説明

かつら

【課題】かつらを装着した際にかつらのフロントエッジに植設した毛髪が不自然な直線状のラインを呈することなく、使用者の前額部の自毛の生え方に極めて類似した自然なヘアラインを呈し、かつらの装着が露顕され難く、違和感なく自然感を向上し得るかつらを提供する。
【解決手段】使用者10の前額部11の所定位置にヘアライン12を表出し得るフロント部22を備えたかつらベース21と毛髪27とから成る部分かつら20において、フロント部22のフロントエッジ24の近傍に波状に振幅し且つフロントエッジ24に沿って該振幅を繰り返すことでウェーブ模様30を呈するように毛髪27を植設する。ウェーブライン31をフロントエッジ24の両端の左右の切り返し部25,26に至ってジグザグ状に形成し、ウェーブライン31に沿ってその内側にフロント用毛髪27aを植設することで、自然な生え際を表現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はかつらベースのフロント部に対する毛髪の植設を改良したかつらに係り、とくに、かつらベースのフロント部に植設する毛髪の位置取りによって着用者の前額部分の生え際の自然感を向上させたかつらに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、脱毛・薄毛症状は人によってさまざまな状態で進行する。たとえば、頭頂部を中心に脱毛・薄毛が進行している一方で、前額部のヘアラインはほぼ正常に生え揃っているタイプ、これに対して、前額部のヘアラインから頭頂部に向かって徐々に後退していくタイプがある。かつらは、頭部形状に形成されたかつらベースと、これに植設された毛髪とから構成されているが、その形状や構造はこのような脱毛・薄毛の範囲や程度などの症状にあわせて適切に形成されるべきである。
たとえば、図7に示すように、着用者1の脱毛・薄毛状態2が主として頭頂部を中心に進行しているが、前額部を含む左右側頭部並びに後頭部の周囲はほぼ正常か又は脱毛が進行していない場合には、頭頂部を被覆するための部分かつらが適しており、この場合は頭頂部の脱毛・薄毛状態2を隠蔽するのに必要な範囲でかつらベース3のサイズを裁断すればよい。この場合は、かつらベース3の前縁部3a(以下、フロント部のフロントエッジと称する。)は着用者1の脱毛・薄毛状態2を中心にして、かつら使用者のヘアライン1a(破線で示している)から引っ込んだ位置に配置されるよう成形されるので、図8に示すように、かつらベース3に植設した毛髪5と、前額部に生育している自毛6とを絡めて馴染み合わせることで、かつらベース3の周縁部4は完全に隠蔽される。それゆえ、かつらの周縁部4の境界線は自毛6に隠蔽されて露見することがなく、容易に自然な外観を得ることができる。
これに対して、前額部から後退して正常なヘアライン1aが脱毛・薄毛状態にある場合は、前額部にはかつらの毛髪5と絡めて馴染み合わせる自毛6が存在しない。このため、図7及び図8で示した頭頂部の脱毛とは異なり、かつらのフロント部の周端部と頭部前額部のヘアラインとの境界付近を自然な外観にすることが困難である。よって、着用者の前額部を再現するかつらを製作する場合は、一般に、着用者の前額部の(存在すべき)正常なヘアラインに一致するフロント部を有するようかつらベースを成形し、このかつらベース3のフロント部を含む全面に密集して毛髪5を植設している。とくにかつらベースのフロント部にも、他の部分と同様に密集して多量の毛髪を植設して、フロントエッジを隠すよう工夫している。しかし、このようなかつらを着用した場合、着用者の前額部においても左右のこめかみに亙って、毛髪5が横一直線状に密集して植設されているため、かえって不自然な外観を呈していた。
【0003】
かつら着用時の前額部分、特に生え際の自然感を向上させることを目的として、特許文献1では、かつらの裏面(かつら着用面)側のフロント部周縁部付近に毛髪を植設し、該毛髪をかつら表面に引き上げて、かつら表面に植設した毛髪と馴染ませる方法が開示されている。また、特許文献2では、かつらの前額部分に生え際シートをかつら本体に一体化し、且つ植設する毛髪の植毛密度を変えることが開示されている。さらに特許文献3には、かつらの前額端部を凹凸形状とし、かつ植設する毛髪の植毛密度を変えることが開示されている。特許文献4には、前頭部分から頭頂部にかけてかつらを複数の領域に分けて、そこに異なる径の毛髪を植毛するにあたり各領域の境界はギザギザの凹凸状に植毛することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8―199412号
【特許文献2】特開2008―266877号
【特許文献3】特開2007―224454号
【特許文献4】特開2008―274482号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記何れの文献に記載のかつらにあっても、かつらベースのフロント部においても、周縁部の最突端(フロントエッジ)まで満遍なく毛髪を植設している。
このように、従来の技術では、かつらベースの露見防止又は迷彩のためには、かつらベースの全面、とくにフロントエッジの部分まで毛髪を植設することで、かつらベースのフロントエッジを隠蔽する、という発想のもとでかつらを製作している。
したがって、たとえば特許文献1,2に記載のかつらでは、かつらベースのフロントエッジと頭部との境界は直線状に明瞭に画分されて視認されるので、着用者が着用したかつらベースの前額部周縁端、すなわち、フロントエッジと頭部前額部との境界が、かつらベースの周縁部形状に沿ったライン状に見えてしまい、着用者の前額部の自然感は向上せずに不自然な外観となってしまう。
【0006】
また、特許文献3の方法では、かつらの前額端部を凹凸形状としているために、上記のように前額部周縁端(フロントエッジ)と頭部前額部との境界が、直線的なライン状にならないので自然感は向上する。しかしながら、凹凸形状にした部分の「反り」、「捲れ」、「丸まり」が起こり易くなり、かつらの形状保持性が低下し、着用者の前額部から凸状に突出した部分が捲くれ上がって却って自然感を損なってしまう。
【0007】
特許文献4では、前頭部分から頭頂部にかけてかつらを複数の領域に分け、各領域の境界はギザギザの凹凸状に植毛しているが、かつらの前頭部分、すなわち、外周端部はかつらベースの形状に沿ってフロントエッジまで毛髪を植毛しているので、依然として生え際がかつらベースの周縁部形状に沿った直線状のラインになって、自然な外観を呈することができない。
【0008】
以上のように、従来の技術では、何れも、かつらベースのフロント部の最突端(エッジ)まで満遍なく毛髪を植設することでかつらベースのフロントエッジを隠蔽する、という発想を前提として製作しているので、かつらのフロント部のエッジが毛髪ですべて覆われることになってしまい、かつらの縁と着用者の前額部との境界が直線状又は曲線状に明瞭に画分されて、却って不自然な外観を呈するものであった。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑み、かつらを装着した際にかつらのフロント部、とくにフロントエッジに植設した毛髪が不自然な直線状のラインを呈することなく、恰も使用者の前額部の自毛の生え方に極めて類似した自然なヘアラインを呈し、かつらを装着していることが露顕され難く、違和感なく自然感を向上し得るかつらを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記目的を達成するため、着用者の前額部の所定位置にヘアラインを表出し得るフロント部を備えたかつらベースと、このかつらベースに植設した毛髪とから成るかつらにおいて、かつらベースのフロント部のフロントエッジとこのフロントエッジから内側へ引っ込んだ位置との間で波状に振幅し且つフロントエッジに沿って該振幅を繰り返すことでウェーブ模様を呈するようにフロント用毛髪を植設したことを特徴とする。
上記かつらベースのフロント部は、好ましくは、フロントエッジの両端に着用者の左右のこめかみに対応する切り返し部を備えていて、ウェーブラインがフロントエッジからわずかに内側へ引っ込んだ位置で左右の切り返し部に至って形成されることで、ウェーブ模様を呈するように該ウェーブラインの内側にフロント用毛髪が植設される。
上記フロント部に形成されたウェーブラインは、好ましくは、異なる振幅と周期の複数のウェーブで成っており、好ましくは、該異なる振幅と周期とを持ったウェーブを所定数組み合わせて一のウェーブ組とし、該ウェーブ組を左右の切り返し部に至り複数連接することで、ウェーブ模様を呈するように該ウェーブラインの内側にフロント用毛髪が植設される。
上記複数のウェーブのうち最大振幅のウェーブの頂点(先端)は、フロントエッジに達する長さで形成されていることが望ましい。
本発明では、かつらベースのウェーブラインの外側において、フロントエッジとウェーブラインとの間に画成される前端部領域には、フロント用毛髪は植設されず無毛領域となっている。この無毛領域は、フロントエッジに達する最大振幅のウェーブの先端によって仕切られて、複数箇所に形成される。
本発明では、かつらベースのフロントエッジとこのフロントエッジから内側へ引っ込んだ位置との間で波形に振幅するウェーブを形成しこのウェーブを左右の切り返し部間で連接することでウェーブラインを形成し、このウェーブラインに沿ってその内側に毛髪をジグザグ状に植設するものであるから、ヘアラインがウェーブ模様を呈する。従って、従来のように、かつら使用者のヘアラインを再現するために、フロントエッジの際まで密集して毛髪を植設してライン状の外観を呈させるようにしていないので、恰も、人のごく自然な生え際のような外観を与えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のかつらによれば、かつらベースのフロント部自体をジグザグ状に成形するものではなく、かつらベースのフロント部はかつら着用者の正常なヘアラインに沿ってこめかみに相当する左右の切り返し部迄に亙って通常の直線的なヘアライン状に成形されており、このフロント部において、毛髪を植設する位置取りによってウェーブラインを毛髪で表現したものである。これにより、かつらベースのフロントエッジ自体はウェーブ状に成形されていないので、かつらの反り・捲れ・丸まりが無くなり、かつらの形状保持性が改善することに加え、生え際の自然感を格段に向上することができる。
また、本発明では、ジグザグ状のウェーブラインを表現するための毛髪の植設位置取りに関して、最大振幅のウェーブの頂点のみをかつらベースの外周端部、すなわちフロントエッジに接するようにしたことで、人工的な直線状のヘアラインにならずに自毛によるのと同様の自然なヘアラインが表現され、より自然な外観を呈することが可能となった。因みに、頭部前額部の生え際は、一見すると、左右のこめかみ部に亙って直線的なラインになっているが、自毛は決して明確なライン状に生えているのではなく、通常は、無定形のジグザグ状に生えており、本発明ではウェーブ模様を呈する毛髪の植設パターンによってこの自毛の無定形な生育形態を表現し得たものであるから、より自然な外観を呈するのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のかつらを使用者が着用した状態の平面図であり、かつらベースを明瞭に示すためにかつらの毛髪及び使用者の自毛は殆どを省略して描いている。
【図2】本発明のかつらベースを表す平面図である。
【図3】本発明のかつらベースの他の実施形態を表す平面図である
【図4】本発明のかつらベースへの毛髪の植設ポイントを表す平面図である。
【図5】本発明とのウェーブラインの比較形態を表す平面図である。
【図6】本発明によるウェーブラインの一例を示す拡大平面図である。
【図7】従来のかつらを使用者が着用した状態の平面図であり、かつらベースを明瞭に示すためにかつらの毛髪及び使用者の自毛の殆どを省略して描いている。
【図8】従来の頭頂部被覆用かつらの毛髪と使用者の自毛との混合状態を示す部分拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1から図6を参照しつつ本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は使用者が本発明のかつらを装着した状態の平面図であり、このかつらは、かつらベース21が使用者10の前額部11を被覆するためのフロント部22と頭頂部を被覆するためのトップ部23とを有する部分かつら20として構成されている。本発明のかつらは、着用者の前額部11の所定位置に自然な生え際、すなわち、ヘアライン12を表出し得るフロント部22を備えたことを特徴とする。
ここで、一例として、かつらの着用者は前額部11が後退して頭頂部及び後頭部に至る領域が脱毛・薄毛の状態にあり、よって、かつらベース21は、前額部11に対応する三日月状のフロント部22(フロントエッジ24と一点鎖線とで囲まれた領域)とこのフロント部22から連続して頭頂部及び後頭部に至るトップ部23とを有するキャップ状に成形されているものとする。このかつらベース21のフロント部22とトップ部23の全面とに毛髪27(一部だけ図示)が所定の毛量で植設され、脱毛・薄毛部分を隠蔽する部分かつら20を形成している。
かつらベース21のフロント部22は、着用者10の前額部11に存在すべき正常なヘアライン12(点線図示)を再現するよう、着用者の左のこめかみ部14から右のこめかみ部15に至る前額部11でライン状(図1の平面視では曲線)のフロントエッジ24をもつよう成形されており、着用したときにフロントエッジ24が着用者の前額部11に存在すべき正常なヘアライン12に沿って、浮き上がらないよう密着して着用者の前額部に装着される。また、かつらベースのフロント部22の左右には、後方へ拡大して湾曲したトップ部23に連接して切り返し部25,26が形成されている。この左右の切り返し部25,26は、着用者の前額部における左右のこめかみ部14,15を再現するために、該左右のこめかみ部14,15の位置に対応した位置に形成され、この左右の切り返し部25,26を基点として、前額部のヘアライン12の形状及び大きさに応じて膨出させることでフロント部22が形成される。このようにして、着用者のヘアライン12をかつらベース21のフロント部22のフロントエッジ24で再現している。
【0015】
本発明のかつらに用いるかつらベース21は、図2に示すように、全体を軟質の熱可塑性樹脂、たとえば極薄のポリウレタン樹脂で形成した人工皮膚で成形するか、或いは、図示しないが、全体をネットで作製しても良い。或いは、図3に示すように、フロント部22を含む前頭部分を人工皮膚21aとし、その他の部分をネット21bで構成してこれらを連接して作製しても、或いはその逆の構成でも構わない。また、かつらベース21の厚さについては、かつら着用時に前額部の迷彩や自然さを醸しだすためになるべく薄く作製し、たとえば0.05〜0.10mmの範囲が好適である。
さて、本実施形態のかつらでは、かつらベース21表面の全面に、着用者の脱毛・薄毛部周囲の自毛と同色の毛髪27が植設され、かつら使用者がかつらを装着した際、かつらに取り付けた毛髪27と自毛13とをブラッシングにより十分に絡めて馴染み合わせることで、かつらベース21のフロント部22を除く、両サイド部及び後頭部の周縁は完全に隠蔽される。それゆえ、かつら後方側から左右側方の周端部と自毛13との境界は露見せず、容易に自然な外観を得ることができる。しかしながら、使用者の前額部11のヘアライン12が後退し前頭部が脱毛・薄毛状態にある場合は、自毛13が存在しないため、かつらの毛髪27を自毛13と混ぜ合わせることができないので、その迷彩のために前述したように従来から種々の工夫がなされているが、本発明では、図2〜図4に示すように、かつらベースのフロント部22、とくにフロントのエッジ付近にウェーブ模様30のパターンに従って毛髪27を取り付けることで、優れた迷彩効果と自然なヘアラインの再現とを実現したものである。このウェーブ模様30を構成するためのウェーブライン31は、かつらベースの左右の切り返し部25,26からフロントエッジ24沿いにジグザグ状に連続した仮想線として形成されたものである。
図4は、本発明におけるかつらベースへの毛髪の植設箇所を模式的に表すもので、「黒丸」で示す点が毛髪27の植設箇所を示している。具体的には、図4に示すように、本実施形態のかつらベース21には、トップ部23の全面とフロント部22のウェーブ模様30を構成するウェーブライン31の内側とに毛髪27が植設されるものである。しかし、フロント部22におけるウェーブラインの外側において、フロントエッジ24とウェーブライン31との間に画成されるジグザグ状の前端部領域28には、毛髪27は植設されず、無毛領域28となっている。この無毛領域28は、フロントエッジ24に達する最大振幅のウェーブの先端によって仕切られて、複数箇所に形成される。このように、無毛領域28には毛髪27が植設されておらず、かつらベースのわずかな一部が露出したままとなっているが、後述するように、この無毛領域28は、かつらを装着した場合、トップ部23及びフロント部22に植設した毛髪がかつら全体にバラけることで隠されるので露出しない。たとえ露出してもかつらベースの厚さを極薄にしたり皮膚に近似する色彩に調整したりすることによって迷彩が優れるため、境目は目立つことがなく殆ど視認できない。
図6は、本発明のかつらベースのフロント部22に植設するフロント用毛髪27aの位置取りによって形成するウェーブライン31を表した図であり、以下、主として図6を参照して、ウェーブ模様30を構成するためのウェーブライン31の付け方について説明する。
本発明では、ウェーブライン31は、かつら着用者の存在すべきヘアライン12に一致するかつらベースのフロントエッジ24に沿って、その内側で左右の切り返し部25,26に亙ってジグザグ状又は波状に多数形成されている。このウェーブライン31の頂部、すなわち先端31aは、かつらベースのフロントエッジ24に達し、その底部、すなわち後端31bはフロントエッジ24から若干内奥に引っ込んだ位置に設定されている。各ウェーブ32の波形は、規則的な周期と振幅とで付与されているのではなく、ランダムに付与されている。その理由は、ウェーブライン31を、図5に示すように同一の振幅及び周期で、且つ全てのウェーブの先端31aをフロントエッジ24に達するように設定すると、規則性を持ってしまい、この規則的なウェーブラインに沿って毛髪を植設すると却って不自然な外観を呈することが、発明者らの実験で確認されたからである。
【0016】
一方、ウェーブライン31を、たとえば図6(A)に示すように、各ウェーブ32の周期及び振幅を全くの不規則に且つ不定形にした場合を検討したところ、この場合は一見自然に見えるが、そうではなく不規則さが却って不自然に見えてしまうことも、発明者らの実験で確かめられた。
【0017】
発明者らによる種々の実験の結果、ウェーブライン31は、異なる振幅と周期とを持った各ウェーブ32を所定数、たとえば3〜5個のウェーブ32を組み合わせて一のウェーブ組33とし、該ウェーブ組33を複数組み合わせることで形成すれば、好ましいウェーブ模様30を出現できることがわかった。
【0018】
本実施形態では、このようにしてウェーブ模様30を形成し、さらに、各ウェーブ組33のうち、最大振幅のウェーブ32aの頂点のみがかつらベースのフロントエッジ24に接するようにしている。この頂点31aは、なだらかなアールであっても尖鋭であってもよい。一方、ウェーブの谷、すなわち底部31bはフロントエッジから内側に入り込んだ位置に設けるが、その入り込み深さは、ウェーブ毎に規則的に揃えられておらず、不定形の方がより自然が増す。このウェーブライン31は、かつらベースのフロント部22において、該フロント部の左右の切り返し部分に亙る領域に複数のウェーブ組33を順次連接することで形成される。特定の規則を持ってウェーブライン31を設定することにより、実際のかつらの製造においても再現性よく安定した品質のかつらを得ることができるので、非常に有利である。
一つのウェーブ組33を形成する場合、具体的には、図6(B)に示すように、振幅の大きなウェーブ32aを1個と振幅の小さなウェーブ32bを2個組み合わせたものを一組とし、この三つのウェーブを一のウェーブ組33として繰り返し、複数組のウェーブ組を形成する。たとえば、小さなウェーブ32bの振幅bを3〜5mm、大きなウェーブ32aの振幅aを4〜6mmとし、一のウェーブ組33の長さ(周期)を11〜17mmとすることにより、着用者の正常なヘアラインの状態(形態)に最も近似したヘアラインが復元できる。ただし、上記の範囲を外れると、ヘアラインの自然な外観が得られにくいことが確認された。
本発明では、上記複数のウェーブ組を組み合わせて形成したウェーブライン31に沿って、そのラインを含む内側にフロント用毛髪27aを植設するものであるが、このウェーブライン31を含む内側に毛髪27を隙間なく植設する主旨ではないことに留意すべきである。当然ながら、毛髪27の位置取りはウェーブライン31の内側で使用者10の脱毛・薄毛の状態に合わせて所定の間隔をあけて設定しなければならない。一般に、人の正常な生え際は、両側頭部や後頭部に比して自毛の密度は低く、ヘアラインから内奥にいくに従って密度が高い。また生え際には産毛のような細い毛が生えていることなども考慮しなければならない。よって、植設する毛髪27の直径や長さ、さらには毛髪間の間隔など、十分勘案して植毛作業が行われることはいうまでもない。
このようにして、フロント部22のウェーブライン31の内側に、所望又は所定の密度でフロント用毛髪27aが植設される。植設する毛髪27は天然毛髪、人工毛髪の何れでも良く、毛髪の植設は公知の方法で特に問題なく適用可能である。
【0019】
次に、かつらベース21へのウェーブライン31の設定方法の一例を説明する。
【0020】
まず、合成樹脂又はネット、或いは部分的にこれらを組み合わせて、着用者の頭部形状に沿ったサイズと湾曲形状のかつらベース21を作製する。このかつらベース21には、使用者の後退した前額部を再現することを目的としているので、かつらベースの前部に前額部11に対応するフロント部22を形成する。このフロント部22は、着用者の頭部前額部の正常なヘアライン12を再現するため、使用者のこめかみに対応する切り返し部25,26から当該前額部分の所定のヘアラインに沿ってかつらベース21の左右切り返し部25,26の間を湾曲状に膨出させてフロントエッジ24を決定することで画成される。
次いで、フロント部22の毛髪を植設する境界線をウェーブライン31として設定する。ウェーブライン31は、複数のウェーブをそれぞれランダムに設定して一のウェーブ組33を作り、この一のウェーブ組33を規則的に複数並列したものを、フロント部22のフロントエッジ24の若干内側に連接することで確定される。この際、ウェーブライン31は、振幅の最も大きいウェーブ32の頂点をフロントエッジ24に合わせて配置する。このウェーブライン31は、かつらベースのフロント部22の所定位置に直接筆記具等で描いてもよく、或いはウェーブライン31を細糸で作成しておき、これをフロント部22の所定位置に仮止めしておくなどにより形成される。または、かつらベース21に直接ウェーブライン31を描かず、毛髪を植設する時にかつらベース21を固定する使用者10の頭部形状雄型にウェーブライン31を書き込み、その上にかつらベース21を固定して、透けて見えるウェーブライン31に沿って毛髪27を植設するようにしてもよい。フロント用毛髪27aは、このウェーブライン31を限界としてその内側に所定の毛量で植設される。よって、ウェーブライン31の外側、すなわち、フロントエッジ24との間に画成された先端部領域28にはフロント用毛髪27aは植設されず、無毛領域28となる。
本発明のかつら20は、このようなウェーブライン31を有してフロント部22にウェーブ模様30を施すことにより、使用者の自然なヘアライン12を再現することができ、かつらを装着していることが全く露顕されない自然な外観を呈することが可能となる。
以下、実施例により本発明のかつらの具体的な製造方法をさらに説明する。
【実施例】
【0021】
左右の切り返し部25,26の間を結んで湾曲状に膨出させてかつらのフロント部22としたかつらベース21に、振幅の高さが4.5mmで周期幅が4.0mmの第1のウェーブ32、振幅の高さが3.5mmで周期幅が4.5mmの第2のウェーブ32、振幅の高さが3.5mmで周期幅が5.0mmの第3のウェーブ32の順番で連続させたウェーブ3個を1組とし、この1組のウェーブ群の長さを15mmとしたものを、第1のウェーブ32の頂点がかつらベースのフロントエッジ24に接するようにウェーブライン31を筆記具で記入した。
かつらベース21として、41dtexのポリエステルモノフィラメントを180メッシュで平織りしたネットを、トップ部23とフロント部22として一体で形成し、かつら着用者の頭部を再現した雄型に上記ネットを固定して、熱硬化性樹脂溶液を塗布後、加熱処理で湾曲状の頭部形状を付与した。このネット型の周縁とフロントエッジ24とを所定の位置で裁ち切ることにより、所定形状のフロント部22を備えたかつらベース21を得た。
植設する毛髪は、フロント部22は直径0.06mmのポリアミド系毛髪を、その他の部分は0.08mmのポリアミド系毛髪を用いた。
【0022】
完成したかつらを使用者に装着し、前方より視認したところ、かつらの前縁部と使用者の前額部とは全く違和感なく、使用者の自然なヘアラインは、明瞭な直線状になっておらず、毛髪がわずかなジグザグ状で次第に内奥に密集いていく様がよく表現されて、極めて自然な外観を呈するものであった。
【符号の説明】
【0023】
10 使用者
11 前額部
12 ヘアライン
13 自毛
14,15 こめかみ部
20 部分かつら
21 かつらベース
22 フロント部
23 トップ部
24 フロントエッジ
25,26 切り返し部
27 毛髪
27a フロント用毛髪
28 無毛領域(先端部領域)
30 ウェーブ模様
31 ウェーブライン
32 ウェーブ
32a 振幅の大きいウェーブ
32b 振幅の小さいウェーブ
33 ウェーブ組

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の前額部の所定位置にヘアラインを表出し得るフロント部を備えたかつらベースと、該かつらベースに植設した毛髪とから成るかつらにおいて、
上記かつらベースのフロント部のフロントエッジとこのフロントエッジから内側へ引っ込んだ位置との間で波状に振幅し且つフロントエッジに沿って該振幅を繰り返すことでウェーブ模様を呈するようにフロント用毛髪を植設したことを特徴とする、かつら。
【請求項2】
前記かつらベースのフロント部は、前記フロントエッジの両端に着用者の左右のこめかみに対応する切り返し部を備えていて、ウェーブラインが該フロントエッジからわずかに内側へ引っ込んだ位置で左右の切り返し部に至って形成されることで、上記ウェーブ模様を呈するよう該ウェーブラインの内側にフロント用毛髪が植設されていることを特徴とする、請求項1に記載のかつら。
【請求項3】
前記フロント部に形成されたウェーブラインは、異なる振幅と周期の複数のウェーブで成っていることを特徴とする、請求項2に記載のかつら。
【請求項4】
前記異なる振幅と周期とを持ったウェーブを所定数組み合わせて一のウェーブ組とし、該ウェーブ組を左右の切り返し部に至り複数連接することで、ウェーブ模様を呈するように該ウェーブラインの内側にフロント用毛髪が植設されることを特徴とする、請求項3に記載のかつら。
【請求項5】
前記複数のウェーブのうち最大振幅のウェーブの頂点が、フロントエッジに達する高さで形成されていることを特徴とする、請求項4に記載のかつら。
【請求項6】
前記ウェーブラインの外側において、前記フロントエッジと前記ウェーブラインとの間に、前記フロント用毛髪が植設されない無毛領域が形成されることを特徴とする、請求項2〜5の何れかに記載のかつら。
【請求項7】
前記無毛領域は、前記フロントエッジに達する最大振幅のウェーブの先端によって仕切られて複数箇所に形成されることを特徴とする、請求項6に記載のかつら。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−111691(P2011−111691A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267224(P2009−267224)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000126676)株式会社ユニヘアー (49)