説明

がん治療剤の製造方法

【課題】カテーテルで輸送しやすく、患部に止まりやすいがん治療剤を提供する。
【解決手段】カルシウム、鉄などのアルカリ性溶液中で不溶となる金属、及びカルボン酸アミドを溶解した酸性ないし中性の第一の水溶液に、そのカルボン酸アミドの加水分解を触媒する酵素、及び第一水溶液中の成分との反応もしくは外部からのエネルギー付与に伴いゲル化しうる有機高分子、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸アンモニウムなどを溶解した第二の水溶液を噴霧し、生じた沈殿物を乾燥することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射線治療、温熱治療などのがん治療に用いられるがん治療剤を製造する方法に属する。
【背景技術】
【0002】
放射性材料からなる微小球をカテーテルにより血管を通して患部に送り込み、がんに直接放射線を照射する治療法は、放射線を体外から照射する療法に比べて体表近くの正常な組織を傷めることなく十分な量の放射線を患部に照射できるので、利用が期待されている。また、強磁性材料からなる微小球をカテーテルにより血管を通して患部に送り込み、患部を交流磁場の下に置いて局部的に加熱する治療法も、体外から加熱する療法に比べて正常な組織を痛めることなく体内深部の患部を加熱することができるので、利用が期待されている。
【特許文献1】WO2004/093889号公報
【0003】
上記治療法に用いるがん治療剤は、カテーテルで輸送しやすく、患部に止まりやすいものであるために、比重、サイズ及び表面性状の全てが適当なものでなければならない。そこで、比重に関する課題を解決するために、発明者等は、イットリウムや鉄などの金属及びカルボン酸アミドを溶解した第一の水溶液に、そのカルボン酸アミドの加水分解を触媒する酵素及びアルキルセルロース誘導体の塩、アルギン酸塩などの有機高分子を溶解した第二の水溶液をスポイトで滴下するなどして加え、生じた沈殿物を乾燥することを特徴とするがん治療剤の製造方法を提案した(特許文献1)。この方法によれば、沈殿物がゲル状をなしているから、乾燥後は多孔質となり、比重の小さいがん治療剤が得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、治療剤の適当なサイズが20〜30μmであるのに対し、特許文献1の実施例において製造された治療剤のサイズは、乾燥後焼成前で1〜3mm、焼成後でも0.5mm以上と桁違いに大きく、これではカテーテルを通りにくい。特許文献1では、第一水溶液に第二水溶液を加える方法としてスポイト滴下の他に噴霧法や振動オリフィス法なども開示したが、噴霧法についての具体的な条件は開示していなかったし、振動オリフィス法では振動子の圧力が弱くて液滴が出なかったりオリフィスが目詰まりしたりすることがある。
それ故、この発明の課題は、直径20〜30μmで比重が小さくしかも表面が平滑ながん治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
その課題を解決するために、この発明のがん治療剤の製造方法は、
アルカリ性溶液中で不溶となる金属、及びカルボン酸アミドを溶解した酸性ないし中性の第一の水溶液に、
そのカルボン酸アミドの加水分解を触媒する酵素、及び第一水溶液中の成分との反応もしくは外部からのエネルギー付与に伴いゲル化しうる有機高分子を溶解した第二の水溶液を0.1〜0.6MPaの圧力で直径0.5〜1.5mmのノズルより噴霧し、生じた沈殿物を焼成することを特徴とする。
【0006】
前記有機高分子が第一水溶液中の成分との反応に伴ってゲル化するものであるとき、第一水溶液に第二水溶液を加えると、第二水溶液が第一水溶液を取り込んでゲル化する。加えられる第二水溶液の形態が滴である場合は、粒子状にゲル化する。そして、ゲル内に保持された酵素の作用でカルボン酸アミドが加水分解され、生成する水酸化物イオンが第一水溶液のpHを上昇させる。そして、第一水溶液にイオン化して溶けている金属が水酸化物イオンと結合して沈殿物となる。上記酵素はゲル(粒子)の中に固定されているので、加水分解もゲル(粒子)の内部及びゲル(粒子)の近傍でのみ進行し、ゲル(粒子)の形状を反映した沈殿物が生成する。そして、ゲル(粒子)は多孔質であるから、沈殿物も多孔質となり、比重は小さい。
【0007】
また、ノズルの直径を0.5mm以上1.5mm以下にすることで、目詰まりすることはないし、得られる粒子の大部分の直径が20〜30μmとなる。好ましい直径は0.8mm〜1.2mmである。噴霧圧力が0.10MPa未満では第二水溶液がノズルから出にくく、0.60MPaを超える圧力で噴霧するには高耐圧性の噴霧器を用いなければならずコスト増となる。
【0008】
前記金属がイットリウムであると放射性を示すイットリア粒子を製造可能であり、鉄であると磁性を示すマグネタイト(Fe)あるいはマグヘマイト(γ―Fe)粒子を製造可能である。尚、鉄の他に亜鉛、マグネシウム、マンガンなどを含んでいても良い
前記金属が硝酸塩に由来すると、その塩が第一水溶液に溶けやすくて好ましい。また、カルボン酸アミドは尿素を含む広義に解され、一般式RCONHで示されるものであればよい。すなわちRは特に指定されず、カルボン酸からカルボキシル基を除いた残基の他、アミノ基でもよい。Rがアミノ基のときは尿素となる。
【0009】
前記有機高分子がアルギン酸塩であるときは鉄イオンとの反応により、アルキルセルロース誘導体の塩であるときはイットリウムイオンとの反応によりゲル化するので好ましい。また有機高分子がアルブミンであるときは穏やかな加熱により、寒天あるいはゼラチンであるときは冷却によりゲル化する。このように有機高分子が外部からのエネルギー付与に伴ってゲル化するものであるときは、第一水溶液に予め外部エネルギーを加えた状態で第二水溶液を噴霧すると良い。第二水溶液への噴霧前にゲル化させると、ノズルを通過しにくくなるからである。更にまた、有機高分子がペクチン酸である場合は糖との反応により、カラゲナンである場合は冷却しながらのカリウムイオンとの反応によりゲル化する。これらの場合は、第一水溶液に糖あるいはカリウムイオンを予め添加しておけばよい。尚、糖は沈殿物生成後に焼成することにより除去可能である。
【0010】
乾燥後の沈殿物を焼成することにより、沈殿物の結晶化が進んで化学的耐久性が増すので好ましい。好ましい焼成温度は、金属がイットリウムである場合は1200〜1300℃である。温度が高い程に結晶化が進むが、1300℃を超えると表面に亀裂が生じ内部も互いに融着して比重が高くなるからである。
第一水溶液の液面とノズルとの距離は、50cm以上が好ましく、1m以上が更に好ましい。50cmに満たないと、噴霧時に液滴に加わった歪みが残ったままゲル化すると思われ、粒子の表面に皺が生じるからである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、この発明によれば、放射性、磁性などのがん治療に有効な特性を示す低比重で適当なサイズの粒子を製造することができるので、カテーテルで輸送しやすく且つ体内で止まりやすく、がん治療に有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
−実施例1−
濃度0.1Mの硝酸イットリウムn水和物Y(NO3)3・nH2O300mLに0.75gの尿素を加えた第一の水溶液と、ウレアーゼ(菜種由来)1mg及びカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC−Na)309.3mgを含む第二の水溶液10mLを調製した。
第二の水溶液をノズル直径1.0mmの小型丸吹きスプレーガン(アネスト岩田株式会社製RG-3L1-3)に注入し、スプレーガンのノズルが第一の水溶液の液面から2m上方に位置するように固定し、ノズルより約0.3MPaの圧力で第一の水溶液に第二の水溶液を噴霧した。第二の水溶液の液滴が第一の水溶液に落下した直後に個々にゲル化した。36℃で4日間放置し、ゲル粒子を水及びエタノールで順に洗浄した後、凍結乾燥した。次いで乾燥ゲル粒子を5℃/分の速度で昇温し、1300℃で2時間保持することにより焼成した。乾燥ゲル粒子の直径は大部分が40〜100μmであり、焼成後は20〜40μmとなった。
【0013】
焼成後のゲル粒子をX線粉末回折計にて分析したところ、立方晶酸化イットリウムのピークのみが認められた。乾燥後焼成前のゲル粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に、焼成後のゲル粒子のSEM写真を図2に示す。各図中、上段は外観、下段は断面を示し、上段において右の写真が左の写真の一部を拡大したものである。図に見られるように、ゲル粒子の表面には穴が無いにもかかわらず、内部は蜂の巣状になっていた。しかも表面は平滑であった。
【0014】
−実施例2−
第二の水溶液中のCMC−Naの含有量を386.6mg又は464.0mgに変えたこと以外は、実施例1と同一条件で第一の水溶液に第二の水溶液を噴霧し、凍結乾燥することにより、乾燥ゲル粒子を得た。乾燥ゲル粒子の直径は大部分が40〜100μmであり、焼成後は20〜40μmとなった。また、CMC−Naの濃度に係わらず、粒子の表面は滑らかであった。
【0015】
−実施例3−
スプレーガンのノズルの位置を第一の水溶液の液面から20cm上方に変えたこと以外は、実施例1と同一条件で第一の水溶液に第二の水溶液を噴霧し、凍結乾燥することにより、乾燥ゲル粒子を得た。乾燥ゲル粒子の直径は大部分が30〜100μmであり、焼成後は10〜40μmとなった。CMC−Naの濃度に係わらず、粒子の表面に多数の皺が生じた。
【0016】
−実施例4−
第二の水溶液中のCMC−Naの含有量を309.3mgから386.6mg又は464.0mgに変えたこと以外は、実施例3と同一条件で第一の水溶液に第二の水溶液を噴霧し、凍結乾燥することにより、乾燥ゲル粒子を得た。乾燥ゲル粒子の直径は大部分が30〜100μmであり、焼成後は10〜40μmとなった。CMC−Naの濃度に係わらず、粒子の表面に多数の皺が生じた。
【0017】
−比較例−
スプレーガンで噴霧することに変えて開口径1.5mmのスポイトで第二の水溶液を滴下した以外は、実施例1と同一条件で乾燥ゲル粒子を作成した。乾燥ゲル粒子の直径は大部分が2〜3mmであり、焼成後は0.5〜1mmとなった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のゲル粒子(乾燥後)を示すSEM写真である。
【図2】実施例1のゲル粒子(焼成後)を示すSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性溶液中で不溶となる金属、及びカルボン酸アミドを溶解した酸性ないし中性の第一の水溶液に、
そのカルボン酸アミドの加水分解を触媒する酵素、及び第一水溶液中の成分との反応もしくは外部からのエネルギー付与に伴いゲル化しうる有機高分子を溶解した第二の水溶液を0.1〜0.6MPaの圧力で直径0.5〜1.5mmのノズルより噴霧し、生じた沈殿物を乾燥することを特徴とするがん治療剤の製造方法。
【請求項2】
前記ノズルの位置が第一水溶液から50cm以上離れている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属がイットリウムまたは鉄であって乾燥後の沈殿物を温度1200〜1300℃で焼成する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機高分子がアルギン酸塩、アルキルセルロース誘導体の塩、アルブミン、ペクチン酸、カラゲナン、寒天及びゼラチンのうちから選ばれる一種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−151910(P2006−151910A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347991(P2004−347991)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】