説明

ころ軸受用保持器

【課題】内輪を抜いたときに、ポケット孔からころが落下しないころ軸受用保持器を提供する。
【解決手段】帯状鋼板11は、ポケット孔12、13の円周方向両側に設けられた柱部20、25と、ポケット孔12、13の軸方向両側に設けられた第1環状部30および第2環状部35と、ころの抜けを防止する爪部21、22、26、27とからなるころ軸受用保持器10であって、帯状鋼板11の両端部31、32、36、37を、一つのポケット孔13を形成する第1環状部30および第2環状部35に設け、爪部は、一つのポケット孔13へ突出し弾性変形可能な弾性材料で形成した第1爪部26、27と、他のポケット孔12へ突出し帯状鋼板11の一部の塑性変形により形成した第2爪部21、22とからなり、帯状鋼板11の両端部31、32、36、37が離間しても、ころが一つのポケット孔13から落下しない程度の突出量を第1爪部26,27は有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば円筒ころを回転可能に保持するころ軸受用保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のころ軸受用溶接保持器は、例えば図6に示すものがある(特許文献1)。100は帯状鋼板、101はポケット孔、102はポケット孔101の円周方向両側の柱部、106、107はポケット孔101の軸方向両側の第1環状部および第2環状部、108、109は溶接部、110、111は溶接ビードである。
【0003】
このころ軸受用溶接保持器は、幅が一定で所定の長さに切断した帯状鋼板100を環状に丸めて作られる。ころ軸受用溶接保持器は、周方向に複数の転動体収納用のポケット孔101を有し、複数のポケット孔101のうち、一つのポケット孔101を構成する第1環状部106および第2環状部107の両端部を突合せ溶接し、両端部間に溶接部108、109が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4525247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ころ軸受用溶接保持器および円筒ころを内輪および外輪間に挿入し、外輪に対し内輪を回転させると、円筒ころの進み遅れにより、ころ軸受用溶接保持器を分断しようとする力が円周方向に作用する。第1環状部106および第2環状部107に比べて溶接部108、109の方が強度的に弱いので、溶接部108、109が分断しやすい。溶接部108、109で分断した状態で、内輪を抜くと、前記一つのポケット孔101から円筒ころが落下する問題があった。本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、内輪あるいは外輪を抜いたときに、ポケット孔からころが落下しないころ軸受用保持器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、環状をなし円周方向にころ収納用のポケット孔を複数形成した帯状鋼板からなり、この帯状鋼板は、前記ポケット孔の円周方向両側に設けられた柱部と、前記ポケット孔の軸方向両側に設けられた第1環状部および第2環状部と、前記柱部から前記ポケット孔へ向かって突出し、ころの抜けを防止する爪部とからなるころ軸受用保持器であって、前記帯状鋼板の両端部を、円周方向に複数あるポケット孔のうち、一つのポケット孔を形成する前記第1環状部および前記第2環状部に設け、前記爪部は、前記一つのポケット孔へ突出し弾性変形可能な弾性材料で形成した第1爪部と、前記一つのポケット孔以外のポケット孔へ突出し帯状鋼板の一部の塑性変形により形成した第2爪部とからなり、前記帯状鋼板の両端部が離間しても、前記ころが前記一つのポケット孔から落下しない程度の突出量を前記第1爪部は有するものである。
請求項2に記載の発明は、前記第1爪部の弾性材料が、ゴム材料で構成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内輪あるいは内輪を抜いたとき、帯状鋼板の両端部が離間しても、弾性変形可能な弾性材料で形成した第1爪部によって、ころがポケット孔から落下するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態におけるころ軸受用保持器の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるころ軸受用保持器の図1のA矢視図である。
【図3】本発明の実施形態におけるころ軸受用保持器の展開平面図である。
【図4】本発明の実施形態におけるころ軸受用保持器の軸方向中間で断面した拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態におけるころ軸受用保持器の図4相当に該当し、帯状鋼板の両端部が離間した状態図である。
【図6】従来のころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について、図1ないし図5を参酌しつつ説明する。図1はころ軸受用保持器の斜視図であり、図2はころ軸受用保持器の図1のA矢視図であり、図3はころ軸受用保持器の展開平面図であり、図4はころ軸受用保持器の軸方向中間で断面した拡大断面図であり、図5は図4相当に該当し、帯状鋼板の両端部が離間した状態図である。
【0010】
図1ないし図3において、10はころ軸受用保持器全体を示す。11は帯状鋼板、12、13はポケット孔、20、25はポケット孔12の円周方向両側の柱部、30、35はポケット孔12、13の軸方向両側の第1環状部および第2環状部、21、22、26、27は爪部、31、32は帯状鋼板11の第1環状部30の両端部であり、36、37は帯状鋼板11の第2環状部35の両端部である。
【0011】
ころ軸受用保持器10は、円周方向に複数のポケット孔12、13を有する一枚の帯状鋼板11を環状に丸めたものである。帯状鋼板11は、ポケット孔12、13の円周方向両側に設けられた柱部20、25と、ポケット孔12の軸方向両側に設けられた第1環状部30および第2環状部35とからなっている。
【0012】
ポケット孔12、13は、円周方向両側の柱部20、25と、軸方向両側の第1環状部30および第2環状部35とで囲まれた平面視矩形形状(図3)をなしている。柱部20、25は円周方向に一定幅で軸方向に延びる部分であり、第1環状部30、35は軸方向に一定幅で円周方向に延びる部分である。
【0013】
柱部20、25は全部で12本あり、このうちの10本は柱部20であり、残りの2本は柱部25である。円周方向に複数あるポケット孔12、13のうち、一つのポケット孔13だけ円周方向両側に柱部25が位置する。前記一つのポケット孔13の両側にあるポケット孔12だけは、円周方向両側に柱部20および柱部25がそれぞれ位置する。前記以外の残りのポケット孔12の円周方向両側に柱部20が位置する。
【0014】
2本の柱部25間でポケット孔13の円周方向の中間で、後述するフープ材から帯状鋼板11を切断したときにできる切断部を有する。この切断部は、帯状鋼板11の幅方向にかつ帯状鋼板11の板厚方向に真っ直ぐ切断されたものである。この切断部を挟んで両側で、第1環状部30に両端部31、32を有し、第2環状部30に両端部36、37を有する。
【0015】
柱部25は、ポケット孔13側へ突出する爪部26、27を有し、ポケット孔12側へ突出する爪部21、22を有する。柱部20は、ポケット孔12側へ突出する爪部21、22を有する。爪部26、27は帯状鋼板11に加硫接着されたゴム材料、例えばニトリルゴムからなり、爪部21、22は帯状鋼板11の一部の塑性変形によって形成される。爪部21および爪部26は第1環状部30側に設けられ、爪部22および爪部27は第2環状部35側に設けられている。
【0016】
柱部20の内周面には、爪部21、22に対応する位置に凹み20aが形成されている。図略の塑性用プレス金型を使用して、凹み20aを形成すると同時に、凹み20aにあった材料を使って爪部21、22を塑性加工により形成している。
【0017】
図4に示すように、柱部25の内周面には、爪部21、22に対応する位置に凹み20bが形成されている。図略の塑性用プレス金型を使用して、凹み20bを形成すると同時に、凹み20bにあった材料を使って爪部21、22を塑性加工により形成している。
【0018】
柱部25の内周面には、爪部26、27に対応する位置に凹み20cが形成されている。図略の塑性用プレス金型を使用して、凹み20cを形成している。凹み20cによって、柱部25に対する爪部26、27の加硫接着面積を増やすことができ、爪部26、27が柱部25から脱落しにくくなる。
【0019】
図1ないし図5に示すように、いずれの爪部21、22、26、27も、ポケット孔12、13に向かって先細り形状となるように突出し、断面三角形状を有し、外径側に傾斜面を有する。爪26、27のポケット孔13側への突出量は、爪21、22のポケット孔12側への突出量と比較して多い。第1環状部30の両端部31、32間および第2環状部30の両端部36、37間が離間しても、爪26、27に円筒ころ50が引っかかる程度の突出量を、爪26、27は有する(図5)。
【0020】
次に図1ないし図4にもとづいて、ころ軸受用保持器10の製造方法を説明する。帯状鋼板11にプレス加工を施し、ころ軸受用保持器10の展開平面を作る(図3)。帯状鋼板11の材料としては、例えば、成形性に優れたSPCCのフープ材を用いることができる。
【0021】
ころ軸受用保持器10の展開平面を作るのに、打ち抜き切断用プレス金型が使用され、これによって複数のポケット孔12、13、両端部31、32間の切断部、両端部36、37間の切断部が同時に成形される。すなわち、材料の打ち抜きと材料の切断が同時に行われる。続いて塑性変形用プレス金型によって、帯状鋼板11に爪部21、22および凹み20a、20b、20cが同時に形成される。凹み20a、20bにあった材料を爪21、22側へ押し出すとともに爪21、22が塑性変形によって形作られる。平板状の帯状鋼板11をゴム用射出成形型にセットし、ゴム材料を凹み部20cへ射出すると、凹み20cに加硫接着すると同時に爪26、27の形が作られる。続いて曲げ加工金型によって、帯状鋼板11は環状に曲げられる(図1)。
【0022】
この後、帯状鋼板11に熱処理、バレル加工がなされ、こうして出来たころ軸受用保持器10に円筒ころが装填され、さらに外輪が嵌め込まれる。この形をセットにして出荷され、客先にて内輪が組みつけられる。
【0023】
組付け後、例えば、外輪に対し内輪を回転させると、円筒ころ50は外輪および内輪上を転動し、ころ軸受用溶接保持器10は内輪と同方向に回転する。外輪および内輪間には、例えば円周1箇所で大きなラジアル荷重が作用し、ラジアル荷重が作用しているところに向けて円筒ころ50の進み遅れが増大し、ラジアル荷重が作用しているところを通過すると円筒ころ50は進み遅れを取り戻す。このため、ころ軸受用溶接保持器10には円周方向に引っ張り荷重が作用し、この引っ張り荷重はラジアル荷重が作用しているところに向けて増大する。引っ張り最大荷重が、第1環状部および第2環状部22に作用しても、これ自体が溶接部を持っていないので、分断する恐れがない。
【0024】
引っ張り最大荷重が、両端部31、32間および両端部36、37間に作用すると、両端部31、32間および両端部36、37間は離間する(図5)。図4に示すように、内径側へ折れ曲っていた爪部26、27は、弾性復帰し、図5の実線あるいは図4の2点差線で示すように、ポケット孔13側へ真っ直ぐ伸びた状態となる。かかる状態で内輪を抜いても、爪部26、27に引っかかって円筒ころ50は、ポケット孔13から脱落しない(図5)。参考までに図5の2点鎖線で示した爪部21、22であると、円筒ころ50はポケット孔13から脱落する。ラジアル荷重が作用しているところから180度ずれた位置では、圧縮最大荷重が作用し、これが両端部31、32間および両端部36、37間に作用すると、両端部31、32間および両端部36、37間は、図4に示すように、閉じた状態となる。
【0025】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0026】
上述した実施形態は、爪部21、22、26、27を柱部20、25の内径側に設け、円筒ころ50が内径側へ抜けるのを防止した。他の実施形態として、爪部21、22、26、27を柱部20、25の外径側に設け、円筒ころ50が外径側へ抜けるのを防止しても良い。
【0027】
上述した実施形態は、爪部26、27はゴム材料、例えばニトリルゴムで構成した。他の実施形態として、爪部26、27をスチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、あるいはウレタンゴムで構成しても良い。
【0028】
上述した実施形態は、爪部26、27はゴム材料で構成した。他の実施形態として、バネ鋼で構成しても良い。
【符号の説明】
【0029】
10:ころ軸受用保持器、11:帯状鋼板、12:ポケット孔、13:ポケット孔、20:柱部、21:爪部(第2爪部)、22:爪部(第2爪部)、25:柱部、26:爪部(第1爪部)、27:爪部(第1爪部)、30:第1環状部、31:両端部、32:両端部、35:第2環状部、36:両端部、37:両端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状をなし円周方向にころ収納用のポケット孔を複数形成した帯状鋼板からなり、この帯状鋼板は、前記ポケット孔の円周方向両側に設けられた柱部と、前記ポケット孔の軸方向両側に設けられた第1環状部および第2環状部と、前記柱部から前記ポケット孔へ向かって突出し、ころの抜けを防止する爪部とからなるころ軸受用保持器であって、前記帯状鋼板の両端部を、円周方向に複数あるポケット孔のうち、一つのポケット孔を形成する前記第1環状部および前記第2環状部に設け、前記爪部は、前記一つのポケット孔へ突出し弾性変形可能な弾性材料で形成した第1爪部と、前記一つのポケット孔以外のポケット孔へ突出し帯状鋼板の一部の塑性変形により形成した第2爪部とからなり、前記帯状鋼板の両端部が離間しても、前記ころが前記一つのポケット孔から落下しない程度の突出量を前記第1爪部は有することを特徴とするころ軸受用保持器。
【請求項2】
前記第1爪部の弾性材料は、ゴム材料であることを特徴とする請求項1に記載のころ軸受用保持器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113359(P2013−113359A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259129(P2011−259129)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】