説明

かん水制御装置及びかん水制御方法

【課題】植物の水分状態を適切に維持してかん水の制御を行うことができるかん水制御装置及びかん水制御方法を提供する。
【解決手段】かん水制御装置は、予め設定された樹体の水ポテンシャルの目標値、目標値を中心とした上下の許容範囲、複数の測定値により予測線を作成し、予測線から以後の予測値を算定し、この予測値が許容範囲内にあるか否かを判断する(ステップS4〜6)。予測値が許容範囲内にある場合はかん水量を維持し(ステップS7)、許容範囲外の場合は予測値が許容範囲内に入るようにかん水量を調整する(ステップS8)。かん水装置はこの制御内容に基づき初回のかん水を行い(ステップS9)、作業者により制御の継続の判断を行う(ステップS10)。2回目のかん水以降は、ステップS4〜10の処理を繰り返して予測値が許容範囲内に維持されるようにかん水を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かん水制御装置及びかん水制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果樹栽培においては、果実肥大期から果実成熟期にかけての樹体の水分状態が果実品質に大きく影響する。特にウンシュウミカン栽培では、夏秋期の樹体の水分状態を適切に管理することにより高糖度で高品質な果実を生産できることが知られている。
樹体の水分状態を管理する上で最も効果的な方法は、かん水制御による管理であるが、実際の果樹の生産現場では、かん水制御は各生産者の経験や勘に頼るところが大きく、不適切なかん水制御により、十分な品質の果実が生産できていない場合もある。
生産現場からは、樹体の水分状態を管理するために、かん水制御を適切に行うことができる合理的な方法が強く求められている。
【0003】
従来のかん水制御の指標としては、以下のものが知られている。
(1)土壌の水分状態(含水率やpF値)を指標とするもの(特許文献1〜4、8参照)。
(2)日射量を指標とするもの(特許文献5、6参照)。
(3)蒸発散量を指標とするもの(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−125432号公報
【特許文献2】特開2002−65086号公報
【特許文献3】特開2002−315456号公報
【特許文献4】特開2001−157522号公報
【特許文献5】特開平11−289891号公報
【特許文献6】特開2011−92152号公報
【特許文献7】特開2006−345768号公報
【特許文献8】特開2002−281842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のかん水の制御のうち、土壌の水分状態を指標とする制御(特許文献1〜4、8)は、例えば根域が広くかつ深い樹園地での果樹を対象とする場合、土壌水分を測定する位置と根域とを一致させることは不可能であり、樹体の水分状態を適切に反映させることが難しい。この土壌の水分状態を指標とする制御は、緑化や施設園芸に適しており、樹園地での永年性作物には適していない。
【0006】
また、日射量を指標とする制御(特許文献5、6)は、樹体の水分状態を直接反映するものではない。さらに、蒸発散量を指標とする制御(特許文献7)は、樹体の水分状態を適切に維持することを意図したものではない。
【0007】
従来のかん水の制御はいずれも樹体の水分収支から導き出した不足水量や土壌水分の湿潤度合いなどを指標に用いられてきた。これは過剰な乾燥を防ぐために十分なかん水を行うためのものであり、樹体の水分状態を適切に維持するものではない。これらの間接的な指標では樹体の水分状態を適切に表現しているとはいい難い。
【0008】
研究分野においては、樹体の水分状態などの生体情報を考慮した研究が精力的に行われている。一般に樹体の水分状態を直接表わす指標として植物体の水ポテンシャル(水分保持力)が用いられている。水ポテンシャルを用いて、樹体の水分状態の最も適した値を明らかにする研究事例は散見される。しかし、樹体の水分状態をこの最適値に近づける、あるいは維持する事例は見当たらず、具体的な方法は提案されていない。以下、ここでの水ポテンシャルは、日の出前に測定される最大水ポテンシャルの値を示すこととする。
【0009】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、植物の水分状態を適切に維持してかん水の制御を行うことができるかん水制御装置及び、かん水制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意研究の結果、前記課題を解決するために以下のようなかん水制御装置及びかん水制御方法を採用した。
【0011】
本発明のかん水制御装置は、
天候の影響を受けにくい環境下で栽培される植物にかん水を行うかん水装置に対し、予め設定された前記植物の水ポテンシャルの目標値及びこの目標値を中心とした上下の許容範囲と、水ポテンシャル測定装置から得られる前記植物の水ポテンシャルの測定値とを用いて前記かん水装置を制御するかん水制御装置であって、
複数の前記測定値から予測線を作成する予測線作成手段と、
前記予測線から以後の予測値を算定する予測値算定手段と、
前記予測値が前記許容範囲内にある場合には、前記かん水装置をそのままの状態で維持するように制御するかん水維持手段と、
前記予測値が前記許容範囲から外れた場合には、当該予測値が前記許容範囲内に入るように前記かん水装置を制御するかん水調整手段と
を備えることを特徴とする。
【0012】
ここで、かん水調整手段は、予測値が許容範囲の上限よりも高い場合には、かん水量を減らして予測値が許容範囲内に入るようにかん水装置を制御することが好ましい。
【0013】
また、かん水調整手段は、予測値が許容範囲の下限よりも低い場合には、かん水量を増やして予測値が許容範囲内に入るようにかん水装置を制御することが好ましい。また、かん水調整手段は、かん水量を増やす場合に、植物の根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限とし、かん水の実施回数が複数回になるようにかん水装置を制御することが好ましい。この場合は、1日に実施するかん水総量は、1回に実施するかん水量の上限を超える。
【0014】
また、本発明のかん水制御方法は、
天候の影響を受けにくい環境下で栽培される植物の水ポテンシャルの測定値を用いてかん水を制御するかん水制御方法であって、
前記植物の水ポテンシャルの目標値とこの目標値を中心とした上下の許容範囲を設定し、
複数の前記測定値から予測線を作成し、この予測線から以後の予測値を算定し、
前記予測値が前記許容範囲内にある場合にはかん水をそのまま維持するように制御し、
前記予測値が前記許容範囲から外れた場合には、当該予測値が前記許容範囲内に入るようにかん水を制御することを特徴とする。
【0015】
ここで、予測値が許容範囲の上限よりも高い場合には、かん水量を減らして予測値が許容範囲内に入るようにかん水を制御することが好ましい。
【0016】
また、予測値が許容範囲の下限よりも低い場合には、かん水量を増やして予測値が許容範囲内に入るようにかん水を制御することが好ましい。かん水量を増やす場合には、植物の根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限として、かん水を複数回実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のかん水制御装置及びかん水制御方法では、予測線を用いて植物の水ポテンシャルの予測値を算定し、予測値が目標値を中心とした上下の許容範囲内に入るようにかん水を制御するようにした。これにより、水ポテンシャルを目標値に近づけることが可能になる。よって、植物の水分状態を適切に維持してかん水の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態のかん水管理システムを示す図である。
【図2】同実施の形態のかん水制御処理を示すフローチャートである。
【図3】同実施の形態の水ポテンシャルの測定値と予測値の事例を示すグラフである。
【図4】同実施の形態の水ポテンシャルの測定値とかん水制御処理を行った場合の事例を示すグラフである。
【図5】図4に続く水ポテンシャルの測定値と予測値の事例を示すグラフである。
【図6】同実施の形態のかん水制御処理による水ポテンシャルの変動と、従来のかん水制御処理による水ポテンシャルの変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図に従って説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態のかん水管理システム1を示す図である。本実施の形態のかん水管理システム1は、果樹の樹体6(植物)などを対象に緻密なかん水の管理を行うものである。かん水の方法は、手かん水やスプリンクラーかん水などの中から点滴かん水を用いるのが適当である。点滴かん水は、チューブに具備してある複数の孔から1滴1滴少ない水量でかん水し続けるものであり、高いかん水効率が得られる。また、電磁弁などを用いることで、かん水を自動化し易いなどの利点がある。
【0021】
本実施の形態では、天候の影響を受けにくい環境下で栽培するときに効果的に機能する。果樹を天候の影響を受けにくい環境下で栽培する方法としては、例えば土壌をマルチシートで覆って果樹を栽培する方法や、ハウス内で果樹を栽培する方法等が挙げられる。本実施の形態のかん水管理システム1は、栽培期間を通して積極的に樹体6の水分をかん水によって制御する必要がある期間に用いられる。つまり、果実品質の向上を目的とした場合、主にかん水管理システム1の使用する季節は夏秋期である。
【0022】
本実施の形態のかん水管理システム1は、水ポテンシャル測定装置2と、水ポテンシャル測定装置2に接続されたかん水制御装置3と、かん水制御装置3に接続されたかん水装置4と、かん水装置4に接続された水源5(給水装置や給水タンク等)とを備えている。なお、図1において実線の矢印は制御信号などの情報の流れを示し、点線の矢印は水の流れを示している。
【0023】
水ポテンシャル測定装置2は、樹体6の水ポテンシャル(葉の水ポテンシャル)を測定するものである。水ポテンシャルの測定法にはサイクロメーター法やプレッシャーチャンバー法などいくつかの方法があるが、測定に要する時間や前処理の手間などを考慮した場合、プレッシャーチャンバー法を用いて健常な葉の水ポテンシャルを選択するのが妥当である。なお、水ポテンシャル測定装置2は、本実施の形態のようにプレッシャーチャンバー法に限定されない。
【0024】
指標とする水ポテンシャルは日の出前が好ましい。その理由は、日の出前は樹体6上のいずれの位置の葉でも水分状態として均質になるとされており、葉の位置によるばらつきが生じず、安定した水ポテンシャルの測定値を得ることが可能だからである。また、日の出前に測定される水ポテンシャルは、樹体6の水分状態を的確に表している。水ポテンシャルは値が小さい程、樹体6が乾燥した状態(水分ストレス状態)が強いことを表わす。十分なかん水を行わずに栽培される果樹では、樹体6の水ポテンシャルは次第に小さくなっていく。
【0025】
かん水装置4は樹体6にかん水を行うものである。このかん水装置4は、かん水制御装置3に接続された複数の電磁弁41と、各電磁弁41に接続された複数の散水管42(点滴チューブ)とを備えている。樹体6には、水源5から各電磁弁41と散水管42とを介してかん水用の水が送られる。
【0026】
効率的な樹体6の水分状態の管理のためには、樹体6に過不足ない水分を与える必要がある。言うまでも無く、樹体6は主に根域から水分を吸収する。従って、かん水は考慮すべき根域に過不足無い水分を供給することが必要である。点滴かん水によって土壌に浸みこんだ水の基本的な挙動は沈降や拡散である。沈降や拡散によって根域外に流出した水は樹体6へは供給されることはなく、無駄なかん水となる。無駄を防ぐために樹体6の根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限とすることが好ましい。
【0027】
かん水制御装置3は、水ポテンシャル測定装置2で得られた水ポテンシャルの測定値を用いてかん水装置4の制御を行うものである。このかん水制御装置3は、かん水装置4の各電磁弁41に接続して各電磁弁41の開放と閉鎖を制御することにより、かん水量、かん水の実施回数、かん水時刻の制御を行う。また、このかん水制御装置3は、本発明の各手段(予測線作成手段、予測値算定手段、かん水維持手段、かん水調整手段)を備えている。
【0028】
以上のように構成されているかん水管理システム1において、次に、かん水制御装置3を用いたかん水制御処理の手順を図2のフローチャートと図3のグラフを用いて説明する。なお、図3では5つの状況が示されている。
【0029】
(ステップS1)
最初に、作業者は、水ポテンシャルの目標値X(図3参照)を設定し、この目標値Xをかん水制御装置3に入力する。この目標値Xとは、樹体6の水分状態を人為的に操作するために目標とする値である。目標値が異なればかん水制御の結果、樹体6の水分状態も異なり、品質の異なる果実となる。
【0030】
(ステップS2)
次に、作業者は、目標値Xを中心とした上下の許容範囲±α(図3参照)を設定し、この許容範囲±αをかん水制御装置3に入力する。この許容範囲±αは目標値Xに対して許容できる誤差範囲であり、水分状態の厳密な制御を意図した場合は、αは小さい値を設定する。逆に大まかな制御では、αは大きな値となる。
【0031】
(ステップS3)
次に、作業者は、樹体6の水ポテンシャルを複数回(日数単位)測定し、得られた複数の測定値をかん水制御装置3に入力する。本実施の形態では、図3のa1〜a6に示すように、水ポテンシャルを2回(経過日数b1、b2)測定している。ここで、最初に測定した時点(経過日数b1)の水ポテンシャルを初期値a1として設定する。
【0032】
(ステップS4)
かん水制御装置3は、水ポテンシャルの目標値X、目標値Xを中心とした上下の許容範囲±α、初期値a1を含む複数の測定値a2〜a6を用いて予測線L1〜L5(図3参照)を作成する。予測線L1〜L5はそれぞれの状況での一例である。水ポテンシャルは樹体6の水分状態を反映するものであるため、降雨やかん水がなければ単調に低下する値である。そのため、通常は水ポテンシャルの予測線は傾きが負の減少線になる。なお、予測線L1は傾きが正の増加線になっている。この理由は、例えば、降雨などでの天候の影響の状況を加味したためによる。
【0033】
(ステップS5)
次に、かん水制御装置3は、予測線L1〜L5から、以後(経過日数b3)の水ポテンシャルの予測値a7〜a11を算定する。予測値a7〜a11は、それぞれの状況で制御の変更を行わなかった場合の値である。
【0034】
(ステップS6)
次に、かん水制御装置3は、予測値a7〜a11が許容範囲±α内にあるか否かを判断する。
【0035】
(ステップS7→ステップS9)
かん水制御装置3は、予測値a9が許容範囲±α内にあると判断し(ステップS6でYES)、かん水量を維持するようにかん水装置4を制御する。かん水装置4は、この制御内容に基づいて初回のかん水を行う。このかん水の時期は、予測値a9が許容範囲±α内にあると判断したその日である(経過日数b2)。
【0036】
かん水量を維持する理由は、経過日数b3での予測値も許容範囲±α内に維持されるようにするためである。具体的には、予測線L3の傾きが維持されるように(予測線L3がそのまま図4のかん水制御処理の結果であるL8になるように)かん水量を通常通りに設定する。この結果、図4に示すように測定値a4の測定後、経過日数b3で測定した測定値a14は許容範囲±α内に維持される。ここで、通常のかん水量とは、根域まで達するかん水量である。
【0037】
(ステップS8→ステップS9)
かん水制御装置3は、予測値a7、a8、a10、a11が許容範囲±α外にあると判断し(ステップS6でNO)、かん水量を調整するようにかん水装置4を制御する。かん水装置4は、この制御内容に基づいて初回のかん水を行う。このかん水の時期は、予測値a7、a8、a10、a11が許容範囲±α外にあると判断したその日である(経過日数b2)。
【0038】
かん水量を調整する理由は、経過日数b3での予測値を許容範囲±α内に入れるか、あるいは許容範囲±αに近づけるためである。
【0039】
予測値a7の場合は、予測線L1が図4のL6になるように予測線L1の傾きを下げる。予測値a8の場合は、予測線L2が図4のL7になるように予測線L2の傾きを下げる。予測線L1、L2の傾きを下げるには、かん水量を通常よりも減らすことである。なお、通常のかん水量とは、上記で説明したように根域まで達するかん水量である。
【0040】
この結果、図4に示すように測定値a2の測定後、経過日数b3で測定した測定値a12は許容範囲±αの上限+に近づき、測定値a3の測定後、経過日数b3で測定した測定値a13は許容範囲±α内に入る。
【0041】
なお、予測値が許容範囲±αの上限+αよりも高い予測線において、L1のように傾きが正の場合、すなわち予測線が上限+αから遠ざかる場合は、傾きが大きいほどかん水量の減らす量を多くし、L2のように傾きが負の場合、すなわち予測線が上限+αに近づく場合は、傾きが小さいほどかん水量の減らす量を多くする。
【0042】
予測値a10の場合は、予測線L4が図4のL9になるように予測線L4の傾きを上げる。予測値a11の場合は、予測線L5が図4のL10になるように傾きを上げる。予測線L4、L5の傾きを上げるには、かん水量を通常よりも増やす。具体的には根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限としてかん水を複数回実施し、1日に実施するかん水総量を増やす。
【0043】
この結果、図4に示すように測定値a5の測定後、経過日数b3で測定した測定値a15は許容範囲±α内に維持され、測定値a6の測定後、経過日数b3で測定した測定値a16は許容範囲±αの下限−αに近づく。
【0044】
なお、予測値が許容範囲±αの下限−αよりも低い予測線において、L4やL5のように傾きが負の場合、すなわち予測線が下限−αから遠ざかる場合は、傾きが大きいほどかん水量の増やす量を多くする。また、図示しないが傾きが正の場合、すなわち予測線が下限−αに近づく場合は、傾きが小さいほどかん水量の増やす量を多くする。
【0045】
このように、初回のかん水では、予測値が許容範囲±α内に入るように、予測値、予測線の傾きの大きさ、通常のかん水量に基づいてかん水量の制御を行う。
【0046】
初回のかん水の制御内容について以下にまとめて説明する。
(1)予測値が許容範囲±α内・・・現状維持。
(2)予測値が許容範囲±αの上限+αよりも高い・・通常よりもかん水量を減らす。
予測線の傾きが正・・・傾きが大きいほどかん水量の減らす量を多くする。
予測線の傾きが負・・・傾きが小さいほどかん水量の減らす量を多くする。
(3)予測値が許容範囲±αの下限−αよりも低い・・通常よりもかん水量を増やす。(根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限としてかん水を複数回実施し、1日に実施するかん水総量を増やす。)
予測線の傾きが正・・・傾きが小さいほどかん水量の増やす量を多くする。
予測線の傾きが負・・・傾きが大きいほどかん水量の増やす量を多くする。
【0047】
(ステップS10)
初回のかん水が終了したら作業者は、積極的に樹体6の水分をかん水によって制御する必要性の有無によって、かん水制御装置3にかん水の制御処理を継続させるか否かを判断する。かん水の必要がある場合には、ステップS4〜ステップS10の処理を繰り返して予測値を許容範囲±αに近づける、あるいは許容範囲±α内に入るようにかん水の制御処理を行う。これについて図5を用いて説明する。
【0048】
(ステップS4)
かん水制御装置3は、初回のかん水前(経過日数b2)の測定値a2〜a6と、初回のかん水後(経過日数b3)の測定値a12〜16とを用いて予測線L11〜L15を作成する。
【0049】
(ステップS5→ステップS6)
かん水制御装置3は、予測線L11〜L15から、以後(経過日数b4)の予測値a17〜a21を算定し、これらの予測値a17〜a21が許容範囲±α内にあるか否かを判断する。
【0050】
(ステップS7→ステップS9)
かん水制御装置3は、予測値a17〜a19が許容範囲±α内にあると判断し(ステップS6でYES)、その判断した日(経過日数b3)に、かん水装置4に対してかん水量を維持するよう制御する。かん水装置4は、この制御を受けて、その判断した日に2回目のかん水を行う。
【0051】
予測値a17の場合は、予測線L11の傾きを維持するために初回(経過日数b2)のかん水量と同量にする。予測値a18の場合は、予測線L12の傾きを維持するために初回のかん水と同量にする。予測値a19の場合は、予測線L15の傾きを維持するために初回のかん水と同量にする。この結果、図示しないが、測定値a12、a13、a16の測定後、経過日数b4で測定した測定値は許容範囲±α内に維持される。
【0052】
(ステップS8→ステップS9)
かん水制御装置3は、予測値a20、a21が許容範囲±αの下限−αよりも低いと判断し(ステップS6でNO)、その判断した日(経過日数b3)に、かん水装置4に対してかん水量を調整するように制御する。かん水装置4は、この制御を受けて、その判断した日に2回目のかん水を行う。
【0053】
予測値a20の場合は、予測値a20が許容範囲±αに入るように予測線L13の傾きを上げる。予測値a21の場合は、予測値a21が許容範囲±α内に入るように予測線L14の傾きを上げる。つまり、2回目におけるかん水の回数を前回よりも増やす。この結果、図示しないが、測定値a14、a15の測定後(経過日数b4の時点)に測定した測定値は許容範囲±α内に入る。
【0054】
このように、2回目以降のかん水では、予測値が許容範囲±α内に入るように、予測値、予測線の傾きの大きさ、前回のかん水量に基づいてかん水量の制御を行う。
【0055】
2回目以降のかん水の制御内容について以下にまとめて説明する。
(1)予測値が許容範囲±α内・・・前回と同量のかん水量。
(2)予測値が許容範囲±αの上限+αよりも高い・・前回よりもかん水量を減らす。
予測線の傾きが正の場合・・・傾きが大きいほどかん水量の減らす量を多くする。
予測線の傾きが負の場合・・・傾きが小さいほどかん水量の減らす量を多くする。
(3)予測値が許容範囲±αの下限−αよりも低い・・前回よりもかん水量を増やす。(根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限としてかん水を複数回実施し、1日に実施するかん水総量を増やす。)
予測線の傾きが正の場合・・傾きが小さいほどかん水量の増やす量を多くする。
予測線の傾きが負の場合・・傾きが大きいほどかん水量の増やす量を多くする。
【0056】
また、初回または2回目以降のかん水を行うときに、予測線全体が許容範囲±α内にある場合は、現状のかん水を維持することで許容範囲±α内に測定値を維持できる。また、予測値が許容範囲±α内にある期間では、水ポテンシャルの測定は必要としない。
【0057】
以上のようにしてかん水を繰り返し行い、栽培期間を通して積極的に樹体6の水分をかん水によって制御する必要がないと作業者が判断した場合には(ステップS10でNO)、かん水の制御処理を終了する。
【0058】
以上、説明したように本実施の形態のかん水制御装置3及びかん水制御方法では、予測線L1〜L5、L11〜L15を用いて予測値を算定し、この予測値が許容範囲±α内に入るようにかん水を制御するようにした。言い換えると、本実施の形態のかん水制御装置3及びかん水制御方法では、許容範囲±αから外れると予測したときにかん水量を増やす、あるいは減らすようにした。これにより、図6に示すように本実施の形態のかん水制御処理による水ポテンシャルの変動Aは、従来のかん水制御処理による水ポテンシャルの変動Bに比べて少なくなり、水ポテンシャルを目標値Xに近づけることができる。よって、樹体6の水分状態を適切に維持してかん水の制御を行うことができる。
【0059】
このため、本実施の形態のかん水制御装置3及びかん水制御方法では、ウンシュウミカンなどのカンキツ品種やブドウ、ビワなど、かん水管理により高品質果実生産や障害果の軽減ができる樹種において利用できる可能性が高い。
【0060】
また、水ポテンシャルの上昇はかん水によるものである。従来のかん水処理では水ポテンシャルの低下を抑制するために過度なかん水を行っている。そのため、変動Bに示すように水ポテンシャルの急激な上昇が見られる。それに比べ、本実施の形態のかん水制御処理では、かん水調整位置Dの個数を比較すれば明らかなように1回のかん水量を少なくしてかん水を行う頻度を多くしているため、変動Aに示すように水ポテンシャルの上昇は緩慢なものとなる。
【0061】
また、かん水量を多くしたり少なくしたりすることで、かん水の調整処理を行うようにしたので、樹体6の水ポテンシャルを容易に目標値Xに近づけることができる。よって、樹体6の水分状態を適切に維持する制御処理を容易に行うことができる。
【0062】
なお、かん水量を増やす調整を行うときには、樹体の根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限として、1日に実施するかん水の回数を増やすようにしたので、無駄なかん水を抑えることができる。
【0063】
以上、本発明にかかる実施の形態を例示したが、この実施の形態は本発明の内容を限定するものではない。また、本発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。
【0064】
例えば、本実施の形態では、目標値Xおよび許容範囲±αを作業者が設定するようにしたが、かん水制御装置が自動的に設定するようにしても良い。
【0065】
また、本実施の形態では、果樹の樹体6のかん水を行う場合に本発明を適用した例を説明したが、本発明の適用範囲は果樹の樹体6のかん水に限定しなくても良く、他の植物のかん水を行うときに本発明を適用しても良い。
【0066】
また、本実施の形態では、水ポテンシャルを用いて樹体6の水分状態を予測するようにしたが、水ポテンシャル以外の生体情報を用いて樹体の水分状態を予測するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように本発明のかん水制御装置及びかん水制御方法は、植物の水分状態を適切に維持してかん水の制御を行うことができる。したがって、本発明のかん水制御装置及びかん水制御方法を植物のかん水制御の技術分野で十分に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 かん水管理システム
2 水ポテンシャル測定装置
3 かん水制御装置
4 かん水装置
5 水源
6 樹体(植物)
a1〜a6、a12〜a16 水ポテンシャルの測定値
a7〜a11、a17〜a21 水ポテンシャルの予測値
X 水ポテンシャルの目標値
±α 目標値を中心とした上下の許容範囲
+α 許容範囲の上限
−α 許容範囲の下限
D かん水調整位置
L1〜L5、L11〜L15 予測線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天候の影響を受けにくい環境下で栽培される植物にかん水を行うかん水装置に対し、予め設定された前記植物の水ポテンシャルの目標値及びこの目標値を中心とした上下の許容範囲と、水ポテンシャル測定装置から得られる前記植物の水ポテンシャルの測定値とを用いて前記かん水装置を制御するかん水制御装置であって、
複数の前記測定値から予測線を作成する予測線作成手段と、
前記予測線から以後の予測値を算定する予測値算定手段と、
前記予測値が前記許容範囲内にある場合には、前記かん水装置をそのままの状態で維持するように制御するかん水維持手段と、
前記予測値が前記許容範囲から外れた場合には、当該予測値が前記許容範囲内に入るように前記かん水装置を制御するかん水調整手段と
を備えることを特徴とするかん水制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のかん水制御装置において、
前記かん水調整手段は、前記予測値が前記許容範囲の上限よりも高い場合には、かん水量を減らして当該予測値が前記許容範囲内に入るように前記かん水装置を制御することを特徴とするかん水制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のかん水制御装置において、
前記かん水調整手段は、前記予測値が前記許容範囲の下限よりも低い場合には、かん水量を増やして当該予測値が前記許容範囲内に入るように前記かん水装置を制御することを特徴とするかん水制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のかん水制御装置において、
前記かん水調整手段は、前記かん水量を増やす場合に、前記植物の根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限とし、かん水の実施回数が複数回になるように前記かん水装置を制御することを特徴とするかん水制御装置。
【請求項5】
天候の影響を受けにくい環境下で栽培される植物の水ポテンシャルの測定値を用いてかん水を制御するかん水制御方法であって、
前記植物の水ポテンシャルの目標値とこの目標値を中心とした上下の許容範囲を設定し、
複数の前記測定値から予測線を作成し、この予測線から以後の予測値を算定し、
前記予測値が前記許容範囲内にある場合にはかん水をそのまま維持するように制御し、
前記予測値が前記許容範囲から外れた場合には、当該予測値が前記許容範囲内に入るようにかん水を制御することを特徴とするかん水制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載のかん水制御方法において、
前記予測値が前記許容範囲の上限よりも高い場合には、かん水量を減らして当該予測値が前記許容範囲内に入るようにかん水を制御することを特徴とするかん水制御方法。
【請求項7】
請求項5に記載のかん水制御方法において、
前記予測値が前記許容範囲の下限よりも低い場合には、かん水量を増やして当該予測値が前記許容範囲内に入るようにかん水を制御することを特徴とするかん水制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載のかん水制御方法において、
前記かん水量を増やす場合には、前記植物の根域まで達するかん水量を1回に実施するかん水量の上限として、かん水を複数回実施することを特徴とするかん水制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−74881(P2013−74881A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174889(P2012−174889)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)