説明

けい酸カルシウム保温材の製造方法

【課題】 けい酸カルシウム保温材の断熱性能を、特殊な設備を用いずに更に向上させるための、けい酸カルシウム保温材の製造方法を提供すること。
【解決手段】 けい酸カルシウム材を40質量%以上含有してなるけい酸カルシウム保温材の製造方法であって、(1)密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材を乾式粉砕して、粉体かさ密度0.08g/cm3以下の粉末にする工程と、(2)前記粉末を密度が0.3〜0.5g/cm3となるように圧縮成形する工程とを有することを特徴とするけい酸カルシウム保温材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、けい酸カルシウム保温材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
けい酸カルシウム材とは、マトリックスがけい酸カルシウム水和物(トバモライト、ゾノトライト等)で形成された材料であり、石灰質原料とけい酸質原料とを主原料とし、必要に応じてその他の原料とともに湿式または乾式で混合し、成形し、オートクレーブ養生してけい酸カルシウム水和物を生成させることにより硬化させる方法、あるいは原料を混合して得た原料スラリーをオートクレーブ養生してけい酸カルシウム水和物を合成し、脱水成形した後乾燥して硬化させる方法等により製造されている。けい酸カルシウム材は断熱性能を有していることから、保温材として広く使用されてきた材料であり、その断熱性能を高めるため、金属酸化物である酸化チタン等の熱遮蔽性能を有する添加物を含有させる技術も行われてきた(特許文献1)。しかし、この方法によって得られたけい酸カルシウム材の断熱性能は、けい酸カルシウム自体が有している断熱性能に、熱遮蔽性能を有する添加物の効果が上積みされるにすぎない。
【0003】
また、けい酸カルシウムを主材料とする保温材については、使用済みとなった保温材を粉砕し、バインダー等を添加し加圧成形して保温材として再生し、リサイクルする技術が行われている(特許文献2)。特許文献2には、保温材としてリサイクルできることが記載されているだけであって、保温材としての断熱性能を高める技術については、記載も示唆もなされていない。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−143854号公報
【特許文献2】特開平5−17198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、けい酸カルシウム保温材の断熱性能を、特殊な設備を用いずに更に向上させるための、けい酸カルシウム保温材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明は、けい酸カルシウム材を40質量%以上含有してなるけい酸カルシウム保温材の製造方法であって、
(1)密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材を乾式粉砕して、粉体かさ密度0.08g/cm3以下の粉末にする工程と、
(2)前記粉末を密度が0.3〜0.5g/cm3となるように圧縮成形する工程と
を有することを特徴とするけい酸カルシウム保温材の製造方法である。
本発明の第2の発明は、前記けい酸カルシウム保温材が、金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子を60質量%以下の割合で含有することを特徴とする前記第1の発明に記載のけい酸カルシウム保温材の製造方法である。
本発明の第3の発明は、前記金属酸化物および炭化けい素の平均粒径が1〜20μmであることを特徴とする前記第2の発明に記載のけい酸カルシウム保温材の製造方法である。
本発明の第4の発明は、平均粒径が1〜20μmである前記金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子(a)と、平均粒径が5〜50nmである前記金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子(b)とを併用し、前記粒子(a)と粒子(b)との使用割合(質量比)が、(a)/(b)として10/30〜30/10の範囲であることを特徴とする前記第2の発明に記載のけい酸カルシウム保温材の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法を用いれば、従来より公知のけい酸カルシウム保温材を基にして、特殊な設備を必要とせずに、断熱性能の高いけい酸カルシウム保温材を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の特徴およびそれによる作用効果について、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【0009】
本発明の製造方法における(1)工程は、密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材を乾式粉砕して、粉体かさ密度0.08g/cm3以下の粉末にする工程である。
本発明において、密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材は、以下のような方法で製造することができる。すなわち、主原料として石灰質原料(消石灰、生石灰等)とけい酸質原料(珪石粉末等の結晶質シリカ、けいそう土等の非晶質シリカ)を用い、マトリックスがトバモライトである場合は、原料のCaO/SiO2モル比(以下、C/Sと記す)を0.6〜0.9に調整し、また、マトリックスがゾノトライトである場合は、C/Sを0.9〜1.1に調整し、必要に応じて繊維原料(木質パルプ、ガラス繊維等)を添加した後湿式混合し、トバモライトの場合は約180℃、ゾノトライトの場合は約200℃の飽和水蒸気下でオートクレーブ養生し、所望のけい酸カルシウム水和物(トバモライト、ゾノトライト等)を生成させ、加圧脱水して成形し、乾燥して硬化させる。加圧脱水するときの圧力は、原料の粒度等によっても異なるが、密度が0.3g/cm3のけい酸カルシウム材の場合でおおむね2〜5MPa、密度が0.15g/cm3のけい酸カルシウム材の場合でおおむね0.1〜0.5MPaである。
なお本発明でいう密度は、JIS A 9510:2001「無機多孔質保温材」に記載されている、密度の測定方法により測定された値である。
【0010】
また、原料を混合した後加圧成形し、次いでオートクレーブ養生を行い硬化させることにより、密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材を製造してもよい。
【0011】
けい酸カルシウム材の密度が0.3g/cm3を上回ると、本発明を適用しても、けい酸カルシウム保温材の断熱性能があまり向上しない。さらに好ましいけい酸カルシウム成形体の上記密度範囲は、0.1〜0.25g/cm3である。
【0012】
なお、本発明の(1)工程では、密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材であれば、前記のように各種出発原料を用いて製造する必要はなく、けい酸カルシウム成形体の廃材等を用いることもできる。
【0013】
次に、密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材を乾式粉砕し、粉体かさ密度を0.08g/cm3以下の粉末を調製する。
本発明でいう乾式粉砕とは、けい酸カルシウム材に含まれる水分含量が10質量%以下で粉砕することを意味し、好ましい水分含量は5質量%以下である。該水分含量は、けい酸カルシウム材の105℃で24時間乾燥前後の質量から、下式で算出することができる。
水分含量={(けい酸カルシウム材の乾燥前の質量−けい酸カルシウム材の乾燥後の質量)/(けい酸カルシウム材の乾燥後の質量)} × 100 (%)
粉砕方法は特に限定されるものではないが、例えば高速回転するピンの衝撃/剪断力を利用した粉砕器を用いて粉砕すればよい。粉体かさ密度が0.08g/cm3を上回ると、けい酸カルシウム保温材の断熱性能があまり向上しない。なお、粉体かさ密度の測定方法は、JIS K 5101顔料試験方法の静置法による見掛け密度又は見掛け比容の測定方法によるが、本発明においては目開き0.5mmのふるいを使用しないで測定する。さらに好ましい粉体かさ密度は、0.04〜0.06g/cm3である。
【0014】
本発明の製造方法における(2)工程は、前記粉末を密度が0.3〜0.5g/cm3となるように圧縮成形する工程である。これにより、本発明のけい酸カルシウム保温材が得られる。本発明のけい酸カルシウム保温材は、保温材として必要とされる曲げ強度や圧縮強度等の力学的性能を有しており、高い断熱性能を有する。なお、圧縮成形の際、けい酸カルシウム材の粉末に水やバインダーを添加すると、得られたけい酸カルシウム保温材の断熱性能はあまり向上しないので、粉体を乾式で圧縮成形することが好ましい。圧縮成形の圧力は、例えば保温材の密度が0.4g/cm3の場合1〜3MPaである。
【0015】
得られたけい酸カルシウム保温材の密度が0.3g/cm3未満であると、曲げ強度や圧縮強度が低下することから好ましくない。また、得られたけい酸カルシウム保温材の密度が0.5g/cm3を上回ると、けい酸カルシウム保温材の断熱性能が不十分となることから好ましくない。さらに好ましいけい酸カルシウム保温材の上記密度範囲は、0.35〜0.45g/cm3である。圧縮成形は、公知の方法を適宜採用して行えばよい。
【0016】
また本発明の好適な形態は、前記けい酸カルシウム保温材が、金属酸化物および/または炭化けい素(以下、添加材という)を60質量%以下の割合で含有する形態であり、これら添加材の配合により、断熱性能を飛躍的に高めることができる。該添加材のけい酸カルシウム保温材中の好ましい添加量は、20〜50質量%である。該添加量が20質量%以上であることにより、けい酸カルシウム保温材の断熱性能がさらに向上する。また50質量%以下であることにより、けい酸カルシウム保温材の成形性およびハンドリング性を減じることがない。
【0017】
金属酸化物粒子としては、酸化けい素粉末(シリカ)、酸化チタン(チタニア)粉末、酸化ジルコニウム(ジルコニア)粉末、酸化亜鉛粉末、酸化鉄粉末またはこれらの混合物が、断熱性能向上性の観点から好ましい。
また、上記添加材は、平均粒径が1〜20μmであることがとくに好ましい。この平均粒径の範囲内であると、けい酸カルシウム保温材の断熱性能を一層向上させることができる。該平均粒径が1μm以上であることにより、赤外線の反射効果が高まり、熱線の反射性が向上し、20μm以下であることにより、けい酸カルシウム保温材中の添加材の存在が密となり、熱線の反射性が高まるという効果を奏する。
【0018】
本発明のとくに好ましい形態は、平均粒径が1〜20μmである前記金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子(a)と、平均粒径が5〜50nmである前記金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子(b)とを併用し、前記粒子(a)と粒子(b)との使用割合(質量比)が、(a)/(b)として10/30〜30/10の範囲である形態である。粒子(a)と(b)を併用し、かつ粒子(a)と(b)の使用割合を上記のように設定することにより、けい酸カルシウム保温材の断熱性能を相乗的に高めることができる。
粒子(a)のさらに好ましい平均粒径は、1〜5μmであり、粒子(b)のさらに好ましい平均粒径は、5〜20nmである。また、さらに好ましい(a)/(b)は、20 /30〜20/10である。
【0019】
上記添加材は、本発明の(1)工程において、密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材を乾式粉砕して、粉体かさ密度0.08g/cm3以下の粉末に所望量を添加してもよいし、乾式粉砕前のけい酸カルシウム材に添加されていてもよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0021】
(実施例1)
密度が0.15g/cm3のけい酸カルシウム材(株式会社エーアンドエーマテリアル製、商品名スーパーフェザーシリカ)を、(株)奈良機械製作所製自由粉砕機で乾式粉砕し、粉体かさ密度が0.06g/cm3の粉末を得た。なお、乾式粉砕時のけい酸カルシウム材の水分含量は、2.0質量%であった。
この粉末を圧力1.5MPaで圧縮成形し、密度が0.38g/cm3のけい酸カルシウム保温材を得た。該保温材のサイズは、縦150mm、横80mm、厚さ25mmの板状であった。
得られたけい酸カルシウム保温材の曲げ強度および熱伝導率を測定した。曲げ強度はJIS A 9510に基づき、熱伝導率はJIS A 1412に基づき測定した。結果を表1に示す。
【0022】
(実施例2)
実施例1において、粉体かさ密度が0.06g/cm3の粉末100質量部に対し、平均粒径5μmのルチル型酸化チタン35質量部を混合し、その後、密度が0.38g/cm3のけい酸カルシウム保温材が得られるように圧縮成形したこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0023】
(実施例3)
実施例1において、粉体かさ密度が0.06g/cm3の粉末100質量部に対し、平均粒径2μmのルチル型酸化チタン70部、平均粒径5nmのSiO2粉末30部を混合し、その後、密度が0.38g/cm3のけい酸カルシウム保温材が得られるように圧縮成形したこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0024】
(比較例1)
密度が0.35g/cm3のけい酸カルシウム材(株式会社エーアンドエーマテリアル製、商品名ケイカライトL)を(株)奈良機械製作所製自由粉砕機で粉砕し、粉体かさ密度が0.08g/cm3の粉末を得た。なお、乾式粉砕時のけい酸カルシウム材の水分含量は、2.2質量%であった。
この粉末を圧力1.5MPaで圧縮成形し、密度が0.45g/cm3のけい酸カルシウム保温材を得た。該保温材のサイズは、縦150mm、横80mm、厚さ25mmの板状であった。得られたけい酸カルシウム保温材の曲げ強度および熱伝導率を実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0025】
(比較例2)
実施例1において、圧縮成形後の密度を0.55g/cm3とした以外は実施例1と同様にしてけい酸カルシウム保温材を得た。結果を表1に示す。
【0026】
(比較例3)
実施例3において、平均粒径2μmのルチル型酸化チタンを200質量部、平均粒径5nmのSiO2粉末を50質量部使用したこと以外は、実施例3を繰り返した。結果を表1に示す。
【0027】
(比較例4)
実施例1において、粉末の粉体かさ密度が0.09g/cm3となるように乾式粉砕を行ったこと以外は、実施例1を繰り返した。なお、作製されたけい酸カルシウム保温材の密度は0.38g/cm3であり、実施例1と同じである。結果を表1に示す。
【0028】
(参考例1)
実施例1で使用した市販のけい酸カルシウム材(株式会社エーアンドエーマテリアル製、商品名スーパーフェザーシリカ)そのものの曲げ強度および熱伝導率を併せて表1に示す。
【0029】
(参考例2)
粉末珪石及び消石灰をC/S=1.0に調整し、固形分に対し12質量倍の水に分散し攪拌下200℃−8時間のオートクレーブ養生を行って、ゾノトライトからなるけい酸カルシウムスラリーを得た。次いで得られたけい酸カルシウム固形分100質量部に対し、平均粒径5μmのルチル型酸化チタン35質量部を混合し、プレス脱水成形し板状としたのち乾燥し、密度が0.22g/cm3のけい酸カルシウム保温材がを得た以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1では、作製されたけい酸カルシウム保温材の曲げ強度が市販製品(参考例1)と同等以上であり、実用上十分な強度を有するとともに、優れた熱伝導率を示し、保温材として有用であることが分かる。
実施例2では、添加材として酸化チタンの適切量をさらに使用しているので、一層優れた断熱性能が認められる。なお、実施例2と同じ量の添加材を使用しても、本発明の製造ステップを行っていない参考例2では、実施例2ほどの断熱性能が得られていない。
実施例3では、添加材として酸化チタンの粒子(a)と酸化けい素の粒子(b)の適切量をさらに使用しているので、実施例2を超える断熱性能が得られた。
これに対し、比較例1では、(1)工程で使用するけい酸カルシウム材の密度を0.35g/cm3とし、本発明の範囲外であるので、熱伝導率が実施例の数値に比べ悪化している。比較例1の熱伝導率は、市販製品(参考例1)よりも劣るものであった。
比較例2では、(2)工程の圧縮成形後の密度が0.55g/cm3であり、本発明の範囲外であるので、熱伝導率が実施例の数値に比べ悪化している。比較例2の熱伝導率は、市販製品(参考例1)よりも劣るものであった。
比較例3では、添加材の使用割合がけい酸カルシウム保温材中、70質量%を超えており、本発明の範囲外であるので、得られた保温材のハンドリング強度が不十分であるとともに、断熱性能も実施例3に比べて悪化している。
比較例4では、(1)工程で得られる粉体かさ密度が0.09g/cm3であり、本発明の範囲外であるので、熱伝導率が実施例の数値に比べ悪化している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法を用いれば、従来より公知のけい酸カルシウム保温材を基にして、特殊な設備を必要とせずに、断熱性能の高いけい酸カルシウム保温材を容易に製造することができる。とくに本発明では、(1)工程におけるけい酸カルシウム材の密度条件を満たせば、出発材料としてけい酸カルシウム成形体の廃材等を用いることができ、リサイクル面、環境面等にも有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
けい酸カルシウム材を40質量%以上含有してなるけい酸カルシウム保温材の製造方法であって、
(1)密度が0.3g/cm3以下のけい酸カルシウム材を乾式粉砕して、粉体かさ密度0.08g/cm3以下の粉末にする工程と、
(2)前記粉末を密度が0.3〜0.5g/cm3となるように圧縮成形する工程と
を有することを特徴とするけい酸カルシウム保温材の製造方法。
【請求項2】
前記けい酸カルシウム保温材が、金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子を60質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載のけい酸カルシウム保温材の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物および炭化けい素の平均粒径が1〜20μmであることを特徴とする請求項2に記載のけい酸カルシウム保温材の製造方法。
【請求項4】
平均粒径が1〜20μmである前記金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子(a)と、平均粒径が5〜50nmである前記金属酸化物および/または炭化けい素からなる粒子(b)とを併用し、前記粒子(a)と粒子(b)との使用割合(質量比)が、(a)/(b)として10/30〜30/10の範囲であることを特徴とする請求項2に記載のけい酸カルシウム保温材の製造方法。

【公開番号】特開2008−239457(P2008−239457A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86657(P2007−86657)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)