説明

ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多の治療におけるCES1および/またはCES3の調節剤

本発明は、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を予防的または治癒的に治療するための候補化合物をin vitroまたはin vivoでスクリーニングする方法であって、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)および/またはカルボキシエステラーゼ3(CES3)タンパク質の発現または活性を調節する化合物の能力を決定するステップを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、さらには皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を治療するための、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)および/またはカルボキシエステラーゼ3(CES3)を調節する化合物の同定および使用に関する。本発明は、これらの病変をin vitroで診断またはin vitroで予後診断する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
脂漏性の脂性皮膚は、皮脂の過度の分泌および排出を特徴とする。従来、額で測定される皮脂レベルが200μg/cm2を超えると、脂性皮膚の特徴であるとみなされる。脂性皮膚は、多くの場合、落屑欠陥、ギラギラ光る顔色および厚い皮膚のきめを伴う。これらの美的障害に加えて、過剰な皮脂により、腐生細菌叢(特に、ざ瘡菌(P.acnes))の無秩序な発育が補助され、面皰および/またはざ瘡性損傷の出現が引き起こされる可能性がある。
【0003】
この皮脂腺の産生への刺激は、アンドロゲンによって誘発される。
【0004】
ざ瘡は、実際には、ホルモンによる制御下にある毛嚢脂腺濾胞の慢性疾患である。ざ瘡に対するホルモン療法は、女性に対する治療の1つの可能性であり、その目的は、皮脂腺に対するアンドロゲンの影響を予防することになっている。このような状況において、エストロゲン、抗アンドロゲン、または卵巣もしくは副腎からのアンドロゲンの産生を低減させる作用剤が一般に用いられる。ざ瘡の治療に用いられる抗アンドロゲンとしては、特に、スピロノラクトン、酢酸シプロテロンおよびフルタミドが挙げられる。しかし、これらの作用剤は、重篤化する可能性がある副作用を有する。したがって、特に、男の胎児に対して女性化の危険性があるため、どんな妊娠も絶対的に予防しなければならない。これらの作用剤は、男性患者には禁止されている。
【0005】
脂漏性皮膚炎は、脂ぎった、黄色がかった鱗屑で覆われた赤色プラークの形で存在する一般的な炎症性皮膚病であり、大体痒疹性で、脂漏性領域において顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/093747
【特許文献2】米国特許第4,921,844号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yeら、1997年、Skin Pharmacol、10(5-6)、288〜97頁
【非特許文献2】Boutら、1991年、Biochim Biophys Acta、1090(1)、43〜51頁
【非特許文献3】Antonenkov、1997年、272(41)、26023〜26031頁
【非特許文献4】Schramら、PNAS、1987年、84(8)、2494〜6頁
【非特許文献5】Goldfingerら、1986年、J Pediatr.、108(1)、25〜32頁
【非特許文献6】Ferdinandusseら、2002年、Am.J.Hum Genet.70、1589〜1593頁
【非特許文献7】Lopaschukら、2003年、Circ Res. 8月8日、93(3)、e33〜7頁
【非特許文献8】Onay-Besikci Aら、2007年、Can J Physiol. Pharmacol.、85(5)、527〜35頁
【非特許文献9】Aoyamaら、1998年、The Journal of Biological Chemistry、276巻、5678〜84頁
【非特許文献10】KohlerおよびMilstein、Nature (London)、256、495〜497頁(1975)
【非特許文献11】Shindo Yら、Biochem Pharmacol.、1978年、27(23)、2683〜8頁
【非特許文献12】Venizelosら、Pediatr. Res.、1994年、36、111〜114頁
【非特許文献13】Jayasena、1999年、Clinical Chemistry 45(9)、1628〜1650頁
【非特許文献14】Xiaら、J Invest Dermatol.、1989年9月、93(3)、315〜21頁
【非特許文献15】Rosenfieldら、J. Invest. Dermatol.、1999年、112、226〜32頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、これらの疾患に対して、副作用は低減させるが、治療プロファイルは同様のものを得るために、ステロイドホルモンの作用の下流のメディエーターを同定し、調節する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本出願人は、カルボキシルエステラーゼ(CES3)をコードする遺伝子は、表皮と比べてラット皮脂腺において優先的に発現していることを発見した。
【0010】
更に本出願人は、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)およびカルボキシエステラーゼ3(CES3)の発現が、PPARγリガンドでの局所処理に引き続き、in vivoで調節されることを発見した。
【0011】
とりわけ本出願人は、これらの遺伝子が、ざ瘡病理及び皮脂分泌過多に関連する動物の薬理学モデル(Fuzzyラット)で発現されていることも実証している。
【0012】
とりわけ、この発現は、PPARγ(5-{4-[2-(メチルピリジン-2-イルアミノ)エトキシ]ベンジル}チアゾリジン-2,4-ジオン、(S)-2-エトキシ-3-{4-[6-(3-ヘプチル-1-メチルウレイド)ピリジン-2-イル]プロピオン酸、またはロシグリタゾン、6-(2-メトキシエトキシメトキシ)ナフタレン-2-カルボン酸[4'-(2,4-ジオキソチアゾリジン-5-イルメチル)ビフェニル-3-イルメチル]メチルアミド、1%)での局所処理に引き続き、皮脂腺のレベルでin vivoで調節されることを発見した。
【0013】
さらに、PPARアゴニストを用いた治療により、皮脂腺のサイズの大幅な減少およびアンドロゲン誘発皮脂分泌過多の低減が誘発されることも公知である(WO2007/093747)。
【0014】
同定された遺伝子は、PPAR受容体の下流で機能するため、PPAR調節剤として最も活性である化合物を同定し、それらを分類し、それらを選択するために使用できる。これに基づいて、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を治療するためのPPARの候補調節剤をスクリーニングするためのマーカーとしての、CES1および/またはCES3遺伝子、またはそのCES1および/またはCES3タンパク質の使用も提案している。より詳細には、CES1および/またはCES3の発現もしくは活性、またはそれらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性に対する、PPAR調節剤の能力を決定することができる。
【0015】
「ざ瘡」という用語は、ざ瘡の全ての形、すなわち、特に、尋常性ざ瘡、面皰性ざ瘡、多形ざ瘡、結節性嚢胞性ざ瘡、集簇性ざ瘡、あるいは日光性ざ瘡、薬物性ざ瘡または職業性ざ瘡などの二次ざ瘡を意味することを意図している。本出願人は、CES1および/またはCES3の発現または活性のレベルを検出することに基づいた、in vitro、in vivoおよび臨床における診断または予後診断の方法も提案している。
【0016】
CES1
用語「CES1」は、セリンエステラーゼ1またはSES1としても既知である、カルボキシルエステラーゼ1を表す。この酵素は、哺乳動物肝臓カルボキシエステラーゼ(EC 3.1.1.1)のファミリーのメンバーであり、各種の生物異体、及びエステル、チオエステルまたはアミド官能基を有する内因性基質を加水分解する(T. Satoh, 1987. Rev. Biochem. Toxicol. 8: 155-181)。CES1はまた、貯蔵コレステロールエステルの加水分解にも関与している(Gbosh及びNatrajan, 2001, Biochem. Biophys. Res. Commun. 284: 1065-1070)。
【0017】
この遺伝子は1991年にクローン化された(Riddlesら, Gene 108: 289-292)。
【0018】
CES3
用語「CES3」は、セリンエステラーゼ3を表し、マウスにおけるES31酵素のホモローグである。哺乳動物カルボキシルエステラーゼファミリーのこのメンバーは、Sanghaniら, 2004 (Drag Metab. Dispos, 32: 505-513)によってクローン化された。同じ著者は、CES1A1、CES2及びCES3がCPT-11(イリノテカン)、及びその酸化代謝産物を強力なトポイソメラーゼI阻害剤である活性代謝産物SN-38に代謝できることを示した。
【0019】
本発明の文脈では、用語「CES1遺伝子」または「CES3遺伝子」または「CES1核酸」または「CES3核酸」は、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3をコードする遺伝子または核酸配列を表す。目的とされる標的は好ましくはヒト遺伝子またはその発現産物であるが、本発明は、前記酵素をコードする外因性の核酸のゲノム挿入または一過的な発現による、異種カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3を発現する細胞にも所望し得る。
【0020】
ヒトにおいては、3種の代替的な転写産物がCES1遺伝子について存在し、CES1の3種の異なる異性体をコードしている。CES1のcDNA配列を添付書類において再現する(配列番号1、配列番号3、及び配列番号5)。それらはそれぞれ配列NM_001025195(Genbank)、配列NM_001025194(Genbank)、配列NM_001266(Genbank)である。
【0021】
用語「CES1」はこれらの3種の異性体を含む。
【0022】
CES3のマウスcDNA配列を添付書類において再現する(配列番号7)。それは配列NM_053200(Genbank)である。
【0023】
スクリーニング方法
本発明の対象は、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する任意の皮膚障害を予防的かつ/または治癒的に治療するための候補化合物をin vitroまたはin vivoでスクリーニングする方法であって、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3の発現もしくは活性、またはそれらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を調節する化合物の能力を決定するステップを含み、前記調節が、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する任意の皮膚障害を予防的または治癒的に治療するための化合物の有用性を示す方法である。したがって、この方法により、CES1および/またはCES3の発現もしくは活性、またはそれらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を調節できる化合物を選択することが可能になる。
【0024】
好ましくは前記スクリーニング方法は、CES1タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、並びにCES3タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、化合物の能力の測定を含む。
【0025】
さらに特定すると、本発明の対象は、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を予防的かつ/または治癒的に治療するための候補化合物をin vitroでスクリーニングする方法であって、両者及び/またはどちらかの前記酵素について
a.少なくとも2種の生体試料または反応混合物を調製するステップと、
b.試料または反応混合物の1つを、試験化合物の1つまたは複数と接触させるステップと、
c.生体試料または反応混合物において、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3タンパク質の発現もしくは活性、それらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を測定するステップと、
d.b)において処理された試料または混合物において、未処理試料または未処理混合物と比較して、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3タンパク質の発現もしくは活性、それらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性の調節が測定される化合物を選択するステップと
を含む方法である。
【0026】
in vivoスクリーニング法は、任意の実験動物、例えばげっ歯類において行うことができる。好ましい一実施形態によると、スクリーニング法は、試験化合物を、好ましくは局所的適用によって動物に投与し、次いで場合によって安楽死によって動物を犠牲にし、表皮剥離試料を取得した後、その表皮剥離における遺伝子発現を、本明細書に記載の任意の方法によって評価することを含む。
【0027】
「調節」という用語は、両者の及び/またはどちらかの酵素の発現もしくは活性、遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性に対する任意の影響、すなわち、場合によっては刺激、しかし好ましくは部分的または完全な阻害を意味することを意図している。したがって、上記のステップd)において試験される化合物は、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3タンパク質の発現もしくは活性、それらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を阻害することが好ましい。試験される化合物において得られる発現の、この化合物の非存在下で行われる対照と比較した差は、25%以上から有意である。
【0028】
本明細書を通して、他に特に指定がなければ、「遺伝子の発現」という用語は、mRNAの発現量を意味するものとし、
「タンパク質の発現」という用語は、そのタンパク質の量を意味するものとし、
「タンパク質の活性」という用語は、そのタンパク質の生物活性を意味するものとし、
「プロモーターの活性」という用語は、そのプロモーターの下流にコードされるDNA配列の転写を開始させる(したがって、対応するタンパク質の合成を間接的に開始させる)そのプロモーターの能力を意味するものとする。
【0029】
試験化合物はどんな種類であってもよい。試験化合物は、天然由来であってよく、または化学合成によって作製されてもよい。これには、構造的に定義済みの化合物のライブラリー、特徴づけられていない化合物または物質、または化合物の混合物が含まれ得る。
【0030】
特に、本発明は、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を治療するための、PPARの候補調節剤のマーカーとしての、CES1および/またはCES3遺伝子、またはそのタンパク質の使用を対象とする。より詳細には、CES1および/またはCES3の発現もしくは活性、またはそれらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を調節するためのPPAR調節剤またはAR調節剤の能力を決定する。
【0031】
好ましくは、CES1タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、並びにCES3タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、化合物の能力が測定される。
【0032】
PPAR調節剤はPPARのアゴニストまたはアンタゴニストであり、アゴニストであることが好ましい。
【0033】
これらの化合物を試験し、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3の発現または活性を調節する治療的に興味深い化合物を同定するために、種々の技法を使用することができる。
【0034】
第1の実施形態によると、生体試料は、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3をコードする遺伝子のプロモーターの全てまたは一部に機能的に連結しているレポーター遺伝子を用いてトランスフェクトした細胞であり、上記のステップc)は、前記レポーター遺伝子の発現を測定するステップを含む。
【0035】
レポーター遺伝子は、特に、所与の基質の存在下で、CAT(クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ)、GAL(ベータガラクトシダーゼ)またはGUS(ベータグルクロニダーゼ)などの着色産物の形成をもたらす酵素をコードし得る。レポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ遺伝子またはGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子であってもよい。このレポーター遺伝子によってコードされるタンパク質、またはそのタンパク質の活性のアッセイを、比色定量法、蛍光定量法または化学発光法などによって、従来の通り行う。
【0036】
第2の実施形態によると、生体試料は、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3をコードする遺伝子を発現している細胞であり、上記のステップc)は、前記遺伝子の発現を測定するステップを含む。
【0037】
本発明で使用される細胞はどんな種類のものであってもよい。本発明で使用される細胞は、CES1および/またはCES3遺伝子を内因的に発現している細胞、例えば肝細胞、卵巣細胞、または、さらに良いのは皮脂腺細胞であり得る。ヒトまたは動物由来の器官、例えば包皮腺、陰核腺、あるいは皮膚の皮脂腺も使用することができる。
【0038】
本発明で使用される細胞は、好ましくはヒト、または哺乳動物のカルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3をコードする異種核酸で形質転換された細胞であってもよい。
【0039】
例えば、Cos-7細胞、CHO細胞、BHK細胞、3T3細胞またはHEK293細胞などの多種多様な宿主細胞系を使用することができる。核酸は、当業者に公知の任意の方法、例えば、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、リポソーム、ウイルス、電気穿孔または微量注入によって、安定にまたは一過性にトランスフェクトすることができる。
【0040】
これらの方法において、CES1および/またはCES3遺伝子またはレポーター遺伝子の発現は、前記遺伝子の転写レベルまたは前記遺伝子の翻訳レベルを評価することにより決定可能である。
【0041】
「遺伝子の転写レベル」という表現は、対応するmRNAの産生量を意味することを意図している。「遺伝子の翻訳レベル」という表現は、タンパク質の産生量を意味することを意図している。当業者は、対象の遺伝子のmRNAを定量的または半定量的に検出するための技法に詳しい。mRNAと、特異的なヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションに基づいた技法が最も一般的である(ノーザンブロット、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)、定量的RT-PCR(qRT-PCR)、リボヌクレアーゼ保護)。蛍光性作用剤、放射性作用剤または酵素作用剤または他のリガンド(例えばアビジン/ビオチン)などの検出標識を用いることが有利であり得る。
【0042】
特に、遺伝子の発現は、リアルタイムPCRまたはリボヌクレアーゼ保護によって測定することができる。「リボヌクレアーゼ保護」という用語は、標識プローブによる特異的ハイブリダイゼーションを用いて行うことができる、組織のポリ(A)-RNAの中での既知mRNAの検出を意味することを意図している。プローブは、探索されるメッセンジャーに相補的な、標識した(放射性)RNAである。プローブは、既知のmRNA、それをRT-PCR後にファージにクローニングしたcDNAから構築することができる。配列を探索する組織由来のポリ(A)-RNAを、液体培地中、緩やかなハイブリダイゼーション条件下で、このプローブと一緒にインキュベートする。探索されたmRNAとアンチセンスプローブとの間でRNA:RNAハイブリッドが形成される。次いで、ハイブリダイズした培地を、一本鎖RNAに特異的なリボヌクレアーゼの混合物と一緒にインキュベートし、その結果、プローブとハイブリッド形成されたもののみがこの消化に耐えられる。次いで消化産物を、除タンパクおよび再精製した後、電気泳動によって分析する。標識されたハイブリッドRNAをオートラジオグラフィーによって検出する。
【0043】
遺伝子の翻訳レベルは、例えば、前記遺伝子の産物を免疫学的にアッセイすることにより評価する。この目的で使用される抗体は、ポリクローナル型またはモノクローナル型であってよい。抗体の産生には従来の技法を必要とする。抗CES1またはCES3ポリクローナル抗体は、とりわけ、ウサギまたはマウスなどの動物を、酵素全体を用いて免疫することによって得られる。抗血清を取得し、次いで当業者に本来公知の方法に従って除去する。モノクローナル抗体は、とりわけ、KohlerおよびMilsteinの従来法によって得られる(Nature (London)、256、495〜497頁(1975))。モノクローナル抗体を調製するための他の方法も公知である。モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマからクローニングした核酸を発現させることによって作製される。抗体は、ファージ提示法によって、ファージの表面にV遺伝子ライブラリーを提示している典型的な繊維状ファージであるベクターに抗体cDNAを導入することによって作製することもできる(例えば、大腸菌(E.coli)に対するFUSE5)。
【0044】
免疫学的アッセイは、固相または均一相において、非限定的な例として、サンドイッチ法または競合法で、1ステップまたは2ステップで行うことができる。好ましい一実施形態によると、捕捉抗体は固相上に固定される。固相の非限定的な例として、マイクロプレート、特にポリスチレンマイクロプレート、または固体粒子もしくは固体ビーズ、または常磁性ビーズを使用することができる。
【0045】
形成された抗原/抗体複合体の存在を明らかにするために、ELISAアッセイ、ラジオイムノアッセイまたは任意の他の検出法を使用することができる。
【0046】
抗原/抗体複合体、より一般的には単離または精製された、また組換えのタンパク質(in vitroおよびin vivoで得られる)の特徴づけを、質量分析によって行うことができる。この同定は、タンパク質の酵素加水分解(一般にトリプシン)によって生成するペプチドを分析すること(質量の決定)によって可能になる。一般に、タンパク質は、酵素消化する前に、当業者に公知の方法に従って単離される。ペプチド(加水分解物の形)の分析は、そのペプチドの物理化学的性質に基づいてHPLC(ナノHPLC)によってペプチドを分離することにより行う(逆相)。このようにして分離されたペプチドの質量の決定は、ペプチドをイオン化し、質量分析を用いて(エレクトロスプレーESIモード)直接カップリングさせるか、当業者に公知のマトリックスの存在下で沈殿および結晶化した後カップリングさせるか(MALDIモードでの分析)のいずれかで行う。続いて適切なソフトウェア(例えばMascot)を使用することによってタンパク質を同定する。
【0047】
第3の実施形態によると、上記のステップa)は、各々がCES1および/またはCES3酵素、およびその酵素の基質を含む反応混合物を調製するステップを含み、上記のステップc)は、酵素活性を測定するステップを含む。
【0048】
CES1および/またはCES3酵素は、Cos-7細胞、CHO細胞、BHK細胞、3T3細胞またはHEK293細胞を用いて、通例の技法に従って作製することができる。CES1および/またはCES3酵素は、細菌(例えば大腸菌(E.coli)もしくは枯草菌(B.subtilis))、酵母(例えばサッカロミセス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia))などの微生物、またはSf9もしくはSf21などの昆虫細胞を用いて作製することもできる。
【0049】
カルボキシエステラーゼ活性の決定は、例えばZejin Sunら, 2004, Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 310: 469-476に報告されている。この例では、カルボキシエステラーゼ活性は、1.0mlの全容量で、90mM KH2PO4, 40mM KCl, pH7.4、37度中の4-メチルウンベルリフェリルアセテートで5μlの(精製)酵素をインキュベートすることによって測定された。加水分解産物4-メチルウンベルリフェロンの形成を、350nmでの分光測定を使用してモニターした。加水分解速度(μモル/分)を時間の関数として吸光度の直線回帰によって計算した。
【0050】
本明細書で定義したスクリーニング方法によって選択された化合物は、続いて他のin vitroモデルおよび/またはin vivoモデル(動物またはヒトにおける)において、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害に対するその効果について試験され得る。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定することなく本発明を例示している。
【0052】
(実施例):実験データ
A.CES1酵素に関する実験データ
(実施例1)
PPARγレセプターアゴニストで治療した後のラット皮脂腺における発現データ
材料と方法
動物:種:ラット
株:Ico:Hsd:FUZZY-fz
性:メス
齢:10週
バッチあたりの数:40(各群8匹)
処理:投与経路:局所的
化合物/バッチ:PPARγアゴニスト
−A:5-{4-[2-(メチルピリジン-2-イルアミノ)エトキシ]ベンジル}チアゾリジン-2,4-ジオン
−B:(2-メトキシエトキシメトキシ)ナフタレン-2-カルボン酸[4’-(2,4-ジオキソチアゾリジン-5-イルメチル)ビフェニル-3-イルメチル]メチルアミド、またはロシグリタゾン
−C:(S)-2-エトキシ-3-{4-[6-(3-ヘプチル-1-メチルウレイド)ピリジン-2-イル]フェニル}プロピオン酸
用量:1%
担体:アセトン(001)
継続時間:96時間
評価の方法:研究の開始時と終結時に動物を計量する。皮膚生検を採取し(ラットあたり採取される6の皮膚サンプル)、遺伝子の発現を分析する(RNA抽出、逆転写、及びリアルタイムPCR)。サンプルを4度で一晩貯蔵し、その後1Mの臭化ナトリウム(NaBr)で37℃で2時間インキュベートする。インキュベーション後、サンプルを表皮または真皮に分類する。表皮サンプルを20度で貯蔵する。これらの条件下で、皮脂腺は表皮の破片に存在する。PCRを実施し、コントロールラットまたはPPARγアゴニストで処理されたラットから由来する皮脂腺を含む表皮破片から由来するcDNAで始める:mRNAをカラムを使用して抽出し、定性分析する。mRNAの量を測定し、18S/28S比によって表す。その結果を、非処理動物(担体群)に対する相対的な誘導として表される18Sに関して標準化する。修飾Monte Carlo統計分析に基づく内部ソフトウェアを使用して統計分析が得られる。
結果(表1)
【0053】
【表1】

【0054】
B.CES3酵素に関する実験データ
(実施例2)
ラットの表皮におけるCSE3タンパク質の発現
ファジーラットの表皮剥離の発現データ
この研究は、研究開始時に10週齢である雌のファジーラット(Hsd:Fuzzy-fz)において行う。この動物を、(PPARgアゴニスト、ロシグリタゾンのアセトン溶液)1%の用量で1日1回、8日間処理する。最後の処理の2時間後、動物を安楽死により犠牲にし、背中の皮膚を切除する。ディスパーゼ中でインキュベートした後、真皮から皮脂腺を有する表皮を引き離す(表皮剥離)。試料を粉砕した後、Qiagenカラムを用いて、供給業者の説明書に従ってmRNAを調製する。このようにして調製された材料を、Affymetrixプラットフォームにおいて大規模トランスクリプトーム分析にかける。続いてデータを標準化し、統計分析後、生じた結果を、各データ断片に対して、転写の存在についての統計値が伴う恣意的な発現単位(以下を参照されたい)で表す(存在=1、非存在=0)。
【0055】
【表2】

【0056】
(実施例3)
PPARγレセプターアゴニストで治療した後のラット皮脂腺における発現データ
材料と方法
動物:種:ラット
株:Ico:Hsd:FUZZY-fz
性:メス
齢:10週
バッチあたりの数:40(各群8匹)
処理:投与経路:局所的
化合物/バッチ:PPARγアゴニスト
−A:5-{4-[2-(メチルピリジン-2-イルアミノ)エトキシ]ベンジル}チアゾリジン-2,4-ジオン
−B:(2-メトキシエトキシメトキシ)ナフタレン-2-カルボン酸[4’-(2,4-ジオキソチアゾリジン-5-イルメチル)ビフェニル-3-イルメチル]メチルアミド、またはロシグリタゾン
−C:(S)-2-エトキシ-3-{4-[6-(3-ヘプチル-1-メチルウレイド)ピリジン-2-イル]フェニル}プロピオン酸
用量:1%
担体:アセトン(001)
継続時間:96時間
評価の方法:研究の開始時と終結時に動物を計量する。皮膚生検を採取し(ラットあたり採取される6の皮膚サンプル)、遺伝子の発現を分析する(RNA抽出、逆転写、及びリアルタイムPCR)。サンプルを4度で一晩貯蔵し、その後1Mの臭化ナトリウム(NaBr)で37℃で2時間インキュベートする。インキュベーション後、サンプルを表皮または真皮に分類する。表皮サンプルを20度で貯蔵する。これらの条件下で、皮脂腺は表皮の破片に存在する。PCRを実施し、コントロールラットまたはPPARγアゴニストで処理されたラットから由来する皮脂腺を含む表皮破片から由来するcDNAで始める:mRNAをカラムを使用して抽出し、定性分析する。mRNAの量を測定し、18S/28S比によって表す。その結果を、非処理動物(担体群)に対する相対的な誘導として表される18Sに関して標準化する。修飾Monte Carlo統計分析に基づく内部ソフトウェアを使用して統計分析が得られる。
結果
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を予防的かつ/または治癒的に治療するための候補化合物をin vitroまたはin vivoでスクリーニングする方法であって、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)および/またはカルボキシエステラーゼ3(CES3)の発現もしくは活性、またはそれらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を調節する化合物の能力を決定するステップを含む方法。
【請求項2】
a.少なくとも2種の生体試料または反応混合物を調製するステップと、
b.前記試料または反応混合物の1つを、試験化合物の1つまたは複数と接触させるステップと、
c.生体試料または反応混合物において、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3タンパク質の発現もしくは活性、それらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を測定するステップと、
d.b)において処理された試料または混合物において、未処理試料または未処理混合物と比較して、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3タンパク質の発現もしくは活性の調節、またはそれらの遺伝子の発現の調節、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性の調節が測定される化合物を選択するステップと
を含む、請求項1に記載の、ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を予防的かつ/または治癒的に治療するための候補化合物をin vitroでスクリーニングする方法。
【請求項3】
ステップd)において選択される化合物が、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3タンパク質の発現もしくは活性、それらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を阻害することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
生体試料が、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3をコードする遺伝子のプロモーターの全てまたは一部に機能的に連結しているレポーター遺伝子がトランスフェクトされた細胞であること、およびステップc)が、前記レポーター遺伝子の発現を測定するステップを含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
生体試料が、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3をコードする遺伝子を発現している細胞であること、およびステップc)が、前記遺伝子の発現を測定するステップを含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
細胞が皮脂腺細胞である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
細胞が、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3をコードする異種核酸で形質転換された細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子の発現が、前記遺伝子の転写レベルを測定することによって決定される、請求項2から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子の発現が、前記遺伝子の翻訳レベルを測定することによって決定される、請求項2から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップa)が、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3酵素およびその酵素の基質をそれぞれが含む反応混合物を調製するステップを含む、ステップc)が、その酵素活性を測定するステップを含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項11】
CES1タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、並びにCES3タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、化合物の能力の測定を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ざ瘡、脂漏性皮膚炎、または皮脂分泌過多に関連する皮膚障害を治療するためのPPARの候補調節剤をスクリーニングするためのマーカーとしての、カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3遺伝子またはカルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3タンパク質の使用。
【請求項13】
カルボキシルエステラーゼ1および/またはカルボキシエステラーゼ3の発現もしくは活性、またはそれらの遺伝子の発現、またはそれらのプロモーターの少なくとも1つの活性を調節するPPAR調節剤の能力を決定するステップを含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
CES1タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、並びにCES3タンパク質の発現または活性、あるいはその遺伝子の発現、あるいはそのプロモーターの少なくとも一つの活性を調節する、化合物の能力の測定を含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
PPAR調節剤がPPARγ調節剤である、請求項12から14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
調節剤がPPAR受容体アゴニストである、請求項12から15のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2011−519572(P2011−519572A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507931(P2011−507931)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055561
【国際公開番号】WO2009/135916
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント (117)
【Fターム(参考)】