつら用の単一の接着剤又は粘着剤は存在していない。また、特許文献3記載のかつらでは、頭皮との再剥離機能はなく使い捨てで、再使用ができないという課題があった。
このように、従来のかつらは、かつらベースへの毛髪の固着機能と頭皮への貼着機能とを併有する単一層の接着層は得られていない。
【0010】
また、かつらベースの表面の光沢を抑える艶消し加工において、従来の物理的に表面を粗面化する方法や、無機物などの異物を混入する方法は、艶を消して自然な光沢に制御することが困難であるという課題がある。とくに、無機物などの異物を混入する方法は、かつらベースが硬くなり、頭皮に貼着した時に皮膚の動きに追従できず、頭皮との密着性が低下して剥離し易いという課題がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑み、単一の層でなり、かつらベース裏面には剥離不能に接着され、頭皮には再剥離可能に加圧接着され得る接着剤及びこれを用いたかつら並びにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明のかつら用接着剤は、かつらベース裏面には剥離不能に接着され、頭皮には再剥離可能に加圧接着され得る接着層を有することを特徴としている。
また、本発明のかつら用接着剤は、かつら裏面に剥離不能に接着される接着層を備え、接着層の一面は、かつらベース裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中にかつらベース裏面に化学反応により接着されて、かつらベースの裏面に貫通して植設される毛髪の針足部を固定する毛髪固定機能を有し、接着層の他面は、頭皮に加圧接着されて、頭皮への再剥離機能を有することを特徴とする。ここで、頭皮への再剥離機能は、接着層のゲル化反応終了後において発現される。
上記構成において、接着層はウレタンゲル、好ましくは、主剤及び硬化剤からなる2液混合型のウレタン樹脂系感圧型接着剤から成り、主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、硬化剤はポリイソシアネートを主成分とする。
上記構成によれば、かつらベースに植設される毛髪の針足部を固定するための毛髪の固着機能と、頭皮への再剥離機能と、を兼ね備えた単一の接着層でなる、かつら用接着剤を提供することができる。
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明のかつらは、かつらベースと、かつらベースに植設された毛髪と、かつらベース裏面に設けられた接着層と、を備え、接着層は、一面がかつらベース裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中にかつらベース裏面に化学反応により接着されており、他面が頭皮へ再剥離可能に加圧接着され得るようにしたことを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、接着層の一面は、かつらベース裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中にかつらベース裏面に化学反応により接着され、かつらベースの裏面に貫通して植設された毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能を有し、接着層の他面は、頭皮に加圧接着され、頭皮への再剥離機能を有する。
上記構成によれば、かつらが、かつらベースと単一層でなる接着層との二層構造からなり、単一層でなる接着層が、毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能と頭皮への再剥離機能とを有しているので、構造が簡単である。このため、かつらの厚さを薄くでき、かつらの重量が軽くなる。そして、接着層の頭皮に貼着する側の面が、再剥離性を有していることにより、かつらの繰り返し使用ができるので低コストなかつらを提供できる。
【0014】
上記構成において、好ましくはかつらベースの表面は艶消し処理されている。この艶消し処理は、かつらベースに艶消し剤を混合し、さらに、かつらベースの表面に微細な凹凸部を形成することにより施される。また、艶消し剤は、好ましくは無機物粒子であり、微細な凹凸部は、細メッシュによる転写で形成されている。この構成によれば、さらに、かつらベースには、艶消剤添加及び微細な凹凸部により艶消し処理がされるので、光が乱反射されてかつら装着時に存在が露見されにくいかつらを実現できる。
【0015】
本発明において、かつらベースは、好ましくはウレタン樹脂製の人工皮膚で成形され、かつらの接着層はウレタンゲルからなる。このウレタンゲルは、主剤及び硬化剤からなる2液混合型ウレタン樹脂系感圧型接着剤から成り、主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、硬化剤はポリイソシアネートを主成分とする。このような構成によれば、ウレタン樹脂製のかつらベースには、ウレタンゲルからなる単一層の接着層が形成されるので、かつら装着時に、ウレタンゲルからなる接着層が頭皮の動きに追従するという優れた反応を示し、頭皮との密着性が低下することなくに、十分な、かつら固定力が発現する。
【0016】
さらに、本発明のかつらベースの裏面に設ける接着層の製造方法は、主剤と硬化剤と有機溶剤とを含む溶液を混合攪拌して常温で所定の時間放置して反応を進行させて、溶液をかつらベース裏面に塗布し常温より高い所定の温度で加熱してかつらベース裏面に接着し、所定時間の加熱後に常温まで冷却して接着層を形成することにより、接着層のかつらベース側の面に、かつらベースの裏面に貫通して植設された毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能を付与すると共に、接着層の頭皮に貼着する側の面に、頭皮への再剥離機能を付与することを特徴とする。
上記構成において、接着層はウレタンゲルからなり、好ましくは、主剤及び硬化剤からなる2液混合型のウレタン樹脂系から構成され、主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、硬化剤はポリイソシアネートを主成分とする。
上記製造方法によれば、かつらベースに植設される毛髪の針足部を固定するための毛髪の固着機能と、頭皮への再剥離機能と、を兼ね備えた単一の層でなる、かつら用接着層を容易に製造することができる。
【0017】
また、本発明のかつらの製造方法は、軟質合成樹脂製のかつらベースを形成する工程と、かつらベースに毛髪を植設する工程と、かつらベースの裏面に接着層を形成する工程とを含み、接着層が、主剤と硬化剤と有機溶剤とを含む溶液を混合攪拌して常温で所定の時間放置して反応を進行させて、溶液をかつらベース裏面に塗布し常温より高い所定の温度で加熱してかつらベース裏面に接着し、所定時間の加熱後に常温まで冷却して接着層を形成することにより、接着層のかつらベース側の面に、かつらベースの裏面に貫通して植設された毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能を付与すると共に、接着層の頭皮に貼着する側の面に、頭皮への再剥離機能を付与することを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、毛髪を、かつらベース表面からかつらベース裏面に貫通して毛髪の針足部を形成し再び表面に引き抜くことによりV状又はU状に植設し、接着層を構成する溶液をかつらベース裏面に塗布し常温より高い所定の温度で加熱してかつらベース裏面に接着することにより、毛髪の針足部をかつらベース裏面に固着する。
上記製造方法によれば、単一層でなる接着層により、毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能と頭皮への再剥離機能とを有するかつらを製造することができる。接着層が毛髪固定機能と頭皮への再剥離機能とを兼ねた単一層であるので、従来二つの接着層を別個に形成しなければならなかった分、かつらの厚さを薄くできかつらの重量が軽くなる。そして、頭皮に貼着する側の面の接着層が、再剥離性を有していることにより、繰り返し使用ができるかつらを、低コストで製造することができる。
【0018】
上記構成において、好ましくは、かつらベースを形成する際に、かつらベースに艶消し処理を行う工程を含み、艶消し処理工程は、かつらベースに艶消し剤を添加する工程と表面に微細な凹凸部を形成する工程とからなる。かつらベースに艶消し剤を添加する工程は、かつらベースとなる溶液に無機物粒子を添加した溶液を塗布し乾燥することにより、かつらベース形成工程中で行われる。また、かつらベースに微細な凹凸を形成する工程は、かつらベースに艶消し剤を添加する工程の後に、かつらベースに細メッシュ状のネットを被せ、細メッシュによる転写で凹凸部を形成する。上記製造方法によれば、かつらベースに艶消し処理がされることで光の乱反射によって、かつら装着時にその存在が露見されにくいかつらを製造することができる。この艶消し処理は、かつらベースに添加される艶消し剤と微細な凹凸部とで形成されているので、自然な光沢が得られる。
【0019】
上記構成において、好ましくは、かつらベースを構成する軟質合成樹脂がウレタン樹脂でなり、接着層がウレタンゲルからなる。この接着層は、主剤及び硬化剤からなる2液混合型のウレタン樹脂系から構成され、主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、硬化剤はポリイソシアネートを主成分とする。接着層がウレタンゲルから製造されると、接着層の再剥離性が良好である。また、かつらベースと接着層が共にウレタンからなるので、かつらベースには柔軟性があり、頭皮の動きに良好に追従する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のかつら用接着剤及びこれを用いたかつら用接着層の製造方法によれば、毛髪の針足部の固着機能と頭皮への再剥離機能を兼ね備えた単一層でなるかつら用接着層を提供することができる。
本発明のかつら及びその製造方法によれば、かつらベースと、かつら用接着剤から形成される単一接着層と、の2層構造からなるかつらを提供することができる。単一の接着層が、毛髪の固着機能と頭皮への再剥離機能とを有しているので、構造が簡単である。このため、かつらの厚さを薄くでき、かつらの重量が軽くなる。
また、頭皮側に貼着する側の接着層が、再剥離性を有し、接着層部分を水洗いをするだけで粘着力が回復して繰り返しの使用ができる。したがって、低コストなかつらを実現することができる。
さらに、かつらベース表面に艶消し処理を施した場合には、かつら装着時に、その存在が露見されにくいかつらを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
最初に、本発明によるかつら用接着層を用いたかつらについて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるかつらの構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、かつら1は、かつらベース2とかつらベース2に植設される毛髪3と単一層でなるかつら用接着層(以下、適宜、接着層と呼ぶ)4とから構成されている。
かつらベース2へ植設される毛髪3は、人毛または人工毛からなる。図示するように、毛髪3はかつらベース2の表面側から裏面に貫通して植設され、再びかつらベース2の表面側に引き抜くことにより、V字状又はU字状に植設することができる。このかつらベース2の裏面に貫通し、裏面側の露出する毛髪部を針足部3Aと呼ぶことにする。なお、このような植毛方法を、通常、V植えと称している。
本発明のかつらにおいて、単一層でなるかつら用接着層4は、かつらベース裏面2には剥離不能に接着され、頭皮には再剥離可能に加圧接着され得る特質をもった新規な構造を有しており、接着層4は、かつらベース裏面2には剥離不能に接着されると共に、かつらベースの裏面に貫通して植設される毛髪の針足部3Aを固定する毛髪固定機能を有している。すなわち、本発明のかつら1は、かつらベース2と、かつらベース用の単一の層でなる接着層4と、の2層構造からなり、単一層でなる接着層4がかつらベース裏面2には剥離不能に接着され、毛髪の針足部3Aの固着機能と頭皮への再剥離機能とを有している。ここで、かつらベース2は、例えばウレタン樹脂のような軟質合成樹脂を用いた極薄の人工皮膚で形成することができる。
【0022】
本発明のかつら用接着層4は、後述する成分と性質をもったかつら用接着剤により形成することができ、かつらベース2及び毛髪の針足部3Aに対しては接着性が高く、かつ、頭皮に対しては再剥離性を有している。
なお、接着層4には、被着者が手で容易に剥がすことができる塩化ビニルシートなどの剥離シート5を設けてもよい。
【0023】
一般に、接着剤又は接着層とは化学的反応を伴う接着のほか、化学反応を伴わない単に加圧による粘着を含む概念で使用され、本発明でかつら用接着層4又は接着剤とは広義の概念で用いている。この接着層4は、かつらベース2へ接着される一面が、かつらベース裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中にかつらベース2裏面に化学反応により接着される。そして、毛髪の針足部3Aは、接着層4がかつらベース2へ接着されるときにベースと接着層との間に挟まれて、この毛髪の針足部3Aも同時に接着層4に固定される。
一方、接着層4のかつらベース2へ接着される側の面(他面)は、頭皮へ再剥離可能に加圧接着され得るようになっている。この接着層4の頭皮への再剥離機能は、上記接着剤のゲル化反応終了後において発現される。このため、ゲル化反応終了後の接着層4は、頭皮に対しては、常温で、短時間、わずかな力を加えるだけで接着できる、即ち、加圧接着できる感圧型接着層(所謂粘着層)の性質を有している。さらに、ゲル化反応終了後の接着層4は、微量の水や有機溶剤などでその表面を拭うことにより、頭皮への繰り返し貼着ができる。この繰り返し貼着ができることを、本発明においては、再剥離機能あるいは単に剥離機能と称している。
【0024】
次に、本発明のかつら用接着層4について説明する。
接着層4の形成に用いられるかつら用接着剤としては、大別すると、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系、ゴム系が挙げられる。
ウレタン樹脂系のかつら用接着剤は、後述するように、毛髪の針足部3Aをかつらベース2に固定する接着性が良好であり、かつ、接着層4とかつらベース2との間を剥離不能に強固に接着できる性質を有している。また、頭部に貼着する場合の再剥離性能が良好であり低皮膚刺激性である。このため、本発明の接着層4を形成するかつら用接着剤として好適に使用することができる。
【0025】
一方、アクリル樹脂系の接着剤は、粘着性は優れるが、再剥離性能が弱く皮膚刺激性も強いことがある。ゴム系は、初期の粘着性は優れているが、時間の経過と共に再剥離性能が著しく低下する問題がある。
さらに、上記かつら用接着層をアクリル樹脂系及びゴム系樹脂の接着剤により形成すると、樹脂自体の硬さから、頭皮に貼着した時に皮膚の動きに追従できず頭皮との密着性が低下して剥離し易いこと、毛髪の針足部をかつらベースに固定する接着性が弱いこと、接着層とかつらベースとの間の接着性が弱く剥離も容易に起こること、などにより好ましくない。
【0026】
次に、ウレタン樹脂系のかつら用接着剤を用いて接着層4を形成する場合について、さらに詳しく説明する。
ウレタン樹脂系のかつら用接着剤としては、主剤及び硬化剤からなる2液混合型の接着剤を好適に使用することができる。主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、硬化剤はポリイソシアネートを主成分とすることができる。これら2液を混合してゲル化反応させ、ゲル化反応終了後にゲルとなるものが好適である。このゲル化は加熱により促進できる。これにより、ゲル化の過程において、硬化剤中に含まれているイソシアネートの作用により、表面張力などの物理的な結合力だけでなく化学的な結合力が加わる。このため、かつらベース2と接着層4との間の接着力と、かつらベース2とそれに植設した毛髪の針足部3Aと間の固着力が著しく向上して、従来の接着剤による毛止め工程と同程度の固着力が得られる。なお、固着力とは、本発明の接着層4において、かつらベース2とそれに植設した毛髪の針足部3Aへの接着力と定義し、通常の熱賦活型接着剤による接着力とは、区別するために用いる。
さらに、2液混合型ウレタン樹脂系のかつら用接着剤は、反応後にゲル状構造の接着層4、即ち、粘着層となるので、かつら1の装着時に頭皮の動きに追従するという優れた反応を示し、頭皮との密着性が低下せずに、十分なかつら粘着力が発現する。
【0027】
さらに、植設した毛髪の針足部3Aのかつらベース2への固着力を付与する方法について説明する。この場合には、2液混合型ウレタン樹脂系のモノマーからなる接着剤を混合し、この2液中に艶消しかつらベースの材質の有機溶剤を少量添加した接着剤をかつらベース2に塗布し、乾燥することにより実施できる。このような有機溶剤としては、かつらベース2の材料がウレタンエラストマーの場合には、ジメチルホルムアミド(DMF)やメチルエチルケトン(MEK)などを使用できる。
この際、接着層4の毛髪の針足部3Aの固着力及び頭部への粘着力は、2液混合型ウレタン樹脂系のかつら用接着剤の主剤及び硬化剤の混合割合の調整と、塗工粘度の調整と、2液混合した後に毛髪3を植設したかつらベース1に塗布するまでの静置時間の調整と、などにより行うことができる。
【0028】
本発明のかつら1は、かつらベース2全体に接着層4を設けることなく、毛髪3を植設する領域にだけ、接着層4を部分的に設けて構成してもよい。かつらベース2の周囲縁部に毛髪3を植設した領域を作らない場合でも、接着層4を設けることにより、頭皮への貼着が容易となり、かつらベース2と頭皮との境目が視認され難くなり、かつら被着時の自然さが向上する。
このように、本発明の特徴は、単一層でなるかつら用接着層4を使用することにある。このため、従来の2層構造の接着層をもったかつらにおける毛髪の針足部の固着機能を有する第1の接着層と、頭皮への貼着機能を有する第2接着層の機能を、単一層でなる接着層4により実現することができる。これにより、本発明のかつらベースを用いたかつら1によれば、かつらベース2及びかつらベース用の単一層でなる接着層4とからなり、構造が簡単になる。
単一層でなる接着層4の厚さは、毛髪の針足部3Aを固着できる厚さ程度でよく、例えば植設する毛髪の太さの0.05mm程度で済むので、かつら1を軽量化することができる。
また、頭皮側に貼着する側の接着層4は再剥離性を有し、接着層4部分を水洗いをするだけで粘着力が回復して繰り返し使用ができる。このため、低コストなかつら1を実現することができる。これにより、被着者への負担が少なくて済むことになる。
【0029】
次に、本発明による第1の実施形態の変形例の、艶消しされたかつらベースを有するかつらについて説明する。
図2は、上記変形例の艶消しされたかつらベース12を有するかつら10の構成を模式的に示す断面図であり、図3は図2のかつらベース12の表面側を示す平面図である。図2及び図3に示すように、かつら10が第1実施形態のかつら1と異なるのは、かつらベース12の表面に、艶消しのために微細な凹凸部12Dが形成され、かつ、艶消し剤6がかつらベースに添加されていることである。この微細な凹凸部12Dは、凹部12Bと凸部12Cとからなっている。また、図示の場合、艶消し剤6が表面側から所定の領域12Aの深さまで添加されているが、艶消し剤6はかつらベース中の任意の領域に添加すればよい。他の構成はかつら1と同じである。
【0030】
かつらベースを軽量化するために厚さを薄くする場合には、艶消し効果と頭皮に貼着したときの皮膚の動きへの追従性とを考慮して、艶消し剤6をかつらベース12の表面側にだけ浅く添加することが好ましい。一例として、かつらベース12の厚さを、0.05〜0.1mm程度する場合には、艶消し剤6をかつらベースの表面側から0.01〜0.015mm程度の深さまで添加することが好ましい。0.01mmよりも浅いと艶消し効果が十分でなく、0.015mmよりも厚いと艶消しかつらベース1が硬化し、頭皮の動きに追従し難くなり好ましくない。
艶消し剤6としては、各種の無機物粒子が使用できる。この、無機物粒子6の材料としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ゼオライト、硝子の何れかを用いることができる。特に、粒子径が1〜10μmの粉末状のシリカが、好適である。この際、粉末状のシリカは、塗布する適宜な有機溶剤中に溶解させた熱可塑性エラストマー重量に対して5〜25%が望ましい。艶消し剤6として、例えば、粉末状のシリカを用いれば、被着者の頭皮の色が透けて見えるので、艶消しされたかつらベース12と頭皮の境目が視認され難くなり、かつら被着時の自然さが向上する。
【0031】
微細な凹凸12部Dは、後述するように、ネット状の織物などの細メッシュを用いた転写により形成することができる。このため、艶消しされたかつらベース12には微細な凹凸が形成される。この微細な凹凸が、皮膚を擬似した模様を呈する。
【0032】
このように、本発明の艶消しされたかつらベース12を有するかつら10によれば、上記かつら1の特徴に加え、艶消し剤6及び微細な凹凸部12Dによる乱反射により、複合された艶消し効果が発揮される。そして、粉末状のシリカは透明であり、被着者の頭皮の色が透けて見えるので、かつらベースと頭皮の境目が視認され難くなり、かつら被着時の自然さが向上する。
さらに、無機物の添加のみでは艶消しされたかつらベースが硬くなったり、所望の光沢が得られても、添加した無機物の作用により、艶消しされたかつらベースの色合いが大きく変化して、被着者の頭皮の色に近似させることが困難であったが、本発明の構造にすることによってこのような欠点が解決される。
これにより、本発明によれば、頭皮の動きに追従し易く、かつ、艶消し効果の極めて高い艶消しかつらベース12を用いることにより、再剥離性を有するかつら10を実現できる。
【0033】
次に、本発明によるかつら用接着層4とこれを備えたかつら1及び10の製造方法について説明する。
最初に、かつらベース2の製造方法について説明する。
第1工程として、毛髪3を植設するかつらベース2は、軟質合成樹脂からなるペレット状の熱可塑性エラストマーを、適宜、有機溶剤に溶解した溶液(以下、適宜、熱可塑性エラストマー溶液と呼ぶ)を、予め用意したかつら被着者の頭部形状の雄型(例えば、石膏型など)に塗布した後に、乾燥して成形することで恰も人の頭皮に近似した人工皮膚が得られる。熱可塑性エラストマーは各種適用可能であるが、例えばウレタンエラストマーが好ましい。また、必要に応じて防黴剤などを添加してもよい。この際、かつらの大きさは、被着者の頭部状態に応じて決めればよく、所謂部分かつらや頭部全体を覆うかつらであってもよい。本人工皮膚を使用者の頭部の扁平な箇所に用いる場合はシート状に成形してもよい。このようにして、かつらベース2を製造することができる。
【0034】
次に、かつらベース2に艶消し処理をしたかつらベース12の製造方法について説明する。
第1工程は上記と同じであり、第2工程として、第1工程で成形したかつらベース2に以下の工程で艶消しを行い、かつらベース表面に自然な艶消し光沢を付与することができる。
具体的には、上記かつらベースの作製で使用した熱可塑性エラストマー溶液に艶消し剤6となる無機物粒子を添加した溶液を塗布した後に乾燥させる。かつらベースの厚さが0.05〜0.1mm程度の場合には、この溶液を塗布及び乾燥させたときの艶消し剤6を含む領域12Aの深さは、0.01〜0.015mm程度が好ましい。そのためには、塗布する溶液中の熱可塑性エラストマーの粘度を調整すればよい。無機物粒子は各種適用可能であるが、粒子径が1〜10μmの粉末状のシリカが好ましく、その添加量は、塗布する溶液中に溶解させた熱可塑性エラストマー重量に対して5〜25%が望ましい。また、必要に応じて、艶消し剤6と共に、紫外線吸収剤や黄変防止のための酸化剤などを添加してもよい。
【0035】
第3工程として、第2工程で表面に艶消し剤6が添加されたかつらベース12に細メッシュ状のネットを被せて、かつらベース材質の溶媒を塗布し、乾燥した後にネットを取り除き、かつらベース表面に細メッシュにより微細な凹凸部12Dを形成する。
この工程で使用される細メッシュ状ネットは、上記かつらベースに塗布する溶媒に溶解しない材料であれば何れでもよい。例えば、かつらベースをウレタン樹脂で形成した場合には、ナイロンを用いることができる。また、ネットは、0.03〜0.1mmの糸径で編まれ、30〜100メッシュ(本/インチ)程度のサイズが好ましい。
【0036】
上記第2及び第3工程により、第1工程で成形したかつらベース2に艶消し処理を施され、自然な艶消し光沢が付与されたかつらベース12を形成することができる。これにより、かつらベース12には、無機物粒子の添加された艶消し剤添加領域12A及び微細な凹凸部12Dの形成による複合された艶消し処理が施される。
【0037】
以下の工程は、かつら1及びかつら10に共通の工程である。
第4工程として、かつらベース2又は12に毛髪となる人毛または人工毛を、V植えなどにより植設する。
【0038】
第5工程として、毛髪を植設したかつらベース2又は12の裏面にかつら用接着層4を形成する。かつら用接着層4は、艶消しかつらベース2又は12の裏面にある毛髪の針足部3Aをかつらベース2又は12に固定する機能と、頭部に貼着する機能を兼ね備えたかつら用接着剤を塗布し、乾燥させることにより形成することができる。かつら用接着剤の塗布方法としては、スプレー法や刷毛を用いた塗布方法が使用できる。
【0039】
かつら用接着層4の形成工程について、具体例を説明する。
最初に、毛髪を植設したかつらベース2又は12を裏返してかつら被着者の頭部形状を模した雄型に固定する。この頭部形状雄型は、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂から形成される。
次に、かつら用接着剤モノマーと有機溶剤を混合撹拌する。このかつら用接着剤モノマーとしては、2液混合型接着剤を用いることができる。さらに、必要に応じて、かつらベース2又は12の有機溶剤を加えてもよい。
この溶液を常温で所定時間静置して反応を進めて、かつら用接着剤溶液とする。ここで、所定時間静置は、混合撹拌した上記溶液中の分子同士の架橋反応をある程度進ませるために行う。
次に、上記の所定時間静置したかつら用接着剤溶液を、艶消しかつらベース12の裏面にハケで所望の厚みになるよう塗布し、常温以上の加熱温度で所定時間乾燥させ、乾燥後室温まで冷却することにより、かつら用接着層4を形成することができる。所望の厚さの接着層4を得るために、上記かつら用接着剤溶液の塗布及び加熱による乾燥を繰り返してもよい。
なお、かつらベース2と接着層4との間の接着力と、かつらベース2とそれに植設した毛髪の針足部3Aとの間の接着力は、常温以上の加熱温度で所定時間乾燥させるゲル化の過程において発現する。このかつら用接着剤溶液を単独でゲル化させた接着層は、頭皮への貼着機能はあるものの、かつらベース2と接着層4との間の接着力及びかつらベース2とそれに植設した毛髪の針足部3Aと間の接着力が発現しない。
【0040】
上記第5工程により、本発明のかつら用接着層4を形成し、かつら1及び10を製造することができる。さらに、かつら用接着層4には、使用する前の保護のために剥離用シート5を設けてもよい。
【実施例】
【0041】
実施例として、本発明による艶消しされたかつらベース12を有するかつら10を製造した。
第1工程として、予め用意したかつら被着者の頭部形状の石膏型に、ウレタンエラストマーをDMF及びMEKに溶解させ、防黴剤を添加した溶液を塗布し、加熱温度60℃で、1時間程度乾燥させ、厚さが0.04mm程度のかつらベース1を作製した。
【0042】
次に、第2工程として、ウレタンエラストマーをDMF及びMEKに溶解させ、防黴剤を添加した溶液に、さらに、艶消し剤6となる粉状シリカ(平均粒径3.1μm〜4.1μm)と、紫外線吸収剤と、酸化防止剤を添加した艶消し用溶液を作成した。シリカの重量は、ウレタンエラストマー重量に対して、約15%であった。この艶消し用溶液をかつらベース1に塗布し、加熱温度60℃で、2〜4時間程度乾燥させた。
【0043】
次に、第3工程として、上記第2工程で表面に艶消し剤6が添加された側のかつらベースに、細メッシュ状のネットとして、市販のナイロン製のストッキング用ネットを被せて、かつらベースの有機溶剤であるMEK及びDMFを塗布し、100℃で4時間乾燥させた。乾燥した後に、該ネットを取り除き、かつらベース表面に微細な凹凸部12Dを形成した。この際、用いたネットの糸径は0.05mmであり、メッシュは、50メッシュ(本/インチ)程度であった。
このようにして、ウレタン樹脂からなるかつらベースの表面に、艶消し剤6を含む領域12Aと凹凸部12Dとを形成し、艶消ししたかつらベース12を製造した。これにより、かつらベースの厚さは、艶消し剤6を含む領域12Aの厚さの0.01〜0.015mm程度が増加して、全体のかつらベース12の厚みが0.5〜0.6mm程度の厚さとなった。
【0044】
第4工程として、艶消しかつらベース12にナイロンからなる人工毛を、V植えにより植設した。
【0045】
第5工程として、毛髪を植設したかつらベース12の裏面に接着層4を形成した。具体的には、毛髪を植設したかつらベース12を裏返してかつら被着者の頭部形状雄型に張り付ける。
【0046】
接着層4を形成するためのかつら用接着剤は、主剤と硬化剤とからなる2液混合型ウレタン樹脂系接着剤モノマーと、艶消しかつらベース12の有機溶剤であるDMFと、を混合したものを用いた。ここで、主剤としてはウレタン樹脂を主成分とするポリオール、硬化剤としては、ポリイソシアネートを主成分とした。上記2液混合型ウレタン樹脂系接着剤の主剤と硬化剤と有機溶剤であるDMFとを混合撹拌した。この溶液を、室温で約1〜2時間静置し反応を進めた。静置後の溶液の粘度は、2000〜3000cps程度が適当であった。このかつら用接着剤の溶液を、艶消しかつらベース12の裏面にハケ塗りし、80℃で10〜15時間乾燥させ、乾燥後室温まで冷却した。このようにして、約0.05〜0.2mmの接着層4を形成した。
【0047】
図4は、実施例による、かつら10の表面に形成された微細な凹凸部12Dの(A)走査型電子顕微鏡(SEM)像と、(B)その説明図である。電子の加速電圧は15keVで、倍率は150倍である。図示するように、表面が艶消し剤6により平坦ではなく荒れた表面になっていることが分かる。そして、微小凹部が、ネットにより転写された図面水平方向の2本の線状部分により形成されていることが分かる。
【0048】
図5は、実施例による、かつら10の表面及び断面の、(A)走査型電子顕微鏡像と、(B)その説明図である。電子の加速電圧は15keVで、倍率は100倍である。図5から明らかなように、艶消しされたかつらベース12を用いたかつら10は、厚さが約0.06mmのかつらベース12と、厚さが約0.19mmの接着層4と、2層構造からなり、かつらベース12には直径が約0.06mmの人工毛髪3が植設されていることが分かる。かつらベース12の表面には、艶消し領域となる凹凸部12Dが形成されていることが分かる。
【0049】
図6は、実施例2による、かつら10の表面及び断面の、(A)走査型電子顕微鏡像と、(B)その説明図である。電子の加速電圧は15keVで、倍率は200倍である。図6から明らかなように、毛髪の針足部3Aが、艶消しかつらベース12の上部からその下部に挿入され、接着層4により艶消しかつらベース12に固着されていることが分かる。なお、図示の例は、厚さが約0.19mmの接着層4の場合を示したが、頭皮貼着の場合の接着層4は、約0.04〜0.06mm程度が適当であった。
【0050】
次に、かつら10の接着層4に対する、かつらベース12及び毛髪の針足部3Aの固着強度を調べた。
かつらベース12と接着層4との接着力は、180gf/mm2 程度あった。そして、毛髪の針足部3Aと、接着層4との固着力は、10gf/mm2 程度であった。
また、かつらベース12と接着層4との接着力を、人の手による引き剥がしによる方法で調べたところ、かつらベース12から接着層4が容易には剥がれず、剥離不能に接着されていることが分かった。
さらに、かつらベース12と毛髪の針足部3Aとの固着力を、毛髪3の人手による引き抜きによる方法で調べた。毛髪の針足部3Aのかつらベース12への接着は、かつらベース12及び接着層4との接着力よりは弱いが、毛髪のブラッシングなどには充分な固着力を有することが分かった。
【0051】
さらに、接着層4の頭皮への粘着性と再剥離性も良好であった。接着層4を、水で拭うことにより、再度貼着することができ、しかも、このような着脱を連続して数十回以上行うことができ、接着層4の再剥離性が確認できた。従って、本かつらは、連続装着することなく、毎日或いは必要により適宜に着脱することができるので、衛生的であると共に、実用上極めて有利である。
【0052】
次に、このかつら10を被試験者に装着させて、外観観察を行ったところ、接着層4の周囲からの光の反射は観察されなかった。
さらに、かつら10を装着しない別の被試験者に観察させても、艶消しされた接着層4を用いたことにより、かつら10を装着していることは分からず、見栄えがよいことが判明した。
【0053】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は実施形態にのみ限定されるものでなく、本発明の範囲内で適宜変更等が可能である。
たとえば、単一の層でなる接着層4として、ウレタンゲルについて説明したが、かつらベース2,12とかつらベースに植設される毛髪の針足部3Aとの固着力と、頭皮部への再剥離性を備えていれば、その製造に用いるかつら用接着剤は適宜に選定することができる。また、艶消し剤はシリカに限らずその他の艶消し剤でもよい。さらに、上記実施形態で説明した具体的数値等は、必要に応じて適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態によるかつらの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態である艶消しされたかつらベースを有するかつらの構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】実施例による、かつらの表面に形成された微細な凹凸部の走査型電子顕微鏡(SEM)像と、(B)その説明図である。
【図5】実施例による、かつらの表面及び断面の、(A)走査型電子顕微鏡像と、(B)その説明図である。
【図6】実施例による、かつらの表面及び断面の、(A)走査型電子顕微鏡像と、(B)その説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1:かつら
2:かつらベース
3:毛髪
3A:毛髪の針足部
4:接着層
5:剥離用シート
6:艶消し剤(無機物粒子)
10:艶消しかつらベースを有するかつら
12:艶消しされたかつらベース
12A:艶消し剤の添加された領域
12B:凹部
12C:凸部
12D:微細な凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かつらベース裏面には剥離不能に接着され、頭皮には再剥離可能に加圧接着され得る接着層を有するかつら用接着剤。
【請求項2】
かつら裏面に剥離不能に接着される接着層を備え、
上記接着層の一面は、かつらベース裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中に該かつらベース裏面に化学反応により接着されて、かつらベースの裏面に貫通して植設される毛髪の針足部を固定する毛髪固定機能を有し、
上記接着層の他面は、頭皮に加圧接着されて、頭皮への再剥離機能を有することを特徴とする、かつら用接着剤。
【請求項3】
前記頭皮への再剥離機能が、前記接着層のゲル化反応終了後において発現されることを特徴とする、請求項2に記載のかつら用接着剤。
【請求項4】
前記接着層が、ウレタンゲルからなることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のかつら用感圧型接着剤。
【請求項5】
前記ウレタンゲルが、主剤及び硬化剤からなる2液混合型のウレタン樹脂系感圧型接着剤から成り、上記主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、上記硬化剤はポリイソシアネートを主成分とすることを特徴とする、請求項4に記載のかつら用接着剤。
【請求項6】
かつらベースと、
上記かつらベースに植設された毛髪と、
上記かつらベース裏面に設けられた接着層と、を備え、
上記接着層は、一面がかつらベース裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中に該かつらベース裏面に化学反応により接着されており、他面が頭皮へ再剥離可能に加圧接着され得るようにしたことを特徴とする、かつら。
【請求項7】
前記接着層の一面は、前記かつらベース裏面に塗布した接着剤溶液のゲル化反応中に該かつらベース裏面に化学反応により接着され、該かつらベースの裏面に貫通して植設された毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能を有し、前記接着層の他面は、頭皮に加圧接着され、頭皮への再剥離機能を有することを特徴とする、請求項6に記載のかつら。
【請求項8】
前記かつらベースの表面が艶消し処理されていることを特徴とする、請求項6に記載のかつら。
【請求項9】
前記艶消し処理が、前記かつらベースに艶消し剤を混合し、さらに、前記かつらベースの表面に微細な凹凸部を形成することにより施されることを特徴とする、請求項8に記載のかつら。
【請求項10】
前記艶消し剤が、無機物粒子であることを特徴とする、請求項9に記載のかつら。
【請求項11】
前記微細な凹凸部が、細メッシュによる転写で形成されていることを特徴とする、請求項9に記載のかつら。
【請求項12】
前記かつらベースが、ウレタン樹脂製の人工皮膚で成形されていることを特徴とする、請求項6〜9の何れかに記載のかつら。
【請求項13】
前記かつらの接着層が、ウレタンゲルからなることを特徴とする、請求項6に記載のかつら。
【請求項14】
前記ウレタンゲルが、主剤及び硬化剤からなる2液混合型ウレタン樹脂系感圧型接着剤から成り、上記主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、上記硬化剤はポリイソシアネートを主成分とすることを特徴とする、請求項13に記載のかつら。
【請求項15】
かつらベースの裏面に設けられる接着層の製造方法であって、
主剤と硬化剤と有機溶剤とを含む溶液を混合攪拌して常温で所定の時間放置して反応を進行させて、
上記溶液をかつらベース裏面に塗布し常温より高い所定の温度で加熱して該かつらベース裏面に接着し、
所定時間の加熱後に常温まで冷却して接着層を形成することにより、
上記接着層のかつらベース側の面に、該かつらベースの裏面に貫通して植設された毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能を付与すると共に、上記接着層の頭皮に貼着する側の面に、頭皮への再剥離機能を付与することを特徴とする、かつら用接着層の製造方法。
【請求項16】
前記接着層が、ウレタンゲルからなることを特徴とする、請求項15に記載のかつら用接着層の製造方法。
【請求項17】
前記接着層が、主剤及び硬化剤からなる2液混合型のウレタン樹脂系で構成され、上記主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、上記硬化剤はポリイソシアネートを主成分とすることを特徴とする、請求項15又は16に記載のかつら用接着層の製造方法。
【請求項18】
軟質合成樹脂製のかつらベースを形成する工程と、該かつらベースに毛髪を植設する工程と、上記かつらベースの裏面に接着層を形成する工程と、を含むかつらの製造方法において、
上記接着層が、
主剤と硬化剤と有機溶剤とを含む溶液を混合攪拌して常温で所定の時間放置して反応を進行させて、
上記溶液をかつらベース裏面に塗布し常温より高い所定の温度で加熱して該かつらベース裏面に接着し、
所定時間の加熱後に常温まで冷却して接着層を形成することにより、
上記接着層の上記かつらベース側の面に、該かつらベースの裏面に貫通して植設された毛髪の針足部を固着する毛髪固定機能を付与すると共に、上記接着層の頭皮に貼着する側の面に、頭皮への再剥離機能を付与することを特徴とする、かつらの製造方法。
【請求項19】
前記毛髪を、かつらベース表面からかつらベース裏面に貫通して毛髪の針足部を形成し再び上記表面に引き抜くことによりV状又はU状に植設し、前記接着層を構成する前記溶液をかつらベース裏面に塗布し常温より高い所定の温度で加熱して該かつらベース裏面に接着することにより、上記毛髪の針足部をかつらベース裏面に固着することを特徴とする、請求項18に記載のかつらの製造方法。
【請求項20】
前記かつらベースを形成する際に、該かつらベースに艶消し処理を行う工程を含み、
上記艶消し処理工程が、上記かつらベースに、艶消し剤を添加する工程と表面に微細な凹凸部を形成する工程とからなることを特徴とする、請求項18に記載のかつらの製造方法。
【請求項21】
前記かつらベースに艶消し剤を添加する工程が、前記かつらベースとなる溶液に無機物粒子を添加した溶液を塗布し乾燥することにより、前記かつらベース形成工程中で行われることを特徴とする、請求項20に記載のかつらの製造方法。
【請求項22】
前記かつらベースへの凹凸形成工程が、前記かつらベースに前記艶消し剤を添加する工程の後に、前記かつらベースに細メッシュ状のネットを被せ、該細メッシュによる転写で凹凸部を形成することを特徴とする、請求項20に記載のかつらの製造方法。
【請求項23】
前記かつらベースを構成する軟質合成樹脂がウレタン樹脂でなり、前記接着層がウレタンゲルからなることを特徴とする、請求項18に記載のかつらの製造方法。
【請求項24】
前記接着層が、主剤及び硬化剤からなる2液混合型のウレタン樹脂系から構成され、上記主剤はウレタン樹脂を主成分とするポリオール、上記硬化剤はポリイソシアネートを主成分とすることを特徴とする、請求項18に記載のかつらの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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