説明

すべり軸受

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、回転軸を支持する円筒形のすべり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】回転軸を回転可能に支持するすべり軸受は、ハウジングの内周に沿って円筒形に構成されている。このすべり軸受の内周面と、回転軸との間に供給される潤滑油による潤滑効果や冷却効果によって、摩耗や焼付きが抑制され、また、潤滑油による緩衝作用によって騒音の抑制効果ももたらされている。これらの抑制効果は、すべり軸受の内面と回転軸との間に形成される油膜の厚さが厚いほど、すなわち保持される油量が多いほど大きくなる。従来から保持される油量を多くすることを目的として、内周面に深さ数μmの円周方向に延びる細溝を多数並列して設けた発明がなされている。
【0003】特開昭59ー73620号公報には、すべり軸受の内周全面にわたって、円周方向に対して0〜5度程度の角度で延びる細溝を軸線方向に多数等間隔に形成したすべり軸受を開示している。これにより細溝内に多量の潤滑油を供給することができて、放熱が促進されるとしている(従来技術1)。
【0004】実開昭63ー53922号公報には、すべり軸受の内周に円周方向に延びる細溝のピッチを軸受メタルの軸線方向中央部よりも両端部付近の方を粗くして摺動面幅の割合を大きくしたすべり軸受を開示している。これにより、回転軸が片当たりする両端部の細溝の数を減らすことにより、細溝を形成することによる軸荷重を受ける面積の減少を少しでも減らして面圧を小さくし、耐久性の低下を抑制しようとするものである(従来技術2)。
【0005】実開昭63ー62621号公報には、すべり軸受の内周に円周方向に延びる細溝を軸受メタルの軸線方向中央部よりも両端部付近の方を粗くしたすべり軸受を開示している。この従来技術3では、各細溝の先端(細溝の底部)を結んだ線を鼓形状にして、細溝が両端付近では、深くなるようにしている。これにより、従来技術2とは逆に、回転軸の片当たりによる衝撃荷重が大きくなる両端部では油量が多くなり、この両端部における発熱が抑制されるとしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これらの従来技術1〜3では、いずれもすべり軸受の円周方向に多数の細溝を形成して、軸線方向で細溝の側壁が堤として機能し、軸線方向に潤滑油が流出する抵抗となって、潤滑油の流入圧力の低下するのを抑制するとともに、細溝内に潤滑油を流して、放熱を促しているものである。
【0007】しかし、長期間にわたって使用されると、摩耗が進行して細溝が消失する。この際、これらの細溝による非焼付き性や耐摩耗性の効果が急速に失われてしまう。特に、従来技術3では、両端部付近の細溝を深くしているが、片当たりにより優先的に摩耗するため、やはりほぼ同時期に摩耗して消失してしまうことになる。この発明では、すべり軸受の内周面の円周方向に形成した細溝の深さに着目して、特に保油性が長期に安定し、耐摩耗性に優れたすべり軸受とすることを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、内周面円周方向に延びる多数の細溝を軸線方向に並列して設けたすべり軸受において、前記細溝深さの異なる浅溝と深溝とからなり、この浅溝と深溝とを一単位とする溝群並列形成することにより、軸線方向中央部付近に深溝が存在するように構成したことを特徴とする。この構成により、すべり軸受として使用された際に、浅溝及び深溝内に多量の潤滑油が保持される。特に、各溝間の側壁の堤作用によって軸線方向に潤滑油が流出する抵抗になって、焼付きが防止され、回転軸との間に形成される油膜が厚くなる。これにより、焼付きが防止され、また耐摩耗性に優れたすべり軸受とすることができる。また、長期使用により浅溝が摩耗消失しても、深溝に保持される潤滑油によって、安定した非焼付性及び耐摩耗性が維持されるすべり軸受とすることができる。また、ボーリング加工により、複数の溝を同時に切削する刃先を有する一個の切削バイト、または、複数の切削バイトを組み合わせることによって容易に加工することができる。
【0009】請求項2の発明では、軸線方向の両端部に深い溝の割合が多くなるようにしているために、この両端部に大量の潤滑油が供給されて、なじみ性や耐摩耗性を一層向上させる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、内燃機関の内、高負荷ディーゼルエンジンのクランク軸用のすべり軸受であって、二個の半円筒形状の軸受メタル10a,10bを円筒形に組み合わせて構成されるすべり軸受を例に詳細に説明する。
【0011】図1は、二個の軸受メタル10a,10bが円筒形に組み合わされてハウジング2内に取付けられた状態を示し、軸受メタル10a,10bと回転軸3の間には、潤滑油4が供給されている。このようにして使用される軸受メタル10aの内周面は、耐摩耗性などすべり軸受の軸受特性を満足するため、例えば銅系合金、アルミニウム系合金、錫系または鉛系合金の摺動材がライニングされており、必要に応じて錫系あるいは鉛系合金や合成樹脂系のオーバーレイが施されている。
【0012】また、軸受メタル10a,10bの内表面には、図2に示すように、軸線方向の両端部12、13にわたって、円周方向に対して3度傾いてほぼ直交する方向に、約0.2mmピッチで多数の細溝11が螺旋状に平行して形成される。なお、細溝11は、ボーリング加工やフォトエッチングなどにより形成されている。ボーリング加工による場合には、複数の溝を同時に切削する刃先を有する一個の切削バイト、または、複数の切削バイトを組み合わせて装着するなどにより、複数の溝11を一単位と加工される。このように形成される細溝11によって、軸受メタル10aの軸線方向に深さDが7μmの深溝15と、深溝15、15との間に3つの2μmの深さdの浅溝16が繰り返し形成されている(図3参照)。
【0013】軸受メタル10aがハウジング2に組み付けられて使用されると、図4に示すように、初期のなじみ運転時には、回転軸3との間隙に深溝15及び浅溝16内に多量の潤滑油4が保持されるばかりでなく、各深浅溝15、16間の側壁の堤作用によって潤滑油が軸線方向に流出する抵抗になって、流入圧力が高まり、回転軸との間に、高い油圧の安定した厚い油膜が形成される。この安定した厚い油膜の存在によって、非焼付性と耐摩耗性が発揮される。
【0014】さらに長期にわたって使用されて、浅溝16が摩耗により消失した際にも、一点鎖線で示すように、深溝15により、潤滑油が保持されるとともに高い流入圧力が維持されて、急速に細溝11による効果が失われることが無く、安定した非焼付性及び耐摩耗性が維持される。なお、深溝15または浅溝16の縦断面形状は、図3に示すV字形ばかりでなく、以下に示すように適宜変更して実施することができる。
【0015】図5に示す実施例は、深浅両溝15a、16aの間に形成される頂部を平坦とし、図3に示す実施例よりも軸荷重を受ける面積を増やすことによって耐摩耗性を高めた例である。特に高負荷時に耐摩耗性に優れたすべり軸受になる。
【0016】図6に示す例は、頂部及び底部を平坦にした深浅両溝15b、16bに形成している。この実施例では、深溝15bと浅溝16bのいずれも同一ピッチで形成するとともに、図3に示す実施例よりも深浅両溝15b、16b間に大量の潤滑油を保持することができる。従って、図3に示す実施例よりも、高速回転する回転軸に適応するすべり軸受となる。なお、浅溝16bが摩耗して、浅溝16bが消失してしまうまで、軸荷重を受ける面積が変わらないために、安定した軸受特性が維持される。
【0017】図7に示す例は、深浅両溝15c、16cを円弧面により形成している。この実施例では、実施例3に示す実施例よりも浅溝16c間に大量の潤滑油を保持することができる。このため、図3に示す実施例よりも、高速回転する回転軸に適用するすべり軸受とされる。
【0018】図8は、軸線方向の両端部12、13に深溝15dの割合を多くして設けるとともに、中央部に浅溝16dの割合を多くして設けている。このようになじみ運転時における片当たりによる大きな局部面圧を受けやすい軸線方向の両端部12、13に深溝16dの割合を増すことによって、潤滑油の量を多くして、両端部12、13の焼付きや摩耗をより一層軽減することができる。
【0019】以上、いくつかの実施例について説明したが、深溝と浅溝の深さやピッチなども適宜選択し、組み合せることができる。さらには深溝と深溝との間に設けられる浅溝の数も適宜選択することもできる。又、本発明によるすべり軸受は、ライニング上に鉛系合金、錫系合金、アルミニウム系合金あるいは合成樹脂系のオーバーレイが施し、同様な形状においても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】すべり軸受の使用状態を示す断面図
【図2】軸受メタルの斜視図
【図3】一部の断面図
【図4】同、作用を説明する一部の断面図
【図5】他例の一部断面図
【図6】他例の一部断面図
【図7】他例の一部断面図
【図8】他例の一部断面図
【符号の説明】
10a…軸受メタル
11…細溝
15…深溝
16…浅溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内周面円周方向に延びる多数の細溝を軸線方向に並列して設けたすべり軸受において、前記細溝深さの異なる浅溝と深溝とからなり、この浅溝と深溝とを一単位とする溝群並列形成することにより、軸線方向中央部付近に深溝が存在するように構成したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】 軸線方向の両端部に深い溝の割合が多くなるようにしたことを特徴とする請求項1記載のすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3305979号(P3305979)
【登録日】平成14年5月10日(2002.5.10)
【発行日】平成14年7月24日(2002.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−85910
【出願日】平成9年3月18日(1997.3.18)
【公開番号】特開平10−259827
【公開日】平成10年9月29日(1998.9.29)
【審査請求日】平成10年11月6日(1998.11.6)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【参考文献】
【文献】実開 昭63−62621(JP,U)
【文献】実開 昭63−68514(JP,U)