説明

ころ軸受用溶接保持器

【課題】円周方向に引っ張り荷重が作用しても分断しにくいころ軸受用溶接保持器を提供する。
【解決手段】環状をなし円周方向にころ収納用のポケット孔20を複数形成した帯状鋼板11からなり、帯状鋼板11は、ポケット孔20の円周方向両側に設けた柱部25、26と、ポケット孔20の軸方向両側に設けた第1環状部21および第2環状部22とからなり、帯状鋼板11の円周方向の両端部を、第1環状部21および第2環状部22に設け、この両端部間に溶接部30、33を設けたころ軸受用溶接保持器10において、第1環状部21の溶接部30と、第2環状部22の溶接部33を、円周方向に異なるポケット孔20にそれぞれ設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受用溶接保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の溶接保持器は、例えば図3に示すものがある(特許文献1)。100は帯状鋼板、101はポケット孔、102はポケット孔101の円周方向両側の柱部、106、107はポケット孔101の軸方向両側の第1環状部および第2環状部、108、109は溶接部、110、111は溶接ビードである。
【0003】
この溶接保持器は、幅が一定で所定の長さに切断した帯状鋼板100を環状に丸めて作られる。溶接保持器は、円周方向に複数の転動体収納用のポケット孔101を有し、複数のポケット孔101のうち、一つのポケット孔101を構成する軸方向両側の第1環状部106および第2環状部107に、前記一つのポケット孔101の円周方向の中間で、帯状鋼板100の両端部を設け、この両端部を突合せ溶接することによって両端部間に溶接部108、109が形成されている。
【0004】
こうして作られた溶接保持器を、円筒ころとともに外輪および内輪間へ挿入して使用すると、円筒ころの進み遅れによって溶接保持器を分断しようとする引っ張り荷重が円周方向に働く。第1環状部106および第2環状部107に比べて溶接部108、109の方が強度的に弱いため、溶接部108、109で分断しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4525247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、円周方向に引っ張り荷重が作用しても分断しにくいころ軸受用溶接保持器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、環状をなし円周方向にころ収納用のポケット孔を複数形成した帯状鋼板からなり、前記帯状鋼板は、前記ポケット孔の円周方向両側に設けた柱部と、前記ポケット孔の軸方向両側に設けた第1環状部および第2環状部とからなり、前記帯状鋼板の円周方向の両端部を、前記第1環状部および前記第2環状部に設け、この両端部間に溶接部を設けたころ軸受用溶接保持器において、前記第1環状部の前記溶接部と、前記第2環状部の前記溶接部を、円周方向に異なるポケット孔にそれぞれ設けたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1環状部および溶接部、あるいは溶接部および第2環状部で、円周方向の引っ張り最大荷重を受け止めるため、分断しにくいころ軸受用溶接保持器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態におけるころ軸受用溶接保持器の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【図3】従来のころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、図1および図2を参酌しつつ説明する。図1はころ軸受用溶接保持器の斜視図であり、図2はころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【0011】
図1および図2において、10はころ軸受用溶接保持器全体を示す。11は帯状鋼板、20はポケット孔、25、26はポケット孔20の円周方向両側の柱部、21、22はポケット孔20の軸方向両側の第1環状部および第2環状部、30、33、36は溶接部である。
【0012】
溶接保持器10は、円周方向に複数のポケット孔20を有する一枚の帯状鋼板11を環状に丸め、その円周方向の両端部および軸方向の両端部を突合せ溶接することによって構成されている。各ポケット孔20は、円周方向両側の柱部25、26によって円周方向に仕切られ、軸方向両側の第1環状部21および第2環状部22によって軸方向に仕切られている。複数のポケット孔20のうち、一つのポケット孔20を形成する第1環状部21に帯状鋼板11の両端部の溶接部30が位置する。複数のポケット孔20のうち、一つのポケット孔20を形成する第2環状部22に帯状鋼板11の両端部の溶接部33が位置する。溶接部30があるポケット孔20に対して、円周方向に4つ目のポケット孔20に溶接部33がある。溶接部30の帯状鋼板11の軸方向両側に溶接ビート31が形成され、この溶接ビート31はグラインダー等によって除去されるようになっている。また突合せ溶接部33の帯状鋼板11の軸方向両側に溶接ビート34が形成され、この溶接ビート34はグラインダー等によって除去されるようになっている。
【0013】
溶接部30があるポケット孔20と、溶接部33があるポケット孔20との間にある4つの柱部26は、これの軸方向の中間で帯状鋼板11の両端部を有する。柱部26は、第1環状部21側の柱片27と、第2環状部22側の柱片28とからなり、柱片27および柱片28を軸方向に突合せ溶接することによって、柱片27の端部と柱片28の端部間に溶接部36が形成されるようになっている。溶接部36の円周方向両側に溶接ビート37が形成され、この溶接ビート37はグラインダー等によって除去されるようになっている。
【0014】
ポケット孔20は、円周方向両側の柱部25、26と、軸方向両側の第1環状部21および第2環状部22とで囲まれた平面視矩形形状(図2)をなしている。柱部25、26は円周方向に一定幅で軸方向に延びる部分であり、第1環状部21および第2環状部22は軸方向に一定幅で円周方向に延びる部分である。
【0015】
次に図1および図2にもとづいて、溶接保持器10の製造方法を説明する。帯状鋼板11にプレス加工を施し溶接保持器10の展開平面を作る。帯状鋼板11の材料としては、例えば、成形性に優れたSPCCからなるフープ材を用いることができる。
【0016】
溶接保持器10の展開平面を作るのに、打ち抜きプレス金型が使用され、打ち抜きプレス金型によって、複数のポケット20、柱部25、26、第1環状部21、第2環状部22が形成されると同時に、フープ材から帯状鋼板11が切断される。フープ材から切断するときに、4つの柱部26をこれの軸方向の中間で切断して、柱部26を柱片27と柱片28とに分け、4つの柱部26を挟んで円周方向両側にある一方のポケット孔20を形成する第1環状部21を一方のポケット孔20の円周方向の中間で切断し、他方のポケット孔20を形成する第2環状部22を他方のポケット孔20の円周方向の中間で切断する。こうして切断された帯状鋼板11は、6個のポケット孔20を形成する第1環状部21および第2環状部22を中間に有し、一方に4.5個のポケット孔20を形成する第1環状部21と、4個の柱片27と、0.5個のポケット孔20を形成する第2環状部22が突出し、他方に0.5個のポケット孔20を形成する第1環状部21と、4個の柱片28と、4.5個のポケット孔20を形成する第2環状部22が突出している。
【0017】
帯状鋼板11を折り曲げプレス金型にセットし、折り曲げプレス金型によって、帯状鋼板11は環状に折り曲げ成形される。この結果、4個の柱片27および4個の柱片28は、帯状鋼板11の円周方向において同位置にあり、第1環状部21の両端部は互いに接触し、第2環状部22の両端部は互いに接触する。第1環状部21および第2環状部の両端部に図略の電極をそれぞれ接触させ、電流を流す。電流が両端部間を流れるときの抵抗熱によって両端部間が溶け、かかる状態で円周方向に突合せ荷重をかけることによって両端部が一体化する。続いて、柱片27、28に図略の電極をそれぞれ接触させ、電流を流す。電流が柱片27、28間を流れるときの抵抗熱によって柱片27、28間が溶け、かかる状態で帯状鋼板11の軸方向に突合せ荷重をかけることによって柱片27、28同士が一体化する。
【0018】
第1環状部21の両端部間には溶接部30が形成され、溶接部30の帯状鋼板11の軸方向に溶接ビート31がはみ出す。第2環状部21の両端部間には溶接部33が形成され、溶接部33の帯状鋼板11の軸方向に溶接ビート34がはみ出す。柱片27、28間には溶接部36が形成され、溶接部36の帯状鋼板11の円周方向に溶接ビート37がはみ出す。また各溶接部30、33、36から帯状鋼板11の径方向に溶接肉がはみ出す。溶接ビート31、33、37およびはみ出た溶接肉は、グラインダー等で除去される。こうして、ころ軸受用溶接保持器10が完成する。溶接方法は、上記の電気抵抗溶接以外にアーク溶接、ガス溶接等の公知の溶接方法でも実施することができる。
【0019】
こうして作られたころ軸受用溶接保持器10は、図略の円筒ころとともに図略の外輪および図略の内輪間に挿入される。例えば、外輪に対し内輪を回転させると、円筒ころは外輪および内輪上を転動し、ころ軸受用溶接保持器10は内輪と同方向に回転する。外輪および内輪間には、例えば円周1箇所に大きなラジアル荷重が作用し、ラジアル荷重が作用しているところに向けて円筒ころの進み遅れが増大し、ラジアル荷重が作用しているところを通過すると円筒ころは進み遅れを取り戻す。このため、ころ軸受用溶接保持器10には円周方向に引っ張り荷重が作用し、この引っ張り荷重はラジアル荷重が作用しているところに向けて増大する。引っ張り最大荷重は、第1環状部21および溶接部33、あるいは溶接部30および第2環状部22、あるいは第1環状部および第2環状部22に作用するため、ころ軸受用溶接保持器10が円周上の1箇所で分断することはない。つまり、溶接部30および溶接部33に引っ張り最大荷重が同時に作用しない。
【0020】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0021】
上述した実施形態は、溶接部30があるポケット孔20に対し、円周方向に4つ目のポケット孔20に溶接部33を設けた。他の実施形態として、溶接部30あるポケット孔20に対し、円周方向に1つ目のポケット孔20に溶接部33を設けても良い。この場合、柱片27および柱片28間の溶接部37が1個となるので、溶接コストを減らすことができる。さらに他の実施形態として、溶接部30あるポケット孔20に対し、円周方向に6つ目のポケット孔20に溶接部33を設けても良い。この場合、溶接部30および溶接部33にかかるトータルの引っ張り荷重が小さくなるので、より分断しにくくなる。どの実施形態も、同じポケット孔20に溶接部30および溶接部33を設けない。
【0022】
上述した溶接保持器10は、円筒ころ軸受用溶接保持器に限らず、針状ころ軸受用溶接保持器にも適用できる。
【符号の説明】
【0023】
10:溶接保持器、11:帯状鋼板、20:ポケット孔、21:第1環状部、22:第2環状部、25:柱部、26:柱部、30:溶接部、33:溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状をなし円周方向にころ収納用のポケット孔を複数形成した帯状鋼板からなり、前記帯状鋼板は、前記ポケット孔の円周方向両側に設けた柱部と、前記ポケット孔の軸方向両側に設けた第1環状部および第2環状部とからなり、前記帯状鋼板の円周方向の両端部を、前記第1環状部および前記第2環状部に設け、この両端部間に溶接部を設けたころ軸受用溶接保持器において、前記第1環状部の前記溶接部と、前記第2環状部の前記溶接部を、円周方向に異なるポケット孔にそれぞれ設けたことを特徴とするころ軸受用溶接保持器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−108587(P2013−108587A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255122(P2011−255122)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】