説明

こく味増強剤

【課題】新規なこく味増強剤の製造方法およびこく味増強剤の提供。
【解決手段】クレアチンおよびクレアチニンから選択される少なくとも一つの窒素化合物と、ω3脂肪酸とを含んでなる混合物を加熱することを含んでなる、こく味増強剤の製造方法、およびそれにより得られるこく味増強剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチンおよびクレアチニンから選択される少なくとも一つの窒素化合物と、ω3脂肪酸とを使用した、こく味増強剤の製造方法、およびそれにより得られるこく味増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
基本味とは、味覚の質を表すもっとも基本的な要素で、生理学的には甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5種類の味をいう。また、基本味以外の味として、こく味がある。こく味とは、持続性のあるうま味をいい、好ましくはこれに濃厚感が付与された味をいう。
【0003】
うま味調味料や、酵母エキス、蛋白加水分解物、魚介エキス、畜肉エキス等の天然調味料は、うま味等の基本味を付与することはできるが、こく味を十分に付与することは難しい。
【0004】
こく味を付与する方法としては、例えば、ピラジン化合物類(特許文献1:特許第3929170号公報)や、 分子量1000〜5000のペプチドとカルボニル化合物とのアミノカルボニル反応物(特許文献2:特許第3623753号公報)を用いる等の種々の方法が知られている。
【0005】
また、クレアチンを含有する魚介エキスにフラクトースを添加して加熱する工程を含む、こく味の付与された魚介エキス調味料の製造方法(特許文献3:特開平10−165134号公報)が報告されている。
【0006】
しかしながら、飲食物のこく味を十分に増強することは依然として困難であり、こく味を効果的に増強しうる新たな手段の創出が望まれているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3929170号公報
【特許文献2】特許第3623753号公報
【特許文献3】特開平10−165134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新規なこく味増強剤およびその製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)クレアチンおよびクレアチニンから選択される少なくとも一つの窒素化合物と、ω3脂肪酸とを含んでなる混合物を加熱することを含んでなる、こく味増強剤の製造方法。
(2)上記窒素化合物およびω3脂肪酸の添加量の合計が、上記混合物の20質量%以上である、(1)に記載の方法。
(3)上記窒素化合物と、ω3脂肪酸との質量比が、99.99:0.01〜1:20である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)上記ω3脂肪酸の総炭素数が16〜24である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)上記ω3脂肪酸が、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびリノレン酸からなる群から選択される少なくとも一つのものである、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)上記(1)〜(5)に記載の方法により得られる、こく味増強剤。
(7)上記(6)に記載のこく味増強剤を添加してなる、飲食品。
(8)上記(6)に記載のこく味増強剤を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品のこく味増強方法。
【0010】
本発明によれば、上記窒素化合物と、ω3脂肪酸とを含んでなる混合物を加熱して得られる反応物を用い、飲食品のこく味を顕著に増強することができる。
【発明の具体的説明】
【0011】
窒素化合物
本発明の窒素化合物は、クレアチンおよびクレアチニンから選択される少なくとも一つの成分とされる。
【0012】
また、窒素化合物は、クレアチンまたはクレアチニンのいずれかであってよいが、好ましくはクレアチニンおよびクレアチニンのいずれも含んでなる。窒素化合物におけるクレアチンとクレアチニンとの質量比としては、例えば、20:1〜1:20であるが、好ましくは20:1〜1:3であり、より好ましくは19:1〜3:1である。
【0013】
窒素化合物は、常法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、窒素化合物は、天然または合成の供給源から、常法により単離、精製して用いてもよい。
【0014】
窒素化合物の供給源としては、例えば、牛、豚、鶏、羊等の家畜、マグロ、サンマ、イワシ、カツオ、ニシン等の魚類の筋肉組織を含む部位が挙げられるが、好適な例としては、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉、マグロ、サンマ、イワシ、カツオ、ニシン等の魚肉等である。
【0015】
また、窒素化合物は、その含有物をそのまま用いて、ω3脂肪酸と混合してもよい。窒素化合物の含有物は、特に限定されないが、例えば、クレアチおよびクレアチニンの供給源を乾燥処理、粉砕処理、酵素処理等に供し、得られた処理物を、水または緩衝液等の水性媒体や、エタノール等の有機溶媒等により抽出して調製することができる。また、畜産加工品、水産加工食品の製造時に副生物として得られる煮汁、蒸煮液、クッカージュース、フィッシュソルブル、スティックウォーター等の液媒体を用意し、この液媒体を窒素化合物の含有物として用いることもでき、本発明にはかかる態様も包含される。
【0016】
ω3脂肪酸
本発明のω3脂肪酸は、特に限定されないが、その総炭素数は好ましくは16〜24であり、より好ましくは20〜22である。
より具体的には、ω3脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸(以下、DHAともいう)、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸またはリノレン酸等が挙げられるが、好ましくはDHAである。
【0017】
また、本発明のω3脂肪酸は、常法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、天然または合成の供給源から、それらを常法により単離、精製して用いてもよい。
【0018】
ω3脂肪酸の供給源としては、特に限定されないが、例えば、赤身の魚(マグロ、カツオ、サンマ、イワシ、ニシン等)の魚節や魚油等が挙げられる。
【0019】
また、ω3脂肪酸は、その含有物をそのまま用いて、窒素化合物と混合してもよい。ω3脂肪酸の含有物としては、特に限定されないが、ω3脂肪酸の上記供給源を用いてもよく、それらの抽出物中の油溶性画分等を用いてもよい。
【0020】
水性媒体/その他の成分
本発明において、水性媒体は、特に限定されないが、飲食品の製造において許容可能なものが好ましい。水性媒体の好適な例としては、水、アルコール(エタノール等)が挙げられる。
また、本発明においては、アミノ酸、金属イオン等の成分を適宜上記混合物中に添加してもよい。
【0021】
製造方法
本発明のこく味増強剤の製造方法は、上述の通り、クレアチンおよびクレアチニンから選択される少なくとも一つの窒素化合物と、ω3脂肪酸とを含んでなる混合物を用意し、この混合物を加熱することを含んでなる。かかる製造方法により得られる反応物が、顕著なこく味増強活性を有することは意外な事実である。
【0022】
本発明の製造方法にあっては、まず、窒素化合物およびω3脂肪酸の混合物を用意する。
混合方法は、特に限定されず、窒素化合物およびω3脂肪酸を直接混合してもよいが、例えば、水性媒体中に、窒素化合物またはω3脂肪酸を溶解させ、得られた溶液を、混合する手法を用いてもよい。
【0023】
また、混合物における窒素化合物およびω3脂肪酸の添加量は、特に限定されないが、反応物の効率的な製造を勘案して、当業者によって適宜設定されることが好ましい。
具体的には、窒素化合物およびω3脂肪酸の含有量の合計は、通常上記混合物の20質量%以上であり、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上である。また、上記含有量の合計の上限は、好ましくは100質量%である。
【0024】
また、混合物における窒素化合物と、ω3脂肪酸との質量比は、上記反応物を製造しうる限り特に限定されないが、好ましくは99.99:0.01〜1:20であり、より好ましくは99.95:0.05〜1:10である。
【0025】
また、混合物が溶液である場合、反応物の収率等を勘案して、混合溶液のpHを調節することが好ましい。かかる混合物のpHは、例えば、3〜9であり、好ましくは5〜7である。かかるpHの調節は、緩衝剤等の添加等の常法を用い、当業者によって適宜行われる。
【0026】
また、本発明の製造方法にあっては、上記混合物を加熱する。上記加熱方法は、特に限定されず、常法により当業者によって適宜行われる。
加熱温度は、反応物を製造しうる限り特に限定されないが、例えば、30〜180℃とすることができ、好ましくは50〜120℃である。
また、加熱期間は、特に限定されず、例えば、1分〜数ヶ月であり、好ましくは1〜6時間である。
【0027】
また、本発明の製造方法にあっては、上記加熱と同時にまたは加熱の前または後に、上記混合物を乾燥してもよい。
とりわけ、乾燥後に加熱を行う場合、加熱条件は、相対湿度等も勘案して設定することが好ましい。例えば、加熱時の相対湿度は50〜90%であり、好ましくは60〜80%である。
また、上記相対湿度の下、加熱温度は、例えば、30〜180℃であり、好ましくは50〜120℃である。
また、上記乾燥後の加熱条件下、加熱期間は、例えば、数時間〜数ヶ月間であり、好ましくは3〜10日間である。
【0028】
また、乾燥方法としては、特に限定されないが、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0029】
また、本発明の製造方法にあっては、上記反応物に対して、必要に応じて、活性炭や限外ろ過等による脱色処理、クロマトグラフィーや膜分離等による分離精製処理、濃縮処理等を行ってもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0030】
こく味増強剤
本発明のこく味増強剤は、上述の製造方法によって得られるものである。こく味増強剤としては、上記製造方法によって得られる反応物をそのまま用いてもよく、反応物に、飲食品に使用可能な他の成分を添加・混合してなる、組成物を用いてもよい。
【0031】
本発明のこく味増強剤における上記反応物の含量は、特に限定されないが、反応物の乾燥質量として、好ましくは、こく味増強剤の0.001質量%以上であり、より好ましくは0.001〜0.2質量%である。
【0032】
また、本発明のこく味増強剤に含有される上記他の成分としては、食塩等の無機塩、アスコルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸等の酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸類、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等の糖類、醤油、味噌、畜肉エキス、家禽エキス、魚介エキス、酵母エキス、蛋白質加水分解物等の天然調味料、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、デキストリン、各種澱粉等の賦形剤等、飲食品に使用可能な添加物が挙げられる。
【0033】
また、本発明のこく味増強剤は、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸、オキシグルタミン酸、イボテン酸、トリコロミン酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等のうま味物質を含有していてもよい。かかるこく味増強剤はこく味調味料として用いることができ、本発明にはかかる態様も包含される。
【0034】
また、本発明のこく味増強剤は、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形状を有するものであってもよい。
【0035】
また、本発明のこく味増強剤は、飲食物に添加し、飲食物のこく味を増強しうる。したがって、本発明の別の態様によれば、本発明のこく味調味料が添加されてなる、飲食物が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、こく味増強剤を飲食品に添加することを含んでなる、飲食物のこく味増強方法が提供される。
【0036】
本発明のこく味増強剤の添加方法は、特に限定されないが、飲食品の調理時に素材として添加する方法や、摂食時に添加する方法等が挙げられる。
こく味増強剤の添加量は、飲食品の種類・性質に応じて、適宜調整してよいが、例えば、食品100質量部に対して、反応物の乾燥質量に換算して、0.001〜2質量部であり、好ましくは0.01〜0.2質量部である。
【0037】
また、本発明のこく味調味料が添加される飲食品としては、味噌、醤油、たれ、だし、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ等の調味料、吸い物、コンソメスープ、卵スープ、ワカメスープ、フカヒレスープ、ポタージュ、味噌汁等のスープ類、麺類(そば、うどん、ラーメン、パスタ等)のつゆ、スープ、ソース類、おかゆ、雑炊、お茶漬け等の米調理食品、ハム、ソーセージ、チーズ等の畜産加工品、かまぼこ、干物、塩辛、珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、煎餅、クッキー等のスナック菓子類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー等の調理食品等があげられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1:サンプルの調製
(1) ドコサヘキサエン酸(DHA)10mgに90%のエタノールを加えて溶解させて10mlとした。得られた溶液0.2ml(DHA0.2mg含有)に99.8mgのクレアチンを添加して混合した。
得られた溶液を60℃の条件下で2時間エバポレーターに供し、クレアチンとDHAとの加熱反応物(以下、「加熱反応物1」という)を得た。
【0040】
(2)また、クレアチン99.8mgの代わりに、クレアチン94.81mgおよびクレアチニン4.99mgを用いる以外、(1)と同様の操作を行い、クレアチンおよびクレアチニンと、DHAとの加熱反応物(以下、加熱反応物2という)を得た。
【0041】
実施例2:官能評価
濃い口しょう油35%(W/W)、醸造調味料(キリン協和フーズ社製)8%(W/W)、素だし(キリン協和フーズ社製)3.7%(W/W)、かつおエキス(キリン協和フーズ社製)5%(W/W)、コンブエキス(キリン協和フーズ社製)0.5%(W/W)、上白糖2%(W/W)、異性化液糖10%(W/W)、食塩1.21%(W/W)、水34.59%(W/W)の組成を有するめんつゆの素に熱湯を加えて600mLとし、めんつゆを調製した。
【0042】
次に、クレアチン、DHA、および加熱反応物1の3つのサンプルをそれぞれ0.05%(W/W)となるように、めんつゆに添加し、得られためんつゆのこく味について、5名のトレーニングされたパネラーにより官能評価を行った。また、無添加のめんつゆをコントロールとした。
【0043】
評点は、コントロールおよび上記3つのサンプルからなる4つの試験区について、こく味を強く感じる順に、1点、2点、3点および4点とし、各パネラーの評点の合計値を各評価区の評点とした。したがって、数値のより低い評価区は、こく味がより増強されたと評価される。
【0044】
結果は、表1に示される通りであった。
【表1】

【0045】
表1に示す通り、クレアチンとDHAとの加熱反応物である加熱反応物1を添加して得られためんつゆは、コントロールと比較して有意にこく味が増強されていた。
【0046】
実施例2:官能評価
クレアチンに代えてクレアチンおよびクレアチニンの等量混合物を用い、加熱反応物1に代えて加熱反応物2を用いる以外、実施例1の官能評価と同様の手法により官能評価を行った。
【0047】
結果は、表2に示される通りであった。
【表2】

【0048】
表2に示すとおり、クレアチンおよびクレアチニンとDHAとの加熱反応物である加熱反応物2を添加して得られためんつゆは、コントロールと比較して有意にこく味が増強されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレアチンおよびクレアチニンから選択される少なくとも一つの窒素化合物と、ω3脂肪酸とを含んでなる混合物を加熱することを含んでなる、こく味増強剤の製造方法。
【請求項2】
前記窒素化合物およびω3脂肪酸の添加量の合計が、前記混合物の20質量%以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記窒素化合物と、ω3脂肪酸との質量比が、99.99:0.01〜1:20である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ω3脂肪酸の総炭素数が16〜24である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ω3脂肪酸が、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびリノレン酸からなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法により得られる、こく味増強剤。
【請求項7】
請求項6記載のこく味増強剤を添加してなる、飲食品。
【請求項8】
請求項6に記載のこく味増強剤を飲食品に添加することを含んでなる、飲食品のこく味増強方法。